昭和45(オ)297 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
昭和50年11月28日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 大阪高等裁判所 昭和38(ネ)1289
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判決文本文5,926 文字)

主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。理由 上告代理人吉田精三、同忽那隆治、同赤木文生の上告理由第一点について本件訴訟は、上告人が次のような事実、すなわち、(一) 日本の輸入業者である株式会社D物産(以下「D物産」という。)は、ブラジル国の輸出業者であるE(以下「E」という。)から本件原糖を買い受けたところ、Eは、その荷送人として、オランダ国アムステルダム市に本店をおき日本国内に営業所を持つ海運業者である被上告人と海上運送契約を締結し、被上告人から本件船荷証券の発行・交付を受け、これを荷受人であるD物産に交付した、(二) 一方、被上告人は、本件原糖をその所有船F号に船積してブラジル国サントス港から大阪港まで海上運送したが、F号の発航当時、これを堪航能力及び堪貨能力のある状態におくことについて注意義務を怠つたため、多数の袋に海水濡れを生じ一六〇万円を下らない原糖の毀損を生じさせたので、D物産に対し運送契約上の債務不履行責任又は不法行為責任に基づき右損害賠償義務を負うに至つたものであるところ、上告人は、D物産との間に締結した本件原糖を保険目的とする積荷海上保険契約に基づき、一三七万六一八〇円の保険金を支払つてD物産の被上告人に対する右損害賠償請求権を代位取得した、との事実を主張して、被上告人に対し右同額の損害賠償金及びこれに対する商事法定利率による遅延損害金の支払を求めて、被上告人の営業所所在地を管轄する神戸地方裁判所に提起したものであるが、被上告人は、本件船荷証券には「この運送契約による一切の訴は、アムステルダムにおける裁判所に提起されるべきものとし、運送人においてその他の管轄裁判所に提訴し、あるいは自ら任意にその裁判所の管轄権に服さないならば、その他のいかな この運送契約による一切の訴は、アムステルダムにおける裁判所に提起されるべきものとし、運送人においてその他の管轄裁判所に提訴し、あるいは自ら任意にその裁判所の管轄権に服さないならば、その他のいかなる訴に関しても、他の裁判所は管轄権を持つ- 1 -ことができないものとする。 れるべきものとし、運送人においてその他の管轄裁判所に提訴し、あるいは自ら任意にその裁判所の管轄権に服さないならば、その他のいかな この運送契約による一切の訴は、アムステルダムにおける裁判所に提起されるべきものとし、運送人においてその他の管轄裁判所に提訴し、あるいは自ら任意にその裁判所の管轄権に服さないならば、その他のいかなる訴に関しても、他の裁判所は管轄権を持つ- 1 -ことができないものとする。」旨の英文の管轄約款(以下「本件管轄約款」という。)が存在し、本件管轄約款は国際的専属的裁判管轄の合意であるから、本件訴訟については、アムステルダム市の裁判所が専属管轄権を有し、神戸地方裁判所は裁判権を有しないとの本案前の抗弁を主張したものである。原審は、上告人主張の前記(一)の事実及び被上告人の本件管轄約款に関する主張事実を認めたうえ、(一) 本件国際的裁判管轄の合意の有効性の判断は、法廷地であるわが国の国際民訴法によつて決定されるべきものであるところ、Eが本件船荷証券の交付を受けた際に特に本件管轄約款によらない旨を表示し又はその後に本件管轄約款に関し異議を述べたことを認めるに足りる証拠がなく、本件管轄約款は、被上告人とEとの間において、本件運送契約による運送中に生じた損害賠償を求める訴訟につき、それが債務不履行を理由とするか不法行為を理由とするかを問わず、すべてわが国の裁判権を排除してアムステルダムの裁判所を第一審の専属管轄裁判所として指定する旨の合意として成立したことが明白である、(二) 右の趣旨の合意は、わが国の裁判権に専属しない事件に関するものであり、かつ、当該外国法上でその国の裁判所が当該事件につき管轄権を有することが明らかである限り、原則として有効であると解すべきところ、本件はわが国の裁判権に専属しない事件であり、かつ、アムステルダムの裁判所は被上告人が被告として提起されるべき本件と同種の訴訟について法定の管轄権を有することが明らかであるから、本件国 すべきところ、本件はわが国の裁判権に専属しない事件であり、かつ、アムステルダムの裁判所は被上告人が被告として提起されるべき本件と同種の訴訟について法定の管轄権を有することが明らかであるから、本件国際的専属的裁判管轄の合意は有効であり、本件管轄約款を記載した本件船荷証券上に荷送人であるEの署名は存在しないが、この一事によつてその効力が左右されるものではない、(三) いわゆる船荷証券統一条約及びこれに基づく国内法である国際海上物品運送法の精神に照らすと、船荷証券上の裁判管轄約款は、それが運送人による免責約款濫用防止のために本来適用されるべきいわゆる公序法の適用を免れることを目的とし、又は企業者としての経済的優位を不当に利用し合理的範囲を超えて運- 2 -送人に偏益するなどの場合には、無効とされるべきであるが、本件の事実関係のもとにおいては、いまだ、本件管轄約款が公序法に違反すると認めるに足りない、(四) 本件管轄約款による管轄の合意の効力は、対象とされた法律関係が当事者間においてその内容を自由に定められる性質のものであるから、Eの特定承継人である上告人にも及ぶと判示し、被上告人の前示抗弁を容れて、本件訴を却下すべきものとした。 を超えて運- 2 -送人に偏益するなどの場合には、無効とされるべきであるが、本件の事実関係のもとにおいては、いまだ、本件管轄約款が公序法に違反すると認めるに足りない、(四) 本件管轄約款による管轄の合意の効力は、対象とされた法律関係が当事者間においてその内容を自由に定められる性質のものであるから、Eの特定承継人である上告人にも及ぶと判示し、被上告人の前示抗弁を容れて、本件訴を却下すべきものとした。一所論は、国際的裁判管轄の合意についても、民訴法二五条二項所定の管轄の合意と同様、書面をもつてすることを要すると主張するが、国際民訴法上の管轄の合意の方式については成文法規が存在しないので、民訴法の規定の趣旨をも参しやくしつつ条理に従つてこれを決すべきであるところ、同条の法意が当事者の意思の明確を期するためのものにほかならず、また諸外国の立法例は、裁判管轄の合意の方式として必ずしも書面によることを要求せず、船荷証券に荷送人の署名を必要としないものが多いこと、及び迅速を要する渉外的取引の安全を顧慮するときは、国 かならず、また諸外国の立法例は、裁判管轄の合意の方式として必ずしも書面によることを要求せず、船荷証券に荷送人の署名を必要としないものが多いこと、及び迅速を要する渉外的取引の安全を顧慮するときは、国際的裁判管轄の合意の方式としては、少なくとも当事者の一方が作成した書面に特定国の裁判所が明示的に指定されていて、当事者間における合意の存在と内容が明白であれば足りると解するのが相当であり、その申込と承諾の双方が当事者の署名のある書面によるのでなければならないと解すべきではない。論旨は、採用することができない。二所論は、本件管轄約款が専属的合意であることが明確ではないと主張するが、本件訴訟については、被上告人の本店所在地であるアムステルダム市の裁判所及びその営業所所在地を管轄するわが国の裁判所がいずれも法定の管轄権を有すると解されるところ、本件管轄約款はそのうち前者のみを残して他の裁判所の管轄権を排除する趣旨であることが明らかであり、かような管轄の合意は専属的合意と解するのが相当である。これと同旨の原審の認定判断は、正当として是認することができ- 3 -る。同第二点について一ある訴訟事件についてのわが国の裁判権を排除し、特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、(イ) 当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、(ロ) 指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること、の二個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効である(大審院大正五年(オ)第四七三号同年一〇月一八日判決・民録二二輯一九一六頁参照)。 国の裁判権を排除し、特定の外国の裁判所だけを第一審の管轄裁判所と指定する旨の国際的専属的裁判管轄の合意は、(イ) 当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく、(ロ) 指定された外国の裁判所が、その外国法上、当該事件につき管轄権を有すること、の二個の要件をみたす限り、わが国の国際民訴法上、原則として有効である(大審院大正五年(オ)第四七三号同年一〇月一八日判決・民録二二輯一九一六頁参照)。所論は、当該外国の裁判所が同種の管轄の合意を有効と判断することを要すると主張するが、前記(ロ)の要件を必要とする趣旨は、かりに、当該外 第四七三号同年一〇月一八日判決・民録二二輯一九一六頁参照)。所論は、当該外国の裁判所が同種の管轄の合意を有効と判断することを要すると主張するが、前記(ロ)の要件を必要とする趣旨は、かりに、当該外国の裁判所が当該事件について管轄権を有せず、当該事件を受理しないとすれば、当事者は管轄の合意の目的を遂げることができないのみでなく、いずれの裁判所においても裁判を受ける機会を喪失する結果となるがゆえにほかならないのであるから、当該外国の裁判所がその国の法律のもとにおいて、当該事件につき管轄権を有するときには、右(ロ)の要件は充足されたものというべきであり、当該外国法が国際的専属的裁判管轄の合意を必ずしも有効と認めることを要するものではない。本件において、原審の確定したところによれば、アムステルダムの裁判所が本件訴訟につき法定管轄権を有するというのであるから、原判決が所論の点について判示しなかつたことをもつて、所論の違法があるとはいえない。二所論は、国際的専属的裁判管轄の合意が有効と認められるためには民訴法二〇〇条四号の相互の保証のあることを要すると主張する。しかしながら、外国判決により当該外国において強制執行をすることは一般的に可能であり、相互保証が存在しないためわが国における右外国判決による強制執行が不能であるとしても、前記一(ロ)の要件を欠く場合とは異なり、権利の実現が全く閉ざされることとなる- 4 -ものではなく、管轄の合意は本来判決手続についてされるものであるが、当事者は、その合意をするにあたつて、当該外国における強制執行の実効性を考慮しうるし、また、この強制執行のため費用等の負担の増大をきたすことがあるが、かかる負担の増大は、管轄の合意に伴う附随的結果にほかならない。 決による強制執行が不能であるとしても、前記一(ロ)の要件を欠く場合とは異なり、権利の実現が全く閉ざされることとなる- 4 -ものではなく、管轄の合意は本来判決手続についてされるものであるが、当事者は、その合意をするにあたつて、当該外国における強制執行の実効性を考慮しうるし、また、この強制執行のため費用等の負担の増大をきたすことがあるが、かかる負担の増大は、管轄の合意に伴う附随的結果にほかならない。したがつて、わが国の裁判権を排除する管轄の合意を有効と認め しうるし、また、この強制執行のため費用等の負担の増大をきたすことがあるが、かかる負担の増大は、管轄の合意に伴う附随的結果にほかならない。したがつて、わが国の裁判権を排除する管轄の合意を有効と認めるためには、当該外国判決の承認の要件としての相互の保証をも要件とする必要はないものというべきであり、このように解しても当事者が右合意によつて通常意図したところは十分に達せられるというべきである。論旨は、採用することができない。同第三点について所論の点に関する原審の認定判断もまた、正当である。原審は、本件管轄約款の趣旨を合理的に探究してその管轄の合意の対象となる法律関係についての当事者の意思が原判示のとおりであると認定したのであつて、債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権との競合を否定する趣旨を判示したのではなく、右の管轄の合意が本訴についてのわが国の裁判権を排除する効力を有するかどうかの本案前の抗弁に対する判断にあたり、法廷地であるわが国の国際民訴法がその準拠法となる旨を判示したのにすぎないのである。所論は、原判決を正解せず、独自の見解に基づいて原審の判断を非難するものであり、論旨は採用することができない。同第四点について被告の普通裁判籍を管轄する裁判所を第一審の専属的管轄裁判所と定める国際的専属的裁判管轄の合意は、「原告は被告の法廷に従う」との普遍的な原理と、被告が国際的海運業者である場合には渉外的取引から生ずる紛争につき特定の国の裁判所にのみ管轄の限定をはかろうとするのも経営政策として保護するに足りるものであることを考慮するときは、右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反す- 5 -るとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。したがつて、被上告人の本店所在地の裁判所を専属的管轄裁 意は、「原告は被告の法廷に従う」との普遍的な原理と、被告が国際的海運業者である場合には渉外的取引から生ずる紛争につき特定の国の裁判所にのみ管轄の限定をはかろうとするのも経営政策として保護するに足りるものであることを考慮するときは、右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反す- 5 -るとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。したがつて、被上告人の本店所在地の裁判所を専属的管轄裁 あることを考慮するときは、右管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に違反す- 5 -るとき等の場合は格別、原則として有効と認めるべきである。したがつて、被上告人の本店所在地の裁判所を専属的管轄裁判所として指定した本件管轄約款は、所論指摘の諸点を考慮に入れても、公序法に違反する無効なものであるということはできない。これと同趣旨の原審の判断は正当であり、論旨は採用することができない。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官高辻正己裁判官関根小郷裁判官天野武一裁判官坂本吉勝裁判官江里口清雄- 6 -

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