平成25(ワ)4303 特許権侵害行為差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月25日 東京地方裁判所
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判決文本文22,328 文字)

平成26年9月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官特許権侵害行為差止等請求事件(口頭弁論の終結の日平成26年7月29日)判決 京都市下京区〈以下略〉原告株式会社バイオセレンタック 同訴訟代理人弁護士尾崎英男 同訴訟復代理人弁護士江黒早耶香 京都市南区〈以下略〉被告コスメディ製薬株式会社 東京都中央区〈以下略〉被告岩城製薬株式会社 上記両名訴訟代理人弁護士伊原友己 同加古尊温 同訴訟代理人弁理士小林良平 同補佐人弁理士小川禎一郎 主文 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1請求 1被告コスメディ製薬株式会社(以下「被告コスメディ」という。)は,別紙物件目録記載1~4の経皮吸収製剤(以下「被告製品」と総称し,それぞれの製品を「被告 第1 請求 1 被告コスメディ製薬株式会社(以下「被告コスメディ」という。)は,別紙物件目録記載1~4の経皮吸収製剤(以下「被告製品」と総称し,それぞれの製品を「被告製品1」などという。)を製造,販売してはならない。 2 岩城製薬株式会社(以下「被告岩城製薬」という。)は,被告製品2を販売してはならない。 - 2 - 3 被告らは,原告に対し,連帯して600万円及びこれに対する平成25年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被告コスメディは,原告に対し,2600万円及びこれに対する平成25年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」とする特許権を有する原告が,被告らによる被告製品の製造・販売が上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項に基づき被告製品の製造・販売の差止めを求めるとともに,特許権侵害に基づく損害賠償金等の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)当事者原告は,医薬品の研究開発,製造,販売及び輸出入,医薬品,化粧品,健康食品に関する知的財産権の取得・保有・運用等を目的とする株式会社である。 被告コスメディは,化粧品の開発,製造,販売及び開発コンサルティング等を目的とする株式会社である。 被告岩城製薬は,医薬品,医薬部外品,化粧品等の製造加工及び販売等を目的とするとする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者であ を目的とするとする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である。 特許番号特許第4913030号出願日平成18年1月30日(特願2007-500638)- 3 -優先日平成17年1月31日(特願2005-23276)平成17年10月11日(特願2005-296691)(以下,これらを併せて「本件優先日」という。)登録日平成24年1月27日イ本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。 「 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,該基剤に保持された目的物質とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 A 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,B 該基剤に保持された目的物質とを有し,C 皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,D 前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム からなる基剤と,B 該基剤に保持された目的物質とを有し,C 皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,D 前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群- 4 -より選ばれた少なくとも1つの物質であり,E 尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共にF 前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,G 経皮吸収製剤。 エ原告は,本件特許につき被告コスメディが請求した無効審判の手続において,①平成25年1月22日付け(下記の構成要件D’の訂正),②同年10月21日付け(①に加え下記の構成要件H2’の訂正)及び③平成26年2月28日付け(①②に加え構成要件H1’の訂正)で訂正請求(以下「本件訂正請求」と総称し,本件訂正請求に係る発明を「本件訂正発明」という。)をした。本件訂正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりであり,下記の構成要件に分説される(訂正箇所に下線を付した。以下,本件訂正発明の構成要件を「構成要件D’」などという。)。 A 水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と,B 該基剤に保持された目的物質とを有し,C 皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,D’前記高分子物質は,コンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸,グリコーゲン,デキストラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからなる物質は除く)であり, トラン,キトサン,プルラン,血清アルブミン,血清α酸性糖タンパク質,及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し,デキストランのみからなる物質は除く)であり,E 尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共にF 前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,- 5 -G 経皮吸収製剤H’(但し,H1’目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか,あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤,及びH2’経皮吸収製剤を収納可能な貫通孔を有する経皮吸収製剤保持用具の貫通孔の中に収納され,該貫通孔に沿って移動可能に保持された状態から押出されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤を除く)。 被告らの行為ア被告コスメディは,本件特許が登録された平成24年1月27日以降,被告製品を製造・販売し,被告岩城製薬は被告製品2を販売している。 イ被告製品の構成は,別紙「被告製品の構成」のとおりである(以下,それぞれの構成を,同別紙の番号に従い「構成1a」などという。)。 2 争点文言侵害の成否ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要件B)の充足性イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)の充足性被告製品2についての均等侵害の成否無効論ア乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)イ乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)- 6 -ウ乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3) エ乙1 づく新規性欠如(無効理由2)- 6 -ウ乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3) エ乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4) オ乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5) カ乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)キ乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由7)ク本件明細書の記載要件違反(無効理由8)差止請求の当否損害論なお,本件特許権については前記のとおり本件訂正請求がされ,その適否がいまだ確定していないが,本件訂正請求は,本件発明が乙13文献,乙15文献及び乙16文献により新規性を欠如することを回避するための請求でびイ並びに本件訂正請求が認められた場合の無効理由として主張されているオを除き,本件訂正請求が認められた場合の本件訂正発明を含むものとして用いることとする。 3 争点に関する当事者の主張文言侵害の成否(原告の主張)ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要件B)の充足性本件発明の目的物質は適用部位に投与されて目的の作用をする物質であるのに対し,基剤は製剤の形成やその物理的強度を上げる機能を有す- 7 -る物質であり,両者は概念的に区別可能である。被告製品のヒアルロン酸Naは目的物質であると同時に基剤でもあるから「基剤」を充足し,ヒアルロン酸Naのみを成分とする被告製品2も「該基剤に保持された目的物質」を充足する。 イ に区別可能である。被告製品のヒアルロン酸Naは目的物質であると同時に基剤でもあるから「基剤」を充足し,ヒアルロン酸Naのみを成分とする被告製品2も「該基剤に保持された目的物質」を充足する。 イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性本件特許権の特許請求の範囲の請求項13に化粧品が目的物質として記載され,本件明細書にも同旨の記載があること(段落【0086】)に照らせば,本件発明の「経皮吸収製剤」は,有効成分を全身循環血流に送達して全身性作用を発現させるものに限られず,化粧品である被告製品も「経皮吸収製剤」を充足する。 ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)の充足性「尖った先端部」は,経皮吸収製剤の皮膚への挿入(構成要件F)を可能にするための構成であるから,先端部が点状であることまで要するものではなく,皮膚に挿入することが可能なコニーデ型の形状(構成1~4の各d)を有する被告製品も,「尖った先端部」を充足する。 (被告らの主張)ア 「基剤」(構成要件A)及び「該基剤に保持された目的物質」(構成要件B)の充足性被告製品1,3及び4のマイクロニードルパッチの成分であるヒアルロン酸Na,加水分解コラーゲン等(構成1a,3a,4a)は,いずれも目的をもった物質であるから,「基剤」を充足しない。また,被告製品2のマイクロニードルパッチは,ヒアルロン酸Naのみを成分としているから(構成2a),「該基剤に保持された目的物質」を充足しない。 イ 「経皮吸収製剤」(構成要件C,G)の充足性- 8 -本件明細書の記載(段落【0002】)及び「第十五改正日本薬局方」(乙9)の定義によれば,「経皮吸収製剤」は有効成分を全身循環血流に送達して全身性作用を発現させるものに限られると解す - 8 -本件明細書の記載(段落【0002】)及び「第十五改正日本薬局方」(乙9)の定義によれば,「経皮吸収製剤」は有効成分を全身循環血流に送達して全身性作用を発現させるものに限られると解すべきである。被告製品1~4のマイクロニードルパッチは,顔の皮膚表面に密着することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置し,角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する化粧品(構成1~4の各c~e)であるから,「経皮吸収製剤」を充足しない。 ウ 「尖った先端部」(構成要件E)及び「前記先端部」(構成要件F)の充足性本件明細書の図面に示された経皮吸収製剤の先端部は点といえるほどに尖っているところ,被告製品のマイクロニードル部の突起物は,先端部直径が約20~25μm,先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の形状をしているから(構成1~4の各b),「尖った先端部」を充足しない。 被告製品2についての均等侵害の成否(原告の主張)仮に,被告製品2が「該基剤に保持された目的物質」(構成要件B)の文言を充足しないとしても,①本件発明は,水溶性かつ生体内溶解性の構成要件Dに記載された高分子物質を用いた経皮吸収製剤が,自己溶解型で角質層を貫通する強度を有することにより目的物質を皮膚に送達できるところに本質的部分があり,基剤と目的物質が別物質であるか否かは発明の本質的部分ではないこと,②両者が同一物質であっても作用効果は同一であること,③本件発明の開示に基づいて両者を同一物質にすることは容易であることから,被告製品2は本件発明と均等である。 (被告らの主張)- 9 -原告の主張は争う。被告製品2は,乙4文献(特開2003-238347号公報)に開示された発明を用い とは容易であることから,被告製品2は本件発明と均等である。 (被告らの主張)- 9 -原告の主張は争う。被告製品2は,乙4文献(特開2003-238347号公報)に開示された発明を用いて製造されたものであり,かつ,化粧品成分又は基剤としてヒアルロン酸を用いる技術は公知であったから,被告製品の構成は公知技術と同一である。また,原告は,特許請求の範囲に「該基剤に保持された目的物質」との記載をすることにより,基剤と目的物質が異なる物質であるとの特定をしたのであるから,両者が同一物質の場合を意識的に除外したものである。 無効論(被告らの主張)下記のカ及びキの主張は,角質層にとどまる薬効しかない経皮吸収製剤に係る発明についての無効主張であり,その余の主張は,このような限定のない経皮吸収製剤についての無効主張である。 ア乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)本件優先日前に頒布された刊行物である乙15文献(国際公開第2005/058162号)には,「生分解性ポリマーから形成され薬剤を保持するランセットが,皮膚に穿刺され体内に留置されて溶解することにより薬剤を体内へ放出する,医療用針である経皮吸収製剤であって,前記生分解性ポリマーとしてヒアルロン酸が含まれる経皮吸収製剤」(以下「乙15発明」という。)が開示されている。これは,本件発明の構成要件を全て備えるものであるから,本件発明は乙15発明に対して新規性を欠く。 なお,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H1’によって乙15発明と本件訂正発明には相違点があると主張するが,本件訂正請求の訂正事項は,「経皮吸収製剤」という物の構造,形状,材質,成分,大きさ,含有量,物理・化学的特性など物固有の構成に関するものではなく,本件発明の内容を減縮するものではない上,物の が,本件訂正請求の訂正事項は,「経皮吸収製剤」という物の構造,形状,材質,成分,大きさ,含有量,物理・化学的特性など物固有の構成に関するものではなく,本件発明の内容を減縮するものではない上,物の発明の特定も不明瞭であ- 10 -るから,本件訂正請求は不適法であり,本件訂正発明は成立しない。 イ乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)本件優先日前に頒布された刊行物である乙16文献(乙16の1・国際公開第96/08289号,乙16の2・特表平10-505526号公報)には,「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなるキャリヤと,該キャリヤに保持された活性成分とを有し,皮膚に挿入されることにより活性成分を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,前記高分子物質はヒアルロン酸であり,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有する薬の先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤」(以下「乙16発明」という。)が開示されている。これは,本件発明の構成要件を全て備えるものであるから,本件発明は乙16発明に対して新規性を欠く。 なお,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H2’によって乙16発明と本件訂正発明には相違点があると主張するが,本件訂正請求が不適法で本件訂正発明が成立しないことは,上記アのとおりである。 ウ乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3) 本件優先日前に頒布された刊行物である乙13文献(乙13の1・国際公開第2004/000389号。ただし,訳には便宜上乙13の2・特表2006-500973号公報を用いる。以下同じ。)には,「本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びGに相当する構成を備え ・国際公開第2004/000389号。ただし,訳には便宜上乙13の2・特表2006-500973号公報を用いる。以下同じ。)には,「本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びGに相当する構成を備え,かつ,本件発明の構成要件Dの高分子物質としてヒアルロン酸を挙げておらず,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等を挙げている発明」(以下「乙13発明」という。)が開示されている。 乙15発明の内容は前記アのとおりであるところ,乙15文献には構成要件Dに相当する「ランセットを形成する生分解性ポリマーとしてヒアルロン酸が含まれる」構成が開示されているから,乙13発明と乙1- 11 -5発明の技術分野は同一であり,乙15文献に記載された上記構成を乙13発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本件発明は進歩性を欠く。 エ乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4) 乙13発明及び乙16発明の内容は前記イ及びウのとおりであって,技術分野は同一であるところ,乙16文献には構成要件Dに相当する「高分子物質はヒアルロン酸である」構成が開示されているから,この構成を乙13発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本件発明は進歩性を欠く。 オ乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5) 仮に本件訂正請求が適法とされた場合,本件訂正発明は構成要件H2’の構成が除かれている点で乙16発明と相違する。 しかるところ,乙4文献には,「使用時に,パイルを設けた基板を皮膚上に軽く叩くようにスタンプ押しを行うことによって,パイル内 正発明は構成要件H2’の構成が除かれている点で乙16発明と相違する。 しかるところ,乙4文献には,「使用時に,パイルを設けた基板を皮膚上に軽く叩くようにスタンプ押しを行うことによって,パイル内に混在させた機能性物質を皮膚角質内に挿入する機能性マイクロパイル」という,構成要件H2’に相当する構成が開示されている。また,乙4文献に開示されているのは,皮膚表層又は皮膚角質層において,簡便・安全・効率的に修飾効果・機能効果を与えるための治具である機能性マイクロパイルであり,乙16発明と技術分野を同じくするから,乙4文献に記載された上記構成を乙16発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本件発明は進歩性を欠く。 カ乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)本件優先日前に頒布された刊行物である乙4文献には,「生体内溶解性の糖質から成り機能性物質を内包・含有しているパイルを設けた基板を皮膚上に軽く叩くようにスタンプ押しを行うことによって,パイル内に混在させた機能性物質を皮膚角質層内に挿入し皮膚角質層内で機能を- 12 -発揮させる機能性マイクロパイルであって,パイルの材料は既に実用化している糖素材を主成分素材として利用するのが好ましく,パイルは針状である機能性マイクロパイル」(以下「乙4発明」という。)が開示されている。これは,本件発明の構成要件を全て備えるものであるから,本件発明は乙16発明に対して新規性を欠く。 キ乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由7)本件発明が構成要件Dにヒアルロン酸が明記されている点において乙4発明と相違するとしても,前記ウ及びエと同様に,乙15発明又は乙16発明を乙4発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本件発明は進 件Dにヒアルロン酸が明記されている点において乙4発明と相違するとしても,前記ウ及びエと同様に,乙15発明又は乙16発明を乙4発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであって,本件発明は進歩性を欠く。 ク本件明細書の記載要件違反(無効理由8)本件明細書には基剤がヒアルロン酸のみからなる場合の記載はないから,これが本件発明の技術的範囲に含まれるとすれば,本件明細書の記載は当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確なものではないことになる。また,本件明細書の記載によっても,本件発明の経皮吸収製剤を形成し得る程度の強度を有するヒアルロン酸の分子量の数値等は明らかではない。したがって,本件特許は,特許法36条4項1号,同条6項1号に違反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告の主張)ア乙15文献に基づく新規性欠如(無効理由1)乙15文献に記載された注射剤やランセットの医療用針は「製剤」ではない。また,本件発明の構成要件Bの「該基剤に保持された目的物質」は,製剤の皮膚挿入時に目的物質が基剤と共に体内で溶解し吸収されるように基剤に保持されて製剤を形成していることを意味し,目的物- 13 -質がランセットの本体の形成されたチャンバの中に封止されている状態は,これに当たらない。したがって,乙15文献に開示された発明は本件発明と相違する。 なお,仮に上記相違点がないとしても,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H1’によって,乙15文献の実施態様を除外した。 イ乙16文献に基づく新規性欠如(無効理由2)乙16文献に開示された発明は,薬自体には大きな物理的強度がなくても,プランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に投与することを可能にした製剤であり,それ自体で皮膚を貫通す 由2)乙16文献に開示された発明は,薬自体には大きな物理的強度がなくても,プランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に投与することを可能にした製剤であり,それ自体で皮膚を貫通する物理的強度を備えた本件発明の経皮吸収製剤とは相違する。 なお,仮に上記相違点がないとしても,原告は,本件訂正請求に係る構成要件H2’によって,乙16文献の実施態様を除外した。 ウ乙13文献を主引例,乙15文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由3) 乙13文献に,本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びGに相当する構成を備え,かつ,本件発明の構成要件Dの高分子物質としてヒアルロン酸を挙げておらず,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等を挙げている乙13発明が開示されていることは認める。 しかし,本件発明の最も重要な特徴は,経皮吸収製剤の基剤として構成要件Dに記載された高分子物質を用いることによって,生体溶解性と共に皮膚の角質層を貫通する物理的強度を有する製剤を得る点にある。 これに対し,乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫く物理的強度を付与することを目的としてマトリクス材料の物質を選択しておらず,その技術的な解決手段も開示していない。したがって,乙13文献と乙15文献を組み合わせても,自己溶解型で角質層を貫通する物理的強度を有する本件発明の経皮吸収製剤を容易に想到することはできない。 エ乙13文献を主引例,乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由4) - 14 -上記ウのとおり,乙13文献に乙13発明が開示されていることは認めるが,乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層 - 14 -上記ウのとおり,乙13文献に乙13発明が開示されていることは認めるが,乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫く物理的強度を付与することを目的としてマトリクス材料の物質を選択しておらず,その技術的な解決手段も開示していない。なお,乙16文献に記載された製剤の成形方法である押出法は,ペーストの水分量が少ないため活性成分やキャリヤは完全に水に溶解せず,これを乾燥した成形物の物理的強度は小さいが,本件発明の成形法では,ヒアルロン酸等の高分子物質を水に溶解し糊状の状態で成形して乾燥させるため,成形物の物理的強度が大きい。また,上記イのとおり,乙16文献に開示された発明は,プランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に投与することを可能にした製剤であるから,薬自体には大きな物理的強度がなくても皮膚下に投与することが可能であり,これを乙13発明と組み合せる動機付けがない。したがって,当業者が乙13文献と乙16文献を組み合わせて本件発明の経皮吸収製剤を想到することが容易であるとはいえない。 オ乙16文献を主引例,乙4文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由5) 乙16発明と本件発明には,構成要件H2’のみならず,上記イのとおりの相違点がある。乙4文献には,パイルの材料として構成要件Dの高分子物質は記載されていない。したがって,乙4文献を副引例としても,本件訂正発明が乙16文献及び乙4文献から容易に想到されるものではない。 カ乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)本件発明は,基剤成分の高分子物質としてヒアルロン酸等の特定の高分子物質を選択しているのに対し,乙4文献 4文献から容易に想到されるものではない。 カ乙4文献に基づく新規性欠如(無効理由6)本件発明は,基剤成分の高分子物質としてヒアルロン酸等の特定の高分子物質を選択しているのに対し,乙4文献には,既に実用化している糖素材という上位概念の記載があるのみで,ヒアルロン酸を基剤として用いることは,記載も示唆もない。本件発明においては,ヒアルロン酸- 15 -を含む特定の下位概念を選択することによって,水溶性でありながら容易に皮膚の角質層を貫いて皮膚に挿入する物理的強度を備えることができるという顕著な作用効果が得られている。したがって,本件発明は,乙4文献に記載された発明に対し,選択発明として新規性を有する。 キ乙4文献を主引例,乙15文献又は乙16文献を副引例とする進歩性欠如(無効理由7)上記カのとおり,乙4文献には基剤としてヒアルロン酸を用いることの記載も示唆もないこと,乙15文献には廃棄物処理の際の環境への影響等に配慮してヒアルロン酸が記載されているにすぎないことなどに照らせば,乙15発明又は乙16発明を乙4発明に適用することが当業者において容易に想到し得たとはいえない。 ク本件明細書の記載要件違反(無効理由8)本件明細書にはデキストランとヒアルロン酸からなる基剤の実施例が示され,また,基剤に用いる物質として,ヒアルロン酸の分子量が記載されているから,記載要件違反はない。 差止請求の当否(原告の主張) 囲に属するところ,被告らは,被告製品を業として製造・販売している。 これらの行為は,本件特許権の侵害に当たるから,原告は,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造・販売の差止めを求める。 (被告らの主張)争う。 損害論(原告の主張)被告コスメディ るから,原告は,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造・販売の差止めを求める。 (被告らの主張)争う。 損害論(原告の主張)被告コスメディは,平成24年12月末日までに,少なくとも,被告製- 16 -品1を5万個(販売額は2000万円),被告製品2を60万個(同2億4000万円),被告製品3を10万個(同4000万円),被告製品4を5万個(同2000万円)販売した(販売合計額は3億2000万円)。 本件発明の実施料相当額は,上記販売額の10%を下回ることはないから,被告コスメディが原告に支払うべき実施料相当の損害金(特許法102条3項)は3200万円を下らない。 また,被告岩城製薬は,同日までに,被告コスメディから仕入れた被告製品2を20万個販売した(販売額は2億円)。本件発明の実施料相当額は,上記販売額の3%を下回ることはないから,被告岩城製薬が原告に支払うべき実施料相当の損害金は,600万円を下らない。被告岩城製薬は,被告コスメディが製造した被告製品2を仕入れて販売したから,上記600万円の支払義務は被告コスメディとの連帯債務となる。 よって,原告は,不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき,被告らに対する600万円の連帯支払及び被告コスメディに対する2600万円の支払並びにこれらに対する訴状送達日の翌日である平成25年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 進歩性欠如)について 乙13文献に乙13発明が開示されていること,本件発明と乙13発明とを対比すると,乙13発明は本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びG- 17 -に 進歩性欠如)について 乙13文献に乙13発明が開示されていること,本件発明と乙13発明とを対比すると,乙13発明は本件発明の構成要件A,B,C,E,F及びG- 17 -に相当する構成を備えている点で一致し(なお,乙13発明は,構成要件H’ で除かれた構成を備えていない点で,本件訂正発明とも一致する。),構成要件Dの高分子物質として,本件発明がヒアルロン酸を挙げているのに対し,乙13発明はポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等を挙げているもののヒアルロン酸を挙げていない点で相違することは,当事者間に争いがない。 そして,被告らは,上記相違点に関し,乙13発明と技術分野を同じくする乙16文献に構成要件Dに相当する構成が開示されていることなどから,上記構成を乙13発明に適用することは当業者において容易に想到し得たと主張する。 証拠(甲2,乙13の1・2,乙16の1・2,乙46)に弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 ア乙13文献の記載本件優先日前に頒布された刊行物である乙13文献には,次の趣旨の記載がある(〔 〕内の字句は語義を補ったものである。以下同じ。本項目に付記した請求項,段落番号等は,いずれも乙13の2のものである。)。 技術分野及び解決すべき課題乙13発明は,薬物の経皮送達に関するものである(段落【0001】)。薬物を経皮的に投与する方法として,シリンジ〔注射器〕又はカテーテルを用いる方法があるが,針注射は,多くの患者に恐怖感,痛み,局所的損傷を引き起こし得る(段落【0003】)。経皮的な薬物送達を行うためにシリコンミクロ針を用いる方法等があるが,シリコン針は,使用中に破損すると炎症等を引き 注射は,多くの患者に恐怖感,痛み,局所的損傷を引き起こし得る(段落【0003】)。経皮的な薬物送達を行うためにシリコンミクロ針を用いる方法等があるが,シリコン針は,使用中に破損すると炎症等を引き起こし得る(段落【0007】)。また,急速に溶解するミクロ移植片も試みられたが,角質層及び表皮内に血管が分布していないために達成することが困難で- 18 -あった。そこで,特にミクロ針のアレイ〔配列〕又は皮膚の他の微小穿孔器を含む,急速に溶解する経皮薬物送達ビヒクル〔輸送手段〕を開発する必要がある(段落【0010】)。 課題解決原理好ましい薬物送達システムは,急速に溶解する微小穿孔器のアレイ〔配列〕を含み,少なくとも一つは,一つ以上の針又は刃の固体マトリックス〔基剤〕として形成されており,各々が,第1の末端において,皮膚の穿孔のために,尖っている。各微小穿孔器は,角質を貫通するのに十分強靭でインタクト〔無傷〕であり,微小穿孔器(及び薬物)が薬物レザバ〔保有体〕内の体液・溶媒と共に患者の体内に貫入されたとき,生分解性又は可溶性である(段落【0018】)。各微小穿孔器は,皮膚内又は皮膚上で急速に溶解し(段落【0014】,【0019】),一旦薬物が真皮層に達すると,系循環を通して潅流する(段落【0017】)。 課題解決手段乙13発明に係る微小穿孔器の具体的な形状,強度,基剤及び成形方法は,次のとおりである。 微小穿孔器は,尖った形状の断面(【請求項9】,【0020】,【0021】,【図2】)を有し,皮膚から真皮層まで貫入するのに十分な長さを有することもできる(【請求項7】)。微小穿孔器の長さは,代表的に1~2000μmの範囲,より好ましくは100~1000μmの範囲である(段落【0021】)。 また,各微小穿孔器は 十分な長さを有することもできる(【請求項7】)。微小穿孔器の長さは,代表的に1~2000μmの範囲,より好ましくは100~1000μmの範囲である(段落【0021】)。 また,各微小穿孔器は,角質を貫通するのに十分強靭でインタクト〔無傷〕である(段落【0018】)。 また,薬物はポリマーマトリックス〔高分子基剤〕材料内に含まれており,好ましくは,必要に応じて一つ以上の選択された薬物を保持- 19 -する固体マトリックスの可溶性(溶融性及び生分解性)の材料を含む(【請求項2】,段落【0012】)。適切なマトリックス材料としては,角質層を貫通するように十分強い限り任意の生体適合性材料を用いることができ,ポリマー,糖誘導体,水可溶性ガラス,界面活性剤等が例示されている(段落【0024】,【0028】~【0032】)。 さらに,微小穿孔器のアレイ〔配列〕は,鋳型を用いて成形することができる。液体溶液(マトリックス材料及び選択された薬剤を含む。)から鋳造する場合,液体溶液は,その粘度,他の物理的・化学的特性に依存して,更に遠心分離力や圧縮力を用いて鋳型に充填する。 固体溶液を形成するために,溶媒は,空気乾燥されるか,真空乾燥されるか,又は凍結乾燥される必要がある。粉末形態がマトリックス材料として使用される場合,粉末は,その化学的及び物理的特性に依存して,次いで,粉末の適切な加熱が適用されて,鋳型内に粘稠性の材料を融解又は挿入し得る。これらの後,微小穿孔器は,鋳型から分離される(段落【0025】,【0026】)。 イ乙16文献の記載本件優先日前に頒布された刊行物である乙16文献には,次の趣旨の記載がある(本項目に付記した特許請求の範囲及び頁数は,いずれも乙16の2のものである。)。 技術分野及び解決すべき課題 本件優先日前に頒布された刊行物である乙16文献には,次の趣旨の記載がある(本項目に付記した特許請求の範囲及び頁数は,いずれも乙16の2のものである。)。 技術分野及び解決すべき課題乙16文献には,薬を非経口投与できる針を有しない装置に関する発明が記載されている。薬物の非経口投与は,多くの場合好ましいが,薬物が投与される患者を不快にさせるという重大な欠陥がある。非経口製剤は,一般的に薬物が懸濁又は溶解されている多量の液体を含んでおり,かなり多量の液体を注射しなければならない場合がある。針- 20 -の注射及び多量の液体の導入は,ほとんどの人にとって少なくとも不愉快である。したがって,針及び溶液又は懸濁液を使用しない投与方式を発見する必要がある(特許請求の範囲1,5頁)。 課題解決原理出願人は,非経口経路により固体又は半固体の薬物を即座に投与する装置を発見した。出願人の装置では,完全に針を使用する必要がない。固体薬物は,これを位置付けるのに必要な程度まで皮膚に進入するプランジャー〔ピストン〕によって患者等の皮膚を通して直接注射される。薬は爪楊枝の端部の形状に適切に作成され,尖った端部を有している。薬は,投与時に皮膚を通って皮下層中に貫通できるような十分な構造的強度を有している。このように,薬物が皮膚を貫通して非経口投与されるために,針の不快感を感じる必要がない(6頁)。 課題解決手段乙16文献に記載された固体薬物の具体的な形状,強度,基剤及び成形方法は,次のとおりである。 薬は,皮膚を容易に貫通して皮下層に進入できるように,爪楊枝の一方の端部の形状に作成する(9頁)。針のサイズは,投与すべき供給量及びキャリヤ〔基剤〕の量と比較して存在する活性成分のレベルに依存する(10頁)。 薬は,固体と称 に進入できるように,爪楊枝の一方の端部の形状に作成する(9頁)。針のサイズは,投与すべき供給量及びキャリヤ〔基剤〕の量と比較して存在する活性成分のレベルに依存する(10頁)。 薬は,固体と称しているが,壊れずに皮膚に貫通する十分な構造的な完全さがある限り,固体又は半固体のいずれであってもよい(特許請求の範囲15,9頁)。 薬中のキャリヤの量は,薬物及び作用の所望の様式に依存する。一般に,薬中の活性成分の量は少なくとも約50%である。十分な構造強度を有する適切な薬に関しては,本発明の薬の量は100%までであっても差支えない(9頁)。キャリヤは,活性成分を直ちに供給す- 21 -るために水溶性又は分解性がある必要があり,ヒアルロン酸のほかセルロース,糖,ゼラチン,ポリビニルピロリドン,スターチ等が挙げられる(11頁。乙13文献に列挙されたマトリックス材料と共通するものとして,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,グルコース,ポリアルコール,ゼラチン,ポリビニルピロリドン等がある。)。 薬の成形方法については,圧縮,熱溶融又は押出しのような従来の技術により調製してもよい。圧縮法は適切には,爪楊枝形状の微小湿製錠剤が形成される成形工程からなる。熱溶融法は,適切には,活性成分及び所望であればキャリヤを混合して溶融する工程からなる。次いで溶融生成物を爪楊枝形状の薬に成形する。押出法は,適切には,活性成分及び所望であればキャリヤを,液体と混合して,半固体ペーストを形成する工程からなる。次いで,このペーストを小さい直径の開口部に通して押し出して,ロッドを形成する。針状の先端は,半固体ロッドの乾燥の前又は後に形成しても差し支えない(9~10頁)。 ウ本件明細書の記載本件 。次いで,このペーストを小さい直径の開口部に通して押し出して,ロッドを形成する。針状の先端は,半固体ロッドの乾燥の前又は後に形成しても差し支えない(9~10頁)。 ウ本件明細書の記載本件明細書(甲2)には,経皮吸収製剤を成形する方法として,①基剤として,水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用い,糊状とした上で,基剤にガラス棒の先端を接触させてその先端に付着した基剤を引き延ばす方法,②鋳型を用いる方法が記載されている(段落【0093】~【0095】)。 エヒアルロン酸の物性等ヒアルロン酸は,ムコ多糖類に属する水溶性の多糖類の一つである。 ヒアルロン酸は,水溶液中において粘弾性・保水力の大きいゼリー様の溶液(ゲル)を形成し,このゲルを乾燥させて溶媒である水分子が失われると,親水基間の水素結合により,ヒアルロン酸の多糖高分子鎖間で- 22 -架橋構造を形成して高分子鎖が絡み合い凝集し,その結果,ヒアルロン酸の高分子溶液は,流動性を喪失して非常に強固な固体となるが,このような物性等自体は,古くからよく知られていた。 上記認定事実に基づき,乙13発明に乙16文献を組み合せて本件発明を想到することの容易性について判断する。 ア上記認定事実によれば,乙13発明と乙16文献に記載された発明は,共に,注射針等を用いることなく薬物を非経口かつ経皮的に投与する薬ないし装置に関する発明であり,技術分野は同一である。また,針注射が多くの患者に恐怖感,痛み等の不快感を与えることから,針を使用しないで非経口的に薬物を投与する技術的手段を発見するという技術的課題も共通している。 イまた,両発明は,生体内溶解性の基剤(マトリックス又はキャリヤ)に目的物質である薬物を保持させることにより,尖った先端部を有する穿孔器ないし固体薬 を発見するという技術的課題も共通している。 イまた,両発明は,生体内溶解性の基剤(マトリックス又はキャリヤ)に目的物質である薬物を保持させることにより,尖った先端部を有する穿孔器ないし固体薬物を成形し,これを患者の皮下に貫入して皮下で溶解させ,血流を通して薬効を発現させる経皮吸収製剤という点で,課題解決原理を同じくするものである。 ウ次に,両発明の課題解決手段を検討する。 第1に,経皮吸収製剤の形状及び強度についてみると,両発明は,尖った先端部を有する穿孔器ないし固体薬物が,皮膚を貫通して皮下層に進入できる程度の長さ及び皮膚を貫通する程度の十分な構造的な強さを有する点で共通する。 第2に,このような構造的な強さを形成・保持するために用いられる基剤(マトリックス,キャリヤ)についてみると,乙13文献には,ヒアルロン酸は例示されていないものの,角質層を貫通するように十分強い限り任意の生体適合性材料を用いることができるとされているところ,ヒアルロン酸は,ムコ多糖類に属する水溶性の多糖類の一つで,水溶液- 23 -中において粘弾性・保水力の大きいゼリー様の溶液(ゲル)を形成し,このゲルを乾燥させて溶媒である水分子が失われると,流動性を喪失して非常に強固な固体となるという物性を有することは古くからよく知られた技術常識であった。また,乙13文献に列挙されているマトリックス材料のうち,少なからぬ材料が乙16文献の基剤(キャリヤ)と共通している。 第3に,尖った先端部を有する微小穿孔器又は固体薬物の成形方法についてみると,乙13文献及び乙16文献には,基剤及び薬剤を溶融して粘度のある液体溶液を用いる溶融法や,圧縮力を用いて基剤及び薬剤を成形する圧縮法のように,共通する成形方法が記載されている。したがって,乙13文献に記載さ 及び乙16文献には,基剤及び薬剤を溶融して粘度のある液体溶液を用いる溶融法や,圧縮力を用いて基剤及び薬剤を成形する圧縮法のように,共通する成形方法が記載されている。したがって,乙13文献に記載された成形方法に乙16文献に記載された成形方法を適用することに技術的困難があるとは認め難い。なお,本件明細書(甲2)には,経皮吸収製剤を成形する方法として,①糊状にした基剤を引き延ばす方法,②鋳型を用いる方法が記載されているところ,乙13文献には鋳型法が記載され,乙16文献には,熱溶融法や,活性成分・キャリヤを液体と混合して半固体ペーストを形成する工程を伴う押出法等が記載されている。 エ以上の事実,すなわち,乙13発明と乙16文献に記載された発明は,技術分野,解決すべき課題及び課題解決原理が共通し,経皮吸収製剤の形状及び強度並びにその構造的な強さを形成・保持するための基剤及び成形方法という課題解決手段にも共通性があること,粘弾性・保水力の大きいゼリー様のヒアルロン酸溶液を乾燥させると非常に強固な固体となるという物性が技術常識として知られていたことに照らせば,乙16文献に接した当業者がこれを乙13発明と組み合せる動機付けがあり,当業者において,乙13発明の基剤を乙16文献の基剤に置き換え,角質層を貫通するように十分強い生体適合性材料の一つとしてヒアルロン- 24 -酸を基剤(マトリックス)に選択することも,容易に想到し得たことであって,これを乙13発明に組み合せて成形した経皮吸収製剤が皮膚を貫通するのに十分な強度を有することも,容易に理解し得たということができる。 また,本件発明に係る経皮吸収製剤の作用効果が格別顕著なものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件発明は,乙13発明に乙16文献を組み合せることによ ということができる。 また,本件発明に係る経皮吸収製剤の作用効果が格別顕著なものであることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件発明は,乙13発明に乙16文献を組み合せることにより,当業者において容易に想到することができたものというべきである。 これに対し,原告は,①乙13文献は,微小穿孔器に皮膚の角質層を貫く物理的強度を付与することを目的としてマトリックス材料の物質を選択しておらず,その技術的な解決手段も開示していない,②乙16文献に記載された製剤の成形方法である押出法は,ペーストの水分量が少ないため活性成分やキャリヤは完全に水に溶解せず,これを乾燥した成形物の物理的強度は小さいが,本件発明の成形法では,ヒアルロン酸等の高分子物質を水に溶解し糊状の状態で成形して乾燥させるため,物理的強度が大きい,③乙16文献に開示された発明は,プランジャーロッドで加速して薬を押し出すことにより皮膚下に投与することを可能にした製剤であるから,薬自体には大きな物理的強度がなくても皮膚下に投与することが可能であり,これを乙13発明と組み合せる動機付けがないと主張する。 しかしながら,①の主張については,本件発明が物の製造方法の発明でび乙16文献には経皮吸収製剤の成形方法として鋳型法,圧縮法,熱溶融法及び押出法等の方法が記載されていることに加え,ヒアルロン酸のゼリー様のゲルを乾燥することで非常に強固な固体となるという物性が技術常識に属することを併せ考慮すれば,乙13文献が技術的な解決手段も開示- 25 -していないということはできない。また,②の主張についても,本件発明は製造方法を限定したものではない上,乙16文献に記載された押出法によって物理的強度の小さい経皮吸収製剤しか得られないとの主張を認めるには足りない(なお,被告コ 。また,②の主張についても,本件発明は製造方法を限定したものではない上,乙16文献に記載された押出法によって物理的強度の小さい経皮吸収製剤しか得られないとの主張を認めるには足りない(なお,被告コスメディの行った実験(乙47)においては,上記押出法により,マウスの皮膚を貫通する程度の十分な構造的な強さを有するマイクロニードルが得られたことが認められる。)。さらに,③の主張も,乙16文献にはプランジャーを押し込むときに加速度を加えながら経皮吸収製剤を投与する構成のみが記載されているわけではなく,また,ヒアルロン酸の物性に関する上記の技術常識からしても,採用することはできない。したがって,原告の主張はいずれも失当である。 以上のとおり,本件特許には進歩性欠如の無効理由があり,特許無効審判により無効にすべきものと認められるから,原告は本件特許権に基づく権利を行使することができないと解するのが相当である。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官清野正彦 裁判官髙橋 彩 - 26 -(別紙)物件目録 1 被告コスメディの商品名:マイクロヒーラヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,基剤を構成するヒアルロン酸,並びに同基剤に保持されたコラーゲン及びEGF:ヒトオリゴペプチド-1とを有し,皮膚に挿入されることにより,ヒアルロン酸,コラーゲン及び 酸からなる基剤と,目的物質として,基剤を構成するヒアルロン酸,並びに同基剤に保持されたコラーゲン及びEGF:ヒトオリゴペプチド-1とを有し,皮膚に挿入されることにより,ヒアルロン酸,コラーゲン及びEGF:ヒトオリゴペプチド-1を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備えた針状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚の接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤。 2 被告岩城製薬の商品名:ナビジョンHAフィルパッチヒアルロン酸の基剤と,目的物質として,同基剤を構成するヒアルロン酸とを有し,皮膚に挿入されることによりヒアルロン酸を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備えた針状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される経皮吸収製剤。 3 訴外株式会社不二ビューティの商品名:ライトナーXTマイクロヒーラマスクヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,基剤を構成するヒアルロン酸,及び,同基剤に保持された加水分解コラーゲン,ビタミンC誘導体,コウジ酸,グリチルリチン酸ジカリウム,アデノシン,レスベラトロールを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。 4 訴外株式会社ドクターシーラボの商品名:シーラボSホワイト377マイクロパ- 27 -ッチヒアルロン酸からなる基剤と,目的物質として,該基剤を構成するヒアルロン酸,並びに,該基剤に保持された加水分解コラーゲン,フェニルエチルレゾルシノール(WHITE377),レスベラトロール(ブドウつるエキス), からなる基剤と,目的物質として,該基剤を構成するヒアルロン酸,並びに,該基剤に保持された加水分解コラーゲン,フェニルエチルレゾルシノール(WHITE377),レスベラトロール(ブドウつるエキス),ピクノジェノール(フランスカイガンショウ樹皮エキス)とを有し,皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって,尖った先端部を備えた針状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤。 - 28 -(別紙)被告製品の構成 1 被告製品1構成1a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成されているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,クエン酸,ヒトオリゴペプチド-1及びマンニトールを成分としており,構成1b 基板部の形状は,長径約11.6mm,短径約7.6mmの楕円形で約0.16mmの厚みがあり,マイクロニードル部には,先端部直径が約20~約25μm,先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の突起物が約500~約600μmの間隔で配置されており,構成1c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置し,構成1d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する構成1e 化粧品である。 2 被告製品2構成2a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成されているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム)を成分としており,構成2b 構成2a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成されているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム)を成分としており,構成2b 基板部の形状は,長径約43mm,短径約15mmの勾玉形であり,マイクロニードル部には,先端部直径が約20~約25μm,- 29 -先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の突起物が約500~約600μmの間隔で配置されており,構成2c マイクロニードルパッチが目もとなど顔の皮膚表面に密着することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が目もとなど顔の皮膚の角質層に位置し,構成2d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する構成2e 化粧品である。 3 被告製品3構成3a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成されているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na,コウジ酸,グリチルリチン酸2K,アデノシン,ブドウつるエキス及びBG(ブチレングリコール)を成分としており,構成3b 基板部の形状は,直径約15mmの円形であり,マイクロニードル部には,先端部直径が約20~約25μm,先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の突起物が約500~約600μmの間隔で配置されており,構成3c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置し,構成3d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する構成3e 化粧品である。 4 被告製品4- 30 -構成4a マイクロ 起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置し,構成3d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する構成3e 化粧品である。 4 被告製品4- 30 -構成4a マイクロニードルパッチは基板部とマイクロニードル部で構成されているところ,基板部とマイクロニードル部は,いずれもヒアルロン酸Na(ヒアルロン酸ナトリウム),加水分解コラーゲン,水,フェニルエチルレゾルシノール,ブドウつるエキス,フランスカイガンショウ樹皮エキス,シリカ及びBG(ブチレングリコール)を成分としており,構成4b 基板部の形状は,長径約11.6mm,短径約7.6mmの楕円形で約0.16mmの厚みがあり,マイクロニードル部には,先端部直径が約20~約25μm,先端部から基板部までの高さが約200μmのコニーデ型の突起物が約500~約600μmの間隔で配置されており,構成4c マイクロニードルパッチが顔の皮膚表面に密着することによって,マイクロニードル部の突起物の先端部が顔の皮膚の角質層に位置し,構成4d 角質層に含まれる水分で突起物の先端部が角質層内で溶解する構成4e 化粧品である。

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