- 1 - 主文 本件各上告を棄却する。 理由 被告人両名の弁護人川原史郎ほかの上告趣意のうち,最高裁昭和55年(あ)第1284号同58年12月13日第三小法廷判決・刑集37巻10号1581頁を引用して判例違反をいう点は,原判決の認定は不意打ちとは認められないから,前提を欠き,その余は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。 所論に鑑み,被告人両名に対する証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの。以下同じ。)167条3項違反の罪の成否について,職権で判断する。 1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係等は,次のとおりである。 (1) 証券取引法167条3項は,公開買付者等関係者から公開買付け又はこれに準ずる行為の実施に関する事実の伝達を受けた者による当該公開買付け等に係る株券等の取引を規制しているところ,証券取引法施行令(平成17年政令第19号による改正前のもの)31条は,会社の総株主の議決権数の5%以上の株券等の買集めを,公開買付けに準ずる行為と定めている。 (2) 被告人株式会社A(以下「被告会社」という。)は,本件当時,投資顧問業者として関東財務局長の登録を受けるとともに,内閣総理大臣から投資一任契約に係る業務を行うことの認可を受けて投資事業組合等と投資一任契約を締結して同契約に係る業務を行っていた。被告人B(以下「被告人」という。)は,被告会社- 2 -の取締役であって,その実質的経営者であったもので,被告会社及び同社が運用する投資事業組合等を統括していた(以下,被告人が統括していた会社等を「Bファンド」と 」という。)は,被告会社- 2 -の取締役であって,その実質的経営者であったもので,被告会社及び同社が運用する投資事業組合等を統括していた(以下,被告人が統括していた会社等を「Bファンド」という。)。 (3) 被告人は,株式会社C(以下「C」という。)の株券(以下「C株」という。)の多数を取得すれば,同社が筆頭株主の地位にある株式会社Dの経営も間接的に支配できることに着目し,Bファンドにおいて,最終的にはC株を高値で売却し利益を上げることを目的として,平成13年1月から本件当時まで,C株を順次買い付けていた。 (4) E(以下「E」という。)は,本件当時,株式会社F(以下「F」という。)の代表取締役兼最高経営責任者として,同社の業務全般を統括し,G(以下「G」という。)は,同社の取締役兼最高財務責任者であり,財務面の責任者であった。 (5) 被告人は,E及びGに対し,平成16年9月15日,C株の3分の1を取得すれば,Bファンドが保有するC株18%と合わせて,同社の経営権を掌握でき,たとえ失敗しても株式会社DによるC株の公開買付けなどに応じればリスクはないなどと,C株の大量買集めを働き掛けた。E及びGは,その直後から,翌年6月のC定時株主総会において同社の経営権を取得するため,C株の3分の1の買集めに強い興味を持ち,その実現のための資金調達や具体的方策の検討をFの従業員らに指示した。 (6) 上記従業員らの検討も踏まえて,E及びGは,同年11月8日までに,3分の1を目標にC株を購入するための作業等を行っていく旨の決定をした(以下「本件決定」という。)。 - 3 -(7) その後,F側からの要請で,同年11月8日,Bファンド側との会議が同ファンドの会議室において開催され,その場で,被告人は,Gが「資金のめどが立 下「本件決定」という。)。 - 3 -(7) その後,F側からの要請で,同年11月8日,Bファンド側との会議が同ファンドの会議室において開催され,その場で,被告人は,Gが「資金のめどが立ったので,具体的に進めさせていただきたい。」旨の発言をし,E及びGがC株の3分の1の取得を目指す旨の決意表明をするのを聞いた。 (8) 同年11月8日の段階でC株の5%の取得には約98億円を要するところ,Gは,同年10月19日までの段階で,C株の大量買集めのための資金として,借入資金の200億円とFの自己資金100億円余りを確保できるとの見込みを抱いていた。また,同年9月末の時点でのFの財務状況は,その公表情報によれば,現預金資産が,連結で約454億円,単体で約309億円などというものであった上に,同年9月16日には,500億円のユーロ円建転換社債の発行を大手証券会社から提案されていた。 (9) 被告人は,本件当時,Fの企業規模,経営内容等について十分把握していた。 (10) 被告人は,被告会社の業務及び財産に関し,同年11月9日から平成17年1月26日までの間,東京証券取引市場第2部等において,被告会社が運用する投資事業組合等の名義で,C株合計193万3100株を価格合計99億5216万2084円で買い付けた。 (11) Fは,最終的に転換価額修正条項付転換社債の発行により約800億円の資金調達を実現して同年2月8日からC株の買集めに着手し,同日C株の5%取得を公表した後,同年3月25日には,Cの総株主の議決権数の過半数を取得するに至った。 (12) 被告人は,同年2月8日,Bファンドが所有するC株(634万8950- 4 -株)の約半分を1株6050円でFに売却し,さらに,FによるC株5%取得の公表を受けてC株が高騰す た。 (12) 被告人は,同年2月8日,Bファンドが所有するC株(634万8950- 4 -株)の約半分を1株6050円でFに売却し,さらに,FによるC株5%取得の公表を受けてC株が高騰する中,同月10日,C株157万8220株を1株平均8747円で売却するなどし,Bファンドは多額の利益を得た。 2 原判決は,E及びGは,証券取引法167条2項にいうFの「業務執行を決定する機関」であるとし,同項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」に該当するか否かの検討の対象となる決定は,主観的にも客観的にもそれ相応の根拠を持って実現可能性があるといえて初めて,「公開買付け等を行うことについての決定」に該当するということができるという解釈を示した上で,本件決定にはそのような実現可能性があったなどとして,同決定は,本件で問題となる「公開買付け等を行うことについての決定」,すなわちCの総株主の議決権数の5%以上の株券の買集め(以下「C株の5%以上の買集め」という。)を行うことについての決定に該当すると認め,被告人及び被告会社につき,それぞれ証券取引法167条3項違反の罪が成立するとした。 3 所論は,E及びGは,当時のFの他の2名の取締役から,C株の5%以上の買集めにつき実質的な決定を行う権限は付与されていなかったから,証券取引法167条2項にいう「業務執行を決定する機関」ではないし,本件決定には原判決が認めるような実現可能性はなかったから,本件決定は「公開買付け等を行うことについての決定」に該当しない旨主張する。 しかしながら,上記1(4)のとおりのF内におけるE及びGの立場等に加え,記録によれば,E及びG以外のFの取締役2名は,いずれも非常勤であり,E及びGに対し,その経営判断を信頼して,企業買収に向けた資金調達等の作業の遂行 4)のとおりのF内におけるE及びGの立場等に加え,記録によれば,E及びG以外のFの取締役2名は,いずれも非常勤であり,E及びGに対し,その経営判断を信頼して,企業買収に向けた資金調達等の作業の遂行を委ねていたと認められることに鑑みると,両名は,C株の5%以上の買集めを行うこ- 5 -とについて実質的にFの意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関,すなわち証券取引法167条2項にいう「業務執行を決定する機関」に該当するものということができ,この点に関する原判断は正当である。 次に,本件決定が証券取引法167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」に該当するかについて検討する。同条1項(ただし,平成16年法律第97号による改正前のもの。以下同項につき同じ。)は,同条にいう「公開買付け等」の意義を定め,同条2項は,法人の業務執行を決定する機関が公開買付け等の決定をしたことが同条1項にいう「公開買付け等の実施に関する事実」に当たることを定めるとともに,ただし書において,投資者の投資に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除くものとしている。同条は,禁止される行為の範囲について,客観的,具体的に定め,投資者の投資判断に対する影響を要件として規定していない。これは,規制範囲を明確にして予測可能性を高める見地から,同条2項の決定の事実があれば通常それのみで投資判断に影響を及ぼし得ると認められる行為に規制対象を限定することによって,投資判断に対する個々具体的な影響の有無程度を問わないこととした趣旨と解される。したがって,公開買付け等の実現可能性が全くあるいはほとんど存在せず,一般の投資者の投資判断に影響を及ぼすことが想定されないために,同条2項の「公開買付け等を行うことについての決定」とい 解される。したがって,公開買付け等の実現可能性が全くあるいはほとんど存在せず,一般の投資者の投資判断に影響を及ぼすことが想定されないために,同条2項の「公開買付け等を行うことについての決定」というべき実質を有しない場合があり得るのは別として,上記「決定」をしたというためには,上記のような機関において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しないと解するのが相当である(最高裁平成10年(あ)第1146号,- 6 -第1229号同11年6月10日第一小法廷判決・刑集53巻5号415頁参照)。これを本件についてみると,上記1(5)から(8)記載の事実に照らし,公開買付け等の実現可能性が全くあるいはほとんど存在しないという状況でなかったことは明らかであって,上記「決定」があったと認めるに十分である。そうすると,原判決が,主観的にも客観的にもそれ相応の根拠を持って実現可能性があることを上記「決定」該当性の要件としたことは相当でないが,本件決定が同条2項の「公開買付け等を行うことについての決定」に該当するとした結論は正当である。 以上のとおりであり,所論は採用できず,平成16年11月8日の会議における本件決定の被告人に対する伝達,被告人の証券取引法167条3項違反の罪の故意をそれぞれ認めた原判断も,上記1の事実関係及び記録に照らし是認できるから,上記1(10)のC株の買い付け行為につき同罪の成立を認めた原判断は正当である。 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官櫻井龍子裁判官宮川光治裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁 ある。 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官櫻井龍子裁判官宮川光治裁判官金築誠志裁判官横田尤孝裁判官白木勇)
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