平成28(ワ)62 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年2月22日 福島地方裁判所 いわき支部 棄却
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判決文本文27,700 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告らに対し,各1万円及びこれに対する平成27年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(略語は,本文中で定義するもののほか,別紙略語一覧表のとおりである。)内閣は,平成26年7月1日,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目 のない安全保障法制の整備について」と題する新たな安全保障法制の整備のための基本方針を閣議決定し(以下「平成26年閣議決定」という。),平成27年5月14日,平和安全法制整備法及び新設の国際平和支援法(以下,併せて「平和安全法制関連2法」という。)に係る法律案を閣議決定し(以下「平成27年閣議決定」という。),翌15日,上記法律案を衆議院に提出した。上記法律案 は,その後,両議院で可決され,平和安全法制関連2法が同年9月19日に成立し,平成28年3月29日に施行された。 本件は,原告らが,①内閣による平成26年閣議決定,平成27年閣議決定及び上記法律案の国会提出並びに国会による上記法律案の可決と制定(以下,併せて「本件立法行為等」という。),②政府によって駆け付け警護の任務が付与さ れた自衛隊の南スーダン共和国(以下「南スーダン」という。)への派遣(以下「本件任務付与行為」という。),③防衛大臣の命令に基づく武器等防護の実施としての海上自衛隊護衛艦によるアメリカ合衆国(以下「米国」という。)海軍艦船の護衛(以下「本件武器等防護の実施」といい,本件立法行為等及び本件任務付与行為と併せて「本件各行為」という。)によって,原告らの平和的生存権, 人格権及び憲法改正・決定権(国民投票権)が侵害されたなど 下「本件武器等防護の実施」といい,本件立法行為等及び本件任務付与行為と併せて「本件各行為」という。)によって,原告らの平和的生存権, 人格権及び憲法改正・決定権(国民投票権)が侵害されたなどと主張して,被告 に対し,国賠法1条1項に基づき,慰謝料各1万円及びこれに対する平和安全法制関連2法成立の日(平成27年9月19日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる。)⑴ 本件立法行為等ア内閣は,平成26年7月1日,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する新たな安全保障体制の整備のための基本方針を閣議決定した(平成26年閣議決定)。 平成26年閣議決定は,「日本国憲法の施行から67年となる今日までの間に,我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容するとともに,更に変化し続け,我が国は複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している。」,「もはや,どの国も一国のみで平和を守ることはできず,国際社会もまた,我が国がその国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果た すことを期待している。」との認識を示し,憲法前文で確認される「国民の平和的生存権」や憲法第13条の定める「生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利」を踏まえると,「憲法第9条が,我が国が自国の平和と安全を維持し,その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されない。一方,この自衛の措置は,あくまで外国 の武力攻撃によって国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫,不正 ために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されない。一方,この自衛の措置は,あくまで外国 の武力攻撃によって国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫,不正の事態に対処し,国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり,そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容される。これが,憲法第9条の下で例外的に許容される「武力の行使」について,従来から政府が一貫して表明して きた見解の根幹,いわば基本的な論理」であり,「この基本的な論理は, 憲法第9条の下では今後とも維持されなければならない。」としている。 その上で,他国に対して発生する武力攻撃であったとしても,その目的,規模,態様等によっては,我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得ることであり,我が国の存立を全うし,国民を守るために万全を期す必要があるとの問題意識の下で慎重に検討した結果,「我が国に対する武力攻撃 が発生した場合のみならず,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において,これを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適当な手段がないときに,必要最小限度の実力を行使することは,従来の政府見解の基 本的な論理に基づく自衛のための措置として,憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。」,「憲法上許容される上記の「武力の行使」は,国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には,他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが,憲法上は,あくまでも我が国の存立を全うし,国民を守るた め,すなわち,我 衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には,他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが,憲法上は,あくまでも我が国の存立を全うし,国民を守るた め,すなわち,我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。」との考え方を示し,必要な法整備を進めるとするものであった。(甲A5)イ内閣は,平成27年5月14日,平和安全法制関連2法に係る法律案を閣議決定し(平成27年閣議決定),内閣総理大臣は,同月15日,上記 法律案を国会(衆議院)に提出した。 ウ上記イの法律案は,平成27年7月16日に開催された衆議院本会議及び同年9月19日に開催された参議院本会議において,それぞれ可決され,平和安全法制関連2法が成立した。 エ平和安全法制関連2法は,平成27年9月30日に公布され,平成28 年3月29日に施行された。 これにより,例えば以下のような規定の新設や改正がなされた(具体的な条文の内容については,別紙法令一覧表参照)。 自衛隊法関係同法76条1項柱書及び2号により,内閣総理大臣は,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立 が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に際して,我が国を防衛するために必要があると認める場合には,国会の承認を得て,自衛隊の全部または一部の出動を命ずること(防衛出動命令)ができる旨の改正がされた。なお,同項により出動を命ぜられた自衛隊は,我が国を防衛するため,必要な武力を 行使することができることになる(同法88条1項)。 また,武器等防護に関する同法95条の2の規定が新設された(別紙略語一覧参照)。 れた自衛隊は,我が国を防衛するため,必要な武力を 行使することができることになる(同法88条1項)。 また,武器等防護に関する同法95条の2の規定が新設された(別紙略語一覧参照)。 重要影響事態法関係周辺事態法1条においては,「我が国周辺の地域における我が国の平 和及び安全に重要な影響を与える事態」を「周辺事態」と定めていたが,重要影響事態法1条においては,「我が国周辺の地域における」との限定が削除されて「重要影響事態」に改められた。 また,周辺事態法においては,自衛隊が,米国の軍隊に対する物品・役務の提供等の支援措置(後方支援措置)を,後方地域(我が国領域並 びに現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲)において行い得るものとされていたが(3条1項1号,3号,2項,6条1項,2項),重要影響事態法では,自衛隊が,米国の軍隊以外の外国の軍隊も含み得る「合衆国軍隊等」(3条1 項1号)に対する物品・役務の提供等の支援措置(後方支援活動)を行 い得るものとされた(3条1項2号,2項,6条1項,2項)。そして,各措置の内容につき定める別表第一及び第二の各備考欄につき,周辺事態法では,1号において「物品の提供(弾薬を含む。)には,武器の提供を含まないものとする。」とされ,また,2号において,「物品及び役務の提供には,戦闘作戦行動のために発信準備中の航空機に対する給 油及び整備を含まないものとする。」とされていたのが,重要影響事態法では,上記1号から「(弾薬を含む。)」の部分が削除されるとともに,2号全体が削除された。 これらにより,自衛隊による支援の対象や内容 を含まないものとする。」とされていたのが,重要影響事態法では,上記1号から「(弾薬を含む。)」の部分が削除されるとともに,2号全体が削除された。 これらにより,自衛隊による支援の対象や内容の範囲が拡大された。 国際平和支援法関係 新設された国際平和支援法においては,自衛隊が,諸外国の軍隊等(3条1項1号)に対する物品・役務の提供等の協力支援活動を行い得るものとされた(3条2項,7条1項,2項,別表第一)。 国際平和協力法関係同法に規定する国際平和協力業務(3条5号)の業務の種類に,新た に安全確保業務(同号ト)や駆け付け警護(同号ラ)が加えられた(別紙略語一覧参照)。 事態対処法関係新たに,存立危機事態(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由 及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態)を終結させるために,自衛隊が,存立危機武力攻撃(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの)を排除するために必要な武力の行使,部隊等の展開その他の 行動を行い得るものとされた(2条4号,8号ハ(1)等)。 ⑵ 本件任務付与行為ア政府は,平成23年11月15日,国際連合南スーダン共和国ミッション(南スーダンが同年7月にスーダン共和国から独立したことに伴い,同月8日に採択された国際連合安全保障理事会決議第1996号に基づき,南スーダンの新たな国づくりを支援するために創設された派遣団である。 以下「UNMISS」という。)へ我が国要員を派遣する旨の閣議決定を 択された国際連合安全保障理事会決議第1996号に基づき,南スーダンの新たな国づくりを支援するために創設された派遣団である。 以下「UNMISS」という。)へ我が国要員を派遣する旨の閣議決定をし,平成24年1月から陸上自衛隊施設部隊の第1次要員を南スーダンに派遣し,その後,第10次要員まで派遣を継続した。 平成25年12月,南スーダンの首都ジュバにおいて,キール大統領派とマシャール前第一副大統領派との間で武力衝突が発生し,これを受けて, 平成26年5月に採択された国際連合安全保障理事会決議第2155号に基づき,UNMISSの優先任務が文民保護とされた。 南スーダンでは,平成28年7月8日以降,首都ジュバにおいて,キール大統領派とマシャール前第一副大統領派との間で武力衝突が再燃した。 イ政府は,平成28年11月15日,南スーダン国際平和協力業務実施計 画に駆け付け警護を追加する旨の閣議決定をし,第11次要員を派遣した(本件任務付与行為)。 ウ政府は,平成29年3月10日,南スーダンに派遣中の第11次要員の撤収完了時期を同年5月末とする旨を決定し,派遣施設部隊は,同月27日までに順次帰国し,同月31日をもって廃止された。 ⑶ 本件武器等防護の実施平成29年3月7日~同月10日の間には,海上自衛隊護衛艦2隻が米国海軍航空母艦カールビンソンと東シナ海周辺海域で共同巡航訓練を実施し,同月27日~29日の間には,海上自衛隊護衛艦5隻が上記航空母艦と東シナ海周辺海域で共同巡航訓練を実施し,同年4月23日には,海上自衛隊護 衛艦2隻が上記航空母艦と西太平洋で共同巡航訓練を実施し,同年5月3日 には,海上自衛隊護衛艦2隻がシンガポール共和国へ向かった。 また,平成29年5月,防衛大臣による武器等防 衛艦2隻が上記航空母艦と西太平洋で共同巡航訓練を実施し,同年5月3日 には,海上自衛隊護衛艦2隻がシンガポール共和国へ向かった。 また,平成29年5月,防衛大臣による武器等防護の実施命令に基づき,海上自衛隊護衛艦が米国海軍補給艦と合流して航行した(本件武器等防護の実施)。(甲E2) 2 争点 ⑴ 本件各行為に係る国賠法1条1項の違法性の有無⑵ 原告らの損害発生の有無及びその額 3 争点に関する当事者の主張⑴ 本件各行為に係る国賠法1条1項の違法性の有無(原告らの主張) ア本件各行為の違憲性 集団的自衛権の行使容認に関する違憲性① 本件立法行為等によって制定された平和安全法制整備法による改正後の自衛隊法の下では,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自 由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(事態対処法2条4号)において,内閣総理大臣が自衛隊に対して防衛出動を命じた場合,自衛隊は,防衛出動命令の一環として,必要な武力の行使をすることができることとなった(自衛隊法76条1項2号,88条1項)。これは,集団的自衛権の行使,すなわち,自国と密接 な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が直接攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって阻止することを可能とするものである。 ② しかしながら,政府は,本件立法行為等以前においては,一貫して,集団的自衛権の行使は憲法9条1項の下では許されないと解しており,かかる政府解釈は,憲法9条1項の規範内容を確立するに至っていた。 そうすると,集団的自衛権の行使を容認する本件立法行為等は,憲 法9条1項に明白 下では許されないと解しており,かかる政府解釈は,憲法9条1項の規範内容を確立するに至っていた。 そうすると,集団的自衛権の行使を容認する本件立法行為等は,憲 法9条1項に明白に違反する。さらにいえば,本件立法行為等は,憲法9条1項の規範内容を実質的に改変するものであり,憲法96条が規定する憲法改正手続が必要であるにもかかわらず,法律の改正によって集団的自衛権の行使を容認していることから,同条にも明白に違反する。 後方支援活動等に関する違憲性① 本件立法行為等によって制定された平和安全法制関連2法の下では,自衛隊は,重要影響事態(重要影響事態法1条)及び国際平和共同対処事態(国際平和支援法1条)において,後方支援活動等として,現に戦闘行為が行われている現場でない限り(重要影響事態法2条3項, 国際平和支援法2条3項),戦闘現場に近接した場所であっても,周辺事態法では認められていなかった弾薬の提供並びに戦闘作戦行動のために発進準備中の戦闘機に対する給油及び整備(周辺事態法3条2項,同条3項,別表第一及び別表第二)を行うことができることとされた(重要影響事態法3条2項,同条3項,別表第一及び別表第二並 びに国際平和支援法3条2項,同条3項,別表第一及び別表第二)。 これらにより,自衛隊は,地理的制限なく「兵站」活動(戦闘行為の不可欠な要素であり,これに従事する自衛隊は,敵国の軍事目標となる。)が可能となった。 ② したがって,本件立法行為等は,他国の軍隊の武力行使との一体化 を招くものであるから,憲法9条1項に明白に違反する。また,本件立法行為等が憲法96条にも明白に違反することは,上記②のとおりである。 駆け付け警護に関する違憲性① 本件立法 ものであるから,憲法9条1項に明白に違反する。また,本件立法行為等が憲法96条にも明白に違反することは,上記②のとおりである。 駆け付け警護に関する違憲性① 本件立法行為等の違憲性 a 本件立法行為等によって制定された平和安全法制整備法の下では, 自衛隊は,安全確保活動(国際平和協力法3条5号ト)及び駆け付け警護として,任務を妨害する相手に対する武器の使用が可能とされ(同法26条1項,2項),また,宿営地共同防護活動において,任務遂行に必要な武器の使用が可能とされた(同法25条7項)。 これらの活動は,自衛隊が他国の軍隊と共に武力を行使すること を認めるものであるところ,国際連合平和維持活動部隊が当初の目的から変質し,住民保護という任務のために,国又は国に準ずる組織に対しても武力行使の権限が認められている現状を踏まえると,同部隊に派遣される自衛隊が,国又は国に準ずる組織との間での武力を用いた紛争の一環としての戦闘行為(国際的な武力紛争)に巻 き込まれることは避けられないというべきである。 b したがって,上記aの活動を容認する本件立法行為等は,憲法9条1項に明白に違反する。 ② 本件任務付与行為の違憲性a 平和安全法制関連2法の制定後,政府による本件任務付与行為に よって,UNMISSに自衛隊の部隊が派遣されたところ(前記前提事実⑵イ),当時の南スーダンは,内戦が激化し,大規模な戦闘が発生しており,UNMISSは,住民保護を筆頭任務とし(前記前提事実⑵ア),その任務遂行のための武力行使権限も認められていた。 このような状況下においては,自衛隊の部隊が実際に駆け付け警護に出動し,任務遂行のために武器を使用すれば,戦闘行為に発展し,自衛隊員 ,その任務遂行のための武力行使権限も認められていた。 このような状況下においては,自衛隊の部隊が実際に駆け付け警護に出動し,任務遂行のために武器を使用すれば,戦闘行為に発展し,自衛隊員が殺傷し又は殺傷される事態が生じる現実的な危険性があった。 b したがって,本件任務付与行為は,憲法9条1項に明白に違反す る。 武器等防護に関する違憲性① 本件立法行為等の違憲性a 本件立法行為等によって制定された平和安全法制整備法による改正後の自衛隊法の下では,自衛隊は,自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の外国軍隊の武器等を防 護するため,武器を使用することが可能とされた(同法95条の2)。 このような武器の使用を認めることは,相手国等からの反撃を招くこととなり,法律に基づく国会の承認や内閣総理大臣の防衛出動命令もないまま,実質的な集団的自衛権の行使として我が国を国際的武力紛争の当事者とし得るものであり,結果として,戦争の発端 にもなり得るものである。 b したがって,武器等防護を容認する本件立法行為等は,憲法9条1項に明白に違反する。さらにいえば,文民によるコントロールも失われる可能性が高く,憲法66条にも明白に違反する。 ② 本件武器等防護の実施の違憲性 a 平和安全法制関連2法の制定後,米国と朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)との緊張・対立関係が激化する中,本件武器等防護の実施が行われた(前記前提事実⑶)。本件武器等防護の実施は,北朝鮮によるミサイル攻撃等による侵害から米国海軍補給艦を警護することを目的としており,米国海軍補給艦に攻撃が 加えられれば,その防護のために,我が国の護衛艦が武器を使用 武器等防護の実施は,北朝鮮によるミサイル攻撃等による侵害から米国海軍補給艦を警護することを目的としており,米国海軍補給艦に攻撃が 加えられれば,その防護のために,我が国の護衛艦が武器を使用するとの姿勢を北朝鮮に対して誇示するものであった。その結果,我が国は,米朝対立の中で軍事的一方当事者に位置付けられることになり,米朝間で一触即発の状況となれば,現実に戦火を交える事態にもなりかねないものであった。 b したがって,本件武器等防護の実施は,憲法9条1項に明白に違 反する。 裁判所による憲法判断について上記~のとおり,本件各行為が憲法に違反し,違憲であることは一見して極めて明白である上,平和安全法制関連2法の審議過程も不十分かつ異常であり,国会は機能不全に陥っていた。これらに照らせば, 事件性の要件(裁判所法3条1項の「法律上の争訟」)を欠くなどとして憲法判断を回避したり,事件性の要件を満たすとしても,統治行為論や憲法判断回避の準則を適用して憲法判断を回避したりすることは許されず,本件は,裁判所が憲法適合性の判断を積極的に行うべき事案である。 イ原告らの権利又は法的利益の侵害 平和的生存権に対する侵害① 原告らに保障されている平和的生存権とは,憲法の平和条項が遵守され,政府の行為による戦争と軍備及び戦争準備によって,生命や生活が侵害されるなどすることなく,戦争がもたらす恐怖と欠乏から免 れて平和のうちに生存し,またそのような平和な国と世界をつくり出していくことのできる核時代の自然権の本質を持つ基本的人権である。 平和的生存権が裁判によって救済を図り得る具体的権利であることは,⒜第一次世界大戦後,平和を実現するための努力が世界的に積み重 していくことのできる核時代の自然権の本質を持つ基本的人権である。 平和的生存権が裁判によって救済を図り得る具体的権利であることは,⒜第一次世界大戦後,平和を実現するための努力が世界的に積み重ねられ,平和に生きる権利が国際的にも尊重されており,このよう な歴史的経過の中で我が国の憲法が制定されたこと,⒝憲法前文第2段が「平和のうちに生存する権利」を宣言していること,⒞憲法9条が戦争の放棄,戦力の不保持及び国の交戦権の否認を規定しており,憲法前文第2段が宣言する平和的生存権の保障を具体化していること,⒟憲法13条は,新しい人権を保障する根拠となる一般的包括的権利 を規定したものであるところ,憲法第3章の基本的人権が保障される ためには,平和が維持されることが当然の前提であり,人間が平和のうちに生存することは,その人格的生存に不可欠であること,⒠我が国の国民は,政府による平和主義に反する動きに対して,これを拒否する態度を示してきた(本件立法行為等に対するデモ活動等を含む。)ものであり,平和のうちに生存する権利が国民の間に根付き,平和的 生存権を認める国民的基盤があること等から明らかであり,⒡近時,多数の憲法上の学説と複数の裁判例がその具体的権利性を肯定している。 なお,憲法前文第2段のとおり,「平和」とは,戦争の恐怖や不安から解放され,精神的にも経済的にも安心して平穏に生活できる状態 をいうことは明らかであって,その概念が不明確であるとはいえない。 ② 本件立法行為等は,上記ア,,①及び①のとおり,集団的自衛権の行使,後方支援活動等,駆け付け警護及び武器等防護を容認し,制度化するものであり,戦争の準備行為に該当する。また,実際,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施により,我が国が戦 り,集団的自衛権の行使,後方支援活動等,駆け付け警護及び武器等防護を容認し,制度化するものであり,戦争の準備行為に該当する。また,実際,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施により,我が国が戦争に 巻き込まれたり,テロの対象とされたりする現実的な危険性が発生したことは,上記ア②及び同②のとおりである。 原告らの立場は,⒜空襲や原子爆弾の被害体験者,兵役の経験者,⒝地方公共団体・指定公共機関の職員や交通機関の職員,医療関係者,⒞学者・教育者,⒟宗教家,⒠原子力発電所や基地周辺の住民,⒡障 害者,⒢女性や母親,若者等様々であるが,別紙被害一覧表記載のとおり,本件各行為によって,原告らは,それぞれの立場から平和を愛し,これを願って心のよりどころとしてきた心情が痛く傷つけられたのであり,本件各行為は原告らの平和的生存権を侵害するものである。 人格権に対する侵害 ① 人格権は,人間が人間であることからその存在を全うするために認 められた根幹的権利であり,憲法13条が根拠規定であるところ,以下のとおり,原告らは,本件各行為によって,⒜生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権,⒝平和のうちに平穏に生きる権利としての人格権(平穏生活権)及び⒞主権者として蔑ろにされない権利としての人格権をそれぞれ侵害された。 ② 生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権に対する侵害についてa 生命権,身体権及び精神に関する利益が各人の人格に本質的なものであり,法の絶対的保護を受けることは明らかである。 本件各行為は,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対 象とされたりする危険性を現に生じさせるものであり,これにより,原告らの生命,身体及び財産が侵害される客観的な危険 明らかである。 本件各行為は,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対 象とされたりする危険性を現に生じさせるものであり,これにより,原告らの生命,身体及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起されたのであって,生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権が侵害された。 すなわち,本件立法行為等は,北朝鮮やテロ組織等,我が国の安 全保障上の脅威となる国家や集団に対して,これらと敵対する米軍の活動を平時から支援する旨を対外的に宣明し,これらの国家等を刺激するものである。実際,本件立法行為等に対する北朝鮮の反応等についてみると,⒜北朝鮮は,本件立法行為等の後,我が国の領域に向けて,合計16回の弾道ミサイルの発射実験を実施し,現実 的な武力による威嚇を行い,⒝政府は,上記発射実験を受けて,対象地域の国民に対し,全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて緊急情報を発し,頑丈な建物や地下への避難を指示したこともあり,⒞北朝鮮の国営通信機関である朝鮮中央通信は,その配信する記事の中で,朝鮮戦争(米国を主力とする朝鮮国連軍と北朝鮮との 間の戦争であり,国際法上,未だ終結していない。)と関連付けて 平和安全法制関連2法を批判している。そして,原告らの大半は,福島県内に居住するところ,同県内にある福島第一原子力発電所は,その性質上,北朝鮮から攻撃を受ける可能性が高い。また,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施により,我が国が戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする現実的な危険性が発生した ことは,上記ア②及び同②のとおりである。 b 仮に,本件各行為によって,原告らの生命,身体及び財産に対する客観的な危険性が惹起されたとは認められないとしても,本件各行為に直面した原告らは,別紙被 は,上記ア②及び同②のとおりである。 b 仮に,本件各行為によって,原告らの生命,身体及び財産に対する客観的な危険性が惹起されたとは認められないとしても,本件各行為に直面した原告らは,別紙被害一覧表のとおり,その生命,身体及び財産を危険にさらされているものと強く案じ,不安を抱き, 内心の平穏を害されたところ,原告らがこのような不安感等を抱いたことに合理的な理由があることは,上記aのとおりである。 したがって,本件各行為は,原告らに上記不安感等を抱かせた点からしても,原告らの生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権を侵害するものである。 ③ 平穏生活権に対する侵害について平穏な生活は,精神的な平穏及び物理的な平穏から構成されるところ,平穏な生活の核心にある自分の人生を自律的に設計し,送っていくことを成り立たせる複数の要素を包摂しているものであり,人格権の内容として重要であるから,具体的権利性を有する。 本件各行為によって,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする危険性が現に生じたことは,上記②aのとおりであって,原告らの平穏な生活が侵害される客観的な危険性が惹起された。 したがって,本件各行為は,別紙被害一覧表記載のとおり,原告ら が戦後に築いてきた平和な生活を否定し,破壊するものであり,原告 らの平穏生活権を侵害するものである。 ④ 主権者として蔑ろにされない権利としての人格権に対する侵害について本件立法行為等は,上記ア②のとおり,政府解釈により確立していた憲法9条の規範内容を実質的に改変するものであるにもかかわら ず,憲法改正手続を潜脱して強行されたものであって,原告らは,本来参加し得る憲法改正手続への参加の機会を奪われた 釈により確立していた憲法9条の規範内容を実質的に改変するものであるにもかかわら ず,憲法改正手続を潜脱して強行されたものであって,原告らは,本来参加し得る憲法改正手続への参加の機会を奪われたことによって,主権者としての立場を蔑ろにされ,主権者であることの自尊心を大きく傷付けられ,主権者として尊重される確証などないのではないかという立憲主義そのものへの疑念と不安が生じたものであり,このよう な主権者としての被害感情の侵害は,主権者として蔑ろにされない権利としての人格権の侵害に当たるものである。 憲法改正・決定権又は国民投票権に対する侵害① 憲法改正・決定権に対する侵害a 原告ら国民は,具体的な憲法改正課題が生じたときに,各人が, その賛否について,最終的に国民投票制度を通じて意見表明するのみならず,国会における憲法改正の発議以前から,国民の代表である国会議員を通じて,あるいは表現の自由,政治活動の自由その他の権利を自ら行使し,国民投票運動に参加するなどにより,その憲法改正課題に対して賛否その他の意見を表明し,国民的意思を形成 する過程に参加する権利(以下「憲法改正・決定権」という。)を有する。 憲法改正・決定権が原告らの具体的権利として保障されることは,⒜憲法前文第1段は,国民が憲法制定権限を有する旨を明示していること,⒝憲法96条は,第1項において憲法改正に国民の承認を 必要とすることを,第2項において改正された憲法を「国民の名で」 交付することをそれぞれ規定し,国民が個別に憲法改正・決定について最終的な権限を有することを明らかにしていること,⒞憲法99条は,国会議員等に憲法尊重擁護義務を課しているところ,主権者である国民の憲法改正への強い要求がないにもかかわらず, 憲法改正・決定について最終的な権限を有することを明らかにしていること,⒞憲法99条は,国会議員等に憲法尊重擁護義務を課しているところ,主権者である国民の憲法改正への強い要求がないにもかかわらず,国民の意思を無視して国会議員による憲法改正の発議が行われた場合, 国民は,憲法改正・決定権に基づき,これを許さない意思を示すことにより,国会議員の憲法尊重擁護義務違反行為を阻止し,あるいは,これに賛成することにより,国会議員の憲法尊重擁護義務を解除できること,⒟日本国憲法の改正手続に関する法律が制定され,憲法改正・決定権が具体化されたことからして,明らかである。 b 本件立法行為等は,上記ア②のとおり,政府解釈により確立していた憲法9条の規範内容を,憲法改正手続を潜脱して実質的に改変するものであるところ,原告らが憲法改正手続に基づいて国民投票権を行使し,憲法改正の是非について議論・意思表示する機会を奪うものであって,原告らの憲法改正・決定権を侵害するものであ る。 さらに,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施は,本件立法行為等による上記侵害を既成事実化するものであって,原告らの憲法改正・決定権を侵害するものである。 ② 国民投票権に対する侵害 原告らの国民投票権が法律上保護される権利又は法的利益であることは,日本国憲法の改正手続に関する法律が制定されていること等から明らかである。 そして,本件各行為によって原告らの国民投票権が侵害されたことは,上記①bのとおりである。 (被告の主張) ア前提国家賠償制度が個別の国民の権利又は法的利益の侵害を救済するものであることの当然の帰結として,国賠法1条1項の違法は,当該個別の国民の権利又は法的利益に対 張) ア前提国家賠償制度が個別の国民の権利又は法的利益の侵害を救済するものであることの当然の帰結として,国賠法1条1項の違法は,当該個別の国民の権利又は法的利益に対する侵害があることを前提としており,権利又は法的利益の侵害が認められない場合には,国賠法1条1項の違法を認める 余地はない。 そもそも,本件立法行為等は,閣議決定,法律案の提出行為及び法律の制定行為であるところ,閣議決定や法律案の提出行為自体は外部にその効力を及ぼし,国民の具体的な権利又は法的利益に直接影響を及ぼすものではない。また,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施は,いずれも 原告らに向けられたものではなく,原告らの権利又は法的利益に何らの影響を及ぼすものではない。原告らの主張は,結局のところ,個々人の権利又は法的利益を離れて,抽象的に法規範等の憲法適合性判断を求めるものにほかならないから,付随的違憲審査制を採用する我が国の司法審査の対象にはならない。 イ原告らの権利又は法的利益の侵害 平和的生存権に対する侵害① 「平和」の概念そのものが抽象的かつ不明確であるばかりでなく,外延を画することができないあいまいなものであり,このような平和的生存権に具体的権利性は認められない。また,原告らが平和的生存 権として主張する,「戦争がもたらす恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存」することの具体的内実は不明であるといわざるを得ないし,「平和な国と世界をつくりだしてゆくことのできる核時代の自然権」なる概念も,その内容は不明である。 ② したがって,原告らの主張する平和的生存権の侵害を認めることは できない。 人格権に対する侵害① 原告らが主張する生命権,身 念も,その内容は不明である。 ② したがって,原告らの主張する平和的生存権の侵害を認めることは できない。 人格権に対する侵害① 原告らが主張する生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権並びに平穏生活権に対する侵害は,結局のところ,我が国が戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりすれば,国民が何らかの犠牲を強いられたり,危険にさらされたりするのではないかといった漠 然とした不安感を抱いたという域を超えるものではなく,そこに具体的権利性を認めることはできない。 また,原告らが主張する主権者として蔑ろにされない権利としての人格権も,一義的に内容の定まらない抽象的かつ主観的な感情にすぎないものであって,結局,平和安全法制関連2法に反対している自ら の主義が容れられないことにより心情が害されたことを言い換えたものにすぎず,そこに具体的権利性を認めることはできない。 ② したがって,原告らが主張する人格権の侵害を認めることはできない。 憲法改正・決定権又は国民投票権に対する侵害 ① ⒜憲法前文第1段は,国民主権の理念を規定するにとどまること,⒝憲法96条1項において,国民は,「国家の主権者としての国民」という抽象的な位置付けにとどまり,同項は,憲法改正の手続を規定するものにすぎないこと,⒞憲法99条は,国会議員等の憲法尊重擁護義務を規定するものであり,憲法の最高法規性の根拠になるものに すぎないこと,⒟日本国憲法の改正手続に関する法律は,憲法96条1項が規定する憲法改正手続について,国民投票権の具体的な行使方法等を規定するものにすぎないことに照らせば,これらの規定から,直ちに,原告ら個々の国民に,個別的・具体的な権利又は法的利益として,憲法改正・決定 る憲法改正手続について,国民投票権の具体的な行使方法等を規定するものにすぎないことに照らせば,これらの規定から,直ちに,原告ら個々の国民に,個別的・具体的な権利又は法的利益として,憲法改正・決定権が保障されているものと解することはできな い。 ② また,平和安全法制関連2法は,憲法の条文自体を改正するものではなく,憲法改正に伴う国民投票制度における個別の国民の投票権の内容や行使に何ら具体的な制約を加えるものではないから,原告らの国民投票権を侵害しない。 ③ したがって,原告らが主張する憲法改正・決定権ないし国民投票権 の侵害を認めることはできない。 ⑵ 原告らの損害発生の有無及びその額(原告らの主張)上記⑴のとおり,原告らは,本件各行為により,平和的生存権,人格権及び憲法改正・決定権又は国民投票権を侵害され,怒り,失望感,悲しみ,屈 辱感,不安,恐怖,罪悪感等を抱いたところ,その精神的苦痛を慰藉するとすれば,それぞれ1万円を下らない。 (被告の主張)争う。 第3 争点に対する判断 1 本件各行為に係る国賠法1条1項の違法性の有無(争点1)について⑴ 前提ア原告らは,本件各行為は,憲法9条等に反し,違憲であることが明白であり,原告らの権利又は法的利益を侵害するところ,本件は,裁判所が憲法適合性の判断を積極的に行うべき事案である旨を主張し,その理論的な 裏付けとして,S大学専門職大学院T科教授であるB3の意見書(甲B17,甲B27)及び別件訴訟の証人尋問の結果(甲B28)並びにU大学V学部准教授であるB4の意見書(甲B41)等を提出する。 イしかしながら,憲法76条により裁判所に与えられている司法権は,いわゆる法律上の争訟について裁判を行 尋問の結果(甲B28)並びにU大学V学部准教授であるB4の意見書(甲B41)等を提出する。 イしかしながら,憲法76条により裁判所に与えられている司法権は,いわゆる法律上の争訟について裁判を行う作用をいい(裁判所法3条1項), 具体的な権利又は法律関係につき紛争が存する場合に初めて発動すること ができるものであって,憲法81条により裁判所に与えられている違憲立法審査権も,このような司法権を発動することができる場合に行使することができるものと解すべきであるから,裁判所は,具体的事件を離れて抽象的に政府や国会の行った行為等の違憲,違法について判断する権限を有しないものというべきである(最高裁昭和27年10月8日大法廷判決・ 民集6巻9号783頁,最高裁昭和28年4月15日・民集7巻4号305頁参照)。 そして,国賠法1条1項に基づく損害賠償請求が認められるためには,当該個別の国民の具体的な権利又は法的利益が侵害されたことを要するものと解されるから,このような権利侵害が認められない場合においては, 違憲立法審査権を行使するべきではない。この点において,上記ア記載の各意見書等を踏まえても,原告らの上記アの主張は,採用することができない。 そこで,本件各行為により,原告らの具体的な権利又は法的利益が侵害されたか否かについて,以下検討する。 ⑵ 平和的生存権に対する侵害についてア原告らは,憲法前文第2段,9条及び13条を根拠として,個々の国民に,憲法の平和条項が遵守され,政府の行為による戦争と軍備及び戦争準備によって,生命や生活が侵害されるなどすることなく,戦争がもたらす恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生存し,またそのような平和な国と世 界をつくり出していくことのできる核時代の自然権の 戦争準備によって,生命や生活が侵害されるなどすることなく,戦争がもたらす恐怖と欠乏から免れて平和のうちに生存し,またそのような平和な国と世 界をつくり出していくことのできる核時代の自然権の本質を持つ基本的人権として,平和的生存権が具体的な権利又は法的利益として保障されている旨を主張し,その理論的な裏付けとして,W大学客員教授であるB5の意見書(甲B15)やX大学教授であるB6の意見書(甲B77)等を提出する。 確かに,①憲法前文は,憲法の基本的精神及び理念を明らかにしたもの であるから,憲法本文の各規定の解釈指針となり得るところ,憲法前文第2段は,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と規定していること,②憲法上の権利保障の有無を検討するに当たっては,個々の条文が体現している憲法全体の理念を意識しつつ体系的な解釈をも行うべきであるところ,平 和的生存権の具体的権利性を検討するに当たっても,戦争の放棄,戦力の不保持及び交戦権の否認について規定する憲法9条を考慮するべきであること,③憲法13条は,新しい人権を保障する根拠となる一般的包括的規定であるところ,憲法は,平和主義を重要な理念としており,国民が平和のうちに生存することは,憲法第3章が規定する基本的人権が保障される ための基礎的な条件であることから,平和のうちに生存していくことと基本的人権が保障されることとの間には,密接な関連があることを指摘することができる。 イしかしながら,原告らが指摘する憲法前文第2段の「平和のうちに生存する権利」における「平和」とは,理念ないし目的としての抽象的概念で あって(最高裁平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻6号385頁参照), 指摘する憲法前文第2段の「平和のうちに生存する権利」における「平和」とは,理念ないし目的としての抽象的概念で あって(最高裁平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻6号385頁参照),かかる権利の主体としては,我が国の主権の域外にある者を含む「全世界の国民」がうたわれている。また,憲法前文の最終段落(第4段)をみても,「日本国民は,国家の名誉にかけ,全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」と規定しており,憲法前文が憲 法の理念と目的を示していることは明らかである。そうすると,憲法前文が上記アのとおり憲法本文の各規定の解釈指針となり得るとしても,憲法前文第2段を根拠として,直ちに,個々の国民に原告らが主張する平和的生存権が具体的な権利又は法的利益として保障されているものと解することはできない。 また,憲法9条は,その文言からすれば,国民主権を前提として,国家 の統治機構ないし統治活動における規範を定めたものであって,憲法9条が存在する結果として,平和主義の下で個々の国民の権利又は法的利益が守られているという関係があるとしても,直接個々の国民に何らかの権利を与え,義務を負担させることを定めた規定とはいえない。 そして,「平和」とは,各個人の思想や信条により,多様な捉え方が可 能なものであり,個々人の信条や行動のみならず,常に他者との関係を含めて初めて達成し得るものであるから,これを確保する手段や方法は,常時変化する複雑な国際情勢に応じて多岐多様にわたり,具体的かつ特定の内容を有しているものとは認め難い。それゆえ,原告らが平和的生存権の内実として主張する「戦争がもたらす恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生 存」する権利や「平和な国と世界をつくりだしていくことのできる核 有しているものとは認め難い。それゆえ,原告らが平和的生存権の内実として主張する「戦争がもたらす恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生 存」する権利や「平和な国と世界をつくりだしていくことのできる核時代の自然権」の具体的な内容は,明らかでないといわざるを得ない。 さらに,原告らの主張する平和的生存権は,我が国の意思だけで現実的に保障され得るものではなく,平和で公正な国際秩序の維持が前提とされ,そのためには各国のそれぞれの努力が必要とされるものというべきである から,憲法が規定する一般の基本的人権とは,性質を異にするものであるといえる。このように,原告らの主張する平和的生存権は,性質の異なる多様な利益を抽象的な概念で包摂したものであり,外延の不明確な権利又は法的利益といわざるを得ないから,憲法13条が新しい人権として保障する根拠となる一般的包括的権利を定めたものであるとしても,憲法が規 定する基本的人権とは別に,直ちに,憲法13条を根拠として,個々の国民に原告らが主張する平和的生存権が具体的な権利又は法的利益として保障されているものと解することはできない。 ウ以上によれば,原告らが指摘する各規定及び各証拠を踏まえても,原告らの主張する平和的生存権が具体的な権利又は法的利益として保障されて いるものと解することはできない。 したがって,原告らの上記アの主張は,前提を欠き,理由がない。 ⑶ 人格権に対する侵害についてア生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権に対する侵害について① 原告らは,生命権,身体権及び精神に関する利益が各人の人格に本 質的なものであり,法の絶対的保護を受けることは明らかである旨,本件各行為は,我が国が他国の戦争(原告らは,米国と北朝鮮との間の緊張・対立関 命権,身体権及び精神に関する利益が各人の人格に本 質的なものであり,法の絶対的保護を受けることは明らかである旨,本件各行為は,我が国が他国の戦争(原告らは,米国と北朝鮮との間の緊張・対立関係が激化している旨を主張する。)に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする危険性を現に生じさせるものであり,原告らの生命,身体及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起され,生 命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権が侵害された旨をそれぞれ主張し,その理論的な裏付けとして,Y大学Z学部教授であるB7の意見書(甲B16)及び別件訴訟の証人尋問の結果(甲B82,甲B86)等を提出する。 そこで,本件立法行為等後の北朝鮮の動向についてみるに,後掲の 証拠によれば,⒜北朝鮮は,我が国の領域に向けて,多数回の弾道ミサイルの発射実験を行ったところ,政府は,これを受け,全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じ,対象地域に居住する国民に対して,建物や地下への避難を指示したこともあり,これにより,列車が停車や一時運休をしたり,小中学校等が休校となったりした(甲B93~ 甲B98,甲C32の5・6,甲E3,甲E12~甲E14)こと,⒝北朝鮮の国営通信機関である朝鮮中央通信は,平和安全法制関連2法を「戦争法」と揶揄したり,日本が米国と朝鮮戦争を起こそうとしているなどと批判したりする内容の記事を配信した(甲E18,甲E19)ことが認められる。また,平和安全法制関連2法制定後の駆け 付け警護の実施状況についてみるに,前記前提事実⑵ア及びイ並びに 後掲の証拠によれば,⒞政府は,内戦による武力衝突が激化していた南スーダンにおいて,文民保護が優先任務とされていたUNMISSに対し,平成27年11月15日,駆け付け警護の任務を に 後掲の証拠によれば,⒞政府は,内戦による武力衝突が激化していた南スーダンにおいて,文民保護が優先任務とされていたUNMISSに対し,平成27年11月15日,駆け付け警護の任務を付与した自衛隊を派遣した(本件任務付与行為)こと,⒟南スーダンでは,平成28年7月8日以降,内戦による武力衝突が再燃し,自衛隊宿営地の 近隣での銃撃戦によって,同宿営地が被弾することもあり,これらを受けて,現地の自衛隊の部隊は,市内での突発的な戦闘に巻き込まれたり,宿営地周辺での流れ弾に巻き込まれたりする事案に注意が必要である旨の報告書を作成した(甲A81,甲C11の18・19)ことが認められる。さらに,平和安全法制関連2法制定後の武器等防護 の実施状況についてみるに,前記前提事実⑶及び後掲の証拠によれば,⒠平成29年5月頃,防衛大臣の武器等防護の警護実施命令に基づき,海上自衛隊護衛艦が米海軍補給艦と合流して航行したこと(本件武器等防護の実施),⒡同年には,共同訓練の機会に,米軍の艦艇に対して自衛隊の艦艇が,米軍の航空機に対して自衛隊の航空機が,それぞ れ1回の警護を実施した(甲A109)こと,⒢平成30年には,弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視活動の機会に,米軍の艦艇に対して自衛隊の艦艇が3回,共同訓練の機会に,米軍の艦艇に対して自衛隊の艦艇が3回,米軍の航空機に対して自衛隊の航空機が10回の警護を実施した(甲A110)ことが認められる。 そして,ジャーナリストであり,南スーダンの現地取材も行ったB8の陳述書(甲B24)及び別件訴訟の証人尋問の結果(甲B80,甲B84)には,要旨,平和安全法制関連2法によって集団的自衛権の行使等が許容されることにより,我が国が米国の戦争への参加を拒否する防波堤が失われ 甲B24)及び別件訴訟の証人尋問の結果(甲B80,甲B84)には,要旨,平和安全法制関連2法によって集団的自衛権の行使等が許容されることにより,我が国が米国の戦争への参加を拒否する防波堤が失われたこと,同法の制定後,自衛隊の装備が増強さ れる等の軍事力の拡大強化が行われるなどして,自衛隊と米軍との一 体化が進行していること,米国は,10年に一度の頻度で大きな戦争を繰り返しており,今後も戦争をしないことは考え難いこと,近時,中東地域や朝鮮半島で緊張が高まっていること等を指摘した上で,我が国が米国による戦争に巻き込まれたり,米国を敵視する過激派組織等によるテロの標的とされたりする危険性が現実化している旨の記載 がある。 ② しかしながら,本件立法行為等は,集団的自衛権の行使や後方支援活動等の要件や効果に関する法制度の整備を行うことを内容とする閣議決定及び立法行為であって,平和安全法制関連2法が制定されたことそれ自体によって,直ちに,原告らの具体的な権利又は法的利益が 侵害されたとは認められない(なお,平和安全法制関連2法の中に,原告らの生命,身体等に対する侵害を効果として定めた規定は存在しない。)。 また,平和安全法制関連2法の制定後,本件の口頭弁論終結時までの間に,防衛出動命令や後方支援活動等,駆け付け警護,武器等防護 が実施されたことに起因して,我が国が他国から具体的に武力の行使を受けた事実を認めるに足りる的確な証拠はないのであって,本件各行為によって,直ちに,原告らの主張する戦争やテロのおそれが切迫し,原告らの生命,身体及び財産が侵害される具体的な危険が発生したとは認め難いといわざるをえない。 ③ さらに,原告らが指摘する事実等についてさらに検討すると,政府が我が国の安全保 が切迫し,原告らの生命,身体及び財産が侵害される具体的な危険が発生したとは認め難いといわざるをえない。 ③ さらに,原告らが指摘する事実等についてさらに検討すると,政府が我が国の安全保障上の脅威であると位置付ける北朝鮮(甲A121,甲E1,甲E8~甲E11)が,本件立法行為等の後に,我が国の領域に向けて,多数回の弾道ミサイルの発射実験を行ったり(上記①⒜),平和安全法制関連2法を批判したり(上記①⒝)したとしても,北朝 鮮は,本件立法行為等以前から,同発射実験を行っており(甲A12 1,甲E1),本件立法行為等を批判する趣旨で同発射実験を行ったとか,本件立法行為等に起因して,同発射実験の回数が有意に増加したことを認めるに足りる的確な証拠はない。また,自衛隊と米軍との間で繰り返し武器等防護が実施(本件武器等防護の実施を含む。)された(上記①⒠~⒢)ことから,北朝鮮が,その対立する米国と我が 国を一体のものとみているとしても,直ちに,米国と北朝鮮との間で戦争等に発展するとか,我が国が防衛出動命令や後方支援活動等を実施する状況にあることを認めるに足りず,他にこれらを認めるに足りる証拠はない。 そして,内戦による武力衝突が激化していた南スーダンにおいて, 本件任務付与行為が実施されたり(上記①⒞),自衛隊の宿営地周辺において,銃撃戦があったりした(上記①⒟)ことから,派遣されていた自衛隊員の生命や身体が危険にさらされるおそれが生じていたとしても,そもそも,南スーダンにおける内戦は,同国の国内問題であるから,その帰趨により,我が国に対する武力行使が行われるとか, 個別の原告らの生命,身体及び財産に具体的な危険が生じるものとはたやすく認め難い。 さらに,上記①のB8の陳述書等についてみる ら,その帰趨により,我が国に対する武力行使が行われるとか, 個別の原告らの生命,身体及び財産に具体的な危険が生じるものとはたやすく認め難い。 さらに,上記①のB8の陳述書等についてみると,我が国の防衛装備の高度化や米軍との関係強化がもたらす影響を推測することは困難であるし,米軍による戦争の可能性は不確実な将来予測にすぎず,上 記陳述書等をもって,直ちに,平和安全法制関連2法の制定によって我が国が戦争に巻き込まれたり,テロの標的とされたりする現実的かつ具体的な危険性が生じたものと認めるに足りない。 ④ 以上のとおり,上記①の各事実及び各証拠によっても,本件各行為により,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされた りする危険性が現に生じたとも,これらにより,原告らの生命,身体 及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起されたとも認めるに足りず,他にこれらを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告らの上記①の主張は,前提を欠き,理由がない。 ① また,原告らは,本件各行為に直面したことによって,その生命,身体及び財産が危険にさらされるものと強く案じ,不安を抱き,内心 の平穏を侵害されたところ,本件各行為は,原告らにこのような不安感等を抱かせた点からして,原告らの生命権,身体権及び精神に関する利益としての人格権を侵害する旨を主張し,その理論的な裏付けとして,B7の意見書及び証人尋問の結果(上記①)等を提出する。 確かに,証拠(甲D1~甲D4,甲D6~甲D19,原告A3本人, 原告A4本人,原告A5本人,原告A8本人,原告A9本人,原告A10本人,原告A13本人)によれば,原告らは,別紙被害一覧表のとおり,それぞれの経歴,境遇,職業,生活状況等を背景として,平和主義の理念を 4本人,原告A5本人,原告A8本人,原告A9本人,原告A10本人,原告A13本人)によれば,原告らは,別紙被害一覧表のとおり,それぞれの経歴,境遇,職業,生活状況等を背景として,平和主義の理念を守りながら生活を送っていたが,本件各行為によって,我が国が戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする事態が引 き起こされるものと認識していることが認められる。また,原告らが,自身や家族の生命,身体等が侵害されることへの恐怖や不安を抱き,精神的苦痛を受けたこと自体を否定する理由はない。 ② しかしながら,多数決原理を基礎とする間接民主制(憲法43条1項等)を採用する我が国において,一部の国民が反対しているにもか かわらず,内閣において閣議決定がされたり,国会において立法がされたりすることは,憲法自体が予定しているものというべきであるし,原告らが,自らの信念に反する政策判断が行われた場合に,これを批判し,自らの信念を表明したりすることは何ら否定されないところである。また,本件各行為によって,原告らの主張する戦争やテロのお それが切迫し,原告らの生命,身体の安全等が侵害される具体的な危 険が発生したと認められないことは,上記のとおりであることからすると,原告らの精神的苦痛は,本件各行為に伴って一般に広く生じ得る抽象的な不安感にとどまるものといわざるを得ない。そして,原告らが抱くこのような不安感の元となる価値観を共有する者が相当数存在するとしても,当該価値観が国民に広く共有され,かつ,内容が 一義的であるとも認められないことからすると,上記①の意見書等を踏まえても,上記のような不安感をもって,法的保護に値する被侵害利益とみることはできないというべきである。 ③ したがって,原告らの上記①の主張は められないことからすると,上記①の意見書等を踏まえても,上記のような不安感をもって,法的保護に値する被侵害利益とみることはできないというべきである。 ③ したがって,原告らの上記①の主張は,前提を欠き,理由がない。 イ平穏生活権に対する侵害について 原告らは,平穏な生活は,精神的な平穏及び物理的な平穏から構成されるところ,平穏な生活の核心にある自分の人生を自律的に設計し,送っていくことを成り立たせる複数の要素を包摂するものが平穏生活権(平和のうちに平穏に生きる権利としての人格権)であって,この平穏生活権は,法律上保護された権利又は法的利益である旨,原告らの平穏生活 権は,本件各行為により侵害された旨をそれぞれ主張し,その理論的な裏付けとして,B7の意見書及び証人尋問の結果(上記ア①)等を提出する。 確かに,証拠(甲D1~甲D4,甲D6~甲D19,原告A3本人,原告A4本人,原告A5本人,原告A8本人,原告A9本人,原告A1 0本人,原告A13本人)によれば,原告らは,別紙被害一覧表のとおり,それぞれの経歴,境遇,職業,生活状況等を背景として,本件各行為に直面するまでは,平和主義の理念を守りながら,平穏な生活を送ることができていたと感じていることが認められる。 しかしながら,原告らの主張する「平和のうちに平穏に生きる権利と しての人格権」が具体的にいかなる内容で,どのような法的効果がある かといった点が不明であるといわざるを得ず,上記イの意見書等を踏まえても,直ちに,個々の国民に原告らが主張する平穏生活権が具体的な権利又は法的利益として保障されているものとは認め難い。 また,本件各行為により,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする危険性が現に生じ に原告らが主張する平穏生活権が具体的な権利又は法的利益として保障されているものとは認め難い。 また,本件各行為により,我が国が他国の戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする危険性が現に生じたとも,これらにより,原告 らの生命,身体及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起されたとも認められないことは,上記アのとおりである。 なお,原告らの上記イの主張は,本件各行為によって原告らの平穏な生活が害されることへの不安感や危惧を抱き,内心の平穏が害され,精神的苦痛を受けた旨をいうものとも解されるところ,このような精神 的苦痛は,本件各行為に伴って一般に広く生じ得る抽象的な不安感にとどまるものといわざるを得ず,このような不安感が法的保護に値する被侵害利益とみることができないことは,上記ア②のとおりである。 したがって,いずれにせよ,原告らの上記イの主張は,前提を欠き,理由がない。 ウ主権者として蔑ろにされない権利としての人格権に対する侵害について原告らは,主権者として,憲法改正手続に参加し得る地位を有するところ,本件立法行為等は,憲法9条の規範内容を実質的に改変するものであるにもかかわらず,憲法改正手続を潜脱して強行されたものであり,本来参加し得る憲法改正手続への参加の機会を奪われたことによって, 主権者としての立場を蔑ろにされるなどし,多大な被害感情が生じたという意味で,原告らの人格権を侵害する旨を主張し,その理論的な裏付けとして,B7の意見書及び証人尋問の結果(上記ア①)等を提出する。 しかしながら, 後記⑷アのとおり,憲法改正の発議がない時点にお いては,憲法上保障される表現の自由や政治活動の自由等を超えて,個々 の国民に対し,憲法改正に関与する具体的な手 しかしながら, 後記⑷アのとおり,憲法改正の発議がない時点にお いては,憲法上保障される表現の自由や政治活動の自由等を超えて,個々 の国民に対し,憲法改正に関与する具体的な手続を要求する権利が付与されているとも,個々の権利又は法的利益の侵害とは関わりなく,憲法に違反する閣議決定や法律の制定をされない権利又は法的利益が保障されているものとも認められない。 そもそも,平和安全法制関連2法は,憲法ではなく,あくまで法律を 改正又は制定するものであり,平和安全法制関連2法が憲法に適合しない場合には,平和安全法制関連2法が違憲無効となるにすぎないのであって,平和安全法制関連2法の制定によって,憲法の効力に影響を与える余地はないのであるから,憲法9条が実質的に改正されたということもできない。 なお,原告らの上記⑶ウの主張の実質は,結局のところ,平和安全法制関連2法が原告らの憲法擁護に係る信念や信条に反するものであることから,本件立法行為等により原告らが精神的苦痛を受けた旨を主張するものとも解される。しかしながら,そのような精神的苦痛を受けたとしても,このような精神的苦痛は,本件立法行為等に伴って一般に広 く生じ得る抽象的な不安感にとどまるものといわざるを得ず,このような不安感を法的保護に値する被侵害利益とみることができないことは,上記⑶ア②のとおりである。 したがって,いずれにせよ, 原告らの上記⑶ウの主張は,前提を欠き,理由がない。 ⑷ 憲法改正・決定権又は国民投票権に対する侵害についてア憲法改正・決定権に対する侵害について原告らは,憲法改正・決定権が憲法前文第1段,96条,99条及び日本国憲法の改正手続に関する法律により保障されている旨,本件立法行為等は,憲法9条 てア憲法改正・決定権に対する侵害について原告らは,憲法改正・決定権が憲法前文第1段,96条,99条及び日本国憲法の改正手続に関する法律により保障されている旨,本件立法行為等は,憲法9条の規範内容を実質的に改変するものであるにもかか わらず,憲法改正手続を潜脱して強行したものであるところ,原告らが 憲法改正手続に基づいて国民投票権を行使し,改正の是非について議論・意思表示する機会を奪うものであるから,原告らの憲法改正・決定権を侵害する旨,本件任務付与行為及び本件武器等防護の実施は,上記侵害を既成事実化するものであるという点において,原告らの憲法改正・決定権を侵害する旨をそれぞれ主張し,その理論的な裏付けとして,B5 (上記⑵ア)の意見書(甲B79)等を提出する。 確かに,上記⑵アのとおり,憲法前文は,憲法本文の各規定の解釈指針となり得るところ,憲法前文第1段は,「日本国民は,(中略)ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する。」としており,国民主権原理及び憲法制定権が国民に存在することを明示している ものと解される。そして,憲法96条は,1項において,憲法の改正は,国会の発議に対して国民の承認を得なければならないとして,国民に憲法改正の最終決定権があることを明らかにし,2項において,憲法の改正を「国民の名で」公布するとしているから,上記各規定は,憲法改正権の主体が国民であることを明示しているものと解される。また,憲法 99条は,国会議員等の憲法尊重擁護義務を規定しており,閣議において憲法に違反する決定をしたり,憲法に違反する法律が制定されたりした場合には,同義務との抵触が問題となるということができる。 しかしながら,平和安全法制関連2法の制定によって,憲法9条が実 おいて憲法に違反する決定をしたり,憲法に違反する法律が制定されたりした場合には,同義務との抵触が問題となるということができる。 しかしながら,平和安全法制関連2法の制定によって,憲法9条が実質的に改正されたということもできないことは,上記⑶ウのとおりで あるから,本件立法行為等や本件各行為によって憲法改正がなされたことを前提とする原告らの上記主張は,失当というほかない。 この点を措いても,憲法前文が,個々の国民に対し,具体的な権利又は法的利益を直接保障したものであると解することが困難であることは,上記⑵ウのとおりであるし,憲法96条1項は,憲法改正の発議を国 会が行い,当該発議に係る承認について国民投票が行われる旨を規定し ているが,同項を受けて制定された日本国憲法の改正手続に関する法律は,国民投票の手続を規定するとともに,憲法改正の発議に係る手続の整備を行うものにすぎない(同法1条)。また,国会議員等の憲法尊重擁護義務を定める憲法99条が,国民に憲法改正手続に関する何らかの権利又は法的利益を認めるものとは解されない。 そうすると,これらの各規定や上記⑷アの意見書等を踏まえても,原告らに対し,具体的な権利又は法的利益として,原告ら主張の憲法改正・決定権が保障されていると解することはできない。 以上によれば,本件立法行為等や本件各行為が,原告らの主張する憲法改正・決定権を侵害したということはできない。 したがって,いずれにせよ,原告らの上記⑷アの主張は,前提を欠き,理由がない。 イ国民投票権に対する侵害について原告らは,本件各行為によって,原告らの国民投票権が侵害された旨を主張する。 しかしながら,平和安全法制関連2法は,憲法の条文自体を改正する い。 イ国民投票権に対する侵害について原告らは,本件各行為によって,原告らの国民投票権が侵害された旨を主張する。 しかしながら,平和安全法制関連2法は,憲法の条文自体を改正するものではないから,憲法改正に伴う国民投票制度における個別の国民の投票権の内容や行使に何ら具体的な制約を加えるものではない。 また,憲法前文,96条1項及び99条により,原告ら主張の国民投票権が保障されていると解することができないことは,上記アと同様 である。 したがって,原告らの上記イの主張は,前提を欠き,理由がない。 ⑸ 原告らのその他の主張について原告らが本件各行為によって侵害されたと主張する個別的な権利又は法的利益の中に,以上で検討した平和的生存権,人格権及び憲法改正・決定権又 は国民投票権のいずれにも含まれないものがあるとしても,本件各行為によ って,我が国が戦争に巻き込まれたり,テロの対象とされたりする危険性が現に生じたとも,原告らの生命,身体及び財産が侵害される客観的な危険性が惹起されたとも認められないことは,上記⑶アのとおりであるから,本件各行為によって,原告らの権利又は法的利益が侵害されたとは認められない。 2 結論以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 福島地方裁判所いわき支部 裁判長裁判官三井大有 裁判官古屋勇児 裁判官吉原裕貴 略語一覧表及び被害一覧表以外の別紙部分は,掲載省略 勇児 裁判官 吉原裕貴 略語一覧表及び被害一覧表以外の別紙部分は,掲載省略。

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