主文 原判決を破棄する。 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 理由 一上告代理人五島良雄の上告理由二及び七について所論は、原判決には、成立が争われている文書の成立について判示しないで、これを事実の認定に用いた違法があるというのである。 記録によれば、被上告人が提出して書証の申出をした文書のうち所論の指摘するものの成立について、上告人は、不知と答弁し、あるいは原本の存在及びその成立とも不知と答弁している。そして、原判決がこれらの文書の成立について特段の判示をすることなくこれを事実の認定に用いていることは、所論の指摘するとおりである。 しかしながら、事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由の記載は、判決書の必要的記載事項(民訴法一九一条一項)ではないと解すべきであり、これを記載しない判決に理由不備の違法(同法三九五条一項六号)があるということはできない。けだし、これを記載しなくても、裁判所が証拠又は弁論の全趣旨によって当該文書が真正に成立したことを認定した上で(同法三二五条)、これを事実の認定に用いたものであることは明らかだからである。 したがって、所論の点について原判決に違法はなく、論旨は採用することができない(記録によれば、所論の指摘する各文書が真正に成立したものであることは、証人の証言等の証拠ないし弁論の全趣旨によつて優に認められるところである。)。 なお、判決書はまず第一には当事者のために作成されるものであるから、文書の成否自体が重要な争点となっている場合には、判決書の在り方としては、当該文書の成否に関する判断及びその理由を記載することが相当であるが、本件において- 1 -は、所論の指摘する各文書の成否自体が重要な争点となっていると なっている場合には、判決書の在り方としては、当該文書の成否に関する判断及びその理由を記載することが相当であるが、本件において- 1 -は、所論の指摘する各文書の成否自体が重要な争点となっているとは認められない。 二同一、四、一四、一七の1及び2並びに一八について所論は、原判決にはDが本件土地の占有の根拠をどのように認識していたかという点について被上告人の事実主張の摘示を誤った違法があり、そのために原審は事実の認定も誤ったというのである。 しかし、記録によれば、被上告人は、第一審の第一六回口頭弁論期日に陳述した平成六年一一月二九日付け準備書面によって、原判決の引用する第一審判決が被上告人の主張として摘示したとおり、Dは、本件土地をE名義で自己が売渡しを受けた土地の一部であると信じて本件土地の占有を継続した旨の主張をしたこと、原審の第一回口頭弁論期日において当事者双方が第一審の口頭弁論の結果を陳述し、その後も被上告人の右主張が撤回され、あるいは訂正されていないことが明らかである。 したがって、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。 三同一七の3について 1 本件訴訟のうち被上告人の第一次的請求は、第一審判決別紙物件目録二の1及び2記載の土地(以下「甲土地」という。)の一部である本件土地について、その登記名義人である上告人に対し、上告人からDへの昭和三二年八月五日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであり、被上告人は、Dが同日から二〇年の経過によって本件土地を時効取得したこと、その後被上告人がDから本件土地の贈与を受けたことなどを主張した。 原判決は、大要以下のように判示し、右時効取得の主張に理由があるものとして、被上告人の第一次的請求を認容した。 (1) D及びEは、Eが入植者の 本件土地の贈与を受けたことなどを主張した。 原判決は、大要以下のように判示し、右時効取得の主張に理由があるものとして、被上告人の第一次的請求を認容した。 (1) D及びEは、Eが入植者の地位を譲り受けた前記目録3及び4記載の土地(以下「乙土地」という。)の一部であると考えて本件土地の占有を開始した。 - 2 -(2) D及びEの本件土地に対する占有は、国有開拓地の入植者としてのもので他主占有であったが、乙土地について農地法六一条による売渡しがされたことによって自主占有に転換したものと解される。(3) 自主占有が開始するのは、原則として売渡しのされた日であり、これが不明の場合は遅くとも売渡しによる所有権移転登記がされた日である。(4) 乙土地の売渡しがされた日は、証拠上明らかでない。 (5) したがって、Eのために所有権保存登記(原判決に「所有権移転登記」とあるのは、誤記であることが明らかである。)がされた日である昭和三二年八月五日に自主占有に転換されたものと認められる。 2 しかしながら、右の理由で被上告人の第一次的請求を認容すべきものとした原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。 (一) 原審の確定したところによれば、甲土地と乙土地とは隣接する開拓地であり、いずれも昭和三二年八月五日に農地法六一条による政府売渡しを原因として、甲土地についてはF名義で、乙土地についてはE名義でそれぞれ所有権保存登記がされているが、甲土地についてFへの売渡しがされたのは同二九年三月三一日である。したがって、乙土地についてEへの売渡しがされた時期も、甲土地の売渡しがされた時期と著しくかけ離れたものではないと推認することができる。 (二) 原審は、昭和五二年八月五日の経過により、Dのために同三二年八月五日を起算点と への売渡しがされた時期も、甲土地の売渡しがされた時期と著しくかけ離れたものではないと推認することができる。 (二) 原審は、昭和五二年八月五日の経過により、Dのために同三二年八月五日を起算点とする取得時効が完成したものと判断したが、原審の確定したところによれば、甲土地について、同五二年四月二六日にFから上告人への贈与を原因とする所有権移転登記がされている。 (三) ところで、時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後に旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対して所有権の取得を対抗することができないことは、当審の判例とするところである(最高裁昭和三〇年(オ)第一五号同三三年八月二八日第一小法廷判決・民集一二巻一二号- 3 -一九三六頁参照)。そうすると、Dのために取得時効が完成したのが昭和五二年四月二六日より前であれば、すなわち前記自主占有への転換時期が同三二年四月二六日より前であれば、被上告人は、Dの時効取得をもって上告人に対抗することができないから、被上告人の第一次的請求は認容することができないということになる。 (四) 乙土地の売渡しがされた日が証拠上明らかでないとしても、右(一)によれば、前記自主占有への転換時期は、原審の認定判断とは異なるものである可能性が高いと考えられる。そして、記録によれば、前記甲土地の売渡しの時期は、県知事作成の売渡通知書謄本という公文書によって証明されるのであるから、乙土地の売渡しの時期についても、同様の公文書によって証明される可能性が高いということができる。 (五) 被上告人の第一次的請求の当否は、前記自主占有への転換時期いかんによって左右されるものであり、その時期が昭和三二年四月二六日より前であることを主張立証することによって利益を受けるのは上告人であ 五) 被上告人の第一次的請求の当否は、前記自主占有への転換時期いかんによって左右されるものであり、その時期が昭和三二年四月二六日より前であることを主張立証することによって利益を受けるのは上告人であるから、自らの訴訟活動が不十分であったことによって不利益を被ったとしても、それは専ら上告人の責めに帰すべきものであるともいうことができよう。 しかしながら、右に判示したところによれば、本件においては、上告人が右事実の主張立証を怠ったというにとどまらず、右事実が当事者の主張に照らすならば当然に審理判断されてしかるべき事柄であり、しかも、これをしなければ判決の結論が明らかに実体的真実に反するものとなる可能性が高かったのであるから、原審には、適切に釈明権を行使するなどして、この点について審理を尽くすべき義務があったといわなければならない。 3 したがって、原判決には審理不尽の違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。 四よって、その余の上告理由に対する判断を省略して本件を原審に差し戻すこ- 4 -ととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第二小法廷裁判長裁判官大西勝也裁判官根岸重治裁判官河合伸一裁判官福田博- 5 -
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