平成13(行コ)90 公文書非公開処分取消請求控訴事件(原審・横浜地方裁判所平成11年(行ウ)第45号)

裁判年月日・裁判所
平成13年9月26日 東京高等裁判所 情報公開
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判決文本文7,912 文字)

主文 1 1審原告の本件控訴を棄却する。 2(1) 1審被告の本件控訴に基づき,原判決中,1審被告敗訴の部分を取り消す。 (2) 同部分につき,1審原告の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 1審原告(1) 原判決中,1審原告敗訴の部分を取り消す。 (2) 1審被告が,1審原告に対して平成11年5月25日付けでした,原判決別紙文書目録1の公文書は諾否の決定ができない旨の通知処分を取り消す。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。 2 1審被告(1) 原判決中,1審被告敗訴の部分を取り消す。 (2) 1審原告の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,神奈川県の住民である1審原告が,1審被告に対し,神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(本件条例)に基づき,平成10年度政務調査研究費に係る文書の公開請求をしたが,1審被告が,①同文書のうちの一部である現金出納簿及び領収書(第1文書)については公文書として存在しないため,諾否の決定を行うことができない旨を1審原告に通知し(本件不存在通知),② その余の文書(第2文書)については,その記載された情報のうち,「団体の取引金融機関名,預金種目,口座番号,口座名義人」(預金口座等)の部分については,当該団体に明らかに不利益を与えると認められるとして,本件条例5条1項2号により非公開とし,その余の部分については公開する旨の決定(本件処分)をしたので,1審原告が,本件不存在通知及び本件処分のうち非公開処分に係る部分の取消しを求めた事案である。 原審は,本件処分のうち非公開処分に係る部分の取消しを求める請求を認容し,本件不存在通知 をしたので,1審原告が,本件不存在通知及び本件処分のうち非公開処分に係る部分の取消しを求めた事案である。 原審は,本件処分のうち非公開処分に係る部分の取消しを求める請求を認容し,本件不存在通知の取消しを求める請求を棄却したので,当事者双方が控訴した。 2 「前提となる事実」,「主な争点」及び「主な争点に関する当事者の主張」当審における主張を次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第2に摘示のとおりであるから,これを引用する。 (1) 第1文書の公文書性について(1審原告)① 第1文書の作成,取得,管理の主体は,議員であり,会派というもそれは議員がその権限を共同行使している状態を指すに過ぎない。また議員は本件条例上の実施機関を構成する特別職の職員である。したがって,第1文書は,実施機関の職員が職務上作成取得管理する公文書である。 ② 平成12年法律89号による地方自治法の改正で新設された同法100条12項によると,「普通地方公共団体は,条例に定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない。」とされ,政務調査費を交付する目的は,議員の調査研究に資するため必要な経費の補填であり,調査研究活動の主体は,議員であって会派ではない。ただその交付の対象を議員単位とするか会派単位とするかの技術的事項の処理が条例に委ねられているのである。 また,同条13項によると,「前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする」とされ,会計帳簿や領収書等は,議員(ある 3項によると,「前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする」とされ,会計帳簿や領収書等は,議員(あるいはその集合体である会派)が直接に保管し,議長が必要に応じて収支報告書との整合性を確認することが予定されており,議会の機関たる議長若しくは議員の管理する文書であって公文書に該当するのである。 (2) 本件処分の違法性の有無について(1審被告)① 現代社会においては,金融機関の預金口座の安全性が確保されることが重要であり,預金口座等の情報は,自己の責任において管理する内部情報として,他人に知られるべきでない重要な情報である。 ② 原判決の本件条例の解釈の誤りについてア本件条例5条1項は,国や地方公共団体又は県の機関に係る情報については3号から6号に規定し,国及び地方公共団体を除いた「法人その他の団体」に関する情報については2号に規定を設けている。2号に規定する「法人その他の団体」に関する情報について非公開情報に該当するかどうかを判断するに当たっては,安易に公共性・公益性といった概念を持ち込んでいない。すなわち,同号ウは,同号アの「人の生命,身体又は健康を法人の活動によって生じる危害から保護するため」,同号イの「法人の違法,不当な事業活動によって生じる消費生活の安定に対する著しい支障から消費者を保護するため」に,公開が求められる場合と規定されており,同号ウには,同号ア,イに準ずる情報であり,公開することが「公益上必要とされる」場合に用いられる概念であることが条例上明記されている。 イ本件条例5条1項2号の「明らかに不利益」な情報かどうかを判断するに当たっては,団体に関する情報が公開されない利益を有する情報であるか,つまり公開されないことが ることが条例上明記されている。 イ本件条例5条1項2号の「明らかに不利益」な情報かどうかを判断するに当たっては,団体に関する情報が公開されない利益を有する情報であるか,つまり公開されないことが社会一般に是認され得るかとの観点から判断されなければならない。預金口座等の情報は,金庫の「鍵」のような存在であり,取引の安全性や財産の保護等の観点から特に慎重に取り扱わなければならないものであり,社会的にも保護すべき情報として,その期待は十分に是認されている。 ウ上記のような性質を有する預金口座等の情報については,神奈川県では,原則非公開とする合理的な運用をしてきたものである。本件で問題とされている預金口座等の情報は,政務調査費を「どこの銀行のどの口座に振り込むか」という金庫の「鍵」ともいうべき情報であり,会派が政務調査費を「どのような目的でどのように使用し,残金は幾らか」などの「中身」が分かる情報ではないから,これを公開しても,何ら経理の透明性の確保に資するものではなく,公益性は見い出せない。 逆に,公開された会派にとっては,社会一般に保護されるべき信用情報が公にされ,悪用の危険にさらされる不利益が発生する。 エ政治資金規正法上の報告書は,何人の閲覧にも供されるものであるが,それには「預金種目,口座番号及び口座名義人」までの記入は求められていないし,閲覧もできない。政治活動を国民の不断の監視の下に行われるようにするためという同法の目的に照らしても,口座番号の公開までは認められていないのである。 ③ 原判決の事実認定の誤りについてア会派は,議会内だけで活動するものではなく,議会活動を行うために議会外において調査活動,県政報告及び研修などの政務調査活動を行っているものであり,これに伴って対外的な支払関係が生ずる。 イ会派の預金番号等の情報は, で活動するものではなく,議会活動を行うために議会外において調査活動,県政報告及び研修などの政務調査活動を行っているものであり,これに伴って対外的な支払関係が生ずる。 イ会派の預金番号等の情報は,営利的な法人等の預金口座等の情報と異なり,不特定多数の公衆に公開することを予定していない情報である。 ウ預金口座等の情報が公開されると,この情報を基に興信所等の調査会社に委託するなどの手段を用いて口座残高等を調べることが可能となってしまう。暗証番号が明らかでなくても,キャッシュカードを偽造して現金を引き出すことや,デビットカードとして買い物をすることも可能である。また,会派が政治的意見を同じくする議員の集合体であり,常に政治的意見を異にする団体等との間に軋轢,対立関係があることや,左右の政治思想を標?し社会に迷惑行為や犯罪行為まで惹起する結社などの存在を想起すると,口座からの不正引出しや政治的疑惑を作出する危険を会派が背負わなければならないことになる。 (1審原告)平成12年3月28日改正後の神奈川県情報公開条例12条は,「公開請求に係る行政文書に県以外のもの(以下「第三者」という。)に関する情報が記載されているときは,実施機関は,諾否決定をするに当たって,当該第三者に対し,公開請求に係る行政文書の内容その他実施機関の定める事項を通知して,意見書を提出する機会を与えることができる」と定めるに至ったが,このような第三者への意見照会は,従前の条例のもとでも勿論可能であった。1審被告は,当該第三者の意見を確かめることによって不利益性の有無を確かめるという容易な方法をとらないままに,漫然と第三者の不利益を忖度して本件処分をしているが,1審被告主張の理由付けが主観的で,客観的根拠を欠くものであることは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の 容易な方法をとらないままに,漫然と第三者の不利益を忖度して本件処分をしているが,1審被告主張の理由付けが主観的で,客観的根拠を欠くものであることは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の主張について1審被告は,第1文書が公文書として存在しないので,本件不存在通知の取消しを求める訴えはその利益がない旨主張する。 しかしながら,本件不存在通知は,第1文書の公開請求に対する拒否処分であるところ,本件においては,対象文書である第1文書が存在することについては争われておらず,ただ第1文書が公文書といえるかどうか,すなわち,実施機関の職員が作成・取得し,実施機関において管理する文書といえるかどうかが争われているのであるから,第1文書が公文書に該当するものと判断されて本件不存在通知が取り消されれば,1審原告に対して開示されるのであって,1審原告に訴えの利益があることは明らかである。 したがって,1審被告の主張は採用することができない。 2 第1文書の公文書性について当裁判所も,第1文書は公文書に当たらないものと判断する。その理由は,当審における1審原告の主張に対する判断を次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」第3の2に説示のとおりであるから,これを引用する。 (1) 1審原告は,第1文書は,議員が管理するものであるから,公文書である旨主張する。 しかし,引用した原判決の認定説示するとおり,第1文書は,会派が作成・取得し,管理する文書であるところ,会派は,単なる議員の集団ないし行動単位ではなく,団体としての性格を有するものであるから,第1文書が議員の管理する文書に当たるということはできない。 なお,本件条例3条は,「公文書」とは,「実施機関の職員がその分掌する事務に関して職務上作成し,又は取得した文書及び図書」と規定してい ,第1文書が議員の管理する文書に当たるということはできない。 なお,本件条例3条は,「公文書」とは,「実施機関の職員がその分掌する事務に関して職務上作成し,又は取得した文書及び図書」と規定しているところ,「実施機関の職員」とは,実施機関が職務上指揮監督権を有する職員を意味するものと解すべきところ,第1文書について,議員は,実施機関である神奈川県議会の指揮監督を受ける者には当たらず,「実施機関の職員」には含まれないので,この点からも1審原告の主張は採用することができない。 (2) 1審原告は,平成12年に改正された地方自治法の規定によれば,政務調査費の収支報告書の裏付けとなる会計帳簿や領収書等は,議長又は議員の管理するものであり,公文書に該当する旨主張する。 しかし,1審原告の主張する地方自治法の改正は,平成12年5月31日法律第89号によるものであるところ,本件不存在通知は,これより前の平成11年5月25日にされたものであるから,上記規定は,第1文書の公文書性を基礎付けるものではない。 3 本件処分の違法性の有無について(1) 本件条例5条1項2号の解釈について引用した原判決の「事実及び理由」第2の2(4)に説示のとおり,第2文書のうち,「執行伺票・支出命令票」及び「執行伺票・支出命令票」の添付書類「集合執行内訳票・支出命令内訳票」には,会派の取引金融機関の名称,預金種目,口座番号,口座名義人(預金口座等)の情報が記載されている。 ところで,本件条例5条1項2号は,「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報・・・であって,公開することにより,当該法人等・・・に明らかに不利益を与えると認められるもの」は非公開とし得る旨規定している。 会派は,議会内において存在する団体であり,かつ,国及び地 関する情報・・・であって,公開することにより,当該法人等・・・に明らかに不利益を与えると認められるもの」は非公開とし得る旨規定している。 会派は,議会内において存在する団体であり,かつ,国及び地方公共団体の機関ではないから,「法人その他の団体」に該当する。 次に,同号は,公文書の公開の要請と第三者である法人等の権利保護の要請との調和を図ることを目的とした非公開事由を規定するものであり,本件条例1条及び2条が,公文書の公開を求める県民の権利を十分尊重されるように解釈,運用する旨を規定していること,並びに「明らかに」という文言が付加されていること等に照らすと,同号にいう「不利益」とは,主観的なものでは足りず,客観的なものであることを要するものと解される。 (2) 預金口座等が,本件条例5条1項2号にいう,法人等に明らかに不利益を与えると認められる情報に該当するか否かについて① 預金口座等の情報は,自己の管理すべき内部情報として,秘密にしておくことが是認されるものであり,その開示の範囲については,当該団体が自ら決定することができ,みだりに開示されない利益を有しているものである。したがって,当該団体の意思にかかわらずこれを公開することは,当該団体に不利益を与えることになるというべきである。 ② 預金口座等が内部情報に当たるとしても,当該団体の性格や事業活動の内容等により,保護されるべき範囲を必ずしも一律に論ずることは相当ではない。しかし,弁論の全趣旨によれば,会派は,政治的意見を同じくする議員の集合体であることが認められるから,政治的意見を異にする個人や団体との対立関係が生ずることを避けられないものと推認される。この点で,取引関係者等を通じて広い範囲に預金口座等の情報が知られ得る事業者とは,同列に論ずることができない。したがって,預金口 る個人や団体との対立関係が生ずることを避けられないものと推認される。この点で,取引関係者等を通じて広い範囲に預金口座等の情報が知られ得る事業者とは,同列に論ずることができない。したがって,預金口座等の情報を会派の意思にかかわらず公開することについては,営利を目的とする事業者の場合に比して,より一層慎重に取り扱われるべきである。 ③ そこで,預金口座等の情報を開示することによる会派の不利益の客観性について検討する。 証拠(乙49~57,65~67,69の1~4,70)によれば,預金口座等の情報から,口座の残高,入出金を割り出すなどの調査を業とする者があり,インターネット上でその旨の宣伝をしていること,預金口座等の情報を基にした不正引出しや嫌がらせの目的とみられる振込み事件が発生していること,更には,預金口座等の情報により偽造キャッシュカードの製造やデビットカード機能を利用した買い物なども可能であり,現にこうした預金口座等の情報を悪用したとみられる犯罪が発生していることが認められる。 なお,証拠(甲9の1~3,乙31~33)によれば,会派は,議会活動を行うために,議会外においても,調査活動,県政報告,研修などの政務調査活動を行い,こうした活動に伴って対外的な支払関係が生ずるものであることが認められ,必ずしも,会派の活動が議会内部に限定されているものと断ずることはできず,悪用の危険がないものとはいえない。 上記のような,今日の社会情勢,会派の性格・活動の実態などに照らせば,預金口座等の情報が公開されることにより,残高や入出金状況が割り出されて政治的な目的に利用されたり,不正引出しや振込みなどが行われる危険は,客観的なものと評価し得るものというべきである。 ④ 更に,預金口座等の情報を公開することは,それだけでは口座の残高や入出金の情報な 的な目的に利用されたり,不正引出しや振込みなどが行われる危険は,客観的なものと評価し得るものというべきである。 ④ 更に,預金口座等の情報を公開することは,それだけでは口座の残高や入出金の情報などが明らかになるわけではないから,経理の透明性に資するものではないと認められる。そうすると,会派が議会内における公的な団体で,その経理についての透明性が要求されるとしても,預金口座等の情報まで開示することが公益上必要なものということはできない。 したがって,預金口座等の情報を公開することが,本件条例5条1項2号ただし書きウの「公益上必要」との事由にも該当しない。 ⑤ 1審原告は,当該情報の不利益性について,当該第三者に対し意見照会をした上で諾否決定をすべきである旨主張する。 しかし,1審原告も自認するとおり,本件処分当時,本件条例には,第三者への意見照会に関する規定はなく,控訴人の主張する改正後の条例の規定自体も,実施機関に対して第三者への意見照会を義務付けているわけではないから,意見照会をしなかったからといって,本件処分が違法であるということはできない。 (3) 以上に説示したところを総合すると,預金口座等の情報は,本件条例5条1項2号にいう「公開することにより当該団体に明らかに不利益を与える情報」に当たるものと認められ,同号ただし書きの事由に当たるものとは認められないから,実施機関は公開を拒むことが許されるものであり,本件処分は適法であるというべきである。 よって,原判決のうち,1審原告の請求を認容した部分は相当でないから,1審被告の控訴に基づきこれを取り消した上,同部分につき1審原告の請求を棄却し,1審原告の請求を棄却した部分は相当であり,1審原告の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事 これを取り消した上,同部分につき1審原告の請求を棄却し,1審原告の請求を棄却した部分は相当であり,1審原告の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第11民事部裁判長裁判官瀬戸正義裁判官遠山廣直裁判官河野泰義

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