平成27年2月10日判決言渡同日原本交付裁判所書記官東敏美平成24年(ワ)第35757号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成26年12月9日判決奈良市<以下略>原告株式会社呉竹東京都中央区<以下略>原告保土谷化学工業株式会社上記両名訴訟代理人弁護士塚原朋一 鰺坂和浩 岡崎士朗 尾関孝彰同訴訟代理人弁理士長谷川芳樹 清水義憲同補佐人弁理士城戸博兒 黒川朋也 坂西俊明 中塚岳大阪市東成区<以下略>被告株式会社サクラクレパス同訴訟代理人弁護士松本司田上洋平大江哲平 主文 1 被告は,原告らに対し,各3676万3600円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを2分し,その1を被告の,その余を原告らの各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の墨液を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,原告らに対し,各7040万円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告による別紙物件目録記載の各製品(墨液製品又は墨液製品を含むセット製品。以下,これらのうち墨液製品を「被告製品」と みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが,被告による別紙物件目録記載の各製品(墨液製品又は墨液製品を含むセット製品。以下,これらのうち墨液製品を「被告製品」という。)の製造販売等が原告らの特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく差止め並びに特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金各7040万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成25年1月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(各項目掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実を含む。)(1) 当事者原告株式会社呉竹は,墨・液体墨の製造販売,筆記用具の製造販売等をを目的とする株式会社である。 原告保土谷化学工業株式会社は,無機及び有機工業薬品,染料,顔料等 の一般化学製品の製造販売等を目的とする株式会社である。 被告は,文房具類及び紙類の製造販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告らの特許権(甲1,2,14,18)ア原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」,平成25年7月3日付け審決(訂正2013-390083)による訂正後の明細書及び図面を「本件明細書」という。)を共有している。 特許番号特許第4426564号発明の名称水消去性書画用墨汁組成物出願日平成18年12月27日(特願2006-353111)登録日平成21年12月18日イ上記訂正後の本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~3の記載は,次のとおりである(以下,それぞれを「本件発明1」などといい,これらを「本件各発明」と総称する。)。 (ア) 請 12月18日イ上記訂正後の本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~3の記載は,次のとおりである(以下,それぞれを「本件発明1」などといい,これらを「本件各発明」と総称する。)。 (ア) 請求項1「酸性染料および水媒体を含み,前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28~65質量%,黄色系染料13~46質量%および青色系染料15~38質量%の割合で配合されることを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。」(イ) 請求項2「酸性染料および水媒体を含み,前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系 (ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり,かつこれらの染料が赤色系染料28~65質量%,黄色系染料13~46質量%および青色系染料15~38質量%の割合で配合され,前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり,前記赤色系染料が下記構造式(D)で表され,前記黄色系染料が下記構造式(B)で表され,かつ前記青色系染料が下記構造式(E)で表されることを特徴とする繊維集合体に対する水消去性を有する水消去性書画用墨汁組成物。 【化1】別紙構造式一覧参照【化2】別紙構造式一覧参照【化3】別紙構造式一覧参照(以下,各構造式を「構造式(D)」などという。)(ウ 別紙構造式一覧参照【化2】別紙構造式一覧参照【化3】別紙構造式一覧参照(以下,各構造式を「構造式(D)」などという。)(ウ) 請求項3「前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色4号(タートラジン,C.I. 19140),食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I. 15985)から選ばれ,前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色2号(アマランス,C.I.16185),食用赤色102号(ニューコクシン,C.I.16255)から選ばれ,前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C. I.42090)であることを特徴とする請求項1記載の水消去性書画用墨汁組成物。」 ウ本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件1A」などという。)。 (ア) 本件発明11A 酸性染料および水媒体を含み,1B 前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種以上からなり,1C かつこれらの染料が赤色系染料28~65質量%,黄色系染料13~46質量%および青色系染料15~38質量%の割合で配合される1D ことを特徴とする水消去性書画用墨汁組成物。 (イ) 本件発明22A 酸性染料および水媒体を含み,2B 前記酸性染料は,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および 構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,アゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料および青色系染料を含む3種からなり,2C かつこれらの染料が赤色系染料28~65質量%,黄色系染料13~46質量%および青色系染料15~38質量%の割合で配合され,2D 前記酸性染料のスルホン酸塩基がナトリウム塩であり,2E 前記赤色系染料が構造式(D)で表され,2F 前記黄色系染料が構造式(B)で表され, 2G かつ前記青色系染料が構造式(E)で表される2H ことを特徴とする繊維集合体に対する水消去性を有する水消去性書画用墨汁組成物。 (ウ) 本件発明33A 前記黄色系染料はアゾ系の食用黄色4号(タートラジン,C. I.19140),食用黄色5号(サンセットイエローFCF,C.I.15985)から選ばれ,3B 前記赤色系染料はアゾ系の食用赤色2号(アマランス,C. I.16185),食用赤色102号(ニューコクシン,C.I. 16255)から選ばれ,3C 前記青色系染料はトリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF,C.I.42090)である3D ことを特徴とする請求項1記載の水消去性書画用墨汁組成物。 (3) 被告の行為ア被告は,平成21年12月18日から平成23年10月23日までの間,被告製品を販売した。 イ被告製品の構成は,次のとおりである。 a ●(省略)●b ●(省略)●c ことを特徴とする洗濯で落ちる墨液。 ウ被告製品の構成は本件発明1及び2の全ての構成要件並びに本件発明3の構成要件3A及び3Dを充足する。 エ被告は,平成23年10月24日以降,製造販売す c ことを特徴とする洗濯で落ちる墨液。 ウ被告製品の構成は本件発明1及び2の全ての構成要件並びに本件発明3の構成要件3A及び3Dを充足する。 エ被告は,平成23年10月24日以降,製造販売する墨液製品の構成を変更した。同日以降に製造販売された製品は,本件各発明の技術的範囲に属しない。 オ被告製品1本当たりの利益の額は,●(省略)●円を下らない。 (4) 先行文献ア昭和54年4月26日公開の実開昭54-60531号公報(実願昭52-133439号のマイクロフィルム)(乙1。以下「乙1文献」という。)には,次の発明(以下「乙1発明」という。)の開示がある。 水,色素たる食用青色1号,食用赤色102号及び食用黄色4号と,界面活性剤と,ポリエチレングリコ-ルとを含有し,食用青色1号33.3重量%,食用赤色102号33.3重量%,食用黄色4号33.3重量%の割合で配合された,水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することができるサインペンに用いられる黒色水溶性インキイ本件各発明と乙1発明の構成は次の各点で相違し,その余は一致する。 (ア) 相違点1(本件発明2のみ)黄色系染料が,本件発明2では黄色系染料が構造式(B)で表されるものであるのに対し,乙1発明は食用黄色4号である点。 (イ) 相違点2(本件各発明)水消去性組成物の用途が,本件各発明は「繊維集合体に対する水消去性を有する書画用墨汁」であるのに対し,乙1発明は「サインペンに用いられる黒色水溶液インキ」である点。 (ウ) 相違点3(本件各発明)乙1発明は界面活性剤とポリエチレングリコールとを含有するのに対し,本件各発明はこれらを必須とするものではない点。 2 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 構成要件3B及び3Cの充足 )乙1発明は界面活性剤とポリエチレングリコールとを含有するのに対し,本件各発明はこれらを必須とするものではない点。 2 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 構成要件3B及び3Cの充足性(争点(1))について(原告らの主張)被告製品の赤色系染料及び青色系染料は,それぞれ食用赤色102号及 び食用青色1号と化学構造式が同一であるから,工業用として販売されている染料であっても,構成要件3B及び3Cをそれぞれ充足する。 (被告の主張)被告製品の赤色系染料及び青色系染料は工業用染料であって食用染料ではないから,構成要件3B及び3Cを充足しない。 (2) 無効理由の有無(争点(2))について(被告の主張)ア相違点1について本件発明2の構造式(B)で表される黄色系染料には食用黄色5号が含まれるところ,食品衛生法上,人の健康を損なうおそれのない添加物として定められた食用の黄色系色素は食用黄色4号及び食用黄色5号のみであり,これらは列挙されている。さらに,染料インキに係る技術分野において口に入れた場合の安全性を課題とした他の発明(乙7の1~5)においても食用黄色4号及び食用黄色5号が対になって挙げられている。本件明細書には誤って口に入れても安全な水消去性書画用墨汁組成物を提供できることが記載されており,上記発明と課題が共通する。 以上によれば,乙1発明の食用黄色4号を本件発明2の構造式(B)に含まれる食用黄色5号に置換することは設計事項ともいうべきものであり,当業者であれば容易に想到することができる。 イ相違点2及び3について(ア) 本件各発明と同様,繊維集合体に付着した墨汁組成物を水洗,洗濯により消去するという周知の技術課題を解決する発明(乙2,5の1~5)においては,「書画用墨汁組 イ相違点2及び3について(ア) 本件各発明と同様,繊維集合体に付着した墨汁組成物を水洗,洗濯により消去するという周知の技術課題を解決する発明(乙2,5の1~5)においては,「書画用墨汁組成物」とサインペンを含む「マーキングペン用インキ」のどちらにでも使用できるとされており,当業者は,一般的に両者は互換性があると認識している。 また,乙1文献には,幼児等が襖等にいたずら書きをすることが課 題として記載されており,襖には紙や布(繊維集合体)製のものがあるから,繊維集合体に対する水消去性という課題が共通する。 (イ) 乙1発明のポリエチレングリコールはインキの蒸発防止剤として添加されているものであり,他方,本件各発明も,保湿剤としてエチレングリコール等を添加する(本件明細書【0030】)と記載されているから,乙1発明においてポリエチレングリコールが必須の構成とされていることが,乙1発明を墨汁組成物として転用することの支障となるものではない。 また,乙1発明の界面活性剤は,「インキ保溜剤に滲み込み速進」と「合成樹脂面等の撥水性の表面への筆記を可能」にするために添加されているものであり,他方,書画用墨汁組成物に使用できる水溶性インキについて,「着色剤組成物には,(中略)界面活性剤,(中略)など,一般に墨汁,絵具,マーキングペンに含まれるものを含めることができる。」(乙2【0020】,乙5の3【0019】)と記載されているから,乙1発明において界面活性剤が必須の構成とされていることが,乙1発明を墨汁組成物として転用することの支障となるものではない。 (ウ) 以上によれば,当業者は,乙1発明に周知技術を適用することにより,相違点2及び3に係る構成を容易に想到することができる。 ウ以上のとおりであるから,本件特許 の支障となるものではない。 (ウ) 以上によれば,当業者は,乙1発明に周知技術を適用することにより,相違点2及び3に係る構成を容易に想到することができる。 ウ以上のとおりであるから,本件特許には進歩性欠如の無効理由がある。 (原告らの主張)ア相違点1について(ア) 食用黄色4号(乙1発明)はピラゾール環,カルボン酸基を含むなど,食用黄色5号(本件発明2)とは化学構造式が大きく異なる。 また,食用黄色4号は黄色原色に近いレモン色であるのに対し,食用 黄色5号はオレンジ色に近い色であって,色が異なる。 (イ) 被告の引用する文献(乙7の1~5)は食品に使用可能な色素等を羅列したにすぎず,食用黄色4号と食用黄色5号が同等の水消去性の作用を有するという技術常識が存在していたわけではない。 (ウ) したがって,食用黄色4号とするか食用黄色5号とするかは設計事項ではなく,乙1発明から相違点1に係る構成を想到することは容易ではない。 イ相違点2及び3について乙1文献には,繊維集合体についての洗濯による水消去性については記載も示唆もない。また,被告の引用する文献(乙2,5の1~5)は,各文献に記載された以外の染料組成物についてサインペン用インキと墨汁組成物との間に互換性があることを記載したものではなく,サインペン用インキと墨汁組成物との間に一般的に互換性があることは記載も示唆もされていない。 以上によれば,乙1発明をあえて墨汁に転用し,繊維集合体に対する水消去性を有する水消去性の墨汁組成物とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (3) 被告が賠償すべき損害額(争点(3))について(原告らの主張)ア原告らは,本件各発明の実施品である墨液製品を製造販売している。 イ被告製品の平成21年 想到し得たとはいえない。 (3) 被告が賠償すべき損害額(争点(3))について(原告らの主張)ア原告らは,本件各発明の実施品である墨液製品を製造販売している。 イ被告製品の平成21年12月18日から平成23年10月23日までの間の販売数量は●(省略)●本を下らない。なお,被告主張の販売数量は客観的裏付けを欠くものであり,一方,文具販売業者のPOSデータによれば被告製品の販売数量は●(省略)●本と推計される。 ウ原告らは水消去性の墨液を特許出願中と表示して販売しており,被告製品はこれと成分が酷似した模倣品であるから,被告には故意又は過失 がある。 エ推定覆滅事由に関する被告の主張は争う。 オしたがって,原告らの損害額は,上記販売数量に1本当たりの利益額●(省略)●円(前記争いのない事実等(3)オ)を乗じた●(省略)●円であると推定されるので(特許法102条2項),原告らは被告に対し,これに弁護士費用●(省略)●円を加えた1億4080万円(原告らそれぞれ7040万円)の損害賠償を求める。 (被告の主張)ア過失の不存在特許法103条により過失が推定されるのは特許公報により特許権が公示されることによるものであるから,特許登録後,特許公報が発行されるまでの間は特許権侵害についての過失の推定は覆滅される。 したがって,被告に過失があるのは本件特許の特許公報発行日である平成22年3月3日から平成23年10月23日までであり,この間の被告製品の販売数量は●(省略)●本である。なお,原告ら主張の損害期間の販売数量は●(省略)●本である。 イ推定覆滅事由① 被告製品は,被告の意匠権(登録第1204240号)に係る意匠を実施しているなど外観上の特徴を有すること,② 被告は,原告らが本件各発明 販売数量は●(省略)●本である。 イ推定覆滅事由① 被告製品は,被告の意匠権(登録第1204240号)に係る意匠を実施しているなど外観上の特徴を有すること,② 被告は,原告らが本件各発明の実施品の販売を開始した平成19年より7年早い平成12年から被告製品と同じ名称の「洗濯で落ちる墨液」(被告製品と成分は異なる。)を販売しており,その宣伝広告が被告製品の販売に寄与していること,③ 被告は平成23年10月24日から成分を変更した上で「洗濯で落ちる墨液」を販売しており,本件各発明は構成の変更により容易に回避可能であって,本件各発明の技術的価値は低いことからすれば,本件各発明の被告製品の売上げに対する寄与は多くとも10%で あり,被告の利益のうち90%について特許法102条2項による推定が覆滅される。 第3 当裁判所の判断 1 構成要件3B及び3Cの充足性(争点(1))について(1) 原告らは,被告製品の赤色系染料及び青色系染料の化学構造式は,食用赤色102号及び食用青色1号と同じであるから,被告製品は構成要件3B及び3Cを充足すると主張する。 (2) そこで判断するに,構成要件3B及び3Cの「食用赤色102号」及び「食用青色1号」は,食品衛生法所定の「人の健康を損なうおそれのない」添加物として厚生労働大臣が定めたもの(同法10条,同法施行規則12条の別表第一)であり,所定の規格等(同法11条1項,21条)を充たす必要がある。 被告製品の赤色系染料オリエントWATERRED1(CASNo.2611-82-7)及び青色系染料オリエントWATERBLUE9(CASNo.3844-45-9)は,工業用に販売されているものであるところ(弁論の全趣旨),これらの染料が上記規格等に合致していることを認めるに足 び青色系染料オリエントWATERBLUE9(CASNo.3844-45-9)は,工業用に販売されているものであるところ(弁論の全趣旨),これらの染料が上記規格等に合致していることを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,被告製品の上記各染料が構成要件3B及び3Cを充足すると認めることはできない。 (3) したがって,被告製品が本件発明3の技術的範囲に属するとは認められない。 2 無効理由の有無(争点(2))について(1) 上記1のとおり,被告製品は本件発明3の技術的範囲に属しないから,本件発明1及び2の無効理由の有無について判断する。 (2) 被告は,本件発明1及び2の構成は,乙1発明と周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができ,進歩性を欠くと主張する。 そこで検討するに,前記争いのない事実等,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(以下,文献については証拠番号に応じて「乙2文献」などという。)。 ア本件明細書には次の趣旨の記載がある。(甲14)(ア) 背景技術(段落【0002】~【0006】)従来の墨汁はカーボンブラックを主体とした膠及び/又は合成樹脂からなる組成物であるため,一旦布や不織布などの繊維集合体に付着した場合,水洗又は洗剤を用いた洗濯では簡単に消去できない問題があり,また,市販品の消去性書道液でも,最も多用されている繊維である木綿に対しては容易に消去することが困難であった。 従来技術において,樹脂と染料や顔料を混練し微粉末に加工したり,水不溶性の無機物の微粒子の表面に水不溶性の染料や顔料を混合し,機械的な衝撃力で付着させたもの,染料等と反応させ微粉末にし,染料等の粒子の大きさを大きくすることにより,繊維集合体の繊維間に入り込むことを防止し 機物の微粒子の表面に水不溶性の染料や顔料を混合し,機械的な衝撃力で付着させたもの,染料等と反応させ微粉末にし,染料等の粒子の大きさを大きくすることにより,繊維集合体の繊維間に入り込むことを防止したり,染料が有する繊維との反応基を封鎖し,洗濯などで色材を洗い落とす方法がある。しかし,このような方法は,樹脂と染料等を混練し,微粉末に加工する工程,樹脂表面に機械的衝撃力で染料などを付着させる工程,染料と樹脂とを反応させる工程等が必要となり,樹脂及び加工する設備,工程が必要であった。 さらに,洗濯により容易に消去できる,ヨウ素でんぷんを用いた墨汁も,半紙に書いた後の色が黒色から褐色に変化し,黒色を維持させることが必要な墨汁として満足するものではなかった。 (イ) 課題(段落【0007】)従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき,更に半紙に書いた後の色が黒色を 維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供する。 (ウ) 課題を解決するための手段(段落【0009】)上記課題を解決するための発明の第1態様は,請求項1に記載の水消去性書画用墨汁組成物である。 (エ) 発明の効果(段落【0011】)従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても洗濯により容易に消去でき,更に半紙に書いた後の色が黒色を維持させることが可能な水消去性書画用墨汁組成物を提供できる。 (オ) 発明を実施するための最良の形態特許請求の範囲に記載された特定の食用の赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を特定の割合で配合することによって,誤って衣服に付着したときに優れた水消去性を示すと共に,耐光性,水溶液状態で安定性に優れ,墨汁に近似した黒色性を示し,更に仮に誤っ 染料,黄色系染料及び青色系染料を特定の割合で配合することによって,誤って衣服に付着したときに優れた水消去性を示すと共に,耐光性,水溶液状態で安定性に優れ,墨汁に近似した黒色性を示し,更に仮に誤って口に入れても高い安全性を有する水消去性書画用墨汁組成物を実現できる。 (段落【0021】)各食用の染料を用いて好ましい黒色の墨汁組成物にするには,黄色染料,赤色染料及び青色染料を各1種とする組合せを挙げることができる。各染料の好ましい組合せ及び具体的な配合割合は,黄色染料として食用黄色5号を用いる場合と食用黄色4号を用いる場合とで異なる。(段落【0022】~【0028】)実施形態において,デンプン糖類,砂糖及びエチレングリコール等から選ばれる少なくとも1つの保湿剤及び/又は天然ガム類,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン等から選ばれる少なくとも1つのにじみ改善剤を更に含有することが好ましい。これらの保湿剤,にじみ改善剤は,運筆性,にじみ防止,墨色化に寄与し,書道液としての適正化を維持することが可能になる。(段落【0030】) 本発明者らは,酸性染料の中で,構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し,かつアゾ系(ただし,芳香族環がアルキル基,ニトロ基,アミノ基,アルコキシル基で置換されているものを除く)又はトリフェニルメタン系の赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を含む3種以上からなる特定の酸性染料を選択し,更に各色系染料を特定の配合割合で水媒体に含有させることによって,従来のような煩雑な工程を必要とすることなく,誤って衣服に付着しても,洗濯により容易に消去でき,更に半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を見出した。(段落【0036】)イ乙1文献は考案の名称を「サインペン玩 て衣服に付着しても,洗濯により容易に消去でき,更に半紙に書いた後の色が黒色を維持することが可能な水消去性書画用墨汁組成物を見出した。(段落【0036】)イ乙1文献は考案の名称を「サインペン玩具」とする公開実用新案公報であり,考案の詳細な説明として次の趣旨の記載がある。(乙1)① 幼児等は,市販の油性インキのサインペンやクレヨン等で壁や襖等にいたずら書きをし,あるいは唇や眼の周りに書くことがあり,いたずら書きを消去するのが困難であったり,毒性の点で問題がある(2頁)。② 乙1発明の黒色水溶性インキは,完全な水溶性でありながら,疎水性を呈する合成樹脂面にも完全に彩色でき,誤って幼児等が口に含んでも毒性が全くなく,しかも水を含んだ雑巾で拭き取るだけで簡単に消去することができる(2・3頁)。③ 乙1発明のサインペン玩具は,フェルト製又はナイロン等の合成繊維製の細棒から成る芯を有するサインペンにおいて,内部に貯溜させるインキに乙1発明に係る黒色水溶液を使用したものであり,水溶性インキをサインペン又はフェルトチップペンのインキ保溜材に含浸,貯溜させるものである(3・5頁)。④ ポリエチレングリコールを添加するのはインキ保溜材に含浸,貯留されているインキが蒸発するのを防ぎ,サインペンとしての保存性を得るものである(6頁)。⑤ 界面活性剤は,インキの流れをよくするもので,インキがインキ保溜材ににじみ込むのを速進させ,イン キ保溜材に含浸,貯溜されるインキの量を多くするとともに,合成樹脂面等の撥水性の表面への筆記を可能とするものである(6頁)。 ウ食用黄色4号及び食用黄色5号は,食品衛生法施行規則12条所定の別表第一に「人の健康を損なうおそれのない」添加物として列記された水溶性の色素(染料)であり,本件特許の出願当時,同 る(6頁)。 ウ食用黄色4号及び食用黄色5号は,食品衛生法施行規則12条所定の別表第一に「人の健康を損なうおそれのない」添加物として列記された水溶性の色素(染料)であり,本件特許の出願当時,同表に食用黄色として記載されている染料は食用黄色4号と食用黄色5号だけであった。 食用黄色4号は黄色原色に近いレモン色であるのに対し,食用黄色5号はよりオレンジ色に近い色である。また,食用黄色5号が構造式(B)の構造で表されるのに対し,食用黄色4号は食用黄色5号に含まれないピラゾール環及びカルボン酸基を含み,両者は母骨格と親水性官能基の種類が異なっている。(甲9の2,23,乙8)エ本件特許の出願前の刊行物には次の記載がある。 (ア) 乙2文献平成9年12月9日公開の特開平9-316379号公報(乙2)には,直染性が低い染料と水溶性樹脂を含有する消去性着色剤組成物に関し,墨汁,絵具,インキなどとして使用可能であり,衣服に付着した場合でも繊維の表面を通して繊維内に入り込むことがないため,水洗又は洗濯により簡単に消去することができること(段落【0022】),水溶性樹脂は着色剤の消去性を向上させるために添加するものであり,ポリエチレングリコールが最適であること(段落【0018】),着色剤組成物には,界面活性剤,にじみ防止剤等一般に墨汁,絵具,マーキングペンに含まれるものを含めることができること(段落【0020】)が記載されている。乙2文献には,酸性染料である赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を含む水消去性組成物によって水消去性を発現させること,半紙に書いた後の黒色を維持させることについての言及はない。 (イ) 乙5の1~5文献a 昭和54年12月5日公開の特開昭54-154631号公報(乙5の1)には,アルカリ性側 半紙に書いた後の黒色を維持させることについての言及はない。 (イ) 乙5の1~5文献a 昭和54年12月5日公開の特開昭54-154631号公報(乙5の1)には,アルカリ性側で発色し,酸性側で消色し,基材に対し実質的な吸着性を有しないpH指示薬をアルカリ性の水性媒体に溶解してなるマーキング剤に関し,これを習字用の墨汁に用いること,「墨汁」という用語は,必ずしも黒色の液を意味するものではなく,習字の分野において毛筆やフェルトペンに使用する有色の液を意味すること(3欄)が記載されている。 b 昭和55年12月3日公開の特開昭55-155071号公報(乙5の2)には,アルカリ性にて発色するpH指示薬及びアルカリ性の水性媒体を用いた,容易に消去及び脱色可能な黒色のマーキング剤に関し,習字用の墨汁,マーキングペンのインキ等に有用であること(7欄)が記載されている。 c 平成10年1月13日公開の特開平10-7957号公報(乙5の3)には,反応性染料と水溶性樹脂との反応物を着色剤として含有する消去性着色剤組成物に関し,墨汁及びマーキングペン用インキ等として使用し,布,不織布などの繊維集合体に付着した場合に水洗などにより簡単に消去できること(【請求項7】,【請求項9】,段落【0001】,【0020】),着色剤組成物には,定着材,増量剤,防腐剤,防黴剤,香料,界面活性剤,pH調整剤,粘度調整剤,分散剤,保水剤,湿潤剤,消泡剤,レベリング剤,粘弾性調整剤,にじみ防止剤,水,アルコールなど一般に墨汁,絵具,マーキングペンに含まれるものを含めることができること(段落【0019】),水溶性樹脂としてはポリエチレングリコールが最適であること(段落【0008】)が記載されている。 d 平成11年1月6日公開の特開平11-1646号 のを含めることができること(段落【0019】),水溶性樹脂としてはポリエチレングリコールが最適であること(段落【0008】)が記載されている。 d 平成11年1月6日公開の特開平11-1646号公報(乙5の 4)には,着色剤と消去剤を含有する消去性着色剤組成物に関し,墨汁,マーカー用インキ,絵具等として使用できること(段落【0016】),着色剤に消去剤を配合することにより,着色剤の色,濃度,付着量にとらわれず,一般で家庭で行われている洗濯で消去可能な消去性を実現できること(段落【0007】),消去剤として好適なものはポリエチレングリコール等であること(段落【0010】)が記載されている。 e 平成18年3月2日公開の特開2006-57084号公報(乙5の5)には,着色顔料,水溶性樹脂及び水を含む洗濯により消去可能な着色剤組成物に関し,墨汁,サインペン用インキ,マーキングペン用インキに使用できること(段落【0009】,【0032】),紙に塗布した場合に高湿度下でにじみを生じることなく,また,布,不織布などの繊維集合体に付着した場合に,簡単な水洗(洗濯)により消去することができること(段落【0004】)が記載されている。 f 乙5の1~5文献には,酸性染料である赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を含む水消去性組成物によって水消去性を発現させること,半紙に書いた後の黒色を維持させることについての言及はない。 (ウ) 乙7の1~5文献幼児がなめるなどした場合に人体に対する安全性を確保するため,食品添加物の着色料として規定されている色素を主原料とする水溶性インキに関する平成4年10月22日公開の特開平4-298577号公報(乙7の1),同年11月9日公開の特開平4-318081号公報(乙7の2),平成6年11 規定されている色素を主原料とする水溶性インキに関する平成4年10月22日公開の特開平4-298577号公報(乙7の1),同年11月9日公開の特開平4-318081号公報(乙7の2),平成6年11月22日公開の特開平6-322309号公報(乙7の3),平成7年8月15日公開の特開平7-2 16281号公報(乙7の4),平成14年5月9日公開の特開2002-129085号公報(乙7の5)には,いずれも使用する黄色色素として,食用黄色4号と食用黄色5号が列記されている。 (3) 上記事実関係に基づき,本件発明1及び2と乙1発明の各相違点(前記争いのない事実等(4)イ)の容易想到性について,以下,検討する。 ア相違点1(黄色系染料が,本件発明2では黄色系染料が構造式(B)で表されるものであるのに対し,乙1発明は食用黄色4号である点)について(本件発明2に関し)(ア) 前記前提となる事実(4)ア及び前記(2)イによれば,乙1発明は,黒色水溶性インキについて,口に入れても無毒であることのほか,疎水性面に対する筆記性や水消去性という課題を解決するために,染料として食用黄色4号を採用したものである。 そして,食用黄色4号と食用黄色5号は,無毒性という点では共通するものの,前記(2)ウのとおり,構造及び色合いは異なっている。ところで,染料の構造は筆記性や水消去性に,染料の色合いは他の染料との組合せにおける黒色の発色に関連すると解されるところ(本件明細書段落【0022】~【0028】等参照),構造や色合いが異なる食用黄色4号と食用黄色5号が筆記性や水消去性及び発色に関しても同様の作用を有することをうかがわせる証拠はない。 以上に照らせば,当業者が,相違点1に係る構成を容易に想到できたものと認めることはできない。 (イ) 5号が筆記性や水消去性及び発色に関しても同様の作用を有することをうかがわせる証拠はない。 以上に照らせば,当業者が,相違点1に係る構成を容易に想到できたものと認めることはできない。 (イ) これに対し,被告は,食用黄色4号及び食用黄色5号がいずれも食品添加物として安全性が認められた黄色染料で,口に入れた時の安全性を課題とした水溶性インキの発明において列記されていること(上記(2)エ(ウ))を根拠に,食用黄色4号と食用黄色5号が同様の作用を有することは技術常識であったと主張する。 しかし,被告の主張する点は,口に入れても無毒であるとの点で同様の作用を有していたことを示すにとどまるから,これを採用することはできない。 イ相違点2(水消去性組成物の用途が,本件発明1及び2は「繊維集合体に対する水消去性を有する書画用墨汁」であるのに対し,乙1発明は「サインペンに用いられる黒色水溶液インキ」である点)及び相違点3(乙1発明は界面活性剤とポリエチレングリコールとを含有するのに対し,本件発明1及び2はこれらを必須とするものではない点)について(本件発明1及び2に関し)(ア) 前記(2)イ④及び⑤によれば,乙1発明が界面活性剤及びポリエチレングリコールを含有しているのは,これが墨汁組成物ではなくサインペン用インキとして用いられることによるものと認められるから,黒色水溶性インキを墨汁組成物とする相違点2が容易想到といえなければ相違点3についても容易想到性を否定すべきものと考えられる。 (イ) 相違点2について,被告は,乙2,乙5の1~5文献には繊維集合体に付着した場合に水洗により消去することのできる染料をマーキングペン用インキ及び書画用墨汁組成物に使用することが記載されており,当業者は一般に書画用墨汁組成物とサインペ 5の1~5文献には繊維集合体に付着した場合に水洗により消去することのできる染料をマーキングペン用インキ及び書画用墨汁組成物に使用することが記載されており,当業者は一般に書画用墨汁組成物とサインペンを含むマーキングペン用インキには互換性があると認識しているから,相違点に係る構成を想到することは容易であると主張する。 そこで判断するに,サインペン用インキと書画用墨汁組成物は,使用方法(インキ保溜剤にインキを含ませるか使用の都度筆に浸すか)や筆記の対象(半紙のような吸水性の高い紙を用いるか否か)が異なるので,求められる性能(墨汁組成物においては半紙に書いた後の黒色を維持するという性能が求められる。上記(2)ア(イ)及び(エ)参照)が異なることになり,これに応じてそれぞれに適した染料等が選択さ れると考えられる。 また,本件発明1及び2と乙2文献及び乙5の1~5文献に記載された発明は,水消去性という課題は共通するものの,本件発明1及び2が酸性染料である赤色系染料,黄色系染料及び青色系染料を含む水消去性組成物によって水消去性を発現させるものであるのに対し,上記(2)エ(ア)及び(イ)によれば,乙2文献は直染性が低い染料と水溶性樹脂とを含有する構成,乙5の1及び2文献はpH指示薬を用いた構成,乙5の3文献は反応性染料と水溶性樹脂との反応物を着色剤とする構成,乙5の4文献は着色剤と消去剤を含有する構成,乙5の5文献は着色顔料及び水溶性樹脂を含む構成を採用したものであり,課題解決のための手段ないし技術思想が大きく異なっている。 さらに,乙1文献には水溶性インキでありながら疎水性を呈する合成樹脂面にも完全に彩色できるという課題が記載されており(前記(2)イ②),このような課題を解決した乙1発明に係る水溶性インキを,疎水性 さらに,乙1文献には水溶性インキでありながら疎水性を呈する合成樹脂面にも完全に彩色できるという課題が記載されており(前記(2)イ②),このような課題を解決した乙1発明に係る水溶性インキを,疎水性のない半紙に筆記するために用いられる墨汁組成物にあえて転用する動機付けは見いだせない。 そして,本件発明1及び2は,上記の構成を採用することにより,乙2文献等に記載のない(前記(2)エ参照)半紙に書いた後の黒色を維持させるという顕著な作用効果をもたらされたものと解される。 以上によれば,当業者が一般に水消去性を技術課題とする書画用墨汁組成物とサインペンを含むマーキングペン用インキに互換性があると認識していたとは認められず,本件発明1及び2について,乙1発明に技術常識を組み合わせて容易に発明することができたと認めることはできない。 (4) 以上のとおりであるから,被告による被告製品の製造販売は,原告らの本件特許権を侵害するものである。 (5) 原告らは被告に対し別紙物件目録記載の墨液の製造,使用等の差止めを請求する。 しかしながら,被告が平成23年10月24日以降製造販売する墨汁製品の構成を本件各発明の技術的範囲に属しない構成に変更したことは前記争いのない事実等(3)ウのとおりであり,それ以降既に3年を経過したことに照らすと,もはや本件特許権を侵害するおそれ(特許法100条1項)があると認めることはできない。 したがって,原告らの差止請求は理由がない。 3 被告が賠償すべき損害額(争点(3))について(1) 被告の損害賠償責任ア前記1及び2のとおり,被告は,原告らの本件特許権を侵害しており,特許権侵害につき過失があるものと推定される(特許法103条)から,原告らに対し,平成21年12月18日(本件特許の 害賠償責任ア前記1及び2のとおり,被告は,原告らの本件特許権を侵害しており,特許権侵害につき過失があるものと推定される(特許法103条)から,原告らに対し,平成21年12月18日(本件特許の登録日)から平成23年10月23日までの被告製品の製造販売により原告らに生じた損害につき,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 イこれに対し,被告は,本件特許の特許公報の公開までの間は,同条に基づく過失の推定は覆滅されると主張する。 そこで判断するに,特許法は,特許権は設定の登録により発生する(66条1項),登録があったときは特許権者の氏名等を特許公報に掲載する(同条3項),特許公報は特許庁が発行する(193条1項)と規定するところ,登録から特許公報の発行までは,事柄の性質上,ある程度の期間を要すると考えられるから,特許権発生後,特許公報が発行されていない期間が生じることは,同法の規定上,予定されていると解される。一方,同法103条は,単に「特許権」を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定される旨規定し,特許権の発生時(登録時)から過失による不法行為責任を負うことを原則としてお り,特許公報の発行を過失の推定の要件と定めてはいない。また,同条が過失の推定を定めたのは,発明を奨励しもって産業の発達に寄与するという法目的(同法1条)に鑑み,特許権者の権利行使を容易にしてその保護を図るためであることは明らかである。以上の特許法の諸規定に照らせば,特許公報の発行前であることのみから過失の推定が覆されると解することは相当ではない。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 (2) 特許法102条2項による損害額ア単位数量当たりの利益額被告製品の1本当たりの利益額は●(省略) することは相当ではない。 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 (2) 特許法102条2項による損害額ア単位数量当たりの利益額被告製品の1本当たりの利益額は●(省略)●円である(争いのない事実等(3)オ)。 イ被告の販売数量(ア) 証拠(乙10,12,13,19,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成21年12月18日から平成23年10月23日までの間に,被告製品を●(省略)●本販売したものと認められる。 (イ) これに対し,原告らは,被告の販売数量を裏付ける公認会計士の監査報告書(乙13)は監査方法が不適切であるし,POSデータに基づく推計によれば被告の販売数量は上記本数を大幅に上回るとして,被告主張の販売数量は信用できないと主張する。 しかし,証拠(甲34,乙19~27)及び弁論の全趣旨によれば,上記監査報告書は被告と利害関係のない公認会計士が監査をして作成したものであること,監査に用いたアクセス形式のデータは被告の通常の業務の過程で過去のデータを効率的に保存するために元データを変換して作成されたものであること,元データである磁気データの復元には時間と手間を要すること,上記公認会計士は当該アクセス形式のデータと帳票類とのサンプリングによる対照を行って同データ の正確性を確認したことが認められ,本件における監査方法として不適切であるということはできない。他方,証拠(乙17)及び弁論の全趣旨によれば,POSデータは,POSデータを提供する会社ごとに調査対象が異なり,ある会社の一時期のPOSデータを基に一定期間の全販売数量を推計するのは困難であるとされているから,原告らによる推計は妥当性を欠くと解される。 したがって,原告らの主張は採用できない。 (ウ) 以上によれば 期のPOSデータを基に一定期間の全販売数量を推計するのは困難であるとされているから,原告らによる推計は妥当性を欠くと解される。 したがって,原告らの主張は採用できない。 (ウ) 以上によれば,本件特許権侵害による原告らの損害は,各3346万3600円●(省略)●であると推定される(特許法102条2項)。 ウ推定覆滅事由の有無被告は,① 被告製品が被告の意匠権の実施品であること,② 被告が従前から被告製品と同一の商品名の墨液を販売してきたこと,③ 本件各発明は容易に回避可能であって技術的価値が低いことから,被告の利益のうち90%について特許法102条2項の推定が覆滅されると主張する。 そこで判断するに,被告製品は,「洗濯で落ちる墨液」という商品名を付し,その広告に洗濯試験の比較写真を掲載し,「誤って付いた衣服の汚れが落とせ」ることを第1の特徴として販売されており(乙15の9~11),本件各発明と同様の作用効果を奏することが主たる購入動機になっていると認められる一方,被告の意匠権(乙14)その他外観上の特徴(上記①。なお,被告製品は横口容器であることも特徴とされているが,そのような形状の容器は他社の墨汁製品でも使用されている。甲5参照)又は被告による従前の販売活動(上記②)が被告製品の購入動機の形成に具体的に寄与していたことを認めるに足りる証拠はない。そして,被告製品は本件発明1及び2の構成を備えることにより上 記第1の特徴を有する墨液として販売されていたのであるから,侵害後に構成の変更をしたことをもって本件発明1及び2の寄与度が低い(上記③)と解することはできない。 したがって,被告の主張は採用できない。 (3) 弁護士費用上記(2)のとおりの原告らの損害額を含む本件事案の内容,訴訟経過等一 明1及び2の寄与度が低い(上記③)と解することはできない。 したがって,被告の主張は採用できない。 (3) 弁護士費用上記(2)のとおりの原告らの損害額を含む本件事案の内容,訴訟経過等一切の事情を考慮すると,被告の不法行為と相当因果関係があるものとして被告に負担させるべき弁護士費用の額は原告ごとに330万円をもって相当と認める。 (4) 以上のとおりであるから,原告らは,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金各3676万3600円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 4 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官清野正彦 裁判官髙橋彩 (別紙)物件目録 1 商品名「洗濯で落ちる墨液180ml」品名JW 2 商品名「洗濯で落ちる墨液180ml 2本組」品名JW2 3 商品名「洗濯で落ちる墨液180ml 3本組」品名JW3 4 商品名「洗濯で落ちる墨液180ml」学納用品名SJW 5 商品名「書道セットK ブルー/レッド」品名JZ-K 6 商品名「書道セットL」品名JZ-L 7 商品名「書道セットL」学納用品名SJZ-L 8 その他1又はその同等品を,複数又は他の製品と組み合わせてセットとした商品ただし,いずれも墨液製品のロット番号の下5桁が「00101」以上「11023」以下又は「91118」以上「91231」以下の製品及びこれと同等の染料組成を有する製品 以上「91231」以下の製品及びこれと同等の染料組成を有する製品
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