- 1 -平成19年6月6日判決言渡平成16年(ワ)第439号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成19年4月11日主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,1945万1807円及びこれに対する平成16年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告が,被告の開設しているA外科・整形外科(以下「被告医院」という)において左第1趾伸展筋腱の腱縫合手術を受けたところ,手術の方法並びにギプスの固定方法等の過失,手術後の経過観察義務違反及び手術前後の説明義務違反により,再縫合不能の状況に陥り,労働者災害補償保険法施行規則別表障害等級表第12級の11に該当する後遺障害を負ったと主張し,被告に対し,診療契約上の債務不履行に基づいて,損害金1945万1807円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成16年8月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提となる事実(証拠の記載がない部分は当事者間に争いがない)(1) 原告は,昭和53年2月15日生まれの男性であり,平成10年に大学に入学し,平成15年10月当時,大学に在学中であった。また,原告は,ロッククライミングを趣味としていた(原告本人,弁論の全趣旨)。 被告は,肩書住所地において被告医院を開業している医師である(被告。 本人,弁論の全趣旨)(2) 原告は,平成15年10月19日,草刈りばさみを左足背に落として左第- 2 -,,。 ,1趾を負傷し同月22日被告医院において被告の診察を受けたその際被告は,左第1趾伸展筋腱群断裂と診断し,原告に対し,腱縫合手術の必要性と同手術内容について説明をした。 (3 -,,。 ,1趾を負傷し同月22日被告医院において被告の診察を受けたその際被告は,左第1趾伸展筋腱群断裂と診断し,原告に対し,腱縫合手術の必要性と同手術内容について説明をした。 (3) 原告は,同月25日,被告医院で受診した際,被告から,再度,腱縫合手術について説明をされ,同手術を受けることとした。 (4) 原告は,同月27日,被告医院で,被告による左長母趾伸筋腱及び左短母(「」)(「」趾伸筋腱以下併せて本件伸筋腱というの縫合手術以下本件手術という)を受け,本件手術後,左足膝下から足先までをギプス固定された。 ,,,,(5) 被告は同年11月25日新しいギプスに巻き直し同年12月12日そのギプスを外した。原告は,同日,同月15日及び同月17日に被告医院でリハビリを受けた(甲A5)。 (6) 原告は,同月24日,岐阜県a市所在のB外科でC医師(以下「C医師」又は「C」という)の診察を受けたところ,C医師から,本件伸筋腱がつながっていない旨指摘された(証人C)。 ,,(「」(7) C医師は同月25日原告の本件伸筋腱の縫合手術以下本件再手術という)を行ったが,縫合不能の状態にあったため,縫合を断念した。 争点 (1) 過失ア本件手術の方法についての過失の有無イギプス固定についての過失の有無(ア) ギプス固定の方法(イ) ギプス固定の期間ウ本件手術後の経過観察義務違反の有無エ説明義務違反の有無(2) 損害額 争点に対する当事者の主張- 3 -(1) 争点(1)ア(本件手術の方法についての過失の有無)についてア原告の主張(ア) 腱は,腱線維が集束したものであるため,縦に裂けやすく,腱の断裂面と断裂面を縫合しただけでは縫合不全(再断裂)を起こすことは )ア(本件手術の方法についての過失の有無)についてア原告の主張(ア) 腱は,腱線維が集束したものであるため,縦に裂けやすく,腱の断裂面と断裂面を縫合しただけでは縫合不全(再断裂)を起こすことは予見しうる。したがって,腱縫合手術においては,キルヒマイヤー法による縫合手術をしなければならないところ,被告は,単に腱の断裂面と断裂,,面を縫合する手術をしキルヒマイヤー法による縫合をしなかったため腱の縫合不全又は再断裂を発生させた。 (イ) 被告は,本件手術の際,腱断端及びその周辺組織の新鮮化(デブリードマンあるいはトリミング)を行うべきであったのに,それを行わなかった。 イ被告の主張(ア) 被告は,キルヒマイヤー法に準じた方法(キルヒマイヤー変法)により本件手術を行っており,本件手術の方法は適切であった。 (イ) 本件は,切創であり,断端は鋭く切れ,その状態で腱鞘内奥深く伸筋支帯部まで引き込まれ温存されていたため,腱切断端は挫滅されていないこと,断端の鈍化,瘢痕化,癒着,陳旧化はほとんどないことから,いたずらに腱の長さを短くし,術後の十分な腱の伸展を阻害するデブリードマンは不要であった。 (2) 争点(1)イ(ア)(ギプス固定の方法についての過失の有無)についてア原告の主張本件手術後,左第1趾をギプス固定する場合は,患指が動かないように足関節を多少背屈位(10度程度)に持っていき,足底部の巻き綿を極力薄くする必要がある。しかし,被告は,足底部の巻き綿の厚みの調節を怠,,るなどしてギプス固定を十分にしなかったため腱に余分な張力が加わり腱の再断裂を発生させた。 - 4 -イ被告の主張被告は,本件手術後,原告の左足をギプス固定したが,その方法は,手術台の上で,左膝下,下腿,足先まで綿製の褥材を巻き,左足関節やや背屈位,左第 腱の再断裂を発生させた。 - 4 -イ被告の主張被告は,本件手術後,原告の左足をギプス固定したが,その方法は,手術台の上で,左膝下,下腿,足先まで綿製の褥材を巻き,左足関節やや背屈位,左第1趾背屈位の状態でギプスを巻くというものであり,ギプス固定の方法は適切であった。また,平成15年11月25日に行ったギプス固定の方法も適切であった。 (3) 争点(1)イ(イ)(ギプス固定の期間についての過失の有無)についてア原告の主張ギプス固定の期間は,短すぎると腱の再断裂を招き,長すぎると拘縮を招くため,手術中の縫合状態を確認しながらギプス固定の方法,期間を考え,固定期間を判断するものである。そして,腱縫合手術後は2,3週間でギプスを外さなければ腱の癒着が起きて,背屈も底屈もできなくなる可能性があるにもかかわらず,被告は,漫然と1か月半もギプス固定して腱の癒着を生じさせた。 イ被告の主張被告は,平成15年10月27日に原告の左足をギプス固定した後,同月28日にギプスの状態を確認して一部を修理し,同月31日,ギプスの足背部をギプスカッターで開窓したところ,手術創部の状態は良好であった。そして,同年11月25日,予定どおりギプスを一旦割除し,下腿,足部をエタノール等で清拭して再度ギプスを巻き,同年12月12日,予定どおりギプスを全割除し,原告の左第1趾の自動屈伸が可能であることを確認した。よって,本件手術後からギプスを外すまでの期間,処置は適切であった。 (4) 争点(1)ウ(本件手術後の経過観察義務違反の有無)についてア原告の主張(ア) 腱縫合は腱が再生されて縫合部が癒合するまでの間,断端を正しい位- 5 -置に保持する役目を果たすから,被告は,腱縫合手術後は腱の断端が正しい位置に保持されているかどうか,再断裂が発生していない 腱縫合は腱が再生されて縫合部が癒合するまでの間,断端を正しい位- 5 -置に保持する役目を果たすから,被告は,腱縫合手術後は腱の断端が正しい位置に保持されているかどうか,再断裂が発生していないかを注意深く観察すべき義務があった。 そして,本件再手術の際,本件伸筋腱の中枢部の引き込みが強く縫合不能の状態であったこと,仮に,腱が一度つながって再び断裂した場合は,一度つながった部分が盛り上がって太くなっているはずであるが,そのような状態は認められなかったことから,本件手術後の早い段階で再断裂が生じていたと考えられるので,被告は,平成15年11月25日又は同年12月12日に原告のギプスを外して左第1趾が全く動かないことを確認した時点で,再断裂が生じている可能性を容易に認識し得た。しかし,被告は,上記観察義務を怠り,再断裂を発見することなく放置したため,再縫合不能の状態に陥った。 ,,,(イ) 被告は同日原告の左第1趾に自動伸展がないことを確認しており足肢運動機能障害あるいは再断裂のいずれかの可能性があったのであるから,被告には,同日以降に,原告の腱とその周辺組織の癒着や瘢痕が柔軟化し,関節の拘縮がある程度改善しているかどうかを確認して,再断裂の発生の有無を観察すべき義務があった。しかし,被告は,原告が診察を希望したにもかかわらず,リハビリだけですませるなどし,上記観察義務を怠り,再断裂を発見することなく放置したため,再縫合不能の状態に陥った。 イ被告の主張被告は,同年11月25日及び同年12月12日,原告の左第1趾が屈伸可能であることを確認した上,原告に対し,動くからといって趾の屈伸を最大限には行わないように指導した。原告は,同月17日にリハビリの,。 ために被告医院を訪れたがその後は同月25日まで来院していなかった,, を確認した上,原告に対し,動くからといって趾の屈伸を最大限には行わないように指導した。原告は,同月17日にリハビリの,。 ために被告医院を訪れたがその後は同月25日まで来院していなかった,,,,また被告は原告から左第1趾が動かないと訴えられたことはないし- 6 -原告からの診察依頼を断ったこともない。 (5) 争点(1)エ(説明義務違反の有無)についてア原告の主張(ア) 高度な専門的知識を有する医師は,診療行為に際し,患者に対して説明義務があり,その内容としては,自己決定権を有する原告が,どのような医療施設でどのような治療行為を受けるのかを選択する上で,誤解や過度の期待をすることなく熟慮し判断する機会を与え,的確な自己決定を行うことについての十分な情報を提供し説明する義務を負う。とりわけ,本件手術のように,身体への侵襲を伴う手術については,手術の内容・方法のほかに,手術の難易度,手術に付随する危険性,成功の確率,手術後の見通し,手術が失敗した場合に予想される後遺障害の発生の有無及び後遺障害の内容・程度を説明すべきであった。また,腱縫合に際しては,縫合部と周囲組織の癒着が必ず発生するのであるから,術後に患趾の機能改善が完全に正常化するとは必ずしもいえず,再断裂の可能性があり,これらのリスクや術後に発生しうる問題点及びその予防と対策について説明する必要があった。 しかし,被告は,自らを腱縫合手術治療ができる県下でも有数の医師であると紹介し,腱縫合手術の内容及び方法を詳しく説明した上,手術をすればほぼ100パーセントの確率で間違いなく腱がつながると述べて,手術を受けるよう原告を積極的に勧誘し,腱がつながらない可能性や手術後の再断裂の可能性等のリスクについては説明しなかった。その,,。 ため原告は熟慮して判断する 間違いなく腱がつながると述べて,手術を受けるよう原告を積極的に勧誘し,腱がつながらない可能性や手術後の再断裂の可能性等のリスクについては説明しなかった。その,,。 ため原告は熟慮して判断する機会を逸したまま本件手術に同意した(イ) 本件手術後においては,再断裂の危険性があるから,ギプスを外したときには縫合の成否について予後を確認し,再断裂の可能性があれば,原告に説明した上で,選択しうる治療方法,転医の可能性について説明し,原告に治療の続行についての同意を得なければならなかった。 - 7 -しかし,被告は,原告に対し,衝撃を与えてはいけない,床に足をついたり,ギプスをぶつけたりしてはいけないと注意したのみで,原告のギプスを外した際に左第1趾が動かなかったにもかかわらず安易につながっていると説明して再断裂の症状を看過したため,原告から治療の続行,転医についての選択の機会を奪い,腱の縫合がなされないまま癒着を進行させ,再縫合不能に至らせた。 イ被告の主張被告は,平成15年10月22日,原告が被告医院を訪れた際,腱断裂の意味と手術について一通りの説明をした上,一旦家に帰って家族とどこで手術を受けるか相談するように述べた。原告は,同月25日に一人で被告医院を訪れ,被告医院で手術を受けることを希望したので,被告は,手術の内容についてさらに説明をした。被告は,原告に,手術をすれば100パーセント腱がつながるなどと言ったことはない。また,被告は,本件手術後においても,原告に十分な説明をした。 (6) 争点(2)(損害額)についてア原告の主張(ア) 逸失利益1645万1807円原告は,上記被告の過失により,労働者災害補償保険法施行規則別表障害等級表第12級の11「1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの」に該当する後遺障害を ア) 逸失利益1645万1807円原告は,上記被告の過失により,労働者災害補償保険法施行規則別表障害等級表第12級の11「1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの」に該当する後遺障害を負い,労働能力の14パーセントを喪失した。原告は,本件手術当時25歳の男子大学生であり,平成14年度賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・男性労働者大卒全年齢平均は674万4700円であり,就労可能年数42年のライプニッツ係数は17.423であるから,逸失利益は,674万4700円×0.14×17.423=1645万1807円となる。 - 8 -(イ) 慰謝料300万円原告は,大学に在学し,ロッククライミングを趣味としていたのに,左第1趾が使えなくなり,上記後遺障害を残した。これに対する慰謝料としては300万円を下らない。 イ被告の主張争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)ア(本件手術の方法についての過失の有無)について(1) 前掲の前提となる事実及び後掲各証拠によれば,以下の各事実が認められる。 ア原告は,平成15年10月19日,草刈りばさみを左足背に落として左第1趾を負傷したが,血が止まったことから,大丈夫と思い,テーピングを行っただけですませた。しかし,その後,原告が,左第1趾に力が入ら,,,ず垂れ下がった状態であることに気付き近くの接骨院に行ったところ腱が切れていると言われた。そのため,原告は,同月22日,被告医院において被告の診察を受けた。被告は,左第1趾伸展筋腱断裂と診断し,原告に対し,治すには腱縫合手術をする必要がある旨述べた(甲A2,A。 12,A13,乙A1,原告本人,被告本人)イさらに,被告は,腱は縦線維の集まりなので普通に縫うと抜けてしまうため,特殊な縫合法が必要であると原告に説明し をする必要がある旨述べた(甲A2,A。 12,A13,乙A1,原告本人,被告本人)イさらに,被告は,腱は縦線維の集まりなので普通に縫うと抜けてしまうため,特殊な縫合法が必要であると原告に説明し,解剖学書を見せたり,特殊な縫合法の図を描くなどした。また,被告は,断裂した腱は引き込まれてしまうので,腱を引き出すのに特殊な器具が必要であるが,被告医院には腱を引っ張るためのアヒルの嘴のような形をした特殊器具がある旨述べるとともに,実際にその器具を原告に見せた。さらに,被告は,腱の修復には長い時間が必要であり,しっかりとした固定が必要であるため,手術後は,足の指先から中足骨にキルシュナー鋼線というピンを入れて固定- 9 -すると説明した。そして,切れた腱を縫う大変な手術であるが,順当な手術をし,順当な経過をたどれば一般的にさほど問題はない旨を述べ,さらに,腱縫合ができる整形外科はそんなにはないが,被告医院では手術ができる旨述べるとともに,手術が可能な他の医療機関を紹介するなどした。 そして,被告は,原告に,家族と相談するように述べ,左第1趾をアルミ副子で固定した後,一旦帰宅させた(甲A2,A11,乙A1,A4,A。 5,原告本人,被告本人)ウ原告は,同月25日,再度,被告医院で受診した。その際,被告は,原告に対し,再度,腱縫合手術について詳しい説明をするとともに,手術で用いる麻酔について,局所浸潤麻酔であること,歯医者が歯の治療に特によく使う薬(キシロカイン)であることを説明した。さらに,被告は,手術後の処置について,キルシュナー鋼線を入れる方法だけではなく,ギプス固定の方法があり,手術の状況によって選択する旨述べ,キルシュナー鋼線の入った他の患者のレントゲン写真を原告に見せた。また,被告は,腱は一般に骨よりも修復するのが遅く,普通 方法だけではなく,ギプス固定の方法があり,手術の状況によって選択する旨述べ,キルシュナー鋼線の入った他の患者のレントゲン写真を原告に見せた。また,被告は,腱は一般に骨よりも修復するのが遅く,普通は完全に修復するのは何週間もかかるため,ギプスの固定期間としては約6週間である旨説明した。そうした説明を受け原告は被告医院で腱縫合手術を受けることにした甲,,。 (A2,乙A6,原告本人,被告本人)エ被告は,同月27日,被告医院において,本件手術を行った。被告は,本件手術前,左第1趾を背屈位にした状態で,左足底部より左第1趾先端までアルフェンス(厚さ約1.5ミリメートルのアルミ板に約5ミリメートル厚のウレタンフォームを貼り付けた指等の固定装具)で固定して本件手術を開始した。本件伸筋腱は,刺創部で切断され,中枢端に深く引き込まれていたが,被告は,いずれについても4-0のナイロン糸を用いて縫,。 合手術を行った後接合部に5-0ナイロン糸を用いて補正縫合を行ったまた,被告は,本件手術において,他の医師に写真撮影をしてもらってい- 10 -た(甲A5,乙A1,A4,A6,被告本人,鑑定の結果,弁論の全趣。 旨),,,,オ被告は本件手術後手術ベッド上でアルフェンスを装着したままで左下腿膝下より左足全趾尖まで,ギブス下巻き用褥材である巻軸帯状のギプスコットンを巻き,その上をキャスティングテープで足関節背屈位,第1趾MP関節(第1趾付け根の関節)背屈位にギプスを固定した(甲A。 5,乙A1,A4,A6,被告本人)カ被告が,同月28日,原告のギプスの状態を確認したところ,良好であった(甲A5)。 キ被告は,同月31日,術後創傷処置(手術をした後の創面を清潔にするための観察及び消毒)をするため,ギプスの一部を開けた。そして 日,原告のギプスの状態を確認したところ,良好であった(甲A5)。 キ被告は,同月31日,術後創傷処置(手術をした後の創面を清潔にするための観察及び消毒)をするため,ギプスの一部を開けた。そして,被告が感染の有無を確認したところ,感染の傾向はなかった(甲A5,原告。 本人,被告本人)ク被告は,同年11月5日及び同月8日,上記開けた部分から,抜糸を行った(甲A5)。 ケ被告が,同月10日,原告のギプスの外見上の状態を確認したところ,良好であった(甲A5,被告本人)。 コ被告は,同月25日,ギプスをギプスカッターで割除し,アルフェンスも除去した後,左第1趾を指で反張させたまま下腿から足先までを温湯とエタノールで清拭した後,下腿以遠を包帯で包み,その上からギプスコットンとキャスティングテープで,足関節背屈位,第1趾MP関節背屈位にギプスを固定した(甲A5,乙A1,A4,A6,被告本人)。 被告は,上記ギプスの交換を行った際,原告の左第1趾が自動伸展していたことを確認した旨主張する。しかしながら,①同年12月12日の診療録には「第1趾屈伸OK」との記載があるにもかかわらず,同年11月,(),25日の診療録には何ら屈伸の有無についての記載がないこと甲A5- 11 -②被告は,当初は,同月25日の段階で左第1趾を自動伸展させることは危険であり,被告が自ら原告の左第1趾に触れて動かないことを確認することなどあり得ないし,現実にはない旨主張していた上,被告本人尋問において,当初は,同日の段階で左第1趾が自動伸展していたのを確認した旨供述しつつ,その後,同日の時点で左第1趾を動かすのは危険であり,動かさなかった旨供述するに至ったことからすれば,同日の段階で,被告が原告の左第1趾が自動伸展していたことを確認したとは認められない。 述しつつ,その後,同日の時点で左第1趾を動かすのは危険であり,動かさなかった旨供述するに至ったことからすれば,同日の段階で,被告が原告の左第1趾が自動伸展していたことを確認したとは認められない。 サ被告は,同月26日,原告のギプスの状態を確認し,ギプスの一部を修正した(甲A5,被告本人)。 シ被告は,同年12月12日,原告の左足のギプスを外した。この日の診療録の記載には「第1趾屈伸OK「但しFullにはしないように」,」,との記載がある(甲A5,乙A1)。 そして「Fullにはしないように」との記載は,限度いっぱいには,(),動かさないようにという意味であることが認められる被告本人ところ原告の左足が自動伸展できないような状況であったのであれば,動かさないようにという意味の注意書きを記載することは考えにくい上,上記のとおり,診療録に「第1趾屈伸OK」と明確に記載されていることからすれば,この段階では,原告の左第1趾は自動伸展しており,それを被告が確認したものと認められる。 ス原告は,ギプスを外した後,被告医院において,外傷,手術侵襲による炎症及び癒着の防止軽減のための超音波下肢部分水中浴及び近赤外線ス,()。(,,)ーパーライザー照射のリハビリを受けた甲A5乙A1原告本人セ原告は,同月15日,被告医院でリハビリを受けた。その際,被告が,ロビーで原告に「快調ですか」と声をかけたところ,原告は,快調である旨の返事をした(甲A11,乙A4,被告本人)。 ソ原告は,同月17日,被告医院でリハビリを受けた(甲A5)。 - 12 -タ原告は,同月24日,左第1趾の背屈不能を訴え,C医師の診察を受けた。C医師は,原告の左第1趾が底屈は可能であったが,背屈が不能であったため,縫合不全と診断した。 , 甲A5)。 - 12 -タ原告は,同月24日,左第1趾の背屈不能を訴え,C医師の診察を受けた。C医師は,原告の左第1趾が底屈は可能であったが,背屈が不能であったため,縫合不全と診断した。 ,,。 ,チ原告は同月25日C整形外科において本件再手術を受けたしかしC医師は,原告の左長母趾伸筋腱の中枢側への引き込みが強く,縫合不能の状態であるとして,縫合を断念した(甲A3,A6,証人C)。 ,,,ツ現在原告の左第1趾は背屈運動が可能となっているがその可動域は左第1趾MP関節の屈曲は20度(右は30度,伸展は35度(右は6)0度)であった。愛知県b市所在のD病院の整形外科E医師は,原告の左第1趾の背屈運動が可能となった理由について,左長母趾伸筋腱は,最初の創傷部より近位では腱のレリーフが消失しており,腱の連続性は認められないが,本件再手術において,左長母趾伸筋腱の末梢側断端を周囲に縫着した際に左短母趾伸筋腱等の腱に癒着した部分を力源として行われていると診断している(甲A3,A9,弁論の全趣旨)。 (2) 原告は,本件手術では,キルヒマイヤー法による縫合手術をしなければならなかった旨主張するので,以下検討する。 証拠(鑑定の結果)によれば,比較的鋭利な刃物によって引き起こされた腱損傷の場合,腱損傷部のおのおのの断端は整っているため,創部及び断端の適切な処置の後,断端同士を接触させ縫合する方法(端々縫合)を行うのが一般的であるとされており,端々縫合法としては,ランゲ法,キルヒマイヤー法,バネル法及び津下法などがあるが,①腱の連続性が成立するまでの期間,縫合糸に十分な抗張力能をもたせること,②縦に配列している腱組織を極力損傷せず,かつ,両断端の接触部分が離開しないこと,③腱内外の血行を極力温存し修復を妨げないことという要 性が成立するまでの期間,縫合糸に十分な抗張力能をもたせること,②縦に配列している腱組織を極力損傷せず,かつ,両断端の接触部分が離開しないこと,③腱内外の血行を極力温存し修復を妨げないことという要件を満たしていれば,いずれの方法を用いてもよいとされている。 そして,本件は,草刈りばさみのように比較的鋭利な刃物によって引き起- 13 -こされた腱損傷であり,端々縫合法を行うことが可能な症例であったから,本件手術において上記端々縫合法の内いずれの技法を用いてもよかったといえる。よって,本件手術において,キルヒマイヤー法による縫合手術をしなければならなかったとする原告の上記主張は採用できない。 (3) また,原告は,被告が単に腱の断裂面と断裂面の縫合手術を行った旨主張するので,原告が本件手術において行った縫合法について検討する。 診療録には,本件手術において,キルヒマイヤー法に準じた方法(キルヒ)(),マイヤー変法で腱縫合を施術した旨明確に記載されていること甲A5鑑定人は,本件手術の際に撮影された写真から,キルヒマイヤー変法による手術が行われた旨の鑑定を行っていること(鑑定の結果,C医師は,本件)手術の際に撮影された写真を見て,キルヒマイヤー変法の結紮の可能性がある旨証言していること(証人C,以上の事実からすれば,本件手術におい)ては,キルヒマイヤー法に準じた方法で縫合が行われたものと認められる。 よって,被告が単に腱の断裂面と断裂面の縫合手術をしたとの原告の上記主張は採用できない。 ,,,,なお原告は本人尋問において被告から説明を受けた手術方法としてキルヒマイヤー法と異なる図を再現しているが,他方,原告は,被告から,「腱は縦繊維の集まりなので,縫うときに普通に縫うにはひっつかない,」「普通に縫っても縦繊維だから,抜け を受けた手術方法としてキルヒマイヤー法と異なる図を再現しているが,他方,原告は,被告から,「腱は縦繊維の集まりなので,縫うときに普通に縫うにはひっつかない,」「普通に縫っても縦繊維だから,抜けてしまう」など言われて説明されていたとも供述しており,上記原告が再現した図は,このような説明と符合しない内容であり,必ずしも信用できず,上記認定を覆すものではない。 ,,,,(4) さらに原告は本件手術の際デブリードマンを行うべきであったのに被告がそれを行わなかった旨主張する。 証拠(甲B1,乙B7,鑑定の結果)によれば,挫創及び切創などにみら,,れる足背における伸筋腱断裂の場合原則として十分なデブリードマンの後断端縫合を行うこととされているが,他方,腱のデブリードマンは最小限に- 14 -し,断端のみに行うべきであり,清潔で鋭利に切断された新鮮な創の場合には,腱の断端のデブリードマンは全く必要がないとされている。 これを本件についてみるに,上記前提となる事実のとおり,本件手術は,負傷した平成15年10月19日から1週間以上も経過した同月27日に行われており,新鮮な創とはいえないので,本件手術において,デブリードマンが必要なかったとまでは認められないにもかかわらず,被告は,本件手術においてデブリードマンを行っていない(争いがない。 )しかしながら,本件においては,同年12月12日において原告の左第1趾は自動伸展していたのであるから,術後経過は良好で手術手技や術後処置について不適切な点はなかったと認められる(鑑定の結果)上,他に,デブリードマンを行わなかったことによって原告が主張する後遺障害が生じたと認めるに足りる証拠はないので,デブリードマンを行わなかったことと原告主張の後遺障害との間に因果関係があるとは認められない。 争点 ドマンを行わなかったことによって原告が主張する後遺障害が生じたと認めるに足りる証拠はないので,デブリードマンを行わなかったことと原告主張の後遺障害との間に因果関係があるとは認められない。 争点(1)イ(ア)(ギプス固定の方法についての過失の有無)について(1) 原告は,被告が,足底部の巻き綿の厚みの調節を怠るなどしてギプス固定を十分にしなかった旨主張するので,以下検討する。 (,,),,(2) 証拠甲B1証人C鑑定の結果によれば巻き綿の厚みに関しては関節の固定角度が原則どおりに保持されていれば極端な厚みがない限り,さほど問題とはならないこと,関節の固定角度については,長母趾伸筋腱及び,,()短母趾伸筋腱のいずれも足関節軽度背屈位母趾MP関節軽度伸展背屈位(通常,軽度背屈位あるいは軽度伸展位とは10度前後の角度をいう)で固定する必要があることが認めらる。 そして,上記認定事実のとおり,本件手術直後及びギプス巻き直しの際のギプス固定は,いずれも足関節背屈位,第1MP関節軽度背屈位で行われたのであるから,関節の固定角度は適切であったといえる。よって,巻き綿の厚みについては極端な厚みがない限り,さほど問題とはならないといえると- 15 -ころ,本件について,巻き綿の厚みについて極端な厚みがあったと認めるに足りる証拠はないのであるから,被告に巻き綿の厚みの調節を怠った過失があったとは認められない。また,他にギプスの固定方法について,被告に過失があったと認めるに足りる証拠はない。 争点(1)イ(イ)(ギプス固定の期間についての過失の有無)について(1) 原告は,腱縫合手術後は2,3週間でギプスを外さなければならないにもかかわらず,被告が本件手術後,1か月半もギプス固定して腱の癒着を生じさせ,再縫合不能に 期間についての過失の有無)について(1) 原告は,腱縫合手術後は2,3週間でギプスを外さなければならないにもかかわらず,被告が本件手術後,1か月半もギプス固定して腱の癒着を生じさせ,再縫合不能に陥らせた旨主張するので,以下検討する。 (2) ギプスの固定期間については,通常,約4週間が適当とされているが(鑑定の結果,6週目で除去するとする文献(乙B1)やギプスの固定期間は)平均4週間(2週間から6週間)とする文献(乙B2)もあること,C医師は,足の伸筋腱の固定期間としては,長くて3週間である旨証言していること(証人C)からすれば,2週間ないし6週間程度を目安に,腱断裂の原因並びに程度,患者の属性,手術の状況及び術後の経過等を考慮した医師の合理的な裁量に委ねられているとするのが相当である。 そこで,これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,被告は,本件手術が行われた平成15年10月27日から同年12月12日まで6週間強にわたりギプス固定を行っていることが認められ,平均的な固定期間より多少長い期間ギプス固定が行われていたといえる。しかしながら,被告は,,,原告が若い男性であることロッククライミングを趣味としていたことから無理な荷重をかけて,手術後に物理的に断裂が生じるのを危惧し,当初から原告に対し,ギプスの固定期間は6週間程度である旨説明していたこと(被告本人,また,被告は,同年10月28日,同月31日,同年11月10)日,同月26日にギプスの状態等を確認,同月25日にギプスを交換するなど,ギプスの状況について十分な経過観察を行っていたといえることからすれば,6週間強にわたるギプス固定は,医師としての合理的な裁量の範囲内- 16 -のものであったと認められる。よって,原告の上記主張は採用できない。 争点(1)ウ(本件手 いたといえることからすれば,6週間強にわたるギプス固定は,医師としての合理的な裁量の範囲内- 16 -のものであったと認められる。よって,原告の上記主張は採用できない。 争点(1)ウ(本件手術後の経過観察義務違反の有無)について(1) 原告は,被告は,平成15年11月25日又は同年12月12日に原告のギプスを外した際に,再断裂が生じている可能性を容易に認識し得た旨主張する。 しかしながら,上記認定事実及び証拠(鑑定の結果)によれば,原告に再断裂が発生したと判断できるのは,術後の機能訓練を行い,腱とその周囲組織の癒着や瘢痕が柔軟化した関節の拘縮がある程度改善された同年12月12日以降であること,同日の段階では原告の左第1趾は自動伸展していたことが認められるので,同年11月25日又は同年12月12日に被告が再断裂が生じている可能性を容易に認識し得たということはできない。 (2) さらに,原告は,被告は同日以降も診療を継続し再断裂の発生の有無を判断すべきであるのにそれを怠った過失がある旨主張する。 しかしながら,上記認定事実によれば,同日には原告の左第1趾は自動伸展していたこと,同月15日には原告が被告に対して快調である旨述べたことが認められるのであるから,同日までに被告が再断裂が生じている可能性に気付いて治療を継続すべきといえる状況は生じておらず,被告に経過観察義務違反があるとはいえない。 また,原告は,同月17日にリハビリのために被告医院に来院した際,被告の診察を受けることを申し出たが拒否された旨主張するが,それを認めるに足りる証拠はない上,仮に原告が上記申出をしていたとしても,原告が,診察を求める理由として明示的に左第1趾が動かない旨訴えていなかったこと(原告本人)からすれば,被告が,上記の同月15日までの経過を考え,診察まで必 ,仮に原告が上記申出をしていたとしても,原告が,診察を求める理由として明示的に左第1趾が動かない旨訴えていなかったこと(原告本人)からすれば,被告が,上記の同月15日までの経過を考え,診察まで必要ないと考えたとしてもやむを得ないものであったと認められるので,同月17日までに被告が再断裂が生じている可能性に気付かず治療を継続しなかったとしても,経過観察義務違反があるとはいえない。 - 17 -よって,被告に経過観察義務違反があるとはいえず,原告の上記主張は採用できない。 争点(1)エ(説明義務違反の有無)について(1) 原告は,被告が原告に対し,腱がつながらない可能性や手術後の再断裂の可能性等のリスクについて説明すべきであったのにそれを怠った旨主張するので,以下検討する。 (2) 医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状,実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治)療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される(最高裁第三小法廷平成13年11月27日判決・民集55巻6号1154頁参照。さらに,証拠(鑑定の結果)によれば,腱縫合に)関しては,縫合方法,術後の固定方法や期間,縫合部と周囲組織との癒着及び瘢痕形成やそれに伴う運動機能障害発生の可能性,再断裂発生の可能性などについて説明し,また,その予防や対策に関しても説明する必要があることが認められる。 そこで,これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,被告は,原告に対し,病名ないし病状,縫合方法や術後の固定方法,固定期間については説明していることが認められるが,周囲組織との癒着及び瘢痕形成やそれに伴う運動機能障害発生の可能性 認定事実によれば,被告は,原告に対し,病名ないし病状,縫合方法や術後の固定方法,固定期間については説明していることが認められるが,周囲組織との癒着及び瘢痕形成やそれに伴う運動機能障害発生の可能性,再断裂発生の可能性といった,手術に付随する危険性についての説明は十分に行っていないことが認められる。よって,本件においては,再断裂発生の可能性等の危険性についての被告の説明は十分でなかったものと認められる。 しかしながら,上記認定事実によれば,原告の左第1趾は伸展筋腱断裂と診断されており,手術が必要な状況にあったこと,原告は被告から手術の必要性及び手術内容を説明された後,家族に相談するように言われて一度帰宅- 18 -し,3日後に被告医院を受診しており,被告において手術を受けるか否かについて十分検討する時間があったこと,被告は手術可能な他の医療機関を紹介しており,原告が他の医療機関を選択することも可能であったことが認められるところ,これらの事実に照らすと,被告が原告に対し,上記再断裂の可能性等のリスクについて説明をしていたとしても,原告が被告医院での手術を選択しなかった相当程度の蓋然性があるとはいえない。よって,上記の説明が十分でなかったことと原告主張の後遺障害との間に因果関係があるとは認められない。 (3) さらに,原告は,被告が原告に対し,本件手術後に再断裂の可能性があるのであれば原告に説明した上で,選択しうる治療方法,転医の可能性について説明すべきであったのにそれを怠った旨主張する。 上記認定事実のとおり,被告は,原告に対し,平成15年12月12日の診察の際,左第1趾が自動伸展することを確認した上,限度いっぱいに動かさないようにと注意を行っているところ,その注意は,患指の動かし方いかんによっては再断裂が生じる可能性があることを前提と 12日の診察の際,左第1趾が自動伸展することを確認した上,限度いっぱいに動かさないようにと注意を行っているところ,その注意は,患指の動かし方いかんによっては再断裂が生じる可能性があることを前提とした上での注意であることは明らかであるから,再断裂の可能性に関する説明義務違反があったものとはいえない。よって,原告の上記主張は採用できない。 結論 以上の次第であるから,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第2部裁判長裁判官西尾進- 19 -裁判官日比野幹裁判官田中一美
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