令和4(わ)486 殺人

裁判年月日・裁判所
令和6年9月27日 大阪地方裁判所
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判決文本文36,392 文字)

主文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中640日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、その居宅の西隣りの家屋に居住するBとの間で、同人がその居宅前に置いていた鉢植えの植物(ソテツ)が共用の道路に越境し、袋小路になっている同道路奥にある被告人方ガレージへの車両の出入りに支障があるなどとして、その鉢植えを被告人やその妻がB方敷地内に押し込んだり、Bがこれを共用道路側に押し出したりを繰り返す諍いを続けていたところ、次第にBへの不満を増幅させ、Bや、その交際相手であったA(以下「被害者」という。)から、自身の所有する自動車を汚損される嫌がらせをされているのではないかなどという疑いを募らせるなどし、住宅ローンの残る自宅からの転居の検討を余儀なくされるほど心理的に追い詰められた状況にあった中、平成30年2月17日午後9時44分頃、大阪府羽曳野市(以下略)において、通行中の被害者に対し、殺意をもって、その左胸背部を刃物で1回突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を胸大動脈切破による出血性ショックにより死亡させたものである。 【証拠の標目】(省略)【争点に対する判断】第1 争点等本件の争点は、被害者を殺害した本件の犯人が、被告人であるか否かである。 検察官は、その指摘する間接事実を総合すれば被告人が本件の犯人であることが認定できる旨主張する。これに対し、弁護人は、本件発生時刻頃、被告人は自宅に戻っており、本件の犯人ではなく無罪である旨主張し、被告人も、これに沿う供述 をする。 当裁判所は、検察官の主張する各間接事実を検 に対し、弁護人は、本件発生時刻頃、被告人は自宅に戻っており、本件の犯人ではなく無罪である旨主張し、被告人も、これに沿う供述 をする。 当裁判所は、検察官の主張する各間接事実を検討した結果、その相当部分は、弁護人の主張するとおり、検察官の立証に問題があり、被告人が犯人であることを基礎付ける事実関係として採用することができないが、一部の間接事実は疑いを容れずに認定することができ、その間接事実を総合して推認することにより、常識的に考えて被告人以外の犯人を想定することができず、被告人が本件の犯人であると認めることに、合理的な疑いを容れる余地はないものと判断した。以下にその理由を説明する。 第2 前提となる事実関係証拠によれば、以下の各事実が容易に認められ、これらについては当事者間におおむね争いがない。 1 本件犯行現場周辺の状況及びドライブレコーダー等の設置状況等本件犯行現場(別紙中×印で示された地点)を含む住宅街(以下「本件住宅街」という。)は、別紙のとおりであり、不特定多数の者が利用する公共施設や大きな店舗等はなく、幹線道路の抜け道ともなっていない。 本件犯行現場を含み、東西に延びる道路(以下「東西道路」という。)に接する北側にC方があり、同所に駐車された自動車に、駐車中も録画される機能を有するドライブレコーダー(以下「C方ドラレコ」という。)が設置され、東西道路のうちC方南方付近を捉えていた。東西道路東端は、南北に延びる道路(以下「東側南北道路」という。)と交差して丁字路(以下「東丁字路」という。)を形成し、その丁字路交差点の北東側に位置するD方に駐車された自動車に、駐車中も録画される機能を有するドライブレコーダー(以下「D方ドラレコ」という。)が設置されていた。D方ドラレコは、東丁字路から東西道路を の丁字路交差点の北東側に位置するD方に駐車された自動車に、駐車中も録画される機能を有するドライブレコーダー(以下「D方ドラレコ」という。)が設置されていた。D方ドラレコは、東丁字路から東西道路を西側方向に見通す形で、比較的広範囲に東西道路を捉えていた。 東西道路を本件犯行現場から西側に進むと、初めに南側に延びる道路(以下「西側南北道路」という。)と接し、丁字路を形成しており(以下「西丁字路」という。)、 西側南北道路を南下して、初めに接する道路が、東側に延びる道路で、袋小路となっている(以下「本件袋小路」という。)。本件袋小路北側に接して住宅が3軒あり、その一番奥が被告人方、その西隣りがB方である。同袋小路の東側突き当りが被告人方のガレージとなっており、被告人方は、その北側に位置する。B方駐車場には、B方前の本件袋小路を通る人物等に反応するセンサーライト(以下「本件センサーライト」という。)が駐車場奥の北東側上部に設置されていた(甲71、78、81)。 2 被害者の死因等平成30年2月17日午後10時4分頃(以下、同日中の時刻を示す場合、時刻のみを表示する。)、通行人がC方前路上に倒れている被害者を発見し、119番通報した。午後10時11分頃、救急車が同所に到着したが、被害者は既に心肺停止状態であり、病院に救急搬送されたものの、搬送先病院で死亡が確認された。 被害者の遺体には、左胸背部の1か所に、約4.6センチメートル×約1.0センチメートル大の刺創がみられ、傷口を接着した際の長さは約5.2センチメートル、同刺創の深さは約12センチメートルであり、内部において、左第7第8肋骨間に刺入し、胸大動脈を切破し、心嚢内にも刺入していた。 被害者の死因は、左胸背部の刺創が致命傷であり、これにより胸大動脈を切破して 深さは約12センチメートルであり、内部において、左第7第8肋骨間に刺入し、胸大動脈を切破し、心嚢内にも刺入していた。 被害者の死因は、左胸背部の刺創が致命傷であり、これにより胸大動脈を切破して胸腔内に多量の出血を生じたことによる出血性ショックで、左胸背部の刺創は、片刃の刃物(刃体の長さが約12センチメートル前後、刃幅が約5.2センチメートル前後)が1回刺さったことで成傷されたものと考えられるものであった(甲80)。 そして、被害者の死亡日時及び場所は、判示のとおりである。 3 本件発生前後の被害者の行動被害者は、午後9時頃、Bとともに、羽曳野市内の飲食店を出て自動車(以下「被害者車両」という。)でB方に向かい、午後9時22分57秒頃、被害者車両が、本件袋小路のB方前に停車した。その後、被害者車両は、午後9時24分39秒頃、東西道路を東に進み、東側南北道路と接する場所に位置する駐車場(以下「本件東 側駐車場」という。)に入り、午後9時25分20~21秒頃(甲81によれば、表示時刻に1秒程度の遅れがあることによる。)、本件東側駐車場内南西側の14番枠に駐車して、ブレーキランプが点灯した。そして、このブレーキランプは、午後9時25分23秒頃、消灯した(甲81、85)。 午後9時43分36秒頃、被害者車両が施錠され、非常点滅灯が1回点灯した。 被害者は、午後9時44分23秒頃、本件東側駐車場を出て、東西道路を西に進み、午後9時44分34秒から36秒頃までの間に犯人とすれ違い、午後9時44分40秒頃、C方前を通過した。その直後、犯人も、刃物様のものを手に持って被害者に追随し、C方前を通過した。その後間もなくの午後9時44分45秒頃、「こらー」「待てこらー」という被害者の怒鳴り声がC方ドラレコに記録され、続いて、同ドラレコ映 も、刃物様のものを手に持って被害者に追随し、C方前を通過した。その後間もなくの午後9時44分45秒頃、「こらー」「待てこらー」という被害者の怒鳴り声がC方ドラレコに記録され、続いて、同ドラレコ映像右下の端付近に、怒鳴り声を上げる直前に本件被害に遭ったと思われる被害者の倒れる様子が、わずかに記録されている(甲78、81)。 第3 当裁判所の判断 1 本件発生前後の犯人の行動について当裁判所は、本件発生前後の犯人の行動について、関係証拠から、以下のとおり認定できるものと判断した。その検討過程を詳述する。 ⑴ 関係証拠によれば、被害者車両が本件東側駐車場に駐車してから、本件発生に至るまでの間に、C方ドラレコ及びD方ドラレコに、東西道路及び東側南北道路に出現した延べ3人の人定不詳者と犯人の行動等が記録されている。 その内容は、大要、以下のとおりである。 ア東西道路に1回目に現れた人定不詳者(以下「人定不詳者①」という。)及び東側南北道路を南進する人定不詳者(以下「南進人定不詳者」という。)の行動について(以下、この東西道路への1回目の出現を「出現①」という。)午後9時25分23秒頃、本件東側駐車場に駐車した被害者車両のブレーキランプが消灯した(甲81)。 同ブレーキランプ消灯の約1分37秒後である午後9時27分00秒頃から、本 件センサーライトが約6秒間点灯した(甲82、証人E)。なお、弁護人は、この点灯が、B方の玄関ライトの可能性もあり得る旨主張するが(最終弁論要旨16頁)、同時刻頃にD方ドラレコに映った照射状況は、F方等の壁面の変色状況や、約6秒間という継続時間において、本件センサーライト付近を人物が歩行通過して点灯させた場合の実況見分結果等(甲33、89)と同一とみるほかないし、B方の玄関ライトは東向きに 方等の壁面の変色状況や、約6秒間という継続時間において、本件センサーライト付近を人物が歩行通過して点灯させた場合の実況見分結果等(甲33、89)と同一とみるほかないし、B方の玄関ライトは東向きに設置されており、本件センサーライトに類似する照度でF方等の壁面を照射するとは考えにくい。そもそも、B方内から手動で操作しないと点灯しない玄関ライト(証人G・第17回公判)の点灯時間が、たまたま本件センサーライトの上記点灯継続時間と全く同じになるなどということも考え難い。したがって、同時刻頃に点灯したのは、本件センサーライトであると合理的に推認することができる(以下、同時刻頃の点灯を「点灯①」という。)。 点灯①の約26秒後である午後9時27分26秒頃、D方ドラレコに、西側南北道路と東西道路が接する西丁字路付近にあるH方サイクルハウス(以下「本件サイクルハウス」という。)上部を南から北に動く人の頭部らしき影が映った(これを「影①」とする。影①と人定不詳者①との同一性については後述する。)。 午後9時27分36秒頃、D方ドラレコ上、人定不詳者①が東西道路に出現し、東進した。そして、影①出現の約15秒後である午後9時27分41秒頃、東西道路を東進する人定不詳者①が、C方ドラレコの撮影範囲に現れた。その後、人定不詳者①は、D方ドラレコ上、東丁字路に至り東側南北道路を北進し、午後9時27分59秒頃、D方ドラレコの撮影範囲から外れた。 それから約4分5秒後の午後9時32分04秒頃、南進人定不詳者がD方ドラレコの撮影範囲に現れ、東側南北道路を北から南に小走りで進行した(甲81)。 イ東西道路に2回目に現れた人定不詳者(以下「人定不詳者②」という。)の行動について(以下、この東西道路への2回目の出現を「出現②」という。)午後9時33分51秒頃、D方ド した(甲81)。 イ東西道路に2回目に現れた人定不詳者(以下「人定不詳者②」という。)の行動について(以下、この東西道路への2回目の出現を「出現②」という。)午後9時33分51秒頃、D方ドラレコに、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影が映った(これを「影②」とする。影②と人定不詳者②と の同一性については、後述する。)。その後、午後9時34分00秒頃、人定不詳者②が東西道路に出現したのがD方ドラレコに捉えられ、同人物は東西道路を東進した。そして、影②出現から約15秒後の午後9時34分06秒頃、東西道路を東進する人定不詳者②が、C方ドラレコの撮影範囲に現れた。 その頃から午後9時34分35秒頃までの間、人定不詳者②は、東西道路において、立ち止まったり、足踏みをしてゆっくり進んだり、本件東側駐車場方向を見たりした後、同駐車場に入った。午後9時35分31秒頃、人定不詳者②は同駐車場から出て、東西道路を走って西進した(甲81)。 ウ犯人の行動について(以下、犯人の東西道路への出現を「出現③」という。)午後9時43分36秒頃、被害者車両が施錠され、非常点滅灯が1回点灯した(甲81)。 その約20秒後の午後9時43分56秒頃から、B方の本件センサーライトが約6秒間点灯した(甲82、証人E(点灯①と同様、同証人による実況見分の結果等によれば、同時刻頃に点灯したのは本件センサーライトであると推認することができる。)。以下、同時刻頃の点灯を「点灯②」という。)。 点灯②から約24秒後である午後9時44分20秒頃、D方ドラレコに、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影が映った(これを「影③」とする。影③と犯人との同一性については後述する。)。 影③出現の約13秒後である午後9時44分33 、D方ドラレコに、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影が映った(これを「影③」とする。影③と犯人との同一性については後述する。)。 影③出現の約13秒後である午後9時44分33秒頃、前後に大きく手を振って歩き、東西道路を東進する犯人が、南向きにはためくのぼり旗に大きく視界を遮られたD方ドラレコ上、東西道路に出現するとともに、C方ドラレコの撮影範囲に現れた。午後9時44分34秒から36秒頃の間、犯人は、本件東側駐車場を出て東西道路を西進する被害者とすれ違った後、Uターンして被害者の後を追った。そして、午後9時44分36秒から41秒頃までの間、被害者がC方前を西進して通行した直後、犯人も同所を通行して本件犯行に及び、午後9時44分45秒頃、「こらー」「待てこらー」という被害者の怒鳴り声がC方ドラレコに記録された。これ に続く午後9時44分46秒頃、C方ドラレコ上、犯人は、後ろを振り返りながらC方前を東進し、D方ドラレコ上、午後9時44分48秒から53秒頃までの間、走って東西道路から東丁字路を経て東側南北道路に入り北進し、その撮影範囲から外れた(甲81)。 ⑵ 人定不詳者①、②、南進人定不詳者及び犯人の同一性まず、前記⑴に現れた人定不詳者及び犯人の同一性につき、検討を加える。 ア人定不詳者②と犯人の同一性人定不詳者②は、本件東側駐車場方向に顔を向けながら、同駐車場北側路上において立ち止まったり、足踏みをしたりした後、被害者しかいないと考えられる同駐車場に入り、1分弱程度の間、滞在するなどしており(甲81、証人I(同証人は、午後9時17分にHが同駐車場から出てきてから、被害者車両が同駐車場内に入るまでの間に、他の車が同駐車場内に入ったことはなかった旨証言する。))、その行動から、被害者を付け狙って 証人I(同証人は、午後9時17分にHが同駐車場から出てきてから、被害者車両が同駐車場内に入るまでの間に、他の車が同駐車場内に入ったことはなかった旨証言する。))、その行動から、被害者を付け狙っていたことは明らかというほかない。その人定不詳者②の行動と、被害者を殺害した犯人の行動との共通性からして、人定不詳者②と犯人が同一人物であることは、疑いの余地がない。 イ人定不詳者①と犯人(人定不詳者②)の同一性C方ドラレコに映る人定不詳者①、②及び犯人の画像を観察すると、各人物には、以下の特徴が認められる。 すなわち、これらの人物は、いずれも、ニット帽に分類される帽子をかぶっており、その帽子の先端部付近にはマチがあり、耳を覆うものや、つば等は付いていない。また、いずれの人物も、白色様で、顔を広く覆うサイズのマスクを着用している。着用する上下の着衣は、いずれも黒色様のウィンドブレーカー風のもので、履いている靴は、革靴、ブーツ、サンダル等ではないスポーツタイプのスニーカーで、フラットソールではない。そのサイドソールは白色様で、かつ、土踏まずに膨らみのある形である。さらに、各人物の姿勢は、いずれも猫背で、その首付近の傾斜の角度も類似して見える。体型は、いずれも180センチメートル前後の長身で、や や細身である(甲81、証人J、同K、同L(証人K及び証人Lによる人定不詳者らの身長に係る分析結果の信用性は、後述する。))。 以上のとおり、人定不詳者①、②及び犯人は、その着用する帽子の種類、同種の帽子のうちでの形状、いわゆるコロナ禍前という時期におけるマスクの着用、着用する上下の着衣それぞれの種類、色合い、形状、履いている靴の種類、形状のほか、姿勢や大方の身長、体格まで、一見して類似した特徴を有し、明らかに異なる様相を呈する特徴 う時期におけるマスクの着用、着用する上下の着衣それぞれの種類、色合い、形状、履いている靴の種類、形状のほか、姿勢や大方の身長、体格まで、一見して類似した特徴を有し、明らかに異なる様相を呈する特徴が見当たらない。 確かに、これらの一つ一つの特徴の類似を別個にみれば、いずれも一人の人物を特定するに足りるほどの強い個性を有するものではなく、それを基に、別々の機会に撮影された各人物が同一人物であると認定するには無理がある。しかし、着用する衣類等は、それを着用する人物の好み等により様々な種類、特徴を有する無数の物の中から選択されるものであり、個別の着用品の選択が別個の人物間でたまたま重なることはあっても、その選択する品目が多くなればなるほど、その全ての選択結果の特徴が一致することは稀になるといい得る。しかも、人定不詳者①、②及び犯人は、不特定多数の者が利用する公共施設や大きな店舗等もなく、幹線道路の抜け道ともなっていない本件住宅街内のうち、C方ドラレコの撮影範囲内という、更に限定した場所を、午後9時27分41秒頃から、午後9時44分33秒頃までの約17分間という短時間に通行したものである。そして、C方ドラレコ及びD方ドラレコの捜査に当たったI証人の証言によれば、本件犯行現場付近の東西道路及び東側南北道路を、当日午後8時から犯行時刻である午後9時44分までの間に通った人物は、人定不詳者①、②、南進人定不詳者及び犯人を除けばわずか5人であり、これらの人物はいずれも特定され、本件住宅街の住民であったというのである(甲81、証人I)。以上の事情を総合すれば、その着衣等の特徴がことごとく一致し、身長、体格や姿勢等の特徴まで一致する別人物が、夜間で人通りが少なく、住人以外が立ち寄ったり通過したりすることも考え難い本件住宅街内のC方ドラレコ撮影範囲という その着衣等の特徴がことごとく一致し、身長、体格や姿勢等の特徴まで一致する別人物が、夜間で人通りが少なく、住人以外が立ち寄ったり通過したりすることも考え難い本件住宅街内のC方ドラレコ撮影範囲という限定した場所を、たまたま通行したなどということは考え難く、3つの 機会にC方ドラレコ撮影範囲に現れた人定不詳者①、②及び犯人は、全てが同一人物であると認めるのが合理的で、これに疑いを差し挟む余地はない。 ウ人定不詳者①と南進人定不詳者の同一性両者の全身像を見ると、いずれの人物も、ニット帽様のものをかぶっていることやその形状、白色様のマスクを着けていること、黒色様の上下衣を着ていることやその形状、さらに、おおよその身体的特徴は、前記イと同様、一致しているといえる。履いている靴の特徴や、おおよその身長が判別できない点で、前記イより、一致すると認められる特徴点は少なくなるが、人定不詳者①が東側南北道路を北進しD方ドラレコの撮影範囲から外れた後、南進人定不詳者が同ドラレコ撮影範囲に再び出現するまでの間は4分5秒程度と、時間的にかなり近接していること(甲81、証人J)をも考え併せれば、人通りが少なく、住民以外の通行も想定し難い本件住宅街で、このように全身の特徴の類似した別人物が、約4分間という短時間に同じ場所に現れるという偶然は、やはり想定し難い。 そうすると、人定不詳者①と南進人定不詳者についても、同一人物であると推認するのが相当である。 エ小括以上の検討から、人定不詳者①、②、南進人定不詳者及び犯人は、いずれも同一人物であると認定することができ、出現①ないし③の3つの場面における人定不詳者らの動きは、いずれも被害者を付け狙う犯人の動きであると認めることができる。 弁護人は、ドラレコ映像が不鮮明であることなどを であると認定することができ、出現①ないし③の3つの場面における人定不詳者らの動きは、いずれも被害者を付け狙う犯人の動きであると認めることができる。 弁護人は、ドラレコ映像が不鮮明であることなどを指摘して、上記同一性を肯定するだけの捜査は尽くされていないなどと主張するが(最終弁論要旨5頁以下)、採用できない。 ⑶ 本件センサーライトの点灯状況、影の出現状況等から認定できる犯人の行動次に、前記⑵の出現①ないし③のドラレコ映像が、いずれも犯人の行動を捉えたものであると認められることを前提として、前記⑴で認めた客観的事実関係から、犯人の行動について検討を加える。 ア前記⑴で認めた事実関係を、より分析すると、出現①ないし③の場面における犯人(すなわち、人定不詳者①、②、南進人定不詳者を含む。)の東西道路への出現と、D方ドラレコが捉えた、本件サイクルハウス越しに南から北に向けて動く、午後9時27分26秒頃の影①、午後9時33分51秒頃の影②、午後9時44分20秒頃の影③、そして、出現①と③の場面における本件センサーライトの点灯(点灯①、②)には、以下のとおりの連動があると認められる。 すなわち、出現①の際、本件袋小路の本件センサーライトが点灯した点灯①(午後9時27分00秒)の約26秒後に本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影①が出現し、その約15秒後に、犯人(人定不詳者①)がC方ドラレコの撮影範囲に現れた。 出現②の際には、本件センサーライトの点灯はなかったが、本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影②が出現し、その約15秒後に、犯人(人定不詳者②)がC方ドラレコの撮影範囲に現れた。 そして、出現③の際には、本件袋小路の本件センサーライトが点灯した点灯②(午後9時43分56秒)の約2 らしき影②が出現し、その約15秒後に、犯人(人定不詳者②)がC方ドラレコの撮影範囲に現れた。 そして、出現③の際には、本件袋小路の本件センサーライトが点灯した点灯②(午後9時43分56秒)の約24秒後に本件サイクルハウス上部を南から北に動く人の頭部らしき影③が出現し、その約13秒後に、犯人がC方ドラレコの撮影範囲に現れた。 以上のように、本件センサーライトの点灯、影の出現、そして、犯人のC方ドラレコ撮影範囲への出現という三者間の経過時間は、おおむね合致しているといえるのである(出現②の際の本件センサーライト不点灯については後述する。)。 さらに、本件センサーライトの各点灯位置からは、通常歩く速度であれば、25秒ないし30秒程度で、西側南北道路上の本件サイクルハウス越しにD方ドラレコに捕捉される地点まで到達できる距離関係にあることが、捜査官による歩行見分結果から認められる(証人M、甲36)。弁護人は、同見分は単なる主観に基づくものと主張するが(弁論要旨①8頁)、おおよその距離関係を測る目安としては十分に意味がある。 加えて、影①ないし③のうち、影②は、東西道路と東側南北道路が交差する東丁字路北側に位置するのぼり旗が北側にはためいており、最も西丁字路の範囲が広く確認できる際のものである。影①も、同のぼり旗がやや北側にはためいている際のもので、本件サイクルハウス越しに影が動いている様子がはっきりと確認できる。 影①及び②の映像の詳細をよく見ると(大型ディスプレイで見ると更にわかりやすい。)、人の頭部及び肩の上部とみられる部分が動いているのが確認でき、その動きは人が歩く姿とみるほかなく、それ以外の動物等の動きとみる余地はない(甲81)。 そうすると、検察官が主張するとおり、出現①及び出現③のいずれの機会においても、本 動いているのが確認でき、その動きは人が歩く姿とみるほかなく、それ以外の動物等の動きとみる余地はない(甲81)。 そうすると、検察官が主張するとおり、出現①及び出現③のいずれの機会においても、本件袋小路のB方前を通行して本件センサーライトを点灯させた犯人(人定不詳者①)が、西側南北道路を北上するのが本件サイクルハウス越しにD方ドラレコに捕捉され(影①、影③)、その後、西丁字路を右折東進し、東西道路のC方前に至ったとみるのが合理的というべきで、出現②の機会には、西側南北道路を北上する犯人(人定不詳者②)が本件サイクルハウス越しにD方ドラレコに捕捉され(影②)、その後、西丁字路を右折東進し、東西道路のC方前に至ったとみるのが合理的というべきである。 イ以上の検討結果に対し、弁護人が指摘するとおり(弁論要旨①8頁以下、最終弁論要旨15頁以下)、本件センサーライトの点灯は、小動物の通過等による誤作動である可能性も、全く考えられないではない。 そこで、この点につき検討を加えておくと、本件センサーライトの点灯状況については、証拠として現れる限りでも、合計4回の実況見分が行われたことが認められる(①M証言に係る、本件センサーライトの点灯位置の特定等を目的として歩行見分を行ったもの(甲71)、②E証言に係る、点灯①及び②が本件センサーライトによるものであることを明らかにすることを目的として、本件センサーライト及びその周辺に設置された2か所のセンサーライトの点灯実験を行ったもの(甲33)、③G証言(第3回公判)に係る、本件センサーライト前を犬が通過した場合の同セ ンサーライトの検知状況を明らかにすることを目的として点灯実験を行ったもの(甲75)、④N証言に係る、本件当日と同様の気象条件で被疑者着衣を着用した場合における本件センサ の同セ ンサーライトの検知状況を明らかにすることを目的として点灯実験を行ったもの(甲75)、④N証言に係る、本件当日と同様の気象条件で被疑者着衣を着用した場合における本件センサーライトの点灯位置の特定等を目的として歩行見分を行ったもの(職3))。ところが、そのいずれにおいても、本件センサーライトの誤作動は確認されなかった(証人M、同E、同G、同N)。そうであるにもかかわらず、本件当日の午後9時27分00秒と午後9時43分56秒という約17分間の短時間において、本件センサーライトが、動物の動き等でたまたま点灯するという事態が生じたということは、可能性として相当に低いものと考えられる。 しかも、出現①及び出現③に接する本件センサーライトの点灯は、前述のとおり、影①、影③のD方ドラレコへの映り込み、及び犯人(人定不詳者①)のC方ドラレコへの映り込みとおおむね連動しており、たまたま小動物等の通過等による本件センサーライトの点灯があったところ、これによる点灯の結果が、前記のとおり、たまたま各事象間で時間的に連動したものとなり、さらに、出現①ないし③という3つの機会に現れた各人物が同一人物である犯人とみられるなどということは、稀有な事象が重なり過ぎているものといわざるを得ず、そのような偶然の事態が生じるなどということは、常識的にみて考え難い。 弁護人が指摘する本件センサーライトの誤作動の可能性を踏まえても、点灯①、②が犯人の通過によるものであるとの結論は覆らない。 ウところで、出現②の際、午後9時35分31秒頃、本件東側駐車場を出た犯人は、東西道路を走って西進したが(甲81)、その後、西丁字路を左折南下して西側南北道路を南進したことを示す証拠は、午後9時35分47秒頃、D方ドラレコに西丁字路を東から南に向かう影が映ったとす 犯人は、東西道路を走って西進したが(甲81)、その後、西丁字路を左折南下して西側南北道路を南進したことを示す証拠は、午後9時35分47秒頃、D方ドラレコに西丁字路を東から南に向かう影が映ったとするJ証人の証言以外に存在しない(J証人が証言の際に示したスライドは動画ではなく、人物の頭らしき影があるのか否か判別することができない。)。しかし、犯人は、出現②の機会に本件東側駐車場内に入り込むまでして被害者を付け狙い、出現①の機会を含め、被害者の様子をうかがい、接触して危害を加えようとしていたものと明らかに推認できるので あって、そうした犯人が、わざわざ被害者を長時間監視できず、かつ、被害者が本件東側駐車場を出た後向かうであろうB方に至るまでの間に被害者と接触する機会を失いかねない場所に移動するとは考え難い。犯人が、午後9時43分56秒頃、本件センサーライトを点灯させていること(点灯②)、それまでの間に、D方ドラレコに東側南北道路を北から南に進む犯人の映り込みもないことをも併せ考慮すれば、前記のとおり本件東側駐車場を出た犯人が、西丁字路をそのまま西進したり、西丁字路を越えた次の丁字路交差点を右折北進したとは考え難く、犯人は、J証言どおり、東西道路を走って西進した後、西丁字路を東から南に向かい、本件袋小路に入ったものと認めるのが相当である。 2 本件発生時刻頃の被告人の外出状況等前記1で、本件発生前後の犯人の動きについて検討を加え、客観的に認められる事実関係から、可能な限りで犯人の動きを認定したが、ここで、本件当日の被告人の行動について、検討を加える。 ⑴ まず、以下の各事実は、被告人自身が供述し、被告人の当日の行動に関する妻O及び長女の証言、その他の客観証拠とも整合することから、明らかな事実として認定することができる について、検討を加える。 ⑴ まず、以下の各事実は、被告人自身が供述し、被告人の当日の行動に関する妻O及び長女の証言、その他の客観証拠とも整合することから、明らかな事実として認定することができる。 すなわち、被告人は、当日、仕事を終えて午後4時から5時頃に帰宅し、帰宅後間もなく飲酒を開始した。そして、自宅リビングで夕食を済ませた後、風呂に入り、リビングのソファに座り、長女の隣で酒を飲みながらテレビ番組を見ていた。そうするうちに、B方前の車のエンジン音で、被害者らがB方に帰宅したことに気づき、スマートフォンで、自宅ガレージに設置された防犯カメラの映像を見て、B方前に被害者車両が停まっている様子を確認した。被害者車両がB方前の道路に入り、B方前で停車したのは、午後9時22分57秒であった。そこで、被告人は、Oや長女に行き先を告げることなく、自宅リビングから玄関の外に出た。このとき、被告人は、フードにファーの付いたダウンジャケットを着用していたほか、その下にフードの付いていない黒色のウィンドブレーカー上下を着用し、ナイキ製の靴を履い ていた(甲81、86、87、証人O、同P、被告人)。 ⑵ そして、以下の事実は、これを裏付ける他の証拠があるわけではないが、被告人自身が認めるところであり、そのまま認定の前提とすることに支障がない。 すなわち、被告人は、前記⑴の経緯で自宅から玄関の外に出たが、被告人が自宅を出たちょうどその時、被害者車両のブレーキランプが点灯するのが見えた。なお、前述したとおり、本件東側駐車場の14番枠に被害者車両が駐車し、被害者車両のブレーキランプが点灯したのは午後9時25分20~21秒頃であり、これが消灯したのは午後9時25分23秒頃である(甲81)。 その後、被告人は、少なくとも、5分程度は玄関の外 が駐車し、被害者車両のブレーキランプが点灯したのは午後9時25分20~21秒頃であり、これが消灯したのは午後9時25分23秒頃である(甲81)。 その後、被告人は、少なくとも、5分程度は玄関の外に出て、被告人方の玄関前のガレージにいるなどした。被告人の弁解は、この間、その場にとどまり、本件東側駐車場に被害者車両を駐車した被害者が、被告人方付近にたばこを捨てたり、被告人の自動車を汚損するなどのいやがらせをしないよう、見張りをしていた、というものである。 ⑶ なお、被告人は、外出していた時間は、体感だと5分間くらいであるが、はっきりとは分からない旨供述するが、少なくとも、これが5分間を下ることはないものと判断できる。その理由は、以下のとおりである。 被告人は、帰宅後、Oからどこに行っていたのかと聞かれ、散歩に行っていた旨話したと供述し、この点はOの証言とも一致し、本件の初動捜査に関与したQ警察官の証言によっても裏付けられる。被害者車両のブレーキランプが点灯・消灯してから、本件センサーライトの点灯①までの時間は1分37秒から1分40秒ほどであるが、わずか一、二分で自宅に戻ったとすれば、被告人があえて「散歩」と説明する必要はないし、Oが「散歩」との説明に納得するとも考え難い。また、被告人は、勤務先での事情聴取の際、自宅から歩いて5分程度の距離にある義母(Oの母。 以下「義母」という。)方に散歩がてらに行った旨話しており(証人R、職1)、5分間にも満たない短時間の外出につき、被告人がそのような説明をするとも考え難い。Oも、平成30年4月15日における取調べにおいて、「事件があった日に 主人が通ったと聞いた道」と題し、被告人方から義母方を通るなどする、相応の時間を要すると考えられる散歩の経路を記載した書面を作成しており(甲13 取調べにおいて、「事件があった日に 主人が通ったと聞いた道」と題し、被告人方から義母方を通るなどする、相応の時間を要すると考えられる散歩の経路を記載した書面を作成しており(甲13)、被告人の外出につき、相応の時間を要していたとの認識であったことがうかがえる。 これらによれば、被告人が自宅を出てから戻るまでの時間が、5分間程度を下回ることはないと判断できるのである。 3 犯人と被告人の同一性について以上の1、2で本件発生前後の犯人の動きと、被告人の行動を検討してきたが、これらを併せて検討すると、常識的に考えて、被告人以外に犯人を想定することができなくなり、被告人が本件の犯人であると強く推認される。また、被告人には、本件犯行に及んでも不思議ではないだけの動機があったと認められ、これは前記推認をより強くするといえる。以下に、その検討過程を詳述する。 ⑴ 前述のとおり、犯人は、出現①及び出現③の各機会において、本件センサーライトを点灯させた上(点灯①、②)、西側南北道路を北進し、これが本件サイクルハウス越しにD方ドラレコに捕捉され(影①、③)、その後、西丁字路を右折東進し、東西道路のC方前に至ったものと認められる。そうすると、犯人は、出現①及び出現③の機会に、いずれも本件センサーライトを点灯させる位置、すなわち、本件袋小路のB方前路上付近にいたと認められる。本件住宅街は、前述のとおり、住人以外が立ち寄ったり通過したりすることが考え難い場所であるところ、本件袋小路は、そうした住宅街の中で、更に同袋小路に接する合計6軒の住宅の住民や、これらの住宅に訪れる者のみの利用が想定される場所である。それ以外の者の立入りが目撃されれば、目撃した者、殊に本件袋小路に接する住宅の住民に疑念を生じさせかねないと考えるのが通常であり、本件袋小路 これらの住宅に訪れる者のみの利用が想定される場所である。それ以外の者の立入りが目撃されれば、目撃した者、殊に本件袋小路に接する住宅の住民に疑念を生じさせかねないと考えるのが通常であり、本件袋小路に接する住宅の関係者以外の者が、本件のような重大犯罪に及ぶ前、繰り返し待機するには適さない場所であると考えられる。一方、被告人方は、本件袋小路に入り、B方を越えた奥に位置するから、被告人が本件袋小路奥の被告人方付近にいても、特段疑念を持たれるおそれはない。しかも、同所付近を起点として、本件袋小路を西進し、西側南北道路に出て、 これを北進し、西丁字路を右折東進してC方前に至れば、これはまさに、本件センサーライトを点灯させた上で西側南北道路を北進し、これが本件サイクルハウス越しにD方ドラレコに捉えられ、その後、東西道路に出現し、C方ドラレコの撮影範囲に入ったという犯人の動きそのものとなる。なお、統合捜査報告書(甲83)によれば、被告人方ガレージ付近から本件東側駐車場内の被害者車両の様子をうかがうことが可能なことも、明らかである。 ⑵ また、被告人が、午後9時25分頃、自宅玄関から外に出ており、再び自宅内に戻るまでの時間が5分間を下らないことは前述のとおりである。この5分間に含まれる午後9時27分00秒に、犯人がB方駐車場に設置された本件センサーライトを点灯させた上(点灯①)、C方前に至ったのは前述のとおりであるから、被告人が犯人でなく、その供述どおり、本件東側駐車場に被害者車両を駐車した被害者の見張りをするなどしていたというのであれば、まさにその見張りをしている最中に、犯人が本件センサーライトを点灯させ得るB方前を通って、本件袋小路を出発し、C方前に至ったことになる。ところが、被告人は、前記時刻頃に外出したのは、被害者が被告 、まさにその見張りをしている最中に、犯人が本件センサーライトを点灯させ得るB方前を通って、本件袋小路を出発し、C方前に至ったことになる。ところが、被告人は、前記時刻頃に外出したのは、被害者が被告人方敷地内にたばこを捨てるなどの迷惑行為をさせないための見張りをするためであったというのに、本件当時、本件センサーライトが点灯したことに気付かなかったのはもちろん、本件袋小路を含め、周辺に、不審な人物や人影らしきものも見ておらず、物音等もしなかったというのである。しかし、このような事態は、以下に詳述するように、想定が極めて困難であるというほかない。 アまず、被害者車両がB方前に停車する前から、被告人以外の犯人が本件袋小路内にいて、被害者を待ち伏せていたと想定すると、その後の本件センサーライトの点灯や、被害者車両が駐車した本件東側駐車場内の監視のしやすさからして、その犯人は、同駐車場に最も近い本件袋小路奥付近にいたと考えるのが最も自然と思われる。こうした想定の下で、被告人方玄関前付近で見張りをしていたとする被告人の弁解との両立を考えると、犯人は、被告人が本件袋小路奥の被告人方玄関前付近にいる、まさにその間に、被告人のいる場所からさして距離の離れていない、 被告人方西隣りのB方前を西進し、本件センサーライトを点灯させたことになる。 しかし、このような想定は、あまりに不自然不合理で、現実的にあり得ないといわざるを得ない。この想定では、至近距離で被告人が自宅玄関から出てきたにもかかわらず、犯人は、その音や気配に気付いて本件袋小路を離れることもしなかったばかりか(仮に犯人が被告人の気配に気付くなどして、直ちに本件袋小路外に逃げたとすれば、被告人が自宅外に出て認めたという被害者車両のブレーキランプの点灯から点灯①まで、1分40秒ほどもか しなかったばかりか(仮に犯人が被告人の気配に気付くなどして、直ちに本件袋小路外に逃げたとすれば、被告人が自宅外に出て認めたという被害者車両のブレーキランプの点灯から点灯①まで、1分40秒ほどもかかっていることの説明がつかない。)、その場にとどまり続けて、被告人が自宅内に入ったり、いずれかに移動するなどして、その場を離れるのを待つこともなく、わずか1分半ほどで、わざわざ被告人に目撃される危険を冒して、被告人の間近を移動して本件袋小路を出たことになる。このような行動は、その後、重大犯罪に及ぼうとする犯人の行動として、あまりに不自然不合理であるというほかない。被告人が、幅約4.4メートル(甲71、75、職3)という狭い袋小路内で、自宅玄関から相当近接した距離に犯人がおり、さらに、そこから被告人方西隣りのB方前を通過して本件センサーライトを点灯させた動きについて、本件センサーライトの点灯だけでなくその足音や気配も含めて全く気付かないなどということも想定し難く、不自然不合理であるというほかないのである。 イ次に、被害者車両がB方前に停車した際には、犯人が本件袋小路の外におり、Bを降車させた被害者が被害者車両を本件東側駐車場に駐車し、そのブレーキランプの消灯したのを犯人が確認してから、午後9時27分00秒頃、本件袋小路を東進して奥に進み、本件センサーライトを点灯させて(点灯①)、直ちに踵を返して西進し、本件袋小路外に出てC方前に至ったという可能性を想定すると、これもあまりに不自然不合理で、そのような犯人の行動を想定するのは現実的とは思われない。そもそも、被害者に危害を加えることを目論む犯人が、本件東側駐車場に被害者車両を駐車した被害者の動きがよく見通せる東側南北道路や東西道路でないばかりか、同駐車場を西側から見通すことのできる唯一の場所である も、被害者に危害を加えることを目論む犯人が、本件東側駐車場に被害者車両を駐車した被害者の動きがよく見通せる東側南北道路や東西道路でないばかりか、同駐車場を西側から見通すことのできる唯一の場所である本件袋小路奥にも入らず、その外で被害者の様子をうかがうというのは、あまりに迂遠であると いうほかないし、被害者車両のブレーキランプが一旦点灯してから消灯し、それから約1分37秒という中途半端な時間帯に、わざわざ本件袋小路に入ってくるというのも、また、入ったとして、そのまま踵を返して本件袋小路を出て、C方前を通って本件東側駐車場付近に移動するというのも、不可解な行動というべきである。 この点、被告人の前記弁解との両立を考え、犯人が一旦本件袋小路に入って被害者の様子を監視しようとしたものの、本件センサーライトの点灯や被告人の存在に気付き、踵を返して本件袋小路を出たという可能性は、一応想定できないではない。 このように考えれば、犯人の存在等に気付かなかった旨をいう被告人の弁解と、一応両立するとはいえそうである。しかし、そうであるとすれば、今度は、出現③の前の本件センサーライトの点灯②の説明が困難となる。前述のとおり、点灯①、②は、犯人の通過によるものと認められるから、犯人は、本件袋小路に再び入ったことになるが、一旦、本件センサーライトの点灯や、被告人の存在を警戒したというのに、その直後、わざわざ重大な犯行に及ぶ前に、付近住民以外の者がいても袋小路より不自然と思われない東側南北道路や東西道路で待ち伏せるのでなく、危険を冒して本件袋小路に入るというのは、あまりに不自然不合理と考えられるのである。 ウさらに、犯人の存在等に気付かなかった旨をいう被告人の弁解との両立を考え、犯人が、当初は被告人方からやや離れた場所で、かつその移動により本件セ うのは、あまりに不自然不合理と考えられるのである。 ウさらに、犯人の存在等に気付かなかった旨をいう被告人の弁解との両立を考え、犯人が、当初は被告人方からやや離れた場所で、かつその移動により本件センサーライトを点灯させ得る場所である、B方付近や、その真正面に位置するF方付近(職3)で被害者の動きを監視した後、B方前の本件袋小路を移動し、本件センサーライトを点灯させた可能性を想定しても、やはり、そのような想定は現実的なものといえず、無理がある。 被害者が被害者車両を運転してB方前まで来た際に、本件袋小路のB方前付近にいれば、当然、被害者らの目に入ってしまうから、被害者を付け狙っていたのであれば、犯人は、その付近のいずれかに隠れるほかないと考えられる。ところが、F方建物前の塀は、自転車が1台停められる程度の幅しかなく、かつ、高さも低い(甲33、75)ため、犯人が隠れるのに適しているとはいえない。F方のカーポート 内も、そこに隠れようとすれば、奥の方まで入らざるを得ないと思われるが、そうすると同方のセンサーライトが点灯してしまうため、証拠上、前記時刻頃に同方センサーライトが点灯していないと考えられること(甲33、職3、証人E)と矛盾する。また、B方敷地内も、人が隠れるのに適した場所は一見して見当たらず(甲72)、そもそも、B方に帰ってくる被害者を狙うに当たって、B方敷地内に隠れるというのは、適切でない時機に被害者らに発見されてしまう危険を伴い、犯人の行動として考え難い。 エ以上のとおり、被告人以外の犯人がおり、その犯人が前記認定のとおりの動きをして本件犯行に及び、かつ、それが被告人の前記弁解と両立する可能性につき検討してみたが、いずれも現実的なものとして想定し難く、そのような犯人の存在を想定することは不可能というほか 定のとおりの動きをして本件犯行に及び、かつ、それが被告人の前記弁解と両立する可能性につき検討してみたが、いずれも現実的なものとして想定し難く、そのような犯人の存在を想定することは不可能というほかない。また、先に検討したいずれの想定においても、犯人は、被害者がいた本件東側駐車場に注意を向けていたはずであり、それは本件袋小路の奥にある被告人方ガレージの更に先である。そうであれば、犯人が袋小路にいたことが明らかである点灯①の際に、被告人も本件袋小路奥の被告人方付近にいたことになるから、犯人が被告人の存在に気付かないはずがない。それにもかかわらず、わずか17分に満たない短時間で、重大犯罪に及ぶ前の犯人が、袋小路の住民(被告人)に不審に思われる危険を冒して、再び本件袋小路に入り、本件センサーライトを点灯させる(点灯②)などということは、想定し難いということもできる。結局、被告人の弁解と両立する、被告人以外の犯人の存在を想定することは、現実的には困難というほかないのであって、前記認定に係る本件犯行前の犯人の一連の動きと、犯人の出現①の前の本件センサーライトの点灯①を含む時間帯に、本件袋小路に接する被告人方玄関外に出ていたとする被告人供述を総合考慮すれば、本件センサーライトの点灯①を生じさせた者としては被告人以外に考えられず、被告人を本件の犯人とみるほかないことに帰するのである。 ⑶ これに対し、弁護人は、被告人が犯人であり、前記認定どおりの犯人の動きをしたというのであれば、少なくとも出現③の前に本件センサーライトを点灯させ た点灯②の前、及び本件犯行後に自宅に帰る際の2度、被告人がB方前を通過せねばならないはずであるのに、いずれにおいても本件センサーライトが点灯した形跡はなく、出現①から出現②までの間にも本件袋小路に戻ったとす 前、及び本件犯行後に自宅に帰る際の2度、被告人がB方前を通過せねばならないはずであるのに、いずれにおいても本件センサーライトが点灯した形跡はなく、出現①から出現②までの間にも本件袋小路に戻ったとすれば、更に2度の本件センサーライトの点灯もあったはずだが、それらの点灯の形跡がないことによって、前記推認は破綻している旨の指摘をする(弁論要旨③7頁以下、最終弁論要旨14頁以下)。 確かに、本件センサーライトは、外気温が本件当時に近い5℃ないし7℃程度の状況で、温かい室内から出た直後であれば、本件袋小路南端を歩行しても点灯し、9分間外気に触れて冷えた状態で同袋小路を歩行しても、同袋小路北端から3メートルまでの地点を通行すれば点灯することが実況見分により確認されているから(証人N、職3)、被告人が犯人であれば、Oや長女の証言から午後10時までには自宅に戻ったと認められる被告人によって、本件センサーライトが点灯しなければならないようにも思われるが、そのような点灯は証拠上認められない。また、出現③の前に、本件袋小路から西側南北道路に出る際、被告人が本件センサーライトを点灯させた(点灯②)とみる以上、その前に袋小路奥の被告人方付近に戻る際にも、本件センサーライトを点灯させることになるはずであるのに、そのような点灯も証拠上認められない。これらの事実関係は、弁護人が指摘するとおり、被告人が犯人であることと矛盾する事情となるようにも思える。 しかしながら、一方で、関係証拠によれば、実況見分の結果、外気温が6℃程度という、3.3ないし3.4℃であった本件時と大きく異ならない気象条件の下で(弁護人は1.5度程度の外気温の差を問題とするが(最終弁論要旨16頁)、有意な差であるとは思われない。)、9分以上外気に触れた状態で、本件センサーライト付近を駆け足で通 く異ならない気象条件の下で(弁護人は1.5度程度の外気温の差を問題とするが(最終弁論要旨16頁)、有意な差であるとは思われない。)、9分以上外気に触れた状態で、本件センサーライト付近を駆け足で通ると、本件袋小路北端から1メートルという本件センサーライトの間近の場所を通過しても、本件センサーライトは点灯しないと確認されたことが認められる(証人N、職3)。これによれば、本件センサーライトは、その検知範囲を通過しても、通行方法が駆け足であれば点灯しないこともあるのであって、弁護 人の指摘する本件センサーライトの不点灯は、必ずしも前記⑴⑵の推認と矛盾する関係にあるとはいえない。実際、D方ドラレコが捉えた犯人の動きをみると、点灯②の直前に当たる出現②の際、東西道路を西進して本件袋小路方向に向かう犯人は駆け足であるし、本件犯行後、東側南北道路を北進して逃走する際の犯人も、相応の速度での駆け足であったことが認められる(甲81)。これら証拠上認められる犯人の動きに加え、出現②の後、本件袋小路に戻る犯人の動きは、本件東側駐車場内に入ってまで被害者の様子を確認した後、その場を離れて、一時的にでも被害者の様子を確認することができない状況下で、被害者から遠ざかる方向に西側南北道路を移動するなどして、本件センサーライト前を通過するもので、その間の被害者の動きを見逃すことで犯行の機会を逃すおそれがあること、本件犯行を終えた後は、自宅まで逃げ帰る際の移動であることから、いずれにおいても、焦燥感を伴う移動であると想定されることを考慮に入れれば、本件センサーライトの前を通過する際に駆け足であったとしても、特段不自然ではないともいえる。これらの場合は、本件東側駐車場からB方に向かうことが見込まれる被害者と相対する形での、心理的余裕があると考えられる場 ライトの前を通過する際に駆け足であったとしても、特段不自然ではないともいえる。これらの場合は、本件東側駐車場からB方に向かうことが見込まれる被害者と相対する形での、心理的余裕があると考えられる場面での移動とは条件が異なっていると考えられるのである。結局、以上2回にわたる本件センサーライトの不点灯は、被告人が本件の犯人であるとする前記⑴⑵の強い推認を覆すほどの事情とは考えられない。本件センサーライトの不点灯に関する捜査機関の実況見分は、弁護人が指摘するように、実施の際の条件に配慮を欠き、あるいは実施回数が少ないなど、必ずしも適切なものとはいい難いが(最終弁論要旨16頁以下)、これによって駆け足による通行で本件センサーライトが点灯しない可能性があること自体が否定されるものではなく、前記判断を左右しない。 また、弁護人が指摘するとおり、出現①と出現②の間においても、本件センサーライトは点灯していないが、これは、犯人がB方前付近の路上を走ったことによるものとも考えられるし、犯人が東側南北道路を南進してD方ドラレコの捕捉範囲を脱してから(午後9時32分04秒)、再びD方ドラレコに西側南北道路を北進す る姿が捕捉されるまで(午後9時33分51秒)、わずか1分47秒程度であることからすれば、犯人が本件東側駐車場を監視できる東側南北道路上に一時とどまるなどした後、本件袋小路に入ることなく西側南北道路を北進したとも考えられる。 本件の捜査に当たったS証人の証言によれば、犯人が東側南北道路を南進しD方ドラレコの撮影範囲から外れた地点から、再び同ドラレコが捉える東西道路に出現する場所付近まで、身長180センチメートル前後の警察官が東側南北道路を南進して最初の角を右折し、次の丁字路を右折して西側南北道路を北進し西丁字路に至る「内回り」の経 ドラレコが捉える東西道路に出現する場所付近まで、身長180センチメートル前後の警察官が東側南北道路を南進して最初の角を右折し、次の丁字路を右折して西側南北道路を北進し西丁字路に至る「内回り」の経路を歩行するのに要した時間がおおむね1分36秒程度であったというのであり、前述したD方ドラレコ上の経過時間との間にそれほど差がないことからすると、犯人が、同経路を通り、本件袋小路に入ることなく、再び東西道路に出現したと考える方が自然であるともいえる。出現①と出現②の間に本件センサーライトが2回点灯していないことが前記推認に反する旨をいう弁護人の指摘は当たらない。 さらに、弁護人は、被告人方防犯カメラ映像の精査結果によれば、本件袋小路を通行する人物が通常歩行する経路を徒歩等で通行し、本件センサーライトが点灯しなかったことはないとされていることをも指摘し、前記推認の破綻を主張するが(最終弁論要旨18頁以下)、G証言(第17回公判)によれば、精査の対象とされた映像に、本件袋小路を人が駆け足で通過したのに、本件センサーライトが点灯したというものは確認されていないといい、そのようなものの存在は、弁護人によっても指摘されていない。相当速度で走り抜けた新聞配達のバイクに本件センサーライトが反応したことは、弁護人が指摘するとおりであるが、エンジンの燃焼による熱源のあるバイクと、駆け足での人の通行には条件の差があり、前述のとおり、現に本件センサーライト付近を駆け足で通行すると、本件袋小路北端から1メートルという本件センサーライトの間近の場所を通過しても、本件センサーライトは点灯しないと確認されたという実況見分結果があることを覆すようなものではない。そうすると、被告人方防犯カメラ映像の精査結果によっても、前述した推認が覆ること はない。 ⑷ イトは点灯しないと確認されたという実況見分結果があることを覆すようなものではない。そうすると、被告人方防犯カメラ映像の精査結果によっても、前述した推認が覆ること はない。 ⑷ 以上に加えて、被告人には、本件当時、B方関係者に危害を加える犯行に及ぶだけの動機はあったものとみることができ、これは、被告人が本件の犯人であると認めることと整合し、前記⑴⑵の推認を強める事情であるといえる。 アすなわち、関係証拠(証人B、証人O、被告人)によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 本件発生の数か月から1年ほど前から、被告人方とB方の間には、Bが居宅前に置いた鉢植えのソテツの葉が道路上にはみ出し、本件袋小路奥の被告人方の自動車の出し入れの邪魔になるという問題があり、被告人がB方に苦情を言いに行くということもあった。その際には、B方にいた被害者が被告人の指摘を容れて、Bのソテツの鉢植えをB方敷地内に押し込み、その場を収めたものの、その後も被告人方とB方の間でのソテツの鉢植えを巡る諍いは続き、平成29年9月から10月頃にかけて、被告人やOがソテツの鉢植えをB方敷地内の奥に押し込み、Bがそれを敷地の端付近まで戻すということが、10回程度も繰り返された。 (イ) 同年の年末頃には、B方のソテツを巡る行動への被告人のいら立ちが高まり、B方の浴室窓に、五、六回ほど、唾を吐きかける行為にまで及ぶようになった。これに対し、Bは、同窓から被告人方の方向にデジタルカメラを設置して見せ付けることで、対抗する措置をとった。 (ウ) 同年12月29日には、被告人が、B方の植木が越境している旨を警察官に通報し、警察官がB方を訪問するということがあった。 (エ) このほか、被告人は、被害者が道路上等にたばこを捨てているのを見かけていたことから、被告人 被告人が、B方の植木が越境している旨を警察官に通報し、警察官がB方を訪問するということがあった。 (エ) このほか、被告人は、被害者が道路上等にたばこを捨てているのを見かけていたことから、被告人方敷地内に捨てられたたばこについても、被害者の仕業ではないかと考えていた上、本件の二、三か月ほど前には、被告人所有車両のドアノブに液体がかけられた跡が残っていたことがあり、これも、Bか被害者による嫌がらせだと考え、本件の1か月ほど前からほぼ毎日、同ドアノブをペットボトルの水で洗い流すことを繰り返していた。 (オ) こうした諍いが継続する中、本件直前の平成30年2月7日頃には、Oも、被告人が車にいたずらをされているなどと言うし、従前からB方との間で諍いが続いてもいたので、その抑止になればとの思いから、防犯カメラを購入し、これを被告人方ガレージに設置した。さらに、B方とこれ以上関わりたくないとの思いから、転居まで検討し、同年1月末から2月上旬にかけて、住宅情報等の検索をしていた。被告人も、転居したいとの希望はもっていたものの、住宅ローンの残債があることから、転居は現実的ではないと考えていた。 イ以上のとおり、本件の約1年前から直前にかけて、被告人方とB方との間の諍いは継続し、その程度は徐々に増幅し、最終的には、被告人・Oとも、住宅ローンを組んで購入した自宅からの転居の検討を余儀なくされるほど深刻な状況に追い詰められていたということができる。 そうすると、被告人のB方関係者(B及び被害者)に対する不満は相当に高まっていたものと推認できるのであって、鉢植えを巡る諍いを被害者が一度は収めた経緯があったにしても、Bのみならず被害者からも嫌がらせをされているなどという疑いをもつまでに至っていた中で、被告人の強い不満の矛先が、Bのみな きるのであって、鉢植えを巡る諍いを被害者が一度は収めた経緯があったにしても、Bのみならず被害者からも嫌がらせをされているなどという疑いをもつまでに至っていた中で、被告人の強い不満の矛先が、Bのみならず、その夫であると認識していた(職1、被告人)被害者に向かっても、何ら不自然なことではないと考えられる。こうした事情は、被告人が本件の犯人であるとの前記推認と整合するものであるといえ、これを補強するものといえる。 ウ弁護人は、被告人方とBとのトラブルは、当事者であるBでさえ、被告人との間でトラブルがあるという認識がほとんどないような些細なものであるから、被告人と直接関係のない被害者を殺害する動機にはなり得ない旨主張する(弁論要旨③3頁以下、最終弁論要旨23頁以下)が、前述のとおり、被告人とOは、住宅ローンも残る自宅からの転居の検討を余儀なくされるほどに追い詰められ、被告人が嫌がらせをされているなどと疑う対象に被害者も含まれていたことからすれば、些細なトラブルであるなどという弁護人の主張は当を得たものとはいえない。 4 検察官主張に係る他の間接事実について 以上のほか、検察官は、被告人が本件の犯人であることを根拠づけるものとして、複数の事実関係を主張するので、それらに対する当裁判所の判断を、簡潔に示しておくこととする。 ⑴ 犯人は、現場住宅街の住民であると認められ、午後8時以降東西道路を通行した者は犯人以外特定されているところ、被告人が犯行時刻の直前に外出して被害者を監視していた旨をいう主張について弁護人が強調して主張するとおり、本件住宅街内の犯行現場には、防犯カメラやドライブレコーダー等に捉えられることなくたどり着くことができる可能性のある経路が、複数存在した疑いがある。犯人は現場住宅街の住民であると認められると とおり、本件住宅街内の犯行現場には、防犯カメラやドライブレコーダー等に捉えられることなくたどり着くことができる可能性のある経路が、複数存在した疑いがある。犯人は現場住宅街の住民であると認められるとする検察官の主張は、基本的な部分で大きく破綻したものといえる。本件犯行現場付近は、前述したとおり、住民以外の立ち寄り等が想定しにくい住宅街で、住民以外の外部の者が被害者を待ち伏せなどするには不適な場所であり、本件当時の被害者の生活拠点は、本件犯行現場付近とは別の場所であったことからすれば、わざわざ本件犯行現場での犯行に及んだ犯人は、本件住宅街の住民であると考える方が自然であるとはいえるが、外部の者の犯行である可能性が、有意に低くなるとまでは判断できない。 また、Oが、平成30年4月15日の取調べの際に、「事件があった日に主人が通ったと聞いた道」と題する自筆の書面まで作成したこと(甲13、証人O)や、その経路に義母方が含まれ、同所付近までの移動が被告人の勤務先に対する翌16日の説明にも現れ、合致すること(証人R、職1)等からすれば、前記自筆書面の作成経緯に係る甚だ曖昧なOの証言にもかかわらず、被告人がOに対し、本件当日の犯行時刻頃に散歩に出掛けた旨の説明をした際に、一定の具体的経路をうかがわせる説明を伴っていたことは認定できるにしても、これは、被告人がOに対し、一定程度、散歩についての具体的な説明をしたというにとどまり、その説明が真実であると裏付けるようなものではない。弁護人が指摘するとおり(弁論要旨①12頁)、被告人は、散歩の説明自体が虚偽であったとし、それはBや被害者との諍いの激化 を望まないOの機嫌を損ねないための方便であったと弁解しているのであって、そうであれば、Oへの説明内容が一定程度具体化することは、その説明が虚 とし、それはBや被害者との諍いの激化 を望まないOの機嫌を損ねないための方便であったと弁解しているのであって、そうであれば、Oへの説明内容が一定程度具体化することは、その説明が虚偽であってもあり得ることといえる。被告人のO等への散歩の説明に、実際に当該説明に係る経路を通ったのでなければ語り得ないような特異な内容が含まれているのであればともかく、そのようなものも見当たらない本件の証拠関係からすれば、被告人の散歩経路の説明が、仮にOが自筆書面で作成したようなものであったとしても、それが真実であったと認めて、被告人が本件の犯人であると認定する基礎にすることはできない。 被告人は、平成30年4月15日に自宅の捜索を受け、自身に強い嫌疑がかけられていることを認識した中での取調べにおいても、被害者を自宅前で監視していただけで散歩などしていない旨の公判同様の弁解はせず、散歩の説明を維持し、同月17日に至って初めて、弁護人に公判弁解同様の話をし始めたというのであるが、せいぜい、この経緯につき、被告人が本件の犯人であると認定できたことを前提として、Oの取調べ内容から捜査機関のもつ犯人の映像が明確なものでないことを把握し、弁解内容を変更するに至ったと考えれば整合的であるといい得る余地があるにとどまる。 以上に検討したとおり、検察官の頭書主張は、有意に被告人の犯人性を基礎付けるような事情とはいえず、認定の基礎とすることはできない。 ⑵ 犯人と被告人の身体的特徴の合致、着衣の類似性をいう主張について検察官は、犯人の身長は180ないし181センチメートル程度かつ8頭身程度であり、被告人の身長・頭身(181.2センチメートル、8.05頭身)と合致すること、このような身長・頭身は、日本人の頭身分布からすると、平均から大きく外れた特徴的な ンチメートル程度かつ8頭身程度であり、被告人の身長・頭身(181.2センチメートル、8.05頭身)と合致すること、このような身長・頭身は、日本人の頭身分布からすると、平均から大きく外れた特徴的なものであること等や、犯人の着衣等と被告人が所持していた着衣等に類似性が認められることを指摘し、これらは被告人が犯人であることを一定程度推認させるなどと主張する。 しかし、そもそも検察官が頭身に係る主張の前提とする日本人の頭身分布なるも のが、如何なる主体によって、如何なる者を対象とし、どの程度の調査・分析をしたのか等、果たして信用に値するものであるのかといった点について、本件の審理では何ら明らかになっておらず、これを基に被告人の頭身が日本人の頭身分布からして、平均から大きく外れた特徴的なものであるといえるかには、疑問が残るところである。また、画像処理の専門家であるL証人の分析(以下「L鑑定」という。)や証言によると、頭身は身長を頭長(頭頂点から顎先までの長さ)で除して得られる数であることが明らかであるが、被告人の身長である181.2センチメートルを前提とすると、日本人の平均であると検察官が主張する7.6頭身と被告人の頭身である8.05頭身とは、頭長においてわずか1.3センチメートル程度の差があるにとどまる(181.2cm(被告人の身長)÷22.5cm(被告人の頭長)≒8.05頭身。この身長181.2cmを基に、7.6頭身となる場合の頭長を求めると、181.2cm÷7.6(頭身)≒23.8cm。被告人の頭長である22.5cmと7.6頭身である場合の頭長23.8cmの差は、約1.3cmとなる。)。ところで、弁護人も指摘するとおり(弁論要旨②12頁、最終弁論要旨11頁以下)、L鑑定によるC方ドラレコ映像上の犯人の頭身の算出過程に 頭身である場合の頭長23.8cmの差は、約1.3cmとなる。)。ところで、弁護人も指摘するとおり(弁論要旨②12頁、最終弁論要旨11頁以下)、L鑑定によるC方ドラレコ映像上の犯人の頭身の算出過程には、帽子に覆われるなどして明らかでない部分に、推測を介入させている部分が少なくなく、客観的事実と異なる結果となる危険があることを指摘せざるを得ない。この推測を介入させることにより生じる誤差の影響が些細なものであるといえるのならば、L鑑定が算出した犯人と被告人の頭身比較にも、それなりの意義があるともいえるが、前述のとおり、検察官が平均であるとする7.6頭身と、特徴的であるとする8頭身前後の頭長の差は、わずか1.3センチメートル程度に過ぎず、前記推測の介入による誤差の影響が些細なものとなるとは考えられない。若干の帽子の膨らみや、マスクの着け方等により、実際の頭頂点や顎先の位置が数センチ程度ずれることは十分に考えられ、このようなずれによって、頭身も容易に変わり得ると考えられるのである。結局、犯人の頭身と被告人の頭身とを比較して、被告人の犯人性を基礎付けようとする検察官の主張は、採用の余地のないものというべきである。 また、L鑑定のうち、犯人の首の傾き等について補正を行い、犯人の実際の身長(L鑑定にいう「推定身長」)を算出した点についても、その算出過程において、犯人の猫背の度合いの判断に誤りが含まれていないかを確認する弁護人の反対尋問に対するL証人の証言内容は、必ずしも説得的なものであるとはいえず、その猫背を補正した結果として算出された推定身長をそのまま採用してよいかには疑問が残る。 結局、L鑑定のうち採用できるのは、せいぜい猫背や足の曲がり、靴底の厚み等の補正のされていない、見た目の身長(L鑑定にいう「計測身長」)が、人定不詳 定身長をそのまま採用してよいかには疑問が残る。 結局、L鑑定のうち採用できるのは、せいぜい猫背や足の曲がり、靴底の厚み等の補正のされていない、見た目の身長(L鑑定にいう「計測身長」)が、人定不詳者①、②及び犯人のいずれにおいても、おおむね178ないし180センチメートルであるといった、数学的知見を基に算出された結果と認められるものにとどまる。 さらに、検察官は、被告人の身長データや全身像等を基に作成した被告人のアバター(以下「本件アバター」という。)と犯人との異同識別を行ったK証人による分析結果(以下「K鑑定」という。)も、L鑑定の信用性を補強するものとして主張する。しかし、弁護人が指摘するとおり(弁論要旨②5頁以下、最終弁論要旨7頁以下)、そもそも、同証人がアバターの鑑定を開始したのは令和2年9月頃と比較的最近であり、アバターを用いた画像鑑定という捜査手法の研究が進んでいるものでもなく、鑑定技術として一般的に定着したものであるといえるか、疑問が残る。 そのため、同鑑定の信用性については、慎重に検討しなければならないところである。ところが、本件アバターを作成する基本となる原型から、本件アバターを作成するまでの補正の過程等は、K証人の尋問を経ても全く不明で、被告人の各関節の位置について、K証人が如何なる映像の如何なる部分を捉えて本件アバターの原型から補正を行い、本件アバターが作成されるに至ったのか、また、関節位置等に矛盾が生じたといえるのが如何なる場合で、本件アバターは具体的にどのような点において矛盾がなかったといえるのか、といった点は全く明らかにならなかった。本件アバターを用いて、犯人と被告人が同一人として矛盾しないとのK鑑定は、結局のところK証人の主観にすぎないとの疑いを払拭することができず、その信用性を 判断 らかにならなかった。本件アバターを用いて、犯人と被告人が同一人として矛盾しないとのK鑑定は、結局のところK証人の主観にすぎないとの疑いを払拭することができず、その信用性を 判断するための資料は、証拠調べの過程で明らかにならなかったといわざるを得ない。本件アバターを用いたK鑑定を、犯人性判断の基礎として採用することはできない。 一方、同鑑定によれば、C方ドラレコ画像に3D空間の座標を重ね合わせたところ、人定不詳者①、②及び犯人のいずれもが、その帽子の先端部分、靴の厚みや背中の曲がり等の補正をしない状態で、おおむね180ないし185センチメートル程度の座標軸に頭頂部分が位置することは画面上明らかであり、この限りで前記L鑑定の信用性を補強するとはいえる。 このほか、着衣等の類似性についてみると、犯人の着衣等については、前述したとおりであるが、検察官は、これらと被告人が所持していた着衣等に、靴の踵寄りにナイキのスウッシュラインがあるという特徴や、踵部分の素材の光沢の違いがドラレコ画像にも反映されているなどの類似性があるなどと主張する。しかし、C方ドラレコ画像からは、同ラインの存在を一見して認めることはできず、靴の異同識別鑑定をしたL証人も、同ラインの存在は判断できなかったという。また、前記光沢の違いについても、L証言によれば、同ドラレコ画像上は白く膨張したように映る可能性も否定されないといえるにとどまる。そうすると、着衣等について検察官が主張するような顕著な特徴の一致があるとはいい切れない。 以上に検討したとおり、検察官の頭書主張は、弁護人の反対尋問等により、鑑定内容の信用性の大半が否定されるに至ったのであり、被告人が犯人であることを推認させる事情とすることはできない。 ⑶ 事件後、犯人であることと整合する行動をして 主張は、弁護人の反対尋問等により、鑑定内容の信用性の大半が否定されるに至ったのであり、被告人が犯人であることを推認させる事情とすることはできない。 ⑶ 事件後、犯人であることと整合する行動をしているとの主張について検察官は、被告人が本件発生の1か月ほど前から、被告人所有車両を見るたびに、そのドアノブを触るなどして汚されていないか確認していたにもかかわらず、本件当日午後11時過ぎに外出した際には、同ドアノブが汚れているか一切確認することなく運転席ドアを開けていることから、被告人は、この時点で既に被害者が死亡していることを知っていたなどと主張する。 しかしながら、被告人方防犯カメラは、画面上一定の範囲の変化を感知しなければ作動しないというのであり(証人G)、これによれば、本件発生後、前述の午後11時過ぎの外出より前に、被告人が、同防犯カメラを作動させることなく同ドアノブを確認していたとすれば、前記時刻頃にドアノブを確認する行為がなかったとしても、特に不自然ではないということになる。このような可能性を排斥する証拠は見当たらない。また、ドアノブを確認するために、被告人が普段、具体的にどのような行動をとっていたのかも、証拠上明らかではない。一瞥する程度の確認にとどまっていたのであれば、前記時刻頃の被告人の動きも、確認行動として不自然なものとはいい切れない。そもそも、検察官が指摘する映像は、その映像そのものが証拠となっているものではなく、審理終盤に至って、にわかに被告人に示して説明を求めたものであり、被告人において映像内容を十分に検討する機会が与えられていたとはいい難い。こうした経緯の下で得られた被告人の公判供述を、事実認定の基礎とするのは適正・公平であるとはいえず、正当なこととは思われない。 ⑷ 被害者には、被告人方と 検討する機会が与えられていたとはいい難い。こうした経緯の下で得られた被告人の公判供述を、事実認定の基礎とするのは適正・公平であるとはいえず、正当なこととは思われない。 ⑷ 被害者には、被告人方との関係以外にトラブルがなかった旨をいう主張について検察官は、被害者の勤務先関係者や、居住マンションの近隣住民、携帯電話の登録先、現場住宅街全世帯から聞き取りをしたところ、被告人の家族以外に、被害者との間に殺害につながるようなトラブルを抱える者は一切認められなかった旨主張する。これに対し、弁護人は、被告人以外の者が犯人である可能性に対する捜査が不徹底であった旨の主張をする(最終弁論要旨28頁以下)。 確かに、顧客や取引先業者であれば、被害者やその勤務先に苦情の電話等をすることなく、いきなり被害者を殺害することは考え難いから、被害者の携帯電話に履歴が残っている限りでは被害者にトラブルは見当たらず、勤務先にもそのような記録はなかったというのであれば、被害者が殺害されることにつながるような問題を抱えていた可能性は低いといえる。しかし、過去に被害者とトラブルになった部下、その他被害者と元々相応の接点があった者らについては、事前に被害者に接触する などした上で犯行に及ぶとは限らない。S証人が証言する捜査経過をみると、そうした者らに対する捜査に当たって、十分な捜査がされたかには疑問が残り、共犯者を利用する可能性についても、十分な検討がされたとはいい難い。 捜査が不徹底であったとする弁護人の指摘には、理に適ったものが相応に含まれているといえ、被害者に、被告人方との関係以外にトラブルがなかったとはいい切れない。 5 総括以上に検討したとおり、前記4に挙げた各事情は、いずれも検察官の立証に不十分な点があるなどして、被告人の犯人性を積極 害者に、被告人方との関係以外にトラブルがなかったとはいい切れない。 5 総括以上に検討したとおり、前記4に挙げた各事情は、いずれも検察官の立証に不十分な点があるなどして、被告人の犯人性を積極的に基礎づける事情として採用することはできないものの、前記3で検討した事情によって、被告人が被害者を殺害した犯人であると推認できる程度は相当に高く、これらによって、合理的な疑いを容れることなく、被告人が本件の犯人であると認めることができる。 6 弁護人の主張についての検討以上の認定に対し、弁護人は、これに反する種々の主張をするが、当裁判所は、これらの主張を検討しても、被告人が本件の犯人であるとの認定判断が動揺することはないものと判断した。以下に、そのうちの主要なものにつき、若干の補足説明を加えておく。 ⑴ 監視行動が不合理であること(最終弁論要旨19頁以下)弁護人は、本件住宅街の住民に広く顔が知られている上、被害者が本件東側駐車場に被害者車両を駐車してB方を訪問するまでの経路を把握していた被告人が、敢えて、被害者を見失ったり、近隣住民に出会う可能性の高い経路で、本件犯行現場付近を歩き回ることはきわめて不自然であるなどと主張する。 しかし、前述したとおり、夜間は特に人通りが少なく、近隣住民以外の通行がほとんど想定されない本件住宅街において、一か所にとどまって被害者を監視すれば、近隣住民に怪しまれる危険性は高まる。仮に近隣住民と鉢合わせしても、散歩であると弁解できるようにするために、東側南北道路を北進した後、南進したり、間も なく東西道路に再び出現して東進し、本件東側駐車場に進入するなど、移動を続けることは、顔見知りの近隣住民に不信感を抱かれたくないという被告人の心情と何ら矛盾するものではない。また、被告人には、どうし なく東西道路に再び出現して東進し、本件東側駐車場に進入するなど、移動を続けることは、顔見知りの近隣住民に不信感を抱かれたくないという被告人の心情と何ら矛盾するものではない。また、被告人には、どうしても本件の機会に、被害者に危害を加えなければならないとの事情があったとも思われない。被害者の動きを監視しながら付近を歩き回って散歩を装ううちに、近隣の知人に出会うなどして犯行に及ぶには適切でないと考えれば、頻繁にB方を訪れる被害者を別の機会に狙えばよいだけである。 こうしてみれば、本件における犯人の動きは、被告人がとった行動とみて特に不自然であるともいえないのであって、弁護人の主張は、被告人を犯人であると認めた前記判断に影響しない。 ⑵ 犯行痕跡と被告人との間に乖離があること(弁論要旨①5頁以下、最終弁論要旨21頁以下)弁護人は、被害者の背後から刃物を横向きに肋骨と並行になるようにして肋骨と肋骨の間から心臓を狙い、約12センチメートルの深さに達するほどの相当の力で心臓を一突きして殺害するという殺害方法、犯行後、ジョギングするような余裕を見せて立ち去る特徴的な行動、更には、犯行に使用された凶器や犯行時の着衣も見つからず、目撃者の一人も発見できなかったことなどからすると、犯人は緻密な計画を立てた人物で、本件住宅街の外部の者であることが想定され、このような犯人像と被告人とは、著しく乖離していると主張する。 しかし、刃物を横向きに用いて刺突行為に及ぶという態様は、特に高度の知識や技術を要するものでもなく、殺害に係る医学的専門知識等を有していなかったとしても、そのような犯行に至ることは十分に可能であると考えられる。また、刺突した部位が、腹部と比べて筋肉量の多い後背部であり、外部に流出する血液が少なかったこと(甲77)からすれば、被告人方から押収 ても、そのような犯行に至ることは十分に可能であると考えられる。また、刺突した部位が、腹部と比べて筋肉量の多い後背部であり、外部に流出する血液が少なかったこと(甲77)からすれば、被告人方から押収された着衣や靴から被害者の血液が検出されなかったことが特に不自然であるとも思われない。正面から歩いてきた被害者と一旦すれ違った後、犯行に及ぶという態様は、自身の顔や服装等を被害 者に見られる危険も伴い、見方によっては素人的な態様であるともいえる。 また、確かに、本件犯行に用いられた凶器は、特定も発見もされていないが、本件住宅街の周辺には古墳の堀や池が存在し、これらに凶器を投棄することは可能であったと思われる。堀等の水中での捜索が行われたのは、いずれも本件発生の翌年になってからであり(証人S)、この間に投棄された凶器が水中の堆積物等の影響で不明となった可能性はあるのだから、凶器が発見されていないことが、被告人が犯人であることと整合しないとはいえない。 ⑶ 被告人に本件犯行は不可能であること(弁論要旨①7頁以下、最終弁論要旨32頁以下)弁護人は、Q警察官が本件当日に被告人方を訪問した際に作成した手帳の領置経過に係る報告書に、手帳の記載内容は、被告人が本件当日午後9時30分頃に散歩から帰宅したというものである旨説明したとの記載があることをもって、被告人は犯行時刻には既に帰宅しており、犯行は不可能であった旨の主張をする。 しかし、当該手帳を記載したQ警察官は、同手帳の記載は、被告人が午後9時30分頃に散歩に行って、帰ってきたという趣旨である旨を明言しているのであって(証人Q)、報告書の記載は、誤解に基づくものであると考えるのが妥当である。 犯行時刻が午後9時44分頃であることが明らかな本件において、そのような誤解に基づく報告 旨である旨を明言しているのであって(証人Q)、報告書の記載は、誤解に基づくものであると考えるのが妥当である。 犯行時刻が午後9時44分頃であることが明らかな本件において、そのような誤解に基づく報告書を作成するというのも不用意なことであるとは思われるが、当該報告書の記載をもって、前記認定が揺らぐとも考えられない。 また、Oや長女は、当日の被告人の外出が、ごく短時間であったかの供述をするが、いずれも被告人の行動を意識的に観察していたものでもなく、これらによって前記認定が左右されるとも考えられない。 ⑷ 犯行後の被告人の行動について(弁論要旨①14頁以下、最終弁論要旨33頁)弁護人は、本件当日、帰宅した被告人が、服を着替えたり、風呂に入り直すこともなく、再びリビングで酒を飲みながら、長女と一緒に平然とテレビを見続けたこ となどから、殺人を犯した直後の心理状態に照らせば、このような被告人の行動はあり得ないなどと主張する。 しかし、被告人は、外出前に既に風呂に入っていたというのであるから、犯行後は、不審がられることを避けようとして、風呂に入りなおすようなことはしないと考えられるし、被害者の体外への出血量は少なく、滴下血痕のみで飛沫血痕の見当たらない犯行現場付近の状況(証人S)から、凶器の刃物にも、さほど多量の血液は付着していなかったと考えられる。そうすると、風呂に入りなおさねばならなかったり、服を着替えたりしなければならないような状況にはなかったとも考えられる。また、本件犯行時、被害者は、「待てこらー」などと怒鳴り声を上げて犯人を追いかけていたことからすれば、被害者の生命に深刻な危険を及ぼす犯行態様であったとはいえ、一撃にとどまる本件犯行によって、被害者はさほど深刻な痛手を負うには至らなかったと、軽く考えていた可能性 人を追いかけていたことからすれば、被害者の生命に深刻な危険を及ぼす犯行態様であったとはいえ、一撃にとどまる本件犯行によって、被害者はさほど深刻な痛手を負うには至らなかったと、軽く考えていた可能性も否定できない。そのため、犯行後に帰宅した当初の被告人は、平静な態度を見せていたとの説明も可能なように思われる。そもそも、Oや長女が、被告人の様子を注意深く観察していたのかも疑問であり、内心の不安等が、外部から容易に観察できるとも限らない。帰宅後の被告人の行動が、犯行直後のそれとしておよそ考え難いなどということはできず、弁護人の主張は前記認定を左右しない。 ⑸ その他の主張その他、弁護人が種々主張する事情に検討を加えても、前記判断を左右するほどのものはなく、被告人が本件の犯人であるとする前記認定が覆ることはない。 【法令の適用】(省略)【量刑の理由】本件に至る経緯は、前記「罪となるべき事実」の項に認定したとおりであると認められ、隣人女性との間における鉢植えの置き場所を巡る諍いを発端とする悪感情が、次第に増幅して同女性の交際相手である被害者にまで拡大し、結局、その殺害にまで 至ったものと推認される。具体的な殺害態様は、刃体の長さ12センチメートル前後の刃物を用い、心臓等の重要な臓器の存在が常識というべき左胸に、肋骨に沿わせる形で、背後から12センチメートル程度の深さに達するほどの相当な力を込めて突き刺したというもので、これが死に直結するほど重大な危険性を有する態様であることは、誰の目にも明らかであるといえる。刺突行為が1回にとどまること、その後、被害者の反応を確かめる間もなく被害者から離れ、被害者が「待てこらー」などと怒鳴り声を上げ、追いかける姿勢を示すのを見聞きしても、そのままその場を立ち去ったことなどの が1回にとどまること、その後、被害者の反応を確かめる間もなく被害者から離れ、被害者が「待てこらー」などと怒鳴り声を上げ、追いかける姿勢を示すのを見聞きしても、そのままその場を立ち去ったことなどの行動からは、被害者を何としても殺害しようとする強い意欲まではうかがえないが、前記のとおり、死に直結する重大な危険性の認識が十分に認められる態様による犯行である以上、被害者に対する確定的な殺意というべきものは有していたものと評価できる。被告人は、いずれの時点からかは明らかでないものの、少なくとも犯行前に自宅を出た頃には凶器となる刃物を準備し、その後、なかなか被害者車両から降車しない被害者を、約20分間にわたり付け狙っていたのであり、その間に犯行を思いとどまることも可能であったはずである。そうした過程を経て敢行された本件は、一時の感情によるものでなく、一定の冷静な判断の下に行われたものといえるもので、強く非難される。 ところで、本件犯行に至る経緯は、冒頭に述べたとおりであり、本件当時、被告人が、持ち家からの転居の検討を余儀なくされるほど精神的に追い詰められた状態にあったことは、理解できないではない。しかし、その原因は、被害者ではなく、その交際相手である隣人女性であり、被害者は、むしろ同女性と被告人の諍いを収める行動に出たこともあったところである。被告人は、隣人女性と被害者を夫婦であると考えていたことから、隣人女性と被害者を一体とみて、悪感情を拡大させたのかもしれないが、被害者にとってみれば、被告人からの悪感情はいわれのないものというほかないのであって、生命を奪われるという本件被害は、理不尽極まりないものである。妻との関係や、隣人女性の迷惑というべき行動への対応方法からみる被告人の問題対処能力は、相手方との円滑な対話を通じた対応ができず、稚拙なもの 命を奪われるという本件被害は、理不尽極まりないものである。妻との関係や、隣人女性の迷惑というべき行動への対応方法からみる被告人の問題対処能力は、相手方との円滑な対話を通じた対応ができず、稚拙なものであったとうかが えるが、そうであっても、本件のような重大犯罪に及ぶ前には、法的な相談窓口を利用するなど、相手に危害を加えること以外の建設的な対応が是非とも求められた。これをすることなく、短絡的に、本件犯行に及んだという被告人の意思決定に、同情の余地はないといわざるを得ない。理不尽に生命を奪われた被害者の無念、その親族の悲しみは察するに余りあり、被害者遺族が被告人の厳重処罰を求めるのも当然で、その意向は尊重されるべきものである。 検察官が主張する、動機が怨恨であることなどを特徴とし、懲役15年前後をピークとする事案類型は、被害者死亡への意欲が強く、殺害態様も執ようなものに偏りがちで、犯情を考慮する上で重要な犯行態様において、本件に比してやや重い部類に属すると思われるから、同事案類型よりは、やや低めの量刑傾向を想定する必要があると考えられる。しかし、そうした量刑傾向を想定した中で検討すると、殺意の強さという点で、本件は、確定的殺意というべき強い殺意に基づく犯行であり、かつ、冷静な判断に基づく犯行で、被害者にみるべき落ち度もなく、理不尽極まりない犯行であるという点では、重い部類に属するといえる。 被告人に前科がなく、本件に至るまでは、まじめに働き、通常の社会生活を営んできたことなどの一般情状は、前記犯情の悪さに比して些細なものというべきで、不合理な弁解に終始し、自己の責任に向き合わず、被害者遺族を長期間苦しめたことをも考慮すれば、一般情状による量刑の考慮の程度は相当に限られたものとなる。 以上によれば、本件の量刑については、お で、不合理な弁解に終始し、自己の責任に向き合わず、被害者遺族を長期間苦しめたことをも考慮すれば、一般情状による量刑の考慮の程度は相当に限られたものとなる。 以上によれば、本件の量刑については、おおむね前記の犯情に応じた判断をするのが相当というべきである。それによれば、主文掲記の懲役刑をもって、相当と認める結論となった。 (求刑懲役20年)令和6年9月30日大阪地方裁判所第6刑事部 裁判長裁判官山田裕文 裁判官藤永祐介 裁判官奥田紗永

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