平成14(ワ)21436 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成16年1月27日 東京地方裁判所
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判決文本文19,792 文字)

平成16年1月27日判決言渡平成14年(ワ)第21436号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告は,原告に対し,金636万4582円及びこれに対する平成14年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,3723万3885円及びこれに対する平成14年1月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,警視庁S警察署(以下「S署」という。)に勤務する警察官から職務質問を受け,逃走しようとした際,同警察官からけん銃で撃たれて負傷したことについて,同警察官のけん銃の使用が違法であると主張し,被告に対し,国家賠償法に基づき,損害賠償を請求した事件である。 1 争いのない事実等(認定事実については末尾に証拠を掲記する。)(1) 当事者等ア原告は,昭和44年(1969年)3月8日生まれの中華人民共和国(以下「中国」という。)の国籍を有する者であり(甲12),平成9年4月ころ,日本に密入国し,以後不法に日本に滞在していた(甲3,乙37)。 イ N警部補は,S署に勤務する警察官である。 (2) N警部補によるけん銃使用N警部補は,平成14年1月11日午後4時50分ころ,東京都板橋区a町b番c号付近路上(以下「本件現場」という。)において,原告に対する職務質問をした際,逃走しようとした原告に対し,けん銃を取り出して弾丸1発を発射し(以下「本件発砲行為」という。),発射弾を原告の背部に射入させ,よって,原告に背部銃創,第二腰椎破裂骨折,脊髄損傷,十二指腸損傷などの傷害を負わせた。 2 争点(1) N警部補の本件発砲行為は,警察官職務執行法(以下「警職 う。),発射弾を原告の背部に射入させ,よって,原告に背部銃創,第二腰椎破裂骨折,脊髄損傷,十二指腸損傷などの傷害を負わせた。 2 争点(1) N警部補の本件発砲行為は,警察官職務執行法(以下「警職法」という。)7条に該当するものとして違法性が阻却されるか否か。 ア被告の主張(ア) 警職法7条は,警察官による武器の使用の要件を規定しているが,警察官は,常に予期しない事態への対応を迫られていること(突発性),現場において瞬時に,しかも,単独で決断を迫られる事態への対応を求められていること(即断性),予測をはるかに超えた事態への対応を迫られていること(不可測性)などを考慮すれば,警察官の武器の使用の適否を厳格に判断しすぎるのは,警察官が事件現場において犯人に対応することを著しく困難にする結果となりかねない。 したがって,警職法7条本文の「必要であると認める相当な理由のある場合」とは,犯人逮捕等の緊急事態に直面した警察官が,犯罪の凶悪性,犯人の抵抗の度合い,危害発生の切迫性,警察官と犯人等との人数差及び体力差,現場周辺の地理的,物理的状況などの具体的事情に照らして,武器の使用が必要であると認めるに足りる相当な理由のあると判断した場合をいい,また,同条本文の「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」とは,犯人逮捕等の緊急事態に直面した警察官が,上記具体的事情に照らして,警察目的を達成するために必要かつ合理的であると判断する限度をいうと解すべきであり,これらの判断は,当該警察官の合理的判断に委ねられており,警察官の標準的な職務執行の基準に照らして是認できる程度の合理性があれば足りる。 (イ) N警部補は,本件発砲行為の当時,多発していた外国人によるピッキング用具(玄関等の施錠を破壊することなく解錠する器具)を使用した侵入窃盗(以下「ピッキング窃盗」 る程度の合理性があれば足りる。 (イ) N警部補は,本件発砲行為の当時,多発していた外国人によるピッキング用具(玄関等の施錠を破壊することなく解錠する器具)を使用した侵入窃盗(以下「ピッキング窃盗」という。)の犯人を検挙し,S署管内の治安を維持する目的で実施されていた特別警戒活動に従事中,中国人と思われる原告ほか2名を目撃し,警察官であることを告げて,国籍を質問すると,原告ほか2名がN警部補をにらみ付けたり,原告以外の2名が大声で叫び出したりした。N警部補は,原告ほか2名の険しい目つきや様子から,ピッキング窃盗の犯人であることを確信し,更に質問を続けると,原告ほか2名が逃げ出したため,原告のコートの右肘部分を左手でつかんで制止させた。原告は,N警部補の左手を振り払うと同時に,N警部補に対し,勢いよく体当たりをし,N警部補が体勢を立て直す間もなく,鋭角に曲げた右肘で左頸部,左肩部,左胸部を強打する攻撃を加え,更に,その腕をN警部補の首に巻き付け,N警部補の顎を右肩に乗せた格好で,右腕と右肩とでその首を絞め,首の骨を折ろうとして勢いよく腰を落とした上,N警部補の所持するけん銃を奪おうとした。N警部補は,原告の攻撃によって頸部にすさまじい衝撃を受け,息が詰まり意識が薄れかかったが,何とか原告の攻撃から逃れ,その際,原告の衣服の中の固い物に触れ,原告が凶器を携帯していると判断した。そこで,N警部補は,公務執行妨害罪で逮捕すると叫びながら,原告の右腕を左手でつかんだが,原告から左手拳で,顔面に鋭い突きを受け,さらに,肘,手拳,掌底(掌の下部)で,その頭部,顔面,肩,胸部などに何度も執拗かつ強烈な攻撃を受け続けた。N警部補は,後退しながらも,左手で原告の右腕をコートの上からつかみ,右手で顔面を防御するなどして,原告の執拗かつ強烈な攻撃に耐えていたが,この ,肩,胸部などに何度も執拗かつ強烈な攻撃を受け続けた。N警部補は,後退しながらも,左手で原告の右腕をコートの上からつかみ,右手で顔面を防御するなどして,原告の執拗かつ強烈な攻撃に耐えていたが,このままでは自らが致命傷を負うばかりか,原告にけん銃を奪われたり,原告が所持する凶器を使用したり,逃走した原告以外の2名が加勢してきたりすると,殺害されるかも知れないと考え,自己の生命,身体を守り,原告を逮捕するためにはけん銃を使用する以外に方法はないと判断するに至り,原告がN警部補につかまれていた右腕を勢いよく後方に引きながら上体を左に回転させて着用していたコートを脱ぎ捨てることによって右腕をN警部補の手からはずし,両手の拳を顎の前に構え,N警部補に対して左手拳を繰り出してきたときに,その所持していたけん銃を取り出した。すると,原告は,いきなり反転して逃げ出したことから,N警部補は,原告に対し,「逃げるな。撃つぞ。」と警告して追跡したが,原告が止まらなかったことから,とっさに,このままでは原告を逮捕することが不可能になるばかりか,原告が通行人に危害を加えたり,付近に立てこもったりして新たな犯罪を引き起こすおそれがあり,また,けん銃を威嚇発射すれば住民に被害が及ぶので,原告を逮捕するためには原告に向けてけん銃を発射するのが唯一の手段であると判断し,原告の約4メートル後方から右大腿部を目掛けて,けん銃を1発発射した。発射弾は,原告の右大腿部に当たらず,腰部に当たり,原告の脊髄等を損傷する結果となったが,原告がN警部補の警告を聞いて姿勢を低くするとともに,前方のT字路を曲がろうと重心を低くしたため,そのような結果になったにすぎない。 原告は,中国の国際的な密入国組織であり,密入国費用を厳格に取り立てることで知られる「J」に依頼して密入国したばかりか,組織的に 路を曲がろうと重心を低くしたため,そのような結果になったにすぎない。 原告は,中国の国際的な密入国組織であり,密入国費用を厳格に取り立てることで知られる「J」に依頼して密入国したばかりか,組織的にピッキング窃盗を行っていたのであり,警察官に逮捕されることにより,密入国費用の返済が不可能となり,自己,家族等の生命が危機にさらされ,また,自己の犯罪が発覚してしまうのを恐れていたと考えられること,義務兵役制を採用している中国の出身である原告は,軍隊において敵を殺傷する訓練を受けているはずであることからすれば,原告がN警部補に対して逮捕を免れる目的で加えた上記のような暴行が執拗かつ強烈なものであったことは明らかであり,N警部補は,原告の上記攻撃によって,頭部及び顔面の打撲及び挫創,左前胸部及び左肩の打撲,頸椎捻挫の全治3週間を要する傷害を受け,頸椎捻挫については3か月間の通院治療によっても完治していないのである。また,N警部補の胸部及び腹部の傷害が重篤なものにならなかったのは,N警部補が制服のワイシャツの下に胸部及び腹部を防護するプラスティック製の耐刀防護服を着衣しており,これが胸部及び腹部に対する原告の攻撃の威力をやわらげたためである。 (ウ) 以上によれば,N警部補の原告に対する職務質問は適法であり,原告を制止させた行為も,職務質問を継続するための必要最小限度の有形力の行使といえるものであるから,適法である。それにもかかわらず,原告は,N警部補に対し,上記(イ)のような執拗かつ強烈な暴行を加え,N警部補に全治3週間を要する傷害を負わせたのであるから,原告が公務執行妨害罪及び傷害罪を犯したことは明らかであり,原告は,警職法7条ただし書1号の「兇悪な罪」(警察官等けん銃使用及び取扱規範2条参照)を「現に犯し」た者に該当する。そして,N警部補は,原告か が公務執行妨害罪及び傷害罪を犯したことは明らかであり,原告は,警職法7条ただし書1号の「兇悪な罪」(警察官等けん銃使用及び取扱規範2条参照)を「現に犯し」た者に該当する。そして,N警部補は,原告から,上記(イ)のような執拗かつ強烈な暴行を受けるという極めて切迫した事態に直面し,逃亡しようとした原告を逮捕するためには,けん銃を使用する以外に方法はないものと判断し,原告の足をねらってけん銃を発射したのであり,① 本件発砲行為の当時,原告が32歳であり,軍隊経験もあったのに対し,N警部補が55歳であったことからすれば,原告とN警部補とでは腕力,走力,持久力,格闘能力等において格段の差があった上,原告がN警部補に対して首の骨を折ろうとするなどの執拗かつ強烈な暴行を加えて,N警部補に重傷を負わせ,その生命にも危険を生じさせたものといえるので,N警部補が,原告の暴行により,致命傷を負わされると考えるのは不合理ではないこと,② N警部補が,原告が凶器を用いたり,原告以外の2名が本件けん銃使用の現場に戻って原告に加勢したりすることにより,殺害されるかも知れないと考えるのは不合理ではないこと,③ N警部補が原告にけん銃を奪取されれば,原告によって殺人などの重大犯罪が惹起される高度の蓋然性があったといえること,④ N警部補は,無線機を携帯しておらず,他の警察官に応援を要請することができなかったこと,⑤ 本件現場周辺が住宅密集地であるなどの状況からすれば,原告が逃亡すれば,原告が通行人に危害を加えたり,付近の民家に立てこもるなどして,新たな犯罪が発生する高度の蓋然性があったといえること,⑥ 本件現場周辺の状況からすれば,N警部補がけん銃で威嚇発射すれば,付近住民や通行人に被害を及ぼす高度の蓋然性があったことなどの事情からすれば,N警部補の本件発砲行為は,警察官の たといえること,⑥ 本件現場周辺の状況からすれば,N警部補がけん銃で威嚇発射すれば,付近住民や通行人に被害を及ぼす高度の蓋然性があったことなどの事情からすれば,N警部補の本件発砲行為は,警察官の標準的な職務執行の基準からして十分に是認できる合理性ある判断に基づくものであり,警職法7条本文の「必要であると認める相当な理由のある場合」及び「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」の要件に該当し,同条ただし書1号の「他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合」の要件にも該当するのであるから,適法というべきである。 仮に,N警部補の本件発砲行為が違法と評価された場合,今後,警察官は,人が死亡するか,又は瀕死の重傷を負うまでけん銃を発射できないことになりかねないし,けん銃を発射できる事態でありながら,これを躊躇してしまい,適正な職務執行に支障が生じることになりかねず,その結果,国際化,凶悪化,組織化の度を増す犯罪への対応が困難となり,治安の維持に重大な悪影響を与えかねない。 イ原告の主張(ア) 原告は,警察官であると分からないN警部補から,突然中国人であるか否かを尋ねられ,これを認めるや,N警部補が「警察だ。動くな。」と言うと同時に,原告が着用していたコートの上から右肩付近をつかんだことから,原告は,これを振り払って逃走しようとして,コートを脱ぎ捨て,N警部補に背を向けて,4,5歩逃げ出したところ,N警部補が,何の警告もなく,原告の背中目掛けて発射したものである。原告は,N警部補に対し,逃走するための抵抗をしたにすぎず,被告が主張するような自ら積極的に,殴打したり,首を絞めたり,首の骨を折ろうとしたりするなどの暴行を加えたことはなく,ましてやけん銃を奪取しようとしたことはない。また,原告が,N警部補から逃げようと背を向けて走 るような自ら積極的に,殴打したり,首を絞めたり,首の骨を折ろうとしたりするなどの暴行を加えたことはなく,ましてやけん銃を奪取しようとしたことはない。また,原告が,N警部補から逃げようと背を向けて走り出したときに,何の警告もなくN警部補からけん銃で撃たれたことは,原告が,本件発砲行為後に病院に搬送されたときでさえ,けん銃で撃たれたことの認識がなかったことからも明らかである。 被告は,原告が「J」に依頼した密入国者であり,組織的にピッキング窃盗を行っており,中国の軍隊で敵を殺傷する訓練を受けたはずであるなどと主張する。しかし,原告は,「J」に依頼して日本に密入国をした何万人といる中国人の一人にすぎず,平成12年までは真面目に働いており,継続的にピッキング窃盗を行っていたわけではないし,中国において軍隊で訓練を受けた経験はないのであり,被告は,このような主張をすることでN警部補の本件発砲行為を正当化しようとしているにすぎない。 (イ) N警部補は,原告に対する職務質問をした際,原告のコートの上から右肩付近をつかんで,原告の自由を拘束するという警職法2条3項に違反する行為をしたものであり,その時点で原告が警職法7条ただし書1号の「兇悪な罪」を犯したと疑うに足りる理由はなく,その後も,原告は,N警部補に対し,逃げるための抵抗をしたにすぎず,積極的に攻撃したものではないから,「兇悪な罪」を犯したとはいえない。それにもかかわらず,N警部補は,背を向けて逃走しようと走り出した原告に対し,至近距離から,その背中を目掛けてけん銃を発射し,原告に瀕死の重傷を負わせたのであり,仮にその足を目掛けてけん銃を撃ったとしても,重大な過失により,原告の背中に発射弾を命中させたものであって,警職法7条本文の「必要であると認める相当な理由のある場合」及び「その事態に応じ合理的に必 ,仮にその足を目掛けてけん銃を撃ったとしても,重大な過失により,原告の背中に発射弾を命中させたものであって,警職法7条本文の「必要であると認める相当な理由のある場合」及び「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」の要件に該当しないことは明らかであるから,N警部補の本件発砲行為は,警職法7条により,違法性は阻却されない。 (2) 原告の損害ア原告の主張原告は,N警部補の本件発砲行為により,脊髄損傷,十二指腸損傷等の傷害を受けたのであり,本件けん銃使用と相当因果関係にある原告の損害の額は,以下の合計3723万3885円である。 (ア) 逸失利益 1986万8987円a 基礎収入原告は,本件発砲行為の当時,失業中であり,中国に帰国する時期でもあったので,原告の逸失利益の算定に当たっては,日本に密入国する前に中国において得ていた収入額を基礎とすべきである。 原告は,日本に密入国した平成9年4月以前,中国において中華料理店を経営し,年収として9万6000人民元を得ていた。 b 就労可能年数不法行為地が日本の場合,外国人であっても日本人の就労可能年である67歳を基準とすべきであるから,本件発砲行為の当時32歳であった原告の就労可能年数は35年である。 c 症状固定の有無及び労働能力喪失率原告は,上記傷害により,その右下肢が麻痺し,両足で歩行することができなくなり,この状態は,今後治療を継続しても改善しないものである(症状固定)。この原告の後遺障害は,自動車損害賠償保障法施行令2条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害等級表」という。)第5級7号に該当し,その労働能力喪失率は79パーセントである。 d 以上により,原告の逸失利益を算出すると,以下の計算のとおり,1986万8987円になる。 (計算式)1986万8987円=153万6000 に該当し,その労働能力喪失率は79パーセントである。 d 以上により,原告の逸失利益を算出すると,以下の計算のとおり,1986万8987円になる。 (計算式)1986万8987円=153万6000円(年収9万6000人民元×16円)×16.3741(就労可能年数35年のライプニッツ係数)×0.79(労働能力喪失率)(イ) 慰謝料計1398万円a 後遺障害慰謝料  1300万円原告の後遺障害は,上記のとおり,後遺障害等級表第5級7号に該当するものであり,原告の後遺障害による精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は,1300万円を下らない。 b 傷害慰謝料 98万円原告は,平成14年1月11日から同年3月9日までの58日間入院を余儀なくされたのであり,これにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は,98万円を下らない。 c 原告は,日本に長期滞在することが見込まれない中国人であるが,中国が著しい経済成長を遂げている現状では,原告の慰謝料額の算定に当たり,日本人の場合と比較して低く算定すべきではない。 (ウ) 弁護士費用 338万4898円原告は,原告代理人に対し,本件訴訟の遂行を委任し,その報酬として上記請求金額の合計額の1割に相当する金額を支払う旨を約した。 イ被告の主張(ア) 逸失利益争う。 a 基礎収入原告は,日本に密入国する以前に中国において中華料理店を経営していたときの収入額を基礎として逸失利益を算出しているが,原告は,同料理店を廃業した上で,日本に密入国し,ピッキング窃盗を繰り返していたのであるから,同料理店経営時の収入額を基礎とすることはできない。 また,原告が同料理店を経営していた当時に年収9万6000人民元を得ていたとの主張は否認する。 b 就労可能年数原告は,現在,懲役4年 のであるから,同料理店経営時の収入額を基礎とすることはできない。 また,原告が同料理店を経営していた当時に年収9万6000人民元を得ていたとの主張は否認する。 b 就労可能年数原告は,現在,懲役4年の刑に処せられ,服役中であり,その期間中は就労できないことが明らかであるから,その期間を就労可能年数に含めることはできない。 c 症状固定の有無及び労働能力喪失率原告の負傷状況については,脊髄の一部分の神経伝達経路は機能を保持しているものと判断されている上,原告は,現在,他者の介添え,介護なしに起臥,入浴,用便などの日常生活を送っていることからすれば,原告の症状は好転しており,症状が固定したとはいえないのであるから,原告の症状は,後遺障害等級表第5級7号に該当するものではない。 (イ) 慰謝料a 後遺障害慰謝料争う。 上記(ア)cのとおり,原告の症状は,後遺障害等級表第5級7号に該当しない。 b 傷害慰謝料争う。 c 外国人の慰謝料の額については,当該外国人の生活基盤となる国の経済的事情を考慮して算定すべきであり,原告は,いずれ中国に強制送還され,その生活基盤を中国におくことになることは明らかである。日本と中国とでは,主要食料品の小売価額で約10倍,家計の消費支出で約24倍の格差があるのであるから,原告の慰謝料の額を算定する場合でも,原告が日本に生活の基盤を有する場合の10分の1以下に減額すべきである。 (ウ) 弁護士費用争う。 第3 争点についての判断 1 争点(1)について(1) 事実経過ア前記争いのない事実等に加え,証拠(後記のもののほか,甲3,4,乙33,証人N,平成15年3月26日付け調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (ア) S署に勤務する警察官であるN警部補は,当時S署管内で多発していた外国人によ ,4,乙33,証人N,平成15年3月26日付け調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 (ア) S署に勤務する警察官であるN警部補は,当時S署管内で多発していた外国人によるピッキング窃盗を検挙する目的等で実施されていた特別警戒活動として,平成14年1月11日午後4時45分ころ,本件現場において,警察の制服のワイシャツの上に私物のコートを着用した服装で警戒に当たっていた際,中国人と推測される原告ほか2名が本件現場を通り過ぎようとした。N警部補は,原告ほか2名の特徴が当時得ていたピッキング窃盗犯グループの特徴と一致していると感じたため,原告ほか2名に対し,着用していたコートを開いて警察の制服を見せた上で国籍を尋ねたのに対し,原告は,N警部補をにらみ付けながら「シャンハイ」と答え,原告以外の2名は,大声で叫び出した。 (イ) N警部補は,原告ほか2名の態度から,原告ほか2名がピッキング窃盗に関与している者ではないかと疑い,原告ほか2名に対し,強い口調で行き先を尋ねると,原告以外の2名が二手に分かれて走り出し,原告も原告以外の一人を追うように走り出す気配を示したことから,左手で原告が着用していたコートの上から原告の右肘部分をつかんだ。これに対し,原告は,N警部補の左手を振り払って,N警部補の左胸に向けて勢いよく体当たりをしたため,N警部補は,後方にのけぞり,2,3歩よろめいた。 (ウ) 原告は,間髪をいれずに,N警部補との間合いを詰め,右肘でN警部補の左頸部,左肩,左胸などを2,3発強打したり,右腕をN警部補の首に巻き付け,N警部補の顎を原告の右肩に乗せた体勢でN警部補の首を絞めた上,その体勢を勢いよく下に落としたりするなどの暴行を加えた。さらに,原告がN警部補のコートの中に手を差し入れようとしたことから,N警部補は,原告がN 顎を原告の右肩に乗せた体勢でN警部補の首を絞めた上,その体勢を勢いよく下に落としたりするなどの暴行を加えた。さらに,原告がN警部補のコートの中に手を差し入れようとしたことから,N警部補は,原告がN警部補が装着していたけん銃を奪おうとしているものと考え,必死に抵抗して原告の暴行から逃れたが,その間に,原告のコートに触れた際に固い物に触れたため,原告が凶器を携帯していると考えた。 (エ) N警部補は,原告に対し,公務執行妨害罪で逮捕する旨叫びながら,原告の右腕をつかんだが,原告から,その左手拳で顔面を鋭く突かれたことから,原告の右腕から手を離してしまうと,原告は,掌の下部でN警部補の胸部を突き上げ,さらに,拳でN警部補の頭部,顔面,胸部を何度もがむしゃらに殴打するなどの暴行を加えた。これに対し,N警部補は,左手で原告の右腕をコートの上からつかむなどして抵抗していたが,このまま原告から暴行を加え続けられると,原告にけん銃を奪われかねず,さらに,凶器を用いられたり,原告以外の2名が戻ってきて加勢されたりすると,殺害もされかねないと考え,自己の生命,身体を守り,原告を逮捕するためには,けん銃を使用する以外に方法はないと考えるに至った。 (オ) 原告は,N警部補につかまれていたコートを脱ぎ捨てて反転し,再びN警部補に攻撃を加える構えをし,左手拳で殴りかかった。N警部補は,原告との間に空間ができたので,手に持った原告のコートを投げ捨て「動くな。」と叫びながら,右手で装着していたけん銃を取り出した。すると,原告は,N警部補に背を向けて走り出したので,N警部補は,原告を追いかけながら,原告に対し,「逃げるな。撃つぞ。」と警告したが,原告が止まろうとしなかったことから,原告に追い付くことはできないと判断し,原告の逃亡を阻止して逮捕するためにはけん銃を使用するしかな 追いかけながら,原告に対し,「逃げるな。撃つぞ。」と警告したが,原告が止まろうとしなかったことから,原告に追い付くことはできないと判断し,原告の逃亡を阻止して逮捕するためにはけん銃を使用するしかないと考え,原告の背後約3.4メートルの距離から,原告の右大腿部をねらって弾丸を一発発射して,その弾丸を原告の背部に命中させ,原告に背部銃創,下大静脈損傷,十二指腸損傷,第二腰椎破裂骨折,脊髄損傷の傷害を負わせた(甲1,乙36)。これにより,原告は,その場でうつ伏せに倒れ込み,N警部補は,同日午後4時50分ころ,原告を公務執行妨害罪及び傷害罪の現行犯人として逮捕した。 本件現場は,マンションや居宅等が多数存在する住宅地の一角に位置するが,N警部補がけん銃を発射した際には,本件現場付近には付近住民や通行人などはおらず,また,原告は,着用していたコートの中に催涙スプレー,ピッキング用具等を携帯していたが,凶器は所持していなかった。 (カ) N警部補は,原告の上記暴行により,頭部及び顔面の打撲及び挫創,左前胸部及び左肩の打撲,頸椎捻挫で全治まで3週間が見込まれる傷害を負い(乙32),頸椎捻挫については約3か月間継続して治療を受けた。 (キ) S署は,東京地方検察庁検察官に対し,平成14年3月11日,原告に係る出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反事件及び大田区内のピッキング窃盗事件を,同年7月8日,公務執行妨害事件及び傷害事件を,同年8月20日,川口市内のピッキング窃盗事件を,それぞれ送致し,東京地方検察庁検察官は,東京地方裁判所に対し,同年3月29日に原告を入管法違反事件で起訴し,同年5月15日,大田区内のピッキング窃盗事件で,同年9月6日,川口市内のピッキング窃盗事件で,それぞれ追起訴したが,公務執行妨害事件及び傷害事件については,同年11 に原告を入管法違反事件で起訴し,同年5月15日,大田区内のピッキング窃盗事件で,同年9月6日,川口市内のピッキング窃盗事件で,それぞれ追起訴したが,公務執行妨害事件及び傷害事件については,同年11月12日,起訴猶予処分とした。 原告は,平成15年2月12日,東京地方裁判所で,入管法違反,住居侵入,窃盗の罪により,懲役4年の判決を受け,同年7月23日,東京高等裁判所で,控訴棄却の判決を受け,東京地方裁判所の上記判決は,同年8月6日の経過により確定し,原告は,現在,東京拘置所で服役中である(乙37,38)。 イアに認定した事実に関し,原告は,警察官であるとは分からないN警部補に呼び止められ,コートの上から肩をつかまれたため,N警部補から逃れようと抵抗したにすぎず,N警部補に対して,自ら積極的に暴行を加えたことなどないと主張し,平成14年5月24日に実施された証拠保全に基づく原告の本人調書(甲3。「以下「原告の本人調書」という。)にもこれに沿う記載がある。しかしながら,上記ア(カ)に認定したとおり,N警部補は,本件現場で原告から受けた暴行により,頭部及び顔面の打撲及び挫創,左前胸部及び左肩の打撲,頸椎捻挫で全治まで3週間が見込まれる傷害を負っているのであり,このようなN警部補が負った傷害の部位,内容,程度からすれば,原告のN警部補に対する暴行が逃走するために抵抗した程度のものであったとは到底考え難い。しかも,N警部補の陳述書(乙33)及び証人Nの証言では,N警部補の原告に対する職務質問の経過及び態様,N警部補が原告から受けた暴行等の態様及び程度について具体的に述べられており,これがN警部補が負った上記の傷害の部位,内容,程度とも合致するものであることからすれば,この点についての原告の本人調書の記載は直ちに採用することができず,他に原告がN警部補に加 的に述べられており,これがN警部補が負った上記の傷害の部位,内容,程度とも合致するものであることからすれば,この点についての原告の本人調書の記載は直ちに採用することができず,他に原告がN警部補に加えた暴行に関する上記アの認定を左右するに足りる証拠はない。 また,原告は,N警部補が原告が着用していたコートの上から右肩付近をつかんだため,これを振り払って逃走しようとして,コートを脱ぎ捨て,N警部補に背を向けて4,5歩逃げ出したところ,N警部補が,何の警告もなく,原告の背中目掛けて発射したと主張し,原告の本人調書(甲3)にも,原告はけん銃を全く見ておらず,二番目の病院に移送された後,弁護人から教えられて初めてけん銃で撃たれたことを知った旨の記載があるほか,原告代理人作成の報告書(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,原告代理人に対し,本件発砲行為による負傷のための手術を受けた直後にも,また,平成15年7月23日に行われた事情聴取の際にも,原告は,けん銃を全く見ておらず認識もしていなかったこと,原告が倒れた際に下半身麻酔をかけられたような感覚であったことを述べたと認められる。しかしながら,前記アに認定したように,原告は,N警部補に対し,肘や拳で顔面,左頸部,左肩部,左胸部などを強打したほか,その腕をN警部補の頸部に回し,N警部補の顎を原告の肩に乗せたまま勢いよく体勢を下に落としたりする暴行を加えており,圧倒的に優勢な状況にありながら,コートを脱ぎ捨てた段階で,突如N警部補に背を向けて逃げ去ろうとしたというのは不自然である。仮に,原告が逃走しようと思えば,原告の体当たりによりN警部補がひるんだ段階で既に逃走できたはずである。さらに,原告が遺留したコートには携帯電話が入っており(甲6),それにより重要な情報が警察の手に渡るおそれがあったにもかかわらず,コ の体当たりによりN警部補がひるんだ段階で既に逃走できたはずである。さらに,原告が遺留したコートには携帯電話が入っており(甲6),それにより重要な情報が警察の手に渡るおそれがあったにもかかわらず,コートの回収もせず逃げ去ろうとしたということも不自然である。また,原告が,わずか3.4メートルの距離からN警部補に発射されていることからすると,N警部補は,原告が逃走し始めてからほとんど間を置かずに発射したものと推認することができ,原告が背を向けて逃走し始めた後に,N警部補がけん銃を取り出し,けん銃を原告に向けて構えた上,原告に対して発射するという一連の動作を行ったとは考え難い。しかも,原告の本人調書(甲3)には,実際には着用していたコート中にピッキング用具を所持していたにもかかわらず,これを否定する部分があったり,N警部補に対して上記認定のような暴行を加えたことを否定する部分があったりするなど,他の証拠に照らして是認する余地のない虚偽の供述を重ねている部分がある上,原告がその本人尋問が予定された期日に出頭しなかったことをも併せ考えれば,原告の本人調書の記載は,全体として信用性が極めて低いものというべきであり,原告が原告代理人に対して上記のように述べたことを考慮しても,原告の本人調書は到底信用することができず,他にN警部補がけん銃を発射した際の状況に関する上記ア(オ)の認定を左右するに足りる証拠はない。 (2) 以上の認定事実によれば,N警部補は,外国人によるピッキング窃盗を検挙等する目的で実施されていた特別警戒活動中,中国人と推測される原告ほか2名に対し,国籍を質問し,その際の原告ほか2名の特徴,態度等からピッキング窃盗に関与している者ではないかとの疑いを持ち,続けて質問をしようとすると,原告以外の2名が二手に別れて走り出し,原告も走って逃げ出そうと 籍を質問し,その際の原告ほか2名の特徴,態度等からピッキング窃盗に関与している者ではないかとの疑いを持ち,続けて質問をしようとすると,原告以外の2名が二手に別れて走り出し,原告も走って逃げ出そうとしたことから,原告を制止して職務質問を継続するために原告のコートの右肘部分をつかんだものであり,このようなN警部補の制止行為は,原告に対する職務質問に付随する有形力の行使ということができ,これが違法な有形力の行使に当たるとはいえない。それにもかかわらず,原告は,N警部補に対し,体当たりしたり,左頸部,左肩,左胸などを強打したり,さらに,N警部補の首を絞めながら,その体勢を勢いよく下に落としたりするなどの暴行を加え,これらの暴行により,N警部補に頭部及び顔面の打撲及び挫創,左前胸部及び左肩の打撲,頸椎捻挫で全治までに3週間が見込まれる傷害を負わせたというのであり,このような原告のN警部補に対する一連の暴行の態様,N警部補の負傷の程度からすれば,原告の暴行は相当に強度のものであり,N警部補の身体は相当程度の危険にさらされていたということができ,これらの原告の行為が公務執行妨害罪及び傷害罪を構成することは明らかである。そして,N警部補は,原告から,上記のような暴行を受け,その身体が相当程度の危険にさらされた状況の下で,けん銃を取り出したところ,原告が逃げ始め,原告に止まらないとけん銃を発射する旨警告するも,原告が止まらなかったことから,本件発砲行為に及んだものであるから,本件発砲行為は,公務執行妨害罪及び傷害罪の現行犯人を逮捕するために行われたものということができる。また,前記(1)アの認定事実によれば,本件発砲行為の際に原告が着用していたコートの中にはピッキング用具が存在し,しかも,原告は,ピッキング窃盗等の罪により懲役刑に処せられているのであり,N警 きる。また,前記(1)アの認定事実によれば,本件発砲行為の際に原告が着用していたコートの中にはピッキング用具が存在し,しかも,原告は,ピッキング窃盗等の罪により懲役刑に処せられているのであり,N警部補が原告に対してけん銃を発射したことが,ピッキング窃盗を犯していた原告の逮捕,将来のピッキング窃盗の予防につながった側面を有することは否定できない。 しかしながら,原告のN警部補に対する暴行の程度は相当強度のものであったとはいえ,原告は,N警部補の本件発砲行為の際には,N警部補に背を向けて逃走しようとしていたのであり,その時点では,N警部補の生命,身体に対する現実的危険が継続していたとはいえず,再度N警部補が原告の身体をつかむなどして制止しようとしなければ,原告がN警部補に対して重ねて危害を加えるような状況にあったといえない。また,原告は,本件発砲行為の際,凶器を所持しておらず,本件発砲行為の時点では本件現場付近に住民や通行人は存在しなかったことなどからすれば,原告が付近住民や通行人に危害を加えたり,本件現場付近の民家に立てこもったりするなどの他の犯罪行為を犯す具体的な危険性が存在するというような客観的状況にはなく,原告は,N警部補が凶器が在中していると考えていたコートも脱ぎ捨てていたことからすれば,N警部補がそのような危険性が存在すると考えたとしても,その考えは合理的客観的根拠に乏しいものであったといわざるを得ない。さらに,本件発砲行為の時点では,原告が殺人,強盗等の被疑事実で指名手配をされていたなどの事情はなく,職務質問の状況,原告による暴行の態様等によっても,本件発砲行為の時点では,原告についてピッキング窃盗に関与していることが疑われていたにすぎず,N警部補がその嫌疑を裏付ける客観的証拠を有していたわけではない。このような状況の下,N警部補は よっても,本件発砲行為の時点では,原告についてピッキング窃盗に関与していることが疑われていたにすぎず,N警部補がその嫌疑を裏付ける客観的証拠を有していたわけではない。このような状況の下,N警部補は,原告を逮捕するため,逃走しようと走り出した原告の背後約3.4メートルの至近距離から,原告に背部銃創,下大静脈損傷,十二指腸損傷,第二腰椎破裂骨折,脊髄損傷の重度の傷害を負わせるような態様,すなわち,状況次第によっては原告の身体の枢要部に命中する危険性のある態様でけん銃を発射したというのであり,上記の状況を総合すれば,N警部補が,本件発砲行為に至るまでに原告から受けた暴行,N警部補と原告との年齢差,体力差,N警部補が本件現場で他の警察官の加勢を求めるのが不可能であったこと,N警部補が原告の右大腿部を狙って発射したことなどの諸般の事情を考慮したとしても,N警部補が原告に対してけん銃を発射して危害を加えることが許容される状況にあったと認めることは困難であり,N警部補による本件発砲行為は,警職法7条に定める「必要であると認める相当な理由のある場合」に当たらず,かつ,「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」を逸脱したものというほかはない。 したがって,N警部補による本件発砲行為は,その違法性が阻却されず,被告は,原告に対し,原告の被った損害を賠償する責任を免れない。 2 争点(2)(損害)について(1) 逸失利益についてア基礎収入について財産上の損害としての逸失利益は,事故がなかったとすれば存したであろう利益の喪失分として評価算定され,その性質上,相当程度の蓋然性をもって推定される被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定されるべきものであるから,原告の逸失利益は,原告が本件発砲行為により負傷しなければ将来得られたものと相当程度の蓋然性をもって推 度の蓋然性をもって推定される被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定されるべきものであるから,原告の逸失利益は,原告が本件発砲行為により負傷しなければ将来得られたものと相当程度の蓋然性をもって推定される収入等の状況を基礎として,これを算定すべきことになる。 前記争いのない事実等並びに証拠(甲2ないし4,9,12)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,中国において中華料理店を経営していたが,平成9年4月ころ,同料理店を廃業して,日本に密入国し,以後,不法に日本に滞在しており,その間就労していた時期もあったが,本件発砲行為の当時には就労していなかったことが認められ,また,前記1(1)ア(キ)に認定したとおり,原告は,本件発砲行為後の平成15年8月6日の経過により懲役4年の刑に処する旨の判決が確定し,現在服役中であり,服役後には,中国に強制送還されることが確実である。これらのことからすれば,原告の逸失利益の算定に当たっては,原告が服役後に中国において得られるであろう収入額を基礎とすべきであり,その収入額については,これが中国人の平均収入額を上回るものと認めるに足りる証拠はないから,これを基礎とするのが相当である。 そして,2001年度(平成13年度)の国際労働経済統計年鑑(乙48)によれば,2000年(平成12年)の中国人の1か月当たりの実収賃金は781元であると認められ,その後,本件発砲行為のあった平成14年当時までに,中国の物価水準が相当程度上昇したことは公知であることからすれば,平成14年当時の中国人の平均年収額は少なくとも1万元を下らないものと認めるのが相当である。 この点について,原告は,原告が日本に密入国する以前,中国で中華料理店を経営しており,中国人の平均年収を上回る収入を得ており,その収入額を基礎収入額として原告の逸失利益を算定すべきであ が相当である。 この点について,原告は,原告が日本に密入国する以前,中国で中華料理店を経営しており,中国人の平均年収を上回る収入を得ており,その収入額を基礎収入額として原告の逸失利益を算定すべきであると主張し,納税証明書(甲2)を提出する。しかしながら,上記認定のとおり,原告が日本に密入国するに際して同料理店を廃業してから約6年が経過しており,さらに,原告は,今後約4年間服役しなければならないことからすれば,原告が服役後に中国において同料理店経営当時の収入を得られるものとは認定し難いというほかはなく,この点についての原告の主張は採用することはできない。 イ就労可能年数原告は,本件発砲行為後の平成15年8月6日の経過により懲役4年の刑に処する旨の判決が確定し,現在服役中であることは,前記1(1)ア(キ)に認定したとおりであり,原告は,その服役中は,就労することができないのであるから,原告が服役を終了したときから就労可能年齢終期までの期間をもって原告の就労可能年数と認めるのが相当である。前記争いのない事実等によれば,原告は,昭和44年(1969年)生まれであるから,原告が服役を終了する時点の年齢は37歳であると認めることができ,原告は,その時点から就労可能となるといえる。そうすると,原告の逸失利益の算定に当たっては,本件発砲行為の当時の原告の年齢である32歳から就労可能年齢終期である67歳までの35年に対応するライプニッツ係数(16.374)から,原告が37歳に達するまでの5年に対応するライプニッツ係数(4.329)を差し引いた計数である12.045を用いるのが相当である。 ウ症状固定の有無及び労働能力喪失率証拠(甲1,平成15年10月10日付け調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発砲行為の結果,脊髄損傷の傷害を負ったことに 用いるのが相当である。 ウ症状固定の有無及び労働能力喪失率証拠(甲1,平成15年10月10日付け調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発砲行為の結果,脊髄損傷の傷害を負ったことにより,その右下肢が麻痺し,その障害は,今後回復の見込みのない症状固定の状態に至ったものと認められ,このような原告の後遺障害は,後遺障害等級表の第5級7号の「1下肢の用を全廃したもの」に該当するといえるから,原告の労働能力喪失率については,79パーセントと認めるのが相当である。 これに対し,被告は,原告の負傷については脊髄の一部分の神経伝達経路は機能を保持しているものと判断されている上,原告が現在では他者の介添え,介護なしに日常生活を送っており,原告の症状は好転しているから,原告の現在の障害は症状固定となったものではないと主張し,これに沿うかのような証拠(乙36,乙41の1及び2,乙44の1及び2)もある。しかしながら,被告の調査依頼に対するT病院整形外科医師Tの回答書(乙44の2)においても,原告の障害部位に馬尾神経様組織が存在していることを理由に,原告の障害が今後好転する可能性が否定できない旨が指摘されているにすぎず,また,原告が他者の介添え,介護なしに日常生活を送っているとしても,原告の右下肢の麻痺が回復していることを示すものではないから,被告提出の上記証拠によっても,原告の障害についての上記認定を左右するものとはいえない。 エ以上に認定,説示したことを前提に,原告の逸失利益を算定すると,以下の計算式のとおり,123万5118円となる。 (計算式)1万元(中国人の平成14年当時の平均年収額)×12.98円(本件口頭弁論終結時である平成15年12月9日時点の為替レートによる1元当たりの日本円額)×0.79(労働能力喪失率)×12.045(ライプニ 万元(中国人の平成14年当時の平均年収額)×12.98円(本件口頭弁論終結時である平成15年12月9日時点の為替レートによる1元当たりの日本円額)×0.79(労働能力喪失率)×12.045(ライプニッツ係数)(2) 慰謝料についてア後遺症慰謝料前記(1)ウのとおり,原告が本件発砲行為によりその右下肢が麻痺するという後遺障害等級表の第5級7号に該当する後遺障害を負ったほか,証拠(甲1,平成15年3月20日付け調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本件発砲行為により十二指腸損傷の傷害を受け,その後も腸閉塞で治療を受けることを余儀なくされているなどの事情が認められるが,既に説示したとおり,原告は,服役後には中国に強制送還されることが確実であるから,原告の慰謝料額については,中国の経済的事情等をも考慮してこれを算定すべきであり,中国の主要食品類の小売価額が日本の約10分の1であること(乙45,46)などの事情を併せ考慮すれば,原告の後遺障害慰謝料の額は,650万円と認めるのが相当である。 イ傷害慰謝料平成15年10月10日付け及び平成15年10月22日付け調査嘱託の各結果によれば,原告は,本件発砲行為により傷害を負ったことにより,平成14年1月11日から同年1月26日までT病院に,同日から同年3月9日までK病院に,合計58日間入院を余儀なくされたことが認められ,上記アと同様に中国の経済的事情等を併せ考慮すれば,原告の傷害慰謝料の額は,50万円と認めるのが相当である。 (3) 過失相殺について被告は,N警部補が本件発砲行為に至った経緯について,原告がN警部補に強度の暴行を加えた上,逃走しようとしたことなどを主張しており,このような被告の主張は,本件発砲行為による原告の損害について,原告にも過失があることを基礎付ける具体的事実を主張する ,原告がN警部補に強度の暴行を加えた上,逃走しようとしたことなどを主張しており,このような被告の主張は,本件発砲行為による原告の損害について,原告にも過失があることを基礎付ける具体的事実を主張するものであり,原告の損害額を算定するに当たり,原告の過失をも斟酌すべき旨主張するものと解されるので,以下検討する。 原告は,前記1(1)アに認定したとおり,N警部補から適法な職務質問を受けたにもかかわらず,N警部補に対し,その身体に相当程度の危険を生じさせる強度の暴行を加えた上で,N警部補から逃走して逮捕を免れようとし,しかも,N警部補から発射する旨警告されたにもかかわず,止まらなかったのであり,このような原告の行動がN警部補を本件発砲行為に至らしめたことは明らかである。原告のN警部補に対する暴行の態様,程度,逃走の経緯,態様等の諸般の事情を考慮すれば,本件発砲行為による原告の損害額についての原告の過失割合は30パーセントと認めるのが相当である。 したがって,上記(1)及び(2)の損害額の合計額である823万5118円から原告の過失割合である30パーセントを控除した額は,576万4582円となる。 (4) 弁護士費用について本件事案の難易,審理の経緯,請求額,認容額,その他諸般の事情を斟酌すると,本件発砲行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は,60万円と認めるのが相当である。 (5) 以上によれば,本件発砲行為による原告の損害額は合計636万4582円となる。 3 結論以上によれば,原告の請求は636万4582円及びこれに対する平成14年1月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61条を適用し,仮執行の宣言 まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61条を適用し,仮執行の宣言については,相当ではないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第25部裁判長裁判官綿引万里子裁判官澤野芳夫裁判官高橋信慶

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