令和2(ラ)10004 訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件

裁判年月日・裁判所
令和2年8月3日 知的財産高等裁判所 4部 決定 原決定変更 東京地方裁判所 令和1(ワ)31210
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判決文本文18,942 文字)

令和2年(ラ)第10004号訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件(基本事件・東京地方裁判所令和元年(ワ)第31210号損害賠償請求事件)決定 抗告人(基本事件原告)塩野義製薬株式会社 抗告人(基本事件原告)ヴィーブヘルスケアカンパニー 上記2名代理人弁護士大野聖二山口裕司多田宏文復代理人弁護士盛田真智子補佐人弁理士森田裕大木信人 相手方(基本事件被告)ギリアド・サイエンシズ株式会社 代理人弁護士AB補佐人弁理士壽勇松井仁志小澤圭子 主文 1 原決定を取り消す。 2 弁護士A及び弁護士Bは,基本事件につき,弁護士としての職務として相手方の訴訟代理をしてはならない。 3 抗告費用は相手方の負担とする。 理由 第1 抗告の趣旨及び理由等 1 抗告の趣旨主文第1項及び て相手方の訴訟代理をしてはならない。 3 抗告費用は相手方の負担とする。 理由 第1 抗告の趣旨及び理由等 1 抗告の趣旨主文第1項及び第2項と同旨 2 抗告の理由等抗告人らの抗告の理由は,別紙「即時抗告理由書」及び別紙「第1主張書面」(いずれも写し)に記載のとおりであり,これに対する相手方の反論は,別紙「答弁書」及び別紙「主張書面1」(いずれも写し)に記載のとおりである。 第2 事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原決定に従う。)基本事件は,「発明の名称」を「HIVインテグラーゼ阻害活性を有する多環性カルバモイルピリドン誘導体」とする特許第4295353号(以下「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である抗告人らが,相手方による別紙製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)及び被告製品に含有されている別紙成分目録記載の物質(以下「被告成分」という。)の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出が本件特許権の侵害に該当する旨主張して,相手方に対し,本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,10億円及び遅延損害金の支払を求める事案である。 本件は,抗告人らが,基本事件における相手方の訴訟代理人である弁護士A及び弁護士B(以下A弁護士と併せて「A弁護士ら」という。)が所属するE事務所(以下「本件事務所」という。)の所属弁護士であった弁護士Cは,本件事務所に所属する前に抗告人塩野義製薬株式会社(以下「抗告人塩野義」という。)の社内弁護士として基本事件の訴訟に係る業務を担当し,これに深く 関与していたから,基本事件は,C弁護士との関係では,弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合 う。)の社内弁護士として基本事件の訴訟に係る業務を担当し,これに深く 関与していたから,基本事件は,C弁護士との関係では,弁護士法25条1号及び弁護士職務基本規程(平成16年日本弁護士連合会会規第70号。以下「本件基本規程」という。)27条1号の「相手方の協議を受けて賛助した事件」又は弁護士法25条2号及び本件基本規程27条2号の「相手方の協議を受けた事件で,その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」に当たり,A弁護士らとの関係では,本件基本規程57条本文の「他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が27条の規定により職務を行い得ない事件」に当たるから,A弁護士らが基本事件において相手方の訴訟代理人として訴訟行為をすることは本件基本規程57条に違反すると主張して,A弁護士らの各訴訟行為の排除を求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。 原審は,弁護士法25条1号に違反する訴訟行為につき,相手方である当事者が裁判所に対して同号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有することからすれば,本件基本規程57条違反の訴訟行為についても,相手方である当事者が裁判所に対して同条に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有すると解するのが相当であり,基本事件はA弁護士らとの関係で同条本文の定める事件に該当するが,A弁護士らには同条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があるから,A弁護士らの訴訟行為は同条に違反しない旨判断し,抗告人らの本件申立てを却下した。 抗告人らは,原決定を不服として即時抗告をした。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる法令等の定め次のとおり訂正するほか,原決定の「第4 当裁判所の判断」の1に記載のとおり てを却下した。 抗告人らは,原決定を不服として即時抗告をした。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる法令等の定め次のとおり訂正するほか,原決定の「第4 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原決定2頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「相手方の協議を受けた事件で,その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの(2号)」⑵ 原決定2頁24行目の「⑵ 日弁連会則」を「⑵ 日本弁護士連合会会則(以下「日弁連会則」という。)」と改める。 ⑶ 原決定3頁5行目の「基本規程」を「本件基本規程」と改め,「同頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「相手方の協議を受けた事件で,その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの(2号)」 2 認定事実次のとおり訂正するほか,原決定の「第4 当裁判所の判断」の2に記載のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原決定3頁末行の「E事務所(以下「本件事務所」という。)」を「本件事務所」と改める。 ⑵ 原決定5頁14行目から15行目にかけて,同頁22行目及び同頁23行目の各「当裁判所」を「原審裁判所」と改める。 ⑶ 原決定5頁15行目の「D弁護士は,」から18行目の「提出するとともに,」までを「D弁護士は,同年12月23日までに,原審裁判所に弁理士1名を訴訟復代理人に委任する旨の同月16日付け委任状及び弁理士1名を補佐人に選任する旨の同日付け委任状を提出するとともに(以下,D弁護士を含む上記合計4名の弁護士及び弁理士並びに上記訴訟復代理人に委任された1名の弁理士を併せて「D弁護士ら」という。)」と,同頁18行目の「同日」を「同月23日」と,同頁25行目の「令和2年」を「同年」と改める 合計4名の弁護士及び弁理士並びに上記訴訟復代理人に委任された1名の弁理士を併せて「D弁護士ら」という。)」と,同頁18行目の「同日」を「同月23日」と,同頁25行目の「令和2年」を「同年」と改める。 ⑷ 原決定6頁3行目の「問合せを受け,」を「問合わせを受けた際,基本事件の原告らの中に申立人塩野義が含まれていたことから,C弁護士が基本事件に関わっているのか確認する必要があると考え,」と改める。 ⑸ 原決定6頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「 また,A弁護士は,同日,システム管理会社に依頼して,本件事務所のサーバコンピュータ内に,本件事務所に所属する弁護士及び弁理士ら全員がアクセスすることができる共有フォルダとは別に,C弁護士がアクセスすることができないように設定された共有フォルダ(以下「本件フォルダ」という。)を作成した(疎乙5,7,8,13)。」⑹ 原決定6頁23行目から24行目にかけての「フォルダ(以下「本件フォルダ」という。)」を「本件フォルダ」と改める。 ⑺ 原決定8頁7行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「ア抗告人らは,令和2年2月7日,原審裁判所に対し,本件申立てをした。」⑻ 原決定8頁8行目の「C弁護士は,」を「イ C弁護士は,」と改める。 3 本件基本規程57条違反を理由とする訴訟行為の排除の裁判の申立権の有無について⑴ 本件において,抗告人らは,C弁護士は本件事務所に所属する前に抗告人塩野義の社内弁護士として基本事件の訴訟に係る業務を担当し,これに深く関与していたから,抗告人らを原告,相手方を被告とする基本事件は,本件事務所の所属弁護士であったC弁護士との関係では,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号又は弁護士法25条2号及び本件基本規程27 ていたから,抗告人らを原告,相手方を被告とする基本事件は,本件事務所の所属弁護士であったC弁護士との関係では,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号又は弁護士法25条2号及び本件基本規程27条2号により職務を行い得ない事件であり,本件事務所の所属弁護士であるA弁護士らとの関係では,本件基本規程57条により職務を行い得ない事件であるから,本件基本規程57条に違反することを理由として,A弁護士らの訴訟行為の排除を求めている。 そこで,まず,本件基本規程57条に違反することを理由として,相手方である当事者は,裁判所に対し,その訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有するかどうかについて判断する。 ⑵ア弁護士法25条は,弁護士は,同条各号に掲げる事件については,その 職務を行ってはならない旨を定め,1号において「相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件」を掲げる。 そして,弁護士法25条1号は,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであり,当事者の利益の保護をも目的としていることからすると,相手方である当事者は,裁判所に対し,同号に違反する訴訟行為であることを理由として,その訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有するものと解される(最高裁昭和35年(オ)第924号同38年10月30日大法廷判決・民集17巻9号1266頁,最高裁平成29年(許)第6号同年10月5日第一小法廷決定・民集71巻8号1441頁参照)。 イ弁護士法22条は,弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則を守らなければならない旨規定し,同法56条1項は,弁護士及び弁護士法人は,この法律又は所属弁護士会若しくは日弁連の 1頁参照)。 イ弁護士法22条は,弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則を守らなければならない旨規定し,同法56条1項は,弁護士及び弁護士法人は,この法律又は所属弁護士会若しくは日弁連の会則に違反し,所属弁護士会の秩序又は信用を害し,その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは,懲戒を受ける旨規定している。 また,日弁連会則16条は,日弁連会則2章で定めるもののほか,弁護士の道徳及び倫理並びに弁護士の職務の規律に関し必要な事項は会規をもって定める旨規定し,日弁連会則29条1項は,弁護士は,所属弁護士会及び日弁連の会則,会規及び規則を守らなければならない旨規定している。 そして,本件基本規程は,弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかにするため(本件基本規程の前文),日弁連会則16条が規定する弁護士の道徳及び倫理並びに弁護士の職務の規律に関し必要な事項を定めたものであって,弁護士法22条により弁護士が遵守することが求められる会規に当たるものである。 ウ本件基本規程27条は,弁護士は,同条各号のいずれかに該当する事件 については,その職務を行ってはならない旨を定め,1号において「相手方の協議を受けて賛助し,又はその依頼を承諾した事件」を掲げる。 このような本件基本規程27条1号の規定ぶりは,弁護士法25条1号の規定ぶりと同様であるから,本件基本規程27条1号の趣旨は,弁護士法25条1号と同様に,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであると解される。 次に,本件基本規程57条本文は,所属弁護士は,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が,本件基本規程27条 の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであると解される。 次に,本件基本規程57条本文は,所属弁護士は,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が,本件基本規程27条又は28条の規定により職務を行い得ない事件については,職務を行ってはならない旨規定し,本件基本規程57条ただし書は,「職務の公正を保ち得る事由」があるときは,この限りではない旨規定している。すなわち,本件基本規程57条は,複数の弁護士が法律事務所を共にする共同事務所の場合,その共同事務所の所属弁護士は,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が本件基本規程27条又は28条の規定により職務を行い得ない事件については,原則として職務を行うことを禁止し,例外的に「職務の公正を保ち得る事由」があるときは,職務を行い得ることを規定したものである。 そして、本件基本規程57条が,本件基本規程27条1号との関係において,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が同号により職務を行い得ない事件について,所属弁護士が,「職務の公正を保ち得る事由」があるときを除き,その職務を行うことを禁止しているのは,所属弁護士がその事件について職務を行うことは,依頼者に所属弁護士の職務の公正に対する疑念と不安を生じさせるものであり,他方で,先に他の所属弁護士又は共同事務所を離脱した他の所属弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者においても,所属弁護士の職務の公正に対する疑念を生じ させるものであることから,依頼者の信頼を確保し,依頼者及び上記当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであると解される。 このような本件基本規程57条の規定の趣旨は,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をし を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであると解される。 このような本件基本規程57条の規定の趣旨は,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とする点において,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号の規定の趣旨と共通するものである。 したがって,弁護士法25条1号の規定の趣旨に鑑み,相手方である当事者は,裁判所に対し,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件に該当するため本件基本規程57条に違反する訴訟行為であることを理由として,その訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有するものと解するのが相当である。 これに反する相手方の主張は,採用することができない。 4 A弁護士らの訴訟行為の本件基本規程57条違反の有無について⑴ 事実関係前記2の認定事実と一件記録を総合すれば,本件の経緯等として,以下の事実が認められる。 ア(ア) 抗告人塩野義は,医薬品等の製造,販売及び輸出等を業とする株式会社である。 抗告人ヴィーブヘルスケアカンパニーは,HIV感染症治療薬の開発,製造,販売及び輸出等を業とする米国法人である。 (イ) 相手方は,医薬品等の製造,販売及び輸入等を業とする株式会社である。 イ(ア) C弁護士は,平成20年に弁護士登録をして同年1月11日から令 和元年12月31日までの間,抗告人塩野義に社内弁護士として在籍した。 C弁護士は,平成29年4月1日以降,抗告人塩野義の知的財産部情報戦略グループ(当時。以下同じ。)のサブグループ長として,他の抗告人塩野義の従業員とともに,抗告 野義に社内弁護士として在籍した。 C弁護士は,平成29年4月1日以降,抗告人塩野義の知的財産部情報戦略グループ(当時。以下同じ。)のサブグループ長として,他の抗告人塩野義の従業員とともに,抗告人らが有する本件特許権に対応する外国の特許権侵害を理由とする相手方の親会社に対する米国及びカナダでの訴訟提起の準備,米国訴訟提起後のディスカバリー手続への対応,米国訴訟における特許の請求項の解釈の検討,カナダ訴訟における訴訟戦略の検討等を行った。 また,C弁護士は,平成30年2月15日から,他の抗告人塩野義の従業員とともに,基本事件の追行を委任する弁護士の選定,基本事件の実体的な内容を含む抗告人ら代理人や関係者との訴訟準備に係る協議,抗告人ら代理人に対する相談資料の作成等,基本事件の訴訟提起のための準備を担当していた。 (イ) 本件事務所の代表パートナーを務めるA弁護士は,令和元年8月2日,転職エージェントからC弁護士の紹介を受け,同月6日及び同年9月3日のC弁護士との2回の面接を経て,同日,C弁護士に対し,本件事務所への入所の内定通知をした。 C弁護士は,同年9月半ば頃,抗告人塩野義を退職する予定であることを申し出て,同年10月15日に基本事件の訴訟提起のための準備の担当から外れた。一方,同月31日までに,C弁護士が令和2年1月1日から本件事務所に所属することが決められた。 C弁護士は,令和元年11月8日まで抗告人塩野義に出勤し,その後は有給休暇を取得した後,同年12月31日付けで抗告人塩野義を退職した。 ウ(ア) 抗告人らは,令和元年11月20日,原審裁判所に基本事件の訴訟 を提起した。 (イ) 基本事件の訴状には,HIVインテグラーゼ阻害活性を有する抗HIV薬に関する本件 ウ(ア) 抗告人らは,令和元年11月20日,原審裁判所に基本事件の訴訟 を提起した。 (イ) 基本事件の訴状には,HIVインテグラーゼ阻害活性を有する抗HIV薬に関する本件特許権を有する抗告人らが,被告製品及び被告製品に含有されている被告成分は,本件特許の請求項12,17,29,36及び37に係る各発明(以下「本件発明」と総称する。)の構成要件を充足し,又は均等論の要件を充足するから,本件発明の技術的範囲に属し,相手方による被告製品及び被告成分の生産,譲渡,輸入又は譲渡の申出が本件特許権の侵害に該当する旨主張して,相手方に対し,本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,10億円及び遅延損害金の支払を求める旨の記載がある。 エ本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士を含む合計4名の弁護士及び弁理士は,令和元年11月28日までに,相手方から委任を受けて基本事件の訴訟代理人となった。 D弁護士は,同年12月23日の基本事件の第1 回口頭弁論期日に相手方の訴訟代理人として原審裁判所に出頭し,抗告人らの請求をいずれも棄却する旨の答弁及び請求原因事実については追って認否する旨を記載した答弁書の内容を陳述した。 基本事件は,受命裁判官による弁論準備手続に付され,第1回弁論準備手続期日が令和2年2月14日に指定された。 オ(ア) A弁護士は,令和元年12月26日,相手方から基本事件の訴訟追行の受任の可否についてメールで問合せを受けた後,同月27日,相手方との間で,基本事件を受任することについて合意をした。 A弁護士は,上記合意後の同日,C弁護士と面談した際,C弁護士が基本事件に担当者として関わっていた旨を述べたことから,C弁護士に対し,それ以上の発言をしないように伝え,C弁護士から抗告人塩 。 A弁護士は,上記合意後の同日,C弁護士と面談した際,C弁護士が基本事件に担当者として関わっていた旨を述べたことから,C弁護士に対し,それ以上の発言をしないように伝え,C弁護士から抗告人塩野義で担当した基本事件を含む一切の秘密情報を本件事務所に漏らさないこ とを誓約する旨記載された誓約書(疎乙6の3枚目)の提出を受けた。 また,A弁護士は,同日,本件事務所に所属するB弁護士を含む弁護士,弁理士及び事務局の職員に対し,基本事件を受任することとなったこと,C弁護士が抗告人塩野義で勤務していた際に基本事件を担当していたことを伝えた上,C弁護士から基本事件の情報を一切受け取らず,C弁護士にも漏えいしないようにすること等を指示した上,基本事件に関するメールでのやり取りはC弁護士以外の本件事務所の所員全員(本件メンバー)間のみで行い,その際のメールの宛先は本件メンバー全員とし,宛先の追加又は削除をしないこと,勤務時間の内外を問わず,基本事件についてC弁護士からは一切聞かず,C弁護士に一切伝えないこと,基本事件に関するファイルを本件事務所のサーバコンピュータ内のC弁護士がアクセスできないように設定された本件フォルダにのみ入れるものとし,誤ってC弁護士がアクセスできるように設定されたフォルダに入れた場合には,直ちに削除するとともに,A弁護士に報告すること,基本事件に関する打合せ及び会話は,C弁護士が執務室に不在でも本件事務所の第2会議室のみで行うこと等を指示した。 (イ) C弁護士は,令和2年1月2日から本件事務所に出勤した。 本件事務所には,その当時,A弁護士,B弁護士,C弁護士を含む6名の弁護士及び弁理士2名の合計8名の弁護士及び弁理士が所属し,同じ執務室で執務を行っていた。上記執務室における各弁護士及び弁理士個 本件事務所には,その当時,A弁護士,B弁護士,C弁護士を含む6名の弁護士及び弁理士2名の合計8名の弁護士及び弁理士が所属し,同じ執務室で執務を行っていた。上記執務室における各弁護士及び弁理士個人の執務スペースの周囲三方には,ノートパソコンの画面の2倍程度の高さの仕切りが設けられていた。本件事務所の第2会議室は,弁護士及び弁理士の上記執務室とドア及び玄関兼廊下を隔てた場所にあり,天井までの間仕切りで囲まれていた。 一方で,本件事務所では,各弁護士及び弁理士の間で,補助する事務局の職員を別にするといった態勢は執られていなかった。 (ウ) A弁護士は,C弁護士が本件事務所での勤務を開始してからは,基本事件に関する紙媒体の管理の徹底や基本事件に関する書類をスキャンしたデータの管理の徹底などをC弁護士が不在の場で弁護士,弁理士及び事務局に指示した。 また,A弁護士は,基本事件の訴訟記録を弁護士及び弁理士の執務室から離れた事務局の執務室の鍵付きのキャビネットに保管させ,A弁護士と事務局のみがその鍵を管理するようにした。 カ相手方は,令和2年1月16日,A弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任する旨の同月8日付けの訴訟委任状を原審裁判所に提出した。D弁護士らは,同月18日,同月14日付けの辞任届を原審裁判所に提出した。 同月24日,基本事件の第1回弁論準備手続期日が同年2月14日から同年3月26日に変更された。 キ(ア) 抗告人らは,令和2年2月7日,原審裁判所に対し,本件申立てをした。 (イ) C弁護士は,令和2年2月10日,A弁護士と合意の上,本件事務所を退所(退職)した。 (ウ) 原審裁判所は,令和2年3月30日,本件申立てを却下する旨の原決定をした。 ⑵ 基本事件の本件 C弁護士は,令和2年2月10日,A弁護士と合意の上,本件事務所を退所(退職)した。 (ウ) 原審裁判所は,令和2年3月30日,本件申立てを却下する旨の原決定をした。 ⑵ 基本事件の本件基本規程57条本文該当性についてア前記⑴イのとおり,C弁護士は,平成20年1月11日から令和元年12月31日までの間,抗告人塩野義に社内弁護士として在籍し,抗告人塩野義の知的財産部情報戦略グループのサブグループ長として,他の抗告人塩野義の従業員とともに,平成29年4月1日以降,抗告人らが有する本件特許権に対応する外国の特許権侵害を理由とする相手方の親会社に対する米国及びカナダでの訴訟提起の準備,米国訴訟提起後のディスカバリー手続への対応,米国訴訟における特許の請求項の解釈の検討,カナダ訴訟 における訴訟戦略の検討等を行い,平成30年2月15日から令和元年10月15日までの間,基本事件の追行を委任する弁護士の選定,基本事件の実体的な内容を含む抗告人ら代理人や関係者との訴訟準備に係る協議,抗告人ら代理人に対する相談資料の作成等,基本事件の訴訟提起のための準備を担当していたことが認められる。 上記認定事実によれば,C弁護士は,基本事件の内容について,抗告人塩野義から法律的な解釈及び解決を求める相談を受けて,具体的な法律的な見解を示し,法律的手段を教示又は助言をしたものと認められるから,基本事件は,C弁護士にとって,抗告人塩野義の「協議を受けて,賛助した事件」(弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号)に該当する。 そうすると,C弁護士は,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号により,基本事件について,被告である相手方の訴訟代理人としての職務を行うことはできないものと認められる。 イそして,前記⑴ウ,オ,カ及びキ は,弁護士法25条1号及び本件基本規程27条1号により,基本事件について,被告である相手方の訴訟代理人としての職務を行うことはできないものと認められる。 イそして,前記⑴ウ,オ,カ及びキ(イ)の認定事実によれば,C弁護士は,抗告人らが令和元年11月20日に基本事件の訴訟を提起した後の令和2年1月1日,本件事務所に入所し,同日から同年2月10日までの間本件事務所に在籍したこと,その間の同年1月16日,相手方は,本件事務所に所属するA弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任する旨の同月8日付けの訴訟委任状を原審裁判所に提出し,A弁護士らは,相手方の訴訟代理人となったことが認められる。 上記認定事実によれば,基本事件は,本件事務所の所属弁護士のA弁護士らにとって,所属弁護士であったC弁護士が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件であるといえるから,本件基本規程57条本文に定める「他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が本件基本規程27条1号の規定により職務を行い得ない事件」に該当するものと認められる。 ⑶ A弁護士らの「職務の公正を保ち得る事由」の有無について相手方は,本件基本規程57条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」の有無は,職務の公正らしさ,すなわち職務の公正な外観の保護という一律の基準をもって判断すべきではなく,諸事情を総合考慮して具体的事案に即して実質的に判断されるべきであるところ,①A弁護士は,基本事件の受任後直ちに,C弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の弁護士らとの間での基本事件に関する情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じたこと,②C弁護士が本件事務所において勤務した期間は1か月余りの短期間にとどまり,その間に基本事件の情報の共有や漏えいをしたことはなく,C弁護 情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じたこと,②C弁護士が本件事務所において勤務した期間は1か月余りの短期間にとどまり,その間に基本事件の情報の共有や漏えいをしたことはなく,C弁護士の退職(退所)により基本事件に関する情報の共有や漏えいのおそれも存在しないこと,③仮にC弁護士及びA弁護士らが基本事件に関する秘密保持義務違反行為やそれを唆すような行為に及べば,弁護士として懲戒処分を受けるのみならず,巨額の損害賠償責任や刑事責任を負う可能性すらあるから,そのような行為に及ぶことはあり得ないこと,④相手方が基本事件の訴訟代理人を変更したのは,いったんは相手方の特許出願に主に携わっているD弁護士の所属する特許法律事務所に相談して委任したが,その後,製薬特許専門訴訟に特化し,その分野での経験が豊かな訴訟専門弁護士に依頼すべきと考えるに至り,2年前に依頼したことがある本件事務所に訴訟遂行を委任することにしたからであり,その経緯に特段不自然な点はないこと,⑤基本事件は,医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件である基本事件を取り扱うことができる弁護士は限られており,抗告人ら及びその関係会社のいずれをも顧客としない法律事務所を探すことは極めて困難であるという実情があり,本件基本規程57条によってA弁護士らについて訴訟行為の排除が認められるとすると,相手方において憲法32条が保障する裁判を受ける権利が十分に満足されない事態に発展することからすると,基本事件について抗告人らと相手方との 利害対立の程度は小さいとはいえない点を踏まえても,基本事件の情報漏えいとそれによる依頼人の利益の侵害の危険性がなく,また,そのような情報漏えい及び利益の侵害も現に発生していないから,A弁護士らには「 害対立の程度は小さいとはいえない点を踏まえても,基本事件の情報漏えいとそれによる依頼人の利益の侵害の危険性がなく,また,そのような情報漏えい及び利益の侵害も現に発生していないから,A弁護士らには「職務の公正を保ち得る事由」がある旨主張する。 ア 「職務の公正を保ち得る事由」の意義について前記3⑵ウで説示したとおり,本件基本規程57条が,本件基本規程27条1号との関係において,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が同号により職務を行い得ない事件について,所属弁護士が,「職務の公正を保ち得る事由」があるときを除き,その職務を行うことを禁止しているのは,所属弁護士がその事件について職務を行うことは,依頼者に所属弁護士の職務の公正に対する疑念と不安を生じさせるものであり,他方で,先に他の所属弁護士又は共同事務所を離脱した他の所属弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者においても,所属弁護士の職務の公正に対する疑念を生じさせるものであることから,依頼者の信頼を確保し,依頼者及び上記当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とするものであり,このような本件基本規程57条の規定の趣旨に照らすと,同条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」とは,所属弁護士が,他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件について職務を行ったとしても,客観的及び実質的にみて,依頼者の信頼が損なわれるおそれがなく,かつ,先に他の所属弁護士(所属弁護士であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にとって所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものと解するのが相当である。 以上を前提に,A弁護士らの「職 であった場合を含む。)を信頼して協議又は依頼をした当事者にとって所属弁護士の職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由をいうものと解するのが相当である。 以上を前提に,A弁護士らの「職務の公正を保ち得る事由」の有無について判断する。 イ相手方の①ないし④の主張について(ア) 前記⑴の事実関係を前提に検討するに,①基本事件は,医薬品に関する本件特許権に基づく特許侵害訴訟であり,抗告人ら又はその関連会社は,米国及びカナダにおいて本件特許権に対応する外国の特許権に基づく特許侵害訴訟を相手方の親会社に対して提起し,これらの訴訟が基本事件と並行して審理されていることからすると,基本事件は,抗告人らと相手方との間の利害の対立が大きい事件であると認められること,②基本事件において,現時点では,相手方から訴状記載の請求原因に対する認否及び反論が提出されていないが,訴状の記載内容から,基本事件の審理では,被告製品及び被告成分が本件発明の構成要件を充足するかどうか,均等論の各要件を満たすかどうかなどが主要な争点となることが予想され,更には,相手方が本件特許に関する無効の抗弁を提出し,それが争点となり得ることも予想されるところ,C弁護士は,本件事務所に入所する前に,抗告人塩野義において,知的財産部情報戦略グループのサブグループ長として,基本事件の訴訟提起のための準備に中心的に関与するとともに,本件特許権に対応する外国の特許権侵害を理由とする相手方の親会社に対する米国及びカナダの特許侵害訴訟に係るディスカバリー手続への対応,請求項の解釈,訴訟戦略の検討等について深く関与していたことからすると,本件特許に係る薬剤の開発及び特許出願の経緯,上記開発過程における薬理試験の結果,薬理試験に供された候補化合物,インテグ 対応,請求項の解釈,訴訟戦略の検討等について深く関与していたことからすると,本件特許に係る薬剤の開発及び特許出願の経緯,上記開発過程における薬理試験の結果,薬理試験に供された候補化合物,インテグラ―ゼ阻害作用を奏する化学構造等に関する様々な情報を知り得る立場にあったものと推認され,これらの情報は,基本事件の訴訟追行において重要な意味を有するものと解されること,③相手方は,基本事件の訴訟が提起された当初の段階では,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任し,令和元年12月23日の基本事件の第1 回口頭弁論期日にはD弁護士が 相手方の訴訟代理人として原審裁判所に出頭したが,C弁護士が令和2年1月1日に本件事務所に入所した後,同月16日,A弁護士らに基本事件の訴訟追行を委任する旨の訴訟委任状を原審裁判所に提出し,一方で,D弁護士らは同月18日に相手方の訴訟代理人を辞任する旨の辞任届を原審裁判所に提出したことに照らすと,C弁護士が本件事務所に入所した時期と近接する時期に,基本事件の被告である相手方の訴訟代理人が,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らから本件事務所に所属するA弁護士らに切り替わったものといえること,以上の①ないし③の事情は,抗告人らにとって,A弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについて,その職務の公正らしさに対する強い疑念を生じさせるものであるものと認められる。 (イ)a これに対し相手方は,A弁護士は,基本事件の受任後直ちに,C弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の弁護士らとの間での基本事件に関する情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じた旨主張(相手方の①の主張)する。 そこで検討するに,前記⑴の事実関係によれば,①A弁護士 を含む本件事務所の弁護士らとの間での基本事件に関する情報の共有や漏えいを防止するための情報遮断措置を講じた旨主張(相手方の①の主張)する。 そこで検討するに,前記⑴の事実関係によれば,①A弁護士は,令和2年1月1日にC弁護士が本件事務所に入所することが内定していた状況下で,令和元年12月27日,相手方との間で,基本事件を受任することについて合意をした後,同日,C弁護士と面談した際,C弁護士が基本事件に担当者として関わっていた旨を述べたことから,C弁護士に対し,それ以上の発言をしないように伝え,C弁護士から抗告人塩野義で担当した基本事件を含む一切の秘密情報を本件事務所に漏らさないことを誓約する旨記載された誓約書の提出を受けたこと,②同日,A弁護士は,本件事務所に所属するB弁護士及び弁理士及び事務局の職員に対し,C弁護士から基本事件の情報を一切受け取らず,C弁護士にも漏えいしないようにすること等を指示した上,基本事件 に関するメールでのやり取りはC弁護士以外の本件事務所の所員全員(本件メンバー)間のみで行い,その際のメールの宛先は本件メンバー全員とし,宛先の追加又は削除をしないこと,勤務時間の内外を問わず,基本事件についてC弁護士からは一切聞かず,C弁護士に一切伝えないこと,基本事件に関するファイルを本件事務所のサーバコンピュータ内のC弁護士がアクセスできないように設定された本件フォルダにのみ入れるものとし,誤ってC弁護士がアクセスできるように設定されたフォルダに入れた場合には,直ちに削除するとともに,A弁護士に報告すること,基本事件に関する打合せ及び会話は,C弁護士が執務室に不在でも本件事務所の第2会議室のみで行うこと等の指示をしたこと,③C弁護士が本件事務所での勤務を開始してからは,A弁護士は,基本事件に関する紙媒 本事件に関する打合せ及び会話は,C弁護士が執務室に不在でも本件事務所の第2会議室のみで行うこと等の指示をしたこと,③C弁護士が本件事務所での勤務を開始してからは,A弁護士は,基本事件に関する紙媒体の管理の徹底や基本事件に関する書類をスキャンしたデータの管理の徹底などをC弁護士が不在の場で弁護士,弁理士及び事務局に指示をし,また,基本事件の訴訟記録を弁護士及び弁理士の執務室から離れた事務局の執務室の鍵付きのキャビネットに保管させ,A弁護士と事務局のみがその鍵を管理するようにしたことが認められ,これらの①ないし③の措置は,基本事件に関する情報の共有や漏えいを防止することを目的とする情報遮断措置に相当するものと認められる。 しかしながら,他方で,C弁護士が本件事務所での勤務を開始した令和2年1月2日当時,本件事務所には,A弁護士,B弁護士及びC弁護士を含む合計8名の弁護士及び弁理士が所属し,同じ執務室で執務を行っていたが,執務室内の構造としては,各弁護士及び弁理士個人の執務スペースの周囲三方がノートパソコンの画面の2倍程度の高さの仕切りが設けられていたにとどまること,本件事務所では,本件事務所の各弁護士及び弁理士の間で,補助する事務局の職員を別にす るといった態勢は執られていなかったことに照らすと,上記①ないし③の措置は,本件事務所において,C弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の他の弁護士及び弁理士らとの間における口頭による基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等を遮断するには一定の限界があり,基本事件に関する情報遮断措置として十分なものであったものと認めることはできない。 そうすると,A弁護士が講じた上記情報遮断措置は,抗告人らにおけるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについての職務の公正ら 分なものであったものと認めることはできない。 そうすると,A弁護士が講じた上記情報遮断措置は,抗告人らにおけるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについての職務の公正らしさに対する疑念を払拭させるものであるということはできない。 b 次に,相手方は,C弁護士が本件事務所において勤務した期間は1か月余りの短期間にとどまり,その間に基本事件の情報の共有や漏えいをしたことはなく,C弁護士の退職(退所)により基本事件に関する情報の共有や漏えいのおそれも存在しない旨,仮にC弁護士及びA弁護士らが基本事件に関する秘密保持義務違反行為やそれを唆すような行為に及べば,弁護士として懲戒処分を受けるのみならず,巨額の損害賠償責任や刑事責任を負う可能性すらあるから,そのような行為に及ぶことはあり得ない旨主張(相手方の②及び③の主張)する。 そこで検討するに,C弁護士が本件事務所に在籍した期間は令和2年1月1日から同年2月10日までの1か月余りであるが,前記aのとおり,A弁護士が講じた本件事務所内の情報遮断措置は,C弁護士とA弁護士らを含む本件事務所の他の弁護士及び弁理士らとの間における口頭による基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等を遮断するには一定の限界があり,基本事件に関する情報遮断措置として十分なものであったものといえないことに照らすと,C弁護士が本件事務所に在籍した期間が1か月余りの短期間であったことを考慮してもな お,客観的及び実質的にみて,C弁護士の在籍中に,C弁護士とA弁護士らとの間で基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が行われたのではないかという抗告人らの疑念は解消されるものではない。 また,C弁護士の本件事務所の退所は,A弁護士とC弁護士の合意によるものであり,しかも,相手方から,C弁護 の伝達,交換,共有等が行われたのではないかという抗告人らの疑念は解消されるものではない。 また,C弁護士の本件事務所の退所は,A弁護士とC弁護士の合意によるものであり,しかも,相手方から,C弁護士作成の令和2年2月12日付け陳述書(疎乙12)が本件の疎明資料として提出されていることに照らすと,A弁護士らとC弁護士は,C弁護士が本件事務所を退所した後も,互いに連絡を取り合うことのできる関係にあるといえるから,C弁護士の上記退所の事実から直ちに,C弁護士とA弁護士らとの間で基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が行われるおそれがあるのではないかという抗告人らの疑念を払拭させるものではない。 さらに,口頭による基本事件に関する情報の伝達,交換,共有等が内部的に行われた場合,その事実を外部から把握することは事実上困難であることに照らすと,弁護士が受任事件に関し秘密保持義務違反行為やそれを唆すような行為に及べば,懲戒処分を受けるのみならず,損害賠償責任や刑事責任を負うおそれがあることは,抗告人らにおけるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについての職務の公正らしさに対する疑念を払拭させるものであるということもできない。 c 相手方は,相手方が基本事件の訴訟代理人を変更したのは,いったんは相手方の特許出願に主に携わっているD弁護士の所属する特許法律事務所に相談して委任したが,その後,製薬特許専門訴訟に特化し,その分野での経験が豊かな訴訟専門弁護士に依頼すべきと考えるに至り,2年前に依頼したことがある本件事務所に訴訟遂行を委任することにしたからであり,その経緯に特段不自然な点はない旨主張(相手 方の主張④)する。 しかしながら,本件においては,相手方が,2年前に依頼したことのある本件事務所 に訴訟遂行を委任することにしたからであり,その経緯に特段不自然な点はない旨主張(相手 方の主張④)する。 しかしながら,本件においては,相手方が,2年前に依頼したことのある本件事務所に対して当初から基本事件の訴訟遂行を委任せずに,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らに委任するに至った具体的な経緯,その後,製薬特許専門訴訟に特化し,その分野での経験が豊かな訴訟専門弁護士である本件事務所のA弁護士らに依頼すべきであると考えるに至った時期及びその具体的理由等についての疎明がないことに照らすと,相手方の④の主張は,C弁護士が本件事務所に入所した時期と近接する時期に,基本事件の被告である相手方の訴訟代理人が,本件事務所とは異なる法律事務所に所属するD弁護士らから本件事務所に所属するA弁護士らに切り替わったことから生じる,抗告人らにおけるA弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として職務を行うことについての職務の公正らしさに対する疑念を払拭させるものであるということはできない。 ウ相手方の⑤の主張について相手方は,基本事件は,医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件である基本事件を取り扱うことができる弁護士は限られており,抗告人ら及びその関係会社のいずれも顧客としない法律事務所を探すことは極めて困難であるという実情があり,本件基本規程57条によってA弁護士らについて訴訟行為の排除が認められるとすると,相手方において憲法32条が保障する裁判を受ける権利が十分に満足されない事態に発展する旨主張(相手方の⑤の主張)する。 しかしながら,基本事件が医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件であるとしても,我が国において,本件 態に発展する旨主張(相手方の⑤の主張)する。 しかしながら,基本事件が医薬品に関する特許関係訴訟であって高度に専門特化された分野の訴訟であり,かつ,渉外案件であるとしても,我が国において,本件事務所に所属する弁護士以外に,基本事件の相手方の訴 訟代理人として訴訟追行を行うことのできる弁護士が存在しないということはおよそ考えられないから,相手方の上記主張は,採用することができない。 エまとめ以上によれば,相手方主張の①ないし⑤に係る事情は,本件事務所に所属するA弁護士らが,本件事務所の所属弁護士であったC弁護士が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件である基本事件について,相手方の訴訟代理人として職務を行ったとしても,客観的及び実質的にみて,先にC弁護士を信頼して協議し,賛助を受けた抗告人塩野義にとって,A弁護士らの職務の公正らしさが保持されているものと認められる事由に当たるものということはできないから,A弁護士らに本件基本規程57条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」があるものと認めることはできない。 したがって,相手方の前記主張は理由がない。 (4) 小括以上によれば,A弁護士らが基本事件の相手方の訴訟代理人として訴訟行為を行うことは,基本事件が本件事務所に所属していたC弁護士が本件基本規程27条1号により職務を行い得ない事件に該当するため本件基本規程57条に違反するというべきであるから,抗告人らは,弁護士法25条1項の趣旨に鑑み,A弁護士らの訴訟行為を排除する旨の裁判を求めることができるものと認められる。 したがって,抗告人らの本件申立ては理由がある。 第4 結論以上のとおり,抗告人らの本件申立ては理由があるから,これと異なり本件申立てを却下した原決定は取り消されるべきであり 認められる。したがって、抗告人らの本件申立ては理由がある。 主文 以上のとおり、抗告人らの本件申立ては理由があるから、これと異なり本件申立てを却下した原決定は取り消されるべきであり、主文のとおり決定する。 令和2年8月3日 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官中村恭 裁判官岡山忠広 (別紙)製品目録 ビクタルビⓇ配合錠(英語名:BIKTARVYⓇCombinationTablets) (別紙)成分目録 1 ビクテグラビル 2 ビクテグラビルナトリウム

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