- 1 -平成26年4月22日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成22年(ワ)第3792号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成25年12月9日判決 原告カースル株式会社訴訟代理人弁護士辰巳和正訴訟復代理人弁護士大宅美代子同太平信恵訴訟代理人弁護士岡部友和同城戸幸一郎補佐人弁理士安倍逸郎同下田正寛 被告東洋アルミエコープロダクツ株式会社訴訟代理人弁護士山上和則同藤川義人同雨宮沙耶花補佐人弁理士山崎裕史同藤井淳主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙製品目録記載の各製品を製造し,譲渡等(譲渡及び貸渡しをいう) - 2 -し,又は譲渡等の申出をしてはならない。 2 被告は,前項の各製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,9億円及びうち1億円に対する平成22年3月1日から,うち8億円に対する平成25年11月30日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,後記被告製品が原告の有する特許権を侵害するとして,特許法100条1項,2項に基づき,侵害品の販売等の差止め,廃棄を求めるとともに,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償及びうち1億円に対して当初の不法行為の最終日の翌日である平成22年3月1日から,うち8億円に対して,平成25年11月29日付け訴え変更申立書を当裁判所に提出した日である平成25年11月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前 に対して,平成25年11月29日付け訴え変更申立書を当裁判所に提出した日である平成25年11月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,果実の栽培,生産等を目的とする株式会社である。 イ被告は,家庭用アルミ箔・食卓用品,アウトドア用品・汚れ防止器具等の日用雑貨品及び洗剤・石けんの製造,販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の特許権(甲3,4)原告は,別紙特許公報記載の発明にかかる特許(ただし,別紙特許公報は,後記確定した第二訂正により訂正されており,訂正後の特許を以下「本件特許」といい,本件特許にかかる特許権を「本件特許権」,本件特許にかかる発明を「本件特許発明」,本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」とそれぞれいい,必要に応じて,訂正前の特許について言及するときは,「本件訂正前特許」,「本件訂正前明細書」などという。)の特許権者である。 【本件訂正前特許の請求項1】 - 3 -幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材。 (3) 本件訂正前特許にかかる無効審判及び訂正の経過等(甲13,23,乙47)ア被告は,平成22年10月10日,本件訂正前特許発明についての特許を無効とする旨の審判を請求した(無効2010-800183)。 イ原告は,平成22年12月24日,上記審判手続において,本件訂正前特許の特許請求 年10月10日,本件訂正前特許発明についての特許を無効とする旨の審判を請求した(無効2010-800183)。 イ原告は,平成22年12月24日,上記審判手続において,本件訂正前特許の特許請求の範囲等につき,次の内容の訂正の請求をした(甲13,以下「第一訂正」という。)。 <訂正事項a>特許請求の範囲の「幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材。」を,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮む合成樹脂繊維からなるものを使用し,前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フィルター部材。」と訂正する。 <訂正事項b> - 4 -特許公報第1頁第1欄第10行目に記載した「レンジフード等」を「レンジフード」に訂正する。 <訂正事項c>特許公報第2頁第3欄第6~11行目に記載した「幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布 けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材」を,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮む合成樹脂繊維からなるものを使用し,前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フィルター部材」に訂正する。 <訂正事項d>特許公報第2頁第4欄第42~45行目に記載した「なお,前記実施例においては,レンジフード11の通気口12にフィルター部材を取付けた例について説明したが,換気扇や,クーラ等の通気口であっても本発明は適用される。また,不織布の周囲の固定は」を「なお,不織布の周囲の固定は」に訂正する。 ウ特許庁審判官は,平成23年7月8日,原告のイの訂正を適法なものと認めた上,訂正後の発明につき,無効理由①「一軸方向の非伸縮性」がどのようなものであるか,また,「一軸方向とは直交する方向の伸縮値を算出するための測定条件」がどのようなものであるか不明確であるから,本件特許は,特許法 - 5 -36条6項2号の要件(明確性要件)を欠くとの主張につき認められないとしたが,無効理由③特開平3-229608号公報(乙21)及び出願前周知の事項に基づいて容易に発明できた 特許法 - 5 -36条6項2号の要件(明確性要件)を欠くとの主張につき認められないとしたが,無効理由③特開平3-229608号公報(乙21)及び出願前周知の事項に基づいて容易に発明できたから,特許法29条2項(進歩性欠如)に該当するとの主張については認められるとして,本件特許を無効とする旨の審決をした。 エ原告の訂正審判請求(甲20,21)原告は,同年10月31日,次のとおり本件明細書及び特許請求の範囲を訂正する旨の訂正審判請求(訂正2011-390120)をした(以下「第二訂正」という。)。 <訂正事項1>特許請求の範囲の請求項1の「幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材。」の記載を,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フィルター部材。」と訂正する。 <訂正事項2>本件特許明細書の段落【0001】(特許公報第1頁第1欄第10行目)において「レンジフード等の通気口を」の記載を,「レンジフードの通 る通気口用フィルター部材。」と訂正する。 <訂正事項2>本件特許明細書の段落【0001】(特許公報第1頁第1欄第10行目)において「レンジフード等の通気口を」の記載を,「レンジフードの通気口を」 - 6 -と訂正する。 <訂正事項3>本件特許明細書の段落【0004】(特許公報第2頁第3欄第6~第11行目)において「幅広の不織布を取付けようとするレンジフード又は換気扇等の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布に一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用したことを特徴とする通気口用フイルター部材」の記載を,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フィルター部材」に訂正する。 <訂正事項4>本件特許明細書の段落【0013】(特許公報第2頁第4欄第42~45行)において「なお,前記実施例においては,レンジフード11の通気口12にフィルター部材を取付けた例について説明したが,換気扇や,クーラ等の通気口であっても本発明は適用される。また,不織布の周囲の固定は」を「なお,不織布の周囲の固定は」に訂正する。 しかし,特許庁審判官は,平成24年3月6日付けで, 明したが,換気扇や,クーラ等の通気口であっても本発明は適用される。また,不織布の周囲の固定は」を「なお,不織布の周囲の固定は」に訂正する。 しかし,特許庁審判官は,平成24年3月6日付けで,訂正要件を認めたものの,訂正後の発明が,特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法(平成23年法律第62号による改正前)134条の2第5項,126条5項に適合しないとして, - 7 -審判請求を不成立とする審決をした。 オウ,エに対する審決取消訴訟(甲23,25)原告は,ウ及びエの審決につき,知的財産高等裁判所に対し,審決取消訴訟を提起した(ウにつき,平成23年(行ケ)第10258号事件,エにつき,平成24年(行ケ)第10128号事件)。 同裁判所は,平成24年9月27日,ウの審決のうち本件特許を無効とした部分を取り消す判決(甲23判決),及びエの審決を取り消す旨の判決(甲25判決)をした。前者の判決は,平成25年2月21日付けの上告棄却,同不受理決定により確定した。 カ上記訴訟後の特許庁における手続(甲26,29)特許庁審判官は,平成24年12月6日,エの訂正審判請求について,これを認める旨の審決(同審決は確定した。)を,平成25年6月5日には,ウの無効審判請求について,ウに記載の無効理由①,③のほか,無効理由②(乙21及び実願昭62-170893号のマイクロフィルム(乙22)を引例とする進歩性欠如),無効理由④(特開平9-75643号公報(乙8)と同一の発明であるとする,特許法29条の2による無効),無効理由⑤(特許法36条4項の規定違反(伸び率の測定方法の記載不備)による無効)のいずれについても,これらによって本件特許を無効とすることはできないとして あるとする,特許法29条の2による無効),無効理由⑤(特許法36条4項の規定違反(伸び率の測定方法の記載不備)による無効)のいずれについても,これらによって本件特許を無効とすることはできないとして,請求を不成立とする審決(甲29審決)をした。 キ本件特許の請求項1以上の経緯により,本件特許の請求項1は以下のとおりとなった。 【請求項1】(下線は訂正事項)幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって,前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交す - 8 -る方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。 (3) 本件特許の構成要件の分説本件特許の請求項1は,次のとおり構成要件に分説される(以下「構成要件E」などという。なお,構成要件A等に分説されていた特許に係る訴えは取下げられた。)。 E 幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,F 前記不織布として,一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,G 前記不織布を前記一軸 非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,G 前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フィルター部材。 (4) 被告製品の製造,販売等被告は,遅くとも平成19年3月から,別紙製品目録記載の各製品(ただし,製造,販売等につき争いがないのは,JANコードにより特定されているものに限る。以下,この争いのない3製品を総称して「被告製品」といい,個別の商品は「被告製品イ」などという。)を製造,販売及び販売の申出をしている。 ただし,被告製品(ないしこれと同等の伸び率の不織布を使用した換気扇用フィルター製品)が,いつから販売されていたかについては,先使用ないし公然実施の関係で,後記のとおり争いがある。 - 9 -(5) 原告の行った判定請求(乙10,11)ア原告は,平成14年11月12日,特許庁長官に対し,原告が販売する「イ号商品:ふっくらフィルター(品番F-7641)」及び「ロ号商品:ワイドサイズ(品番F-7632)」が,本件訂正前特許の技術的範囲に属するとの判定を求めた(判定2002-60102,以下「本件判定」という。)。この際,原告は,上記商品にかかる不織布の一軸伸縮性について,次の2種類の試験を行った。 ①第1の試験方法:矩形(角形)にカットしたフィルター素材の一端部を磁石と鉄板の間に挟んで固定し,その他端部をプッシュプルゲージを介して保持し,このフィルター素材を引き伸ばす方向に引っ張る。固定するための円形磁石は3個の場合と4個の場合とで行った。プッシュプルゲージを介して素材に幅方向に均等に力 他端部をプッシュプルゲージを介して保持し,このフィルター素材を引き伸ばす方向に引っ張る。固定するための円形磁石は3個の場合と4個の場合とで行った。プッシュプルゲージを介して素材に幅方向に均等に力が作用するようにこれを所定の力で引っ張る。磁石が動き始めたときの伸びを測定する。伸び率は,縦方向の伸びと横方向(幅方向)の伸びとの比率で示す。 ②第2の試験方法:試験片はフィルター素材を5cm×20cmに切断し,この試験片の一端部をクランプに固定し,その他端部を,プッシュプルゲージを介してこれを引き伸ばす方向に引っ張る。この素材が破断したときの伸びを測定した。この試験方法は,「JIS(L)1085」に準じている。 イ原告が判定請求において示した本件判定におけるイ号製品についての試験結果は次のとおりであった。 (ア) 第1の試験磁石3個使用磁石4個使用縦の伸び横の伸び縦横比縦の伸び横の伸び縦横比105.0%118.7%21/79107.5%119.2%28/72(イ) 第2の試験縦の伸び%横の伸び%縦横比 - 10 -151.8180.039/61148.2156.446/54ウ特許庁審判官は,平成15年3月10日,上記結果を前提として,本件判定における(イ)号商品及びその説明書に示す「通気口用フィルター部材」は,本件訂正前特許発明の技術的範囲に属する旨の判定をした。 第3 争点 1 被告製品が,本件特許の各構成要件を充足するか(1) 被告製品の構成について(2) 構成要件Eの「不織布で直接覆って使用する」について(3) 構成要件Fの「仮固定して使用したとき120~140%まで自由に伸びて縮む」について(4) 告製品の構成について(2) 構成要件Eの「不織布で直接覆って使用する」について(3) 構成要件Fの「仮固定して使用したとき120~140%まで自由に伸びて縮む」について(4) 構成要件Fの「一軸方向にのみ非伸縮」について(5) 構成要件Gの「一軸方向とは直交する方向に伸ばして」について 2 本件特許に,次の無効理由があるか(1) 本件特許に記載不備(発明特定事項である「一軸方向の非伸縮性」や「伸縮値」を測定するための条件が不明確である)が認められるか)(2) 本件特許に乙21を主引例とする進歩性欠如が認められるか(3) 本件特許に公然実施(被告が,被告製品と同様の製品を本件特許の出願前から販売していたこと)の無効理由が認められるか 3 被告製品の販売につき,先使用の抗弁(特許法69条2項2号)が認められるか 4 差止めの必要性及び原告の被った損害額第4 争点に対する当事者の主張 1 争点1(1)(被告製品の構成について・基本主張)について(原告の主張)被告製品を含む別紙製品目録記載の商品は,いずれも,e レンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前 - 11 -記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用するものであり,f その不織布は,一軸方向にのみ,100~150gの荷重を加えた場合に,120%から140%まで自由に伸びて縮む難燃性合成樹脂繊維からなりg 前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことが可能である構成を備えており,本件特許の構成要件EからGを充足する。 (被告の主張)原告の主張する被告製品の構成については,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフー 気口を覆うことが可能である構成を備えており,本件特許の構成要件EからGを充足する。 (被告の主張)原告の主張する被告製品の構成については,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフード又は換気扇の角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮止めして使用する通気口用フィルター部材」である限度で認め,その余は否認する。 被告製品は,すべて,以下2から5までの被告主張のとおり,本件特許の構成要件EからGをいずれも充足しない。 2 争点1(2)(構成要件Eの「不織布で直接覆って使用する」)について(原告の主張)本件特許の構成要件Eにおける「直接覆って」とは,カバーを用いずに不織布で通気口を直接覆うとの意味である。 すなわち,本件特許が解決しようとする課題は「比較的簡便に取付が可能な通気口用フィルター部材を提供すること」【0003】であるところ,ここにいう「比較的簡便な取付けが可能」とは,前記のように,不織布をカバーなしで取り付けることを意味するのであり,「直接覆って」の文言もそのように理解される。 なお,レンジフードの通気口には,金属フィルターが取付けられたものとそうでないものがあるが,本件特許発明は,当該通気口の構成をなんら限定するものではない。 (被告の主張)(1) 本件特許の明細書【0011】には,双方に伸びる不織布の問題点として,「レ - 12 -ンジフードのファンの風力が強い場合には,ファンによって内側に吹き寄せられる」との記載があり,これに関連して,第一訂正の訂正請求書では,「レンジフード内のファンの負圧力で,通気口用フィルター部材が通気口に吸い込まれないように通気口用フィルター部材を保持する『吸い込み防止枠』などを用いた使用方法を排除しました。」との記載があ では,「レンジフード内のファンの負圧力で,通気口用フィルター部材が通気口に吸い込まれないように通気口用フィルター部材を保持する『吸い込み防止枠』などを用いた使用方法を排除しました。」との記載がある。 すなわち,本件特許においては,フィルターがファンによって内側に吹き寄せられるという問題点を,特定の不織布を採用することによって解決することが本質的特徴であるところ,通気口に金属フィルターやフィルターカバーが取り付けてある場合は,ファンの風力が強くても通気口の内側に不織布が吸い込まれないので,上記問題点がそもそも存在しないことが明らかであるし,訂正請求書の記載に照らすと,通気口に,不織布以外の金属フィルターやフィルターカバーが存在する場合を明確に除外している。 したがって,構成要件Eにおける「直接覆って」とは,金属フィルターなどを用いずにレンジフードの通気口を不織布のみで覆うということであり,通気口に金属フィルターやフィルターカバーが存在する場合が除かれることは明らかである。 (3) 被告製品は,使用する対象が,レンジフードの通気口(の内側)に金属フィルターが存在することを前提としてその金属フィルターに取り付けるものであり,金属フィルターがない場合には使用しないよう注意されている。このような使用態様は,構成要件Eにおける「直接覆って」に当たらないから,構成要件Eを充足しない。 3 争点1(3)(構成要件Fの「仮固定して使用したとき120~140%まで自由に伸びて縮む」)について(1) 意義(原告の主張)ア本件明細書の【0005】には,「概略長さで切断した不織布が幅bよりも - 13 -短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い」とある。 この点,本件特許にかかる物品は,レンジ 005】には,「概略長さで切断した不織布が幅bよりも - 13 -短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い」とある。 この点,本件特許にかかる物品は,レンジフードに「仮固定して使用」されるものであり,不織布の一端をレンジフードに仮固定し,それを押さえつつ,他方の手で不織布の他端を引っ張りながら取付けられるものである。 すなわち,当該記載に接した当業者は,構成要件Fが「不織布の取り付け作業時に」,「(不織布を)どの程度伸ばすことができるか」を意味していることを当然に理解する。 イ不織布の取付け作業時に,不織布に掛けることができる荷重は,100~150グラム程度である。よって,「仮固定して使用したとき」とは,「不織布に100~150グラム程度の荷重を加えた場合」と同義であることは,当業者に明らかである(甲9試験の試験2参照)。 ウまた,本件明細書の【0005】の「換気扇を直接覆い」との記載から,当業者は,構成要件Fが,換気扇全体を覆うために120~140%まで自由に伸びることを当然に理解する。 なお,不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆うことができれば,それ以上不織布を伸ばす必要はない。よって,仮固定して使用したときに120%~140%まで自由に伸ばすことができれば,本件特許発明の作用効果を奏するのであり,さらに荷重を掛けた場合に不織布が140%以上伸びる場合を本件特許発明は排除していないことは当業者に容易に理解できる。 すなわち,アに述べた本件特許発明の技術課題からすれば,明細書の「120~140%まで自由に伸び」るとは,仮固定の状態で不織布に掛けることができる荷重の範囲で,当該伸びが実現されることを意味することは明らかである。通気口全体を覆えば,それ以上不織 ば,明細書の「120~140%まで自由に伸び」るとは,仮固定の状態で不織布に掛けることができる荷重の範囲で,当該伸びが実現されることを意味することは明らかである。通気口全体を覆えば,それ以上不織布を伸ばす必要もないのであるから,不織布をどこまで伸ばすことができるかは,本件特許発明とは無関係な技術事項である。 - 14 -エまた,構成要件Fの趣旨からすると,「縮み」の意義は,伸ばした後の縮みの状態が元の状態又は元に近い状態に戻る必要があるのではなく,120~140%に伸ばした際に覆う通気口の大きさより大き過ぎるまで伸ばしてしまっても,引っ張る力を緩めたり,開放したりすることにより縮むことで,例えば通気口の大きさにアジャストできる程度の縮みを有していることで足りる。 (被告の主張)ア 「120~140%」の用語の解釈本件明細書の【0007】には,「120~140%程度まで自由に伸びて縮む」との記載があるが,これ以外に「120~140%」の意味を定義する規定はない。 この点,「伸び率」の文言の通常有する意味は,「引き伸ばしたときの長さと元の長さとの差の,元の長さに対する百分率」であると定義されているから,120~140%の伸び率とは,「自然長の2.2倍から2.4倍」と解釈するのが相当である(東京地裁平成22年(ワ)第12777号事件参照)。 イ構成要件Fには,「自由に伸びて縮み」とあるから,伸びた後,伸びる前と同程度まで縮む必要がある。 そして,「120~140%まで自由に伸びて縮み」との文言の意義は,120%まで伸ばした場合と,140%まで伸ばした場合の両者のいずれの場合でも,伸ばした後の縮みの状態が,「元の状態」,あるいは少なくとも「元に近い状態」にもどる必要がある。試験(乙105)によれば,被告製 まで伸ばした場合と,140%まで伸ばした場合の両者のいずれの場合でも,伸ばした後の縮みの状態が,「元の状態」,あるいは少なくとも「元に近い状態」にもどる必要がある。試験(乙105)によれば,被告製品を140%まで伸ばした後,荷重を解放し,1分放置後と,5分放置後の不織布の残留伸びを測定すると,平均して107%から117%もの伸びが残っており,このようなものは,「自由に伸びて縮み」とは言えない。 (2) 試験(原告の主張)被告製品は,以下のいずれの試験によっても,構成要件Fの「120~14 - 15 -0%」の範囲内にあり,構成要件Fを充足する。 ア甲9試験被告製品に用いられている不織布の伸縮性は,試験(甲9)によると次のとおりである。 荷重100g荷重150g被告製品横方向縦方向横方向縦方向イ140.0%105.5%172.0%107.0%ロ130.0%104.5%145.0%105.5%ハ115.5%103.7%119.0%105.0%本件特許においては,通気口より多少短い寸法の不織布を少し引っ張って伸ばすという使用態様を想定しているところ,台所の通気口に取り付けるという作業の場合,作業者は不安定な状態で作業せざるを得ず,大きな力で不織布を引っ張ることはできないことになる。また,本件特許は,不織布を固定枠などで確実に固定しない仮固定の方式を採用していることから,不織布を引っ張って伸ばす際に掛けることのできる力(荷重)は制限されざるを得ない。 甲9試験のうちの試験2から,上記のような状況で,作業者が不織布に掛けられる荷重が100ないし150gであることが判明し,その結果に基づいて試験1が実施された。 こ 限されざるを得ない。 甲9試験のうちの試験2から,上記のような状況で,作業者が不織布に掛けられる荷重が100ないし150gであることが判明し,その結果に基づいて試験1が実施された。 このとおり,甲9試験は,本件特許の技術思想に沿った試験が実施されたものである。 イ甲17試験甲17の試験は,100gと150gでの試験に代えて90g,140g,160gでの試験結果を示しているが,これは被告製品の物性を詳細に理解できるように試験範囲を広げたものである。破断までの不織布の伸びは,荷重の増加にしたがって増加すると考えられるから,甲17試験により,100gないし150gの荷重の範囲で120~140%伸びることが推定される。 - 16 -ウ甲30等試験甲30,31及び32試験(以下「甲30等試験」という。)は,被告製品から,伸びにくい方向に50mm,伸びやすい方向に220mmの幅の試験片と,伸びやすい方向に50mm,伸びにくい方向に220mmの試験片を切り出し,おのおのの長手方向の両端から1cm(つかみ間隔で200mm)の箇所をクリップで挟み,一方のクリップに150gの重りをとりつけて,これをつり下げ,その直後の試験片の長さを測定するものである。 これによると,被告製品の不織布の伸び率は,次のとおりである(10回の試験の平均)。 縦方向横方向被告製品測定値伸び率測定値伸び率イ257.6mm128.8%206.6mm103.3%ロ258.2mm129.1%205.6mm102.8%ハ264.9mm103.7%215.8%107.9%なお,甲28試験は,同様の方法により,一定時間経過後の伸びを測定するものである。 %205.6mm102.8%ハ264.9mm103.7%215.8%107.9%なお,甲28試験は,同様の方法により,一定時間経過後の伸びを測定するものである。 エ甲34試験(ア) 甲34試験は,一辺を40cm,他方の一辺を60cmの長方形に切断した不織布の一端部分を複数の磁石,面状ファスナ等(以下「簡易固定具」という。)によって鋼板に不織布を固定し,不織布の他端部分をチャック(クリップ等)で,幅30~40mmにわたって保持する。その後,チャックで不織布を引っ張って伸ばすものである。 簡易固定具での固定が訂正特許請求の範囲に記載の「仮固定」に相当し,チャックで不織布を引っ張る行為が,レンジフードの通気口に仮固定されて不織布を引っ張って伸ばして使用する行為に相当する。なお,仮固定は,磁石及び面状ファスナー等を組み合わせて使用してもよい。 - 17 -この構成に従って,チャックで不織布を引っ張って伸ばすことができるように引張試験機にセットし,引張り試験を行う。そして,仮固定が外れたとき又は不織布が破断したとき(一部破断も含む)の伸び量(ストローク値)に基づいて算出した伸び率が本件訂正発明に係る不織布の伸び率である。 なお,①簡易固定具がゆっくり動き始めたときは,その時点で仮固定ができなくなったとみて,その時点(荷重が一定となり始めた時点)での伸び量を採用し,②不織布が破断(亀裂を含む)したときは,荷重が急激に減少した時点での伸び量を採用し,③特異な現象(ストロークと荷重の相関関係が対応しない場合)は,これを除外するものとする。 (イ) これによると,被告製品イに係る不織布の伸び率は121%,被告製品ロに係る不織布の伸び率は122%,被告製品ハにかかる不織布の伸び率は126% 応しない場合)は,これを除外するものとする。 (イ) これによると,被告製品イに係る不織布の伸び率は121%,被告製品ロに係る不織布の伸び率は122%,被告製品ハにかかる不織布の伸び率は126%である。 オ乙117試験が不適切であること乙117試験は,移動端の不織布の全辺を鋼板で挟んで引っ張っているが,手で伸ばすという実際の使用態様を考慮しない不適切なものである。また,固定側に使用される鋼板(JFE製カラー鋼板GL)は,建築資材,屋根材に使用されるものであり,レンジフードに用いられている鋼板とは異なるものである上,酸やアミンに弱いガルバリウムメッキがされており,レンジフードに用いられることはない。 (被告の主張)ア特許発明においては,公的な試験方法を用いるべきであり,繊維の場合,JIS試験がそれに当たる。明細書に測定方法の記載がない場合は,当業者であれば,出願時点において知られた方法で測定すると考えることから,そのような方法による測定,すなわちJISの定めによる試験によるべきであり(東京高判平成15年(ネ)第3764号事件参照),そのように解釈されることにより不利益が生じるとしても,それは測定方法について明確に記載していなか - 18 -った特許権者が負担すべきである。 以下のイ,ウの試験方法によれば,被告製品はいずれも構成要件Fを充足しない。 イ乙79試験被告は,平成24年11月13日,第三者テスト機関である一般財団法人カケンテストセンターに依頼して,被告製品についてJISの引張試験を行った。 JISの引張試験においては,不織布が破断するまでの伸びを測定し,そのうち最大応力での伸びから伸び率を求めるものであるが,この試験によるグラフを読み取ることで,一定の荷重(応力)の場合の伸び率も判明 JISの引張試験においては,不織布が破断するまでの伸びを測定し,そのうち最大応力での伸びから伸び率を求めるものであるが,この試験によるグラフを読み取ることで,一定の荷重(応力)の場合の伸び率も判明する。この例により,100g(1N),150g(1.5N)における伸び率を計算すると,次のとおりである。 荷重100g荷重150g被告製品縦方向横方向縦方向横方向イ101.0%106.0%101.0%111.5%ロ100.5%107.0%101.0%113.0%ハ101.0%107.0%102.0%111.0%甲9試験と異なり,上記結果は,信頼できる第三者機関における試験によるものであり,上記結果のほうが信頼できるものである。上記結果からは,被告製品は,いずれも,「120~140%まで自由に伸びて縮む」不織布に該当しないから,いずれも構成要件Fを充足しない。 ウ乙117試験被告は,念のため,換気扇フィルターの実際の使用態様を考慮した伸び率の測定をするため,次の試験を行った。 (ア) 引っ張り試験機でレンジフードの試験片全体を,引張速度毎分100mmで引っ張る。 (イ) 使用する試験片の幅は600mmで,縦方向の有効長は350mmである, - 19 -この試験片の大きさは,最も普及している金属フィルターの大きさに合わせたものである。 (ウ) 伸び率の測定の試験として,試験片の一端を鋼板で挟んで完全に固定し,①磁石4個とマジックテープ2個で固定した場合,②磁石2個とマジックテープ3個で固定した場合,それぞれについて,他端を各製品に付属する磁石とマジックテープを用いて固定して引っ張り,磁石が動く時点での伸び率の測定を3回行う。 定した場合,②磁石2個とマジックテープ3個で固定した場合,それぞれについて,他端を各製品に付属する磁石とマジックテープを用いて固定して引っ張り,磁石が動く時点での伸び率の測定を3回行う。 この試験によると,いずれも伸び率は112%以下であり,構成要件Fを充足しない。 エ原告の主張する各試験が不適当であること原告は,甲9試験,甲17試験を根拠に,被告製品の伸縮率を主張するが,甲9は,公的機関の試験条件に準拠すらしていない勝手な試験条件であり,また,明細書にも何ら記載されておらず,本件特許の出願時の技術常識ともいえない試験である。また,内容としても,試験条件を特定する試験(甲9の試験2)自体が,本件特許発明の前提とする,通気口より多少短い寸法の不織布を少し引っ張って伸ばすような使用態様に合致しない不適切なものである。 このような試験結果には何ら信用性がない。また,原告は,本件特許にいう不織布の試験方法として,本件口頭弁論終結までに,①甲9試験の試験1,②甲28試験,③本件判定の第1の試験,④本件判定の第2の試験,を挙げ,更に⑤本件特許が問題となった別件の裁判では,甲28試験で荷重が異なるもの(乙111試験)を挙げるところ,これらの試験方法はどれ一つとして同じ試験方法といえるものはなく,原告の主張には何ら一貫性がない。 また,甲17試験では,90g,140g,160gでの試験がされているが,なぜこのような荷重とされるのか理解できない不適切な試験であるし,試験片の幅を大きく取ると,伸びは小さくなるところ,実際の使用態様と乖離した幅50mmの試験片を使っている(しかも原告は,JIS試験によるべきこ - 20 -とは否定している)点でも不適切である。 さらに原告は,甲34試験に基づき,荷重8.37Nから10. した幅50mmの試験片を使っている(しかも原告は,JIS試験によるべきこ - 20 -とは否定している)点でも不適切である。 さらに原告は,甲34試験に基づき,荷重8.37Nから10.4Nまでに対応する伸び率を主張しているが,10.4Nとは,荷重は約1040gであり,当初の主張の約10倍の主張である。このように原告の主張には全く一貫性がない。 4 争点1(5)(構成要件Fの「仮固定して使用したとき120~140%まで自由に伸びて縮む」)について(原告の主張)ア本件明細書の【0003】には,「一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは特定の方向には伸びないが,他の方向,特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には,不織布自体が伸びる不織布をいう」とあり,【0008】には,このような不織布の製造方法としては,比較的伸びにくいポリエステル等の繊維を一方向に並べて不織布とすることによって製造可能であるし,場合によっては自由方向に繊維が並んだ不織布に一方向に伸びにくい繊維を多数平行に入れて製造してもよいし,その他の周知の方法によって製造してもよい。」とある。 イこれら説明から,当業者は,当該不織布の構成を容易に理解するし,「非伸縮」とは,全く伸縮しないという意味ではなく,自由方向に繊維が並んだ不織布のように伸縮しないという意義であることは明白である。 ウ本件明細書の【0004】には,「一軸方向にのみ非伸縮性の不織布とは,特定の方向には伸びないが」とあるが,そもそも不織布とは,製造方法に差異はあれ,繊維を絡め接着することにより布状にしたものであるから,当業者は,ここにいう「伸びない」の意義が「一切の伸びを許容しない」とは到底理解しないのであり,数パーセントの伸びは当然に許容すると理解するのである。 (被告の主張)ア構成要 ものであるから,当業者は,ここにいう「伸びない」の意義が「一切の伸びを許容しない」とは到底理解しないのであり,数パーセントの伸びは当然に許容すると理解するのである。 (被告の主張)ア構成要件Fにおける「非伸縮」についての原告の主張は不明確であるが,本件明細書の【0004】において,「ここで,一軸方向にのみ非伸縮性の不織 - 21 -布とは,特定の方向には伸びないが,他の方向,特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう」と定義していること(どの程度伸びないことを非伸縮とするかの定義はないこと)からすると,「非伸縮」との用語は,「全く伸縮しない」と解釈することが自然である。 仮にそうでないとしても,非伸縮性を示す方向とは異なる方向の伸縮性,すなわち,伸縮する方向と非伸縮性を示す方向の伸び率として,JIS試験の破断伸び(JISL1085)または本件判定の前記「第1の試験」により,前者が120~140%の伸び率,後者が120%未満の伸び率となることが必要と解される。 これによると,被告製品の伸び率は次のとおりである。 試験方法測定項目方向被告製品イ号ロ号ハ号JIS(L)1085破断伸び縦127.5%123.6%135.5%横139.0%154.1%164.7%本件判定第1試験磁石3個伸び縦103.4%103.4%104.0%横106.3%106.3%108.2%磁石4個伸び縦106.3%106.3%104.0%横106.3%106.3%109.2%上記のとおり,「非伸縮」の意義を「全く伸縮しない」という意味にとった場合には,被告製品はいずれ 06.3%106.3%104.0%横106.3%106.3%109.2%上記のとおり,「非伸縮」の意義を「全く伸縮しない」という意味にとった場合には,被告製品はいずれの方向にも伸びるといえるし,JIS(L)1085試験における破断伸びからはいずれも120%以上伸びるものであり,本件判定の試験方法による伸び率の場合には,いずれの方向にも120%未満の伸びであるから,いずれの意味においても,「一軸方向にのみ非伸縮」の意義は満たさない。 イ甲23判決を前提とした場合の「非伸縮」の意義(ア) 甲23判決における特開平8-60515号公報に記載の発明(本件の乙 - 22 -31,同判決(審決)の甲18)についての判断を前提とすると,伸度比(縦の伸度を横の伸度で割った数。1に近づくほど,縦横の伸度が同一に近づく。)が,0.19以上のものは含まないというべきである。 これに対し,被告製品の伸度比は,イ号製品が0.71,ロ号製品が0. 44,ハ号製品が0.49であり,いずれも0.19以上であるから,上述の基準を前提とすると,被告製品は,いずれも「一軸方向に非伸縮」とはいえない。 (イ) さらに,同判決における特開平8-196843号公報に記載の発明(本件の乙24,同判決(審決)の甲4)についての判断を前提とすると,構成要件Eにおける「一軸方向にのみ非伸縮性の不織布」は,一軸方向には縮みも抑制されていることを前提として,張った状態では中央部分が狭くなるフィルター部材は,これに該当しないとしている。 また,その後の本件特許の無効審判の審決(甲29審決)においては,「一軸方向の非伸縮性」とは,引っ張り力が与えられたときに,一軸方向で仮に縮みが生じたとしても通気口全体を覆うことに支障が生じない伸ばすことに 後の本件特許の無効審判の審決(甲29審決)においては,「一軸方向の非伸縮性」とは,引っ張り力が与えられたときに,一軸方向で仮に縮みが生じたとしても通気口全体を覆うことに支障が生じない伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたものであると判断されている。 被告製品は,いずれも,伸ばす方向には17%伸びるが,伸ばす方向と直交する方向には12%も縮んでしまう製品であり,甲28試験を参照すると,一軸方向に20~40%伸びたときには,その直交方向には20~40%以上も縮んでいる。したがって,「一軸方向のみ非伸縮」の要件を充足しない。 5 争点1(5)(構成要件Gの「一軸方向とは直交する方向に伸ばして」)について(原告の主張)被告製品の使用者は,フィルターが通気口の幅よりも短い場合,フィルターを伸ばして通気口全体を覆うように取り付けるから,構成要件Gを充足することは明らかであるし,そもそも,本件特許請求の範囲には,「不織布を伸ばして取り付ける」との構成は含まれていない。 - 23 -(被告の主張)ア上記争点1(1)の(被告の主張)で主張したとおり,本件特許は,レンジフードの通気口に金属フィルター等を介在させずに,直接覆うことが特徴であり,そのような場合には,不織布の幅が通気口の幅より短いと,不織布を通気口に取り付けることが不可能となり,そのために不織布を伸ばす必要が生じる。 イところが,金属フィルターを介在させる場合には,不織布が通気口の幅よりも短くても,不織布を伸ばさずに金属フィルターに取り付けることが可能になるから,不織布を伸ばす必要はなく,このような製品である被告製品は,いずれも,「一軸方向とは直交する方向に伸ばして」使用するものではないから,構成要件Gも充足しない。 6 争点2(1)(本件特許に,記載不備 織布を伸ばす必要はなく,このような製品である被告製品は,いずれも,「一軸方向とは直交する方向に伸ばして」使用するものではないから,構成要件Gも充足しない。 6 争点2(1)(本件特許に,記載不備ないし実施可能要件違反が認められるか)について(被告の主張)(1) 非伸縮の不明瞭性本件特許のクレーム中の「一軸方向にのみ非伸縮」との表現は,一方向に全く伸びないという意であれば明確であるが,原告は,「非伸縮とは全く伸縮しないという意味ではなく,自由方向に繊維が並んだ不織布のように伸縮しないという意義である」とする。 しかし,上記説明は,製法の説明にすぎず,これから定義を導くことに技術的根拠がない。その定義どおりに従ったとしても極めて曖昧かつ定性的な定義であり,判定基準が不明確であり,ある不織布が本件特許にいう特定の不織布に該当するかどうかは当業者といえども判別することができない。本件特許の本質は,「一軸方向に非伸縮の不織布」を用いた点にあるにもかかわらず,その定義が不明確であるがゆえに,ある不織布が本件特許にいう特定の不織布に該当するか否かを判別することが困難,不可能である結果,実施に際し過度の試行錯誤が強いられるから,特許法36条4項1号の要件に違反し,かつ,同6項2号に該当す - 24 -る。 (2) 伸び率の測定方法の特定がないこと構成要件Eの「120~140%まで自由にのびて縮み」という数値限定を必須の構成要件とした以上,その基準となる測定方法を特定する必要があるところ,当該測定方法は,本件明細書に全く記載されていない。 また,本件特許発明の出願当時の伸びの測定方法は,主として日本工業規格の「JIS(L)1096」が採用されているが,その中でもストリップ法,定荷重法などがあり,いずれの場合も 載されていない。 また,本件特許発明の出願当時の伸びの測定方法は,主として日本工業規格の「JIS(L)1096」が採用されているが,その中でもストリップ法,定荷重法などがあり,いずれの場合も荷重の大きさ(測定条件)を特定すべきことが要請されるが,本件明細書は,測定条件にも触れるところはない。この点からも,本件特許は,実施可能要件違反,記載不備の違法がある。 (原告の主張)(1) 本件特許の特許請求の範囲の記載に明確性に欠ける点はないこと本件明細書【0005】の「この場合,概略長さで切断した不織布が幅bより短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い,」との説明がある。そして,本件特許にかかる物品は,レンジフードに「仮固定して使用」されるものであり,不織布の一端をレンジフードに仮固定し,それを押さえつつ,他方の手で不織布の他端を引っ張りながら取付けられるものである。 このことから,当業者は,構成要件Fが,不織布の取り付け作業時に,どの程度伸ばすことができるかを意味していることを当然に理解するのである。 また,当該構成は,仮固定の状態で不織布に掛けることができる荷重の範囲である100~150g程度で不織布が120~140%伸びるかどうかを要件とするものであり,測定条件が不明ということもない。 (2) 実機可能要件違反の主張について本件特許において,仮固定して使用したときに,不織布に掛けることができる荷重が,100~150g程度であることは,当業者に容易に理解できるのであるから,過度の試行錯誤などは必要がない。 - 25 - 7 争点2(2)(本件特許に乙21を主引例とする進歩性欠如が認められるか)について(被告の主張)(1) 乙21に乙22発明,乙25発明を組み合わせ などは必要がない。 - 25 - 7 争点2(2)(本件特許に乙21を主引例とする進歩性欠如が認められるか)について(被告の主張)(1) 乙21に乙22発明,乙25発明を組み合わせることによる進歩性欠如(進歩性欠如①)ア乙21発明(主引例)特開平3-229608号公報に記載された発明(以下「乙21発明」という。)には,「排気口カバーの取付方法」と称する発明が開示され,特許請求の範囲第1項には,「所定広さのフィルターで排気口を覆い,周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取り付け方法」とあり,排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)にフィルターを被せる方法に関するものとされており,難燃性の不織布を鋏等で所定広さに切断し,レンジフードの排気口を覆い,周囲をマグネットホルダーによって押さえる構成が開示されている。 イ乙22発明実願昭62-170893号(実開平1-75733号)のマイクロフィルムに記載された発明(以下「乙22発明」という。)には,「フィルタ付き換気扇」なる発明が開示されており,その特許請求の範囲は,「換気扇本体に,その前面を覆うフィルタを,繊維の方向が一方向性で,前記繰り出し方向と同方向の不織布により構成したことを特徴とするフィルタ付き換気扇」である。 ウ乙23発明特開平7-190434号公報に記載された発明(以下「乙23発明」という。)には,換気扇用フィルターと称する発明が開示されており,その特許請求の範囲の請求項1には,「換気扇本体の開口をふさぐに十分な所定寸法となり得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固定してなる換気扇用フィルター。」,同2には,「上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形 り得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固定してなる換気扇用フィルター。」,同2には,「上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したことを - 26 -特徴とする請求項1に記載の換気扇用フィルター。」,同3には,「止着具を当該辺に沿う線上乃至棒状の補強部材に磁石,フック,止めピンその他の止着部材を組み合わせた構成とした請求項1又は2に記載の換気扇フィルター。」等の記載がある。 エ本件特許と乙21発明の対比(一致点)本件特許の構成要件Eには,「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して使用する通気口用フィルター部材であって,」と規定されている。 これに対し,乙21発明には,通気が角形のレンジフードが開示され,また,「・・実施例に係る排気口カバーの取付け方法においては,まず・・フィルターの一例である難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断し,排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ・・周囲を適当数のマグネットホルダーによって固定する」と記載されている。 したがって,乙21発明には,本件特許の構成要件Eが開示されている。 オ本件特許と乙21発明の対比(相違点①)本件特許の構成要件Fと対比した場合,乙21発明には,「難燃性の不織布」を用いることが記載されているものの,その不織布が,「一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向に伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮む合成樹脂繊維からなるもの」(技術事項A)であることについての明記はない。 カ本件特許と乙21発明の対比(相違点②)本件特許の構成要件 て使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮む合成樹脂繊維からなるもの」(技術事項A)であることについての明記はない。 カ本件特許と乙21発明の対比(相違点②)本件特許の構成要件Gと対比した場合に,乙21発明には,「所定広さのフィルターで排気口を覆い,周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取付け方法」,「産業上の利用分野本発明は排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)にフィルターを被せる方法に関する。」と記載されており,不織布により通気口を覆う通気口用フィルター部材は開示されているが,構成 - 27 -要件Gのうち,「前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向に伸ばして,この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした」という点(技術事項B)については明記されていない。 キ相違点が本件特許出願前から公知の技術事項であること(ア) 技術事項Aについて乙22発明の記載は前記イのとおりであるところ,同発明には,換気扇フィルタとして,ポリプロピレンやポリエステル等からなるところの繊維の方向が一方向性の不織布により構成したもの」で,繊維の配列方向に対しては,「延びのない若しくは極く少ないもの」が使用されているところ,この不織布はまさに,本件特許発明にいう「一軸方向にのみ非伸縮性」の「合成樹脂繊維からなる不織布」にほかならない。本件特許において,不織布の伸び率の技術的意義ないし臨界的意義を何ら見いだせないことも考慮すると,技術事項Aは,乙22発明あるいは乙29発明に記載された範囲内のものにすぎず,何ら格別のものでない。 (イ) 技術事項Bについて乙25発明には,「不織布は繊維の結合によって適度の伸縮性を有しているので,既存の深型レンジフードのフィルター部材のサイズに完全に合致してい 格別のものでない。 (イ) 技術事項Bについて乙25発明には,「不織布は繊維の結合によって適度の伸縮性を有しているので,既存の深型レンジフードのフィルター部材のサイズに完全に合致していなくても,若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付けできるものであり,既存のフィルター部材のサイズが多少異なったものに対しても取り付けが容易である」との記載がある。 同発明には,シート状フィルターを伸ばす方向については特段の明示はないものの,上記のように若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付ける旨が開示されている以上,技術事項Bも包含されていることが明らかである。 ク発明の作用効果本件特許発明の作用効果は,「不織布を多少短く切っても使用できるという - 28 -利点がある」というものであるところ,乙25発明も,「レンジフードのフィルター部材のサイズに完全に合致していなくても,若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付ける」とするものであり同じである。 また,本件特許は,いずれの方向にも自由に伸びる不織布を用いた場合に比べてたるみの問題を解消する効果もあることが示されているが,乙22発明にも,「繊維の方向が一方向性の不織布からなるフィルタは,その全般の強さを増して,延びのない若しくは極く少ないものとなり,よって従来のもののようなたるみを生ずることはなく,送風羽根5への当たりも避けることができる」との記載があり,この点の作用効果もすでに開示されている。 ケ発明の課題本件発明は,従来技術として,平面方向に伸びない不織布が使用されていたとの前提に立って,その伸びない不織布による問題点を解決すべく,本件特許が完成されたかのようにしているが,上記にみたとおり,そのような課題自体が解決すみ て,平面方向に伸びない不織布が使用されていたとの前提に立って,その伸びない不織布による問題点を解決すべく,本件特許が完成されたかのようにしているが,上記にみたとおり,そのような課題自体が解決すみの課題を提示したものにすぎず,そこに何らの独自性もない。 コすなわち,本件特許発明は,従来技術によって既に解決済みの課題を「発明が解決しようとする課題」として設定した上で,乙21発明のフィルター部材として,乙22発明に示された一方向性の合成樹脂繊維からなる不織布を採用し,乙25発明のように,不織布を伸ばした状態で取り付けてみる程度のことは当業者が必要に応じ適宜できることであるから,本件特許発明は,これら発明から容易に想到し得たものである。 また,本件発明のいずれの作用効果についても,乙22発明及び乙25発明から,当業者が予測できないような効果は認められない。 したがって,本件特許発明は,進歩性欠如の無効理由がある。 (2) 本件特許は,本件特許出願前の乙21発明に,乙22,23発明に開示された一方向性の不織布からなるフィルターを適用したにすぎないこと(進歩性欠如②) - 29 -ア本件特許発明の出願当時の技術水準本件明細書の【0003】には,従来技術の問題点につき「平面方向には伸びない不織布が使用されている」としているところ,平面方向に伸びる不織布をレンジフードないしは換気扇の通気口に使用することは,本件特許出願前より知られているし(乙22発明,乙25発明参照),多方向性の不織布をフィルターとして使用することは,周知の技術事項であり(乙56ないし乙58発明参照),本件明細書が認識する技術水準には誤りがある。 イ本件発明の本質部分本件発明の課題は,「比較的簡便に取り付けが可能な通気口用フィルター部材を提 術事項であり(乙56ないし乙58発明参照),本件明細書が認識する技術水準には誤りがある。 イ本件発明の本質部分本件発明の課題は,「比較的簡便に取り付けが可能な通気口用フィルター部材を提供することを目的とする」ものであるところ,この課題は,あくまで,不織布が伸びることによって解決されるものである。 ウ本件発明の進歩性本件発明と乙21発明とを対比すると,甲26審決で示されているとおり,両者の一致点は,「幅広の不織布を取付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって,前記不織布として,難燃性のものを使用し,この不織布により前記通気口を覆うことを可能として通気口用フィルター部材」である。 他方,両者は,①本件発明では,レンジフードの通気口が角形であるのに対し,乙21発明では,排気口(通気口)を有するもののその形状は不明である点,②本件発明では,不織布として一軸方向にのみ非伸縮性で,かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき,120~140%まで自由に伸びて縮み,難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し,不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして」「通気口を覆う」のに対して,乙21発明では「不織布として,難燃性のものを使用し」て排気口(通気口)を覆うものの,このような事項を有していない点で異なる。 - 30 -エ上記相違点①については,乙21発明の図面に実質的に開示されているので,実質的な相違点とはいえない。 相違点②については,まず,不織布の伸縮性を利用すべく不織布を伸ばして使用すること自体,本件特許出願前より公知ないしは周知の技術事項である(乙25, ているので,実質的な相違点とはいえない。 相違点②については,まず,不織布の伸縮性を利用すべく不織布を伸ばして使用すること自体,本件特許出願前より公知ないしは周知の技術事項である(乙25,乙23)。そして,伸縮する不織布として,多方向性の不織布と,一方向性の不織布の二つのタイプが存在し,これらのいずれもを,レンジフードの通気口に適用することは,本件特許出願前より知られていた(一方向性のものについて,乙22,23)。 しかるところ,乙22発明において,多方向性の不織布を用いた場合には,「換気扇の運転時の風の流れに対しても弱く伸びが生じ,たるんで,最悪の場合送風羽根に当たり,フィルタの破損,換気扇の故障につながる」という問題が生じるのに対し,一方向性の不織布を使用すればそのような問題を解決,回避できることが示されており,乙23発明にも,たるみが生じないようにすることが示されている。 オすなわち,伸縮性を有する不織布からなるフィルターとして,一方向性の不織布と多方向性の不織布がともに知られていたところ,当業者が上記のような多方向性の不織布の問題(緩みの問題)を回避することをねらって,乙21発明の不織布として,乙22発明又は乙23発明に開示されたような一方向性の不織布からなるフィルターを適用することについて十分な動機付けがある。 他方,「120~140%まで自由に伸びて縮む」という数値に臨界的意義,技術的意義があることは明細書に一切開示がないところ,そのような不織布の存在自体は公知ないし周知である(乙29,30,31,33)から,上記の数値限定は,臨界的意義ないし特別の技術的意義を有することが必要である。 カしかして,本件特許の上記数値限定は,原告の主張によっても臨界的意義は一切認められないから,進歩性の根拠とはなりえ 上記の数値限定は,臨界的意義ないし特別の技術的意義を有することが必要である。 カしかして,本件特許の上記数値限定は,原告の主張によっても臨界的意義は一切認められないから,進歩性の根拠とはなりえず,上記数値限定は,当業者が必要に応じて適宜設定できる設計事項にすぎない。 - 31 -キしたがって,本件特許発明は,当業者が乙21発明に,乙22発明,乙23発明,乙25発明等に基づいて,容易に想到できたものであるから,進歩性欠如の無効理由がある。 (原告の主張)(1) 乙21発明を引例として進歩性の欠如を導くことはできないことア乙24発明,乙25発明に記載された技術事項乙24発明,乙25発明は,いずれも特定の構成において,不織布を伸ばして使用する例が示されているものの,一般的な抽象論として,「伸ばして使用する」ことが開示されているわけではない。 まず,乙24発明は,不織布を換気扇に直接取り付ける技術ではなく,フィルターに専用のホルダー部材が取り付けられており,当該部材をフィルターカバーに引っかけて係止するものであり,その上で,フィルターカバーを更に取り付けた上で換気扇に取り付けるものである。そして,専用のホルダー部材とフィルターカバー1を利用する構成において,装置において左右を引っ張った状態を採用したものにすぎず,乙21発明のように換気扇に直接不織布を取り付ける構成ではないし,換気扇のフィルターに不織布を利用したときは,不織布を左右方向に伸ばして使用することが一般的な技術常識として記載されているものでもない。 また,乙25発明は,その下面の吸気口に,ガード用金網等のフィルター部材が,吸気口を囲む開口周壁を覆う状態で張設された深型のレンジフード8において,金網性フィルター部材の片面に不織布からなるシート状 また,乙25発明は,その下面の吸気口に,ガード用金網等のフィルター部材が,吸気口を囲む開口周壁を覆う状態で張設された深型のレンジフード8において,金網性フィルター部材の片面に不織布からなるシート状フィルタ2を取り付け,さらに金網性フィルター部材を,レンジフードに取り付けるものであり,そもそも乙21発明のように,換気扇に直接不織布を取り付ける構成ではないし,換気扇のフィルターに不織布を利用したときには,「不織布を左右方向に伸ばして使用する」ことが一般的な技術常識として記載されているものでもない。 - 32 -イ乙21発明に,乙24発明,乙25発明に記載された技術事項を適用する動機付けがないこと仮に,乙24発明,乙25発明に,「不織布を左右方向に伸ばして使用する」ことが記載されているとしても,このような技術事項が,乙21発明に適用される動機付けは存在しない。 すなわち,乙21発明には,そもそも本件発明の課題である,「排気口へのフィルター取り付け方法に使用されている不織布には平面方向に伸びない不織布を使用しているので,取り付けようとする通気口に合わせて不織布を切断する必要があり,所定の幅より短い場合にはフィルターとして使用することができず,長い場合には,再度切断し直す必要があり,極めて面倒であるという問題が開示されていないし,それを示唆する記載もない。 また,乙24,25発明は,上記アに述べたとおりの発明であって,乙21発明のように,換気扇に不織布のフィルターを直接取り付けるものではないから,課題を共通にする前提を欠いている。 したがって,乙21発明に,乙24,25発明に記載された技術事項を適用する動機づけは存在しない。 (2) 「120~140%まで自由に伸びて縮む」の技術的意義についてそもそも ている。 したがって,乙21発明に,乙24,25発明に記載された技術事項を適用する動機づけは存在しない。 (2) 「120~140%まで自由に伸びて縮む」の技術的意義についてそもそも,本件特許発明は,一軸方向に非伸縮性を有する不織布を採用することによって,不織布を,「角形の通気口の一方の幅a にのみ長さを合わせて,通気口の他方の幅bについては概略長さで切断した場合にも通気口全体を覆うことができるようになり,装着の手順を簡易にすることを特徴とするものである。 したがって,数値範囲云々にかかわらず,適正な範囲の伸度を有する不織布を採用した点に技術的価値があるものである。 また,伸度の範囲についても従来同様な製品が存在しない状況から,使用者が概略長さで切断した場合に,通気口の幅寸法とどの程度の齟齬が生じるかを研究し,「120~140%という数値範囲を選択したのであるから,この点に技術 - 33 -的価値がないとは到底言えない。 8 争点2(3)(本件特許に公然実施(被告が,被告製品と同様の製品を本件特許の出願前から販売していたこと)の無効理由が認められるか)について(被告の主張)(1) 被告による被告製品の製造販売被告(被告が吸収合併した東洋アルミホイルプロダクツ株式会社を含む)は,次のフィルター製品を製造販売していた。 ① 平成6年ころから平成9~10年ころまで,製品番号2545番の「とりかえフィルターフリーサイズ」② 平成7年ころから平成9~10年ころまで,製品番号2525「レンジフードフィルターフリーサイズ専用取付け磁石つき」及び,製品番号2526「とりかえ専用レンジフードフィルターフリーサイズ」③ 平成10年ころから平成14年ころまで,製品番号2519「とりかえ専用フリーサイズフィルター」 イズ専用取付け磁石つき」及び,製品番号2526「とりかえ専用レンジフードフィルターフリーサイズ」③ 平成10年ころから平成14年ころまで,製品番号2519「とりかえ専用フリーサイズフィルター」及び製品番号2518「フリーサイズフィルター取付磁石つき」④ 平成13年から平成18年まで,製品番号2710「とりかえ専用ふんわりフィルターフリーサイズ」,製品番号2711「お徳用10回分とりかえ専用ふんわりフィルターフリーサイズ」及び製品番号2709「ふんわりフィルターフリーサイズ取付磁石つき」⑤ 平成17年から現在まで,製品番号2781「60cmに切れてるふんわりフィルター取付磁石付」(被告製品イ),製品番号2782「お徳用10枚入りとりかえ専用60cmに切れてるふんわりフィルター」(被告製品ロ),製品番号2776「お得用15回分とりかえ専用フィルターフリーサイズしなやかタイプ」(被告製品ハ)(2) 上記各製品に使用される不織布について上記(1)の被告のフィルターには,いずれも,一貫して,呉羽テック株式会社 - 34 -の「#290シリーズ」の不織布が使用されている。同シリーズは,換気扇用フィルター用途として,被告に提供が開始される以前の昭和40年代から生産されてきたものである。同シリーズには,「RE」,「REH」などの枝番が付けられているが,製造当初から,生産設備や不織布の生産方式(ケミカルボンド方式)は全く同じであり,コスト削減や風合い変更のための仕様変更は行っても,大きな工程変更を伴っていないため,得られた不織布の物性に及ぼす影響はほとんどないし,伸度比についてはほとんど変更がない。 (3) 原告の認識ア原告(原告の前身であるカースル産業株式会社)は,差出日平成6年12月16日に被告に対し通知書(乙8 に及ぼす影響はほとんどないし,伸度比についてはほとんど変更がない。 (3) 原告の認識ア原告(原告の前身であるカースル産業株式会社)は,差出日平成6年12月16日に被告に対し通知書(乙88)を送付しており,そこには,被告が,(1)①の商品を販売している事実を原告が認識している旨の記載がある。 イ原告が,平成15年8月8日付けで被告に送付した回答書兼通知書(乙89)には,(1)④の製品番号2709及び製品番号2710の商品について本件特許の技術的範囲に属すると原告が認識している旨の記載がある。 (4) 被告(東洋アルミホイルプロダクツ株式会社)は,本件特許の出願前から,被告製品と同様の伸度比のフィルター製品の実施の準備のみならず,実際に製造販売をしていたのであるから,被告製品が本件特許の技術的範囲に属するのであれば,被告製品と同様の被告のフィルター製品が本件特許出願前から市場に流通していたのであるから,本件特許発明は特許法29条1項2号の「特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明」に該当する。 したがって,本件特許は,特許法29条1項2号に違反して特許されたものであるので,特許法123条1項2号の規定による無効理由がある。 (原告の主張)被告の主張を否認する。 本件特許の出願日は平成8年10月8日であるから,被告主張の各製品のうち,公然実施の根拠として意味があるのは(1)①と②の各製品のみである。そして, - 35 -そもそも,①,②の製品が販売されており,かつ本件特許の技術的範囲に属するものであることを裏付ける客観的証拠はない。 なお,被告は,参考品①,②(そのパッケージは乙80のとおり)が①,②の製品にあたると主張するが,その真実性はともかく,この参考品を被告なりに試験した, であることを裏付ける客観的証拠はない。 なお,被告は,参考品①,②(そのパッケージは乙80のとおり)が①,②の製品にあたると主張するが,その真実性はともかく,この参考品を被告なりに試験した,乙79試験及びこれを読み取った結果(乙87)によると,①,②の製品の伸び率のデータは次のとおりである。 荷重100g荷重150g 縦方向横方向縦方向横方向①の製品100.5%102.0%100.5%103.0%②の製品100.5%101.5%100.5%103.0%この試験方法の適否や被告製品の試験結果については,原告は意見を留保するが,上記製品に関しては,横も縦もほとんど伸びていないのであるから,本件特許にいう「一軸方向にのみ非伸縮性」を有する不織布が使用されていなかったことを示しているから,①,②の製品があることをもって,本件特許の技術的範囲に属する製品が,本件特許の出願前に公然実施されていたということはできない。 9 争点3(被告製品の販売につき,先使用の抗弁(特許法69条2項2号)が認められるか)について(被告の主張)前記4のとおり,被告は,本件特許の出願に先立つ平成6年から,前記4(被告の主張)(1)の①から⑤の製品を製造販売してきた。 よって,被告は,本件特許出願前に,フィルター製品を独自に開発して製造販売しているので,特許法79条の先使用の要件である,「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし」との要件を満たす。また,被告が,本件特許出願前から現在まで継続して被告のフィルター製品を製造販売しているから,「特許出願の際,現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている」ものにあたる。 - 36 -さらに,被告製品は, ら現在まで継続して被告のフィルター製品を製造販売しているから,「特許出願の際,現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている」ものにあたる。 - 36 -さらに,被告製品は,本件特許の出願前に製造販売されていた被告のフィルター製品と発明の同一性を失わない範囲で実施されていたから,「その実施をしている発明及び事業の目的の範囲内」との要件も満たす。 以上のとおり,被告製品が本件特許の技術的範囲に属するのであれば,東洋アルミホイルプロダクツ株式会社は,その実施をしている発明及び事業の目的の範囲内において,本件特許権について先使用による通常実施権を有しているといえ,被告は吸収合併によりこの通常実施権を承継している。 よって,被告は,イ号ないしハ号製品を実施する正当な権限を有する者であるから,被告への本件特許の特許権に基づく権利行使は制限されるべきものである。 (原告の主張)前記8(原告の主張)と同様である。 10 争点4(差止めの必要性及び原告の被った損害額)について(原告の主張)(1) 特許法102条2項に基づく被告の利益ア被告製品の販売数量被告は,平成19年3月1日から,平成25年9月30日までの間に,被告製品をそれぞれ次のとおり販売した(POSデータに基づく主張)。 平成19 年3 月13日から平成22 年 3 月12 日まで平成22 年3 月13日から平成25 年 9 月30 日まで合計被告製品イ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告製品ロ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告製品ハ●●●●●●●●●●●●●●●●●●イ原告は,被告製品と同等の製品を販売するものであるところ,その利益率はおおむね同じと考えられるから,原告の同 ●●●●●●●●●●●●●●被告製品ハ●●●●●●●●●●●●●●●●●●イ原告は,被告製品と同等の製品を販売するものであるところ,その利益率はおおむね同じと考えられるから,原告の同等品の利益率である33.6パーセントが,被告製品の利益率となる。 - 37 -ウ被告は,販売価格を,被告製品イにつき459円,被告製品ロにつき593円,被告製品ハにつき763円として,各製品を販売している。したがって,被告製品を販売することにより得た収益の総額にイの利益率を乗じた額は,次のとおりであり,その合計は,●●●●●●●●●●●●である。 平成19 年3 月13日から平成22 年 3 月12 日まで平成22 年3 月13日から平成25 年 9 月30 日まで合計被告製品イ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告製品ロ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●被告製品ハ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●エ POSデータ加入店以外の店舗等による販売による被告の利益被告は,自社のウェブサイトや,各社のインターネット販売サイトにおいて,被告製品を販売しており,また全国の小売販売店の全てがPOSデータに加入している訳ではなく,未加入のチェーン店や小売店での販売数量も相当程度あるものと推測されるから,これら販売路による販売による被告の利益は,上記ウの合計金額の1割である●●●●●●●●●●を下らない。 オしたがって,特許法102条2項に基づく原告の損害の総計は,合計●●●●●●●●●●●●を下らない。 (2) 弁護士,弁理士費用原告は,本件訴訟を提起するに当たり,弁護士及び弁理士に依頼して着手金及び報酬を支払うことを約した。 本件 総計は,合計●●●●●●●●●●●●を下らない。 (2) 弁護士,弁理士費用原告は,本件訴訟を提起するに当たり,弁護士及び弁理士に依頼して着手金及び報酬を支払うことを約した。 本件において相当な弁護士,弁理士費用は,1億8000万円である。 (3) 損害賠償請求被告の不法行為に基づく損害賠償額は前記合計●●●●●●●●●●●●●となり,被告は,本訴において,この一部である9億円及びうち1億円に対する平成22年3月1日から支払済みまで,うち8億円に対する平成25年11月3 - 38 -0日から支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (4) 差止請求原告は,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造販売の差止めを求め,同条2項に基づき,その廃棄を求める。 (5) 消滅時効の主張に対する反論被告の問題とする期間中は,特許庁においては無効審判が出され,これが審決取消訴訟によって取り消されるという経過にあったものであるところ,このような状況において消滅時効を援用することは権利濫用に当たる。 (6) 寄与率の主張に対する反論被告の主張するような事情が,推定覆滅事情に該当することは争う。 本件発明は,切断された不織布が通気口の幅より長い場合であっても,逆に短い場合であっても,切断された不織布により通気口を確実に覆うことができる点において,価値が極めて高いものである。 (7) 不実施の主張に対する反論そもそも商品の外装に標記がないことをもって原告が本件特許を実施していないということはできない。 (被告の主張)原告の損害の主張は争う。 (1) 販売数量,価格,利益率についてア (原告の主張)(1)アに記載の販売数量は,被告が同期間に販 許を実施していないということはできない。 (被告の主張)原告の損害の主張は争う。 (1) 販売数量,価格,利益率についてア (原告の主張)(1)アに記載の販売数量は,被告が同期間に販売した被告製品の総量として認め,別途エのような販売があることは否認する。 イまた,利益率については,当事者間において,これを1個当たり●●●とすることは平成25年10月11日の弁論準備手続期日において争いがないものとなっていたところ,(原告の主張)(1)イに記載の利益率は,本件の口頭弁論終結の日に陳述された平成25年11月29日付け原告準備書面で突然主 - 39 -張したものであり,時期に遅れた攻撃防御方法に当たる。 ウ販売価格については,原告の主張は,被告の卸売価格と乖離しており,争う。 (2) 消滅時効の援用原告は,本件訴状において,平成19年3月13日から,平成22年2月末日までの損害を問題としているから,この部分についてのみ訴え提起により時効中断が生じ,平成22年3月1日からの損害については,消滅時効が進行している。 原告の追加分にかかる訴え変更申立てが裁判所に到達したのは平成25年11月30日であるから,平成22年3月1日から,平成22年11月29日までの分は消滅時効が完成している。被告は,この消滅時効を援用する。 (3) 寄与率被告製品は,商品パッケージに伸ばして使用することは全く記載されておらず,また購入者は購入前に不織布の伸縮性を開封して確認することはないから,需要者の購入動機に本件特許の技術的特徴は全く寄与していない。むしろ,被告製品イ,ロは,60センチメートルに切れていることが購入動機として寄与しているものである。 したがって,被告製品に対する本件特許の寄与率は,全くないか,あってもせ 寄与していない。むしろ,被告製品イ,ロは,60センチメートルに切れていることが購入動機として寄与しているものである。 したがって,被告製品に対する本件特許の寄与率は,全くないか,あってもせいぜい10パーセントである。 (4) 原告の本件特許の不実施原告もレンジフードフィルターを製造販売しており,本件判定に用いた製品パッケージには「伸ばして使える」旨を明記していたが,その後は,フィルターを伸ばして使うことは記載されておらず,原告は本件特許を実施しているといえない。 すなわち,被告製品と原告製品は相互補完関係になく,原告に損害は発生していない。 第5 判断 1 被告製品の構成,構成要件E及びG(争点1(1),(2)及び(5))について - 40 -(1) 被告が,遅くとも平成19年3月からJANコードにより特定されている被告製品イ,ロ及びハを製造等していることは前記前提事実のとおりであり,被告製品が,幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し,切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定して,この通気口を不織布で覆って使用する通気口用フィルターであること,及び前記不織布は難燃処理された合成樹脂繊維からなることは,当事者間に争いがない。 (2) 原告は,被告製品イ,ロ及びハと同等の構成を有するフィルター装置も広く本件訴訟の対象である旨主張するが,JANコードにより特定される被告製品とは別に,被告がそのようなフィルター装置を製造していると認めるに足る証拠はなく,原告の主張は採用できない。 (3) 被告は,被告製品が構成要件Eの「直接覆って」及び構成要件Gの「直交する方向に伸ばして」を充足しない旨主張する(争点1(2)及び1(5))。被告の主張は,本件特許発明が金属フィルターやフィル (3) 被告は,被告製品が構成要件Eの「直接覆って」及び構成要件Gの「直交する方向に伸ばして」を充足しない旨主張する(争点1(2)及び1(5))。被告の主張は,本件特許発明が金属フィルターやフィルターカバーを有しないレンジフードの通気口に使用するものであるとして,金属フィルターやフィルターカバーが存する場合に限り使用することを予定した被告製品は,構成要件E及びGを充足しないとするものである。 しかしながら,本件特許発明は,レンジフードの通気口に取り付けるフィルターに関するものであるところ,本件明細書の記載を参照しても,構成要件Eの「直接覆って」とは,フィルターを通気口に取り付ける際に,他の物を介することを要しないとの趣旨に解しうるにとどまり,フィルターそれ自体ではなく,取付けの対象となるレンジフードに金属フィルター等が存しない場合のみを前提とする文言と解することはできない。同様に,構成要件Gの「直交する方向に伸ばして」についても,フィルターそれ自体がそのような性質を有していれば足り,レンジフードに金属フィルター等が存しない場合のみを前提とするものと解することはできない。 (4) 以上によると,被告製品は,本件特許の構成要件E及びGについては,これ - 41 -を充足すると認められる。 2 構成要件F(争点1(3)及び(4))について(1) 意義被告は,「120~140%」の意義について,自然長の2.2倍から2.4倍まで伸張するとの意味であると主張する。しかしながら,本件明細書の【0005】に,「概略長さで切断した不織布が,幅bよりも短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばす」との記載があることから,この場合の120から140%の伸び率は,自然長の1.2倍から1.4倍まで伸張する趣旨と解するのが合理的である。 が,幅bよりも短い場合には,不織布を少し引っ張って伸ばす」との記載があることから,この場合の120から140%の伸び率は,自然長の1.2倍から1.4倍まで伸張する趣旨と解するのが合理的である。 (2) 本件で示された不織布の伸縮性の測定試験等について本件において,被告製品に使用される不織布の伸縮性について,次のとおりその測定方法,試験方法及び試験結果がされている。 ア甲9試験(ア) 甲9試験は,本件訴訟提起後,原告の従業員によって実施されたものであり,2通りの試験と,その結果が示されている。 (イ) 試験1の手順はおおむね次のとおりである① 被告製品から,直交する方向で2種類の試験片(その寸法は,幅50ミリメートル,つかみ間隔200ミリメートル)を作成する。 ② 紙片片の一端を,金属板等で挟み込んで動かないように固定し,他端はプッシュプルゲージの取り付けられた移動可能な固定具に,同様に不織布が動かないように固定する。 ③ プッシュプルゲージを引っ張り方向に移動させる(この移動速度は不明である。)ことにより試験片に荷重を与え,荷重が100g及び150gになった時の試験片のつかみ間隔の寸法を記録する。 (ウ) 甲9によると,その結果は,次のとおり示されている。 荷重100g荷重150g - 42 -被告製品横方向縦方向横方向縦方向イ140.0%105.5%172.0%107.0%ロ130.0%104.5%145.0%105.5%ハ115.5%103.7%119.0%105.0%また,他の製品(本訴提起時に原告がその対象商品とし,後に撤回した「シールみたいに簡単きれいパッと貼るだけ」)を対象として同じ手順で試験された結果 103.7%119.0%105.0%また,他の製品(本訴提起時に原告がその対象商品とし,後に撤回した「シールみたいに簡単きれいパッと貼るだけ」)を対象として同じ手順で試験された結果は次のとおりである。 荷重100g荷重150g 横方向縦方向横方向縦方向 102.2%100.5%103.2%100.7%(エ) 試験2の手順は次のとおりである。 ① 被告製品の不織布を換気扇に取り付ける程度の適当な寸法に裁断する。 ② 不織布の一端を,換気扇の金属フィルターの一端に合わせて置き,その一端を手で押さえられる範囲で押さえ,他端の一方の端を,渡りが数センチのクリップでつまむ。 ③ クリップを,プッシュプルゲージを介して,不織布を広げる方向に引き,数値を読み取る。 なお,この試験において,②の状態で,不織布の元の幅が,金属フィルターの幅に比してどの程度であったのか,③において,引く際の加速度はもとより,いかなる時間荷重を加え,あるいは不織布をどこまで伸張させるのかについての記載はない。 (オ) 甲9によると,これにより「換気扇フィルターに取り付ける状況を再現」できたものとして,「不織布を換気扇に取り付ける場合の荷重」が100~150gであるとした。 イ甲17試験(甲17)甲17試験もまた,原告の従業員が,本訴提起後に作成したものである。 - 43 -甲17試験は,測定方法は,引っ張り試験(JIS(L)1085)と同じ条件で,引っ張り試験器で測定を行い,プッシュプルゲージの目盛が,規定のトルク(90g,140g,160gであり,これ以上のトルクは破断する製品があるため,測定不能であるとする。)になった時に一時停止を行い,伸び寸法を計測した,とするもの ュプルゲージの目盛が,規定のトルク(90g,140g,160gであり,これ以上のトルクは破断する製品があるため,測定不能であるとする。)になった時に一時停止を行い,伸び寸法を計測した,とするものである。 ウ甲30等試験(甲28,30ないし32,弁論の全趣旨)(ア) 甲30等試験の手順は,次のとおりである。 ① 被告製品から不織布を縦方向,横方向に試験片(幅50mm,長さ切り出し,試験片の一端は目玉クリップで挟んで固定し,他端は重りを取り付けた目玉クリップ(クリップを含む全体の重量が150g)で挟んで固定する。 ② 試験片をつり下げることで試験片に荷重を加え,つり下げた直後の試験片の長さを伸び量として測定する。 (イ) 甲30等試験においては,上記①の取り付けの際は,試験片を台等の上において取り付け,その後それを鉛直に吊り下げるものと思われるが,その際にどのように不織布に荷重を加えるのか等についての記載はない。もっとも,第18回弁論準備手続期日における原告の技術説明によると,少なくとも鉛直につり下げた直後は,重りは自由落下に近い状態にあるものと思われるが,水平状態から,鉛直方向に安定した力が加わるまでに,不織布に作用する力を厳密に明らかにする記載は,甲30ないし32からはうかがわれない。 また,「つり下げた直後」というのが具体的に何秒後であるのかは不明である(真に直後であれば,伸びは限りなく零に近いと思われるが,そのような趣旨で記載しているものではないことは明らかである。そうすると,目盛りを読み取るべき「直後」とはどの時点を指すのかは,甲30等からは不明である。)。 そして,上記の点は,一定時間経過後の不織布の伸びを測定したとする甲 - 44 -28試験についても該当する。 エ甲34試験(甲34,弁論の全 のかは,甲30等からは不明である。)。 そして,上記の点は,一定時間経過後の不織布の伸びを測定したとする甲 - 44 -28試験についても該当する。 エ甲34試験(甲34,弁論の全趣旨)甲34試験は,原告従業員が,福岡県工業技術センター化学繊維研究所備え付けの機器を使用して,3種類の試験を行ったものである。うち1種は,乙117試験で用いられた鋼板と磁石の引っ張り強度の対比試験であり,不織布の伸びに関する試験としては2種類ある。 (ア) 試験1の手順試験1は,乙117試験が,移動端のつかみが全幅にわたっているのに対し,手でつまむ動作を模したものと思われる。その手順は次のとおりである。 ① 縦460mm,横600mmの試験片(被告製品イ,ロは,原寸のままとし,被告製品ハは,ロールタイプのため,裁断機にて裁断する② 一端を,亜鉛鍍金鋼板に,被告製品イに付属する磁石4個で固定する。 ③ 他端の中央に,幅32mmのダブルクリップを付け,そのクリップを引張速度毎分100mmにて,オートグラフ精密万能試験機で,試験片を引っ張る。 ④ 不織布の繊維斑で引張り力,磁石の保持力を考慮したポイントを最大荷重とし,その時のストロークを伸び寸法とする。 ただし,上記ポイントの選択基準は,甲34号証の記載からは明らかでない。 (イ) 試験1の結果として,次の記載がある(3回の試行の平均)。 被告製品伸び量(mm)伸び率(%)荷重(N)イ87.09120.699.79ロ91.53121.748.88ハ108.64125.8110.12(ウ) 試験2試験2は,被告製品のフィルターを,120%伸ばした状態で鋼板に磁石 - 45 -で固定できるかどうかを判定 8.88ハ108.64125.8110.12(ウ) 試験2試験2は,被告製品のフィルターを,120%伸ばした状態で鋼板に磁石 - 45 -で固定できるかどうかを判定するものである。 いずれも120%伸ばした状態で固定できたとするが,140%まで伸ばした実験結果はない。 オ本件判定の試験(乙10,11)(ア) 本件判定の概要は,前提事実(5)に記載のとおりであり,2種類の試験方法が記載されている。 (イ) 第1の試験方法① 矩形(角形)にカットしたフィルター素材の一端部を金属鉄板に乗せ,磁石を3個または4個を鉄板の上に置いてフィルターを固定する。ただし,矩形の大きさは不明である。 ② 他端側を,素材に幅方向に均等に力が作用するようにひもを通した紙管にガムテープで3か所を止め,ひもにプッシュプルゲージを取り付けて所定の力で引っ張る。 ③ 磁石が動いたときの伸びを測定する。 (ウ) 第2の試験方法① フィルター素材を幅5cm,長さ20cmに切断し,この試験片の一端部をクランプに固定し,その他端部を,プッシュプルゲージを介してこれを引き延ばす方向に引っ張る。 ② 素材が破断したときの伸びを測定する。 (エ) 特許庁審判官の判定における見解特許庁審判官は,本件訂正前特許の構成要件につき,①「仮固定」について,マグネット,面状ファスナー,クリップ等の簡易固定具であって,通気口へのフィルターの取り付け,取り外しが容易に行えるような固定を意味するものと解される,②「一軸方向にのみ非伸縮性」とは,特定の方向には伸びないが,非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が自由に伸びることを意味し,その伸びとは,具体的には約120~140%程度であ - 46 -ると解される,とした上 特定の方向には伸びないが,非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が自由に伸びることを意味し,その伸びとは,具体的には約120~140%程度であ - 46 -ると解される,とした上で,本件発明のフィルター部材は,一軸方向に伸ばした状態で,磁石などで仮固定して使用することを前提とするものであるから,本件発明でいう「伸縮性」とは,第2の試験結果が示す伸び率ではなく,第1の試験によって得られる伸び率によって評価されるべきと解される,との見解を示した。 カ乙12試験(乙12)(ア) 乙12は,被告において,本件判定における試験手順をもとにして,被告製品に対する試験を行ったものである。 (イ) 第1の試験の手順(ただし,本件判定に記載のない条件については,被告において適宜補充している。)① 試験片の寸法を300mm×300mmとし,磁石は,被告製品に同梱されている磁石を用いる。 ② 磁石の配置位置は,試験片の引張方向の配置位置を不織布の端部から20mmの位置とし,幅方向の配置位置は,磁石3個の場合には,50mm,150mm,250mmの位置とし,磁石4個の場合には,20mm,100mm,200mm,280mmの位置とする。 ③ 幅方向と直交する方向にプッシュプルゲージで試験片を引っ張り,試験片に配置した磁石の1つが目視確認できるレベルで動き出したときの不織布の伸びを測定する(N=2)。 (ウ) 第1の試験の結果は,次のとおりとされている。 方向被告製品イロハ磁石3個伸び縦103.4%103.4%104.0%横106.3%106.3%108.2%磁石4個伸び縦106.3%106.3%104.0%横106.3%106.3% 03.4%104.0%横106.3%106.3%108.2%磁石4個伸び縦106.3%106.3%104.0%横106.3%106.3%109.2% - 47 -(エ) 第2の実験は,JIS(L)1085の試験としている。その結果は次のとおりとされている。 方向被告製品イ号ロ号ハ号縦127.5%123.6%135.5%横139.0%154.1%164.7%キ乙79試験(乙79,82)(ア) 乙79試験は,公証人立ち合いのもと,市場で調達した被告製品及び被告が本件特許の出願前から製造販売していたとする参考品(前記第3の4(被告の主張)①の製品)について,一般社団法人カケンテストセンターにおいて,JIS(L)1096ストリップ法に即した試験をしたものである。その手順は次のとおりである。 ① 被告製品の縦46cm,横60cmの1枚のフィルターより,横50mm,縦300mmの試験片を切り出す。 ② 引っ張り試験器(UNIVERSALTESTINGINSTRUMENT,型番「RTG-1250」)の試験台のチャック間距離を200mmにセットした後,試験片1枚を装着し,引張速度を100mm/分に設定する。 ③ 引っ張り試験機により試験片に荷重をかけ,試験片が破断状態になったところで測定を終了し,荷重と伸びの相関をグラフで得る。 (イ) その結果は,次のとおりとされている。 方向被告製品(伸びた量の比率)イロハ縦20.0%23.2%22.5%横43.4%48.9%52.3%(ウ) また,上記(ア)③のグラフから,100g(約1N),150g(1.5N) - 48 -の荷 20.0%23.2%22.5%横43.4%48.9%52.3%(ウ) また,上記(ア)③のグラフから,100g(約1N),150g(1.5N) - 48 -の荷重時の被告製品の不織布の伸びを参照したものは,次のとおりである。 荷重100g荷重150g被告製品縦方向横方向縦方向横方向イ101.0%106.0%101.0%111.5%ロ100.5%107.0%101.0%113.0%ハ101.0%107.0%102.0%111.0%ク乙117試験(乙117,119)乙117試験は,被告製品について,縦方向の伸び率を,引っ張り試験機を用いて測定するとともに,120%及び140%まで,各被告製品を伸ばした時の製品の形状を検証するものである。なお,同試験は,株式会社エフシージー総合研究所に委託して行われた。 (ア) 引っ張り試験の試験手順① 市販されている被告製品を用意し,被告製品イ,ロについては,幅600mmとなっているものをそのまま使い,被告製品ハについては,600mm付近の切れ目の位置を鋏で切断し,試験サンプルとする。 ② 試験片の600mmの辺を固定端,移動端とし(伸び率の比較的高い方向である(乙79参照),600mmの辺と直交方向に引っ張る),引っ張る有効長を350mmとし,端から55mm,及びそこからさらに350mmの間隔で二本の直線でマーキング線を入れる。 ③ 試験片の上端のマーキング線を,島津製作所製卓上試験機EZ-Lの上側治具に,ネジで固定する。 ④ 同じく,下側は,JFE製カラー鋼板を治具とし,磁石とマジックテープで固定するものとし,磁石4個を使用する場合は,左右2個の磁石の中間に位置 卓上試験機EZ-Lの上側治具に,ネジで固定する。 ④ 同じく,下側は,JFE製カラー鋼板を治具とし,磁石とマジックテープで固定するものとし,磁石4個を使用する場合は,左右2個の磁石の中間に位置するようにマジックテープを合計2枚貼り,磁石を2個使用する場合は,両端と中央にマジックテープを3枚貼る。 ⑤ 引張速度100mm毎分で引っ張り,目視で磁石の状態を観察し続け, - 49 -いずれかの磁石が動いた瞬間の引張試験機のストローク値を記録する。磁石が4個あるため見落としする可能性があるため,伸び量と張力のグラフから,直線性が変化する部分を抽出し,目視の値と比較して,小さいほうの値を磁石が動いた伸び量とする。 (イ) 引っ張り試験の結果上記試験の結果(3回の試行のうち,最も高い伸び率を示したもの。)は,次のとおりである。 被告製品磁石4個磁石2個イ109%106%ロ111%108%ハ112%108%ケ JIS(L)1085に定める試験方法(甲10)JIS(L)1085における不織布しん地試験方法は,標準時の「引っ張り強さ及び伸び率」の試験方法を概要次のとおり定めている。 (ア) 装置荷重とつかみ間隔を自動記録できる装置の付いた定速伸長形引張試験器で,JISB 7721に規定する精度のあるもの(イ) 手順① 試料から幅が50±0.5mmで,つかみ間隔を200mmにできる長さ(例えば,300mmの試験片を,試料の耳から100mm以上離れた位置で,かつ,均等に離れた位置から,縦方向及び横方向にそれぞれ5枚採取する。 ② 試験片を初荷重で引っ張り試験機につかみ間隔を200mm±1mmで取り付ける。 ③ 100±10mm/分の引っ張り速度で,試験片が切断するまで荷重を加 向及び横方向にそれぞれ5枚採取する。 ② 試験片を初荷重で引っ張り試験機につかみ間隔を200mm±1mmで取り付ける。 ③ 100±10mm/分の引っ張り速度で,試験片が切断するまで荷重を加える。 ④ 試験片の最大荷重時の強さを0.1Nまで測定するとともに,最大荷重 - 50 -時の伸びを1mmまで測定し,この伸びから伸び率を求める。伸び率は,0.5パーセントの単位に丸める。 (3) 「120~140%まで自由に伸びて縮む」についてア本件発明の課題は,本件明細書の【0003】によると,従前フィルターに用いられる不織布が,平面方向に伸びないものであることを前提として,そのような不織布を切断して使用する場合に,切断した結果,通気口の幅に足りない場合に,使用することができないという課題を解決するためのものであると認められる。 一方で,切断した不織布が通気口の幅を超える場合には,特許請求の範囲にはその解決に資する構成はなく,課題解決手段【0005】において,そのはみ出し部分を切断し,あるいは折り曲げるとして,何らの解決手段を与えていないから,本件特許の技術的意義とは無関係である。 したがって,本件特許の技術的意義は,不織布を切断した結果,通気口の一辺の幅に足りない場合に,これを伸ばして調整できる性能を有する不織布を換気扇用フィルターに使用したことにあるものと考えられる。 イそして,本件発明は,その構成及び明細書の記載からして,そのように通気口よりも短い幅で切断された不織布を,使用者において,「仮固定して使用したとき」に,「120~140%まで」,使用者自らの手等で伸ばして通気口に装着させることが想定されていると認められ,かつ,上記「仮固定」については,本件明細書の【0009】において,「通気口12の幅aの一方側 ,「120~140%まで」,使用者自らの手等で伸ばして通気口に装着させることが想定されていると認められ,かつ,上記「仮固定」については,本件明細書の【0009】において,「通気口12の幅aの一方側の端部14に一致させた状態で簡単に取っ手付き磁石15によって固定できる。この状態で,不織布13を通気口12に向けて貼り付ける」とあり,【0013】には,「不織布の周囲の固定は取っ手付磁石15によって固定したが,鉤状フックを有する面状ファスナー,クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される」とあるので,仮固定の手段は,「磁石,面状ファスナー」などの固定具が想定されていると認められる。 - 51 -ウまた,本件特許の特許請求の範囲においては,「120~140%まで自由に伸びる」とされているのであるから,使用者が,不織布を切断した結果,通気口の幅に約16.7~28.6%足りない場合であっても,通気口に装着可能な性能を有し,かつ,また,上記の使用態様に鑑み,使用者において,「自らの手等で伸ばして通気口に装着させる」程度の荷重,ないし「仮固定」が維持できる状況において,少なくとも120%は伸張でき,かつ140%まで伸長できる性能を有している必要があると解される。 エ上記性質を有する不織布かどうかの判定手段(ア) 上記認定にかかる本件特許における不織布の使用態様を考慮すると,前記3に認定した各種試験のうち,実際に用いられる幅の不織布の一端を磁石及び面状ファスナーで「仮固定」して他端を引っ張り,磁石がずれたとき(「仮固定」状態から逸脱したとき)の伸びを測定する乙117試験が,その想定に最も近似し,客観的かつ再現性の高い判定手段であるというべきである。 原告は,乙117試験につき,つかみ幅が不 たとき(「仮固定」状態から逸脱したとき)の伸びを測定する乙117試験が,その想定に最も近似し,客観的かつ再現性の高い判定手段であるというべきである。 原告は,乙117試験につき,つかみ幅が不適切であること,使用する鋼板の種類が適切でないことを指摘するが,つかみ幅については,原告自ら本件判定において不織布の大部分を固定して荷重を掛ける方法によって測定しているのであるから,乙117試験を不適切とする根拠はないというべきであるし,乙117試験に用いられた鋼板がレンジフードに用いられることがないと認めるに足りる証拠もないから,失当である。 (イ) この点に関し,被告は,本件明細書に試験方法の記載がない以上,JIS試験によるべきであるとするが,被告の指摘するJIS試験は,本件特許発明における使用態様と必ずしもそぐわないのであって,上記のとおり,当業者に判定可能な試験方法が明細書の記載から考えられる本件においては,JIS試験の結果をもって,直ちに非充足の結論を導くことは相当でないというべきである。 オ原告が提出した試験の問題点 - 52 -本件において,原告は,上記判定手段として,それぞれ内容の異なる甲9試験,甲17試験,甲30等試験,甲34試験の結果を証拠として提出している。 この点,甲9試験においては,上記の「自らの手等で伸ばして通気口に装着させる」程度の荷重が100~150gであることを前提としており(原告は,換気扇フィルターを取り付ける際には,力をかけにくい,不自然な姿勢になりがちであると主張し,その旨の証拠(甲14)も提出している。),また,原告はこれを前提として伸び率の測定の主張を行い,甲30等試験が実施されているところ,これ自体に直ちに疑義が生ずるものではない。しかし,同試験の試験1は,試験片の寸法がJ も提出している。),また,原告はこれを前提として伸び率の測定の主張を行い,甲30等試験が実施されているところ,これ自体に直ちに疑義が生ずるものではない。しかし,同試験の試験1は,試験片の寸法がJIS試験に準じたものであって,実際に使用される寸法とそぐわないものである上,引っ張り速度が不明であって,再現性,客観性に乏しく,これを伸び率の根拠として用いることは適切でない。甲17試験,甲30等試験も同様の問題を有するほか,甲30等試験では,「つり下げ直後」がいかなる時点を有するかも自明でないことは前記に記載したとおりである。 甲34試験は,再現性においては客観性があると評価はできるものの,被告製品が140%まで伸ばすことができることの証拠にはならないし(むしろ,そうでない証拠であるというべきである。),120%まで伸ばすに必要な荷重は約9~10Nに達しており,前述の,原告自らが主張してきた,「自らの手等で伸ばして通気口に装着させる」程度の荷重が100~150gであることと完全に矛盾するものとなっており,結局,甲34試験の結果をもって,被告製品の不織布が,構成要件Eに定める伸び率であることを根拠づけることはできないし,乙117試験の妥当性を左右するものでもない。 カ結論以上によれば,被告製品の伸び率は,乙117試験の結果に照らし,最大でも112%にとどまると認められ,被告製品が「120~140%まで自由に伸びて縮む」ことを証明する的確な証拠はなく,結局,被告製品は,いずれも,構成要件Fを充足するとは認められない。 - 53 -(4)「一軸方向にのみ非伸縮性」についてア原告は,「一軸方向にのみ非伸縮性」の意義について,「自由方向に繊維が並んだ不織布のように伸縮しない」という意義であることを前提として,被告製品がい (4)「一軸方向にのみ非伸縮性」についてア原告は,「一軸方向にのみ非伸縮性」の意義について,「自由方向に繊維が並んだ不織布のように伸縮しない」という意義であることを前提として,被告製品がいずれもこの要件を充足することを主張するのに対し,被告は,「非伸縮」とは①全く伸びないことをいう,②仮にそうでないとしても,非伸縮性を示す方向とは異なる方向の伸縮性,すなわち,伸縮する方向の伸び縮みとの対比からみて,JIS試験の破断伸び(JISL1085)において「120%未満の伸び率」であることである,③甲29審決に示された,引っ張り方向の引っ張り力が与えられたときに,一軸方向に仮に縮みが生じたとしても通気口全体を覆うことに支障が生じないことを意味するとして,被告製品が,本件特許の構成要件Fにいう,「一軸方向にのみ非伸縮性」の要件を備えない旨主張する。 イ本件特許のクレーム中の「一軸方向にのみ非伸縮性」とは,その文言から,「一軸方向には非伸縮性であり,当該一軸方向以外の方向には伸縮性を有する」ものと理解できる。本件明細書の【0004】に,「特定の方向には伸びないが,他の方向,特に非伸縮性を有する方向と直交する方向には不織布自体が伸びる不織布をいう」こととされていることとも整合する。「非伸縮」は,文言上は,「伸縮しない」ことを意味するが,本件明細書には,非伸縮性を有する不織布の製法として,【0008】に,「比較的伸びにくいポリエステル等の繊維を一方向に並べて不織布とすることによって製造可能であるし,場合によっては自由方向に繊維が並んだ不織布に一方向に伸びにくい繊維を多数平行に製造してもよい」と記載され,当該方向に一切伸びないものとはされていない。 そうすると,非伸縮とは,力を加えても伸縮しないことを意味するものであるが,全く伸縮し 向に伸びにくい繊維を多数平行に製造してもよい」と記載され,当該方向に一切伸びないものとはされていない。 そうすると,非伸縮とは,力を加えても伸縮しないことを意味するものであるが,全く伸縮しないことまでを要するとまではいえないが,その伸縮の度合いが,不織布を構成する繊維自体が有する不可避な伸び程度に抑制されている - 54 -ことを要すると解するのが相当である。 ウ前記ア②の主張は,本件特許発明の「非伸縮」の判断に,破断の限界となる力を不織布に加える試験により判定する点で相当でなく,同③の主張は,伸縮する方向に引っ張り力を加えたときに,非伸縮側に生じる変化を問題としており,非伸縮方向に力を加えた場合の伸縮を論じない点で相当でない。 エそこで検討するに,前記(2)で掲げた測定試験等のなかに,被告製品の一方向に,上記意味における非伸縮性が認められることを示すものは存在しないし,かえって,甲9試験によれば,同じ力を掛けた場合に,被告製品は,非伸縮側においても,他の不織布を使用したレンジフィルター製品(シールみたいに簡単きれいパッと貼るだけ)以上に伸張するとされており,少なくとも,不織布を構成する繊維自体が有する不可避な伸び程度に抑制されているとはいえないことになる。 したがって, 被告製品は,構成要件Eの「一軸方向にのみ非伸縮性」の構成を備えるものとは認められない。 第6 結語以上の次第で,被告製品は,構成要件Fを充足するとは認められず,本件特許の技術的範囲に属しないから,その余の争点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官谷有恒 - 55 -裁判官松阿彌隆 裁判官松川充康は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官谷有恒 - 56 -(別紙)製品目録 1 被告製品イ名称 「60cmに切れているふんわりフィルター3枚入取付磁石付」JANコード 4901987-227816(又は次の記載と同一の構成を有するフィルター装置) 2 被告製品ロ名称 「とりかえ専用60cmに切れているふんわりフィルターお徳用10枚入り」JANコード 4901987-227823(又は次の記載と同一の構成を有するフィルター装置) 3 被告製品ハ名称「とりかえ専用フリーサイズお徳用15回分」JANコード 4901987-227762(又は次の記載と同一の構成を有するフィルター装置)
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