平成30年2月28日判決言渡名古屋高等裁判所平成29年(行コ)第71号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成28年(行ウ)第29号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋入国管理局長が平成27年10月6日付けで控訴人に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人の異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。 3 名古屋入国管理局主任審査官が平成27年10月7日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人主文同旨 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,インドネシア共和国(以下「インドネシア」という。)国籍を有する外国人女性である控訴人が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長 (以下「名古屋入管局長」という。)から,平成27年10月6日付けで控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同月7日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した ,名古屋入管主任審査官から,同月7日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件裁決及び本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,次項に当審における当事者の追加主張を加えるほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における当事者の追加主張(控訴人)控訴人は,平成29年9月●日にAとの子であるB(以下「B」という。)を出産した(甲24)。控訴人とAは,極めて良好で安定した婚姻生活を続けており,本件処分時において想定できないような大きな事情変更はなく,あくまで処分時において既に存在した真摯な婚姻関係の延長線上に現在の安定・成熟した婚姻生活がある。本件処分時後の事情を見ても,在留特別許可を付与する事案であったことが明白であり,本件裁決は,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことが明らかである。 (被控訴人)Bの出生は本件裁決から約2年も後の事情であるから,本件裁決時においては,控訴人がBを懐胎していたと推認することもできない。したがって,控訴人がBを出産したという事情は,本件裁決及び本件処分の適法性に何ら影響を及ぼすものではない。 第3 当裁判所の判断 1 控訴人の退去強制事由該当性等について 前提事実によれば,控訴人は,入管法24条1号(不法入国)の退去強制事由に該当する外国人であることが認められる。 2 認定事実前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国における生活状況等ア控訴人は,平成元年 当する外国人であることが認められる。 2 認定事実前提事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人の本国における生活状況等ア控訴人は,平成元年5月●日,インドネシアにおいて,インドネシア人の両親の間に3人きょうだいの2番目,二女として出生し,同国の高校に進学した(甲4の1・2,乙3・3頁)。 イ控訴人が小学校3年生の頃,両親は離婚し,控訴人の母親であるCは,別の男性と再婚してD(以下「D」という。)をもうけた。 その後,Cが再婚相手とも離婚したため,控訴人を含む子供4人は,Cに育てられた(乙3・3~4頁)。 ウ控訴人は,インドネシア国内で育ったため,母国語であるインドネシア語の会話及び読み書きについて不自由はない。また,難しい言葉を除いて日本語を話すことができ,平仮名・片仮名について読むこともできるが,書くことはできない。さらに,ポルトガル語について,挨拶程度であれば理解することができる(乙8・2頁)。 (2) 控訴人の本邦入国及び在留状況等ア Cは,生活費に窮したため,平成17年9月頃,本邦に不法入国したが,それでも十分な収入を得られなかった。そのため,控訴人は,大学への入学を控えていた姉に代わって自ら本邦で働くことを決意し,高等学校を中退し,祖父の手配によって他人名義の旅券を入手し(甲19の2,22の3),前記のとおり,同年10月16日,同旅券を行使し,東京入国管理局成田空港支局入国審査官から,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「15日」とする上陸許 可を受け,本邦に不法入国した(乙1・2枚目)。 イ控訴人は,本邦に入国後,Cが居住していた愛知県西尾市内のアパートで同人と同居し,自動車部品製造工,プラスチック製品製造工,食品製造工,食品加工員として ,本邦に不法入国した(乙1・2枚目)。 イ控訴人は,本邦に入国後,Cが居住していた愛知県西尾市内のアパートで同人と同居し,自動車部品製造工,プラスチック製品製造工,食品製造工,食品加工員として働いた(乙3・6頁,10頁~12頁,乙8・4頁)。稼働して得た給与は,1か月に約3ないし5万円程度をインドネシアの家族に送金していた(乙3・18頁)。 ウ Cは,平成22年頃,インドネシアに残してきた幼いDのことが心配となり,名古屋入管に自ら不法入国の事実を申告し,退去強制手続を受けた。しかし,控訴人は,後記のように既にAと交際しており,同人と別れたくなかったことから一人で本邦に残り,勤務先の寮や友人宅に身を寄せ,働き続けた(乙3・12頁)。 エ控訴人は,平成24年12月頃,勤務先から解雇され,無職となった。そして,平成25年1月頃からAと同居し,専業主婦となって同人の扶養を受けつつ新しい生活を始めた(乙3・10~11頁)。 オ控訴人は,平成27年6月15日,夫となったA,同人の両親及びCに付き添ってもらい,自ら名古屋入管に出頭して不法入国の事実を申告した(乙4,乙3・19頁)。 カその後,前記のとおり,控訴人は,平成27年9月14日,名古屋入管収容場に収容され(甲5の1・2),同年10月6日付けで本件裁決を(甲10,乙11),同月7日付けで本件処分を受けたが(甲11,乙13),平成28年4月28日,仮放免された(乙14)。 (3) 控訴人とAの婚姻に至る経過等ア Aは,昭和62年12月●日,ブラジルにおいてブラジル人の両 親の間に3人兄弟の二男として出生した。母親は日系二世の「E」であり,Aは日系三世である(乙5・3~4頁)。 Aは,平成9年1月19日,家族5人で「短期滞在」の在留資格により初めて本邦に 親の間に3人兄弟の二男として出生した。母親は日系二世の「E」であり,Aは日系三世である(乙5・3~4頁)。 Aは,平成9年1月19日,家族5人で「短期滞在」の在留資格により初めて本邦に入国し,約4年半の間,本邦で暮らした後,平成13年7月7日,一旦家族でブラジルに帰国した(乙1・3枚目,乙5・6頁)。 その後,Aは,ブラジルの中学校を2年生のときに中退し,父親が自営で行っていたスーパーマーケットの手伝いをしていたが,平成17年10月1日,本邦で働くため,単身で「定住者」の在留資格(在留期間3年)により,再度本邦に入国した(乙1・3枚目,乙5・5~6頁)。 なお,Aは,母国語であるポルトガル語を問題なく使うことができるほか,日本語も日常会話であれば話すことができ,平仮名・片仮名及び小学校で習う漢字も読み書きができる(乙5・2~3頁)。 イ控訴人とAは,平成19年12月頃に知り合い,それから間もなくして交際を始めた。Aは,その後しばらくして控訴人の不法入国の事実を知ったが,控訴人との交際を続けた(甲21の2・1頁,甲22の1・2頁,乙3・15頁)。 ウ Aは,平成20年7月●日,名古屋地方裁判所岡崎支部において,大麻取締法違反により懲役1年6月,執行猶予3年の判決を受け,同月25日,同判決が確定した。そのため,Aは,大麻取締法の規定に違反して有罪の判決を受けた(入管法24条4号チ該当)で,かつ,在留期限の更新又は在留資格の変更を受けることなく,その在留期限である同年10月1日を超えて引き続き本邦内にとどまり,もって在留期間を経過して本邦に在留した者(入管法2 4条4号ロ該当)として退去強制手続を受けた結果,平成22年6月9日,「定住者」,在留期間1年として在留を特別に許可された。その後,平成 って在留期間を経過して本邦に在留した者(入管法2 4条4号ロ該当)として退去強制手続を受けた結果,平成22年6月9日,「定住者」,在留期間1年として在留を特別に許可された。その後,平成24年4月6日,在留期間が3年に延長された(乙1・4~5枚目)。 エ控訴人は,Aが上記の刑事事件を起こした際も公判を傍聴するなどして支援し,Aも二度と罪を犯さないと約束して交際を継続し,平成24年5月,Aからの婚姻の申込みを受けてこれを承諾し,2人は,平成25年1月頃から肩書住所地記載のアパートで同居を始めた(甲21の2,22の3,乙3・12頁,15頁,8・8~9頁)。それ以降,控訴人は,職に就くことなく専業主婦としてAの生活を支え,Aの扶養を受けて生活している(乙3・10~11頁)。 オ控訴人とAは,いずれもキリスト教徒であったが宗派が異なっていたため,Aが控訴人とともにF教会に熱心に通って控訴人の宗派の考え方を理解するよう努力した上,平成26年5月25日,同教会において結婚式を挙げ(甲2の1・2,17,21の2,22の3),平成27年3月31日,愛知県高浜市長に対し,婚姻届を提出した(甲2の3・4)。 カ控訴人は,平成28年4月28日に仮放免されたところ,平成29年1月13日,産婦人科を受診し,妊娠していることが判明した。同年2月7日,再度受診したところ,医師から8週間目に入っているとの指摘を受けた(甲22の3・5頁)。 キ控訴人は,平成29年9月●日,Aとの子であるBを出産した(甲24)。なお,Bは,「定住者」の在留資格(在留期間1年)を有している(甲25)。 (4) 現在の控訴人ら家族及び親族の状況 ア控訴人は,仮放免後,肩書住所地記載のアパートに戻り,現在,A及びBとともに生活しており,家事及 期間1年)を有している(甲25)。 (4) 現在の控訴人ら家族及び親族の状況 ア控訴人は,仮放免後,肩書住所地記載のアパートに戻り,現在,A及びBとともに生活しており,家事及び育児を行っている。 Aは,愛知県大府市所在の会社に勤務しており,月収は手取り約28万円であり(乙5・11頁),これにより家族全体の生活費を賄っている。なお,前記認定事実2(3)ウ記載のとおり,Aは,平成20年7月に大麻取締法違反により執行猶予付きの有罪判決を受けたが,それ以降,犯罪行為はしておらず,善良な市民として暮らしている(弁論の全趣旨)。 イ家族の会話は,日本語である(乙8・2頁)。控訴人及びAは,今後も本邦で一緒に生活していくことを希望している。 ウ母Cは,平成22年11月11日,日本人男性であるGと婚姻し,平成27年6月,正式に在留許可を与えられ,現在は愛知県岡崎市内のアパートで夫及びDとともに生活している(甲19の2・1頁,4頁)。Cは,Bの誕生を喜び,育児の手伝いもしている(甲36①②参照,弁論の全趣旨)。 エ控訴人の本国であるインドネシアには,控訴人の姉及び妹が居住している。なお,控訴人は,インドネシアの実父とは連絡をとっておらず,所在も不明である(乙8・5頁)。 オ一方,Aの両親は愛知県安城市,兄は同県岡崎市,弟は同県刈谷市でそれぞれ生活している。いずれも永住者の在留資格を有している(乙5・3~4頁)。同人らもBの誕生を祝い,育児の手助けをしている(甲35③,36②参照,弁論の全趣旨)。なお,ブラジルには,A及びその両親らが帰ることのできる自宅はない(甲21の1)。 3 本件裁決の違法性について(1) 本件裁決当時の控訴人とAの関係についての評価 ア前記認定事実2(3)イ, その両親らが帰ることのできる自宅はない(甲21の1)。 3 本件裁決の違法性について(1) 本件裁決当時の控訴人とAの関係についての評価 ア前記認定事実2(3)イ,エ及びオ記載のとおり,控訴人とAは,平成19年12月頃に知り合い,それから間もなくして交際を始め,平成25年1月頃から同居に至り,平成27年3月31日に婚姻したというのであるから,本件裁決当時,その同居期間は約2年9か月,婚姻成立から本件裁決までの期間は約6か月であって,いずれも著しく長いとはいえないものの,この間には母親の帰国により控訴人は単身で本邦にとどまらざるを得なかったこと,Aが刑事事件を起こして退去強制手続を受けたこと,両者の信ずる宗教上の宗派の違いを克服する必要があったことなどの困難な問題が生ずるなどしたにもかかわらず,2人はこれらを協力して乗り越え婚姻に至っていると認められる。これらのことからすると,本件裁決当時,2人の婚姻関係が安定かつ成熟したものであることを確認するのに十分な期間が経過していたと認められる。 そして,控訴人とAは,その後も良好な婚姻生活を継続しており,その結果,2人の子であるBをもうけ,本邦において一家3人で生活していくことを強く望んでいる。かかる本件裁決以降の経過からみても,本件裁決時における控訴人とAとの婚姻関係は,既に十分に安定かつ成熟していたと評価し得るから,このことは本件裁決に当たり十分斟酌されるべき事柄であったということができる。 イこれに対して,被控訴人は,控訴人とAの関係が控訴人の不法入国という違法状態の上に築かれている上,控訴人が不法入国していることを前提に交際を継続し婚姻しているから,不法入国が発覚次第,インドネシアに送還されることをも前提とした上で交際や婚姻をしたものと 国という違法状態の上に築かれている上,控訴人が不法入国していることを前提に交際を継続し婚姻しているから,不法入国が発覚次第,インドネシアに送還されることをも前提とした上で交際や婚姻をしたものといわざるを得ず,2人の関係は安定かつ成熟したものとはいえないと主張する。 しかし,本件裁決時における控訴人とAとの婚姻関係が安定かつ 成熟したものであったことは前記アで説示したとおりである。上記判断にあたって,控訴人の不法入国(在留資格がなく,退去強制の対象となること)は当然の前提であるから(在留特別許可に係るガイドラインにおいても,在留資格がないことを前提として,「夫婦の間に子がいるなど,婚姻が安定かつ成熟していること」を積極要素として挙げている。甲12),不法入国を理由に,控訴人とAの婚姻関係が安定かつ成熟したものであることを否定することはできない。よって,被控訴人の上記主張は理由がない。 ウまた,被控訴人は,本件裁決までの法律婚の期間はわずか6か月にすぎないと主張する。 しかし,前記認定事実2(3)イ及びエ記載のとおり,控訴人は,平成24年5月にAから婚姻の申込みを受けてこれを承諾し,平成25年1月頃には控訴人と同居を始め,実際上,Aが控訴人を扶養していたのであるから,既にその頃から互いに相手を伴侶として切実に必要とする間柄であったと認められる。また,Bを授かったのは本件裁決後の事情ではあるものの,裁決直前である平成27年9月30日付け審査調書においても,控訴人が,生理が遅れており妊娠しているかどうか分からない旨供述していること(乙8・11頁)を踏まえると,近い将来,2人が子を授かり得る真摯な関係で結ばれていたことは十分に分かり得たということができる。そうすると,婚姻から本件裁決までの期間が約6か月 い旨供述していること(乙8・11頁)を踏まえると,近い将来,2人が子を授かり得る真摯な関係で結ばれていたことは十分に分かり得たということができる。そうすると,婚姻から本件裁決までの期間が約6か月であったとの一事をもって,2人の関係が安定かつ成熟したものであったことを否定することはできない。よって,被控訴人の上記主張は理由がない。 エさらに,被控訴人は,Aが「定住者」の在留資格を有するにすぎない外国人であり,在留資格が更新されなければ速やかに本国に帰国せざるを得なくなるほか,本国において生活することも可能であ るから,このような立場の者との交際や婚姻を日本人のそれと同視することはできないと主張する。 しかし,Aは,日系三世として9歳から約4年半もの幼少期を本邦で過ごした経験があるほか,平成17年10月1日に「定住者」の在留資格により本邦に適法に入国して以来,長期にわたって本邦で居住している。その上,両親及び兄弟全員が愛知県内で永住許可を得て生活しており,本国のブラジルには帰るべき場所や頼ることのできる家族も居ないのであるから,本邦に対する定着性の強さは日本人とさほど変わりがないといい得るし,将来的には永住許可を受ける可能性もあるということができる。かかるAが直ちにブラジルに帰国せざるを得なくなる事態が生ずる可能性は低いというべきである。 そうすると,Aとの交際や婚姻が日本人のそれと全く同視することはできないにしても,2人の関係が安定かつ成熟したものである以上,これを保護する必要性は十分にあるというべきであるから,被控訴人の上記主張も採用することはできない。 (2) 本件処分による控訴人ら家族の不利益についての評価ア前記のとおり,Aは,現在は定住者の資格を有するにとどまっているが,日系三世とし 控訴人の上記主張も採用することはできない。 (2) 本件処分による控訴人ら家族の不利益についての評価ア前記のとおり,Aは,現在は定住者の資格を有するにとどまっているが,日系三世として長期にわたって本邦で生活し,今後も引き続き本邦に居住することを希望しており,両親及び兄弟全員が永住許可を受けていることからして,将来的には永住許可を受ける可能性もあるから,その希望を尊重すべきものと考えられる。 この点も本件裁決に当たり十分に斟酌されるべき事柄であったということができる。 イこれに対して,被控訴人は,そもそも控訴人とAとの関係が,在留特別許可の許否判断において,積極事情として考慮すべき事情と は認められないから,人道的配慮が必要となる特別の事情があるとは認められないと主張する。 しかし,本件裁決当時,控訴人とAとの婚姻関係が安定かつ成熟したものであり,在留特別許可の許否判断において,積極事情として考慮すべき事情となることは前記のとおりであり,被控訴人の上記主張は,その前提となる事実認識に誤りがあるから採用できない。 ウまた,被控訴人は,控訴人とAが婚姻生活を継続したいのであれば,控訴人の国籍国であるインドネシアやAの国籍国であるブラジルにおいて婚姻生活を継続することも可能であるとし,控訴人が本国の高校を3年生で中退するまでインドネシアで教育を受け,平成17年10月16日に16歳で本邦に入国するまではインドネシアにおいて生活していたこと,控訴人は十分な稼働能力を有すると認めることができること,インドネシアの親族との間には現在も親密な関係が維持されていることなどから,控訴人をインドネシアに送還することに特段の支障はないと主張する。 しかし,控訴人は,16歳で本国を離れて以来,本邦 こと,インドネシアの親族との間には現在も親密な関係が維持されていることなどから,控訴人をインドネシアに送還することに特段の支障はないと主張する。 しかし,控訴人は,16歳で本国を離れて以来,本邦で暮らしてきた者であり,インドネシアで親から独立して生活した経験はない上,家計を維持するために唯一働いているAは,インドネシアで生活した経験はなく,言葉の問題もあるから,インドネシアで婚姻生活を継続することは実際上困難である。 また,控訴人がインドネシアに送還された後,2人がブラジルで生計を立てて生活することは,Aがブラジルの中学校を中退後,平成17年10月に18歳で来日し,本国で自活した経験がないこと,Aの両親及び兄弟が同じ愛知県内に居住し,もはやブラジルには頼ることのできる親族が居ないこと等に照らすと,控訴人ら家族 にとって生活に大きな支障を伴うことが予想されるから,特段の支障がないと直ちにいうことはできない。よって,被控訴人の上記主張も採用できない。 (3) 不法入国等の消極事由についての評価被控訴人は,控訴人には在留特別許可の許否判断において,重大な消極要素として考慮すべき事情を含め,消極事由が複数存するとして,①控訴人が他人名義の旅券を用いて不法入国したこと,②控訴人の不法滞在が長期間に及んでいること,③控訴人が不法就労して本国に送金していたことを挙げている。 この点,①②の不法入国及び不法滞在については,控訴人が他人名義の旅券を使用して不法に入国し,不法に在留していたことが認められ,消極要素として考慮されることはやむを得ない。しかし,控訴人は,不法入国当時,高校を中退したばかりの未成年者であり,資力もなかったはずであるから,多額の資金を払って他人名義の旅券の手配を主導したのは,控訴人ではなく,主として控訴 むを得ない。しかし,控訴人は,不法入国当時,高校を中退したばかりの未成年者であり,資力もなかったはずであるから,多額の資金を払って他人名義の旅券の手配を主導したのは,控訴人ではなく,主として控訴人の親族であったと推認される。また,在留特別許可制度は,退去強制事由が存在する外国人に対して在留資格を付与する制度であり,法は,不法入国者であっても一定の事情がある場合には在留資格を付与することを予定しているとみることもできるし,現に在留特別許可に係るガイドライン(甲12)においては,「当該外国人が,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められること」がむしろ積極要素となることを認めている。よって,控訴人の不法入国及びその後の長期の不法滞在の点を過度に重視することはできない。 また,③の不法入国後の就労の事実は,在留資格の存在を前提とする入管法70条1項4号の資格外活動罪に該当しないのであるから,就労の事実そのものを犯罪視することはできず,その違法性は不法入 国により既に評価されているともいい得るし,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,人道上非難されるべきことでもない。 そうすると,上記の諸事情は,消極事由として評価し得るとしても,これらを過大視することはできない。しかも,控訴人は,それ以外の点においては,平成17年10月に本邦に入国以来,本件裁決時まで約10年間にわたって特段の問題もなく生活してきた者であり,かつ,自ら任意に不法入国の事実を出頭申告したのであるから,上記違反事実に対する反省の態度や本邦の法に真摯に向き合おうとする態度も十分にうかがうことができる。本件裁決に当たっては,上記の消極事由だけではなく,かかる在留を認めるべき事情も十分に加味して検討されるべきであったといえる。 本邦の法に真摯に向き合おうとする態度も十分にうかがうことができる。本件裁決に当たっては,上記の消極事由だけではなく,かかる在留を認めるべき事情も十分に加味して検討されるべきであったといえる。 (4) 小括以上に検討したことからすると,前記(1)及び(2)のとおり,本件裁決当時,控訴人とAとの間には安定かつ成熟した婚姻関係の実態があったと認められ,かつ,本件処分は同関係により真摯な意思をもって形成された控訴人ら家族の結合を破壊し,甚大な不利益を与えかねない。他方で,前記(3)のとおり,被控訴人の指摘する控訴人の消極事由は,これだけを捉えて殊更重視することはできない。しかるに,本件裁決は,名古屋入管の入国審査官が控訴人らから事情聴取をした際,控訴人とAの婚姻関係の実態を十分に把握せず,又は同関係及び本件処分による控訴人ら家族等の不利益を軽視する一方で,前記(3)の控訴人にとって不利な情状のみを殊更重視し,これをもって看過し難い重大な消極要素になると評価することによってされたものといわざるを得ない。 そうすると,本件裁決は,その判断の基礎となる事実に対する評価 において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものであるというべきである。よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。 4 本件処分の違法性について本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 のであるが,上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。 第4 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官金久保茂
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