平成14(わ)652 傷害

裁判年月日・裁判所
平成14年11月15日 神戸地方裁判所
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判決文本文4,525 文字)

判決平成14年11月15日神戸地方裁判所平成14年(わ)第652号傷害被告事件 主文 被告人を懲役6月に処する。 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年5月30日午後2時28分ころ,神戸市a区bc丁目d番地所在の神戸市立A中学校南門内側敷地内において,原動機付自転車を運転中,同校教諭B(当時38歳)が前に立ちはだかって被告人らを同校内から出て行かせないようにしているのを認めるや,かねてから反感を抱いていた同人に対し,「B,B,B」とその名字を連呼しながら,その身体に向けて原動機付自転車を走行させ,同車前部を同人の左足に衝突させる暴行を加え,よって,同人に全治約7日間を要する左膝挫傷の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)(省略)(事実認定の補足説明等) 1 弁護人は,①被告人が原動機付自転車(以下「原付」という。)を被害者に衝突させた事実はなく,衝突させようという故意もなかったし,②また,仮に,原付を被害者に衝突させたことがあったとしても,被害者の負った傷害の程度は軽微であって,傷害罪における傷害には該当しないから,いずれにしても傷害罪は成立せず,暴行罪が成立するにとどまる旨主張するので,当裁判所が前示のとおり認定した理由について,以下補足して説明する。 2 ①の点について(1) まず,前掲各証拠によれば,本件は,被告人が外3名とともに原付2台に分乗して判示の中学校内に乱入して走行したことから,同校教諭である被害者が,被告人らを捕まえて注意しようと思い,同校南門内側敷地内において,被告人運転の原付の 件は,被告人が外3名とともに原付2台に分乗して判示の中学校内に乱入して走行したことから,同校教諭である被害者が,被告人らを捕まえて注意しようと思い,同校南門内側敷地内において,被告人運転の原付の前に立ちはだかった際に発生した事案であることが明らかである。 (2) そして,証人Bの当公判廷における供述(以下「B証言」という。)は,「被告人が,『B,B,B』と私の名字を威嚇するように連呼しながら,原付を時速10ないし15キロメートルで運転して,自分の方にまっすぐに走行してきたので,私は,両手を前方に差し出し,両膝を曲げ,左膝を前に出した半身の体勢で低く身構え,向かってきた原付のヘッドライトの両側付近を両手で握り,原付を手で受け止めるような形になったが,すぐに止めることはできず,原付が膝に当たって止まった。私は,被告人に対し,『痛いやないか。当たったで。』などと言った後,被告人が,『帰りたいんや。通してくれ。』と言ったので,私が,『バイク当てとって,このままでは帰れない。』というようなことを言った。原付のフェンダーが膝に当たって本件傷害を負ったし,トレーニングウエアのズボンのすねの部分に泥がついていたので,原付の車輪がそこに当たったのだと思う。」などというのである。 B証言は,被告人が原付で向かってきた際の様子やその時に取った行動,衝突時の状況,衝突後のやりとり等について,具体的かつ詳細に述べている上,その供述内容は合理的であって,そこに特に不自然なところはないこと,B証言のいうような体勢を取ったときには,傷害が生じた膝に被告人の原付のフェンダーが衝突し,トレーニングウエアのズボンの泥のついているところに原付の車輪が当たったとみて,その各部位の高さや位置関係に矛盾はなく、むしろその点ではほぼ一致するといい得ること,証人Cの当 のフェンダーが衝突し,トレーニングウエアのズボンの泥のついているところに原付の車輪が当たったとみて,その各部位の高さや位置関係に矛盾はなく、むしろその点ではほぼ一致するといい得ること,証人Cの当公判廷における供述は,「被告人が盛んにその場から逃れようとしていたが,被害者が,『単車でぶつかっといて,このままでは済まないぞ。』などと言ったところ,被告人は,途中から急に敬語を使って,『すいません,すいません。』と言っていた。」旨いうのであって,B証言が原付を衝突させられた直後の状況についていうところを裏付けており,しかもその内容は被告人が被害者に原付を衝突させたことを前提とするものであることなどを考え併せると,B証言の信用性は高いというべきである。 (3) これに対し,被告人は,「原付を走行させていけば被害者がよけるだろうと思い,『B,B,B』と連呼しながら,原付を時速約5キロメートルで走行させて被害者に向かっていったが,被害者がよける気配がなかったので,被害者に衝突する手前で停止した。」などというのである。 しかしながら,被告人は,被害者の手前どのくらいのところで原付を停止させたかについて,検察官調書(乙6)及び警察官調書(乙3)では,「被害者の2メートルくらい手前で停止した。」と供述していたのが,検察官調書(乙7)及び警察官調書(乙4)では,「被害者の直前で停止した。」と供述を変え,更に公判廷では,「1メートルないくらい手前で停止した。」と表現を微妙に変えているが,弁護人のいうように,停止した時の距離を正確に断定することはできないとしても,本件の場合「2メートルくらい手前」と「直前」とでは明らかに異なっていて,その場面の具体的状況も違ってくるのであるから,距離の不正確性では説明できず,被告人が被害者の手前どのくらいの距離で しても,本件の場合「2メートルくらい手前」と「直前」とでは明らかに異なっていて,その場面の具体的状況も違ってくるのであるから,距離の不正確性では説明できず,被告人が被害者の手前どのくらいの距離で原付を停止させたのかについていうところには,意識的な虚偽の供述が含まれているとみざるを得ない。また,被告人は,原付を走行させていけば被害者がよけるだろうと思っていたというのであって,よけなければ衝突すると被害者に思わせるような速度と方法で走行していったと考えられるから,その時速が約5キロメートルであったというのは納得できず,B証言のいうように10ないし15キロメートルであったとみる方が合理的であるとともに,被告人がブレーキをかけたのも,被害者がいよいよよけないとわかった時点であったと考えるのが合理的であって,そうだとすれば被害者の直前において完全に停止することができたとは思われず,むしろ止まりきれずに被害者に原付を衝突させてしまったという方が事実の流れとしては自然なように思われる。これらのことからすると,被告人が原付を被害者に衝突させる手前で停止させた旨いうところをそのまま信用するわけにはいかない。 (4) してみると,B証言のいうとおり,被告人が原付を走行させて被害者に衝突した事実は間違いがないと認めるのが相当であるし,また,被告人は,被害者に向けて原付を時速10ないし15キロメートルで走行させ接近していったのであるから,それ自体暴行の故意に基づくものというべきことが明らかであるのに加え,被告人は,被害者が原付をよけるだろうと思っていたというのであるから,被害者に原付を衝突させようという確定的な故意まではなかったとしても,被害者がよけなかったりよけそこなったりしたときには衝突するかもしれないことを認識しながら,あえて被害者に向けて原付を あるから,被害者に原付を衝突させようという確定的な故意まではなかったとしても,被害者がよけなかったりよけそこなったりしたときには衝突するかもしれないことを認識しながら,あえて被害者に向けて原付を走行させたのであるから,原付を被害者に衝突させる未必的な故意はあったものと認めるのが相当である。 3 ②の点についてなるほど,被害者が本件で負った傷害の程度は軽微なものであったけれども,刑法204条の傷害罪における「傷害」とは,「他人の生活機能に障害を与えることであって,あまねく健康状態を不良に変更した場合を含むもの」と解すべきところ,B証言によれば,伸ばすと少しひざの関節が痛いようであり,ちょっと擦り傷があって,医師から湿布薬と痛み止めを処方されて,それを使用・服用していたことが認められるとともに,医師D作成の診断書(甲2)によれば,全治7日間を要する左膝挫傷と診断されていることが認められるのであるから,これが傷害罪にいう傷害に該当することは明らかである。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法204条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の事情)本件は,被告人が運転する原付を被害者に衝突させる暴行を加えて全治約7日間の傷害を負わせたという事案であるが,被告人は,かねてから自己が卒業した中学校の教諭である被害者に反感を抱いていたところ,後輩の中学生が被害者から暴力を振るわれた旨を聞いて立腹し,授業中の中学校内に無免許運転の原付で乱入して走行した上,同校外に出ようとして,前に立ちはだかった被害者に対し,本件犯行に及んだものであ ,後輩の中学生が被害者から暴力を振るわれた旨を聞いて立腹し,授業中の中学校内に無免許運転の原付で乱入して走行した上,同校外に出ようとして,前に立ちはだかった被害者に対し,本件犯行に及んだものであって,その犯行の動機に酌量の余地は乏しく,犯行に至る経緯は悪質というほかないこと,被告人は,被害者に向けて原付を時速10ないし15キロメートルで走行させていき衝突させたものであって,犯行の態様もよくないこと,被告人は,平成14年5月15日に建造物侵入,窃盗罪で懲役1年6月,3年間執行猶予・保護観察付きの判決を受けて,その判決が確定した日に本件犯行に及んだものであって,被告人の規範意識には欠けるところがあること,被告人は,被害者に原付を衝突させたことについて執拗に否認するなど,十分な反省の様子が窺えないことなどを併せ考えると,被告人の刑事事件は軽くないといわざるを得ない。 してみると,被害者の負った傷害の程度は比較的軽微であること,被告人も本件犯行をそれなりには反省していること,被告人は,20歳になったばかりの若年であり,また年若くして両親を亡くしているなど,その生育環境には同情の余地があること,被告人が本件で約5か月半の間身柄拘束を受けていること,本件で服役することになると,執行猶予中の前記の刑も併せて服役することになるであろうことなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,本件は罰金刑でもって処断すべき情状の事案ではなく,主文の実刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見・懲役1年)よって,主文のとおり判決する。 平成14年11月15日神戸地方裁判所第12刑事係甲 裁判官森岡安廣 神戸地方裁判所第12刑事係 裁判官 森岡安廣

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