平成22(行ウ)11 行政処分義務付等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年4月25日 和歌山地方裁判所 その他
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判決文本文32,327 文字)

平成24年4月25日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成22年(行ウ)第11号行政処分義務付等請求事件口頭弁論終結日平成24年1月25日判決ア市○○○原告 A同訴訟代理人弁護士 B同 C同 D同 Eア市△△△被告ア市同代表者市長イ処分行政庁ア市福祉事務所長ウ同訴訟代理人弁護士甲同乙同訴訟復代理人弁護士丙 主文 1 本件訴えのうち,以下の部分を却下する。  処分行政庁が原告に対して平成23年5月31日付けでした障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定(●●●(●)第●●●●号)のうち,重度訪問介護の1か月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分の取消しを求める部分 処分行政庁が,原告に対し,原告が平成22年4月19日にした介護給付費等の支給申請に対して,重度訪問介護の支給量を1か月651時間と する障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定をすることの義務付けを求める部分 2 処分行政庁が原告に対して平成23年5月31日付けでした障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定(●●●●(●)第▲▲▲▲号)のうち,重度訪問介護の1か月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分を取り消す。 3 処分行政庁は,原告に対し,原告が平成23年5月11日にした障害者自立支援法に基づく介護給付費等の支給申請に対して,重度訪問介護の1か月当たりの支給量542.5時間を下回らない介護給付費支 。 3 処分行政庁は,原告に対し,原告が平成23年5月11日にした障害者自立支援法に基づく介護給付費等の支給申請に対して,重度訪問介護の1か月当たりの支給量542.5時間を下回らない介護給付費支給決定をせよ。 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 処分行政庁が原告に対して平成23年5月31日付けでした障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定(●●●(●)第●●●●号)のうち,重度訪問介護の1か月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分を取り消す。 2 処分行政庁は,原告に対し,原告が平成22年4月19日にした介護給付費等の支給申請に対して,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定をせよ。 3 主文第2項(処分行政庁が原告に対して平成23年5月31日付けでした障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定(●●●●(●)第▲▲▲▲号)のうち,重度訪問介護の1か月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分を取り消す。)と同旨 4 処分行政庁は,原告に対し,原告が平成23年5月11日にした介護給付費 等の支給申請に対して,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定をせよ。 5 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成22年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,処分行政庁のした主文第1項及び第2項掲記の障害者自立支援法に基づく各介護給付費支給決定が,いずれも原告の申請した重度訪問介護の支給量に満 の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,処分行政庁のした主文第1項及び第2項掲記の障害者自立支援法に基づく各介護給付費支給決定が,いずれも原告の申請した重度訪問介護の支給量に満たないものであり,処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用したこと等により違法な処分であると主張し,上記各介護給付費支給決定の取消しを求め,処分行政庁に対し,それぞれ重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給決定を義務付けることを求めるとともに,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,慰謝料100万円及びこれに対する不法行為の後で訴状送達日の翌日である平成22年9月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 1 法令等の定め 障害者自立支援法(以下「自立支援法」という。)には,以下の定めがある。 アこの法律は,障害者基本法の基本的な理念にのっとり,身体障害者福祉法,知的障害者福祉法,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律,児童福祉法その他障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって,障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い,もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに,障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする(1条)。 イこの法律において「障害福祉サービス」とは,居宅介護,重度訪問介護, 同行援護,行動援護,療養介護,生活介護,児童デイサービス,短期入所,重度障害者等包括支援,共同生活介護,施設入所支援,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援及び共同生活援助をいう(5条1項前段)。 ウこの法律にお ,療養介護,生活介護,児童デイサービス,短期入所,重度障害者等包括支援,共同生活介護,施設入所支援,自立訓練,就労移行支援,就労継続支援及び共同生活援助をいう(5条1項前段)。 ウこの法律において「重度訪問介護」とは,重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者につき,居宅における入浴,排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう(5条3項)。 エ自立支援給付は,当該障害の状態につき,介護保険法の規定による介護給付,健康保険法の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受けることができるときは政令で定める限度において,当該政令で定める給付以外の給付であって国又は地方公共団体の負担において自立支援給付に相当するものが行われたときはその限度において,行わない(7条)。 オ介護給付費,特例介護給付費,訓練等給付費又は特例訓練等給付費(以下「介護給付費等」という。)の支給を受けようとする障害者又は障害児の保護者は,市町村の介護給付費等を支給する旨の決定(以下「支給決定」という。)を受けなければならない(19条1項)。 カ支給決定は,障害者又は障害児の保護者の居住地の市町村が行うものとする(19条2項本文)。 キ支給決定を受けようとする障害者又は障害児の保護者は,厚生労働省令で定めるところにより,市町村に申請をしなければならない(20条1項)。 ク市町村は,20条1項の申請があったときは,政令で定めるところにより,市町村審査会が行う当該申請に係る障害者等の障害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行うものとする(21条1項)。 ケ市町村審査会は,前項の審査及び判定 ころにより,市町村審査会が行う当該申請に係る障害者等の障害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行うものとする(21条1項)。 ケ市町村審査会は,前項の審査及び判定を行うに当たって必要があると認 めるときは,当該審査及び判定に係る障害者等,その家族,医師その他の関係者の意見を聴くことができる(21条2項)。 コ市町村は,20条1項の申請に係る障害者等の障害程度区分,当該障害者等の介護を行う者の状況,当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して介護給付費等の支給の要否の決定を行うものとする(22条1項)。 サ市町村は,支給決定を行う場合には,障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として厚生労働省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービスの量(以下「支給量」という。)を定めなければならない(22条4項)。 シ支給決定は,厚生労働省令で定める期間(以下「支給決定の有効期間」という。)内に限り,その効力を有する(23条)。 ス支給決定障害者等は,現に受けている支給決定に係る障害福祉サービスの種類,支給量その他の厚生労働省令で定める事項を変更する必要があるときは,厚生労働省令で定めるところにより,市町村に対し,当該支給決定の変更の申請をすることができる(24条1項)。 セ市町村は,前項の申請又は職権により,22条1項の厚生労働省令で定める事項を勘案し,支給決定障害者等につき,必要があると認めるときは,支給決定の変更の決定を行うことができる(24条2項前段)。 ソ市町村は,支給決定障害者等が,支給決定の有効期間内において,都道府県知事が指定する障害福祉サービス事業を行う者(以下「指定障害福祉サービ 定の変更の決定を行うことができる(24条2項前段)。 ソ市町村は,支給決定障害者等が,支給決定の有効期間内において,都道府県知事が指定する障害福祉サービス事業を行う者(以下「指定障害福祉サービス事業者」という。)若しくは障害者支援施設から当該指定に係る障害福祉サービス(以下「指定障害福祉サービス」という。)を受けたとき,又はのぞみの園から施設障害福祉サービスを受けたときは,厚生労働省令で定めるところにより,当該支給決定障害者等に対し,当該指定障害 福祉サービス又は施設障害福祉サービス(支給量の範囲内のものに限る。)に要した費用(食事の提供に要する費用,居住若しくは滞在に要する費用その他の日常生活に要する費用又は創作的活動若しくは生産活動に要する費用のうち厚生労働省令で定める費用を除く。)について,介護給付費又は訓練等給付費を支給する(29条1項)。 タ 29条1項の指定障害福祉サービス事業者の指定は,厚生労働省令で定めるところにより,障害福祉サービス事業を行う者の申請により,障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業を行う事業所ごとに行う(同法36条1項)。  障害者自立支援法施行令には,以下の定めがある。 自立支援法7条の政令で定める給付は,次の表の上欄に掲げるものとし,同条の政令で定める限度は,同表の上欄に掲げる給付につき,それぞれ,同表の下欄に掲げる限度とする(2条)。 介護保険法の規定による介護給付(高額医療合算介護サービス費の支給を除く。),予防給付(高額医療合算介護予防サービス費の支給を除く。)及び市町村特別給付受けることができる給付 障害者自立支援法施行規則(以下「本件規則」という。)には,以下の定めがある。 ア自立支援法5条2項及び3項に規定する厚生労働省令で定める便宜は,入浴,排 給付受けることができる給付 障害者自立支援法施行規則(以下「本件規則」という。)には,以下の定めがある。 ア自立支援法5条2項及び3項に規定する厚生労働省令で定める便宜は,入浴,排せつ及び食事等の介護,調理,洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助とする(1条の3)。 イ自立支援法20条1項の規定に基づき支給決定の申請をしようとする障害者又は障害児の保護者は,次の各号に掲げる事項を記載した申請書を,市町村に提出しなければならない(7条1項)。 ⑥ 当該申請に係る障害福祉サービスの具体的内容ウ自立支援法22条1項に規定する厚生労働省令で定める事項は,次の各号に掲げる事項とする(12条)。 ① 自立支援法20条1項の申請に係る障害者等の障害程度区分又は障害の種類及び程度その他の心身の状況② 当該申請に係る障害者等の介護を行う者の状況③ 当該申請に係る障害者等に関する介護給付費等の受給の状況④ 当該申請に係る障害児が現に児童福祉法42条に規定する知的障害児施設,同法43条に規定する知的障害児通園施設,同法43条の2に規定する盲ろうあ児施設,同法43条の3に規定する肢体不自由児施設又は同法43条の4に規定する重症心身障害児施設を利用している場合には,その利用の状況⑤ 当該申請に係る障害者が現に介護保険法の規定による保険給付に係る居宅サービスを利用している場合には,その利用の状況⑥ 当該申請に係る障害者等に関する保健医療サービス又は福祉サービス等(第3号から前号までに掲げるものに係るものを除く。)の利用の状況⑦ 当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向の具体的内容⑧ 当該申請に係る障害者等の置かれている環境⑨ でに掲げるものに係るものを除く。)の利用の状況⑦ 当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向の具体的内容⑧ 当該申請に係る障害者等の置かれている環境⑨ 当該申請に係る障害福祉サービスの提供体制の整備の状況エ自立支援法22条4項に規定する厚生労働省令で定める期間は,1月間とする(13条)。 オ自立支援法23条に規定する厚生労働省令で定める期間は,支給決定を行った日から当該日が属する月の末日までの期間と次の各号に掲げる障害福祉サービスの種類の区分に応じ,当該各号に規定する期間を合算して得 た期間とする(15条1項)。 ① 重度訪問介護 1月間から12月間までの範囲内で月を単位として市町村が定める期間 自立支援法に基づく介護給付費支給決定については,被告において,「ア市介護給付費における支給決定基準」(以下「被告支給基準」という。)が定められており,重度訪問介護支給決定基準及び非定型の支給決定基準について,以下の定めがある(甲総3,乙総1)。 ア重度訪問介護支給決定基準 対象者障害程度区分4以上で,次の項目にいずれにも該当する者とする。 ① 二肢以上に麻痺等があること② 障害程度区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「できる」以外と認定されていること 基本時間の算出別紙被告支給基準1のとおり,障害程度区分と介護力の大きさをA・B・Cの3段階に分け,基本時間を算出する。  加算時間の算出別紙被告支給基準2のとおり,「住居の状況・世帯の状況に関すること」4項目,「本人の身体の状況に関すること」7項目で該当する項目におのおの評価点数を設ける。 別紙被告支 別紙被告支給基準2のとおり,「住居の状況・世帯の状況に関すること」4項目,「本人の身体の状況に関すること」7項目で該当する項目におのおの評価点数を設ける。 別紙被告支給基準2で算出した合計点数の区分ごとに,別紙被告支給基準3のとおり加算割合を乗じて加算時間数を算出する。  減算時間の算出別紙被告支給基準4のとおり,以下の項目について減算する。 ① ケアホーム入居者の経過的給付の場合,障害程度区分ごとに減算を行う。 ② 日中活動系サービスを利用している場合,障害程度区分ごとに減算を行う。 ③ 介護保険対象者の場合,障害程度区分ごとに減算を行う。 イ非定型の支給決定基準利用者の希望する支給決定量が,ア市が必要として勘案した支給決定案を著しく超過する場合は,ア市介護給付等の支給に関する審査会(以下「本件審査会」という。)に諮り,意見を聞いたうえで支給決定を行うものとする。 2 争いのない事実等 当事者等ア原告(昭和◇◇年◇月◇◇日生)は,ア市内に居住する者であり,筋萎縮性側索硬化症(ALS)による両上肢機能全廃,両下肢機能全廃,言語機能喪失の障害を有しており,身体障害者等級1級の認定を受けている(甲B2)。 イ被告は,普通地方公共団体であり,自立支援法に基づく介護給付費支給決定及び支給変更決定を行う権限を有している(同法19条1項,2項本文,24条1項,2項本文。上記1オカスセ)。 そして,被告においては,同法22条1項による介護給付費等の支給の要否の決定に関するア市長に属する権限が,ア市福祉事務所長(処分行政庁)に委任されている(ア市福祉事務所長に対する事務委任規則2条)。  本件の経緯ア平成19年度の支給決定 原告は 要否の決定に関するア市長に属する権限が,ア市福祉事務所長(処分行政庁)に委任されている(ア市福祉事務所長に対する事務委任規則2条)。  本件の経緯ア平成19年度の支給決定 原告は,平成19年4月13日,処分行政庁に対し,自立支援法に基づく介護給付費支給申請をした(乙B2)。 これに対し,処分行政庁は,同年5月29日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月130時間とする支給決定をした(乙B3。以下「平成 19年度当初決定」という。)。  原告は,同年8月30日,処分行政庁に対し,平成19年度当初決定につき,自立支援法に基づく支給決定変更申請をした(甲B4・2頁,乙B11・2頁)。 これに対し,処分行政庁は,同年9月4日付けで,支給量を1か月46時間増量し,1か月176時間とする支給決定変更決定をした(甲B4・1頁,乙B11・1頁)。  原告は,同年11月16日,処分行政庁に対し,さらに自立支援法に基づく支給決定変更申請をした(乙B4)。 処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記1イ)に該当すると判断して,平成20年1月8日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給決定をした(甲B5,6,乙B5)。 イ平成20年度の支給決定原告は,平成20年5月2日,処分行政庁に対し,自立支援法に基づく介護給付費支給申請をした(乙B6)。 これに対し,処分行政庁は,同年6月3日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(有効期間・平成20年6月1日から平成21年5月31日まで)をした(乙B7)。 ウ平成21年度の支給決定原告は,平成21年4月27日,処分行政庁に対し,介護給付費支給申請をした(乙B8)。 これに対し,処分行政庁 1日から平成21年5月31日まで)をした(乙B7)。 ウ平成21年度の支給決定原告は,平成21年4月27日,処分行政庁に対し,介護給付費支給申請をした(乙B8)。 これに対し,処分行政庁は,同年5月19日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(有効期間・平成21年6月1日から平成22年5月31日まで)をした(乙B9)。 エ平成22年度の支給決定  原告は,平成22年4月19日,処分行政庁に対し,介護給付費支給申請をした(甲B3・3頁)。 処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記1イ)に該当すると判断して,同年5月18日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする支給決定(有効期間・平成22年6月1日から平成23年5月31日まで)をした(甲B1,3,7。以下「平成22年度裁決前決定」という。)。  原告は,平成22年7月16日,平成22年度裁決前決定を不服として,エに対して審査請求をしたところ,エは,平成23年3月15日付けで,平成22年度裁決前決定を取り消す旨の裁決をした(甲B11。 以下「本件取消裁決」という。)。  本件取消裁決を受けて,処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記1イ)に該当すると判断し,同年5月31日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする支給決定(●●●(●)第●●●●号。有効期間・平成22年6月1日から平成23年5月31日まで)をした(甲B13,15ないし17。以下「平成22年度決定」という。)。  原告は,平成23年6月24日,平成22年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はまだされていない。 オ平成 7。以下「平成22年度決定」という。)。  原告は,平成23年6月24日,平成22年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はまだされていない。 オ平成23年度の支給決定 原告は,平成23年5月11日,処分行政庁に対し,重度訪問介護の支給量を1か月651時間以上とする介護給付費支給申請をした(甲B18・3頁)。 これに対し,処分行政庁は,同年5月31日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする支給決定(●●●(●)第▲▲▲▲号。 有効期間・平成23年6月1日から平成24年5月31日まで)をした(甲B14,18・1頁。以下「平成23年度決定」といい,平成22年度決定と併せて,「本件各決定」という。)。  原告は,平成23年6月24日,平成23年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はまだされていない。 3 争点 本件各決定について裁量権の逸脱濫用があるか 本件各決定について手続上の瑕疵があるか 義務付けの訴えが本案勝訴要件(行政事件訴訟法37条の3第5項)を具備するか 国家賠償請求が認められるか 原告の損害額 4 争点に対する当事者の主張 争点(本件各決定について裁量権の逸脱濫用があるか)について(原告の主張)ア 1日24時間の公的介護の必要性 以下のような原告の身体状況からすれば,原告には1日24時間の介護が必要である。 a 原告は,筋萎縮性側索硬化症(ALS)のため,わずかにまばたきができることと,左足の小指を少し動かせること以外に,自力で身体を動かすことができない。 b 原告は,自力で呼吸をすることができないので,気管にカニューレを装着し,人工呼吸器を使用して呼吸を たきができることと,左足の小指を少し動かせること以外に,自力で身体を動かすことができない。 b 原告は,自力で呼吸をすることができないので,気管にカニューレを装着し,人工呼吸器を使用して呼吸を行っている。介護者が,カニューレを2週間ごとに交換し,人工呼吸器を管理する必要がある。 c 原告は,自力で喀痰の排出及び唾液の嚥下をすることができないの で,介護者が喀痰及び唾液を吸引する必要がある。原告は,下記fのとおり,発声できないので,介護者は,原告の表情を見たり,喀痰がのどにからむ音を聞いて,適宜吸引を行う必要があり,その回数も一定ではない。そのため,介護者は,昼夜を問わず,常に,原告に付き添って,吸引が必要な状態かどうかを確認する必要がある。 d 原告は,自力で食事を摂取することができないので,平成19年4月に胃瘻を造設しており,胃瘻から1日3回,1回1時間をかけて栄養を摂取している。介護者は,この栄養摂取を介助し,その際,原告の目の動きを確認し,流入の速度を調節する必要がある。 e 原告は,自力で排尿及び排便することができない。介護者は,尿瓶や紙おむつの準備等を行う必要があるところ,紙おむつの準備やおむつ交換は1人で行うことができず,複数人で対応する必要がある。 f 原告は,発声できない。原告は,重度障害者用意思伝達装置(伝の心)を用い,パソコン画面に文字を表示して自己の意思を表示することができるが,文字入力に時間がかかり,直ちに意思を表示できない。 そのため,原告の介護に慣れた介護者が,原告の顔の表情やアイコンタクトを読み取ってコミュニケーションを取る必要がある。また,原告は,様態に変化が生じても発声できないので,1日24時間絶えず,誰かが原告の側にいて,異変があればすぐに察知できるようにしておく必要がある。 g ってコミュニケーションを取る必要がある。また,原告は,様態に変化が生じても発声できないので,1日24時間絶えず,誰かが原告の側にいて,異変があればすぐに察知できるようにしておく必要がある。 g 原告は,痛み,痒み,暑さ,寒さ等を知覚することはできるが,自力で体位交換することができない。そのため,介護者が,適宜原告の体位交換をする必要がある。  以下のような事情からすれば,原告の妻のカによる単独の介護は不可能である。 a 上記のとおり,原告には1日24時間の介護が必要であるが,カ にも,一人の人間として,睡眠,休養,趣味等の時間が必要であるし,家事の時間も必要である。 b カは,高齢である上,左変形性股関節症と診断されていて,歩行も困難な状態である。また,血圧も高く,心不全を患っており,いつ発作を起こして倒れるかわからない。 cALS患者の介護は長時間で相当な重労働であるから,カが単独で原告の介護を行うことは,その身体的,精神的負担の限界を超えている。そのため,カが,介護疲れで眠り込んでしまい,喀痰及び唾液の吸引ができずに,原告が呼吸困難に陥る可能性もある。 d 原告の人工呼吸器に異常が発生しても,カ1人では素早く的確な対応を取ることができず,原告が呼吸困難に陥る可能性がある。 e 原告は,現在,訪問介護事業所である株式会社▽▽▽▽▽▽▽(以下「▽▽▽▽▽▽▽」という。)からヘルパーの派遣を受け,現実に1日24時間の介護サービスが行われているが,これはカによる単独の介護が困難であるためである。 イ本件各決定の違法性 自立支援法,本件規則及び平成19年4月13日付けで厚生労働省から出された事務連絡(甲総2)によれば,市町村は,自立支援法に基づく介護給付費の支給量を決定する際には,申請者の心身の状況及び介  自立支援法,本件規則及び平成19年4月13日付けで厚生労働省から出された事務連絡(甲総2)によれば,市町村は,自立支援法に基づく介護給付費の支給量を決定する際には,申請者の心身の状況及び介護を行う者の状況等すべての勘案事項に関する個々人の事情を適切に考慮して,日常生活に支障が生じないように配慮して決定しなければならない。市町村が,上限を設定してそれを下回るように支給量を決定することはできない。 上記アの原告の事情を適切に考慮すれば,1日24時間の公的介護を前提とした支給量が必要である。しかし,処分行政庁は,個別具体的な事情を調査又は考慮せず,1日8時間という事実上の上限を機械的に適 用して,本件各決定の支給量を決定した。また,処分行政庁は,カが1日12時間という長時間にわたって多大な負担となる介護を行うことが可能であるという前提で,本件各決定の支給量を決定した。しかし,このように,障害者を抱える家族は自己の生活を犠牲にして我慢するべきであるという考え方は許されない。  障害者権利条約19条は,締約国に対して,障害のあるすべての人に対し,「他の者と平等の選択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利」を認め,締約国は,「障害のある人が,他の者との平等を基礎として,居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること,並びに特定の生活様式で生活するよう義務付けられないこと」等を確保することとしている(同条約19条)。日本国政府は,同条約を批准していないが,同条約に署名している。条約法に関するウィーン条約18条は,批准を条件として条約に署名した場合には,その署名の時から条約の当事国とならない意図を明らかにするまでの間,条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務があるとしている。 准を条件として条約に署名した場合には,その署名の時から条約の当事国とならない意図を明らかにするまでの間,条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務があるとしている。 したがって,処分行政庁は,障害者権利条約の趣旨に反するような行為を行ってはならない。 また,同条約が定める「他の者と平等の選択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利」は,日本においても,憲法13条,14条1項,22条1項,25条によって保障されており,住む地域によって異なる取扱いを受けることがあってはならない。 現在,多くの自治体で,重度の身体障害者に1日24時間の公的介護が提供されており,1日24時間以上の公的介護が提供されている例も多くある。北海道や岐阜県では,ALS患者で家族と同居している場合でも,1日ほぼ24時間の公的介護が認められている。ア市内では,1日24時間の公的介護が認められている例はないが,他の市区町村では, 重度の障害者に1日24時間の公的介護が提供されているから,原告にも1日24時間の公的介護が提供されるべきである。 しかるに,本件各決定は,1日24時間の公的介護を前提とした支給量とはなっていないので,障害者権利条約及び憲法に反している。  原告に現実に1日24時間の介護サービスが行われているのは,生命維持に必要不可欠であるためやむを得ないという▽▽▽▽▽▽▽やヘルパーの善意によるものにすぎない。したがって,自立支援法に基づく介護給付費の支給量を決定する際に,これを考慮して,1日24時間の公的介護を前提とした支給量をしなくてよいというものではない。  したがって,本件各決定は,処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用した違法な処分である。 (被告の主張)ア 1日24時間の公的介護の必要性につい た支給量をしなくてよいというものではない。  したがって,本件各決定は,処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用した違法な処分である。 (被告の主張)ア 1日24時間の公的介護の必要性について 原告には1日24時間の介護が必要であるとの主張は,否認する。 a 原告は,1日24時間継続した人工呼吸器の管理が必要であると主張するが,不測の事態の発生に対する危惧にすぎない。緊急の場合には,警報機の作動によって緊急事態を察知することができるので,1日24時間緊張した状態で介護するまでの必要はない。また,人工呼吸器自体の管理の必要性は,介護の必要性とは無関係である。人工呼吸器の使用による合併症も,原告に必ず起こるわけではないし,1日24時間の介護の必要性とは必ずしも関係がない。 b 喀痰及び唾液の吸引は,専門性の高い技術ではなく,在宅療養者の家族等が医師の適切な指導の下で,技術を習得できるものであり,現実にカも吸引を行っている。また,吸引のために,介護者が原告を常に注視する必要性もない。 c 原告のおむつ交換のために1日24時間の介護が必要になるわけでは ない。 d 処分行政庁が,平成21年4月に調査した際には,1人のヘルパーで3日間続けて介護に当たっていたところ,それで対応できていたから,その当時の支給量でも原告の様態は安定していたといえる。 e 原告の介護を行うヘルパーとカは,夜一緒に寝て朝一緒に起きているところ(甲B21・23頁),それでも現在までに大きな事故が起きていないから,1日24時間絶えず介護をする必要はないはずである。  原告の妻であるカによる単独の介護は不可能であるとの主張は,否認する。 a ヘルパーが食事や入浴をしているときには,カが単独で原告の介護を行っている。また,ヘルパーが手術をした際に である。  原告の妻であるカによる単独の介護は不可能であるとの主張は,否認する。 a ヘルパーが食事や入浴をしているときには,カが単独で原告の介護を行っている。また,ヘルパーが手術をした際に,カが単独で4,5時間介護を行ったこともあった。 b 処分行政庁は,カに単独での1日24時間の介護を押し付けているわけではなく,そのような想定もしていない。また,処分行政庁は,カに単独での介護を押し付けているわけではなく,公的介護という性質から,家族としての介護がなされることを前提として支給量を決定しただけである。 c 原告は,本件各決定の支給量で,訪問介護事業所である▽▽▽▽▽▽▽からヘルパーの派遣を受け,現実に1日24時間の介護サービスが行われている。事業所が採算性を度外視しているとは考えられない。  原告の主張する支給量の支給決定をすることと,原告の介護をするヘルパーを確保することとは必ずしも結びつくものではなく,関連性がない。  原告の見守り介護は,実際は,気を付けながら原告の様子を見守るという程度のものであり,現在も続けられている。処分行政庁は,このような介護について,1日24時間のすべてに公費を提供する必要まではないと判断したのであり,この判断は適正である。 イ本件各決定の違法性について自立支援法は,障害者について障害福祉サービスを支給するかどうか,支給する場合にいかなる種類の障害福祉サービスをどれだけの支給量で支給するかという判断については,勘案事項に係る調査結果を踏まえた市町村の合理的な裁量に委ねている。 処分行政庁は,1日8時間という上限を設定しておらず,個別具体的な事情を考慮して本件各決定の支給量を決定した。 そして,原告の症状や生活状況,家族の状況,経済状況,ア市内に在住するALS患者の支給 処分行政庁は,1日8時間という上限を設定しておらず,個別具体的な事情を考慮して本件各決定の支給量を決定した。 そして,原告の症状や生活状況,家族の状況,経済状況,ア市内に在住するALS患者の支給量の実績,1日24時間の公的介護を提供しない市町村が全国的にもかなりの数に上っていること等に照らすと,支給量を1か月268時間とする本件各決定が,処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用した違法な処分であるとまではいえない。  争点(本件各決定について手続上の瑕疵があるか)について(原告の主張)本件各決定は,原告の申請した支給量の一部のみを認める一部拒否処分であるから,一部拒否の理由を決定に付記しなければならない。しかるに,本件各決定には一部拒否の理由が付記されていない。よって,本件各決定には手続上の瑕疵があり,違法である。 (被告の主張)否認ないし争う。  争点(義務付けの訴えが本案勝訴要件を具備するか)について(原告の主張)ア上記(原告の主張)アのとおり,原告には1日24時間の公的介護が必要である。そして,原告は,現在週1回の訪問入浴を受けているが,週2回にすることを希望しているおり,これを前提とすると,介護保険法による介護保険で賄われる訪問介護サービスは1日3時間を超えることはな い。したがって,処分行政庁は,原告に対し,1か月651時間((24時間-3時間)×31日=651時間)の重度訪問介護による介護給付費の支給決定をするべきであり,そのような支給決定をしないことは,処分行政庁に与えられた裁量権の逸脱濫用となる。 イよって,行政事件訴訟法37条の3第5項の定める義務付けの訴えの本案勝訴要件を具備する。 (被告の主張)ア上記(被告の主張)のとおり,本件各決定は,処分行政庁に与えられ 用となる。 イよって,行政事件訴訟法37条の3第5項の定める義務付けの訴えの本案勝訴要件を具備する。 (被告の主張)ア上記(被告の主張)のとおり,本件各決定は,処分行政庁に与えられた裁量権の逸脱濫用には当たらないから,1か月651時間の支給決定をしないことが,処分行政庁に与えられた裁量権の逸脱濫用となるものではない。 イよって,行政事件訴訟法37条の3第5項の定める義務付けの訴えの本案勝訴要件を具備しない。  争点(国家賠償請求が認められるか)について(原告の主張)ア処分行政庁は,平成19年度当初決定時には,原告が介護保険と併せて1日24時間の公的介護を求めていたこと,原告が1日24時間の介護を必要とする身体状況にあること,原告の妻のカが1日に何時間も原告の介護をすることができない健康状態であること,その他原告の介護環境等を十分に把握していた。その後,処分行政庁は,実際に,カが十分に原告を介護できないため,▽▽▽▽▽▽▽が無償で原告に1日24時間の介護サービスを行わざるを得なくなっていることや,▽▽▽▽▽▽▽による介護体制も,過酷なヘルパーの勤務体制等のために,いつ崩壊してもおかしくない状況であることを把握した。 しかるに,処分行政庁は,何の根拠もないのに,1か月268時間という支給量を事実上の上限とし,上記のような原告の個別事情を考慮す ることなく,平成19年度ないし平成23年度の各支給決定をした。 イ原告が,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする平成22年度裁決前決定に対して審査請求をしたところ,エが,「本人がどのような生活をしていきたいのかを十分に考慮する必要がある」,「上限枠を設けるのは適当でないと考えられる」などとして,同決定を取り消す旨の本件取消裁決をした。それにもか したところ,エが,「本人がどのような生活をしていきたいのかを十分に考慮する必要がある」,「上限枠を設けるのは適当でないと考えられる」などとして,同決定を取り消す旨の本件取消裁決をした。それにもかかわらず,処分行政庁は,同裁決に従わず,支給量を1か月268時間とする平成22年度決定をした。 ウ以上によれば,処分行政庁は,公務員として尽くすべき注意義務を怠り,漫然と違法な平成19年度当初決定から平成23年度決定までの一連の介護給付費支給決定等をした。したがって,国家賠償法1条1項による損害賠償請求は認められる。 (被告の主張)アそもそも,本件各決定には,処分行政庁に与えられた裁量権の逸脱濫用はないので,原告の主張する重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする支給決定をしなくても,処分行政庁が公務員として尽くすべき注意義務を怠ったとはいえない。 そして,処分行政庁は,1日8時間という支給量の上限を設けていない。原告の身体状況,家族状況,他の受給者との整合性,他のサービスの利用状況を適切に勘案し,公費であることも考慮して,平成19年度当初決定から平成23年度決定までの支給量を決定したのである。 イ本件取消裁決は,処分行政庁と原告が再度協議し,支給量を検討すべきであることを理由として平成22年度裁決前決定を取り消したものであり,1か月268時間という支給量が不足であることを理由とするものではない。そして,処分行政庁は,本件取消裁決の後,再度原告の主治医の意見を聴き,原告宅を改めて訪問して調査し,その調査結果を総合的に判断して平成22年度決定の支給量を決定した。したがっ て,処分行政庁は,本件取消裁決を無視したわけではない。 ウ以上によれば,処分行政庁が尽くすべき注意義務を怠り,漫然と平成19年度当初決定から平成2 年度決定の支給量を決定した。したがっ て,処分行政庁は,本件取消裁決を無視したわけではない。 ウ以上によれば,処分行政庁が尽くすべき注意義務を怠り,漫然と平成19年度当初決定から平成23年度決定までの一連の介護給付費支給決定等をしたわけではない。したがって,国家賠償法1条1項による損害賠償請求は認められない。  争点(原告の損害額)について(原告の主張)原告は,平成19年に自宅で生活を始めて以来,ずっと1日24時間介護が必要な状態にある。原告の妻のカも健康ではなく,原告の介護を十分にできる状態ではない。そうであるにもかかわらず,原告は,十分な介護給付費支給決定を受けることができず,毎日命の危険にさらされるような生活を余儀なくされており,住み慣れた地域で自分らしく生活する人としての当然の権利を侵害されている。これによって原告が負う精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,少なく見積もっても100万円を下回らない。 (被告の主張)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記第2の1,2の事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。  筋萎縮性側索硬化症(ALS)について(甲総8,16,24,29の1ないし3,42)ア筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは,大脳皮質運動野の上位運動ニューロン(UMN)と脳幹及び脊髄前角の下位運動ニューロン(LMN)の両方が障害される進行性の神経変性疾患であり,難病指定されている。人口10万人当たり2ないし7人の割合で発症するが,紀伊半島はALSの多 発地帯であるとされている。初発症状は筋萎縮と筋力低下がほとんどで,手足の脱力から始まり,次第に全身の筋力低下が進行し,運動神経が障害を受ける。ALSの神経徴候は,UMNの障害によるもの 発地帯であるとされている。初発症状は筋萎縮と筋力低下がほとんどで,手足の脱力から始まり,次第に全身の筋力低下が進行し,運動神経が障害を受ける。ALSの神経徴候は,UMNの障害によるものとして,腱反射亢進,病的反射陽性,四肢の痙性麻痺,強制笑い及び強制泣きがあり,LMNの障害によるものとして,四肢体幹筋の萎縮,弛緩性麻痺,球麻痺(舌の萎縮,線維束性収縮,嚥下障害,構語障害),顔面筋委縮及び筋力低下等がある。進行性の経過をとり,平均で3年から5年で呼吸不全に陥る。 ALSの原因は不明で,有効な治療法はなく,ALS治療薬も軽度に進行を抑制するにとどまる。そして,嚥下障害に対しては,経管栄養や胃瘻造設を検討し,呼吸不全に対しては,患者の意思を確認しながら人工呼吸器の装着を検討することになる。 イ人工呼吸器のトラブルとしては,人工呼吸器そのものの故障や人工呼吸器取扱い時の出血,細菌感染,喀痰による気道の閉塞等が起こりうる。人工呼吸器を装着したALS患者の場合,そのようなトラブルが発生すれば,自発呼吸ができないので,生命の危険が生じる。そのため,1日24時間の監視が必要であり,不測の事態が発生したときに10分以上放置されないことが望まれるとされている。 ウ ALS患者は,自力で喀痰及び唾液の排出ができないので,気管内に喀痰が貯留し,窒息状態になるため,気管内吸引が必要である。1回の気管内吸引に要する時間は数分程度であり,1日の吸引回数について1日に10回から50回くらい(平均29回)との調査結果もある(甲総29の3・6頁)。気管内吸引は,本来,看護師が行うのが最も望ましいが,在宅での人工呼吸器の使用では,家族に気管内吸引を指導して,日常的な吸引を行う必要があるとされている。また,ホームヘルパーによる気管内吸引についても,手技 は,本来,看護師が行うのが最も望ましいが,在宅での人工呼吸器の使用では,家族に気管内吸引を指導して,日常的な吸引を行う必要があるとされている。また,ホームヘルパーによる気管内吸引についても,手技を獲得した者が,ALS患者に限って,家族との契約関係において行うことが許容されている。  本件の経緯ア平成19年度の支給決定 原告は,平成19年4月13日,処分行政庁に対し,自立支援法に基づく介護給付費支給申請をした(乙B2)。 これに対し,処分行政庁は,同年5月29日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月130時間とする支給決定(平成19年度当初決定)をした(乙B3)。  原告は,同年8月30日,処分行政庁に対し,平成19年度当初決定につき,重度訪問介護の支給量を1か月620時間とする支給決定変更申請をした(甲B4・2頁,乙B11・2頁,弁論の全趣旨)。 これに対し,処分行政庁は,同年9月4日付けで,支給量を1か月46時間増量し,1か月176時間とする支給決定変更決定をした(甲B4・1頁,乙B11・1頁)。  原告は,同年11月16日,処分行政庁に対し,さらに重度訪問介護の支給量を1か月300時間とする支給決定変更申請をした(乙B4)。 被告支給基準における重度訪問介護支給決定基準(上記第2の1ア)に従った算定では1か月176時間になったため,処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記第2の1イ)に従って決定することとした(甲B5)。 そこで,処分行政庁は,以下の案を作成し,本件審査会に諮問した(甲B5)。 a 1か月248時間=8時間/日×31日b 夜間緊急分 1か月20時間c 合計 1か月268時間 本件審査会は,以下の内容の討議を行 の案を作成し,本件審査会に諮問した(甲B5)。 a 1か月248時間=8時間/日×31日b 夜間緊急分 1か月20時間c 合計 1か月268時間 本件審査会は,以下の内容の討議を行い,平成20年1月8日,処分行政庁に対し,上記の案を承認する旨の諮問結果を通知した(甲B6)。 a 事務局は,「原告は,現在,24時間体制でヘルパーの支援を受けている。支給時間以外の支援については,自費で対応している。ア市では,24時間の公的な支援はしておらず。以前同じ病状・介護力のケースについて1日8時間を公費算定した」と説明した。 b 委員の「希望時間は1日10時間であるが,8時間が公費で負担する最大の時間となるのでしょうか。8時間の根拠は何かあるのでしょうか。」との質問に対し,事務局が「最大の時間と決まってはいません。独居で最重度身体障害者で,重度訪問介護として1か月377時間(12時間/日)支給しているケースもあります。」と説明した。 c 委員の「1日8時間の支給量については,呼吸器の状態(吸引回数等)等身体的な状態,家族の介護技術力の習得,経済力等について改善や悪化があった場合は変更となるのでしょうか。」との質問に対し,事務局が「現在,これ以上の時間を支給決定することは,難しいと思います。」と説明した。 d 委員が,「経済的な負担や介護者の負担を検討すれば,支給時間がもっとあればいいと思われるが,同じ状況のケースについて,1日8時間の算定で決定しているということであり,整合性を考え,支給決定案どおり承認する。今後,8時間の時間算定根拠について検討をお願いしたい。」として,処分行政庁の上記の案を承認した。  処分行政庁は,同日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする支給決定をした(乙B5)。 イ 時間算定根拠について検討をお願いしたい。」として,処分行政庁の上記の案を承認した。  処分行政庁は,同日付けで,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする支給決定をした(乙B5)。 イ平成20年度の支給決定原告は,平成20年5月2日,処分行政庁に対し,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給申請をした(乙B6,7)。 これに対し,処分行政庁は,本件審査会に諮問した上で,同年6月3日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(有効期間・平成20 年6月1日から平成21年5月31日まで)をした(甲B9の2,乙B7)。 ウ平成21年度の支給決定原告は,平成21年4月27日,処分行政庁に対し,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給申請をした(乙B8)。 これに対し,処分行政庁は,本件審査会に諮問した上で,同年5月19日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(有効期間・平成21年6月1日から平成22年5月31日まで)をした(甲B9の3,乙B9)。 エ平成22年度の支給決定 原告は,平成22年4月19日,処分行政庁に対し,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給申請をした(甲B3・11頁。なお,原告は,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給申請をしたと主張するが,このような支給量で申請したことを認めるに足りる証拠はない。)。 被告支給基準における重度訪問介護支給決定基準(上記第2の1ア)に従った算定では1か月206時間になったため,処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記第2の1イ)に従って決定することとした(甲B3)。 そこで,処分行政庁は,以下の案を作成し,本件 たため,処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記第2の1イ)に従って決定することとした(甲B3)。 そこで,処分行政庁は,以下の案を作成し,本件審査会に諮問した上で,同年5月18日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(平成22年度取消前決定。有効期間・平成22年6月1日から平成23年5月31日まで)をした(甲B1,3,7,9の4)。 a 主たる介護者である原告の妻の就寝時間等相当分1か月248時間=8時間/日×31日b 原告の妻の体調不良等やむを得ない場合の緊急時対応分1か月20時間 c 合計 1か月268時間 原告は,同年7月16日,平成22年度取消前決定を不服として,エに対して審査請求をしたところ,同知事は,平成23年3月15日付けで,平成22年度取消前決定を取り消す旨の裁決(本件取消裁決)をした(甲B11)。  本件取消裁決を受けて,処分行政庁は,平成22年度の支給決定を再度行うこととなった。 被告支給基準における重度訪問介護支給決定基準(上記第2の1ア)に従った算定では1か月206時間になったため,処分行政庁は,原告の健康状態や希望する支給量等を勘案し,被告支給基準における非定型(上記第2の1イ)に従って決定することとした(甲B17)。  処分行政庁は,同年5月11日,原告の主治医のオ医師から,原告の病状や介護の状況等についての聴き取り調査を行った(甲B17・15頁以下)。  処分行政庁は,同月18日,以下の案を作成し,本件審査会に諮問した(甲B15)。 a 主たる介護者である原告の妻の就寝時間等相当分1か月248時間=8時間/日×31日b 原告の妻の体調不良等やむを得ない場合の緊急時対応分1か月20時間 会に諮問した(甲B15)。 a 主たる介護者である原告の妻の就寝時間等相当分1か月248時間=8時間/日×31日b 原告の妻の体調不良等やむを得ない場合の緊急時対応分1か月20時間c 合計 1か月268時間 本件審査会は,以下の内容の討議を行い,同月31日,処分行政庁に対し,本件審査会の意見を基に再検討し支給決定をするように求める旨の諮問結果を通知した(甲B16)。 a 事務局は,本件取消裁決が,1か月268時間の支給量では不足であるとはっきり言い切っているわけではなく,再検討が必要であると しているものであり,再検討の結果,1か月268時間の支給量となることもありうることを説明した。 また,原告の妻のカの体調が悪化して介護できなくなるのであれば,支給量を考え直さなければならないと考えているが,他の受給者との整合性に加えて,1日8時間ならば,介護保険法による介護保険による介護も含め,1日の2分の1は公費で賄われることを考慮して,現状では,1か月268時間の支給量でよいと考えている旨を説明した。 さらに,原告がヘルパーによる24時間介護を受けており,その費用を実費で払っている旨の説明をした。 b そして,委員は,原告が現に受けている24時間介護のうちいくらを公費で賄うかの問題であるとの結論に至り,上記の諮問結果となった。  処分行政庁は,上記の諮問結果を受けて,同日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(平成22年度決定。●●●(●)第●●●●号。有効期間・平成22年6月1日から平成23年5月31日まで)をした(甲B13,17)。  原告は,同年6月24日,平成22年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はされていない。 オ平成23年度の 31日まで)をした(甲B13,17)。  原告は,同年6月24日,平成22年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はされていない。 オ平成23年度の支給決定 原告は,平成23年5月11日,処分行政庁に対し,重度訪問介護の支給量を1か月651時間以上とする介護給付費支給申請をした(甲B18・3頁)。 これに対し,処分行政庁は,同年5月31日付けで,支給量を1か月268時間とする支給決定(平成23年度決定。●●●(●)第▲▲▲▲号。有効期間・平成23年6月1日から平成24年5月31日まで)を した(甲B14,18・1頁)。  原告は,同年6月24日,平成23年度決定を不服として,エに対して審査請求をした(甲B19)。 これに対する裁決はまだされていない。 カ障害程度区分原告は,平成19年度の支給決定の当時(上記ア),処分行政庁から,自立支援法における障害程度区分を最重度の区分6とする認定を受けていたところ(乙B3),平成22年5月18日,再び区分6とする認定を受けた(甲B3・9頁)。  原告の身体状況等(甲総42,60,70,甲B8,15ないし18,21,24の1,26)ア現在に至るまでの状況 原告は,平成18年6月ころ,ALSの診断を受けた。  原告は,同年12月ころ,寝たきりとなり,平成19年3月ころには,嚥下等が困難な状態となり,その後,胃瘻を造設され,人工呼吸器を常時装着するようになった。 イ現在の状況 原告は,全身の筋肉が麻痺しており,身体の中で動かすことができるのは目と左足の小指だけで,それ以外の部分を動かすことができない。 そのため,ベッドの上で寝たきりの状態であり,車椅子に乗ることもできず,介助者が体位交換を行わなけれ り,身体の中で動かすことができるのは目と左足の小指だけで,それ以外の部分を動かすことができない。 そのため,ベッドの上で寝たきりの状態であり,車椅子に乗ることもできず,介助者が体位交換を行わなければならない。  原告は,自力で呼吸することができないので,人工呼吸器で呼吸を維持している。人工呼吸器やその周辺機器等に異常が発生した場合には,介助者が,手動の人工呼吸器で,直ちに原告の呼吸を確保しなければならない。  原告は,自力で食物を嚥下することができないので,胃瘻で流動食を 摂取している。この流動食は,1日に3回摂取するが,気管や肺への逆流を防止するため,1回の摂取に約1時間かかり,その後,使用した管の洗浄を行わなければならない。  原告は,自力でたんや唾液を嚥下することができず,口や喉にたんや唾液が溜まりやすく,たんや唾液が気管に入ると呼吸困難や肺炎を起こす可能性があるので,介助者が,頻繁に吸引しなければならない。  原告は,自力で排尿することができないので,おむつを装着し,下記の方法で尿意を介助者に伝え,介助者があてがった尿瓶に排尿している。 また,原告は,週に3回程度,敷いた紙おむつの上に排便している。  原告は,発声することができないが,左足の小指で,重度障害者用意思伝達装置「伝の心」を操作し,意思表示をすることができる。ただし,この操作には時間がかかるので,迅速に伝えることは困難である。 また,原告は,まばたきによって,他者からの問いかけに対し肯否の意思表示をすることができる。  一方,原告は,聴覚,触覚,知能に異常等はない。  原告の介護の状況等(甲総60,70,甲B10,15ないし18,21ないし23,24の1・2,26,弁論の全趣旨)ア原告は,妻のカ(昭和■■年■月■日生)及び ,触覚,知能に異常等はない。  原告の介護の状況等(甲総60,70,甲B10,15ないし18,21ないし23,24の1・2,26,弁論の全趣旨)ア原告は,妻のカ(昭和■■年■月■日生)及び母のキ(大正▼年▼月▼▼日生)の3人で居住している(甲B18・5頁)。 カは,平成22年4月22日に,平成15年ころから左変形性股関節症を発症し,全人工股関節置換術の必要があると診断されている(甲B10)。 また,高血圧で,めまいもある(甲B10,21)。そして,平成23年5月26日には,平成21年10月1日ころから,左変形性股関節症に加えて,変形性脊椎症を発症しているとも診断されており(甲B22),平成23年6月1日の調査時には,5メートルの独歩も不安定で,自宅では 所々伝え歩きをし,外出時には杖を使っており,右膝痛で立ち座りが困難なため,買い物にも行けない状態が続いていた(甲23)。 キは,平成22年4月,脳梗塞で入院し,現在もク病院に入院している。 イ原告とカの長男であるケが,ア市内で,妻及び3人の子と居住しているが,原告の介護は行っていない。 ウカ及びケ以外の原告の親族等で,原告の介護ができる人はいない。 エ原告は,▽▽▽▽▽▽▽から,訪問介護員(ヘルパー)2名の派遣を受けている。 2名のヘルパーは,通常,1週間のうち5日間とその余の時間を交代で分担して,24時間,原告の居宅介護を行っている。 オ原告は,1か月に2回,ALSの訪問診療を受け,2週間に1回,目の乾燥や充血に関する訪問診療を受け,1か月に1回,歯の診察の訪問診療を受け,1週間に1回,口腔ケアに関する訪問診療を受けている(甲B17・7頁)。 また,原告は,1週間に4ないし5回,訪問看護を受け,1週間に2回,訪問マッサージを受け,1週間に1回,訪問入浴 療を受け,1週間に1回,口腔ケアに関する訪問診療を受けている(甲B17・7頁)。 また,原告は,1週間に4ないし5回,訪問看護を受け,1週間に2回,訪問マッサージを受け,1週間に1回,訪問入浴のサービスを受けている(甲B17・6,7頁,甲B18・7頁)。  原告家族の経済状況等(甲総60,甲B17,18,20,21,弁論の全趣旨)ア原告は,2か月で約65万円の年金を受給し,カは,2か月で約8万円の年金を受給しており,その他に特別障害者手当等による収入が1か月で約3万5000円ある。 イ原告及びカが,ヘルパーを常に雇うに足りる十分な資産を有すると認めるに足りる証拠はない。 ウ原告は,介護保険に関して要介護5の認定を受けており,介護保険法に基づいて,訪問介護,夜間対応型訪問介護及び福祉用具貸与等について, 介護給付を受けている。 エ原告は,1日当たり8時間分の介護については自立支援法による介護給付費の支給として,1日当たり3.5時間分の介護については介護保険法による介護給付として,それぞれ公的給付を受けている。 ▽▽▽▽▽▽▽のヘルパーによる介護のうち,1日当たり11.5時間分については,この公的給付によって賄われている。 オ原告は,介護保険法に係る保険料及び自立支援法に係る利用者負担金以外に,自身の介護サービスに関する支出をしていない。 2 平成22年度決定の取消請求及び同年度の介護給付費支給決定の義務付け請求について 上記1エのとおり,原告は,平成22年度の介護給付費支給申請として,重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする申請をし,これに対して,処分行政庁が重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給決定(平成22年度決定)をしたことが認められる。そうすると,平成2 護の支給量を1か月268時間とする申請をし,これに対して,処分行政庁が重度訪問介護の支給量を1か月268時間とする介護給付費支給決定(平成22年度決定)をしたことが認められる。そうすると,平成22年度決定は,原告が申請したとおりの内容であるから,その取消しを求める訴えの利益は認められない。また,平成22年度の介護給付費支給申請に対して,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給決定の義務付けを求める訴えの利益も認められない。  よって,本件訴えのうち,平成22年度決定の取消しを求める部分及び平成22年度の介護給付費の支給決定を求める部分は不適法であるから,却下を免れない。 3 審査請求の前置について自立支援法に基づく介護給付費支給決定の取消しを求める訴えは,当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができない(行政事件訴訟法8条1項ただし書き,自立支援法105条,97条1項)。しかし,上記1オのとおり,原告は,平成23年6月24日,平成23年度 決定を不服として,エに対して審査請求をしたところ,未だ裁決がされておらず,同審査請求があった日から既に3か月が経過している。したがって,原告は,裁決を経ないで平成23年度決定の取消しの訴えを提起することができる(行政事件訴訟法8条2項1号)。 4 争点(本件各決定について裁量権の逸脱濫用があるか)について 判断の枠組みア自立支援法21条1項は,市町村は,介護給付費の支給申請があったときは,政令で定めるところにより,市町村審査会が行う当該申請に係る障害者等の障害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行うものとする旨規定し,同法22条1項は,市町村は,支給申請に係る障害者等の障害程度区分,当該 会が行う当該申請に係る障害者等の障害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行うものとする旨規定し,同法22条1項は,市町村は,支給申請に係る障害者等の障害程度区分,当該障害者等の介護を行う者の状況,当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して介護給付費等の支給の要否の決定を行うものとする旨規定し,同条4項は,市町村は,支給決定を行う場合には,障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として厚生労働省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービスの支給量を定めなければならない旨規定している。そして,本件規則12条は,自立支援法22条1項の勘案事項として,当該申請に係る障害者等に関する介護給付費等の受給の状況や当該申請に係る障害者等の置かれている環境その他を掲げている。 このように,自立支援法及び本件規則は,市町村が支給の要否及び障害福祉サービスの種類とその支給量を決定するについて,勘案事項を勘案すべきことを規定するほか何ら具体的な基準を置いていないし,これらの勘案事項には,抽象的,概括的な事項も含まれている。また,指定障害福祉サービス等は,都道府県知事が指定する指定障害福祉サービス事業者等が行うものであるが(自立支援法29条1項),指定障害福祉サービス事業 者等の指定は,障害福祉サービス事業を行う者の申請により,事業所ごとに行われるものであるから(同法36条1項),指定障害福祉サービス事業者の数,規模,分布等の障害福祉サービスの提供に係る人的,物的諸条件は,全国一律ではなく,人口,年齢構成,地勢及び経済状況その他の地域の具体的状況に応じて市町村ごとに当然に異なるものであり,本件規則12条9号も,勘案事項の一つとして スの提供に係る人的,物的諸条件は,全国一律ではなく,人口,年齢構成,地勢及び経済状況その他の地域の具体的状況に応じて市町村ごとに当然に異なるものであり,本件規則12条9号も,勘案事項の一つとして,当該申請に係る障害福祉サービスの提供体制の整備の状況を掲げている。 以上のような障害福祉サービスの支給に係る自立支援法及び本件規則の規定並びにその提供の在り方等に照らすと,自立支援法は,障害者について障害福祉サービスを提供するかどうか,支給する場合に,どのような種類の障害福祉サービスをどれほどの支給量をもって支給するかという判断については,勘案事項に係る調査結果を踏まえた市町村の合理的裁量に委ねているものと解するのが相当であり,市町村が行う支給要否の決定並びに支給をする場合における障害福祉サービスの種類及び支給量の決定は,その判断の基礎となる事実に看過し難い誤りがあり,あるいはその判断内容が社会通念に照らして明らかに合理性を欠くこと等により,処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用にわたるものと認められるような場合に限って違法になるというべきものである。 イそして,自立支援法及び本件規則は,支給要否の決定及び障害福祉サービスの種類と支給量の決定について,勘案すべき事項を列挙するとともに,支給決定に至る手続を詳細に規定している。さらに,自立支援法は,勘案事項の一つである障害程度区分の認定及び支給要否決定をするに当たって考慮すべき事項を規定するにとどまらず,これらの判断に際してとるべき手続を詳細に規定し,この手続の過程において,当該申請に係る障害者等のほか医師その他の専門家を関与させることにより,支給要否の決定並び に支給決定をする際の障害福祉サービスの種類及び支給量の決定が,当該障害者等の個別具体的な事情に即応す 申請に係る障害者等のほか医師その他の専門家を関与させることにより,支給要否の決定並び に支給決定をする際の障害福祉サービスの種類及び支給量の決定が,当該障害者等の個別具体的な事情に即応するものとなるように,その判断の過程を通じて合理性の確保を図っているものということができる。さらに,自立支援法における障害者には多様なものが含まれ(自立支援法4条1項参照),その障害の種類,内容及び程度はそれぞれ異なるから,障害者等一人一人の個別具体的な障害の種類,内容及び程度を考慮しなければ,自立支援法の趣旨目的(同法1条)を達成することは困難である。 このような介護給付費の支給決定の手続に係る自立支援法の規定,自立支援法の趣旨目的及び障害福祉サービスの性質からすると,市町村が行う支給要否の決定並びに支給決定を行う場合における障害福祉サービスの種類及び支給量の決定が裁量権の範囲を逸脱濫用したものとして違法となるかどうかの判断は,当該決定に至る判断の過程において,勘案事項を適切に調査せず,又はこれを適切に考慮しないことにより,上記の各決定内容が,当該申請に係る障害者等の個別具体的な障害の種類,内容及び程度その他の具体的な事情に照らして,自立支援法の趣旨目的(同法1条)に反しないかどうかという観点から検討すべきである。  平成23年度決定について上記1エ,オによれば,処分行政庁は,主たる介護者であるカの就寝時間等相当分として1日8時間(1か月248時間)を想定し,カが起床中は,原則として,カが1人で原告に対するすべての介護サービスを行うべきという前提で,平成23年度決定を行ったことが認められる。 しかし,上記1のとおり,原告が,体位変換,呼吸,食事,排たん,排泄等,生存に係るおよそすべての要素について,他者による介護を必要 行うべきという前提で,平成23年度決定を行ったことが認められる。 しかし,上記1のとおり,原告が,体位変換,呼吸,食事,排たん,排泄等,生存に係るおよそすべての要素について,他者による介護を必要とすること,自力で他者に自分の意思を伝える方法が極めて限定されていることに鑑みると,原告は,ほぼ常時,介護者がその側にいて,見守りも含めた介護サービスを必要とする状態にあることが認められる。そして,カの年齢(平 成23年度決定当時☆☆歳)や健康状態(上記1)に加えて,ALSの特質(1ア)及び原告の生存に必要とされる器具の操作方法(上記1イウ)等に鑑みると,介護保険法による1日3.5時間分の介護給付があること(上記1エ)や,カの体調不良等やむを得ない場合の緊急時対応分として1か月20時間を想定していたと認められること(上記1エ,オ)を考慮しても,処分行政庁がとる上記前提は,相当性を欠くといわざるを得ない。 したがって,平成23年度決定は,カが原告の介護を行っているという要素を過度に評価する一方で,原告及びカの心身の状況等の考慮すべき要素を十分に考慮していないから,勘案事項である「障害の種類及び程度その他の心身の状況」(本件規則12条1号)及び「障害者等の介護を行う者の状況」(同条2号)を適切に考慮しておらず,社会通念に照らして明らかに合理性を欠くというべきである。 よって,平成23年度決定は,処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用した違法な処分であると認められる。 5 争点(義務付けの訴えが本案勝訴要件を具備するか)について 支給量を1か月651時間としないことが裁量権の逸脱濫用となるか原告は,処分行政庁が,平成23年度決定において,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給決定をしな について 支給量を1か月651時間としないことが裁量権の逸脱濫用となるか原告は,処分行政庁が,平成23年度決定において,重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給決定をしないことが裁量権の逸脱濫用に当たる(行政事件訴訟法37条の3第5項)として,その義務付けを求めている。 しかし,上記4のとおり,自立支援法に基づく介護給付費支給決定に当たって,障害者について障害福祉サービスを提供するかどうか,支給する場合に,どのような種類の障害福祉サービスをどれほどの支給量をもって支給するかという判断については,勘案事項に係る調査結果を踏まえた市町村の合理的裁量に委ねられている。そして,原告の健康状態(上 記1),原告が受けている介護サービスの概要(上記1ウエ),現在の介護の状況及びカの健康状態(上記1)等を考慮すると,1日24時間介護を前提とする介護給付費の支給を処分行政庁がしなければ,原告の生命,身体,健康の維持に重大な支障が生じるおそれがあるとまでは認められない。 なお,原告は,カによる介護を前提に支給量を決定すべきでない旨主張する。しかし,自立支援法22条1項が「当該障害者等の介護を行う者の状況」を考慮事項として挙げ,本件規則12条2号が「当該申請に係る障害者等の介護を行う者の状況」を考慮事項として挙げているのであるから,支給量を判断するに際して,現在の介護の状況及びカの健康状態を考慮することは許されると解するのが相当である。 以上によれば,処分行政庁が,原告に対し,重度訪問介護の支給量を,1日24時間介護を前提とした1か月651時間とする介護給付費支給決定をしないことが,裁量権の逸脱濫用になるとは認められない。  一定の支給量を下回らない処分をしないことが裁量権の逸脱濫用となるかア判断 護を前提とした1か月651時間とする介護給付費支給決定をしないことが,裁量権の逸脱濫用になるとは認められない。  一定の支給量を下回らない処分をしないことが裁量権の逸脱濫用となるかア判断の枠組み原告の義務付けの訴えに係る請求の趣旨(上記第1の4)には,平成23年度決定に係る支給量(1か月268時間)を超える介護給付費の支給決定の義務付けを求める趣旨も含まれると解される。そして,行政事件訴訟法37条の3第5項,3条6項2号が,処分行政庁において一定の処分をしないことが裁量権の逸脱濫用になると認められることを義務付けの訴えの本案勝訴要件としていることからすれば,裁量権の逸脱濫用にならないような重度訪問介護の支給量を一義的に決めることができない場合であっても,一定の支給量を下回らない介護給付費支給決定をしないことが裁量権の逸脱濫用になると認められる場合には,裁判所は,そのような介護給付費支給決定を義務付ける判決をすべきであ ると解される。 イ平成23年度の支給量について上記4のとおり,原告は,ほぼ常時,介護者がその側にいて,見守りも含めた介護サービスを必要とする状態にあったことが認められる。そして,原告と同居している妻のカの年齢(平成23年度決定当時☆☆歳)や健康状態(上記1)に加えて,ALSの特質(1ア)及び原告の生存に必要とされる器具の操作方法(上記1イウ)等に鑑みると,少なくとも1日当たり21時間分については,職業付添人による介護サービスがなければ,原告が必要十分な介護サービスを受けることができず,その生命,身体,健康の維持等に対する重大な危険が発生する蓋然性が高いと認められる。 この点,上記1エオのとおり,原告が,▽▽▽▽▽▽▽からヘルパーの派遣を受け,現実に24時間体制で原告の居宅介護が行 命,身体,健康の維持等に対する重大な危険が発生する蓋然性が高いと認められる。 この点,上記1エオのとおり,原告が,▽▽▽▽▽▽▽からヘルパーの派遣を受け,現実に24時間体制で原告の居宅介護が行われており,平成22年度決定の支給量を超える部分については,無償で介護を受けていたことが認められる。しかし,これは,▽▽▽▽▽▽▽が,原告の生存に必要不可欠であるという判断で,やむを得ず行っているものであるから,これをもって,原告の支給量を減少させる要素と考えることはできない。 ところで,上記1エのとおり,原告について,1日当たり3.5時間分の介護サービスが,介護保険法による介護給付によって賄われていることが認められる。 以上の事情を総合すると,上記の裁量権の逸脱濫用の判断基準に照らし,自立支援法の趣旨目的に反しないようにするには,原告について,重度訪問介護の支給量1日当たり17.5時間,すなわち,1か月542.5時間を下回る支給決定を行わないことが,裁量権の逸脱濫用になると認めるのが相当である。 6 争点(国家賠償請求が認められるか)について 上記4のとおり,平成23年度決定は処分行政庁に与えられた裁量権を 逸脱濫用した処分であるが,そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,処分行政庁が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と介護給付費の支給決定をしたと認めうるような事情がある場合に限り,上記の評価を受けるものと解するのが相当である。 ア証拠(甲B1,3ないし7,9の1ないし4,10,13ないし18,22,23,乙B2ないし9,11)及び弁論の全趣旨によれば,処分行政庁は,平成19年度ないし平成23年度の介護給付費支給決定をするに際し,原告の健康状態,既往歴, ないし4,10,13ないし18,22,23,乙B2ないし9,11)及び弁論の全趣旨によれば,処分行政庁は,平成19年度ないし平成23年度の介護給付費支給決定をするに際し,原告の健康状態,既往歴,障害程度区分,障害の内容,生活状況,受けている介護の状況,病院への受診の状況,服薬状況,訪問看護の状況,従前の介護給付費の支給量,他の公的福祉サービスの受給状況,原告や家族の希望,家族及び介護者の状況,居住環境,経済状況及び主治医等を調査し,担当部局内で原告に必要な支給量を検討したこと,また,平成19年度変更決定及び平成20年度ないし平成22年度の決定をするに際し,本件審査会に諮問し,その諮問結果を踏まえて支給量を決定していることが認められる。なお,平成23年度決定については,本件審査会に諮問した事実を直接裏付ける証拠が提出されていないが,平成23年度決定が平成22年度決定と同じ日に行われたことからすると,平成22年度決定に関する本件審査会の諮問結果を踏まえて支給量が決定されたことが認められる。 ところで,処分行政庁は,本件取消裁決があった後も,平成22年度決定及び平成23年度決定において,重度訪問介護の支給量を従前と同じ支給量としている。この点,本件取消裁決が平成22年度取消前決定を取り消した理由は,原告の希望と平成22年度取消前決定の支給量が大きく離れていることから,処分行政庁が,原告や介護者の状況及び主治医の意見等を調査検討し,原告やその介護者等と十分に協議した上で,再度支給量 を判断し直すことを求めるということであると解され,平成22年度取消前決定の支給量が不足していることを直接説示するものではないと解される(甲B11)。 そうすると,処分行政庁が,本件取消裁決の求める調査検討等を経た上で,従前と同じ支給量の介護給付費 22年度取消前決定の支給量が不足していることを直接説示するものではないと解される(甲B11)。 そうすると,処分行政庁が,本件取消裁決の求める調査検討等を経た上で,従前と同じ支給量の介護給付費支給決定をしたからといって,直ちに本件取消裁決に反する決定であるということはできない。 そして,上記1エないしのとおり,処分行政庁は,平成22年度決定をするに際し,再度原告の主治医から事情聴取し,支給内容を検討し,本件審査会に諮問した上で支給量を決定していることが認められる。また,平成23年度決定は,平成22年度決定の再調査,検討の結果を踏まえて支給量が決定されていると認められる。 イなお,原告は,処分行政庁が,1日8時間の支給量を上限とする基準を有していた旨の主張をしているが,処分行政庁がこれを超える支給量を一切認めないこととしていたことを認めるに足りる証拠はない。 ウしたがって,平成22年度決定及び平成23年度決定が本件取消裁決に反しているとは認められない。 そして,上記4のとおり義務付けが認められる介護給付費支給決定の支給量の範囲と,平成19年度から平成23年度までの介護給付費支給決定の支給量には差があるものの,これらの介護給付費支給決定について,裁量権の逸脱濫用であることが明白であったとまでは認められない。  以上の事情によれば,処分行政庁が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と介護給付費の支給決定をしたと認めることはできないので,国家賠償法1条1項にいう違法があるとは認められない。 したがって,国家賠償法1条1項に基づく原告の損害賠償請求は認められない。 第4 結論 以上によれば,原告の本件訴えのうち,平成22年度決定の取消しを求める部分及び平成22年度の介護給付費支給決定の義務付けを求め 項に基づく原告の損害賠償請求は認められない。 第4 結論 以上によれば,原告の本件訴えのうち,平成22年度決定の取消しを求める部分及び平成22年度の介護給付費支給決定の義務付けを求める部分は不適法であるからこれを却下すべきである。また,原告の平成23年度決定の取消請求は理由があるからこれを認容すべきであり,平成23年度の介護給付費支給決定の義務付けを求める請求は上記第3の5の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。そして,原告の国家賠償請求は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官髙橋善久 裁判官永野公規 裁判官田中一孝は転官のため署名押印することができない。 裁判長裁判官髙橋善久

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