平成5(ワ)1819 富国生命保険休職命令無効確認

裁判年月日・裁判所
平成6年5月25日 東京地方裁判所
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判決文本文12,222 文字)

主文 一被告の原告に対する、平成五年二月二六日付けの同年三月一日から六か月間の休職命令及び同年八月二三日付けの同年九月一日から一年間の休職命令は、いずれも無効であることを確認する。 二被告は、原告に対し、金三六二万八二四〇円及び平成六年六月二〇日、同年七月二〇日、同年八月二〇日及び同年九月二〇日限り、それぞれ金二五万九一六〇円を支払え。 三原告のその余の請求を棄却する。 四訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 五この判決第二項は、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一請求一主文第一項同旨二同第二項同旨三被告は、原告に対し、金一八〇万円及びこれに対する平成五年八月二五日(訴状送達の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 第二事案の概要本件は、被告が、原告の頚肩腕障害を理由に、原告に対し、主文第一項記載のとおりの六か月間及び一年間の各休職命令を出したのに対し、原告が、右頚肩腕障害は通常勤務に何ら支障のない程度にまで回復したから、就業規則に定める休職事由には該当しないとして、右各休職命令の無効確認、未払賃金の支払い及び慰謝料の支払いを求めた事案である。 一当事者間に争いがない事実 1 原告は、昭和四九年七月に被告と雇用契約を締結し、被告八王子支社において業務に従事してきた。 2 被告は、原告に対し、平成五年二月二六日付け「通知書」をもって、原告を、被告内務職員就業規則(以下「就業規則」という。)第四八条一項の(5)(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に基づき、同年三月一日から六か月間の休職とする旨通知し 資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に基づき、同年三月一日から六か月間の休職とする旨通知した(以下これを「第一回休職命令」という)。 3 被告は、原告に対し、同年八月二三日付け「通知書」をもって、就業規則第四八条一項の(5)及び(6)に基づき、同年九月一日から一年間の休職とする旨通知した(以下これを「第二回休職命令」という)。 4 原告が、被告から支給されるべき賃金は月額二五万九一六〇円であり、毎月末日締め翌月二〇日払いである。 二争点 1 無効確認の利益の存否(一) 原告の主張原告が被告の休職命令により受ける不利益は、被告に対する休職期間中の賃金支払請求だけでは回復されない。すなわち、被告は、その職員の勤続年数により退職金の額、退職年金受給権の有無に重大な差異を設けているし、休職者の昇給についても、通常の内務職員の定期昇給とは異なる取扱いをしている。したがって、休職命令の無効確認を求める原告の訴えには、訴えの利益があり、適法である。 (二) 被告の主張一般に、過去の法律関係の存否の確認を求めることは許されないところ、原告の請求の趣旨第一項は、同第二項の原因ないし理由にすぎず、原告には、休職期間中の賃金支払請求に加えて、過去に出された休職命令の無効の確認を求める法律上の利益は存在しないから、右原告の訴えは不適法である。 また、原告主張の点については、原告の退職時において退職金の差額支払いを求める訴訟を起こしたり、定期昇給について不利益な取扱いが現実になされた時点においてその差額支払いを求める訴訟を起こせば足りるから、原告に本件休職命令の無効確認を求める利益はない。 2 休職事由の存否(一) 被告の主張そもそも、被告が、平 な取扱いが現実になされた時点においてその差額支払いを求める訴訟を起こせば足りるから、原告に本件休職命令の無効確認を求める利益はない。 2 休職事由の存否(一) 被告の主張そもそも、被告が、平成四年一〇月一四日、原告の傷病欠勤の扱いを解いたのは、以下の事情による。すなわち、第三の一の3記載のとおり、原告が被告に提出した同年八月二一日付け診断書の内容が、第七回団体交渉における原告の主張と食い違っていたため、右診断書が、就業規則第三四条三項にいう「治癒についての医師の証明書」に該当するといえず、就業規則上は原告の傷病欠勤の扱いを解くことはできなかったが、その後の第九回団体交渉(同年一〇月一三日)の席上、原告から「就業規則に従った全日の通常勤務ができるし、また、就業規則に従って勤務する。」との言明があり、労使双方その旨の確認ができたので、例外的に傷病欠勤の扱いを解いたのである。 それにもかかわらず、原告が復職した同年一二月一日からわずか五日間の通常勤務の後に、第三の一の4記載の同月九日付け診断書が、原告から被告に提出されたが、右診断書を前提とすると、被告が原告を緊張させないよう、また、リラックスさせるよう配慮したとしても、原告が緊張したりあるいはリラックスできなかったりすれば、病状再燃ないし増悪を招く可能性があることになる。そして、原告は、従前から原告の病状が悪化した場合は被告の責任を追及する旨主張していたため、被告としても、平成五年二月の時点において、原告に全日の通常勤務をさせた場合、原告に症状再燃及び疾病増悪の可能性があるから、原告の健康管理のため、また、従業員に対する安全配慮義務の観点から、原告に就労を命ずることはできないと判断し、第一回休職命令を発した。 また、第一回休職命令の期間満了までに、原告から、頚肩腕障害が治癒し、疾病 理のため、また、従業員に対する安全配慮義務の観点から、原告に就労を命ずることはできないと判断し、第一回休職命令を発した。 また、第一回休職命令の期間満了までに、原告から、頚肩腕障害が治癒し、疾病の増悪可能性がなくなった旨の申し出もなかったため、引き続き第二回休職命令を発したものである。 (二) 原告の主張原告に対する第一回休職命令及び第二回休職命令は、いずれも就業規則第四八条一項(5)及び(6)に基づくものであるところ、原告には右条項中に定める休職事由は存在しないから、右各休職命令はいずれも無効である。 原告は、平成四年一二月一日、復職した後、通常勤務を継続してきたものであり、第一回休職命令までの約三か月間、頚肩腕障害の症状が悪化することもなく、また病気欠勤することもなかった。確かに、原告の頚肩腕障害は治癒したとはいえないが、通常勤務は可能であり、その点については、第三の一の5記載の平成五年三月三日付けのA医師作成の診断書からも明らかである。また、原告は、第三の一の3記載の第七回団体交渉時において、勤務時間内通院等を主張したが、これは今まで被告が従業員の勤務時間内通院を認め、賃金カットの対象にしてこなかったため、原告についても同様の取扱いを求めたにすぎないのであって、通常勤務は可能であった。したがって、第一回休職命令時に休職事由は存在しない。 また、第三の一の7記載の同年八月二五日付けのA医師作成の診断書によれば、原告の症状は同年三月時からさらに改善されており、全日勤務に何ら支障がない状態であるから、第二回休職命令時においても、休職事由は存在しない。 3 業務指揮権の濫用(一) 原告の主張第一回休職命令及び第二回休職命令は、いずれも、原告の被告に対する女性差別の是正改善を求める行動及び原告の所属する社外の組合との団体交渉にお は存在しない。 3 業務指揮権の濫用(一) 原告の主張第一回休職命令及び第二回休職命令は、いずれも、原告の被告に対する女性差別の是正改善を求める行動及び原告の所属する社外の組合との団体交渉における労働者の権利確保の行動を嫌悪して、原告を職場から排除するために発せられたものであり、被告の業務指揮権の濫用であるから無効である。 (二) 被告の主張原告の主張する原告の行動の具体的内容は不明だが、原告の行動について被告が嫌悪した事実はなく、団体交渉及び文書回答等により、適切に対応している。 4 慰謝料請求権(一) 原告の主張被告は、第一回休職命令に続き、第二回休職命令を発したが、これは被告の職場から原告を排除し続けようとするものであり、原告の労働権を奪うものであるから、原告は、被告に対し、右各休職命令に基づく原告の労働権侵害による慰謝料の支払いを求める権利がある。 (二) 被告の主張原告主張の「労働権」という意味不明な権利の侵害はあり得ない。 仮に、労働権が労働者の就労請求権を意味するとしても、労働契約は労働者の提供する労務と使用者の支払う賃金が対価関係に立つ双務契約であり、労務の提供は義務であって権利ではないから、労働者に就労請求権はなく、したがって、原告にも就労請求権はない。 よって、いずれにしても原告の慰謝料請求は理由がない。 第三判断一経過 1 原告は、平成三年二月、八王子中央診療所において、A医師(以下「A医師」という。)の診察を受けた。A医師は、原告の肩や腕の痛み、不眠等の自覚症状や、握力の低下、筋肉の硬結等の所見から、原告を頚肩腕障害であると診断し、同月二五日から同年四月三〇日までの休業加療を要する旨の内容の診断書を作成した(以上、乙二、証人Aの証言(以下、単に「A証言」という))。原告は、同年二月二五日から 原告を頚肩腕障害であると診断し、同月二五日から同年四月三〇日までの休業加療を要する旨の内容の診断書を作成した(以上、乙二、証人Aの証言(以下、単に「A証言」という))。原告は、同年二月二五日から同年四月二一日まで有給休暇を取得し、同月二二日以降は傷病欠勤した(争いがない)。 2 平成四年四月二四日、A医師は、原告に対し、同年五月一日から就労可能(但し、半日勤務、毎週水曜日は休業、一か月間の経過観察を条件とする。)との内容の診断書を作成した(甲八の2、A証言)。原告は右診断書を被告に提出したが、被告は、就業規則第三四条三項(傷病による休暇及び欠勤が連続七日間以上に及ぶ者が出勤しようとする場合には、治癒についての医師の証明書を被告に提出しなければならない。)にいう「治癒」に該当しないとして、原告の出勤を認めなっかった(甲一、九)。 3 平成四年八月二一日、A医師は、原告に対し、同年九月一日から全日勤務(毎週月曜日から金曜日までの午前九時から午後五時までの勤務)が可能であるとの内容の診断書を作成した(甲一〇の2、A証言)。原告は、同年八月二四日、被告に対し、右診断書と共に出社届を提出した(甲一〇の3)。しかし、被告は、原告が個人加入していた社外の組合である全労協全国一般東京労組との第七回団体交渉(同月二五日)の席上において、原告側が週三回理学療法等に通うと主張したため、右診断書にいう全日勤務が可能であるとはいえないとして、右第八回団体交渉(同月三一日)の席上で、原告の同年九月一日からの就労を拒否した(甲二六)。 被告が、右就労拒否の理由を記載した同年九月一日付け回答書(甲一一)中で、原告の全日勤務が可能となった場合は、その旨の医師の診断書もしくはそれに代わる原告の確認書を提出するよう求めたので、原告は、同月二四日、全日勤務が可能である旨を内 九月一日付け回答書(甲一一)中で、原告の全日勤務が可能となった場合は、その旨の医師の診断書もしくはそれに代わる原告の確認書を提出するよう求めたので、原告は、同月二四日、全日勤務が可能である旨を内容とする確認書を、被告に提出した(甲一四)。 その後、被告は、同年一〇月一四日をもって原告の傷病欠勤の扱いを解いて、原告に対し、同年一二月一日から出勤するよう通知した(甲一五)。 4 原告は、平成四年一二月一日、復職した(争いがない)。 同年一二月九日、A医師は、原告に対し、「頚肩腕障害右記で症状軽快し就労中であるが、過度の緊張等身体への影響から症状再燃をまねくこともあり、衣服、椅子について、当該がリラックスして業務に臨めるよう配慮することを要す。」との内容の診断書を作成した(甲一六の3、A証言)。その後、被告は、原告のユニフォームを大きなサイズのものに交換した(争いがない)。 5 被告は、原告に対し、平成五年二月二六日付け「通知書」をもって、単に椅子等を取り替えても症状増悪の懸念がなくなるわけでなく、疾病が治癒していないことも明らかであるから、通常勤務には耐えられない状況であると判断したとして(甲二)、原告を、就業規則第四八条一項(5)(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に基づき、同年三月一日から六か月間の休職とする旨通知した(争いがない)。 これに対し、原告は、被告に対し、A医師作成の同月三日付けの「頚肩腕障害右記にて九二年一二月一日より全日勤務で就労しているが特に休業を要する症状増悪は認められない。現在から、全日勤務に何ら支障ない状態と認む。」との内容の診断書を提出した(甲三、A証言)。 6 原告は 右記にて九二年一二月一日より全日勤務で就労しているが特に休業を要する症状増悪は認められない。現在から、全日勤務に何ら支障ない状態と認む。」との内容の診断書を提出した(甲三、A証言)。 6 原告は、その後、東京地方裁判所八王子支部に対し、被告に対する賃金仮払い仮処分命令を申し立て、同支部は、平成五年七月二三日、右申立てを認める旨の決定をした(甲三一)。 7 被告は、原告に対し、平成五年八月二三日付け「通知書」をもって、原告が、就業規則に定める通常勤務(全日の通常勤務)が可能となる(疾病が治癒し症状の増悪可能性がない。)状態であるとは認められないとして(甲三七)、引き続き、就業規則第四八条一項の(5)及び(6)に基づき、同年九月一日から一年間の休職とする旨通知した(争いがない)。 これに対し、原告は、被告に対し、A医師作成の同年八月二五日付けの(頚肩腕障害右記について、三月三日付で示した診断通り、現症からみても全日勤務に何ら支障のない状態。むしろ『休職』によって三月時に比べ、症状は改善した状態と認む。」との内容の診断書を提出した(甲三九、A証言)。 また、原告は、被告に対し、右診断書と共に、同年八月二七日付けの「復職届け」を提出した(甲四一)。 8 平成五年一一月一〇日の第二回口頭弁論期日当時、原告の頚肩腕障害は治癒していない(争いがない)。 二争点に対する判断 1 休職命令無効確認の利益の存否(一) 一般に、確認の訴えにおいては、紛争の存する現在の法律関係を対象とするのが適当でありかつそれで足りるが、そのような現在の法律関係の基礎にある過去の基本的な法律関係を確定することが、現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合には、過去の法律関係の存否の確認を求める訴えであっても、確認の利益が認められるというべ の基本的な法律関係を確定することが、現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合には、過去の法律関係の存否の確認を求める訴えであっても、確認の利益が認められるというべきである。 (二) これを本件についてみると、被告は、「内務職員退職金規程」第三条二項(3)において、退職金の額の算定根拠となる(同規程第八条参照)勤続年数につき、休職期間を算入しないことを定めているし、「適格退職年金規程」第二八条二項において、退職年金の受給資格の基礎となる(同規程第一〇条参照)勤続年数につき、休職期間を算入しないことを定めているところ、退職金計算の基礎額は、退職時又は死亡時の本給とするものとされ(内務職員退職金規程第四条)、また、退職年金又は適格退職年金は、いずれも入社後勤続年数二〇年以上の職員に支給するものとされ(内務職員退職金規程第一六条、適格退職年金規程第一〇条)、かつ、その支給期間は、勤続年数が満二五年以上の職員は終身、勤続年数が退職年金については二〇年以上二五年未満の者、適格退職年金については二五年未満の者は、いずれも一五年間とされている(内務職員退職金規程第二〇条、適格退職年金規程第一三条)(いずれも甲四四)。また、被告は、「内務職員給与規程」付則である「(2)本給運用規程」第六条において、休職者の昇給については復職時点でその都度定めるものと規定し、通常の内務職員の定期昇給と異なる取扱いをしている(甲一)。 被告によるこのような取扱いは、休職命令を受けた職員に、退職金の額、退職年金の受給資格、受給期間、定期昇給等につき具体的な不利益を与えるものであって、休職命令の効力を争う職員が、単に休職命令による休職期間中の賃金の支払いを求めただけでは解決できない事柄である。したがって、本件において、原告が休職命令という過 具体的な不利益を与えるものであって、休職命令の効力を争う職員が、単に休職命令による休職期間中の賃金の支払いを求めただけでは解決できない事柄である。したがって、本件において、原告が休職命令という過去の法律関係の無効確認を求めることは、現に被告による休職命令に関して原被告間に発生した一連の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要であるといえるから、原告には休職命令の無効の確認を求める訴えの利益があるというべきである。この点、被告は、原告の退職時において退職金の差額支払いを求める訴訟を起こしたり、定期昇給について不利益な取扱いが現実になされた時点でその差額支払いを求める訴訟を起こしたりすれば足りるというが、紛争の解決方法としてはあまりに迂遠であるから、この主張は採用できない。 (三) 以上より、本件休職命令の無効確認を求める原告の訴えは適法である。 2 休職事由の存否(一) 以下の証拠によれば、第一回休職命令及び第二回休職命令の前後における原告の頚肩腕障害の程度及び勤務状況は次のとおりと認められる。 (1) 原告が被告を傷病欠勤中の平成四年四月二四日、A医師は、前記一の2記載のとおり、半日勤務や水曜日休業等を内容とする診断書を作成したが、その際の原告の握力は両手ともほぼ一般女性の平均値である二〇キログラムを下回っており、また、原告の頚部から背部、さらに腰にかけての脊椎の周囲は板のように硬い状態だった(甲八の2、A証言)。 (2) 同年八月二一日、A医師が原告を診察したところ、原告の握力は二〇キログラム以上に回復しており、原告の背骨の棘突起を押してみても痛みがなく、その周辺の筋肉もやわらかくなっていた。そのため、A医師は、通院及び治療を受けながらではあるが、原告が全日勤務(月曜日から金曜日までの午前九時から午後五時までの勤務)可能であ してみても痛みがなく、その周辺の筋肉もやわらかくなっていた。そのため、A医師は、通院及び治療を受けながらではあるが、原告が全日勤務(月曜日から金曜日までの午前九時から午後五時までの勤務)可能であると判断し、前記一の3記載のとおり、その旨を内容とする診断書を作成した(以上、甲一〇の2、A証言)。 (3) 同月二五日、原告所属の社外組合と被告との第七回団体交渉の席上において、原告は、頚肩腕障害の治療のため、いずれも八王子市内であるが、毎週火曜日及び水曜日に一時間程度の理学療法に通い、毎週金曜日に一時間強の水泳に通っていると述べたが、被告は、同月三一日、右第八回団体交渉において、週三日の通院治療を要するのでは通常勤務といえないとして、原告の復職を拒否した。原告は、A医師に就業時間外の通院が可能である旨を確認した上で、同年九月二四日、全日勤務が可能である旨の確認書を被告に提出し、さらに、同年一〇月一三日の第九回団体交渉において、被告にその旨述べたため、被告は、同月一四日をもって原告の傷病欠勤の扱いを解いた(以上、甲一四、一五、二六、二七)。 原告は、同年一二月一日をもって被告に復職したが、その後は概ね週一回程度、就業時間外にA医師のもとに通院していた(A証言)。 (4) 同月九日、A医師は、原告から職場の人間関係に関して特殊な環境に置かれているとの訴えを聞いたため、その点を配慮した上で、前記一の4記載のとおりの診断書を作成した。ただ、原告が現実に復職した同月一日を過ぎて、原告の頚肩腕障害が特に悪化したことを示すような症状はみられなかった(以上、甲一六の3、A証言)。 (5) 平成五年二月二六日付けで、同年三月一日を発令日とする被告の原告に対する第一回休職命令が出されたが、平成四年一二月一日に原告が被告での勤務を開始してから、特に原告に症状の悪 3、A証言)。 (5) 平成五年二月二六日付けで、同年三月一日を発令日とする被告の原告に対する第一回休職命令が出されたが、平成四年一二月一日に原告が被告での勤務を開始してから、特に原告に症状の悪化はみられなかったため、A医師は、平成五年三月三日、前記一の5記載のとおり、全日勤務が可能である旨の診断書を作成した(甲三、A証言)。 (6) 同年八月二三日付けで、同年九月一日を発令日とする被告の原告に対する第二回休職命令が出されたが、A医師は、これに先立ち、同年三月からの休職により、むしろ原告の症状は改善されたと判断して、前記一の7記載のとおり、全日勤務が可能である旨の同年八月二五日付けの診断書を作成した(甲三九、A証言)。 (二)(1) ところで、被告が発した第一回休職命令の通知書(甲二)及び第二回休職命令の通知書(甲三七)の内容からみて、被告は、原告の頚肩腕障害の症状の再燃及び増悪可能性がないとはいえないことを理由に、通常勤務に耐えられないものと判断し、その結果、就業規則第四八条一項(5)(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失うなど、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項(6)(その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に該当するとして、原告を休職処分にしたものであると認められる。 しかし、右頚肩腕障害の症状の再燃及び増悪の可能性が存在するとしても、それは原告の責めに帰すべき事由に起因するものとはいえないから、各症状の再燃等の可能性の存在が前記就業規則第四八条一項(5)の休職事由に該当しないことは明らかである。 そこで、原告が前記就業規則第四八条一項(6)の休職事由に該当するか否かであるが、右規定は、抽象的な規定であるので、同項(1)ないし(4)の文言を参考にしてその内容を検討する。証拠(甲一) ある。 そこで、原告が前記就業規則第四八条一項(6)の休職事由に該当するか否かであるが、右規定は、抽象的な規定であるので、同項(1)ないし(4)の文言を参考にしてその内容を検討する。証拠(甲一)によれば、同項(1)は「傷病欠勤が引続き第三二条の期間以上にわたった場合六か月間ただし、結核性疾患による場合には一年間」と、同項(2)は「事故欠勤が引続き一か月以上にわたった場合一か月間」と、同項(3)は「本人から休職の申し出があり、会社が必要と認めた場合その都度定める期間」と、同項(4)は「刑事事件によって起訴された場合訴訟の終了するまでの期間」と定められていることが認められるが、職員からの申し出にかからしめる同項(3)を除き、いずれも職員が、被告及び職員双方の責めに帰すべからざる事由により、又は職員の責めに帰すべき事由により、通常勤務を行うことに相当程度の支障をきたす揚合を休職事由と定めているものと解される。そうして、前示のとおりの被告が挙げる理由からみて、被告は、原告に同項(1)の病気休職に準ずべきやむを得ない事由があるとして、原告に休職命令を発したものと考えられるところ、就業規則第三一条一項、第三二条一項(1)、第三三条二項、第三四条及び第三五条並びに前記第四八条一項(1)を通観すれば、被告においては、職員が業務外及び通勤災害以外の傷病によって欠勤するときは、まず、傷病欠勤の扱いをし、傷病欠勤の期間内に治癒しないときにはじめて病気休職を命ずるものとされていると認められること(甲一)、前認定のとおり、休職命令は休職中の被用者に退職金の額、退職年金の受給資格、受給期間、定期昇給等につき具体的な不利益を与えるものであることを併せ考えると、病気休職に準じるやむを得ない事由があるか否かは厳格に解釈すべく、本件の場合にも、原告の傷病が治 額、退職年金の受給資格、受給期間、定期昇給等につき具体的な不利益を与えるものであることを併せ考えると、病気休職に準じるやむを得ない事由があるか否かは厳格に解釈すべく、本件の場合にも、原告の傷病が治癒しておらず、症状の再燃及び増悪可能性があるとしても、それが同項(1)の病気休職の場合と実質的に同視できる程度に通常勤務に相当程度の支障をきたすものである場合に、初めて同項(6)の休職事由に該当するものというべきである。 そこで、原告の症状が、同項(1)の病気休職の事由と同視できるほどの状況にあったのか否かにつき、前記(一)の(1)ないし(6)で認定した原告の症状等をふまえて検討する。 (2) まず、第一回休職命令の発令日である平成五年三月一日の時点における、原告の頚肩腕障害の症状及び勤務状況が問題となる。この点、被告は、原告に頚肩腕障害の症状の再燃及び増悪可能性があると主張する根拠として、原告が復職して実働五日後に作成された、前記一の4記載のとおりの平成四年一二月九日付け診断書中に「過度の緊張等身体への影響から症状再燃をまねくこともあり」との記載があること、及び平成四年五月八日に原告所属の社外組合から被告宛てに出された「抗議申し入れ書」(乙一)中に「いきなり全日勤務では病気がぶり返す不安も大きいのです。」との記載のあることを挙げるようである。 しかし、前記(一)の(4)で認定したように、A医師は、職場の人間関係についての原告の訴えを聞き、被告にその旨配慮してもらえるよう前記内容の診断書を作成したにすぎず、当法廷における証言でも、右診断書の記載内容につき全日勤務をすると頚肩腕障害の症状が再燃するという意味ではないと述べている。また、右抗議申し入れ書については、第一回休職命令の出される約一〇か月前のものである上に、そもそも原告所属の社外組合が つき全日勤務をすると頚肩腕障害の症状が再燃するという意味ではないと述べている。また、右抗議申し入れ書については、第一回休職命令の出される約一〇か月前のものである上に、そもそも原告所属の社外組合が、被告の原告に対する対応を批判し、軽減勤務から段階的に通常勤務に就かせるよう求めた書面であるから、この書面中の一行だけでは、平成五年三月一日の時点で、原告に通常勤務に相当程度の支障をきたすほどの頚肩腕障害の再燃ないし増悪の可能性があったものと認めるに足りない。 そして、前記(一)の(3)ないし(5)で認定したとおり、原告は被告に復帰後は週一回程度、しかも就業時間外に通院していただけであり、第一回休職命令が出されるまでの約四か月間、いわゆる全日勤務を行っており、しかもこの間、頚肩腕障害の症状につき特に悪化するようなことはなかったことに加えて、原告は内勤の事務職であり、例えば端末操作ばかりに従事する等の特殊事情のない、平均的な仕事量の業務についていたこと(A証言)、前記一の5記載の同年三月三日付け診断書においては、全日勤務に何ら支障のない旨が述べられていること(甲三)等を総合すると、原告の平成五年三月一日の時点における頚肩腕障害の症状及び勤務状況は、被告において通常勤務を行うことに相当程度の支障をきたすほどのものではないから、就業規則第四八条一項(1)の病気休職事由と同視することはできず、同項(6)の休職事由には該当しないものと認めることができる。 以上より、第一回休職命令時において、原告には休職事由が存在しなかったものと認められる。 (3) 第一回休職命令時において、原告に休職事由が存在しない以上、第二回休職命令時における休職事由は、その後の事情の変化等のない限り存在しないところ、本件においては、前記一の7記載の平成五年八月二五日付診断書(甲三 命令時において、原告に休職事由が存在しない以上、第二回休職命令時における休職事由は、その後の事情の変化等のない限り存在しないところ、本件においては、前記一の7記載の平成五年八月二五日付診断書(甲三九)によれば、全日勤務が可能であるばかりでなく、むしろ同年三月の時点よりも原告の症状が改善した旨が述べられているから、やはり、第二回休職命令時においても、原告には休職事由が存在しないものと認められる。 (三) 原告には各休職命令時における休職事由が存在しないから、各休職命令の無効確認を求める原告の請求の趣旨第一項は理由がある。また、原告の月額賃金については争いがないから、同第二項も理由がある。 3 慰謝料請求について原告は労働権の侵害を主張するが、「労働権」の権利の具体的内容が不明確であり、法的保護に値する権利であるということはできない。 仮に、原告の主張が就労請求権の侵害を意味するとしても、使用者は、賃金を支払う限り、提供された労働力を使用するか否かは自由であって、労働受領義務はなく、労使間に特約がある場合や特別の技能者である場合を除いて、労働者に就労請求権はないものと考えられるから、本件における原告にも就労請求権はないものと認められる。 したがって、原告の請求の趣旨第三項は理由がない。

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