平成19(わ)698 証券取引法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成20年1月16日 札幌地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-35865.txt

判決文本文5,378 文字)

- 1 -主文被告人を懲役1年6月及び罰金70万円に処する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。 被告人から金3591万3700円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,株式会社A(以下「A社」という。)の代表取締役であったものであるが,平成17年5月5日,A社といずれもその発行する株券を東京証券取引所市場第1部に上場していたB株式会社(以下「B社」という。)及び株式会社C(以下「C社」という。)等との間におけるプレス配布資料の作成及びこれと密接に関連する業務の請負契約締結,交渉に関し,B社及びC社の業務執行を決定する機関が,D株式会社(以下「D社」という。)と共同持株会社を設立するため株式移転を行うことについての決定をした旨の各社の業務等に関する重要事実を知り,あらかじめB社及びC社の株券をそれぞれ買い付け同重要事実の公表後に各株券を売り抜けて利益を得ようと企て,法定の除外事由がないのに,別表記載のとおり,同重要事実の公表前である同月13日から同年6月23日までの間,E証券株式会社を介し,東京都中央区日本橋兜町2番1号所在の東京証券取引所において,B社及びC社の株券合計2万1000株を代金合計3241万4000円で買い付けたものである。 (証拠の標目)省略(事実認定上の補足説明)本件公訴事実については,被告人はこれを全て認めるとし,弁護人も公訴事実自体は争わないとしながらも,以下の諸点につき縷々供述ないし主張をしている。当- 2 -裁判所は,公訴事実を一部改めて判示のとおりの認定をしたので,以下に補足して説明をする。 公訴事実中の「プレス配布資料の作成に係る業務請負契約の締結に関し」との部分に をしている。当- 2 -裁判所は,公訴事実を一部改めて判示のとおりの認定をしたので,以下に補足して説明をする。 公訴事実中の「プレス配布資料の作成に係る業務請負契約の締結に関し」との部分についてB社の当時の代表取締役であるFは,平成17年5月5日(以下,年の記載がない場合は平成17年のそれを指す。)に,プレス配布資料(以下,「プレスキット」ともいう。)作成に関する話合いをした旨証言している。一方,被告人は,5月5日の時点では,プレスキットの作成に係る業務請負契約の締結をしておらず,Fからプレスキットのことを初めて聞かされたのは,5月20日であった旨供述している。 そこで他の証拠を検討するに,被告人のスケジュール帳をみると,Fが5月5日の話合いの際に説明したとする経営統合後の3社の関係を表した組織図らしき図が,5月20日と認定できる箇所〔乙9資料3〕に記載されている。また,5月5日に記載されたものと認定できる箇所〔乙6資料6〕にはプレスキットに関する記載がない。このことは,5月5日にプレスキット自体に関する話合いがなかったことを窺わせる。被告人の公判供述はこのような客観証拠と整合している上,内容をみても特段不自然なところはない。そうすると,5月5日にプレスキット自体に関する話合いがなされたとは認められない。 もっとも,被告人の公判供述,被告人のスケジュール帳〔乙6資料6〕,経営統合に関するグループCI戦略仮設プランニング〔乙9資料4〕,『G』経営統合の概要第1稿〔乙9資料7〕,同第5稿〔乙9資料8〕等の関係各証拠によれば,5月5日の時点で,B社,C社,D社が経営統合後に形成するグループのコーポレートアイデンティティ(CI)に関する話合いがなされていたことが認められる。上記各証拠からすれば,これがプレス配布資料の作成と密接に関連す で,B社,C社,D社が経営統合後に形成するグループのコーポレートアイデンティティ(CI)に関する話合いがなされていたことが認められる。上記各証拠からすれば,これがプレス配布資料の作成と密接に関連する業務であること,その意味で,プレス配布資料作成の請負契約締結の交渉といえることは明らかである。そして,証券取引法(現金融商品取引法)166条1項- 3 -4号にいう「当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき」とは,当該契約の締結・交渉・履行に密接に関連する行為により知った場合を含むものと解されるから,判示のとおり,被告人は「プレス配布資料の作成及びこれと密接に関連する業務の請負契約締結,交渉に関し」重要事実を知ったものと認定した。 公訴事実中の「共同持株会社を設立するため株式移転を行うことについての決定をした旨の各社の業務等に関する重要事実」との部分について被告人は,5月5日には,経営統合の話は聞いていたが,その統合の手法として,共同持株会社を設立して株式移転を行うというものになるとは聞いていない旨供述している。しかしながら,被告人は,同日のスケジュール帳に自ら社名を「H」などと記載しているところ〔乙6資料6-1〕,被告人としても,ホールドが持つという意味であること〔被告人第6回公判供述〕,ホールディングカンパニーが持株会社という意味であることは認識していたものと認められる〔乙6〕。そして,株式移転は持株会社設立の一般的な手法の一つである上,被告人が,本件で設立されたG株式会社につき,株式移転の手法によることを格別に除外していたというような事情も見当たらないのであるから,公訴事実のとおりの重要事実を知ったものと認められる。 公訴事実中の「あらかじめ…利益を得ようと企て」との部分について被告人は,判示の重要事実を踏ま たというような事情も見当たらないのであるから,公訴事実のとおりの重要事実を知ったものと認められる。 公訴事実中の「あらかじめ…利益を得ようと企て」との部分について被告人は,判示の重要事実を踏まえて本件株取引を行ったものではない旨供述している。確かに,被告人は,成行取引ではなく指値取引により株式を購入していること,重要事実以外にもB社株及びC社株の株価上昇を予測させる材料があったことや経営統合によっても必ずしも株価が上昇しないことをも考慮していた様子が窺えること,重要事実公表前に本件株式を売却しようとしていたことなど,被告人の供述に沿うような証拠も存在する。しかしながら,被告人は,株取引の目的を資金の運用であるとも供述しており,それが利益を得る目的を含むのは明らかである上,平成14年3月13日以降は買付をしていなかった(平成16年- 4 -6月21日に信用取引で空売りして株を買い戻したもの〔乙10〕を除く。)B社株を,重要事実を知ったその翌日に購入しようとしていること〔乙10〕等に照らせば,判示の重要事実がB社株及びC社株買付の一つの重要な要素になっていたといわざるを得ず,その意味で,「あらかじめ…利益を得ようと企て」ていたと認定することができる。 (法令の適用)罰条包括して平成17年法律第87号による改正前の証券取引法198条19号,166条1項4号,2項1号リ刑種の選択懲役刑及び罰金刑を選択労役場留置刑法18条(金1万円を1日に換算)刑の執行猶予刑法25条1項(懲役刑につき)追徴上記改正前の証券取引法198条の2第2項,1項1号訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,判示のとおりのいわゆるインサイダー取引による証券取引法違反の事案である。 被告人は,A社の代表 198条の2第2項,1項1号訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,判示のとおりのいわゆるインサイダー取引による証券取引法違反の事案である。 被告人は,A社の代表取締役として,かねてよりB社のブランドや店舗のデザイン等の業務を請け負い,B社の代表取締役社長Fの片腕的な存在であったが,同人らとの会食の際に,たまたま同人から判示の重要事実を聞かされたこともあって,判示犯行に及んだものである。被告人の供述によっても,Fから株取引が禁止されないと聞いたというに過ぎず,利益を得る目的で安易に犯行に及んでいる。インサイダー取引が一般投資家の犠牲の下に行われる性質のものであることからすれば,その利欲的な動機は厳しい非難を免れない。 被告人は,B社株及びC社株合計2万1000株を買い付け,その売却価格は合計3591万3700円にも上り,売却によって得た利益も349万9700円と少なくない。本件犯行が,証券市場の公正性と健全性を損ない,一般投資家の証券- 5 -市場に対する信頼を傷つけるものであることも看過できない。また,インサイダー取引が誘惑的で模倣性が強い犯罪であることを考えると,一般予防の見地も無視できない。 以上によれば,被告人の刑事責任は重い。 他方,被告人は,インサイダー取引に利用するために自身が積極的に重要事実に関する情報を入手しようとしていたわけではないこと,上記のように,5月5日の時点においては,Fからプレスキット自体に関する話を聞いておらず,当初から株式移転比率等の具体的な情報を得て犯行に及んだものでもないこと,重要事実のみをもって本件株式購入を行ったわけではなく,その利欲性はさほど高いとまではいえないこと,被告人の株取引の経歴等からすれば,本件株取引がインサイダー取引規制の対象となることを少なくと と,重要事実のみをもって本件株式購入を行ったわけではなく,その利欲性はさほど高いとまではいえないこと,被告人の株取引の経歴等からすれば,本件株取引がインサイダー取引規制の対象となることを少なくとも未必的には認識していたものと認められるが,株取引禁止を明確に認識したと供述している時期以降は株取引を行っていないこと(なお,Iは,被告人が,6月15日の時点でIから株取引禁止を聞いており,翌週には秘密保持契約を認識していた旨証言しているが,その証言は,日付につき関係証拠と整合しない点があり,日付の特定についてまでは記憶が正確でない可能性がある一方で,この点に関する被告人の供述は関係証拠とも整合しており,特段不自然な点がない。したがって,Iが供述する上記各事実はいずれも認められない。),被告人は,公訴事実自体は認めており,本件によって得た利益相当額合計349万9700円を贖罪寄付し,すべての保有株式を処分した上で,今後は株取引から手を引く旨供述するなど,反省の態度と改悛の情を示していること,本件の発覚によりA社が取引先から契約を解除され1億3000万円以上の損失を負ったほか,A社及びその関連会社の代表取締役ないし取締役を辞任するなど,既に一定の社会的制裁を受けていること,禁錮以上の刑を受けることにより建築士の資格を失うおそれがあること,業務上過失傷害による罰金前科1犯を除き前科前歴がないこと,妻が今後の指導監督を約束する陳述書を提出していることなど,被告人のために酌むべき諸事情も認められる。 - 6 -しかしながら,これらの諸事情を十分に考慮してもなお,上記のとおりの本件の犯情等からすれば,本件は罰金刑のみを選択すべき事案とは到底いえず,懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択するのが相当である。そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人に対し,主文の お,上記のとおりの本件の犯情等からすれば,本件は罰金刑のみを選択すべき事案とは到底いえず,懲役刑及び罰金刑の併科刑を選択するのが相当である。そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人に対し,主文の刑を量定した上,懲役刑についてその執行を猶予することとした。 なお,追徴については,必要的没収・追徴を規定した上記改正前の証券取引法198条の2第1項本文,2項は,犯人が得た利益のみならず,インサイダー取引によって取得した不正財産を原則としてすべて没収・追徴することにより,不公正な取引を防止して健全な証券取引市場の確立を図ったものであり,同条第1項ただし書,2項はその例外的規定と解されるところ,判示のとおり株券合計2万1000株を買い付け,これを順次売却して得た売却価格が合計3591万3700円であるという本件株券取得及び売却の態様,被告人の資産状況等にかんがみれば,被告人の得た株券すべての没収に代わり,上記売却価格全額を追徴するのはやむを得ないと判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (出席検察官橋本ひろみ,武田純一私選弁護人高橋司(主任),近藤健大,平岩篤郎求刑懲役1年6月及び罰金100万円,追徴金3591万3700円)平成20年1月16日札幌地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官嶋原文雄- 7 -裁判官坂田威一郎裁判官石渡圭別表番株券発行会社買付期間買付株数買付代金号(平成17年)1B社5月13日から4000株403万3000円同月18日2C社6月21日から1万7000株2838万1000円同月23日買付株数合計2万1000株買付代金合計3241万4000円 0円同月23日買付株数合計2万1000株買付代金合計3241万4000円

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る