主文 一原判決中被控訴人Aに関する部分を取り消す。 二被控訴人Aは、大東市に対し、二万九三六〇円及びこれに対する平成九年一二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 三控訴人のその余の控訴を棄却する。 四控訴人と被控訴人B及び被控訴人Cとの間に生じた控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人Aとの間に生じた訴訟費用は第一、二審とも同被控訴人の負担とし、参加費用はこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を参加人の負担とする。 五この判決は第二項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第一当事者の求める裁判一控訴人 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人Bに対する本件を原審に差し戻す。 3 被控訴人らは、各自、大東市に対し、二万九三六〇円及びこれに対する平成九年一二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。 5 3につき仮執行宣言二被控訴人ら及び参加人本件控訴を棄却する。 第二事案の概要一本件事案の概要は、次の二項及び三項のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。 二控訴人の当審における補充主張 1 大東市が門真市や東大阪市と隣接し、一部事務組合を設置しているとしても、① 大東市の市議会が他市の市長選挙の一候補者に公金を支出して選挙に関与することは議会活動とは全く関係がなく、② 大東市が一部事務組合を設置し、協力関係にあったのは、門真市や東大阪市であり、前職市長のDやE個人ではなく、③大東市が隣接市長との協力関係を維持することが必要としても、公選され、就任した市長との間においてすべきことであり、再選されるかどうかも明らかでない一候補 市であり、前職市長のDやE個人ではなく、③大東市が隣接市長との協力関係を維持することが必要としても、公選され、就任した市長との間においてすべきことであり、再選されるかどうかも明らかでない一候補者に物品を贈与することは公務とは無関係であり、④ 前職市長の侯補者にのみ陣中見舞をし、物品を贈与し、鼓舞・激励することは偏頗であり、対立候補からは反発を受けることになり、このような行為は大東市ないし市議会の行為としては不当である。 従って、大東市の市議会が他市の市長候補者に交際費を用いて物品を購入しこれを贈与することは許されないというべきである。 2 本件ビール券の交付は、公職選挙法一三六条の二(公務員の地位利用による選挙運動の禁止)に違反する。 すなわち、本件ビール券の交付は、被控訴人Bが市議会議長としてビール券支出をするよう指揮し、被控訴人A及び被控訴人Cがその指揮の下、財務会計上の処理をし、公務として三名がDやEら侯補者の事務所に右ビール券を持参し、候補者ないし選挙運動について激励・鼓舞したものであるから、公務員の地位利用による選挙運動に該当する。 3 本件ビール券の交付は、公職選挙法一三九条(飲食物の提供の禁止)に違反する。 すなわち、公職選挙法一三九条は飲食物の提供を禁止しているところ、本件はビール券二〇枚の交付であるけれども、重量のあるビール四〇本を持参するのに替え、酒屋から冷えたビールの取り寄せが容易になるように考えてされたものと推認され、ビール提供と同視すべきものであるから、右飲食物の提供に該当する。 4 被控訴人Bが地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当しないとしても、同被控訴人は、被控訴人A及び被控訴人Cを指揮監督しただけでなく、現実に三者一体となって本件公金支出を行わせ、DやEら侯補者の事務所に陣中 二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当しないとしても、同被控訴人は、被控訴人A及び被控訴人Cを指揮監督しただけでなく、現実に三者一体となって本件公金支出を行わせ、DやEら侯補者の事務所に陣中見舞に行き、それぞれビール券二〇枚を贈与したものであるから、財務関係担当者と同様またはそれ以上の責任があるというべきである。 三被控訴人ら及び参加人の反論 1 本件ビール券の交付は、公職選挙法一三六条の二や同法一三九条に違反するものではない。 市議会がその権能を適切に果たすため、その活動の一環として、社会通念上儀礼の範囲に止まる程度の接遇を行うことは許容されるものであり、本件公金支出は、右観点からして違法とはいえない。なお、本件支出は、被控訴人Aが過去の慣例及び必要性を考慮して決定し、被控訴人Bにその旨の確認を得た上、被控訴人Cに指示して行わせたものである。 2 被控訴人Bが本件公金支出についてその権限を有する者でないことは明らかであり、控訴人の主張は独自の見解である。 第三当裁判所の判断一当裁判所は、控訴人の被控訴人Bに対する本件訴えは不適法であるから却下すべきものであり、控訴人の被控訴人Aに対する請求は理由があり、控訴人の被控訴人Cに対する請求は理由がないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 二被控訴人らの「当該職員」該当性について原判決一一頁六行目の「1」から同一五頁三行目の末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ただし、原判決一三頁五行目の次に改行して「議会事務局事務局長及び同次長は、これらの市議会の予算執行に係る事務については、市長部局の職員に併任することにより、それぞれ前記規程に定める市長部局の部長及び次長とみなされて右規程を適用するものと定められている(二条二項)。」を、同一五頁二行目の「につき、 る事務については、市長部局の職員に併任することにより、それぞれ前記規程に定める市長部局の部長及び次長とみなされて右規程を適用するものと定められている(二条二項)。」を、同一五頁二行目の「につき、」の次に「内部的な委任により」をそれぞれ加える。 なお、被控訴人Bが地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当しない以上、同被控訴人が本件において控訴人主張のような行為に及んでいるからといって、同被控訴人に対する本件訴えが適法になるものではない。 三本件支出の違法性について 1 引用した事案の概要一の事実、甲一ないし七、丙一、二、八ないし一一及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。 (一) 大東市議会の議会及び議長交際費(以下「議長交際費」という。)については、通常毎年一〇月ころ、次年度の予算措置を講じるため、前年実績、新規行事の有無、社会情勢等を勘案し、議会事務局において、議会費の一部として予算要求素案が策定される。素案は、議長を介して、大東市長部局の財政課に提出され、同課の査定を受けた後、同市長が予算原案を作成し、毎年二月末から三月初旬にかけて、議会に予算案として提出する。予算の審議・議決を経た後、四月一日に、大東市議会事務局設置条例施行規則五条により、予算経理事務を分掌している議会事務局庶務係(以下「庶務係」という。)において、同主査が支払方法を資金前渡による方法とする起案を作成し、同案は、議会事務局の主幹、参事、次長、事務局長の回議、議長の決裁を得た後、大東市議会事務分掌条例二条により、財政を事務分掌する市長公室の合議を受け、更に助役の回議を経て、予算執行権者である大東市長の支出負担行為が行われる。 (二) 平成九年度は、平成八年一〇月末に予算要求素案が策定され、大東市長が平成九年三月六日に議長交際費を三〇〇万円 受け、更に助役の回議を経て、予算執行権者である大東市長の支出負担行為が行われる。 (二) 平成九年度は、平成八年一〇月末に予算要求素案が策定され、大東市長が平成九年三月六日に議長交際費を三〇〇万円とする予算案を提出し、同案が、同年三月二六日に議決され、その後、四月一日に、大東市長により支出負担行為が行われた。 (三) 右支出負担行為後、庶務係の主査が、右三〇〇万円につき、年一〇回にわたり、各三〇万円を資金前渡職員に資金前渡の方法により交付することを内容とする支出命令案を作成し、平成九年五月二二日、議会事務局長である被控訴人Aにより、支出命令がされ、同年六月三日、資金前渡職員である議会事務局次長の被控訴人Cに第二回目の前渡資金三〇万円が交付され、同被控訴人が右資金を保管していた。 (四) 隣接する門真市の市長選挙が平成九年六月二九日に行われた。被控訴人Aは、右選挙に立候補すると見られていた者のうち、前門真市長であるDに陣中見舞としてビール券二〇枚を贈呈することを決め、議長である被控訴人Bに対し、議長交際費から購入代金を支出することを諮り、その承認を得た。そこで、被控訴人Aは、同年六月五日、議会事務局職員にビール券二〇枚を購入するよう指示し、右指示により、被控訴人Cが前記前渡資金から代金一万四六八〇円を支払った。 (五) 被控訴人B及び被控訴人Cらは、門真市長選挙の立候補者であるDの選挙事務所開きの当日である平成九年六月一四日、右事務所を訪れ、同人に対する選挙の陣中見舞として、(四)により購入したビール券二〇枚を右選挙事務所員に交付した。 (六) 前記(三)と同様、庶務係の主査が第五回目の三〇万円を被控訴人Cに資金前渡の方法により交付することを内容とする支出命令案を作成し、平成九年一一月一〇日、被控訴人Aにより、支出命令がされ(ただし、被控 前記(三)と同様、庶務係の主査が第五回目の三〇万円を被控訴人Cに資金前渡の方法により交付することを内容とする支出命令案を作成し、平成九年一一月一〇日、被控訴人Aにより、支出命令がされ(ただし、被控訴人Cによる代決)、同年一一月一四日、被控訴人Cに前渡資金三〇万円が交付され、同被控訴人が右資金を保管していた。 (七) 隣接する東大阪市の市長選挙が平成九年一二月七日に行われた。被控訴人Aは、右選挙に立候補すると見られていた者のうち、前東大阪市長であるEに陣中見舞としてビール券二〇枚を贈呈することを決め、(四)と同様に被控訴人Bの承認を得た。そこで、被控訴人Aは、議会事務局職員にビール券二〇枚を購入するよう指示し、右指示により、同年一二月二日、被控訴人Cが前渡資金から代金一万四六八〇円を支払った。 (八) 被控訴人B及び被控訴人Cらは、平成九年一二月三日、東大阪市長選挙の立候補者であるEの選挙事務所を訪れ、同人に対する選挙の陣中見舞として、(七)により購入したビール券二〇枚を右選挙事務所員に交付した。 2(一) 被控訴人らは、本件陣中見舞の贈呈は、市議会がその権能を適切に果たすため、その活動の一環として社会通念上儀礼の範囲に止まる程度の接遇を裁量権の範囲内で行ったものであるから、公金を用いてこれを購入したことは適法であると主張する。 (二) しかし、ビール券は、飲食物であるビールとの引換権を表章する証券である。そして、本件ビール券は、選挙運動期間中に、候補者の選挙事務所を訪問し、そこで陣中見舞として贈呈されたものであるところ、一般に陣中見舞と称される品物の贈呈は、忙しく働く人の労をねぎらい、慰問するために行われるものと解されるから、右ビール券も、候補者ないしその支持者らのする選挙運動について、少なくともその労をねぎらい、慰問する趣旨目的で行わ 物の贈呈は、忙しく働く人の労をねぎらい、慰問するために行われるものと解されるから、右ビール券も、候補者ないしその支持者らのする選挙運動について、少なくともその労をねぎらい、慰問する趣旨目的で行われたと認めざるを得ない。そうすると、このような陣中見舞たるビール券の贈呈は、「何人も、選挙運動に関し、いかなる名義をもってするを問わず、飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供することができない。」と定める公職選挙法一三九条の規定の立法趣旨に反することが明らかであるから、大東市の市議会ないし同市議会議長が、このような性質の品をもって陣中見舞をすることは、著しく相当性を欠くというべきである。 なお、選挙の陣中見舞そのものは、必ずしも、贈呈する相手方を積極的に支持支援する意思表明を含むものとまでいうことはできず、単に社交上の儀礼として前記慰労慰問の意を表するためされる場合もあると考えられるのであり、本件の陣中見舞も、被控訴人らの意図としては、右のような儀礼以上の趣旨目的をもってされたことまでを認めるに足りる証拠はない。 しかし、そうであっても、ビール券をもってする陣中見舞が前記公職選挙法の規定の趣旨に照らし著しく相当性を欠くものであることには少しも変わりはない。のみならず、特定の候補者の選挙事務所だけに公然と贈呈される陣中見舞となると、客観的には、これが贈呈される特定の候補者の選挙運動に良い効果をもたらす目的のもとにされると受け取られるおそれが大きいものといわざるを得ないから、選挙で選ばれる職にある議長個人がこれを行うのはともかくとして、公金をもってこれを行うことは、品物がビール券であることを考慮しないとしても、やはり相当性を欠くものと思われる。また、本件の場合、大東市議会又は同市議会議長が、他市の市長候補者にすぎない くとして、公金をもってこれを行うことは、品物がビール券であることを考慮しないとしても、やはり相当性を欠くものと思われる。また、本件の場合、大東市議会又は同市議会議長が、他市の市長候補者にすぎない者に、敢えてこのような公金をもってする陣中見舞をする必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。 被控訴人らは、東大阪市及び門真市等は、大東市に隣接し、一部事務組合を設置していること、本件市長候補者からは前市長に在職中右事務組合の運営上協力及び支援を受けたこと、このようなことから右両市長選挙の前職侯補者に対する陣中見舞は慣行として行ってきたものであること等を主張する。しかし、本件市長候補者から右のように支援、協力を受けたとしても、これに対する謝意はビール券の贈呈以外の方法で示すことが十分可能であるから、本件公金の支出を正当化する理由とは認められない。なお、前市長である候補者に対する陣中見舞が慣行化していたと認めるに足りる証拠はないし、仮に過去にそのような例があり被控訴人らがこれを慣行と思っていたとしても、本件ビール券購入のための公金の支出を正当化するような事情であるとは認められない。 以上によると、本件各陣中見舞は、これに要した金額の多寡を問わず、大東市議会又は同市議会議長が公金をもって行い得る儀礼の範囲を超えるものというべきであり、議長交際費として公金を支出するにつき許容された裁量の範囲を逸脱し、違法なものと認められる。 四被控訴人Aの責任について被控訴人Aは、引用した原判決理由説示のとおり、議会交際費について専決により支出命令を行う者であるが、前記認定のとおり、自ら本件各陣中見舞の贈呈を発案してビール券の購入を指示したのであるところ、その地位と前記認定の本件各陣中見舞の性質に照らすと、本件支出当時、右支出が議長交際費として公金を支 るが、前記認定のとおり、自ら本件各陣中見舞の贈呈を発案してビール券の購入を指示したのであるところ、その地位と前記認定の本件各陣中見舞の性質に照らすと、本件支出当時、右支出が議長交際費として公金を支出するにつき許容された裁量の範囲を著しく逸脱する違法なものであることを容易に認識し得たものと認められる。したがって、被控訴人Aは、右違法な支出につき少なくとも重大な過失があったというべきである。そして、本件支出により、大東市は、右ビール券購入代金相当額の損害を被ったというべきであるから、被控訴人Aは、大東市に対し、本件支出合計二万九三六〇円及びこれに対する本件支出の日以後である平成九年一二月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 なお、被控訴人Aの財務会計上の地位は大東市の市長の権限に由来するものであるところ、大東市議会の議長は、大東市の市長とは独立対等の機関であるから、議長が予算の裏付けのある経費の支出を決定した以上は、市長は原則的にはこれを阻止排斥できないのであり、この関係は前記のような地位にある被控訴人Aについても該当する。しかし、前記認定によると、本件支出は、議長が自ら決定した事項を実行したものではなく、かえって、被控訴人A自身が積極的に発案して実行したものであるから、このような場合には、被控訴人Aが右のような立場にあることは、同被控訴人の責任を阻却する理由とし得ないと解すべきである。 五被控訴人Cの責任について被控訴人Cは、前記認定によると、本件支出の発案、決定には何も関与していないのであり、資金前渡職員として、被控訴人Aの指示により議会事務局職員が購入手続をしたビール券の代金を前渡資金から事後的に支払う手続をしたにすぎない。 右事実によると、被控訴人Cには、本件違法な公金の支出につき故意 金前渡職員として、被控訴人Aの指示により議会事務局職員が購入手続をしたビール券の代金を前渡資金から事後的に支払う手続をしたにすぎない。 右事実によると、被控訴人Cには、本件違法な公金の支出につき故意又は過失があったと認めることはできない。したがって、控訴人の被控訴人Cに対する本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。 六結論以上の次第で、原判決中被控訴人Aに関する部分は相当でないから、これを取り消して同被控訴人に対する本件請求を認容することとし、被控訴人B及び被控訴人Cに関する部分は相当であり、右部分に対する本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条、六一条を、参加費用の負担につき同法六七条、六一条、六四条を、仮執行宣言につき同法三一〇条、二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第六民事部裁判長裁判官加藤英継裁判官伊東正彦裁判官安達嗣雄
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