平成12(ネ)4312 貸金請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年2月19日 大阪高等裁判所
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判決文本文6,490 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。 事実 第1 申立て主文同旨(ただし,被控訴人は,当審において,「控訴人は,被控訴人に対し,350万円及びこれに対する平成12年10月24日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。」に請求を減縮した。)第2 事案の概要 1 請求原因(1) 消費貸借契約の締結被控訴人は,平成12年2月13日,控訴人に対し,360万円を貸し付け,控訴人は,その際,被控訴人に対し,年27.9パーセントの割合による利息金を支払うことを約した。 (2) 催告被控訴人は,平成12年10月16日,控訴人に対し,残元金を5日以内に支払うよう書面で催告し,同書面は同月18日控訴人に配達された。 よって,被控訴人は,控訴人に対し,消費貸借契約に基づき残元金350万円及びこれに対する催告期限の翌日である平成12年10月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 2 請求原因に対する認否(1) 請求原因(1)の事実は否認する。 (2) 請求原因(2)の事実は認める。 3 被控訴人の本案前の主張控訴人は,平成13年3月2日,本件控訴を取り下げた。 4 本案前の主張に対する控訴人の反論(詐欺)被控訴人は,平成13年3月1日,控訴人に対し,「お前の弁護士とは和解することで合意ができている。裁判を取り下げて,差押えをしている財産を全部返してやる。」などと虚偽の事実を申し述べ,控訴人をして,いかにも円満に解決ができ,金銭的負担をしなくても済むものと誤信させ,よって本 で合意ができている。裁判を取り下げて,差押えをしている財産を全部返してやる。」などと虚偽の事実を申し述べ,控訴人をして,いかにも円満に解決ができ,金銭的負担をしなくても済むものと誤信させ,よって本件控訴を取り下げさせたものである。なお,控訴人は,やや知能程度が低く,騙され易い性格であったため,被控訴人の口車に乗ってしまったものである。 したがって,本件控訴の取下げは,被控訴人の詐欺によるものであるから,民事訴訟法338条1項5号を類推適用し,無効である。 5 本案前の主張についての被控訴人の再反論被控訴人は,控訴人に対し,「かなりまけてあげるので,控訴を取り下げて欲しい。」と頼み,控訴人もこれを了解した。また,控訴人は,大阪高等裁判所で,裁判所書記官から,控訴の取下げ及びその他の訴訟手続についての一般的な説明を受けた。控訴人は,その上で,本件控訴を取り下げたものである。 したがって,控訴人が錯誤によって本件控訴を取り下げたものであるとの主張であれば,これを争わないが,被控訴人が詐欺をしたことは強く争う。 理由 1 本件控訴の取下げについて(1) 一件記録によれば,以下の事実を認めることができる。 ア 被控訴人は,平成12年11月2日,和歌山地方裁判所田辺支部に,本件訴訟を提起した。和歌山地方裁判所田辺支部は,平成12年11月22日午前10時に口頭弁論期日を指定し,同月8日,控訴人に対し,訴状の副本と期日呼出状を送達した。 イ 和歌山地方裁判所田辺支部は,平成12年11月22日午前10時,口頭弁論期日を開いたところ,被控訴人は出頭したが,控訴人は出頭しなかったので,被控訴人に訴状を陳述させた上,弁論を終結し,本訴請求を認容する判決を言い 田辺支部は,平成12年11月22日午前10時,口頭弁論期日を開いたところ,被控訴人は出頭したが,控訴人は出頭しなかったので,被控訴人に訴状を陳述させた上,弁論を終結し,本訴請求を認容する判決を言い渡した。調書判決の正本が,平成12年11月25日,控訴人に送達された。 ウ 控訴人は,調書判決の正本を受領した後,直ちに和歌山地方裁判所田辺支部に電話をして,調書判決の内容は身に覚えのないものであると述べたところ,弁護士に相談することを勧められた。そこで,控訴人は,平成12年11月29日,和歌山弁護士会に,弁護士の斡旋を申し立て(乙第6号証),控訴人代理人に相談をし,本件訴訟等の解決を委任した。 エ 被控訴人は,平成12年11月29日及び同年12月5日の2回にわたり,和歌山地方裁判所田辺支部に調書判決に対する執行文付与を申請し,同裁判所から執行文の付与を受けた。被控訴人は,執行文付与を受けた調書判決の正本に基づき,控訴人の預貯金及び不動産を差し押さえた。 オ 控訴人代理人は,平成12年11月30日,控訴人が被控訴人から金銭を借りたことはないとの理由で,調書判決に対する控訴を申し立てた。また,控訴人代理人は,平成12年12月5日,和歌山地方裁判所田辺支部に,同様の理由で,強制執行の停止を申し立てた。和歌山地方裁判所田辺支部は,控訴人に担保として20万円を供託させた上,同月6日,調書判決に基づく強制執行を停止する決定をした。 カ 被控訴人は,控訴人に対し,預貯金及び不動産に対する強制執行を取り下げ,金銭の請求もしないので,控訴人代理人に対する委任契約を解除し,本件控訴を取り下げるように申し入れた。控訴人は,被控訴人の申入れを信じて,被控訴人が準備した控訴人代理人との委任契約を解除する訴訟代理人委任契約解 しないので,控訴人代理人に対する委任契約を解除し,本件控訴を取り下げるように申し入れた。控訴人は,被控訴人の申入れを信じて,被控訴人が準備した控訴人代理人との委任契約を解除する訴訟代理人委任契約解除書と題する平成13年3月1日付の書面(乙第8号証)に署名及び押印した。被控訴人は,控訴人代理人に対し,訴訟代理人委任契約解除書を内容証明郵便で郵送した。 キ 控訴人代理人は,訴訟代理人委任契約解除書を受領し,これに不審を覚え,控訴人に連絡した上,平成13年3月2日午前10時ころ,控訴人代理人事務所に来るように指示した。ところが,被控訴人は,控訴人から,控訴人代理人の指示を聞き,平成13年3月2日早朝,控訴人を車に同乗させて,控訴人代理人事務所に行かず,当庁に赴いた。 ク 控訴人は,被控訴人から頼まれて,被控訴人が準備した控訴取下書に署名及び押印をしていたが,被控訴人に対する不信感から,当庁に赴く前に,これを破り捨てた。しかし,控訴人は,被控訴人に勧められ,当庁において,裁判所書記官から,控訴の取下げについての説明を受けた。さらに,控訴人は,当時の勤務先の経営者であったAに電話をしたところ,被控訴人が,Aに対し,和解をするため,訴え及び強制執行を取り下げるとの話をした。そこで,控訴人は,被控訴人が作成した控訴取下書に署名及び押印をし,これを当庁に提出した。 ケ 控訴人代理人は,控訴人から前記のような事情を聞き,改めて本件訴訟の委任を受けるとともに,平成13年3月7日,当庁に,本件控訴の取下げは,被控訴人の詐欺によるものであるから,無効であるとして,口頭弁論期日指定の申立てをした。 (2) 前記(1)認定の事実に,当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる,控訴人は,知能程度が低く, であるから,無効であるとして,口頭弁論期日指定の申立てをした。 (2) 前記(1)認定の事実に,当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により認められる,控訴人は,知能程度が低く,騙され易い性格であることをも勘案すれば,控訴人は,被控訴人から,預貯金及び不動産に対する強制執行を取り下げ,金銭の請求もしない旨の虚偽の事実を申し述べられ,これを信じて本件控訴を取り下げたことが認められる。したがって,本件控訴の取下げは,被控訴人の詐欺によってなされたものであるから,民事訴訟法338条1項5号の法意に照らし,無効と解するのが相当である。 当審における被控訴人本人尋問中には,被控訴人が控訴人に対し,強制執行を取り下げるとは述べておらず,本件控訴を取り下げ,被控訴人も請求金額を譲歩すると述べたにすぎないとの供述部分がある。しかし,前記(1)認定のとおり,控訴人は,調書判決受領後一貫して被控訴人の請求を争っていること,控訴人代理人に訴訟を委任して,本件控訴及び強制執行の停止をそれぞれ申し立てていること,控訴人が本件控訴の取下げについて控訴人代理人に相談するのを被控訴人が妨げていること,控訴人は,本件控訴の取下書を提出する前に,一度取下書を破り捨てていること,控訴人がAに本件控訴の取下書の提出を相談した際,被控訴人がAに訴え及び強制執行を取り下げると話したこと,控訴人はその後本件控訴の取下書を作成した上,これを当庁に提出していることなどの事実を勘案すれば,被控訴人が控訴人に預貯金及び不動産に対する強制執行を取り下げ,金銭の請求もしない旨を申し述べたからこそ,控訴人が本件控訴を取り下げたと考えるのが相当であり,被控訴人が控訴人に対しそのような事実を述べなかったにもかかわらず,控訴人が本件控訴を取り下げるとは考え難い。した しない旨を申し述べたからこそ,控訴人が本件控訴を取り下げたと考えるのが相当であり,被控訴人が控訴人に対しそのような事実を述べなかったにもかかわらず,控訴人が本件控訴を取り下げるとは考え難い。したがって,当審における被控訴人本人尋問中の前記供述は採用できない。 2 消費貸借契約の締結について(1) 被控訴人は,平成12年2月13日,控訴人に対し,360万円を貸し付けたと主張する。そして,控訴人が署名及び押印した金銭消費貸借契約書(甲第3号証)が存在し,また,被控訴人は,当審における本人尋問において,被控訴人の主張に沿う供述をしている。 (2) しかし,以下の事情に,前記1で認定した事実をも勘案すれば,控訴人が当審における本人尋問において供述するとおり,控訴人が甲第3号証に署名及び押印をした際に甲第3号証は白紙であった疑いがあるから,甲第3号証が真正に成立したとの推定は覆されたと認めるのが相当であり,また,当審における被控訴人本人尋問中の前記供述を採用することもできないというべきである。 ア 被控訴人は,当審における本人尋問において,控訴人に対し360万円を貸し付けた理由を,控訴人が結婚相手を探すために中国に渡航する費用及び結婚費用等に充てるためであったと供述している。 しかし,当審における控訴人本人尋問の結果によれば,控訴人は,当時,500万円以上の預貯金を有しており,控訴人の中国への渡航費用及び結婚費用等は,前記預貯金から支払っていたことが認められる。したがって,控訴人の中国への渡航費用及び結婚費用等に充てるため360万円を貸し付けたとする当審における被控訴人本人尋問中の前記供述部分は採用できない。 イ 乙第7号証,当審における控訴人本人尋問の結果によれば,控訴人は,結婚相手 費用等に充てるため360万円を貸し付けたとする当審における被控訴人本人尋問中の前記供述部分は採用できない。 イ 乙第7号証,当審における控訴人本人尋問の結果によれば,控訴人は,結婚相手として中国女性の紹介を受けるために知り合ったBから,平成12年2月ころ被控訴人を紹介され,以後被控訴人と交友するようになったことが認められる。 したがって,被控訴人が,知り合って1か月も経過しない控訴人に対し,360万円もの金員を貸し付けるとは考え難い。 ウ 被控訴人は,当審における本人尋問において,控訴人に対し貸し付けた360万円は,自宅の金庫に保管していた460万円の一部であり,この460万円は,平成11年10月ころ被控訴人が始めた食品製造業の開業及び運転資金として親から借りた1000万円の残金であると供述している。 しかし,被控訴人は,当審における本人尋問において,前記460万円は仕入代金の支払い等に充てるため自宅の金庫に保管していたものであり,平成12年10月末ころ営業不振により食品製造業を廃業したと供述している。これらの供述を前提とすれば,廃業の約8か月前に仕入代金の支払い等に充てるために保管していた現金のうち360万円を控訴人に対し貸し付けたことになり,そのような時期に事業に必要な資金を貸し付けたとすることは不自然である。したがって,被控訴人が控訴人に対し貸し付けた360万円は被控訴人が自宅の金庫に保管していた460万円の一部であるとする当審における被控訴人本人尋問中の前記供述は採用できない。 エ 被控訴人は,当審における本人尋問において,控訴人に対し貸し付けた360万円の返済時期について,控訴人が結婚して落ち着いたときに,協議をすることになっていたと供述している。 しかし,前 訴人は,当審における本人尋問において,控訴人に対し貸し付けた360万円の返済時期について,控訴人が結婚して落ち着いたときに,協議をすることになっていたと供述している。 しかし,前記ウのとおり,被控訴人が控訴人に対し貸し付けた360万円が被控訴人の仕入代金の支払い等に充てるために自宅の金庫に保管していたものであれば,被控訴人はできるだけ早く返済を受ける必要がある。したがって,被控訴人が控訴人に対し貸し付けた360万円の返済時期は控訴人が結婚して落ち着いたときに協議することになっていたとの当審における被控訴人本人尋問中の前記供述は採用できない。 オ 被控訴人は,当審における本人尋問において,被控訴人が甲第3号証の不動文字部分を作成し,360万円を貸し付けた平成12年2月13日の約1週間後に,被控訴人が甲第3号証の金額及び貸付日を記入し,控訴人に住所及び氏名を記載してもらったと供述している。 しかし,貸付けの約1週間後に金銭消費貸借契約書を作成したというのは不自然である。したがって,360万円を貸し付けた約1週間後に控訴人が甲第3号証に住所及び氏名を記載したとの当審における被控訴人本人尋問中の前記供述部分は採用できない。 カ 当審における被控訴人本人尋問中には,被控訴人が控訴人に対し貸し付けたのは360万円であったが,被控訴人が利益を得る目的で,甲第3号証の貸付金額を400万円と記載したとの供述がある。 しかし,甲第3号証によれば,本件貸付けについては,年27.9パーセントの割合による利息が付されているから,被控訴人は,利息によって利益を得ることができ,さらに利益を得る目的で400万円と記載したというのは不自然である。したがって,被控訴人が利益を得る目的で甲第3号証の 割合による利息が付されているから,被控訴人は,利息によって利益を得ることができ,さらに利益を得る目的で400万円と記載したというのは不自然である。したがって,被控訴人が利益を得る目的で甲第3号証の貸付金額を400万円と記載したとの当審における被控訴人本人尋問中の前記供述部分は採用できない。 キ 当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,知能程度が低く,騙され易い性格であることが認められる。したがって,被控訴人に指示されるまま,白紙であった甲第3号証に署名及び押印した可能性も否定できない。 (3) 前記(2)アないしウの事情を勘案すれば,被控訴人が控訴人に対し360万円を交付したとの事実を認めることもできないというべきである。 (4) 前記(2)及び(3)によれば,被控訴人が平成12年2月13日控訴人に対し360万円を貸し付けたとの事実を認めることはできない。 3 結論よって,被控訴人の本訴請求は理由がないから,これを棄却すべきところ,これを認容した原判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第5民事部裁判長裁判官太田幸夫裁判官川谷道郎裁判官牧賢二

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