昭和28(う)2100 公職選挙法違反公務執行妨害被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和29年3月9日 東京高等裁判所 破棄自判
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役六月及び罰金参千円に処する。      右罰金を完納することができないときは金弍百円を一日に換算した期間 被告人を労役場に留置する。但

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判決文本文4,530 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役六月及び罰金参千円に処する。 右罰金を完納することができないときは金弍百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。但し本裁判確定後弐年間右懲役刑の執行を猶予する。 被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の規定を適用しない。 原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 論旨第一点について。 よつて記録を調査すると、原審公判廷において検察官が自ら取調べを請求した証人を尋問するに当り、所論指摘のような誘導尋問をしたことはこれを窺知することができる。惟うに誘導尋問とは尋問者が供述者に対し、自己の希望する答弁の内容を暗示する方法を以てする尋問と解すべきところわが刑事訴訟法にはかかる尋問を禁止する規定はないが、供述者は尋問者の希望する答弁の内容が暗示されると、これに迎合して自己の記憶にないことまでも、その通りに答弁する虞があり、延いては裁判官の事実認定を誤らしめる虞があるから、原則として誘導尋問はこれを許すべきでなく濫りに誘導尋問をする場合には裁判長の訴訟指揮権又は訴訟関係人の<要旨第一>異議により、これを制限又は中止させることができるものと解すべきである。しかしながら供述者が日時の経過</要旨第一>その他の理由で記憶を喪失し又は記憶が薄らいだような場合には、記憶を呼び起すに必要な事項を告げ又はその他適当な方法が記憶を呼び起させることは、その尋問か誘導尋問であつても真実発見のためには已むを得ないのてあつで、かかる場合にはこれを禁止する理由はないのである。故に誘導尋問によつてなされた供述又はこれを録取した調書であつても、単に誘導尋問によつてなされたという理由のみで直ちにその証拠能力を否定すべきものではなく、その はこれを禁止する理由はないのである。故に誘導尋問によつてなされた供述又はこれを録取した調書であつても、単に誘導尋問によつてなされたという理由のみで直ちにその証拠能力を否定すべきものではなく、その尋問が供述者の記憶を呼び起させるためその他已むを得ないもので特に不当な尋問でない場合にはこれに証拠能力を認め、ただその証明力については裁判官の自由心証に委せるべきものと解すべきである。これを本件について見るに所論指摘の証人は原審公判廷において検察官より尋問を受くるに当り、被告人が訪問した日時、目的等について記憶を喪失し又は記憶が薄らいで正確な供述ができなかつたため、検察官か証人の記憶を呼び起させるため已むを得ず証人が前に検察官に対して供述した内容に基いて尋問したことが右調書の記載に照らし自ら窺われるのてあつでこれを以て特に不当な尋問とは認められないし、被告人又は弁護人から右検察官の尋問に対し何等異議を述べた形跡も認められないから、原審が自由な判断によりこれを採用して断罪の資料としたことは違法の措置とは認められない。 次に証人A及びBに対する各尋問調書中、被告人が同人等方を訪問した目的に関する部分の同証人等の供述はこれを仔細に検討して見ると、被告人が同証人等方を訪問した際の被告人の言動を直接実験した事実から推測した事項を述べたものであつて単なる意見、判断乃至想像を述べたものでないことが明らかであり、また証人Cに対する検察官の尋問中「証人が館林区検察庁で調べられた際述べたことは間違つていないか」との問を発していることは記録上明らかであるが(但し所論の如く尋問の昌頭においてしたものではない)これがため特に同証人の証言の自由を抑圧するような不当な尋問とも認められない。更にまた証人Dに対する尋問調書によると同証人は被告人が同証人方を訪問した日時は六月下旬 問の昌頭においてしたものではない)これがため特に同証人の証言の自由を抑圧するような不当な尋問とも認められない。更にまた証人Dに対する尋問調書によると同証人は被告人が同証人方を訪問した日時は六月下旬であると述べているかしかしまた同時に同証人は被告人が来たのはその時被告人から貰つた名刺(前橋地方裁判所太田支部昭和二十八年領第二号の一)を駐在所の巡査に提出した日より十日位前であつた記憶があると述べており、同証人作成名義の任意提出書(被告人はこれを証拠とすることに同意している)は昭和二十七年七月十七日附となつている点より見れば、被告人が同証人方を訪問したのは同年七月初頃と認めるのが相当であるから、原審が右証人Dに対する尋問調書により被告人の訪問した日時を七月初頃と認定したことを以て証拠に依らないで事実を認定したとの非難は正当でない。これを要するに所論において証拠能力がないと主張する各証拠はいずれも証拠能力を具有するものであり、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示第一の事実は被告人が訪問した日時及び目的の点を含め、すべてこれを優に認めることができるのである。所論は証人の証言の片言雙語を捉えて全趣旨を諒解せず又は原審が採用しない証人Eの証言及び被告人の供述を唯一の根拠として原審が適法になした事実認定を論難攻撃するものであるから正当でない。記録を精査するも原判決には所論のように証拠に基かないで事実を認定したという違法は存しないのである。論旨は理由がない。 論旨第二点について。 原判決挙示の証拠を綜合すると、被告人は原判示第二記載の如く館林簡易裁判所法廷において公判立会中であつた一場検察官に対し、「お前は俺が選挙運動をしたということを無理に証人等に言わせようとしている。 俺は絶対に選挙違反などはした覚えがない。みんなお前達が事件を作り上げたのだ。馬 いて公判立会中であつた一場検察官に対し、「お前は俺が選挙運動をしたということを無理に証人等に言わせようとしている。 俺は絶対に選挙違反などはした覚えがない。みんなお前達が事件を作り上げたのだ。馬鹿野郎」等と怒号しながら同検察官の肩に掴みかかり、或はその右腕を掴んで検察官席より引張り出そうとする所為に及んだことを認めることができるのであつて、右の如き被告人の所為は刑法第九十五条第一項にいわゆる暴行を加えた場合に該ること論を俟たないところである。尤も当時被告人は酒気を帯びていたことは記録上明らかであるか、しかし論旨第三点に対する判断において説示する通りこれがため被告人が心神喪失又は心神粍弱の状況にあつたものとは認め難い。要するに原判示第二の事実は原判決挙示の証拠により優にヒれを認めることができ、記録を精査するも原審の事実認定には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の過誤あるものとは認められない。次に論旨は法廷における暴行又は脅迫による審判妨害行為に対しては、裁判所法第七十三条が刑法第九十<要旨第二>五条第一項に優先して適用されるべきものであると主張するが、裁判所法第七十三条の審判妨害罪と刑法第九</要旨第二>十五条第一項の公務執行妨害罪とはその構成要件を異にする別個の犯罪であるから、たとえ法廷において一個の暴行又は脅迫により審判を妨害する行為をしたとしても、その行為の態様の如何により或は裁判長の執つた処置又は命令の如何により、公務執行妨害罪のみが成立する場合もあり、或は審判妨害罪と公務執行妨害罪とが成立する場合もあり、後者の場合は一所為数法の関係に立ち重い公務執行妨害罪によつて処断すべきで両者は一般法と特別法の関係に立つものではない。若し所論のように審判妨害罪の規定が公務執行妨害罪の規定の特別法として常に優先して適用せらるべきものと 関係に立ち重い公務執行妨害罪によつて処断すべきで両者は一般法と特別法の関係に立つものではない。若し所論のように審判妨害罪の規定が公務執行妨害罪の規定の特別法として常に優先して適用せらるべきものとすれば、法廷において公務執行中の公務員に対し暴行、脅迫を加えた場合は、法廷外において公務執行中の公務員に対し、暴行、脅迫を加えた場合よりも軽く罰せられることになり、法が法廷の秩序を維持するため公務執行妨害罪の外に特に審判妨害罪を設けた趣旨は没却せられるであろう。蓋し裁判所法において特に審判妨害罪を設けた趣旨は法廷は民主社会存立の基盤たるべき法の具体的な宣明をその使命とする裁判の行われるべき場所であるから、法の権威の確保のためには法廷の秩序を維持し、裁判の威信を保持することを絶対の要件とするのであり、従つて法廷の秩序を維持するためには刑法上の公務執行妨害罪にあたる行為以外の行為たとえばけん騒、暴言、不当な行状等法廷の秩序を乱す不穏当な言動をなす者に対してもこれを禁止する命令をなし、この命令に違反して裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げた者に対しては刑罰を科し得ることとしたのであつて、法廷において公務を執行する公務員に対し暴行又は脅迫を加えた者に対しては刑法上の公務執行妨害罪の規定を適行すべきことは論を俟たないものというべきである。次に論旨は本件の場合の如く審判妨害罪が成立しない場合に公務執行妨害罪の規定を適用するならば、審判妨害罪が成立した場合に比較し科刑上著しく刑の権衡を失すると主張するも、所論は法廷における暴行、脅迫等による審判の妨害行為に対しては審判妨害罪が公務執行妨害罪に優先して適用せられるべきものという誤解に基く前提に立つものであるから理由がない。更に論旨は審判妨害罪と公務執行妨害罪とが刑法第五十四条第一項の想像的競合にあたるとすれば、 判妨害罪が公務執行妨害罪に優先して適用せられるべきものという誤解に基く前提に立つものであるから理由がない。更に論旨は審判妨害罪と公務執行妨害罪とが刑法第五十四条第一項の想像的競合にあたるとすれば、常に公務執行妨害罪を適用することとなり、審判妨害罪の規定は空文に等しい結果になると主張するも、前記説明の如く右両罪はその構成要件を異にする別個の犯罪であるから、偶々一個の行為により右二罪名に触れる犯罪を犯した場合には刑法第五十四条第一項前段によりその重い公務執行妨害罪に従つて処断されるのは当然であつて、だからといつて軽い審判妨害罪の規定が空文に等しいとの主張は採用に価しない独断である。次に論旨は一場検察官は廷吏が被告人を検察官の傍より引きはなそうとしたら「そのままにしておけ、なぐらせろ、現行犯で逮捕する」といつて廷吏の行動を阻止したのであるが、右の如き言動は誘発して罪を待つものであつて、被告人を公務執行妨害罪として訴追するが如きは国家権力の濫用であると主張するけれども、記録によれば被告人は廷吏が被告人を検察官の傍より引きはなそうとした時より前に既に検察官の肩に掴みかかり又はその右腕を掴んで引張り出そうとしたことが明らかであるから、本件起訴を以て国家権力の濫用であるとの所論はその前提を欠き正当でない。従つて原審が被告人の右所為に対し刑法第九十五条第一項を適用したのは正当であつて所論の如く法令適用の誤はない。論旨はいずれも理由がない。 (その他の判決理由は省略する。)(裁判長判事小中公毅判事工藤慎吉判事渡辺辰吉)

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