主文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して金30万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 請求原因の要旨原告は,原告と被告C間の平成11年11月10日の金銭消費貸借契約に関し,被告Cに返還すべき預り金計30万円(平成12年6月15日分14万5000円及び平成12年12月15日分15万5000円の合計金)を,被告Cの受領代理人として,被告Cの娘である被告B(旧姓B’)に対し返還したのに,被告Cが,原告を相手として小倉簡易裁判所に提起した不当利得返還請求訴訟(小倉簡裁平成13年(ハ)第2109号,以下「小倉訴訟」 という。)において,その事実の主張が認められず敗訴し,さらに,原告が被告Bを被告として折尾簡易裁判所に提起した不当利得返還請求の少額訴訟(当庁平成14年(少コ)4号,以下「折尾訴訟」という。)においても敗訴したのは,被告らが法廷での証言,供述を都合のいいように覆した結果であり,それは,司法制度に対する信用への重大な裏切り行為であって,被告らは共謀して原告を騙して金30万円を詐取し,原告は同額の損害を受けたので,共同不法行為による損害賠償として,被告らに対し金30万円及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 2 抗弁の要旨(本案前の主張)原告の本訴請求は,小倉訴訟及び折尾訴訟における審理の対象(訴訟物)と同一であって,既判力に抵触するから,本件訴えは不適法として却下されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 訴えをもって主張された実体法上の請求権ごとに一つの訴訟物が成立するとする,いわゆる旧訴訟物理論ないし判例によ 抵触するから,本件訴えは不適法として却下されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 訴えをもって主張された実体法上の請求権ごとに一つの訴訟物が成立するとする,いわゆる旧訴訟物理論ないし判例によれば,本訴の訴訟物は,原告の被告らに対する「(共同)不法行為に基づく損害賠償請求権」であり,折尾訴訟の訴訟物は,原告の被告Bに対する「不当利得返還請求権」であって,本訴と折尾訴訟は訴訟物を異にするから,本訴は,理由中の判断にすぎない小倉訴訟判決の既判力は勿論,折尾訴訟判決の既判力にも抵触するものではないと解される(また,当事者も,両訴訟で全く同一ではない。)。 一般論としては,別異の訴訟物を構成すると観念される請求について,たとえ同一の利益を求めるものであっても,数個の訴えを別々にあるいは順次に提起することは,前訴の既判力の制約を受けることはなく,当事者の自由になし得るところであるとするのが,わが国現行民事訴訟の原則である。したがって,この原則からすれば,原告主張のとおり,本訴は何ら問題はなく,抗弁は排斥されるべきものということになる。 2 信義誠実の原則(以下「信義則」という。)が民事訴訟法の領域にも妥当するかについては,かっての支配的な否定的見解はともかく,近時,最高裁,下級審を含めた判例上も,その適用を肯定するについて異論はない。のみならず,訴訟関係と私法上の法律関係の本質論的峻別を指向する伝統的訴訟観への反省や信義則を積極適用する最近の裁判例の流れを法律立法的に追認する形で,訴訟審理の公正迅速の原則および信義則を裁判所および当事者の責務とした,新民事訴訟法第2条が新設された現在,わが国の民事訴訟法の原理として,私法上の法律関係と同様,民事訴訟のあらゆる局面における,信義則適用についての新たな解釈論の展開が期待されているところであると ,新民事訴訟法第2条が新設された現在,わが国の民事訴訟法の原理として,私法上の法律関係と同様,民事訴訟のあらゆる局面における,信義則適用についての新たな解釈論の展開が期待されているところであると思われる。 3 当裁判所は,以上の観点から,本件においても信義則を適用することが妥当であると考えるので,以下,検討する。 (1)上記のとおり,本訴と折尾訴訟は,訴訟物を異にするとはいえ(既判力は理由中の判断には生じないから,小倉訴訟判決と本訴との既判力抵触の問題は起こらず,その点の被告らの主張は失当である。),結局,いずれも原告が被告Bに交付した金30万円の取り戻しを目的として提起したものであり,本訴は,実質的には,折尾訴訟の蒸し返しというべきものである。 (2)原告が,何ら特段の支障,困難な事情が認められないのに,小倉訴訟の敗訴判決に対して控訴をせず同判決を確定させ,さらに自ら提起した折尾訴訟の少額訴訟敗訴判決に対して異議を申し立てずに同判決をも確定させておきながら,なお,さらに本訴を提起することは,被告らに不当に長く,世上いわゆる「裁判沙汰」の痛苦を与え続けることとなり,本訴は,閉塞状態が続き低迷する現下の日本経済の中にあって,銀行の普通預金金利の千数百倍の超高金利の貸し付けでひとり繁盛する消費者金融と他方で増え続ける多重債務者・自己破産者の実態が社会問題化している公知の状況下にあって,貸金業者たる原告に対して,利息制限法所定の範囲内での引き直し計算を要求し過払金の不当利得返還請求訴訟を当然ながら提起した,「健康で文化的な最低限度の生活」(日本国憲法第25条)の糧たる年金をも担保に借金をせざるを得ないほどの経済的弱者と思われる債務者・被告らを困らす目的でなされた,嫌がらせ訴訟の疑いを免れず,信義則に照らして,許され 度の生活」(日本国憲法第25条)の糧たる年金をも担保に借金をせざるを得ないほどの経済的弱者と思われる債務者・被告らを困らす目的でなされた,嫌がらせ訴訟の疑いを免れず,信義則に照らして,許されないものと解するのが相当である。 (3)もっとも,原告は小倉訴訟及び折尾訴訟とも,その訴訟追行を弁護士代理人には委任せず,自社従業員による許可代理人または代表者本人自身によって訴訟行為をなしていて,本件においても,当裁判所による原,被告本人の主張の善解とそれに基づく求釈明に対し法律論的応答をなすべき時点になって,ようやく原告に弁護士代理人が就いたことを考慮すると,法律の専門家でないと思われる原告らの法律一般殊に手続法上の知識の有無・程度を,信義則適用にあたり,原告に有利に斟酌すべき事情のひとつとなし得る可能性もないではない。 しかし,原告は貸金業を業とするれっきとした株式会社である上,証拠及び弁論の全趣旨等によって,以下の事情も認められるから, 上記の判断を左右しない。 ア原告と被告C間の平成11年11月10日の金銭消費貸借契約は,本来担保に供することが法律上原則的に禁じられている,被告Cの老齢年金及び遺族年金の年金受給権を担保にしたもので,かつ借主たる被告Cの年金振込用銀行預金通帳と届出印及びキャッシュカードを貸主たる原告に手渡すという,債務者に心理的圧迫を加えて弁済を促す目的のための手段としては通常あり得ない,かって恩給担保について判例法理によって展開された脱法行為とも評すべき貸付方法であることが認められ,それは,他人の窮迫・軽率・無経験などに乗じた公序良俗違反の行為である等との観点からも,法律上問題視され得る貸付形態であって,そもそも,本件当事者間の紛争の淵源は,かような年金担保,原告が被告Cの預金通帳等の引渡を受け 率・無経験などに乗じた公序良俗違反の行為である等との観点からも,法律上問題視され得る貸付形態であって,そもそも,本件当事者間の紛争の淵源は,かような年金担保,原告が被告Cの預金通帳等の引渡を受けていたことに胚胎していると考えられること。 イ原告は,折尾訴訟においても(当裁判所に顕著な事実),本訴においても,唯我独尊的とも言える主張を繰り返し,裁判所の和解の勧告に応じないばかりでなく,本件代理人弁護士に本件の訴訟委任をした後においては,事案の性質上本件を和解により解決すべきである,との法律専門家たる同弁護士の真摯かつ良心的な指導・助言がなされたと思われる(弁論の全趣旨)のに,それを受け入れず,原告に代理人弁護士が就いた後に和解のテーブルについた被告らの期待を裏切り,法律の素人である被告らにとっては困難な法的主張を対抗的に準備せざるを得ない立場に追い込んだこと。 ウ他方,本人自身で本件訴訟を追行した被告らは,一旦は和解の意思も示したが,上記のとおりの原告の訴訟姿勢に対抗するため,やむを得ず,市民法律家である司法書士の適時適切なリーガル・サポートを受けて,裁判所の釈明に対する適正な法的主張をするなど,折尾訴訟を含めその応訴態度は,とりたてて問題とすべきところはなかったこと。 4 以上のとおり,信義則を適用した結果,原告による本訴の提起自体を許されないものとすべき根拠は十分に認められ,訴え却下を求める被告らの主張は,結論的に理由があるから,主文のとおり判決する。 折尾簡易裁判所裁判官仲宗根勇
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