平成12(行ウ)178 退去強制令書発付処分取消請求

裁判年月日・裁判所
平成16年2月25日 東京地方裁判所
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判決文本文49,224 文字)

平成16年2月25日判決言渡平成12年(行ウ)第178号退去強制令書発付処分取消請求事件判決 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告法務大臣が平成12年7月3日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告の異議の申出は理由がない旨の裁決を取り消す。 2 被告東京入国管理局主任審査官が平成12年7月4日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,被告法務大臣から,出入国管理及び難民認定法(平成11年法律第160号による改正前のもの。)49条1項の規定に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決を受け,被告東京入国管理局主任審査官から,退去強制令書の発付処分を受けた原告が,原告は同性愛者であり,国籍の属するイランに送還されたならば,同性愛者であること等を理由に迫害を受けるおそれがあるから,難民の地位に関する議定書1条の規定により難民の地位に関する条約の適用を受ける難民に該当するにもかかわらず,原告に在留特別許可を認めなかった上記裁決には,被告法務大臣が裁量権の範囲を逸脱した違法があり,同裁決を前提としてされた上記退去強制令書の発付処分も違法であるなどと主張して,上記裁決及び退去強制令書発付処分の取消しを求めている事案である。 1 前提となる事実(これらの事実は,当事者間に争いがない。)(1) 原告の国籍並びに本邦への入国及び在留状況ア原告は,昭和38(1963)年(以下,同様に,必要に応じ,括弧内に西暦を記載する。),イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)において出生したイラン国籍を有する外国人である。 イ原告は,平成3(1991)年6月 3)年(以下,同様に,必要に応じ,括弧内に西暦を記載する。),イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)において出生したイラン国籍を有する外国人である。 イ原告は,平成3(1991)年6月29日,テヘランにおいて,有効期限を平成6年6月29日までとする旅券の発給を受けた。 ウ原告は,平成3(1991)年8月29日,香港からキャセイ・パシフイック航空で新東京国際空港に到着し,東京入国管理局(以下「東京入管」という。)成田支局入国審査官に対し,外国人入国記録の渡航目的の欄に「BISINESS-FORWORDER」(商用従事者),日本滞在予定期間の欄に「AUG 29 TOSEP 2」(8月29日から9月2日まで)と記載して上陸申請を行い,同入国審査官から出入国管理及び難民認定法(平成3年法律第71号による改正前のもの)別表第1に規定する在留資格「短期滞在」及び在留期間90日の許可を受け,本邦に上陸した。 エ原告は,本邦上陸後,福島県郡山市の工事現場などで不法就労を開始し,在留資格の変更又は在留期間の更新の許可申請を行うことなく,在留期限である平成3年11月27日を超えて本邦に不法残留するに至った。 オ原告は,平成5年3月23日,居住地を東京都台東区千束a丁目b-c-dとして,外国人登録をした。 カ原告は,平成5年9月30日,新居住地を東京都練馬区氷川台a丁目b-cとして,居住地変更登録をした。 キ原告は,平成6年8月15日,在東京イラン大使館において,旅券の有効期限の延長手続をした。 ク原告は,平成8年10月28日,新居住地を東京都練馬区平和台a丁目b-cとして,居住地変更登録をした。 ケ原告は,平成9年8月15日,在東京イラン大使館において,有効期間を平成14年8月15日までとする新旅券の発給を受けた。 (2) 原告の退 練馬区平和台a丁目b-cとして,居住地変更登録をした。 ケ原告は,平成9年8月15日,在東京イラン大使館において,有効期間を平成14年8月15日までとする新旅券の発給を受けた。 (2) 原告の退去強制手続の経緯ア原告は,平成12年4月22日,警視庁高島平警察署員に不法残留の容疑で現行犯逮捕された。 イ東京地方検察庁は,平成12年5月9日,上記アの事件について,原告を起訴猶予とする処分をした。 ウ東京入管入国警備官は,平成12年5月2日,原告について違反調査を開始し,原告が出入国管理及び難民認定法(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下「出入国管理法」という。)24条4号ロに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,同月8日,被告東京入管主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)から発付された収容令書に基づき,同月9日,同令書を執行して,原告を東京入管収容場に収容した。 東京入管入国警備官は,同日及び同月10日,違反調査をし,その結果,原告を同法24条4号ロ該当容疑者として,同日,東京入管入国審査官に引き渡した。 エ東京入管入国審査官は,平成12年5月10日及び同月25日,原告について違反審査をし,その結果,同月25日,原告が出入国管理法24条4号ロに該当する旨の認定を行い,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,東京入管特別審理官によるロ頭審理を請求した。 オ東京入管特別審理官は,平成12年6月9日,原告について口頭審理を行い,その結果,同日,東京入管入国審査官の上記認定は誤りがない旨判定し,原告にこれを通知した。 原告は,同日,被告法務大臣に対し,出入国管理法49条1項に基づく異議の申出をした。 カ被告法務大臣は,平成12年7月4日,原告からの異議の申出について,理由がない旨の裁決を行い(以下「本件 。 原告は,同日,被告法務大臣に対し,出入国管理法49条1項に基づく異議の申出をした。 カ被告法務大臣は,平成12年7月4日,原告からの異議の申出について,理由がない旨の裁決を行い(以下「本件裁決」という。),同裁決の通知を受けた被告主任審査官は,同日,原告に本件裁決を告知するとともに,送還先をイランとする退去強制令書の発付処分を行い(以下「本件処分」という。),原告を東京入管収容場に収容した。 キ東京入管入国警備官は,平成12年8月18日,原告を入国者収容所東日本入国管理センター(以下「東日本センター」という。)に移収した。 (3) 原告の難民認定申請手続の経緯ア原告は,平成12年6月1日,被告法務大臣に対し,難民認定申請を行った(以下「本件難民認定申請」という。)。 イ被告法務大臣は,平成12年7月3日,上記アの難民認定申請について,同申請が出入国管理法61条の2第2項所定の期間を経過してなされたものであり,かつ,同項ただし書の規定を適用すべき事情はないことを理由に,これを不認定とする処分をし,同月4日,原告に対して同処分を告知した。 ウ原告は,平成12年7月4日,被告法務大臣に対し,上記不認定処分について,異議の申出をしたが,被告法務大臣は,同年10月16日,異議の申出に理由がない旨の裁決をした。 2 当事者の主張(原告の主張)(1) 本件裁決の違法事由(裁量権の逸脱)ア在留特別許可についての被告法務大臣の裁量権の範囲在留特別許可をするか否かについて,被告法務大臣に裁量権があるとしても,在留特別許可は恩恵的なものとはいえないから,裁量権の範囲も広範なものではない。 ところで,出入国管理法61条の2の8は,同法49条3項の裁決をするに当たって,同条1項の異議の申出をした者が難民の認定を受けている者であるときは えないから,裁量権の範囲も広範なものではない。 ところで,出入国管理法61条の2の8は,同法49条3項の裁決をするに当たって,同条1項の異議の申出をした者が難民の認定を受けている者であるときは,異議の申出が理由がないと認める場合でも,その者の在留を特別に許可することができる旨規定している。出入国管理法がこのような規定を設けている趣旨は,在留特別許可の可否の裁量判断においては,難民認定を受けた事実を重要な事情として考慮すべきであり,特に著しく公益に反するような事情のない限り,原則として在留特別許可をなすことを期待したものであって,これは,難民について,人道的な見地から,在留を認める必要があることによるものと解される。 そうだとすると,難民認定を受けていなくとも,実体として,難民の地位に関する議定書(昭和57年条約第1号,以下「難民議定書」という。)1条の規定により難民の地位に関する条約(昭和56年条約第21号,以下「難民条約」という。)の適用を受ける難民である者(以下「条約難民」という。)につき,同様の扱いをしないことは著しく不当といわざるを得ない。すなわち,条約難民である者は,在留特別許可をするか否かの被告法務大臣の裁量判断において,難民認定を受けている者と同様に扱われるべきである。 イ本件裁決が裁量権を逸脱するものであることa 原告が条約難民であること(a) イランにおける同性愛者の一般的な状況Ⅰ イラン刑法の定める同性間性行為に関する規定現行のイラン刑法は,2名の男性間で行われる性行為で,性器の挿入を含むものをソドミーと規定し(108条),ソドミーが行われた場合には,挿入者と被挿入者は共に処罰の対象となる旨定めている(109条)。 そして,ソドミーに対する刑罰は死刑であり,執行の方法は,イスラム法(シャリーア)判事の (108条),ソドミーが行われた場合には,挿入者と被挿入者は共に処罰の対象となる旨定めている(109条)。 そして,ソドミーに対する刑罰は死刑であり,執行の方法は,イスラム法(シャリーア)判事の指示に基づくものとされ(110条),また,挿入者と被挿入者が共に成人であり,健康な精神状態で自由意思によりソドミーが行われた場合には,死刑に処するものとされている(111条) 。 以上のとおり,イランでは,異性愛者に対しては婚姻制度の下で容認されている性行為が,同性愛者に対しては,いかなる場合にも禁止され,同性間で性行為を行った者に対しては,死刑という過酷な刑罰が与えられることになる。 Ⅱ 同性間性行為に対する処罰の実情イランでは,1990年代以降も,上記Ⅰの反ソドミー法は実際に適用され,処刑が実施されている。その実情は,以下のとおりである。 ⅰ イラン政府の回答等イラン政府は,国連人権委員会特別代表からの問い合わせに対し,平成3(1991)年1月22日付けで,「イスラム法によれば,同性愛者が自らの行為を告白したうえ,その行為に固執する場合は,死刑が宣告される。」と回答した。 また,イランの司法長官は,平成2(1990)年1月ころ,「同性愛という卑劣な行為に対する宗教上の処罰は,それらを犯した人間を両方とも死刑に処することである。」との声明を出した。 さらに,イランの最高裁判所長官は,平成2(1990)年5月18日にテヘラン大学で行われた金曜礼拝において,「イスラームは,同性愛者については,男性女性を問わず,最も厳しい刑罰を科している。」と述べた。 ⅱ 訴追の実際イラン刑法では,ソドミーの法的証明について,「処罰のための信頼性は,ソドミーの告白者が4回の告白を行ったときに成立する。」と規定されている(114条)ほか,「ソドミーは 述べた。 ⅱ 訴追の実際イラン刑法では,ソドミーの法的証明について,「処罰のための信頼性は,ソドミーの告白者が4回の告白を行ったときに成立する。」と規定されている(114条)ほか,「ソドミーは,これを目撃した4名の権利ある男性の証言によって証明される。」と規定されている(117条)。 しかし,他方で,「イスラム法判事は,慣習的な資料に由来する自らの知識に従って宣告することができる。」とされているため(120条),厳格な立証が行われるという法的な保障はない。また,この120条における裁判官の宣告は,114条や117条の証拠法則に拘束されないものであり,さらには,弁護人の同伴などの適正手続が,同性間の性行為に関する裁判で保障される可能性も低い。 これらに加えて,政府に敵対する者を死刑に処する口実として同性愛が利用されている疑いがあることも考慮するならば,114条や117条の厳格な立証基準が適切な手続の下に運用されているとは,到底認められない。 ⅲ 実際の処刑例イランにおける同性愛者の死刑執行の具体的な事例については,以下のとおり,欧米における新聞報道や英国難民控訴委員会の決定などに,非常に信頼性の高い多くの事例を見出すことができる。また,イランの人権状況,特に死刑の執行状況についての専門的知識を有する証人A(以下「A」という。)は,これらの信頼に足る資料にも依拠しながら,イランにおいて同性愛者に石打ち刑を含む死刑が実施されていること等を明確に供述しているが,同供述は,信頼性が高いものである。 ① ロイター通信は,昭和55(1980)年7月3日付けで,「イランで,一人の男性が,少年を誘惑し,性的関係を持ったとして銃殺に処せられた。」旨報じた(甲43)。 ② ロイター通信は,昭和56(1981)年2月25日付けで,「テヘラン・タ 年7月3日付けで,「イランで,一人の男性が,少年を誘惑し,性的関係を持ったとして銃殺に処せられた。」旨報じた(甲43)。 ② ロイター通信は,昭和56(1981)年2月25日付けで,「テヘラン・タイムズが伝えたところによると,イランで,2名の男性が同性愛行為を行ったとして銃殺刑に処せられた。」旨報じた(甲41)。 ③ ロイター通信は,昭和57(1982)年9月1日付けで,「テヘランの新聞は,イランで,3名の人が同性愛の罪で処刑されたと伝えている。」旨報じた(甲44)。 ④ ベイエリア・リポーターは,平成2(1990)年1月25日付けの記事で,「ヴァン・アッタの報道によると,同年元旦のイランのラジオ放送は,同年元旦に,イランで,3名の同性愛男性が公開の場で斬首され,2名のレズビアンが石打ち刑に処されたと公表した。」旨報じた(甲40)。 ⑤ ロイター通信は,平成7(1995)年11月14日付けで,「イランの報道機関が伝えたところによると,イランの裁判所で,スーフィー(神秘主義者)が,反復した姦通及び同性愛行為により,石打ち刑に処せられた。」旨報じた(甲42)。 ⑥ 英国難民控訴委員会は,平成13(2001)年5月1日に公表された決定で,同性愛者に対する準軍事組織の誘拐・処刑事例を認定したうえ,同性愛者である同事件の控訴人がイランに帰国した場合,ソドミー罪により死刑に処せられる可能性がある旨判断した(甲103)。 Ⅲ 社会的迫害イランにおいて,同性愛者に対する迫害は,その刑法に基づく死刑だけではなく,広く社会の中に根ざしている同性愛者に対する嫌悪感を背景に,一般社会の中でも見られる。 例えば,平成8年に同性愛者が謀殺の対象となる事件があったことが伝えられているが,平成12年には,大学で自身の同性愛感情を友人に話したところ,その友人か 悪感を背景に,一般社会の中でも見られる。 例えば,平成8年に同性愛者が謀殺の対象となる事件があったことが伝えられているが,平成12年には,大学で自身の同性愛感情を友人に話したところ,その友人から報告を受けた大学内の団体のメンバーにより2日間もの間監禁され暴行を受けるという事件が発生した。 また,オーストラリアで難民と認定されたイラン人は,彼の父親から友人との同性愛関係を終わらせるように強硬に要求され,関係を断ち切らない場合には当局に通報するとまで言われている。 さらに,イランでは,反体制派の知識人らに同性愛の「汚名」をきせて処罰することが行われている。 そして,原告は,家族にも自身が同性愛者であることを伝えていない。それは,家族においてすら同性愛や同性愛者に対する嫌悪感,あるいは,それを宗教的・道徳的罪とする感情や意識からは自由ではあり得ないことを肌身に感じていたからである。 Ⅳ イランにおける同性愛者の立場ⅰ 以上のことからも明らかなとおり,イランにおいては,同性愛者としての自覚をもって,同性愛者として生活することはほとんど不可能である。なぜならば,同性愛者が自分の愛する同性の相手と性行為をすることはいかなる意味でも犯罪であり,それは,上記のとおり死刑を含む刑罰に処せられることになっているからである。 また,同性間性行為を行わなければ,社会的迫害や処罰を受けないというわけにはいかない。なぜならば,実際に同性間性行為を行ったか否かに関係なく,同性愛者は嫌悪の対象とされており,同性愛者であるというような「汚名」を着せられた場合,同性愛者として社会的迫害を受ける可能性は非常に高く,場合によっては,刑罰に処せられる可能性があるからである。そもそも,同性愛者が,同性の相手方と同意のうえで性的行為を行うことは,人間としての自然な感情 者として社会的迫害を受ける可能性は非常に高く,場合によっては,刑罰に処せられる可能性があるからである。そもそも,同性愛者が,同性の相手方と同意のうえで性的行為を行うことは,人間としての自然な感情の発露であり,本来,禁止されるべきものではない。 これに対し,被告らは,国連難民高等弁務官事務所(以下「UNHCR」という。)作成の各国情報に出ているカナダの移民局が作成した資料(乙17)に基づいて,イランでは,同性愛はイスラム道徳に公然と逸脱するものでない限り,事実上容認されているなどと主張するが,上記カナダ移民局作成の資料は,独自かつ特異な立場に基づき,自説に都合のよい資料部分だけを集めて編集したものであって,証拠価値は極めて低いものである。 ⅱ 同性愛者の人権保障を,イラン国内において主張することはできない。原告の所属するイラン人の同性愛者団体「ホーマン」は,ソドミー条項の廃止を含むイランにおける同性愛者に対する人権侵害を批判し,その改善を求めているが,そのような主張をイラン国内において主張することは不可能である。実際,ホーマンは,本拠地をスウェーデンに置くほか,活動をする支部はすべてイラン国外にあり,イラン国内では一切,その活動を展開できない状態にある。 これは,同性愛者の人権を認め,同性間性行為を刑罰の対象から外すということは,イスラーム法の忠実な執行を国是とするイラン国体制の重要な根幹部分を変更しようとすることに当たり,そのような政治的な主張は,反体制ないし体制を転覆しようとする主張に他ならないため,厳しい取り締まり,ひいては,迫害の対象となるからである。 (b) 原告がイランに帰国した場合に同性愛者であること等を理由に迫害を受けるおそれがあることⅠ 原告は,14才から21才までの間,幼なじみでもあり,ともにイラン国内で の対象となるからである。 (b) 原告がイランに帰国した場合に同性愛者であること等を理由に迫害を受けるおそれがあることⅠ 原告は,14才から21才までの間,幼なじみでもあり,ともにイラン国内で非合法化されている左翼反体制組織「イラン革命的労働者機構」に所属していた同性愛者の男性と性的な関係をもっていた同性愛者である。 原告は,平成3(1991)年にイラン出国後も,ホーマンに加入し,以後,日本においてホーマン構成員として活動している。そして,平成11年6月21日には,東京都新宿区にある「新宿ロフト・プラスワン」において行われたイベントで,同組織の構成員として自らが同性愛者であることをカミングアウトしたうえで,イランの現体制を批判し,それは,ホーマンの機関誌においても紹介された(甲74)。 また,原告は,同年9月19日に札幌市で行われた同性愛者のパレードに参加して,機関誌「ホーマン」を配布したり,同年12月10日のアムネスティ・インターナショナル日本支部主催の「人権のためのパレード」に参加して,集会でアピールをするなど,イランにおける同性愛者の迫害状況を報告し,同性愛者に対する人権侵害を続けるイランの現体制に対する批判を積極的に行ってきた。 その後も,同性愛者の人権侵害を続けるイランの現体制を批判し,同性愛者に対する法的及び社会的迫害をなくすことを求める原告の姿勢は変わらないばかりか,ますます確固たる政治的意見として確立するに至った。そして,原告は,もはやイランに送還されたならば,かつてのように同性愛者であることを隠して暮らすことは不可能である。 Ⅱⅰ そうすると,原告が,イランに送還された場合,同性間性行為や自己の同性愛に関わる政治的主張を表明するといった行動をとることは自然の成り行きである。しかし,上記(a)のとおり,原告が 能である。 Ⅱⅰ そうすると,原告が,イランに送還された場合,同性間性行為や自己の同性愛に関わる政治的主張を表明するといった行動をとることは自然の成り行きである。しかし,上記(a)のとおり,原告がイランでこれらの行為を行った場合,同性愛者であることにより(同性愛者が「特定の社会的集団の構成員」に当たることは,後記(c)のとおり)又は政治的意見を理由に,イラン社会から迫害を受け,また,逮捕,裁判,さらには死刑や残虐な身体刑による処刑といった結果を招来することは,十分な理由をもって予見できることである。 特に,ソドミー条項の撤廃という性的指向に関わる原告の政治的主張は,現体制を世俗主義体制に変えることを前提とするものであり,現体制を根底から否定するものであるから,当然,現体制により死刑を含む厳しい弾圧の対象となる。 ⅱ① 難民該当性を判断する際には,原告のことが当局に知られているか,又は少なくとも早晩知られるであろうという事態の可能性を検討することは,不要である。 ② この点をおくとしても,上記Ⅰのとおり,同性愛者として現体制を批判する原告の意見がホーマンの機関誌に載ったが,反体制派と目される非政府組織の活動状況を積極的に調査しているイラン治安当局は,その機関誌についても収集・分析している可能性が強く,原告の存在についての情報もイラン当局によって把握されている可能性がある。 また,原告は,「人権のためのパレード」に参加して,現体制を批判する主張をしており,大使館を拠点に活動するイランの諜報機関その他の機関が,同パレードに対する監視活動の中で,原告の存在や主張に関わる情報を確保した可能性は高い。 さらに,本件訴訟については,平成13年3月24日付けのデイリー・ヨミウリ(甲68)や,同年5月8日付けの共同通信によるの配信記事(甲69) ,原告の存在や主張に関わる情報を確保した可能性は高い。 さらに,本件訴訟については,平成13年3月24日付けのデイリー・ヨミウリ(甲68)や,同年5月8日付けの共同通信によるの配信記事(甲69)で紹介されており,後者については,ヘラルド・トリビューン・朝日新聞とUNHCRの発行するデイリー・ニューズに掲載されて,一般の目にも触れるようになっている。 以上のような事情に鑑みると,原告の存在やその主張がイラン当局に知られている可能性は高いものということができる。 なお,これらの記事等の中で,原告のことが仮名になっていることは,イラン当局が原告を特定するうえでそれほど困難なことではない。 ⅲ 仮に,原告が迫害を避けるためにイランに送還された後,同性愛という性的指向を隠さざるを得ず,人間の本質的な欲求の一つである性行為や自己の性に関するあらゆる形態の表現行為を抑制しなければならないとすれば,それ自体が迫害である。 (c) 同性愛者であることが「特定の社会的集団の構成員」に当たることⅠ 難民条約1条A(2)の規定する「特定の社会的集団の構成員であること」の意義ⅰ 条約の解釈の補助的手段となるべきのUNHCR作成の難民認定基準ハンドブックは,「「特定の社会的集団」は通常,似通った背景,習慣又は社会的地位を有するものからなっている」(77項)としたうえで,「その集団の政府への忠誠に信頼がもてないことがあったり,その構成員の政治的展望,来歴若しくは経済的活動又はこのような社会的集団の存在自体が政府の障害となって」(78項)いることで特定の社会的集団の構成員が迫害を受けるおそれがあることを指摘している。 この記述のみからは,UNHCRによる「特定の社会的集団」の定義は必ずしも明らかでないが,ここにいう「通常,似通った背景,習慣又は社会的地 の構成員が迫害を受けるおそれがあることを指摘している。 この記述のみからは,UNHCRによる「特定の社会的集団」の定義は必ずしも明らかでないが,ここにいう「通常,似通った背景,習慣又は社会的地位を有するものからなっている」との記述は,構成員の属性の共通性がその本質であることを示唆している。 また,ある集団のもつ価値観や行動が国家の政策や方針にとって障害となるかどうかを特定の社会的集団を認識する上での重要な指標としている点には注目すべきである。イランのように同性間性行為に対して死刑を含む重大な刑罰をもって臨んでいる国家にとって,同性愛者という集団の構成員は,その政策や方針にとって重大な障害となる価値観を持っていたり,そのような行為をする者として認識されているのであるから,同性愛者はUNHCRの考える迫害を受ける理由のある「特定の社会的集団」を構成する者とみる必要がある。 ⅱ 諸外国の裁判所等では,「特定の社会的集団」の意義について,人権の擁護,人道上の配慮という観点も考慮に入れた解釈がされており,これに当たるか否かの判別基準にはいくつかの類型ができているということができるが,同性愛者が「特定の社会的集団」であるか否かを検討するうえで関連のあるものは,次のとおりである。 ①生来的若しくは不変の特性によってによって特徴づけられる集団かどうかという基準②(自発的な特性であっても)人のアイデンティティにとって根源的なものであり,変更を強制されるべきではない特徴によって基礎づけられる集団であるかどうかという基準③一般の人々が,特定の人々の集合体について受け入れることのできない集団であると認識しているかどうかという基準これらのうち,少なくとも,①と②のいずれかの集団は,迫害の理由となる他の4つの基準(人種,宗教,国籍,政治的意見)と比べ ついて受け入れることのできない集団であると認識しているかどうかという基準これらのうち,少なくとも,①と②のいずれかの集団は,迫害の理由となる他の4つの基準(人種,宗教,国籍,政治的意見)と比べて遜色がないものということができから,「特定の社会的集団」に含まれると解するべきである。 これに対し,被告は,「特定の社会的集団」に当たるというためには,構成員が「一定の結合関係を有しており,同一の集団に属しているとの共通の意識ないし考え方を有する」ことを要する旨主張するが,かかる要件は不要と解すべきである。 Ⅱ イラン人同性愛者は「特定の社会的集団の構成員」に当たることⅰ 上記Ⅰⅱの①ないし③のいずれの定義によっても,同性愛者は「特定の社会的集団」としての位置づけられることになる。 すなわち,同性愛者であるか否かは,その性的指向によって決定されるものであるが,性的指向は,生来的であるか否かは別にしても,本人の意思によって選択可能なものではないことは明らかになっており,現時点においては,不変性を備えていると考えてよい。また,同性愛者であるという自覚や同性愛者として生活をするという選択は,本人のアイデンティティに深く関わる問題であり,同性愛者であるということは人が生活をしていくうえで十分に根源的なものであるということができる。一方,イランにおいては,一般の人々がもつ同性愛者に対する嫌悪感を最大限に利用してソドミー罪を加重するような刑罰の恣意的適用とみられる事態が起こっており,また,同性愛者は一般の人々から暴力を振るわれることすらあり得るのであるから,イラン社会においては,同性愛者は存在を望まれない集団であることは明らかである。 ⅱ 仮に「特定の社会的集団」の意義を被告の主張するように解するとしても,同性愛者同士は,十分に認識し得る程度に ら,イラン社会においては,同性愛者は存在を望まれない集団であることは明らかである。 ⅱ 仮に「特定の社会的集団」の意義を被告の主張するように解するとしても,同性愛者同士は,十分に認識し得る程度に一定の結合関係を有し,かつ,同一の集団に属しているという共通の意識ないし考え方を有しているから,同性愛者は「特定の社会的集団」の構成員に当たることになる。 また,原告は,現在,イラン人の同性愛者団体であるホーマンの構成員であるが,これは,まさにイラン人同性愛者であることを基礎とする結合の明確な形態であるから,この点からみても,被告の主張によっても,原告に対する迫害は,イラン人同性愛者という特定の社会的集団の構成員であることによるものということになる。 b 同性愛者が「特定の社会的集団」に当たらないとしても,原告がイランに送還されれば,迫害を受けるおそれがあること仮に同性愛者が「特定の社会的集団」に当たらず,そのために原告を条約難民とみることができないとしても,原告がイランに送還されれば,性的指向という,本来自由であるべき事柄をもって,迫害を受けるおそれがあるのであるから,原告に対して在留特別許可をしないことは,人道に反するばかりか,憲法14条や国際的な人権基準にも反するものであって,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものである。 c 原告の在留状況原告は,来日後,出入国管理法違反以外の違法な行為をしたこともなく,真面目に暮らしてきており,日本社会に適応している。また,原告に在留特別許可をすることが,我が国の公益に反する事情は認められない。 ウ以上のとおり,原告は条約難民に該当するものであり,仮にこれに当たらないとしても,原告がイランに送還されれば,迫害を受けるおそれがあることや,原告の在留状況に照らすと,原告に在留特別許可をしないこと 以上のとおり,原告は条約難民に該当するものであり,仮にこれに当たらないとしても,原告がイランに送還されれば,迫害を受けるおそれがあることや,原告の在留状況に照らすと,原告に在留特別許可をしないことは,人道に反し,社会通念上著しく妥当性を欠くものというべきであるから,本件裁決は裁量権を逸脱する違法なものというべきである。 (2) 本件処分の違法事由ア本件裁決の違法上記(1)のとおり本件裁決は裁量権を逸脱する違法なものであるから,これを前提とする本件処分も違法である。 イ出入国管理法53条3項,難民条約33条1項(ノン・ルフールマンの原則)違反a 送還先の制限(ノン・ルフールマンの原則)出入国管理法53条3項は,退去強制を受ける者の送還先の国には,ノン・ルフールマン原則を定める難民条約33条1項に規定する領域の属する国を含まないものと定めているから,条約難民に対して退去強制を行う場合には,難民条約33条1項に規定する領域の属する国を送還先としてはならない。 b 本件処分が出入国管理法53条3項,難民条約33条1項に違反すること上記(1)イaのとおり,原告は条約難民であり,原告にとって,イランは難民条約33条1項に規定する領域の属する国に該当するから,イランを送還先とする本件処分は,出入国管理法53条3項,難民条約33条1項に反する違法な処分である。 なお,退去強制令書に送還先を記載することは,出入国管理法施行規則によって要求されているものであるが,送還先の記載は,退去強制令書の重要な部分をなすものであるから,送還先の指定が違法である以上は,退去強制令書発付処分全体が違法になるものと解すべきである。 ウ拷問及び他の残虐な,非人道的又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(平成11年条約第6号。以下「拷問等禁止条約」という。)3 ,退去強制令書発付処分全体が違法になるものと解すべきである。 ウ拷問及び他の残虐な,非人道的又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(平成11年条約第6号。以下「拷問等禁止条約」という。)3条1項違反a 拷問等禁止条約3条1項の定め拷問等禁止条約3条1項は,締約国は,いずれの者をも,その者に対する拷問が行われるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠がある他の国へ追放し,送還し又は引き渡してはならない旨規定している。 b 本件処分が拷問等禁止条約3条1項に違反すること(a) イランにおけるは石打ち刑は拷問等禁止条約1条1項の定める「拷問」に当たることⅠ 上記(1)イa(a)のとおり,イランにおける同性間性行為に対する処罰は,死刑であり,その方法はイスラム法判事によって決められるが,実際には,石打ち刑であることが通常である。 これは,公開の場で,公衆によって,死ぬまで石による傷害を与え続ける方法であって,過度に長い時間をかけて,死という結果以外に,激しい肉体的苦痛を与える方法であるばかりか,公衆による処刑であるから,精神的にも,激しい苦痛を与えるものである。そして,石打ち刑によるこれらの苦痛は,処罰の目的で,イランの公務員によって,あるいは公務員が公衆を扇動して故意に加えるものであるから,イランにおける石打ち刑は,拷問等禁止条約1条1項の規定する「拷問」に当たる。 Ⅱ 石打ち刑は拷問等禁止条約1条1項後段の「合法的な制裁」には当たらないことⅰ 世界人権宣言5条は,「何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。」旨規定し,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)7条も,「何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。」旨 を受けることはない。」旨規定し,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)7条も,「何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。」旨規定している。また,B規約6条は,「死刑を廃止していない国においては,死刑は,(中略)最も重大な犯罪についてのみ科することができる。」旨規定している。 そして,拷問等禁止条約は,上記の世界人権宣言及びB規約の規定に留意して,「拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰を無くすための世界各地における努力を一層効果的なものとすることを希望して」制定されたものであるが(拷問等禁止条約前文),上記の世界人権宣言及びB規約の規定が基礎とするのは,刑罰の謙抑性であり,刑の均衡の原則である。 そうであるとすると,当該処罰が拷問等禁止条約1条1項後段の「合法的な制裁」に当たるというためには,当該処罰が刑罰の謙抑性や刑の均衡の原則に沿っている場合に限られるというべきである。すなわち,当該処罰が当該締約国の国内法において合法的であるだけでなく,国際的な人権諸基準(世界人権宣言,B規約,刑の均衡の原則などの刑事手続上の諸原則を含む。)に適合的であることを要するものと解すべきである。 ⅱ① イランにおける石打ち刑の具体的な執行方法は,上記Ⅰのとおりであって,これは,死刑に当然付随する苦痛のみを与えるものではなく,より大きな苦痛を与えることそのものを目的としているものであるから,イラン国内法上合法的であっても,国際的な人権基準から許されない過度の苦痛を与えるものであって,拷問であることは明らかである。 そうであるとすると,イランにおける石打ち刑は,世界人権宣言5条及びB規約7条に違反するものであって,「合法的な制裁」に当たると解することは を与えるものであって,拷問であることは明らかである。 そうであるとすると,イランにおける石打ち刑は,世界人権宣言5条及びB規約7条に違反するものであって,「合法的な制裁」に当たると解することはできない。 ② そして,石打ち刑が拷問等禁止条約にいう「拷問」に当たるとする明言する国際機関等もある。 すなわち,イランにおける石打ち刑について,欧州議会は,平成14年2月7日に採択した決議で,「特にイランで行われている石打ち刑,及びその他すべての残虐な若しくは品位を傷つける刑罰を非難する。」と述べ(甲120),また,同年10月22日に採択した決議で,「イランで行われている公開処刑と,特に,近年行われている石打ち刑による死刑を強く非難する。死刑は,国際法で保障されている生命への権利への究極の破壊を代表するものであり,あらゆる方法での死刑に断固として反対することを確認する。」と述べている(甲119)。 さらに,ナイジェリア連邦共和国のシャリーヤ控訴裁判所が姦通罪のかどで下した石打ち刑による死刑判決について,アムネスティ・インターナショナルは,「石打ちによる死刑執行は,自由権規約や拷問等禁止条約によって禁止されている拷問その他の残虐,非人道的ないし品位を傷つける取り扱い又は刑罰の究極の形態である。」と述べ(甲115),また,国際法律家委員会は同国大統領に宛てた公開書簡の中で,「石打ちによる死刑は,緩慢で苦痛に満ちた死をもたらすものであり,明らかに拷問等禁止条約にいう拷問として定義されるものである。」と述べた(甲116)ほか,同国の別のシャリーア控訴裁判所が姦通罪の事件で下した判決に関連して,ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ部門のディレクターは,「石打ち刑による死刑は,国際法により禁止されている拷問に当たる。」と明確に述べている(甲 訴裁判所が姦通罪の事件で下した判決に関連して,ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ部門のディレクターは,「石打ち刑による死刑は,国際法により禁止されている拷問に当たる。」と明確に述べている(甲118)。 (b) 原告がイランに送還されれば石打ち刑を受けるおそれがあると信ずるに足りる理由があること原告がイランに送還された場合,石打ち刑を受ける危険性があることは,上記(1)イaの(a)及び(b)並びに上記(a)Ⅰのとおりであるから,原告がイランに送還されれば石打ち刑を受けるおそれがあると信ずるに足りる理由がある。 したがって,送還先をイランとする本件処分は,拷問等禁止条約3条1項に違反するものというべきである。 (被告らの主張)(1) 本件裁決の違法事由(裁量権の逸脱)の主張についてア在留特別許可についての被告法務大臣の裁量権の範囲a そもそも,国家は,外国人を受け入れる義務を国際慣習法上負うものではなく,特別の条約ないし取決めがない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを自由に決することができるのであり,憲法上も,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもない(最高裁昭和32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁,最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。 そして,在留特別許可は,出入国管理法上,退去強制事由が認められ退去させられるべき外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,在留期間の更新と異なり,当該外国人に申請権も認められていないものである。 以上のほか,在留特別許可に関する出入国管理法50条1項3号の文言と在留期間の更新 き外国人に恩恵的に与え得るものにすぎず,在留期間の更新と異なり,当該外国人に申請権も認められていないものである。 以上のほか,在留特別許可に関する出入国管理法50条1項3号の文言と在留期間の更新に関する同法21条3項の文言との相違などに照らせば,被告法務大臣の在留特別許可の許否に関する裁量の範囲は,在留期間更新の許否に関する裁量の範囲よりも,質的に格段に広範なものであることは明らかである(最高裁昭和34年11月10日第三小法廷判決・民集13巻12号1493頁参照)。 b このことは,出入国管理制度の趣旨からも明らかである。 すなわち,外国人の我が国への出入国は,日本社会の治安と善良な風俗の維持,保健衛生の確保,労働市場の安定性等,政治経済はもちろん,国民生活一般へ重大な影響を与えるものであることから,我が国は,外国人の無秩序無制限な我が国への出入国滞在を認めず,これらの分野における我が国の国益の保持を目的として出入国管理法を定め,在留資格制度を中核とする出入国管理制度を設けた。 出入国管理法24条列挙の退去強制事由に該当するということは,類型的にみて,我が国社会に滞在させることが好ましくない外国人であり,そのことを前提にした上で,恩恵として,当該外国人の在留を特別に許可することが我が国の国益の保持に合致するか否かを検討する必要がある。具体的には,当該外国人の滞在中の一切の行状等の個別的事情のみならず,国内の治安や善良な風俗の維持,保健衛生の確保,労働市場の安定等の政治,経済,社会等の諸事情,当該外国人の本国との外交関係,我が国の外交政策,国際情勢といった諸般の事情をその時々に応じ,各事情に関する将来の変化の可能性なども含めて総合的に考慮し,我が国の国益を害せず,むしろ積極的に利すると認められるか否かを判断して行わなければならな ,国際情勢といった諸般の事情をその時々に応じ,各事情に関する将来の変化の可能性なども含めて総合的に考慮し,我が国の国益を害せず,むしろ積極的に利すると認められるか否かを判断して行わなければならないのであって,そのような判断は,国内はもとより国際的にも広範な情報を収集し,その分析の上に立って,先例にとらわれず,時宜に応じて的確かつ慎重に行う必要があり,時には高度に政治的な判断を要求される場合もあり得ることなどにかんがみれば,出入国管理行政全般について国民や社会に対して責任を負う被告法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねるのが適当である。 c そうすると,在留特別許可を付与しなかった被告法務大臣の判断の適否に対する司法審査の在り方は,被告法務大臣と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断するのではなく,被告法務大臣の第一次的な裁量判断が既に存在することを前提として,同判断が裁量権を付与した目的を逸脱し,又はこれを濫用したと認められるかどうかを判断すべきである(行政事件訴訟法30条参照)。 そして,上記a及びbのとおり在留特別許可に係る被告法務大臣の裁量は極めて広いものであるから,在留特別許可を付与しないという被告法務大臣の判断が裁量権の逸脱に当たるとして違法とされるような事態は容易には想定し難いというべきであり,極めて例外的にその判断が違法となり得る場合があるとしても,それは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお我が国に在留することを認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこれが看過されたなど在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである。 イ本件裁決が裁量権を逸脱するものではな ったにもかかわらずこれが看過されたなど在留特別許可の制度を設けた法の趣旨に明らかに反するなど極めて特別な事情が認められる場合に限られるというべきである。 イ本件裁決が裁量権を逸脱するものではないことa 原告は条約難民に該当しないこと(a) イランにおいても同性愛者であることを理由に処罰されるものではないことⅠ 同性愛者に関するイランの国内情勢ⅰ 確かに,イラン刑法は,「ソドミーの処罰は死刑である。シャリーアの裁判官は,どのように殺害を実行するかを決める。」との定めを置いているようであるが,現実には,イラン社会においても,同性愛は一つの社会的な現象であり,それが個人の嗜好に留まるものであってイスラム道徳に公然と逸脱するものとされない限り,事実上容認されており,また,同性間性行為処罰規定は,立証要件が極めて厳格であることもあって積極的に運用されておらず,これのみを根拠として処刑された例も知られていない。さらに,イラン社会では,抱擁,頬へのキス,手を握る等の男性間の身体接触が文化的に容認されており,同性愛者を識別することは困難であるとされている。 原告の主張によれば,原告は,本国において,14歳のころ同性間性行為を経験して同性愛に走り,以来,14年間にわたり本国において一度も処罰を受けることなく平穏に生活していたもので,この一点からしても,イランにおいても同性愛者が同性愛者であることを理由に直ちに処罰を受けるものでないことは明らかである。 ⅱ 原告は,上記ⅰの主張の根拠の一つであるUNHCR作成の各国情報に出ているカナダ移民局の作成した資料(乙17)の証拠価値は極めて低い旨主張する。 しかしながら,UNHCR作成の各国情報は,カナダの移民局が作成した資料をUNHCRが難民認定業務に有益な資料として引用・公表したものであり,し 資料(乙17)の証拠価値は極めて低い旨主張する。 しかしながら,UNHCR作成の各国情報は,カナダの移民局が作成した資料をUNHCRが難民認定業務に有益な資料として引用・公表したものであり,しかも,実際にオーストラリアの難民控訴審判所の審判例でも利用されているのであって(乙22の1,22の2),イランにおける同性愛者の状況に関し,十分な信憑性を持った資料と評価されているのであり,英国移民局及びオランダ外務省も,それぞれイランにおける同性愛者の状況について,カナダ移民局の作成資料と同旨の内容を含む報告書を公表している(乙20の2,21)。 上記のカナダ移民局の資料は,複数の情報源からの情報を集積して作成されたものであり,その中には,イランで「パートナー」と接触する際に,何ら問題がなかったようにみられる旨の同性愛的指向を持った在テヘラン・スウェーデン大使館外交官の報告や,イランでは,他の男性と私的な性的行為を行う男性も虐待されず,組織的な虐待を受けるものではない旨の頻繁にイランに赴いてエイズに罹患した社会的集団の実地調査を行っている新ソルボンヌ・パリ第三大学助教授である社会学者の意見が紹介されているのであって,十分な実証に裏付けられた報告書というべきである。 ⅲ 原告は,報道記事等に基づき,イランにおいては実際に同性間性行為のみを理由に処刑が行われている旨主張する。 しかしながら,原告の提出した報道記事の多くは,他の報道の引用であり,その情報源を辿ってそのような処刑が実際に行われたのか,また,同性間性行為のみを理由として処刑されたものか否かを確認することはできず,これらを含む報道例に基づいてAが作成した陳述書(甲93)も同様である。そして,一部の報道(甲70)については,誤った引用に基づく報道であったことが確認されている(乙29 かを確認することはできず,これらを含む報道例に基づいてAが作成した陳述書(甲93)も同様である。そして,一部の報道(甲70)については,誤った引用に基づく報道であったことが確認されている(乙29)。 結局のところ,イランにおいて同性愛者が処刑された事例が報道されている事実があるものの,同性愛行為を理由として処刑されたものであるか,処刑された同性愛者が同性愛とは別の犯罪を犯して訴追を受けていたのかは確認できず,イランにおいても,同性愛行為のみを理由とする処刑があることは知られていないという英国移民局の報告書のとおりというべきである(乙20の2)。 Ⅱ 諸外国の裁判例等の動向オーストラリア,オランダ,カナダ及びスウェーデンのように,同性愛又は同性婚に対し寛容とされている諸国においても,主にハタミ政権成立以降(平成9(1997)年以降),カナダ移民局の資料(乙17)で示されたような客観情勢を踏まえ,イラン人同性愛者を難民として認定せず,退去相当としたことを適法とする裁判例等が多数存在する。 また,国連拷問禁止委員会の判断例においても,イランにおいて,同性愛者の告訴や処罰が積極的に行われているものでないとの見解が表明されている。 Ⅲ イラン社会の変容ⅰ 民間のホームページでも,イランにおいて,同性愛者であることを理由に迫害又は深刻ないやがらせを受ける危険があるような状況にないことをうかがわせるものがある。たとえば,あるイラン人女性同性愛者は,同性愛がイラン人社会に公然と受け容れられるものでないことを述べながらも,テヘランにゲイとレズビアンのコミュニティーがあること,イランの社会では,男性の方がずっと自由であり,他のゲイの男性に簡単に会うことができること,そのような社会変化の背景にはインターネットの普及によりコミュニケーションが容易 コミュニティーがあること,イランの社会では,男性の方がずっと自由であり,他のゲイの男性に簡単に会うことができること,そのような社会変化の背景にはインターネットの普及によりコミュニケーションが容易になるなどの事情があることを述べている(乙60の1及び2)。 ⅱ 近年,イランにおいてこのような変化が起こっている理由については定かではないが,ハタミ政権の成立(平成9年)と無関係な動きではないと考えるのが自然である。すなわち,イランの人口約6200万人の過半数がホメイニ革命を知らない若い世代となり,衛星テレビやインターネットの流入もあって,ますます自由な世界・非イスラムへのあこがれを募らせている点が指摘されており,このようなイラン社会の変容と本件とは無関係ではない。 (b) 原告がイランに帰国したとしても処罰を受ける現実的な可能性はないことⅠ イランにおいても同性愛者であることを理由に直ちに処罰を受けるものでないことは上記(a)のとおりであるが,この点を措いても,以下に述べるとおり,原告がイランに帰国したとしても処罰を受ける現実的な可能性はないというべきである。 Ⅱⅰ 原告の目的は本邦における在留資格の取得であること原告は,平成3年8月29日,本邦に入国し,入国後間もなく工事現場等において不法就労するようになるとともに,90日の在留期間を徒過して不法残留し,本国の両親あてに送金するなどしており,その間,在東京イラン大使館で旅券の有効期限の延長手続や新旅券の発給を受けるなど,自発的に国籍国の保護を受けていた反面,我が国に在留するために必要な手続については,外国人登録を除き,在留期間の更新又は在留資格の変更を申請することもなく,難民認定申請も行ってこなかった。 ところが,平成12年4月22日に不法滞在の容疑で逮捕され,起訴猶予処分とな については,外国人登録を除き,在留期間の更新又は在留資格の変更を申請することもなく,難民認定申請も行ってこなかった。 ところが,平成12年4月22日に不法滞在の容疑で逮捕され,起訴猶予処分となったものの,そのまま退去強制手続が開始されたため,同年6月1日,14歳のころから同性間性行為をしている同性愛者であり,帰国すれば残虐な刑罰を受けるなどとし本件難民認定申請をした。 このように,原告は,9年近くにわたって本邦での不法滞在,不法就労を続けたものの,不法滞在の事実が発覚して退去強制手続が開始されたため,本邦における在留資格を得るために唐突ともいうべき難民認定申請をしたものであり,原告が真に同性愛者であることを認めるに足りる証拠はなく,相当疑わしいといわざるを得ないし,このような原告の行動は,迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有している者の行動としては著しく不自然である。 ⅱ 原告が同性愛者であるか否かについてイラン当局が関心を抱いているとは考え難いこと① 原告の退去強制手続における供述によれば,原告は,イランではゲイであることを隠して生活していたのであり,また,来日後には,ホーマンの機関誌に投稿したことがあるが,この投稿の際にはペンネームを使用していた。 次に,原告は,退去強制手続で,東京や札幌で行われたゲイのパレードに参加し,これを撮影したビデオが新宿のビデオ店で販売されているとも供述しているが,原告は匿名で参加しているうえ,当該パレードは,それ自体日本で行われたものであり,社会的知名度が高いともいえないから,当該パレードヘの参加及びそのビデオが新宿で販売されていることをもって,イラン政府が原告がゲイであることを知っていることの根拠とはなり得ない。 さらに,原告が平成11年6月21日にセミナーで行った講 該パレードヘの参加及びそのビデオが新宿で販売されていることをもって,イラン政府が原告がゲイであることを知っていることの根拠とはなり得ない。 さらに,原告が平成11年6月21日にセミナーで行った講演を紹介するホーマンの機関誌の記事でも,原告は匿名とされている(甲74)。 ② 原告は,本国で旅券の発給を受け,正規の手続を経て出国したものであり,来日後も,上記ⅰのとおり,在東京イラン大使館で旅券の有効期限の延長手続や新旅券の発給を受けるなど,自発的に国籍国の保護を受けている。 ③ 以上の諸事情に照らすと,原告が同性愛者であるか否かについて,イラン当局が関心を抱いているとは到底考え難く,原告が帰国したとしても処罰を受ける現実的な可能性はないというべきである。 (c) 難民条約1条A(2)の規定する難民の要件の不存在Ⅰ 同性愛者が「特定の社会的集団」に該当するものとはいえないことⅰ 難民条約1条A(2)の規定する「特定の社会的集団の構成員であること」とは,同様の社会的背景,習慣,社会的地位を有し,かつ,一定の結合関係を有しており,同一の集団に属しているとの共通の認識ないし考え方を有する複数の者が存在していることを前提に,そうした者の一員であることをいうものと解されるところ,個人が同性愛者であることは,以上のような結合関係を当然に伴うものではないので,これをもって「特定の社会的集団の構成員である」ということはできない。 ⅱ 同性愛者が「特定の社会的集団」に該当するか否かに係る諸外国の解釈をみても,オーストラリアのようにこれを肯定する国もある一方,これを否定する国もあるのであって,難民条約の解釈上,同性愛者が「特定の社会的集団」に該当するとの国際的な合意があるとはいえない。例えば,英国の裁判例には,同性愛者が「特定の社会的集団」に該当する これを否定する国もあるのであって,難民条約の解釈上,同性愛者が「特定の社会的集団」に該当するとの国際的な合意があるとはいえない。例えば,英国の裁判例には,同性愛者が「特定の社会的集団」に該当することを否定したものがあり(乙45),また,スウェーデンは,同性愛者は難民条約上の難民に該当しないとの解釈を前提に,外国人法上,独自の類型を定め,難民に準じる者として庇護を目的とする滞在許可の対象としている(乙46の2及び3)。 Ⅱ 原告が政治的意見を理由に迫害を受けるおそれもないことⅰ 原告は,同性愛者の人権侵害を続けるイランの現体制を批判し,同性愛者に対する法的及び社会的迫害をなくすことを求めるという政治的意見を確立させたものであるから,イランに帰国した場合には政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある旨主張する。 しかしながら,原告が性的指向に係る政治的意見を有するものであるとしても,そのような政治的意見がイラン政府当局に知られているか,又は少なくとも早晩知られるであろうと考えるに足る理由がないことは,上記(b)Ⅱⅱに述べたとおりである。 ⅱ この点について,原告は,難民該当性の判断には,原告のことが当局に知られているか,又は少なくとも早晩知られるであろういう事態の可能性を検討することは不要である旨主張するが,迫害者が「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見」を動機として対象者を迫害するおそれがあることについて「十分に理由のある恐怖を有する」のでなければ難民議定書1条の規定により難民条約の適用を受ける難民であるとはいえないのであるから,難民該当性を認めるためには,当該人物が難民条約所定の迫害事由に該当するものであることが当局に知られているか,又は知られるであろうことについて,十分に理由がある恐怖があ とはいえないのであるから,難民該当性を認めるためには,当該人物が難民条約所定の迫害事由に該当するものであることが当局に知られているか,又は知られるであろうことについて,十分に理由がある恐怖があることを要することは自明というべきである。 また,原告は,退去強制手続における供述によると,イランでは14歳から22歳までの間ボーイフレンドがいたとしながら,同性愛者であることを隠して生活していたというのであり,原告が高い政治意識を抱いて,イランに送還された場合に同性間性行為に係る刑罰法令の撤廃等を求める政治活動に従事するとも考え難い。 なお,オランダ外務省は,平成10年12月,他国で庇護を求めることはイラン当局により政治的活動とはみられず,それを理由に処罰を受けないことを報告しているところ,仮に原告が同性愛者であることを理由に難民認定申請をしていることがイラン政府に知られたとしても,原告が政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるとはいえない(乙20の1,21)。 Ⅲ 性表現を抑制されることは迫害とはいえないこと原告は,仮にイランに退去させられた場合に,同性愛者に対し不寛容なイラン社会において,自らの性的指向を隠して生活することを強いられとすれば,このこと自体が迫害に当たる旨主張する。 しかしながら,公序良俗を理由とする性表現への規制は,各国がその主権に基づき,社会情勢や風俗・習慣に照らし最善と考える施策を採用しているものであり,そうとすれば,保守的な社会・風土を有する国において,性表現に関して,我が国には存在しないような規制がなされることがあったとしても,直ちにこれが非人道的なものであり,当該規制に不満を有する者に対し保護を与えるべきであると考えることはできない。 また,原告自身,退去強制手続で,イランではゲイであることを隠して があったとしても,直ちにこれが非人道的なものであり,当該規制に不満を有する者に対し保護を与えるべきであると考えることはできない。 また,原告自身,退去強制手続で,イランではゲイであることを隠していたとしながら,14歳から22歳までの間,ボーイフレンドを持って生活していたと供述していること,仮に原告が不法残留中に一定の生活関係を形成したとしても,そのような事情は,不法残留という3年以下の懲役にも処せられる犯罪によって形成された違法状態の上に築かれたものにすぎず,そもそも法的保護に値するものとはいえないこと(最高裁昭和54年10月23日判決・裁判集民事128号17頁),現在のイランには,同性愛者がパートナーを求めて集まることで知られている公園があり,そこが治安部隊によって定期的に摘発されるような状況もないうえ,インターネットなどを利用して交際する同性愛者のコミュニティーも存在するとされていること等を考えれば,仮に原告が自国においては,同性愛者としての活動を本邦と同様に行うことができないとしても,これをもって迫害に当たるとみることはできない。 (d) 以上のとおりであるから,原告は条約難民には当たらないというべきである。 b 原告の在留状況等原告は,本国イランで出生・成育し,本国で教育を受け,本国内で生活を営んできたものであって,本邦に入国するまで,本邦とは何らかわりのなかった者である。 また,原告は,上陸申請においては,虚偽の上陸目的を外国人入国記録の渡航目的欄に記載して提出することによって上陸許可を受けた者であるところ,入国後,平成12年4月22日に不法残留によって警視庁高島平警察署員に逮捕されるまで,8年以上の長期間にわたり,本邦に不法に滞在して不法就労活動に従事していたものであって,逮捕されなければ,引き続き不法就労していた 4月22日に不法残留によって警視庁高島平警察署員に逮捕されるまで,8年以上の長期間にわたり,本邦に不法に滞在して不法就労活動に従事していたものであって,逮捕されなければ,引き続き不法就労していたものと認められ,その在留状況は著しく不良であり,出入国管理行政上看過し難いものである。長期にわたる不法残留等の事実や不法就労事実等は,在留特別許可の判断においては一般に消極的要素として評価すべきことは明らかである。 c 以上のような諸事情を考慮すれば,被告が本件裁決に当たって付与された権限の趣旨に明らかに背いて裁量権を行使したものと認め得るような特別の事情が存在するとは認められないから,本件裁決は裁量権を逸脱するものではない。 (2) 本件処分の違法事由の主張についてア本件裁決の違法を理由とする本件処分の違法の主張について退去強制手続において,被告法務大臣から「異議の申出は理由がない」との裁決をした旨の通知を受けた場合,被告主任審査官は,退去強制令書を発付するにつき裁量の余地はないから,上記(1)のとおり本件裁決が違法であるといえない以上,本件処分も適法である。 イ出入国管理法53条3項,難民条約33条1項(ノン・ルフールマンの原則)違反の主張について原告が条約難民に当たらないことは,上記(1)イaのとおりであるから,原告をイランに送還することは,出入国管理法53条3項,難民条約33条1項(ノン・ルフールマンの原則)に違反するものでない。 したがって,本件処分に当たり,被告主任審査官が送還先をイランとしたことに何ら違法はない。 ウ拷問等禁止条約3条1項違反の主張についてa イランにおける石打ち刑は合法的制裁条項に該当すること(a) 拷問等禁止条約1条は,1項前段で「拷問」の定義を定め,同後段で「合法的な制裁の限りで苦痛が生ずるこ 止条約3条1項違反の主張についてa イランにおける石打ち刑は合法的制裁条項に該当すること(a) 拷問等禁止条約1条は,1項前段で「拷問」の定義を定め,同後段で「合法的な制裁の限りで苦痛が生ずること又は合法的な制裁に固有の若しくは付随する苦痛を与えること」を「拷問」の定義から除外しているところ,イランにおいては石打ち刑は合法的な制裁として存在しているものと認められるから,拷問等禁止条約にいう「拷問」には該当しない。 (b) これに対し,原告は,拷問等禁止条約は世界人権宣言及びB規約の趣旨に従って解釈すべきであり,当該処罰が刑罰の謙抑性や刑の均衡といった原則に沿っている場合にのみ,同条約1条1項後段の「合法的な制裁」ということができる旨主張する。 しかしながら,そもそも拷問等禁止条約1条1項後段の「合法的な制裁」には,何らこれを制限又は留保する文言はなく,また,拷問等禁止条約の制定過程においても言及されているとおり,刑罰等に関する「既存の国際基準」なるものは存在しないところ,用語の通常の意味に従い,誠実に解釈すれば(条約法に関するウィーン条約31条1項),「合法的な制裁」とは,当該制裁が国内法に合致することを意味するものであり,国際基準に合致するものであることが要請されているものではないというべきである。 仮に,拷問等禁止条約1条1項後段に定める合法的制裁は,当該制裁が国際基準に合致するものであることをも要請するものであるとしても,石打ち刑が拷問に当たるというような国際的合意が既になされたとの報告はいかなる国際機関等からも示されていないから,イランにおける石打ち刑が「合法的な制裁」に該当しないとは解されない。 b 原告がイランに帰国した場合に拷問を受けると信ずるに足りる実質的な根拠があるとは認められないこと(a) 上記aのとおり,イ イランにおける石打ち刑が「合法的な制裁」に該当しないとは解されない。 b 原告がイランに帰国した場合に拷問を受けると信ずるに足りる実質的な根拠があるとは認められないこと(a) 上記aのとおり,イランにおける石打ち刑は,拷問等禁止条約にいう拷問に該当するとは考えられないが,この点をおくとしても,原告が帰国した場合に拷問を受けると信ずるに足りる実質的な根拠があると主張する理由は,難民該当性に係る主張と共通するものであるところ,原告が帰国した場合に迫害を受けるおそれがあるとは認められないことは上記(1)イaのとおりであるから,原告をイランに送還することは拷問等禁止条約3条1項に違反するとは考えられない。 なお,イラン刑法では,石打ち刑は,姦通罪に対して適用されるのが適当な刑罰とされており,男性同士の性行為に対する死刑執行方法として明文には規定されていない。 (b) 拷問等禁止条約3条2項は,権限のある当局がその者に対する拷問が行われるおそれの有無を決定するに当たり,関係する国における一貫した形態の重大な,明らかな又は大規模な人権侵害の存在を含んだすべての関連する事情を考慮することを求めているところ,現在のイラン国内において,同性愛者に対し,一貫した形態の重大な,明らかな又は大規模な人権侵害があるとは認められない。 すなわち,拷問等禁止条約の制定過程をみると,同条約が想定する「大規模人権侵害等の存在」とは,基本的には,①アパルトヘイト,②人種差別又は民族浄化,③民族解放運動の抑圧,④外国領域の占領,⑤植民地主義又は新植民地主義,又はこれらに類似する明らかなかつ大規模な人権侵害を指すものと認められるところ,ハタミ政権成立後のイラン国内における同性愛者への取扱いを巡る状況は,上記①ないし⑤又はそれに類似する状況に共通してみられるような「重 する明らかなかつ大規模な人権侵害を指すものと認められるところ,ハタミ政権成立後のイラン国内における同性愛者への取扱いを巡る状況は,上記①ないし⑤又はそれに類似する状況に共通してみられるような「重大性,明白性又は大規模性」を有するものであるとはおよそ認められない。 c 以上のとおりであるから,本件処分は,拷問等禁止条約3条1項に違反するものではない。 3 争点以上によれば,本件の争点は,次のとおりである。 (1) 本件裁決は,被告法務大臣が裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であるか否か。 (争点1)(2) 本件処分は,前提となる本件裁決が違法であるために,又は出入国管理法53条3項,難民条約33条1項若しくは拷問等禁止条約3条1項に違反するものとして違法であるか否か。 (争点2)第3 争点に対する判断 1 争点1について(1) 在留特別許可に関する被告法務大臣の裁量権について国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかは,専ら当該国家の立法政策にゆだねられているところであって,当該国家が自由に決定することができるものとされている。我が国の憲法上も,外国人に対し,我が国に入国する自由又は在留する権利(ないしは引き続き在留することを要求し得る権利)を保障したり,我が国が入国又は在留を許容すべきことを義務付けている規定は存在しない。 ところで,出入国管理法50条1項は,被告法務大臣が,同法49条1項に基づく異議の申出が理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該容疑者について同法24条各号に規定する退去強制事由が認められ,異議 ところで,出入国管理法50条1項は,被告法務大臣が,同法49条1項に基づく異議の申出が理由があるかどうかを裁決するに当たって,当該容疑者について同法24条各号に規定する退去強制事由が認められ,異議の申出が理由がないと認める場合においても,当該容疑者が,①永住許可を受けているとき,②かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき,③特別に在留を許可すべき事情があると認めるときには,その者の在留を特別に許可することができるとしており,同法50条3項は,同法49条4項の適用については,上記の許可をもって異議の申出が理由がある旨の裁決とみなすと定めている。 しかし,出入国管理法には,その許否の判断に当たって必ず考慮しなければならない事項など上記の判断を覊束するような定めは何ら規定されておらず,このことと,上記の判断の対象となる容疑者は,既に同法24条各号の規定する退去強制事由に該当し,本来的には本邦から退去を強制されるべき地位にあること,外国人の出入国管理は,国内の治安と善良の風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定などの国益の保持を目的として行われるものであって,このような国益の保護の判断については,広く情報を収集し,その分析のうえに立って,時宜に応じた的確な判断を行うことが必要であり,ときに高度な政治的な判断を要求される場合もあり得ることとを併せて勘案すれば,上記在留特別許可をすべきか否かの判断は,被告法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられているものであって,被告法務大臣は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正を図る観点から,当該外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲などの諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているとい 人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否のみならず,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲などの諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量権を与えられているというべきである。 したがって,これらの点からすれば,在留特別許可を付与するか否かに係る被告法務大臣の判断が違法となるのは,上記判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,被告法務大臣に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した場合に限られるというべきである。 そして,前記のとおり,被告法務大臣が上記の判断を行うについて特に何らの規準が設けられていないこと及び上記在留特別許可は出入国管理法24条各号の規定する退去強制事由に該当して本来的には本邦から退去を強制されるべき地位にある者を対象としてされるものであり,当該容疑者に申請権が認められているものでもないことからすれば,上記裁量の範囲は,在留期間更新の場合と比べて,より広範なものであるというべきである。 そこで,本件において,原告に在留を特別に許可すべき事情が認められないとした被告法務大臣の判断が,裁量権の範囲を逸脱したものであるか否かについて検討する。 (2) 原告の条約難民該当性についてア条約難民の意義難民条約1条A(2)は,「難民」について,「1951年1月1日前に生じた事件の結果として,かつ,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいるものであって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍 ものであって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」と規定しており,難民議定書1条も,その適用上,「難民」とは,難民条約1条A(2)の「1951年1月1日前に生じた事件の結果として,かつ,」及び「これらの事件の結果として」という文言が除かれているものとみなした場合に同条の定義に該当するすべての者をいい,これらの者については,難民条約2条ないし34条の規定が適用されると規定している。 そして,上記の「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解することが相当であり,また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。 イ原告が条約難民に当たるかa そこで,原告が条約難民に当たるか否かについて検討するに,各項掲記の証拠によると,以下の事実が認められる。 (a) イラン刑法の定める同性間性行為に関する処罰規定(甲1)Ⅰ 現行のイラン刑法は,2名の男性間で行われる性行為で,性器の挿入を含むものをソドミーと規定し(108条),ソドミーが行われた場合には,挿入者と被挿入者は共に処罰の対象となる旨定めている(109条)。 そして,ソドミーに対 の男性間で行われる性行為で,性器の挿入を含むものをソドミーと規定し(108条),ソドミーが行われた場合には,挿入者と被挿入者は共に処罰の対象となる旨定めている(109条)。 そして,ソドミーに対する刑罰は死刑であり,執行の方法は,イスラム法(シャリーア)判事の指示に基づくものとされているところ(110条),挿入者と被挿入者が共に成人であり,健康な精神状態で自由意思によりソドミーが行われた場合には,死刑に処するものとされ(111条),また,成人が未成年者とソドミーを行った場合には,挿入者は死刑とし,被挿入者は脅迫によってソドミーを行ったのでない限り74回のむち打ち刑に処するものとされている。 Ⅱ イラン刑法では,ソドミーの法的証明について,処罰のための信頼性は,ソドミーの告白者が4回の告白を行ったときに成立するものとされ(114条),ソドミーの告白が4回未満の場合には,死刑を執行するに必要な信頼性には足らず,むち打ち刑を行う信頼性には足りるものとされている(115条A)。 また,ソドミーは,これを目撃した4名の権利ある男性の証言によって証明されるものとされ(117条),証言した男性が4名未満であった場合には,ソドミーは証明されず,証言者は悪意をもった告訴により処罰される(118条)。 さらに,イスラム法判事は,慣習的な資料に由来する自らの知識に従って宣告することができるとされている(120条)。 (b) 同性間性行為に対する処罰についてのイラン政府の回答等ベイエリア・リポーターの平成2(1990)年1月25日付け記事は,「同年元旦のイランのラジオは,イランの司法長官の「同性愛という卑劣な行為に対する宗教上の処罰は,それらを犯した人間を両方とも死刑に処することである。」との声明を報道した。」旨を報じている(甲40)。 また,BBC放 のラジオは,イランの司法長官の「同性愛という卑劣な行為に対する宗教上の処罰は,それらを犯した人間を両方とも死刑に処することである。」との声明を報道した。」旨を報じている(甲40)。 また,BBC放送の同年5月21日の放送は,同月18日にイラン・イスラム共和国の声が放送したイランの最高裁判所長官によるテヘラン大学で行われた金曜礼拝における説教の内容を報道したが,その中で,同長官は「イスラムは,同性愛者については,男性女性を問わず,最も厳しい刑罰を科している。」と述べた(甲51)。 さらに,イラン政府は,国連人権委員会特別代表からの問い合わせに対し,平成3(1991)年1月22日付けで,「イスラム法によれば,同性愛者が自らの行為を告白したうえ,その行為に固執する場合は,死刑が宣告される。」と回答した(甲30)。 (c) イランにおける同性間性行為による処罰等についての新聞報道等Ⅰ イランにおいて,同性間性行為(ソドミー)ないしこれを含む罪名による処罰ないし訴追例として,新聞報道等に現れた主なものを年代順に列記すると,以下のとおりとなる。 Ⅱⅰ ロイター通信は,昭和54(1979)年5月27日付けで,「2名の男性が,同性愛により死刑に処せられた。」旨報じた(甲93)。 ⅱ ロイター通信は,昭和55(1980)年7月3日付けで,「一人の男性が,少年を誘惑し,性的関係を持ったとして銃殺に処せられた。また,別の男性は,同性愛と姦通の罪により石打ち刑に処せられた。」旨報じた(甲43,93)。 ⅲ ロイター通信は,昭和56(1981)年2月25日付けで,「テヘラン・タイムズが伝えたところによると,2名の男性が同性愛行為を行ったとして銃殺刑に処せられた。」旨報じた(甲41)。 ⅳ ロイター通信は,昭和57(1982)年9月1日付けで,「テヘランの新聞は, ン・タイムズが伝えたところによると,2名の男性が同性愛行為を行ったとして銃殺刑に処せられた。」旨報じた(甲41)。 ⅳ ロイター通信は,昭和57(1982)年9月1日付けで,「テヘランの新聞は,3名の人が同性愛の罪で処刑されたと伝えている。」旨報じた(甲44)。 ⅴ ベイエリア・リポーターは,平成2(1990)年1月25日付けの記事で,「ヴァン・アッタの報道によると,同年元旦のイランのラジオ放送は,同年元旦に,3名の同性愛男性が公開の場で斬首され,2名のレズビアンが石打ち刑に処されたと公表した。」旨報じた(甲40)。 ⅵ アムネスティ・インターナショナルは,平成6(1994)年1月,「イランで,イスラム教スンニ派の指導者が,平成4(1992)年8月初旬ころ,スパイ,姦通,同性間性行為の罪により処刑された。」旨述べた(甲46)。 ⅶ アムネスティ・インターナショナルは,平成6(1994)年4月28日付けの「緊急行動要請」の中で,「イラン人の著述家が,同年3月14日に逮捕され,同性間性行為のほか,薬物の使用,アルコールの醸造,スパイのネットワークとの関係,西側の反革命組織からの資金提供などにより告訴されていた。」旨述べた(甲45)。 ⅷ ロイター通信は,平成7(1995)年11月14日付けで,「イランの報道機関が伝えたところによると,裁判所で,スーフィー(神秘主義者)集団に属する男性が,反復した姦通及び同性愛行為により,石打ち刑に処せられた。」旨報じた(甲42)。 ⅸ 米国国務省は,平成10(1998)年のイランの人権状況に関する報告書で,「伝統的なスーフィー集団の信者が,平成8(1996)年,婚外性交渉及び同性愛の罪により処刑された。」旨述べた(甲110)。 ⅹ 闘う文化協会オランダは,平成11(1999)年10月1日付けの「イランにお 的なスーフィー集団の信者が,平成8(1996)年,婚外性交渉及び同性愛の罪により処刑された。」旨述べた(甲110)。 ⅹ 闘う文化協会オランダは,平成11(1999)年10月1日付けの「イランにおける同性愛者の状況の評価に関する答弁書」の中で,「サラーム紙の報道によると,イランでは,平成9(1997)年に,少なくとも3人が同性間性行為により起訴され,死刑に処せられた。」旨述べた(甲48)。 その内の1名については,平成9(1997)年10月14日付けのサラーム紙が,「恐喝,覚醒剤の売買,社会に堕落を広げる行為,複数回にわたって少年と男色行為を繰り返した等の罪で,死刑判決を受けた。」旨報じている(甲22)。 また,他の1名と思料される者について,レックス・ウォックナーの国際ニュースは,平成10(1998)年1月5日付けの記事で,「ワシントン・ブレイド紙がロイター通信の報道を引用して報じたところによると,イラン政府は,同性間性行為を行った一人の男性を絞首刑に処した。 彼は,それ以外に,婚外性交渉,飲酒,薬物取引についても有罪とされた。」旨報じている(甲108)。 ⅹⅰ ケイハン紙(ロンドン)は,平成9(1997)年10月2日付けの記事で,「一人の男性がソドミーの罪で死刑となった。」旨報じた(甲23)。 ⅹⅱ ケイハン紙(ロンドン)は,平成13(2001)年1月4日ないし同月10日付けの記事で,「刑務所に収容されていた男性が,刑務所内で同性間性行為を行ったとして死刑に処せられた。」旨報じた(甲78)。 ⅹⅲ AFP通信は,平成13(2001)年5月14日付けで,「イランでは,同月13日の朝,3名の男性が,同性愛,同性間性行為のほか,強姦,殺人,女性の誘拐,姦淫の罪で絞首刑となった」旨報じた(甲123)。 (d) イランにおける同性愛者の状況に 4日付けで,「イランでは,同月13日の朝,3名の男性が,同性愛,同性間性行為のほか,強姦,殺人,女性の誘拐,姦淫の罪で絞首刑となった」旨報じた(甲123)。 (d) イランにおける同性愛者の状況に関する諸外国の調査結果Ⅰ イランにおける同性愛者の状況について,カナダ移民局,オランダ外務省及び英国移民局は,それぞれ次のとおり報告している。 Ⅱⅰ カナダ移民局(乙17)カナダ移民局は,平成10(1998)年2月,UNHCRに対し,イランにおける同性愛者の状況について,様々な情報源に基づいて,次のとおり報告している。 ① マーチン・シールドの報告(平成4(1992)年)によると,同性愛者について,イスラム教の理論と実務の間には,重大な相違がある。 すなわち,上記報告は,理論上,同性愛的行為はイスラム教により厳しく告発されるが,実際には,それは過去も現在も,イスラム教が支配する地域に頻繁に存在し,大部分は寛大に扱われる。実際には,イスラム教の道徳に対する公然たる逸脱のみが告発され,そうした理由で,イスラムの法律は,訴追について,目撃証言を重視しているのである。警察は,罪人であるかもしれない人の捜索のためにの立ち入りを許されず,そうした者は,閉ざされた扉の「品位のあるベールの」後ろではなく,現行犯である場合にのみ逮捕される。同性愛的行為に対する一般的に寛容な態度は,通常それが慎重に行われるという事実により,一部は説明することができる,と述べている。 ② ゲイとレズビアンのためのスウェーデン・アムネスティグループの代表で,国際ゲイ・レズビアン協会のスウェーデンにおける活動家でもある人物は,平成10年2月4日の電話インタビューで,「イランの同性愛者又はレズビアンが処刑された事案は数少ないが,それを唯一の根拠としたものについては誰も知らない のスウェーデンにおける活動家でもある人物は,平成10年2月4日の電話インタビューで,「イランの同性愛者又はレズビアンが処刑された事案は数少ないが,それを唯一の根拠としたものについては誰も知らない。」と述べた。 ③ ソドミー/同性愛の法定刑が死刑であるにもかかわらず,これを理由に有罪判決をするのは極めて難しい(在テヘラン・スウェーデン大使館(平成8(1996)年),パリ大学助教授である社会学者に対する平成10(1998)年1月27日の電話インタビュー,新ソルボンヌ(パリ第三)大学講師で,イランを専攻する社会学者に対する同月28日の電話インタビュー,パリにあるCNRSのイラン調査チームに属する社会学者に対する同月26日の電話インタビュー)。 アムネスティ・インターナショナルも,その出版物である「沈黙を破って性的指向に基づく人権侵害」(平成9(1997)年)で,ソドミーすなわち同性愛による処刑の報告を確認することは困難であり,せいぜいその実行を推測するにとどまることを認めている。 ④ ジェーダ・ソファーによると,イランでは,刑事手続の規定は極めて厳密である。目撃証言の口頭の証言のみが受け入れられる。4人の信頼に値するムスリム男性が,「鍵が鍵穴に入っているところ」を見たと証言するか,又は,被告人が4回告白しなければならない。証明されない告発には厳しい処罰があるので,処罰はめったに実行されない(平成4(1992)年)⑤ テヘランのスウェーデン大使館は,平成8(1996)年の報告書で,次のように述べている。 証拠の提出のための厳密な規則は,実際上,同性愛によって有罪を判決することを不可能にしている。警察及び司法当局は,同性愛行為の存在を調査するために積極的な手段をとりもせず,同性愛者を積極的に検挙もしない。多くの信頼できる情報によると, ,同性愛によって有罪を判決することを不可能にしている。警察及び司法当局は,同性愛行為の存在を調査するために積極的な手段をとりもせず,同性愛者を積極的に検挙もしない。多くの信頼できる情報によると,同性愛者は,ここ数年間,イランでまったく処刑されていない。警察による制裁すなわち虐待又は短期間の拘束の危険にあえてさらされるには,同性愛者のカップルは,公開の場所で,極めてあからさまに,ほとんど挑発的にふるまわなければならない。 同性愛者の置かれている状況は,同性愛の関係が,分別のある方法で処理される限り,訴追又は嫌がらせの危険は極めて少ないという点で,改宗者のそれと同様であるか,又はより穏当なものでありさえする。 イランでは,同性愛については,比較的寛容であるという印象を受ける。なぜならば,イランでは同性愛が決して珍しいものではないからである。例えば,テヘランのあるヘルス・クラブは,同性愛者が頻繁に訪れることで知られている。また,同性愛者である人と会うことは決してまれではない。 イランに任命された同性愛的指向を持つ外交官たちは,イランでパートナーと接触する際に,何ら問題がなかったようにみられる。 もしあったとしても,イランでは,スウェーデンよりも容易に彼らの指向を隠すことができるという状況がある。イランでは,例えば抱擁,頬へのキス,握手のような男性間の身体的な接触は,文化的に受け入れられた行動だからである。 大使館の決定済みの見解は,同性愛を理由に庇護を求めた25歳の男性は,深刻な嫌がらせのいかなる危険も冒すことなく,イランに戻ることができるというものである。 ⑥ 上記新ソルボンヌ(パリ第三)大学講師である社会学者は,頻繁にイランに旅行して,エイズに罹患した社会集団を含む各種の事項の実地調査を行っているものであるが,「実際に,立証 きるというものである。 ⑥ 上記新ソルボンヌ(パリ第三)大学講師である社会学者は,頻繁にイランに旅行して,エイズに罹患した社会集団を含む各種の事項の実地調査を行っているものであるが,「実際に,立証責任が重いので,同性愛者はめったに裁かれず,また,有罪判決を受けない。裁判に至った事案に一度も遭遇したことはなく,結婚に先立つ異性愛関係及び姦通に対する投石は,同性愛に対するものよりもはるかに多い。」と述べた(上記電話インタビュー)。 また,上記社会学者は,同じインタビューで,「テヘランの中心部にDaneshju(学生)と呼ばれる公園があり,そこは他の男性との性的関係を求める男性が会う場所として有名である。公衆も治安部隊もその公園の評判を知っている。イランでは,男性が他の男性の友人やその男性の家族構成員である男性について,その手を握ったり,キスをするなどの肉体的な愛情表現を公然と行うことから,屋外で同性愛のカップルと異性愛の男性2人の友人とを区別することは不可能であり,治安部隊にとって,同性愛の行動を識別することができないので,誰かを逮捕することは,非常に難しい。結果として,イランでは,同性愛者は虐待されず,組織的な虐待を受けるものではない。」と述べた。 ⑦ 上記パリ大学助教授である社会学者は,「実際上,同性愛事案を立証するのは極めて困難であり,ほとんど起こらない。立法による抑制は同性愛者に向けられたものではなく,婚姻外の異性愛関係に向けられている。イラン人男性は,社会的に受け入れられる行動として,非常に密接な身体接触(手をつなぎ,また,キスをする。)をするので,誰が同性愛者であり誰がそうでないかを識別するのは困難であるため,治安部隊が同性愛行為を抑圧するのはまれである。男性間の性的な関係は,イランでは一般的であって,それらが個人的 する。)をするので,誰が同性愛者であり誰がそうでないかを識別するのは困難であるため,治安部隊が同性愛行為を抑圧するのはまれである。男性間の性的な関係は,イランでは一般的であって,それらが個人的なものである限り,治安部隊によって抑制されない。」と述べた(上記電話インタビュー)。 ⑧ 上記CNRSイラン調査チームに属する社会学者は,「イランの法律が同性愛を死刑によって処罰するにもかかわらず,実際には,それは愛童症の場合を除き,まれにしか行われない。同性愛は一般的な現象であり,公的秩序を乱さず,個人的な行為にとどまる限り容認される。それは,イランでは受け入れられない,公表と明言をされるときにのみ抑圧される。」と述べた(上記電話インタビュー)。 ⑨ スウェーデン外国人不服委員会のイラン担当室長からの平成10(1998)年2月2日付けの手紙は,次のように述べている。 イランの当局者が同性愛者に対して訴訟手続をとっているとの情報はない。ある同性愛者に対して,当局が刑事手続を行うことは,彼が自らの性癖を,公開の場で,あからさまな方法で明らかにしない限り,ほとんどありそうにない。外国人不服委員会が知る限りにおいて,過去7,8年間,イランで同性愛の訴えのみによって訴追されたものは一人もいない。 ⅱ オランダ外務省(乙21)オランダ外務省は,平成13(2001)年8月,イランにおける同性愛者の状況について,次のとおり報告している。 ① 同性愛は,イランの社会生活では大きなタブーである。それにもかかわらず,出会いの場所には事欠かない。テヘランのいくつかの公園は,毎晩同性愛者が関係を持つ場所として有名である。同性愛者は,その性的嗜好を露骨に出すことはない。イランでは,同性愛に関する事柄を公にするときは,確実な慎重さをもってするのが一般的に有効であ 公園は,毎晩同性愛者が関係を持つ場所として有名である。同性愛者は,その性的嗜好を露骨に出すことはない。イランでは,同性愛に関する事柄を公にするときは,確実な慎重さをもってするのが一般的に有効であるとされている。 ② 同性愛関係に対する積極的な摘発的行動はみられない。イランの法では,同性愛行為は死刑であるにもかかわらず,同性愛行為を理由に刑を受けた者は一人として存在しない。有罪宣告において,同性愛の罪は,アルコール,薬物,売春に関する他の可罰的行為とともに累積的に刑に考慮される。 ⅲ 英国移民局(乙20の2)英国移民局は,平成14(2002)年4月,イランにおける同性愛者の状況について,次のとおり報告している。 ① 同性愛は決して語られず,したがって,隠された事項であるが,実際にはイランで同性愛者に遭遇することは困難ではない。テヘランには,同性愛者の会う場所として知られる特別な公園がある。 異なった性的指向は問題を生じ得るにもかかわらず,同性愛は毎日実行され,これが四方の壁の内で,閉じられた扉の内側で行われる限り,そして,人々が同性愛を勧誘しようとしない限り,彼らはほとんど傷つけられることはないようである。 ② 今のところ,同性愛関係のみを根拠とする処刑は知られていない。実際には,証明の負担が非常に高度であり,同性愛関係又は性交を証明することは難しい。いくつかの地方新聞のレポートによれば,同性愛者の処刑の例があったようであるが,同性愛行為のみによって処刑がなされたのか,当該人物が他の訴追を受けていたかは確認できない。 (e) イラン人同性愛者の難民認定申請に係る諸外国の裁判例等Ⅰ 諸外国の裁判所ないし審判所等では,イランにおける同性愛者の状況について,次のとおり判断している。 Ⅱⅰ 英国英国の難民控訴委員会は,平成13(2001 者の難民認定申請に係る諸外国の裁判例等Ⅰ 諸外国の裁判所ないし審判所等では,イランにおける同性愛者の状況について,次のとおり判断している。 Ⅱⅰ 英国英国の難民控訴委員会は,平成13(2001)年5月1日付けの決定で,デモに参加したことを契機に家宅捜索を受けた際,複数の友人と同性愛行為を行っている場面を録画したビデオテープを押収され,その後友人2名が同性愛行為を理由に死刑に処せられたとの申立人の主張を認め,同人は条約難民に当たると述べている(甲103)。 ⅱ ドイツ① ドイツのヴィースバーデン行政裁判所は,昭和58(1983)年に出した判決で,「イランにおいて,同性愛者が処刑される可能性があり,また,実際に処刑されているということに論争の余地はない。」と述べている(甲79)。 ② 他方で,ドイツのカールスルーエ行政裁判所は,平成11(1999)年1月22日付けの判決で,「イランでは,ホモセクシュアルな行為が純粋に私的な生活の中で行われる場合,関与者が裁判にかけられるとは限らない。国連の亡命者補助機構と外務省も同様に,ホモセクシュアルの関係だけを理由として死刑の判決が下されたケースに関して最近例がないことを指摘した。」と述べている(乙30)。 ⅲ オーストラリア① オーストラリアの難民控訴審判所は,平成6(1994)年2月21日付けの決定で,「イランの法律及び政府がどのように同性愛者を含む多くのマイノリティを扱っているかという問題に関する専門家である元オーストラリア上院議員の見解等からすると,控訴人がイランに送還された場合には,同性愛者であるという理由から迫害を受ける可能性がある。」と述べている(甲127)。 ② 他方で,オーストラリアの難民控訴審判所は,平成11(1999)年5月24日付けの決定で,「証拠は,ホモセクシュアリ 者であるという理由から迫害を受ける可能性がある。」と述べている(甲127)。 ② 他方で,オーストラリアの難民控訴審判所は,平成11(1999)年5月24日付けの決定で,「証拠は,ホモセクシュアリティと同性愛者は,純粋にそのセクシュアリティのため,イラン当局の目(そして社会の目)に非難されることを示唆する。他の証拠は,イランでは,同性愛は違法ではあるが,同性愛者が非常に無分別に,挑発的に又は開かれた公的な方法で明示しない限り,彼は逮捕され,拘留され,起訴され又は有罪宣告されそうにないことを示唆する。」と述べている(乙22の1)。 また,オーストラリアの難民控訴審判所は,平成12(2000)年4月18日付けの決定で,上記決定と同じ判断を示したうえ,さらに「証拠は,イランでは,ホモセクシュアルな人間に対するいやがらせは,最小限にとどまっていることを示唆している。」と述べている(乙52)。 このほか,オーストラリアの難民控訴審判所は,平成13(2001)年4月24日付け決定(乙53),同年10月16日付け決定(乙22の2),同年11月5日付け決定(甲128,乙54)でも,上記各決定と同趣旨の判断を示している。 ③ さらに,オーストラリアの連邦裁判所は,保護ビザの申請を拒否した難民控訴審判所の決定に対する不服申立てに係る平成13(2001)年10月4日付けの判決で,「上記審判所は,原告に対し,(過去彼がそうであったように)彼のホモセクシュアルな関係において,これからも分別のある態度をとり続けることを予想することは,非現実的な態度ではないと結論づけている。こうした場合,国の証拠に照らし合わせると,彼がホモセクシュアルであるという理由から,イランで彼が迫害に直面する機会はごくわずかなものであり,実質的なものではない。」と述べている(乙4 づけている。こうした場合,国の証拠に照らし合わせると,彼がホモセクシュアルであるという理由から,イランで彼が迫害に直面する機会はごくわずかなものであり,実質的なものではない。」と述べている(乙47。この判決に対する上訴も棄却されている(乙50)。)。 このほか,オーストラリアの連邦裁判所は,平成13(2001)年10月18日付け判決(乙48),平成14(2002)年4月18日付け判決(乙51),同年5月10日付け判決(乙49)でも,上記判決と同趣旨の判断を示している。 ⅳ スウェーデン① スウェーデンの外国人控訴委員会は,平成8(1996)年6月3日付けの決定で,「イランのシャリーア法では,レズビアニズム又はその他の同性愛関係は禁じられ,死刑又は身体刑が科せられる。しかしながら,立法と適用の間には根本的な相違がある。委員会は,近年処刑されたレズビアンはいないこと,同性愛はイランでは普通でないものとはとてもいえないこと,その同性愛傾向のみを理由に迫害又は他の深刻な嫌がらせの危険を受けるものではないことに注目した。」と述べている(乙56)。 ② スウェーデンの外国人控訴委員会は,イラン人のゲイに居住許可を認めた平成13(2001)年11月14日付けの決定で,「彼がゲイだからではなく,同性愛者に対するイラン政府の政策を公に批判したため迫害を受ける危険がある。」と述べている(乙57)。 ⅴ カナダ① カナダの移民・難民委員会は,平成10(1998)年5月29日付けの決定で,「イランの法は,同性愛者に関して極めて厳しい。これらの法の履行状況は,もしかしたら,法が示しているところと比較すれば厳しくないかもしれない。しかし,たとえ実際に同性愛者が死刑になったり,告訴され,刑罰を受けたりしたという証拠が極めて少なかったとしても,その一方で, もしかしたら,法が示しているところと比較すれば厳しくないかもしれない。しかし,たとえ実際に同性愛者が死刑になったり,告訴され,刑罰を受けたりしたという証拠が極めて少なかったとしても,その一方で,同性愛者であるということが,誰かを勾留したり,尋問したりする理由として使われることがあり得るという証拠はある。」と述べている(甲12)。 ② 他方で,カナダの連邦裁判所は,移民・難民委員会の決定に対する不服申立てに係る平成13(2001)年8月13日付けの命令で,「上記委員会は,証拠は,イランでホモセクシュアルの人間を特に標的にしていることを明らかにしておらず,当局は,閉ざされたドアの「品位というベール」の背後で行われているホモセクシュアルな活動を積極的に探し出してはいないということを見い出した。同委員会は,この主題に関するごく最近の文書の検討を行っており,証拠に基づいて事実認定を行うことは,委員会に委ねられている。」と述べている(乙55)。 ⅵ ニュージーランドニュージーランドの難民の地位控訴局は,平成7(1995)年8月30日付けの決定で,「同控訴局が入手した情報によれば,同性愛者あるいは同性愛者であると疑われているか,告発された者は過酷な処罰を受ける。イランで同性愛者の置かれた状況は,特に危険なものである。」と述べている(甲58)。 ⅶ 国連拷問禁止委員会国連の拷問禁止委員会は,平成15(2003)年5月26日付けの決定で,「異なる信頼できる情報源からの情報として,イランでは,ホモセクシュアリティーの罪に係る起訴を積極的に行う政策は現在とられていない。」と述べている(乙44)。 (f) 原告のイラン及び本邦入国後の状況等(前記「前提となる事実」,甲26ないし28,74,75,85,乙4の1,5,7,8,10,原告本人)Ⅰ 原告 とられていない。」と述べている(乙44)。 (f) 原告のイラン及び本邦入国後の状況等(前記「前提となる事実」,甲26ないし28,74,75,85,乙4の1,5,7,8,10,原告本人)Ⅰ 原告は,同性愛者であり,イランにおいて,14才から21才までの間,幼なじみの男性と性的な関係をもっていた。 原告は,パートナーとの関係を,家族や知人にもずっと隠してきた。 Ⅱⅰ 原告は,平成3(1991)年8月29日,新東京国際空港に到着し,東京入管成田支局入国審査官に対し,外国人入国記録の渡航目的の欄に「BISINESS-FORWORDER」(商用従事者),日本滞在予定期間の欄に「AUG 29 TOSEP 2」(8月29日から9月2日まで)と記載して上陸申請を行い,同入国審査官から出入国管理法別表第1に規定する在留資格「短期滞在」及び在留期間90日の許可を受けて,本邦に上陸した。 原告は,本邦に上陸した翌日,知り合いのイラン人を頼って,福島県郡山市に赴き,工事現場などで不法就労を始めた。 そして,原告は,在留期間の更新の許可申請を行うことなく,在留期限である同年11月27日を超えて本邦に不法残留するに至った。 ⅱ 原告は,平成5年ころ,東京に転居し,レストランや工事現場等で不法就労をした。 そして,原告は,平成6年8月15日,在東京イラン大使館において,旅券の有効期限の延長手続をし,さらに,平成9年8月15日,同大使館において,有効期間を平成14年8月15日までとする新旅券の発給を受けた。 Ⅲⅰ 原告は,本邦来日後,イラン人の同性愛者団体であるホーマンに加入した。 ⅱ 原告は,平成11年5月ころ,日本におけるゲイのグループを紹介してもらった。 そして,原告は,同年6月21日,東京都新宿区で行われた日本のゲイグループらが主催するイベントで マンに加入した。 ⅱ 原告は,平成11年5月ころ,日本におけるゲイのグループを紹介してもらった。 そして,原告は,同年6月21日,東京都新宿区で行われた日本のゲイグループらが主催するイベントで,ホーマンの構成員として,自らが同性愛者であることを公言(カミングアウト)したうえで,イランを始めとするイスラム圏の国々で同性愛者が抱えている様々な問題について説明するなどした。この出来事は,ホーマンの機関誌にも紹介されたが,記事では,原告が同性愛者であることが明らかになるのを防ぐため,原告の氏名は通称であるB名となっていた。 ⅲ 原告は,同年8月1日,東京代々木で開かれたレズビアンとゲイのパレードに参加し,次いで,同年9月19日に札幌市で行われた同性愛者のパレードに参加して,ホーマンの機関誌を配布するなどした。 また,原告は,同年12月10日,東京都渋谷区で行われたアムネスティ・インターナショナル日本支部主催の「人権のためのパレード」に,「イスラム社会はレズビアン・ゲイ弾圧をやめろ」という趣旨のプラカードを掲げて参加した。その際,原告のことがイラン当局に知られることを懸念し,原告の作成したアピールを原告の支援者が代読した。 Ⅳ 原告は,平成12年4月22日,不法残留の容疑で現行犯逮捕され,同年5月9日,起訴猶予処分を受けたが,同日,収容令書により収容された。そして,原告は,同年6月1日,被告法務大臣に対し,本件難民認定申請をするに至った。 b 以上の事実を踏まえて,原告が条約難民に当たるか否かについて検討する。 (a) イランにおける同性愛者の置かれた状況Ⅰ イラン刑法は,成人がソドミーの罪を犯した場合には死刑に処する旨を定めている。 そして,イランの司法長官や最高裁判所長官は,かかる刑法の規定が実際にもそのまま適用されることを述べた かれた状況Ⅰ イラン刑法は,成人がソドミーの罪を犯した場合には死刑に処する旨を定めている。 そして,イランの司法長官や最高裁判所長官は,かかる刑法の規定が実際にもそのまま適用されることを述べたことがあり,イラン政府も,国連人権委員会特別代表からの問い合わせに対し,同趣旨の回答をしたことがあり,現に,昭和54(1979)年以降をみても,新聞等によれば,イランにおいて,男性が同性間性行為あるいはこれを含む複数の罪で告発され,処刑された旨の報道が行われたことは,まれではない。 Ⅱⅰ しかしながら,前記のカナダ移民局(平成10(1998)年2月),オランダ外務省(平成13(2001)年8月)及び英国移民局(平成14(2002)年4月)の各報告は,いずれも,具体的な例を挙げながら,イランにおいては,同性愛ないし同性間性行為は,法律上・宗教上は否定されているにもかかわらず,実際には決して珍しいものではなく,同性間性行為も,それが公然と行われるのでない限り,積極的な取締りの対象となっていないこと,同性間性行為のみによって処刑された例が確認されていないこと,社会的にみても,同性愛の関係が分別のある方法で処理されている限り,嫌がらせの危険も極めて少ないことを示す報告をしており,ことに,カナダ移民局の報告においては,平成4(1992)年から平成10(1998)年までの間の多数の情報源が,具体的な事実に基づき,上記のような点においてほぼ一致する見解を示している。 原告は,カナダ移民局の作成した資料は,独自の見解に基づいて,自説に都合のよい資料部分だけを集めたものであって証拠価値は極めて乏しい旨主張するが,同資料には,多数の情報源からの同趣旨の報告ないし意見が掲載され,中には実際のイランでの経験を踏まえたものもあること,オランダ外務省や英国移民局も たものであって証拠価値は極めて乏しい旨主張するが,同資料には,多数の情報源からの同趣旨の報告ないし意見が掲載され,中には実際のイランでの経験を踏まえたものもあること,オランダ外務省や英国移民局も同様の報告をしていることなどに照らすと,カナダ移民局の作成した上記資料が,原告主張のように恣意的に資料を編集したものとはいえないことは明らかであり,上記資料には証拠価値が乏しいとの原告の主張は理由がない。 ⅱ また,諸外国の裁判例等をみても,諸外国の裁判例等のうち,イランでは同性愛者が危険な状況に置かれていると認定したものをみると(上記a(e)Ⅱのⅱ①,ⅲ①,ⅴ①,ⅵ),ソドミー条項の実際の運用,とりわけ同性間性行為のみで処罰される実情にあるのか否かについての具体的な検討が,必ずしもされているわけではないことがうかがえる一方,上記の各国の報告が出された以降においては,イランにおける同性愛者の状況について,上記各報告と同様の認識を示しているものが多いことが窺える。 ⅲ そして,上記Ⅰの新聞報道等にしても,比較的最近のものは,上記ⅰの各国の報告にあるとおり,ソドミーないし同性間性行為だけでなく,他の罪も処罰理由となっているものが多く,処罰理由として同性間性行為だけしか掲載されていない報道についても,他の報道の引用であるものもあり,当該事案の処罰理由が同性間性行為だけであったのか否かは,明らかでないといわざるを得ない。 Ⅲ これに対し,証人Aは,イランでは,同性間性行為のみを理由とする処刑が行われており,同性愛者は社会的にも迫害されている旨供述し,同人作成の陳述書(甲29,71,93)にも同趣旨の記載がある。 しかし,同証人の供述によれば,同人は,自らイランで調査をしたり,同国内に直接の情報源を有しているわけではなく,同人の認識ないし意見の根 作成の陳述書(甲29,71,93)にも同趣旨の記載がある。 しかし,同証人の供述によれば,同人は,自らイランで調査をしたり,同国内に直接の情報源を有しているわけではなく,同人の認識ないし意見の根拠となっているのは,主として上記の新聞報道等であるものと認められるから,同証人の上記の供述等の方が,カナダ移民局等の作成にかかる前記各資料に示された判断よりも的確であるとは認められない。 Ⅳ そこで,これらの事実関係を前提にイランにおける同性愛者の状況を検討すると,イランにおいては,同性愛者は相当数存在し,これらの者の間で行われる同性間性行為も,前記のようなソドミー条項の存在にもかかわらず,それが公然と行われるのでない限り,それだけで刑事訴追を受ける危険性は相当に低い状況にあるということはでき,同国においても,同性愛者は,その意思により,訴追等の危険を避けつつ,同性愛者としての生活を送ることができると認めるのが相当である。 したがって,原告が同性愛者であるというだけでは,イランにおいては,難民条約1条A(2)にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」を有する客観的事情が存在するとは認め難い。 (b) ところで,原告が,イランの同性愛者の団体であるホーマンの構成員であり,平成11年6月のイベントで,同性愛者であることを公言(カミングアウト)したものであることは,前記認定のとおりである。 しかし,原告は,イランにいる間は,同性愛者であることを隠していたものであり,平成11年6月にカミングアウトした後も,イラン当局に知られるのを防ぐために,本名を隠して通称名を用いるなどの措置を講じてきたものであり,イラン当局が,日本におけるホーマンの活動に多くの関心を払っているとも認め難い(原告本人の供述によれば,ホーマンの日本支部の構成員は に,本名を隠して通称名を用いるなどの措置を講じてきたものであり,イラン当局が,日本におけるホーマンの活動に多くの関心を払っているとも認め難い(原告本人の供述によれば,ホーマンの日本支部の構成員は原告一人だけである。)ことなどからすると,本件裁決の時点において,イラン当局が,原告の同性愛について認識し,あるいはこれに関心を払っていたと認めることはできない。 これに対し,原告は,退去強制手続で,原告が参加した東京や札幌のパレードの状況を撮影したビデオが新宿a丁目のビデオ店で販売されている旨供述しているが(乙4の1),これらのパレードの社会的な知名度が高いものであることを認めるに足りる証拠はなく,上記のビデオ店も新宿a丁目に所在する特定のビデオ店であるにすぎないことなどからすると,イラン当局が,上記ビデオによって,原告が同性愛者であることを認識しているとも認め難い。 また,原告は,収容令書で収容された際の原告の尋問の内容を聞いていた他のイラン人が,東日本センターに移送されてから,原告の難民申請の理由を他の被収容者に言い触らしていたとか,東日本センターに収容されていた際,被収容者である他のイラン人がイラン大使館から面接に来た人に,同所に収容されているイラン人の氏名を教えていたところ,イラン大使館から雑誌等が送られてきたが,原告だけにはそれが送られてこなかった旨供述するが,仮にそのような事実があったとしても,これをもって,イラン当局が原告が同性愛者であることを認識していたことの証左とすることはできない。 なお,原告は,本件訴訟のことが新聞等で報じられたことを指摘するが,これは本件裁決後の事情であるから,本件裁決の違法性判断に当たって,直ちに考慮すべき事情であるとはいえない。 そうすると,イラン当局が,本件裁決の時点において,多くのイラ じられたことを指摘するが,これは本件裁決後の事情であるから,本件裁決の違法性判断に当たって,直ちに考慮すべき事情であるとはいえない。 そうすると,イラン当局が,本件裁決の時点において,多くのイランに国籍を有する同性愛者の中で,特に原告の同性愛について認識し,あるいはこれに関心を払っていたと認めるに足るような事情も存在しない。 (c)Ⅰ 原告は,イランにおいて,同性愛という性的指向を隠さざるを得ないとすれば,それ自体が迫害であり,また,原告は,同性愛者の人権侵害を続けるイランの現体制を批判し,同性愛者に対する法的及び社会的迫害をなくすことを求めるという政治的意見を確立させたものであり,イランに帰国した場合にかかる政治的主張を表明する行動をとったならば,それを理由に迫害を受けるおそれがあるとも,主張する。 しかし,国民の性表現について,いかなる規制を設けるべきであると考えるかは,当該国における風俗,習慣,社会情勢などを背景として形成される国民全体の価値観によって異なるものであるから,原告が望む性表現が許されないということをもって,それが難民条約1条A(2)にいう「迫害」に当たるとは解されないし,また,原告はイランにいた当時,同性愛者の権利擁護のための政治的な活動をしていたわけではなく,原告が主張する政治的主張を表明する行動をとったならば迫害を受けるおそれとは,将来イランにおいて,そのような活動を行った場合には発生するかも知れない仮定的なものにすぎず,これをもって,難民条約1条A(2)の規定する「政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」が存在すると認めることもできない。 Ⅱ また,原告作成の陳述書(甲85)には,原告の家族も同性愛者に嫌悪感を持っているから,原告が同性愛者であることを知ったならば,原告を う十分に理由のある恐怖」が存在すると認めることもできない。 Ⅱ また,原告作成の陳述書(甲85)には,原告の家族も同性愛者に嫌悪感を持っているから,原告が同性愛者であることを知ったならば,原告をののしり,最悪の場合には原告のことを革命防衛隊に通報する可能性もある旨の記載があるが,これは単なる推測の域を出るものではなく,原告がイランに送還された後に家族から迫害を受ける具体的なおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。 (d) 原告の行動をみても,原告は,本邦上陸後,直ちに難民として保護を求めることもなく,郡山市に赴いて不法就労を開始し,本邦上陸後9年近く経ち,不法残留の容疑で逮捕され,退去強制手続が始まってから,初めて本件難民認定申請をするに至ったというものであり,このような行動自体,自らに対する迫害を強く危惧していた者の態度と認めるには疑問を抱かせるものといわざるを得ない。 (e) 以上のとおり,原告の主張する諸事情を逐一検討しても,原告がイランに送還された場合,原告が同性愛者であることあるいは同性間性行為を行ったことなどを理由として迫害を受けるおそれがあるとは認められないから,その余の点について検討するまでもなく,原告は条約難民には当たらないというべきである。 (3) 憲法14条,国際的な人権基準等違反の主張について原告は,同性愛者が難民条約1条A(2)の規定する「特定の社会的集団の構成員」に当たらないとしても,原告に在留特別許可を付与しないことは,憲法14条,国際的な人権基準等に反する旨主張するが,原告がイランに送還された場合に,同性愛者であることなどを理由として迫害を受けるおそれがあると認められないことは前記のとおりであるから,この主張は前提を欠くことになる。 (4) 原告の在留状況等についてア前記「前提となる事実」及び 性愛者であることなどを理由として迫害を受けるおそれがあると認められないことは前記のとおりであるから,この主張は前提を欠くことになる。 (4) 原告の在留状況等についてア前記「前提となる事実」及び上記(2)イa(f)の認定事実によれば,原告は,本邦への上陸申請において,外国人入国記録の渡航目的欄に虚偽の上陸目的を記載して上陸許可を受け,また,入国後すぐさま不法就労を開始し,在留期間更新申請を一度もしないまま,平成12年4月22日に不法残留の容疑で逮捕されるまで,8年以上の長期間にわたり,本邦に不法に滞在して不法就労活動に従事していたものである。 このように,原告は長期間にわたって不法残留し,この間不法就労に従事してきたものであるが,これは公正な出入国管理の秩序を乱すものとして,看過し得ないものというべきである。 イまた,証拠(甲85,原告本人)によれば,原告は,イランで出生,成育し,同国で教育を受るなど,平成3年に本邦に上陸するまで,イランで生活を営んできたものであって,それまでは,本邦とは何らのかわりのもなかったこと,現在も,イランには原告の家族がいることが認められる。 そして,原告がイランで生活する場合,同性愛者としての生活である程度の制約を受ける面があることを除けば,格別の不都合があるとは認められない。 (5) 以上のとおり,原告が条約難民であるとは認められず,同人の在留状況は,長期間にわたって,我が国に不法に残留し,不法就労活動に従事するなど,出入国管理行政上看過し得ないものであり,また,同人がイランに送還されたとしても,迫害を受けるおそれや生活上格別の不都合が存在するものとも認められないものであるから,被告法務大臣が原告に対して在留特別許可を付与しなかったことが裁量権の範囲を逸脱したものであるとは認められない。 (6) よ るおそれや生活上格別の不都合が存在するものとも認められないものであるから,被告法務大臣が原告に対して在留特別許可を付与しなかったことが裁量権の範囲を逸脱したものであるとは認められない。 (6) よって,本件裁決が違法であるとはいえない。 2 争点2について(1) 本件裁決の違法を理由とする本件処分の違法の主張について上記1のとおり,被告法務大臣が行った本件裁決に違法があるとは認められないから,被告主任審査官がこれを前提として本件処分を行った点に,違法があると認めることはできない。 (2) 出入国管理法53条3項,難民条約33条1項違反の主張について上記のとおり,原告が条約難民に当たると認めることはできず,原告をイランに送還することは,出入国管理法53条3項,難民条約33条1項に違反するものではなく,本件処分が送還先をイランとしていることが違法であるとは認められないから,この点についての原告の主張は理由がない。 (3) 拷問等禁止条約3条1項違反の主張について原告がイランに送還されたとしても,迫害を受けるおそれがあるとは認められないことは,既に述べたとおりである。 ちなみに,前記のとおり,イラン刑法110条は,ソドミーを行った者を死刑に処する場合の執行方法は,イスラム法判事の指示による旨定めているのであって,当然に石打ち刑となるわけではないところ,新聞報道等をみても,イラン人男性がソドミーの罪により石打ち刑に処せられたことが報道上はっきりしているのは2件にすぎず,しかも,これらのケースでは同性間性行為だけでなく,姦通の罪にも問われているのである(なお,弁論の全趣旨によると,イラン刑法83条は,姦通の罪を行った者は石打ち刑に処する旨定めていることが認められる。)。 そうだとすると,原告をイランに送還した場合に,原告が石打ち刑に処せら である(なお,弁論の全趣旨によると,イラン刑法83条は,姦通の罪を行った者は石打ち刑に処する旨定めていることが認められる。)。 そうだとすると,原告をイランに送還した場合に,原告が石打ち刑に処せられるおそれがあると信ずるに足りる実質的な根拠があるとは認められず,石打ち刑が拷問等禁止条約1条1項後段の「合法的な制裁」に当たるか否かを検討するまでもなく,本件処分は同条約3条1項に違反するものではないから,この点についての原告の主張は理由がない。 (4) よって,本件処分が違法であるとはいえない。 第4 結論以上のとおり,原告の本訴請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部裁判長裁判官市村陽典裁判官石井浩裁判官丹羽敦子

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