平成11(ワ)780 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年7月2日 名古屋地方裁判所
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判決文本文49,425 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求被告は原告に対し,1億4845万8922円及びこれに対する平成11年3月9日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求被告は,原告に対し,2800万円及びこれに対する平成5年7月15日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告従業員であった原告が,被告に対して,①被告が原告を過重な業務に従事させたため,原告が脳内出血を発症し,右半身麻痺等の後遺障害が残ったとして債務不履行(安全配慮義務違反ないし安全保護義務違反)に基づく損害賠償を請求し(主位的請求),また,②原告の上記脳内出血は,業務に起因するものであるとして,被告の災害補償規程に基づく重症障害見舞金の支払を請求する(予備的請求)事案である。 1 争いのない事実等(特に証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア被告は,鉄鋼,各種機械装置・器具等の製造・加工・販売等を業とする株式会社である。 イ原告(昭和12年7月8日生)は,昭和35年5月7日,被告に入社し,昭和41年より鍛造部鍛造課に配属され,昭和46年5月から班長となった。昭和53年に鍛造部第1鍛造課所属となり,翌年5月から同課第2作業係組長,昭和59年5月からは同課第2作業係作業長として自動車部品等の製造,現場監督等の業務に従事してきた(以下,被告鍛造部第1鍛造課第2作業係を「本件職場」という。)。 (2) 原告の脳内出血発症と後遺障害ア原告は平成元年5月5日午後4時45分ころ,被告鍛造工場西南出入口でしゃがみ込んで意識もうろう状態になっているところを発見さ を「本件職場」という。)。 (2) 原告の脳内出血発症と後遺障害ア原告は平成元年5月5日午後4時45分ころ,被告鍛造工場西南出入口でしゃがみ込んで意識もうろう状態になっているところを発見され,半田市立半田病院において脳内出血と診断された(以下「本件脳内出血」という。)。 イ原告は,本件脳内出血により,右半身麻痺及び言語障害の後遺障害を負った(言語障害の後遺障害を負ったことにつき,甲1・144頁)。 (3) 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下「脳・心臓疾患」という。)の労働基準監督署における認定基準の内容(甲41の1・2)ア厚生労働省労働基準局長は,平成13年12月12日付けの通達(基発第1063号)で,従前,平成7年2月1日付け基発第38号及び平成8年1月22日付け基発第30号の各通達に従って取り扱われていた脳・心臓疾患の認定基準を改めた。 これを受けて,厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長は,平成13年12月12日付けで,基労補発第31号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」を発した(以下,これらを一括して「新認定基準」という。)。 イ新認定基準の概要は,以下のとおりである。 (ア) 脳・心臓疾患は,通常,その発症の基礎となる疾病が自然的経過の中で増悪し,発症に至るが,業務による明らかな過重負荷が加わることにより,上記基礎疾病が自然的経過を超えて著しく増悪した場合は,業務が相対的に有力な原因であると判断し,業務起因性が認められる。そして,業務の過重性の判断に当たっては,発症に近接した時期における負荷のほか,長期間にわたる疲労の蓄積も考慮する。 (イ) 認定要件としては,①発症直前から前日までの間において,異常な出来事に遭遇した て,業務の過重性の判断に当たっては,発症に近接した時期における負荷のほか,長期間にわたる疲労の蓄積も考慮する。 (イ) 認定要件としては,①発症直前から前日までの間において,異常な出来事に遭遇したこと,②発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと,③発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことのいずれかに該当することが必要とされている。 (ウ)a 業務の過重性の判断について,上記(イ)②については,発症前おおむね1週間に,日常業務(所定労働時間内の所定業務)に比して特に過重な身体的,精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務か否かを,労働時間,勤務の不規則性,拘束時間の長短,出張の多少,交替制勤務・深夜勤務の有無,作業環境,精神的緊張の有無等を負荷要因として考慮して,同僚労働者又は同種労働者にとっても特に過重なものと認められるか否かという観点から,客観的かつ総合的に判断するとされている。 b また,前記(イ)③については,発症前おおむね6か月間の業務につき,上記aとおおむね同様の判断基準をとることとされているが,特に労働時間につき,(a)発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働(1週40時間を超える労働をいう。以下同じ。)が認められない場合には,業務と発症との関連性が弱いが,おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる,(b)発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。 ただし,上記(a),(b)のような時間外労働に就労した場合 にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できるとされている。 ただし,上記(a),(b)のような時間外労働に就労した場合であっても,就労実態に即して,労働密度が特に低いと認められる場合には,直ちに業務と発症の関連性が強いと評価することは適切ではないとされている。 さらには,休日のない連続勤務が長く続くほど発症との関連性をより強め,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すとされている。 c 上記aにおいて負荷要因とされている交替制勤務,深夜勤務は,直接的に脳・心臓疾患の発症の大きな要因になるものではないとされ,交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内と評価される。 (エ) 脳・心臓疾患は,主に加齢や高血圧,飲酒,喫煙,高脂血症,肥満,糖尿病等のリスクファクターの関与が考えられることから,業務起因性の判断においては,上記リスクファクター及び基礎疾患の状態等を検討する必要があるが,前記(イ),(ウ)の要件に該当する場合には,明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情のない限り,業務起因性が認められる。 (4) 本件訴訟に至る経緯ア原告は,半田労働基準監督署長に対し,本件脳内出血に関する治療費及び障害について,労働者災害補償保険法による補償給付申請をなしたが,平成5年4月22日付け及び同年12月20日付けをもって,その給付をしない旨の処分がなされた(甲1・643頁以下)。 イ原告は,上記処分に対して審査請求,再審査請求をなしたが,それぞれ平成8年2月28日付け及び平成10年10月30日付けでいずれも棄却された。原告 い旨の処分がなされた(甲1・643頁以下)。 イ原告は,上記処分に対して審査請求,再審査請求をなしたが,それぞれ平成8年2月28日付け及び平成10年10月30日付けでいずれも棄却された。原告は,上記処分につき取消訴訟を提起せず,上記処分は確定した。 (5) 被告における災害補償規程の内容(甲37)被告における災害補償規程第1条は,「この規程は社員が業務上負傷し,または疾病にかかりあるいは死亡した場合,労働者災害補償保険法(以下「労災法」という)もしくはその他の法令に基づく補償給付とは別に,会社が行う災害補償について定める。」と規定し,同規程第5条は,「社員が労災法で認定された障害等級3級以上の障害を残し,その障害に起因して退職する場合は,重症障害見舞金として2,800万円を支給する。」と規定している。 2 争点本件においては,主位的請求につき,(1)原告の従事していた業務と本件脳内出血との間の因果関係の存否,(2)被告が原告の身体,健康を保護するために負う義務の内容及び同義務違反(債務不履行)の存否,(3)原告に生じた損害が主たる争点となっており,予備的請求につき,(4)被告は,原告に対し,被告の災害補償規程に基づく重症障害見舞金の支払義務を負うかが主たる争点となっている。 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(原告の従事していた業務と本件脳内出血との間の因果関係の存否)について(原告の主張)ア業務の過重性(ア) 恒常的な長時間労働a 被告における所定労働時間は,昼勤が午前8時より午後5時までの拘束9時間・実労働8時間,夜勤は午後10時より午前7時までの拘束9時間・実労働8時間であったが,被告では,深夜勤務を含む2組2交替勤務で24時間の連続操業をしており(被告従業員は,1週間ごとに昼勤,夜勤を 間・実労働8時間,夜勤は午後10時より午前7時までの拘束9時間・実労働8時間であったが,被告では,深夜勤務を含む2組2交替勤務で24時間の連続操業をしており(被告従業員は,1週間ごとに昼勤,夜勤を交代していた。),実際の勤務時間は,昼勤者は午前8時から午後8時まで(午後5時から午後8時までの残業を含む。),夜勤者は午後8時から翌日午前8時まで(午後8時から午後10時まで及び翌日午前7時から午前8時までの残業を含む。)であった。したがって,昼勤者も夜勤者も,少なくとも1日3時間の恒常的な時間外労働をしていた。 原告は,被告に入社以来,昼夜交替勤務に従事してきたところ,本件職場では,昼勤は午前7時から午後8時までの勤務となっており,毎日4時間の時間外労働が常態化していた上,朝の早出1時間(午前7時から午前8時まで)はサービス労働となっていた。また,夜勤は,上記のとおり,午後8時より午前8時までの勤務となり,毎日3時間の時間外労働が常態化していた。 b 上記のように長時間労働が日常化する中で,原告は,これよりもさらに長時間の労働に従事していた。すなわち,原告は,本件職場まで乗用車で約10分の至近距離に居住していたが,昼勤の場合,遅くとも午前5時30分ころ自宅を出発して,午前6時前に出社し(午前5時に出社することもあった。),帰宅するのは午後9時30分から午後10時30分ころの間であった。夜勤の場合には,午後7時30分ころ自宅を出て,翌日の午後零時30分ころに帰宅していた。 新認定基準においては,前記1(3)イ(ウ)bのとおり,発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合及び発症前2か月ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との因果関係が強いと判 におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合及び発症前2か月ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との因果関係が強いと判断され,発症前1か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連性は弱く,1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に強まるとされているが,実際には,原告の発症前6か月間の時間外労働時間は,別表1記載のとおりであり,時間外労働時間数は1か月当たり100時間をはるかに超えるものである。 c このような長時間労働は,後記(イ)の休日出勤と相まって,業務による疲労度を加速度的に高めるとともに,疲労を回復する休息時間を奪うこととなり,疲労を蓄積させた。 d なお,被告は,被告における勤務記録表を基に原告の時間外労働時間数を算出しているが,勤務記録表は,前記a記載の3時間の時間外労働すら正確に反映していないもので,また,設備負荷率(所定労働時間内の操業での生産量を100パーセントとして,当該月の生産量を百分率で表したもの。以下同じ。)の推移とも矛盾するものであり,勤務記録表を基に時間外労働時間数を算出するのは誤りである。 (イ) 休日出勤について原告は,毎週土曜日はほとんど出勤しており,休日出勤は毎月四,五日あった。そして,被告における休日出勤には,代休を取得するもの(代廻という。)と,代休を取得しないものがあったが,実際には,休日出勤のほとんどが代休を取得できないものであった。 なお,勤務記録表記載の休日出勤日数は,(ア)d記載のとおり,信用できない。 (ウ) 深夜交替勤務の有害性原告は,前記のとおり,1週間交代の 日出勤のほとんどが代休を取得できないものであった。 なお,勤務記録表記載の休日出勤日数は,(ア)d記載のとおり,信用できない。 (ウ) 深夜交替勤務の有害性原告は,前記のとおり,1週間交代の深夜勤務を含む長時間労働に従事していたものであるが,深夜勤務は,人間の身体活動が高揚する昼間に睡眠をとり,身体活動が鎮静化する夜間に働くという反生理的な労働である上,昼間の睡眠は眠りが浅く,夜勤勤務の疲労を回復することができず,疲労を蓄積させ,多くの疾病状態を生ずる原因となるものである。 特に,原告が従事していた昼夜交替勤務は,恒常的な時間外労働を前提として,2組で苛酷な深夜勤務に従事するもので,4組3交替(予備直有り),3組3交替(予備直なし)などの他の昼夜交替勤務体制と比べて深夜勤務に従事する頻度も高いものであった。 (エ) 仕掛業務の具体的内容と身体的・精神的ストレスa 仕掛業務の具体的内容(a) 本件職場ではトヨタ自動車株式会社のカンバン方式を取り入れている。 カンバン方式とは,極力,在庫を置かない方式であり(被告の場合は,1.5日分の在庫がある製品もあったが,1日分の在庫もない製品もあった。),ある製品の製造が必要とされると,その都度工場内の機械の型等を組み替え,注文された製品・部品を作るために型の手配,型の組付け,材料の手配等を要する。これが仕掛業務である。 (b) 仕掛業務は,業務の性質上,始業前から開始しなければならず,作業長は,作業開始に先立って各工程の在庫を確認した上,カンバンの数量に不足が生じないか確認作業をして,絶えず品目に不足がないか気を付けていなければならなかった。 b 仕掛業務の精神的ストレス前記の長時間労働による身体的ストレスに加え,仕掛業務は,ミスを犯せば生産に大きな影響を与えるものであ ,絶えず品目に不足がないか気を付けていなければならなかった。 b 仕掛業務の精神的ストレス前記の長時間労働による身体的ストレスに加え,仕掛業務は,ミスを犯せば生産に大きな影響を与えるものであり,原告に大きな精神的ストレスをもたらしたものである。とりわけ原告が担当していた主な製品(4品番)のうち「チビヨーク」と呼ばれる製品(正式名称は「ステアリングヨーク」である。以下「チビヨーク」という。)は月産70万個であり,納期の面で遅れが多発していた。 しかも,チビヨークの生産責任者は,工務課長であったが,現実には現場監督者が早出,残業等で,在庫調査,生産調整を行っていた。加えて,鍛造プレスとその附帯設備の故障が頻発していたことからしても,納期の遅れの多発は原告にとって大きな精神的なストレスとなっていたものと考えられる。 現に,原告が本件脳内出血を発症した翌日である平成元年5月6日,チビヨークが出荷予定であったところ,原告は,後述のPM活動に従事していた間も,自宅で「チビヨークがない,チビヨークがない。」とこぼしており,当時,かなりの精神的ストレスが生じていたものである。 被告では,前記のとおり恒常的に時間外労働が続いていたのであり,このような余裕のない生産体制のもとにおいて,原告は著しい精神的ストレスを受けてきたものである。 (オ) 品質管理の強化による労働負担a 被告では,昭和58年より全社的品質管理(TQC)の再導入が決定され,特に第1鍛造課においては,昭和61年の後半からデミング賞の受賞に向けて,製品の品質の向上,生産性の向上,原価の低減をねらいとして実施された。そのために原告の業務も多忙を極め,時間外労働,労働密度が増加する要因となっていた。 b そして,作業長は安全会議の資料,生産会議の資料等の文書を作成することが の低減をねらいとして実施された。そのために原告の業務も多忙を極め,時間外労働,労働密度が増加する要因となっていた。 b そして,作業長は安全会議の資料,生産会議の資料等の文書を作成することが多いが,これらの文書作成は休日出勤時や所定労働時間外に遂行せざるを得ない状況にあった。 c 平成元年に入り,被告では,品質管理の特別賞であるPM(正確には「TPM(TotalProductiveMaintenanceの略で,設備の維持管理に関する活動をいうものである。)」であるが,以下,「PM」という。)特別賞の受賞を目指す計画が打ち出された(以下,PM特別賞の受賞を目指す活動を「PM活動」という。)。これは,設備の故障をいかに少なくして生産のノルマを上げるかということで,一つのモデルラインを作って設備の不具合箇所をチェックして,それを改善しようとするものであるが,通常の日は生産を重視していて,改善作業の暇がないため休日にやらざるを得ないこととなっていた。原告が本件脳内出血を発症した平成元年5月5日も,PM活動に向けての準備のために休日出勤したものであった。 d 全社的品質管理(TQC)においては,人材育成・従業員教育が重視されているところ,昭和62年1月から平成元年4月までの間の原告が支給を受けた教育手当の金額は別表2記載のとおりである。 被告の教育手当支給水準によれば,教育手当には,時間給が支給される場合と一律300円が支給される場合とがある。原告に対する教育手当の内訳は不明で,教育時間を正確に算出することはできないものの,デミング賞の審査の直前である昭和62年5月ないし同年8月が徹夜勤務の繰り返しなど異常な事態であったことは,別表2記載の支給実績からしても明らかである。 e 上記のような本件職場における品質管理の運動は,原告の身体 前である昭和62年5月ないし同年8月が徹夜勤務の繰り返しなど異常な事態であったことは,別表2記載の支給実績からしても明らかである。 e 上記のような本件職場における品質管理の運動は,原告の身体的・精神的ストレスを高める大きな要因となっていた。 (カ) PM活動業務の内容等a 平成元年4月29日からは,被告のPM活動計画に基づき,社員は,通常の業務と異なるPM活動業務に従事することとなった。 原告は,同年4月29日から同年5月1日までは休日で,同月2日から同月5日までPM活動業務に従事することとなった。 b 就労時間平成元年5月2日から同月4日までの原告の就労時間は,いずれもおよそ14時間に及ぶ。 cPM活動業務の過重性原告が平成元年5月2日から同月5日まで従事したPM活動業務について,A課長(当時)は,原告の作業長としての日程的な切迫感の存在を述べ,また,B組長(当時)は,筋肉の張りなどの肉体的負担について述べている。 特に,原告が従事した作業内容のうち,後述の鉄板入れ替えのための鉄板の運搬・溶断,材木の運搬・切断作業は,血圧を急激に上昇させ,脳内出血発症の引きがねとなるものとして,注目されるべきである。 d 本件脳内出血発症当日の業務(a) 本件脳内出血発症当日である平成元年5月5日,原告は通常どおり遅くとも午前5時には出社した。 PM活動には日本プラントメンテナンス協会の指導員が指導に訪れ,これには被告の役員も同席する予定であったところ,出勤時,原告は「明日は社長巡視だから今晩は帰れないと思う。」と妻に話していた。このことからも,同日の業務内容が多く,多忙を極めていたことがうかがわれる。社長巡視については当時の原告の手帳にも記載されており,原告が社長巡視について神経を使っていたことは明 。」と妻に話していた。このことからも,同日の業務内容が多く,多忙を極めていたことがうかがわれる。社長巡視については当時の原告の手帳にも記載されており,原告が社長巡視について神経を使っていたことは明らかである。 (b) 発症当日従事した業務の内容等① 枕木の切断作業原告は,本件脳内出血発症当日,前日に引き続いて鉄板の溶接,切断及び枕木切断作業に従事した。 原告らがのこぎりで切断した材木は,米マツあるいはラワンであり,のこぎりによる切断が容易でなかったものである。その重量は,20ないし30キログラムに及ぶものであった。発症当日,原告はほとんど一人で作業しており,枕木切断作業も一人で行っていたものと考えられる。 のこぎりによる枕木切断作業は非常に強度の作業であり,血圧上昇をじゃっ起し,脳内出血を発症させる負荷となるものである。 ② また,本件脳内出血発症当日,原告は,枕木の運搬や鉄板のガス溶断,電気溶接といった作業にも従事したが,枕木運搬といった重量物運搬作業は血圧に影響を与えるものであり,ガス溶断,電気溶接など静的筋収縮を伴う作業も血圧を上昇させるものである。 ③ 本件脳内出血発症当日に行われた上記のような作業は,いずれも原告の高血圧症を増悪させ,脳内出血発症の誘因となったと考えるべきである。 イ過重負荷の判断基準について(ア) 原告は,本件訴訟提起前,本件脳内出血について労災申請をしているが,この労災認定手続において,業務起因性が否定されている。 労災認定手続においては,同種・同僚労働者等の平均人を基準として過重負荷の有無を判断している。しかし,過重負荷の有無を判断するに当たっては,平均人を基準とするのではなく,被災者本人にとって過重なものであるか否かを判断すべきである。 また,日常の業務 基準として過重負荷の有無を判断している。しかし,過重負荷の有無を判断するに当たっては,平均人を基準とするのではなく,被災者本人にとって過重なものであるか否かを判断すべきである。 また,日常の業務と比較して過重か否かが論じられることがあるが,本件においては,通常の日常業務自体が過重なものであるから,日常業務に比較して過重か否かを論ずべきではない。 (イ) 仮に,同僚との比較で過重負荷を論ずるとしても,原告の脳内出血発症直前である平成元年4月1日ないし同年5月5日までの原告の時間外労働時間は,反対番の作業長であるC(当時。以下「C作業長」という。)の時間外労働時間をはるかに上回り,過重なものであった。 また,仮に日常業務を基準とするとしても,被告も認めるとおり,原告が脳内出血を発症した直前である平成元年4月は設備負荷率が163パーセントの高負荷の状態であったことや,原告の部下であったB組長が,原告が倒れる直前の状態について,「イライラしている」,「疲れている」などと感じた旨述べていること,被告自身が「昭和63年半ば以降チビヨークの注文が増加し設備負荷率も高くなり,社内在庫を見ながら仕掛の優先順位を決めておりました。特に倒れる前月の4月は設備負荷率は163パーセントの高負荷の状態でした。このころイライラしている感じはあったかも知れません」と労働基準監督官に回答していることなどからすると,原告は,本件脳内出血の発症前は日常業務に比しても,身体的にも精神的にも過重な負担を負っていたことは明らかというべきである。 ウ過重労働と脳内出血との因果関係(ア) 高血圧症の推移と原告の治療経過a 原告は昭和54年4月1日に組長に任用されており,そのころから高血圧症を発症していた。被告における健康診断個人票の記録によれば,昭和56年5月 因果関係(ア) 高血圧症の推移と原告の治療経過a 原告は昭和54年4月1日に組長に任用されており,そのころから高血圧症を発症していた。被告における健康診断個人票の記録によれば,昭和56年5月22日から昭和63年10月25日までに行われた各検査における原告の血圧値の推移は,昭和62年5月26日実施の健康診断における拡張期血圧値を除き,別表3「収縮期血圧値」,「拡張期血圧値」各欄記載のとおりである(昭和62年5月26日実施の健康診断における拡張期血圧値は,125mmHgである。)。 b(a) 原告の血圧値からみる限り,原告は昭和54年ころより高血圧の要観察であったが,直ちに継続的に降圧剤を服用して治療を要する病状ではなかったものと推認される。高血圧が増悪した場合には,通常,腎臓,心臓等に動脈硬化の症状が現れるが,原告の定期健康診断の結果をみても,尿検査記録,心電図検査記録でも異常はなかった。 原告は昭和60年5月24日から同年7月31日までの間,F外科に通院し,降圧剤としてベンゾキシンの投与を受けているものの,昭和62年9月4日に原告が大同病院で受診した際の収縮期血圧値は160,拡張期血圧値は100であるが,降圧剤の投与は受けていない。同年9月11日に再度受診した際の収縮期血圧値は150,拡張期血圧値は94であったが,その際には,食事療法で1ないし2か月様子をみることとされた。すなわち,原告は高血圧症ではあったものの,直ちに降圧剤を服用して治療を要するような病状とは診断されていなかったのである。 (b) 昭和63年2月19日には,原告は胸部不快感を訴えて,大同病院を受診しているが,これは,当時の業務による過重な負担に起因するものと考えられる。 (c) 原告の高血圧症は,前記の長時間労働と深夜交替勤務による疲労の蓄積,カンバン 告は胸部不快感を訴えて,大同病院を受診しているが,これは,当時の業務による過重な負担に起因するものと考えられる。 (c) 原告の高血圧症は,前記の長時間労働と深夜交替勤務による疲労の蓄積,カンバン方式の生産体制の下での仕掛業務等による持続的な精神的緊張・ストレスにより発症,増悪したものである。 そして,前記のとおり,原告は,発症前6か月間において,100時間をはるかに超える時間外労働に従事し,また,人体に悪影響を及ぼす昼夜交替勤務に継続的に従事し,作業長としての責任からくる精神的ストレスを受けていたものである。そして,発症当日には,日常の業務とは異なるPM活動業務に従事していたものであるが,前記の枕木の運搬,切断,鉄板等の運搬,切断(ガス溶断),電気溶接等,血圧を上昇させる業務に従事した。これらのPM活動業務が,本件脳内出血発症の引き金となった可能性が大きいのである。 c 新認定基準の考え方に基づいて,原告が脳内出血を発症した日を起点として1か月ごとに計算した時間外労働時間数は,別表4記載のとおりであり,原告の時間外労働時間数は100時間をはるかに超えて,最も多いときは165時間に達している。新認定基準の80時間の2倍を超えるものである。しかも,原告は発症前6か月間にわたって時間外労働時間数100時間をはるかに超える長時間労働に6か月間連続して従事していたものであり,長期間にわたる疲労の蓄積は明らかである。 また,原告は,新認定基準において負荷要因として検討対象とされている拘束時間の長い勤務,交替勤務・深夜勤務,精神的緊張を伴う業務のいずれにも該当する業務に従事していたのであり,新認定基準に照らしても,業務と本件脳内出血との間には相当因果関係があるというべきである。 (被告の主張)ア本件職場の業務内容,人員配置,勤務形態 にも該当する業務に従事していたのであり,新認定基準に照らしても,業務と本件脳内出血との間には相当因果関係があるというべきである。 (被告の主張)ア本件職場の業務内容,人員配置,勤務形態等(ア) 本件職場は,トヨタ自動車株式会社向けの自動車部品(半製品)たる鍛造品の製造を主要業務とする職場であり,15ラインを有し,1日に100トン前後の製品を出荷していた。本件職場には安藤義一係長の下に二人の作業長(原告とC作業長)が配置され,その下に組長,班長,一般職員(班員)が配置されていた。 (イ) 作業長の担当業務内容は,①上記15ラインの作業の進行管理(「仕掛業務」と呼ばれている。),②部下の作業の安全管理,労務管理,③1日の生産部品数の確認及び実績記録,④部品の在庫管理,⑤係内の二つの組のなす業務についての指揮・監督,⑥その他作業長としての業務であった。作業長は,生産ラインについて製品製造業務に従事することはない。 組長の担当業務内容は,作業長の指示の下に組の業務を管理監督することであるが(日常の作業管理は組長の業務となっているのが実態であった。),作業長や班長不在のときは,それらの担当業務を代行していた。班長の担当業務内容は,組長の指示の下に班の業務を管理監督することであるが,班員不在のときはライン作業に就くことになっている。班員はラインにおいて製品の製造業務に専ら従事していた。 (ウ) 本件職場の勤務形態は,昼夜交替勤務制(2交替勤務で,昼勤と夜勤のサイクルは1週間)が採られており,原告の班が昼勤のときはC作業長の班は夜勤,原告の班が夜勤のときはC作業長の班は昼勤であった。 (エ) 本件職場の所定労働時間は,①昭和63年12月31日までは,昼勤が午前8時30分始業,午後5時終業(休憩1時間),夜勤が午後10時始業,翌日午前6時 夜勤のときはC作業長の班は昼勤であった。 (エ) 本件職場の所定労働時間は,①昭和63年12月31日までは,昼勤が午前8時30分始業,午後5時終業(休憩1時間),夜勤が午後10時始業,翌日午前6時30分終業(休憩1時間)となっており,②昭和64年1月1日から平成元年2月12日までは,昼勤が午前8時始業,午後5時終業(休憩1時間),夜勤が午後9時始業,翌日午前6時終業(休憩1時間)となっており,③平成元年2月13日以降は,昼勤が午前8時始業,午後5時終業(休憩1時間),夜勤が午後10時始業,翌日午前7時終業(休憩1時間)となっていた。 (オ) 本件職場の所定休日は,被告の定めた年間休日表により定められており,昭和63年12月までは不完全ながら原則的に土曜日,日曜日を休日とする週休二日制が採られていたが,昭和64年以降は完全週休二日制が採られ,その他5月,8月及び年末年始には連続休日があった。 (カ) 本件職場においては,所定始業時刻前,所定終業時刻後の時間外労働を行う場合には,ラインごとの生産状況により組長以下の班員については作業長が許可をして行うことになっており,それらの管理手続については,時間外労働終了後に各班員が組長に時間外労働時間の申告をなし,組長がこの申告時間を残業管理表に記載し,これが事務所に提出され,コンピュータで入力されることになっていた。 休日勤務については,工務課が生産等の状況に応じて休日出勤の必要性の有無を判断し,休日出勤を指示することになっていた。そして,休日勤務時の勤務時間は,前記所定労働時間のみであり,その時間を超えて勤務するということはなかった。 また,時間外労働や休日勤務の製品製造作業の仕掛や作業指示はあらかじめなされているため,班員がライン作業に従事していても,特段の事情がない限り,作業長が本件職場においてラ するということはなかった。 また,時間外労働や休日勤務の製品製造作業の仕掛や作業指示はあらかじめなされているため,班員がライン作業に従事していても,特段の事情がない限り,作業長が本件職場においてライン作業の指揮監督その他をしなければならないというものではなかった。しかし,万一に備えて作業長は職場にとどまることが多かった。夜勤のときの早出残業(始業時刻前に出勤して就業すること)については,作業長は,組長から依頼がある場合にのみ早出をしていた。休日勤務についても,組長からの要請がない限り,作業長が出勤することはなかった。 イ作業長の担当業務の詳細について(ア) 作業長は,前記ア(イ)記載のとおりの業務を担当しているが,一勤務における業務の流れは,概略次のとおりである。 a 昼勤の場合,所定始業時刻30分前ころまでに職場に到着し,所定始業時刻までの間に在庫部品状況を確認したりするが(これは業務命令に基づくものではない。),その他の業務に従事するわけではなく,コーヒーを飲んだり同僚と雑談したりする。始業時刻以後において,昼勤の場合は反対番の作業長からその日の作業等につき申し送りを受ける。その後午前11時ころまでに全ラインの生産状況を確認し,反対番の使用する加工素材の手配,金型の手配を終え,午後2時ないし午後3時ころまではライントラブルの有無の確認を含め安全点検をし,その後反対番の仕掛作業をなし,各ラインの生産管理板の確認,反対番の部品生産状況の管理板への記載,反対番への申し送り事項の記載等をなして業務を終了する。所定終業時刻後の勤務については,作業長は万一の事態に備えて職場に滞留しているにすぎず,現場事務所で必要書類を作成したり,その他雑務に従事する程度である。 b 夜勤の場合,所定始業時刻30分前ころまでに職場に到着し,所定始業時刻から 業長は万一の事態に備えて職場に滞留しているにすぎず,現場事務所で必要書類を作成したり,その他雑務に従事する程度である。 b 夜勤の場合,所定始業時刻30分前ころまでに職場に到着し,所定始業時刻から業務を開始する。作業の流れは昼勤の場合と同様であるが,申し送りは,書面で受けることになる。そして,昼勤の作業長に口頭で業務の申し送りをして業務を終了する。 時間外労働については,昼勤の場合と同様である。 (イ)a 作業長の担当職務のうち最も重要なものは,前記仕掛業務であるが,仕掛業務とは,毎月末に開催される営業課・工務部・工機部・鍛造生産部門による生産会議で決定された翌月の月産計画に基づき日々の部品生産計画を立てる業務をいう。すなわち,トヨタカンバン生産方式によって,1.5日分程度の在庫を持ちながら注文に応じた部品を生産するための部品生産計画を立てるための作業(これを「段取り」という。具体的には,出荷・プレス・熱処理・素材調達・金型調達時間等各部門の所要見込み時間を計算し生産計画を立て,これをカンバンに表示する作業)のことであり,仕掛は作業長から組長に指示され,またカンバンは各ラインに表示されて,その表示されたカンバンに従い部品生産がなされる。 仕掛業務を更に詳細に説明すると,ラインごとにカンバン掛けがあって,製造品別にカンバンを掛ける仕組みとなっており,出荷係が製品を出荷すると鍛造カンバンが返却され,カンバン掛けに掛けられる。作業長は,鍛造カンバンが所定の位置(緑色で表示)に戻っているかを確認し,次の製品を製造するための仕掛時間の12時間前までに,信号カンバンに貼り付けてある型信号カンバンの発信欄にその仕掛予定時間を記載し,これを工機工場に持参する。鍛造カンバンが黄色で表示された位置まで戻っていることを確認したときは,作業長ではなく,組長又は班 カンバンに貼り付けてある型信号カンバンの発信欄にその仕掛予定時間を記載し,これを工機工場に持参する。鍛造カンバンが黄色で表示された位置まで戻っていることを確認したときは,作業長ではなく,組長又は班長が信号カンバンに貼り付けてある切断信号カンバン(材料の切断を指示するもの)の納期欄に仕掛予定時間を記載してあるものを外し,仕掛予定時間の時間前までに準備工場に持参する。これらカンバンの指示に従い,製品の金型や材料が本件職場に搬入され,この搬入を組長又は班長が確認し,型打作業の準備を終えると,信号カンバンに型信号カンバンと切断信号カンバンを貼り付ける。 なお,上記緑色及び黄色の表示は,ライントラブルが生じることを予定して,工務課がその位置を決めているものである。 このように,仕掛業務は,定型作業であり,よほどの事情がない限り,臨時注文が突然入り,従前の仕掛を変更するなどして,臨時注文部品を生産するなどということはなく,少なくとも原告が作業長となった以降においてはこのようなことはなかった。 b 本件職場の勤務形態は前記のとおり2交替制勤務であったが,仕掛業務については,反対番(昼勤では夜勤,夜勤では昼勤)の仕掛作業をし(この所要時間は約三,四時間である。),これを反対番に申し送ることとなっていた。なお,本件職場では,夜勤・昼勤で生産量は原則同じであるから,他方の番のみが仕掛が常に多いということはなかった。 作業長は,反対番の作業長が作成し申し送ってきた仕掛内容に従って部品の生産の指示を組長以下の者になすのであるが,作業長が,作業に先立ちカンバンを見て在庫を確認したり,カンバンの数量に不足がないかの確認作業をし,またカンバンに従って生産がなされているか確認する。 ウ仕掛業務の過重性について(ア) 仕掛業務は,いわゆる肉体作業では バンを見て在庫を確認したり,カンバンの数量に不足がないかの確認作業をし,またカンバンに従って生産がなされているか確認する。 ウ仕掛業務の過重性について(ア) 仕掛業務は,いわゆる肉体作業ではないから,身体的ストレスが生じる業務ではない。確かに仕掛業務はそれを経験しない者が行うについては,慣れるまでに時間がかかり,ある程度の精神的負担があるとは考えられるが,その業務に慣れれば特段の精神的負担がかかる業務とはいい得ない。本件職場においては,作業長が不在のときなどは,班長又は組長が仕掛業務を行うことになっているので,班長,組長を経験した者であれば作業長に就任したときには仕掛業務の内容は十分に理解しているのである。原告は,班長,組長を経て,昭和59年5月1日に作業長に任命されており,本件脳内出血発症時には既に作業長として5年の経験を有していたのであるから,当時仕掛業務には精通していたもので,精神的負荷が原告にかかったなどということは考えられない。 なお,原告は,昭和62年9月4日,高血圧症治療のために大同病院で受診しているが,その際に精神的緊張での胸部の不快感を訴えたものの,それは労作とは無関係であると医師に告知していることからも判明するように,原告は担当業務遂行による精神的負担を感じていなかったのである。 (イ) 原告は,チビヨークの納期の遅れが原告に精神的ストレスをもたらしたと主張するが,昭和60年当時に一時そのような状態にあったことはあるものの,本件脳内出血発症当時において,原告主張のような事実はなかった。 また,設備にトラブルが生じた場合,短時間のトラブルはすべて組長が対応し,他方長時間のトラブルについては,作業長が修理部門の整備課に連絡をしたり生産調整について対応するが,このようなトラブルにより一時的に設備の稼動が停止 じた場合,短時間のトラブルはすべて組長が対応し,他方長時間のトラブルについては,作業長が修理部門の整備課に連絡をしたり生産調整について対応するが,このようなトラブルにより一時的に設備の稼動が停止しても,1.5日分の在庫があるし,ラインが停止した場合は作業長は工務課の指示に従って仕掛業務をしていたのであり,自ら仕掛の変更を判断しなければならないとか,生産について作業長が全責任を負っているなどというようなものではなかった。 (ウ) 以上の点からすると,仕掛業務が原告に身体的・精神的ストレスをもたらしたなどということはなかったことが明らかである。 エ原告の勤務状況について(ア) 原告は,昼勤の場合には所定始業時刻30分前ころに職場で着替え,午後8時ころまでには仕事を終えていた。また,夜勤の場合には,早出残業をしない限り,所定始業時刻ころ出勤し,翌日の昼勤開始時までには仕事を終えていた。 (イ) 勤務記録表(甲1・307頁以下)及び本件脳内出血発症前6か月間の勤務状況一覧表(甲1・190頁)によると,原告の時間外労働時間数は別表5「昼勤時間外労働時間数」欄及び「夜勤時間外労働時間数」欄記載のとおりである。 また,昼勤の際の始業前における在庫確認の時間を労働時間と評価したとしても,在庫確認は長く見積もっても1時間を超えることはなく,これを時間外労働時間数に加算した場合,同表「合計時間数」欄記載のとおりとなる。 (ウ) 原告とC作業長の時間外労働時間数を比較すると,原告の方が多いが,作業長は時間外労働中にこれといった作業をするわけではないから,それをもって原告の方が多忙であったということにはならない。かえって,C作業長の時間外労働時間数が少ないことは,時間外の生産業務に作業長の存在が必ずしも必要でないことを示すものである。 (エ) 原告とC作業長 原告の方が多忙であったということにはならない。かえって,C作業長の時間外労働時間数が少ないことは,時間外の生産業務に作業長の存在が必ずしも必要でないことを示すものである。 (エ) 原告とC作業長の昭和63年11月から平成元年4月までの休日勤務日数は,別表6記載のとおりであり,両者の休日出勤数は極めて少なく,休日は十分確保されていたのである。このことからも作業長の勤務が原告主張のような繁忙ではなかったことは明らかである。 (オ) 原告は,同人が家を出発した時間及び帰宅した時間を根拠にして時間外労働時間数を算出しているが,客観性に欠けるものである上,出退勤途中に寄り道等をしている可能性もあり,また,現に原告は早朝被告に到着しても駐車場で寝ていたという実態もあることから,これらを根拠に時間外労働時間数を算出することはできないというべきである。 また,原告の主張する時間外労働時間数を前提とすると,原告は,反対番の所定労働時間内においても作業に就いていることになるが,このようなことはあり得ない。仮に在庫確認のために外回りをしていたとしても,在庫確認に2時間も要することはない。このことからも,原告主張の時間外労働時間数が誤りであるといえる。 (カ) なお,設備負荷率について述べると,設備負荷率が高いほど,本件職場は繁忙ということになる。昭和63年10月以降平成元年4月までの設備負荷率は130パーセントないし160パーセント程度であったが,この設備負荷率は本件職場の全ラインの設備負荷率ではなく,チビヨーク生産ラインたる3ラインの設備負荷率であり,本件職場全体が当時繁忙であったとはいえない。また,設備負荷率が高いということは,製品の生産個数が多くなるため当該生産ラインの稼動時間が長時間になるということであり,当該生産ライン作業に従事している組長以下の 体が当時繁忙であったとはいえない。また,設備負荷率が高いということは,製品の生産個数が多くなるため当該生産ラインの稼動時間が長時間になるということであり,当該生産ライン作業に従事している組長以下の従業員が多忙となるが,仕掛業務の業務量が多くなるということはなく,作業長の仕掛業務までが多忙となるものではない。 オ PM活動業務について(ア) 被告は平成元年4月29日から同年5月5日までの連続休暇を利用してPM活動を実施した。 本件職場では,モデルケースとして15ライン中の1台(21-Dライン)を選定し,設備の5S(整理,整とん,清掃,清潔,しつけ),故障の低減,生産性の向上等を目指して実施された。 具体的な活動内容は,プレス機の外観を良くするための配管の直線・直角化,地下ピット内での設備点検や昇降を容易にするための地下床面の清掃,地下へ落下する油類の飛散防止といの製作と取付け,くみ上げポンプの取付け,分割敷鉄板への取り替え(鉄板の取外し及びその足場(枕木)の取付け,取外し)等であった。 (イ) 原告は,枕木の切断作業が本件脳内出血発症の直接の原因であると主張する。 枕木は,鉄板の下に敷かれていたもので,縦10センチメートル,横25センチメートル,長さ170センチメートル,重さ20ないし30キログラムのラワン又は米マツで,合計40本あり,これを一度取り外して点検を行い,34本は再利用するために元に戻し,再利用できない6本については廃棄するために市販ののこぎりで約半分に切断したものである。 枕木の切断作業は,一人で行ったとしても全体で1時間30分程度でできる作業であるが,これを三,四人で切断した。 枕木の切断作業は,平成元年5月4日のみに行われ,同月5日には行われていない。 原告は,枕木切断作業によって気分が悪くなったとか,疲れたなどと同僚に でできる作業であるが,これを三,四人で切断した。 枕木の切断作業は,平成元年5月4日のみに行われ,同月5日には行われていない。 原告は,枕木切断作業によって気分が悪くなったとか,疲れたなどと同僚に話したことも,そのような態度を示したこともなかった。 (ウ) 本件脳内出血発症当日である平成元年5月5日,原告は午前6時30分ころに出勤し(推定である。),工場入口に掛ける横断幕の枠の電気溶接補修作業を午前9時ころまで行った。朝の体操を他の従業員と行った後,正午ころまで,鉄板を必要な寸法に切断したり,鉄板のすき間を溶接する作業に従事した。昼食後,同様の作業に従事したが,午後4時ころから20分程度休憩し,他の従業員とジュースを飲んだ。この休憩時には原告に特に変わった様子はなかった。 その後再び作業について鉄板を切断するための線を引いていたが,午後4時45分ころ,鉄板を切断しているような格好でしゃがみ込んでいるところを発見されたのである。 (エ) PM活動業務は,通常の業務とは異なる内容のものではあったが,重量物はフォークリフトやクレーン等を使用して作業したもので,特に厳しい肉体労働を必要とするものではなかった。 カ TQC活動について原告は,TQC活動(デミング賞審査のための準備活動)に従事したことが本件脳内出血発症の要因の一つであると主張するが,デミング賞審査準備期間中に原告の業務量が増えたという事実はない上,デミング賞審査準備期間は,本件脳内出血発症の2年も前のことであり,この期間から原告の高血圧症が悪化した事実もうかがわれない以上,TQC活動が本件脳内出血の要因であるとの原告の主張は理由がない。 キ原告が従事した業務と本件脳内出血との間の因果関係(ア) 前記のとおり,作業長の業務は,肉体労働ではない。作業指示や監督業務については, 本件脳内出血の要因であるとの原告の主張は理由がない。 キ原告が従事した業務と本件脳内出血との間の因果関係(ア) 前記のとおり,作業長の業務は,肉体労働ではない。作業指示や監督業務については,ライン作業の日常の指揮監督は組長が行っているものである。さらに,時間外労働時については,これといった作業をするわけではなく,事務室で実績表を作成する程度であり,喫煙したりジュースを飲みながらすることもできた。 そして,作業長の中心的業務である仕掛業務は,確かに手順等を誤れば生産に支障を来すものであるが,その作業自体は定型的な作業であることにかんがみると,原告が従事していた業務は,精神的・肉体的負担の少ない業務であったというべきである。 (イ) 原告の時間外労働時間数は月50時間を超えるものではあるが,そもそも夜勤の場合の早出残業は別として,所定労働時間後の勤務については,作業長が職場にとどまる業務上の必要性はない上,事務室で実績表を作成する程度であるから,それを時間外労働と評価するとしても,その労働密度は極めて薄いものである。 そして,夜勤の場合の早出残業は,組長らが出勤を要請したときのみなされるもので,その頻度は少なく,作業内容も補助的作業であって,肉体的・精神的に過重となるものではない。 また,休日が確保されていたことも前記のとおりである。 (ウ) 原告は,昼夜交替勤務に就いていたが,決まったローテーション(1週間ごと)で勤務をし,不規則な勤務はなかった。 (エ)a そうすると,原告が従事していた業務は,過重・過密なものではなく,それが,社会通念上,脳内出血を発症させる一定以上の危険性を有するものとは到底認められないから,本件脳内出血との間に相当因果関係はない。 原告が従事した業務と本件脳内出血との間に相当因果関係がないことは,新認定基準が,「 出血を発症させる一定以上の危険性を有するものとは到底認められないから,本件脳内出血との間に相当因果関係はない。 原告が従事した業務と本件脳内出血との間に相当因果関係がないことは,新認定基準が,「休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示す」とし,また,新認定基準に規定された時間外労働に就労したと認められる場合であっても,「労働密度が特に低いと認められるものについては,直ちに業務と発症との関連性が強いと評価することは適切ではない」としていること,昼夜交替勤務についても,「日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内と評価される」としていることなどに照らしても明らかである。 b 本件脳内出血は,原告が高血圧症であることを知りながら治療を継続せず,喫煙,飲酒等を継続したことにより,自然的経過の中で高血圧症が増悪して発症したものというべきである。 (2) 争点(2)(被告が原告の身体,健康を保護するために負う義務の内容及び同義務違反(債務不履行)の存否)について(原告の主張)ア被告の安全保護義務ないし安全配慮義務被告は,労働契約上の信義則に基づき,労働者の不注意をも予測して不可抗力以外の万全の措置を講じて労働者の生命,身体,健康を保護し(安全保護義務),又は,雇用契約上の信義則に基づく付随義務として,労働者の生命,身体,健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている。その内容としては,労働時間,休憩時間,職務の配置等の適正な労働条件を確保し,基礎疾病を有する労働者については,健康状態を管理して病状の増悪の防止に努めるとともに,現に当該労働者が健康を害し,あるいは害するおそれがあるときは,速やかに当該労働者をその 正な労働条件を確保し,基礎疾病を有する労働者については,健康状態を管理して病状の増悪の防止に努めるとともに,現に当該労働者が健康を害し,あるいは害するおそれがあるときは,速やかに当該労働者をその業務から離脱させ休養させるか,他の業務に配転させるなどの措置をとる契約上の義務を負っているものである。 イ被告の上記義務違反労働者の健康診断個人票は,職場における労働者の健康管理の基本となるものであるが,原告の健康診断個人票の血圧値等については,昭和62年5月26日実施の健康診断における拡張期血圧値を除き別表3記載のとおりである(昭和62年5月26日実施の健康診断における拡張期血圧値は,125mmHgである。)。原告は,昭和54年ころより血圧の「要観察」とされ,その後長期間にわたって高血圧の状態が継続しており,被告は,健康診断個人票の記載から,原告の高血圧症が増悪していたことを十分に承知していた。高血圧症は,規則正しい生活をし,睡眠や休養を十分にとり,精神的な緊張・ストレスを避けなければならないのであるから,被告は,原告に対し,原告の申出の有無や療養態度にかかわりなく,①労働時間を所定内に抑え,②深夜労働,休日労働をさせず,③配置転換を含めた業務内容の削減及び変更を行い精神的負担を除去し,④適切な人員配置や納期調整を行い原告が過労状態に陥ることを避けるなどして,原告の健康状態の増悪を防止すべき義務を負っていたものである。 特に,高血圧の治療中にもかかわらず昭和61年10月29日の健康診断における収縮期血圧値は182,拡張期血圧値は110となっており,原告の高血圧症は急激に増悪しているのであるから,被告は,遅くとも昭和61年10月29日の健康診断の結果が判明した後においては,上記の配転等の措置をとって原告の労働負担を軽減し,高血圧 なっており,原告の高血圧症は急激に増悪しているのであるから,被告は,遅くとも昭和61年10月29日の健康診断の結果が判明した後においては,上記の配転等の措置をとって原告の労働負担を軽減し,高血圧症の増悪を防止する義務があったものというべきである。 ところが,被告は,その後も原告に対して従前どおりの過重な業務に従事させただけでなく,PM活動業務を命じ,これらにより,原告の高血圧症を自然的経過を超えて増悪させ,本件脳内出血を発症させたものである。 ウ被告の救護措置の遅れについて(ア) 原告は,平成元年5月5日午後4時45分ころ,被告の22-B南建屋出入口プラクターに背を向けて座り込んでいるところを,A課長に発見された。 原告は,A課長に発見されたとき,「目つきがドロンとしており」,「アーとかウーといったはっきりしない返事で言葉になっていない」状態であり,救急車により専門病院に搬送することが相当であると,一般人でも明らかに判断できるような状態であった。ところが,A課長は,原告を乗用車で病院へ運ぶように指示した。 原告は,同日午後5時50分ころ,被告社員のDとEの両名の同乗する乗用車の助手席に乗せられ,自宅に搬送された。 なお,原告の自宅と被告とは車で7分前後の距離であるにもかかわらず,原告が倒れているところを発見され,自宅に搬送されるまで1時間以上も要している。 (イ) 原告の妻は直ちに東海産業医療団中央病院に電話したが,事実上診療を拒否され,必死に他の医療機関に電話をかけたものの通じず,やむなくDの提案により原告をF外科へ搬送することとなった。 F外科のF医師は,瞳孔反応の検査を行ったのみで,原告は救急車で東海市民病院に転送されることとなった。救急車は同日午後6時33分に東海市民病院に到着したが,同病院には脳内出血の手 することとなった。 F外科のF医師は,瞳孔反応の検査を行ったのみで,原告は救急車で東海市民病院に転送されることとなった。救急車は同日午後6時33分に東海市民病院に到着したが,同病院には脳内出血の手術の設備がなく,原告は更に半田市立半田病院へ転送されることとなった。そして,救急車が半田市立半田病院に到着したのは同日午後7時44分であり,結局,原告が本件脳内出血を発症してから約3時間が経過していた。 (ウ) 東海産業医療団中央病院は,そもそも新日鐵株式会社,被告等が出資して設立された病院であり,仮に原告が倒れた直後,被告が直ちに救急車及び入院の手配をしておれば,診療行為を事実上拒否されることもなく,原告は本件脳内出血発症後早期に同病院で適切な治療を受け,本件脳内出血による後遺症も軽度なものにとどまった可能性が十分存在する。 また,仮に被告が救急車の出動要請をしていたならば,救急隊員により原告の症状が観察され,搬送先の病院に連絡するなどして,より適切な医療機関が選択され,発症後30分後にはその適切な医療機関に搬送されたものと考えられる。ところが,被告は,救急車の出動要請という通常とるべき救護措置をとらず,乗用車で原告を搬送し,しかも,保険証をとるために自宅に立ち寄ったために,原告は発症後約2時間後にようやく検査治療を受けることができたのである。 (エ) 高血圧性脳出血は,血腫の大きさが予後を大きく左右するところ,出血は二,三時間から数時間で停止するといわれている。 このことは,発症後できるだけ早期に血圧を下げ,血腫の増大や再出血を防ぐことが予後を大きく左右するということになる。 被告の救護措置の遅れにより,原告の本件脳内出血は増悪し,それにより後遺障害の高度化をもたらされたものといえる。 (オ) なお,原告は,救護措置の遅れを別個の安全配 を大きく左右するということになる。 被告の救護措置の遅れにより,原告の本件脳内出血は増悪し,それにより後遺障害の高度化をもたらされたものといえる。 (オ) なお,原告は,救護措置の遅れを別個の安全配慮義務違反であると主張するものではなく,救護措置の遅れにより原告の損害が拡大したことを主張するものである。 (被告の主張)ア本件においては,前記のとおり,原告の業務遂行と本件脳内出血発症との間に因果関係がないのであるから,そもそも被告の安全配慮義務が問題となる余地はない。 イ安全配慮義務について被告が労働者に対して,雇用契約の付随的義務として,労働者が被告の指示の下に労務を提供する過程において労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負担していること自体は被告も争うものではないが,原告が安全保護義務として主張するような,労働者の不注意をも予測して不可抗力以外の万全の措置を講じて労働者の生命,身体,健康を保護し,又は労働者の生命,身体,健康を危険から保護するよう配慮する義務まで負うものではない。被告が通常一般的に予測される労働者の生命及び身体等に対する危険に対する配慮をすれば,被告に帰責性はないというべきである。 ウ被告による従業員の健康管理体制及び原告の健康管理(ア) 被告は,安全衛生規程第40条の定めに従い,毎年5月及び10月に定期健康診断を実施している。この健康診断は,東海産業医療団中央病院に委嘱して実施しており,検査項目は,身長・体重・聴力・肺部・血圧・尿等であった。この検査結果は,被告人事部経由で1部が本人に,他の1部は被告の診療所で保管されることとされていた。被告の診療所は検査結果を確認し,再検査が必要とされる項目のある者については,所属長を通じて書面で再検査呼出をし,これに応じない者に 1部が本人に,他の1部は被告の診療所で保管されることとされていた。被告の診療所は検査結果を確認し,再検査が必要とされる項目のある者については,所属長を通じて書面で再検査呼出をし,これに応じない者については直接電話で再検査呼出を督促していた。しかし,再度の呼出にも応じない者については,特段の事情がない限り,健康管理は本来個人の責任においてなすものとの見地から更なる呼出等はしていなかった。 (イ) 昭和56年5月から昭和63年10月までの原告の定期健康診断の結果のうち,血圧測定値と再検査等に関する事項は別表3各欄記載のとおりである。これによれば,経年的に原告の高血圧症が増悪したとはいえない。 また,原告の高血圧症のレベルは,WHOの分類による軽症高血圧・境界域・中等症高血圧の間にあり,重症高血圧までには至っていなかったということができる。 (ウ) 原告は,高血圧症につき,昭和60年5月から同年7月にかけて,F外科にて頭部アレルギー湿しんの治療とともに9日間,昭和62年9月に大同病院にて2日間,昭和63年2月,3月同病院にて狭心症疑を含めて3日間受診している。大同病院においては,昭和62年9月11日の受診の際,食事療法で一,二か月様子をみるとされ,翌12日栄養指導を受けているが,医師が勤務変更や就業上の制限等について指導した形跡はない。そして,原告が,昭和63年3月1日に降圧剤の投与を受けた以降,高血圧症の治療を受けたことは全くうかがわれない。 また,原告は,職場や家庭において降圧剤を服用していたことはなく,大同病院で高血圧症の治療を受けた後でも1日40本ほど喫煙をしていたし,宴会などでは飲酒量も多かった。それでも,原告に,職場で疲労その他高血圧症の症状をうかがわせる様子はみられなかった。 エ被告に安全配慮義務ないし安全保護義務違反のない 40本ほど喫煙をしていたし,宴会などでは飲酒量も多かった。それでも,原告に,職場で疲労その他高血圧症の症状をうかがわせる様子はみられなかった。 エ被告に安全配慮義務ないし安全保護義務違反のないこと(ア)a 安全配慮義務とは,「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随的義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」であるから,雇用契約上,使用者が安全配慮義務を負っているとしても,労働者もまた使用者に対して,雇用契約上常に雇用契約で定められた内容の労務を提供できるよう,自ら健康を保持する義務,具体的にいえば,健康診断で異常を指摘されたような場合には,病院に通院するなどしてそれを治療する等の義務を負っているといわなくてはならないから,労働者が自らの健康管理を放棄しているような場合には,安全配慮義務に関する法理はそもそも適用されないというべきである。 そうでないとしても,使用者は労働者に対して,治療を受けることを指示できても,治療を受けること自体を強制することは困難であるから,疾病り患等健康管理に関しては,使用者が労働者の健康管理に関する指示をすれば,特段の事情が認められない限り,信義則上も安全配慮義務を履行したというべきである。 b 被告は,原告に対し定期健康診断をなし,血圧の値に問題があるとして,診療所を通じて再検査を促したにもかかわらず,原告はこれに応じず,前記のとおり,病院での高血圧症の治療もおろそかにして,高血圧症を治療しようとする態度がみられなかった。 c 上記のような事情に照らすと,本件脳内出血は,原告が健康管理を放棄したことにより生じたものであるというべきであり,被告は,原告に対して再検査を要請したことをもって,安全配慮義務を履行したと評価できる。 のような事情に照らすと,本件脳内出血は,原告が健康管理を放棄したことにより生じたものであるというべきであり,被告は,原告に対して再検査を要請したことをもって,安全配慮義務を履行したと評価できる。 原告は,被告が原告の血圧値の推移を把握していた以上,配転等の就業上の措置をとるべきであったと主張するが,就業上の措置をとるか否かの判断をするためには,医師からの指示が必須であるところ,原告は再検査にも応じようとしなかったのであり,このような者に対して被告が就業上の措置をとる義務はないというべきである。 オ原告は,被告の救護措置の遅れにより,原告の損害が拡大したと主張する。しかし,この原告の主張は,以下のとおり,全く理由がない。 (ア) 原告を半田市立半田病院に搬送するまでの経緯a 原告は,平成元年5月5日午後4時45分ころ,意識もうろう状態で倒れているところをA課長に発見されたが,A課長は,原告が上記の状態に至った原因が分からなかったが,自己疾患と直感し,ともかく原告を病院に搬送しなければならないと判断して,A課長のそばに居合わせた同僚のEに対し原告をF外科にEの車で搬送するよう命じた。A課長が原告を救急車によらずにEの車でF外科に搬送するよう命じた理由は,①当日は祭日でありしかも午後5時ころであったことから一般病院は診察をしていないので救急指定病院に搬送すべきと考え,東海市の救急指定病院であるF外科とG病院のうち原告の自宅に近いF外科が原告,家族らにとっても何かと便利であろうということで同病院を選択したこと,②被告には社内専用の救急車があったが,その救急車で原告を病院に搬送するよりも,Eの車で搬送した方が早いととっさに判断したこと(一般の救急車を呼ぶことについても同様の判断をしたこと)にあった。 bA課長より原告をF外科に あったが,その救急車で原告を病院に搬送するよりも,Eの車で搬送した方が早いととっさに判断したこと(一般の救急車を呼ぶことについても同様の判断をしたこと)にあった。 bA課長より原告をF外科に搬送することを命じられたEは,着替えをした上で原告をEの車に運び込み,同日午後5時10分ころ被告からF外科に向かったが,Eは同人の判断で原告が受診する際には保険証が必要ではないかと考え,原告宅に立ち寄った(原告宅に到着したのは同日午後5時30分ころである。)。原告宅に居合わせた原告の妻は,原告の状態を見て各医療機関に問い合わせたが,結局は原告をF外科に搬送することとし,原告は同日午後6時5分ころF外科に搬送された。原告は,同病院では視診程度の診察を受けた後,救急車で同日午後6時21分ころ同病院を出発し,同日午後6時33分ころ東海市民病院に搬送され,CT検査を受けた後,同日午後7時24分ころ救急車にて同病院を出発して,同日午後7時44分ころ半田市立半田病院に搬送され,同病院にて脳内出血に対する治療を受けたものである。 cA課長が医学的知識を有しないことを前提とすると,上記aのA課長の判断は適切であったということができ,被告に救護措置の遅れはない。 (イ) 原告の搬送と損害拡大の因果関係a 原告の受傷時頭部CT検査によると,左被殻部に直径4ないし5センチメートルの血腫が認められているが,これが原告が発見されて以降に増大したものか否かは明らかではなく,仮に増大したとしても,その増大の程度や,どの程度の大きさの血腫なら原告主張の右半身麻痺,失語症とならないかもまた明らかにされていない。この点は原告に主張立証責任があるところ,原告に生じた血腫の大きさ等に対応した救護措置の遅れと損害拡大の因果関係について何ら具体的な主張がなされていない以上,原告の いかもまた明らかにされていない。この点は原告に主張立証責任があるところ,原告に生じた血腫の大きさ等に対応した救護措置の遅れと損害拡大の因果関係について何ら具体的な主張がなされていない以上,原告の主張に理由はない。 b また,原告には,本件脳内出血を発症した時点で意識障害がみられたことからすると,本件脳内出血発症時に多量の出血があり,それにより大きな血腫が生じたと考えられる。そうすると,原告に生じた上肢機能の高度麻痺,右下肢機能に著明な障害,著しい言語障害は,原告が発症した時点で生じた障害ということができる。 c したがって,被告が原告を救急車で搬送しなかったことと原告主張の同人の後遺症との間に因果関係はない。 (3) 争点(3)(原告に生じた損害)について(原告の主張)ア原告は,被告の前記安全保護義務ないし安全配慮義務違反により,次のとおり,合計1億4845万8922円の損害を被った。 (ア) 逸失利益 7979万0892円原告は,昭和12年7月8日生まれの男性であり,本件脳内出血発症当時51歳であった。原告は,前記の後遺障害により,その労働能力の100パーセントを喪失したところ,原告の昭和63年の年間収入は839万9452円であるので,就労可能年数16年として,ホフマン式により中間利息を控除して(新ホフマン係数11.536),後遺障害による逸失利益の現価を求めると9689万6631円となる。 原告は,被告より,本件脳内出血発症後平成5年7月までの間,給与,賞与及び傷病手当金を,またH健康保険組合より,平成元年7月より平成4年1月までの間傷病手当金を受領しており,その合計金額は1710万5739円であるから,これを上記の逸失利益額から控除すると,原告の逸失利益は,7979万0892円となる。 (イ) 付添介護料 年1月までの間傷病手当金を受領しており,その合計金額は1710万5739円であるから,これを上記の逸失利益額から控除すると,原告の逸失利益は,7979万0892円となる。 (イ) 付添介護料 3066万8030円原告は,本件脳内出血の後遺障害のため終生他人の介護を必要とするが,その障害の程度から1日の介護料は5000円が相当である。 したがって,本件脳内出血発症時の平均余命27.44年として年5分の割合による中間利息をホフマン式により控除して将来の介護料の現価を求めると,3066万8030円となる。 (ウ) 慰謝料 3000万円前記後遺障害による原告の精神的苦痛は計り知れず,その慰謝料は3000万円を下らない。 (エ) 弁護士費用 800万円イ被告の過失相殺の主張は,争う。 (被告の主張)仮に被告の責任が認められるとしても,本件脳内出血の発症は,原告が高血圧症の治療を怠ったこと,高血圧症に有害な喫煙等を継続したことに起因するところが極めて大きいから,損害額の算定に当たっては大幅な過失相殺がなされるべきである。 (4) 争点(4)(被告は,原告に対し,被告の災害補償規程に基づく重症障害見舞金の支払義務を負うか)について(原告の主張)ア前記(1)(原告の主張)のとおり,原告は,被告において過重な業務に従事した結果,原告の基礎疾病である高血圧症を増悪し,本件脳内出血の発症に至り,右半身麻痺及び言語障害の後遺障害が残った。 イ被告は,平成5年7月22日付け内容証明郵便により,休職期間満了により同月15日付けで解雇する旨,原告に意思表示をした。 ウ(ア) 前記1(5)のとおり,被告の災害補償規程第5条によれば,「社員が労災法で認定された障害補償等級3級以上の障害を残し,その障害に起因して退職する場合は,重症障 旨,原告に意思表示をした。 ウ(ア) 前記1(5)のとおり,被告の災害補償規程第5条によれば,「社員が労災法で認定された障害補償等級3級以上の障害を残し,その障害に起因して退職する場合は,重症障害見舞金として2,800万円を支給する。」と規定している。 (イ) 原告の前記後遺障害が,労働者災害補償保険法の障害等級表3級以上に該当することは明らかであり,被告は原告に対して重症障害見舞金として2800万円を支払う義務がある。 (ウ) 原告は,平成4年以来,被告に対して災害補償規程の適用を求めてきたのであり,原告の後遺障害が業務に起因するものである以上,被告は遅くとも原告を解雇した日の翌日である平成5年7月16日以降,商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。 (エ) よって,仮に原告の主位的請求が認められないとしても,原告は被告に対して,災害補償規程に基づく重症障害見舞金として2800万円及びこれに対する原告の解雇の翌日である平成5年7月16日から支払済みに至るまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (オ) 被告は,災害補償規程第5条は労働基準監督署長より労災と認定された場合に限って適用されるものであると主張するが,前記の規定の体裁からしても,裁判所において業務に起因する負傷又は疾病にり患したと判断された場合を排除する規定とは解されない。上記規程第5条は,労働者災害補償保険法の障害等級3級以上の障害を残し退職に至ったとの司法判断が下された場合においても,適用され,同条の重度障害見舞金は支払われるべきである。 このように被告の災害補償規程を解釈しないと,本件において,原告の従事していた業務と本件脳内出血との間に因果関係を認められた上で被告の責任が否定された場合には,労働基準監督署において労災認定を受けていないために 告の災害補償規程を解釈しないと,本件において,原告の従事していた業務と本件脳内出血との間に因果関係を認められた上で被告の責任が否定された場合には,労働基準監督署において労災認定を受けていないために災害補償規程に基づく補償は全く受けられないという不合理な結果を招くことになる。 (被告の主張)そもそも原告の本件脳内出血及びその後の後遺障害は業務に起因するものではない上,被告の災害補償規程は,労働基準監督署長に労災と認定された場合にその上積み補償を行う趣旨で制定されたものであり,同規程第5条の文言からしても,労災認定がなされた場合に限って適用されるものであることは明らかである。そして,現に被告はそのように同条を運用してきたものである。 原告のなした労働者災害補償保険法に基づく給付申請は,半田労働基準監督署長により不支給決定がされ,この決定は確定しているのであるから,同条を原告に適用する余地はない。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる事実前記争いのない事実等及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件職場における勤務体制,就業時間等ア原告が本件脳内出血を発症した当時,本件職場における所定労働時間は,昼勤が午前8時から午後5時まで,夜勤が午後10時から翌日午前7時までであったが,被告では休日を除いて製造ラインを24時間フル稼動させており,現実には,昼勤のときには午前7時には出勤して午後8時まで就労し,夜勤のときには午後8時までには出勤して翌日午前8時まで就労するというのが実態であり,また,昼勤のときの早出1時間はサービス残業となっており,残業時間は1日3時間として計算されていた(甲1・252頁,同320頁,同321頁,乙2の2)。 ただし,上記の残業時間は,従業員全員が同じ量の残業をしているというも 1時間はサービス残業となっており,残業時間は1日3時間として計算されていた(甲1・252頁,同320頁,同321頁,乙2の2)。 ただし,上記の残業時間は,従業員全員が同じ量の残業をしているというものではなく,担当するラインの生産状況によって,ラインごとに残業を行っているものであった(証人C)。なお,作業長がラインに就いて製造業務に従事することはなく,上記夜勤の場合の早出残業については,必ずしも作業長が常に早出しているわけではなかった(証人C)。 原告が本件脳内出血を発症した当時,原告とC作業長は,本件職場の作業長を務めており(原告は,昭和59年5月に作業長に昇格した。),原告の班が昼勤のときはC作業長の班が夜勤,原告の班が夜勤のときはC作業長の班が昼勤というように,両者はいわゆる反対番の関係にあり,また,1週間ごとに昼勤と夜勤を交代しており,それぞれ同程度の仕掛業務に従事していた(甲1・251頁,同306頁,同476頁)。 原告及びC作業長の下にはそれぞれ組長が1名ないし2名おり,B組長は,原告が本件脳内出血を発症した当時,組長として原告の下に所属していた。組長は,組内の勤怠の管理,示された生産計画に沿った作業の進行管理及び生産業務に従事していた(甲1・253頁,同266頁)。また,生産作業に従事する従業員のほかに,生産ラインの品番替えを担当する段替班があった(同号証・266頁)。 イ原告が本件脳内出血を発症した当時,本件職場においては週休二日制が採られていたが,実際は,土曜日には出勤することが多かった。 一方,作業長は,休日出勤をした場合でも,ライン作業に就くことはほとんどなく,また,材料や型,人員等については,事前に準備しておくのが通常であるため,作業長が出勤する必要性はなかったが,安全面や製品の出来高が心配で 休日出勤をした場合でも,ライン作業に就くことはほとんどなく,また,材料や型,人員等については,事前に準備しておくのが通常であるため,作業長が出勤する必要性はなかったが,安全面や製品の出来高が心配で出勤することもあったほか,毎月各1回行われる安全会議の資料や生産会議の資料等の文書作成のために休日出勤することがあった(甲1・255頁,同262頁,乙2の2)。 ウ被告では,タイムカードは廃止されており,勤務時間の管理は各現場の組長が行っていた。作業長も早出,残業等があった場合は,その時間について組長に報告していた(甲1・261頁)。 (2) 原告の担当職務内容等ア被告では,在庫を0.8日分ないし1.5日分と極力少なくして,生産の合理性を高めるトヨタ自動車株式会社のカンバン方式を採用しており,いわゆるカンバンによって生産調整を行っていたが,このカンバンの表示を見て,在庫に不足が生じないか否か確認し,仕掛表を作成して仕掛順序の検討をするのが作業長の業務の主たるものであった(甲1・389頁,証人C)。 イ仕掛業務の具体的内容(乙5ないし13,証人C)(ア) 仕掛業務とは,毎月末に開催される被告の営業部,工務課,工機課及び鍛造生産部門による生産会議で決定された生産数に基づいて,日々の生産計画を立てる業務である。 (イ) 具体的には,製品製造準備をするために材料調達,金型調達時間等の所要見込み時間を,一定のルールに従いカンバンに表示する作業であり,仕掛は作業長から組長に指示され,カンバンは各ラインに表示されて,その表示されたカンバンに従い部品生産がなされることとなる。 (ウ) カンバン方式による生産の流れは以下のようなものである。 a 本件職場のある被告鍛造部では,主としてトヨタ自動車株式会社向けの自動車部品である鍛造品を製造しており,このう なされることとなる。 (ウ) カンバン方式による生産の流れは以下のようなものである。 a 本件職場のある被告鍛造部では,主としてトヨタ自動車株式会社向けの自動車部品である鍛造品を製造しており,このうち本件職場では,プロペラシャフトやステアリング用のチビヨークその他の部品を,所定の寸法,重量に切断された金属材料を部品ごとに決められた金型をセットした各種のプレス機で型打ち(鍛造)する方式により生産していたが,これら生産に必要な金型の作成作業や金属材料の切断作業は,それぞれ鍛造部内にある別の工機工場や準備工場で行われており,上記部品の生産状況に合わせて,最適の時点でこれら工場に上記各作業を依頼するために,次のような各種のカンバンが使用されていた。 b すなわち,本件職場で使用されているカンバンには,信号カンバン(カンバン掛けに常設されている金属製のカンバンで,緑色のテープでその常設位置が定まっている。),型信号カンバン(工機工場に金型の作成,準備を依頼するためのカンバンで,マグネット式で信号カンバンに貼り付けられるようになっている。),切断信号カンバン(準備工場に製品の材料切断を依頼するためのカンバンで,マグネット式で信号カンバンに貼り付けられるようになっている。),鍛造カンバン(製造された製品の入った出荷のためのパレットに掛けるカンバン)の4種類があり,①まず,ある製品が製造されると,その製品のパレットに対応する鍛造カンバンが掛けられ,出荷が終了すると,鍛造カンバンが返却されて,カンバン掛けの奥から順番に掛けられる。②そして,順次鍛造カンバンの返却が重なって,信号カンバンのある位置まできたら,作業長は,金型の作成依頼のため,信号カンバンに貼り付けてある型信号カンバンを外し,発信欄に仕掛予定時刻を記入して,同時刻の12時間前に工機工場へ持 却が重なって,信号カンバンのある位置まできたら,作業長は,金型の作成依頼のため,信号カンバンに貼り付けてある型信号カンバンを外し,発信欄に仕掛予定時刻を記入して,同時刻の12時間前に工機工場へ持っていく。③また,上記①のとおり返却された鍛造カンバンが黄色のテープの位置(上記緑色のテープよりも更に手前の位置にある。)まで来たら,組長又は班長は,金属材料の切断依頼のため,作業長が納期欄に仕掛予定時刻を記入して信号カンバンに貼り付けた切断信号カンバンを外して,同時刻の8時間前に準備工場に持っていく。④上記の型信号カンバン,切断信号カンバンの表示に従って,金型や材料が搬入されると,型信号カンバン及び切断信号カンバンは返却され,製造のための準備が完了すると,組長又は班長は,型信号カンバンを信号カンバンに貼り付けることとなる。このようなサイクルで,カンバンに従った生産がされる。 (エ) 上記の各種カンバンは,工務課で作成されるもので,文字もほとんど同課で記入しており,前記(ウ)bの緑色と黄色のテープの位置も,品番ごとに出荷量,製造量や製造に要する時間を勘案して同課が計算して決定している。 これに対して,作業長が仕掛に当たって実際にする作業の内容は,型信号カンバンの発信欄の仕掛予定時刻及び切断信号カンバンの納期欄の仕掛予定時刻の記入と,鍛造カンバンがどこまで掛かっているかの確認が主たるものである。 ウ原告の時間外労働時間等について(ア) 被告は,労働保険審査会会長に対する平成10年3月13日付け「林光雄氏の調査回答について」と題する書面で,次のとおり回答している(乙2の1・2)。 a 原告は,昼勤の場合,次に生産する品番(部品)の優先順位を決めるために,在庫の確認(15分から20分程度)や前日夜の納入遅れの確認等(15分から20分程度) 回答している(乙2の1・2)。 a 原告は,昼勤の場合,次に生産する品番(部品)の優先順位を決めるために,在庫の確認(15分から20分程度)や前日夜の納入遅れの確認等(15分から20分程度)する必要があるが,これらの確認や反対番(前勤務)の引継ぎについて早く済ませるために,原告の意思で勤務時間前に出勤していたものと思われる。他の作業長も,40分ないし50分は早く出勤することがあった。 夜勤の場合についても,同様の理由で原告の意思で出勤する場合がある。 b 突発的に設備故障が発生したときは,原告は,保全担当部署への連絡,調整や品質のトラブルの対応(手直し処置の人員配置をし,時には原告も手伝っていた。)や作業指示等をする。 c 昼勤での各ラインの出来高が不調で出荷に支障を来す場合,異常措置として仕掛の変更がなされることがあり,これには30分程度を要する。 (イ) 原告の残業時間は,1日平均2ないし3時間程度であり,昼勤の場合は,これに加えて,始業時間よりも1時間程度早く出勤するが,これはいわゆるサービス労働であり,割増賃金の支払対象としての時間外労働には含まれていないものであった。そして,この早出をしてからの1時間の間に,反対番の人からの申し送りを受けたり,情報交換をしたりするが,飽くまでも自主的な出勤であることから,1時間ずっと申し送りをしたりしているわけではなく,食堂でコーヒーやジュースを飲んだり,雑談をしたりしていた(甲1・252頁,同260頁以下,同276頁)。 (ウ) 夜勤の場合に早出をすることもあったが,この場合は賃金計算上も時間外労働時間として扱われ,上記(イ)のような自由な時間はなかった(甲1・261頁)。 (エ) なお,前記(イ)認定の時間外労働時間数は,労働基準監督署労働事務官がC作業長から聴取した内容 上も時間外労働時間として扱われ,上記(イ)のような自由な時間はなかった(甲1・261頁)。 (エ) なお,前記(イ)認定の時間外労働時間数は,労働基準監督署労働事務官がC作業長から聴取した内容であるが,C作業長が残業の状況について概括的に述べたものであって,その時期も不特定なものであるから,これをそのまま原告の時間外労働時間数の認定の基礎とすることはできない。 そこで,本件脳内出血発症前6か月間の原告の具体的な時間外労働時間数については,後記2(1)で検討することとする。 (3) 本件脳内出血発症当時の生産状況等ア昭和63年11月から平成元年7月までのチビヨークの生産ライン設備負荷率は,昭和63年11月が141パーセント,同年12月が142パーセント,平成元年1月が140パーセント,同年2月が134パーセント,同年3月が128パーセント,同年4月が163パーセント,同年5月が147パーセント,同年6月が146パーセント,同年7月が145パーセントであり,全般的にチビヨークが不足していた(甲1・379頁,同389頁,証人A)。 イ設備負荷率が145パーセントの場合にラインに就いて生産業務に従事する者の就業時間の目安としては,毎日2.5時間の残業,月3回の臨時出勤を要するものであり,上記の設備負荷率からみて,本件脳内出血発症当時,納期の面で遅れが多発していたものと考えられる(同号証同頁)。 ウ被告においては,生産計画の責任者は工務課長であり,チビヨーク不足があった場合,工務課長と生産課長及び関係部署との調整が行われる。ただし,現実には,現場監督者が早出,残業等で在庫調整,生産調整を行っていた(同号証同頁)。 (4) PM活動業務の概要ア PM活動は,「未然の点検により設備を健全な状態に維持する」という趣旨・目的でなさ には,現場監督者が早出,残業等で在庫調整,生産調整を行っていた(同号証同頁)。 (4) PM活動業務の概要ア PM活動は,「未然の点検により設備を健全な状態に維持する」という趣旨・目的でなされる活動であり,一つのモデルラインを作って設備不具合箇所をチェックし,それを改善しようとするもので,これについて大学教授や研究機関等を招いて診断をしてもらうというものであった。診断の際には,指導員のほか,被告役員が同席するが,これらの者に随行して説明をするのは課長,係長であった(甲1・263頁)。なお,この診断がなされるのは,平成元年が初めての年であった(甲1・278頁)。 平成元年5月の連休明けに上記PM活動の診断が予定されており,連休の前半(同年4月29日及び同月30日)はC作業長が,後半(同年5月2日から同月5日まで)は原告がそれぞれ出勤した(甲1・279頁以下,476頁)。 なお,PM活動業務に関して,作業長に対して特に報告が求められるなどということはなく,技術員等が指導の際の資料作成に当たった。(甲1・248頁以下,同257頁,同545頁)イ前記モデルラインとして21Dラインが対象とされ,①古い塗装の除去と再塗装の実施,②配管(エアー,油)の直線・直角化,③地下への昇降階段の取付け,④地下床面の油・スラジの除去と周囲の清掃,⑤地下へ落下する油類の飛散防止といの作成・取付け,⑥地下油溜槽の取付けとくみ上げポンプの取付け,⑦地上敷鉄板の取り外しとその足場の取付け,取り外し等が行われたが,原告は,上記④,⑤,⑦にかかわるプレス機周辺の整備作業を担当していた(甲1・262頁,同545頁)。具体的には,原告はピット上の鉄板(七,八枚)をすべて新しいものに入れ替え,また,鉄板の下に敷いてある枕木を切断するなどの作業に従事した(甲1・280頁) 当していた(甲1・262頁,同545頁)。具体的には,原告はピット上の鉄板(七,八枚)をすべて新しいものに入れ替え,また,鉄板の下に敷いてある枕木を切断するなどの作業に従事した(甲1・280頁)。 (5) 原告が本件脳内出血発症までに従事したPM活動業務の内容等ア平成元年5月2日には,原告は,午前8時から午後5時まで(途中1時間の休憩有り),足場組み作業及びこれに必要な鉄板切断作業,枕木の移動作業に従事した(甲1・274頁,同546頁)。 イ平成元年5月3日には,午前8時から午後5時まで(途中1時間の休憩有り),原告は,前日に引き続きピット内の足場組み作業及び鉄板切断作業に従事し,また,油類飛散防止樋の取付け作業,ピット内の清掃に従事した(甲1・274頁,同546頁)。 ウ本件脳内出血発症前日である平成元年5月4日には,午前8時から午後5時まで(途中1時間の休憩有り),原告は,プレス周りの清掃,枕木の切断作業,鉄板のガス溶断作業及び鉄板の入替え作業に従事した。鉄板はフォークリフトで運搬し,枕木は小さいものは一人で,大きいものは二人で運搬した(甲1・274頁以下,同469頁,同546頁)。原告がこの日に切断した枕木は,幅25センチメートル程度,高さが10センチメートルほどで,長さは,長いものは1メートル70センチほど,短いものは70センチほどであり,重さは20キログラムから30キログラムのものであり,切断した本数は全部で6本で,切断箇所は合計6か所であった(甲1・468頁)。 エ原告は,本件脳内出血発症当日である平成元年5月5日午前6時30分ころに出勤し,他の従業員と共に体操をし,午前8時ころから午前9時ころまで工場入口でシャッターの下に垂れ幕用の枠を電気溶接した。 同日午前9時ころから正午ころまで,ピット上のプレス機の周りにふ 30分ころに出勤し,他の従業員と共に体操をし,午前8時ころから午前9時ころまで工場入口でシャッターの下に垂れ幕用の枠を電気溶接した。 同日午前9時ころから正午ころまで,ピット上のプレス機の周りにふたをするため,鉄板を切断,溶接する作業に従事し,昼食後,同様の作業に従事した(甲1・272頁以下,同469頁,同546頁)。その後,午後4時ころから,20分間ほどジュースを飲むなどして休憩したが,その際には原告に変わった様子は見られず,休憩後再び同じ作業に従事した(甲1・269頁)。 なお,当日,原告は,鉄板の下に敷く枕木をのこぎりで数本切断したが(甲1・273頁),上記のとおり午後4時からの休憩中に特に変わった様子はなかったこと及び後記オの原告が発見された状況からすると,原告は,上記休憩後,鉄板を切断する作業に従事している際に本件脳内出血を発症したものと推認され,枕木の切断作業は上記休憩をとる前に行われたものと認められる。 オ原告は,その後,後記(6)アのとおり,午後4時45分ころ,鉄板を切断している格好でしゃがみ込んでいるところを発見されたが,B組長は,原告が本件脳内出血を発症した後も,その日出勤していた他の従業員(七,八名)と共に作業を続け,そのほとんどは午後6時に作業を終了して帰った。また,上記従業員のうち1名は午後7時まで,B組長は午後7時30分ころまで残り,PM活動業務を仕上げて帰った(甲1・281頁)。 (6) 原告が発見されたときの状況及び搬送の状況ア平成元年5月5日午後4時45分ころ,A課長は,PM活動業務の進ちょく状況を確認するために見回りをしていたところ,本件職場南西出入口付近で鉄板を切断している格好でしゃがみ込んでいる原告を見掛けたので,「おーい,どうした」と原告に声を掛けた。原告は,A課長の方を向いたが,目 確認するために見回りをしていたところ,本件職場南西出入口付近で鉄板を切断している格好でしゃがみ込んでいる原告を見掛けたので,「おーい,どうした」と原告に声を掛けた。原告は,A課長の方を向いたが,目つきがドロンとしており,「アー」とか「ウー」といったはっきりしない返事で言葉になっていない状況であった。A課長は,原告の様子がおかしいと判断し,近くにいた作業員に,着替えをして早く原告を自動車で東海市の指定救急病院であるF外科に運ぶよう指示した(甲1・246頁以下,同537頁,証人A)。このとき,他の従業員で,原告の様子がおかしいなどと気が付いた者は特にいなかった(甲1・250頁)。 イ原告は,同日午後5時10分ころに自動車に乗せられて被告を出発したが,原告を自動車で搬送した同僚のEとDは,保険証が必要と考え,同日午後5時30分ないし40分ころ,原告を原告宅へ搬送した。原告宅においては,原告の妻が中央病院その他の医療機関に連絡を取ったが,結局F外科に搬送することとなり,原告は午後6時5分にF外科へ搬送された(甲1・621頁)。 ウ F外科に搬送された原告は,具体的な治療を受けることなく,同病院から東海市民病院に搬送された(甲1・626頁)。F外科には同日午後6時17分に救急車が到着し,午後6時33分に東海市民病院に到着した(甲1・305頁)。 エ原告は,東海市民病院においてCT検査を受けたが,東海市民病院には手術設備がなかったため,更に東海市民病院から半田市立半田病院に搬送された。東海市民病院には同日午後7時18分に救急車が到着し,午後7時44分に半田市立半田病院に到着した(甲1・296頁,同304頁)。 オ原告が上記のとおり転送されている間に脳内の血腫が増大したか否かは不明である(甲8)。 (7) 原告の基礎疾病等ア原告の被告 に半田市立半田病院に到着した(甲1・296頁,同304頁)。 オ原告が上記のとおり転送されている間に脳内の血腫が増大したか否かは不明である(甲8)。 (7) 原告の基礎疾病等ア原告の被告における健康診断の際の血圧値の推移及び再検査に関する事項は,別表3記載のとおりである(乙3の1・2)。また,就業上の注意事項として,昭和54年ころから,血圧につき要観察とされている。 被告では,健康診断の結果,再検査を要すると判断された従業員に対して,再検査の案内(甲1・541頁)を交付して再検査の受検を要請し,要請に応じない場合は,更に被告診療所の看護婦が電話で再検査受検を要請していた。それでも要請に応じない場合は,再度電話による受検要請をしていたが,これに応じない者については,受検を放棄したものと考えていた(証人A)。そして,別表3の「再検査等に関する事項」欄記載のとおり,原告は,初回の健康診断には応じるものの,再検査を要する旨の案内に対して,他院で治療中でもないのに再検査を受検しないことがほとんどであった(甲1・537頁)。 イ原告は,昭和62年9月4日,大同病院にて受診し,高血圧症と診断されて,その後栄養指導を受けた。また,昭和63年2月19日には,胸部不快感を訴え(ただし,労作とは関係ないとのことであった。甲1・617頁,甲10),同病院で狭心症疑と診断された。同年3月1日には,同病院で血圧降下剤であるレニベースの投与を受けたが,その後,高血圧症に関して治療を受けた形跡はない(甲10,弁論の全趣旨)。 ウ原告は,自宅ではたばこを吸わなかったが,職場においては,原告が本件脳内出血を発症する1年ほど前から,継続して1日一箱(20本)ほどのたばこを吸っていた。また,自宅では毎日ウィスキーとビールを飲んでいた(甲1・258頁,証 わなかったが,職場においては,原告が本件脳内出血を発症する1年ほど前から,継続して1日一箱(20本)ほどのたばこを吸っていた。また,自宅では毎日ウィスキーとビールを飲んでいた(甲1・258頁,証人C,証人I)。 2 争点について(1) 争点(1)(原告の従事していた業務と本件脳内出血との間の因果関係の存否)についてア相当因果関係の判断基準について(ア) 新認定基準は,脳・心臓疾患について業務上外の判断を統一的,迅速,公平になすために判断基準を定めた行政通達であるが,脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会の報告(甲39の1)を踏まえて,現段階における産業・労働の実態や医学的知見に基づいて解明された範囲を集約した基準であるということができ,平成13年12月に発せられた比較的新しいものであることも考慮すると,新認定基準で挙げられている負荷要因等の事項は,業務と脳内出血の間の相当因果関係の有無を判断するに当たっては,十分参考となるものと認めることができる。 (イ) 一方,新認定基準は,業務の過重性の判断につき,同僚労働者や同種労働者との比較をいうが,全く同じ条件での労働に従事したとしても,個々人の体格や体質,耐久力等により,脳・心臓疾患を発症する場合も発症しない場合もあると考えられるから,高血圧症の労働者が脳内出血を発症するに至った場合であっても,当該労働者が当該業務に従事することが許容されていなかったなどの特段の事情がない限り,業務が過重か否かは,当該労働者にとって過重であるか否かにより判断されるべきであり,同僚労働者等との比較によりこれを判断するのは相当でないというべきである。 (ウ) そして,本件において,原告は,昭和54年ころから高血圧症で要観察とされているものの,原告が作業長としての業務に従事することが許容されていなかっ を判断するのは相当でないというべきである。 (ウ) そして,本件において,原告は,昭和54年ころから高血圧症で要観察とされているものの,原告が作業長としての業務に従事することが許容されていなかったなどという事情は認められない。 したがって,本件においても,新認定基準に定める負荷要因等の事項を中心に原告が従事した業務の実態を検討した上,当該業務が原告にとって過重なものであることから本件脳内出血を発症したと認められれば,それをもって相当因果関係があると判断すべきである。具体的には,原告が従事した業務が,原告の既存疾病である高血圧症を自然的経過を超えて増悪させるほどの過重性を有するか否か,その過重な業務に就いたことによって現に高血圧症が増悪し,発症に至ったと認められるか否か,という点から相当因果関係の存否を判断することとなる。 イ本件脳内出血発症前6か月間の原告の時間外労働時間数について(ア) 原告は,恒常的な長時間労働に従事したことにより,原告の高血圧症が増悪し,本件脳内出血発症に至ったと主張する。 そして,原告が恒常的に長時間労働に従事していた根拠として,原告の妻が作成した勤務時間の記録(甲9の一部)を挙げる。 しかしながら,同記録に記載された時間は,原告の出社時間,帰宅時間についての原告の妻の記憶を前提に,原告の労働時間数を推定したものであって,客観的な根拠に欠けるものというべきところ,上記記録を前記1(1)ア認定の本件職場における勤務体制に当てはめると,原告は,反対番(原告が業務に従事すべき時間帯の前後に作業しているC作業長の班)の勤務時間中に業務を開始し,あるいは終了していることになるが,前記1(2)ア,同イ認定の事実からすると,作業長の担当業務として,反対番の勤務時間内にまで食い込んで業務に従事しなければならないよう )の勤務時間中に業務を開始し,あるいは終了していることになるが,前記1(2)ア,同イ認定の事実からすると,作業長の担当業務として,反対番の勤務時間内にまで食い込んで業務に従事しなければならないような性質のものがあるとは認められず,客観的事実に反するものというほかない。 さらに,原告の妻は,労働基準監督署において,原告のみが仕掛業務に従事していたとか,原告とC作業長を比較すると原告の方が仕掛業務の量が多かったなどと証言しているが,原告と同作業長はいずれも仕掛業務に従事しており,両者が一週間ごとに昼勤と夜勤を交替するサイクルで勤務していた以上,原告とC作業長の仕掛業務の量が異なるなどということは考え難いことからすると,原告の妻は,原告の仕事の内容や量について必ずしも正確に把握しているわけではないと考えることができる。 (イ) 本来,勤務時間等の把握は,できる限り客観的な資料に基づいてなされるべきであるところ,原告は,被告における設備負荷率の推移を基にして原告の時間外労働時間数を推定すべきであると主張する。 しかし,設備負荷率は,要するに,所定労働時間内の生産量を100パーセントとして,実際の生産量を月ごとに百分率で表したものであるから,ラインが稼働した時間数を推定する要素とはなるが,前記1(1)アのとおり,実際にライン作業に就かない原告の時間外労働時間数を推定する根拠とするのは困難である。原告が,作業長として,ラインの残業時間中も待機していた可能性は否定できないが,原告の業務の中心的なものは前記仕掛業務であり,いわば生産計画を立てる作業であるから,ラインが長時間稼動すれば,直ちに,これに比例して仕掛業務の業務量が増大するなどという関係にあるとは認められない。 なお,設備負荷率に関して,被告は,半田労働基準監督署に対し,設備負荷率145パ ら,ラインが長時間稼動すれば,直ちに,これに比例して仕掛業務の業務量が増大するなどという関係にあるとは認められない。 なお,設備負荷率に関して,被告は,半田労働基準監督署に対し,設備負荷率145パーセントの場合には,1日2.5時間の残業及び月3回の臨時出勤が必要である旨報告しているが(甲1・379頁),これは,当該ラインで製造業務に従事している従業員の残業時間,休日出勤に関するものというべきであり,現実に,原告が上記のとおりの時間外労働,休日出勤をすることを要したものとは認められない。 (ウ) 一方,被告には,タイムカードは存在しないものの,以下のとおり,勤務記録表(甲1・307頁ないし319頁)によってある程度の時間外労働時間数を把握することが可能である。 確かに,この勤務記録表の記載は,例えば,①昭和63年11月21日分の記録を見ると,3時間以上の時間外労働をした者が一人もいないこととなっているが(甲1・307頁,同314頁),これは前記認定の被告の操業時間と矛盾するものであり,勤務記録表が,時間外労働の実態を正確に反映していないとの疑いがある。また,②昼勤の場合に,サービス残業1時間が存在することは前記認定のとおりであるが,この点は勤務記録表に正確に反映されていないものと考えられる。 ただ,勤務記録表(甲1・307頁ないし319頁)を詳細に検討すると,3時間以上の時間外労働をした者が一人もいない日は,概して休日の翌日に集中しており,このことは,前日が休日であるために反対番から引き続いて業務を行うという体制になく,したがって24時間の稼動を前提とした引継ぎの必要がないためと容易に推測され,上記①の点については一応合理的な説明が可能である。 (エ) そうすると,勤務記録表がサービス残業時間等を正確に反映していない以上,原告の の稼動を前提とした引継ぎの必要がないためと容易に推測され,上記①の点については一応合理的な説明が可能である。 (エ) そうすると,勤務記録表がサービス残業時間等を正確に反映していない以上,原告の時間外労働時間数を正確に算定することは困難であるものの,前記勤務記録表の記載を基礎として,反映されていないサービス残業時間等を加算していけば,原告の時間外労働時間数の目安として,実態に即した算定が可能であるといえる。 a まず,原告の時間外労働時間数の目安を算定するに当たり,昼勤の際の時間外労働時間数については,サービス残業1時間(ただし,昼勤の際の早出時間になされる在庫の確認等の作業は,前記1(2)ウ(ア)a認定の被告の回答内容からすると,30分ないし40分程度で終了するものであると認められる。)を加えることとする。 b 次に,反対番との引継ぎに要する時間について,昼勤開始前(夜勤終了前)は,上記1時間のサービス残業の時間中に行われることは前記1(2)ウ(イ)認定のとおりであるが,昼勤終了時(夜勤開始前)の引継ぎが行われる時間帯は必ずしも明確ではなく,勤務記録表に正確に反映されているとも認め難い。しかし,いずれにしても反対番の業務時間にわたっていると考えられることから,原告が夜勤の開始前に引継ぎを行っていたと仮定して,反対番との引継ぎのための時間として,夜勤1日当たり30分(昼勤開始前(夜勤終了前)の引継ぎは,上記aの時間的関係からすると,30分を超えることはないと認められるから,昼勤終了時(夜勤開始前)の引継ぎにも,同程度の時間を要するものと考えることができる。)を加えることとする。 c このように,原告の勤務記録表上の時間外労働時間数につき,昼勤の場合には各1時間,夜勤の場合には各30分を加えることとして概算すれば,原告の時間外労働時間 ことができる。)を加えることとする。 c このように,原告の勤務記録表上の時間外労働時間数につき,昼勤の場合には各1時間,夜勤の場合には各30分を加えることとして概算すれば,原告の時間外労働時間数がこれを更に上回ることはないと考えられる。 d また,原告は,休日出勤について,勤務記録表の記載は正確ではなく,実際には毎週土曜日は出勤していたと主張するが,作業長は,休日出勤した場合において生産業務に従事するわけではないから,設備負荷率を基準にして原告の休日出勤日数を算出することは妥当ではないし,また,現実に生産業務に携わっているB組長が,労働基準監督署において「毎週1日臨出している状況」と述べていることを,これに携わっていない原告にそのまま当てはめることもできない。そして,安全会議,生産会議等の資料を作成する必要があるために休日出勤することがあることは,C作業長が労働基準監督署において述べているところであるが,同会議は月1回程度であるというのであり,その資料作成のために,原告が主張するように,毎週1日もの割合で休日出勤したとは考え難い。 したがって,原告の休日出勤日数及びその労働時間数については,勤務記録表の記載によって認定すべきであり,これによれば,原告は,1週間に一,二日の休日が確保されていたということができる。 e 以上を前提に,原告の本件脳内出血発症前6か月間の各月の時間外労働時間数の目安を算出すると,別表7のとおりとなる(甲1・425頁参照)。 ウ昼夜交替勤務について原告は,長期間にわたって昼夜交替勤務に従事したことにより,疲労,ストレスが蓄積し,原告の既存疾病である高血圧症が増悪して,本件脳内出血発症に至ったと主張する。 確かに,昼夜交替勤務が,常昼勤務と比較して疲労が蓄積しやすいとの医学的知見も存在するところであ ストレスが蓄積し,原告の既存疾病である高血圧症が増悪して,本件脳内出血発症に至ったと主張する。 確かに,昼夜交替勤務が,常昼勤務と比較して疲労が蓄積しやすいとの医学的知見も存在するところであるが,昼夜交替勤務に従事したことにより原告が高血圧症を発症したと認めるに足りる証拠はないし,別表3記載の原告の血圧値の推移からしても,高血圧症が経年的に増悪しているとは認められない。また,現段階における医学的知見を基礎として定められた新認定基準は,「交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合や日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内と評価される。」としているところ,原告は,前記1(1)アのとおり,1週間交代という決められたスケジュールに従って昼夜交替勤務に従事していたものであるから,これは日常生活で受ける負荷の範囲内として評価されるべきものである。 よって,原告の上記主張は採用できない。 エ仕掛業務の負担について(ア) 原告は,仕掛業務によるストレス,精神的負担等により,原告の高血圧症が増悪し,本件脳内出血発症に至った旨主張する。 (イ) 仕掛業務の内容は前記のとおりであるが,肉体的作業をするものではないから,仕掛業務によって原告に過重な身体的負担があったということはできない。 また,仕掛業務の基本的な作業は,前記1(2)ア,同イのとおり,在庫及びカンバンの位置を確認した上,生産計画を立てていくというものであるところ,このうち,在庫の確認やカンバンの確認について,精神的ストレスが生じるということは考え難い。また,生産計画を立てる作業については,一定程度の裁量,責任があるということはできるが,基本的にはカンバンの位置や工務課の指示等の下になされる作業であって,基本的に定型的な作業と評価す は考え難い。また,生産計画を立てる作業については,一定程度の裁量,責任があるということはできるが,基本的にはカンバンの位置や工務課の指示等の下になされる作業であって,基本的に定型的な作業と評価することができるのであり,その裁量性から,原告に過重な精神的負担等が負荷されるものではないというべきである。 この点,前記1(3)ウ認定のとおり,生産計画の最終的な責任は工務課長にあるのであって,仮に仕掛業務でミスを犯したとしても,原告が直接責任を問われる体制にあるとは認められない。 また,同認定のとおり,製品の不足があった場合,工務課長と生産課長及び関係部署との調整が行われるほか,現場監督者が早出,残業等で在庫調整,生産調整を行っていたものであることから,チビヨークが不足して,納期の遅れが多発していた状況下において,原告が一定程度のストレスを感じていたことは想像に難くなく,C作業長も,労働基準監督署において,トラブルなどによって仕事が予定どおり進まないときなどに非常に神経を使う旨供述しているところであるが(甲1・255頁),生産調整を現場監督が行うとはいえ,最終的には工務課等へ相談することになること(証人C)にかんがみれば,原告が感じるストレスは,通常労働者が業務に従事するに当たって受けるストレスとほぼ同程度のものであるというべきである。 (ウ) そして,一般に労働者が業務に従事するに際しては,少なからず何らかの精神的ストレスを感じているものと考えられるところ,原告に生じていた精神的ストレスもこの範ちゅうに属するものということができ,原告が昭和59年5月から作業長として勤め,その職務に十分習熟していたと認められる点も考慮すると,原告が高血圧症の基礎疾病を有していることを前提としても,仕掛業務によって受ける精神的ストレスが原告にとって過重な 年5月から作業長として勤め,その職務に十分習熟していたと認められる点も考慮すると,原告が高血圧症の基礎疾病を有していることを前提としても,仕掛業務によって受ける精神的ストレスが原告にとって過重なものであったということはできない。 (エ) 加えて,原告が本件脳内出血を発症した当日は,PM活動業務に従事していたものであり,チビヨークの生産調整のために他の部署と折衝するなどということはなかったものと認められるから,本件脳内出血発症当時に,他の部署との折衝等から精神的ストレスを感じていたということはできないし,PM活動業務に従事していた期間,同僚等にチビヨーク不足に関して愚痴をこぼすなどした形跡もないことからすると,チビヨーク不足からくる精神的ストレスにより本件脳内出血の発症に至ったとは認め難い。 オ PM活動業務の負担について(ア) この点につき,原告は,まず,PM活動業務に従事した平成元年5月2日から同月5日までの間,いずれも14時間に及ぶ労働時間数であったと主張し,原告の妻は,労働基準監督署において,いずれの日も午前4時ないし午前4時15分ころに出勤した旨の陳述書を提出している(甲1・230頁以下)。 しかしながら,PM活動業務に関して,原告が報告書や資料の作成を担当していなかったことは前記認定のとおりであり,ほかに原告が上記のような時間帯に出勤しなければならない必要性や,具体的に従事した業務を認定するに足りる証拠はない。 また,原告の妻は,前記陳述書において,本件脳内出血発症当日である平成元年5月5日,原告は,「今日は帰れない」と言って出勤したと陳述しているが,仮に,原告が何らかの業務をする必要性から,徹夜勤務を前提として出勤したのだとすると,原告が本件脳内出血を発症したために,原告は当該業務を遂行することができなくなったので 出勤したと陳述しているが,仮に,原告が何らかの業務をする必要性から,徹夜勤務を前提として出勤したのだとすると,原告が本件脳内出血を発症したために,原告は当該業務を遂行することができなくなったのであるから,他の従業員が当該業務を原告に代わって遂行する必要があったはずである。しかし,現実には,前記1(5)オ認定のとおり,B組長が午後7時30分ころにPM活動業務の仕上げをして帰ったというのであり,他の従業員が原告に代わって徹夜で資料を作成したとか,その他の業務に従事したことを示す証拠はない。 そうすると,平成元年5月2日から同月5日までの労働時間に関する原告の主張は容易に採用できず,仮に,原告が,その妻が陳述するとおりの時刻に自宅を出発し,あるいはこれに到着したとしても,そのことをもって直ちに原告が長時間勤務に従事していたことを示すものとは認められない。 (イ) 次に,原告は,PM活動業務における身体的負担,特に枕木の切断や鉄板の溶断作業が,本件脳内出血発症の直接の契機となったと主張する。 確かに,日常,作業長として管理監督業務に従事している原告にとって,PM活動業務は,枕木の運搬,切断作業等の肉体作業を含むものとして,一定程度の身体的負担があったことは否定できない。 しかし,前記1(5)ウのとおり,枕木の運搬は一人ないし二人でなされ,鉄板の運搬はフォークリフトでなされたものであり,この運搬作業自体が,原告にとって過重なものであったとは認められない。 また,鉄板の切断作業については,ガス溶断あるいは電気溶断でなされたものと考えられるが,当該作業自体,身体的に過重な作業であるとはいえず,その作業が特に血圧の上昇をもたらすと認めるに足りる証拠はない。 そして,枕木の切断作業については,甲27によれば,血圧を上昇させる相当に強度な作業であると認め ,身体的に過重な作業であるとはいえず,その作業が特に血圧の上昇をもたらすと認めるに足りる証拠はない。 そして,枕木の切断作業については,甲27によれば,血圧を上昇させる相当に強度な作業であると認められるが,本件脳内出血発症当日の午後4時ころから20分程度,原告は他の従業員と休憩をとっていること,その際には原告に変わった様子は見られなかったこと,原告が休憩後に従事したのは,枕木の切断作業ではなく,鉄板の溶断作業であることからすると,原告主張のように,枕木の切断作業が本件脳内出血発症の契機となったと認めるのは困難である。 カ全社的品質管理(TQC)について(ア) 原告は,昭和58年より被告において全社的品質管理(TQC)の再導入が決定され,特に第1鍛造課においては,昭和61年の後半からデミング賞の受賞に向けて,製品の品質の向上,原価の低減をねらいとして実施されたことから,原告の業務も多忙を極め,時間外労働,労働密度が増加する要因となっていたとして,全社的品質管理(TQC)が本件脳内出血発症の要因の一つである旨主張し,その根拠として,昭和62年に原告に支給された教育手当の額が多額であることを挙げる。 (イ) しかしながら,原告の主張によっても,原告の時間外労働,労働密度が増加が顕著であるのは,昭和62年2月から同年9月ころまでであるところ,仮にこの期間の原告の時間外労働時間数が多かったとしても,本件脳内出血発症の1年半ないし2年前の勤務状況であって,これが直ちに本件脳内出血発症と関連性を有しているとは認め難い。 キ原告の従事した業務と本件脳内出血との因果関係について(ア) 結局,原告が昭和63年11月から平成元年4月までに従事した時間外労働の時間数は,前記イ(エ)記載の各時間を上回ることはなく,また,平成元年5月のPM活動業務に従 出血との因果関係について(ア) 結局,原告が昭和63年11月から平成元年4月までに従事した時間外労働の時間数は,前記イ(エ)記載の各時間を上回ることはなく,また,平成元年5月のPM活動業務に従事している間は,いずれも午前8時ころから午後5時ころまで(ただし,同月5日は午前6時30分ころに出勤したものと推定される。)であって,特に時間外労働として着目すべき時間帯はない。 そして,昭和63年11月から平成元年4月までの各月の時間外労働時間数の目安は,別表7記載のとおり,60.5時間ないし90時間であり,新認定基準のいう「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合」には直接該当しないものの,80時間を超える月が2か月間に及ぶなど,その時間数から形式的に判断すると,業務と本件脳内出血との関連性が比較的強い場合に該当するということができる。 (イ) しかしながら,①原告が従事していた業務は,前記のとおり肉体作業ではなく,身体的な負担は問題とならないこと,②上記時間外労働時間の算定に当たっては,勤務記録表上の記録に昼勤の際のサービス残業として昼勤1日当たり1時間を加算しているが,昼勤の際のサービス労働は,要するに在庫確認作業や引継ぎのためのものであり,在庫確認作業はカンバンを見て在庫の状況を把握するという形式的な作業であることや,食堂で雑談をしたりコーヒーを飲むなどしている時間があったこと,③上記時間外労働時間の算定に当たっては,勤務記録表上の記録に夜勤の場合における反対番との引継ぎに要する時間として夜勤1日当たり30分を加算しているが,引継ぎは口頭又は書面で行われており,それ自体が過重な業務であるとは評価し難いこと,④原告には1週間に一,二日の 場合における反対番との引継ぎに要する時間として夜勤1日当たり30分を加算しているが,引継ぎは口頭又は書面で行われており,それ自体が過重な業務であるとは評価し難いこと,④原告には1週間に一,二日の休日が確保されており,また,本件脳内出血発症時にはPM活動業務に従事していたものであるが,PM活動業務に従事する前三日間(平成元年4月29日ないし同年5月1日まで)は休日となっていたことなど,原告が従事した作業の内容,労働密度の観点からすると,前記認定の時間外労働時間数等,原告が従事したきた業務の状況を総合考慮しても,原告の従事していた業務が,高血圧症を自然的経過を超えて増悪させるほどの過重性を有していたとは認め難い。 (ウ) 結局,本件脳内出血は,原告の基礎疾病である高血圧症が,自然的経過の中で増悪し,その結果発症するに至ったものと考えるのが相当であり,原告の従事した業務と本件脳内出血との間に相当因果関係を認めることはできない。 ク損害拡大の主張について原告は,被告の救護措置の遅れについて,これを安全配慮義務違反の一つとして主張するわけではないとしながら,これにより原告の損害が拡大したと主張する。これは,傷病者を発見した際の保護義務違反として主張しているものと解されるところ,確かに,C作業長が原告を発見した後半田市立半田病院に到着するまで約3時間を要しており,仮に被告が救急車等の手配をしていれば,より早く原告が設備の整った病院で受診することができた可能性はある。 しかし,原告は,発見された時点で既に意識もうろう状態であったのであり,この時点で相当量の脳内出血があったものと推定される。また,原告は,時間が経過したことにより意識レベルがある程度回復傾向にあったこと(甲1・630頁)も合わせ考えると,被告の救護措置の遅れにより,原告の脳内出血 当量の脳内出血があったものと推定される。また,原告は,時間が経過したことにより意識レベルがある程度回復傾向にあったこと(甲1・630頁)も合わせ考えると,被告の救護措置の遅れにより,原告の脳内出血量が増大したと認めることはできず,原告の後遺障害がより重度となったということはできない。 したがって,原告の前記主張は理由がない。 ケ以上によれば,その余について検討するまでもなく,原告の主位的請求は理由がない。 (2) 争点(4)(被告は原告に対し,被告の災害補償規程に基づく重症障害見舞金の支払義務を負うか)について被告の災害補償規程の内容は,前記争いのない事実等記載のとおりであるが,前記(1)判示のとおり,原告の従事していた業務と原告の本件脳内出血発症との間に相当因果関係があるとは認められない。 そうすると,被告の災害補償規程の条項の解釈いかんにかかわらず,本件脳内出血に対して同規程5条が適用される余地はない。したがって,被告は原告の本件脳内出血発症に関し,同規程に基づく重症障害見舞金の支払義務を負わず,原告の予備的請求は理由がない。 3 結論以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判長裁判官橋本昌純裁判官夏目明徳裁判官夏目明徳

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