令和6(わ)230 殺人未遂

裁判年月日・裁判所
令和7年3月17日 高松地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93996.txt

判決文本文3,196 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和6年4月9日午後4時13分頃から同日午後5時35分頃までの間に、香川県小豆郡内の被告人方(所在地は別紙(別紙は添付省略。以下同じ)記載のとおり)において、実子であるA(氏名は別紙記載のとおり。当時6歳)に対し、殺意をもって、手に持った刃物でその胸部を複数回突き刺したが、Aに全治7日間を要する右外傷性気胸、右肺挫傷、右前胸部刺創及び左前胸部刺創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。なお、被告人は、本件犯行当時中等度のうつ病のため心神耗弱の状態にあった。 (証拠の標目)(略)(事実認定の補足説明) 1 殺意について被告人は殺意を否認する。当裁判所が殺意を認めた理由は、次のとおりである。 証拠によれば、被告人は、被害者の胸部を、ペティナイフ又は文化包丁のいずれかで、身体に対して垂直に刺したと認められる。その刃体の長さは、ペティナイフは約13.3cm、文化包丁は約18.5cmであり、被害者の刺創は、右前胸部と左前胸部の2か所にあり、右前胸部の刺創は、深さ2.29cmで、肺の表面付近に達し、外傷性気胸、肺挫傷を生じさせている。 確かに、被害者の上衣には7か所の破れがあるにもかかわらず、刺創は2か所にとどまっており、その刺創も刃体の長さに比して深いとはいえないことから、被告- 2 -人が、被害者の胸部に刃物を突き刺すのに、ためらいがあった可能性は否定できず、強固な殺意があったとは、認めるに足りない。しかし その刺創も刃体の長さに比して深いとはいえないことから、被告- 2 -人が、被害者の胸部に刃物を突き刺すのに、ためらいがあった可能性は否定できず、強固な殺意があったとは、認めるに足りない。しかし、6歳児の胸部に刃物を2cm余り突き刺す行為は、それ自体、死ぬ可能性のある危険な行為である。現に、刃物は、肺の表面付近に達し、気胸や肺挫傷を生じさせている。被告人は、後記のとおり、意識障害があったわけではなく、そのような危険な行為をそれと分かって及んでいるから、少なくとも、死ぬかもしれないがそれでも構わないという心理状態にあったといえ、その意味での殺意はあったと認められる。 被告人は、うつ病にり患し、その症状を悪化させていたところ、自身の腹部を刃物で突き刺し、重篤な傷害を負ったことから、自殺を企図したと認められる。被告人に被害者に対する恨みなどなく、被害者に害を加えなければならない理由は他に見当たらないから、本件犯行は、被告人がうつ病の影響から自殺を企図し、一人娘である被害者を道連れにしようとした心中の事案と認められる。そして、被告人は、被害者を殺そうとしてその胸部に刃物を向けたが、殺害をためらい、上衣を傷付けるなどしたが、結局、上記のとおりの刺突行為に及んだと認められる。心中しようとしても、ためらうことは不自然でなく、上記の意味での殺意が認められるにとどまることも不自然ではない。 2 心神耗弱について捜査段階で被告人を鑑定したB医師は、次のように証言した。すなわち、被告人は、犯行時、重度に近い中等度のうつ病であり、その著しい影響により、自殺を企図し、心中を企て、本件犯行に及んだ。被告人が犯行を想起できないのは、強烈な体験から記憶を閉じ込めた解離性健忘が生じたにすぎず、意識障害があったわけではない、というのである。B医師は、多数の精神 企図し、心中を企て、本件犯行に及んだ。被告人が犯行を想起できないのは、強烈な体験から記憶を閉じ込めた解離性健忘が生じたにすぎず、意識障害があったわけではない、というのである。B医師は、多数の精神鑑定の経験を有し、公正さに疑いを挟むような事情は見当たらない。被告人は、当日、うつ病の症状を悪化させ、衝動的に心中を図ろうとしたことから、その著しい影響があったことは明らかである。 他方、被告人は、当日、家事やその他の社会生活を営み、自分の症状悪化を申告することができており、社会復帰調整官が関与して、主治医の診察や心理士のカウン- 3 -セリングを受けている。幻覚症状も認められず、被告人の犯行前後の記憶は比較的鮮明に保たれている。被告人が被害者の殺害をためらうなどした点は、善悪を判断する力や自分の行動を制御する力が失われていないことを示している。上記B医師の証言には高い信用性が認められる。被告人は心神耗弱の状態にあったと認められる。 (法令の適用)(略)(量刑の理由)被告人は、一人娘である被害者に対し、うつ病の影響から、刃物で背中を刺す傷害に及び、医療観察法上の通院処遇を受けていたところ、被害者の小学校入学を前に、その養育等に悩みを募らせ、自分を責めるなどしたため、うつ病の症状を悪化させ、その著しい影響から心神耗弱の状態に陥り、とっさに自殺を企図し、刃物で自分の腹部を刺すなどするとともに、被害者を道連れにしようなどと考え、ためらいながらも、殺意をもって、判示の犯行に及んだ。犯行態様は、6歳の児童の胸に、肺の表面に達するほど刃物を突き刺した、危険かつ悪質なものである。傷害の結果は、決して軽視できるものではない上、恐怖感等、精神的被害も大きかったと思料される。うつ病の著しい影響があったとはいえ、我が子を道連れにしようとした動機は身 た、危険かつ悪質なものである。傷害の結果は、決して軽視できるものではない上、恐怖感等、精神的被害も大きかったと思料される。うつ病の著しい影響があったとはいえ、我が子を道連れにしようとした動機は身勝手である。 検察官は、医療観察法上の処遇中に、同じ被害者に対し、再び同様の行為に及んだことから、他に類を見ない重大な事案であり、実刑が相当と主張する。しかし、心神耗弱者がした子に対する心中目的の殺人未遂の量刑傾向をみると、全て執行猶予が付されている。確かに、前回の事案で、検察官が起訴していれば、本件は、執行猶予期間中の再犯となる可能性が高く、その場合実刑を免れない。しかし、被告人は、起訴後の刑事手続を経験したわけではなく、その感銘力や威嚇の点で、医療観察法上の処遇を受けたことをもって、起訴後の刑事手続を現に経験した前科がある場合と同等に考えることはできない。被告人の刑事責任は重大というべきである- 4 -が、実刑を選択するのはためらわれる。被告人に対しては、刑の執行を猶予するのが相当である。 被告人は、被告人なりに反省の言葉を述べるものの、自分の病状や犯行に及んだ原因を直視していない上、自分の行為や娘の置かれた状況を客観視しておらず、内省の深まりは認められない。また、夫や母は、被告人の監督を誓っているものの、被告人の病状やその対処法を理解しているとはいえない。本件について、刑の執行を猶予したとしても、再犯を防ぐために、被告人に対し、被害者との関わり合いや同居について、専門的な指導や監督が不可欠であり、保護観察に付するのが相当である。また、被告人及びその家族に対し、今後、医療観察法上の処遇において、強力な枠組みの下、徹底した疾病教育や環境調整が不可欠と思料される。 以上から、主文のとおり判断した。 (求刑懲役5年)令和7年3月 人及びその家族に対し、今後、医療観察法上の処遇において、強力な枠組みの下、徹底した疾病教育や環境調整が不可欠と思料される。以上から、主文のとおり判断した。 (求刑懲役5年)令和7年3月17日高松地方裁判所刑事部 主文 裁判長裁判官深野英一 裁判官荒井智也 裁判官池内継史

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る