- 1 -平成28年12月1日判決言渡名古屋高等裁判所平成27年(行コ)第75号遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第5号)主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨(1)原判決を取り消す。 (2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 控訴の趣旨に対する答弁主文同旨第2事案の概要等本件は,被控訴人が,その夫であるAが自殺したのは株式会社Bにおける過重な業務に起因するものであると主張して,岐阜労働基準監督署長に対して,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)による遺族補償給付及。 び葬祭料の支給を請求したところ,平成23年9月27日付けでいずれについても支給しない旨の処分(以下「本件各不支給処分」という)を受けたこと。 から,本件各不支給処分の取消しを求めた事案である。 原判決は,Aが平成21年8月頃にうつ病を発病したことに業務起因性があるとは認められないとしたものの,Aのうつ病は質的にも量的にも過重な労働に従事する中で増悪し,Aの心理的負荷は,同種の平均的労働者によっても一般に精神障害を発病して死亡に至らせる危険性を有するものであったといえるから,Aの業務による心理的負荷とAがうつ病の増悪により自殺を図り死亡し- 2 -たこととの間に相当因果関係を認めるのが相当であり,Aの自殺による死亡には業務起因性が認められるとして,本件各不支給処分をいずれも取り消したため,控訴人が控訴した。 以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。 前提事実(1)次の(2)のとおり原判決を補正するほかは原判決 事実及び理由 各不支給処分をいずれも取り消したため,控訴人が控訴した。 以下,略語は,特に断りのない限り,原判決の例による。 前提事実(1)次の(2)のとおり原判決を補正するほかは原判決 事実及び理由 の第,「」「 事案の概要」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (2)原判決の補正ア原判決3頁2行目の「岐阜県羽島郡a町」の次に「以下「a町」とい(う」を加える。 。)イ原判決3頁6行目末尾に次のとおり加える。 「そして,IとBは,a町に所在する同じ建物内に事務所・倉庫を設置していた(乙9〔以下「岐阜事務所」又は「B岐阜事務所」という」。 。〕)。 ウ原判決3頁19行目末尾に次のとおり加える。 「なお,Aは,うつ病治療のために医療機関を受診することはなかった」。 エ原判決5頁17行目に「別紙」を「別紙1」に改める。 オ原判決5頁19行目の「乙24」の次に「,32」を加える。 カ原判決5頁26行目の「易疲労感の増大」の次に「や活動性の減少」を加える。 キ原判決6頁1行目の「自責感と罪業感」を「自責感あるいは罪業感」に改める。 「」「」ク原判決6頁2行目の食欲の変化の次にとそれに相応する体重変化を加える。 ケ原判決6頁8行目の「重症」の次に「精神病症状を伴わないもの」()を加える。 争点及び争点に対する当事者の主張- 3 -(1)次の(2)のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の2に記載のとおり(ただし,原判決「」「」24頁12行目の中等型うつ病エピソードを中等症うつ病エピソード,「」「」。)に27頁15行目の手持ち時間を手待ち時間にそれぞれ改めるであるから,これを引用する。 (2)当審にお 行目の中等型うつ病エピソードを中等症うつ病エピソード,「」「」。)に27頁15行目の手持ち時間を手待ち時間にそれぞれ改めるであるから,これを引用する。 (2)当審における当事者の主張(控訴人),,ア平成21年8月頃に発病したAのうつ病は平成22年2月頃までの間その自然経過の範囲内で経過していたにすぎず,同月頃に悪化(増悪)したとの原判決は誤りであること(ア)うつ病は,クレイネスの曲線で示されるように,前駆期,極期,回復期,中間期の各段階で様々な病相の変化が見られ,このような一連の病相経過をたどるのがうつ病の自然経過であると考えるのが一般的である。また,精神医学上,うつ病の悪化とは,その重症度が,軽症から中等症,重症へと進行することをいい,うつ病が悪化したといえるためには,重症度が進行したか否かに係る医学的な評価がされなければならな,,,いしうつ病はその症状の動揺ないし自然経過内の悪化をみせながら上記各期(段階)に応じて様々に病相を変化させながら推移するから,うつ病が悪化したように見える場合も,うつ病に対する適切な治療を受けていないために,うつ病本来の経過が現れ,その症状が動揺ないし自然経過の範囲内の悪化をみせながら推移しているにすぎないものである。 (イ)平成21年8月頃のAの状況及びICD-10の診断ガイドラインを踏まえると,同人が発病したうつ病の重症度は中等症であったと判断することができるが(乙31,うつ病発病以前のAのBの取扱商品の)価格設定の理解不足が,うつ病の症状である「思考力や集中力の低下」- 4 -,,の影響ではないといえる医学的裏付けはないから同月頃時点において「思考力や集中力の低下」の症状が生じていなかったとする原判決の前提は誤りである。 (ウ)また,A 集中力の低下」- 4 -,,の影響ではないといえる医学的裏付けはないから同月頃時点において「思考力や集中力の低下」の症状が生じていなかったとする原判決の前提は誤りである。 (ウ)また,Aは,うつ病発病以前から交通法規を遵守する意識に欠け,Eに在籍していた頃から,顧客先に出向く際に服装に気を遣う人物ではなく,B移籍後も,一時身ぎれいになった時期はあったものの,時間の経過とともに気を遣うことがなくなったことからすると,短期間に連続して交通事故を起こしたこと及び身なりに気を遣わなくなったことは,Aの元来の行動様式や性格傾向等による影響であって,うつ病の症状が発現したものとはいい難い。さらに,Aの食欲不振の症状が悪化したとは認められない。そうすると,平成22年2月頃までに見られたAの症状は,平成21年8月頃の発病時にも見られたものであるから,新たな症状が加わったものとはいえない。仮に,Aに思考力や集中力ないし注意力の低下という症状が現れたといえるとしても,上記(ア)のうつ病の自然経過の知見に照らせば,その症状は,自然経過の範囲内で経過していたといえるものである。 (エ)したがって,Aのうつ病は,平成22年2月頃までの間,その自然経過の範囲内で経過していたにすぎず,同月頃に悪化(増悪)したものではないから,これと異なる原判決の評価は誤りである。 イAがうつ病を発病した平成21年8月頃以降の心理的負荷及び個体側要因に係る原判決の事実認定及び評価は誤りであること(ア)「東京への出張による心理的負荷」については,認定基準の具体的出来事は「配置転換があった」に類似する出来事ではなく「仕事の,,ペース,活動の変化があった」に該当し,平成21年10月以降の出張回数ないし東京での滞在日数の増加は日常的に経験するものであるから,その心理 置転換があった」に類似する出来事ではなく「仕事の,,ペース,活動の変化があった」に該当し,平成21年10月以降の出張回数ないし東京での滞在日数の増加は日常的に経験するものであるから,その心理的負荷の強度は「弱」である。 - 5 -(イ)「売上げが上がらなかったこと,周囲の期待に応えられなかったこと,営業から外されることによる心理的負荷」については,Bに具体的,,,ノルマはなくAと同種の立場経験を有する平均的労働者と比較して経験が浅いながら経営戦略上重視された地域における営業業務に携わる者の売上げ目標達成についての責任の大きさとして高いものであったとはいえないし,清掃業務に戻ることの打診を受けたことも大きな衝撃を受けたとはいえず,上記平均的労働者と比較して,売上げ目標未達成のペナルティとして評価されるものでもなく,当該ペナルティが大きいと評価されるものでもない。したがって,上記心理的負荷の強度は「弱」である。 (ウ)「ミス及びそれに対する叱責の心理的負荷」については,Oに関するトラブル自体軽微であるし,トラブルへの対応も困難な状況はほとんどみられず,Gからの叱責も,当該軽微なトラブルから派生した出来事後の状況であり,日常的に経験するものであるから,その心理的負荷の強度は「弱」に近い「中」であるというべきである。 (エ)Aの死亡前3か月間における時間外労働時間数に関し,Aの週報の記載内容からすれば,その間において新規業務が加わったり,記載事項の数が著明に増加したりという変化がないから,Aの業務が量的にも相当に過重なものであったとの評価根拠は希薄であるし,労働密度が特に低いものであったとはいえないとの評価根拠も希薄である。 (オ)上記(ア)ないし(エ)による心理的負荷の強度を全体としてみるとしても「強」と認められないこ との評価根拠は希薄であるし,労働密度が特に低いものであったとはいえないとの評価根拠も希薄である。 (オ)上記(ア)ないし(エ)による心理的負荷の強度を全体としてみるとしても「強」と認められないことは優に明らかである。 ,(カ)また,平成22年1月▲▲日の帰宅途中の追突事故及びAが死亡した時点でも当該事故の被害者との示談が未了であったこと,同年2月▲▲日の信号無視により反則切符を切られたこと,同年1月▲▲日に二男が出生したことは,Aの業務以外の心理的負荷として考慮されるべきで- 6 -あるし,Aがうつ病を発病していることは,Aの反応性,脆弱性(個体側要因)として考慮すべきである。 (キ)したがって,Aの業務上の心理的負荷,業務以外の心理的負荷及び個体側要因を踏まえれば,上記のとおり,Aが平成21年8月頃に発病したうつ病は平成22年2月頃に悪化したとはいえないから,うつ病の悪化によりAが自殺を図り死亡したことの業務起因性が認められる余地はないし,悪化の有無をおくとしても,平成21年8月以降のAの業務上の心理的負荷の強度は「強」に至るものではないから,原判決の判断枠組みに沿ったとしても,うつ病の悪化によりAが自殺を図り死亡したことの業務起因性は認められない。 ウ精神障害の悪化に係る業務起因性に関する原判決の判断枠組みは誤りであること認定基準は,精神医学における一般的な知見として広く受け入れられている「ストレス-脆弱性」理論と労災保険制度における危険責任の法理の趣旨に整合する合理的なものである。 そして,精神障害が悪化した場合,当該悪化の業務起因性が認められるか否かの判断枠組みについても,危険責任の法理が妥当することに変わりはない。また「ストレス-脆弱性」理論は,精神障害の発病に関する考,え方であるところ,既にうつ病を発病して 業務起因性が認められるか否かの判断枠組みについても,危険責任の法理が妥当することに変わりはない。また「ストレス-脆弱性」理論は,精神障害の発病に関する考,え方であるところ,既にうつ病を発病している者は,発病していない者よ,,,り脆弱性が増し些細な心理的負荷に過大に反応しストレスがなくてもあるいはストレスが弱くても当該うつ病が悪化することが起こり得るから,既に発病しているうつ病の悪化についても「ストレス-脆弱性」理論は適用されるし,精神障害を発病している者の脆弱性は,これを発病して,。 いない者とは全く異なるから両者を同様に評価することは適切ではないそうすると,精神障害を発病した後にこれが悪化した場合で,業務による心理的負荷の強度が「強」であっても,当該悪化の業務起因性を認める- 7 -ことは,当該業務による心理的負荷が,他の要因に対して相対的に有力な原因であることを必要とする判断枠組みに反することになる(乙33,34。また,認定基準の別表1における具体的出来事の心理的負荷は,当)該出来事自体の心理的負荷と当該出来事後の心理的負荷が総合評価されるものであり,当該出来事自体の受け止めは当然のこと,当該出来事後の変化,当該出来事への対処について,精神障害の発病による症状の影響が介在することになり,いかに平均的な労働者を念頭に考慮しようとしても,精神障害の影響の程度を割り出すことは不可能であるから,平均的な労働者ではなく,精神障害を発病している者にとって過重か否かを判断するに等しく,実質的に本人を基準に評価するものになりかねず,労災保険制度における危険責任の法理の趣旨にも反する。 以上述べたことからすれば,精神障害を発病した後にこれが悪化した場合に,少なくとも業務による心理的負荷の強度が「強」と評価されるものより強い心理的 保険制度における危険責任の法理の趣旨にも反する。 以上述べたことからすれば,精神障害を発病した後にこれが悪化した場合に,少なくとも業務による心理的負荷の強度が「強」と評価されるものより強い心理的負荷がなければ,脆弱性(個体側要因)よりも相対的に有力な原因とは認められないこととなるし「強」と評価されるものより強,い心理的負荷であっても,当該出来事自体の心理的負荷だけでなく,当該出来事後の状況に係る心理的負荷が総合評価されることになると,精神障害の発病による症状の影響が介在する余地が大きくなるから,専ら当該出来事自体の心理的負荷に対する評価だけで,業務による心理的負荷の強度を測れるような出来事であることが望ましい。そこで,精神医学上,生物学的要因を主体とする既存の精神障害の悪化に関しては,既に精神障害を発病している労働者本人の要因(特に生物学的要因)が業務起因性の判断に影響することが非常に少ない極めて強い心理的負荷がある場合に限って,業務起因性が認められるべきであり,こうした考え方が,現時点における精神医学界で確立した知見とされている。 したがって,既に発病した精神障害の悪化に業務起因性が認められるた- 8 -めには「特別な出来事」を要件とした認定基準は合理的であり,これと,異なる判断枠組みを採用した原判決は誤りである。 (被控訴人)控訴人の主張はいずれも理由がない。 第3当裁判所の判断 当裁判所も,本件各不支給処分はいずれも取り消されるべきであると判断する。その理由は,次の2のとおり原判決を補正し,同3のとおり当審における当事者の主張に対する判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決の補正(1)原判決31頁15行目の「送信するなどした」を「送信 主張に対する判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決の補正(1)原判決31頁15行目の「送信するなどした」を「送信するなどし,被控訴人には,Aの声はすごく明るく楽しそうに感じられた」に改める。 (2)原判決32頁1行目の「従業員」の次に「アルバイトを含む」を加(。)える。 (3)原判決32頁3行目の「仕組み等」から同行目の「証人G」までを次のとおり改める。 「仕組みや会社の売上げ,経費等についての講義が行われ,Gは,金の流れを理解すれば,どの程度売上げを出さなければ会社経営が成り立っていかないかを理解することができ,自分がノルマの指示を出さなくてもおのずと目標金額は出てくると認識していた(甲A1・357,358頁,証人G」。 (4)原判決35頁12行目末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。 「なお,Bは,平成21年9月から10月にかけて,ビルメンテナンス関係の展示会だけでなく,異業種の建設業界や商社等,多くの展示会に商品を出展し,新規顧客の発掘に努めたため,同年11月以降,Aの営業活動は多忙となった(甲A1・30頁」。 )(5)原判決36頁6行目の「叱責をした」を「叱責し,Aは答えられないま- 9 -ま叱責を受けていた」に改める。 (6)原判決36頁12行目の「社用車」から13行目の「戻る途中に」までを「業務で社用車を運転中に」に改め,同行目の「自損」の次に「追突」()を,14行目の「380」の次に「,404」をそれぞれ加える。 (7)原判決36頁15行目及び16行目を次のとおり改める。 「Aは,平成22年1月▲▲日午後8時45分ないし午後9時頃,B岐阜事務所から自家用車を運転して帰宅する途中,人身事故を起こした(なお,当該 原判決36頁15行目及び16行目を次のとおり改める。 「Aは,平成22年1月▲▲日午後8時45分ないし午後9時頃,B岐阜事務所から自家用車を運転して帰宅する途中,人身事故を起こした(なお,当該事故の被害者との示談は,Aの死亡後に成立した(甲A1・151~。)。 164,316,404頁」)(8)原判決36頁16行目末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。 「また,Aは,同年2月▲▲日午前0時30分頃,信号無視をして検挙された(甲A1・260,350,351頁」。 )(9)原判決37頁3行目の「B事務所」を「B岐阜事務所」に改める。 (10)原判決40頁1行目の「無表情のまま」の次に「で落ち込むわけでもなく」を加える。 (11)原判決40頁4行目の「叱られており」の次に「かなり」を加える。 ,(12)原判決40頁6行目の「継続」を「持続」に改める。 (13)原判決40頁20行目の「あったとはいえない」を「あったとすることはできない」に改める。 (14)原判決41頁2行目の「希求すると」の次に「心理的負荷とともに」,を加える。 (15)原判決53頁26行目の「社長ら」を「G」に改める。 (16)原判決61頁4行目から5行目にかけての「,甲B38の2・45頁」を削る。 (17)原判決61頁19行目の末尾に次のとおり加える。 「なお,認定基準を策定するに当たっては,厚生労働省の依頼により,精神障- 10 -害の労災認定の基準に関する専門検討会(以下「専門検討会」という)に。 おいて,審査の迅速化や効率化を図るための労災認定の在り方について検討がされたが,そこでは,精神障害を発病した後の悪化について,どのような場合に業務起因性が認められるかについて精神科医等の専門家の間でも議論があり,初発の場合と同等に評価すべきと の在り方について検討がされたが,そこでは,精神障害を発病した後の悪化について,どのような場合に業務起因性が認められるかについて精神科医等の専門家の間でも議論があり,初発の場合と同等に評価すべきとの意見もあったが,最終的には,少なくとも特別な出来事があった場合には業務起因性を認めるとの形で意見集約がされ,報告書にまとめられて認定基準の策定に至ったものと認められる(甲B38の1・9頁,39・3頁」。 )(18)原判決63頁23行目の「家庭不和等」から25行目の「うかがわれない」までを次のとおり改める。 「家庭不和による心理的負荷は認められない。また,Aが短期間に連続して自動車事故を起こしたことは,うつ病の悪化の現れ(結果)であると認められ(,,る上なお業務中又は業務からの帰宅途中の事故であったことに照らせば完全に業務外の出来事と評価できるかは疑問がある,Aの生前に人身事。)故の被害者との示談が成立しなかったことが,保険会社を介して行われる通常の示談交渉の経過を超え,何らかのトラブルによってこれが長期化した事情はうかがわれない。そして,Aが些細な出来事に過剰に反応したこともうかがわれない。そうすると,Aには,業務以外の心理的負荷があったとは認められない」(19)原判決65頁10行目から11行目にかけての「仕事上のミスをしてい」「」。 たことを見積額の誤解や見積りの遅さを指摘されていたことに改める(20)原判決65頁15行目の「仕事上のミスは」を「見積額の誤解や見積りの遅さを指摘されていたことは」に改める。 (21)原判決65頁17行目の「認め難いところ」を「直ちに認められるかどうか疑問があるから」に改める。 (22)原判決66頁10行目の「46」の次に「,乙32」を加える。 - 11 - 当審における当 原判決65頁17行目の「認め難いところ」を「直ちに認められるかどうか疑問があるから」に改める。 (22)原判決66頁10行目の「46」の次に「,乙32」を加える。 - 11 - 当審における当事者の主張に対する判断(1)Aのうつ病の悪化(増悪)の有無について控訴人は,平成21年8月頃に発病したAのうつ病は,平成22年2月頃までの間その自然経過の範囲内で経過していたにすぎず同月頃に悪化増,,(悪)したものではない旨主張し,その根拠の一つとして,AのBの取扱商品の価格設定の理解不足は,うつ病の症状である「思考力や集中力の低下」の影響ではないといえる医学的裏付けがないことを指摘する。 なるほど,Aは,平成21年4月にBに転籍して清掃業務と清掃用品販売に関する営業業務を掛け持ち,同年6月からは関東方面での営業活動が本格化したという経緯の中で,取引先への訪問約束を取得するよう指示されながらこれを行わなかったり,上記価格設定の仕組みがなかなか飲み込めなかったりしたことが認められ,X医師は,これが,思考制止や集中力と注意力の減退という典型的なうつ病エピソードの症状である旨指摘する(乙31。 )しかしながら,Aは,平成11年4月にEに入社してから10年間にわたり清掃業務に従事していたのであり,Aがうつ病を発病したと認められる平成21年8月頃までには,営業業務を兼務してからでも約4か月,これが本格化してからは約2か月しか経過していないから,上記のようなミスや理解不足は,業務内容が変更して間がないことによる不慣れに起因するものと推認するのが素直であるし,本件各不支給処分がされる前に提出された専門部会の医学的見解(甲1A・250ないし254頁)及び原審で提出されたQ意見書(乙21)には,Aがうつ病を発病した頃の「思考力や集中力の低下」につい るし,本件各不支給処分がされる前に提出された専門部会の医学的見解(甲1A・250ないし254頁)及び原審で提出されたQ意見書(乙21)には,Aがうつ病を発病した頃の「思考力や集中力の低下」について言及されていないことにも照らせばAがうつ病を発病した頃に思,「考力や集中力の低下」があったとは認められない。 また,控訴人は,Aが短期間に連続して交通事故を起こしたこと及び身なりに気を遣わなくなったことは,Aの元来の行動様式や性格傾向等による影響であり,うつ病の症状が発現したものとはいい難いと主張する。しかしな- 12 -がら,E在籍時に顧客先に出向く際に服装に気を遣わないのは,清掃作業という業務に照らせば不自然ではないし,Aが以前にも交通事故を複数回起こしていたとしても,その時期は,平成12年ないし13年,あるいは,平成18年以前と古い時期である上(乙28,30,Aの運転が少し荒っぽか)ったことがあったとしても(乙27,そのような運転傾向と注意力ないし)集中力の程度が関係するとはいえず,むしろ,平成21年12月▲▲日及び平成22年1月▲▲日という僅か1か月余りの間に2度も交通事故を起こしたことは,Aの元来の行動様式や性格傾向等だけでは説明できないというべきである。また,平成21年12月頃以降,Aが汗臭く,カッターシャツの襟元や袖口が黒く汚れた状態になり,薄毛対策のスプレーを使用しなくなったことは,補正して引用した原判決が認定するとおりであり,ぼろぼろの靴でも気に留めない様子であったことが認められ(甲A1・350頁,この)ような清潔や身だしなみへの無関心はそれ以前には認められないし,平成22年1月頃のOとのトラブルは,従前見受けられなかった取引先とのトラブルであることに照らせば,このようなAの状況は,新たに発現した「思考力や集 だしなみへの無関心はそれ以前には認められないし,平成22年1月頃のOとのトラブルは,従前見受けられなかった取引先とのトラブルであることに照らせば,このようなAの状況は,新たに発現した「思考力や集中力の低下」が明らかになったということができる。そうすると,うつ病の症状が発現したものとはいい難いとの控訴人の主張は採用することはできず,Aのうつ病は自然経過の範囲を超えて悪化(増悪)したものと認められる。 なお,控訴人は,うつ病の悪化とは,その重症度が,軽症から中等症,重症へと進行することをいうとの前提で,Aが発病したうつ病の重症度は中等症であったとし,その後にAに現れた症状は自然経過の範囲内である旨主張する。しかしながら,そもそも,うつ病の悪化という概念を,控訴人が主張する内容で定義することができるかについては疑問が指摘されている(甲B),,「」60の1上専門検討会においても症状の数が増えていくことと悪化とを結び付けることができると理解できる発言もされていること(甲B38- 13 -の1・8頁)からすると,上記の控訴人の主張を直ちに採用することはできない。また,うつ病の悪化を控訴人が主張するように捉えるとしても,平成,()21年8月頃にAに認められたうつ病エピソードはICD-10乙24に依拠すれば「死あるいは自殺に対する反復思考」があったとまでは認め,られず,軽症と認められる余地もある。さらに,仮に,中等症の枠内での病相の変化と捉えるとしても,Aに現れた症状は自然経過の範囲内である旨の主張は,認定基準における「特別な出来事」がなければ,業務上の心理的負荷を相対的に有力な原因と認めて,うつ病の悪化に業務起因性を認めることはできないとの前提に立つものであるが,後述するとおり,かかる見解には疑問があることに照らせば 来事」がなければ,業務上の心理的負荷を相対的に有力な原因と認めて,うつ病の悪化に業務起因性を認めることはできないとの前提に立つものであるが,後述するとおり,かかる見解には疑問があることに照らせば,Aに現れた症状が自然経過の範囲内であるとの控訴人の主張は採用することができない。 (2)控訴人は,①「東京への出張による心理的負荷」は,認定基準の具体的出来事のうち「仕事のペース,活動の変化があった」に該当し,その心理的負荷の強度は「弱」である,②「売上げが上がらなかったこと,周囲の期待に応えられなかったこと,営業から外されることによる心理的負荷」の強度「」,「」「」は弱である③ミス及びそれに対する叱責の心理的負荷の強度は弱に近い「中」である,④Aの死亡前3か月間におけるAの業務が,量的にも相当に過重なものであった,労働密度が特に低いものであったとはいえないとの評価根拠は希薄であるとした上で,Aがうつ病を発病した平成21年8月頃以降の業務上の心理的負荷の強度が「強」と認められないことは明らかである旨主張する。 しかしながら,上記①については,東京事務所が開設された平成21年10月以降,Aの出張回数は増加し,同年9月から10月にかけて多くの展示会に商品を出展し,新規顧客の発掘に努めたため,同年11月以降,Aの営業活動は多忙となり,平日は,関東方面における営業活動に従事することが多くなり,平成22年2月には毎週出張して平日の大半を関東方面での営業- 14 -業務に従事したほか,営業活動の一環として,日曜日にもスーパーマーケット等における清掃作業に従事することもあったことは,補正して引用した原判決が認定するとおりである。そして,認定基準上「配置転換」とは「所,,属部署(担当係等,勤務場所の変更を指し,転居を伴うもの ト等における清掃作業に従事することもあったことは,補正して引用した原判決が認定するとおりである。そして,認定基準上「配置転換」とは「所,,属部署(担当係等,勤務場所の変更を指し,転居を伴うものを除く」と)。 されており,上記のようなAの稼働状況に照らせば,このような出来事を単に「仕事のペース,活動の変化があった」とみることはできず「配置転換,があった」に類似する出来事というべきである。そして,Aの心理的負荷の強度が「中」と認められることは,補正して引用した原判決が認定するとおりであり,控訴人の主張は採用することができない。 ,,,,次に上記②についてはBにノルマがなかったとしてもHがAに対し関東方面での営業を開始した平成21年6月から1年も経たない平成22年2月頃に清掃業務に戻ることを打診したのは,Aの業績が上がらず,Oとのトラブルも生じたことを理由とするものであると考えるのが自然であり,将来を期待され,B関連会社の業務の重点を清掃用品の販売業務に移行させるため,関東方面での新規顧客の開拓を託されたAが,営業業務から外される旨を告げられたことは,証人Kが「Aさんの心境を考えたときに,どう接して話しかけていいのか分からなくて,声がかけられなかった」旨証言するように,大きな衝撃であったことは容易に推察され,その心理的負荷の強度が「中」よりやや強いものと認められることは,補正して引用した原判決が認定するとおりである。したがって,上記②の控訴人の主張は採用することができない。 また,上記③については「ミス及びそれに対する叱責の心理的負荷」の,強度が「中」であることは控訴人も自認するが,それが「弱」に近いとの主張は,補正して引用した原判決の認定説示に照らし,採用することができない。 さらに,上記④については,Aの時間外 理的負荷」の,強度が「中」であることは控訴人も自認するが,それが「弱」に近いとの主張は,補正して引用した原判決の認定説示に照らし,採用することができない。 さらに,上記④については,Aの時間外労働時間は,平成21年12月1- 15 -日から同月30日までの間で83時間,同月31日から平成22年1月29日までの間で68時間30分(年末年始の休みを含む,同月30日から。)同年2月28日までの間で108時間30分であることは,補正して引用した原判決が認定するとおりであり,このようなAの時間外労働時間数に照らせば,Aの業務が量的にも相当に過重であったことの根拠が希薄であるとの指摘は当たらず,他にかかる判断を左右するに足りる証拠はない。また,Aの労働密度が特に低いものであったとはいえないことは,補正して引用した原判決が認定するとおりであり,控訴人の評価根拠が希薄である旨の主張はこれを左右するものではない。 ,,()なお控訴人は当審において提出したGらの聴取書乙26ないし30に記載された事情を指摘して,Aがうつ病を発病した平成21年8月頃以降の業務上の心理的負荷の強度が「強」と認められないことは明らかである旨主張するが,これら聴取書の信用性はともかくとしても,Aに認められた心理的負荷の強度の総合評価が認定基準に照らしても「強」となることを左右するに至らない。 また,控訴人は,平成22年1月▲▲日の帰宅途中の追突事故,同年2月▲▲日の信号無視により反則切符を切られたこと等は,Aの業務以外の心理的負荷として考慮されるべきであるし,Aがうつ病を発病していることは,Aの反応性,脆弱性(個体側要因)として考慮すべきであるとも主張する。 なるほど,Aは,上記のとおり,短期間のうちに交通事故を重ね,信号無視により検挙もされているが,これ うつ病を発病していることは,Aの反応性,脆弱性(個体側要因)として考慮すべきであるとも主張する。 なるほど,Aは,上記のとおり,短期間のうちに交通事故を重ね,信号無視により検挙もされているが,これらは,業務における「強い心理的負荷」によってAのうつ病に新たに発現した「思考力や集中力の低下」の結果であると認められる上,これらの交通上のトラブルがAのうつ病を悪化させた原因である,又は,Aに自殺を決意させた原因であると認めるに足りる証拠はないから,後述するとおり,うつ病を発病したAの脆弱性が増しているとしても,そのことから直ちに,心理的負荷の強度の総合評価が「強」となるAの- 16 -業務上の出来事に関し,Aの自殺の業務起因性を否定することにはならないというべきである。 (3)控訴人は,精神障害を発病した後にこれが悪化した場合で,業務による心理的負荷の強度が「強」であっても,当該悪化の業務起因性を認めることは「ストレス-脆弱性」理論及び危険責任の法理の趣旨に反し,既に精神,障害を発病している労働者本人の要因(特に生物学的要因)が業務起因性の判断に影響することが非常に少ない極めて強い心理的負荷がある場合に限って,業務起因性が認められるべきである旨主張する。 そして,Y医師は「心理的負荷がなくとも精神障害の悪化に至ることは,日常臨床的には,よく遭遇するところである「したがって,既に精神障。」,害を発病している者が,業務による心理的負荷が「強」となる出来事によって症状が悪化したとしても,その出来事が,症状の悪化と因果関係があると断定できないのは,精神医学的知見によるものである」と指摘した上で,。 「精神障害を発病している者は生活の中で遭遇する些細な出来事にも過大に反応する傾向があり,その他,生物学的要因による精神障害の自然的悪化だけ は,精神医学的知見によるものである」と指摘した上で,。 「精神障害を発病している者は生活の中で遭遇する些細な出来事にも過大に反応する傾向があり,その他,生物学的要因による精神障害の自然的悪化だけでなく,薬物治療を行っている間の断薬や減薬,治療薬変更により病状が悪化する場合もあることなどを含めて,精神障害の悪化と業務との間に相当因果関係が存在するか否かを検討しなければならないところ,精神障害の生物学的な原因(脳機能の障害を有する)が特定されつつある現在の医学的観,,点を踏まえると精神障害の病状が揺れ動きながら推移している状況の中でたまたま業務において「強い心理的負荷」に遭遇したからといって,それが悪化の有力原因であるとは,医学的根拠をもって断定できない「ストレ。」,ス-脆弱性」理論を踏まえると「精神障害の悪化の場合には,すでに述べ,,,たように精神障害を発病していない者が精神障害を発病する場合に比べて個体の反応性,脆弱性(個体側要因)の割合が大きくなっているのであるから,既に精神障害を発病している労働者が,精神障害を発病していない者が- 17 -精神障害を発病する程度の心理的負荷を伴う出来事に遭遇して精神障害を悪化させたとしても,精神医学的には,業務上の心理的負荷が悪化の有力原因であるということはできず,個体側要因の方が相対的に有力であると判断さ,,れるためそれを上回る程度の業務上の心理的負荷が認められる場合にのみ業務起因性を認めるべきである」との見解を示している(乙34。 。 )また,Z医師は「うつ病発病後においては,心理的反応性の欠如という,精神的脆弱性が極めて強いうつ病者と健常者を同様に評価はできない「う」,つ病発病後は,業務を遂行するうえで,作業能率が下がったり,注意集中が持続しなかったり,ミスが増 理的反応性の欠如という,精神的脆弱性が極めて強いうつ病者と健常者を同様に評価はできない「う」,つ病発病後は,業務を遂行するうえで,作業能率が下がったり,注意集中が持続しなかったり,ミスが増えたりすることで,仕事の成果は低下する。結果として,周囲とのトラブルや本人の遂行能力の低下による要因によって,出来事自体が増加してしまうことは,しばしば経験される。従って,うつ病発病以降の出来事評価は,心理的反応性の低下という側面に加え,健常者と同様の視点では行えず,健常者における心理的負荷をそのまま当てはめることは困難であり,不合理である」との見解を示している(乙33。 。 )なるほど,既にうつ病を発病している者が生活の中で遭遇する些細な出来事にも過大に反応する傾向があることは,容易に理解することができる。しかしながら,もともと,認定基準の別表1(業務による心理的負荷評価表)は,精神障害の成因を考えるに当たって依拠する「ストレス-脆弱性」理論と労災保険制度における危険責任の法理の趣旨を踏まえ,個体側の脆弱性を客観的に把握することは困難であるため,精神健康を害するストレスの強度をできるだけ客観化し,迅速かつ公正な業務上外の審査を行うために策定されたものであり,認定基準は,上記別表に掲げられ客観化された各出来事のうち「特別な出来事」に該当する出来事がない場合でも「具体的出来事」,,ごとに客観化された心理的負荷の強度やこれに基づく総合評価ないし全体評価等を経て,その心理的負荷の評価が「強」と判断される場合を,労働者に(,生じた精神障害を業務上の疾病として扱う要件の一つとしている甲B17- 18 -18,乙2ないし6。そうすると,その心理的負荷の評価が「強」と判断)される業務上の「具体的出来事(総合評価や全体評価等を経て「強」と判」 疾病として扱う要件の一つとしている甲B17- 18 -18,乙2ないし6。そうすると,その心理的負荷の評価が「強」と判断)される業務上の「具体的出来事(総合評価や全体評価等を経て「強」と判」断される場合も含む。以下同じ)は,労働者の個体側要因である脆弱性の。 ,,「」程度にかかわらず平均的な労働者にとって業務による強い心理的負荷であり,精神障害を発病させる危険性を有すると認められるのであるから,既にうつ病を発病した労働者にとっても,当該「具体的出来事」自体の心理的負荷は「強」と判断されるはずである。 この点について,控訴人は,具体的出来事の心理的負荷の評価に当たり,当該出来事後の変化,当該出来事への対処について,精神障害の発病による症状の影響が介在するから,実質的に本人を基準に評価するものになりかねない旨主張し,Z医師も,うつ病発病後においては,心理的反応性の欠如という精神的脆弱性が極めて強いので,うつ病発病後の出来事評価は健常者と同様の視点では行えないとする。しかしながら,上記のとおり,認定基準自体,精神健康を害するストレスの強度をできるだけ客観化するために,同種労働者が一般的にどう受け止めるかという視点から策定されているものであり,この点は,当該出来事後の変化や当該出来事への対処についても,同様と考えられるから,控訴人の上記主張は採用することができない。 また,Y医師は,精神障害を発病している者は生活の中で遭遇する些細な出来事にも過大に反応する傾向があり,生物学的要因による精神障害の自然的悪化等も含め,精神障害の病状が揺れ動きながら推移している中で,たまたま業務において「強い心理的負荷」に遭遇したからといって,それが悪化の有力原因であるとは,医学的根拠をもって断定できず,精神障害を発病していない者に比べ,個体 揺れ動きながら推移している中で,たまたま業務において「強い心理的負荷」に遭遇したからといって,それが悪化の有力原因であるとは,医学的根拠をもって断定できず,精神障害を発病していない者に比べ,個体の反応性,脆弱性(個体側要因)の割合が大きくなっているから,個体側要因の方が相対的に有力であると判断されると指摘する。確かに,精神障害を発病していない者に比較して精神障害を発病している者の個体側要因は大きくなることが認められ,業務における「強い心理的- 19 -負荷」に遭遇した場合に,それが悪化の有力原因であると医学的に断定できないとしても,個体側要因との比較において,直ちに,かつ,一律に個体側要因の方が相対的に有力であるとの結論を導くことができるかについては疑問があるといわなければならない。業務における「強い心理的負荷」も,健常者を精神障害の発病に至らせるだけの強い起因性を有する事情だからである。その意味では,精神障害を発病している者であっても,少なくとも「特別な出来事」があれば,これを悪化の原因であると推認することができるという点では,迅速かつ公正な業務上外の審査を行うために策定された認定基準としての意義があるが,逆に,認定基準が,健常者において精神障害を発病するような心理的負荷の強度が「強」と認められる場合であっても「特,別な出来事」がなければ一律に業務起因性を否定することを意味するのであれば,このような医学的知見が精神科医等の専門家の間で広く受け入れられていると認められないことは,補正して引用した原判決が説示するとおりであり,上記のような疑問あるいは「特別な出来事」がなければ一律に業務起因性を否定することは相当ではないとの考え方は,認定基準の策定に際しての専門検討会での議論の趣旨にも合致すると解される。しかし,既に精神障害を発 な疑問あるいは「特別な出来事」がなければ一律に業務起因性を否定することは相当ではないとの考え方は,認定基準の策定に際しての専門検討会での議論の趣旨にも合致すると解される。しかし,既に精神障害を発病(専ら業務外の心理的負荷により発病した場合を含む)している。 者が,業務において,健常者を精神障害の発病に至らせるだけの「強い心理的負荷」に遭遇し,既に発病していた精神障害が悪化した場合に,原則として業務に内在する危険の現実化(業務起因性がある)と捉え,相当因果関係,,があるとまでいえるかは議論の余地があり当該業務上の心理的負荷の程度業務外の心理的負荷の有無・程度,個体側の要因等を総合的に検討して,相当因果関係の有無を判断するのが相当と考えられる。そして,本件では,上記のとおり,うつ病発病後の業務における心理的負荷の強度の総合評価は「強」であり,それ自体,業務に内在する危険を現実化させるに足りるものであったこと,Aにとって,うつ病の悪化の原因となる業務以外の要因によ- 20 -る心理的負荷は特に認められず,業務以外の些細な出来事に過剰に反応したとの事情も認められないこと,Aのうつ病の発病に業務起因性は認められないとしても,Aのうつ病はBにおける業務と全く無関係に発病したものと認められないことは,補正して引用した原判決が認定するとおりであり,むしろ,うつ病を発病するまでにAに認められた業務における心理的負荷が決して小さくなかったことからすれば,Aに脆弱性が認められるとしても,その程度は小さいものと推認されるし,うつ病を発病したことによってAの脆弱性が増したとしても,それは一面において業務に由来する部分があるともいえることを指摘することができ,これらの事情を総合考慮すれば,Aの業務による心理的負荷とAのうつ病が悪化して自殺を図り死亡した 弱性が増したとしても,それは一面において業務に由来する部分があるともいえることを指摘することができ,これらの事情を総合考慮すれば,Aの業務による心理的負荷とAのうつ病が悪化して自殺を図り死亡したこととの間には相当因果関係を認めるのが相当である。 控訴人(Y医師及びZ医師の上記見解も含む)は「特別な出来事」が。 ,存在しなければ,精神障害を発病した後の症状の悪化に業務起因性は認められないとの前提に立って,Aにうつ病の悪化が認められるとしても,それは(),,自然経過の範囲内である自然的悪化である旨主張するが上記のとおり業務における「強い心理的負荷」に遭遇した場合,個体側要因との間で,直ちに,かつ,一律に個体側要因の方が相対的に有力であるとの結論を導くことができるかについては疑問がある上,本件におけるAのうつ病が業務と無関係に発病したものではなく,その後も,心理的負荷の強度が総合評価で「強」と評価することができる業務が継続し,Aのうつ病が悪化して自殺を図り死亡するに至ったことを踏まえれば「特別な出来事」がなければAの,うつ病の悪化による自殺に業務起因性を認めないとすることは,かえって,労災保険制度の趣旨に反する結果を招くということもできる。 そうすると,本件において「特別な出来事」を要件とする認定基準に依拠して,Aのうつ病の悪化及び自殺の業務起因性を否定する控訴人の主張は,採用することができない。 - 21 -第4 結論 よって,本件各不支給処分を取り消した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官揖斐潔裁判官池田信彦裁判官唐木浩之 おり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部 裁判長 裁判官 揖斐潔 裁判官 池田信彦 裁判官 唐木浩之
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