令和1(ワ)297 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年5月31日 奈良地方裁判所
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判決文本文26,616 文字)

令和4年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和元年第297号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和4年2月15日判決奈良県大和郡山市a 町b 原告 A(以下「原告A」という。)同所原告 B(以下「原告B」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士松丸正北岡秀晃奈良市登大路町30番地被告奈良県上記代表者知事 C 同訴訟代理人弁護士山田陽彦辻󠄀 本貴裕林良介 主文 1 被告は、原告らに対し、それぞれ、3405万5766円及びこ れに対する平成29年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告らに対し、それぞれ5103万5500円及びこれに対する平成29年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告らが、被告の職員であった原告らの子が自殺したのは、過重な業務に従事させられたことによるうつ病の発症、増悪が原因であるとして、被告に対し、国家賠償法1条1項又は民法415条に基づく損害賠償請求として、それぞれ 職員であった原告らの子が自殺したのは、過重な業務に従事させられたことによるうつ病の発症、増悪が原因であるとして、被告に対し、国家賠償法1条1項又は民法415条に基づく損害賠償請求として、それぞれ5103万5500円及びこれに対する平成29年5月21日(原告らの子の死亡日)から支払済みまで民法所定(ただし、平成29年法律第44号による 改正前のもの。以下同じ。)の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠又は弁論の全趣旨によって認められる。 ⑴ 当事者等ア原告AはD(昭和▲年▲月▲日生)(以下「亡D」という。)の父であり、原告Bは亡Dの母である(甲1)。 イ亡Dは、地方公共団体である被告の職員であったが、平成29年5月21日死亡した(甲1)。 ウ原告らは、亡Dの権利義務をそれぞれ2分の1の割合で相続した。 ⑵ 亡Dの経歴亡Dは、公立大学を卒業後、平成17年4月に被告職員として採用され、複数の部署を経て、平成26年4月に教育委員会事務局教職員課給与係(主査)に配属され、平成28年4月に県土マネジメント部砂防・災害対策課災害防止 係(主査)に異動し、死亡時まで同課に勤務していた。(甲12・39頁) ⑶ 亡Dのうつ病発症及び通院亡Dは、平成27年3月下旬又は同年4月上旬にうつ病又はうつ病エピソード(以下、まとめて「うつ病」という。)を発症した。亡Dは、同月11日、仕事に能力がついていかず処理できない、毎日の仕事が苦しいことによるうつ症状、気分の落ち込み、意欲の減退があるなどと訴えて、精神科医院である エンゼルクリニック(以下、単に「クリニック」という。)を受診し、その後、 ず処理できない、毎日の仕事が苦しいことによるうつ症状、気分の落ち込み、意欲の減退があるなどと訴えて、精神科医院である エンゼルクリニック(以下、単に「クリニック」という。)を受診し、その後、同月中に2回、平成28年4月から平成29年4月までの間に15回、クリニックに通院した。(甲12・169、493、525頁)。 ⑷ 亡Dの自殺亡Dは、平成29年5月21日午前0時頃、自宅において自殺(縊首による 窒息死)した(甲2)。 ⑸ 公務災害認定及び同決定に基づく補償等地方公務員災害補償基金奈良県支部長は、令和元年5月17日、亡Dの窒息死が公務上の災害であると認め、令和2年3月27日、以下の補償の支給決定をし、その後、原告らに対し、その支払をした。なお、平成29年6月分から 令和2年3月分として支払われた遺族補償年金は合計856万5732円である。(甲3、25ないし28)。 ア遺族特別支給金 300万円イ遺族特別援護金 1860万円ウ葬祭補償 81万3420円 エ遺族補償年金 302万3200円(年額)オ遺族特別給付金 60万4600円(年額) 3 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 亡Dの業務の過重性(争点1)ア原告らの主張 教職員課給与係における亡Dの業務 平成26年度に亡Dが行っていた業務は、臨時職員給与システムの副担当、義務教育国庫負担金の処理、旅費の副担当等であるが、平成27年3月の旅費の業務量は、例月の3倍であったこと、国庫負担金事務は、量が多く、かつ、プレッシャーのかかる責任ある業務を一人で担当していたこと、平成26年秋の会計検査院による検査対応という突発 成27年3月の旅費の業務量は、例月の3倍であったこと、国庫負担金事務は、量が多く、かつ、プレッシャーのかかる責任ある業務を一人で担当していたこと、平成26年秋の会計検査院による検査対応という突発的な業務にも従 事していたこと、平成27年度は給与管理システムの更新時期であったことから、うつ病発症前の亡Dの業務は、質的に過重なものであったといえる。 また、教職員課は、繁忙期を中心に、職場全体が長時間勤務となっていた。亡Dは、時期によって違いがあるものの、午後10時前後まで勤務す ることが多く、平成27年4月上旬のうつ病発症前1か月間(同年3月11日~4月10日)は100時間を超える時間外勤務に従事し、しかも、同年3月23日から4月4日までは13日間連続で勤務し、そのうち多くの日に午後10時から午後11時までの深夜時間帯まで勤務した。このような勤務実態は、厚生労働省が、心理的負荷による精神障害の労災請求事 案について適用するものとして平成23年12月に定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号)(甲7)(以下「精神障害認定基準」という。)において、心理的負荷が「強」とされ、原則として業務上と判断される出来事である「2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行」い、「その間、連日深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行っ た」場合に当たる。 したがって、教職員課給与係における亡Dの業務は質的、量的に過重であったといえる。 砂防・災害対策課災害防止係における亡Dの業務亡Dは、砂防・災害対策課災害防止係において、土砂災害特別警戒区域 (レッドゾーン)の指定業務等に従事していたが、教職員課からの異動に より業務内容に著しい変化が生じた上、土砂災害特別警戒区域指 防・災害対策課災害防止係において、土砂災害特別警戒区域 (レッドゾーン)の指定業務等に従事していたが、教職員課からの異動に より業務内容に著しい変化が生じた上、土砂災害特別警戒区域指定の検討箇所は1万箇所に及ぶもので、過大な区域指定の課題が課され、数値目標も設けられていた。同課においては、時期によって違いがあるものの、多くの職員が午後10時前後まで勤務していた。亡Dも、割り当てられた業務が過大で、平成28年4月上旬にうつ病が増悪する前3か月間は、月1 00時間前後に及ぶ時間外勤務に従事し、しかも、同年3月14日から同年4月1日までの19日間は、長時間の連続勤務に従事した。 したがって、亡Dの砂防・災害対策課災害防止係における業務も質的、量的に過重であったといえる。 イ被告の主張 教職員課給与係における亡Dの業務亡Dが教職員課給与係において担当していた業務は、毎月の業務の流れがあらかじめ決まっていて、手引きやマニュアルに沿って行うことができる事務作業であり、業務に関する特殊なスキルや経験、プログラミング等の専門知識は不要で、政策立案的要素は全くなく、県民からのクレーム対 応や職場での人間関係における特段の配慮も不要で、上司からのハラスメント被害もなく、客観的に困難な業務ではなかった。現に、給与システムの過去の担当者も、未経験でありながら上記業務に従事していたのであって、亡Dが給与システムを使用する業務の経験がなかったことをもって、質的に過重な業務であったともいえない。また、早出出勤をしなければな らないほどの業務量ではなかった。 このように、教職員課給与係における亡Dの業務は、被告の行政職職員が通常担うべき業務であって、亡Dの年次や職務経歴等を踏 ない。また、早出出勤をしなければな らないほどの業務量ではなかった。 このように、教職員課給与係における亡Dの業務は、被告の行政職職員が通常担うべき業務であって、亡Dの年次や職務経歴等を踏まえると、量的、質的に過重な業務ではなかった。 なお、亡Dがうつ病に罹患したのは、地方公務員災害補償基金の認定に よると平成27年3月下旬である。 砂防・災害対策課災害防止係における亡Dの業務亡Dが砂防・災害対策課災害防止係において担当していた土砂災害特別警戒区域の指定業務は、チェックリストに基づく公表図書や告示図書の形式面での確認作業であり、私権の制限に直接影響する判断を行っていたわけではなく、対応する相手も、県の土木管理事務所職員かコンサルタント 会社であり、政策立案的要素は全くなく、土木の専門的知識も不要であった。住民説明会に関する住民対応も、土木管理事務所と市町村が主として行っていたから、苦慮することはなく、その他の業務も行政職職員が通常担うべき業務であり、特別な知識や技能は必要なかった。亡Dの業務内容、成果に不十分な点はなく、おおむね目標どおりの成果が得られており、亡 Dは担当業務を行うだけの能力を有していた。 地方公務員災害補償基金の認定によると、自殺前6か月間において、時間外労働が1か月当たり100時間を超える月はなく、業務の量的過重性も認められない。 したがって、砂防・災害対策課災害防止係における亡Dの業務は、質的、 量的に過重な業務ではなかった。 ⑵ 亡Dの業務の過重性と亡Dのうつ病発症及び自殺との因果関係(争点2)ア原告らの主張地方公務員災害補償基金が、精神疾患等の公務災害該当性の認定基準として平成24年3月に定めた「 亡Dの業務の過重性と亡Dのうつ病発症及び自殺との因果関係(争点2)ア原告らの主張地方公務員災害補償基金が、精神疾患等の公務災害該当性の認定基準として平成24年3月に定めた「精神疾患等の公務災害の認定について(通知)」 (平成24年地基補第61号)(甲8)以下「地公災認定基準」という。)は、「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」には、強度の精神的又は肉体的負荷を与える事象を伴う業務に従事したものと判断できるとしていることからすると、業務の質的、量的 過重性が認められる本件において、業務の過重性と亡Dのうつ病発症及び自 殺との間に因果関係があるのは明らかである。 イ被告の主張否認ないし争う。 ⑶ 亡Dを過重な業務に従事させ、うつ病を発症、増悪させて自殺に至らせたことについての被告の国家賠償法1条1項に基づく責任(心身の健康に関する安 全配慮義務違反)及び民法415条に基づく責任(安全配慮義務違反)の有無(争点3)ア原告らの主張 被告は、その雇用する職員に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して職員の心身 の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、被告に代わって職員に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、被告の同注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。 本件において、被告は、亡Dの心身の健康を損ねる過重な業務負担が生じないよう勤務時間を適切に管理し、亡Dの心身の健康状態の悪化を認識 した後は業務軽減措置を講じ 使すべきである。 本件において、被告は、亡Dの心身の健康を損ねる過重な業務負担が生じないよう勤務時間を適切に管理し、亡Dの心身の健康状態の悪化を認識 した後は業務軽減措置を講じ、その情報を異動先に引き継ぎ、産業医の面談指導等の結果を受けた後は、これに基づき勤務状況の是正措置を講じるべき義務を負っていたところ、以下のとおり、これらを怠り、亡Dの勤務時間を適正に把握せず、心身の健康を損ねることが明らかな質的、量的に過重な業務に従事させ続けて長時間勤務を放置し、亡Dの心身の健康状態 の悪化を認識した後も業務軽減措置を講じず、産業医の面談指導結果に基づく是正措置も講じなかったこと等により、亡Dは、うつ病を発症、増悪させて自殺に至った。 被告は、亡Dが教職員課給与係において、同人の心身の健康を損ねることが明らかな量的、質的に過重な業務に従事していることを認識し、又は 認識し得たにもかかわらず、職員証読取機により把握される勤務時間と時 間外勤務命令簿による時間外勤務との間に著しい齟齬が日常的に生じていたことについて、その理由を検証することもなく放置するなどして、亡Dの勤務時間を適切に管理、把握せず、亡Dを長時間勤務に従事させ続け、平成27年3月下旬から同年4月上旬にかけては、1か月当たり100時間以上の時間外勤務等に従事させてうつ病を発症させた。 被告は、平成27年10月に亡Dの祖母が被告の人事課を訪問して亡Dの異動を要望したことや面談時の亡Dの言動等から、亡Dの心身の健康状態悪化を認識したのに、業務軽減措置を講じなかった。亡Dが砂防・災害対策課に異動した後も、教職員課における心身の不調の情報の引継ぎがされないまま、亡Dを質的、量的に過重な業務に従事させ、亡Dに面接指導 した産業医から 軽減措置を講じなかった。亡Dが砂防・災害対策課に異動した後も、教職員課における心身の不調の情報の引継ぎがされないまま、亡Dを質的、量的に過重な業務に従事させ、亡Dに面接指導 した産業医から就業場所の変更の必要性や長時間の時間外勤務の回避措置の必要性を指摘する意見が提示されたのに、うつ病の増悪を回避するために勤務時間を短縮したり、仕事上のストレスを緩和する具体的、実効的な措置を講じたりするなどして過重な業務を軽減することなく、症状を増悪させるおそれのある長時間勤務に従事させたため、亡Dのうつ病は増悪 し、自殺に至った。 したがって、被告は、亡Dのうつ病の発症及び自殺について、国家賠償法1条1項に基づく責任(心身の健康に対する安全配慮義務違反)及び民法415条に基づく債務不履行責任(安全配慮義務違反)を負う。 イ被告の主張 被告が亡Dのうつ病罹患及び通院の事実を初めて認識したのは、砂防災害対策課のE課長が平成28年12月13日に抑うつ治療中である旨の産業医の面接指導結果報告書を受領した時点である。それまでは、以下のとおり、亡Dの勤務態度等から精神疾患や心身の健康状態の悪化の様子をうかがい知ることは不可能であり、同日より前に亡Dの精神障害の発症を 具体的に予見することはできなかった。また、同日後、被告は、産業医の 意見を踏まえた措置を講じており、亡Dの勤務状況にも問題はなかった。 したがって、被告に、亡Dのうつ病発症、増悪及び自殺について予見可能性及び回避可能性がなく、自殺について法的責任を負わない。 亡Dは、教職員課給与係配属当時の上司である同課長補佐に対し、メンタルヘルスに関する相談等をしたことはなかった。亡Dの担当職務は行政 職職員であれば誰もが担う業務であり、実際に を負わない。 亡Dは、教職員課給与係配属当時の上司である同課長補佐に対し、メンタルヘルスに関する相談等をしたことはなかった。亡Dの担当職務は行政 職職員であれば誰もが担う業務であり、実際に亡Dは締め切りまでに余裕をもって当該業務を終了させていた。被告は、時間外勤務について月30時間、年300時間の目標を設定し、教職員課においても、その認識を共有し、時間外勤務の実績を報告する文書で時間外勤務の時間数を管理していた。また、亡Dが平成27年12月ないし平成28年1月に実施された 課長補佐との面談の際に、異動の意向を示したことや、平成27年10月5日に亡Dの祖母が来庁して亡Dの異動を求めるという出来事があったことから、教職員課は、人事課に対し、亡Dの異動が可能である旨の意見を出し、平成28年4月に亡Dを転出させる措置をとった。 これらのことからすると、被告において、亡Dのうつ病発生、増悪を予 見することはできなかったし、仮にできたとしても、被告は、亡Dの心身の健康を損ねないよう適切な措置を十分にとっていたから、被告に心身の安全に配慮すべき義務の違反はなく、国家賠償法1条1項及び民法415条に基づく責任を負わない。 被告は、亡Dを教職員課給与係から転出させるに当たり、亡Dが被告の 県職員として採用後11年の勤務経験をもつ中堅職員であること、出先機関でなく、県庁の本庁で経験を積んだ方が本人のキャリア形成上有益であること、亡Dに桜井土木事務所における勤務に伴う土木行政の経験があったこと、亡Dが異動を希望していた土木事務所と土木行政という点で合致すること、及び亡Dが苦手意識を有していた電子計算システムに関する業 務の担当がないことなどを考慮し、砂防・災害対策課を異動先に決定した。 同課における亡D 木行政という点で合致すること、及び亡Dが苦手意識を有していた電子計算システムに関する業 務の担当がないことなどを考慮し、砂防・災害対策課を異動先に決定した。 同課における亡Dの業務の進捗に問題はなく、業務中の態度、様子に異変は見受けられず、職員や一般市民との間のトラブルもなかった。 砂防・災害対策課課長は、平成28年12月13日頃に産業医による亡Dの面接指導等結果報告書を受け取った時点で、初めて亡Dがうつ病に罹患していることを認識した。もっとも、同課長は、同報告書に「平常勤務 でよい」と記載されていたことや、亡Dの勤務時の様子等に問題がなく、亡Dとの面談においても、体調や業務における不安について大丈夫である旨回答したことから、この段階では業務量の削減や病気休暇の取得を求める必要はないと判断した。その後は、改めて亡Dの業務の様子、仕事ぶりを注視することとし、他係への応援業務等の突発的な業務が発生した場合 でも亡Dには単純な作業しか頼まないようにしたり、亡Dに毎日声を掛け、できる限り早めの帰宅を呼び掛け、職務の偏重がないよう改めて係内での仕事の進捗とやり方を点検するといった対応を執り、亡Dの時間外勤務がこれ以上増えないようにするための具体的措置を講じた。 以上のことから、被告において、亡Dがうつ病によって自殺に至ること を予見することはできず、仮にこれを予見できたとしても、亡Dの状態に配慮して種々の対応をしていたのであるから、被告に心身の安全に配慮すべき義務の違反はなく、被告は、国家賠償法1条1項及び民法415条に基づく責任を負わない。 ⑷ 原告らの損害(争点4) ア原告らの主張原告らは、亡D死亡によって同人に生じた以下のないしの合計1億0207万1000円 15条に基づく責任を負わない。 ⑷ 原告らの損害(争点4) ア原告らの主張原告らは、亡D死亡によって同人に生じた以下のないしの合計1億0207万1000円の損害賠償請求権をそれぞれ2分の1の割合で相続したから、それぞれ、被告に対し、5103万5500円の損害賠償請求権を有する。 死亡による慰謝料 2500万円 死亡逸失利益 6637万1000円亡Dは、死亡当時35歳であり、就労可能年数を67歳までの32年間(ライプニッツ係数15.8027)、基礎収入を被告職員の大卒職員の平均給与額(年収)約700万円、生活費控除率を4割として、死亡による逸失利益を計算すると、以下のとおりとなる。 (計算式)700万円×15.8027×(1-0.4)=6637万1000円(千円未満切り捨て) 葬祭料 150万円 弁護士費用 920万円 合計 1億0207万1000円イ被告の主張 ないしはいずれも争う。なお、亡Dが死亡した平成29年度の被告における男性かつ大卒の行政職職員の全年齢平均給与額は年額674万9887円である。 ⑸ 過失相殺の可否(争点5)ア被告の主張亡Dは、平成16年5月から平成17年1月にかけて、及び平成21年1月から4月にかけて、うつ状態にあるとして精神科を受診し、平成16年の初診の際には医師に希死念慮を訴えている。亡Dの上記既往歴から、亡Dの性格や 精神的傾向には脆弱性があるといえるところ、これは労働者の個性の多様さとして想定される範囲を逸脱している。したがって、仮に、本件で被告の法的責任が認められ 亡Dの上記既往歴から、亡Dの性格や 精神的傾向には脆弱性があるといえるところ、これは労働者の個性の多様さとして想定される範囲を逸脱している。したがって、仮に、本件で被告の法的責任が認められる場合でも、賠償額の決定に際して過失相殺又は素因減額がなされるべきである。 イ原告らの主張 争う。亡Dの性格は一般の社会人の中でしばしばみられるものであり、その まじめで誠実な仕事ぶりは、公務員の資質として期待されるものであり、ましてや同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったとは解されない。したがって、過失相殺又は素因減額はなされるべきではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という。)に加え、後掲の証拠(ただし、後記認定に反する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 ⑴ 亡Dの経歴 亡D(昭和▲年▲月▲日生)は、奈良県内の県立高校から大阪府内の公立大学に進学し、卒業後の平成17年4月、被告の職員として採用された。 採用後は、農林部農業水産振興課(主事)、文化観光局ならの魅力創造課(主事)、桜井土木事務所(主任主事)を経て、平成26年4月から教育委員会事務局教職員課給与係(主査)に配属され、平成28年4月に県土マネジメント部 砂防・災害対策課災害防止係(主査)に異動し、死亡するまで同課で勤務していた。 ⑵ 教職員課給与係における亡Dの担当業務及び勤務の状況ア担当業務の内容教職員課給与係における亡Dの担当業務は、臨時職員の給与計算システム (以下「給与システム」という。)に関する業務(例月処理、期末勤勉手当処 Dの担当業務及び勤務の状況ア担当業務の内容教職員課給与係における亡Dの担当業務は、臨時職員の給与計算システム (以下「給与システム」という。)に関する業務(例月処理、期末勤勉手当処理、年末調整処理、人勧処理、給与本部作業、旅費審査業務、義務教育国庫負担金に関する業務)、旅費審査業務及び義務教育国庫負担金に関する業務、会計検査院による会計検査への対応(平成26年度のみ)であった。給与システムとは、奈良県公立学校の臨時的任用職員である教職員に対する給与及 び期末・勤勉手当等の支給関係処理や各種統計事務を行うためのコンピュー タシステムであり、亡Dは、平成28年度に更新される前の旧システムを担当しており、平成26年度は副担当を、平成27年度は主担当をした。亡Dの業務の中心は、パソコン上で給与システム等に情報を入力し、確認するというマニュアルに沿った事務作業であった。(甲12・555頁、乙2)イ担当業務の遂行状況 亡Dは、真面目で几帳面かつ責任感の強い性格であり、仕事の進め方は丁寧かつ堅実で、業務の遂行状況及び成果に問題はなかったが、コンピュータシステムを使用する業務には強い苦手意識があり、システム上の自動計算の仕組みが気になったり、分からないことを理解したりするのに時間を要することなどから、負担に感じていた。(甲12・336頁、24,証人F3~5 頁)ウ時間外勤務の状況 被告職員の勤務日及び勤務時間は、原則として、平日(月曜日から金曜日まで)の午前8時30分から午後5時15分までの7時間45分(午前12時から午後1時までは休憩時間)である。被告県庁において、職員の 出退勤の時刻は、入庁時及び退庁時に、庁舎の各所に設置された職員証読取機に職員証を読み取らせるこ 分までの7時間45分(午前12時から午後1時までは休憩時間)である。被告県庁において、職員の 出退勤の時刻は、入庁時及び退庁時に、庁舎の各所に設置された職員証読取機に職員証を読み取らせることで出退勤システムに記録される仕組みになっている。 被告は、平成24年6月20日、奈良県職員労働組合との間で、時間外勤務(超過勤務)の上限を月30時間以内、年300時間以内にすること を具体的目標とすることなどを内容とする「奈良県ワーク・ライフ・バランス推進労使宣言」に調印し、これを各部署の目標として設定していた(乙25)。 亡Dがうつ病を発症してクリニックを受診する平成27年4月11日までの6か月間に時間外勤務に従事した時間(出退勤システムによる入退 庁時刻から所定の勤務時間及び休憩時間を控除した時間)は、以下のとお りである(甲12・463~469頁)(別紙1参照)。 a 平成26年10月13日から同年11月11日 28時間9分b 平成26年11月12日から同年12月11日 62時間7分c 平成26年12月12日から平成27年1月10日 35時間16分 d 平成27年1月11日から同年2月9日 50時間57分e 平成27年2月10日から同年3月11日 64時間32分f 平成27年3月12日から同年4月10日 154時間41分エ業務の負担感に関する亡Dの言動及びこれに対する対応等 亡Dの上司である教職員課課長補佐(総務・給与担当)Fは、平成26 年7月頃、奈良県職員労働組合の職員から、亡Dがしんどがっているので様子を見て欲しいとの連絡を受け、同月30日、亡Dと面談したところ、同人は 教職員課課長補佐(総務・給与担当)Fは、平成26 年7月頃、奈良県職員労働組合の職員から、亡Dがしんどがっているので様子を見て欲しいとの連絡を受け、同月30日、亡Dと面談したところ、同人は、仕事がわからない、しんどいので異動させてほしい、事務系の仕事よりも体を使った現業的な仕事がしたいなどと述べた。F課長補佐は、教職員課給与係係長Gに対し、亡Dの様子を気を付けて見るように指示し た。 亡Dは、同年9月頃から、上司であるG係長に対し、仕事がしんどいなどのメールを送るようになった。 (甲12・340頁、乙32、証人F3頁)亡Dは、同年12月、奈良県職員労働組合が実施している「人事異動に関する申し入れ」と題するアンケートに対し、異動を希望すると回答し、 その理由として、担当業務が能力を大幅に超えていて全くついていけない、給与システム等の操作が難解で覚えられず、他人にも迷惑を掛けている、精神的にもかなり参っているなどと記載した。このアンケートは、組合限りの文書であるため、被告は、同組合を通じて、亡Dの異動希望の事実を把握したが、同文書自体を確認することはなかった。(甲19の2) 亡Dは、平成27年1月頃にG係長と和歌山に出張した際、今の業務 に向いていない、失敗して迷惑をかけるのではないかといった発言をし、それ以降、G係長に対し、しんどいと言う頻度が増えた(甲12・362頁、証人G7頁)。 亡Dは、同年4月期の人事異動の対象にならなかったことを知り、同年3月末頃、F課長補佐に異動希望を強く訴えた。F課長補佐は、同日亡D と面談し、給与システムの主担当になることに対する不安を聞いた。F課長補佐は、G係長と相談し、亡Dを給与システムの担当から外す事務分掌案を作成して亡Dに提示した 訴えた。F課長補佐は、同日亡D と面談し、給与システムの主担当になることに対する不安を聞いた。F課長補佐は、G係長と相談し、亡Dを給与システムの担当から外す事務分掌案を作成して亡Dに提示したが、亡Dは、担当継続を申し出たため、亡Dを給与システム(旧システム)の副担当から主担当にすることとした上で、従前、主・副の各担当1名の体制であったのを、主担当1名(亡D)、副担 当3名の体制としたり、亡Dの担当業務を減らしたりするなどし、亡Dに業務の負担が偏らない事務分掌の取り決めをした(甲3・12頁、甲12・337頁。証人F5,6頁)。 亡Dは、同年3月下旬から同年4月上旬にかけてうつ病に罹患した。亡Dは、同月11日、仕事に能力がついていかず処理できない、毎日の仕事 が苦しいことによるうつ症状、気分の落ち込み、意欲の減退があるなどと訴えてクリニックを受診した。亡Dは、心因反応により約1週間の休務加療を要すると診断され、同月中に合計3回通院し、投薬治療を受けたが、翌月以降は通院を止めた(甲12・169、627頁)。亡Dは、被告に受診や治療について報告しなかった。 なお、亡Dは、平成16年5月頃に就職活動に関する悩みなどからうつ状態となった時に8か月程度、平成21年1月頃に仕事に関する悩みなどからうつ状態になった時に3か月程度、それぞれクリニックに通院したことがあった(甲3・6頁、甲24)。 平成27年10月5日、亡Dの祖母Hが被告県庁の人事課を訪問し、応 対したF課長補佐及び人事課職員2名に対し、亡Dの帰宅が午後11時半 過ぎと遅い上、就寝時間も遅く、土日も出勤することがあること、入浴中に「もうだめだ」と叫んだり、ぶつぶつ独り言を言ったり、春頃から夜中に雨の降る中、大声を出しながら庭を走り回るとい 時半 過ぎと遅い上、就寝時間も遅く、土日も出勤することがあること、入浴中に「もうだめだ」と叫んだり、ぶつぶつ独り言を言ったり、春頃から夜中に雨の降る中、大声を出しながら庭を走り回るといった奇行に及ぶことがあるとして、異動を要望した。祖母は、亡Dに無断で来たと述べ、来庁の経緯等の詳細も不明であり、Fらは、亡Dには以前から分からないことが あれば相談するように指導しており、祖母からも同様に伝えるように依頼するなどした。(甲21~23,乙32、原告A4頁、証人F8~9頁)。 亡Dは、この頃から、G係長に対し、しんどいという頻度が増え、病院にかかりたい、涙が止まらない、時々そういうことがあると訴えることもあった(証人G8頁)。 亡Dは、同年12月、奈良県職員労働組合実施の「人事異動に関する申し入れ」のアンケートに対し、前年度に続いて、異動を希望すると回答し、その理由として、業務が困難かつ膨大でとても処理することができない、ずっと訴え続けているが一切の配慮も助けもなく、残業や休日出勤は月に100時間を軽く超え、いつ過労死してもおかしくない、精神科に通院し、 薬を飲みながら健康も壊し、死ぬ思いで毎日出勤している、これ以上頑張る気力がない、給料支給日に間に合わず、支給する給料も全て間違っており放置している、とてもついていくことができないので異動させてほしいなどと業務への不適応と異動への強い希望を綴った(甲19の3)。 F課長補佐は、同年12月から平成28年1月にかけて、亡Dと人事評 価のための面談をした。亡Dは、仕事が何もわからない、降格させてほしい、異動させてほしいと述べたのに対し、F課長補佐は、人事課に伝えるが、降格しても事務系職員としての仕事は変わらない、仕事でわからないこ めの面談をした。亡Dは、仕事が何もわからない、降格させてほしい、異動させてほしいと述べたのに対し、F課長補佐は、人事課に伝えるが、降格しても事務系職員としての仕事は変わらない、仕事でわからないことがあれば聞いてほしいと伝え、職員共済組合のメンタルヘルス相談に関するチラシを手渡した。(証人F9~10頁)。 教職員課は、亡Dの意向等を踏まえ、人事課に対し、「異動可」の意見を 提出した。人事課は、教職員課の意見、亡Dの祖母来庁、亡Dが業務に対する負担感や不適応を申し出て異動を希望していること等の事情を考慮し、本来の異動期ではなかったが、平成28年4月に亡Dを教職員課から転出させることとした。転出先については、亡Dの勤務年数、土木行政の経験、亡Dが苦手とする電子計算システムに関する業務を担当しないこと 等を考慮して、砂防・災害対策課災害防止係とした。亡Dは、同年3月、異動の内示を受けたが、異動先が意に沿わなかったため、落胆した様子を見せていた。(甲12・362頁、原告A15頁)⑶ 砂防・災害対策課における亡Dの担当業務及び勤務の状況ア業務内容の内容 砂防・災害対策課における亡Dの主な担当業務は、土砂災害警戒区域のうち土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の指定業務であり、具体的には、土木事務所が行う基礎調査業務及び公示図書(公表図書及び告示図書)作成業務の進捗管理、成果品である公示図書の確認、公表(縦覧)と併せたホームページの更新、住民説明会、市町村長からの意見聴取、告示手続、告示と 併せたホームページの更新であり、その他の業務として、なら県政出前トークへの対応(年5回程度)、お天気フェアにおける啓発(年1回程度)及び他係への応援(資料の印刷)があった。主たる業務は、専門的な知識や技能 ームページの更新であり、その他の業務として、なら県政出前トークへの対応(年5回程度)、お天気フェアにおける啓発(年1回程度)及び他係への応援(資料の印刷)があった。主たる業務は、専門的な知識や技能を要せず、定型的な部分が多い事務作業であり、教職員課において亡Dが負担に感じていた電子計算システムを使用した事務作業は担当業務に含まれて おらず、住民との折衝やクレーム対応といった心理的負担が大きい場面に直面することが多い業務も含まれていなかった。 土砂災害特別警戒区域は、平成28年度から平成31年度までの間に約1万箇所を指定する計画であり、平成31年度末におおむね計画通りの指定が実施されている。(乙3、23) イ担当業務の遂行状況 亡Dは、亡Dと同じく平成28年4月に砂防・災害対策課災害防止係に配属された同僚のI(主任主査)とペアを組んで業務に従事していた。業務の分担は2人で話し合って決めており、分担量に特段の偏りはなかった。亡Dの仕事振りは、教職員課の時と同様に丁寧かつ堅実で、業務の遂行状況や成果に問題はなかった。亡DとIは、互いの成果物をダブルチェックしていた が、亡Dは、Iのダブルチェックを経た成果物を再度自身で確認していたため、終業時間が遅くなる傾向にあった。土木作業事務所によって、作業の進捗業況に違いはあったが、全体としては、おおむね予定どおりに区域指定業務が進んでいた。 (乙36、証人E4~5頁、証人I6~8、12~13頁)。 ウ時間外勤務の状況 亡Dが死亡する平成29年5月11日までの6か月間に時間外勤務に従事した時間(出退勤システムによる入退庁時刻から所定の勤務時間及び休憩時間を控除した時間等)は、以下のとおりである(甲12・122~12 Dが死亡する平成29年5月11日までの6か月間に時間外勤務に従事した時間(出退勤システムによる入退庁時刻から所定の勤務時間及び休憩時間を控除した時間等)は、以下のとおりである(甲12・122~128、266、268頁)(別紙2参照)。 平成28年11月22日から同年12月21日 89時間20分 平成28年12月22日から平成29年1月20日 44時間25分 平成29年1月21日から同年2月19日 81時間22分 平成29年2月20日から同年3月21日 66時間27分 平成29年3月22日から同年4月20日 87時間40分 平成29年4月21日から同年5月20日 84時間35分 エ通院再開亡Dは、平成28年4月2日、仕事の問題による負担を訴えてクリニックの通院を再開し、平成29年4月まで合計15回通院し、投薬治療を受けた。 (甲12・169~173頁)。 ⑷ 産業医面談 ア被告が定める「過重労働による健康障害を防止するための対策実施要綱」 (乙5)には、以下の規定がある。 産業医による面接指導(職員に対して行う問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な保健指導を行うこと)等の対象となる職員は、①1か月当たりの時間外勤務時間が100時間を超えた職員のうち所属長に面接指導を申し出た者、②時間外勤務時間が3か 月間連続して45時間を超えた職員のうち所属長に面接指導等を申し出た者及び③上記のほか長時間労働により疲労の蓄積が認められる又は健康上の不安を有すると所属長に面接指導等を申し出た者とする(第3条⑴、第4条)。 所属長と産業医及び健康管理担当保健師等は、互いに連携し、第4条の ほか長時間労働により疲労の蓄積が認められる又は健康上の不安を有すると所属長に面接指導等を申し出た者とする(第3条⑴、第4条)。 所属長と産業医及び健康管理担当保健師等は、互いに連携し、第4条の 職員の申し出がない場合であっても、時間外勤務の状況、健康状態等により、面接指導等を受ける必要があると認められる職員に対し、第4条の申し出を行うように勧奨できる(第5条)。 産業医は、面接指導等の結果及び職員の健康を保持するために必要な措置について、総務厚生センター所長を経由して、遅滞なく所属長に報告し、 必要に応じて所属長に対して助言指導を行い、所属長は、同報告に基づき、必要な措置を講じるものとする(第6条⑶①、②)。 イ亡Dの平成28年8月から同年10月の時間外勤務報告書(甲9・6頁)によると、過去3か月間の時間外勤務が98時間(同年8月)、66時間(同年9月)、83時間(同年10月)と平均して82.3時間であったため、総 務部総務厚生センター健康管理係所属の保健師は、前記アの実施要綱に基づき、亡Dに対し、産業医面談の申し出を行うよう強く勧奨し、亡Dは、その申し出をした。また、保健師の勧奨により、同時にストレスチェックに関する産業医面談も受けることとなった。なお、時間外勤務報告書に記載される時間外勤務の時間は、出退勤システムに打刻された退勤時間と定時終業時間 (午後5時15分)との差を1か月ごとに合計したもの(31分以上を切り 上げ、30分以下を切り捨て処理)である。 ウ同年12月8日、亡Dに対する産業医による面談指導及びストレスチェックに基づく医師面接が行われた。亡Dは、同日の保健師との個別相談において、抑うつにて治療中であるとして、クリニックの通院状況を説明し、同年4月から多忙であり、最近 医による面談指導及びストレスチェックに基づく医師面接が行われた。亡Dは、同日の保健師との個別相談において、抑うつにて治療中であるとして、クリニックの通院状況を説明し、同年4月から多忙であり、最近少しましになったが、これからまた忙しくなる、 業務が質量とも過重で自分に合っていない、人から怒られる、土木事務所の作業が期日までにやってもらえない、疲労が蓄積して目が回ったことがある、睡眠時間は4時間で睡眠不足感があるなどと述べた(甲9・3頁)。 エ産業医は、同年12月13日付けの亡Dの所属長である砂防・災害対策課課長Eに対する面談指導等の結果報告書において、亡Dについて、疲労蓄積 度は非常に高く(4段階中もっとも高い評価)、自覚症状として強い疲労感とめまいがあり、生活区分は「平常勤務(全く正常生活でよいもの)(7段階中もっとも軽い評価)、医療区分は「要医療(医師による直接の医療を必要とするもの)(4段階中もっとも重い評価」とし、「事後措置に関する産業医の意見」として「長時間に及び過重労働が継続し、今後も改善の見通しがなく、 疲労が蓄積し、現在抑うつ治療中である。これ以上長時間の時間外労働が生じないように職場における対策と配慮が必要である。」と記載した(甲11)。 また、同じ頃、ストレスチェックに基づく産業医面接の結果についても報告がされたが、亡Dの心理的な負担の状況は「高ストレス状態」であり、抑うつ状態のため通院中で現病治療継続が相当であり、就業区分は「通常勤務」 であるが、就業上の措置は「就業場所の変更が必要」であり、職場環境の改善については「抑うつ通院中であり、職場におけるメンタルヘルスに関する理解を高めることが必要」との意見が示された(甲10)。 オ E課長は、上記報告を受けて亡Dと面談し、体調の確認や業務に関 境の改善については「抑うつ通院中であり、職場におけるメンタルヘルスに関する理解を高めることが必要」との意見が示された(甲10)。 オ E課長は、上記報告を受けて亡Dと面談し、体調の確認や業務に関する不安の有無等について確認したが、亡Dは、体調は大丈夫であると述べ、仕事 への不安、不満や抑うつ治療中であることに言及することはなく、日常の仕 事振りを見ても、うつ病を疑わせる様子は見られなかった。そこで、E課長は、直ちに業務量の削減を図る必要はないと判断し、早めの帰宅の呼びかけと見守りを対策の中心に据えることとした。E課長は、同月22日付けで、人事課長、総務厚生センター所長及び産業医に対し、事後措置として、亡Dに毎日声を掛けて、できる限り早めの帰宅を呼び掛けていること、職務の偏 重がないように係内での仕事の進捗とやり方を点検していること、風通しの良い職場環境づくりに努め意見を発することができるよう取り組んでいくことなどを報告し、他部署への応援を要した際も、亡Dには単純作業のみを依頼する配慮をした。 カ E課長は、産業医及び総務厚生センター長宛ての平成29年3月8日付け で、平成28年12月から平成29年2月にかけての亡Dの時間外勤務時間を報告した。これによると、上記期間中の亡Dの「時間外勤務実績」は、それぞれ83時間、95時間、90時間であった(甲9・8頁))キ E課長は、平成29年3月下旬に異動し、後任のJ次長に対して、亡Dが精神疾患のため通院中であると伝え、産業医の面談結果等に関する書類も引 き継いだ。(甲9・9頁)⑸ 亡Dの自殺亡Dは、平成29年5月21日午前0時頃、自宅の寝室において、縊頸の方法で自殺した。 2 時間外勤務時間の認定についての補足説明 本件において時間外 甲9・9頁)⑸ 亡Dの自殺亡Dは、平成29年5月21日午前0時頃、自宅の寝室において、縊頸の方法で自殺した。 2 時間外勤務時間の認定についての補足説明 本件において時間外勤務時間が問題となっているのは、業務負荷による職員の心身の健康に対する影響度を推認するためのものであるところ、亡Dは、所定の就業時間外に被告県庁に在庁しているときには、特に私的行為にふけるようなこともなく職務に従事していたことが認められるから(証人F32~33頁、証人E17頁)、所定の始業時間前の入庁も職務の準備のために必要なものであった と認められる。また、亡Dは、残業で遅い時間に帰宅した時も自宅で夕食をとる ことが多かったと認められ(原告A14~15頁)、午後5時15分以降の時間外勤務を開始するに当たって30分の休憩を取っていたと認めることはできない。そして、被告においては、「過重労働による健康被害を防止するための対策実施要綱」(乙5)に定める産業医による面接指導の対象の有無を判別するための時間外勤務報告書に記載された時間外勤務の時間は、定時就業時間から出退勤シ ステムに打刻された退勤時間までの間とされていたことをも踏まえると、前記の趣旨において認定する亡Dの時間外労働の時間は、基本的に、出退勤システムにおける亡Dの入庁時の打刻時間から退庁時の打刻時刻までの間の時間から所定の勤務時間及び昼の休憩時間1時間を控除したものと認めるのが相当である。ただし、勤務したこと自体は争いがないが、出退勤システムに出退勤時刻の打刻が ない日のうち、登退庁簿に登退庁時刻の記載があるもの(平成29年3月3日同月、同月27日及び同年5月20日)については、これを出退勤時刻と認め、登退庁簿に登退庁時刻の記載のない日のうち出勤時刻の打刻がな 日のうち、登退庁簿に登退庁時刻の記載があるもの(平成29年3月3日同月、同月27日及び同年5月20日)については、これを出退勤時刻と認め、登退庁簿に登退庁時刻の記載のない日のうち出勤時刻の打刻がない日は、所定の始業時刻に出勤したものと認定し、退勤時間の打刻のない日は、出勤簿に時間外勤務時間の記載がある日は、終業時刻後に記載のとおりの時間外勤務をして退勤し たものと認定し、時間外勤務時間の記載のない日は、所定の終業時刻に退勤したものと認定した(なお、平成29年4月18日は、5時間の年次有給休暇を拘束時間及び実労働時間から差し引いた。)。 3 争点に対する判断⑴ 争点1(亡Dの業務の過重性)について ア教職員課給与係配属当時における業務の過重性亡Dは、教職員課給与係に在勤中の平成27年3月から同年4月にかけて、1か月当たり150時間を超える時間外勤務に従事し、かつ、その間に13日間(同年3月23日から同年4月4日まで。そのうち9日間は退庁時間が午後10時を過ぎていた。)の連続勤務を含む業務に従事したことが認めら れるところ、この時間外勤務時間は、被告が奈良県職員労働組合との間で、 ワーク・ライフ・バランスを推進するための目標として設定した月30時間の約5倍に及ぶものであり、この時期の業務量は、相当に多かったものといえる。しかも、前記認定事実によれば、上記期間の前にも50時間を超える時間外勤務が2か月続いていたことが認められる上、その後の事実経過からは、上記期間後にも深夜に帰宅せざるを得ない状況が続いていたことが認め られるから、亡Dは、かなり過酷な勤務状況に置かれていたものということができる。 亡Dが教職員課給与係において担当していた主たる業務である給与システムに関する業務は、パソコ ていたことが認め られるから、亡Dは、かなり過酷な勤務状況に置かれていたものということができる。 亡Dが教職員課給与係において担当していた主たる業務である給与システムに関する業務は、パソコンを操作して電子計算システムに数値を入力し、確認する事務作業であり、専門的な知識や技能を要するものではないものの、 教職員の給与支給に関する業務で、給与支給日に間に合うよう正確な給与額を算出する必要があり、集中力と忍耐力を要する業務であることに加えて、パソコン上のシステム操作に苦手意識をもっていた亡Dにとっては、心理的負担が大きい業務であったといえる。亡Dは、そのまじめで几帳面な性格から、業務において理解が及ばない事項をそのままにすることができず、スト レスを感じながらもシステム操作に関する疑問点を自分なりに理解しようと努力したことも長時間勤務に至った一因であると認められるが(甲12・336~337、340頁)。このような仕事への苦手意識や取組み姿勢は、一般的な社会人として通常想定される個性を逸脱したものとはいえないから、長時間勤務の要因として、上記のような事情があったからといって、平 成27年3月から同年4月にかけての教職員課給与係における業務の過重性が否定されるものではない。 そうすると、教職員課における亡Dの業務、とりわけ平成27年3月から4月にかけての業務は過重なものであったと認められる。 イ砂防・災害対策課配属後の業務の過重性 前記認定のとおり、亡Dの死亡日前6か月間における1か月当たりの時間 外勤務時間は、平均して70時間を超えるものであり、相当長時間の業務が常態化していたものと認められる。(E課長が産業医総務厚生センター所長に報告した亡Dの平成28年12月から平成29年2 外勤務時間は、平均して70時間を超えるものであり、相当長時間の業務が常態化していたものと認められる。(E課長が産業医総務厚生センター所長に報告した亡Dの平成28年12月から平成29年2月にかけての亡Dの時間外勤務実績は、それぞれ83時間、95時間、90時間である。)。 砂防・災害対策課災害防止係において、亡Dが主に担当していた土砂災害 警戒区域の指定は、政策的な判断やシステム操作を伴うものではなく、特別な知識・技能を要しない事務作業が中心であったが、同区域の指定は私権制限につながるものであり、実体判断はしないものの、表記を間違えればその影響は小さくなく、数値目標もあったことから、亡Dは、間違いのないように成果物を慎重に確認しつつ、遅滞を招かないように真摯に仕事に取り組ん でいたのであり、その精神的な緊張は相応のものであったといえ、業務負担は軽いものとはいえない。砂防・災害対策課における業務においても、亡Dの性格が業務負担に一定の影響を及ぼしていたことはうかがえるものの(甲12・272頁)、前記のとおり、一般的な社会人として通常想定される個性を逸脱したものとはいえないから、このことは業務の過重性を否定する事情 とはいえない。 したがって、亡Dの砂防・災害対策課における死亡前6か月間における業務も過重なものであったと認められる。 ⑵ 争点2(業務の過重性とうつ病の発症及び自殺との因果関係)についてア業務の過重性とうつ病の発症との因果関係 精神障害認定基準によれば、精神障害の発病時期については、特定が難しい場合があり、そのような場合でもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求めて判断し、強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解し得る言動があるものの ついては、特定が難しい場合があり、そのような場合でもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求めて判断し、強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解し得る言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱うものと されている。 本件における亡Dの勤務状況を見ると、亡Dは、恒常的に長時間勤務に従事していたところ、平成27年3月23日から同年4月4日までは、13日間連続勤務をし、その大半の期間が深夜勤務に及び、当該期間の1か月当たりの勤務時間が100時間以上に及ぶものであること、亡Dは、この半年以上前から、業務の負担による疲労感を度々吐露し、教職員課からの異動を希 望し、このころにもF課長補佐に給与システム担当に対する不安を述べ、異動希望を伝えていたこと、亡Dは、上記の連日に及ぶ長時間勤務の直後にうつ症状を訴えてクリニックを受診し、担当医は、うつ病の発症時期を平成27年4月頃と判断していること(甲12・668頁)からすると、亡Dは、教職員課のける過重な業務による長時間勤務が強い心理的な負荷となって 心身の不調を来し、同年4月上旬頃にはうつ病に罹患したと認めるのが相当である。 したがって、教職員課における過重な業務と亡Dのうつ病の発症との間には、因果関係が認められる。 イ業務の過重性と自殺との因果関係 F課長補佐は、亡Dがうつ病を発症した頃、その事実は把握していなかったものの、亡Dの異動希望の訴え及び業務に関する意向を踏まえて、平成27年4月以降、給与システムのサポート職員を2名追加で配置するなど亡Dの業務負担の軽減につながる事務分掌の変更をするし、一方で、亡Dは、同月にクリニックに3回通院した後は、通院を自 踏まえて、平成27年4月以降、給与システムのサポート職員を2名追加で配置するなど亡Dの業務負担の軽減につながる事務分掌の変更をするし、一方で、亡Dは、同月にクリニックに3回通院した後は、通院を自主的に止めた。 しかし、亡Dについては、その後も帰宅が深夜に及ぶことになる長時間の時間外勤務が続き、①平成27年10月には、亡Dの祖母が被告人事課を訪問し、亡Dの帰宅時間が深夜に及び、奇行が見られるとして異動を強く要望したり、②その頃、亡DもG係長に対して病院にかかりたいなどと相談したり、また、③同年12月から平成28年1月頃にかけてのF課長補佐との人 事評価面談の際に亡Dが業務負荷を理由に降格及び異動を希望したりする など、業務の負担は依然として大きかったものと認められる。 被告は、亡Dの祖母の来訪や亡Dの異動希望等を考慮し、本来の異動期ではなかったものの、人事課に対し、亡Dの異動が可能である旨の意見を出し、亡Dは、平成28年4月、砂防・災害対策課に異動したものの、不眠、憂うつ、疲労感を訴えて、すぐにクリニックへの通院を再開し、恒常的な時間外 勤務を伴う長時間労働から解放されることがないまま、通院を継続し、平成28年11月から死亡に至るまでの約6か月間の時間外勤務時間は月平均70時間程度に及んでいたのである。 以上の事実経過によれば、亡Dは、平成27年3月から4月にかけての過重労働によりうつ病を発症した後、一時的に通院頻度が減少した期間があっ たものの、恒常的な長時間労働から解放されることはなく、うつ病の状態が改善されないまま、砂防・災害対策課でも長時間の業務に従事することとなり、更なる過重業務による心身の負担にさらされた結果、自殺するに至ったと認められる。 なお、亡Dは、平成16年、平成21年にうつ 改善されないまま、砂防・災害対策課でも長時間の業務に従事することとなり、更なる過重業務による心身の負担にさらされた結果、自殺するに至ったと認められる。 なお、亡Dは、平成16年、平成21年にうつ病でクリニックに通院歴が あったが、その後は私生活においても心身の健康を損なうような出来事はなく、最終通院日から本件のうつ病の発症まで約6年が経過していることから、本件の亡Dのうつ病の罹患及び自殺が過去のうつ病の影響によるものとは認められない。 ⑶ 争点3(亡Dを過重な業務に従事させ、うつ病を発症、増悪させて自殺に至 らせたことについての被告の国家賠償法1条1項に基づく責任(心身の健康に関する安全配慮義務違反)及び民法415条に基づく責任(安全配慮義務違反)の有無)についてア平成26年10月から平成27年2月にかけての亡Dの時間外勤務の時間をみると、1か月当たり60時間を超える月もあったものの、30時間程 度の月も見られ、亡Dがうつ病に罹患する前の6か月間において、過重な長 時間業務がうつ病の発症を予見できる程度に常態化していたとまではいえない。そして、被告は、平成27年3月から同年4月にかけて、亡Dの業務量が過酷なほどに増加したことは認識していたものと認められるが、亡Dは精神科医院に通院を要するほどの心身の不調を明確に上司らに訴えたとは認められず、亡Dの業務の進捗状況にも問題がなかったこと等からすると、 この頃に、上司らが亡Dの勤務態度等から精神疾患の発症を疑ってしかるべき状況にあったとは認められない。 そうすると、亡Dがうつ病に罹患したことについて、被告に国家賠償法1条1項の適用上違法と評価され、又は民法415条に当たると認められる安全配慮義務違反があったとはいえない。 イ い。 そうすると、亡Dがうつ病に罹患したことについて、被告に国家賠償法1条1項の適用上違法と評価され、又は民法415条に当たると認められる安全配慮義務違反があったとはいえない。 イもっとも、被告は、亡Dがうつ病を発症する前の平成26年7月頃以降、職員組合からの情報、上司との面談の際の亡Dの発言、前記⑵イ①ないし③の事実等から、亡Dが教職員課における業務を負担に感じ、心身の健康が危ぶまれる状態にあることを窺わせる情報を得ていたにもかかわらず、砂防・災害対策課において亡Dを恒常的な時間外勤務に従事させる中で、 亡Dの当時の上司は、平成28年12月13日付の産業医面談指導等結果報告書を受領し、亡Dが長時間に及ぶ過重労働の継続により疲労が蓄積し、抑うつ状態で治療中であるため、今後の措置として、これ以上長時間の時間外勤務が生じないように職場における対策と配慮が必要であるとの意見の提示を受けたことが認められる(甲11・2枚目)。 そうすると、被告は、遅くともこの時点において、教職員課からの異動によっては、亡Dの業務負担に起因して生じた心身の健康が危ぶまれる状態が解消されておらず、むしろ長時間の過重労働による疲労の蓄積の結果、精神疾患を発症して治療中であり、医学的見地から長時間の時間外勤務を避けなければならないことを認識したといえる。そうであるのに、 被告(亡Dの所属長である砂防・災害対策課課長)は、早期の帰宅の呼び かけ等で業務量の軽減を亡Dの自由意思に委ねるのみならず、亡Dを長時間の時間外勤務に従事させないための具体的な措置(担当事務の変更や分担事務量の軽減等)を講じるべき義務(安全配慮義務)が生じたといえる。それにもかかわらず、被告(砂防・災害対策課課長)は、亡Dの時間外勤務を軽減するための実 いための具体的な措置(担当事務の変更や分担事務量の軽減等)を講じるべき義務(安全配慮義務)が生じたといえる。それにもかかわらず、被告(砂防・災害対策課課長)は、亡Dの時間外勤務を軽減するための実効的な措置を講じておらず、その結果、亡D は、産業医の面接指導後約6か月にわたり長時間の時間外勤務に従事し、自殺するに至ったのであるから、被告(砂防・災害対策課課長)は当該注意義務に違反したと認めるのが相当である。 被告は、産業医の前記報告書を受け取った当時における亡Dの勤務状況は良好で、その成果物にも問題がなく、面談の際に亡Dが体調面に問題が ないと答えたこと等から、亡Dが死亡することについて予見可能性がなかった旨主張する。しかしながら、上記報告書を亡Dの上司が受け取った時点においては、亡Dが長時間労働を伴う業務負担に起因したうつ状態にあることは認識することができたところ、うつ状態にある者がその原因となった長時間労働に引き続き従事させられれば、自殺を図ることが ありうることは予見可能であったといえるから、上記事情をもって被告の予見可能性を否定することはできない。 また、被告は、産業医の面談指導等結果報告書を受け取った後、亡Dとの面談を実施し、改めて亡Dの業務状況を注視する、早期の帰宅を呼びかけるといった業務軽減措置を講じた旨主張するが、これらの措置は、亡D の性格等を考慮すると、その業務軽減を図る上で十分なものとはいえない(現に、被告が産業医及び総務厚生センター所長に提出した時間外勤務報告書(甲9・8頁)からは、亡Dの平成28年12月から平成29年2月にかけての「時間外勤務実績」はそれぞれ83時間、95時間、90時間であると記載され、亡Dの時間外勤務の状況は改善できていないこと が認め 頁)からは、亡Dの平成28年12月から平成29年2月にかけての「時間外勤務実績」はそれぞれ83時間、95時間、90時間であると記載され、亡Dの時間外勤務の状況は改善できていないこと が認められる。)。 被告は、同報告書等においても「平常勤務(全く正常生活でよいもの)」との判定がされている以上、その後も亡Dを時間外勤務に従事させたとしても被告に亡Dの死亡についての予見可能性はなく、結果回避義務違反もなかった旨主張する。しかしながら、産業医は、長時間労働を契機とする面談指導等の結果報告書において、現状以上の時間外勤務が生じな いように配慮すること旨指摘したことに加えて、ストレスチェックに基づく医師面接の結果報告において、「就業場所の変更が必要である。」旨指摘していることからも、上記報告書における「平常勤務」の記載が、月平均70時間程度に及ぶ業務を許容する趣旨の記載であるとは解されないのであり、上記の記載をもって被告の予見可能性や結果回避義務違反を 否定することはできない。 したがって、被告において、平成28年12月13日以降、亡Dの心身の健康が危ぶまれる状態にあることを認識し、亡Dの死亡結果についても予見可能であったといえるから、精神疾患の増悪を防止する措置を十分にとらず、同人を自殺に至らせたことについて、国家賠償法1条1項に基づ く責任(心身の健康に関する安全配慮義務違反)及び民法415条に基づく責任(安全配慮義務違反)があるというべきである。 ⑷ 争点4(原告らの損害額)被告の上記各義務違反による自殺によって亡Dに生じた損害は、以下のアないしウのとおりであると認められる。原告らが受給した以下のエの補償は、損 益相殺(逸失利益及び葬祭料)の対象となるから、これを同 の上記各義務違反による自殺によって亡Dに生じた損害は、以下のアないしウのとおりであると認められる。原告らが受給した以下のエの補償は、損 益相殺(逸失利益及び葬祭料)の対象となるから、これを同損害額から控除し、弁護士費用相当額として控除後の額の約1割に相当する620万円を加算し、原告らの相続分(各2分の1)でこれを按分すると、原告らが被告に対して有する損害賠償請求権の額は、それぞれ3405万5766円となる。 ア死亡慰謝料 2200万円 被告の義務違反の内容、義務違反による結果の重大性等を総合的に考慮す ると、亡Dが死亡したことに対する慰謝料は2200万円と認めるのが相当である。 イ死亡による逸失利益 5333万3219円基礎収入を674万9887円(亡Dが死亡した平成29年度の被告における男性かつ大卒の行政職職員の全年齢平均給与額)とし、生活費控除率(独 身男性)を5割として、就労可能年数を死亡当時の35歳から67歳までの32年間として算定する。 (計算式)674万9887円×15.8027(32年に対応するライプニッツ係数)×(1-0.5)=5333万3219円(小数点以下切り捨て) ウ葬祭料 150万円エ損益相殺遺族補償年金(平成29年6月分から令和3年3月分まで)1410万8266円(前提事実の令和2年3月分までの支払分856万5732円に令和2年4月分から令和3年3月分までの支払分30 2万3200円及び令和3年4月分から令和4年1月分までの支払分251万9334円(甲25、26)を加算) 葬祭補償 81万3420円オ小計 6191万1533円 万3200円及び令和3年4月分から令和4年1月分までの支払分251万9334円(甲25、26)を加算) 葬祭補償 81万3420円オ小計 6191万1533円カ弁護士費用 620万円 本件事案の内容及び認容額等に照らすと、被告の義務違反と相当因果関係のある弁護士費用の額は620万円と認める。 キ合計 6811万1533円⑸ 過失相殺の可否(争点5)被告は、亡Dの既往歴から、亡Dの性格や精神的傾向には脆弱性があること がわかり、これは労働者の個性の多様さとして想定される範囲を逸脱している ため、過失相殺又は素因減額がなされるべきである旨主張する。 しかし、亡Dのまじめで几帳面な性格が、労働者の個性の多様さを逸脱するものでないことは上記のとおりであるし、亡Dの仕事の取り組み方によって、自ら不要な業務を増やしていたとも評価できないのであるから、本件において、賠償額を決定するに際し、被告が主張する事情によって、過失相殺や素因減額 を行うことは相当ではない。 第4 結論以上によれば、原告らの請求は、国家賠償法1 条1項に基づき、被告に対し、それぞれ3405万5766円及びこれに対する平成29年5月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるか ら、その限度でこれを認容することとし、その余はいずれも理由がないから請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部 裁判長裁判官寺本佳子 裁判官藤 﨑 彩菜 裁判官糸賀陸理は、転補のため、署名押印するこ 事部 裁判長裁判官寺本佳子 裁判官藤崎彩菜 裁判官糸賀陸理は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官寺本佳子

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