主文 本件申立てを却下する。 申立費用は申立人の負担とする。 理由 第1申立ての趣旨京都社会保険事務局長は,申立人に対し,本案事件(当裁判所平成18年(行ウ)第52号保険医登録取消処分差止め請求事件)の第1審判決の言渡しまで,保険医登録取消処分をしてはならない。 第2事案の概要 本案事件は,京都社会保険事務局長(以下「事務局長」という。)から健康保険法に基づき保険医の登録を受けている歯科医師である申立人が,事務局長が申立人に対し同法81条に基づき行おうとしている保険医登録取消処分(以下「本件登録取消処分」という。)は,実体的又は手続的に違法であり,かつ,本件登録取消処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあるなどとして,行政事件訴訟法37条の4第1項に基づき,事務局長は本件登録取消処分をしてはならない旨を命ずること(本件登録取消処分の差止め)を求めている抗告訴訟(差止めの訴え)である。 本件は,申立人が,同法37条の5第2項に基づき,本件登録取消処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるなどとして,本案事件の第1審判決の言渡しまで,事務局長は本件登録取消処分をしてはならない旨を命ずること(本件登録取消処分の仮の差止め)を求めている事案である。 本件申立てについての申立人の主張は,別紙「仮の差止め命令申立書」(写),別紙平成18年4月14日付け「主張補充書」(写),別紙平成18年5月8日付け「反論書(申立人)」(写)に各記載のとおりであり,相手方の主張は,別紙平成18年4月28日付け「意見書」(写)に記載のとおりで ある。 第3当裁判所の判断 一件記録によれば,以下の各事実が一応認められる(以下,疎明資料の番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)。 (1 8日付け「意見書」(写)に記載のとおりで ある。 第3当裁判所の判断 一件記録によれば,以下の各事実が一応認められる(以下,疎明資料の番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)。 (1)当事者等ア申立人(昭和▲年▲月▲日生)は,昭和52年3月にA大学を卒業し,同年▲月▲日に歯科医籍に登録(番号第×××××号)された歯科医師である。【疎甲11】イ申立人は,昭和52年▲月▲日付けで,京都府知事から保険医の登録(京歯第××××号)を受けた。【疎甲11,疎乙9】ウ申立人は,昭和59年4月,B歯科医院(平成15年当時の住所は,京都市α×××βビル○階である。以下「本件歯科医院」という。)の開設者兼管理者に就任した。本件歯科医院は,昭和59年5月1日,京都府知事から保険医療機関の指定を受けた。【疎甲11,疎乙9】(2)申立人が本件申立てをするに至る経緯等ア厚生労働大臣から委任を受けた事務局長は,平成15年3月5日,保険診療の質的向上及び適正化を図ることを目的として,本件歯科医院に対して個別指導を実施したが,本件歯科医院で診療を受けた者について診療内容及び診療報酬の請求について疑義が生じたなどとして,同指導を中止した。【疎甲1,11,疎乙15】イ事務局長は,平成15年9月9日から同月29日まで,本件歯科医院に係る患者について調査を実施した。【疎甲11,疎乙21ないし38】ウ厚生労働大臣から委任を受けた事務局長(京都社会保険事務局職員)等は,本件歯科医院で診療を受けた者について,診療内容及び診療報酬の請求に関して不正又は著しい不当の疑いが生じたなどとして,平成15年10月20日から同年12月11日までの8日間(同年10月20日,同月 21日,同月22日,同月31日,同年11月17日,同月20日,同月27日,同年 しい不当の疑いが生じたなどとして,平成15年10月20日から同年12月11日までの8日間(同年10月20日,同月 21日,同月22日,同月31日,同年11月17日,同月20日,同月27日,同年12月11日),本件歯科医院の開設者兼管理者である申立人及び申立人を含む保険医(退職後5年以内の者を含む。)等を対象として,健康保険,国民健康保険及び老人保健等に係る診療内容と診療報酬請求内容について,監査を実施した(以下,この監査を「本件監査」という。)。【疎甲3,11,疎乙15】エ本件監査を実施した各職員は,平成15年12月11日付けで,本件監査の結果,診療録の不実記載並びに診療報酬の付増請求(実際に行った保険診療に,行っていない保険診療を付け増して保険請求すること。以下同じ。),二重請求(自費診療して患者から料金を受領したにもかかわらず,同診療を保険診療したかのように装い,診療報酬を不正に請求すること。 以下同じ。),振替請求(実際に行った診療内容より高点数の診療を行ったとして保険請求すること。以下同じ。)及び不当請求(保険給付外あるいは算定要件が満たされていない等にもかかわらず保険請求すること。以下同じ。)の事実が認められ,このことは健康保険法70条1項,72条1項,国民健康保険法40条1項,老人保健法26条等に違反し,不正請求及び不当請求により生じた医療費については各保険者に返還させ,行政上の措置については後日決定する,などの意見等を記載した社会保険医療担当者監査調査書を作成した。そして,京都社会保険事務局の内議においては,本件歯科医院は重大な過失により不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったものであるから,本件歯科医院に対する処分としては保険医療機関の指定の取消しが相当である,申立人は重大な過失により不正又は不当な診療を は重大な過失により不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったものであるから,本件歯科医院に対する処分としては保険医療機関の指定の取消しが相当である,申立人は重大な過失により不正又は不当な診療をしばしば行ったものであるから,申立人に対する処分としては保険医の指定の取消が相当である,などといった処分意見が示された。 【疎甲3,4,11】オ事務局長は,平成16年3月29日付けで,申立人に対し,要旨下記の 内容の聴聞(以下「本件聴聞」という。)を実施する旨通知した。【疎甲4】記①聴聞の件名健康保険法に基づく処分②予定される不利益処分の内容保険医療機関の指定の取消し及び保険医の登録の取消し③根拠となる法令の条項健康保険法80条,81条④不利益処分の原因となる事実平成15年10月20日から同年12月11日(8日間)まで実施した監査の結果,保険医療機関の事故として,付増請求,振替請求,二重請求等の事実が判明し,保険医の事故として,診療録に不実の記載をして保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていたこと等の事実が判明した。 ⑤聴聞の期日平成16年4月19日午後2時(なお,この期日はその後変更されて平成16年6月23日となった。)⑥聴聞の主宰者厚生労働事務官京都社会保険事務局地方社会保険監察官(以下「監察官」という。)カ申立人代理人は,平成16年4月26日付けで,事務局長に対し,本件聴聞の通知書の不利益処分の原因となる事実の記載は,抽象的な治療行為及び保険請求に関わる行為を類型的に列挙したものであって,具体的な事実の摘示とはいえないから,不利益処分の原因となる事実が,どの患者に対しいつされた治療行為であるのかを具体的に明らかにされたい,などと記載した「不利益処分の原因となる事実についての求釈明の申請書」と題 摘示とはいえないから,不利益処分の原因となる事実が,どの患者に対しいつされた治療行為であるのかを具体的に明らかにされたい,などと記載した「不利益処分の原因となる事実についての求釈明の申請書」と題する書面を提出した。【疎甲12】キ監察官は,平成16年6月23日,申立人に対して本件聴聞(第1回)を実施した。申立人代理人は,同聴聞の期日において,事務局長(京都社会保険事務局職員)に対し,上記カの求釈明書と同旨のことを述べたが, 事務局長は,それらの記載は抽象的ではなく,個別の事実認定は既に監査において終了している旨回答した。さらに,申立人代理人は,同期日において,監察官に対し,同日付けの「不利益処分の原因となる事実に対する意見陳述書」と題する書面(以下「本件意見陳述書」という。)を提出して,本件聴聞の通知書で指摘された不利益処分の原因となる事実の多くが事実と異なっているなどと主張し,事務局長に同書面に対して回答するよう求めた。しかし,これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)が直ちに回答することができなかったため,監察官は,本件聴聞の期日を続行することとした。【疎甲13,16,疎乙10,11】ク申立人は,平成16年8月10日,京都市長に対し,申立人の健康が常勤義務を果たせないことを理由に,同年7月31日付けで診療所としての本件歯科医院を廃止した旨届け出た。さらに,申立人は,同年8月20日,事務局長に対し,上記と同様の理由で,同年7月31日付けで保険医療機関としての本件歯科医院を廃止した旨を届け出た。【疎乙8,9】ケ京都社会保険事務局保険課長は,平成16年9月15日付けで,申立人に対し,本件意見陳述書に対する回答を記載した「平成16年6月23日付「不利益処分の原因となる事実に対する意見陳述書」への回答」と題する書面を送付し 局保険課長は,平成16年9月15日付けで,申立人に対し,本件意見陳述書に対する回答を記載した「平成16年6月23日付「不利益処分の原因となる事実に対する意見陳述書」への回答」と題する書面を送付した。【疎甲17】コ監察官は,平成16年9月24日,申立人に対して本件聴聞(第2回)を実施した。申立人代理人は,同聴聞の期日において,監察官に対し,同日付けの「不利益処分の原因となる事実に対する第2回意見陳述書」と題する書面を提出して,事務局長が本件意見陳述書に対して十分な回答をしていないので,その点を詳細に回答するよう求めた。しかし,これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)は,これ以上回答することはなく事実は監査の結果のとおりである,申立人の弁明は承った旨述べたが,申立人側がその内容に納得しなかったため,監察官は,本件聴聞の期日を続 行することとした。【疎甲14,18,疎乙12,13】サ監察官は,平成17年2月21日,申立人に対して本件聴聞(第3回)を実施した。申立人代理人は,同聴聞の期日において,事務局長に対して再度本件意見陳述書に対する十分な回答を求めたが,これに対して事務局長(京都社会保険事務局職員)が,事実は監査の結果のとおりであって事実誤認はなかった,ただ申立人の指摘する事項については回答するかどうかを検討する旨述べたため,監察官は,本件聴聞の期日を続行することとした。【疎甲15,18,疎乙14】シ申立人は,平成18年3月23日,本件登録取消処分の差止めを求める本案事件を提起し,同月31日,本件登録取消処分の仮の差止めを求める本件申立てをした。 ス監察官は,平成18年4月24日,申立人に対して本件聴聞(第4回)を実施したところ,事務局長がこれ以上回答することはない旨述べたことなどから,本件聴聞を終結した。 (3 める本件申立てをした。 ス監察官は,平成18年4月24日,申立人に対して本件聴聞(第4回)を実施したところ,事務局長がこれ以上回答することはない旨述べたことなどから,本件聴聞を終結した。 (3)申立人は,現在,保険医療機関である医療法人C歯科医院において,常勤の勤務医として歯科診療に当たっている。なお,相手方は,同医院には,平成18年4月11日時点で,常勤の勤務医として19名の歯科医師(申立人を含む。)が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている旨主張しているところ,申立人は,その点について争っていない。 (4)厚生労働省が平成17年6月に実施した第15回医療経済実態調査結果(速報値)によると,①歯科診療所(個人)における全収入のうち,保険診療収入の占める割合は86.7%,労災等診療収入の占める割合は0.1%,その他の診療収入の占める割合は10.7%,その他の医業収入の占める割合は2.4%,介護収入の占める割合は0.1%であり,②歯科診療所(その他)における全収入のうち,保険診療収入の占める割合は81.3%,労災等診療収入の占める割合は0.1%,その他の診療収入の占める割 合は17.9%,その他の医業収入の占める割合は0.6%,介護収入の占める割合は0.2%である。【疎甲23】 本案訴訟の適法性について(1)行政事件訴訟法37条の5第2項は,差止めの訴えの提起があった場合において,その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について理由があるとみえるときは,裁判所は,申立てにより,決定をもって,仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることができる旨規定している。同項の規定の文言に加えて,同項の仮の差止めの いて理由があるとみえるときは,裁判所は,申立てにより,決定をもって,仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることができる旨規定している。同項の規定の文言に加えて,同項の仮の差止めの制度は,差止めの訴えの本案判決の確定を待っていたのでは償うことのできない損害を生ずるおそれがある場合に迅速かつ実効的な権利利益の救済を可能にするため,一定の要件の下で,行政庁が当該処分をすることを事前に仮に差し止める仮の救済の制度として法定されたものである趣旨に照らすと,仮の差止めの申立ては,本案訴訟である差止めの訴えが適法な訴えとして提起されていることをその適法要件としていると解される。 しかるところ,行政事件訴訟法は,差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起することができるものとし(3条7項,37条の4第1項),ただし,その損害を避けるため他に適当な方法があるときは,この限りでないと規定している(同項ただし書)。平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正により抗告訴訟の新たな訴訟類型として同法3条7項所定の差止めの訴えが定められた趣旨は,処分又は裁決がされた後に当該処分の取消しの訴えを提起し,当該処分又は裁決について同法25条に基づく執行停止を受けたとしても,それだけでは十分な権利利益の救済が得られない場合があることにかんがみ,処分又は裁決の取消しの訴えによる事後救済 に加えて,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,事前の救済方法として,一定の要件の下で行政庁が当該処分又は裁決をすることを事前に差し止める訴訟類型を新たに法定するこ の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,事前の救済方法として,一定の要件の下で行政庁が当該処分又は裁決をすることを事前に差し止める訴訟類型を新たに法定することにより,国民の権利利益の救済の実効性を高めることにあるものと解される。そして,同法37条の4第1項が差止めの訴えは一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起することができるものと規定した趣旨は,差止めの訴えが,取消訴訟と異なり,処分又は裁決がされる前に,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済のための訴訟類型であることにかんがみ,事前救済を認めるにふさわしい救済の必要性を差止めの訴えの適法要件として規定することにより,司法と行政の適切な役割分担を踏まえつつ行政に対する司法審査の機能を強化し国民の権利利益の実効的な救済を図ることにあると解される。これらの趣旨からすれば,同項にいう一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合とは,それを避けるために事前救済としての当該処分又は裁決をしてはならないことを命ずる方法による救済が必要な損害を生ずるおそれがある場合をいうものと解されるのであって,一定の処分又は裁決がされることにより損害を生ずるおそれがある場合であっても,当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴えを提起して同法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質,程度のものであるときは,同法37条の4第1項にいう一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合には該当しないものと解すべきである。 そこで,以上の観点から,本件登録取消処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に当たるか 裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合には該当しないものと解すべきである。 そこで,以上の観点から,本件登録取消処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に当たるか否かについて,以下検討することとする。 (2)保険医登録取消処分に関係する法令の定め ア被保険者(適用事業所(健康保険法3条3項)に使用される者及び任意継続被保険者(同条4項)をいう。同条1項)の疾病又は負傷に関しては,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③処置,手術その他の治療,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,の療養の給付を行う(同法63条1項)。 上記の療養の給付を受けようとする者は,①厚生労働大臣(同法204条1項,健康保険法施行令63条1項11号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)の指定を受けた病院又は診療所(保険医療機関),②特定の保険者が管掌する被保険者に対して診療を行う病院又は診療所であって,当該保険者が指定したもの,③健康保険組合である保険者が開設する病院又は診療所,のうち自己の選定するものから受けるものとされている(同法63条3項)。なお,保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師又は歯科医師は,厚生労働大臣(同法204条1項,同施行令63条1項11号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)の登録を受けた医師又は歯科医師(以下「保険医」と総称する。)でなければならない(同法64条)。 ところで,保険医療機関から療養の給付を受ける者は,その給付を受ける際,一定の額を,一部負担金として,当該保険医療機関に支払わなければならない(同法74条1項)。また,保険者は,療養の給付に関 )。 ところで,保険医療機関から療養の給付を受ける者は,その給付を受ける際,一定の額を,一部負担金として,当該保険医療機関に支払わなければならない(同法74条1項)。また,保険者は,療養の給付に関する費用を保険医療機関に支払うものとし,保険医療機関が療養の給付に関し保険者に請求することができる費用の額は,療養の給付に要する費用の額から,当該療養の給付に関し被保険者が当該保険医療機関に対して支払わなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とされ(同法76条1項),保険者は,保険医療機関から療養の給付に関する費用の請求があったときは,審査の上,支払うものとされている(同法76条4項)。 イ保険医療機関は,当該保険医療機関において診療に従事する保険医に,厚生労働省令で定めるところにより,診療に当たらせるほか,厚生労働省令で定めるところにより,療養の給付を担当しなければならず(健康保険法70条1項),保険医療機関において診療に従事する保険医は,厚生労働省令で定めるところにより,健康保険の診療に当たらなければならない(同法72条1項)。なお,保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号。以下「療養担当規則」という。)は,同項の規定を受けて,保険医療機関の療養担当及び保険医の診療方針等について規定しているところ,療養担当規則は,保険医の診療方針等として,保険医の診療は,一般に医師又は歯科医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して,適確な診断をもととし,患者の健康の保持増進上妥当適切に行わなければならない(12条),保険医は,診療に当たっては,懇切丁寧を旨とし,療養上必要な事項は理解し易いように指導しなければならない(13条),保険医は,診療に当たっては常に医学の立場を堅持して,患者の心身の状態 (12条),保険医は,診療に当たっては,懇切丁寧を旨とし,療養上必要な事項は理解し易いように指導しなければならない(13条),保険医は,診療に当たっては常に医学の立場を堅持して,患者の心身の状態を観察し,心理的な効果をも挙げることができるよう適切な指導をしなければならない(14条),保険医は,患者に対し予防衛生及び環境衛生の思想のかん養に努め,適切な指導をしなければならない(15条),保険医は,患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき,又はその診療について疑義があるときは,他の保険医療機関へ転医させ,又は他の保険医の対象を求める等診療について適切な措置を講じなければならない(16条),保険医は,その診療した患者の疾病又は負傷に関し,他の保険医療機関又は保険医から照会があった場合には,これに適切に対応しなければならない(16条の2),保険医は,患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるという理由によって,みだりに,施術業者の施術を受けさせることに同意を与えてはならない(17条),保険医は,原則として,特殊な療法又は新しい療養等 については,厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない(18条),保険医は,原則として,厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し,又は処方してはならない(19条1項),歯科医師である保険医は,原則として,厚生労働大臣の定める歯科材料以外の歯科材料を歯冠修復及び欠損補綴において使用してはならない(同条2項),保険医は,診療に当たっては,健康保険事業の健全な運営を損なう行為を行うことのないよう努めなければならない(19条の2),保険医は,患者の診療を行った場合には,遅滞なく,所定の様式の診療録に,当該診療に関し必要な事項を記載しなければならない(22条),保険医は,処方せ とのないよう努めなければならない(19条の2),保険医は,患者の診療を行った場合には,遅滞なく,所定の様式の診療録に,当該診療に関し必要な事項を記載しなければならない(22条),保険医は,処方せんを交付する場合には,所定の様式の処方せんに必要な事項を記載しなければならない(23条1項),保険医は,その行った診療に関する情報の提供等について,保険医療機関が行う療養の給付に関する費用の請求が適正なものとなるよう努めなければならない(23条の2),などと規定している。 そして,保険医療機関は療養の給付に関し,保険医は健康保険の診療に関し,厚生労働大臣(同法204条1項,健康保険法施行令63条1項13号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)の指導を受けなければならず(同法73条1項),厚生労働大臣(同法204条1項,同施行令63条1項13号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関若しくは保険医療機関の開設者若しくは管理者,保険医その他の従業員であった者に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関の開設者若しくは管理者,保険医その他の従業者に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる(同法78条1項)。 ウ厚生労働大臣(健康保険法204条1項,健康保険法施行令63条1項11号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)は,保険医療機関において診療に従事する保険医が,同法72条1項の規定に違反したとき(当該違反を防止するため,当該保険医療機関が相当の注意及び監督を尽くしたときを除く。)な 局長に委任されている。)は,保険医療機関において診療に従事する保険医が,同法72条1項の規定に違反したとき(当該違反を防止するため,当該保険医療機関が相当の注意及び監督を尽くしたときを除く。)など,同法80条各号のいずれかに該当する場合においては,当該保険医療機関に係る指定を取り消すことができる(同法80条)。 また,厚生労働大臣(同法204条1項,同施行令63条1項11号により,その権限は地方社会保険事務局長に委任されている。)は,①保険医が,同法72条1項の規定に違反したとき,②保険医が,同法78条1項の規定により出頭を求められてこれに応ぜず,同項の規定による質問に対して答弁せず,若しくは虚偽の答弁をし,又は同項の規定による検査を拒み,妨げ,若しくは忌避したとき,③同法以外の医療保険各法又は老人保健法による診療に関し,上記①,②のいずれかに相当する事由があったとき,のいずれかに該当する場合においては,当該保険医に係る登録を取り消すことができる(同法81条)。なお,地方社会保険事務局長は,保険医が登録の取消しによって保険医でなくなったときは,速やかに,①医師又は歯科医師の氏名並びに登録の記号及び番号,②保険医が登録の取消しによって保険医でなくなった旨及び登録の取消しの年月日,を公示する(同法71条4項,保険医療機関及び保険薬局の指定並びに特定承認保険医療機関の承認並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する政令(昭和32年政令第87号)9条)が,その公示は,地方社会保険事務局の掲示場に掲示することによって行うものとされている(保険医療機関及び保険薬局の指定並びに特定承認保険医療機関の承認並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令(昭和32年厚生省令第13号)13条)。 (3)上記のとおり,被保険者は,厚生労働大臣の指定 医療機関及び保険薬局の指定並びに特定承認保険医療機関の承認並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令(昭和32年厚生省令第13号)13条)。 (3)上記のとおり,被保険者は,厚生労働大臣の指定を受けた病院又は診療所 (保険医療機関)等のうち自己の選定するものから療養の給付(①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③処置,手術その他の治療,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護)を受けるものとされているところ,保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師又は歯科医師は,厚生労働大臣の登録を受けた保険医でなければならず,保険医療機関は,当該保険医療機関において診療に従事する保険医に診療に当たらせなければならないとされていることから,保険医である歯科医師は,保険医登録取消処分を受けることにより,保険医療機関における健康保険の診療に従事することができなくなる。もっとも,歯科医師に対する保険医登録取消処分は,当該歯科医師に対する歯科医師免許の効力には何ら影響を与えないため,保険医登録取消処分を受けた歯科医師が健康保険の診療以外の診療に従事すること自体は,何ら法令上禁止されていないものと解される(歯科医師法2条,17条参照)。 また,前記認定事実によれば,申立人は,平成15年7月31日付けで自らが開設及び管理していた保険医療機関(本件歯科医院)を廃止した旨を届け出ており,現在は,保険医療機関である医療法人C歯科医院において,常勤の勤務医として歯科診療に当たっているところ,同医院には,平成18年4月11日時点で,申立人を含めて常勤の勤務医として19名の歯科医師が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている事実が一応認められる。 っているところ,同医院には,平成18年4月11日時点で,申立人を含めて常勤の勤務医として19名の歯科医師が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている事実が一応認められる。 (4)以上述べたところによれば,本件登録取消処分がされることにより申立人は保険医療機関における健康保険の診療に従事することができなくなる。もっとも,歯科医師に対する保険医登録取消処分は,当該歯科医師に対する歯科医師免許の効力に直ちに法的影響を与えるものではなく,保険医登録取消処分がされた場合においても,別途当該歯科医師に対する歯科医師の免許が 法定の取消事由(歯科医師法7条1項,2項)に該当するものとして取り消されない限り,当該歯科医師が健康保険の診療以外の診療に従事すること自体は,何ら法令上禁止されていない。しかしながら,前期認定のとおり,厚生労働省が平成17年6月に実施した調査結果によると,歯科診療所における全収入のうち保険診療収入の占める割合が8割を超えている(個人歯科診療所においては86.7%,その他の歯科診療所においては81.3%となっている。)というのであり,これらによっても,健康保険の診療が保険医療機関の指定を受けた歯科診療所における歯科診療の相当部分を占めており,また,歯科診療所の相当部分が保険医療機関の指定を受けている事実が容易に推認される。そうであるとすれば,本件登録取消処分がされた場合,申立人が勤務先の保険医療機関(医療法人C歯科医院)において健康保険の診療以外の診療に現実に従事し得る機会がどの程度存するのか疑問というべきである。このことに加えて,前記認定のような勤務先医療法人の規模及び人員構成(申立人を含めて常勤の勤務医として19名の歯科医師が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている。) である。このことに加えて,前記認定のような勤務先医療法人の規模及び人員構成(申立人を含めて常勤の勤務医として19名の歯科医師が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている。)等にもかんがみると,当該医療法人において申立人を常勤にせよ非常勤にせよ勤務医として雇用し続けることについて当該利用法人の経営上の合理性が存するのか疑問というべきであって,申立人の主張するとおり,本件登録取消処分がされた場合,申立人が当該医療法人を退職することを余儀なくされる具体的なおそれがないとはいえないというべきである。また,以上説示したところからすれば,申立人が当該医療法人を退職することを余儀なくされた場合,他の医療機関に常勤又は非常勤の勤務医として雇用される現実的可能性も低いものといわざるを得ず,さらに,前記認定のとおり申立人が診療所としての本件歯科医院を廃止しているところからして申立人が自ら歯科医業(健康保険の診療以外の診療しか行い得ない。)を営むことも困難であるといわざるを得ない。 以上のとおり,本件登録取消処分がされた場合,申立人は,勤務先の保険医療機関(医療法人C歯科医院)において健康保険の診療に従事することができなくなることによる収入の減少にとどまらず,当該医療機関を退職することを余儀なくされ,他の医療機関に雇用されることも自ら歯科医業(健康保険の診療以外の診療に限られる。)を営むこともできず,歯科医業を行うことにより収入を得るみちが絶たれる具体的なおそれがないとはいえないのであって,申立人に生ずる損害の程度は決して小さくはないものというべきである。のみならず,前記のとおり,保険医の登録の取消しは,保険医が健康保険法72条1項の規定に違反したとき等に行うものとされ,疎乙6,7によれば,保険医の登録の取消しは,保険医が いものというべきである。のみならず,前記のとおり,保険医の登録の取消しは,保険医が健康保険法72条1項の規定に違反したとき等に行うものとされ,疎乙6,7によれば,保険医の登録の取消しは,保険医が,故意に不正又は不当な診療を行ったもの,故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの,重大な過失により不正又は不当な診療をしばしば行ったもの,重大な過失により不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの,のいずれか1つに該当するときに行われる運用がされている事実が認められ,保険医の登録の取消しがされた場合,地方社会保険事務局長は,速やかに当該医師又は歯科医師の氏名等を地方社会保険事務局の掲示場に掲示する方法により公示するものとされているほか,疎甲24によれば,その氏名等がインターネットの厚生労働省のホームページに掲載されるなどして一般に公表されている事実がうかがわれるのであって,このことからすれば,本件登録取消処分がされることにより,申立人について上記の財産的損害に加えて社会的評価ないし信用の低下に係る損害が生じるおそれがあるというべきである。 しかしながら,保険医登録取消処分は,療養担当規則が定める診療方針等に反する健康保険の診療等を行った保険医を排除することにより,健康保険事業の健全な運営及び適正な費用の請求等を確保し,もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする処分であって,前記のとおり,当該保険医が歯科医師である場合においても,歯科医師に対する保険医登録 取消処分は,当該歯科医師に対する歯科医師免許の効力に直ちに法的影響を与えるものではなく,保険医登録取消処分がされた場合においても,別途当該歯科医師に対する歯科医師の免許が法定の取消事由(歯科医師法7条1項,2項)に該当するものとして取り消されない限り,当該 影響を与えるものではなく,保険医登録取消処分がされた場合においても,別途当該歯科医師に対する歯科医師の免許が法定の取消事由(歯科医師法7条1項,2項)に該当するものとして取り消されない限り,当該歯科医師が健康保険の診療以外の診療に従事すること自体は,何ら法令上禁止されていないのであり,保険医登録取消処分が直ちに当該歯科医師の歯科医師としての知識及び技能その他適性の欠如に結び付くものではない。このような保険医登録取消処分の内容及び性質に加えて,前記1(2)において認定した申立人に対する本件監査の実施から本件歯科医院の廃止を経て医療法人C歯科医院に勤務するに至る一連の経緯にもかんがみると,それ以上の疎明を欠く本件においては,本件登録取消処分がされて公示,公表等されることにより,その時点で直ちに勤務先医療法人の退職を余儀なくされ,後に当該処分について行政事件訴訟法25条2項に基づく執行停止がされた場合であっても,歯科医業を行うことにより収入を得るみちがもはや事実上絶たれるものとまで直ちに認めることは困難というべきである。 このことに加えて,本件登録取消処分がされることにより申立人に生じるおそれのある主たる損害が歯科医業による収入の減少ないし喪失という財産上のものであることにもかんがみると,上記事実関係の下においては,当該損害は,本件登録取消処分の取消しの訴えを提起して行政事件訴訟法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることができるような性質,程度のものであるといわざるを得ない。 もっとも,本件登録取消処分がされることにより申立人に生じるおそれのある前記のような社会的評価ないし信用の低下に係る損害は,その性質上,必ずしも本件登録取消処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであると るおそれのある前記のような社会的評価ないし信用の低下に係る損害は,その性質上,必ずしも本件登録取消処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることができるような性質のものであると断ずることはできないが,前記のとおり,保険医登録取消処分が直ちに当該歯科医師の歯科医師と しての知識及び技能その他適性の欠如に結び付くものではなく,当該損害の内容,性質及び程度にもかんがみると,同法37条の4第1項にいう重大な損害に当たるということはできないものというべきである。 さらに,前記認定の申立人の勤務先医療法人の規模及び人員構成(申立人を含めて常勤の勤務医として19名の歯科医師が,非常勤の勤務医として4名の歯科医師が保険医として登録されている。)等に照らすと,本件登録取消処分の結果申立人が同医療法人において健康保険の診療に従事することができなくなることにより直ちに同医療法人にその経営上重大な損害が生ずるおそれがあるとは認め難く,また,申立人が同医療法人において健康保険の診療に従事することができなくなることによりそれまで申立人の診療を受けていた患者の生命,健康に直ちに重大な危険が生ずるおそれがあることについての疎明もない。なお,申立人は,本件登録取消処分がされることにより,申立人は,本件登録取消処分が取り消されるまでの間,歯科医師としての技量の低下や治療技術の進歩に後れるという不利益を受ける旨主張するが,当該不利益の内容,性質等に照らしても,そのような不利益ないし損害が本件登録取消処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることによっては避けることができないようなものであるとは認め難い。 (5)以上検討したところによれば,本案訴訟としての本件登録取消処分の差止めの訴えは,行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決 避けることができないようなものであるとは認め難い。 (5)以上検討したところによれば,本案訴訟としての本件登録取消処分の差止めの訴えは,行政事件訴訟法37条の4第1項にいう「一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合」の要件を欠く不適法な訴えというほかないから,本件仮の差止めの申立ては,本案訴訟としての適法な差止めの訴えの提起を欠くものとして,その余の点について判断するまでもなく,不適法であり,却下を免れない。 結論 以上によれば,本件申立ては不適法であるから,これを却下すべきである。 よって,主文のとおり決定する。 平成18年5月22日大阪地方裁判所第2民事部裁判長裁判官西川知一郎裁判官岡田幸人裁判官和久一彦
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