平成23(行ケ)10423 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年9月19日 知的財産高等裁判所 4部 判決 請求棄却
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判決文本文16,770 文字)

平成24年9月19日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成23年(行ケ)第10423号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年8月8日判決原告有限会社大長企画同訴訟代理人弁理士熊田和生被告特許庁長官同指定代理人渕野留香横尾俊一唐木以知良守屋友宏主文原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。事実及び理由第1 請求特許庁が不服2008-28188号事件について平成23年10月25日にした審決を取り消す。第2 事案の概要本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成15年8月29日,発明の名称を「動物用薬剤」とする特許を出願したが(甲20。請求項の数は14),平成20年9月11日付けで拒絶査定を受けたので,同年11月5日,これに対する不服の審判を請求した(甲21)。 特許庁は,前記請求を不服2008-28188号事件として審理し,平成23年10月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年11月16日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件審決が審理の対象とした特許請求の範囲の請求項1は,平成23年8月4日付け手続補正書(甲25。請求項 本件審決をし,その謄本は,同年11月16日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載本件審決が審理の対象とした特許請求の範囲の請求項1は,平成23年8月4日付け手続補正書(甲25。請求項の数は8)に記載の次のとおりのものである。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,本件出願に係る明細書(甲20,25)を,「本願明細書」という。なお,文中の「/」は,原文における改行箇所を示す。【請求項1】A.シムノールまたはシムノールエステル/B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体/C.クルクミン/のA,BおよびCの成分を含むことを特徴とする豚用薬剤 3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,要するに,本願発明が,後記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。),後記イの引用例2に記載された発明及び後記ウないしケの周知例1ないし7に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。ア引用例1:特開2002-255823号公報(甲1)イ引用例2:特開平11-92363号公報(甲2)ウ周知例1:特開2000-342192号公報(甲3)エ周知例2:特開平3-198747号公報(甲4)オ周知例3:特開平4-287647号公報(甲5)カ周知例4:桜井芳人編「総合食品辞典(第3版)」74頁(昭和51年3月15日発行。甲6)キ周知例5:特開2000-236843号公報(甲7)ク周知例6:特開2003-128539号公報(平成15年5月8日公開。 甲8)ケ周知例7:特開平10-114649号公報(甲9) なお,本件審決が認定した引用発明,本願発明と 7)ク周知例6:特開2003-128539号公報(平成15年5月8日公開。 甲8)ケ周知例7:特開平10-114649号公報(甲9) なお,本件審決が認定した引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。ア引用発明:シムノール又はシムノールエステル,及び大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体を含む栄養剤,消化器剤イ一致点:A.シムノール又はシムノールエステル,B.大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体のA,Bの成分を含む薬剤ウ相違点1:本願発明の薬剤は「豚用」であるのに対し,引用発明の薬剤は,ヒト用の栄養剤,消化器剤である点エ相違点2:本願発明の薬剤はC成分である「クルクミン」を含むものであるのに対し,引用発明の薬剤は「クルクミン」を含んでいない点 4 取消事由容易想到性に係る判断の誤り 相違点1に係る判断の誤り(取消事由1) 相違点2に係る判断の誤り(取消事由2)第3 当事者の主張 1 取消事由1(相違点1に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,シムノールと化学構造が類似するコール酸を含む胆汁が豚の飼料に添加されて用いられることも従来から知られている(周知例1~3)から,引用発明の有効成分である大豆イソフラボンやシムノールを豚に投与した場合に何か不都合が生ずるとは解されず,引用発明のA成分及びB成分を含む栄養剤・消化器剤を豚に投与すれば効果が奏されることを当業者が予測し得る旨を説示する。 しかしながら,例えばメタノールとエタノールのように,化学構造が類似していても薬理作用が異なるものは,数多くある(甲15)。したがって,コール酸とシムノールの化学構造が類似しているからといって,豚に投与した場合に 例えばメタノールとエタノールのように,化学構造が類似していても薬理作用が異なるものは,数多くある(甲15)。したがって,コール酸とシムノールの化学構造が類似しているからといって,豚に投与した場合に何か不都合が生ずるとは解されないとはいえない。また,引用例1には,本願発明の効果である「食欲が落ちず,発病,ストレスもなかった。また,ブリミドキシン,アンモスタックLAなどの他の薬剤の効果が顕著であった。」という記載はないし,本願発明は感染症や栄養状態だけではなく,豚の飼育において問題となっているストレス等を解消できたものであるから,引用発明を豚用のものとすることにより本願発明の効果を得ることは,当業者が容易に想到し得ることではなかった。よって,相違点1は,容易に想到できるものではなく,この判断を誤る本件審決は,取り消されるべきである。〔被告の主張〕 シムノールは,コレステロールから生合成される胆汁アルコールの1つであり,コール酸等の胆汁酸と共通する化学構造を有する化合物であって,脂質の消化吸収に働くステロイドである(乙1)。そして,コール酸等の胆汁酸を含む胆汁末は,他の薬効成分とともに豚などの飼料に配合される成分である(周知例1~3)。したがって,コール酸が豚用の飼料に配合される成分であり,シムノールがコール酸と化学構造が共通する胆汁成分で,脂質の消化吸収に働くという共通した作用を有するのであるから,当業者は,シムノールを豚に投与しても不都合が生ずることはないと推認できる。 豚は,解剖・生理学的にヒトと多くの類似点を有しており,動物用薬剤として,一般にヒト用の薬剤が転用されることは,本件出願日当時の周知事実である(周知例1~3,乙2~4)。また,ヒトの場合のみならず,豚においても,栄養状態の改善,消化器機能の しており,動物用薬剤として,一般にヒト用の薬剤が転用されることは,本件出願日当時の周知事実である(周知例1~3,乙2~4)。また,ヒトの場合のみならず,豚においても,栄養状態の改善,消化器機能の改善及び自然治癒力の増強により病気の予防や病後の回復を図ることが望ましいことは,当業者の技術常識である(乙3)。そして,引用例1には,シムノール等と大豆イソフラボン等を含むヒト用の栄養剤・消化器剤の発明が記載されているのだから,シムノールがヒトにおいて特段の不都合を生じていないことは,明らかである。また,引用例1には,大豆粕が大豆イソフラボンを含み,飼料として用いられることが記載されており(【0014】),大豆粕は,豚の飼料として周知である(乙5,6)。したがって,引用発明がヒトにおいて所期の効果を奏している以上,これを豚に投与しても所期の効果を奏し得ることは,明らかであって,当業者は,引用発明を豚に用いればヒトと同様に栄養剤・消化器剤としての効果が得られることを予測し得る。 よって,本願発明の相違点1に係る構成を当業者が容易に想到できたとする本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(相違点2に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件審決は,①C成分であるクルクミンが免疫系未成熟期のヒト及び豚を含む哺乳動物の疾病予防,特に,感染症や腫瘍の予防に有用であることが知られている(引用例2)から,当業者が,引用発明にクルクミンを加えて免疫系未成熟期の動物に投与した場合には,引用例1に記載される栄養剤や消化剤としての機能を損なうことなく,引用例2に記載の疾病予防効果が奏されると予測できる,②消化器感染症の発生が予防できれば消化器感染症により引き起こされる下痢の発生を予防することが可能であると解されるし,クルクミ を損なうことなく,引用例2に記載の疾病予防効果が奏されると予測できる,②消化器感染症の発生が予防できれば消化器感染症により引き起こされる下痢の発生を予防することが可能であると解されるし,クルクミン自体健胃作用を有するものとして周知であり(周知例4~7),消化剤としての効果も期待し得るから,当業者が,引用発明の栄養剤・消化器剤にクルクミンを併用すれば,栄養剤や消化器剤としての効果に加えて,消化器や呼吸器の感染症の発生の予防効果も期待できるので,両者の併用に困難性がない,③引用例1には,栄養剤・消化器剤を抗生物質や抗ガン剤又は消化を助ける生薬と併用することも示唆されている一方,クルクミンが生薬成分として周知のウコン中の色素成分であり,感染症や腫瘍の予防に有用と解される 点でも引用例1及び2を組み合わせることに困難性がない,④引用例2の記載から,引用例2で意図されているクルクミン化合物がクルクミンそのものであることが明らかである,⑤引用例2には,ガンに対する有効性のほかに,クルクミンを感染症の予防に使用することも明記されている旨を説示する。 しかしながら,クルクミンは,引用例2の実施例において単独で使用されており,引用例2には,感染症について具体的な記載がなく,クルクミンを飼料に混合することや天然色素として使用することは記載されているものの,これを他の有効成分と組み合わせて使用することが記載されていないから,これを他の成分と併用することについての記載又は示唆もない。まして,健胃や肝臓薬としての有効性を議論することの妥当性もないし,健胃剤,ガンに対する薬剤及び肝臓に対する薬剤等には,多数のものが存在し(甲27~30),その中からクルクミンを選択する動機付けもない。したがって,当業者は,クルクミンを他の成分,特に引用発明のイソ 胃剤,ガンに対する薬剤及び肝臓に対する薬剤等には,多数のものが存在し(甲27~30),その中からクルクミンを選択する動機付けもない。したがって,当業者は,クルクミンを他の成分,特に引用発明のイソフラボン及びシムノールと併用することを予測することはできないし,引用発明に引用例2を組み合わせる動機付けもない。仮に,引用発明に引用例2の記載を組み合わせることが栄養剤・消化器剤の成分と感染症に有効な成分の組合せであるとしても,引用例2には,その特許請求の範囲の一般式(1)に含まれる極めて多くの化合物が記載されているから,それらの中から本願発明の3成分(イソフラボン,シムノール及びクルクミン)を選択することは,困難である。また,抗生物質とは,微生物の産生物に由来する化学療法剤であって(甲19),引用例2の化合物は,抗生物質ということはできないから,引用発明に引用例2の記載を組み合わせることは,困難である。さらに,引用例2で実際に効果が確認されているのは,ガンに対する効果(実施例1~3)であって,感染症についての効果は確認されていない。よって,相違点2の構成は,当業者が容易に想到できるものではない。 本件審決は,前記2に記載のほか,①本願明細書の試験例1で示される本 願発明の効果が,引用発明に引用例2に記載のクルクミンを併用した薬剤の効果として当業者の予測の範囲内のものと解される,②本願明細書には,試験例2(コール酸と大豆イソフラボンの2成分を含む薬剤の投与で効果が確認されたとするもの)を含めてAないしC成分の組み合わせた薬剤とすることによる相乗的な効果が記載されていない,③引用例1及び2の記載からは,本願発明の,より丈夫で健康に発育すること及び感染症による下痢や咳の症状が予防できることが期待できる,④本願明細書に 剤とすることによる相乗的な効果が記載されていない,③引用例1及び2の記載からは,本願発明の,より丈夫で健康に発育すること及び感染症による下痢や咳の症状が予防できることが期待できる,④本願明細書には,本願発明が抗生物質として有用であることを示すデータが示されていない,⑤原告が提出した参考資料(甲10)のデータ等が,本願明細書には記載されておらず,その記載を裏付けるものとして採用できないか,具体性がないものとして採用できない旨を説示する。 しかしながら,本願明細書には,引用例1及び2に記載のない「食欲が落ちず,発病,ストレスもなかった。また,ブリミドキシン,アンモスタックLAなどの他の薬剤の効果が顕著であった。」という本願発明の作用効果を明記しているばかりか,本願発明の3成分による作用効果は,これを証明する参考資料及び証明書(甲10~14)からも明らかである。そして,上記証明書を作成した岡田医師は,上記3成分を組み合わせた薬剤に関して長年研究しており,また,漢方医として実際に患者に投与しており,これらの経験に基づいて証明しているものである。よって,当業者は,引用例1及び2からは本願発明及びその作用効果を予測することができず,比較例も必要がない。なお,本願明細書の試験例2は,コール酸とイソフラボンの組合せであって,本願発明の3成分の組合せではないから,比較の対象とすることは妥当ではない。 このように,相違点2に係る構成が容易に想到可能であり,かつ,本願発明の作用効果も格別なものではないとしてその容易想到性を肯定した本件審決の判断には,誤りがある。〔被告の主張〕 引用例2に記載されたクルクミンは,飼料や機能性食品の形態で使用される ものであるところ,これらは,通常,目的に応じて成分を併用して調整される 断には,誤りがある。〔被告の主張〕 引用例2に記載されたクルクミンは,飼料や機能性食品の形態で使用される ものであるところ,これらは,通常,目的に応じて成分を併用して調整されるものである。また,クルクミン自体が天然色素添加物として広く使用されている(引用例2【0006】)から,引用例2に併用についての直接の記載がないとしても,引用例2のクルクミンが他の成分と併用して使用できるものであることは,明らかである。さらに,クルクミンは,肝臓薬として用いられる生薬の成分であるばかりでなく(引用例2),健胃剤として用いられ(周知例4),あるいは胆汁分泌促進作用があることが知られており(周知例6),健胃剤とは,唾液や胃液の分泌を亢進し,食欲を盛んにし,消化機能を促進する消化器剤として機能するものである(乙7)から,消化を助ける生薬の成分として引用発明の併用成分に使用可能であることは,当業者に明らかである。また,引用例1によれば,クルクミンは,免疫系未成熟器の動物の疾病予防,特に感染症やガンの予防に有用であり,実施例としてクルクミンが抗ガン作用や発ガン抑制作用を有することが示されているから(【0030】【0031】),抗ガン剤として引用発明の併用成分に使用できることも,当業者に明らかである。したがって,引用例1及び2に接した当業者は,引用発明に,引用例2に記載されたクルクミンを併用することを容易に想到し得るものというべきである。 引用例2には感染症について具体的な記載がないが,クルクミンは,健胃作用を有することが周知であり,消化器剤としての効果も期待し得るところ,栄養剤や消化器剤の投与により栄養改善や消化器機能の改善がされれば自然治癒力や抵抗力が増し,病気の予防効果が期待できることは,当業者に周知である。しかも,ク ,消化器剤としての効果も期待し得るところ,栄養剤や消化器剤の投与により栄養改善や消化器機能の改善がされれば自然治癒力や抵抗力が増し,病気の予防効果が期待できることは,当業者に周知である。しかも,クルクミンを含有する植物又はその抽出物は,投与された動物体内において感染病起因菌に抗菌的に働いてその生育を抑制し,感染による症状を緩和することが周知である(周知例6,乙8)。しかも,引用例1は,栄養剤・消化器剤の併用成分として抗生物質等を挙げているが(【0009】),抗生物質は,クルクミンと同様,感染症の予防及び治療に用い られる医薬であることが周知である(乙9)から,引用例1には,抗生物質と同様に,クルクミンを併用成分として使用することについて示唆がある。さらに,引用例2における一般式(1)には多くの化合物が含まれているが,実施例として記載されている化合物は,クルクミンだけである。したがって,クルクミンを引用発明の成分と併用することは,当業者が容易に想到し得ることである。 食欲が落ちず,発病,ストレスもなく,ブリミドキシン,アンモスタックLAなどの他の薬剤の効果が顕著であったという,原告主張に係る本願発明の作用効果は,本願明細書では具体的に裏付けられておらず,本願明細書の記載から理解することができない。しかも,引用発明のシムノール等及び大豆イソフラボン等を含む栄養剤・消化器剤に引用例2に記載の健胃作用を有するクルクミンを併用したものを豚に投与すれば,栄養の改善,食欲増進や健康な成長を期待でき,その結果,ストレスがなく,感染症等の病気に対する抵抗力や病後の回復も促進されることが予測できる。そして,子豚の下痢は,母乳の不良,飼育管理の不良及び感染などによるものであり,治療として,化学療法剤の投与等が知られている(乙3) の病気に対する抵抗力や病後の回復も促進されることが予測できる。そして,子豚の下痢は,母乳の不良,飼育管理の不良及び感染などによるものであり,治療として,化学療法剤の投与等が知られている(乙3)が,上記のように引用発明とクルクミンを併用投与して上記の作用効果が得られれば,ブリミドキシンやアンモスタックLAなどの化学療法剤の投与回数が少なくなることも,当業者が当然予測し得ることである。また,本願明細書には,本願発明が抗菌活性を有することを示す具体的なデータが示されていない。 甲13には,本願発明の作用効果について具体的に記載されておらず,原告が提出する甲10ないし12は,本件出願後の資料であるばかりか本願明細書に記載されている事項とは異なる。また,甲13には甲12についての言及がないし,甲12に記載の「気血水」は,本願明細書に記載の成分とは異なる。さらに,甲14は,その内容に具体性がなく,本願発明の作用効果を立証していない。  よって,相違点2の構成及び本願発明の作用効果に関する原告の主張は,いずれも採用できない。第4 当裁判所の判断 1 本願発明について 本願発明は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願明細書(甲20,25)には本願発明についておおむね次の記載がある。ア本願発明は,新しい動物用薬剤に関する(【0001】)。イ動物,特に家畜は,必ずしも順調に発育せず,生後数か月で未発育のまま死亡したり,感染症などにより大量に死亡することが数多く発生している(【0002】)。本願発明は,健康な発育及びこれによる優れた食材を効率的に提供するための動物用薬剤を提供することを目的とするものであり(【0003】【0038】),コール酸及び/又はシムノールを含む動物用薬剤であって,動物, ,健康な発育及びこれによる優れた食材を効率的に提供するための動物用薬剤を提供することを目的とするものであり(【0003】【0038】),コール酸及び/又はシムノールを含む動物用薬剤であって,動物,特に家畜の成育率及び増体量などの点で著しい効果を有し,さらに,よく発育するので死亡率も低下し,効率的な牧畜を行うことができる。また,親豚など特に妊娠している動物に本願に係る動物用薬剤を含む飼料を与えると,食欲及び健康がよくなり,また,母乳もよく出るので出産する子豚等の発育がよく,免疫力が強く病気にかかりにくくなり,成長が早くなるという優れた効果があるので,効率的な飼育を行うことができる(【0005】)。ウ試験例(【0037】)ア 試験例1:子豚に対する試験離乳した子豚に,移動時にブリミドキシン及びアンモスタックLAの注射を行い,本願発明(実施例1)の2倍量(240g)を飼料に加えて1日1回,毎日30頭に1週間与えた。子豚は,3群に分けたが,体重10kg以上の群(10頭)及び体重7kg以上の群(10頭)に本願発明を1週間与えたところ,20頭とも食欲が落ちず,発病及びストレスがなかった。また,ブリミドキシン及びアンモスタックLAなどの他の薬剤の効果が顕著であった。体重5kg以上の群(9頭)は,病弱又は下痢の症状があり,ブリミドキシン及びアンモスタックLAの注射を更に3回行い,本願発明(実施例1)を加えた飼料を1週間与えたところ改善がなかったので,これを下痢の症状の軽い5頭と症状が重く死亡する可能性の高い病弱な4頭の群に分け,5頭の群には本願発明(実施例1)の投与を続けたところ,8日目に5頭とも完全に下痢が止まった一方,4頭の群は,実施例13(コール酸を含有する。)の動物用薬剤を60g投与することとしたところ,2日目に1頭 の群には本願発明(実施例1)の投与を続けたところ,8日目に5頭とも完全に下痢が止まった一方,4頭の群は,実施例13(コール酸を含有する。)の動物用薬剤を60g投与することとしたところ,2日目に1頭が死亡したが,他の3頭は8日目で下痢が止まり,その後,発症はせず健康になり,発育した。他方,本件出願に係る動物用薬剤を投与しなかった子豚30頭は,下痢及び咳などの症状が多く発生するため,アモキシシリン及びブリミドキシンの注射の回数が多く,しかも本件出願に係る動物用薬剤を投与した群に比べて効果が劣るため,注射の回数が更に多くなった。また,3頭の子豚が死亡した。イ 試験例2:母豚に対する試験7頭の母豚に,分娩1か月前から分娩までの間,実施例13(シムノールの代わりにコール酸を含有し,クルクミンを含有しない。)の動物用薬剤360gを飼料に混合して1日1回投与したところ,これらの母豚から出産した子豚は,下痢をせず食欲も旺盛であり,母豚も,食欲があり,飼料の食べ残しもなく,乳量も多く,落ち着いた状態であったので,子豚は,平均的に大きく育ち,また,糞の色が黒くなっているので,飼料が完全に消化されたことが理解された。子豚は,全頭健康に育ち,通常は1週間ないし10日後に発生する下痢及び咳などはみられず,その後も下痢及び咳がみられなかったため,本願発明に係る動物用薬剤を与える必要がなかった。他方,本願発明に係る動物用薬剤を与えない母豚から生まれた子豚は,10日までに全てが下痢をし,また,咳が出るので,ブリミドキシンを注射した。母豚は,飼料を食べ残しており,そのため乳量が少なく,また,いらいらして子豚に授乳するので,特に弱い子豚は,十分に母乳を飲むことができないため育たず,しかも病弱になった。また,母豚の糞の色が飼料に近く,完全に消化されていない り,そのため乳量が少なく,また,いらいらして子豚に授乳するので,特に弱い子豚は,十分に母乳を飲むことができないため育たず,しかも病弱になった。また,母豚の糞の色が飼料に近く,完全に消化されていないことが理解された。ウ 本願発明に係る動物用薬剤は,成長促進剤,栄養剤,消化器剤,ストレス解消剤,免疫力増強剤,抗生物質,皮膚用剤及び催乳剤として使用することができ,すす病,豚コレラ,オーエスキーその他の薬剤として使用することが期待される。 また,抗生物質その他の薬剤と併用すると相乗効果が発揮されるので,薬剤の使用回数及び使用量を減少することができるという優れた効果がある。 本願発明の課題及び課題解決手段について特許請求の範囲の記載及び前記の本願明細書の記載によれば,本願発明は,家畜である豚が必ずしも順調に発育しないという課題について,豚に投与する薬剤をシムノール又はシムノールエステル(A成分),大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体(B成分)及びクルクミン(C成分)により構成するという手段を採用することで解決し,これにより,豚の健康,成育率,増体量及び成長速度を向上させ,もって効率的な飼育を実現するという効果を有するものであると認められる。 2 引用発明について 引用例1の記載について引用発明は,前記第2の3アに記載のとおりであるところ,引用例1には,引用発明についておおむね次の記載がある。アシムノール及び/又はシムノールエステルを含むことを特徴とする栄養剤,消化器剤(【請求項1】)イソフラボン及び/又はイソフラボン配糖体を含むことを特徴とする請求項1に記載の栄養剤,消化器剤(【請求項2】)イ全ての人が利用できる栄養剤・消化器剤として最も重要な条件は,製品の価格が少なくとも フラボン及び/又はイソフラボン配糖体を含むことを特徴とする請求項1に記載の栄養剤,消化器剤(【請求項2】)イ全ての人が利用できる栄養剤・消化器剤として最も重要な条件は,製品の価格が少なくとも現在市販されている総合ビタミン剤より廉価であることである。この出願発明者は,鮫の胆汁に含まれているシムノール及び(又は)シムノールエステルが血管を通じて人体機能発揮に必要な物質の体内配送を保証するために有効成分であること,イソフラボン及びイソフラボン配糖体,特に飼料にも使われる大豆粕に含まれており極めて価格の低い大豆イソフラボン及び大豆イソフラボン配糖体が,血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用を持つものであること,さらに,これらを併用することにより相乗効果のある優れた栄養剤・消化器剤であることを見出した(【0003】【0013】【0014】)。この発明の目的は,身体を常に正常な状態に保つことによる病気の予防,病気に対する自然治癒能力の増強及び病後の回復促進を同時に達成することであり,極めて価格が低い大豆粕から廉価に製造することができる大豆イソフラボン及び大豆イソフラボン配糖体を使用することで,極めて安価に医薬品を提供することができるという優れた効果がある(【0025】【0030】)。ウ引用発明は,シムノール及び(又は)シムノールエステルと,イソフラボン及び(又は)イソフラボン配糖体が含まれていればよいが,その他の成分として,医薬品の場合には,医薬品一般が使用され,ビタミン類,抗生物質,抗ガン剤,ヘム鉄,ブルーエキス,生薬としては自律神経に支配される器官,腺,血管の機能を賦活するもの,消化を助けるものその他を混合してもよい(【0009】)。 引用 ,ビタミン類,抗生物質,抗ガン剤,ヘム鉄,ブルーエキス,生薬としては自律神経に支配される器官,腺,血管の機能を賦活するもの,消化を助けるものその他を混合してもよい(【0009】)。 引用発明の課題及び課題解決手段について前記の引用例1の記載によれば,引用発明は,ヒト用の栄養剤・消化器剤を廉価に提供するという課題について,鮫の胆汁に含まれているシムノール又はシムノールエステル及び極めて廉価に製造することができる大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体により栄養剤・消化剤を構成するという手段を採用することで解決し,これによりヒトの病気の予防,自然治癒能力の増強及び病後の回復促進を達成するという作用効果を有するものである。 そして,本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定については,当事者間に争いがない。 3 本願発明の容易想到性について 相違点1に係る判断の誤りについてア引用発明及び本願発明は,薬剤であっても豚用であるかヒト用であるかが相違する(相違点1)。豚は,人と解剖学的にも生理学的にも多くの類似点を有する哺乳動物であって,その消化器に関連した疾患モデルとして用いられてきたほか,ヒト用の薬物の効果や毒性試験にも用いられていること(乙2)に加えて,子豚の下痢を含む家畜の疾病に対してはヒト用の薬物が臨床的にも用いられており,家畜の抵抗力の増進も,重要な課題とされていること(乙3,4)に照らすと,ヒトの場合と同様の効能を期待して豚に対してヒト用薬剤を投与することは,本件出願日当時における当業者の周知技術であったものと認められる。しかも,引用発明を構成するシムノールは,豚の飼料に添加することが周知であるコール酸と化学構造が共通し,ともに胆汁成分であって,脂質の消化吸収に働くとい 業者の周知技術であったものと認められる。しかも,引用発明を構成するシムノールは,豚の飼料に添加することが周知であるコール酸と化学構造が共通し,ともに胆汁成分であって,脂質の消化吸収に働くという共通の作用を有するものである(周知例1~3,乙1)ばかりか,引用発明を構成する大豆イソフラボンは,本件出願日当時,豚の飼料にも使われることが当業者に周知であった大豆粕から得られるものである(引用例1【0014】,乙5,6)から,引用発明の成分であるシムノール又はシムノールエステル及び大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体を豚に投与しても特段の害は予測されず,むしろ,当業者は,病気の予防,自然治癒能力の増強及び病後の回復促進を達成するというこれらの成分が有する作用効果がヒトの場合と同様に発揮されることを合理的に推測可能であるというべきである。したがって,当業者は,引用発明に基づき,本件出願日当時の周知技術を適用することによって,本願発明の相違点1に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべきであり,また,それによって得られる作用効果も合理的に予想することができたものというべきである。イ以上に対して,原告は,化学構造が類似していても薬理作用が異なるものが多いばかりか,引用例1には本願発明の作用効果に関する記載がないから,当業者が本願発明の作用効果を想到することができなかった旨を主張する。しかしながら,シムノールと化学構造が類似するコール酸は,本願明細書にも記載されており,その試験例でも用いられているばかりか,その成分及び作用が共通することは,前記アに説示のとおりであって,豚に対するシムノールの投与を動機付けることはあっても,これを阻害する理由は見当たらない。また,引用発明は,前記2に説示のとお の成分及び作用が共通することは,前記アに説示のとおりであって,豚に対するシムノールの投与を動機付けることはあっても,これを阻害する理由は見当たらない。また,引用発明は,前記2に説示のとおり,ヒトの病気の予防,自然治癒能力の増強及び病後の回復促進を達成する作用効果を有する栄養剤・消化器剤であるところ,前記アに説示のとおり,ヒトの場合と同様の効能を期待して豚に対してヒト用薬剤を投与することは,本件出願日当時の周知技術であったから,引用発明を豚に投与した場合,やはり引用発明の有する上記作用効果が得られることが期待される。したがって,当業者は,栄養剤・消化器剤である引用発明を投与された豚について,食欲が落ちず,発病やストレスが抑えられるという作用効果が得られるであろうことを合理的に予測することができたものというべきである。なお,本願明細書には,本願発明を投与した子豚のうち,体重が7kg以上の2つの群ではブリミドキシン及びアンモスタックLAなどの他の薬剤の効果が顕著であった旨の記載がある(【0037】)。しかしながら,上記試験例は,そもそも子豚のうち体重が重く,比較的病弱ではない群が対象となっているばかりか,本願発明を投与しなかった群との比較がされておらず,さらに,薬剤の効果がどのように顕著であったのかを具体的に明らかにしていない。したがって,本願明細書の上記記載については,具体的な裏付けがないものというほかなく,これを本願発明の作用効果と認めるに足りない。よって,原告の上記主張は,採用できない。 相違点2に係る判断の誤りについてア引用発明と本願発明とでは,同じ薬剤であっても,C成分である「クルクミン」を含むものであるのか否かで相違する(相違点2)。引用例1には,前記2ウ(【0009】)に記載のとおり,引用 てア引用発明と本願発明とでは,同じ薬剤であっても,C成分である「クルクミン」を含むものであるのか否かで相違する(相違点2)。引用例1には,前記2ウ(【0009】)に記載のとおり,引用発明にはその他の成分として,医薬品一般のほか,抗ガン剤や消化を助けるものその他を混合してもよい旨の記載がある。したがって,引用例1には,引用発明にこれらの成分を添加することについて,開示があり,動機付けがあるということができる。イところで,引用例2には,抗酸化作用及び発ガンプロモーションの強力な抑制作用を有することが知られているクルクミンを,ヒト及び豚を含む動物に対して投与することで,その成熟個体において発生する可能性のある各種疾病(例えば,ガン,感染症,自己免疫疾患,糖尿病,高血圧,腎炎などの成人病,ぜんそく,関節リューマチなど)を予防し,その重篤度が軽減され,あるいはそれに対する治療効果が向上することを技術的思想とする動物用の疾病予防剤,疾病予防用機能性食品及び疾病予防用飼料に関する発明が記載されている。したがって,引用例2に記載の発明は,技術分野及び解決すべき課題において引用発明と重複する部分がある。また,クルクミンの抗酸化作用及び発ガン抑制作用等の薬理作用については,本件出願日前に公開された複数の公開特許公報にも発明の前提となる事実として記載されている(周知例5【0002】【0003】,周知例6【0005】【0006】)。 また,複数の公開特許公報にもクルクミンが食品組成物に添加された形態でも薬効を発揮できる旨の記載がある(引用例2(【0025】,周知例6【0015】【0016】,周知例7【0028】【0029】)。さらに,クルクミンが健胃剤として利用可能であることは,一般的な食品事典(甲6)にも記載がある。したがって, 例2(【0025】,周知例6【0015】【0016】,周知例7【0028】【0029】)。さらに,クルクミンが健胃剤として利用可能であることは,一般的な食品事典(甲6)にも記載がある。したがって,クルクミンの薬効,クルクミンが他の食品組成物に添加された形態でも当該薬効を発揮すること及びクルクミンが健胃剤として利用可能であることは,いずれも本件出願日当時における当業者の技術常識であったものと認められる。ウ以上に照らすと,当業者は,引用例1及び2の記載並びに本件出願日当時の技術常識に基づき,引用発明に対してクルクミンを添加することで,本願発明の相違点2に係る構成を容易に想到することが可能であり,かつ,クルクミンを添加された引用発明を投与された動物について,クルクミンの有する抗酸化作用に基づく健胃作用及び発ガン抑制作用の発現を期待することができるというべきである。したがって,当業者は,引用発明に引用例2に記載の発明を組み合わせることで,本願発明の相違点2に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべきであり,また,それによって得られる作用効果も合理的に予想することができたものというべきである。 原告の主張についてア以上に対して,原告は,引用例2にはクルクミンを他の有効成分と併用することについての記載も示唆もないし,健胃剤やガンに対する薬剤等の中からクルクミンを選択する動機付けもないから,当業者が引用発明を引用例2と組み合わせる動機付けがない旨を主張する。しかしながら,前記イに説示のとおり,引用例2を含む本件出願日前に公開された複数の公開特許公報には,クルクミンを食品組成物に添加した形態でも薬効を発揮できる旨の記載がある以上,クルクミンを経口摂取可能な他の有効成分と併用することについて 例2を含む本件出願日前に公開された複数の公開特許公報には,クルクミンを食品組成物に添加した形態でも薬効を発揮できる旨の記載がある以上,クルクミンを経口摂取可能な他の有効成分と併用することについても示唆があるといえる一方,これらの公開特許公報には,クルクミンを他の有効成分と併用することを阻害するような記載がない。また,引用例2は,その実施例においてクルクミンを採り上げてその作用効果等について具体的に記載しているから,引用例2に接した当業者は,そこに記載の化合物からクルクミンを最も自然に選択するものというべきである。よって,原告の上記主張は,採用することができない。イ原告は,引用例2の特許請求の範囲には極めて多くの化合物が記載されており,その中から本願発明の3成分を選択することが困難である上,引用例2で効果が確認されているのはガンに対する効果のみであって感染症についての効果が確認されていない旨を主張する。しかしながら,引用例2には,クルクミンを使用した実施例しか記載されていないばかりか,引用例1(【0009】)には,引用発明にはその他の成分として,医薬品一般のほか,抗ガン剤や消化を助けるものその他を混合してもよい旨の記載があるのであるから,引用例2に感染症に対する効果を確認する記載がなくても,そのことは,引用発明に引用例2の記載を適用することを阻害するものではない。よって,原告の上記主張は,採用することができない。ウ原告は,引用例1には本願発明の作用効果に関する記載がないから,当業者が本願発明の作用効果を想到することができず,また,本願発明の3成分による作用効果は,これを証明する証明書等からも明らかである旨を主張する。しかしながら,前記ウに説示のとおり,当業者は,クルクミンを添加された引用発明を投与さ できず,また,本願発明の3成分による作用効果は,これを証明する証明書等からも明らかである旨を主張する。しかしながら,前記ウに説示のとおり,当業者は,クルクミンを添加された引用発明を投与された動物について,クルクミンの有する抗酸化作用に基づく健胃作用の発現を期待することができるから,その結果,食欲が落ちず,発病やストレスが抑えられるという作用効果が得られるであろうことを合理的に予測することができたものというべきである。また,前記イに説示のとおり,本願明細書のうち,本願発明の有する他の薬剤の効果が顕著となるとの点については,具体的な裏付けがないものというほかなく,これを本願発明の作用効果と認めるに足りない。そして,原告が援用する参考資料及び証明書(甲10~14)において効果がみられたとされる症例の多くは,本願明細書に記載された食欲不振等に基づく疾病ではなく,また,胃腸虚弱について効果があるとする記載(甲10,11)も,それ自体断片的なもので,本願発明の作用効果が顕著であることを立証するには足りない。よって,原告の上記主張も,採用することができない。 4 結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官髙部眞規子裁判官井上泰人裁判官荒井章光

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