昭和30(オ)617 不当利得金返還請求

裁判年月日・裁判所
昭和36年3月14日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      本件上告を棄却する。      上告費用は上告人の負担とする。          理    由  上告代理人長野国助外五名の上告理由第一点ないし第六点について。  第一審判決添

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判決文本文7,709 文字)

主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人長野国助外五名の上告理由第一点ないし第六点について。 第一審判決添附目録記載の土地は、もと上告人の所有であつたが、昭和二二年中自作農創設特別措置法(以下自創法という)の規定により国に買収され、続いて被上告人らに売り渡され、被上告人らはそれぞれ右目録記載の如く土地の所有権を取得したものであること、そして被上告人Bを除くその余の被上告人らが所有するにいたつた土地上には、原判示桑樹が生立していることは、いずれも原審が確定したところであり、原審弁論の全趣旨によれば、右買収は、自創法三条により行なわれたものであることが明らかである。 土地の上に生立する樹木は、それが立木に関する法律の適用をうけるものである場合又は取引にあたつて特に土地から独立させいわゆる明認方法が講ぜられたものである場合を除き、地盤たる土地の構成部分として、一個の所有権の客体をなすのであり、地盤の所有権が移転するときは、地上の樹木もこれと一体をなすものとして、原則として地盤とともに移転するというのが一般私法上の原則である。ところで、農地の買収は、行政処分であつて私法上の取引とは異るけれども、買収処分の前提となるべき私法上の法律関係自体は、買収にあたつても、これを承認せざるをえない以上、明文ないし法の精神に反しない限りは、所有権の客体たる物件の収用を目的とする行政処分を規律する法の解釈としても、私法上の原則を適用することを妨げるものではないというべきである。 そこで、自創法三条の買収の場合は、前記原則に対する例外をなすものであるかどうかを考えなければならない。自創法及びその附属法令中には、自創法三条の買- 1 -収については、地上の樹木を土地と離し そこで、自創法三条の買収の場合は、前記原則に対する例外をなすものであるかどうかを考えなければならない。自創法及びその附属法令中には、自創法三条の買- 1 -収については、地上の樹木を土地と離して別個の買収の対象となしうる旨の昭和二二年法律二四一号による改正後の自創法一五条および同法三〇条のような規定はない。また、未墾地買収の場合に関し地上物件を収去させる同法三三条のような規定もないから、若し土地の買収によつては、地上に生立する樹木の所有権は移転しないとするならば、旧地主は、他人の土地上に樹木を所有することとなるのであつて、この結果を是認するためには、土地を占有する権限(たとえば法定地上権のごとき)がなんらかの形で法定されなければならないわけである。しかるに、自創法上にはもとよりこのような趣旨を窺いうべき規定はないのみならず、かかる状態を生ぜしめること自体が自作農創設の精神に反するといわなければならない。 以上のように見てくると、自創法三条の買収については、これを前記一般私法上の原則に対する例外の場合に属するものとは、とうてい認め難く、したがつて、自創法三条の規定により土地が買収されたときは、その地上に生立する樹木は、国において特に買収処分の対象から除外しないかぎり、原則として、土地と一体をなすものとして、土地とその運命を共にし、農地に対する買収処分の効果は、地上に生立する樹木に及ぶと解すべきである。そして、本件桑樹についてなんらかの公示方法が採られていることについては、上告人の主張しないところであり、又原審は、本件桑樹を除外して買収がなされたと認められる資料はないとしているのであるから、原審が本件土地の買収にあたつては、地上の桑樹もともに買収されたものとした判断は、正当であるといわなければならない。 つぎに、本件買収については、 れたと認められる資料はないとしているのであるから、原審が本件土地の買収にあたつては、地上の桑樹もともに買収されたものとした判断は、正当であるといわなければならない。 つぎに、本件買収については、土地の賃貸価格に法定の最高の倍率を乗じてえた最高価格の対価が支払われたことは、原審の確定したところである。そして、本件土地は、前記の如く、地上に生立する桑樹とともに、一体として買収処分の対象とされたものと認めるべきである以上、本件買収においては、土地の価格と桑樹の価格とを合算した結果が、あたかも土地の賃貸価格に法定の最高の倍率を乗じて得た- 2 -額になるものとして、対価が定められ、それが支払われたことに帰するのである。 ただ、桑樹の価格が何程に評価されたかは、ただちに算定することができないけれども、これがために、桑樹の対価が支払われなかつたことにはならない。 したがつて、本件の桑樹がかりに土地自体の価格とは別に、格別の考慮を必要とする程度の価格を有するものとすれば、本件買収において支払われた対価は、不当であつたこととなるけれども、この場合は、自創法一四条により増額の請求をすべきであつて、これがため、本件桑樹が買収の対象とはならなかつたと結論することはできないといわなければならない。 論旨は、憲法違反をいう点もあるが、自創法一四条の増額請求としてはともかく、桑樹の所有権がなお上告人に存することを前提とする本訴においては、いずれも、前提を欠く独自の見解であるか、または、原判決の趣旨を誤解するものというほかはなく、なお、論旨が第二点において引用する判例は本件に適切でない。 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官石坂修一、裁判官河村又介の少数意見があるほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 裁判官石坂修一の少数意見は 本件に適切でない。 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官石坂修一、裁判官河村又介の少数意見があるほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。 裁判官石坂修一の少数意見は、次の通りである。 当裁判所の判例(昭和二九年(オ)第五六五号、同三三年二月一三日第一小法廷判決、集一二巻二号二二七頁)は、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)一五条の規定により宅地を附帯買収する場合において、その宅地上に生立する樹木が、買収対価の算定上宅地自体の買収対価とは別に考慮を払ふことを必要とする程度の価額を有するものであるときは、右宅地の買収処分の効果は、右樹木に及ばないものと解するのが相当であるとなすべきであるとして居る。この判例は支持すべきものであり、これにしたがへば、同法により農地を買収する場合、その農地上に生立する樹木が右の如き程度の価値を有するものであるときは、右農地買収処分の効果は、右樹木に及ばないことゝなるものと言はねばならない。 - 3 -ところで原判決は、本件土地(畑)はもと上告人の所有であつたが、昭和二二年末既に自創法により国に買収せられ、国より被上告人等に売渡され、被上告人等は適法かつ有効に本件土地の所有権を取得して居つた事実、被上告人Bの所有地を除くその余の本件土地の周囲には、本件桑樹が点在して居り、これ等は概ね樹齢数十年に達する喬木仕立の大木であり、右B以外の被上告人等は、昭和二三年以来これ等の桑樹より桑葉を採集して居る事実を確定して居る。しかも原判決は、右買収並に売渡処分の効果が本件桑樹にも及び、右B以外の被上告人等において、それぞれその所有に帰した農地上に生立する桑樹の所有権を、農地の所有権に伴つて取得したものであると判断して居るのである。 しかしながら、若し本件桑樹が、右判例の示すが如く、買収 被上告人等において、それぞれその所有に帰した農地上に生立する桑樹の所有権を、農地の所有権に伴つて取得したものであると判断して居るのである。 しかしながら、若し本件桑樹が、右判例の示すが如く、買収対価の算定上、本件土地自体の買収対価とは別に考慮を払ふことを必要とする程度の価額を有するものであるにも拘らず、原審がその考慮を払つて居らないものとすれば、原判決はこれを維持すべからざるものとなり、右B以外の被上告人が本件桑樹の所有権を取得したとするには、なほ考究の余地あるものとならざるを得ない。しかも、自創法による農地買収は、一種の公用徴収であつて、所有権に対する重大なる制限であるから、同法は、殊に所有権に対する対価の要否に関してこれを厳格に解釈適用するのでなければ、憲法違反となる虞ある事態の生じないことを保障し得ないのみならず、原判決自体も亦、土地に生立する樹木が土地と共に一体をなすとしても、いやしくも当該樹木に価値があるならば、これに対する対価を払ふことなくしてその所有権を奪ふことは、憲法二九条に違反する旨説明して、居るのである。 おもふに問題の解決は、農地に生立する本件桑樹が、右判例に所謂、農地の買収対価とは別に考慮を払ふことを必要とする程度の価額を有するか否かにかかつて居ると、せねばならない。 原判決は、農地上の樹木はそれが生立するために却つて農地の効用を害する場合- 4 -のあることは、みやすい所であり、樹木があることによつて、それがない場合に比し必ず農地の価額が高くなるとすべき理由のないことを考へれば、自創法及びその附属政令は、農地の買収価額をかかる樹木の生立する状態において評価して定むべきものとして居ると解すべきであつて、これによつて農地の価額の中に樹木の価額は包含せられて居るものといふべきである旨説明し、かつ本件土地は、当 買収価額をかかる樹木の生立する状態において評価して定むべきものとして居ると解すべきであつて、これによつて農地の価額の中に樹木の価額は包含せられて居るものといふべきである旨説明し、かつ本件土地は、当時の公定価額の最高価額を以つて評価せられたとの事実をも認定して居る。これによれば、本件土地は農地として一律の単価にて買収処分を受けたものとの印象を受ける。 まことに、農地に樹木の生立する場合、農地の効用を害することのあり得るのは、見易い所であるけれども、さりとて常に然りとなすべき経験則はないであらう。樹種、樹相、樹高、樹木の配置、作物存在の季節における風向、農地の乾湿、農地の傾斜、樹木を耕作収獲等のため利用する方法、その地方における耕転方法その他の諸事情によつては、却つて農地の効用を増大する場合も亦少なしとしない。本件樹木は、本件土地の周囲に点在するものであること、原判決認定の通りとすれば、耕耘にはさしたる害のないことも考えらるべく、樹木の配置如何によつては、却つて冷風、耕土の乾燥過多、過熱、沃土の飛散、砂礫の飛来、土地の崩壤を防ぎ、或は作物乾燥のためこれを懸垂する用に供する等の途があつて、農地の効用を増大して居ることも看過し得ない道理である。要するに、その利弊は具体的の場合に応じて見定めらるべきことである。また本件桑樹生立のため農地の価額が低滅するとしても、桑樹そのものの価額が高いため、両者の価額の合算額が、桑樹の生立しない農地の価額より高いことも或は桑樹そのものの価額がその生立して居る農地自体の価額より高いこともあり得るであらう。以上の如く思考することこそ実験則に適合する証拠判断、事実認定となり得るものであり、本件桑樹にも、原判決自ら言ふ如く、「価値」を認めることが可能となるのである。本件土地中には、周囲に桑樹の点在する農地あり、然らざ ることこそ実験則に適合する証拠判断、事実認定となり得るものであり、本件桑樹にも、原判決自ら言ふ如く、「価値」を認めることが可能となるのである。本件土地中には、周囲に桑樹の点在する農地あり、然らざるものあり、また桑樹点在の農地間においても、樹数の一致- 5 -なく、生立箇所に相異があり、これ等の如何によつては、農地の効用に少なからず影響する所があるから、桑樹の「価値」の解明の如何によつて、農地の価額は自ら異つて来るのが当然である。原判決は、本件桑樹の「価値」を認むる如くであり、かつその対価は農地の価額中に包含せられて居るものと判示しながら、群馬県当局が農地の価額を均一の単価を以つて算定して居るのを是認して居る。かくの如く算定する以上は、特にその理由を明確にすべきにも拘らず、必ずしもこれを明確に示して居るとはいえない。 原判決の確定する所によつても、本件土地は、日光山系の裏山に当る高冷地帯の山村に在り、これに桑樹の生立することは、その下の一般作物を冷い気流の動揺より遮蔽する役割を果たすと共に、傾斜が急で砂礫の多い畑では桑樹の根が土地の崩壞を防ぐ効果を挙げ、かつ年々養蚕に必要な桑葉をも供給する利益をもたらすものとして居る。他方において原判決は、畑地に桑樹の生立することが、耕耘を困難にし、その畑や周囲の普通作物に対し気水や日光を遮り、病虫害を招きやすい等の損害を招くとのことを認定して居る。しかしながらこのことは、前記の如き諸事情をつぶさに観察し、具体的箇別的に考慮してはじめて到達せられる結論であつて、実験則上遽に原判決の如く認定し得るとは考えられない。 それは兎も角として、原判決は、農地自体と桑樹自体との価額をそれぞれ正確に算定する措置をとらないにも拘らず、漫然その認定する利害を較量した結果、恰も正確にその利害相殺する如く判示し、桑樹の ない。 それは兎も角として、原判決は、農地自体と桑樹自体との価額をそれぞれ正確に算定する措置をとらないにも拘らず、漫然その認定する利害を較量した結果、恰も正確にその利害相殺する如く判示し、桑樹の生立する農地も然らざる農地もその価額を同一単価により算定して居るのみならず、桑地の生立する農地間においても、樹数、その生立箇所に対して何等顧慮することなくして同様にその価額を算定して居る。その判断は余りにも法律的擬制に過ぎ、牽強附会の感を催さしめるのであつて、かかる判断が果して経験則に合致するか否か疑はざるを得ない。原判決が本件土地中、桑樹生立の農地然らざる農地、桑樹生立するもその様相異る農地の間にお- 6 -いて、価額の算定に異る所がないとするには、なほ他に合理的理由がなければ原判決を到底領解し得られない。 原判決はむしろ、本件桑樹の「価値」を認めながら、その価額の算定を捨て、一旦提起せられた違憲の問題を回避した憾がある。 加之、喬木仕立であり、樹齢を重ねた本件桑樹を、原判決挙示の証拠に照すときは、その幹、根に腐朽その他の特別な事由がない限り、建物、建具、家具、指物その他の用材、少なくとも薪炭用材としても無価値であるとは考えられないのであつて、本件桑樹はその生立する本件土地と離れて、それ自体の価額を持つものと認定すべき理由がある如くである。原判決はやや、枝葉を見るに捉はれて根幹を忘れたものとせられる虞がある。 かく述べて来ると、原判決は、それ自身いふ如くに、本件土地の価額中に、土地上に生立する本件桑樹の価額が包含せしめられて居るか否か、説明甚だ不明であるに帰着するのみならず、本件桑樹の価額は、前記判例に所謂、農地の買収価額とは別に考慮を払ふことを必要とする程度のものであるか否か、なほ確める必要あるべく、若しその程度の価額があるとすれば 不明であるに帰着するのみならず、本件桑樹の価額は、前記判例に所謂、農地の買収価額とは別に考慮を払ふことを必要とする程度のものであるか否か、なほ確める必要あるべく、若しその程度の価額があるとすれば、原判決の説明する如く、その価額をも農地の価額に加算しなければ、違憲となるべきものである。 更にまた、本件土地の存在する村落と遠く離れない他の村落において、国から農地の売渡を受けた小作人と旧地主との間で、農範に生立する桑樹について改めて対価を定めて授受し、或は農地を電力会社に売渡した際、その上に生立して、居つた桑樹の価額を別に算定し、これを農地の価額に加算した上農地の対価として支払はれたとの事実及び本件土地の買収処分当時、群馬県当局が農地上に樹木の生立する場合は、自創法施行令二五条に準じ、土地の価額と樹木の価額とを合算すべき旨指導したとの事実が、原判決において確定せられて居り、これ等の事実は、本件桑樹が、その生立する農地の買収価額と別に考慮を払ふことを必要とする程度の価額を- 7 -有するものであるとの事実を裏書する資料として省察すべきものである。これ等の事実は、原判決のいふ如く、自創法の関する所であるか否かは格別として、桑樹がその生立する農地の価額と離れてそれ自体の価額を持つことのあり得るとの現実の事実に対する証左となるのである。原判決の如く、一旦は桑樹がその生立する農地の効用を増大することを認定しながら、後に至り、首肯すべき理由もなくその効用を減却するものとして働くと判断することは、必ずしも経験則上、一貫する思考とはなし得ないのみならず、動かすべからざる現実の事実を無視したものであつて、経験則に名を籍り現に在る事実の価値を排斥することは許されないであらう。まして、原判決が一般的に、桑樹は自然に生立するものではなく、かつ自然に放置すれば べからざる現実の事実を無視したものであつて、経験則に名を籍り現に在る事実の価値を排斥することは許されないであらう。まして、原判決が一般的に、桑樹は自然に生立するものではなく、かつ自然に放置すれば雑草にまけてその生産力を失ふものと断ずるが如きことは、桑条を収穫するため桑苗を畑地に栽培することに着眼すれば、妥当でないとはなし得ないまでも、屡々喬木仕立の桑樹或は桑の大自然木が、雑草に勝つて生育し、桑葉供給の源となり、これによつて養蚕を営み、或はこれを売却して代金を収得する等、果樹に近似した価値を持つて居ることを見落した狭い知見から生れたものであつて、自然事実より遊離した謬見に近い。これに基いた原判決の事実認定は、全くとるに足らない。 畢竟、原判決は、本件桑樹に対し対価が支払はれないならば違憲であると判断しながら、本件桑樹の対価について考慮したか否か不明である。しかも原判決は、その対価は本件土地の買収価額に包含せられて居ると結論して居る。また本件桑樹に本件土地の買収処分の効果が及ぶか否かを決するためには、本件桑樹が本件土地の対価とは別に考慮を払ふことを必要とする程度の価額を有するか否かを確定しなければならないにも拘らず、原審はこの点に関し審理を尽して居るとは考えられないのである。その結果原判決に理由不備、理由齟齬の違法をまねいたものとせねばならない。 結局論旨は、理由があり、原判決は、破毀を免れないものと思料する。 - 8 -裁判官河村又介は、裁判官石坂修一の右少数意見に同調する。 最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官石坂修一裁判官島保裁判官河村又介裁判官 石坂修一裁判官島保裁判官河村又介裁判官垂水克己裁判官高橋潔- 9 -

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