主文 被告人を懲役2年に処する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,精神障害のある次女である被害者(当時42歳)と二人で生活し,かねてそのわがままな言動の対応に苦慮していたところ,平成21年10月6日午後2時15分ころ,大阪市(以下略)所在の被告人方リビング内において,同女の介護方法等に関し同女と口論になって激高し,同女に対し,殺意をもって,その頚部にタオルを巻いて締め付け,よって,同女を窒息に基づく低酸素・虚血性脳症に陥らせ,同月8日午前零時40分ころ,同市(以下略)所在のA病院において,同女を同傷害により死亡させて殺害したものである。 (証拠の標目)【省略】(法令の適用)被告人の判示所為は刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,被告人は自首したものであるから,同法42条1項,68条3号により法律上の減軽をし,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)1.事案の概要本件は,約12年にわたり,うつ病などの精神障害を患う次女である被害者の衣食住等の世話をしてきた被告人が,被害者の介護方法等に関して,既に嫁いでいる長女を離婚させて自ら及び被告人の面倒を見るように求めるなど,無理難題を提示し,自分勝手な発言に終始する被害者と口論になって激高し,タオルで首を絞めて被害者を殺害したという事案である。 2.被告人にとって不利な事情まず,被告人に不利な事情について検討する。 被告人は,「長女を離婚させて自分たちの面倒を見させよう。」「長女が離婚しないなら,義兄の会社や実家に電話して何もかもぶちまけてめちゃくちゃにする。」な まず,被告人に不利な事情について検討する。 被告人は,「長女を離婚させて自分たちの面倒を見させよう。」「長女が離婚しないなら,義兄の会社や実家に電話して何もかもぶちまけてめちゃくちゃにする。」などと述べ,被告人の諫言に耳を傾けようとしない被害者の態度に激怒し,長女の家庭を守らなくてはならないとの思いから,「もはやこれまで。殺めるしかない。」と意を決し,本件犯行に及んでいる。しかしながら,被害者のこのような発言は,精神障害に基づくものであり,医師に相談する,あるいは支援施設に入所させるなど,発言を実行させないよう他に取り得る手段が存在していたことからすると,責任感が強く,安易に他人を頼ったりすることを潔しとしないという被告人の性格に帰因する面があるとはいえ,被害者の殺害までをも決意するというのは,自身の長年の労苦をも無にする短絡的な判断といわざるを得ない。 また,その犯行態様は,被害者の首にタオルを巻き付け,被害者が動かなくなるまで思い切り締め付けるというものであって,確定的かつ強固な殺意に基づく残酷なものである。 なお,この点に関し,弁護人は,タオルで首を絞めた際,「被害者は,被告人に抵抗しなかった」と主張するが,被告人がタオルを取り出してから被害者の首に巻き付けて引っ張り始めるまでの時間はわずか4秒程度であったことや,全身の力を込めて一気にタオルを左右に引っ張ったという犯行態様からすると,いきなり首を絞められた被害者には抵抗するいとまがなかったと見るのが自然といえる。確かに,本件の証拠上,被害者が抵抗を試みようとしたような形跡は見あたらないところではあるが,そこから,被害者が被告人の殺害行為を予期し,あるいは容認していたような兆候を読み取ることは困難である。 また,犯行の結果は当然ながら極めて重大であって,突如として首を絞められ,実 ところではあるが,そこから,被害者が被告人の殺害行為を予期し,あるいは容認していたような兆候を読み取ることは困難である。 また,犯行の結果は当然ながら極めて重大であって,突如として首を絞められ,実父の手により42歳にしてその前途を絶たれた被害者の無念さは察するに余りある。被害者は,仕事を辞めて家に引きこもる生活をしており,精神障害の影響から気持ちの浮き沈みが大きく,過去に「死にたい。」などと口走ったことはあったにせよ,実際に自殺を企図したりしたことは一度もなく,心身の調子がよい時には旅行に出かけるなど闘病生活の中でも人生を楽しもうとしており,また,自らも支援施設等に電話をかけて問い合わせるなど何とか病状を改善させようと努力していた様子もうかがわれるのであって,前向きに生きようとする意思も併せ持ちながら日常生活に臨んでいたものである。 3.被告人にとって有利な事情他方,被告人のために有利に酌むべき事情としては,以下の点を指摘できる。 本件犯行は,精神障害に帰因するとはいえ,被害者の身勝手な発言によって引き起こされたことは否定しがたい。また,被告人が殺意を抱いたのも,被害者の激しい言動に触発された咄嗟のことであった。被告人は,自らも舌癌を手術したことによる発語障害を抱えながら,被害者の身の回りの世話や病院への送迎など,できる範囲での介護を約12年にわたり献身的に続けてきたものであり,これらの点は被告人に有利な事情として考慮されるべきである。 そして,犯行後は,被告人はただちに110番通報し,自らの罪を申告して警察官に自首している。公判廷においても,自らの責任が重大であることを自覚した上,被害者に申し訳ないことをした,命ある限り冥福を祈り続けていく旨述べており,本件についての後悔と反省の態度がうかがわれる。また,被告人の長女とその夫は,公判廷 らの責任が重大であることを自覚した上,被害者に申し訳ないことをした,命ある限り冥福を祈り続けていく旨述べており,本件についての後悔と反省の態度がうかがわれる。また,被告人の長女とその夫は,公判廷において,被告人に対する寛大な刑を望み,今後とも被告人を支えていきたいと述べている。加えて,被告人にはこれまで前科前歴が全くないこと,現在75歳と高齢である上,上記の障害を抱えていることなどの事情も認められる。 4.総合判断以上の諸事情を総合して判断すると,被告人は,他に取り得る手段がありながら,被害者を殺害するしかないと短絡的に考え,生きようとする意欲を失っていない実の娘を手にかけたものであり,一人の人間を殺害したという事実の重みからすれば,被告人の刑事責任は誠に重大というほかない。そうすると,本件のようないわゆる無理心中の類型には該当しない家族間の殺人について,これまでの類似する先例がほとんど刑の執行猶予を認めてこなかったことには理由があるのであって,被告人に相応しい償いの形として執行猶予判決が相当であるとする弁護人の科刑意見は受け入れがたいといわざるを得ない。 しかし,被告人には自首が成立する上,長年被害者の生活の世話をしてきたことなど,上記のとおり,被告人のために酌むべき事情が少なからず認められるところであり,被告人の年齢や食事が流動食に限られているその身体状況にも照らすと,刑期についてはこれを長くする必要はないものと考えられるところであり,検察官の求刑はいささか重きに過ぎる。 そこで,当裁判所としては,自首減軽をし,さらに酌量減軽を施した上で,被告人に対しては主文の刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)平成22年7月2日大阪地方裁判所第5刑事部裁判長裁判官中川博之裁判 ,被告人に対しては主文の刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)平成22年7月2日大阪地方裁判所第5刑事部裁判長裁判官中川博之裁判官仁藤佳海裁判官植村一仁
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