- 1 -主文 本件控訴を却下する。 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人は,控訴人に対し,別紙物件目録記載の土地建物を明け渡せ。 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 第2項につき仮執行宣言第2事案の概要本件は,土地建物明渡請求事件の第1審において全部勝訴した控訴人(一審原告)が,民事訴訟法254条1項2号により言い渡された判決につき,同条2項により作成された調書の記載を前提として,判決に取り消すべき違法があると主張して,控訴をしている事案である。 前提となる事実(1)控訴人(一審原告)は,平成20年7月4日,津地方裁判所伊勢支部に本件訴状を提出し,その請求の趣旨には,「被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の土地建物(なお,この土地建物は,本判決の別紙物件目録記載のものと同一であり,以下「本件建物」,「本件土地」という。)を明け渡せ。 訴訟費用は,被告の負担とする。」との判決を求める旨記載されており,その請求の原因には,「原告は,平成2年8月16日,被告に対し,被告の居住目的に使用し,本件建物の修理費用は被告が負担する等の約定の下に本件土地建物を無償で貸し渡した。しかし,被告は,本件土地建物に居住せず,本件建物の維持管理行為を一切放棄している。そのため,本件建物の朽廃が進み,屋根から雨漏りがする状態になっている。したがって,被告が本件土地建物を使用収益するのに必要な期間はすでに経過したので,本件使用貸借- 2 -契約は,終了した。よって,原告は,被告に対し,使用貸借の終了に基づき,本件土地建物の明渡しを求める。」旨記載されており,原告が平成20年7月10日に提出した同月9日付準備書面には,「被告には,平成2年8月16日以降, て,原告は,被告に対し,使用貸借の終了に基づき,本件土地建物の明渡しを求める。」旨記載されており,原告が平成20年7月10日に提出した同月9日付準備書面には,「被告には,平成2年8月16日以降,本件建物を居住用として使用しなかったことは,債務不履行に当たるので,本準備書面により本件使用貸借契約を債務不履行を理由として解除する旨の意思表示をする。」旨記載されている。 (2)被控訴人(一審被告)は,原審において,公示送達による適式の呼出を受けたが,平成20年9月5日の第1回口頭弁論期日に出頭しなかった。そこで,同期日においては,控訴人(一審原告)が,上記訴状及び準備書面記載の事実を陳述した上,必要証拠を提出して,口頭弁論が終結された。 (3)平成20年9月12日の第2回口頭弁論期日は,裁判官が民事訴訟法254条1項2号により,判決原本に基づかないで,「被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の土地建物を明け渡せ。訴訟費用は,被告の負担とする。」との判決の言い渡した。 (4)第2回口頭弁論期日について書記官が作成した調書(以下「本件調書」という。)には,上記(3)の内容等の記載のほか,次の記載がされている。 「第3請求 請求の趣旨主文第1項と同旨 請求の原因原告は,平成2年8月16日,被告に対し,別紙物件目録記載の土地建物を無償で貸し渡した。 第4 理由の要旨 被告は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。証拠によれば,請求原因事実はすべて認められる。」 控訴人の主張- 3 - 控訴人が本訴で求めたのは,民法597条2項に基づく使用貸借契約の終了に基づく土地建物の明渡請求(訴状請求原因)と債務不履行による契約解除による原状回復請求権に基づく明渡請求(平成20年7月9日付準備書面)であり,訴訟物は, 法597条2項に基づく使用貸借契約の終了に基づく土地建物の明渡請求(訴状請求原因)と債務不履行による契約解除による原状回復請求権に基づく明渡請求(平成20年7月9日付準備書面)であり,訴訟物は,使用貸借契約の終了に基づく土地建物明渡請求権である。 しかるに,原審裁判官は,判決の請求の原因の摘示において,「原告は,平成2年8月16日,被告に対し,別紙物件目録記載の土地建物を無償で貸し渡した。」と摘示して主文の判決を言い渡したが,これは,控訴人が判決で求めた訴訟物と異なる訴訟物について判断をしたものであり,控訴人が求めた訴訟物について判断をしないで,控訴人が求めない訴訟物について判断をしたものであるから,違法である。 使用貸借契約終了に基づく目的物の返還請求権の要件事実は,(1)要件1①貸主が目的物を借主が使用又は収益することを認容すること②借主が終了時に目的物を返還すること③借主の使用収益は無償とすること④返還時期について貸主と借主との間に合意が成立したこと。 (2)要件2貸主が借主に目的物を交付したこと。 (3)要件3契約の終了原因事実終了原因については(a)期限(返還時期)の到来(b)使用目的に従った使用収益の終了(c)使用収益に足りる期間の経過- 4 -(d)解約(返還時期の定めがない場合)である。 およそ,判決においては,請求原因事実と主文の整合性が必要であり,請求原因事実とこれから導き出される主文とが論理的整合性を有していなければならないものである。しかるに,原審裁判官は,終了原因の摘示を全くせず,そのままでは本件主文が導き出される論理的整合性がない判決を言い渡しており,原判決は,明らかに違法無効である。 よって,原判決を取り消した上,相当な判決が言い渡されるべきである。 第3当裁判所の そのままでは本件主文が導き出される論理的整合性がない判決を言い渡しており,原判決は,明らかに違法無効である。 よって,原判決を取り消した上,相当な判決が言い渡されるべきである。 第3当裁判所の判断 本件において,控訴人(一審原告)は,被控訴人(一審被告)に対し,使用貸借契約の終了に基づき目的物である本件土地建物の返還を求めている。 そして,このような場合の訴訟物,すなわち目的物の返還請求権は,当該使用貸借契約に基づく一個の返還請求権であり,当該使用貸借契約の終了原因ごとに別個の請求権(訴訟物)が生ずるものではない。そのことは,控訴人がその主張の根拠として指摘している文献(甲6)においても「終了の原因毎に訴訟物が異なるとする多元説もあるが,異ならないとする一元説が相当である。」と明記されているところでもある。 本件において,控訴人は,本件使用貸借契約の終了原因として,使用収益に足りる期間の経過と債務不履行による契約解除の二つの終了原因事実を主張しているが,後者の契約解除もその内容からして,賃貸借契約を賃借人の債務不履行を理由として解除する場合と同様に,本件使用貸借契約を解除の意思表示の時以降失効させるものであり,本件使用貸借契約を遡及的に失効させるものではない。したがって,控訴人が本件使用貸借契約の終了原因として主張している二つの事実は,それぞれ,一個の返還請求権の行使を根拠付ける事実として主張されているものであり,本件訴訟の訴訟物は,本件使用貸借契約(被控訴人による本件土地建物の返還約束を一成立要件としている。)に基づいて生- 5 -ずる返還請求権一個である。 次に,原判決の言渡しは,民事訴訟法254条1項及び民事訴訟規則155条3項により,判決原本に基づかないでされたものである。そして,原審裁判官は,民事訴訟法254条2 ずる返還請求権一個である。 次に,原判決の言渡しは,民事訴訟法254条1項及び民事訴訟規則155条3項により,判決原本に基づかないでされたものである。そして,原審裁判官は,民事訴訟法254条2項により,判決書の作成に代えて,裁判所書記官に,当事者及び法定代理人,主文,請求並びに理由の要旨を判決言渡しをした第2回口頭弁論期日の調書(本件調書)に記載させている。 本件調書の内容を見ると,主文は判決書と同様の記載がされており,問題となる点はない。また,調書に記載すべき請求は,和解調書における「請求の表示」と同様に,既判力の及ぶ範囲を明らかにするために,訴訟における訴訟物を特定表示して記載すべきものであるから,訴訟物である請求権が特定される程度に具体的に記載する必要があり,かつ,それをもって足りる。したがって,本件のように,「第3請求」において,請求の趣旨を記載しただけでは,訴訟物が特定しない場合には,請求の原因も記載すべきことになるが,ここにいう請求の原因は,訴状の必要的記載事項である請求の原因(民事訴訟法133条2項2号)と同様に,訴訟物を特定するために必要な事実で足り,訴訟物である請求権を行使するための根拠事実をすべて記載する必要はない。そして,本件調書の「第3請求」の「2請求の原因」において,請求権を特定するために,「原告は,平成2年8月16日,被告に対し,別紙物件目録記載の土地建物を無償で貸し渡した。」と記載されているので,この記載と「1請求の趣旨」の記載により,控訴人(一審原告)の被控訴人(一審被告)に対する本件土地建物の明渡請求権(訴訟物)が,両者の間で,控訴人を貸主,被控訴人を借主として平成2年8月16日に締結された本件使用貸借契約に基づく返還請求権であることが特定表示されていることになる。したがって,上記の請求 請求権(訴訟物)が,両者の間で,控訴人を貸主,被控訴人を借主として平成2年8月16日に締結された本件使用貸借契約に基づく返還請求権であることが特定表示されていることになる。したがって,上記の請求の原因は,民事訴訟法254条2項により調書の必要的記載事項とされている請求の記載として必要かつ十分である。 また,本件調書には,「第4理由の要旨」として,「証拠によれば,請求- 6 -原因事実はすべて認められる。」と記載されているところ,この記載は,裁判官が民事訴訟規則155条3項により判決言渡しの際に告げた「理由の要旨」を裁判所書記官が公証(記載)したものであり,裁判官が告げる請求認容判決の「理由の要旨」は,訴訟物である請求権の発生・行使の根拠となる事実の存否に対する判断として示されるものであるから,ここにいう「請求原因事実」は,請求権の発生・行使の根拠として控訴人(一審原告)が主張する請求原因事実(請求認容判決の判決書に記載される請求原因事実)の趣旨である。 なお,上記の記載では,控訴人が主張した二つの終了原因事実がいずれも認められていることになるが,本件における二つの終了原因事実は,事実として両立し得るものであり,いずれの事実によっても,控訴人は,口頭弁論終結時には本件土地建物の明渡請求権を行使することができるから,原判決の理由に不備はないことになる(もっとも,本件においては,事案の内容からして,法的には,使用収益すべき期間が満了したことにより本件使用貸借が終了した後に,念のため債務不履行による解除がされたということになる。)。 したがって,原判決は,控訴人(一審原告)が判断を求めた請求(訴訟物)につき判断をしたものであり,控訴人が求めない請求(訴訟物)について判断をしたものではない。また,原判決は,民事訴訟法254条,民事訴訟規則 ,原判決は,控訴人(一審原告)が判断を求めた請求(訴訟物)につき判断をしたものであり,控訴人が求めない請求(訴訟物)について判断をしたものではない。また,原判決は,民事訴訟法254条,民事訴訟規則155条3項により,適法に言渡しがされており,その言渡しの方式にも違法はない。 第4 結論 よって,原判決において全部勝訴している控訴人には,控訴の利益がなく,本件控訴は不適法で,かつ,その不備を補正することができないから,民事訴訟法290条により口頭弁論を経ないで,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部- 7 -裁判長裁判官岡久幸治裁判官加島滋人裁判官鳥居俊一- 8 -(別紙)物件目録 所在伊勢市a町b地番●●●番地目宅地地積▲▲▲.▲▲平方メートル 所在伊勢市a町b●●●番地家屋番号●●●番種類居宅構造木造セメント瓦葺平家建床面積■■.■■平方メートル以上
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