【DRY-RUN】主 文 控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という)らの控訴を棄却す る。 原判決中、被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という)Aに 関する部分を、次のとおり変更
主文 控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という)らの控訴を棄却する。 原判決中、被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という)Aに関する部分を、次のとおり変更する。 控訴人らは各自被控訴人Aに対し、金一五三万六九八五円及びこれに対する昭和四〇年一二月二七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。 被控訴人Aのその余の請求を棄却する。 控訴人らと被控訴人Aとの間に生じた第一、二審の訴訟費用並びに被控訴人B、同Cとの間に生じた第二審の訴訟費用は、いずれも控訴人らの負担とする。 本判決中金員の支払を命じた部分並びに原判決中被控訴人B及び同Cに対する金員の支払を命じた部分は、仮に執行することができる。 事実 控訴人ら代理人は「原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。被控訴人Aの附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は「控訴人らの控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。原判決中被控訴人Aに関する部分を次のように変更する。控訴人らは連帯して被控訴人Aに対し、金一八七万四〇五一円及びこれに対する昭和四〇年一二月二七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決(被控訴人Aの請求については、原審認容部分に事実欄二、(二)に附帯控訴理由として記載の請求部分を加えた上記範囲内に減縮)並びに仮執行宣言を求めた。 当事者双方の主張及び証拠の関係は、左記の点を付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決八枚目裏二行日中「A」の下に「(第一、二回)」を加える)。 一、 控訴人らの主張(一) 本件衝突 は、左記の点を付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決八枚目裏二行日中「A」の下に「(第一、二回)」を加える)。 一、 控訴人らの主張(一) 本件衝突原因たる過失について本件衝突は、原審でも主張したように、D丸が海上衝突予防法の規定に違反して、衝突直前に従前の針路を左転してE丸の前面を横切るという船舶運航上の過失によつて発生したものである。すなわち、D丸もレーダーを備えていたのであるから、E丸がD丸の映像をとらえたのと同じ頃に、D丸もE丸の映像をとらえ、同船が反航して来るのに気付いていなければならない。気付いていなかつたとすれば、すでにその点に過失がある。気付いていたとすれば、互いに左舷を相対して航過するか、又は、両船の針路や衝突時の船位等からみてD丸はその右舷にE丸を認めていたと考えられるから、D丸の方でE丸の進路を避けるべきである(海上衝突予防法一九条ないし二二条参照)。しかるに、D丸の船長Fは避譲の措置をとらず、そのまま運航してE丸の船首前面を横切つたのであつて、この過失が本件衝突の原因である。 少なくとも、本件衝突は、D丸が霧のため展望がさえぎられていたのに海上衝突予防法一六条一項に違反して過大な速力のまま進行した同船の不当運航によつて発生したものである。D丸には船長以下八名が乗船していたが、船舶に危険のおそれがあるときは船長は甲板にあつて自ら船舶を指揮すべきである(船員法一〇条)から、D丸は船長Fが自ら操船指揮していたものと推定されるが、もし同人が自ら操船指揮していなかつたとするとその点に過失があるから、いずれにせよD丸の前記不当運航については同人に過失があるものというべきである。 仮に、控訴人Gにも過失があつたとしても、D丸船長Fの前記過失が本件衝突の主たる原因であるから の点に過失があるから、いずれにせよD丸の前記不当運航については同人に過失があるものというべきである。 仮に、控訴人Gにも過失があつたとしても、D丸船長Fの前記過失が本件衝突の主たる原因であるから、その点を十分に参酌して過失相殺がなされるべきであつて、漫然と折半すべきではない。 (二) 反対債権による相殺仮に、控訴人らに損害賠償債務があるとすれば、控訴会社が被控訴人らに対して有する次の債権をもつて相殺する。 本件衝突事故により死亡したD丸八名の乗組員中、F、Hを除く六名の各遺族は、控訴会社に対し損害賠償として別紙記載の各金額の支払を求める訴を提起し(広島地方裁判所昭和四一年(ワ)第四一六号事件)、昭和四二年一二月八日成立した和解により控訴会社は右各遺族に対し、死亡乗組員一名につき各七〇万円、合計四二〇万円の損害賠償金を支払うこととなり、そのうち二〇〇万円は支払いずみである。 Hの実父Iも、控訴会社、E丸船長J、D丸船主Kに対し損害賠償として三七四万二五六六円の支払を請求する訴を提起し、目下係属中である。本件衝突事故はD丸船長たるFの過失によるものであり、仮にE丸の船長や航海士にも過失があつたとしでも、その過失の割合はFの方がはるかに大であるから、前記の各遺族に対する賠償業務はF自身も負担すべきである。 従つて、Fは控訴会社に対し自己の分担額に相当する損害賠償債務を負い、その債務は被控訴人らが相続したものである。そして、右分担割合は少なくともF七、控訴会社三を相当とするから、控訴会社は被控訴人Aに対し一四七万円、同B及び同Cに対し各七三万五〇〇〇円の損害賠償債権を有し、この反対債権をもつて対当額において相殺するものである。 二、 被控訴人らの主張(一) 控訴人らの相殺の抗弁に対する答弁控訴会社とF、Hを除くその余のD丸乗 万五〇〇〇円の損害賠償債権を有し、この反対債権をもつて対当額において相殺するものである。 二、 被控訴人らの主張(一) 控訴人らの相殺の抗弁に対する答弁控訴会社とF、Hを除くその余のD丸乗組員の遺族らとの間で控訴人ら主張のような裁判上の和解が成立し、その和解金のうち二〇〇万円が支払いずみであること、控訴会社ほか二名とHの実父との間で控訴人ら主張のような訴訟が係属中であることは、認める。 しかしながら、右のような被控訴人らの全く関与しない和解金や、被控訴人らと全く関係のない損害賠償請求の訴により将来支払を命ぜられるかも知れないというにすぎない金員の支払について、被控訴人らにこれを分担すべき義務があるとの主張は全く理由がない。 仮に本件衝突事故の原因たる過失がD丸の側にあつたとしでも、D丸は沈没し船員全員が死亡しているのであるから、D丸側の過失責任者が乗組員中の誰であるかを断定することはできず、これがもつぱら船長のF一人にあつたとすることはできない。 そもそも本件のような船舶衝突事故は、個人と個人との間の不法行為としてではなく、船舶相互間の不法行為として考えるべきもので、本件事故についてD丸側に一部過失があつたとすれば、それはD丸乗組員全員の共同過失として過失相殺は被害者たるD丸乗組員各人からの損害賠償請求に対し各個別に主張されるべきものである。 (二) 遺族年金等の控除について(附帯控訴の理由)被控訴人(附帯控訴人)Aが亡夫Fの死亡の結果国から支給された遺族年金及び行方不明手当金は、次に述べる理由により、同被控訴人の受け取るべき本件損害賠償金から控除されるべきではない。同被控訴人は、原判決が右遺族年金等相当額五四万四一三三円及びこれに対する遅延損害金につき同被控訴人の請求を棄却した点を不服として、本件附帯控訴をなすもの 本件損害賠償金から控除されるべきではない。同被控訴人は、原判決が右遺族年金等相当額五四万四一三三円及びこれに対する遅延損害金につき同被控訴人の請求を棄却した点を不服として、本件附帯控訴をなすものである。 商法は、損害保険については第六六二条において被保険者の第三者に対する権利についての保険者の代位を規定しているが、この規定を生命保険に準用していない(六八三条)。これは、損害保険が純粋の損害填補を目的とするものであるのに対し、生命保険は死亡にそなえた備蓄を目的とする制度であつて、全くその性質を異にするからである。船員保険(他の多くの社会保険も同様)は、組合員の疾病、傷害等不慮の災厄に対する損害保障と、失業、廃疾、老衰、死亡等の場合における本人又は遺族の生活保障との両制度を包括していて、その保険給付の中で療養費、傷病手当金といつたようなものは前者の損害保険であり、遺族年金というようなものは後者の生命保険の性質を有する。従つて、商法が損害保険についての六六二条を生命保険に準用していないことから考えて、同条と立法趣旨を同じくする船員保険法二五条(他の各種の社会保険法中の同旨の規定も同様)は、生命保険の性質を有する保険給付たる遺族年金等には適用されないものと解すべきである。 三、 証拠関係(省略) 理由 一、 次の事実は当事者間に争いがない。 (1) 被控訴人Aは亡Fの妻であり、被控訴人B及び同CはFの父母である。 (2) Fは訴外K所有の機船D丸(四九五トン)に船長として乗り組んでいたが、D丸は昭和三八年一二月二四日午後八時頃京浜港東京区を発し、函館に向け航行中、同月二五日午後一一時二三分頃L燈台沖合において、同所を航行中の機船E丸(一一七四トン)からその船首を右舷側後部に衝突された。そのためD丸は、右衝突箇所 八時頃京浜港東京区を発し、函館に向け航行中、同月二五日午後一一時二三分頃L燈台沖合において、同所を航行中の機船E丸(一一七四トン)からその船首を右舷側後部に衝突された。そのためD丸は、右衝突箇所の外板に横約三・三メートル、縦約一メートルの破口と、これに伴う横約八メートル、縦約四メートルの凹損を生じて、衝突後間もなく沈没し、Fを含む乗組員八名全員が海中で溺死した。 (3) E丸は控訴人南日本商船株式会社の所有に属し、同会社の社員である訴外Jが船長、同じく控訴人Gが一等航海士としてこれに乗り組み、同会社の業務として同月二五日午前〇時四〇分釜石港を発し、関門港若松区に向け航行中であつた。 二、 そこで、本件衝突事故に至つた経過及びその態様について考えるに、被控訴人ら主張の原判決記載請求原因第四項の事実はE丸運航の時間的経過の点を除き当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一ないし八(二及び八についでは各一部)、乙第二号証の一、二、原審における控訴人G本人の供述(一部)を合わせると、次の事実が認められる。 E丸は釜石を出航した後、昭和三八年一二月二五日午後四時頃M燈台を右舷側西北西(磁針方位、以下同じ)五海里ばかりに通過した時、船長Jは針路を南微西四分の一西に定め、一時間一〇海里の全速力で進行中、同八時頃控訴人Gが昇橋して同船長と交替し右針路を引き継いだ。同九時二五分頃から霧がたち込め展望がさえぎられるようになつたので、同控訴人は霧中信号を吹鳴しはじめたが、J船長には何ら報告せず、引き継き全速力で続航した。同一〇時頃同控訴人は船位が予定針路より右方に片寄つているものと思つて針路を四分の一点左転して南微西とした。同一一時頃から濃霧となつたが、同控訴人は霧中信号を行なつたのみで、依然全速力 で続航した。同一〇時頃同控訴人は船位が予定針路より右方に片寄つているものと思つて針路を四分の一点左転して南微西とした。同一一時頃から濃霧となつたが、同控訴人は霧中信号を行なつたのみで、依然全速力で進行し、L沖合に差しかかつた。 他方、D丸は、京浜港東京区を出航した後一旦館山に寄港し、昭和三八年一二月二五日午前一〇時頃同地を発して、N燈台を左舷側に通過した後、北東方の針路をとり、一時間八海里二分の一ばかりの全速力で進行した。その後霧となり展望がさえぎられたが、同船は減速することなく続航し、同日午後一一時頃L燈台を左舷側に通過した頃ほぼ北微西に転針して進行した。 ところで、E丸の運航に当つていた控訴人Gは、同日午後一一時三分頃レーダーで左舷船首ほぼ一点六海里ばかりのところにD丸の映像をとらえ、同船が北上してくる反航船であることを認めたが、これと左舷を相対して航過できるものと考え、そのまま航行しているうち、同一一時一八分頃レーダーで左舷船首ほぼ一点一海里二分の一ばかりのところにD丸の映像を認め、それが自船と互いに接近する状況であつたのに、これに深く留意しないまま続行し、同一一時二二分頃L燈台を右舷側に通過したものと思い、間もなく南西二分の一南に転針するつもりで右舵をとつたところ、左舷船首ほぼ一点二〇〇メートルばかりのところにD丸の緑燈を認めたので、衝突の危険を感じて直ちに右舵一杯をとり機関を全速力後退にかけた。その頃、D丸においでも前方二、三百メートルのところにE丸の燈火を認め、左舷一杯をとつて避難しようとした。しかし、いずれもその効なく、同一一時二三分頃L燈台からほぼ東微南二分の一南三海里四分の三ばかりのところで、ほぼ南南西に向いたE丸の船首が、ほぼ西微南に船首を向けたD丸の右舷側後部に後方からほぼ五点の角度で衝突し、これによりD丸は 時二三分頃L燈台からほぼ東微南二分の一南三海里四分の三ばかりのところで、ほぼ南南西に向いたE丸の船首が、ほぼ西微南に船首を向けたD丸の右舷側後部に後方からほぼ五点の角度で衝突し、これによりD丸は前示のように船体に損傷を受けて間もなく沈没した。 以上の事実が認められ、前掲乙第一号証の二及び八の供述記載、原審における控訴人G本人の供述中右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。 三、 右認定の事実関係に徴すると、船長Jに代わりE丸の運航に当つていた控訴人Gとしでは、当時海上に濃霧がたちこめ展望がさえぎられており、しかも自船とD丸とが互いに接近しつつある状況をレーダーの映像により知り得たのであるから、海上衝突予防法一六条一項の趣意に則りE丸の速力を適度に減ずるなど、適宜の措置をとつて、両船が著しく接近することのないよう配慮し、もつて衝突事故の発生を防止すべき職務上の注意義務があつたにかかわらず、同控訴人はなんらそのような措置をとらず、漫然と一時間一〇海里の全速力で航行したものであつて、この点に同控訴人の運航上の過失があつたというべきである。他方、D丸についても、濃霧の中を過大の速力のまま航行した不当運航の事実が認められ、同船の船長であるFが自らその運航に当つていたのであればもちろん、仮にそうでなかつたとしでもFは部下船員を指揮監督して右のような不当運航を防止すべき船長としての注意義務を負つていたのであるから、右不当運航についてはFに過失があつたものといわなければならない。結局、本件衝突事故は、以上に認定した控訴人GとFの各過失が競合したことにより発生したものであつて、右両者の過失の割合はほぼ等しいものと認めるのが相当である。 右の点について、控訴人らは、本件衝突事故の原因―少なくともその主たる原因―は、D丸が 各過失が競合したことにより発生したものであつて、右両者の過失の割合はほぼ等しいものと認めるのが相当である。 右の点について、控訴人らは、本件衝突事故の原因―少なくともその主たる原因―は、D丸が事故現場であるL附近の原則的航路を遵守せず、しかも霧中信号を怠つて全速力で航行したばかりか、海上衝突予防法の規定に違反して、衝突直前に従前の針路を左転してE丸の前面を横切るという船舶運行上の過失を犯したことにある旨、主張する。しかしながら、前認定の事実関係から直ちにD丸がL附近の原則的航路を遵守しなかつたものと認めることはできないし、その不遵守を認めるに足りる証拠はない。D丸が霧中信号を怠つたとの点については、前掲乙第一号証の二及び八に、控訴人Gの供述として、衝突前D丸の霧中信号を聞かなかつたとの記載があるが、右供述記載によつて直ちに同船が霧中信号を怠つたものと認めることはできないし、他に右懈怠の事実を認めるに足りる証拠はない。また、D丸が衝突直前に左舵一杯をとつたことは前認定のとおりであるが、前認定の事実関係に徴すると、右の措置は両船が衝突の確度の極めて高い至近距離に接近した後に、D丸が霧中E丸の燈火を認め止むなくとつたものと認められるので、右措置をとつたこと自体が本件衝突事故の原因をなしたものということはできない。なお、控訴人らは、D丸もレーダーを備えていたのであるから、E丸が反航して来るのに気付いていたはずであり、両船の針路等からみてD丸はその右舷にE丸を認めていたと考えられるから、D丸の方でE丸の進路を避けるべき義務があるのに、なんら避譲の措置をとうなかつた過失がある旨主張するが、横切り船の航法として他船を右舷側に見る船舶の方に避譲義務があることを定めた海上衝突予防法一九条の規定及びその関連規定である同法二一条の規定は、船舶が互いに他 をとうなかつた過失がある旨主張するが、横切り船の航法として他船を右舷側に見る船舶の方に避譲義務があることを定めた海上衝突予防法一九条の規定及びその関連規定である同法二一条の規定は、船舶が互いに他の船舶の視野の内にある場合にのみ適用されるものであつて(同法第四章前文第四項参照)、本件のように濃霧のためレーダーの映像によつてのみ相手船を認めることが可能である場合においては、両船の針路及び位置関係等から直ちにD丸の方にのみ避譲の義務があるものとし、本件衝突事故がもつぱら―あるいは主として―D丸の不当航行に因るものということはできない。 四、 してみると、控訴人Gは不法行為者として、控訴人南日本商船株式会社は控訴人Gの使用者として、被控訴人らに対し、本件衝突事故により生じた後記認定の損害を賠償すべき義務を負うものといわなければならない。 五、 そこで、被控訴人ら主張の各損害について判断する。 (一) Fの得べかりし利益の喪失による損害(1) 損害額原審における被控訴人A本人の供述(第二回)により成立を認める甲第二号証、成立に争いのない乙第一号証の三、六、八、原審証人Oの証言、原審における被控訴人A(第一、二回)、同B各本人の供述に、本件弁論の全趣旨を合わせると、Fは本件衝突事故による死亡当時三四才の健康な男子で、防府商業学校卒業後機帆船の乗組員等を経験して昭和三六年頃乙種一等航海士の免許を受け、昭和三八年二月頃からKに雇われて、当初は一等航海士、同年一一月頃からは船長としてD丸に乗り組み、事故当時諸手当を含めて年間五〇万九五八〇円の賃金を得ていたこと、Fはその職務の性質上家庭を離れて生活することが多かつたが、その間右賃金の中から毎月二万六〇〇〇円前後の金員を妻である被控訴人Aの許に生活費として仕送りしていたことが認められる。 右 ていたこと、Fはその職務の性質上家庭を離れて生活することが多かつたが、その間右賃金の中から毎月二万六〇〇〇円前後の金員を妻である被控訴人Aの許に生活費として仕送りしていたことが認められる。 右事実に照すと、Fは、本件事故により死亡しなければ、なお三六年間生存し、そのうち少なくとも三一年間にわたり船長又は航海士として船舶に乗務し、その間前記賃金額を下廻らない収入を得られたもりと認めることができる(仮に上記稼働年数がやや長きにすぎるとしても、Fの死亡当時の年令や免許取得後の経過年数等を考慮すると、将来相当の賃金増加が見込まれることは明らかであるから、上記三一年間を通じての平均年間収入額が前記賃金額を下廻るものとは考えられない)。 そして、右収入を得るために必要なFの生活費は、被控訴人Aに対する前記仕送り金額に照すと、被控訴人ら主張の年額二二万九五八〇円を上廻るものではないと認められるから、これを前記収入額から控除すると、同人の得べかりし純収益は年額二八万円となる。そこで、右純収益の三一年間の総計額についてホフマン式計算方法により年五分の法定利率による中間利息を控除した一時払額を求むべきところ、被控訴人らは本訴において昭和四〇年一二月二七日以降の遅延損害金の支払を合わせ請求しているので、その前日である同月二六日現在における右一時払額を求めると、五四九万六二〇四円となる。右金額が、Fの得べかりし利益の喪失による損害の、右期日現在における一時払額である。 (2) 過失相殺本件衝突事故は控訴人GとFの各過失が競合して発生したものであり、両者の過失の割合がほぼ等しいものと認められることは、前示のとおりであるから、右割合に応じFの過失を斟酌して損害賠償額を定めることとし、Fの前記損害額を二等分すると、二七四万八一〇二円となる。従つて、Fは控訴人 割合がほぼ等しいものと認められることは、前示のとおりであるから、右割合に応じFの過失を斟酌して損害賠償額を定めることとし、Fの前記損害額を二等分すると、二七四万八一〇二円となる。従つて、Fは控訴人らに対し右金額の損害賠償請求権を取得したものというべきである。 (3) 被控訴人らの相続被控訴人AがFの妻であり、被控訴人B、同CがFの父母であることは、前示のとおりであつて、原審における被控訴人A本人の供述(第一回)によると、Fには子がなく、被控訴人らのほかに相続人となるべき者も存しないことが認められるから、Fの死亡により、被控訴人Aは妻として前記損害賠償請求権の二分の一に当る一三七万四〇五一円の債権を、被控訴人B、同Cは父母として各四分の一に当る六八万七〇二五円(円未満切捨)の債権を、それぞれ相続したことが明らかである。 (4) 船員保険法による給付Fが本件衝突事故により行方不明となり、その後その死亡が確認されたことについて、被控訴人AがFの妻として船員保険法による行方不明手当金七万八三〇〇円(昭和三八年一二月二六日から昭和三九年三月二四日まで)、葬祭料五万二〇〇〇円の各給付を受け、また、遺族年金一三万円(昭和三九年四月以降)の受給権を得てその給付を受けていることは、当事者間に争いがない。そして、同法二四条に定める遺族年金の支給方法に徴すると、被控訴人Aは本件口頭弁論終結時である昭和四三年一二月一六日現在において、すでに五九万五八三三円の遺族年金を受領しているものと推認される。 ところで、船員保険法二五条は損害賠償請求権についての保険者の代位を規定している。本件の場合、被控訴人Aが受けた各給付のうち、葬祭料は、本訴請求に係る損害とは異なる損害に対する補償給付であるか<要旨第一>ら、その支給により本訴損害賠償請求権について代位を生 代位を規定している。本件の場合、被控訴人Aが受けた各給付のうち、葬祭料は、本訴請求に係る損害とは異なる損害に対する補償給付であるか<要旨第一>ら、その支給により本訴損害賠償請求権について代位を生ずる余地はない。しかし、行方不明手当金と遺族</要旨第一>年金は、当該船員の賃金収入に依存して生計を維持していたその家族が、事故の結果右収入を失い、それに依存して生計を維持することができなくなつたことによる損失を補償するための給付であつて、右損失は本訴請求に係る前記損害(Fの得べかりし利益の喪失による損害)に含まれるから、行方不明手当金及び遺族年金の受領は、被控訴人Aの相続した前記損害賠償請求権について代位を生ぜしめるものといわなければならない。 右の点について、被控訴人らは、商法が損害保険の保険者代位に関する同法六六二条の規定を生命保険については準用していないことにかんがみ、同条と同趣旨の船員保険法二五条の規定は、生命保険の性質を有する行方不明手当金や遺族年金については適用すべきでない、と主張する。たしかに、船員保険における遺族年金等と生命保険との間にかなりの共通点があることは、否定しえないところである。しかしながら、生命保険は当事者の契約に基づくものであつて、契約により保険金受取人として指定された者が、被保険者との親族関係や扶養関係の有無にかかわりなく、契約で定められた額の保険金を受領する権利を有し、従つて損失補償的性質が希薄であり、また、その費用は保険契約者の払い込む保険料によつてまかなわれるのに対し、船員保険においては、船員として船舶所有者に使用される者は当然に被保険者たるべきものとされ、被保険者によつて生計を維持していた親族が、被保険者の賃金の額を基準として定められる遺族年金等を受領する権利を有し、従つて前示のように損失補償的性質 使用される者は当然に被保険者たるべきものとされ、被保険者によつて生計を維持していた親族が、被保険者の賃金の額を基準として定められる遺族年金等を受領する権利を有し、従つて前示のように損失補償的性質が強く、また、その費用は被保険者、船舶所有者及び国庫により負担される。それらの点を考慮すると、船員保険法二五条が明文をもつて除外していないのに、遺族年金等につき同条の適用がないと解することは困難であつて、被控訴人らの主張は採ることができない。 <要旨第二>次に、代位の対象となる損害賠償請求権の範囲(金額)について検討する。被控訴人Aが支給を受けた前</要旨第二>記行方不明手当金及び遺族年金の合計額は六七万四一三三円となるが、本件の場合被控訴人らは控訴人らに対しFの過失利益の全額について損害賠償請求権を有するのではなく、過失相殺によりその二分の一の金額について損害賠償請求権を有するにすぎないから、代位の対象となる損害賠償請求権の範囲も前記給付合計額の二分の一に相当する三三万七〇六六円(円未満切捨)に止まるものと解するのが相当である。右の点については、保険給付受領者の損害賠償請求につき過失相殺がなされる場合でも、保険者の行なつた保険給付額に相当する金額(全額)の保険者代位を認めるべきものとする反対説も考えられる。しかし、この説によると、保険給付受領者がその給付により損害額の一部(たとえば二分の一)しか補償されない場合に、その残額について加害者に対し損害賠償を請求しようとしても、過失相殺の割合のいかんによつては全く賠償を受けられない場合があり(前記の例で、過失相殺により損害額の二分の一が賠償額とされるものとすると、その賠償請求権は全額保険者により代位されるので、保険給付受領者が賠償を受ける余地はない)、そうでない場合でも保険給付受領者にとつて非常 過失相殺により損害額の二分の一が賠償額とされるものとすると、その賠償請求権は全額保険者により代位されるので、保険給付受領者が賠償を受ける余地はない)、そうでない場合でも保険給付受領者にとつて非常に不利益な結果となる。保険者代位の制度が、本来保険給付受領者に損害の填補以上の利益を得させるべきでないとの考え方に立脚するものであることを考えると、保険給付受領者に前記のような不利益を課することは、この制度の趣旨にうらものではない。また、二以上の保険者が損害額の各一部について保険給付を行なつた場合に、前記の反対説によると、先に保険給付をした保険者が優先して損害賠償請求権につき代位する結果となり(たとえば、保険者甲と同乙とがそれぞれ損害額の二分の一の保険給付をした場合に、保険給付受領者が加害者に対し過失相殺により損害額の二分の一の賠償請求権しか有しないとすると、甲乙のうち先に保険給付をした保険者だけがその損害賠償請求権につき代位し、他の保険者は代位することができない)、そのような結果は妥当とはいい難い。以上の理由により、前記反対説は採ることができない。 してみると、被控訴人Aが相続した損害賠償請求権一三七万四〇五一円についでは、保険者代位の対象となつた前記三三万七〇六六円を控除すべく、その残額は一〇三万六九八五円となる。 (二) 被控訴人らの慰謝料原審証人Oの証言、原審における被控訴人A(第一回)、同B各本人の供述、本件弁論の全趣旨によると、被控訴人Aは昭和一五年に満州の鞍山で生まれ、今次大戦後引き揚げて最初下関市に居住し、その後小学校二年生の頃実父の職業の関係から名古屋市に移つて同市の中学校を卒業し、昭和三五年一月にFと見合結婚し、三年間名古屋市で暮した後下関市に居を移し、その間円満な夫婦生活を送つていたが、結婚後四年足らずで本件事故に 父の職業の関係から名古屋市に移つて同市の中学校を卒業し、昭和三五年一月にFと見合結婚し、三年間名古屋市で暮した後下関市に居を移し、その間円満な夫婦生活を送つていたが、結婚後四年足らずで本件事故により夫を失い、現在は下関市の実父の許に身を寄せていること、また、被控訴人B、同CはFのほか男子二人、女子三人があるが、現在夫婦二人だけで防府市に居住し、食料品販売業を営んで生計をたてていること、Fの事故死により被控訴人らはいずれも多大な精神的苦痛を受けていることが認められる。 右の事実関係に、前記認定にかかる本件事故の態様及び原因(Fの過失の点を含めて)、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、被控訴人らの精神的苦痛に対する慰謝料としては、Aについては五〇万円、B及びCについでは各二五万円(いずれも被控訴人ら主張の金額)をもつて相当と考える。 六、 控訴人らは、商法七九八条に定める短期消滅時効を主張援用するが、同条は財産上の損害に関する債権についての規定であつて、本件のように人の生命身体の侵害により生じた債権についでは適用されないものと解すべきである(大審院大正四年四月二〇日判決、民録二一輯五三〇頁参照)から、控訴人らの右主張は失当である。 七、 控訴人らは、反対債権による相殺を主張するので、これについて判断する。 本件衝突事故により死亡したD丸人名の乗組員のうち、F及びHを除く六名の各遺族が、控訴会社に対し損害賠償として別紙記載の各金額の支払を求める訴訟を提起し、昭和四二年一二月八日成立した和解により控訴会社から右各遺族に対し、死亡乗組員一名につき各七〇万円、合計四二〇万円の損害賠償金を支払うこととなり、そのうち二〇〇万円は支払いずみであること、Hの実父Iも、控訴会社等に対し損害賠償として三七四万二五六六円の支払を求める訴訟 乗組員一名につき各七〇万円、合計四二〇万円の損害賠償金を支払うこととなり、そのうち二〇〇万円は支払いずみであること、Hの実父Iも、控訴会社等に対し損害賠償として三七四万二五六六円の支払を求める訴訟を提起し、目下係属中であることは、いずれも当事者間に争いがない。 控訴人らは、右和解により控訴会社が支払うことを約した四二〇万円のうち少なくともその一〇分の七(D丸の船長であるFの過失とE丸の船長や航海士の過失との割合を七対三とみて)に当る二九四万はFにおいて負担すべきものとし、その求償債権を反対債権として相殺を主張するものである。そこで、右求償債権の成否について考えるに、本件衝突事故はD丸の船長であるFの過失とE丸の一等航海士である控訴人Gの過失とが競合して発生したものであつて、両者の過失の割合がほぼ等しいと認められることは前示のとおりであり、その事実関係からすれば、F以外のD丸乗組員の遺族が控訴人らに対し右事故による損害の賠償を請求した場合に、その賠償額はFの前記過失(F以外のD丸乗組員にも過失があつたとすればその過失も合わせて)を斟酌したうえで決定されるべきものと解するのが相当である。すなわち、それらの乗組員は、各自の担当する仕事の性質内容は異なつていても、船長であるFの指揮の下に一つの組織体としてD丸の運航の業務に従事していたものであるから、同船の船長その他の乗組員に業務上の過失があつて、その過失が一因となつて本件衝突事故が生じたものと認められる以上、相手船の所有者又は乗組員である控訴人らに対する損害賠償請求の関係においては、右過失は被害者の側における過失として賠償額の決定につき斟酌するのが衡平に適するというべきである。 実際にも、控訴会社が前記六名のD丸乗組員の各遺族との和解により支払うことを約した賠償金額は、別紙記載の請求金額に比 側における過失として賠償額の決定につき斟酌するのが衡平に適するというべきである。 実際にも、控訴会社が前記六名のD丸乗組員の各遺族との和解により支払うことを約した賠償金額は、別紙記載の請求金額に比して極めて低額であるだけでなく、本件事故により右乗組員がいずれも死亡したことなど被害の重大性から考え、その損害の全部を補償するに足りるものとは到底認められないのであつて、右和解金額はD丸の側の過失をも考慮に入れたうえで決定されたものと認めるのが相当である。 してみると、控訴会社が前記和解で定められた賠償金を支払つたとしでも、それは前記六名の乗組員ないしその遺族の受けた損害のうち結局E丸の側の負担に帰すべき部分について賠償義務を履行したものにすぎず、Fの相続人である被控訴人らとの関係において、右賠償金の支払により共同の免責を得たものとしてその分担を求めることは許されないというべきである。従つて、控訴会社が右の求償債権を有することを前提とする控訴人らの相殺の主張は、採用することができない。 八、 以上に説示したとおりであるから、控訴人らは各自被控訴人Aに対し金一五三万六九八五円、被控訴人B及び同Cに対し各金九三万七〇二五円の損害賠償金、並びに右各金員に対し履行期後の昭和四〇年一二月二七日以降完済に至るまで民法所定の年五分の法定利率による遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人らの本訴請求は右義務の履行を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当であつて棄却を免れない。 よつて、控訴人らの控訴は理由がないのでこれを棄却し、被控訴人Aの附帯控訴は一部理由があるので原判決中同被控訴人に関する部分を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九二条但書、九三条一項を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判 部理由があるので原判決中同被控訴人に関する部分を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九二条但書、九三条一項を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官辻川利正裁判官村岡二郎裁判官畠山勝美)別紙<記載内容は末尾1添付>
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