令和4(わ)1158

裁判年月日・裁判所
令和6年10月16日 さいたま地方裁判所
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判決文本文2,899 文字)

主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中500日を刑に算入する。 さいたま地方検察庁で保管中の包丁1本(令和5年さいたま領第147号符号1)を没収する。 理由 第1 犯罪事実 1 被告人は、法定の除外事由がないのに、令和4年5月下旬頃から同年6月12日までの間に、群馬県内、埼玉県内又はその周辺において、覚醒剤を自己の身体に摂取し、もって覚醒剤を使用した。 2 被告人は、従前から内妻Aの浮気を疑っていたところ、令和4年6月12日午後4時50分頃、埼玉県本庄市(住所省略)歩道上において、同人及びその長女と歩行中、Aに対し、浮気をしているのか問い質したが否定されたことに激高し、A(当時43歳)に対し、殺意をもって、右側胸部等を包丁(刃体の長さ約17.5㎝。令和5年さいたま領第147号符号1)で複数回突き刺すなどし、よって、午後5時51分頃、埼玉県深谷市(住所省略)B病院において、Aを右側胸部の刺創による肺動脈等の損傷に起因した失血により死亡させて殺害した。 3 被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、同日午後4時50分頃、前記歩道上において、前記包丁1本を携帯した。 第2 証拠(省略)第3 覚醒剤使用の故意第1の1について、被告人が6月14日に任意提出した尿から覚醒剤が検出されたことから、被告人の意思に基づいて体内に覚醒剤が摂取されたと推認される。 被告人は、公判において、6月11日、内妻が浮気していると考え、仕事と家を紹介してもらうため外国人グループを探そうと家を出た際、伊勢崎市内の公園で知り合 ったフィリピン人グループと一緒に飲酒することになり、その際、フィリピン人からウィスキー ていると考え、仕事と家を紹介してもらうため外国人グループを探そうと家を出た際、伊勢崎市内の公園で知り合 ったフィリピン人グループと一緒に飲酒することになり、その際、フィリピン人からウィスキーに入れてもらい、酔い止めと思って飲んだ薬が覚醒剤だった可能性があり、これ以外に覚醒剤が体内に入った原因として思い当たることはない旨供述する。 しかし、検挙の危険や経済的損失を考えると、法で流通等が厳しく禁止されている覚醒剤を、他人が当日公園で知り合った被告人に合理的な理由なく譲り渡すとは考え難い。被告人は、捜査段階で、フィリピン人と飲酒した場所をドラッグストアの駐車場から公園であると供述を変遷させているし、その述べる公園の場所や飲酒後送ってもらって泊まったというホテルを案内することもできなかったことからすれば、被告人の供述を信用することはできない。 以上によれば、被告人の体内に覚醒剤が摂取されたのは、被告人の意思に基づくものと認められる。 第4 殺人の犯行時の精神状態の影響第1の2について、被告人は、公判において、犯行当日の朝から犯行に至るまで、被害者を攻撃しろなどという声が聞こえた旨供述する。被告人が、浮気を疑ったことから被害者に多数の傷を負わせる残虐な攻撃を加えたことには飛躍があるとも考え得るから、その精神状態については吟味する必要がある。 しかし、被告人は、周囲に他人がいない橋の上で、当時10歳の長女に被告人らから距離をとらせた上で、浮気の追及をしたというのであるし、事件後、直ちに包丁等を投棄した上で現場から逃走するなど、周囲の状況や自己の行為の意味を理解した行動をしている。加えて、起訴前鑑定をした精神科医は、公判において、声がするといった供述は逮捕当初からではなく、逮捕後日数が経過してからされ始めたこと、被告人に取調べで や自己の行為の意味を理解した行動をしている。加えて、起訴前鑑定をした精神科医は、公判において、声がするといった供述は逮捕当初からではなく、逮捕後日数が経過してからされ始めたこと、被告人に取調べで演技的な様子があったことを根拠として、犯行時に幻聴があったとの被告人の供述は虚偽である旨証言している。同医師は、その根拠について具体的な事情を供述できていないものの、被告人質問及び鑑定書によれば、被告人が勾留期間途中から幻聴を主張し始め、逮捕当初の供述と異なり、殊更に精神障害を誇張する訴えをしたのであり、同医師の意見の根拠となる事情はあったものと認められるから、同医 師の専門的判断に疑いをさしはさむべき事情はない。 以上によれば、被告人の幻聴があった旨の供述は到底信用することができず、本件当時幻聴はなかったものと認められ、量刑に当たって精神障害の影響を考慮すべきとは解されない。 第5 適用法令(省略)弁護人は、被告人は捜査機関に犯人が発覚する前に交番に出頭したのであるから、殺人について自首が成立すると主張する。しかし、信用性を疑うべき事情のないC警察官の証言等によれば、現場に臨場した同警察官が、午後5時1分頃から午後5時5分頃までの間に、長女から「パパが母親を刺した、パパの名前はDである」旨聴取したこと、被告人は、午後5時47分頃交番に出頭し、午後5時55分頃警察官に対し人を刺しましたなどと述べたことが認められるから、自首が成立しないことは明らかである。 第6 量刑の理由被告人は、従前から被害者の浮気を疑って追及するなどしていたところ、本件に際して外出するに当たって包丁を隠して持ち出し、現場付近で浮気の有無を追及した上、被害者にこれを否定されたことに激高し、殺傷能力の高い大きな包丁で被害者に攻撃を加え、倒れて無抵抗な被 ところ、本件に際して外出するに当たって包丁を隠して持ち出し、現場付近で浮気の有無を追及した上、被害者にこれを否定されたことに激高し、殺傷能力の高い大きな包丁で被害者に攻撃を加え、倒れて無抵抗な被害者のすぐ側に腰を落とした姿勢で少なくとも4回以上包丁を勢いよく振り下ろすなどし、被害者に背部、胸部、頸部、大腿部に深さ約4から15㎝に達する7つの刺創を含む多数の傷を負わせ、被害者を殺害したものである。 その動機は、要するに、浮気を否定した被害者に立腹したことであり、自己中心的というほかないし、幼い長女の面前であることも厭わず残虐極まりない攻撃を加えるなど、冷酷さも際立っており、酌むべき事情は認められない。被告人は、公判において謝罪や反省の弁を述べているが、精神症状について虚偽を述べるなどしており、被害者の苦痛や遺族らの心情に真摯に向き合っているとは言い難いのであって、10歳と8歳の子を残して43歳で死亡した被害者について、遺族が「めった刺しにされた」 と憤りや強い悲しみを示し、被告人に被害者と同等以上の苦しみを長く受けてもらいたい旨強い被害感情を示しているのも、当然である。 以上によれば、被告人の刑事責任は誠に重大であり、被告人が犯行の約1時間後に交番に出頭したこと等を考慮しても、主文の刑は免れない。 (求刑:懲役18年、包丁1本没収)令和6年10月16日さいたま地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官江見健一 裁判官林 寛子 裁判官松井智弘 裁判官松井智弘

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