平成28(ワ)7361 累積無事故表彰金請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年12月26日 東京地方裁判所
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判決文本文7,117 文字)

平成28年12月26日判決言渡平成28年(ワ)第7361号累積無事故表彰金請求事件 主文 1 被告は,原告Aに対し,50万円及びこれに対する平成27年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,35万円及びこれに対する平成27年11月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,被告の負担とする。 4 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,被告の従業員である原告Aが,被告に対し,被告の賞罰規程における累積無事故表彰制度に基づき,副賞50万円及びこれに対する平成27年10月1日(支払期限後の日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告の従業員である原告Bが,被告に対し,上記制度に基づき,副賞35万円及びこれに対する同年11月1日(支払期限の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実(証拠等によって認定した事実は,当該証拠等を文章中又は文末の括弧内に掲記した。)(1) 当事者ア被告は,貨物自動車運送等を業とする会社であり,その従業員数は約570人である。 イ原告Aは,昭和57年8月2日,被告との間で,期間の定めのない労働 契約を締結し,トラック乗務の業務に従事している。 ウ原告Bは,平成9年3月4日,被告との間で,期間の定めのない労働契約を締結し,トラック乗務の業務に従事している。 (2) 被告における賞罰規程被告は,平成25年7月当時,「安全運行に関する賞罰規程」(甲2。以下「本件賞罰規程」という ,期間の定めのない労働契約を締結し,トラック乗務の業務に従事している。 (2) 被告における賞罰規程被告は,平成25年7月当時,「安全運行に関する賞罰規程」(甲2。以下「本件賞罰規程」という。)において,別紙1のとおり,累積無事故運転者に対する表彰制度(以下「本件表彰制度」という。)を定めていた。 (3) 被告は,平成25年7月開催の取締役会において,本件表彰制度を事実上廃止し,さらに,平成27年4月1日,本件賞罰規程から本件表彰制度を削除した(乙1,2,弁論の全趣旨)。 (4) 原告らの請求等ア原告Aは,平成25年8月20日当時,累積無事故表彰期間が25年となっていたとして,平成27年9月11日付け内容証明郵便(同月12日到達)により,被告に対し,同月30日までに,本件表彰制度における副賞50万円を支払うよう請求した(甲3,4)。 イ原告Bは,平成27年8月20日当時,累積無事故表彰期間が15年となっていたとして,上記アの内容証明郵便(同月12日到達)により,被告に対し,同年10月31日までに,本件表彰制度における副賞35万円を支払うよう請求した(甲3,4)。 2 争点及び当事者の主張(1) 本件表彰制度の廃止は,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり,労働契約法9条,10条が適用されるか否か。 【原告ら】本件表彰制度は,副賞の支給条件等が本件賞罰規程で詳細かつ明確に定められており,平成25年7月に中止されるまで,条件を満たす対象者全員に副賞が支払われていたものであるから,上記副賞は,任意的恩恵的な給付ではなく,労働の対償 としての賃金に当たる。 したがって,本件表彰制度の廃止は,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり,労働契約法9条,10条が適用され,取締役会で 的恩恵的な給付ではなく,労働の対償 としての賃金に当たる。 したがって,本件表彰制度の廃止は,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり,労働契約法9条,10条が適用され,取締役会で上記制度を事実上廃止することも許されない。 【被告】本件表彰制度は,被告の運転者の事故を減らすため,累積無事故達成者に対し,表彰状を授与して表彰することを主目的として設置されたものであり,副賞である金員及び記念品の授与は任意的かつ恩恵的なものである上,運転者が事故に遭うか否かは偶然の要素もあることからして,上記金品は労働の対償たる賃金ではない。 また,被告は,本件表彰制度において,事業所長が候補者を業務部長に申請し,業務部長が審査の上で役員会(規程上は本部長会)に付議し,役員会が当該労働者の経歴や社内の状況等を総合勘案して表彰するか否かを決定していたところ,累積無事故達成者が表彰されるか否かは役員会の判断に委ねられていたのであり,当然に上記副賞が授与されるものではなかった。 したがって,本件賞罰規程の変更が就業規則の変更に当たるとしても,本件表彰制度の廃止は,労働条件の不利益変更に当たらず,労働契約法9条,10条の適用はない。 (2) 本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更は合理的なものか否か。 【被告】被告は,平成25年7月1日,東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」(二酸化炭素削減等の環境負荷低減の取組を進めている貨物運送事業者を実走行燃費等で評価する施策)において,被告の従業員らが記録した数値が実際の数値と大きく乖離するなどの不祥事が発覚して失格と判定されたことから,従業員らの無事故申告に対する信頼も失い,従業員らの風紀を正すことを目的として,同月開催の取締役会で本件表彰制度を事実上廃止し,平成27年4月1日,本件賞 の不祥事が発覚して失格と判定されたことから,従業員らの無事故申告に対する信頼も失い,従業員らの風紀を正すことを目的として,同月開催の取締役会で本件表彰制度を事実上廃止し,平成27年4月1日,本件賞罰規程からも削除したものであり,本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更には合理性があ る。 【原告ら】被告は,本件表彰制度廃止に係る賞罰規程の変更について,過半数代表者への意見聴取(労働基準法90条)を行っていない上,東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」において,被告が失格となったからといって,本件表彰制度を廃止する理由とはならず,被告にとって従業員の事故の把握も容易であるから,本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更には合理性がない。 第3 当裁判所の判断 1 事実認定前記前提事実,証拠(文章中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告における無事故表彰制度ア本件賞罰規程(甲2)は,昭和63年3月1日に制定され,平成7年8月21日及び平成13年8月20日に改定されているところ,第一節「賞罰規程の理念並びに目的」,第二節「無事故運転者に対する表彰」,第三節「事故発生者に対する罰則」等からなるものである(なお,本件賞罰規程が就業規則に当たることについては,当事者間において争いがない。)。 このうち,「無事故運転者に対する表彰」は,半期無事故表彰と累積無事故表彰に大別され,半期無事故表彰については,無欠勤で6か月間無事故運転を達成した運転者に対し,毎年4月と10月に中央安全委員長から口頭による表彰がされるほか,被告から副賞として3万円が授与される旨規定されていた(3条ないし7条)。 また,累積無事故表彰は,別紙1のとおり,運転者が連続5年以上無事故を続 に中央安全委員長から口頭による表彰がされるほか,被告から副賞として3万円が授与される旨規定されていた(3条ないし7条)。 また,累積無事故表彰は,別紙1のとおり,運転者が連続5年以上無事故を続けた場合に,半期無事故表彰に加えて,期間5年,10年,15年,20年,25年に応じて,毎年10月に中央安全委員長(期間5年)又は社長(期間10年以上)から表彰状が授与されるほか,被告から副賞とし て別紙2記載の金品が授与される旨規定されていた(8条,11条)。 さらに,本件賞罰規程には,別紙1のとおり,累積無事故表彰について,計算期間の定め(9条1項),累積無事故記録更新中の者が事故を発生させた場合の年数読替えによる救済措置(9条2項),累積無事故表彰の決定手続(10条)及び表彰の時期(11条)が規定されていた。 イ被告においては,平成25年7月まで,累積無事故表彰期間達成者がいる場合,各事業所長が該当者を毎年9月10日までに業務部長に申請し,業務部長が上記申請内容を審査の上,役員会に付議し,役員会が上記提案内容を審議の上,累積無事故表彰者を決定し,毎年10月に表彰を行っていた。 (甲2,弁論の全趣旨)ウ被告は,平成25年7月開催の役員ミーティングにおいて,本件表彰制度の中止を決定し,同月10日付け社内報で従業員にこれを通知した上,同月開催の取締役会において,本件表彰制度を事実上廃止した(前記前提事実(3),乙1,弁論の全趣旨)。 エ被告は,平成27年4月1日,本件賞罰規程から本件表彰制度を削除し,同月10日付け社内報で従業員に改めて同制度が廃止されたことを通知した(前記前提事実(3),乙2,弁論の全趣旨)。 (2) 原告Aは,昭和57年8月2日,被告との間で,期間の定めのない労働契約を締結し,トラック乗務の業務に 員に改めて同制度が廃止されたことを通知した(前記前提事実(3),乙2,弁論の全趣旨)。 (2) 原告Aは,昭和57年8月2日,被告との間で,期間の定めのない労働契約を締結し,トラック乗務の業務に従事してきたところ,平成25年8月20日当時,累積無事故表彰期間が25年となっていた(前記前提事実(1)イ,(4)ア,弁論の全趣旨)。 (3) 原告Bは,平成9年3月4日,被告との間で,期間の定めのない労働契約を締結し,トラック乗務の業務に従事してきたところ,平成27年8月20日当時,累積無事故表彰期間が15年となっていた(前記前提事実(1)ウ,(4)イ,弁論の全趣旨)。 2 判断(1) 争点(1)(本件表彰制度の廃止は,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり,労働契約法9条,10条が適用されるか否か)について本件賞罰規程が就業規則に当たることは,当事者間において争いがないところ,本件表彰制度の定めが賃金等の労働条件に関する規程であるとすれば,被告がこれを事実上廃止することや,労働契約法9条,10条の要件を満たさずに変更することはできず,被告は,原告らに対し,従前の規程に従って,本件表彰制度における副賞の支払義務を負うこととなる。 この点,賃金は,名称の如何を問わず,労働の対償として使用者が労働者に支払うものをいうところ(労働基準法11条参照),使用者が労働者に対して任意的恩恵的に給付するものは原則として賃金に当たらないが,就業規則,労働協約等により,あらかじめ支給条件が明確にされており,具体的な支給額の確定が可能であるものは,労働の対償たる賃金ないしこれに準ずる労働条件に当たり得るものと解される。 これを本件表彰制度についてみるに,前記認定事実(1)アによれば,本件賞罰規程には,累積無事故表彰者の表彰について, のは,労働の対償たる賃金ないしこれに準ずる労働条件に当たり得るものと解される。 これを本件表彰制度についてみるに,前記認定事実(1)アによれば,本件賞罰規程には,累積無事故表彰者の表彰について,表彰状と別紙2に示す副賞をもって行うことが規定されるとともに,①累積無事故期間の計算方法,②累積無事故記録更新中の者が事故を発生させた場合の年数読替えによる救済措置,③副賞の金額,④表彰の決定手続,⑤表彰の時期(副賞の支払時期)などについて,詳細かつ明確な規定がされており,副賞の支給条件が明確であり,具体的な支給額の確定も可能であるから,表彰の決定手続において業務部長ないし役員会における審議を要するとしても,労働の対償たる賃金又はこれに準ずる労働条件に当たるものと解される。 これに対し,被告は,本件表彰制度は,被告の運転者の事故を減らすため,累積無事故達成者に対し,表彰状を授与して表彰することを主目的として設置されたものであり,運転者が事故に遭遇するか否かは偶然の要素もある上, 業務部長ないし役員会において,当該労働者の経歴や社内の状況等を総合勘案して,表彰をするか否かを決定していたのであり,従業員が表彰されるか否かは役員会の判断に委ねられており,当然に副賞が授与されるものでもないと主張する。 しかし,被告は,平成25年7月まで,本件表彰制度の要件を満たす対象者に対し,例外なく,本件賞罰規程どおりの副賞を授与していたものとうかがうことができ(弁論の全趣旨),運転者が事故に遭遇するか否かは偶然の要素があり,表彰の決定手続において業務部長ないし役員会における審議を要するとしても,使用者側の自由裁量により表彰ないし副賞の授与が決められていたとは認め難く,上記被告の主張は採用することができない。 以上によれば,本件表彰制度の廃止は,就業 役員会における審議を要するとしても,使用者側の自由裁量により表彰ないし副賞の授与が決められていたとは認め難く,上記被告の主張は採用することができない。 以上によれば,本件表彰制度の廃止は,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に当たり,労働契約法9条,10条が適用される。 (2) 争点(2)(本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更は合理的なものか否か)について被告は,東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」において,従業員らの不祥事が発覚して失格と判定されたことから,従業員らの無事故申告に対する信頼も失い,従業員らの風紀を正すことを目的として,平成25年7月開催の取締役会で本件表彰制度を事実上廃止し,平成27年4月1日,本件賞罰規程からも削除したものであり,廃止理由に合理性もあると主張する。 この点,上記(1)のとおり,本件表彰制度は,就業規則に定められた労働条件に当たるから,取締役会で事実上廃止することはできない。 また,東京都環境局が実施する「貨物輸送評価制度」において被告が失格となったのだとしても,これが専ら被告の従業員の責めに帰すべき事由によるものか否かは判然としない上,これと本件表彰制度を廃止することに特段の関連性は認め難く,これをもって労働条件の変更の必要性を認めることは困難である。さらに,被告は本件表彰制度の廃止を一方的に決定しているこ と,労働者の受ける不利益の程度も小さくないことなどの諸事情に照らして,本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更が合理的なものであると認めることはできない。 (3) 以上によれば,原告らに対しては,本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更の効力が及ばず,従前の規程が適用されるから,被告は,原告らに対し,本件表彰制度に基づく副賞の支払義務を負う。 3 結論 上によれば,原告らに対しては,本件表彰制度の廃止に係る本件賞罰規程の変更の効力が及ばず,従前の規程が適用されるから,被告は,原告らに対し,本件表彰制度に基づく副賞の支払義務を負う。 3 結論したがって,原告らの請求はいずれも理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判官知野明 (別紙1) (表彰)第3条社有のトラックの運転者で無事故を一定期間継続した者には「半期無事故表彰」及び「累積無事故表彰」を授与する。 (累積無事故表彰)第8条運転者が連続5年以上無事故を続けた場合には「半期無事故表彰」に加え,別に定める計算期間に基づき「累積無事故表彰」を授与する。 (累積無事故表彰の計算期間等)第9条累積無事故表彰の計算期間は次の通りとする。 (1) 毎年8月21日から翌年の8月20日までの期間を1年として計算する。 (2) 計算期間の中途に入社した者はその1年に満たない期間をゼロとみなす。 (3) 計算期間の所定労働日に対して10日以上の欠勤がある者はその1年をゼロとみなす。 (4) 現業職から乗務職へ又は乗務職から現業職へ職種変更した場合は異なる職種の無事故年数は通算しない。 2 累積無事故記録の更新中の者が万一事故を発生させた場合は,その事故の軽重により「別紙2」(判決注・省略)の読替え年数表に基づき救済を行う。 但し,既に受けた累積無事故表彰を救済後に重複して表彰はしない。 (累積無事故表彰の決定)第10条各事業所長は累積無事故表彰期間5年,10年,15年,20年,25年のいずれかを達成した者がある場合は,該当者を9月10日までに業務部長へ申請する。 2 業務 累積無事故表彰の決定)第10条各事業所長は累積無事故表彰期間5年,10年,15年,20年,25年のいずれかを達成した者がある場合は,該当者を9月10日までに業務部長へ申請する。 2 業務部長は上記申請の内容を審査の上,本部長会に付議し決定を求める。 3 本部長会は業務部より提案された内容を審議の上,累積無事故表彰者を決定する。 (累積無事故表彰者の表彰方法)第11条表彰は毎年10月に5年連続無事故表彰達成者に対しては中央安全委員長が又は10年以上の者に対しては社長が,それぞれ表彰状と「別紙3」(判決注・判決別紙2)に示す副賞をもって行う。

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