主文 1 原判決中控訴人の被控訴人厚生労働大臣に対する請求を棄却した部分を取り消す。 2 被控訴人厚生労働大臣が控訴人に対し平成7年5月22日付けでした,医師国家試験本試験の受験資格の認定申請を却下する旨の処分を取り消す。 3 控訴人のその余の控訴を棄却する 4 訴訟費用は,控訴人と被控訴人厚生労働大臣との間に生じた部分については第1,2審を通じてこれを同被控訴人の負担とし,控訴人と被控訴人国との間に生じた控訴費用については控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人厚生労働大臣が控訴人に対し平成7年5月22日付けでした,医師国家試験本試験の受験資格の認定申請を却下する旨の処分を取り消す。 3 被控訴人国は控訴人に対し,500万円及びこれに対する平成8年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有し同国内の医学校を卒業した控訴人が,我が国において医師として業務を行うべく,被控訴人厚生労働大臣(当時の厚生大臣。以下「厚生大臣」という。)に対し医師国家試験本試験(以下「本試験」ということもある。)の受験資格の認定申請を行ったところ,厚生大臣が控訴人は医師国家試験予備試験(以下単に「予備試験」ということがある。)の受験資格が相当であると認められるとして,これを却下したため,控訴人が同却下処分(以下「本件却下処分」という。)を不服として,同被控訴人に対しその取消しを求めるとともに,本試験を受験することができなかったことにより精神的苦痛を被ったなどと主張して,被控訴人国に対し,慰謝料の損害賠償を求める事案であって,原審は控訴人の請求をいずれも棄却した。本件事案の概要は,次のとおり付加するほか,原 できなかったことにより精神的苦痛を被ったなどと主張して,被控訴人国に対し,慰謝料の損害賠償を求める事案であって,原審は控訴人の請求をいずれも棄却した。本件事案の概要は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 控訴人の当審における主張(1) 厚生大臣が行った本件処分は,行政手続法違反の違法があり,取り消されるべきである。(手続的違法)ア審査基準非公開の違法(行政手続法5条3項違反)控訴人は,行政手続法(平成6年10月1日施行)の施行後である平成7年2月16日に受験資格の申請を行っているから、本件には同法が適用される。同法5条は,行政庁は,申請により求められた許認可等について,できる限り具体的な審査基準を定め,行政上特別の支障があるときを除き,これを公にしておかなければならないと規定している。 厚生大臣は,平成2年ころ,本件却下処分についての審査基準である原判決別紙1の「外国医(歯)学校卒業者等受験資格認定審査基準」(乙2。以下「本件認定基準」という。)設定し,以後これに基づく認定処分を行っていたが,本件認定申請時点においてはこれを公開していなかった。本件において,これを公開することにつき「行政上特別の支障」があったとの事情は何ら主張されていないから,本件却下処分には同法5条3項に反する違法がある。 被控訴人らは,原判決別紙2の「国家試験受験資格認定必要資料一覧」(乙6の1。以下「本件一覧」という。)を控訴人に示したことをもって審査基準を公にしたと主張する。しかしながら,本件一覧は単に必要書類を明示しているにすぎず,これから具体的な審査基準が明らかになるわけではない。特に本件で問題となっている本件認定基準第9項,第10項に関連する書類としては,本件一覧 かしながら,本件一覧は単に必要書類を明示しているにすぎず,これから具体的な審査基準が明らかになるわけではない。特に本件で問題となっている本件認定基準第9項,第10項に関連する書類としては,本件一覧に「外国で取得した免許証の写し」,「外国における資格試験の合格証書の写し又は合格証明書」,「外国医(歯)学校の卒業証明書の写し又は卒業証明書」との記載があるだけで,これでは到底上記のような基準が設定されていたとは判断できない。行政手続法5条の趣旨は,①行政庁の判断の公正,合理性の担保,②審査基準そのものの検証,行政庁がそれを遵守したかについての外部審査の機会を与え,③行政庁の判断過程の透明性の向上を目的としたものであり,この透明性の向上の実質的な意義は,行政庁の判断過程が明らかになることで,申請者は許認可の処分結果の予見に基づき適切な情報,資料提供や意見を述べるなど行政庁に働きかけをし,自己に不利益な処分がなされることを防ぐための方策をとる機会を得ることにあると解される。このことからすれば,本件一覧の提示から,以上のような処分結果の予測を立てて,それに基づく方策をとることは事実上不可能であるから,本件一覧の提示をもって審査基準を公にしていたということはできない。また,被控訴人らは,申請の際に口頭で本件認定基準の説明をしたとの主張もするが,控訴人は当時の担当者から本件一覧を手渡されただけであって,本件認定基準に関し何らの説明も受けていない。控訴人は,当時,本件認定基準の存在すら知らなかったのである。したがって,控訴人が審査基準を公にしていなかったことは明らかであり,このことが行政手続法5条3項に反することは明らかである。 イ理由付記の不備による違法(行政手続法8条1項違反)行政手続法8条1項が規定する理由の提示としてどの程度のものが要求さ は明らかであり,このことが行政手続法5条3項に反することは明らかである。 イ理由付記の不備による違法(行政手続法8条1項違反)行政手続法8条1項が規定する理由の提示としてどの程度のものが要求されるかについて特段の定めはないが,最高裁判所昭和38年5月31日判決(民集17巻4号617頁)が,理由付記の制度の趣旨を「処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える」ためととらえていることからすると,事実関係を具体的に記載すること,すなわち行政の裁量権行使を争う手掛かりになるだけの理由を提示する必要がある。また,同判決は,制度趣旨として「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制する」ため(恣意抑制機能)とも指摘しており,不服申立て段階で理由を追加しても,理由付記の不備の違法は治癒されない(最高裁判所昭49年4月25日判決民集28巻3号405頁)。本件却下処分の通知書である厚生省健康政策局長名の控訴人に対する「医師国家試験受験資格の認定について」(通知)と題する文書(甲3)では「平成7年2月16日に認定申請のあった貴殿の医師国家試験受験資格については,審査した結果,貴殿の医学に関する経歴等からみて,平成2年5月24日健政発第321号により通知したとおり,予備試験の受験資格が相当と認められるので通知する。」と記載されているだけである。そして,平成2年5月24日健政発第321号(甲1)を見ると,「さきに認定申請のあった貴殿の医師国家試験受験資格については,予備試験の受験資格が相当と認められ別添のとおり認定されたので通知する。」とされているだけである。これでは処分を争う手掛かりとなるだけの理由があるとはいえないから,本件却下処分には理由付記の不備による違法がある。 被控訴人らは,本件一覧において合格証書等の写し及び免許の根拠法令 るだけである。これでは処分を争う手掛かりとなるだけの理由があるとはいえないから,本件却下処分には理由付記の不備による違法がある。 被控訴人らは,本件一覧において合格証書等の写し及び免許の根拠法令の関係条文の抜粋の提出が求められており,控訴人はこれを提出せず,本件却下処分の通知書に「貴殿の医学に関する経歴等からみて」との記載があることから,理由の記載として十分であると主張するが,本件認定基準を知らされていなかった当時の控訴人の認識からは,単に「医学に関する経歴」との記載だけでは,その理由が同基準第9項,第10項に該当しないとの判断がされたとは到底理解することはできない。したがって,単に「医学に関する経歴等からみて」という理由だけでは,理由付記制度の趣旨の重要部分である「申請者に不服申立て又は訴えの提起の便宜」を与えたことには到底ならず,行政手続法8条1項違反になるものというべきである。 なお,本件却下処分に対する異議申立てに対する棄却決定においては,具体的事実関係の提示がされているが,この段階で理由を追加しても,前述のとおり,原処分の理由付記の不備の違法は治癒されない。 ウ手続違背と取消原因行政手続法は,同法の手続違反が存在した場合に,その違法が行政処分の効力にいかなる影響を及ぼすか,すなわち各手続違反の効果については,明文の規定をおいていない。 この点,最高裁判所昭和47年12月5日判決(民集26巻10号1795頁)は,本件と同様に処分時において理由付記の不備があった事案についてであるが,理由付記の趣旨について「処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることを目的と」すると解した上で,理由追完による治癒を認めることは,処分そのものの慎重,合理性を確保 合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えることを目的と」すると解した上で,理由追完による治癒を認めることは,処分そのものの慎重,合理性を確保する目的にそわないばかりでなく,「処分の相手方としても,審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは,それ以前の審査手続きにおいて十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。」として,処分の取消しを認めた。すなわち,理由付記の不備を独立の取消原因とした。 本件において,仮に処分時点において,拒否処分の具体的理由,すなわち控訴人が本件認定基準のどこを満たしていないとされたのかが明らかになっていれば,不服申立てよりも前の時点において,控訴人の側で自己に有利な資料の提出などをする機会を持つことができたのであり,その結果,処分結果が変わった可能性は十分にあり得た。特に,厚生大臣は,本件認定基準第9項及び第10項については,各国の制度を実質的にとらえてその該当性を検討しているから,本件却下処分時点において,控訴人が自国の医学校,医療制度について詳細な資料を提出することができたのであり,そのようにしていれば,厚生大臣が異議決定の段階で実質的な判断をすることが可能となり,その結果第9項,第10項に該当するとの判断が出ていた可能性を否定できない。したがって,本件においては,理由付記の不備という手続的瑕疵を理由として本件却下処分は取り消されるべきである。 また,審査基準を設定する趣旨は,最高裁判所昭和46年10月28日判決(民集25巻7号1037頁。以下「個人タクシー事件最高裁判決」という。)が明らかにしているように,多数の者の中から少数の者を選定する場合等において審査基準は処分の公正を確保することにあるから,審査基準が設定 巻7号1037頁。以下「個人タクシー事件最高裁判決」という。)が明らかにしているように,多数の者の中から少数の者を選定する場合等において審査基準は処分の公正を確保することにあるから,審査基準が設定可能な場合に行政庁がこれを設定せずに行った場合には,処分の公正に重大な疑義が生じることとなり,これに反する審査手続により申請が却下されたときは,それ自体が処分の違法事由となるのである。そして,裁量処分においては,裁判を通じて処分の公正が確保される上で審査基準が設定されていることは不可欠であるため,基準を設定しないで処分されたときには裁量権の濫用として独立の取消原因を構成すると解すべきである。本件は,審査基準は設けられていたものの,それが公開されていなかった場合であるが,処分時点においてかかる基準が明らかにされていなければ,処分の公正に疑義が生じることは基準が設定されていない場合と同様であるから,同様に独立の取消原因となると解すべきである。 被控訴人らは,行政手続法5条違反があった場合でも,処分結果に影響を及ぼす場合に限り取消原因となるにすぎないと主張するが,「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資すること」(行政手続法1条)を目的とする行政手続法が制定されたことからすると,手続違反については,法制定前よりも一層厳格に判断すべきであり,申請者の処分結果に対する予見可能性を得る機会等を奪ったものであるから,その瑕疵については処分結果のいかんにかかわらず取消原因とすべきである。仮に,処分の結果に影響を及ぼす場合に限り取消原因となるとしても,本件認定基準が公にされ,控訴人がこれを知っていたならば,控訴人としては,医学校を卒業して医師資格を持っていること,医学校卒業要件の権威等について主張,立証することができ, り取消原因となるとしても,本件認定基準が公にされ,控訴人がこれを知っていたならば,控訴人としては,医学校を卒業して医師資格を持っていること,医学校卒業要件の権威等について主張,立証することができ,処分結果が変わった可能性は十分あり得たから,やはり取り消されなければならない。 (2) 本件却下処分には厚生大臣の裁量権濫用の違法があり,違憲・違法であるから取り消されるべきである。(実体的違法)ア裁量性ある処分に対する司法審査の視点本件における厚生大臣の裁量は一見広いようにみえるが,憲法上の制約があることを考慮しなければならない。憲法22条の定める職業選択の自由は,日本人のみに留保されている特殊な職業を除いて,外国人にも保障されているから,外国人といえども恣意的,差別的な理由で職業選択の自由を害されない権利が憲法22条及び14条により保障されている。したがって,この点で,厚生大臣の法(医師法)に基づく裁量は,大きく制限されているのである。 個人タクシー事件最高裁判決が,内部的にせよ審査基準を設定しなければならないという,法律の条文にない新たな要請を創造したのは,個人タクシー事業の免許の拒否は個人の職業選択の自由にかかわりを有することが1つの根拠になっていることに留意すべきである。本件も,控訴人の職業選択の自由にかかわっているのであるから,個人タクシー事件最高裁判決にならって,行政の裁量に任せずに,それを制約する法創造的な司法活動を行うことが裁判所に期待されるのである。 イ本件認定基準第9項,第10項は,合理的な考慮に基づいて設定されたものではない。(本件認定基準設定の違法)本件認定基準第9項では,日本の大学において,医学の正規の課程を修めて卒業した者と同等以上の学力及び技能を有し,かつ適当と認定するために,外国で医学部を卒業するだ ない。(本件認定基準設定の違法)本件認定基準第9項では,日本の大学において,医学の正規の課程を修めて卒業した者と同等以上の学力及び技能を有し,かつ適当と認定するために,外国で医学部を卒業するだけではなく,外国で医師免許を取得していることが要求されている。しかし,法11条3号が本試験受験資格を「外国の医学校を卒業し,又は外国で医師免許を得た者で…」と規定しているのは,例えば中国のように,形式上は医師免許がなく医学部卒業で医療行為をすることが許容されている国を念頭においていると理解すべきであり,本件認定基準第9項は法律の基準を不当に加重するもので許されない。 また,原判決は,現状において,当該申請者の学力及び技能を国家レベルで制度的に担保するものとしては,医師免許の取得及び当該医師免許を取得する場合の国家試験の合格という以外に有効なものが見出せないというのが実情であるとする。 しかし,原判決は,これで一貫すると多くの国の制度を説明することができなくなるため,国家試験には固執せずに,必ずしも試験が国家機関によって直接運営されている場合に限る趣旨とは解されないとする。そもそも,医師免許試験の制度は日本のように全国統一的に行う国ばかりではなく,国により制度が異なる(医師国家試験があるのは日本のほか・韓国・フィリピン・スウェーデンの4か国だけである。)のであるから,医師免許試験制度の確立という基準は世界中の大学に適用するには必ずしも適切ではない。そこで,国家試験制度を適法に運営するためには,基準を緩和するしかない。このように厚生大臣の立てた基準は,この点で既に破綻しているのである。 ウ本件認定基準第9項,第10項の運用は恣意的,差別的であり,違憲・違法である。(本件認定基準適用の違法)中国では,医学部卒業者には医療行為をすることが許される の点で既に破綻しているのである。 ウ本件認定基準第9項,第10項の運用は恣意的,差別的であり,違憲・違法である。(本件認定基準適用の違法)中国では,医学部卒業者には医療行為をすることが許される制度になっている一方,中華人民共和国刑法等により無資格医業は禁止されている。また,中国の医師は,「衛生技術人員職称及び昇進条例(試行)」(衛生部1979年2月23日発布)の規定に基づき,各地の衛生行政部門すなわち各省・自治区の衛生庁,直轄市の衛生局に登録されることとなっており,控訴人は,1987年上海第2医科大学を卒業し,医業を行う資格に関する資料は上海市衛生局に登録されている。したがって,中国における卒業判定行為は,同時に医師免許の付与と理解することができるから,この意味において中国にも医師免許制度が存在し,控訴人がこれを取得していることは明らかであるから,本件認定基準第9項を満たしている。 また,中国には,卒業試験,医学士学位,衛生部統一試験という国家試験制度ないしこれに匹敵する国家レベルの制度的担保があり,控訴人はこれをパスしているから,本件認定基準第10項を満たしている。 他方,厚生大臣は,アメリカ合衆国,ドイツ,イギリス,フランス等の諸国については本件認定基準を実質的に緩和して運用しながら,中国に対しては恣意的に形式的・厳格に運用している。 工結論以上のとおり,本件認定基準第9項については,医籍とか登録とかを要求するのは法律の定める要件を恣意的に加重するものであるし,中国の医師の資格を有する控訴人は,中国の医師免許を有する者に該当するというべきである。本件認定基準第10項は,それ自体曖昧で,必ずしも合理的な考慮に基づいて作られたものではないし,しかも厚生大臣は,アメリカやイギリス,フランス等の諸国については自らの立てた基準を というべきである。本件認定基準第10項は,それ自体曖昧で,必ずしも合理的な考慮に基づいて作られたものではないし,しかも厚生大臣は,アメリカやイギリス,フランス等の諸国については自らの立てた基準を逸脱して甘く適用しつつ,中国についてだけは厳しく適用しているのであって,これでは処分の公正を担保する基準とはいえず,その適用は恣意的であって,違法といわざるをえない。このように,本件認定基準の設定とその適用は,前後一貫性を欠き,恋意的であり,裁量権の濫用というほかない。 そして,外国人でも恣意的,差別的な理由で職業選択の自由を害されない権利が憲法22条により保障されていると解されるから,これは単なる違法ではなく,控訴人の職業選択の自由を侵害するものであって,違憲でもある。 仮に,中国では医師国家試験制度が確立しているとまではいえないとしても,本件認定基準は法規ではないから,基準の柔軟な適用が必要である。本件では,控訴人は基準の第1項から第8項までについては余裕をもってクリアーしている。そうだとすれば,控訴人には,それだけでも日本の医学部卒業相当と認定してよい事情があるのであって,これを軽視することは不合理であり,恣意的であろう。さらに,控訴人は,医学校を卒業して医師の資格を有するだけでなく,医学士学位を取得し,衛生部統一試験にも合格している。これらを総合考慮すれば,控訴人には本試験受験資格があるものと考えるべきである。 2 被控訴人らの当審における主張(1) 行政手続法5条3項(審査基準の公開)違反について行政手続法5条3項にいう「公にしておかなければならない」とは,申請をしようとする者あるいは申請者に対し,審査基準を秘密にしないとの趣旨であって,対外的に積極的に周知することまで義務付けるものではなく,また公にしておく具体的方法としては, ればならない」とは,申請をしようとする者あるいは申請者に対し,審査基準を秘密にしないとの趣旨であって,対外的に積極的に周知することまで義務付けるものではなく,また公にしておく具体的方法としては,事務所における備付けのほか,申請をしようとする者の求めに応じ提示すること等が挙げられるが,実際にどのような方法を選択するかについては,行政庁の判断にゆだねられているものと解される。行政手続法5条3項の「公に」とは以上のような趣旨であって,同法36条にいう「公表」とは趣旨を異にするのである。そして,厚生大臣は,外国の医学校を卒業し又は外国で医師免許を得た医師国家試験資格認定申請者に対し本件一覧を交付した上,個別の申請の際に,必要に応じ口頭で本件認定基準の説明をしているのであって,現に,控訴人はこの説明に応じて卒業証書,成績証明書,施設現況等の書類を提出しているのであるから,厚生大臣は審査基準を公にしているということができる。 厚生大臣は,行政手続施行後,申請者である控訴人対し,本件認定基準を積極的に周知しているものではないが,本件認定基準を秘密にしているものではないから,厚生大臣が行った本件却下処分は,行政手続法5条3項に違反するとまでいうことはできない。 (2) 行政手続法8条1項(理由付記)違反について処分の理由を示さなければならないと規定した行政手続法8条の趣旨は,許認可等をするかどうかについての判断の慎重,合理性が担保され,その恣意が抑制されるとともに,申請者に対し不服申立て又は訴えの提起の便宜を与えるためであると解されるところ,理由付記の程度と当該処分の手続上の瑕疵の有無との関係については,ケースバイケースで判断されるべきである。外国の医学校を卒業し又は外国で医師免許を得た医師国家試験資格認定申請者に対し,本件一覧を交付した上,個 度と当該処分の手続上の瑕疵の有無との関係については,ケースバイケースで判断されるべきである。外国の医学校を卒業し又は外国で医師免許を得た医師国家試験資格認定申請者に対し,本件一覧を交付した上,個別の申請の際に必要に応じ口頭で本件認定基準の説明をしていること,本件認定基準のうち第1項から第8項までについては本件一覧に基づいて資料の提出がされていること,同第9項及び第10項については,これらに関する資料として,本件一覧において外国で免許を取得している者にあってはその写し等,外国の資格試験に合格している者にあっては合格証書の写し等及び外国で取得し免許の根拠法令の関係条文の抜粋の提出が求められているところ,本件却下処分時において控訴人はこれらを提出していないこと,本件却下処分の通知書には,控訴人の「医学に関する経歴」等からみて予備試験の受験資格が相当であると認められる旨の記載があるところ,本件一覧記載の提出されなかった書類が,まさに前記経歴にかかわる外国で取得した免許及び外国における資格試験に関する書類であったことにかんがみると,控訴人において,前記通知書の記載から本件認定基準第9項及び第10項にかかわる経歴によって却下されたと理解することが十分可能であって不服申立て等に支障を来すものではないし,行政庁の判断の慎重,合理性を担保し,その恣意を抑制するという見地からみても,前記通知書における理由の記載は十分なものであって,それにより本件却下処分が違法となることはないものというべきである。 (3) 行政手続法違反の効果について行政手続法中の手続規定に違反することが,処分の取消事由に該当するか否かについては,第三次臨時行政改革審議会の「公正・透明な行政手続部会」においても掘り下げた議論はなされておらず,依然として解釈にゆだねられていると解される 反することが,処分の取消事由に該当するか否かについては,第三次臨時行政改革審議会の「公正・透明な行政手続部会」においても掘り下げた議論はなされておらず,依然として解釈にゆだねられていると解される。そして,行政手続法違反の手続が処分の取消事由になるか否かは,単に行政手続法違反の有無という見地のみからではなく,処分に関する諸法規全体の中で考えていく必要がある。 そうして,行政手続の瑕疵が処分に及ぼす影響については,従来から,一般に,①手続の瑕疵が訓示規定の違反あるいは軽微な瑕疵にとどまるものについては取消原因とはならず,②制度の根幹にかかわる手続の違反で,その瑕疵を許したのでは制度自体の信用,信頼を揺るがせることになるものについては,その瑕疵は処分の結果のいかんにかかわらず取消原因となり,③両者の中間的なものについては,その瑕疵が処分の結果に影響を及ぼす場合に限り,取消原因となるとする見解が有力であり,行政手続法制定後においてもこの見解が妥当するものというべきであり,行政手続法の定めは当該瑕疵の程度の判断に当たって考慮されるべきものと考えられる。そして,審査基準の公開に関する瑕疵は③の類型に属すると解されるところ,審査基準を公開しないで処分がされた場合であっても,申請が明らか要件を満たしておらず,その判断が審査基準の公開の有無にかかわらない場合には,当該瑕疵は処分の取消原因とならないものと解される。 これを本件についてみると,厚生大臣は,本件認定基準第1項から第8項まで及び第11項の要件の認定については,当該申請者に本件一覧記載の必要資料の提出を求め,それらの資料等からこれらを認定することとしており,本件においてもその手続が踏まれていることが認められる。また,本件認定基準第9項の医師免許制度の存在及び第10項の要件は,当該申請者の所属 を求め,それらの資料等からこれらを認定することとしており,本件においてもその手続が踏まれていることが認められる。また,本件認定基準第9項の医師免許制度の存在及び第10項の要件は,当該申請者の所属する国家の制度に関することであり,これらは当該申請者の主張,証拠の提出をまつまでもなく,他の客観的な資料から明らかにし得る事項であるから,控訴人の申請は明らかに要件を欠いており,当該申請に対する判断は審査基準の公開の有無にかかわらないものであるということができる。したがって,仮に本件却下処分が行政手続法5条3項に反するものであったとしても,これが本件却下処分の取消原因となるものではない。 また,行政手続法は,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とするものであるところ(1条1項),この規定は従来行政庁の内部的なものにとどまることの多かった審査基準を申請をしようとする者の知りうる状態におくことにより,申請をしょうとする者に対し一定の予見可能性を与え,もって行政庁の判断過程の透明性が向上することを目的としており,専ら透明性の向上に重点が置かれた規定であると解される。そうすると,行政手続法5条3項の規定に反したとしても,透明性の向上,すなわち,申請の際に許認可等の処分を得ることができるかどうかに関する見通しを与える機能が阻害されたにとどまるのであって,この瑕疵が直ちに処分の取消事由となると解することはできない。 (4) 控訴人の権利とその制約基準について我が国においては,医師になろうとする者は,医師国家試験に合格し,厚生大臣の免許を受けなければならず(法2条),医師国家試験は,臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能についてこれを行うこととされているところであ 国家試験に合格し,厚生大臣の免許を受けなければならず(法2条),医師国家試験は,臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能についてこれを行うこととされているところである(法9条)。このように,日本人ですら医師という職業に就くには法に基づく国家試験に合格し,免許を受ける必要があるところ,かかる制度自体が国民の健康な生活を確保するという要請に合致することは明らかである。 そして法は,外国人が日本国内において医師になることを全く拒絶しているものではなく,法11条3号において,日本人に対する医師の国家試験制度により判定されるのと同様の学力と技術を有すると判断できる場合には,医師になる機会を保障しており,諸外国に比して門戸を広くしているのである。医師という職業について,外国人である控訴人に憲法上の職業選択の自由があるか否かについてはさておくとしても,法の上では,外国人である控訴人においても医師になる機会は保障されているのであるから,何ら職業選択の自由を不当に制限するようなものではないことは明らかである。 (5) 本件認定基準第9項,第10項の合理性について控訴人は,本件認定基準第9項については,医籍とか登録とかを要求するのは基準の恣意的な要件加重であり,中国にも医師免許が存在し,中国における医師の資格を有する控訴人は中国に医師免許を有すると考えるべきであり,同第10項については,基準自体もあいまいで必ずしも合理的な考慮に基づいて作られたものではない旨主張する。 しかしながら,本件認定基準第9項及び第10項の要件が設けられたのは,医学校に係る審査要件(本件認定基準第1項ないし第8項)だけでは,世界各国に無数に存在する医学校における教育水準等を厚生大臣において適切に把握し,限られた時間の中で当該申請者における学力及び のは,医学校に係る審査要件(本件認定基準第1項ないし第8項)だけでは,世界各国に無数に存在する医学校における教育水準等を厚生大臣において適切に把握し,限られた時間の中で当該申請者における学力及び技能を審査の材料とすることが到底不可能であることから,そのような審査に代わるものとして当該申請者の個別的な学力及び技能を国家レベルにおいて担保する制度があるかどうかを審査し,それがあれば当該申請者が我が国の大学において医学の正規の課程を修めて卒業した者と同等以上の学力及び技能を有していると認めることとするという趣旨に出たものと解するのが相当である。したがって,本件認定基準第9項及び第10項が法11条3号の受験資格は当該申請者の国の国家レベルの制度的担保によって確保されている場合に限って認められるものとしていることは合理性を有する。 また,本件認定基準第10項に「当該国の免許を取得する場合の国家試験制度」について「制度が確立されていること」とあるのは,当該申請者の卒業した医学校の成績のみで当該申請者の学力及び技能を適切に判定することが極めて困難であることから,当該国の免許を取得する場合の国家試験又はそれに代わり得る国家的な制度に合格している場合には,我が国において予備試験に合格しなくとも本試験受験資格を付与することとするという趣旨のものであって,その合理性が十分認められるのであるから,控訴人の主張は失当である。 (6) 控訴人の本件認定基準第9項の要件の実質的充足について中国においては1950年代まで存在した医師の免許制度は廃止され,現在公的機関による一元的な医籍の登録管理制度は確立していない。中国において公的機関による医師の登録免許制度又はこれに代わり得る制度は存在せず,現在各医療機関の人事部門が医師を登録しているのみであり,地域ごとに一 よる一元的な医籍の登録管理制度は確立していない。中国において公的機関による医師の登録免許制度又はこれに代わり得る制度は存在せず,現在各医療機関の人事部門が医師を登録しているのみであり,地域ごとに一括して医籍に登録する制度すら存在しない。中国においては,医科大学を卒業した学生は,卒業した時点で医師となる資格を得ることができるが,仮に,各大学において卒業生を何らかの方法により管理していたとしても,それが直ちに医師としての活動を行い得る要件としての医籍への登録・管理を意味するものではない。 また,中国においては、医科大学を卒業した学生は,卒業した時点で医師となる資格を得ることができるが,中国の大学で養成される医師には,西医医師,中医医師があるところ,中医学院(漢方医を養成する大学)において西洋医学を教えているところもあり,また,医科大学においても中国(漢方)医学を教えているところもあり,医師といっても西洋医学と中国医学の境目が判然としないこと,中国の医科大学の設置基準で公表されているものはないことから,医者となる資格を取得した者が直ちに我が国において大学における医学の正規の課程を修めて卒業した者と同等の学力及び技能を有すると認めることは到底できないというべきである。 以上から,中国において,医師免許登録制度が存在しないことは明らかであって,控訴人が本件認定基準第9項の要件を満たさないことは明らかである。 (7) 控訴人の本件認定基準第10項の要件の実質的充足について本件認定基準第10項の国家試験制度とは,当該国の免許を取得する場合の国家試験制度であるから,中国に医師免許制度が存在しない以上,控訴人は同項の要件を欠くこととなる。 控訴人は,1987年の衛生部統一試験を受験したとして,本件認定基準の要件を具備する旨主張するが,同試験への参 であるから,中国に医師免許制度が存在しない以上,控訴人は同項の要件を欠くこととなる。 控訴人は,1987年の衛生部統一試験を受験したとして,本件認定基準の要件を具備する旨主張するが,同試験への参加大学は多い年でも高等医科大学133校中46校,控訴人が受験したとする1987年にはわずか20校の参加にとどまっており,また,その試験内容には西洋医学のみでなく,中医(漢方)をも含むものであり,その比重も明らかでない。さらに,衛生部統一試験の成績は各大学において通常時の試験の成績や臨床卒業実習での技能と並ぶ卒業の条件の判断材料の1つにすぎず,その比重の置き方も各大学の裁量にゆだねられており,統一試験の合否という考え方すらなかったものである。このように,仮に控訴人が衛生部統一試験を受験していたとしても,同試験が中国において医師資格を取得する者の学力及び技能の水準を国家レベルで担保する制度とは到底いえないことは明らかである。 以上から,控訴人が本件認定基準第10項の要件を満たしているとは,到底認められないものである。 (8) 厚生大臣による本件認定基準の運用について控訴人は,各国の適用例を列挙して,被控訴人が本件認定基準を恣意的に運用していると主張し,同主張を排斥した原判決は,事実を誤認し又は誤った評価をしたものである旨主張する。しかしながら,控訴人の指摘する諸国における医師資格試験制度及び免許登録制度は,客観的なものであり,同試験に合格しかつ免許登録された者については,予備試験の合格及び1年間の実地修練という客観的に受験者の学力及び技能を判定し得る制度的担保を省略するに足りるものであるということができる。したがって,厚生大臣が,中国と中国以外の国との間で,本件認定基準の適用につき厳格にしたり甘くしたりして恣意的な運用をしているとの控訴人の主 度的担保を省略するに足りるものであるということができる。したがって,厚生大臣が,中国と中国以外の国との間で,本件認定基準の適用につき厳格にしたり甘くしたりして恣意的な運用をしているとの控訴人の主張は根拠のないものである。 第3 当裁判所の判断 1 本件却下処分に至るまでの経緯前提となる事実,証拠(甲1ないし5,7ないし14,60,乙1,2,6の1・2,38)及び弁論の全趣旨によれば,本件却下処分に至るまでの経緯として以下の事実を認めることができ,これを左右するに足りる証拠はない。 (1) 控訴人は,昭和38年(1963年)中国において出生した,中国国籍を有する外国人であり,現在大阪市に居住している。 (2) 控訴人は,昭和62年(1987年)7月中国にある上海第2医科大学瑞金臨床医学系(6年制)を卒業し,中国の学位条例に基づき医学士学位を授与された。その後控訴人は,同国内の南通医学院整形外科に4か月間研修医として勤務してから,同年12月に来日した。(3) 来日した控訴人は,神戸YMCA学院日本語学科において3か月間日本語の勉強をした後,福井医科大学整形外科教室において11か月間研究生として,その後大阪市立大学医学部において5年間大学院研究生として,それぞれ医学の勉強をした。 (4) 控訴人が,平成2年3月6日厚生大臣に対し,医師国家試験受験資格の認定申請を行ったところ,同被控訴人は,同年5月24日控訴人に対し,法12条の規定に基づき予備試験の受験資格を有することを認定するとの処分を行った。 (5) 控訴人は,平成4年度,平成5年度及び平成6年度の予備試験を受験したが,いずれも不合格となった。 (6) 厚生省(当時,以下同じ。)医療関係者審議会は,昭和63年4月,我が国の医療水準の高度化,社会の高齢化が急速に進んだことや,医学・歯科医学の進 予備試験を受験したが,いずれも不合格となった。 (6) 厚生省(当時,以下同じ。)医療関係者審議会は,昭和63年4月,我が国の医療水準の高度化,社会の高齢化が急速に進んだことや,医学・歯科医学の進歩ともあいまって,医師・歯科医師に要求される知識,技能が変化を来していること,これに対応して,外国医・歯学校を卒業し,又は外国で医師・歯科医師免許を得た者についての医師・歯科医師国家試験受験資格認定においても審査手続を改善する必要性が生じてきたとの認識の下に,同審議会の医師部会及び歯科医師部会の合同専門委員会として「外国医・歯学校卒業者等受験資格認定制度検討委員会」を設置して,諸外国における外国医・歯学校卒業者の受け入れ事情や医療事情,当時の認定制度における問題点,医師・歯科医師需給の将来見込み等を踏まえて,今後の資格認定のあり方等について検討を行った。 同委員会は,平成2年6月,医療関係者審議会に対し,中間報告(以下「本件中間報告」という。)を行い,同審議会の了承を得た。 同報告は,それまでの認定制度について,我が国の医療水準の高度化,社会の高齢化が急速に進んだことや,医学・歯科医学の進歩ともあいまって,医師・歯科医師に要求される知識,技能が変化してきていることに対応する必要が生じていること,海外で医業,歯科医業の知識・技能を修得した日本人等においては,我が国で医療を行うのに十分な日本語の語学力や日本語による診療能力を有していない者もおり,これらの者に対する対応が必要であること,我が国においては医師・歯科医師の過剰が予測される一方,医師・歯科医師流出国においては頭脳流出となり,当該国の医療水準の確保・向上の支障となっていること等の問題点を指摘した上で,外国医・歯学校を卒業し,又は外国で医師・歯科医師免許を得た者が,我が国の大学において医学 出国においては頭脳流出となり,当該国の医療水準の確保・向上の支障となっていること等の問題点を指摘した上で,外国医・歯学校を卒業し,又は外国で医師・歯科医師免許を得た者が,我が国の大学において医学・歯学の正規の課程を修めて卒業した者と同等以上の学力及び技能を有しているかを判定するに当たっては,教育年限,カリキュラム,教育環境,当該国の国家試験・免許制度,政府機関による医学教育の評価,日本語能力等について審査し,これらの事項についてより精度の高い資料を収集できる体制の整備に留意しながら的確に対応する必要があること,日本語能力等については,医師・歯科医師国家試験合格者が直ちに永久免許である医師・歯科医師免許を取得し医療活動を行える我が国の制度下では,日本語の語学力とともに日本語による診療能力が重要であること等の提言を行った。 厚生大臣は,本件中間報告に基づき,本件認定基準を策定し,平成3年度以降の医師国家試験に当たっては,本件認定基準に基づいて認定を行ってきた。 (7) 控訴人は,厚生大臣に対し,平成7年2月16日付けで再度本試験受験資格の認定申請(以下「本件認定申請」という。)を行ったが,それに先立ち,厚生省担当官から医師国家試験受験資格認定申請に当たって提出すべき書面等を列挙した本件一覧の交付を受け,それに従って本件認定申請を行った。そのころ厚生大臣は,本件認定基準を公開しておらず,本件認定申請を行った控訴人に対してこれを示してもいない。(8) 厚生大臣は,同年5月22日付けで,控訴人の医師国家試験受験資格については,「貴殿の医学に関する経歴等からみて」,予備試験の受験資格が相当と認められるとの処分(本件却下処分)を行った。 2 行政手続法違反の主張について(1) 行政手続法の適用控訴人は,本件却下処分には行政手続法が適用されると からみて」,予備試験の受験資格が相当と認められるとの処分(本件却下処分)を行った。 2 行政手続法違反の主張について(1) 行政手続法の適用控訴人は,本件却下処分には行政手続法が適用されるところ,厚生大臣は,本件却下処分についての審査基準である本件認定基準を策定していながらこれを控訴人に対して公にせず,また,本件却下処分において控訴人に処分の理由を示していないから,本件却下処分には行政手続法違反の違法があり,取り消されるべきである旨主張する。 よって検討するに,法は,2条において,医師になろうとする者は,医師国家試験に合格し,厚生大臣の免許を受けなければならないこととし,9条において,医師国家試験は臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能についてこれを行うこととし,11条において,医師国家試験(本試験)を受けることができる者として,学校教育法に基づく大学において医学の正規の課程を修めて卒業した者(1号),医師国家試験予備試験に合格した者で,合格した後1年以上の診療及び公衆衛生に関する実地修練を経た者(2号),外国の医学校を卒業し,又は外国で医師免許を得た者で,厚生大臣が前2者と同等以上の学力及び技能を有し,かつ,適当と認定した者(3号)を挙げ,第12条において,予備試験を受けることができる者は,外国の医学校を卒業し,又は外国で医師免許を得た者のうち,法11条3号に該当しない者であって,厚生大臣が適当と認定した者と規定している。以上の規定によれば,控訴人の本件認定申請に対して,厚生大臣が健康政策局長名で行った,控訴人については予備試験の受験資格が相当と認められるとの処分は,厚生大臣が,法に基づく公権力の行使として,控訴人の本試験受験資格の認定処分を求める申請に対し,それを拒否する処分を行ったものと認 た,控訴人については予備試験の受験資格が相当と認められるとの処分は,厚生大臣が,法に基づく公権力の行使として,控訴人の本試験受験資格の認定処分を求める申請に対し,それを拒否する処分を行ったものと認めることができるから,本件却下処分については行政手続法5条及び8条が適用されるものというべきである。 (2) 審査基準の公表厚生大臣が本件却下処分を行うに当たって用いた本件認定基準は,その内容にかんがみれば,法11条及び12条に基づき同大臣が行うこととされている認定の許否を判断するための審査基準に当たるものということができるから,厚生大臣としては,行政上特別の支障があるときを除き,これを公にしておかなければならないこととなる(行政手続法5条1項,3項)。そして,前記認定の事実によれば,厚生大臣が本件認定申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により,本件認定基準を公にしていたということができないことは明らかである。そして,本件において,本件認定基準を公にすることに行政上特別の支障があるとの事情は主張も立証もされていないから,結局,厚生大臣の本件却下処分は,行政手続法5条3項に違反する状況でされたことは明らかである。 この点について,被控訴人らは,行政手続法5条3項にいう「公にしておかなければならない」とは,申請をしょうとする者あるいは申請者に対し,審査基準を秘密にしないとの趣旨であって,対外的に積極的に周知することまで義務付けるものではなく,また公にしておく具体的方法としてどのような方法を選択するかについては,行政庁の判断にゆだねられているものと解されるところ,厚生大臣は,医師国家試験資格認定申請者に対し本件一覧を交付した上,担当官をして,個別の申請の際に,必要に応じ口頭で本件認定基準の説明をしているのである の判断にゆだねられているものと解されるところ,厚生大臣は,医師国家試験資格認定申請者に対し本件一覧を交付した上,担当官をして,個別の申請の際に,必要に応じ口頭で本件認定基準の説明をしているのであるから,本件認定基準を公にしているということができる旨主張する。なるほど,行政手続法が,36条で一定の条件に該当する複数の者に対する行政指導について共通の内容となる事項を「公表」すべき旨規定しているのに対し,5条3項においては審査基準を「公に」すべき旨を規定していることに照らすと,同条項は行政庁に対し審査基準を対外的に積極的に周知公表することまで義務付けているものではないと解することができ,また,それを公にする具体的方法については,同条項が「提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法」によるべき旨を規定していることからすると,基本的に行政庁の判断にゆだねていると解することができる。しかしながら,行政手続法5条3項は,その規定の文言から明らかなように,審査基準自体を公にすべきことを定めたものであるところ,本件認定申請の際に控訴人に交付された本件一覧は,医師国家試験受験資格の認定申請に当たって申請者が提出すべき書類を列挙したにとどまるものであって,これを交付したこともって審査基準である本件認定基準を公にしたということはできないし,本件認定申請の際に,担当官が控訴人に対して本件認定基準の説明をしたとの事情を認めるに足りる証拠はないから,結局,厚生大臣が本件認定基準を公にしていたということはできず,本件却下処分をするに当たり行政手続法5条3項に違反したというほかはない。 (3) 理由の提示前記説示のとおり,本件却下処分には行政手続法8条が適用されるから,厚生大臣は,本件却下処分を行うに当たり,申請者である控訴人に対し,同時にその 項に違反したというほかはない。 (3) 理由の提示前記説示のとおり,本件却下処分には行政手続法8条が適用されるから,厚生大臣は,本件却下処分を行うに当たり,申請者である控訴人に対し,同時にその理由を示さなければならないこととなる。 一般に,法規が行政処分に理由を付すべきものとしている場合において,その趣旨とするところは,行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるものと解されるが(最高裁判所昭和38年5月31日第2小法廷判決民集17巻4号617頁参照),申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に,申請者に対し当該処分の理由を示すべき旨を規定する行政手続法8条1項も,これと同一の趣旨に出たものと解するのが相当である。このような理由提示制度の趣旨にかんがみれば,許認可等の申請を拒否する処分に付すべき理由としては,いかなる事実関係についていかなる法規を適用して当該処分を行ったかを,申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならないというべきである。そして,当該処分が行政手続法5条の審査基準を適用した結果であって,の審査基準を公にすることに特別の行政上の支障がない場合には,当該処分に付すべき理由は,いかなる事実関係についていかなる審査基準を適用して当該処分を行ったかを,申請者においてその記載自体から了知しうる程度に記載することを要すると解される。 これを本件についてみると,本件却下処分の理由としては,「貴殿の医学に関する経歴等からみて」との理由が示されているにとどまるのであって,この理由からは,控訴人の経歴等のうちのどの点が審査基準のどの項目を満たさないために本件却下処分がされたものであるかを知ることは,控訴人にとって不可能である の理由が示されているにとどまるのであって,この理由からは,控訴人の経歴等のうちのどの点が審査基準のどの項目を満たさないために本件却下処分がされたものであるかを知ることは,控訴人にとって不可能であるというほかない。そうであるとすれば,本件却下処分は,行政手続法8条1項において処分と同時に申請者に示すべきものとされている理由の提示を欠いたままされたものであって,行政手続法8条1項に違反することは明らかである。 被控訴人らは,本件において医師国家試験受験資格認定申請者に対し,本件一覧を交付した上,個別の申請の際に,必要に応じ口頭で本件認定基準の説明をしていること,本件認定基準のうち第1項から第8項までについては本件一覧に基づいて資料の提出がされていること,同第9項及び第10項については,これらに関する資料として,本件一覧において外国で免許を取得している者にあってはその写し等,外国の資格試験に合格している者にあっては合格証書の写し等及び外国で取得した免許の根拠法令の関係条文の抜粋の提出が求められているところ,本件却下処分時において控訴人はこれらを提出していないこと,本件却下処分の通知書には控訴人の「医学に関する経歴」等からみてとの記載があるところ,本件一覧記載の提出されなかった書類がまさに前記経歴にかかわる外国で取得した免許及び外国における資格試験に関する書類であったことにかんがみると,控訴人において前記通知書の記載から本件認定基準第9項及び第10項にかかわる経歴によって却下されたと理解することが十分可能であるから,本件却下処分における理由の記載は+分である旨主張する。 しかしながら,本件において,厚生大臣がそもそも本件認定基準を公にしておらず,またその説明を担当官が行ったと認めることもできないことは前記認定のとおりであるから,控訴人が本件 +分である旨主張する。 しかしながら,本件において,厚生大臣がそもそも本件認定基準を公にしておらず,またその説明を担当官が行ったと認めることもできないことは前記認定のとおりであるから,控訴人が本件却下処分に付された理由の記載によってその具体的理由,すなわち控訴人の経歴等が審査基準の第9項及び第10項に該当しないとして本件却下処分がされたものであることを理解できるはずがないというべきである。 結局,被控訴人らの前記主張を採用することはできない。 (4) 本件却下処分の効力以上説示のとおり,本件却下処分には,その処分に際して審査基準である本件認定基準が公にされず,また,適法な理由が示されなかったという違法があるものというべきであるところ,行政手続法には,これらの規定に違反する行政処分の効力についての規定が置かれていない。 そこで検討するに,行政手続法は,行政処分,行政指導及び届出に関する手続に関し,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであること)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的として制定されたものであり,そのような目的の下に,申請に対する処分については,審査基準の設定・公表(同法5条),理由の提示(8条)等の規定を,不利益処分については,聴聞あるいは弁明の機会の付与(13条),理由の提示(14条),文書等の閲覧(18条)等の規定を置いているのであるから,行政手続法は,その適用を受ける処分について,申請者等に対し,同法の規定する適正な手続によって行政処分を受ける権利を保障したものと解するのが相当である。本件においては,既に認定したとおり,厚生大臣は,本件認定申請を行った控訴人に対し,審査基準を公表せず,また法律上提示す る適正な手続によって行政処分を受ける権利を保障したものと解するのが相当である。本件においては,既に認定したとおり,厚生大臣は,本件認定申請を行った控訴人に対し,審査基準を公表せず,また法律上提示すべきものとされている理由を提示することなく本件却下処分を行っているところ,このように行政手続法の規定する重要な手続を履践しないで行われた処分は,当該申請が不適法なものであることが一見して明白であるなどの特段の事情のある場合を除き,行政手続法に違反した違法な処分として取消しを免れないものというべきである。そして,前記認定に係る本件却下処分に至るまでの経緯に照らすと,本件において前記特段の事情があるとは到底いえないから,厚生大臣の行った本件却下処分は,違法な処分として,取消しを免れない。 よって,本件却下処分の取消しを求める控訴人の請求は理由がある。3 損害賠償請求について本件において控訴人は,本試験受験資格を認められるべきであったにもかかわらず,厚生大臣が本件却下処分を行ったことにより,本試験を受験することができず,その結果精神的苦痛を受けたと主張して,その賠償を請求する。しかしながら,既に説示したところから明らかなように,当裁判所が本件却下処分を取り消すのは,それが行政手続法に定められた手続を履践していないことを理由とするものであるから,本件却下処分が取り消されたからといってそのことから直ちに控訴人主張の損害が生ずるものではない。のみならず,法11条3号が,厚生大臣による本試験受験資格の認定について,「前2号に掲げる者と同等以上の学力及び技能を有し,且つ,適当と認定したもの」と規定し,その判断を厚生大臣の専門技術的裁量にゆだねていることや,本件における当事者双方の主張,立証にかんがみると,厚生大臣が行政手続法に従って控訴人からの本試験受 有し,且つ,適当と認定したもの」と規定し,その判断を厚生大臣の専門技術的裁量にゆだねていることや,本件における当事者双方の主張,立証にかんがみると,厚生大臣が行政手続法に従って控訴人からの本試験受験資格認定申請に対する処分を行う場合に,本試験の受験資格が肯定されるがい然性が高いとまで認定することはできない。そうすると,本試験受験資格があるのにこれを拒否されたことを前提とする本件慰謝料請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。 4 以上の次第で,控訴人の被控訴人厚生労働大臣に対する本件却下処分の取消しを求める請求は理由があるからこれを認容すべきところ,これと異なる原判決は取消しを免れないが,控訴人の被控訴人国に対する請求を棄却した部分は正当であるから,被控訴人国に対する控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第二民事部裁判長裁判官森脇勝裁判官池田克俊裁判官藤下健
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