主文 原判決を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す。理由 被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であり、弁護人青木孝の上告趣意第一点は、事実誤認の主張であり、同第二点は、憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。しかし、所論にかんがみ職権で調査すると、原判決は、次のように刑訴法四一一条一号により破棄を免れない。本件公訴事実について、第一審判決及びこれを維持した原判決が認定した事実関係及びこれに対する法律判断は、おおむね次のとおりである。すなわち、被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四五年五月二日午後一一時四五分ころ普通乗用自動車(以下被告人車という。)を運転し、東京都武蔵野市a町b-c-dの交通整理の行なわれていない、左右の見とおしの困難な交差点をe方面からf町方面に向かい直進するにあたり、一時停止の道路標識に従い交差点手前の一時停止線上で一時停止したが、左方道路の交通の安全を確認しないで時速約一〇キロメートルで交差点に進入した過失により、おりから幅員四・八メートルの左方道路を時速約五〇キロメートル(制限速度は時速四〇キロメートル)で交差点に向かい進行してきたA運転の普通貨物自動車(以下A車という。)を左方約三七メートルに発見したが、時すでに遅く、進退に窮して、そのまま交差点を通過しようとして通過しきれず、自車にA車を衝突させ、よつて自車に同乗していたBに傷害を負わせた、というものである。そして、原判決は、Aが少なくとも制限速度である時速四〇キロメートルを守り、被告人車を発見すると同時に急制動をしていたならば、本件事故の発生を見なかつたという点で、本件事故の主たる- 1 -因子はAの 、原判決は、Aが少なくとも制限速度である時速四〇キロメートルを守り、被告人車を発見すると同時に急制動をしていたならば、本件事故の発生を見なかつたという点で、本件事故の主たる- 1 -因子はAの過失にあるにしても、被告人も左方道路の交通の安全を確認せずに交差点に入つた過失は否定できない、というのである。 制動をしていたならば、本件事故の発生を見なかつたという点で、本件事故の主たる- 1 -因子はAの 、原判決は、Aが少なくとも制限速度である時速四〇キロメートルを守り、被告人車を発見すると同時に急制動をしていたならば、本件事故の発生を見なかつたという点で、本件事故の主たる- 1 -因子はAの過失にあるにしても、被告人も左方道路の交通の安全を確認せずに交差点に入つた過失は否定できない、というのである。しかし、本件記録によると、被告人車の進行した道路は、幅員四・四ないし四・六メートルの乾燥したアスフアルト簡易舗装の東西直線道路(以下東西道路という。)であり、A車の進行した道路は、これとほぼ直角に交差するアスフアルト簡易舗装の南北直線道路(以下南北道路という。)であること、東西道路の交差点入口東側手前〇・八三メートルの地点に道路標識による一時停止の停止線が設けられていること、東西道路の両側及び南北道路の両側にはいずれもブロツク塀があるため左右の見とおしは悪く、一時停止線上からの左方道路の見とおしもブロツク塀にさえぎられて悪いこと、東西道路、南北道路とも優先道路ではないこと、交差点の中心の上空約五メートルのところに東西道路に向けて「止まれ」、南北道路に向けて「徐行」と染めぬいた行灯が設置され、点灯されていたこと、被告人は、一時停止線上で一時停止したが、そこからでは左右の見とおしが悪いので、発進徐行(時速約一〇キロメートル)しつつ、交差点に進入したところ、左方からくるA車を発見したが、同車との距離が約三七メートルあつたため自車が先に交差点を通過し終ることができると考えて、そのまま進行したことがうかがわれる。ところで、右交差点は、交通整理の行なわれていない、左右の見とおしの悪い交差点であり、東西道路と南北道路の幅員はほほ等しく、かつ、南北道路は優先道路ではないから、A車のように南北道路を北進して交差点に進入しようとする車両は、東西道路 われていない、左右の見とおしの悪い交差点であり、東西道路と南北道路の幅員はほほ等しく、かつ、南北道路は優先道路ではないから、A車のように南北道路を北進して交差点に進入しようとする車両は、東西道路に一時停止の標識があつたとしても、本件当時施行の道路交通法四二条に従い、交差点において徐行しなければならないのである(最高裁昭和四三年七月一六日第三小法廷判決・刑集二二巻七号八一三頁参照。 車両は、東西道路 われていない、左右の見とおしの悪い交差点であり、東西道路と南北道路の幅員はほほ等しく、かつ、南北道路は優先道路ではないから、A車のように南北道路を北進して交差点に進入しようとする車両は、東西道路に一時停止の標識があつたとしても、本件当時施行の道路交通法四二条に従い、交差点において徐行しなければならないのである(最高裁昭和四三年七月一六日第三小法廷判決・刑集二二巻七号八一三頁参照。)。しかるに、原判決の確定した事実によれば、Aは、制限速度を超えた時速約五〇キロメートルで進行し、交差点手前約二〇・五メートルに至り、初めて被告人車を- 2 -発見し、急制動の措置をとつたが間にあわず、交差点内で被告人車に衝突したというものであつて、本件事故は、主としてAの法規違反による重大な過失によつて生じたものというべきであり、このことは、原判決も認めているところである。しかし、進んで、原判決が説示しているように、被告人にも過失があつたかどうかを検討してみると、本件のように交通整理の行なわれていない、見とおしの悪い交差点で、交差する双方の道路の幅員がほぼ等しいような場合において、一時停止の標識に従つて停止線上で一時停止した車両が発進進行しようとする際には、自動車運転者としては、特別な事情がないかぎり、これと交差する道路から交差点に進入しようとする他の車両が交通法規を守り、交差点で徐行することを信頼して運転すれば足りるのであつて、本件A車のように、あえて交通法規に違反し、高速度で交差点に進入しようとする車両のありうることまでも予想してこれと交差する道路の交通の安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。そうすると、原判決は何ら特別な事情にあたる事実を認定していないのにかかわらず、被告人に過失責 の安全を確認し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務はないものと解するのが相当である。そうすると、原判決は何ら特別な事情にあたる事実を認定していないのにかかわらず、被告人に過失責任を認めた第一審判決を是認しているのであるから、原判決には、法令の解釈の誤りまたは審理不尽の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 に過失責任を認めた第一審判決を是認しているのであるから、原判決には、法令の解釈の誤りまたは審理不尽の違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。検察官桂正昭公判出席昭和四八年一二月二五日最高裁判所第三小法廷- 3 -裁判長裁判官江里口清雄裁判官関根小郷裁判官天野武一裁判官坂本吉勝裁判官高辻正己- 4 -
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