平成12(ワ)2747 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年6月2日 千葉地方裁判所
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判決文本文12,350 文字)

平成15年6月2日判決言渡平成12年(ワ)第2747号損害賠償請求事件判決 主文 1 被告は,原告に対し,金200万円及びこれに対する平成9年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金2000万円及びこれに対する平成9年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,殺人被告事件で起訴された原告が,千葉県警察の警察官ら(以下「警察官ら」ということがある。)によって,逮捕・勾留されることなくなされた任意取調べが違法であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,精神的苦痛に対する慰謝料を請求した事案である。 1 争いのない事実等(1) 原告は,フィリピン国籍を有する外国人であり,平成3年にAと婚姻し,平成5年に長女Bを出産し,平成9年ころは,千葉県松戸市a所在のA方において,Aらと同居していた。 その後,原告は,平成9年3月ころ,Cと知り合い,次第に親しくなったことから,同年9月下旬ころ,Bを連れて上記A方を出て,同市bc丁目に所在するC方で同人と同棲を始めた。 (2) 原告は,同年11月10日午前8時30分ころ,当時,Bが入院していたC方近くのD病院に駆け込み,Cが同人宅のベッド上で血を流して倒れている旨を病院職員らに連絡し,同職員らとともにC方に赴いた。 (3) その後,連絡を受けた警察官らは,同日午前9時10分ころ,C宅に到着し 院に駆け込み,Cが同人宅のベッド上で血を流して倒れている旨を病院職員らに連絡し,同職員らとともにC方に赴いた。 (3) その後,連絡を受けた警察官らは,同日午前9時10分ころ,C宅に到着し,捜査を開始した。 (4) 警察官らは,直ちに現場近くの捜査用乗用自動車内において,第一発見者である原告から事情聴取を行ったところ,さらに詳細な事情聴取が必要であると判断し,原告に対し,松戸警察署への任意同行を求めた。 (5) 原告は,その後,前同日午前10時10分ころから,通常逮捕された同月19日午後9時32分ころまでの間,任意同行・動静確認・事情聴取状況表記載のとおり,警察官らによって,松戸警察署へ同行され,事情聴取を受けた上,宿泊場所も提供された。 (6) 原告は,同月21日勾留され,勾留延長を経て同年12月10日Cに対する殺人罪で当庁に起訴され,平成11年9月8日,有罪判決を受け,同判決を不服として控訴したが,東京高等裁判所は,平成14年9月4日,原判決を破棄した上,刑事訴訟法400条ただし書に基づき,有罪判決をした。 2 争点原告に対する逮捕前の事情聴取ないし取調べが,任意捜査の限界を超えた違法なものであったか否か及び相当慰謝料額。 3 争点に関する当事者の主張(原告)(1) 原告は,警察官らにより,任意同行・動静確認・事情聴取状況表記載のとおり,逮捕状・勾留状の発布なく,被疑者として取調べの客体とされた。 その際,原告は,取調べに応じざるを得ない身柄拘束状態におかれていたものであり,①原告に対する取調べが平成9年11月10日から同月19日までの間の9泊10日の連日に及んでいること,②原告が進んで宿泊先の提供や身辺保護を求めたことはなく,その必要性もなかったこと,・Bは警察官の手によって,まず児童相 9年11月10日から同月19日までの間の9泊10日の連日に及んでいること,②原告が進んで宿泊先の提供や身辺保護を求めたことはなく,その必要性もなかったこと,・Bは警察官の手によって,まず児童相談所に預けられた上,別居中のAの実母(熊本県在住)方に転居させられたこと,④原告が宿泊した場所は警察官らの指示によるものであり,宿泊場所には警察官が配置され常時原告を監視していたこと,⑤宿泊料金,食事代の一切を警察官らが負担していること,⑥松戸警察署と宿泊場所との移動は,警察署の車で,警察官らの手によって行われたこと,⑦同月11日には,原告を容疑者とする前提でポリグラフ検査が実施されており,同月17日まで原告に対する黙秘権・弁護人選任権の告知もなかったこと,⑧フィリピン大使館との連絡も自由にされず,当初は通訳も付けられないままに,自白を強要されたことなどの諸事情に照らすと,本件における取調べが原告の自由意思に反して行われたことは明らかである。 (2)ア被告は,取調べの必要性を強調するが,本件刑事事件は,経済事犯,贈収賄事犯,会社関係事犯と異なり,単純な被害者1名の殺人事件であり,背後事情も,社会的思想関係が疑われたものではない。警察官らが,本件における取調べを通常の逮捕勾留期間にも匹敵する時間継続したのは,原告から希望していた内容での自白供述を得られなかったためにすぎない。 イ被告は,原告に自殺の危険性があったと主張するが,原告は,自殺をほのめかしたことはない。 また,被告は,自殺防止のための対策を全くしていない。 ウ被告は,原告が精神的に不安定な状態であったため,保護の必要性があると主張するが,そのような原告に対しては,カウンセラー等の庇護の下に置くべきなのに,かえって,連日連夜取調べを強行し,心 ウ被告は,原告が精神的に不安定な状態であったため,保護の必要性があると主張するが,そのような原告に対しては,カウンセラー等の庇護の下に置くべきなのに,かえって,連日連夜取調べを強行し,心身ともに疲労困憊させている。しかも,10日間も宿泊先を斡旋し,監視下に置くということは,私的生活への不当な介入である。原告には,松戸近辺にも多くのフィリピン人の友人(E等)もおり,領事館等の保護も求め得たのである。 エ被告は,取調べ,そのための送迎,宿泊先の選定その他について原告の同意があったと主張するが,原告は,取調べ,そのための送迎,宿泊先の選定その他を積極的に希望し,あるいは同意したことはない。本件では,形式的な同意書等すらも作成されていない。 オ被告は,宿泊先などにおいて,行動の自由があったと主張するが,原告は,宿泊先においても,常時,警察官数名の監視下にあったものである。例えば,原告は,コンビニエンスストアでの買い物も,警察官の監視下で僅かな買い物をしただけであり,下着を始めとして,衣類を取りに行くことも許されていなかったし,取調べのため,テレビを鑑賞できる時間的なゆとりなどはなかった。 また,原告には,一人で施錠した室内に閉じこもる自由や,電話を使える自由が全くなかった。 (3) 以上のように,本件における取調べは,違法・不当な行為であって,原告は,これにより精神的に甚大な傷害を負い,その苦痛に対する慰謝料は,2000万円を下らない。 (被告)(1) 原告に対する事情聴取・取調べは,すべて原告の自由な意思による同意を得て行われており,以下の事情もあわせれば,それが違法・不当と評価されるものではない。 (2)ア事情聴取の必要性本件刑事事件は,殺人という重大な事件であったところ,原告は による同意を得て行われており,以下の事情もあわせれば,それが違法・不当と評価されるものではない。 (2)ア事情聴取の必要性本件刑事事件は,殺人という重大な事件であったところ,原告は,被害者の第一発見者であり,また,原告とCは同棲していた関係にあったことや,Aが犯人である旨を暗にほのめかすなどしていたことから,重要な参考人として,詳細な事情聴取の必要性があった。また,そのためには,長期間かつ長時間の事情聴取が必要となることが予想されたし,実際にも,事情聴取の内容が徐々に複雑になったことから,通訳を介することとなり,相当の日数の取調べを必要とした。 イ保護の必要性(ア)原告は,事情聴取の当初から,Cを愛している,Cのもとに行きたいなどと述べ,Cが死亡していることを告げられてからも,今すぐにでもCさんの所へ行きたいと述べていたものであり,原告には自殺の可能性が認められた。 (イ)原告は,宿泊先において,私はCさんが好きだった,CさんはAが殺したなどと一方的にしゃべり通したり,また,夜一人になると非常に寂しい,電気を消すな,などと述べ,さらに,泣き続けたりして,安定した精神状態ではなかった。 ウ宿泊場所提供の必要性(ア)原告は,Aが暴力的で,Cと同棲することになったのは,この暴力が原因ともなっているとも述べており,Aが犯人ではないかと暗に供述していたので,Aの家で宿泊する可能性はなかった。 (イ)Cが死亡した場所である同棲場所は,現場の現状維持,保存のための措置がとられている状況にあり,また,Cには妻がおり,その同意は得られないであろうし,さらに,死亡現場で宿泊すること自体考えにくいため,宿泊先とはなり得な 場所は,現場の現状維持,保存のための措置がとられている状況にあり,また,Cには妻がおり,その同意は得られないであろうし,さらに,死亡現場で宿泊すること自体考えにくいため,宿泊先とはなり得なかった。また,そのような原告の希望もなかった。 (ウ)原告の所持金は,1500円余りと少なく,原告は,日本国内に頼れる親族がおらず,宿泊を頼める友人宅もなく,宿泊先がないと述べていた。 (エ)したがって,原告は,行き場所がない状況にあったのであり,その宿泊場所は警察官らが用意するほかはなかった。 エ原告の意思ないし同意(ア)原告は,任意同行及び事情聴取・取調べを拒否したことはない。 (イ)原告は,同月10日,11日,自らD病院での宿泊を希望し,両日とも同病院に宿泊している。 (ウ)原告は,同月12日以降,警察職員宿舎及びビジネスホテルに宿泊したが,前記のとおり,原告がいずれも行き場所のない状況にあったため,警察官らが宿泊場所を提案し,原告がこれに同意したものである。例えば,同月18日,警察官らは,原告に対し,希望する宿泊場所があれば,そこに宿泊するのが一番良いという趣旨で,宿泊場所の有無を原告に問い,宿泊場所がないということを確認した上で,ホテルで良いかどうか確認して同意を得ている。 他方,原告が別の宿泊場所に行きたい旨の申し出をしたり,警察官らが原告を説得するために有形力を行使したり,脅迫的言動をしたことなどは一度もない。 (エ)したがって,原告は,全く任意に松戸警察署への同行,事情聴取・取調べ及び宿泊に応じていたというべきである。 オ原告に対する監視状況警察官らは,宿泊先にて,原告の自由を制限しない態 )したがって,原告は,全く任意に松戸警察署への同行,事情聴取・取調べ及び宿泊に応じていたというべきである。 オ原告に対する監視状況警察官らは,宿泊先にて,原告の自由を制限しない態様で,その動静を確認したのであり,これは,原告に自殺の可能性が認められたため,その生命を保護するために行ったものである。 なお,原告が行動の自由を制限されていなかったことは,原告は,①病院においては,自由に娘と添い寝をしたり,室外のトイレに行ったりしていること,②松戸署からホテルに帰る際に,コンビニエンスストアで買い物をしたいという希望どおり,自由に買い物をしていること,③ホテルの部屋で自由にテレビを見たり,また,自分の財布からお金を出して,自由にロビーの自動販売機から生活用品を購入していること,④原告の部屋の鍵は警察官らが預かることなく,自由に出入りができたこと,⑤外部との通信が自由にできたことなどの諸事実に照らして明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 前記争いのない事実等,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する供述及び供述記載は各証拠に照らして採用することができない。 (1) 本件の捜査経過ア平成9年11月当時,原告は,Aと別居し,千葉県松戸市bc丁目e番地所在のGビルf号室において,Cと同棲していた。Cには妻がいたが,妻は当時,Cとは別居していた。 イ同月10日午前8時30分ころ,原告は,ベッド上で血を流しているCを発見し,Bが入院していたD病院に行きCの救護を求めたため,病院関係者らが原告の案内でC方に赴き,119番通報したことから,殺人事件が発覚し,同日午前9時過ぎころから捜査が開始された。 警察官らは,現場の室内 いたD病院に行きCの救護を求めたため,病院関係者らが原告の案内でC方に赴き,119番通報したことから,殺人事件が発覚し,同日午前9時過ぎころから捜査が開始された。 警察官らは,現場の室内の状況や死体損傷状況等から,犯人は被害者と何らかの関係を有する周辺者の可能性が高いと判断し,H巡査部長は,第一発見者である原告に対し,捜査用自動車内で事情聴取したい旨を話したところ,原告はこれに応じてGビル前に駐車中の警察の車両に乗車した。 H部長は,同日午前9時50分ころ,原告から,重要参考人として,更に詳しく事情を聴取するため,原告に対し,松戸警察署で詳しい話を聞かせて欲しいと述べた上,警察官3名が同乗して,原告を松戸警察署に任意同行した。 F及びI警察官は,同日午後11時5分まで,松戸署において,原告からCとの生活状況や発見時の状況などの事情を聴取した。 警察官らは,事情聴取終了後,原告に宿泊先を尋ねたところ,原告はBのいる病院に泊まる旨答えたので,原告を同病院まで送った。警察官らは,原告が泣いて動揺している様子がみられ,Cさんを愛していた,もう生きていけないなどの発言があったことから,自殺するおそれもあると考えて,男性警察官2名が,D病院の原告とBがいる病室入口付近で,原告の動静を監視した。 ウ警察官らは,翌11日,原告を松戸署に同行し,午前10時15分から午後10時50分までの間,原告から事件当日の原告の行動などの事情聴取を行った。その際,原告に対するポリグラフ検査も行われた。警察官ら2名は,事情聴取終了後,原告をD病院に送り,原告はBの病室に宿泊し,男性警察官2名が原告の動静を監視した。 エ同月12日,13日,警察官らは,原告に対し,Aの女性関係及び生活状況などの事情聴取を行った後,F警察官が,泊ま 院に送り,原告はBの病室に宿泊し,男性警察官2名が原告の動静を監視した。 エ同月12日,13日,警察官らは,原告に対し,Aの女性関係及び生活状況などの事情聴取を行った後,F警察官が,泊まるところは警察で用意してよいか尋ねたところ,原告は,はいと返事をしたため,原告には,警察職員宿舎の一室が宿泊場所として提供された。松戸署の女性警察官2名は,隣室において原告の動静を監視した。なお,同月12日,Bは,D病院を退院することになったので,警察官らは,原告に対し,Bを児童相談所に預けることの同意を求め,原告はこれに応じた。 オ同月14日,原告は,同月10日以降シャワーを浴びてなかったことから,シャワーを浴びたいと言ったところ,松戸警察署でシャワーを浴びることができた。 同日以降,同月17日を除いて,警察官らは,原告の事情聴取を通訳人を介して行うようになった。同月14日は,主にAの生活状況について,同月15日から17日は,同月9日,10日の原告とCの行動について詳細に事情聴取を行った。宿泊場所については,警察官Fが,原告に対し,泊まるところは警察で用意する,昨日泊まった場所に泊まるなどと説明し,ビジネスホテルの一室を提供した。この間,松戸署の女性警察官2名がホテルのロビーで原告の動静を監視していた。 カ同月17日夕刻,原告の着衣にCと同じ型の血液の飛沫痕が付着しているという内容の鑑定結果が報告され,また,Cが殺害された前日である同月9日,原告とCが言い争いをしていたという証言があったこと,原告がしたAの行動についての説明が病院関係者の供述と一致していないことが判明し,その結果,警察官らは,原告のそれまでの供述に矛盾があり,原告に対する嫌疑が濃厚となったと判断したため,同月18日,原告を の行動についての説明が病院関係者の供述と一致していないことが判明し,その結果,警察官らは,原告のそれまでの供述に矛盾があり,原告に対する嫌疑が濃厚となったと判断したため,同月18日,原告を参考人から,被疑者に切り替えて取調べ,直接の取調べは,J警察官が担当することとなった。 同月18日の宿泊については,J警察官が,原告に対し,昨日の所でいいか確認したところ,いいと答えた。 キ原告は,同月19日,Cの殺害を認める旨の上申書を自筆した。 ク原告は,同日午後9時32分,通常逮捕され,同月20日,検察官に送致され,同月21日,勾留され,同年12月10日,殺人罪で起訴された。 ケ同年11月10日以降,Aに対しても,在宅で連日事情聴取が行われた。 (2) 宿所の提供状況と原告の同意ア警察官らは,同年11月10日の任意同行以降,松戸警察署において10日間,原告に対する事情聴取ないし取調べを継続したが,夜間は原告をC方等に帰宅させず,当初は,D病院のBの入院していた病室に2泊,Bが退院した後は,警察において用意した警察官宿舎の空室に2泊,その後は,警察において手配した松戸市内のビジネスホテルに5泊,それぞれ宿泊させた。原告の所持金は,1000円ないし2000円程度しかなく,ビジネスホテルの宿泊費用は警察が支出した。 イ警察官らは,原告から宿所の斡旋を要望する書面や宿所の提供を希望する書面を徴求してはいない。また,原告は,家に帰りたい,友人であるEの家に行きたい旨の希望を述べたこともあったが,かなわなかった。 (3) 監視状況D病院では,病室出入口付近に男性警察官2名を配置し,警察官宿舎では,原告が寝ていた部屋の隣室の仕切り戸を外した続きの部屋等に,婦人警察官2名を配置して同室させ,ビジネスホテルで ) 監視状況D病院では,病室出入口付近に男性警察官2名を配置し,警察官宿舎では,原告が寝ていた部屋の隣室の仕切り戸を外した続きの部屋等に,婦人警察官2名を配置して同室させ,ビジネスホテルでは,原告の就寝前は,婦人警察官が同室して,就寝中は,エレベーターホールに通じる通路に婦人警察官2名を配置して,常時,原告の動静を監視し続けた。 宿泊先と松戸警察所との移動は,警察官が付き添い,警察の車両で往復した。 本件捜査の総括責任者であったK警察官は,上記の監視状況について,原告が泣いたり,Cのもとへ行きたいなどと話して動揺しており,自殺のおそれがあったので,動静を確認していたものと説明している。 (4) 取調べ状況原告が宿泊場所を出発した時刻は,早くて午前8時,遅くて午前9時20分で,午前8時台が7回,午前9時台が3回あり,宿泊場所に帰着した時刻は,早くて午後9時20分,遅くて午後11時40分で,午後9時台が2回,午後10時台が2回,午後11時台が5回(逮捕された日を除く。)あった。原告には,昼食時,夕食時に,それぞれ1時間程度の休憩が与えられたが,その時間を除いてはほぼ連続して事情聴取ないし取調ベがなされ,1日当たりの時間は,7時間55分から11時間43分間に及び,7時間台が1日,8時間台が2日,9時間台が1日,10時間台が3日,11時間台が1日(逮捕された日を除く。)あった。また,食事は,警察が警察署において用意し,その費用は警察が支出した。 K警察官は,原告に対する事情聴取ないし取調べが長時間に及んだ理由について,午後10時までには終了するように指導はしたものの,複数の関係者間の事情を聴取していたため,その時間を超えたものと説明している。 2(1) 上記認定事実によれば,平成9年11月10日,原告を松戸警察 後10時までには終了するように指導はしたものの,複数の関係者間の事情を聴取していたため,その時間を超えたものと説明している。 2(1) 上記認定事実によれば,平成9年11月10日,原告を松戸警察署に任意同行して以降の原告に対する捜査は,刑事訴訟法197条1項に基づく任意捜査としてなされたものと認められるところ,任意捜査の一環としての事情聴取及び取調べは,事案の性質,対象者に対する容疑の程度,対象者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年2月29日判決参照)。 (2) 原告に対する当初の任意同行及び事情聴取,並びに,その後2泊の病院での宿泊については,原告が,被害者の第一発見者であり,現場の室内の状況や死体損傷状況等から,犯人は被害者と何らかの関係を有する周辺者の可能性が高いと判断されたことなどの事案の性質,殺人事件であるという事案の重大性にもかんがみると,真相解明のために,原告から直接詳細に事情を聴取する緊急性,必要性が存したことは明らかであり,聴取事項は,原告とC及びAとの関係,被害に遭う前のCの行動,発見時の状況など多岐にわたることから,原告を任意同行した翌日以降も引き続き事情聴取をする必要性があったものと認めることができる。ところで,原告が当時居住していたのは,C宅であって,現場の保全等の観点からは,原告を犯行場所である住居に帰すのは適当でなく,他方,夫であるA方については,原告とは別居中であること,原告はAを本件の犯人であるかのように示唆する発言をしていたこと,Aも重要参考人として事情聴取を受けていたことから,A方に帰すのも相当とはいえなかったこと,原告は,ホテル は別居中であること,原告はAを本件の犯人であるかのように示唆する発言をしていたこと,Aも重要参考人として事情聴取を受けていたことから,A方に帰すのも相当とはいえなかったこと,原告は,ホテル等に宿泊するだけの金銭を持っていなかったこと,病院での宿泊について,原告の自由な意思により同意していたと認められることといった諸事情を総合すると,原告に対する当初の任意同行,事情聴取及び病院で宿泊させたことは,やむを得ない措置であり,さらに,原告の事情聴取においては,原告が泣き出すなど動揺しており,捜査官が自殺の危険性を認めたのも相当な根拠があったことから,原告を警察官の監視下においたことも,また,相当性を欠くところがあったとは認められず,違法ということはできない。 なお,原告は,D病院での宿泊も同意したことはないと主張し,証拠中には,その旨の供述記載部分もあるが,当時,D病院には,原告の娘のBが入院していたのであり,母親が娘と一緒の病室に泊まるというのは,あながち不自然な事態ではないこと,原告は,捜査に協力する気があったと供述していること,及びK,Fの各供述に照らすと,原告が当初の時点でD病院で宿泊することを全く同意していなかったとみるのは相当でなく,原告の前記供述記載部分は採用することができない。 (3) しかし,その後,原告を7夜にわたり警察が用意した場所に宿泊させ,前後8日間にわたって事情聴取を続行し,うち2日間は被疑者としての取調べを行った点については,上記認定事実によれば,原告が宿泊場所の提供を積極的に要請したものではないのに,警察が宿泊場所を準備,提供し,松戸警察署との往復には,警察の車両を使用し警察官が同乗して送迎を行い,警察官が,8日間にわたって就寝中を含め終日原告の動静を監視し,午前中 たものではないのに,警察が宿泊場所を準備,提供し,松戸警察署との往復には,警察の車両を使用し警察官が同乗して送迎を行い,警察官が,8日間にわたって就寝中を含め終日原告の動静を監視し,午前中から深夜に至るまでの長時間,連日にわたって本件について事情聴取及び取調べを連続して,原告に対して自由な時間を与えず,しかも,この間の宿泊費用は警察において支出し,食事も警察が用意していることが認められるのである。これらの諸事情にかんがみると,原告は,その自由な行動を制限をされ,警察官の意向に沿うように,宿泊を伴う連日にわたる長時間の取調べに応じざるを得ない心理的状況に置かれていたものとみるのが相当であって,事情聴取ないし取調べのなされた期間及び時間が相当長期間に及んでいるといった客観的事情,及び当初容疑者ではなかった原告に対して,任意捜査における事情聴取ないし取調べにおいて,本件のように長期間かつ長時間にわたって自由を制約して,事情聴取する必要性について疑問の余地があることをもあわせ考慮すると,原告が警察の用意した宿泊場所で宿泊することに表面的には同意し,ビジネスホテルへ帰る途中にコンビニエンスストアで買い物をする程度の自由はあったことなどの事情を考慮しても,任意捜査の方法としては,社会通念上不当なものであって,任意捜査の許容限度を超える違法なものであったといわざるを得ない。 (4) この点に関連し,被告は,宿泊場所提供の必要性として,原告の自殺の危険性を主張するが,原告が当時,実際に自殺を試みた事実は存しないし,また,自殺を試みようとしていることを窺わせる証拠はないなど,自殺の現実的な危険性が認められる状況にはなかったこと,原告の嫌疑の程度は,同月17日夕刻まではそれほど高くなかったことを考慮 し,また,自殺を試みようとしていることを窺わせる証拠はないなど,自殺の現実的な危険性が認められる状況にはなかったこと,原告の嫌疑の程度は,同月17日夕刻まではそれほど高くなかったことを考慮すると,被告主張の事情は,参考人にすぎない原告を,本件のように,連日,長期間,行動の自由を制約する態様で任意捜査を継続することを正当化する根拠たり得ないものというべきである。 (5) また,被告は,原告には,被告が提供した施設以外に宿泊場所が存在せず,また,現に原告の同意を得ていたと主張する。 確かに,原告が取調べを拒否し,また,取調べ室又は宿泊施設から退去しようとしたこと,警察官らが,原告の退去,帰宅を制止して取調べを強行したという事実までは認められないし,K警察官は,「原告の方から帰りたいと言ってきたことは一切ありません。」,原告から友人等に連絡してほしい旨の希望はない,「原告は友達のところに行って泊まるというような話もなく・・・仕方なく泊まってもらった。」などと供述し,F警察官も,原告から,他の場所に泊まりたいというようなことを言われたことは一切ない旨供述し,J警察官も,「18日の調べの際,原告に泊まるところがあるかと聞いたら,ないと答えた。」旨供述している。 しかし,原告は,当初,着替えもできず,3日間入浴できない状況にあったところ,本件当時,原告には,E及びLというフィリピン人の友人がおり,離婚や子どもの問題で従前から原告の相談に乗ってもらっていたことから,原告が,同人ら方に宿泊することも十分可能であったものと認められることからすると,警察官らが原告に対して,宿泊できる友人宅があるかを尋ねれば,原告は,EやLの名前を出したと考えるのが自然である。また,原告は,Cの家に帰りたいと警察官に申し出たが断られ, れることからすると,警察官らが原告に対して,宿泊できる友人宅があるかを尋ねれば,原告は,EやLの名前を出したと考えるのが自然である。また,原告は,Cの家に帰りたいと警察官に申し出たが断られ,Aの家に帰りたいと警察官に申し出ても断られた,友人のEのところに泊まりたいと言い出したら,それも断られたなどと供述しているのであって,これらに照らすと,前記警察官らの供述部分は,そのまま採用することができず,少なくとも,原告は,帰宅したい旨の希望も述べていたことが認められるというべきであり,結局,原告が自らの意思によって,警察の監視下での宿泊を容認して,応じていたものとまで認めることはできない。 3 以上によれば,原告に対する,平成9年11月12日から同月19日までの事情聴取及び取調べは,任意捜査として許容される限度を明らかに超えた違法なものであって,この捜査行為は,公権力の行使にあたる公務員が職務中に,少なくとも過失によってした違法行為であるから,被告には,国家賠償法1条1項に基づき,原告の被った下記損害を賠償すべき義務がある。 4 そして,原告は,「連続の取り調べを受けていたので,もうとっても疲れていた状態でした。・・・警察の厳しい取り調べから抜けられるためには上申書を書くしかないと私は当時思いました。」などと供述しており,違法な捜査行為によって,原告は,事実上の身柄拘束に近い状態に置かれ,そのため多大な肉体的,精神的苦痛を被ったものと認められる。その他,本件違法行為が7泊の宿泊を伴った連続8日間の身柄拘束であり,その違法は重大であること,原告の被ったであろう苦痛も相当大きいものであったと推察されること,その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,原告の肉体的,精神的苦痛を慰謝するには,200万円をもっ 法は重大であること,原告の被ったであろう苦痛も相当大きいものであったと推察されること,その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると,原告の肉体的,精神的苦痛を慰謝するには,200万円をもって相当とするというべきである。 5 よって,原告の本訴請求は,被告に対し,金200万円及びこれに対する違法行為の後である平成9年11月20日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき,同法259条1項をそれぞれ適用し,その免脱宣言については,これを宣言することは相当でないから同条3項により宣言しないこととして,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第2部裁判長裁判官小磯武男裁判官見米正裁判官多田裕一

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