判決平成14年5月20日神戸地方裁判所平成13年(わ)第1305号覚せい剤取締法違反被告事件 主文 被告人を懲役3年及び罰金30万円に処する。 未決勾留日数中160日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 押収してあるビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末19袋(平成14年押第10号の1ないし16,19,21,22),大阪と記載のチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の17),西宮と記載のチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の18)及びチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の20)を没収する。 被告人から金1万5000円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 みだりに,営利の目的で, 1 平成13年4月29日ころ,兵庫県明石市Aa番地所在のB総合市場東側駐車場において,Cに対し,フェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶約0.2グラムを代金5000円で譲り渡し 2 同年8月26日ころ,同市D町b丁目c番d号所在の「E」e号の被告人方玄関先において,Fに対し,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶性粉末約0.2グラムを代金5000円で譲り渡し 3 同月27日ころ,同市Af番地所在の「G」前路上において,Hに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.5グラムを代金1万円の約束で譲り渡し 4 同月28日ころ,前記「E」西側階段の4階から5階に至る踊り場において,前記Fに対し, 在の「G」前路上において,Hに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.5グラムを代金1万円の約束で譲り渡し 4 同月28日ころ,前記「E」西側階段の4階から5階に至る踊り場において,前記Fに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.5グラムを代金5,000円で譲り渡し 5 同日ころ,前記「G」前路上において,前記Hに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.5グラムを代金1万円の約束で譲り渡し第2 みだりに,同日ころ, 1 神戸市I区Jg丁目h番地のi所在の「K」j号のL方において,同人に対し,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶性粉末約1グラムを譲り渡し 2 兵庫県明石市Mk丁目l番m号所在の「N」2階のO方において,Pに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.4グラムを譲り渡し 3 前記被告人方玄関先において,前記Pに対し,前同様の覚せい剤結晶性粉末約0.4グラムを譲り渡し第3 みだりに,同月29日午前7時30分ころ,前記被告人方において,営利の目的で,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶性粉末約3.702グラム(平成14年押第10号の3ないし16はいずれもその鑑定残量)を所持するとともに,営利の目的なく,前同様の覚せい剤結晶性粉末約3.422グラム(同押号の1,2,17ないし22はいずれもその鑑定残量)を所持し第4 法定の除外事由がないのに,同日ころ,前記被告人方において,フェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する覚せい剤水溶液若干量を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用したものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)1(1) 判示第2の2,3の各事実について,検察官は,被告人のPに対する各覚せい剤譲渡はいずれも代金1万円後払いの約束でなされており,営利の目的があった 拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明)1(1) 判示第2の2,3の各事実について,検察官は,被告人のPに対する各覚せい剤譲渡はいずれも代金1万円後払いの約束でなされており,営利の目的があった旨主張する。 なるほど,被告人の検察官調書(乙22)等には,Pに対する上記各覚せい剤譲渡の際にはいずれも代金を受け取っていないが,いずれPに金が入ったときにでもまとめて払ってもらえばいいという気持ちであった旨,あるいは,判示第2の3の譲渡について,もしPの言う5000円の客がいるとの話が本当なら,少なくとも5000円は払ってもらえると思っていた旨いう部分があるから,これがそのまま信用できれば,判示第2の2,3の各覚せい剤譲渡には営利の目的があったと認定することができそうである。 (2) しかしながら,関係各証拠によれば,①被告人は,平成13年6月ころに知り合ってから,Pに対し,今回までに覚せい剤を5,6回譲渡しているが,Pが代金を支払ったのは1回だけであって,それ以外の代金は支払われていなかったものの,覚せい剤を譲渡しなければ,Pが昼夜関係なくしつこく電話をかけてくることから,やむなく覚せい剤を譲渡していたこと,②被告人は,判示第2の2,3の各覚せい剤の譲渡に際し,Pからその代金を受け取っていないだけでなく,それまでの覚せい剤代金の支払予定等について,Pと話をしていないこと,③被告人は,判示第2の2の譲渡行為の際,Pが覚せい剤の代金を支払わないだろうと思い,一旦は譲渡を断ったものの,Pがけん銃を所持していると知っていたことや,譲渡しなければ,Pが被告人方に押しかけてきかねないと思ったことから,Pに対し,覚せい剤を譲渡することにしたこと,④被告人は,判示第2の3の譲渡行為の際,Pから,今夜5000円の客が来るのでもう何個か預からせてほし Pが被告人方に押しかけてきかねないと思ったことから,Pに対し,覚せい剤を譲渡することにしたこと,④被告人は,判示第2の3の譲渡行為の際,Pから,今夜5000円の客が来るのでもう何個か預からせてほしい旨言われたが,Pの話が嘘ではないかと思い,余分に預けるのは断ったことなどが認められるのであるから,これらの事実をも考え併せると,被告人の検察官調書(乙22)等において,被告人が,判示第2の2,3の各覚せい剤譲渡に際し,いずれPに金が入ったときにでもまとめて払ってもらえばいいという気持ちであった旨いうところや,判示第2の3の覚せい剤譲渡に際し,もしPの言う5000円の客がいるとの話が本当なら,少なくとも5000円は支払ってもらえると思っていた旨いうところをそのままには信用できず,むしろ,被告人が,公判段階の供述において,判示第2の2,3の各覚せい剤譲渡に際し,Pからその代金を支払ってもらえるなどとは思っていなかった旨いうところの方が信用できるとみるべきである。 そして,判示第2の2,3の各覚せい剤譲渡について,Pからの代金支払い以外に,被告人に営利の目的を認めるべき事情も見当たらない。 (3) してみると,判示第2の2,3のPに対する各覚せい剤譲渡については,営利の目的を認定することができないというべきである。 2(1) 判示第3の事実について,検察官は,被告人が所持していた覚せい剤白色結晶性粉末の全部である約7.124グラムについて営利の目的があった旨主張する。 被告人は,小さいプラスチックケースに入れていたビニール袋入り覚せい剤白色結晶性粉末14袋(約3.702グラム,平成14年押第10号の3ないし16はいずれもその鑑定残量)については,密売用であったとして,営利の目的があったことを認めており,また,それ以外の覚せい剤白色結晶性 性粉末14袋(約3.702グラム,平成14年押第10号の3ないし16はいずれもその鑑定残量)については,密売用であったとして,営利の目的があったことを認めており,また,それ以外の覚せい剤白色結晶性粉末についても,捜査段階では,自己使用目的などと供述しながらも,密売用に小分けした覚せい剤がなくなったり,密売用に小分けした分で利益が出なかったりした時には,自己使用目的等で所持していたものを小分けして密売用に回すことがあって,そういう気持ちもあった旨述べているから,そのとおりであるとすれば,これらの覚せい剤の全部について営利の目的があったと認めてよさそうである。 (2) しかしながら,関係各証拠によれば,①被告人は,平成13年8月ころには1回につき約0.2グラムの覚せい剤結晶性粉末を1日に3回くらいの割合で注射使用していたこと,②被告人は,平成12年夏ころから週に1回くらい,Qから約10グラムの覚せい剤を7万円で仕入れ,これを自己使用するとともに,約0.2グラムのパケ約8袋と約0.5グラムのパケ約8袋に小分けして,それぞれ1袋5000円と1万円で密売し,次に覚せい剤を仕入れるための資金や小遣いとしていたこと,③被告人は,密売用に小分けした覚せい剤約16袋を小さいプラスチックケースの中に入れ,残りの覚せい剤を自己使用分としてチャック付ビニール袋に入れて,両者を区別していたこと,④被告人は,平成13年8月20日ころ,前記Qから約10グラムの覚せい剤を7万円で仕入れ,前記のように小分けして密売したが,約9万円の売り上げがあったことから,残ったビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末2袋(同押号の21,22はいずれもその鑑定残量)を大阪と記載のチャック付ビニール袋に入れて,自己使用分に回していたこと,⑤被告人は,同月28日ころ,Qから約10グラム 入った覚せい剤白色結晶性粉末2袋(同押号の21,22はいずれもその鑑定残量)を大阪と記載のチャック付ビニール袋に入れて,自己使用分に回していたこと,⑤被告人は,同月28日ころ,Qから約10グラムの覚せい剤を仕入れ,そこから密売用に小分けした分を小さいプラスチックケースに入れ,残りを西宮と記載のチャック付ビニール袋等に入れておいたこと,⑥もっとも,被告人の覚せい剤譲渡相手には,代金をつけ払いにする者や代金を支払わない者も少なくなかったことなどが認められるのであるから,これらの事実をも併せ考えると,被告人の検察官調書(乙15)及び警察官調書(乙6)において,被告人が,密売用に小分けした覚せい剤がなくなったり,密売用に小分けした分で利益が出なかったりした時には,自己使用目的等で所持していたものを小分けして密売用に回すことがあって,そういう気持ちがあった旨いうところにも,それなりの合理性があることは否定できないけれども,被告人が自己使用目的等という覚せい剤の量は約3.422グラムであって,覚せい剤の常用者である被告人の1週間当たりの使用量の約4.2グラムより少なく,また,被告人が密売用に小分けしていた覚せい剤はそれ以外の覚せい剤と別の容器に区別して保管されていて,前者が後者よりも量的にも多いのであるから,被告人が,公判段階において,密売用に小分けして小さいプラスチックケースに入れていたビニール袋入り覚せい剤白色結晶性粉末14袋以外の覚せい剤については,自己使用等の目的であって,密売用に回すつもりはなかった旨いうところにも,かなりの合理性があるというべきである。 (3) そうだとすると,被告人が自己使用等の目的であったという上記の覚せい剤白色結晶性粉末8袋(同押号の1,2,17ないし22はいずれもその鑑定残量)については,営利の目的をもって べきである。 (3) そうだとすると,被告人が自己使用等の目的であったという上記の覚せい剤白色結晶性粉末8袋(同押号の1,2,17ないし22はいずれもその鑑定残量)については,営利の目的をもって所持していたとまでは認定することができない。 (法令の適用)被告人の判示第1の1ないし5の各所為はいずれも覚せい剤取締法41条の2第2項(1項)に,判示第2の1ないし3の各所為はいずれも同法41条の2第1項に,判示第3の所為のうち営利目的所持の点は同法41条の2第2項(1項)に,単純所持の点は同法41条の2第1項に,判示第4の所為は同法41条の3第1項1号,19条にそれぞれ該当するところ,判示第3の営利目的所持と単純所持は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い営利目的所持罪の刑で処断することとし,判示第1の1ないし5及び第3の各罪についていずれも情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により判示第1の1ないし5及び第3の各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で,被告人を懲役3年及び罰金30万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,押収してあるビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末19袋(平成14年押第10号の1ないし16,19,21,22),大阪と記載のチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の17),西宮と ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末19袋(平成14年押第10号の1ないし16,19,21,22),大阪と記載のチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の17),西宮と記載のチャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の18),チャック付ビニール袋に入った覚せい剤白色結晶性粉末1袋(同押号の20)は,いずれも判示第3の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収し,判示第1の1の犯行により被告人が得た現金5000円,第1の2の犯行により被告人が得た現金5000円,第1の4の犯行により被告人が得た現金5000円は,いずれも,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律11条1項1号の薬物犯罪収益にそれぞれ該当するが,いずれも既に費消して没収することができないので,同法13条1項前段によりその価額合計金1万5000円を被告人から追徴することとする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,3名に対して5回に亘り覚せい剤を営利の目的で譲渡し,2名に対して3回に亘り覚せい剤を譲渡し,更には,営利の目的及び自己使用等の目的で覚せい剤を所持したほか,覚せい剤を自己使用したという事案である。 被告人は,平成11年ころから覚せい剤を頻繁に使用するようになり,平成12年夏ころからは,覚せい剤の密売人から覚せい剤を多数回に亘って仕入れ,自らこれを使用するのみならず,新たに覚せい剤を仕入れるための資金や小遣い等を得るために,これを小分けして密売することを繰り返すうち,本件各犯行に至ったものであって,本件各犯行には常習性が認められ,その犯行動機には酌量の余地がないこと,被告人は,覚せい剤を 資金や小遣い等を得るために,これを小分けして密売することを繰り返すうち,本件各犯行に至ったものであって,本件各犯行には常習性が認められ,その犯行動機には酌量の余地がないこと,被告人は,覚せい剤を他に譲渡し,覚せい剤の害悪を拡散しながら,相当額の不正な利益を得ていたこと,本件各犯行に係る覚せい剤の総量は多く,特に判示第3の所持に係る覚せい剤の量は約7.124グラムと少なくないこと,被告人は,1回につき約0.2グラムの覚せい剤を1日に3回くらいの割合で使用していたものであって,その覚せい剤に対する依存性,親和性の程度は顕著であることなどを併せ考えると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。 してみると,本件営利目的所持に係る覚せい剤は密売される前に押収されたため,それ自体では社会に害悪を及ぼすに至っていないこと,被告人は密売組織に加入しておらず,個人で密売していたに止まること,被告人は,事実を全て認め,本件覚せい剤の入手先や譲渡先を全て供述するなど,反省の態度を示し,覚せい剤からきっぱりと手を引く決意をしていること,被告人の妻が被告人の今後の監督を誓っていること,被告人が手伝いをしていたエアコンクリーニング業の経営者が被告人を雇用するとともに,再犯防止のため監督する旨約束していること,被告人には前科前歴がなく,本件により8か月以上の期間身柄拘束を受けていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文掲記の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見懲役4年及び罰金30万円,覚せい剤の没収,金1万5000円の追徴)よって,主文のとおり判決する。 平成14年5月20日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官森岡 主文 よって,主文のとおり判決する。 理由 平成14年5月20日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官森岡安廣 裁判官前田昌宏 裁判官伏見尚子
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