主文 本件各上告を棄却する。 上告費用は各上告人の負担とする。 理由 第1 平成13年(受)第902号上告代理人竹澤哲夫,同千葉憲雄,同大竹秀達,同山本英司,同羽倉佐知子の上告受理申立て理由及び同年(受)第903号上告代理人都築弘,同浜秀樹,同渡邉千恵子,同福永敏和,同西謙二,同大須賀滋,同新谷貴昭,同根本実,同白井ときわ,同上村直,同大西彰,同高橋幸喜,同豊岡俊彦,同弥陀久男,同宮岡正孝,同宮崎則昭,同松澤修,同鎮守洋一,同八木茂生の上告受理申立て理由第3,第4について 1 本件は,平成13年(受)第903号被上告人(以下「原告組合」という。)を除く同年(受)第902号上告人(ただし,A外1名についてはその被承継人B,Cについてはその被承継人D,E外2名についてはその被承継人F。以下「個人原告」という。)らが,東京税関の職員であった昭和40年4月1日から同49年3月31日までの期間(以下「本件係争期間」という。)に,任命権者である東京税関長から,原告組合の組合員(以下「原告組合員」という。)であることを理由に,昇任,昇格,昇給について不当な差別的取扱いを受け,これにより財産的,精神的損害を被ったとして,また,原告組合が,原告組合員が上記のような差別的取扱いを受けたほか,東京税関当局の違法な支配介入等により団結権を侵害され,無形の損害を被ったとして,いずれも国家賠償法1条1項に基づき,平成13年(受)第903号上告人・同年(受)第902号被上告人(以下「被告」という。)に対し,損害賠償を求める事件である。 2 原審は,本件の事実関係につき,次のとおり認定判断した上で,原告組合の請求を一部認容し,その余の請求をいずれも棄却すべきものとした。 (1) 全国税関労働組合(以下「全税関」という。)は,昭和22年11月 は,本件の事実関係につき,次のとおり認定判断した上で,原告組合の請求を一部認容し,その余の請求をいずれも棄却すべきものとした。 (1) 全国税関労働組合(以下「全税関」という。)は,昭和22年11月に結成された,全国の税関に勤務する職員をもって組織される労働組合(職員団体)であり,原告組合は,東京税関に勤務する職員をもって組織される労働組合であって,全税関の支部である。個人原告らは,本件係争期間において,東京税関に勤務していた職員であり,原告組合員であった。 原告組合は,結成当時,職制を含む大部分の東京税関の職員が加入しており,当初は,労働条件の改善要求を中心とした活動を行ってきたが,昭和33年ころから,安保反対等の政治的要求を掲げる活動にも取り組むようになった。同36年12月,神戸税関において,税関長が,全税関神戸支部の行った勤務時間内職場集会を指導したことなどを理由に,支部長らに対し懲戒免職処分を行ったことなどを契機に,執行部に対する批判派が台頭し,同38年3月,同税関において神戸税関労働組合が結成され,その後,同40年8月までの間に,全国8税関においてそれぞれ新組合(以下「税関労組」という。)が結成された。東京税関においても,同37年,同39年の原告組合の大会で執行部批判が出たほか,同年10月ころから組合費の未納者が課長クラスから出始め,同40年2月1日,執行部批判者が「刷新有志会」を結成して,執行部の退陣等を要求し,同月13日から19日にかけて約350人分の脱退届が3回に分けてまとめて原告組合に郵送され,同月27日,刷新有志会のメンバーを中心に東京税関労働組合(以下「東京労組」という。)が結成されるに至り,原告組合は組織率が激減して少数組合となった。 (2) 上記の原告組合の分裂は,職制らが原告組合に対する不満から東京労組の ーを中心に東京税関労働組合(以下「東京労組」という。)が結成されるに至り,原告組合は組織率が激減して少数組合となった。 (2) 上記の原告組合の分裂は,職制らが原告組合に対する不満から東京労組の結成等に動いた結果生じたとみることができる。個人原告らの陳述書によれば,昭和39年から同42年までの間に激しく原告組合員らに対する脱退勧誘が行われたことがうかがわれるが,これのみにより東京税関当局の関与を認めることはできない。しかし,原告組合ににわかに内部分裂を引き起こすほどの過激な活動があったとはいえず,他に内部の緊急事情も認め難いのに,短期間に分裂に至ったこと,職制らの原告組合に対する批判の内容は全税関の方針に対するものが中心であることなどにかんがみると,職制の活動は当局がそそのかして分裂を意図したものではなかったかとの疑いを払拭することができない。そして,原告組合からの脱退届用紙はあらかじめ大量に印刷され用意されていたものであり,全国的に同時期に税関労組が結成されたことは,税関当局の統一した指示があったことを仮定すると,容易にその関連を理解することができる。この関連は,① 同39年に,関税局考査管理官が,大阪税関及び東京税関において職制に対し組合対策について講話をしたこと,② 同40年に神戸及び横浜の税関労組により開催された協議会に,東京税関当局が刷新有志会のメンバーを官費で出席させたこと,③ 横浜税関統括審査官のメモの記載によれば,同47年6月以前において,同税関当局が全税関横浜支部組合員に対し脱退勧誘をするよう指示するなどしており,東京税関当局も同様の指示をしていたと推認することができること,④関税局課長補佐が,同44年に,「昭和38年5月から第2組合作りが始まった。」と述べていること,⑤ 東京税関当局の関与を否定するに足りる反証 当局も同様の指示をしていたと推認することができること,④関税局課長補佐が,同44年に,「昭和38年5月から第2組合作りが始まった。」と述べていること,⑤ 東京税関当局の関与を否定するに足りる反証がないことを考慮すると,一層現実味を帯びる。 以上によれば,税関当局が職制を中心とした分裂の動きを助長し,支援するなどして関与したことを推認することができる。 (3) 昭和45年から49年までの間における東京税関の役付(係長相当職以上)職員のうち部下を有するものの比率が,原告組合員以外の職員(以下「非原告組合員」という。)にあっては60ないし70%台であるのに対し,原告組合員にあっては0%であった。しかし,同47年から49年までの間についてみると,役付ポストの数は222ないし224であり,これに就いていた原告組合員は2ないし25人である一方,これに就いていた非原告組合員で部下を有しないものが58ないし74人いたから,東京税関当局が原告組合員には役付になっても部下を付けないという差別的配置をしていたということはできない。 (4) 東京税関当局は,本件係争期間中,① 原告組合員を非原告組合員から隔離するため,原告組合員7人を意図的に特別派出所勤務にし,② 昭和42年の入関式の当日,新入職員が原告組合に加入するのを制限する目的で,総務課職員に新入職員から原告組合が配布したビラを回収させ,新入職員の配置についても,原告組合の影響を受けないよう考慮し,③ 全税関の影響を弱める目的で,原告組合員が活動しているサークルに補助金を交付せず,原告組合員が多数参加していた音楽隊を嫌悪し,その解散を余儀なくさせ,同41年に制度が発足したレクリーダーに原告組合員を任命しないという差別を行った。 (5) 個人原告らのうち昭和40年以降に普通科研修(同45年以降は中等科研 音楽隊を嫌悪し,その解散を余儀なくさせ,同41年に制度が発足したレクリーダーに原告組合員を任命しないという差別を行った。 (5) 個人原告らのうち昭和40年以降に普通科研修(同45年以降は中等科研修)を受講したのは,同40年,同41年,同45年が各1人,同46年が2人,同47年が1人,同48年が11人,同49年,同50年が各5人であった。これらによれば,原告組合員が普通科研修から排除されたとはいえない。高等科研修は,特に優秀な職員を選定して行うものであり,原告組合員でこれを受けた者がいないというだけで,差別があったとはいえない。 (6) 昭和42年3月ないし同43年11月に開催された東京税関の幹部会議議事録等の写しとして提出された甲号証(以下「東京税関文書」という。)の記載によれば,東京税関当局が,全税関を嫌悪し税関労組を好ましい組合として育成する方針を採っていたこと,全税関の影響力を弱めるため,原告組合員の水泳大会への参加を制限し,原告組合員をレクリエーション活動から排除し孤立化させる政策を採る意思を有していたこと,新入職員の配置について全税関組合員から隔離する必要があるとの考えに基づく案を検討していたことなどが認められる。 また,昭和61年3月ないし4月に開催された全国税関総務部長会議又は同人事課長会議の関係資料の写しとして提出された甲号証(以下「関税局文書」という。)の記載によれば,関税局は,昭和60年度において,上席官昇任につき,全税関組合員には年齢55歳かつ在級6年という資格基準を設定し,全税関に所属しない職員(一般職員)には全税関組合員の50歳以上のほとんどが要件を満たす資格基準によって運用していたが,同61年度の人事方針を決定するに当たり,両者の間の上席官昇任の格差が拡大し,内外に対する合理的な説明が困難になったため 関組合員の50歳以上のほとんどが要件を満たす資格基準によって運用していたが,同61年度の人事方針を決定するに当たり,両者の間の上席官昇任の格差が拡大し,内外に対する合理的な説明が困難になったため,格差を縮小する方向で資格基準について討議したこと,7級昇格についても,全税関組合員については一般職員とは別の昇格基準を設ける必要があるとの方針の下に,その内容を討議したこと,昭和61年3月より相当以前から関税局内部に以上のような資格基準,人事方針があったことが認められる。 これらによれば,関税局及び東京税関当局は,全体的,一般的には,本件係争期間中,原告組合を嫌悪し,差別する意思を有していたものといわざるを得ない。 (7) 本件係争期間中,東京税関の課長,関税局の課長補佐等の職にあり,昭和49年に退官したGが平成10年に雑誌に発表した三つの記事には,全税関に対する労務管理等に関する記載があるが,その内容は,いずれも抽象的かつ概括的なもので,具体的事実の記載がほとんどないし,これを裏付けるに足りる何らかの資料等の摘示もなく,その信ぴょう性を確認することはできない。 (8) 原告組合員は,集団的,全体的にみて,本件係争期間中,昇任,昇格,特別昇給において,非原告組合員と比較して低位に処遇されており,本件係争期間最終の号俸で比較すると,おおむね非原告組合員の最も劣位に処遇された者と同程度又はそれ以下に処遇されたと認めることができる。したがって,両者を集団として対比する限り,本件係争期間において,格差があるといわざるを得ない。 しかしながら,国家公務員の昇任,昇格及び昇給は,職員各自の能力,適性,勤務実績等を総合的に勘案して,合目的的に決定すべきものであるから,任命権者たる東京税関長の裁量に任されているものであり,原告組合員が非原告組合員に比べて昇任 昇格及び昇給は,職員各自の能力,適性,勤務実績等を総合的に勘案して,合目的的に決定すべきものであるから,任命権者たる東京税関長の裁量に任されているものであり,原告組合員が非原告組合員に比べて昇任等において差別扱いを受けたというためには,勤務実績や能力等に差がないことが個別的,具体的に立証されなければならない。 個人原告らは,本件係争期間中,多岐にわたる非違行為を繰り返し行い,うち多くの者が矯正措置を受けた後も非違行為を継続したほか,長期間にわたる病気休暇を取得した者がおり,これらは処遇の決定において有利な取扱いを妨げる事情となる。そして,個人原告別にみると,同期同資格で入関した非原告組合員との間に給与の格差があると認められない者がいるほか,格差が認められる者についても,非原告組合員には同様の非違行為をした者がいないことに照らせば,東京税関長による処遇の決定に裁量権の濫用があるとはいえない。 また,前記(4)の東京税関当局の差別扱いのうち①は,特別派出所も勤務場所の一つであるから,個々の個人原告が損害賠償を求め得る理由とはならないし,②及び③は,特定の個人原告について損害が生じたとは認められないから,個人原告に対する不法行為を構成するとはいえない。 (9) 東京税関長は,本件係争期間中,原告組合を嫌悪し,差別する意思を有し,前記(2)のとおり原告組合分裂の動きを助長し,支援したほか,前記(4)の各差別を行った。これらは,原告組合に対する支配介入に当たり,不法行為を構成し,被告は国家賠償法1条1項に基づいて,原告組合が被った無形の損害を賠償すべき義務を負う。そして,諸般の事情を考慮すると,無形の損害の額は200万円,不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は50万円と認めるのが相当である。 3 以上の原審の認定判断に対する各上告受 き義務を負う。そして,諸般の事情を考慮すると,無形の損害の額は200万円,不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害額は50万円と認めるのが相当である。 3 以上の原審の認定判断に対する各上告受理申立て理由について検討する。 (1) 平成13年(受)第903号事件の上告受理申立て理由について論旨は,関税局文書や東京税関文書から本件係争期間中における当局の原告組合に対する一般的な嫌悪,差別意思を認定したことを論難するが,これらの資料に原判決が確定したその他の諸事実をも併せ考慮するならば,上記認定を是認することができる。また,論旨は,原審の2(2)及び(4)の認定判断につき,国家賠償法1条1項の解釈適用の誤り,経験則違反等をいうが,原審の専権に属する証拠の取捨選択,事実の認定を非難するか,又は,原判決を正解せず,独自の見解に立って原判決を論難するものであって,いずれも採用することができない。 (2) 平成13年(受)第902号事件の上告受理申立て理由について論旨は,原審の2(8)の認定判断につき判例違反をいい,同(3),(5),(7),(8)の認定判断及び(9)の損害額の算定につき法令違反をいうほか,同(2),(6)の認定判断にも不十分な点があるなどと主張するものである。しかしながら,所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係によれば,是認することができ,その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は,事案を異にし本件に適切でない。法令違反をいう点は,原審の専権に属する証拠の取捨選択,事実の認定を非難するか,若しくは原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものであり,又は,原判決を正解せず,独自の見解に立って,若しくは原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものであって,いずれも採用することができない。 第2 平成 る審理上の措置の不当をいうものであり,又は,原判決を正解せず,独自の見解に立って,若しくは原審の認定しない事実に基づき原判決を論難するものであって,いずれも採用することができない。 第2 平成13年(受)第903号上告代理人都築弘,同浜秀樹,同渡邉千恵子,同福永敏和,同西謙二,同大須賀滋,同新谷貴昭,同根本実,同白井ときわ,同上村直,同大西彰,同高橋幸喜,同豊岡俊彦,同弥陀久男,同宮岡正孝,同宮崎則昭,同松澤修,同鎮守洋一,同八木茂生の上告受理申立て理由第2について東京税関当局が原告組合分裂の動きを助長したことなどを原告組合が当時から知っていたと断定するに足りる事実は,原審により確定されていないから,消滅時効は成立しないとした原審の判断は,結論において正当なものとして,是認することができる。論旨は,原審の認定しない事実を交えて,上記判断を論難するものであって,採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官藤井正雄裁判官井嶋一友裁判官町田顯裁判官深澤武久
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