平成27年(た)第1号再審請求事件主文本件について再審を開始する。 理由 第1 再審請求の趣意 1 略称等別紙参照語句一覧表記載のとおりなお,請求人については,本決定中,主に判断部分において,単に「A」と表記することもある。 2 趣意本件は,請求人に対する殺人,死体遺棄被告事件について昭和55年3月31日鹿児島地方裁判所が言い渡した確定判決に対し,無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠を新たに発見したから,刑訴法435条6号により,再審開始の決定を求めるものである。 その趣意は,主任弁護人森雅美ほか作成の平成27年7月8日付け再審請求書,平成28年11月30日付け最終意見書及び主任弁護人作成の平成29年1月31日付け最終意見補充書記載のとおりであり,これに対する意見は,検察官作成の平成27年10月2日付け及び平成28年11月30日付け各意見書記載のとおりであるから,これらを引用する。 第2 本件再審請求に至るまでの経緯別添1 本件再審請求に至るまでの経緯のとおり第3 確定判決とその証拠構造別添2 確定判決の内容と証拠構造のとおり第4 新証拠 1 甲鑑定について別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定)のとおり 2 乙・丙新鑑定について別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定)のとおり 3 新証拠についてのまとめ以上のとおり,新証拠である甲鑑定は,Bの遺体に窒息死であることを積極的に認める所見がないこと,頸部に外力が作用したことを積極的に示す所見がないことを明らかにしたことにより,死因を頸部圧迫による窒息死と推定した丁旧鑑定の証明力を減殺させた。 加えて,新証拠である乙・丙新鑑定は,Cの目撃供述には,体験記憶に基づかない情報が含まれて がないことを明らかにしたことにより,死因を頸部圧迫による窒息死と推定した丁旧鑑定の証明力を減殺させた。 加えて,新証拠である乙・丙新鑑定は,Cの目撃供述には,体験記憶に基づかない情報が含まれている可能性が高く,その信用性評価においては慎重な判断をする必要があることを明らかにした。Cの目撃供述の位置づけを考慮すれば,Cの目撃供述の信用性評価,加えてC供述によって補強されていたD,Eらの供述の信用性評価に影響を与える可能性も生じさせたといえる。 なお,弁護人は写真(弁23~86)も新証拠として提出している。これらの写真群は,第3次再審請求において初めて開示された写真ネガフィルムを元に作成されたものであり,証拠の新規性を備えているが,それぞれの立証趣旨をみると,写真だけを独立して証拠価値(明白性)を論じることは適切ではないから,新証拠の写真群については,F,D及びEの各供述の信用性評価に関する総合評価のための一証拠とした。 第5 総合評価別添5 総合評価のとおり第6 結論当請求審における新証拠である甲鑑定及び乙・丙新鑑定は,確定審,第1次再審請求及び第2次再審請求において提出された全証拠と併せて総合評価すれば,請求人の本件犯行への関与を認定した確定判決の事実認定には合理的な疑いを生じさせると考えられる。 したがって,本件再審請求には理由があるから,刑訴法448条1項,435条6号により,本件について再審を開始することとし,主文のとおり決定する。 平成29年6月28日鹿児島地方裁判所刑事部裁判長裁判官冨田敦史 裁判官山田直之 裁判官福田恵美子 別添1 本件再審請求に至る 裁判長裁判官冨田敦史 裁判官山田直之 裁判官福田恵美子 別添1 本件再審請求に至るまでの経緯 別添1 本件再審請求に至るまでの経緯 1 確定第1審における審理請求人は,捜査段階から一貫して本件殺人,死体遺棄事件への関与を争っていたところ,弁護人は,F,D及びEが本件を行ったこと自体は争わなかったため,請求人が本件に関与したか否かが争点となり,同意書証(Bの死体を解剖したM大学教授丁作成の丁旧鑑定を含む。)の取調べに加えて,F,D及びEの各証人尋問,Cの証人尋問などが行われ,さらに,F,Dについては,刑訴法321条1項2号により検察官調書が採用され,被告人質問が実施された。昭和55年3月31日,鹿児島地方裁判所は,請求人を殺人,死体遺棄の公訴事実で有罪とし,懲役10年に処する確定1審判決を言い渡した。 なお,F及びDは,昭和54年11月7日,本件殺人及び死体遺棄の事実で,Eは,本件死体遺棄の事実でそれぞれ起訴され,この3名の事件は併合審理されたが,3名は起訴事実を認め,請求人の判決日と同じ昭和55年3月31日,判決が宣告された。鹿児島地裁は,請求人と同様の罪となるべき事実等を認定した上,Fを懲役8年,Dを懲役7年,Eを懲役1年に処したが,F,D及びEはいずれも控訴せず確定した。 2 確定控訴審以降の審理確定控訴審においても,争点は請求人自身の犯行への関与であり,改めて,C及びFの証人尋問が実施されたほか被告人質問が実施された。昭和55年10月14日福岡高等裁判所宮崎支部は控訴棄却の判決をし,請求人は上告したが,昭和56年1月30日最高裁は上告棄却決定をし,昭和56年2月17日異議申立棄却決定により,確定1 実施された。昭和55年10月14日福岡高等裁判所宮崎支部は控訴棄却の判決をし,請求人は上告したが,昭和56年1月30日最高裁は上告棄却決定をし,昭和56年2月17日異議申立棄却決定により,確定1審判決が確定した。 3 第1次再審における審理⑴ 請求審請求人は,請求人,F,D及びEがいずれも本件殺人,死体遺棄に関与していないと主張し,F,D及びEの自白の信用性を争った。すなわち,Bは本件事件当日,別添1 本件再審請求に至るまでの経緯 側溝に自転車もろとも転落して事故死した可能性が最も高いから,絞殺を前提とする上記3名の自白及び確定審の認定は,Bの死因と矛盾するなどとして,丁教授作成の補充鑑定書,戊教授作成の鑑定書及び意見書等を提出し,検察官はこれに関連して,己教授作成の意見書等を提出し,丁,戊,己らの証人尋問が行われ,丁によるBの死体の司法解剖の助手癸の証人尋問も実施された。また,D,Eの供述反訳書面,捜査段階の関係者の供述調書等が提出されたほか,CとEについても証人尋問が行われ,また,泥酔したBが発見されて自宅に運ばれるまでの状況等についてH,I,Jの証人尋問が行われた。 平成14年3月26日,鹿児島地方裁判所は,請求人について,再審を開始する決定をした。その理由は,丁新鑑定,戊鑑定によれば,Bの頸部には絞殺を示す外部所見も内部所見も認められないから,死体の客観的状況はF,Dの自白による犯行態様とは矛盾する可能性が高く,その自白の信用性を再検討する必要性が生じたとし,殺害現場とされるB方中6畳間の状況,ビニールカーペット等の客観的証拠,F,D,Eその他の関係者の供述等の新旧全証拠を総合評価した結果,請求人,F,D及びEを本件殺人,死体遺棄について有罪とするには合理的な疑いを生じさせるというものである。 ⑵ 即時抗 客観的証拠,F,D,Eその他の関係者の供述等の新旧全証拠を総合評価した結果,請求人,F,D及びEを本件殺人,死体遺棄について有罪とするには合理的な疑いを生じさせるというものである。 ⑵ 即時抗告審第1次再審開始決定に対する即時抗告審では,戊や己の補充意見書等が提出された。平成16年12月9日,福岡高等裁判所宮崎支部は,丁新鑑定,戊鑑定は,F,Dの自白に基づく犯行態様や死因に疑いを生じさせず,客観的証拠やF,D,Eの自白に対する第1次再審開始決定の評価を否定して,再審開始決定を取り消し,再審請求を棄却した。 即時抗告審の決定に対する特別抗告は,平成18年1月30日棄却された。 4 E,Cの再審請求Eは,平成9年9月19日,鹿児島地方裁判所に対し,刑訴法435条6号による再審請求をしたが,その審理中,平成13年5月27日死亡した。Cは,Eの再別添1 本件再審請求に至るまでの経緯 審請求を引き継ぐ形で,平成13年8月24日,同裁判所に対し,Eにかかる確定判決について再審請求をし,同裁判所は,平成14年3月26日,請求人に対する再審開始決定と同趣旨の理由により,再審開始決定をした。検察官がこれに対して抗告したが,Cは,平成16年1月4日,死亡した。 5 第2次再審の審理経過⑴ 請求審請求人は,平成22年8月30日,第2次となる再審請求を行った。第2次再審では,弁護人から,F,D及びEの自白の信用性を弾劾し,証明力を減殺する新証拠として,庚鑑定,糞尿痕関係証拠,壬意見書等知的能力に関する証拠のほか,乙・丙旧鑑定が新証拠として提出された。 平成25年3月6日,鹿児島地方裁判所は,新証拠にはF,D及びEの自白の信用性を動揺させるような証拠価値が認められず,3名の自白の信用性は十分肯定できる,新証拠を確定審及び第1次再 て提出された。 平成25年3月6日,鹿児島地方裁判所は,新証拠にはF,D及びEの自白の信用性を動揺させるような証拠価値が認められず,3名の自白の信用性は十分肯定できる,新証拠を確定審及び第1次再審までに提出された全証拠と併せて総合評価しても,確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに至らないとして証拠の明白性を否定し,再審請求を棄却した。 ⑵ 即時抗告審即時抗告審では,即時抗告審で新たに開示された証拠等からも新証拠が補充された(初期供述に関する新証拠,客観的痕跡の不存在についての新証拠)ほか,庚鑑定について庚医学博士の証人尋問,乙・丙旧鑑定について丙教授の証人尋問,ポリグラフ検査について乙教授の証人尋問が実施された。即時抗告審は,新証拠のうち,庚鑑定,糞尿痕関係証拠,客観的痕跡の不存在についての新証拠については,明白性が認められないとした。そして,丙・乙旧鑑定,F,D,Eに知的障害があることについての新証拠,初期供述に関する新証拠については,確定審及び第1次再審までに提出された全証拠と併せて総合評価の対象とした上で,Fらの供述の信用性については,次のとおり判断した。すなわち,F及びDの供述の信用性は,それ自体だけでは必ずしも高いとはいえないものの,他方で,Cの確定審における公別添1 本件再審請求に至るまでの経緯 判供述は十分信用でき,C供述から,請求人がDにB殺害を持ちかけ,Dがこれに応じ,外出したこと,Dが帰宅時「うっ殺してきた」と述べたこと,その後Eが「加勢をした」と述べたことが認められ,Eの供述は,乙・丙旧鑑定を踏まえても信用性が減殺されるとは考えられず,C供述から認定されるこれらの事実関係と整合し,十分信用できる。その上で,Fの供述については,C供述及びE供述,これらから認められる事実関係と整合し,乙・丙旧 ても信用性が減殺されるとは考えられず,C供述から認定されるこれらの事実関係と整合し,十分信用できる。その上で,Fの供述については,C供述及びE供述,これらから認められる事実関係と整合し,乙・丙旧鑑定が指摘する点等についても,当初請求人の関与を隠し,公判廷でも請求人が犯行を主導したことについて供述を避けた結果として理解することができ,信用性を否定する事情とならない。D供述もFと同様の事実関係と整合し,大筋において信用できる。請求人らの犯行を積極的に裏付ける客観証拠は必ずしも存在していないものの,F,D,Eの自白があり,それはC供述によって支えられており,客観証拠もこれと矛盾しない。新証拠は,総合評価しても確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるには足りず,明白性がないとして,即時抗告を棄却した(平成26年7月15日)。 即時抗告棄却決定に対する特別抗告は,平成27年2月2日棄却された。 6 Fの確定判決に対する再審請求Fと請求人の長女であるGは,平成23年8月30日,Fの確定判決に対し,請求人の第2次再審請求と同じ理由により刑訴法435条6号による再審請求をした。鹿児島地方裁判所は,請求人の第2次再審請求に対する決定と同一日に同一の理由で,Gの請求を棄却した。これに対し,Gは,請求人の即時抗告と併せて即時抗告を申し立てたが,福岡高等裁判所宮崎支部は請求人の即時抗告棄却決定と同一日に同一の理由で,即時抗告を棄却した。 別添2 確定判決の内容と証拠構造 別添2 確定判決の内容と証拠構造 1 確定審の認定事実⑴ 犯行に至る経緯請求人は,昭和25年3月夫Fと結婚し,鹿児島県曽於郡a町c番地において夫Fとともに農業に従事してきたものであるが,Fは,女6人,男4人の10人兄弟の長男にあたり,同人方に屋敷を接して同人の 経緯請求人は,昭和25年3月夫Fと結婚し,鹿児島県曽於郡a町c番地において夫Fとともに農業に従事してきたものであるが,Fは,女6人,男4人の10人兄弟の長男にあたり,同人方に屋敷を接して同人の実弟である二男D,四男Bがそれぞれ居住し,同じく農業に従事していた。ところで,Bは,日頃から酒癖が悪く,酔っては同人の妻Kに暴力を振るうため,Kは何度か子供を連れて実家に帰っていたところ,昭和54年5月,請求人夫婦ら親族を交えて協議した結果,BとKは離婚し,Kは子供を引き取って実家に帰ってしまった。Bの酒癖は離婚後一層悪くなり,飲んだ先々で,迷惑をかけたり,酔いつぶれて道ばたに寝込んだりする有様で親族らが迎えに行ってBを連れ帰ったことも何度かあった。しかし,Bは,Kと離婚した後も,人目を忍んで同女との逢瀬を続け,同年7月頃には,なんとか復籍にまでこぎ着けたが,傍目を恐れたKは,B方に戻らず,別居の状態が続けられた。請求人は,勝ち気な性格の上,口数も多く,人の悪口も平気で言いふらし,Fが以前交通事故にあって仕事も十分できない上,知能もやや劣ることから,長男の嫁としてL家一族に関する事柄を取り仕切っていたが,Bは請求人によってKと離婚させられ,一緒になることを妨害されているとして請求人に反感を抱き,酒に酔っては請求人を「打殺す」などと言って暴れ,一度は請求人方に押しかけて入浴中の請求人を外まで追い回したこともあったりして,請求人夫婦,Dは,日頃から,Bの存在を快く思っていなかった。 同年10月12日,Fらの姉の子の結婚式が行われ,請求人夫婦をはじめ,Fの兄弟はBを除き,全員出席したが,出席する予定であったBは,当日朝から酒浸りのため酔って荒れていたとしてFら兄弟はBを連れて行かず,午後7時過ぎには同挙式を終えて,請求人らはそれぞれ帰宅した。 兄弟はBを除き,全員出席したが,出席する予定であったBは,当日朝から酒浸りのため酔って荒れていたとしてFら兄弟はBを連れて行かず,午後7時過ぎには同挙式を終えて,請求人らはそれぞれ帰宅した。 別添2 確定判決の内容と証拠構造 Bは,同日酒を飲んで外を出歩き,午後8時頃酔いつぶれて溝に落ちているのを部落の者に発見され,Bの近隣に住むI,Jの両名がBを同人方まで届けたが,同人は前後不覚の状態であった上,着衣が濡れて下半身裸になっていたため,同人を土間に置いたまま帰った。請求人は,Iから泥酔して道ばたに倒れているBを迎えに行く旨連絡を受け,同日午後9時頃I方に行って同人からBの様子を聞き,Iらに迷惑をかけたことを謝ったりした後,午後10時30分頃,Jと帰宅する途中,Bの様子を見るため,1人でB方に立ち寄ったが,泥酔して土間に座り込んでいるBを認めるや同人に対する恨みが募り,この機会に同人を殺害せんと決意し,D,次いでFに対し,Bを共同して殺害しようと話を持ちかけ,両名はいずれもこれを承諾した。 ⑵ 罪となるべき事実請求人は,F,Dと共謀の上,B(当時42年)を殺害するため,同人絞殺に使う西洋タオルを携帯して,同日午後11時頃,鹿児島県曽於郡a町c番地所在の同人方に赴き,同所土間に座り込んで泥酔のため前後不覚となっている同人に対し,F及びDにおいて,こもごもBの顔面を数回ずつ殴打し,その場に倒れた同人を請求人を加えた3人で足蹴にするなどし,更に上記3名でBを同人方中6畳間まで運び込んだ上,同所において,請求人が「これで絞めんや」と言って上記西洋タオルをFに渡すとともに,仰向きに寝かせたBの両足を両手で押さえつけ,Dもまた,Bの上に馬乗りになってその両手を押さえつけ,Fにおいて上記西洋タオルをBの頸部に1回巻いて交差させた 言って上記西洋タオルをFに渡すとともに,仰向きに寝かせたBの両足を両手で押さえつけ,Dもまた,Bの上に馬乗りになってその両手を押さえつけ,Fにおいて上記西洋タオルをBの頸部に1回巻いて交差させた上,請求人の「もっと力を入れんないかんぞ」との言葉に,両手でその両端を力一杯引いて絞め付け,よって同人を窒息死に至らしめて殺害し,上記殺害行為の後,Dは一旦帰宅して同人の長男であるEにBの死体を遺棄するため加勢を求めたところ,Eはこれを承諾し,ここに,請求人は,F,D及びEの3名と共謀の上,同月13日午前4時頃,請求人が照らし出す懐中電灯の灯りのもとで,上記3名が,Bの死体を同人方牛小屋に運搬した上,請求人の「まだ浅い,もっと掘らんか」との指図により,同所の堆肥内にそれぞれスコップ又はホ別添2 確定判決の内容と証拠構造 ークを用いて深さ約50センチメートルの穴を掘って,その中に上記死体を埋没し,もって死体遺棄をした。 2 確定判決の証拠構造確定第1審判決は,証拠評価,心証形成過程について判示していないが,証拠の標目及び確定控訴審判決の説示等に照らすと,Bの死体が堆肥内に遺棄されたことについては実況見分調書その他から認められる死体の発見状況や解剖所見から明らかであり,死体が遺棄されていること自体から,遺棄の犯人又はその関係者がBの死亡に関与していることが強く推認される。そして,Bが殺害され,死体が遺棄された犯行の具体的状況等並びにその犯人が請求人,F,D及びE(ただし,Eは死体遺棄のみ)であることの証拠は,共犯者であるF,D及びEの各公判供述,F(確定審検107から109まで)及びD(確定審検113)の各検察官調書並びにCの公判供述であると認められる。 なお,丁作成の鑑定書は,その文章表現は控えめなものであるが,①死因が窒息 判供述,F(確定審検107から109まで)及びD(確定審検113)の各検察官調書並びにCの公判供述であると認められる。 なお,丁作成の鑑定書は,その文章表現は控えめなものであるが,①死因が窒息死であることの直接証拠であり,かつ,②殺人の犯行態様(西洋タオルをBの頸部に1回巻いて交差させ,両手でタオルの両端を力一杯引いて絞めつけた)に関する直接証拠であるFらの自白の信用性を裏付ける補助証拠と位置づけられていたと考えられる。また,証拠物のスコップ,ホーク,懐中電灯については,確定第1審判決において犯行供用物件と認定されており,F,D及びE,そして請求人と各犯行を直接結びつける証拠と位置づけられていたと考えられる。 別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) 別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定)第1 証拠の新規性について鑑定については,鑑定内容が従前の鑑定と結論を異にするか,あるいは結論は同じでも鑑定の方法又は鑑定に用いた基礎資料において異なる等証拠資料としての意義,内容において異なると認められる場合は刑訴法435条6号にいう「あらた」な証拠に当たると解するのが相当であり,甲鑑定については,いずれもその新規性を認めることができる。 第2 丁旧鑑定の位置づけ丁旧鑑定は,死因について,「他に著しい所見を認めませんので,窒息死を推定する他はありません。」と結論付けているところ,窒息死の所見を認めたとしているわけではないので,その意味では,窒息死であることを積極的に認定できるだけの証明力はないというべきである。もっとも,丁鑑定人が,解剖医として直接遺体を解剖した上で,医学的見地から,窒息死以外の死因を排除し,窒息死であることを強く推認しているものであることからすれば,窒息死であることを推認させるだけの証明力はあったといえる 解剖医として直接遺体を解剖した上で,医学的見地から,窒息死以外の死因を排除し,窒息死であることを強く推認しているものであることからすれば,窒息死であることを推認させるだけの証明力はあったといえる。そして,確定審が,証拠の標目において罪となるべき事実について丁旧鑑定を挙げて,罪となるべき事実として窒息死に至らしめて殺害したと認定していることに照らせば,丁旧鑑定は,①死因が窒息死であることの直接証拠として位置付けられていたということができる。 また,丁旧鑑定は,「窒息したものとすれば頸部内部の組織間出血は頸部に外力が作用したことを推測せしめます。」「頸項部に作用した外力にて窒息死に至ったものと想像しないわけにはまいりません。」として,頸部に外力が作用した可能性を指摘しているところ,直接遺体を解剖し,遺体の所見を取った上で,医学的見地から意見を述べていることからすれば,頸部に外力が作用したことを推認するだけの証明力はあったといえる。したがって,丁旧鑑定は,②殺人の犯行態様(西洋タオルをBの頸部に1回巻いて交差させ,両手でタオルの両端を力一杯引いて絞めつけ別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) た)に関する直接証拠であるFらの自白を裏付け,その信用性を高めていたといえる。 第3 甲鑑定の証明力について 1 甲鑑定の概要と丁旧鑑定との関係甲鑑定は,遺体の状況が「頸部圧迫による窒息死」と矛盾するとの結論を導いているところ,それが十分に信用できるものであれば,丁旧鑑定の確定審における位置づけ①②のいずれとの関係でも,丁旧鑑定の証明力を大きく減殺することになる。 甲鑑定は,遺体には①頸部圧迫による窒息死の所見がないことを指摘した上で,②死斑,血液就下,腐敗血管網を認めないこと,③遺体の損傷状況から出血死(事故死)の可能性があること 減殺することになる。 甲鑑定は,遺体には①頸部圧迫による窒息死の所見がないことを指摘した上で,②死斑,血液就下,腐敗血管網を認めないこと,③遺体の損傷状況から出血死(事故死)の可能性があることを指摘して,遺体の状況は,頸部圧迫による窒息死とは矛盾すると結論付けていることから,これらの点について,以下検討する。 2 甲鑑定の指摘する点についての検討⑴ 死斑・血液就下についてア甲鑑定の要旨甲鑑定は,急性窒息死では,死斑・血液就下は顕著に発現する一方,出血死では,死斑・血液就下がないか軽度であることを前提として,本件遺体がうつ伏せに遺棄された状態で発見されたが,本件遺体の前額部・顔面・前頸部等には死斑だけでなく,腐敗の影響を受けにくい血液就下もないことから,本件遺体の状態は,窒息死と矛盾し,出血死を強く示唆すると結論づけている。 イ検討本件遺体が堆肥内に遺棄された際に下方となっていた顔面や前胸部等の外表に死斑であると判別できる所見が認められないこと,筋肉内において,明らかに血液就下と判別できる所見が認められないことは甲鑑定,辛鑑定ともに一致しており,本件遺体に死斑・血液就下があるとはいえないということは認めることができる。 その上で,甲鑑定は,本件遺体の腐敗が高度ではないことを前提として,死斑については,腐敗すると黒っぽくなり,白くなることはないのに,本件遺体は顔が全別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) 体的に白く,前胸部,腹部の前後も同程度に白いから,腐敗の影響を受けて死斑が判別できなくなったものではなく,死斑は生じていない,血液就下については,死斑と比べて腐敗の影響を受けにくい上,前頸部の切開部内の筋肉,前胸部,胸筋全般が白く,右胸筋は出血が見られるが,肋間筋は非常に白いことから,血液就下も く,死斑は生じていない,血液就下については,死斑と比べて腐敗の影響を受けにくい上,前頸部の切開部内の筋肉,前胸部,胸筋全般が白く,右胸筋は出血が見られるが,肋間筋は非常に白いことから,血液就下もないとしている。 しかしながら,本件遺体は,いわゆる巨人様外観を有していること,腹部が著しく膨隆し,陰嚢も新生児頭大に膨隆していること,頭髪が容易に脱落し,陰毛はほとんど脱落していること,手掌面,両足の皮膚が手袋のように剥離していること,腸管が著しく膨隆していること,肺,胃,膀胱に腐敗気泡を認めることなどから,相当程度腐敗しているというべきである。また,辛鑑定によれば,腐敗が進行して表皮がめくれた状態であれば白っぽく見えることもあることが指摘されており,真皮が白いことから腐敗が軽度であるとはいえない上,丁旧鑑定によれば,皮膚の色が変色しているだけでなく,臓器についても腐敗によりその性状が不明となっていることなどに照らせば,腐敗が表皮にとどまっていると考えることも相当でない。 したがって,堆肥内に遺棄された本件遺体の皮膚が腐敗等の死後変化により死斑の存否が判別できなくなったことはもちろん,筋肉等も腐敗の影響により血液就下の存否が分からなくなった可能性は否定しがたい。そうすると,本件遺体に死斑や血液就下があったと認めることはできないものの,他方,これらがなかったとも認めることはできないというべきである。 また,そもそも死斑・血液就下が認められれば窒息死,認められなければ出血死ということが論理必然であるということまではいえず,それぞれその可能性が高いというにすぎない。 以上から,死斑・血液就下があるという所見が認められないことをもって,直ちに窒息死と矛盾する,あるいは出血死であるということはできない。 ⑵ 出血死の可能性についてア うにすぎない。 以上から,死斑・血液就下があるという所見が認められないことをもって,直ちに窒息死と矛盾する,あるいは出血死であるということはできない。 ⑵ 出血死の可能性についてア甲鑑定の要旨別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) 甲鑑定は,丁旧鑑定が出血を確認した右胸腹部,右前腕,両下肢,右肋間筋,左鎖骨上,右鎖骨直下,頸椎前面以外に,胸部の肋間筋等の出血,右側胸部から側腹部や腰部の皮下出血等が見逃されていることを指摘した上で,それらの出血の原因について検討し,出血死の可能性が強い旨指摘している。 イ丁旧鑑定書に記載のない出血の存否について甲鑑定は,胸部の肋間筋等に変色があることや,右側胸部から側腹部や腰部については黒色褐色の変色があることから,出血があったと判断している。しかしながら,前記のとおり本件遺体は相当程度腐敗しており,表皮や筋肉の変色が出血であるのか死後変化であるのか目視により判別するのは困難である。また,甲鑑定は,腰部や大腿等に皮下出血があることを示唆しているが,皮膚が開検されておらず,直接目視できない筋肉内についても出血があると推定することは合理的根拠に欠けるというべきである。 ウ各出血の原因について① 肋骨骨折甲鑑定は,胸部の肋間筋等軟部組織の出血については,肋骨の骨折線も確認されることから,肋間筋出血があるとして,肋骨骨折の可能性を示唆している。この点,辛鑑定も,1か所は骨折の可能性を認めているものの,浅い線状の骨折で重症ではない,残りの2か所は骨折と断定することは難しいとしていることなどに照らすと,肋骨骨折があったとしても,これが死因と密接に結びつくほど重度なものであると考えることは困難である。 ② 腎損傷による後腹膜下出血丁旧鑑定書によれば とは難しいとしていることなどに照らすと,肋骨骨折があったとしても,これが死因と密接に結びつくほど重度なものであると考えることは困難である。 ② 腎損傷による後腹膜下出血丁旧鑑定書によれば,腎臓は腐敗,溶解のため性状不明であったが,腎臓が損傷して出血すれば周りの脂肪の中に血液が染みこむところ,腎臓は脳に次いで血流の多い臓器であることから,本件遺体の腐敗の程度を考慮しても,腎臓の周囲に出血があれば容易に気付くことが可能であると考えられる。丁旧鑑定書には,膵臓の重量等の所見が記載されており,これは丁鑑定人が膵臓を摘出して観察したことを示別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) している上,膵臓が腎臓の横にあることからすると,丁鑑定人が,腎臓周辺の出血等に気付かなかったことは考えがたい。丁旧鑑定書に腎臓周辺の異常に関する所見の記載がないことからすると,腎損傷による出血があったとする甲鑑定を採用することはできない。 ③ 骨盤骨折による骨盤内軟部組織出血甲鑑定は,右側胸部から側腹部や腰部までの皮下出血については,その原因として胸腹部・腰部打撲,ひいては骨盤骨折の可能性を指摘しているが,確かに,骨盤骨折は,臨床上は外表から骨折の有無を判断することは難しく,見過ごされることはあるが,腹腔内に大量に出血することから,解剖の際に腹腔を開検すれば,後腹膜下の出血には容易に気づき,骨盤骨折の有無の判断も可能である。丁旧鑑定書には,肝臓,脾臓,膵臓等の重量等,腹腔内臓器の所見が記載されており,これは丁鑑定人が腹腔内臓器を摘出して観察したことを示すものであり,その際には後腹膜下の観察を行ったと考えられる。そうすると,丁鑑定人は,後腹膜下を観察し,出血等の有無を確認したと考えられるが,丁旧鑑定書に腹腔内の出血に関する所見がないことからすれば ものであり,その際には後腹膜下の観察を行ったと考えられる。そうすると,丁鑑定人は,後腹膜下を観察し,出血等の有無を確認したと考えられるが,丁旧鑑定書に腹腔内の出血に関する所見がないことからすれば,骨盤骨折はなかったと考えるべきである。 ④ 大腿骨骨折甲鑑定は,大腿骨骨折についても指摘しているが,大腿骨骨折については,検視や解剖開始時に,左右の足の長さの差異や硬直などを確認することによって,その可能性には容易に気付くことができる。また,本件遺体は,大腿筋に出血が認められないこと,大腿骨骨折が死因となるにはかなりの打撃があり,足全体に出血が広がっているはずであるのに,そのような出血が見られないことなどからすれば,出血死の原因となるような大腿骨骨折があったとは考えられない。 エ小括以上によれば,甲鑑定が指摘する出血死の原因となるような臓器の損傷や出血があったと考えることは困難であり,死因が出血死であることを推認することもでき別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) ない。そうすると,出血死は単なる可能性にすぎず,これによって死因を窒息死と推定した丁旧鑑定の証明力を減殺するものではないというべきである。 ⑶ 頸部圧迫による窒息死の所見の有無ア甲鑑定の要旨甲鑑定は,頸部圧迫による窒息死と判断するには,3要件(急性窒息死の所見,頸部圧迫の所見,急性窒息死以外の死因の否定)が認められることが必要であるとした上で,これらの中には腐敗の影響により識別が困難となるものもあるが,頸部圧迫所見のうち,①頸部筋肉内出血及び②舌骨・甲状軟骨骨折は腐敗の影響を受けにくく,③顔面・圧迫部上方の鬱血は,腐敗により黒っぽく変色するので,腐敗が進行した遺体でも確認することができるから,①②③の所見がない本件遺体については,頸部圧 骨・甲状軟骨骨折は腐敗の影響を受けにくく,③顔面・圧迫部上方の鬱血は,腐敗により黒っぽく変色するので,腐敗が進行した遺体でも確認することができるから,①②③の所見がない本件遺体については,頸部圧迫による窒息死とは矛盾するとの指摘をしている。 イ頸部筋肉内出血について本件遺体について,頸部筋肉内出血の所見が認められないという点においては,甲鑑定及び辛鑑定ともに一致している。その上で,甲鑑定は,本件遺体には開検された皮下・筋層においても鬱血所見や出血がないこと,頸部筋肉内出血は腐敗の影響を受けにくい上,本件遺体の腐敗が高度ではなく,左鎖骨上,右胸筋の出血が明瞭であることからすれば,頸部筋肉内出血についてもそれがあるのであれば明瞭に判別できるとして,頸部筋肉内出血はないとする。しかしながら,本件遺体は巨人様を呈していて膨隆しており,腐敗が高度でないということには疑問がある上,辛鑑定によれば,腐敗した遺体においては,強い出血があり,その痕跡が残っていれば判別が可能であるが,明瞭な痕跡が残っていない場合でも弱い出血があった可能性は否定できないというのであるから,筋肉内も腐敗により色調が変化するなどして出血の判別が困難となることは十分考えられる。そうすると,本件遺体においても,出血がなかったと断定することは困難である。 また,甲鑑定は,強い頸部圧迫が加わっていれば頸部深層の筋肉に出血があることを前提としているが,甲鑑定も頸部圧迫による窒息死の事例でも頸部筋肉内出血別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) がないことはあり得るとしている。加えて,辛鑑定も,ひもで絞めた痕があるのに,出血が弱かったり,判然としなかったものや,強く絞めていても出血がない場合もあること,スカーフ様のもので頸部を圧迫した事例では頸部皮下の出血をあまり確 。加えて,辛鑑定も,ひもで絞めた痕があるのに,出血が弱かったり,判然としなかったものや,強く絞めていても出血がない場合もあること,スカーフ様のもので頸部を圧迫した事例では頸部皮下の出血をあまり確認できなかった場合など索条物の種類によっては出血を確認できないこともあることを指摘している。なお,甲鑑定は,成人男性で解剖学的に異常がない人が力一杯首を絞められた場合に,何もないことはないだろうとしているが,その医学的根拠について具体的,合理的な説明はされていない。そうすると,そもそも,頸部圧迫により頸部筋肉内出血が必ず生じるということもできないというべきである。 以上からすれば,本件遺体に頸部筋肉内出血の所見が認められないことをもって,頸部圧迫による窒息死と矛盾するということはできない。 ウ舌骨・甲状軟骨骨折について本件遺体について,舌骨・甲状軟骨骨折の所見がないこと,これらが腐敗の影響を受けにくいことに関しては,甲鑑定及び辛鑑定ともに異論のないところである。 その上で,甲鑑定は,中高年男性に対する頸部圧迫では,これらの骨折を認めることが少なくないとしているが,必ず生じるとまで断定してはいない。辛鑑定によっても,首つりの事例ではあるものの,甲状軟骨や舌骨が折れている場合もあれば,全く骨折がないような場合もあるとの指摘がされていることからすれば,本件遺体にこれらの骨折の所見がないことをもって,頸部圧迫による窒息死と矛盾するとはいえない。 エ顔面・圧迫部上方の鬱血甲鑑定は,頸部圧迫があれば顔面等の圧迫部上方が鬱血すること,鬱血した部分は腐敗が進行すれば,白くなることはなく,黒っぽい色になることを前提に,本件遺体の顔が全体的に白っぽく見え,顔の広い範囲に白い部分を認めることから,本件遺体の顔には鬱血がほとんどなく,本件遺 た部分は腐敗が進行すれば,白くなることはなく,黒っぽい色になることを前提に,本件遺体の顔が全体的に白っぽく見え,顔の広い範囲に白い部分を認めることから,本件遺体の顔には鬱血がほとんどなく,本件遺体の状態は頸部圧迫による窒息死と矛盾するとしている。 別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) もっとも,本件遺体の腐敗の程度は,前記のとおり,相当高度であると考えられる。甲鑑定も,その意見書においては,腐敗が高度である場合には鬱血の有無についての判別は困難としている上,辛鑑定によれば,腐敗した遺体について黒い部分が血液が多かったと断定できるものではない,腐敗した遺体では鬱血も分からなくなるとしているところ,腐敗した環境によってその変化は個々であると考えられることも併せ考えると,本件遺体において,顔に鬱血がないと断定することは困難である。加えて,辛鑑定によれば,頸部圧迫でも,鬱血しない,あるいは鬱血の乏しい場合もあることが指摘されているところ,索条物や力の加え方によっては頸部の血管が圧迫される時間や程度にも違いが生じ,鬱血の有無や程度も様々であると考えられる。 そうすると,顔面等の鬱血の所見が認められないことが直ちに頸部圧迫による窒息死と矛盾するとはいえない。 オ小括以上によれば,甲鑑定の指摘する,頸部圧迫による窒息死であることを示す所見が認められないことにより,頸部圧迫による窒息死であることと矛盾するということまではいえないというべきである。 3 結論以上によれば,甲鑑定が指摘する,本件遺体の状態から出血死であることを示す所見があるということはいえない上,頸部圧迫による窒息死であることと矛盾する所見もないことから,頸部圧迫による窒息死ではないと積極的に認定することはできない。 しかし,頸部圧迫による窒息死 示す所見があるということはいえない上,頸部圧迫による窒息死であることと矛盾する所見もないことから,頸部圧迫による窒息死ではないと積極的に認定することはできない。 しかし,頸部圧迫による窒息死であることを積極的に認定できる所見がないという点では,辛鑑定も一致しており,その限度では甲鑑定は十分信用できる。 その上で,丁旧鑑定が死因として窒息死を推認していたことは前記のとおりであることからすると,窒息死であることを積極的に認める所見がないということは,丁旧鑑定が何をもって窒息死と推認するのかその根拠が薄弱であることを示してお別添3 新証拠についての判断1(甲鑑定) り,信用性を低下させるという意味で,その証明力を減殺しているというべきである。また,丁旧鑑定が頸部に外力が作用したとしている点についても,これを積極的に示す所見がないのであるから,頸部圧迫との鑑定結果の信用性は低下しており,F及びDの自白との関係でも,丁旧鑑定がこれらを積極的に裏付けるものとはならないという意味で証明力を減殺しているというべきである。 したがって,新証拠である甲鑑定には,丁旧鑑定の証明力を減殺させるだけの証明力が認められる。 別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) 別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定)第1 乙・丙新鑑定の位置づけ 1 新規性乙・丙新鑑定は,第2次再審請求で弁護人から請求された乙・丙旧鑑定と同様の心理学的供述評価の手法により,Cの供述にみられる非体験性兆候の有無を分析したものであり,乙・丙旧鑑定がF,D,Eの3名の供述を分析の対象としていたのに対し,乙・丙新鑑定は,初めてCの供述を心理学的供述評価の手法で分析した点で新規性が認められる。 2 Cの供述の証拠構造上の位置付けCは,確定審の公判( の3名の供述を分析の対象としていたのに対し,乙・丙新鑑定は,初めてCの供述を心理学的供述評価の手法で分析した点で新規性が認められる。 2 Cの供述の証拠構造上の位置付けCは,確定審の公判(昭和55年3月25日)において,①「Aが,Dに対し,Bを殺したいので加勢をするよう持ちかけ,Dがこれに応じて,外出し,しばらく帰ってこなかった」(以下「本件目撃供述①」という。),②「Dが帰宅時,『Bをうっ殺して来た』と言った」(以下「本件目撃供述②」という。),③「Eが『加勢をした』と言った」(以下「本件目撃供述③」といい,本件目撃供述①ないし③をまとめて「本件各目撃供述」ともいう。)などと供述している(なお,本件各目撃供述に対応する同趣旨の供述は,捜査段階に作成された昭和54年11月3日付け検察官調書等でも録取されている。)。 本件目撃供述①は,AとDとの間のB殺害の共謀についての直接証拠であり,また,その共謀に関するDの自白の信用性を補強するものである。本件目撃供述②は,B殺害に関するDの自白の信用性を補強するものである。本件目撃供述③は,Bの死体遺棄に関するEの自白の信用性を補強するものである。そして,本件各目撃供述で述べられた一連の事実関係が存することは,本件犯行の存在を推認させる間接事実にもなる。まさしく,第2次再審請求即時抗告審決定は,C供述の信用性を評価し,FとDの供述の信用性を肯定して抗告を棄却する結論を導いており,Cの供述の信用性評価は,本件再審請求の重要な争点となっている。 第2 乙・丙新鑑定の証明力別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) 1 乙・丙新鑑定の内容Cの供述を,供述分析の手法等を用いてその変遷構造に着目して分析し(分析1),次いで,捜査段階における最終的な目撃供述(昭和54年11月3日 の判断2(乙・丙新鑑定) 1 乙・丙新鑑定の内容Cの供述を,供述分析の手法等を用いてその変遷構造に着目して分析し(分析1),次いで,捜査段階における最終的な目撃供述(昭和54年11月3日付け検察官調書)の記載を対象に,非体験性兆候の有無を検討し(分析2),最後に,分析1及び分析2の結論を踏まえ,諸兆候が信用性評価に与える影響を検討した。 鑑定書(弁2)においては,本件各目撃供述を対象とし,補充鑑定書(弁20)においては,その前後の出来事に関する供述も対象とした。 まず,本件各目撃供述とそれぞれの目撃供述に続く行為を分析すると,いずれも目撃供述の中核部分において,事件に関連する新情報(①共謀と解釈できる会話,②「うっ殺して来た」との発言,③「加勢をしてきた」との発言)が付加されることに伴うトピック間の不整合の発生(Cの無反応)とその放置という変遷パターンが繰り返し確認された。また,Cの自発的行為に関する供述の変遷箇所において,本件犯行に直接結び付く重要な出来事を目撃する場所への移動とそこからの離脱の動機は,ほとんど全てが小便や寝るといった生理的欲求に基づいていた。そして,これらの移動と離脱の説明は,そのすべてが重要な中核的出来事の目撃に関する供述とほぼ同時に出現するという説明パターンの定型性を示していた(分析1)。 昭和54年11月3日付け検察官調書に記載された本件目撃供述③は,Eの「加勢してきた,黙っちょらんや」という発言を目撃していながら,それに対して当然生じるであろう聞き返し等の自発的行為の言及がないものであり,明らかなコミュニケーション不全(非体験性兆候)がみられた。むしろ,Eの上記発言の意味については,Bの死体発見後の事実から逆行的に構成したときに初めて理解可能となることから,逆行的構成によって形成された可能性 ュニケーション不全(非体験性兆候)がみられた。むしろ,Eの上記発言の意味については,Bの死体発見後の事実から逆行的に構成したときに初めて理解可能となることから,逆行的構成によって形成された可能性が示唆された(分析2)。 そして,本件各目撃供述の前後の出来事に関するCの供述を分析すると,Cが,本件各目撃供述を告白する前に供述したすべてのエピソード及び告白した後でもAらが本件犯行に関与したという印象と結び付かないエピソードには,コミュニケーション不全その他の不自然な兆候は一切確認されなかった。一方,コミュニケーシ別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) ョン不全と解釈可能なエピソードがみられたのは,すべて本件各目撃供述を告白した後のAが本件犯行に関与したという印象を与える内容のものであった。 加えて,本件各目撃供述を告白した後のCの供述中には,Bの死体発見後の昭和54年10月28日朝の出来事として,「Aが12日の晩に着替えを持ってきたことについて,Aから口止めをされたが,何の口止めかははっきりわからなかった」旨説明している部分があるが,Cが本件各目撃供述のとおりの出来事を経験したのであれば当然持っているはずの知識や認識の欠落を示す「無知の暴露」に該当する可能性がある。 比較的分量の少ないCの本件各目撃供述の捜査段階での変遷過程及びその最終的な供述内容である昭和54年11月3日付け検察官調書に,供述の信用性を減じさせる可能性をもつ非体験性兆候が複数確認されたことは,Cの目撃供述に体験記憶に基づかない情報が含まれている可能性を強く示唆していると解釈することができる。さらに,本件各目撃供述の前後の出来事を含めたCの供述の分析においても,Aらが本件犯行に関与したという印象を与えるCの一連の供述に,一貫して非体験性兆候がみられたこ していると解釈することができる。さらに,本件各目撃供述の前後の出来事を含めたCの供述の分析においても,Aらが本件犯行に関与したという印象を与えるCの一連の供述に,一貫して非体験性兆候がみられたこと,また,それらがCの供述能力の不足,取調官の質問方法や調書への記載事項の取捨選択,Cの心理的動揺等によって生じた可能性は低いといえることからすれば,本件犯行とAとを結び付けるCの一連の供述が体験記憶に基づいていない可能性をさらに高めている。Cの本件各目撃供述には,体験記憶に基づかない情報が含まれている可能性が無視できないほどに高く,その信用性評価においては,これらの結果を十分に考慮し,慎重な判断をする必要がある。 2 乙・丙新鑑定の証明力⑴ 心理学的供述評価の手法の位置づけ司法の場における供述の信用性判断は,他の諸証拠や関連事実を含む総合的な評価であるが,心理学的供述評価は,供述それ自体の中に,体験に基づかない情報,その他問題のある兆候が見られないかをチェックするものである。そして,供述そのものの科学的な分析の結果得られた非体験性兆候等は,司法の場での総合的な信別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) 用性判断に際し,有意な情報として利用することができる。特に平成21年から開始された裁判員裁判においては,一般の国民が裁判員として裁判に参加し,裁判官と共に証人や被告人等の供述の信用性評価を行うことが想定されるが,心理学的な供述評価は,供述の信用性評価について職業的な経験を重ねた裁判官と,その点では多様な裁判員とが,実質的に協働して評議を行うための共通の土台やツールの一つとなり得るものと考えられる。 ⑵ 乙・丙新鑑定の位置づけそうすると,乙・丙新鑑定は,その鑑定手法や鑑定内容に不合理な点がなければ,Cの供述の証明力を減殺さ を行うための共通の土台やツールの一つとなり得るものと考えられる。 ⑵ 乙・丙新鑑定の位置づけそうすると,乙・丙新鑑定は,その鑑定手法や鑑定内容に不合理な点がなければ,Cの供述の証明力を減殺させるだけの証明力を有すると考えられる。 これに対し,検察官は,乙・丙新鑑定には合理性がなく,信用できず,Cの供述の信用性判断に何ら影響を及ぼすものではない旨主張する。 そこで,以下,検察官の主張に照らして,乙・丙新鑑定の合理性を検討する。 ⑶ 乙・丙新鑑定の合理性ア鑑定手法について検察官は,鑑定手法自体の問題として,「他の証拠との整合性,内容自体の合理性等を捨象した上で,その供述が体験に基づいているか否かを判断するもので,その鑑定結果の信用性には自ずと限界がある」旨主張する。しかし,乙・丙新鑑定で用いられたスキーマ・アプローチ等の供述心理学的手法は,人間のコミュニケーションの心理学特性に照らし,「供述の断片」ではなく「供述のつながり」に着目して,体験供述か非体験供述かを吟味しようとするものであり,他の証拠との整合性,内容自体の合理性等を捨象していることを理由として,直ちに信用性が乏しいということはできない。 また,検察官は,Cの供述の分析対象のほとんど全てが供述調書であり,逐語ではないことから,乙・丙新鑑定は,Cの警察官調書と検察官調書との間に記載内容の存否,程度に差異のある点を無視しており,分析が恣意的であるなどと主張する。 しかし,そのような疑問があることを踏まえ,乙・丙新鑑定は,補充的にCの捜査別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) 段階における供述すべてを考察の対象とし,録取されていないから供述をしていないと判断しないという基準に基づいて分析を加えたものであり,そのような点も考慮すれば,鑑定手法自体が不合理である 定) 段階における供述すべてを考察の対象とし,録取されていないから供述をしていないと判断しないという基準に基づいて分析を加えたものであり,そのような点も考慮すれば,鑑定手法自体が不合理であるとはいえない。 イ鑑定内容について検察官は,鑑定内容についても合理的でない旨主張するが,その理由として述べるところは,以下のとおり,乙・丙新鑑定の証明力を明白に弾劾するものではない。 ① 検察官は,本件目撃供述①に関し,「Cは,『AがいつもBを打ち殺すと言っており,このときも聞き流していて,殺しに行くとは思わなかった』などと説明しているのであるから,CがDを止めたりEに詳細を聞いたりしなかったとしても不自然・不合理とはいえない」旨主張する。 しかし,乙・丙新鑑定は,検察官の主張するようなCの説明内容も考慮した上で分析をしているのであるから,検察官の上記主張は乙・丙新鑑定が当然の前提としているものといえ,その合理性を明らかに弾劾するものとはいえない。 ② 検察官は,本件目撃供述②に関し,「乙・丙新鑑定は,変遷理由が警察官調書に記載されておらず,その後の検察官調書でその理由が説明されるまで不整合が『放置』されたと評価するが,供述調書における記載の有無のみをもって供述しないことの不自然さを問うのは誤りである」旨主張する。 しかし,取調官としては,犯罪に関わる重要部分の供述が大きく変遷した場合,その変遷理由を確認して調書化することが通常の実務の手法であり,そのような調書化が捜査の終盤に至るまでされなかったことは事実であるから,上記「放置」との評価が誤っているとはいえず,上記主張は採用できない。 ③ 検察官は,「本件各目撃供述は,DやEの犯行に直接関わる内容である上,Aに口止めされていた旨供述する内容でもあるため,Cが多くを語ろうとしなか 価が誤っているとはいえず,上記主張は採用できない。 ③ 検察官は,「本件各目撃供述は,DやEの犯行に直接関わる内容である上,Aに口止めされていた旨供述する内容でもあるため,Cが多くを語ろうとしなかったとしても全く不自然ではない。また,乙・丙新鑑定は,供述人が家族を守ろうと隠し事をしたり,虚偽を申し立てたり,整合性のある虚偽の内容を想起し供述したりすることを考慮に入れていない」旨主張する。 別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) しかし,乙・丙新鑑定において用いられている供述心理学的手法は,供述それ自体にみられる諸兆候の検討を通して,そこに体験に基づかない情報が混入している可能性(非体験性兆候)を分析するものであり,前記⑴で述べたとおり,そのような分析手法自体は有意義なものといえる。そのような分析手法を前提とする限り,検察官の上記主張は,乙・丙新鑑定に対する批判としては当を得ないものといわざるを得ない。 ④ 検察官は,乙・丙新鑑定が,前記分析1において,「本件犯行に直接結び付く重要な出来事を目撃する場所への移動とそこからの離脱の動機は,ほとんど全て小便や寝るといった生理的欲求に基づいていた」とされている部分について,「それ自体あり得ないことではなく,Cが本件各目撃供述を告白するに当たって,それらに連なる生理的欲求に基づく行為に関する供述が連動して出現するのもまた自然なことである」旨主張する。 もちろん,そのような生理的欲求に基づく行為が連動することもあり得ないことではないが,乙・丙新鑑定は,「生理的欲求に基づく行為であれば,それまでの出来事の脈絡を中断し唐突に開始されてもさほど不自然とは思われないことが多く,実体験に基づかない供述を生成する場合に都合良く利用される場合がある」という見解を前提として,「本件各目撃供述のす までの出来事の脈絡を中断し唐突に開始されてもさほど不自然とは思われないことが多く,実体験に基づかない供述を生成する場合に都合良く利用される場合がある」という見解を前提として,「本件各目撃供述のすべてにおいて移動又は離脱の動機として生理的欲求があったと説明されていることは,偶然の重なりとして素直に了解するにはやや難がある」と分析しているのであり,そのような分析が不合理とはいえない。 ⑤ 検察官は,本件目撃供述③に関する前記分析2に対し,「そもそもEの発言に対してCが無反応であったことは,調書化されていない可能性もあるから,無反応であったこと自体定かでない。CがEの発言に無反応であったことを前提としても,Bを打ち殺すなどという発言にも関心を示さないCが,Eが加勢してきたことが何であるかについて関心を示さなかったとしても不自然ではない。Cの供述す別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) るCの言動は不自然といえず,C供述について『逆行的構成』であると解釈する前提を欠いている」旨主張する。 しかし,乙・丙新鑑定は,調書化されていない可能性も意識しながら,犯罪の立証にとって重要な意味をもつ場面であるから,その可能性は低いとした上で,Cが,当時の自分の反応のみを忘却した可能性も考えにくいとして,逆行的構成とすれば解釈可能である旨分析している。 そして,乙は,証人尋問において,「『加勢してきた』という発言については日常的な出来事とまだ説明ができるが,『黙っちょらんや』という発言と組み合わさることによって,無反応であることが明らかに不合理になった」旨説明する。これに対し,検察官は,「両発言の非日常性の程度の違いについて,何ら具体的な説明ができていない」旨主張するが,乙・丙新鑑定は,あくまで合わさった両発言に対するCの無反応の不合理性 った」旨説明する。これに対し,検察官は,「両発言の非日常性の程度の違いについて,何ら具体的な説明ができていない」旨主張するが,乙・丙新鑑定は,あくまで合わさった両発言に対するCの無反応の不合理性を指摘しているのであり,そのことが鑑定の合理性を損なうものとはいえない。 検察官の上記主張は理由がない。 ⑥ 検察官は,「乙・丙新鑑定は,分析対象の選択自体が恣意的である。同鑑定の解釈を前提としてCの供述を検討すれば,本件各目撃供述を告白する前のCの供述にも,Cの反応の欠落や生理的理由によるコミュニケーションの中断と評価すべき記載が複数見受けられ,その原因は,取調官の記載方法の取捨選択や質問方法の違いによるCの回答の違いであると考え得る。また,このような記載の差異は,同鑑定の解釈によれば,Cのコミュニケーション能力やその供述能力に起因するとも評価し得る」旨主張する。 確かに,検察官の指摘するように,Cの各供述調書中には,乙・丙新鑑定では検討されていないCの反応の欠落等が見受けられ,そのことがCのコミュニケーション能力等に起因する可能性も否定できない。したがって,「本件各目撃供述を告白する前に供述したすべてのエピソード及び告白した後でもAらが本件犯行に関与したという印象と結び付かないエピソードには,コミュニケーション不全その他の不別添4 新証拠についての判断2(乙・丙新鑑定) 自然な兆候は一切確認されなかった」との記載は,あくまで乙・丙新鑑定が検討した項目に限られるものであり,その限度で同鑑定の信用性を評価する必要があるとはいえる。もっとも,上記検察官の主張によっても,同鑑定が分析の対象とした供述項目についての信用性が大きく弾劾されるものとまではいえない。 ⑦ その他乙・丙新鑑定の内容に対して検察官が種々主張する点を踏まえても,乙・丙 記検察官の主張によっても,同鑑定が分析の対象とした供述項目についての信用性が大きく弾劾されるものとまではいえない。 ⑦ その他乙・丙新鑑定の内容に対して検察官が種々主張する点を踏まえても,乙・丙新鑑定の証明力を大きく損なうような不合理な事情は存しない。 ウ小括したがって,乙・丙新鑑定は,供述心理学の専門家によるCの供述の分析として一定程度の合理性を有し,Cの供述の信用性を判断する資料の一つとしてみた場合,十分な証明力を有するものというべきである。 ⑷ 結論以上によれば,乙・丙新鑑定には,本件犯行を直接又は間接的に立証し,共犯者の自白を補強する証拠であるCの供述の証明力を減殺させるだけの証明力が認められると考えられる。 別添5 総合評価 別添5 総合評価第1 はじめに確定判決の事実認定は,主として,Fら共犯者3名の自白と,犯行態様の自白の重要な裏付けと位置づけられていた客観証拠である丁旧鑑定から構成されていた。 丁旧鑑定は,重要な客観証拠であるとともに,本件が殺人事件であることを示す,まさに本件事件の出発点ともいえるものであることから,まず,丁旧鑑定について検討する。次いで,Fら共犯者3名の自白について,それぞれ,供述内容自体からその信用性を検討した上で,D及びEの自白の裏付けとして重要なC供述,さらには自白と客観証拠との整合性について検討を加えていくこととする。 第2 死因について 1 窒息死以外の死因の可能性⑴ 頸椎前面の著しい組織間出血について丁新鑑定,戊鑑定及び己鑑定は,いずれもBが側溝に転落した状況によっては頸部の過伸展や過屈曲により頸椎や頸髄に重篤な損傷が生じて死亡に至ったことも考えられるとした上で,そのような機序と頸椎前面に著しい組織間出血が存在するという本件遺体の客観 溝に転落した状況によっては頸部の過伸展や過屈曲により頸椎や頸髄に重篤な損傷が生じて死亡に至ったことも考えられるとした上で,そのような機序と頸椎前面に著しい組織間出血が存在するという本件遺体の客観的状況とは矛盾しないという限度では一致する。しかしながら,己鑑定によれば,頸椎前面に著しい組織間出血が生じた原因としては,頸椎損傷以外にも考えられることからすると,頸椎前面に出血が存在することから直ちに頸椎損傷の存在を推認することはできない。その上,頸椎解剖も行われておらず,頸椎の損傷の有無や程度は不明であることからすると,頸椎に損傷が生じていた可能性は否定できないものの,頸椎や頸髄損傷が存在し,死因になり得る程度に重篤なものであったことを推認することまではできない。 そうすると,Bが側溝に転落したことで,頸椎や頸髄に損傷が生じ,これが死因となったとすることは,考えられる可能性の一つにすぎない。 ⑵ 出血死別添5 総合評価 さらに,甲鑑定は,出血死の可能性について指摘しているが,前記のとおりいずれも憶測の域を出るものではなく,出血死を死因として考えることができるほどの裏付けはない。 以上からすると,Bが窒息死以外の死因により死亡したことを疑わせるような所見は見られず,窒息死以外の死因とりわけ側溝に転落したことに起因する損傷により死亡したと推認することは困難である。 2 頸部圧迫による窒息死の所見窒息死,さらには頸部圧迫の場合に認められる所見の存否について,各鑑定人が意見を述べている。 ⑴ 頸部の所見について丁旧鑑定,丁新鑑定,戊鑑定及び己鑑定によれば,頸部には,皮内・皮下出血,表皮の剥脱,皮膚の陥凹・陥没等の所見が認められないという点に関しては一致している。これに対し,頸部外表の圧迫痕様の所見については,己 ,丁新鑑定,戊鑑定及び己鑑定によれば,頸部には,皮内・皮下出血,表皮の剥脱,皮膚の陥凹・陥没等の所見が認められないという点に関しては一致している。これに対し,頸部外表の圧迫痕様の所見については,己鑑定は索溝とし,戊鑑定は単なる死後変化とし,庚鑑定は,索溝は見当たらないとする(もっとも,庚鑑定は,被害者の前頸部は保存状態は比較的良好としながら,他方では,腐敗して首の所見が不鮮明などとしており,索溝がないとの明確な断定を避けている)など,各見解が異なっている。 この点,右頸部の蒼白部については,本件遺体が発見されるまで約2日半が経過していることからすると,解剖時まで,索条物による圧迫によって頸部に生じた蒼白部が消失しないまま残っていたと考えることには疑問がある上,本件遺体がやや右方向を向いて頸部を前屈させた状態で堆肥に埋められていた状況からすると,その部分が周囲の堆肥と接触せずに腐敗による影響から免れたことなどによって,死後に右頸部に蒼白部が生じたと考えることができる。 さらに,丁旧鑑定が前頸部の表皮剥脱について全く触れていないこと,己鑑定が前頸部に表皮剥脱があったかどうかは不明であるが著明な表皮剥脱は認められないとし,戊鑑定は皮膚の陥没・陥凹を伴っていないことを指摘している上,いずれの別添5 総合評価 鑑定も前頸部に著明な出血が認められないとしていることなどからすると,索条痕があると認めることができない。 その他,頸椎前の組織間出血は,丁新鑑定や戊鑑定によれば,絞頸によって生じることはなく,絞頸とは全く別の機序によってできたものと考えられること,左鎖骨直上の皮下出血は,丁新鑑定によれば,タオルによる絞頸で生じるものではないことがそれぞれ認められるところ,各鑑定人からこれに反する意見も示されていない。そうすると,本件遺体の 考えられること,左鎖骨直上の皮下出血は,丁新鑑定によれば,タオルによる絞頸で生じるものではないことがそれぞれ認められるところ,各鑑定人からこれに反する意見も示されていない。そうすると,本件遺体の頸部には,絞頸を推測させる内部所見が認められないという点では,各鑑定の意見は一致しているといえる。 ⑵ 顔面の鬱血について己鑑定は,第2次再審では,顔面の鬱血やチアノーゼ,頸部の鬱血が写真上存在するとしているが,合理的な理由なく第1次再審の見解を変遷させており,証拠価値は乏しい。他方,庚鑑定は,顔面の変色は他の部位の皮色と同じ変色で,死後変化と考えるのが妥当としている。また,前記のとおり,甲鑑定は,顔面は白っぽく,鬱血はほとんどないとしている。 しかし,そもそも,本件遺体は,前記のとおり,相当高度に腐敗していたといえる。庚鑑定も遺体は腐敗高度で死体所見は不鮮明であるとしている。また,丁旧鑑定においても,「死体の腐敗が著しいために,損傷の有無,程度等が判然としない」とするにとどめられており,腐敗のため不明とされている点や,明確に記載されていない点が多く見受けられる。丁旧鑑定及び丁証言によれば,頸項部の軟部組織に著明な出血がなかったことは認められるものの,鬱血や軽い出血の有無は組織の腐敗によって不明であったものと認められる。 このように,死体所見とりわけ色調の変化等を目視により判別する出血や鬱血の有無については,腐敗による影響を大きく受けるものと考えられる上,色調の相違は主観的,感覚的な判断とならざるを得ないところ,各鑑定人もその判断が各々となっていることに照らせば,本件遺体について出血や鬱血の有無や程度を客観的に明らかにすることは困難であるというほかない。 別添5 総合評価 ⑶ 頸部圧迫による窒息死の所見の有無以上によれば, ていることに照らせば,本件遺体について出血や鬱血の有無や程度を客観的に明らかにすることは困難であるというほかない。 別添5 総合評価 ⑶ 頸部圧迫による窒息死の所見の有無以上によれば,頸部圧迫による窒息死であるとする積極的な所見は認められない。 他方,丁新鑑定,戊鑑定及び己鑑定は,タオルのように幅が広く,柔らかい索条物で首を絞めた場合で,被害者の抵抗がほとんどなく,絞頸時に首も体も動かさないような場合など,その絞める方法によっては,皮内・皮下出血,表皮剥脱,皮膚の陥凹といった索条痕を全く残さない場合もあり得るという点において,一致しているほか,己鑑定によれば,絞殺でも頸部組織に出血が見られない例もあるとされていることなどに照らすと,頸部圧迫による窒息死であることを示す所見が認められないことから当然に,頸部圧迫による窒息死でないということもできない。また,頸部圧迫による窒息死であることを否定する明確な所見も認められない。したがって,本件遺体の状況から,頸部圧迫による窒息死が死因であると判断することが矛盾するということまではできず,頸部圧迫による窒息死と推定されるとした丁旧鑑定の信用性が全く失われたとまではいえない。 もっとも,本件の死因が頸部圧迫による窒息死であることを積極的に認める所見があるということができない以上,丁旧鑑定は,何を根拠として頸部圧迫による窒息死と判断したのか不明であり,その合理的根拠はないというほかなく,本件の死因が頸部圧迫による窒息死であると推定したことには疑問が残るというべきである。 以上のとおり,Bの死因に関する新旧全証拠を検討した結果,本件の死因が頸部圧迫による窒息死であると推定した丁旧鑑定の死因に対する積極的な証明力は失われた。 3 共犯者供述との関係Bの遺体の発見から確定判決まで, 因に関する新旧全証拠を検討した結果,本件の死因が頸部圧迫による窒息死であると推定した丁旧鑑定の死因に対する積極的な証明力は失われた。 3 共犯者供述との関係Bの遺体の発見から確定判決まで,捜査機関はもちろん,検察,裁判所や弁護人も,丁旧鑑定の見解に対しては,その控えめな表現にかかわらず,Bの遺体の司法解剖を行った医学専門家の唯一の意見として大きな価値を置いてきたことは疑う余地もない。捜査機関は,頸部に索条痕など明確な頸部圧迫の所見がない遺体の状況と丁旧鑑定が示す死因と整合する犯行態様の一つとして,幅が広くて柔らかいタオ別添5 総合評価 ル等の物によってBの頸部を絞め付けたことを想定していたことは容易に想像できる。Fらの供述に基づく犯行の経緯を前提とすれば,着替えまでした上,Bを殺害する目的でB宅に連れ立って行ったというのであるから,Aは,体格でBに劣るFらでも容易に扱うことができる絞殺道具,例えば,ロープやベルト等,西洋タオルに比べれば,ずっと丈夫で,握りやすく力も入れ易い道具を自宅等から取り出して持参することが簡単にできたと考えられるのに,殺人の凶器というには不似合いなタオルを持参し,使用したとする,一見不自然な自白の形成自体にも,丁旧鑑定が大きく影響した可能性も否定できない。そして,タオルという凶器は,適切な絞殺の道具の選択という点では不自然であるが,Fらの自白では,そのタオルはAが持参していたものとなっていて,Fらは,Aがタオルを選んだ理由を説明する責任から逃れることができるとともに,確定判決においては,一見不自然なタオルでの絞殺という犯行態様の自白が,司法解剖による客観的な鑑定結果に合致しているという点で,Fらの自白の信用性を強固に支持していたと考えられる。 そして,以上の検討の結果,少なくとも,確定判決は,死 の絞殺という犯行態様の自白が,司法解剖による客観的な鑑定結果に合致しているという点で,Fらの自白の信用性を強固に支持していたと考えられる。 そして,以上の検討の結果,少なくとも,確定判決は,死因について積極的に窒息死であることを支えてきた唯一の客観証拠である丁旧鑑定を失っただけでなく,タオルで頸部を絞めて殺害したとするFらの自白を裏付ける重要な客観証拠も脆弱なものであることが明らかになったといえる。 別添5 総合評価 第3 Fの供述の信用性について 1 Fの供述経過Fは,昭和54年(以下特に年の記載のないものは,同年)10月15日,16日,17日に任意の取り調べを受け,18日,殺人,死体遺棄を被疑事実として逮捕され,19日に勾留され,11月7日,本件殺人,死体遺棄の事実で起訴され,その後11月17日午前中から昼にかけてB方で実施された検証において,犯行再現をし,その後,D,Eと併合審理された自己の公判において,事実関係を認め,昭和55年2月26日及び3月13日,Aの確定第1審公判において証人として供述し,昭和55年3月31日,懲役8年の判決を言い渡され,同年9月16日,Aの確定控訴審公判において,再度証人として供述している。 Fは捜査段階においては,①犯行を否認,②Dから起こされて誘われ,DとFが両手で首を絞めてBを殺し,2人で死体を埋めた,③DとFがタオルを2人で持って首を絞め,Eを加え3人で死体を運び,FとDが死体を埋めた,④犯行を否認,⑤Dから起こされて誘われ,Aと3人でB方に行き,Aの渡すタオルで,FとDがタオルを2人で持って首を絞め,Eを加えた4人で死体を抱えてガラス戸まで運び出した,堆肥場まで死体を運び出し,F,D,Eの3人で穴を掘って埋めた,⑥Aに起こされて殺害を持ちかけられ,やってきたDと合流し ルを2人で持って首を絞め,Eを加えた4人で死体を抱えてガラス戸まで運び出した,堆肥場まで死体を運び出し,F,D,Eの3人で穴を掘って埋めた,⑥Aに起こされて殺害を持ちかけられ,やってきたDと合流し,殺害時にはFだけがタオルを両手で持って絞め,DはBの体や両手を押さえ,Aは足を押さえていた,と供述を変遷させた。そして,確定審の公判では,⑦Dから起こされて誘われ,Aも同行して,Aの渡したタオルで,Fが絞殺し,Fの発案で堆肥場に埋めることにし,F,D,Eで死体を埋めた,と述べ,また,2回目の証人尋問期日(確定第1審第5回公判・昭和55年3月13日)の主尋問で,Aから起こされて「今んこめじゃが(「今のうちだが」の意)」などと言われた旨供述したが,その後,補充尋問で再びDから起こされた旨供述し,最終的に,確定審控訴審公判では,⑧自分自身も犯行に関与していないと,供述を変遷させている。 2 第2次再審の新証拠である乙・丙旧鑑定別添5 総合評価 第2次再審請求では,F,D及びEの供述について乙・丙旧鑑定が新証拠として提出された。 ⑴ 乙・丙旧鑑定の内容F,D及びEの捜査段階で作成された供述調書を,供述分析の手法等を用いてその変遷構造に着目した分析(分析1)を行い,次いで,この3名の公判供述について,分析1で見いだされた問題がありそうな兆候に対し,丙教授らが開発したスキーマ・アプローチの分析手法(供述の文体的特徴,その供述に繰り返しみられる語られ方の特徴からその体験性を評価する手法)を行い(分析2),さらに,分析2で見られた特徴と類似の特徴が供述調書に見られないか補足的分析(分析3)を行った。 そして,分析の結果,捜査段階で作成された供述調書におけるF,D及びEの各供述には,実際の体験に基づいた供述であることを示す特徴(体験性兆候) 供述調書に見られないか補足的分析(分析3)を行った。 そして,分析の結果,捜査段階で作成された供述調書におけるF,D及びEの各供述には,実際の体験に基づいた供述であることを示す特徴(体験性兆候)は明確に確認されなかった。一方,相互行為調整場面(犯行行為に関連して複数の人物がお互いの行為を調整(指示,相談)する必要があると考えられる場面)の供述には変遷,あるいは漠然とした記述が見られ,体験に基づかない供述であることを示す特徴(非体験性兆候)となる可能性が見られた。次に,F,D及びEの公判供述を対象として,非体験性兆候について,スキーマ・アプローチによって検討すると,①F及びDの公判供述のうち,相互行為調整場面の説明には,「協調の原理(人々が会話を成立するために暗黙のうちに従っている原則)」のうち,「量の公理(会話のやりとりで当面の目的となっていることに必要とされる十分な情報を提供できるよう心がけること及び必要以上に多くの情報を提供しないこと)」又は「作法の公理(はっきりとわかりやすい方法で言うこと,明断であること及び不明瞭な表現は避けること)」が充足されていないという特徴がみられた。さらに,補足的に捜査段階の供述調書についてみると,②F及びDの捜査段階の供述調書における相互行為調整場面には,「以心伝心」あるいは「テレパシー」的な意思伝達行為の記述がみられ,公判供述と同じ傾向を示すものと考えられることが確認された。以上のこ別添5 総合評価 とから,F及びDの相互行為調整場面の供述は,体験性兆候に欠け,非体験性兆候が複数存在していることが明らかになった。したがって,F及びDの相互行為調整場面の供述は,体験供述性を有しない可能性が高い。本件においては共同的な犯行を可能にするための必要不可欠なステップであったと考えられる相互行為調整場面 らかになった。したがって,F及びDの相互行為調整場面の供述は,体験供述性を有しない可能性が高い。本件においては共同的な犯行を可能にするための必要不可欠なステップであったと考えられる相互行為調整場面の説明が非体験性兆候と結びついているという事実は,本件における供述全体の信用性にも大きく影響する可能性がある,というものである(なお,Eの供述については,顕著な体験性兆候は確認されなかったものの,明確な非体験性兆候についても供述調書の中核部の変遷のみにとどまっていた。そして,Eの供述における体験供述性についての判断は留保された。)。 ⑵ Fの供述に対する乙・丙旧鑑定の検討ア鑑定内容Fの供述調書の変遷構造について,乙・丙旧鑑定は,B殺害を共謀する場面において,当初①DからFへの提案となっていたのが,②提案者にAが加わる内容へ,さらに③AからFへの提案へと,殺害の提案者が入れ替わり,人数が変化するという大きな変遷が見られた。次に,中6畳間までBを運び込む場面においては,当初,①寝ていたBを二人で抱えたという内容になっていたのが,②Aが脇腹付近を持って三人で抱えたという内容に変遷していたと分析した。犯行の筋書きや殺害行為,遺棄行為の実行場面は,出来事の中核をなすもの(体験者にとって重要な意味を持つ部分,必然的に目を向けてしまうような部分)である。体験性兆候の一つに出来事の中核部分や骨子は維持されながらも細部が変化するといった自然な体験記憶の変容があげられる。このことからすると,出来事の中核部分が変容している本件供述調書には,体験性兆候は特に見出されず,逆に,供述分析の手法による供述の中核部分が大きく変化する顕著な変遷に該当し,非体験性兆候である可能性が高いと分析された(分析1)。 乙・丙旧鑑定は,次いで,分析1で着目した相互行為調整場面 れず,逆に,供述分析の手法による供述の中核部分が大きく変化する顕著な変遷に該当し,非体験性兆候である可能性が高いと分析された(分析1)。 乙・丙旧鑑定は,次いで,分析1で着目した相互行為調整場面について,公判供述を分析した。Fの公判供述における相互行為調整場面の説明においては,登場人別添5 総合評価 物による相談や指示といった調整の具体的な態様についての描写を行っているものが尋問シークエンス合計19回のうち6回であり,このうち,具体的な態様について「量の公理」を満たすものは3回であり,いずれもBの死体を堆肥に埋めることを自分が提案したことを説明するもので,他の相互行為調整場面について具体的な調整の態様を適切に説明した尋問シークエンスは存在しなかった。このように相互行為調整場面に関する説明の多くが,情報不足で漠然としたものとなっているだけでなく,適切な相互行為調整に結びつかない不自然な情報の欠落を伴ったものであることは,非体験性兆候の可能性が示唆されるとされた。 次いで,供述調書について,公判供述に見られた「協調の原理」を逸脱した記述が供述調書に認められるかを分析した。そうすると,AがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てたトピック①(犯行の意思形成に関わる重要な場面)において,協調の原理からの極端な逸脱の認められる供述が確認された。この場面において,Fらの供述内で説明されている言語的コミュニケーションだけでは,通常共同行為の遂行は困難である。このような供述になったことの理由として考えられるいくつかの仮説,例えば記憶の欠落,コミュニケーション能力,知的障害などの問題については,心理学的に排斥される。これらの供述には,非体験性兆候がある可能性が高い,とされた。 ここでは,乙・丙旧鑑定は,犯行の意思形成に関わる重要な場面であるAが ション能力,知的障害などの問題については,心理学的に排斥される。これらの供述には,非体験性兆候がある可能性が高い,とされた。 ここでは,乙・丙旧鑑定は,犯行の意思形成に関わる重要な場面であるAがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てた場面において,FとA,Dとの間でのコミュニケーションがB殺害の犯行を共同して実行する上で不十分であるという点から「量の公理」を満たさず,「協調の原理」を著しく逸脱していると評価している。 イ検討第2次再審即時抗告審決定は,乙・丙旧鑑定が非体験性兆候として指摘する場面について,次のような指摘をして乙・丙旧鑑定の評価を否定した。すなわち,FとDは,いずれもそれまでにAからB殺害を持ちかけられて,これを承諾し,合流した時点では,それぞれ既にBの殺害を決意していたこと,FとDが兄弟であること,別添5 総合評価 両名が基本的にAの指示に従って動いていたこと,当時のBの置かれていた状況を考えると,FがDに対し「そらよかついでだ」などというだけで,具体的な話合いをしないまま,とりあえずB方に向かったとしても必ずしも不自然であるとはいえない,確定判決が依拠するFやD,Eらの供述によれば,FとDが事前に具体的な殺害方法やその後の処理方法等の犯行のイメージをもってB方に赴いたのではなく,むしろ,それほど考えないでAに指示されるままB方に行き,犯行に着手したことは明らかであるから,FとDの間で事前の具体的なやりとりが不十分なまま事態が推移したことも十分にありえる,というのである。 確かに,相互行為調整場面での協調の原理を充足するコミュニケーションの量や質は,犯行の内容,供述者の犯行における立場や役割,従前に関係者と共有している情報量,犯行計画の成立状況等の諸事情によって異なり,具体的な計画を関係者間で共有した上 充足するコミュニケーションの量や質は,犯行の内容,供述者の犯行における立場や役割,従前に関係者と共有している情報量,犯行計画の成立状況等の諸事情によって異なり,具体的な計画を関係者間で共有した上で実行に及ぶこともあれば,事態の展開に応じて上位者から指示を受けたり,共犯者間でその都度相談したりして進行していくこともあったり,全く成り行き任せであったりすることも考えられるから,協調の原理を充足する判断基準を一律に設定することは合理的でない。しかし,相互行為調整場面での「量の公理」をはじめとする「協調の原理」の充足性の評価について,評価の対象に他ならないF,D,Eの供述によってのみ再現され,動かしがたい証拠で確定したものでもない犯行経過をもとに,Fらは,事前にはそれほど考えないで,Aに指示されるまま成り行きで事態が推移していったことから,相互行為調整場面の供述として「不自然でない」(協調の原理を充足している)と評価することは自家撞着ではないか疑問がある。FとDは兄弟ではあるが,人の殺害という極めて非日常的な行動については,兄弟の間であっても,何らかの相談が必要であるとの丙教授の意見は合理的である。Aの指示に従って動いていたというFらの供述に基づく犯行経過を前提としても,そうであれば,事態の進展に応じて現れる相互行為調整場面において,その場に応じたコミュニケーションがAとの間になされるとも考えられるが,Fのその他の供述をみても,そのようなコミュニケーションは見出すことができな別添5 総合評価 い。また,乙・丙旧鑑定が「協調の原理」を充足していないと評価する相互行為調整場面の前後のFとAやDとのコミュニケーションについてみると,確定判決が事実認定の基礎とした供述調書の内容は,Fにとって実の兄弟であるBを殺害することを持ちかけられ,承諾す いと評価する相互行為調整場面の前後のFとAやDとのコミュニケーションについてみると,確定判決が事実認定の基礎とした供述調書の内容は,Fにとって実の兄弟であるBを殺害することを持ちかけられ,承諾するという極めて重大な状況としては,Aから起こされて,「Bが我が家の土間でフラフラしちょっで。今んこめじゃが(今のうちだ)。」と言われ,重大犯罪を犯すことへのちゅうちょや不安,罪悪感といった通常人が重大犯罪を犯す局面で覚えるであろう感情について全く触れることなく,Bが酒を飲んで迷惑をかけているという理由だけですぐに殺害を決意したというものであり,また,DからもBの殺害を誘われた場面についても,「よかついでだ」などと,まるで連れ立って温泉にでも行くような応答をしたというだけであり,実の兄弟であるDまでも兄弟殺しという重大犯罪を行おうとしている驚きや,Dと共に行うことに対する(不安感,あるいは共犯意識といった)感情等の吐露はない。いずれの場面も,会話の分量や内容ともに希薄過ぎ,「協調の原理」から極端に逸脱しているとの乙・丙旧鑑定の評価は頷ける。 ところで,Fのこのような供述の変遷については,F自身は,その理由について明確な説明をしていない。この点,妻であるAから口止めをされており,Aをかばって,その関与の程度を低く見せようとした,Bの首を絞めた点についても,自己の責任を小出しに認めていったという説明が一応可能とも考えられる。しかし,他方で,Aの確定審の証人尋問の最後に,検察官調書の2号書面請求を念頭においた検察官からの質問中に,警察官の取調べについて,「『おいせえ,任せ』(俺に任せろ)と言われた」,「『おはんたちゃ(あなたたちは),人を泣かせて,しておらんことをば言え言え言うが,それで刑事さんがつとまっとな』と言った。」「最初から私は絶対に何事も おいせえ,任せ』(俺に任せろ)と言われた」,「『おはんたちゃ(あなたたちは),人を泣かせて,しておらんことをば言え言え言うが,それで刑事さんがつとまっとな』と言った。」「最初から私は絶対に何事も知っていませんと言えば,『お前が知らんはずはあるか』と言われた。」と訴え,その後の最初の尋問となるAの控訴審の証人尋問では自らの犯行への関与を否定した証言をしている。Fが自らの公判では公訴事実を認め,懲役8年を宣告した1審判決にも控訴することなく服役したものの,反面,Aの公判ではこ別添5 総合評価 のような供述をし,自らの関与も否定したことについては,捜査機関の誘導等により虚偽自白をしていたためという全く正反対の説明も可能と考えられよう。もとより変遷経過について説明が可能であることによって,非体験性兆候の特徴が失われるわけでも,体験性兆候に変じるわけでもなく,スキーマ・アプローチによる分析対象として,そのような非体験性兆候の可能性がある相互行為調整場面を抽出しようとした分析手法が意味を失うものではない。 また,公判供述についても,否認しているAの前で,Aが持ちかけたA主導の犯行であることを認めることにちゅうちょしたという同様の説明が考えられる。しかし,Aの在廷の影響については,丙教授は,非体験であれば供述が困難と考えられる事実についてFが供述していないことを理由にAの在廷の影響の可能性を排斥したと証言しており(第2次再審即時抗告審丙証人尋問調書p57~58),その説明に不合理な点はない。 以上のとおり,Fの供述について心理学的な供述評価を行った乙・丙旧鑑定は,科学的な知見に基づいたものとして高い証拠価値があると考えられるから,この鑑定結果は,Fの供述の信用性を低下させる事情と位置づけることができる。 3 Fの知的能力関係証拠によ 乙・丙旧鑑定は,科学的な知見に基づいたものとして高い証拠価値があると考えられるから,この鑑定結果は,Fの供述の信用性を低下させる事情と位置づけることができる。 3 Fの知的能力関係証拠によれば,Fは,本件事件から約10年前に交通事故を起こし,意識不明の重傷を負い,脳の手術をして以降,物忘れをし,考える能力が低下し,体力も乏しく,仕事をはじめ家政全般について妻Aの差配を受けており,知的能力に問題を抱えていたことが認められる。 そして,Fの取調べや公判での証人尋問において,このようなFの知的能力の制約への配慮が十分なされていたとは,関係証拠から認めることはできない。 4 Fの供述の変遷と不合理性⑴ Fの供述には,前述のとおり,殺人の共謀の成立過程,殺人の実行行為の役割分担という自白の根幹部分について変遷があった。F自身は,捜査段階で供述が大きく変遷した理由について公判では供述していない(確定審では,検察官調書別添5 総合評価 を2号書面として採用するに当たって,公判供述との対比で検察官調書の信用性を検討する機会はあったと考えられるものの,検察官調書を捜査段階の供述との変遷という観点から信用性を検討する契機はなかったと考えられる。)。 Fのこのような供述の変遷については,前述のように,Aをかばって,その関与の程度を低く見せようとした,自己の責任を小出しに認めていったという説明も可能である一方で,これまでの再審請求の中で弁護人が度々指摘しているように,Aの犯行への関与を疑った捜査機関の事件の筋書きに従って供述が変遷していったという説明も可能である。そして,Fの知的能力等の制約や証人尋問で訴えた警察の取調べ状況は,後者の説明に整合的である。その変遷理由について,前者の理由だけで説明することは合理的でない。 ⑵ Fの供述に う説明も可能である。そして,Fの知的能力等の制約や証人尋問で訴えた警察の取調べ状況は,後者の説明に整合的である。その変遷理由について,前者の理由だけで説明することは合理的でない。 ⑵ Fの供述には内容面でも不合理な点がある。主要なものを並べてみると,乙・丙旧鑑定が相互行為調整場面における協調の原理の不充足として指摘した点,すなわち,Fが祝い酒に酔ってうたた寝していたところをAから起こされ,Bの状況もわからない状態で「Bが土間でふらふらしちょっで。今んこめじゃが」などと言われただけで,B殺害の意図を認識し,殺意を生じ,殺害方法の打合せもないまま行動に及んだという点は,内容的にも不自然不合理である。また,殺害目的でB方に赴いたFらが,土間で,泥酔して前後不覚となっているBに対し,蹴ったり殴ったりした暴行を加えたという点について,その理由について合理的な説明ができない。Bを土間から中6畳間に上げた経緯やその分担,Bを寝かせた場所について,Fの供述はDの供述と一致していないほか,土間でも絞殺することに支障はないのに,体重の重いBを中6畳間にわざわざ引き上げたという点も不合理である。絞殺後に脱糞したBの遺体を奥6畳間の布団に寝かせた点,死体遺棄の共謀をした後,Dが一旦帰宅して戻ってくるまでの時間の長さが,Dの供述と合わず,Dの供述を前提とすれば,3時間以上も待っていたことになるが,その間の自身やAの行動等についての合理的な供述はなされていない。 5 Fの供述の信用性評価・小括別添5 総合評価 以上のとおり,まず,乙・丙旧鑑定は,Fの供述自体に体験性兆候を明確に確認することができず,出来事の中核部分が大きく変遷している点は非体験性兆候である可能性が高いこと,犯行の意思形成に関わる重要な場面であるAがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企 体験性兆候を明確に確認することができず,出来事の中核部分が大きく変遷している点は非体験性兆候である可能性が高いこと,犯行の意思形成に関わる重要な場面であるAがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てた場面において,FとA,Dとの間でのコミュニケーションがB殺害の犯行を共同して実行する上で不十分であるという点から「量の公理」を満たさず,「協調の原理」を著しく逸脱しており,この点でも非体験性兆候である可能性が高いことを指摘している。 次いで,殺人の共謀の成立過程,殺人の実行行為の役割分担という自白の根幹部分について変遷があり,Fの知的能力等の制約等は,この変遷が捜査機関の影響によることを示唆している。供述内容は,重要な点で不自然不合理な一面が認められ,Dの供述との不整合もある。 そうすると,Fの供述は,それ自体から信用性を高める要素を見出すことは難しい。 別添5 総合評価 第4 Dの供述の信用性について 1 Dの供述経過Dは,10月16日,17日に任意の取り調べを受け,18日に殺人,死体遺棄を被疑事実として逮捕され,勾留された後,11月7日,本件殺人,死体遺棄の事実で起訴され,その後11月17日午後,B方で実施された検証において犯行再現をし,その後,F,Eと併合審理された自己の公判において,事実関係を認め,昭和55年3月13日,Aの確定第1審公判期日において,証人として供述し,昭和55年3月31日,懲役7年の判決を言い渡されている。 Dは,捜査段階で,①犯行を否認,②DがFを誘って殺害を共謀し,Bを殴ったり蹴ったりした後,タオルの両端をFとDの2人で引っ張って絞めて殺し,2人で死体を埋めた,③叩いたり殴ったりしたらBが目を覚まして6畳間に上がったので押し倒して絞殺,④犯行を否認,⑤Aが,FがBを殺すので加勢しろと,C オルの両端をFとDの2人で引っ張って絞めて殺し,2人で死体を埋めた,③叩いたり殴ったりしたらBが目を覚まして6畳間に上がったので押し倒して絞殺,④犯行を否認,⑤Aが,FがBを殺すので加勢しろと,Cに伝言し,DはCから聞いて加勢に行った,⑥Aから殺害を持ちかけられ,B方でBを殴る蹴るした上で,Fが1人でタオルで首を絞め,Dは腹の上に馬乗りになって両手を押さえつけ,Eを加えて死体を堆肥に埋めた,と供述し,⑦その公判供述は,全体として,覚えていないなどと述べる部分やあいまいな供述にとどまる部分が多い。 2 乙・丙旧鑑定のDの供述の検討乙・丙旧鑑定は,Dの供述調書の変遷構造を次のように分析した(分析1)。すなわち,B殺害を共謀する場面において,当初①DからFへの提案となっていたのが,②AとCを介してのFからDへの提案と変遷し,さらには,③AからDへの提案と変遷していた。ここでも,殺害の提案者が入れ替わり,間に介在する人物も変化する大きな変遷がみられる。次に,殺害後,Dが一旦帰宅してEにBの死体を遺棄するための加勢を求めたところ,Eがこれを承諾した場面においては,①Cに対し,殺してきたとこっくりと合図しただけという内容が,②四畳半から自分の部屋に入る際に一言打殺してきたと言ったという内容に変化した。Dの供述調書にはこれ以外に顕著な変遷は見られなかったが,分析対象とした4通の調書のうち,前半別添5 総合評価 の2通では,10月21日付け警察官調書においてAがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てたトピックについての供述以外に,具体的な事実に関する供述がほとんどなされていなかった。 このように,Dの供述調書に記載された供述には,Fと同様に,明確な体験性兆候は確認できず,相互行為調整場面の供述において,漠然とした記述,中核部分の顕著な変遷 供述がほとんどなされていなかった。 このように,Dの供述調書に記載された供述には,Fと同様に,明確な体験性兆候は確認できず,相互行為調整場面の供述において,漠然とした記述,中核部分の顕著な変遷という非体験性兆候である可能性が高い特徴が確認された(分析2)。 乙・丙旧鑑定は,次いで,分析1で着目した相互行為調整場面について,公判供述を分析した。Dの公判供述における相互行為調整場面の説明においても,Fと同様,登場人物による相談や指示といった調整の具体的な態様に関する描写を行っているものが非常に少なかった(13回の尋問シークエンスのうち4回のみ)。また,具体的な態様の描写を行った4回の尋問シークエンスのうち3回は,「量の公理」や「作法の公理」に反し,「協調の原理」を逸脱したものであり,「協調の原理」を充足した1回も,検察官の誘導尋問により,供述内容が変遷した結果によるものであった。このように相互行為調整場面に関する説明の多くが,情報不足で漠然としたものとなっているだけでなく,適切な相互行為調整に結びつかない不自然な情報の欠落を伴ったものであることは,非体験性兆候の可能性が示唆されるとされた。 次いで,供述調書について,公判供述に見られた「協調の原理」を逸脱した記述が供述調書に認められるかを分析した。そうすると,Fと同じく,AがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てた場面(トピック①)に加え,殺害後,Dが一旦帰宅してEにBの死体を遺棄するための加勢を求めたところ,Eがこれを承諾した場面(トピック⑪)の双方において,協調の原理からの極端な逸脱の認められる供述が確認された。また,登場人物の一方が他方に意思を伝達する際に明確な言語的意思表示が行われず,「以心伝心」あるいは「テレパシー」のような形(なお,当事者間で明確な言語的意思表示が行われてい れる供述が確認された。また,登場人物の一方が他方に意思を伝達する際に明確な言語的意思表示が行われず,「以心伝心」あるいは「テレパシー」のような形(なお,当事者間で明確な言語的意思表示が行われていないにも関わらず,意思伝達が完了したかのような不合理な状況をテレパシーに比喩している。)で意思の伝達がなされた点や,偶然によって相互行為調整が不要になる場面があるが,これは非体験性兆候別添5 総合評価 である可能性が高いとされた。このうち,トピック⑪は,Dが帰宅時に,独り言を言うように,「打ち殺してきた」あるいは「Bを殺してきた」と言い,それをEがたまたま聞いた場面(第1の行為)と,それから2,3時間経過後,Dが炊事場の板戸を開ける音でEが目を覚ました直後にDがEに加勢を依頼した場面(第2の行為)から構成される。第1の行為について,Dは,当初の供述(11月6日付け警察官調書)では,Cに対し,頭をこっくりとしてみせて殺してきたぞという合図をし,その合図でCは私がBを兄たちと一緒になって殺したことがわかったことと思うと供述していたが,その翌日付の検察官調書では,誰に言うわけでもなく,部屋に入る際,独り言のように一言打ち殺してきたと言った,と供述が変遷しているが,これは,第2の行為の相互行為調整場面について,11月6日付け警察官調書の内容ではEとの関係では協調の原理を全く充足しないコミュニケーションであったものを,第1の行為を,検察官調書の内容に変遷させ,独り言とはいえ言葉に出してEにも聞こえるような状況を第2の行為の前に追加することでコミュニケーションを補充したものと考えることができる。非体験性兆候である可能性を指摘した乙・丙旧鑑定の評価は,これと同旨のものと理解して採用することができる。 前述のとおり,乙・丙旧鑑定は科学的な知見に基づいた ンを補充したものと考えることができる。非体験性兆候である可能性を指摘した乙・丙旧鑑定の評価は,これと同旨のものと理解して採用することができる。 前述のとおり,乙・丙旧鑑定は科学的な知見に基づいたものとして高い証拠価値があると考えられるから,この鑑定結果は,Dの供述の信用性を低下させる事情と位置づけることができる。 3 Dの知的能力について関係証拠によれば,Dは,尋常小学校高等科を卒業したが,職場の同僚からは,概ね知的能力が低く,普通の人に話をすれば十分理解することでも7,8割程度しか理解できないと評されており,家庭生活でもCがDをリードしていたと認められる。Dが大分刑務所で服役した際には知的障害を持つ収容者として処遇されており,知的障害があったと認められる。 そして,Dの取調べや公判での証人尋問において,知的障害への配慮が十分なされたとは,関係証拠から認めることはできない。 別添5 総合評価 4 Dの供述の変遷と不合理性⑴ Dの供述もまず,殺人の共謀の成立過程という自白の根幹部分について大きく変遷していた。D自身は,前述のように捜査段階で供述が大きく変遷した理由について公判では問われることはなかったが,Aの公判では,わずかに,取調べ状況について具体的な記憶のなかった事実について取調官から供述内容を押しつけられたことを二度供述している。そして,Dは,服役中から妻Cに犯行への関与を否定するようになり,昭和60年に仮出獄後まもなく弁護士に再審請求の相談をした。Dの供述の大きな変遷については,これを合理的に説明することは難しく,これまでの再審請求の中で弁護人が度々指摘しているように,捜査機関の事件の筋書きに従って,取調官の暗示誘導により供述が変遷していったという説明も可能である。そして,Dの知的障害の状況等は,その説明 これまでの再審請求の中で弁護人が度々指摘しているように,捜査機関の事件の筋書きに従って,取調官の暗示誘導により供述が変遷していったという説明も可能である。そして,Dの知的障害の状況等は,その説明に整合的である。その変遷理由について合理的な理由は認めがたいというべきである。 ⑵ Dの供述は,乙・丙旧鑑定が相互行為調整場面における具体的な描写の希薄さ,協調の原理からの逸脱と指摘しているとおり,Fと同様,DがAのB殺害の意図を認識し,殺意を生じ,殺害方法の打合せもないまま行動に及ぶには,不自然不合理な内容となっている。土間での暴行の理由が不合理であること,Bを中6畳間にわざわざ引き上げたという点,絞殺後に脱糞したBの遺体を奥6畳間の布団に寝かせた点が不合理であることはFの供述と同様である。死体遺棄の共謀をした後,AとFを現場に残したまま,DがEに加勢を依頼するために一旦帰宅しながら,Eに話しかけもせずに自室に入り,酒に酔っていたはずなのに2,3時間のうたた寝で自然に目覚め,それからようやくEを誘う行動に及んだ点も不自然である。また,乙・丙旧鑑定が協調の原理の逸脱を指摘する上記トピック⑪の供述内容も,あたかも農作業の手伝いを息子に頼むかのような気楽なものであり,不自然といえる。そして,供述調書に比べるとAの確定審での公判供述は,全体的にあいまいで漠然としたものに後退している。 5 Dの供述の信用性評価・小括別添5 総合評価 以上のとおり,まず,乙・丙旧鑑定は,Dの供述自体に,体験性兆候を明確に確認することはできず,AがF,Dと共謀の上,Bを殺害しようと企てた場面(ここでは,殺害の提案者が入れ替わり,間に介在する人物も変化する大きな変遷がみられ,非体験性兆候の可能性を指摘した。)に加え,殺害後,Dが一旦帰宅してEと死体遺棄の共謀を を殺害しようと企てた場面(ここでは,殺害の提案者が入れ替わり,間に介在する人物も変化する大きな変遷がみられ,非体験性兆候の可能性を指摘した。)に加え,殺害後,Dが一旦帰宅してEと死体遺棄の共謀を遂げる場面において,協調の原理からの極端な逸脱の認められる供述が確認されたこと,意思を伝達する際に明確な言語的意思表示が行われず,不自然な意思伝達がなされた点や,偶然によって相互行為調整が不要になる場面があり,これは非体験性兆候である可能性が高いと指摘し,Fと同じく,いずれも犯行の意思形成に関わる重要な場面についての供述について,非体験性兆候の可能性を指摘している。 次いで,殺人の共謀の成立過程等の自白の根幹部分について変遷があり,Dの知的障害は,この変遷が捜査機関の暗示誘導によることを示唆している。供述内容は,重要な点で不自然不合理な一面が認められ,Fの供述との不整合もある。 そうすると,Dの供述は,それ自体から信用性を高める要素を見出すことは難しい。 別添5 総合評価 第5 Eの供述の信用性について 1 Eの供述経過Eは,10月16日,17日に任意の取調べを受け,27日に死体遺棄を被疑事実として逮捕され,勾留された後,11月7日,本件死体遺棄の事実で起訴され,その後11月17日午後,B方で実施された検証において犯行再現をし,その後,F,Dと併合審理された自己の公判において,事実関係を認め,昭和55年2月14日,同月26日,Aの確定第1審公判において,証人として供述し,昭和55年3月31日,懲役1年の判決を言い渡された。 Eは,逮捕直後まで否認を続けていたが,10月29日に関与を認め,DからBの死体遺棄への加勢を頼まれ,A,D,Fと一緒に死体を堆肥置き場まで運び,Aが持ってきたスコップや堆肥小屋にあったホークを使って は,逮捕直後まで否認を続けていたが,10月29日に関与を認め,DからBの死体遺棄への加勢を頼まれ,A,D,Fと一緒に死体を堆肥置き場まで運び,Aが持ってきたスコップや堆肥小屋にあったホークを使って堆肥に埋めたという供述をした。この自白は,Aの確定第1審公判でも維持されている。 Eは,1審判決に控訴することなく,服役したが,平成9年9月19日自身の確定裁判について鹿児島地方裁判所に再審請求を行った。また,Aの第1次再審において,平成9年9月から平成10年3月にかけて4期日にわたって証人として供述し,その中で,捜査のはじめから犯人扱いをされ,陰毛を採取され,うそ発見器(ポリグラフ検査)にかけられ,FやDが逮捕され,自身も逮捕されて弁解を聞き入れてもらえず,虚偽の自白をするに至ったこと,自白の内容の多くは自分で作り上げたこと,当時,虚偽供述を続けていた理由,濡れ衣で服役させられたこと,服役後からずっと再審を求めていること,当時は,FとAが真犯人であり,Aらにより罪に陥れられたと疑っていたことなどを詳細に供述した。平成13年4月には自らの再審請求でも請求人として供述したが,同年5月に自ら命を絶った。 2 乙・丙旧鑑定の評価Eの供述については,顕著な体験性兆候は確認されなかったものの,明確な非体験性兆候についても供述調書の中核部分の変遷にとどまっていた。そのため,Eの供述における体験供述性についての判断は留保された。 別添5 総合評価 3 Eの知的能力について第2次再審請求で提出された壬意見書等知的障害に関する証拠によれば,Eは,生来性の軽度知的障害があり,IQは60台であったこと,性格的には著しく偏りはなく,比較的温和で,被暗示性や他人に迎合しやすい傾向が認められる。 4 Eの供述の信用性について第2次再審即時抗告審決定 の軽度知的障害があり,IQは60台であったこと,性格的には著しく偏りはなく,比較的温和で,被暗示性や他人に迎合しやすい傾向が認められる。 4 Eの供述の信用性について第2次再審即時抗告審決定は,Eの知的障害を考えると,全く経験をしていないのに,それなりに複雑な一連の経緯を確定審の公判供述のように具体的に矛盾なく供述できるとは考え難い,反対尋問でも基本的に整合した供述をしたことは公判供述の信用性を高めるとして,Eの公判供述の信用性を肯定する根拠の一つとしている。しかし,このような判断がEの知的障害についての科学的な知見に基づくものかどうか,まず疑問がある。また,改めて指摘するまでもないが,EはAの確定審の公判で証人として供述する以前に,被疑者段階で多数回の取調べを受けており,取調べを重ねる中で,取調官からの暗示や誘導により,関係証拠と具体的に矛盾なく一連の経緯を供述するようになることは考えられることである。Eは,Aの第1次再審で,Aの公判で供述した内容は,警察からは教えられず,自分で組み立てたものであると説明している。しかし,Eの知的障害に照らせば,取調官からの暗示や誘導を「自分で組み立てた」とするものとE自身が区別できているのか,疑問が残る。EがAの第1次再審で供述した内容を具体的に検討していくと,捜査段階の供述内容について,取調官の暗示や誘導があったことが見て取れる部分があるし,Eには,B方の状況や遺体の遺棄場所とされた堆肥小屋の内部はよく見知った場所であり,犯行とは無関係の体験に基づいて虚構の事実を供述することが可能であったこと,当時はAとFを疑っており,Aらの関与について虚偽の供述をする動機があったこと,警察の取調べで犯行への関与を決めつけられたり,ポリグラフ検査や陰毛の採取をされたり,証拠があるとして逮捕され,否認しても 時はAとFを疑っており,Aらの関与について虚偽の供述をする動機があったこと,警察の取調べで犯行への関与を決めつけられたり,ポリグラフ検査や陰毛の採取をされたり,証拠があるとして逮捕され,否認しても助からないと思ったことなども具体的に供述しており,その供述内容は自然なものである。さらに,Eは,懲役1年を言い渡した地裁判決に控訴することなく大分刑務所に服役したも別添5 総合評価 のの,受刑中から犯行への関与を否認するようになり,昭和55年11月12日仮出獄したが,本件は濡れ衣であるとしてCや近隣の者に敵意を抱き,自閉的となり,家具を壊したり,Cに暴力を振るったり,自殺を図るなどしたことから,精神病院への入退院を繰り返すようになった。そして,昭和60年頃から,弁護士に相談して再審を請求する意向を示し,前述のとおり,平成9年には自ら再審を請求し,Aの請求審や自らの請求審で供述したが,Aの第1次再審請求に対する開始決定を知ることなく自死してしまった。Aの第1次再審でのEの供述の信用性は,このようなEの生涯からも裏付けられていると考えられる。 そうすると,Aの確定第1審公判での供述をはじめとするEの死体遺棄に関する自白については,Eの知的障害の状況,EのAの第1次再審請求審への供述等に照らすと,捜査機関の暗示や誘導の影響を受け,EがAやFの関与について虚偽の事実を供述した疑いを否定できないというべきである。 別添5 総合評価 第6 C供述の信用性について 1 Cの供述の証拠構造上の位置づけCは,昭和54年11月3日付け検察官調書,Aの確定審の公判において,「Aが,Dに対し,Bを殺したいので加勢をするよう持ちかけ,Dがこれに応じて,外出し,しばらく帰ってこなかった」(本件目撃供述①),「Dが帰宅時,『Bをうっ殺して来た』 ,Aの確定審の公判において,「Aが,Dに対し,Bを殺したいので加勢をするよう持ちかけ,Dがこれに応じて,外出し,しばらく帰ってこなかった」(本件目撃供述①),「Dが帰宅時,『Bをうっ殺して来た』と言った」(本件目撃供述②),「Eが『加勢をした』と言った」(本件目撃供述③)などと供述している。前記のとおり,Cの本件各目撃供述は,AとDとの間のB殺害の共謀についての直接証拠であり,DやEの自白の信用性を補強する証拠でもあり,本件犯行の存在を推認させる間接事実を述べるものでもある。 2 Cの供述経過Cは,10月16日,同月19日に警察官から取調べを受けたが,その際には,本件各目撃供述の趣旨を含む供述はしなかった。同月29日になり,警察官に対し,「今まで,夫や息子のことを自分の口からは言えず,また,Aが恐ろしくて本当のことが言えなかったが,捕まった以上,本当のことを言わなければ夫や息子の助けにならないし,Bが成仏できないと思う」などと述べ,本件目撃供述①と同趣旨の供述をした。同月31日には,警察官に対し,本件目撃供述①に加え,本件目撃供述②③と同趣旨の供述をした。11月3日には,検察官に対し,概ね10月31日に警察官にした供述を維持し,その後も捜査機関に対し,本件各目撃供述の趣旨を翻すことはなかった。そして,昭和55年3月25日,Aの確定審の公判において,本件各目撃供述をした。 3 Cの供述の信用性⑴ 乙・丙新鑑定について前記のとおり,乙・丙新鑑定は,「本件各目撃供述とそれぞれの目撃供述に続く行為について,本件犯行に直接結び付く重要な出来事を目撃する場所への移動とそこからの離脱の動機は,ほとんど全て小便や寝るといった生理的欲求に基づいており(分析1),Eの「加勢してきた,黙っちょらんや」という発言を目撃していな別添5 総合評 出来事を目撃する場所への移動とそこからの離脱の動機は,ほとんど全て小便や寝るといった生理的欲求に基づいており(分析1),Eの「加勢してきた,黙っちょらんや」という発言を目撃していな別添5 総合評価 がら,それに対して当然生じるであろう聞き返し等の自発的行為の言及がないことは,非体験性兆候である明らかなコミュニケーション不全であり,逆行的構成によって形成された可能性が示唆され(分析2),Cが本件各目撃供述のとおりの出来事を経験したのであれば当然持っているはずの知識や認識の欠落を示す「無知の暴露」に該当する供述もあることなどから,本件各目撃供述には体験記憶に基づかない情報が含まれている可能性が無視できない程度に高い」と分析している。そして,前記のとおり,この内容は,検察官の反論を踏まえても,一定程度の合理性を有するものといえ,Cの供述の信用性を低下させる事情となる。 ⑵ Cの供述内容について本件各目撃供述について,その供述内容自体には明らかに不自然な点はない。また,Cが,Eの「加勢してきた,黙っちょらんや」という発言を目撃していながら(本件目撃供述③),特に反応を示していない点についても,Cは,本件目撃供述①②の際,その内容を詳しく聞いているわけではなく,「Bを打ち殺す」などという発言について「単にけんかをするだけだ」と思ったCが,その後の「黙っちょらんや」の発言を聞いた際,直ちにB殺害の確信に結び付かなかったとしても,そのことだけで不自然・不合理ということはできず,Cの本件各目撃供述の信用性が直ちに揺らぐものではない。 もっとも,Cが,実際に本件各目撃供述の内容を体験していた場合,その後,Bの姿が確認できなくなったことなどから,徐々に10月12日夜から翌13日未明にかけてのA,D,Eの行動の意味について,理解が深まるとと ,Cが,実際に本件各目撃供述の内容を体験していた場合,その後,Bの姿が確認できなくなったことなどから,徐々に10月12日夜から翌13日未明にかけてのA,D,Eの行動の意味について,理解が深まるとともに疑念が生じ,特に夫であるDや息子であるEに対しては,事情を尋ねるなどする方が自然な行動といえる。にもかかわらず,本件各目撃供述を告白した10月29日以降の供述をみてもそのような行動をした旨の供述はない。また,10月31日付け警察官調書において,Cは,10月13日朝,Aが訪ねてきた際の会話について,Cが「Bは,けがもせず送ってもらってよかったな」と言うと,Aが「あんしも迷惑なことじゃ,いつものことだが」と言った旨供述する。Cが,前日深夜から翌未明にかけて「B別添5 総合評価 を打ち殺す」とか「打ち殺してきた」旨の話を聞いていながら,その数時間後にその中心的な当事者であるAと交わした会話としてみると,Bの安否についてごく自然な会話を繰り広げていることは,非常に不自然といえる。 そして,Cは,11月3日付け検察官調書において,10月15日にBの死体が発見された際,「やはりあのとき夫が殺しに行ったのだとわかった」旨供述しており,その時点において,Cは,B殺害の確信に至ったものとされている。にもかかわらず,Cは,12月2日付け警察官調書において,「10月28日午前8時頃,Aから,『着替えを持ってきたことについて,警察には,12日の晩ではなく,13日の朝と言ってほしい』旨口止めされたが,『何のことを口止めしたかはっきりわかりませんでした』」旨供述している。これは乙・丙新鑑定でも「無知の暴露」と指摘されているとおり,12日深夜から翌日未明にかけて,AがDを誘うなどしてBを殺害したことを確信した者の立場として,12日晩の行動の口止めの依頼の理由が る。これは乙・丙新鑑定でも「無知の暴露」と指摘されているとおり,12日深夜から翌日未明にかけて,AがDを誘うなどしてBを殺害したことを確信した者の立場として,12日晩の行動の口止めの依頼の理由がわからなかった旨の心情を述べていることは,非常に不自然といえる。 ほかにも,Cの一連の供述内容を検討すると,10月12日夜にAがC方を訪れた時刻に関し,「テレビの上の時計を見ると長針が右側に水平になっていたので,午後10時15分だったと思う」旨具体的な根拠を示して供述する(10月31日付け警察官調書)ところ,同日夜Aと一緒にいたIやJの供述によれば,AがB方をのぞいた時刻が午後10時30分頃であったものと認められることと矛盾すること,10月13日朝のC方への訪問に類似した内容が,10月12日夜のC方への訪問に関するエピソードとして反復されており,不自然さを否めないこと,「10月13日昼にB方を訪れ,結婚式の引き出物をテーブルの上に載せ,エビやタイなど腐りやすいものを冷蔵庫の中に入れた」旨のエピソード(10月16日付け警察官調書)が,本件各目撃供述の告白後も特段訂正等されていないが,「Bを打ち殺す」とか「打ち殺してきた」旨の話を聞いた者がとる行動としては不可解といわざるを得ないことなど,その内容には不自然な点が複数存在する。 別添5 総合評価 そうすると,Cの供述内容には,不自然な点がいくつも存在し,その信用性を全面的に認めることは困難と評価せざるを得ない。 ⑶ 虚偽供述の動機,捜査官による誘導についてCは,Dの妻であり,Eの実母であるから,一般的に考えれば,殊更に夫や息子に対して不利な虚偽供述をすることは考え難い。また,Cは,第1次再審の証人尋問における供述を含め,これまで捜査官による誘導や強要を述べたことはない。そして,確定審の 一般的に考えれば,殊更に夫や息子に対して不利な虚偽供述をすることは考え難い。また,Cは,第1次再審の証人尋問における供述を含め,これまで捜査官による誘導や強要を述べたことはない。そして,確定審の公判におけるCの供述をみると,10月12日深夜から翌13日未明にかけて,Dが「Bをうっ殺して来た」と言ったり,Eが「加勢をした」と言ったりした部分については,検察官からの主尋問では全く触れられておらず,弁護人からの反対尋問において初めて尋ねられて供述している。その供述出現の経緯をみても,Eによる「加勢をした」旨の発言分についてのCの供述は,10月31日付け警察官調書に初めて出てくるが,当時,Eはそのような供述をしていなかったことがうかがわれ,Cが既にされたEの供述に合わせたとも考え難い。 もっとも,全体的な捜査の経緯をみると,FとDは,10月17日にBの殺人につき両名で敢行した旨自白し,翌18日,殺人及び死体遺棄事件で逮捕され,Eも,同月27日には死体遺棄事件で逮捕され,同月29日,FはAの関与を認め,Eも死体遺棄を自白し,同月30日,Aが殺人及び死体遺棄事件で逮捕されている。Cが,AとDとの共謀に関する本件目撃供述①を始めたのが同月29日であることからすると,夫と息子が逮捕されたCの心情として,Aに対する悪感情が募り,それとAの関与を疑う捜査機関の思惑とが自然な形で合致し,Cが,犯行の首謀者がAである旨の虚偽供述をし,そのことが供述調書として整理されていった可能性がないとはいえない。CがAに対する悪感情を募らせた背景には,Aが生命保険金取得目的でBを殺害したとの捜査機関の嫌疑を前提に,Cを被保険者とする生命保険が掛けられていた事実も加えることができる。そのような供述を始めたCが,夫や息子を犯行に巻き込んだのはAに間違いないと思い込み,Aに Bを殺害したとの捜査機関の嫌疑を前提に,Cを被保険者とする生命保険が掛けられていた事実も加えることができる。そのような供述を始めたCが,夫や息子を犯行に巻き込んだのはAに間違いないと思い込み,Aに殊更に不利になるよう別添5 総合評価 な虚偽供述を一貫して続けてしまったと考えることも,全く想定できないわけではない。 確かに,Cは,本件事件当時50歳で,知的障害等は特に見当たらないものの,その知的能力が優れていたとまでは認められない。そのようなCが,逮捕されている夫や息子が自白をし,罪を認めてしまっている犯行について,その夫や息子の関与が低いことを述べたいがために,Aの関与を裏付けるような虚偽供述をし続けてしまった可能性も,動機としては否定できないといえる。 そうすると,Cには明確な虚偽供述の動機はないものの,D・Eが犯行を認めてしまっていることを前提として,当時のAに対するCの悪感情とAを犯人と考える捜査機関の思惑とがあいまって,D・Eの刑事責任を軽減させるべく虚偽供述を続けてしまった可能性が指摘できる。 ⑷ 供述の一貫性,変遷の合理性についてCは,10月29日にA及びDの関与を認め,10月31日にEの関与を認めて以来,確定第1審,確定控訴審に至るまで,大筋で一貫した供述をしている。そして,Aらの関与を認めるに至った理由について,「主人や息子のことを自分の口から言えなかった」,「Aが恐ろしかった」などと述べており,一応了解できる変遷理由を述べている。 他方,前記のとおり,当時,Cが,虚偽供述をすることがD・Eの刑事責任を軽減させると考えていた場合,Cの供述が一貫していることが,直ちに虚偽供述の疑いを排斥するものではない。また,Aらの関与を認めることになった変遷理由自体は了解可能であるとしても,10月12日夜から翌朝に させると考えていた場合,Cの供述が一貫していることが,直ちに虚偽供述の疑いを排斥するものではない。また,Aらの関与を認めることになった変遷理由自体は了解可能であるとしても,10月12日夜から翌朝にかけてのCの具体的な行動に関する供述が変遷したことについて,個別具体的に変遷理由が述べられているわけでもない。さらに,乙・丙新鑑定の分析によれば,Aらが本件犯行に関与したという印象を与えるCの一連の供述には,その変遷過程に不自然な点があり,また,随所に非体験性兆候が認められるのであるから,変遷後の供述が一貫しているとはいっても,慎重な検討をしなければならないことに変わりはない。 別添5 総合評価 ⑸ 信用性の総合評価Cの本件各目撃供述自体に一見不自然な点はなく,殊更に夫や息子に不利な虚偽供述をすることは一般的に考え難く,しかも,本件各目撃供述に至った変遷理由も一応了解可能なものであり,その後は大筋で一貫した供述を続けていることからすれば,その信用性を肯定することも可能なようにも考えられる。 しかし,乙・丙新鑑定の結果を踏まえたとき,Cの供述の信用性については,慎重な検討が必要となる。そして,Cの供述全体を子細に検討したとき,その内容には,本件各目撃供述の内容を実際に体験した者としては不可解・不自然な点が随所に認められ,そのことはCが本件各目撃供述の内容を体験していなかったと考えることと整合的である。また,Cが,家族に不利な虚偽供述をしたことも,それが夫や息子の刑事責任を軽減するものと捉えていたと考えれば,決して合理的な説明ができないものではない。本件各目撃供述を告白した後の供述が大筋で一貫していることやその変遷理由が一応了解できることも,虚偽供述の疑いを明確に排斥できるものではない。 そうすると,Cの本件各目撃供述については,決し ない。本件各目撃供述を告白した後の供述が大筋で一貫していることやその変遷理由が一応了解できることも,虚偽供述の疑いを明確に排斥できるものではない。 そうすると,Cの本件各目撃供述については,決して信用性の高いものとはいえないと評価すべきである。 別添5 総合評価 第7 客観証拠について 1 犯人性に関する客観証拠について確定判決が証拠の標目に掲げた証拠,そして,第2次再審請求までの審理に提出された旧証拠から,AをはじめF,D及びEを本件犯行と結びつける証拠,いわゆる犯人性に関する客観証拠が発見されていないことは,第2次再審までの各決定が既に判断を示したとおりである。確定判決が犯行供用物件と認定したスコップ,ホーク,懐中電灯についても,Fらの供述によって犯行との関連性が肯定されるに過ぎず,証拠物それ自体からFらと犯行との関連性を認めることはできないことも第2次再審までの審理で明らかになっている。 このような客観証拠が発見されていない理由については,これまでの決定の判断が示したとおり,様々な説明が考えられるにしても,少なくとも,F,D及びEの供述を的確に裏付ける客観的な痕跡,Aの犯人性を裏付ける客観的証拠は見当たらなかった。第3次再審請求でも,検察官が新たに発見して開示した写真ネガ等から新証拠が請求されたが,その中にも,F,D及びEの供述を的確に裏付ける客観的な痕跡となる客観証拠は存在しなかった。 本来,供述を裏付ける客観証拠は,供述の信用性評価の基礎や前提と言っても過言でない重要な証拠であるが,本件では,このような意味で的確な客観証拠は見当たらない。そして,この事実は,F,D及びEの供述の信用性を判断する上で重要な意味を持たざるをえないと言うべきである。 2 カーペットの糞尿痕関係証拠について第2次再審で提出 確な客観証拠は見当たらない。そして,この事実は,F,D及びEの供述の信用性を判断する上で重要な意味を持たざるをえないと言うべきである。 2 カーペットの糞尿痕関係証拠について第2次再審で提出された糞尿痕関係証拠によると,カーペットに残されていた糞尿痕等の位置,中6畳間の畳に残されていた尿痕,脱糞痕の位置は,相互に一致しておらず,さらに,その両方が,FやDがBを寝かせたと供述する位置と合致していない。 Dの警察官調書(昭和54年11月6日付け)には,B殺害時,DがBを押さえている間に左膝の後ろに小便を引っかけられたこと,殺害後に,Aが「クソをひっ別添5 総合評価 かぶったが,ちょっしもた」と言ったこと(なお,鹿児島弁で「ひっかぶる」とは(尿や便を)「もらす」という意味),Bの死体を奥6畳間の布団に移した後,ビニールのゴザ(カーペット)には,ちょうどBの尻があった辺りに糞がべったり塗りついていたこと,運ぶときにAが踏みつけているのではないかとの記載がある。また,Dの検察官調書(確定審検113)には,Bの死体を遺棄した後,Aが中6畳間に敷いてあったカーペットをタオルか雑布のようなもので拭き,DとAでカーペットをたたんで,柿の木の下のチリ捨て場に置いたこと,が記載され,Fの検察官調書にも,死体遺棄後,Aがカーペットをタオルか雑布のようなもので拭き(確定審検108),10月14日朝食後にAに指示されて,そのカーペットをBの耕運機の上に動かした(確定審検109)ことが記載されている。そして,Eの供述にも,死体遺棄後,AとDが中6畳間のカーペットを拭き,その後,Aの関与の元にカーペットが中6畳間から持ち出されて柿の木の下のチリ捨て場に移されたことなどが認められる。このようなF,D及びEの供述は,中6畳間でBをタオルで首を絞めて殺害した トを拭き,その後,Aの関与の元にカーペットが中6畳間から持ち出されて柿の木の下のチリ捨て場に移されたことなどが認められる。このようなF,D及びEの供述は,中6畳間でBをタオルで首を絞めて殺害した際に,Bが失禁,脱糞したこと,Aがカーペット上のBの糞を踏みつけたことがあり,Bの死体を遺棄した後,Aはカーペット上のBの糞を拭き取り,カーペットを外して柿の木の下のチリ捨て場に移した,そして,(Bの捜索に人が集まる日になって)Aはカーペットをチリ捨て場から移動させたという文脈に位置づけられるものであり,中6畳間に敷かれていたカーペットの糞尿痕や,中6畳間の尿痕,脱糞痕は,F,DのB殺害を自供した供述の裏付けとなり得る客観的証拠としての位置づけを持たされていた。加えて,その他の関係者の供述調書中には,Bの行方を捜索するために親類等が集まった際に,Aが,カーペットは汚れているので使えないとの声をかけたことなど,カーペットについてのAの認識を推認させる言動も録取されているが,カーペットの糞尿痕は,Bの殺害,死体遺棄の犯行に関わった者だけが知っている事実として,Aと犯行を結びつける事実の一つとしても位置づけられていた。 別添5 総合評価 そして,このような供述の文脈からは,少なくとも中6畳間の畳の尿痕は,殺害時に失禁した尿がゴザ様のビニールカーペットを浸透して下の畳まで汚損して形成されたものであり,カーペットの糞尿痕は,失禁脱糞した糞尿をAが拭き取った痕ということになる。カーペットの形状を考えると,糞尿を拭き取ることで,ゴザ様のビニールの目に詰まった糞尿痕の範囲が広がることはあっても,当初失禁脱糞した位置と異なった位置に移動することは考えられない。まして,カーペットが中6畳間から外されて,折り畳まれたりしたからといって,ゴザ様のビニールの目に 糞尿痕の範囲が広がることはあっても,当初失禁脱糞した位置と異なった位置に移動することは考えられない。まして,カーペットが中6畳間から外されて,折り畳まれたりしたからといって,ゴザ様のビニールの目に詰まった糞尿が別の箇所に丸々転移することもない。そうすると,中6畳間の畳の尿痕がカーペットの糞尿痕と整合しないことは,このような供述の文脈自体に疑いを生じさせるものと考えられる。 なお,これらの矛盾については,第2次再審の請求審や即時抗告審の判断が示したように矛盾を解消する方向で説明することも不可能ではないが,そうすると今度は,前述の供述の文脈を前提とする限り,Bが殺害されたときにカーペット上で失禁脱糞した痕跡はどうなったのか,タオル等で拭き取っただけで,きれいにカーペットから拭い去ることができるのか,そうであればカーペットを中6畳間から外してチリ捨て場に捨てる必要があるのか等の別の矛盾に直面することになる。 カーペットの糞尿痕関係証拠が示す事実は,確定裁判の時点に立ち戻っても,FとDの供述の信用性,両名の供述を前提としたEの供述の信用性に疑問を差し挟むものといえる。 別添5 総合評価 第8 総合評価のまとめ以上検討してきたとおり,まず,Bの死因に関連する新旧全証拠を総合的に評価すると,死因を頸部圧迫による窒息死であると推定した丁旧鑑定は,死因に対する積極的な証明力を喪失し,殺害方法に関するF,Dの供述の裏付けとしても,自白内容と矛盾しない程度の脆弱なものとなった。そして,Bの死因を頸部圧迫による窒息死であると積極的に認定するに足りる客観的な証拠は存在していない。 確定判決が認定する犯行態様やAの犯行への関与について,これを直接に裏付ける客観的な証拠は,存在していない。 Aの関与については,F,D及びEの供述(公判供 足りる客観的な証拠は存在していない。 確定判決が認定する犯行態様やAの犯行への関与について,これを直接に裏付ける客観的な証拠は,存在していない。 Aの関与については,F,D及びEの供述(公判供述・検察官調書)が直接証拠となっている。F,D及びEの供述は,最終的には,一見整合している内容のように見えるが,相互に整合しているのは大要だけであり,AとF,Dの間でB殺害の共謀をする場面,殺人の実行行為に及ぶ場面,殺害後に死体遺棄の共謀に至る場面等の犯行の根幹となる場面については,それぞれが大きく変遷し,また,供述心理鑑定が非体験性兆候を指摘する場面で不合理な内容のものとなっている。さらに,DとEの間で死体遺棄の共謀をする場面については,Dの供述について同様に非体験性兆候を指摘される不合理な内容が認められ,Eの供述についても,前述のとおり,捜査機関の暗示や誘導による疑いがある。殺害時のBの失禁等に関するDの供述,カーペットの糞尿痕に関するFらの供述は客観的な状況と矛盾する可能性が高い。そして,F,D及びEの3名は,知的障害等の能力的な制約から,捜査機関からの強制や誘導への脆弱性を本質的に有していた。 本件犯行は,共犯者3名の供述が相互に支え合っている証拠状況であるが,それぞれの供述の信用性には前述のとおり,問題があり,客観的な証拠の支えもない状況にある。Cの供述は,前述のとおり,その信用性を肯定するには慎重にならざるを得ず,E,Dらの供述の裏付けとして,高い証明力を与えるには躊躇する程度のものである。 別添5 総合評価 確定判決の事実認定は,主として,共犯者3名の自白と,犯行態様の自白の重要な裏付けと位置づけられていた客観証拠である丁旧鑑定から構成されていた。新旧全証拠の総合評価の結果,共犯者3名の自白は,それぞれ信用性に疑い 認定は,主として,共犯者3名の自白と,犯行態様の自白の重要な裏付けと位置づけられていた客観証拠である丁旧鑑定から構成されていた。新旧全証拠の総合評価の結果,共犯者3名の自白は,それぞれ信用性に疑いのあることが明らかとなり,主要な支えであった丁旧鑑定は支えとしての証明力を失い,Cの供述も共犯者の自白の信用性を代わりに支えられるほどの証明力はないことが明らかになった。そうすると,AとF,Dの3名が共謀の上,Bをタオルで絞殺した上,Eも加わって死体遺棄の共謀を遂げ,Bの遺体を遺棄したという確定判決の事実認定については,そのような共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できないというべきである。 (以上)
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