主文 1 債権者と債務者ら間の青森地方裁判所弘前支部平成13年(ヨ)第20号子の引渡仮処分命令申立事件について,同裁判所が平成13年9月28日にした仮処分決定を認可する。 2 申立費用は,債務者らの負担とする。 事実及び理由 第1 事案の概要本件は,債務者らが債権者の子であるG(旧姓B)を不法に手元に留めて,債権者の親権(身上監護権)を侵害しているとして,親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として発令された子の引渡仮処分命令に対し,保全異議の申立てがされた事案である。 第2 当事者間に争いのない事実 1 G(平成9年6月7日生)は,債権者と亡Hとの間の長女である。 債務者らは,亡Hの父母である。 2 債権者と亡Hは,平成8年7月1日,婚姻の届出をし,平成9年6月7日に,Gが生まれたが,平成13年3月19日,協議離婚の届出をした。離婚にあたり,Gの親権者は,母である債権者と定められた。 3 亡Hは,その後,債権者を相手方として,Gの親権者変更の家事調停の申立てをし,さらに,債権者及びIを相手方として,慰謝料の支払いを求める家事調停の申立てをした。後者の申立ては,債権者が,亡Hとの協議離婚前から,Iと不貞関係にあったというのを理由にしたものであった。 亡Hは,慰謝料請求調停申立事件の第1回期日の直前である平成13年8月16日,交通事故により,死亡した。 4 債務者Dは,同月17日午後,債権者に電話をかけ,亡Hの葬儀を理由に,Gを連れて行くことを告げて,Gの通っていた保育園に赴き,Gを債務者ら宅へ連れて行った。 Gは,現在に至るまで,債務者らのもとで,生活している。 第3 主要な争点 1 被保全権利(債権者がGの親権者として適切か否か) 2 保全の必要性第4 当事者の主張 1 債権者の主張(1)被保全権利債権者は,明確な承諾がないまま もとで,生活している。 第3 主要な争点 1 被保全権利(債権者がGの親権者として適切か否か) 2 保全の必要性第4 当事者の主張 1 債権者の主張(1)被保全権利債権者は,明確な承諾がないままに,債務者らに,Gを連れて行かれた。 債務者が,このことを知った後,債務者らに電話をかけたところ,債務者Dは,亡Hの葬儀が終わるまでGを預かると答えた。債権者は,Gにとって,実の父親である亡Hの葬儀なので,参列させないわけにはいかないと考え,債務者らに対し,やむを得ず,亡Hの葬儀が終わるまでお願いします,と答えた。 その後,不安を感じた債権者が,債務者らに対し,Gの引渡しを求めて,電話をかけても,速達の手紙や内容証明郵便を送付しても,債務者らが,Gを引き渡すことはなかった。 以上から,債務者らは,少なくとも亡Hの葬儀が終了した平成13年8月22日以降は,親権者としてGを監護する権利を有している債権者の意思に反して,Gを拘束している。 (2)保全の必要性Gは,債権者との生活関係から切り離され,母である債権者にも会えず,保育園にも通えないという生活環境に置かれている。このような状態の継続がGの福祉に重大な悪影響を与えるのは,明白であり,一刻も早く,債権者の監護のもとで,従前の生活環境に復帰させる必要がある。 2 債務者の主張(1) 被保全権利債権者は,亡Hとの婚姻中から,他の男性と不貞関係を重ねて,婚姻関係を破綻させておきながら,価値観の違いを口実に,亡Hを欺き,協議離婚した。Gが,債権者と一緒に同居していたIも,同様に,妻がありながら,債権者と不貞関係にあった。このような経過を考えれば,債権者のもとで養育されることは,Gの養育環境としては,極めて不適切であり,Gの人格形成にとって,有害である。 現在に至るまで,Gは,一度も債権者のもとへ帰りたいと あった。このような経過を考えれば,債権者のもとで養育されることは,Gの養育環境としては,極めて不適切であり,Gの人格形成にとって,有害である。 現在に至るまで,Gは,一度も債権者のもとへ帰りたいとも言わず,そのような態度も見られない。かえって,Gは,債務者らに連れて行かれた直後には,「今の家には,変なパパがいる。」,「おじいちゃんおばあちゃんの所へ帰りたかった。パパの所へ帰りたかった。」,「ママは大嫌い。ママも死んじゃえばいいのに。」などの言動が見られ,その後,債務者らのもとでの毎日の生活において,Gの情緒は,落ち着いてきている。 以上から,債務者らが,Gを養育している状態は,違法な拘束とまでは言えない。 また,債権者がGの親権者として不適切であることから,債務者らは,親権喪失宣告の審判申立てをしたうえ,Gの未成年後見人となって,養育を継続していく意向である。 (2)保全の必要性債務者らのもとでの現在の環境の継続が,Gの福祉に重大な悪影響を与えるとも言い難く,また,債務者Dの申立てによる親権喪失宣告申立事件について,家庭裁判所による調査・審理が行われていないのであるから,保全の必要性を認めることができない。 第3 当裁判所の判断 1 疎明資料及び審尋の結果によれば,以下の事実が一応認められる。 (1)債権者は,昭和47年12月28日生まれであり,亡Hは,昭和46年11月4日生まれである。 債務者Cは,昭和17年4月14日生まれ,債務者Dは,昭和22年4月18日生まれである。 (2)債権者と亡Hは,平成13年2月下旬ころまでに,協議離婚し,債権者が親権者となってGを引き取ることで合意し,同年3月3日,同居していた債務者らに,合意の内容を伝えたが,債権者は,同日,追い出される形で,Gを連れて,家(債務者ら宅)を出ていった。同月18日,協議離婚 権者となってGを引き取ることで合意し,同年3月3日,同居していた債務者らに,合意の内容を伝えたが,債権者は,同日,追い出される形で,Gを連れて,家(債務者ら宅)を出ていった。同月18日,協議離婚の届出がされた。 (3)債権者は,離婚後に住むアパートを準備していたが,急きょ,家を出され,行き場がなくなったため,Iのもとに,身を寄せることになった。 Iは,債権者が看護婦としてパート勤務していた病院に勤務していた医師であり,債権者は,平成12年秋ころから,Iに,離婚について相談に乗ってもらっていた。 Gは,債務者ら宅を出て行った後も,以前と同じ保育園に通い続けた。 (4)債務者Dは,平成13年8月17日午後,債権者に電話をかけ,亡Hの葬儀を理由に,Gを連れて行くことを一方的に告げ,債権者が返事をする前に,電話を切った。その直後,債務者Dは,保育園に行き,債権者の許可を得ていると言って,Gを債務者ら宅へ連れて行った。 債権者は,同日夜,債務者Dと電話で話し,亡Hの葬儀が終わるまで,Gを預けておくことにした。 しかし,債務者らは,その後の債権者からの電話に対しては,まともに取り合わそうとせず,Gを引き渡す話題については,はぐらかすだけであった。 不安を感じた債権者は,同月21日,債務者らに対し,速達の手紙で,亡Hの葬儀が終了した後である同月22日午後8時までに,債権者の実家に,Gを連れて来るように申し入れ,この申入れが実現されなかった場合には,裁判所へ申立てを行う旨を通知した。 Gの引渡しを受けられなかった債権者は,本件代理人弁護士に依頼して,債務者らに対し,Gの引渡請求,法的措置の可能性を内容とする内容証明郵便を送付したが,債務者らは,まったく連絡をしてこなかった。 Gは,債務者らに連れて行かれた以降,保育園に通っていない。 (5)青森地方裁判所弘前 ,Gの引渡請求,法的措置の可能性を内容とする内容証明郵便を送付したが,債務者らは,まったく連絡をしてこなかった。 Gは,債務者らに連れて行かれた以降,保育園に通っていない。 (5)青森地方裁判所弘前支部は,同年9月28日,基本事件について,債権者の申立てを相当と認め,担保を立てさせないで,債務者らは,債権者に対し,Gを仮に引き渡せという仮処分決定をした。 (6)青森家庭裁判所弘前支部は,同年11月28日,債務者Dが申し立てた債権者を相手方とする親権喪失申立事件の審判において,債権者に著しい不行跡あるとは認められないとして,申立てを却下した(平成13年(家)第742号)。 (7)Iは,同年7月3日,前妻との協議離婚の届出をし,Iと債権者は,同年12月4日,婚姻の届出をし,同日,GとIとの間で,養子縁組の届出がされた。Iは,Gを積極的に養育していく姿勢を示している。 (8)債務者らは,Gを連れて行ってから,母である債権者に,Gを一切会わせようとせず,債権者は,本件審尋期日(平成13年12月13日実施)まで,Gと会うことができなかった。 2 以上の認定事実から,争点について,判断していく。 債権者には,親権者として,Gを監護する権利があり,Gの親権を喪失させなくてはならないような事情は,認められない。他方,Gを現に手元に置き続けている債務者らは,祖父母とはいえ,法的には,まったくの第三者と言うほかなく,Gを監護する権利を有していない。 そして,Gを監護していくことについて,Gに対する監護意欲・従来の監護状況,その生活状況・居住環境の点において,債権者に,問題となるような事情は認められず,Gがまだ4歳の女の子であること,債権者がIと婚姻し,IとGとが養子縁組したことなども併せ考えれば,母である債権者にGの監護を委ねることが適切と言うべきである。 仮に となるような事情は認められず,Gがまだ4歳の女の子であること,債権者がIと婚姻し,IとGとが養子縁組したことなども併せ考えれば,母である債権者にGの監護を委ねることが適切と言うべきである。 仮に,亡Hとの婚姻中に,債権者の不貞行為があったとしても,そのことをもって,当然には,債権者にGの監護を委ねるのが不適当ということにはならず,具体的にも,Gの成長にとって不利益な影響を与えたと認めることもできない。 また,債務者ら主張のようなGの発言,態度についても,債権者に対する債務者らの態度にGが影響を受けていることや,現に一緒にいる祖父母である債務者らへの「気遣い」が働いていることも否定できず,Gは,まだ4歳であり,債権者と一緒に債務者ら宅を出て行った状況を十分に把握し,理解できる能力を備えているはずもないのであるから,仮に,債務者ら主張のようなGの発言や態度が認められたとしても,そのことを過大に評価してはならない。 さらに,債務者らが,当初から,債権者のもとに,Gを戻さないのを前提に,亡Hの葬儀を口実に,Gを連れて行ったとの疑いも残り,かつ,審尋の結果から,Gに係る事件について,裁判所のいかなる判断が出されても,自己に不都合な判断には,まったく従うつもりがないという強固な姿勢を持ち続けていること,債務者らが,本件審尋の際に,Gの面前で,平気で母である債権者を責める発言を繰り返したことが認められる。このような態度を取る債務者らのもとに,Gが置かれ,監護されることは,まだ幼い子であるGの健全な成長にとっては,むしろ好ましくないと言うべきである。 以上から,少なくとも亡Hの葬儀が終了した後,引渡しを求める債権者の意向を無視して,債務者らが,Gを手元に置いていることは,何らの権限にもよらない違法なものであり,債権者は,債務者らに対し,Gに対する親権( ,少なくとも亡Hの葬儀が終了した後,引渡しを求める債権者の意向を無視して,債務者らが,Gを手元に置いていることは,何らの権限にもよらない違法なものであり,債権者は,債務者らに対し,Gに対する親権(身上監護権)に基づく妨害排除請求権として,子の引渡しを請求することができる。 そして,債務者らがGを連れて行ってから約半年が経過し,その間,債務者らにより,債権者とGの面会が拒絶され続けたことを考えると,債権者には,監護養育に不可欠なGとの愛情の交流が回復困難となる切迫した危険が生じているというべきであるから,保全の必要性を認めることができる。そして,この保全の必要性は,債権者にGの監護をさせるため,従前の生活環境に復帰させるべく,一刻も早い債権者に対する引渡しを認めなければならない程度にまで達している。 第4 結論以上のとおり,債権者について,被保全権利も保全の必要性も認められ,本件仮処分決定は,正当と言うことができるため,これを認可することとし,主文のとおり決定する。 なお,本件において,子の引渡仮処分決定の内容をどのように実現するか,その執行方法について,付言する。 裁判所により,子の引渡命令を内容とする判断が示されたが,任意による引渡しが行われない場合,原則は,間接強制によるものと言うべきであるが,前記認定事実のとおり,本件においては,債務者らが,この決定が確定した後も,それを確信的に無視し続け,債権者に,Gを引き渡さないことが十分に予想されるところ,それにも関わらず,強制執行が許されないとなると,裁判所の判断,ひいては,法に従わないことを明言している者が,不当に利益を得るというまったくもって許されない事態が生じかねない。他方の面からは,違法な自力救済を防止しなくてはならないという要請も働く。 そうすると,本件については,保全の必要性 言している者が,不当に利益を得るというまったくもって許されない事態が生じかねない。他方の面からは,違法な自力救済を防止しなくてはならないという要請も働く。 そうすると,本件については,保全の必要性の観点からも,速やかな解決を可能にすべきであるから,間接強制を経るまでもなく,Gを手元に置いて,引き渡さない債務者らから,執行官がGを直接取り上げて,債権者へ引き渡す方法である直接強制を認めるべき事案と言える。 もっとも,その執行方法は,Gの身体の安全や情緒に与える影響をできるだけ少なくしなければならないことは言うまでもない。 青森地方裁判所弘前支部裁判官山城司
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