- 1 -平成24年1月31日判決言渡平成23年(行ケ)第10142号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成23年12月12日判決 原告 X1 原告 X2 被告特許庁長官 指定代理人平上悦司同青木良憲同黒瀬雅一同芦葉松美主文 1 特許庁が不服2010-7186号事件について平成23年3月15日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要 1 前提事実原告らは,発明の名称を「電子レンジのマイクロ波を利用し,陶磁器に熱交換の機能性を持たせ,調理,加熱,解凍を行う技術」とする発明について,平成17年- 2 -2月14日に特許出願(特願2005-71885号。以下「本願」という。)をし,平成21年12月22日付けで拒絶査定を受けたので,平成22年3月17日,これに対する不服の審判を請求し(不服2010-7186号事件),同年12月20日付けで手続補正書を提出した(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成23年3月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年4月1日に原告らに送達された。 提出した(以下「本件補正」という。)。 特許庁は,平成23年3月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年4月1日に原告らに送達された。 2 特許請求の範囲本件補正後の本願の特許請求の範囲(甲5。なお,以下,本願の特許請求の範囲,明細書及び図面を総称して「本願明細書」という場合がある。)の請求項1の記載は以下のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。 【請求項1】陶磁器の容器の内部全体と,蓋の内部全体に,磁性体,磁性フェライトを粉体にし,粒子同士が結合されるよう薄膜層状に結合させ,釉薬の下に塗布し,焼結した陶磁器を電子レンジのマイクロ波によって,加熱するにあって,磁性体及び磁性フェライトにマイクロ波が吸収され電子スピンの回転運動の向きがそろい,磁化が増幅し,磁性体,磁性フェライトの薄膜層にマイクロ波の電界による電磁誘導によって自己磁場が誘導されることから,誘導加熱,渦電流損による加熱が生じ,マイクロ波の周波数と磁性体,磁性フェライトの周波数がほぼ等しく,同調することから,強磁性共鳴が生じ,熱交換の機能を付加し,発熱効率の高まる陶磁器内部にあって,調理,加熱,解凍を行う方法。 3 審決の理由(1) 別紙審決写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された特開平2-271808号公報(甲1。以下「引用刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。),本願の出願前に頒布された特開2004-97179号公報(甲2。以下「引用刊行物2」という。)記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法- 3 -29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 (2) 上記判断に際 )記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法- 3 -29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容セラミック粉と結合材と混合成型し焼結した,セラミック材等にて形成されるマイクロ波を透過する非電波吸収断熱層13にて構成される外側の層と,セラミック粉と,マイクロ波を吸収して発熱し赤外線を放射するフェライト粉と,このセラミック粉とフェライト粉とを結合する結合剤とを混合成形し焼結して,マイクロ波の吸収率を50%~70%とした,被調理物加熱層14にて構成され,調理容器10の内部空間を囲むよう設けられた内側の層との,内外2層に形成された,有底筒状の容器本体11とこの容器本体11の上部開口を開閉する蓋体12とから構成された,セラミック製の電子レンジ用調理容器10内に,芋A,栗,魚等の被調理物を収容し,電子レンジ1のマイクロ波により加熱,調理するにあって,焼芋,焼栗或いは焼魚の調理を行なうとき,蓋体12を閉じ電子レンジ1からマイクロ波が送出され,このマイクロ波が調理容器10の各非電波吸収断熱層13を透過して内側の被調理物加熱層14に至り,そのマイクロ波の一部は被調理物加熱層14のセラミック材を通って透過して誘電加熱により内部加熱され,マイクロ波の他の部分は被調理物加熱層14のフェライト材にて吸収され,これにより250℃~300℃程度に発熱し赤外線により外部加熱が行なわれ,マイクロ波により芋等が内部加熱されると焼芋等の風味が著しく損なわれるという問題点に対して,内部の風味を逃がすことなく,内外から効率良く加熱され, 0℃程度に発熱し赤外線により外部加熱が行なわれ,マイクロ波により芋等が内部加熱されると焼芋等の風味が著しく損なわれるという問題点に対して,内部の風味を逃がすことなく,内外から効率良く加熱され,短時間で加熱,調理する方法。 イ一致点「陶磁器の容器の内部全体と,蓋の内部全体に,磁性体,磁性フェライトを粉体にして形成した,内側の層を有する,焼結した陶磁器を電子レンジのマイクロ波に- 4 -よって,加熱するにあって,熱交換の機能を付加し,陶磁器内部にあって,調理,加熱を行う方法。」である点。 ウ相違点(ア) 相違点A陶磁器に関して,本願発明が「容器の内部全体と,蓋の内部全体に,磁性体,磁性フェライトを粉体にし,粒子同士が結合されるよう薄膜層状に結合させ,釉薬の下に塗布し,焼結した」ものであるのに対して,引用発明は「セラミック粉と結合材と混合成型し焼結した,セラミック材等にて形成されるマイクロ波を透過する非電波吸収断熱層13にて構成される外側の層と,セラミック粉と,マイクロ波を吸収して発熱し赤外線を放射するフェライト粉と,このセラミック粉とフェライト粉とを結合する結合剤とを混合成形し焼結して,マイクロ波の吸収率を50%~70%とした,被調理物加熱層14にて構成され,調理容器10の内部空間を囲むよう設けられた内側の層との,内外2層に形成された,有底筒状の容器本体11とこの容器本体11の上部開口を開閉する蓋体12とから構成された」ものである点。 (イ) 相違点B本願発明が「磁性体及び磁性フェライトにマイクロ波が吸収され電子スピンの回転運動の向きがそろい,磁化が増幅し,磁性体,磁性フェライトの薄膜層にマイクロ波の電界による電磁誘導によって自己磁場が誘導されることから,誘導加熱,渦電流損による加熱が生じ,マイクロ波の周波数 の回転運動の向きがそろい,磁化が増幅し,磁性体,磁性フェライトの薄膜層にマイクロ波の電界による電磁誘導によって自己磁場が誘導されることから,誘導加熱,渦電流損による加熱が生じ,マイクロ波の周波数と磁性体,磁性フェライトの周波数がほぼ等しく,同調することから,強磁性共鳴が生じ,熱交換の機能を付加し,発熱効率の高まる」ものであるのに対して,引用発明は「マイクロ波の他の部分は被調理物加熱層14のフェライト材にて吸収され,これにより250℃~300℃程度に発熱し赤外線により外部加熱が行なわれ」るものの,上記のようなものではない点。 (ウ) 相違点C本願発明が「調理,加熱,解凍を行う」のに対して,引用発明は「加熱,調理す- 5 -る」であるものの,解凍を行うものではない点。 第3 当事者の主張 1 原告らの主張審決は,本願発明の顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由1),本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断誤り(取消事由2),本願発明の相違点Bに係る容易想到性判断誤り(取消事由3)があり,これらは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。すなわち,(1) 本願発明の顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由1)審決は,「本願発明は,引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断した。 しかし,審決の判断は誤りである。 引用発明のマイクロ波の吸収率は50%~70%であり,本願発明のマイクロ波の吸収率は100%近くであって,熱効率において差がある。熱効率は磁気損失で決まり,磁性体,磁性フェライトの損失は誘電加熱,誘導加熱で決まる(甲9)。 磁性体,磁性フェライトの磁場は透磁率により決定され,渦電流と透磁率の関係については,焼結されたMn-Zn 効率は磁気損失で決まり,磁性体,磁性フェライトの損失は誘電加熱,誘導加熱で決まる(甲9)。 磁性体,磁性フェライトの磁場は透磁率により決定され,渦電流と透磁率の関係については,焼結されたMn-Zn フェライトは,室温によって比較的高い電気伝導率を持ち,高い周波数において表皮の電気伝導効果が影響するが,Mn-Zn フェライト混合材料によって非磁性材料の混合率が高く,電気抵抗が高い場合は,渦電流効果は少なくなるとされている(甲10)。 この熱効率の差は,相違点Aに係る構成の相違によって生じるものである。本願発明は,陶磁器の内面に磁性体フェライトを薄膜状に塗布し,1200℃以上の高温で焼結し,薄膜状の多結晶フェライトとして結晶させるから,多結晶フェライトの高密度と完全性が満たされ,マイクロ波が,磁性フェライトに対して,誘電加熱と誘導加熱の渦電流の相乗効果と,マイクロ波電界の電磁誘導による磁場の増幅でマイクロ波の吸収効果を生じさせ,強磁性共鳴を生じて,熱効率が高くなるのに対し,引用発明は,フェライト粉がばらばらの状態で,多結晶フェライトの高密度と- 6 -完全性が満たされて焼結されるものではないため,電気抵抗が高く渦電流効果が少なく,強磁性共鳴が生じることはない。 したがって,本願発明は,引用発明と比較して,マイクロ波の吸収率と熱効率が格別に高くなるという顕著な作用効果を有し,「引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」とはいえない。 (2) 本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り(取消事由2)審決は,「引用刊行物2の,マイクロ波が直接食品に照射されると癌の原因因子が生成されたり,均一な温度による解凍又は加熱が困難となることを避けるためにマイクロ波を遮断してマイ 断の誤り(取消事由2)審決は,「引用刊行物2の,マイクロ波が直接食品に照射されると癌の原因因子が生成されたり,均一な温度による解凍又は加熱が困難となることを避けるためにマイクロ波を遮断してマイクロ波が直接当たらないようにすること,及びそのときソフトフェライトシートによる加熱容器の内部や表面に付着した磁性体をマイクロ波で加熱してその輻射熱で解凍又は加熱することの示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部について,このマイクロ波が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことである。」,「引用発明も,マイクロ波により芋等が内部加熱されると焼芋等の風味が著しく損なわれるという問題点に対して,内部加熱するマイクロ波を減らすものであって,よりよい風味を求めて外部加熱のみとすべく,フェライト粉によりマイクロ波を遮蔽することも当業者にが(判決注 「当業者が」の誤記と認める。)格別の困難性を要することなくなし得たことである。」などとして,「相違点Aに係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得た」と判断した。 しかし,審決の判断は誤りである。 本願発明の相違点Aに係る構成は,マイクロ波を100%近く吸収し,熱効率を高めるものである。引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ- 7 -波を遮蔽するようにし,本願発明に想到することは,容易とはいえない。 したがって,本願発明の相違点Aに係る構成は,引用発明と引用刊行物2の発明から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (3) 本願発明の相違点 ,本願発明に想到することは,容易とはいえない。 したがって,本願発明の相違点Aに係る構成は,引用発明と引用刊行物2の発明から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (3) 本願発明の相違点Bに係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)審決は,引用発明において,セラミック製の電子レンジ用調理容器10が,相違点Aに係る本願発明の構成のように構成されると,「そのようなセラミック製の電子レンジ用調理容器10を電子レンジのマイクロ波で加熱するとき,当然,本願発明と同様の作用をなす筈のものであるから,相違点Bに係る本願発明の熱交換の機能についても,格別のものとはいえなず(判決注 「いえず」の誤記と認める。 ),同様に発熱効率も高まるものである。」などと判断した。 しかし,審決の判断は誤りである。 本願発明は,フェライト粒子の焼結において,多結晶フェライトの高密度と完全性が満たされているのに対し,引用発明は,フェライトの粒子がばらばらの状態であり,結合されているものではないため,引用発明と本願発明とが同様の構成でなく,引用発明は,相違点Bの本願発明の作用が生じることもない。 よって,本願発明は,引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 被告の反論原告らの主張する取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はない。 (1) 取消事由1(本願発明の顕著な作用効果を看過した誤り)に対し原告らは,本願発明は,引用発明と比較して,マイクロ波の吸収率と熱効率が格別に高くなるという顕著な作用効果を有するから,「引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」とした審決の判断は誤りであ と熱効率が格別に高くなるという顕著な作用効果を有するから,「引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」とした審決の判断は誤りである旨主張する。 しかし,原告らの主張は失当である。 - 8 -すなわち,以下のとおり,相違点Aに係る本願発明の構成とすることは,引用刊行物2に記載の事項,特開2001-316号公報(甲7),及び国際公開第2005/007532号(甲8)に基づいて,当業者が容易になし得たとした審決の判断に誤りはない。 本願発明の「粒子同士が結合される」との構成について,引用刊行物2の記載の示唆に基づいて,被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことであり,よりよく遮蔽するために,通過するマイクロ波がなくなるように,フェライト粉が接触して隙間をなくすことも,当業者が容易になし得たことといえる。「フェライト粉が接触して隙間をなくすこと」とは,フェライト粉が隙間なく接触しているのであるから,フェライト粉同士が結合される,つまり「フェライト粉の粒子同士が結合される」ものといえる。 また,本願発明の粒子同士が結合されるよう「薄膜層状」に結合させるとの構成は,マイクロ波により発熱する層を設けるために,発熱する物質(例えばフェライト粉)を薄膜状に塗布することは,例えば特開2001-316号公報(甲7,段落【0011】)や国際公開第2005/007532号(甲8,段落【0040】)等にも示されるように,当業者が通常なす程度の設計的事項といえる。 なお,特開2001-316号公報(甲7)の段落【0011】の記載によれば,溶媒に混入された粉末状のマイクロ波吸収発熱体物質を熱 )等にも示されるように,当業者が通常なす程度の設計的事項といえる。 なお,特開2001-316号公報(甲7)の段落【0011】の記載によれば,溶媒に混入された粉末状のマイクロ波吸収発熱体物質を熱処理して焼付けると溶媒が蒸発してマイクロ波吸収発熱体物質のみが残ること,これが焼き付けられて膜の状態となるものであることから,マイクロ波吸収発熱体物質同士が接触している膜と解される。そうすると,被調理物加熱層におけるフェライト粉を接触して隙間をなくすことにより,フェライト粉の粒子同士を結合されるものとなることを,特開2001-316号公報(甲7)は裏付けるものである。 さらに,甲11(7頁6ないし10行,9頁1ないし5行)の記載によれば,本願発明の磁性体,磁性フェライトを粉体にした粒子や引用発明のフェライト粉は,- 9 -結晶粒子が多数,緻密に結合した多結晶の粒子であるといえるが,このような技術常識からみても,フェライトの粉体の粒子同士を結合させようとすることは格別のことではない。 本願発明において,陶磁器を焼結することに関して,「陶磁器の容器の内部全体と,蓋の内部全体に,磁性体,磁性フェライトを粉体にし,粒子同士が結合されるよう薄膜層状に結合させ,釉薬の下に塗布し,焼結した陶磁器」とのみ特定されており,原告らが主張するような1200℃以上の高温で焼結するといった具体的な焼結温度は特定されておらず,本願明細書の段落【0013】の記載にも,焼結温度として,1200℃未満の温度で焼結することが示されている。 原告らの上記主張は,本願発明及び本願明細書の記載に基づくものではないから,失当であり,審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)に対し原告らは,相違点Aに係る本願発明の構成は,マイクロ の記載に基づくものではないから,失当であり,審決の判断に誤りはない。 (2) 取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)に対し原告らは,相違点Aに係る本願発明の構成は,マイクロ波を100%近く吸収し,熱効率を高めるものであり,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようにし,本願発明に想到することは,容易とはいえない旨主張する。 しかし,原告らの主張は失当である。 審決の判断は,以下のとおり誤りはない。 すなわち,引用発明は,内部加熱により焼芋等の風味が著しく損なわれるという課題を解消するため,内部加熱するマイクロ波を減らすというものである。他方,引用刊行物2の段落【0009】,【0010】,【0013】,【0020】には,マイクロ波が直接食品に照射されると癌の原因因子が生成されたり,均一な温度による解凍又は加熱が困難となることによる調理品の味覚を低下させるという課題を解決するために,マイクロ波を遮断してマイクロ波が直接当たらないようにすること,及びそのときソフトフェライトシートによる加熱容器の内部や表面に付着- 10 -した磁性体をマイクロ波で加熱してその輻射熱で解凍又は加熱すること,が示唆されているといえる。 そうすると,引用発明と引用刊行物2に記載の事項とは,マイクロ波が直接照射されることによって調理品(芋等)の味覚(風味)が損なわれることを防止するという課題において共通する。 したがって,引用発明において,上記の問題点(課題)を解決するために,内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部について,引用刊行物2の上記示唆に照らして,引用発明のフェライト粉がマイクロ波を吸収することで発 上記の問題点(課題)を解決するために,内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部について,引用刊行物2の上記示唆に照らして,引用発明のフェライト粉がマイクロ波を吸収することで発熱するとともに遮蔽するものであることから,このマイクロ波が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽する(外部加熱のみとする),すなわちフェライト粉が接触して隙間をなくすことは,当業者が容易になし得たことといえる。 したがって,原告らの主張に理由はない。 (3) 取消事由3(本願発明の相違点Bに係る容易想到性判断の誤り)に対し原告らは,本願発明は,フェライト粒子の焼結において,多結晶フェライトの高密度と完全性が満たされているのに対し,引用発明は,フェライトの粒子がばらばらの状態であり,結合されているものではないため,引用発明と本願発明とが同様の構成でなく,引用発明は,相違点Bの本願発明の作用が生じることもないとして,本願発明は,引用発明,引用刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張する。 しかし,原告らの主張は失当である。 本願発明の相違点Bに係る構成は,相違点Aに係る「磁性体,磁性フェライトを粉体にし,粒子同士が結合されるよう薄膜層状に結合させ」るとの構成を機能的,作用的に特定したものであって,両者の技術的意義は,実質的に異なるものではないから,本願発明の相違点Aに係る構成を充足すれば,相違点Bに係る構成も必然的に充足することになる。引用発明は,相違点Aに係る本願発明の構成とすること- 11 -は,当業者が容易になし得たことであるから,相違点Aに係る本願発明の構成を機能的,作用的に特定した相違点Bに係る本願発明の構成とするこ 引用発明は,相違点Aに係る本願発明の構成とすること- 11 -は,当業者が容易になし得たことであるから,相違点Aに係る本願発明の構成を機能的,作用的に特定した相違点Bに係る本願発明の構成とすることも,当業者が容易になし得たものである。 したがって,原告らの主張に理由はない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告ら主張の取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)に理由があり,審決の結論に影響に及ぼすものであるから,審決は取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 (1) 取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)について審決は,「引用刊行物2の,マイクロ波が直接食品に照射されると癌の原因因子が生成されたり,均一な温度による解凍又は加熱が困難となることを避けるためにマイクロ波を遮断してマイクロ波が直接当たらないようにすること,及びそのときソフトフェライトシートによる加熱容器の内部や表面に付着した磁性体をマイクロ波で加熱してその輻射熱で解凍又は加熱することの示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部について,このマイクロ波が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことである。」として,「相違点Aに係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得た」と判断した。 しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。 ア認定事実(ア) 引用刊行物1(甲1)には,次の記載がある。 「(従来の技術)・・・このようなセラミック製の調理容器にて焼芋,焼栗或いは焼魚の調理を行うときは,マイクロ波により芋等が内部加熱され水分が蒸発す (ア) 引用刊行物1(甲1)には,次の記載がある。 「(従来の技術)・・・このようなセラミック製の調理容器にて焼芋,焼栗或いは焼魚の調理を行うときは,マイクロ波により芋等が内部加熱され水分が蒸発するとともに芋等の風味が飛散し,焼芋等の風味が著しく損なわれるという問題点を有していた。・・・」(53頁右下欄1行目ないし13行目)- 12 -「(発明が解決しようとする課題)・・・本発明の目的は前記従来の問題点に鑑み,汎用の電子レンジにより風味の良い焼芋等の調理ができ,かつ,この調理時間を短くすることができる電子レンジ用調理容器を提供することにある。」(54頁左上欄2行目ないし15行目)「(実施例)・・・図中,1は汎用の電子レンジで,マグネトロンを発振源としたマイクロ波加熱装置(図示しない)が装着され,調理室2内のターンテーブル3上の調理容器10にマイクロ波が送出される。 この調理容器10は,第2図に示すように,有底筒状の容器本体11と,この容器本体11の上部開口を開閉する蓋体12とから構成されている。容器本体11は内外2層に形成され,外側の層はマイクロ波を透過するセラミック粉と結合剤と混合成形し,更にこれを焼結した非電波吸収断熱層13にて構成されている。内側の層はセラミック粉と,マイクロ波を吸収して発熱し赤外線を放射するフェライト粉と,このセラミック粉とフェライト粉とを結合する結合剤とを混合成形し,更にこれを焼結した被調理物加熱層14にて構成されている。また,この被調理物加熱層14はそのマイクロ波の吸収率を50%~70%とし,このマイクロ波の吸収に伴なう発熱温度が250℃~300℃となるようにセラミック粉とフェライト粉とを混合している。 蓋体12も容器本体11と同様にセラミック製の非電波吸収断熱層15の下面にセラミック及びフェ 波の吸収に伴なう発熱温度が250℃~300℃となるようにセラミック粉とフェライト粉とを混合している。 蓋体12も容器本体11と同様にセラミック製の非電波吸収断熱層15の下面にセラミック及びフェライト製の被調理物加熱層16を固着している。 本実施例において,焼芋の調理を行なうときは,・・・電子レンジ1のマイクロ波加熱装置からマイクロ波が送出され,このマイクロ波が調理容器10の各非電波吸収断熱層13,15を透過して内側の被調理物加熱層14,16に至る。この被調理物加熱層14,16に送出されたマイクロ波の一部はマイクロ波を透過するセラミック材を通って芋Aに送出され,芋Aの内部で誘電加熱が行なわれる。他方,このマイクロ波の他の部分はフェライト材にて吸収され,これにより250℃~300℃程度に発熱し赤外線が芋Aに放射され,芋Aの外部加熱が行なわれる。・・- 13 -・」(54頁左下欄9行目ないし55頁右上欄13行目)(イ) 引用刊行物2(甲2)には,次の記載がある。 【従来の技術】・・・【0009】【発明が解決しようとする課題】・・・調理品,惣菜類,寿司等の冷凍品等は解凍時の味覚変化が欠陥として加工,販売されていなかった。味覚が損なわない新たな解凍技術開発が求められていた。・・・磁性体のマイクロ波を照射したとき,磁性体のキュリー温度まで加熱されると磁性体の温度はキュリー温度の周辺温度が最大比熱となり,熱のエネルギーが最大になる。解凍又は加熱する目的温度を磁性体のキュリー温度に設定しマイクロ波を照射すると効率の良い加熱温度が得られる。 磁性体を粉体にして包装用器,加熱容器の内部や表面に付着又は練り混みシート状に加工すると磁性体のキュリー温度の選択によって一定の温度の加熱が可能になる。 【0010】解凍又は加熱するときにその組成の 性体を粉体にして包装用器,加熱容器の内部や表面に付着又は練り混みシート状に加工すると磁性体のキュリー温度の選択によって一定の温度の加熱が可能になる。 【0010】解凍又は加熱するときにその組成の違う物資が混在しているなかでマイクロ波を直接,照射すると解凍又は加熱すべき素材は全体が均一な温度による解凍又は加熱が困難である。解凍又は加熱後の温度むらの原因は油脂部分等にマイクロ波が集中的に吸収し,反対に油脂分の少ない物質にはマイクロ波の吸収が少なく,温度の格差が一層強くなり,全体に均一な温度の解凍又は加熱が出来ない。 不均一な温度の解凍又は加熱によって品温のむらが生じ,その結果,調理品の味覚が低下に結びつき商品価値を失うことが多い。 ・・・マイクロ波を直接食材に照射せずにアルミ箔等でマイクロ波を遮断し磁性体のキュリー温度選択とその最大比熱を利用しマイクロ波を焼死や(判決注 「照射」の誤記と認める。)すると多くの調理品が効果的な温度のなかで解凍又は加熱が可能である。 【0013】【発明が解決するための手段】本発明は一定のキュリー温度の存在している磁性体を選択してマイクロ波照射をおこなうとその磁性体がキュリー温度- 14 -になると比熱が最高点に達する。その後キュリー温度を超えると磁性を失い,その後比熱が低下する。磁性体はキュリー温度の範囲になるまでは比熱は小さく,マイクロ波を照射すると短時間にキュリー温度に近づく,磁性体がキュリー温度に近づくと比熱は急速度に高くなる。この磁性体の特性を利用しキュリー温度の最大比熱を冷凍又は加熱を行い最適温度に設定すると効果的な解凍及び加熱が可能になる。 磁性体と解凍などの低温物質との熱交換が継続している限りマイクロ波を照射を続けても磁性体の温度はキュリー温度の範囲で維持している。・・・そこで解凍又は 度に設定すると効果的な解凍及び加熱が可能になる。 磁性体と解凍などの低温物質との熱交換が継続している限りマイクロ波を照射を続けても磁性体の温度はキュリー温度の範囲で維持している。・・・そこで解凍又は加熱する物質にマイクロ波が直接当たららず(判決注 「当たらず」の誤記と認める。),マイクロ波を遮断して磁性体の発熱温度を輻射熱として利用すると安定した解凍又は加熱が可能であることを実証した。・・・凍結されている鮮魚,精肉類を鮮度を維持し解凍するときは,磁性体のキュリー温度を40℃以下に設定し,解凍する素材をアルミ箔で被いマイクロ波が透過しない様に処理しキュリー温度が40℃の磁性体を付着しマイクロ波を照射すると磁性体が最高比熱の中で発熱し品質を損なわずに短期に解凍することが可能である。・・・調理品をアルミ箔等でマイクロ波を遮断し,その表面にキュリー温度75~80℃の磁性体を付着させマイクロ波を照射すると磁性体が発熱しその輻射熱によって調理品は一定の安定した温度によって解凍又は加熱される。 【0020】【発明の実施形態】磁性体はソフトフェライトシートを選択し,そのキュリー温度40,60,70,100,150,260,300℃の素材を利用した。 解凍又は加熱する物質を包むには市販のアルミ箔12マイクロメータを利用した。外部からマイクロ波を照射するとき石英ガラスの各容器を利用した。・・・次にキュリー温度40℃の磁性体を利用し,アルミ箔によって-20℃のマグロ100gを包み磁性体を被い石英ガラスのなかに入れマイクロ波を照射した。磁性体の温度は34~40℃の範囲で振れながら3分間が経過した磁性体の温度の変化が安定した時点で取り出して見ると完全な解凍が得られており,タンパク質の変性- 15 -は見られない品温は38℃を計上していた。 磁性体のキュ の範囲で振れながら3分間が経過した磁性体の温度の変化が安定した時点で取り出して見ると完全な解凍が得られており,タンパク質の変性- 15 -は見られない品温は38℃を計上していた。 磁性体のキュリー温度の選択によって適性解凍又は加熱温度が得られた。・・・イ判断上記ア認定の事実によれば,引用発明の内容及び引用刊行物2の記載は,それぞれ,以下のとおりといえる。すなわち,引用発明は,セラミック製の調理容器で調理を行うときは,芋等が内部加熱され水分が蒸発するとともに風味が著しく損なわれるという従来の問題点に鑑み,フェライト材(マイクロ波を吸収して発熱し,赤外線を放射する。)とセラミック材(マイクロ波を透過する。)とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,フェライト材におけるマイクロ波の吸収に起因した外部加熱と,セラミック材におけるマイクロ波の透過に起因した誘電加熱とを併用するものである。 引用刊行物2には,調理品等の味覚が損なわない新たな解凍技術として開発された発明であること,解凍又は加熱するときにその組成の違う物資が混在しているなかでマイクロ波を直接,照射すると解凍又は加熱すべき素材は全体が均一な温度による解凍又は加熱が困難であり,解凍又は加熱後の温度むらの原因は油脂部分等にマイクロ波が集中的に吸収されるなどして,全体に均一な温度の解凍又は加熱ができないこと,そこで,磁性体シートにおけるキュリー温度相当の外部加熱のみによって素材を加熱するため,磁性体シートを透過したマイクロ波をアルミ箔等の遮断層で反射することによって,素材にマイクロ波が直接当たらないように遮断することが記載され,さらに,段落【0013】には,磁性体シートは,マイクロ波の吸収による発熱の機能を担うのであってマイクロ波の遮断までも担うものではないこと,マイクロ 波が直接当たらないように遮断することが記載され,さらに,段落【0013】には,磁性体シートは,マイクロ波の吸収による発熱の機能を担うのであってマイクロ波の遮断までも担うものではないこと,マイクロ波の遮断機能を担うのはアルミ箔等であることが示されている。 以上によれば,引用発明は,調理品等の味覚が損なわれるのを防止するためフェライト材とセラミック材とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,マイクロ波の外部加熱と赤外線の誘電加熱とを併用加熱することによって,課題を解決するものであるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,素材に対し,均一な温度に- 16 -よる解凍又は加熱を実現するため,マイクロ波を対象物に直接照射させないようにアルミ箔などで遮断して,外部加熱のみによって素材を加熱するものである。すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない。 したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。 を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。 (2) 小括以上のとおり,原告ら主張の取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)には理由があり,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,その余の争点について判断するまでもなく,審決は取り消すべきものである。被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。 第5 結論よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 - 17 - 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官池下朗 裁判官武宮英子
▼ クリックして全文を表示