- 1 -主 文1 原判決を取り消す。 2 豊田労働基準監督署長が控訴人に対し平成24年10月30日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要(以下,略語は,特記しない限り,原判決の例による。)1 本件は,トヨタ自動車株式会社(本件会社)に勤務していたA(本件労働者)の妻である控訴人が,本件労働者が平成▲年▲月▲日頃に自殺したのは(本件自殺),本件会社における過密・過重な業務,上司からの継続的なパワーハラスメント(パワハラ)によって本件労働者がうつ病を発病した結果であり業務に起因すると主張して,豊田労働基準監督署長(処分行政庁)に対して労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,処分行政庁から,平成24年10月30日付けで,本件自殺は業務に起因するものとは認められないとして,遺族補償給付及び葬祭料をいずれも支給しない旨の処分(本件各処分)を受けたため,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求めた事案である。 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却し,これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。 2 前提事実次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 - 2 -⑴ 原判決6頁23行目から24行目にかけての「別紙2「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)」を「後記改正前の原判決別紙2の「心理的負荷による精神障害の認定基準」 -⑴ 原判決6頁23行目から24行目にかけての「別紙2「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)」を「後記改正前の原判決別紙2の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」ともいう。)」に改める。 ⑵ 原判決6頁25行目の末尾の次に改行の上,次のとおり加える。 「⑻ 法律によるパワハラ防止対策の法制化令和元年6月5日法律第24号により改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)は,同法4条1項14号(現・15号)で「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること」を国の施策として明記し,パワハラ防止対策の法制化を図り,同法30条の2は,パワハラの定義について,「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,その雇用する労働者の就業環境が害されること」と明記するとともに,事業主に対し,パワハラ防止のため,相談体制の整備等の雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けるなどした(甲C33)。 ⑼ 認定基準(業務による心理的負荷評価表)の改正上記法改正により令和2年6月1日からパワハラ防止対策が法制化されること等を踏まえて,厚生労働省は,令和元年12月17日から5回にわたり,精神医学,法律学及び公衆衛生学の専門家による「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を開催し,原判決別紙2の「心理的負荷による精神障害の認定基準」の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しについて検討し,令和2年5月に取りまとめられた「精神障害の労災認定の基準に関する専- 3 -門検討会報告書」(甲C34)の内容を踏まえ, 定基準」の別表1「業務による心理的負荷評価表」の見直しについて検討し,令和2年5月に取りまとめられた「精神障害の労災認定の基準に関する専- 3 -門検討会報告書」(甲C34)の内容を踏まえ,令和2年5月29日付け厚生労働省労働基準局長基発0529第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」により,認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」を本判決別紙のとおり改正し,同年6月1日以降は改正後の認定基準が適用されることとされた(甲C35,41。以下,上記改正後の認定基準を「改正認定基準」と,改正認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」を「改正心理的負荷評価表」ということがあり,一般的に,また,改正前の,さらには改正のない部分については,単に「認定基準」,「心理的負荷評価表」ということもある。)。 パワハラ(パワーハラスメント)は,改正前の心理的負荷評価表においては用語としては用いられておらず,「29 出来事の類型暴行を受けた」」の中の具体例として記載され,主としてこれにより評価する運用がされており,平成22年度から平成23年度にかけて開催された精神障害の認定基準に関する専門検討会においては,パワハラを用語として明記するかどうかは,将来的な検討課題となっていた。 改正心理的負荷評価表においては,パワハラは,「29 出来事の類型」で新設された司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」で評価されることになり,心理的負荷の強度を「中」と判断する具体例として,「上司等による次のような精神的攻撃が行われ,行為が反復・継続していない場合で,①人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃,②必要以上に長時間にわたる叱責,他の労働者の面前にお- 行われ,行為が反復・継続していない場合で,①人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃,②必要以上に長時間にわたる叱責,他の労働者の面前にお- 4 -ける威圧的な叱責など,態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」が挙げられ,また,上記強度を「強」と判断する具体例として,「上司等による精神的攻撃が執拗に行われた場合で,上記①について業務の目的を大きく逸脱したもの,②について大声での威圧的叱責がされたもの」が挙げられ,さらに「心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃,精神的攻撃等を受けた場合であって,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった場合」が挙げられた。 ⑽ 認定基準の改正による運用上の留意点厚生労働省労働基準局補償課長は,平成(原文ママ)2年5月29日付けで「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正に係る運用上の留意点について」(以下「運用上の留意点」という。甲C42)を発出しているところ,同留意点には,以下の記載がある。 ア 今般の改正は,職場におけるパワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ,心理的負荷評価表の具体的出来事の明確化等を図るものであり,パワーハラスメントに係る出来事を新たに評価対象とするものではない。 (第1検討の経緯及び改正の趣旨)イ パワーハラスメントに関する具体的出来事については,過去の支給決定事例として,上司等から,暴行等の身体的攻撃や,人格否定等の精神的な攻撃によるパワーハラスメントを受けたものが多くみられたこと等から,名称を「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とするとともに,平均的な心理的負荷の強度を「Ⅲ」としたものである。 ワーハラスメントを受けたものが多くみられたこと等から,名称を「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とするとともに,平均的な心理的負荷の強度を「Ⅲ」としたものである。(第3運用上の留意点,1具体的出来事等におけるパワーハラスメントについて)- 5 -ウ 労災補償においては,業務による出来事について,別表1のいずれの「具体的出来事」で評価することが適当かという観点から「具体的出来事」への当てはめを行い,評価を適切に行うことが重要であり,「パワーハラスメント」に該当するか否かを厳格に認定することが目的でないことに留意すること。なお,「職場におけるパワーハラスメント」に該当しないことが明らかであって,上司と部下の間で,仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や,その態様等も含めて業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責などが認められる場合は,「上司とのトラブルがあった」の具体的出来事に当てはめて評価すること。(第3運用上の留意点,2「具体的出来事」の見直しに伴う適切な評価について)エ パワーハラスメントについては,認定基準に基づき,繰り返される出来事を一体のものとして評価し,また,その「継続する状況」は,心理的負荷が強まるものとして評価する。あわせて,パワーハラスメントが発病の6か月よりも前に開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続しているときは,開始時からの行為を評価すること。(第3運用上の留意点,3繰り返されるパワーハラスメントの取扱い)」3 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件自殺の業務起因性の有無であり,特に,業務による心理的負荷の程度が争われている。 当事者の主張は,原判決15頁1 ラスメントの取扱い)」3 争点及び当事者の主張本件の争点は,本件自殺の業務起因性の有無であり,特に,業務による心理的負荷の程度が争われている。 当事者の主張は,原判決15頁13行目の「少なくとも」から14行目の「B室長から」までを「Cグループ長から少なくとも1週間に2回程度,B室長から少なくとも2週間に1回程度,」に改め,項を改めて「控訴人の補充主張」及び「被控訴人の反論」を加えるほか,原判決「事- 6 -実及び理由」第2の2の「(原告の主張)」及び「(被告の主張)」に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 控訴人の補充主張 認定基準とその改正について認定基準は因果関係の範囲を厳しく絞りすぎており,認定基準に該当しないことをもって業務起因性が否定されるべきではないが,本件では,認定基準を参考に判断しても,業務起因性は優に肯定される。 認定基準を参考に判断する場合,令和2年5月29日付け改正後(同年6月1日施行)の改正認定基準(改正心理的負荷評価表)及び同改正に至った経緯等を参考として判断すべきである。本件労働者が受けたCグループ長,B室長からの叱責は,改正認定基準のパワハラに該当し,その心理的負荷の程度は「強」である。本件労働者に対するパワハラは,本件労働者がうつ病を発症する6か月よりも前に開始されており,本件労働者の死亡まで継続していたのであるから,パワハラ開始時からの全ての行為を評価の対象とすべきであり,パワハラが継続している状況自体からも,心理的負荷が強まるものと評価すべきである。 本件労働者は,パワハラを受けながら,通常業務である新型プリウス関連業務及びD関連業務並びにこれらと併行して特命業務である2020年ビジョン関連業務を,残業禁止という本件会社としては特殊な制約のある労 労働者は,パワハラを受けながら,通常業務である新型プリウス関連業務及びD関連業務並びにこれらと併行して特命業務である2020年ビジョン関連業務を,残業禁止という本件会社としては特殊な制約のある労働密度が非常に高い状況下で遂行していたものであり,本件労働者が心理的負荷を受けていた個々の各事情は,それぞれが関連して重層的に発生し,それによって心理的負荷が亢進されたのであるから,本件労働者の受けた業務による心理的負荷の程度については,パワハラの開始時からの全ての出来事を個別具体的かつ総合的に評価すべきである。 - 7 -業務による心理的負荷の強度についてア 平成21年9月までの業務の困難性本件労働者は,平成20年4月頃から平成21年9月下旬まで新型プリウス関連業務に従事した。平成20年9月に勃発したリーマンショックによる消費の落ち込みにより赤字に転落して厳しい状況になった本件会社にとって,人気の高いプリウスの新型車の重要性は非常に高まり,本件労働者の責任は極めて重いものになった。本件労働者が主に担当した新型プリウスのCVJの自動組付ラインの立上げ(O工場のSPGi-3の組付ラインの大部分の自動化)は,それまでにない新しい取り組みであり,多くのトラブルが発生し,結局,コスト,可動率,サイクルタイムという重要な目標が全て未達成のままの状態で平成21年4月の量産開始を迎える事態となり,この間,本件労働者は,直属の上司からはパワハラを受け,支援を得られず,ラインを担当するO工場側からプレッシャーをかけられ続けた。そして,同業務は延長され,本件労働者は,同年5月に可動率目標95%を達成して終了する予定であったが,依然として自動組付ラインの不具合が続出する状況が続いたため,O工場側から強力なプレッシャーを受け,同年6月以降も同年9 ,本件労働者は,同年5月に可動率目標95%を達成して終了する予定であったが,依然として自動組付ラインの不具合が続出する状況が続いたため,O工場側から強力なプレッシャーを受け,同年6月以降も同年9月まで同業務を延長せざるを得ない状況に追い込まれた。この間も,本件労働者は,直属の上司からパワハラを受け,支援は得られなかった。 また,平成21年5月から,本件労働者は,通常業務を行いながら,特命業務である2020年ビジョン関連業務に取り組んだ。この業務は,部として重視して取り組んでいた,CVJの生産ラインの将来ビジョンを考えて,そのために必要な技術開発等も計画するという,現実に実現することを前提としたものであり,本件労働者は,CVJラインチームの取りまとめ役という名目で,上記業務を- 8 -実質一人で担当した。部長も出席する会議が何度も開催され,その前後に直属の上司も参加する会議が開かれ,本件労働者は,それぞれの会議への報告を行うとともに,他の労働者の意見も聞き,情報を収集しながら,「2020年ビジョン」の作成を行っていった。同年4月初めの時点では,本件労働者が担当していた新型プリウス関連業務は同年5月には概ね終了する予定となっており,2020年ビジョン関連業務は,平成21年5月から同年8月までの時期に本件労働者が専任する業務として位置付けられ,他の通常業務と兼務することは想定されていなかった。ところが,新型プリウス関連業務が延長されることになり,本件労働者は,イレギュラーに,新型プリウス関連業務と併行して2020年ビジョン関連業務を行うことになってしまい,通常の業務を行いながら,しかも,残業全面禁止の中で,平成21年9月までこの業務を行っていた。 イ D関連業務の心理的負荷本件労働者が担当したD関連業務(0 ことになってしまい,通常の業務を行いながら,しかも,残業全面禁止の中で,平成21年9月までこの業務を行っていた。 イ D関連業務の心理的負荷本件労働者が担当したD関連業務(055A切替,023A切替,560L単品現調化)は,当初の段階では期限が切迫しており,急いで取り組まなければならないものであった。しかし,本件労働者は,中国の業務は初めてであり,D等の中国側の技術力も分からず,D第3ラインの状況も分からず,本件会社で重視・強調されている現地で現物を確認するという原則によることができない状況の下,上司からは,資金をかけないこと,現地主体での改造,SVレス(日本の機械メーカーの技術者を派遣せずに現地のスタッフだけでラインの改造を行うこと)を指示され,Dの現地担当者と意見が対立して進まなくなり,直属の上司からの支援はなく,むしろ継続したパワハラを受けていた。 ウ うつ病の発症と増悪- 9 -本件労働者は,パワハラを受けながらも,平成21年9月に,苦労して取り組んできた新型プリウス関連業務をやり遂げ,2020年ビジョン関連業務もいったん区切りがついてほっとしたところで,全く新しい未経験の海外業務であるD関連業務を命じられ,直ちに取り組み始めると,上記のような困難に直面した。 本件労働者は,長期にわたり困難な新型プリウス関連業務を担当し,残業禁止という特殊な状況のもとで特命業務としての2020年ビジョンを担当するという過重な持続的負荷の後,ようやく荷おろしの成立した,うつ病に罹患しやすい状況下において,未経験の海外業務であるD関連業務を命じられて困難に直面したことが,本件労働者にとっては強いストレスになり,うつ病を発症させたものである。 本件労働者は,平成21年10月又は同年11月頃から て,未経験の海外業務であるD関連業務を命じられて困難に直面したことが,本件労働者にとっては強いストレスになり,うつ病を発症させたものである。 本件労働者は,平成21年10月又は同年11月頃から,2020年ビジョン関連業務である「技術の棚」,「ロードマップ」の作成も行っているが,依然として残業禁止は継続していた。 本件労働者は,うつ病を患いながら,D第5ライン不具合対応業務,期限が1か月延長された560L現調化業務,ほぼ期限に間に合った023A関連業務(023A切替),期限には間に合わなかった055A関連業務(055A切替)等を行った。 055A関連業務は,期限に間に合わない状態で推移しており,その後,新型カムリの発表予定時期が遅くなったことにより期限の点では余裕が生じたが,平成21年12月以降も,Dからの自動段替え要求への対応,SVレスの問題等,本件労働者が苦悩していた課題は解決されないまま推移し,上司からの支援は得られず,パワハラが継続した状態であった。このような状況が,本件労働者のうつ病の増悪につながった。 - 10 -本件労働者は,長期間にわたる持続的な過重な負荷の荷をおろした直後に,それに引き続く困難な業務を担当したことにより,うつ病を発症し,その症状が増悪し,本件自殺に至ったものである。 エ 本件労働者が受けていたパワハラの心理的負荷について上記の新型プリウス関連業務,D関連業務,2020年ビジョン関連業務といった,それぞれ,それだけでも少なくとも「中」と評価されるべき複数の出来事が存在している状況で,本件労働者は,本来一番頼りになるはずの直属の上司であるCグループ長及びB室長からは,支援を受けられなかったどころか,パワハラを受けていた。Cグループ長及びB室長は,約1年間にわたり,約340人もの 労働者は,本来一番頼りになるはずの直属の上司であるCグループ長及びB室長からは,支援を受けられなかったどころか,パワハラを受けていた。Cグループ長及びB室長は,約1年間にわたり,約340人もの従業員の席があるワンフロアの静かな執務フロア内において,多数の従業員の面前で,本件労働者を大声で叱責することを日常的に繰り返し,本件労働者をさらし者のような状態にして辱めた。その態様は,社会通念に照らして許容される範囲を超えており,両名の一連の言動は,社会一般の労働者が,就業する上で看過できない程度の支障が生じるパワハラに該当する。 Cグループ長による叱責の頻度は少なくとも1週間に2回程度にも及び,B室長からの叱責も少なくとも2週間に1回程度の頻度で行われており,本件労働者の担当業務が変更になった後も上記のような頻度で継続して繰り返し行われ,その期間も約1年間にも及んでいるから,その叱責は執拗であったというほかなく,それだけをとっても,その心理的負荷の程度は「強」である上,その間に生じている上記各出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に判断すれば,本件労働者の業務による心理的負荷は,全体として,優に「強」と判断されるべきものである。 5 被控訴人の反論- 11 - 認定基準とその改正について改正認定基準における具体的出来事等へのパワハラの追加は,令和2年6月からのパワハラ防止対策の法制化等を踏まえ,改正前の認定基準における「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」に該当するものとして評価の対象としてきた従前の労災認定の考え方を踏襲することを前提として,パワハラに係る労災認定のあり方を認定基準上も明記することにより,基準の具体化,明確化を図ったものであり,これにより,パワハラに関する出来事に関し,認定基準への当てはめがしやすくな とを前提として,パワハラに係る労災認定のあり方を認定基準上も明記することにより,基準の具体化,明確化を図ったものであり,これにより,パワハラに関する出来事に関し,認定基準への当てはめがしやすくなるなどして,請求が容易になったり,審査が迅速化されたりすることも期待されるが,今回の改正自体は,従前労災認定の対象とされなかった事案を新たに労災認定の対象としたり,具体的出来事に係る心理的負荷の評価を従前より重いものとして評価することを内容としたりするものではないし,改正認定基準は令和2年6月1日以降に適用されるものであって,本件に直接適用されるものでないことは明らかである。 仮に,改正認定基準の適用があるものとして判断したとしても,後原審証人Jの証言によっても,本件労働者は,上司から週に1回程度,大きな声で指導を受けていたに止まるものであり,改正心理的負荷評価表29の「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等を受けた」にある「上司等から暴行等の身体的攻撃を受けた」とか,「上司等から人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃」や「必要以上に長時間にわたる激しい叱責,他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など,態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃を受けた」等とは認められず,せいぜい「上司とのトラブルがあった」の「弱」に相当する「上司から,業務指導の範囲内- 12 -である指導,叱責を受けた」,あるいはその「中」に相当する「上司から,業務指導の範囲内である強い指導,叱責を受けた」にとどまり,パワハラには該当しない。 業務による心理的負荷の強度についてア 新型プリウス関連業務について本件労働者が担当した新型プリウス関連業務のうちO工場のSPGi 導,叱責を受けた」にとどまり,パワハラには該当しない。 業務による心理的負荷の強度についてア 新型プリウス関連業務について本件労働者が担当した新型プリウス関連業務のうちO工場のSPGi-3の自動組付装置の立上げは,予定どおり平成21年4月初旬にラインオフして量産が開始されており(乙82の2・5頁),一部,不具合改善作業が残っていたが,控訴人主張の「作業の遅れ」,「各種不具合等」は,自動化という新たな試みに当たって発生したという以上に格別大きな損害を生じさせたものではなく,半年後には収束しており,その間,特段の問題が生じた痕跡はない(乙71・2頁及び4頁,乙82の2),本件労働者の時間外労働時間も,ごくわずかにとどまっている。 平成21年4月のラインオフ後のプリウスの生産ラインの不具合対応は,80%以上の可動率を達成してラインが現実に稼働を開始した後の,まさに通常の業務そのものであった。ラインオフ時点で,人件費削減,経費削減,サイクルタイム,可動率などについて直ちに目標が達成できていなかったといっても,これらは仕事をしていれば常に生じることがらで,過重な心理的負荷に直結するものではないし,残業時間が平均して少ないからといって,単純に業務内容が過密になったといえるものでもなく,あくまでも仕事の内容次第である。先進的に自動化をする以上,もともと一定の問題の発生は想定されるものであり,各種不具合が一定数発生したというものの,量産の開始はできており(ラインオフ自体が延期になると影響が大きい。),バックアップも用意されており,控訴人の主張に沿った証- 13 -言をしているJにおいても,「業務の負担はさほどのものではなかった」旨述べており,本件労働者は,先輩のE主任にもいろいろ相談していた(乙14・25項,原審証人E12頁 張に沿った証- 13 -言をしているJにおいても,「業務の負担はさほどのものではなかった」旨述べており,本件労働者は,先輩のE主任にもいろいろ相談していた(乙14・25項,原審証人E12頁)。 本件労働者のうつ病の発症時期は平成21年10月初旬から中旬ころであるから,精神医学的には,発病半年前の平成21年4月中旬以降の心理的負荷に着目することになるが,平成21年4月初旬には,プリウスのO工場のCVJのラインは量産を開始(ラインオフ)しているのであるから,問題とすべきものは,ラインオフ後の不具合対応が過重な心理的負荷を生じるものであったかどうかという点である。控訴人が指摘するF部長(ドライブトレーン生技部のF部長)への報告やO工場との打合せは,大半がラインオフの前,すなわち本件労働者がうつ病を発症するより6か月以上前のものであり,この点からも心理的負荷として取り上げる必要性に乏しい。 ラインオフ後は,可動率が若干低いという問題はあったものの,業務の負担はさほどのものではなかったから,新型プリウス関連業務の心理的負荷の程度は「弱」である。 イ 2020年ビジョン関連業務について2020年ビジョン検討会は,当時のドライブトレーン生技部部長が,仕事がちょうど谷間の時期でいい機会だということで,若い人に夢を持って仕事をしてもらいたいということで,部独自の取り組みとして行われたものであり,本件労働者は,CVJチームの取りまとめ役として,CVJラインの3年後,5年後,10年後のイメージをチームとして検討していたが,将来の夢を語るようなものであり,「夢を語ったら,地に足をつけて」とあるのも,「(現実化できるほど)十分な検討をせよ」というもので,あくまで心構えの問題である。この取り組みは,平成21年5月に始まり,当初は同年- 1 のであり,「夢を語ったら,地に足をつけて」とあるのも,「(現実化できるほど)十分な検討をせよ」というもので,あくまで心構えの問題である。この取り組みは,平成21年5月に始まり,当初は同年- 14 -8月までに構想をまとめる予定だったが,進捗状況をみて同年12月まで延期されている。同年5月中旬から12月中旬までの7か月間で30回近くの会議が開催されており,週1回くらいの割合で会議が行われていたことになるが,リーマンショックによって時間的余裕ができた中で,各種資料を作成準備して週1回の会議に参加し,意見を交わすことなど,世上いくらでもある話であり,過重な心理的負荷には結びつかない。 控訴人は,2020年ビジョン関連業務は,同年5月から同年8月までの時期に本件労働者が専任する業務として位置付けられていたなどとまで主張するが,検討した内容を実行した結果を検証した痕跡がない2020年ビジョンという試みに,残業規制の中,貴重なマンパワーを専任させる予定であったというのは,あり得ない主張である。2020年ビジョン関連業務の心理的負荷の程度は「弱」である。 ウ D関連業務について本件労働者は,平成21年9月下旬にD担当になってから同年10月初旬ないし遅くとも10月中旬にはうつ病を発症している。控訴人がD関連業務について主張しているのは,平成21年11月から12月にかけての出来事が大半であるが,これは,本件労働者のうつ病が業務上の心理的負荷により生じたか否かの検討において意味を持つものとはいい難い。 本件労働者が同年9月下旬以降担当となった中国のD関連業務は,それまでと同じ「CVJの生産準備」(主な内容は,当時の新型カムリ,新型カローラのCVJラインの立ち上げやラインの不具合対応)という,それまで本件労働者が長年経験してきたものと 中国のD関連業務は,それまでと同じ「CVJの生産準備」(主な内容は,当時の新型カムリ,新型カローラのCVJラインの立ち上げやラインの不具合対応)という,それまで本件労働者が長年経験してきたものと同種の業務であり(乙13・8項,乙16・16項,乙82の2・5,6,1- 15 -4,16,17頁),前任者のGが定年まで数年ということもあって,本件労働者が引き継いだものであり,引継時,特に問題はなく,平成21年10月初旬から中旬当時は,中国現地工場との折衝段階という通常業務であり,現地との調整に仕事の重点が置かれていたことは事実であるが,それはまさに当時の仕事そのものであり,本件労働者よりも相当経験の浅い後任者のHですら問題なく業務をこなしていることからみても,特別なものはない。 中国の現地工場側は,本件労働者より1年下の年次のI室長(本件会社内の職制は主任)がテレビ会議による打合せに出席し,現地側の要求をしていたが,Dの改造提案は,現地の立場としては当たり前のことばかりであり,これに対する対策案を出して調整することは,切替仕事の一つとして発生するごく普通の問題であり,その他,業務における大きなトラブルも,仕事の遅れもない。 「手段替え,自動段替え」のような細かな問題は,双方のメリット,デメリットを洗い出して決めて行けばいいだけのことであり,18年にもわたって同種業務を行っていた本件労働者にとって特別な負担になることとは到底思われず,必要であれば上司や周囲に相談すればいいだけの話であり,本件労働者がD関連業務に従事してからうつ病を発症するまでのわずかの期間(早ければ1週間,長くても3週間程度)で過大な業務上の心理的負荷が生じていたとは到底考え難い。 控訴人は,本件労働者が荷下ろしうつ病の状態にあったなどとも主張するが,本件労 するまでのわずかの期間(早ければ1週間,長くても3週間程度)で過大な業務上の心理的負荷が生じていたとは到底考え難い。 控訴人は,本件労働者が荷下ろしうつ病の状態にあったなどとも主張するが,本件労働者の仕事量,業務内容,労働時間(特に,時間外労働はゼロに近い。),労働密度等いずれも特段過重なものとはいえず,本件労働者が荷下ろしうつ病の状態にあったことを示す医学的根拠もなく,その主張に理由がないことは明らかである。 エ 上司によるパワハラについて- 16 -原審証人Jの証言によっても,本件労働者は,上司から,仕事上,週に1回程度,大きな声で叱責されることがあったにとどまるものである。約10年前の事実関係で,関係者の証言の再現性に不十分な点があってもやむを得ない面があるにしても,叱責の具体的内容は明らかではなく,特段の記録もない以上,あくまで感覚的なものにすぎない。 E主任の豊田労働基準監督署における聴取書(乙14)や原審での証言内容は,控訴人が主張するB室長やCグループ長の「叱責」は仕事上の「指導」の範囲を超えないものであったことを裏付けている。組織的に見ても,具体的なことを示さず単に大声で叱責するだけの上司など,上司としては失格であり,仮に多少はっきりした口調で注意したとしても,いじめ等ではなくいわゆる一般的な指導の範囲内のものというべきであり,本件労働者にとってのみこれがパワハラに当たるというべき事情は認められず,せいぜい「上司とのトラブルがあった」の「弱」に相当する「上司から,業務指導の範囲内である指導,叱責を受けた」,あるいはその「中」に相当する「上司から,業務指導の範囲内である強い指導,叱責を受けた」にとどまる業務上の指導であり,あるときの指導内容が「厳しい」と捉えられたとしても,パワハラとして精神障害を発 あるいはその「中」に相当する「上司から,業務指導の範囲内である強い指導,叱責を受けた」にとどまる業務上の指導であり,あるときの指導内容が「厳しい」と捉えられたとしても,パワハラとして精神障害を発症するに足りるほどの程度,頻度のものであったとは認められない。 本件労働者は,元々,素因として脆弱性を有していたところ,「D担当による業務の変更」という事実(配置転換自体は,その心理的負荷の程度は「弱」である。)をきっかけとして,平成21年10月初旬ないし中旬にうつ病を発症した後,より精神的脆弱性を高め,些細なストレスにも過大に反応するようになったものと考えられ,本件労働者のうつ病の発症及びそれに引き続く本件自殺について,- 17 -業務との相当因果関係を認めることはできず,業務起因性は認められない。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,控訴人の請求には理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 精神障害に関する業務起因性の判断枠組みについて原判決21頁13行目から22頁2行目までを以下のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」第3の1のとおりであるから,これを引用する。 「このようなストレス―脆弱性理論を前提とすれば,精神障害の業務起因性の判断においては,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性とを総合考慮し,業務による心理的負荷が,当該労働者と同種の労働者,すなわち,当該労働者の職種,職責,年齢,経験等が類似する者であって,特段の業務軽減措置を受けることなく日常業務を支障なく遂行できる平均的労働者を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,当該業務に内在し又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該業務と精神障害の間に相 できる平均的労働者を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,当該業務に内在し又は通常随伴する危険が現実化したものとして,当該業務と精神障害の間に相当因果関係を認めるのが相当である。 この点について,控訴人は,本件労働者本人を基準に判断すべきであるとか,業務が他の原因と共働して精神障害の発病に至らしめたのであれば,それで足りると解すべきである旨主張するが,この見解は,上記したところからして採用できない。ただ,上記平均的労働者といっても,それはある程度の幅を有するものと考えるのが相当である。 そして,前記前提事実⑺,⑼及び⑽のとおり,厚生労働省は,精神障害の業務起因性を判断するための基準として,認定基準を策定し,その運用上の留意点を示しているところ,認定基準は,行政処分の迅- 18 -速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,裁判所を法的に拘束するものではないものの,精神医学及び法学等の専門家により作成された報告書に基づき策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害に係る業務起因性の有無について,認定基準及び改正認定基準の内容を参考にしつつ,個別具体的な事情を総合考慮して判断するのが相当である。 この点に関して被控訴人は,改正認定基準は平成(原文ママ)2年6月1日以降(原文ママ)に適用されるものでないことは明らかである旨主張する。しかし,上記したところからして,裁判所が精神障害に係る業務起因性を判断するにあたって,参考にすることができない性質のものではない。」2 認定事実前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 本件会社における生産活動等について あたって,参考にすることができない性質のものではない。」2 認定事実前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 本件会社における生産活動等について 用する。 新型プリウス関連業務についてア SPGi-3の自動組付ラインの立上げ計画に至る経緯O工場には,CVJの生産ラインとして,SPGi-1,SPGi-2,SPGi-3及びSPGi-4の4つのラインが存在していた。平成19年8月頃,本件会社に入社して2年余りであったJが,同工場に一つだけあった,後半部分だけ自動化されていたCVJの組付ラインを,CVJ量産の自動ラインとして動かせるようにする業務を担当した。このラインは,開発目的で作られ,トラブル- 19 -も多かったことから,生産には使われず工場の隅で眠っていたもので,Jは,派遣社員のKと2人でこの業務に当たり,同ラインは,新型プリウス以前の他の車用の専用ラインとして量産に使用されるようになった。この時点で自動化されていたのは,組付ラインの後半部分だけであった。同組付ラインは,生産時間の多くをトラブルの処置,復旧及び対策に費やさねばならず,可動率が目標に対して非常に低かったこともあって,工場からの評判は芳しくなかった。 その後,O工場のSPGi-2ないし4のラインを,新型プリウス用のCVJを生産することができるように改造することが決まった。SPGi-2ないし4には,それぞれ,加工ライン各5つ(アウター,ケージ,シャフト,インボード及びトリボード)及び組付ライン各1つがあった。SPGi-2及び4の組付ラインは自動化されておらず,人間の手作業によるラインであった。 SPGi-3の自動組付ラインは,上述の後半部分だけ自動化されていた他の車用のCVJの組付ライ 1つがあった。SPGi-2及び4の組付ラインは自動化されておらず,人間の手作業によるラインであった。 SPGi-3の自動組付ラインは,上述の後半部分だけ自動化されていた他の車用のCVJの組付ラインを新型プリウス用のCVJ生産のために改造するに当たって,それまで手作業で行われていた前半部分の作業も自動化して,組付ラインの大部分を自動化することになった。それまで,機械間の搬送や機械への取り付け,取り外しは,自動化されておらず,人間の手作業で行われていたから,CVJ組付ラインの大部分を自動化するというSPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務は,当時,本件会社において初めての先進的な試みであり,同時に,それまで後半部分の自動化だけでも多発していたトラブルの改善をも求められるものであった。 (甲A40,42,乙87の2,乙88,原審証人J)イ 本件労働者の担当業務本件労働者は,平成20年4月頃から新型プリウス関連業務に従- 20 -事することとなり,SPGi-3の自動組付ラインの立上げの主担当(チームリーダ-)として,J及びKと3人で同業務に従事することになった。本件労働者は,SPGi-2及び4の組付ラインの担当者並びにSPGi-2ないし4のシャフトの加工ラインの担当者からの相談に応じることも業務としていた。 SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務は,ラインのあるO工場の現場に行かないと実際の作業ができないものであり,Jは毎日のようにO工場に行っていたが,本社で行わなければならない他の業務もあった本件労働者は,O工場にずっといることはできず,J及びKと3人で相談しながら,夜に本社に帰ったメンバーと逐一進捗状況を確認するなどして作業を進めていた。 (甲A21,40,42,乙71,原審証人J)ウ SPGi-3の自動組 ることはできず,J及びKと3人で相談しながら,夜に本社に帰ったメンバーと逐一進捗状況を確認するなどして作業を進めていた。 (甲A21,40,42,乙71,原審証人J)ウ SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務の遅れSPGi-3の自動組付ラインは,当初,可動率95%,サイクルタイム30秒を目標とし,平成21年4月に量産開始(号口)予定とされており,量産が開始されてラインの主担当をドライブトレーン生技部から工場に移してから(号口移行),本件労働者の新型プリウス関連業務も終わる予定になっていた。 しかし,当時,CVJ組付ラインの大部分の自動化という本件会社にとって初めての試みであったSPGi-3の自動組付ラインは,改造やトラブルの改善の検討に時間がかかり,立上げ計画の当初からスケジュールが遅れ遅れになっており,平成20年10月の時点で当初の計画から1か月半の遅れが生じていた。そして,その後もトラブルが多発し,平成20年12月23日以降平成21年3月12日までに10回の量産試験運転が実施されたが,いずれにおいても可動率又は簡易可動率が安定して目標に達する- 21 -ことはなく,予定どおりの時期に当初の目標を達成してSPGi-3の自動組付ラインを立ち上げることは不可能な状況であり,平成21年4月のラインオフの期限までに「可動率95%,サイクルタイム30秒」を達成してSPGi-3の自動組付ラインを立ち上げるという当初の目標は,客観的には達成困難なノルマであった。 (甲A16,17,40,45,乙88,原審証人J)トラブルの多発によりSPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務の遅れが目立つようになった平成20年末頃から,本件労働者は,Cグループ長から,大きな声で叱責を受けるようになり,特に進捗状況が深刻化してきた平成 多発によりSPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務の遅れが目立つようになった平成20年末頃から,本件労働者は,Cグループ長から,大きな声で叱責を受けるようになり,特に進捗状況が深刻化してきた平成21年初め頃からは,Cグループ長から,いつまでに何をやるかという対策や進捗状況の報告を頻繁に求められ,作業の進捗状況の報告用資料を作成して事前検討のために提出した際などに,これではだめだと,大きな声で叱責を受けるようになった。また,本件労働者は,平成21年初め頃から,B室長からも,同じフロアにいる多くの従業員に聞こえるほどの大きな声で𠮟り付けられるようになった。Jも,議事録等を提出した際などに,本件労働者と共に又は一人で,Cグループ長やB室長から,他の従業員の面前で,大声で叱責を受けるようになり,そのことに非常な苦痛を感じていた。Jは,自分がO工場にいて本件労働者が本社にいた際にも,本件労働者がB室長やCグループ長から叱責を受けていたことがあったであろうと考えている。 (甲A40,45,乙71,原審証人J)平成21年2月27日,本件労働者は,F部長から,「こうだから自動でまわす,組付でやると言いきりたい。」,「不具合を回収(改- 22 -修)すれば,95%出ると言いたい。」と,SPGi-3の自動組付ラインについて,「可動率95%,サイクルタイムを30秒から29秒へのアップ」を検討するよう指示された。(甲A17・24~25頁)。本件労働者は,同年3月11日,同月19日及び同月25日にも,F部長に対し,SPGi-3の自動組付ラインの不具合,可動率及びサイクルタイム等に関して報告し,F部長から各種の指摘を受けた。なお,ドライブトレーン生技部において,グループの主任が部長に対し定期的な報告以外に業務の進捗について報告をするという 具合,可動率及びサイクルタイム等に関して報告し,F部長から各種の指摘を受けた。なお,ドライブトレーン生技部において,グループの主任が部長に対し定期的な報告以外に業務の進捗について報告をするというのは,大きな問題が生じた場合等に限られ,まれなことであった。 (甲A17,52,53,乙25の1,原審証人B)エ 平成21年3月16日の会議から量産開始まで本件労働者は,平成21年3月16日に行われたSPGi-3による量産開始に関する会議において,O工場側から,SPGi-3の自動組付ラインの改造について,「手作業改善もっとやれないの」,「号口(量産開始)からコスト未達でいいの」,「とても号口生産をできる段階でない」,「これから最悪のことも考えて,ダメージを最少にしていきたい」,「とても号口はムリ」,「安全,品質,コストを達成できるように」しなければならないなどという厳しい指摘を受けた。 本件労働者は,同会議の場でO工場側から受けた各種の厳しい指摘を踏まえて,対応策を必死に練り,SPGi-3の自動組付ラインがうまくいかなかった場合に備えた対応策(バックアップ)やその費用の検討も行った。サイクルタイムは30秒から32秒に変更されたが,それでも,可動率95%の目標は達成できなかった。 そして,同年3月19日及び同月25日のF部長への報告を経て,- 23 -同月26日の再度のSPGi-3による量産開始に関する会議までに,可動率90%,サイクルタイム32秒で5月の生産ピークにも対応可能と確認され,同年4月1日の量産開始を迎えた。 この時点では,SPGi-3の自動組付ライン自体とは別の大きな問題として,アウターミーリング機の刃物寿命が短い等というアウターの問題も残っていた(原審証人C5,22,24頁)。なお,コストの問題を改善 時点では,SPGi-3の自動組付ライン自体とは別の大きな問題として,アウターミーリング機の刃物寿命が短い等というアウターの問題も残っていた(原審証人C5,22,24頁)。なお,コストの問題を改善するために導入を検討し,同月16日の会議の場でもO工場側から「オメガ,早くやれ。7月末遅い」などと早急な導入が強く求められていたオメガクランプについては,結局,導入しないことになった。 (甲A17,45,原審証人J)オ 量産開始から平成21年5月19日の会議頃まで平成21年4月の量産(号口)開始(ラインオフ)後,KがSPGi-3の自動組付ラインの担当を外れ,その後はSPGi-3の自動組付ラインの担当者は本件労働者とJの2人になった。 SPGi-3の自動組付ラインは,量産開始後も,依然として可動率の目標を達成することができずに不具合が多発し,Cグループ長やB室長の本件労働者やJに対する大声での叱責も,激しさを増し,Cグループ長は,Jに対し,「学生気分じゃないんだよ,こんなんじゃだめだ,遊びで仕事をするな。」などと𠮟りつけることもあった。本件労働者とJは,一緒に叱責を受けることもよくあったが,Jは,本件労働者だけが呼ばれて叱責を受ける場面も,少なくとも週1回は見ていた。Jは,本件労働者がCグループ長から周囲に聞こえるような大きな声で叱責され続けているのを聞いて,「あれだけ言われたら,自分だったら心が折れるな。」,「よく耐えてやっているな。」と思っていた。Jは,平成21年4月か5月頃くらいから,怒- 24 -られるために出社しているような状態になっていると感じ,本件会社に出社するのが嫌になっていた。 SPGi-3の自動組付ラインは,平成21年4月23日頃まで,可動率70%から80%という安定しない状態が続いたが,同年4月 ような状態になっていると感じ,本件会社に出社するのが嫌になっていた。 SPGi-3の自動組付ラインは,平成21年4月23日頃まで,可動率70%から80%という安定しない状態が続いたが,同年4月25日及び26日に実施した工事により可動率は90%まで上昇し,5月からの本格量産を前に,連休中にも2件の追加工事が行われた。しかし,その後も,ラインが30分以上停止する事態(ドカ停)が度々生じ,当初から続いていた慢性的な不具合も残存しており,マスター類(アウターボールの溝の長さの仕様等)の問題も残っていた。 (甲A40,45,乙71,原審証人J,原審証人C)カ 平成21年5月19日の会議等本件労働者は,平成21年5月19日,O工場における新型プリウスの量産開始に関する会議において,O工場側から,SPGi-3の自動組付ラインについて,「(不具合多発の原因が)全然わからない」,「真因がわからない」,「あるべき目標値を明確に」,「アウターミーリング機と自動組付ラインのために,O工場第2機械課の加工不良代金が昨年の倍になってる,高い勉強代を払ってる」,「ものになったといえるのか」,「生産が今後もっと増えた場合,どうするか考えてほしい」,「自動組付ラインはどこかで判断すべき」,「問題が改善しないのであれば,究極,自動化をやめることも検討すべきである」などと,当時の状況について,ラインの責任を背負うことになる工場側としては当然ともいえる厳しい指摘を受けた。 前述のとおり,SPGi-3の自動組付ラインは,それまで後半部分だけ自動化されていた他車のCVJの組付ラインを,新型プリウス用のラインに改造することが決まった際に,手作業により行わ- 25 -れていた前半部分も自動化することに決めたという,当時,本件会社にとって初めての先進的な試みであ の組付ラインを,新型プリウス用のラインに改造することが決まった際に,手作業により行わ- 25 -れていた前半部分も自動化することに決めたという,当時,本件会社にとって初めての先進的な試みであり,種々の不具合が出てそれを順次改善していくという道筋をたどらなければならなくなることは,十分に予想されるはずのことであった。しかし,予定どおりの時期に量産を開始することが優先され,コスト,サイクルタイム,可動率のいずれについても当初の目標を達成できないまま号口(量産)が開始され,その後も,目標達成を目指して努力を続けたものの,量産開始後1か月半以上たっても種々の不具合が続出し収束の目処が立たないという,先の見えない状況下において,SPGi-3の自動組付ラインの主担当として対応に当たり,O工場側から厳しい指摘を受け,「今後7月・・・切替結果報告」,「やることを現場へ報告すること」等という指示を受けた本件労働者は,精神的に相当に辛い思いをした。(甲A18,40,103・7頁,原審証人J)本件労働者は,上記のほかにも,平成21年4月のSPGi-3の自動組付ラインによる量産開始の前後で,O工場の担当者と適宜やりとりを行い,自動組付ラインの不具合等について指摘を受けるなどした(甲A16,17,45,50)。 キ 2020年ビジョン関連業務の開始本件労働者は,平成21年5月から,新型プリウス関連業務と併行して,F部長の特命業務である2020年ビジョン関連業務にも取り組むようになった。平成21年4月の時点の本件労働者とCグループ長との2WAYコミュニケーションシートでは,同年5月末までにSPGi-3の自動組付ラインの可動率95%の確保と維持管理方法を確立するという目標が掲げられていたが(甲A46,原審証人C26~27頁),SPGi-3の自動 ケーションシートでは,同年5月末までにSPGi-3の自動組付ラインの可動率95%の確保と維持管理方法を確立するという目標が掲げられていたが(甲A46,原審証人C26~27頁),SPGi-3の自動組付ラインの不具合は収まらず,本件労働者は,リーマンショックの影響で平成20年1- 26 -2月から始まっていた残業規制が平成21年6月以降は残業原則禁止となった中で,これらの業務に当たった。 ク 新型プリウス関連業務の終了までSPGi-3の自動組付ラインは,その後,日々の出来高は概ね目標量を達成するようになり,同年6月25日頃までには,慢性的な不具合を除いて,主要な残存課題についてはほぼ対策が完了していた。しかし,それ以降も,従前から慢性的に生じていたトリポード圧入不良,インボード挿入不良等の不具合は生じ続けており,本件労働者は,これらの不具合対応業務を続けざるを得なかった。特に,それまで手作業のラインで熟練した作業者が行っていた作業であるトリボード圧入を自動ラインで問題なく行えるようにするのは簡単なことではなかった。本件労働者は,対策をして定量的な検査をして対策案を検討し,一定の対策案を進めてもうまくいかず,更に別の対策案を何度も検討するなど,新型プリウス関連業務が終了する平成21年9月末まで,この不具合への対応に誠実に取り組んでいた。(甲A18・22頁,甲A45・20~34頁,甲A103・7頁)なお,本件会社の愛知労働局長に対する平成28年1月8日付けの回答によれば,本件労働者が平成21年9月末に新型プリウス関連業務を終えた以降も,SPGi-3の自動組付ラインについてはJのみで担当し,Jは平成22年1月にSPGi-3の自動組付ラインに関する業務を終了したとされているが(乙82の2・5頁),Jは,平成21年9月末 えた以降も,SPGi-3の自動組付ラインについてはJのみで担当し,Jは平成22年1月にSPGi-3の自動組付ラインに関する業務を終了したとされているが(乙82の2・5頁),Jは,平成21年9月末以降は,SPGi-3の自動組付ラインは工場側で管理してもらえるようになっており,同年9月末でSPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務は終了したと認識している(甲A40,乙71・3項,原審証人J27頁)。 - 27 -また,Jは,姫路労働基準監督署における聴取書(乙71)において,SPGi-3の自動組付ラインの立上げについて,15年以上同種業務を行ってきた現在のJの立場からすると,その業務内容自体は大きな問題もなくこなせる業務量であったと感じるが,他方,本件労働者は他部門との調整を上手くこなす方ではなかったため,本件労働者にとっては心理的負荷を感じる業務であったかもしれない旨供述しており,原審における証人尋問においてその趣旨を問われて,本件労働者が受けていた精神的負荷は,実際の業務量の多寡ではなく,上司からのパワハラや,上司と工場からの板挟みになっていたことで,非常に精神的ストレスはあった,その当時J自身も会社に行きたくないと思い始めたほどであったという意味である旨供述している(甲A40,乙71,原審証人J27頁)。 ケ D関連業務担当への異動の告知SPGi-3の自動組付ラインの不具合対応が,当初の目標を引き下げ,対応期限が半年延びたことによって収束時期を迎えつつあったことから,平成21年9月15日頃,本件労働者は,Cグループ長から,同月下旬より本件労働者の担当業務が中国のDに関するものに変わることを正式に告げられた(乙18・34項,原審証人C)。 Cグループ長は,同月20日の2WAYミーティングで,本 ,Cグループ長から,同月下旬より本件労働者の担当業務が中国のDに関するものに変わることを正式に告げられた(乙18・34項,原審証人C)。 Cグループ長は,同月20日の2WAYミーティングで,本件労働者に対し,「中国の仕事を見える化してほしい。」,「中国の生産準備業務の立て直し」,「メーカーSVレスできないか」,「TV会議議事録作ること」,「AT48収束したら毎週やらない。」等という話をした(甲A11・23頁)。 本件労働者は,平成21年9月末当時,CVJの生産準備業務歴18年目を迎えたベテランであったが,それまで海外業務の経験は- 28 -全くなかったため,仕事の進め方等についてどのようにしていけばよいのか等と不安を抱き,同じ5グループの先輩で海外業務の経験のあるE主任に対し,そのことを相談していた(乙14,原審証人E)。 D関連業務についてア Dでは,平成21年9月時点で,CVJの生産ラインとして,第1ラインないし第5ライン(以下,単に「第1ライン」などと記載する。)の5つが稼働していた。そのうち,第3ラインは,元々,中国で販売されたカムリ(以下「中国カムリ」という。)のCVJの加工及び組付を行うラインとして製造されたものであり,他の車種に流用することを予定していないものであった。また,第5ラインは,製品の加工は行わず,RAV4やハイランダー等のCVJの組付のみを行うラインであり,O工場にあるラインとほぼ同様のラインであった。(甲A39,乙87の2,乙88,原審証人M,原審証人E)イ 本件労働者は,平成21年9月24日頃以降,G主任の後任として,D関連業務に従事することとなったが,これは,本件労働者にとっては初めての海外業務であった。G主任は,本件労働者に対し,必要な書類一式を交付した は,平成21年9月24日頃以降,G主任の後任として,D関連業務に従事することとなったが,これは,本件労働者にとっては初めての海外業務であった。G主任は,本件労働者に対し,必要な書類一式を交付した上,進捗状況の説明を行ったが,特に問題は生じていない旨を述べた。なお,G主任は,D関連業務を本件労働者に引き継いだ後,5グループと同じフロアで執務するドライブライン計画室1グループで業務を行っており,席も本件労働者の近くであった。(甲A45,乙13,16,25の2,乙82の2,原審証人G)ウ D関連業務のうち,本件労働者が平成21年10月末までに担当した業務で主なものは,以下のとおりである。(甲A45,乙64の64,乙82の2)- 29 -560L,398L及び816L(いずれも車種のコード)のCVJの組付について第5ラインに生じていた不具合への対応(以下「第5ライン不具合対応業務」という。)560LのCVJ単品を中国現地で生産できるように第3ラインに必要な改造を行う業務(以下「560L現調化業務」という。)新型カローラのCVJ生産のためにラインに必要な改造を行う業務(業務のコードは023A。以下「023A関連業務」という。)新型カムリのCVJ生産のために第3ラインに必要な改造を行う業務(業務のコードは055A。以下「055A関連業務」という。)Dからの問合せに対する窓口業務エ 本件労働者は,平成21年9月24日の週からの業務について,以下のとおり取り組んだ(甲A45(以下「週報」ともいう。))。 第5ライン不具合対応業務については,平成21年9月24日から同年11月5日までの5週間分の週報に記載され,具体的には「UBJ・S/A×シャフト圧入不良」の問題に取り組んだ。 これは,本件労働者の前任者の イン不具合対応業務については,平成21年9月24日から同年11月5日までの5週間分の週報に記載され,具体的には「UBJ・S/A×シャフト圧入不良」の問題に取り組んだ。 これは,本件労働者の前任者のG主任がDを担当していたときから発生していた,D側で対応をすることが困難な,AT48という組付機械の不具合である。現に稼働しているCVJの組付ラインでCVJの一部であるUBJとシャフトの圧入不良という重大な不具合が発生している以上,その対応は緊急性の高い重要な業務であり,G主任も,DのI室長からいろいろ言われ,その対応に苦慮していたものであった(甲A103・8頁,原審証人I10頁,原審証人M7,10~11頁)。本件労働者は,D関連業務- 30 -に就任早々の平成21年9月24日から,この緊急性の高い第5ライン不具合対応業務に追われ,同年11月末頃まで取り組んだ(なお,G主任が,原審における証人尋問の際に,この第5ライン不具合対応業務について,ほとんどのことを覚えていないと供述し,豊田労働基準監督署における聴取書で「すでに立ち上がっているラインには,現時点では特に問題は生じていないことも話しました。」と述べ(乙16・13項),原審の証人尋問においても「難しい問題は特にありませんでした。」と供述していることに照らすと(原審証人G6頁),G主任が,この不具合について本件労働者に対し十分な引継ぎをしていたかどうかは疑問である。)。 Dとテレビ会議をし,設備針出し方法についてメーカーを交えて確認し,治具(スナップリングガイド,アウターチェック)の改善を推進し,改善したスナップリングガイドに加工不良があったためメーカーに再製作を依頼し,同年11月20日に製作が完了したスナップリングガイドを,同月末到着予定でDに送った。 560L現調化業務 を推進し,改善したスナップリングガイドに加工不良があったためメーカーに再製作を依頼し,同年11月20日に製作が完了したスナップリングガイドを,同月末到着予定でDに送った。 560L現調化業務については,平成21年10月22日から平成22年1月14日までの11週間分の週報のうち10週間分の週報に記載されているが,当初は平成21年10月15日にDでキックオフが行われ,翌16日のテレビ会議で同年12月末がD第3ラインへの取込期限と設定されていたものが(甲A45・38頁,甲A48の2),その後,同年11月5日のテレビ会議で,D側がO工場の要望を受け入れ,取込期限が平成22年1月末と少し先に延び,同年2月からDが生産することが決まったもので- 31 -あり(甲A45・40頁),当初の取込期限までに改造を完了させるための準備作業にはゆとりはなかった。また,023A関連業務に関する記載によれば,560L現調化業務についてもメーカーSVを利用しない方向で検討が進められたことがうかがわれる。 023A関連業務については,平成21年11月26日から平成22年1月14日までの6週間分の週報のうち5週間分の週報に記載されているが,現地工事を560L現調化業務と同じくD主体で実施し,メーカーSVを利用しない方向でDとも合意したことが一貫して記載されている。 055A関連業務については,平成21年12月10日からの1週間分の週報に記載されているが,今後,どこまでD主体で実施し,メーカーSVを利用しないこととできるかをDが判断する予定であることが記載されている。 オ 本件労働者は,5グループのスキルドパートナー(定年後再雇用)であるLと二人でD関連業務に従事したが,Lは,輸出に係る手続業務を担当し,改造検討等の主たる業務は,本件労働者が一人 されている。 オ 本件労働者は,5グループのスキルドパートナー(定年後再雇用)であるLと二人でD関連業務に従事したが,Lは,輸出に係る手続業務を担当し,改造検討等の主たる業務は,本件労働者が一人で担当した。なお,G主任も,同様の体制で業務を行っていた。 (乙16,17,25の1)カ 本件労働者は,適宜,テレビ会議やメール等により,D側の担当者と連絡を取っており,I室長との間でやり取りをすることもあった。I室長は,本件会社のO工場で約16年の経験を積んだ後の平成20年1月から,Dの自立化の技術支援のために同社へ派遣された社員であり,平成21年当時,本件会社における職層は本件労働者と同じ主任であったが,Dにおける役職は,製造部の生産技術室の室長(部長と課長の間の役職)で,製造部の製造技術課(実際に製造を行う製造課をサポートする課)には課長がいなかったため,- 32 -現地の主任や担当者の上司として,製造技術課の実質的な責任者を務めていた。(乙13,14,85,原審証人I)G主任は,I室長について,「仕事に関しては細かく,筋が通らないことに対しては,厳しく,あまり妥協はしないタイプだった」と受け止めていた。(乙16・19項)キ 本件労働者は,D関連業務を担当するようになって間がない頃,O工場の海外支援グループに所属しD等の海外事業体を支援する業務を行っていたMに対し,I室長からO工場海外支援グループを相手にせず,図面等が必要な場合は直接Dに依頼するように言われたが,どうすべきかなどと相談し,海外支援グループから図面を見せてもらったことがあった。以前からI室長と面識のあったMは,生産準備業務では,ドライブトレーン生技部と現地工場とが互いの立場で打合せを重ねて意見をすり合わせていく必要があるのに,I室長は,自分が正しいと ったことがあった。以前からI室長と面識のあったMは,生産準備業務では,ドライブトレーン生技部と現地工場とが互いの立場で打合せを重ねて意見をすり合わせていく必要があるのに,I室長は,自分が正しいと考える事は絶対に妥協せず,相手がすいませんでしたと言うまで攻め続けるタイプの人物で,相手の揚げ足を取って事を有利に進めようとするところがあると感じており,本件労働者が,Dとのテレビ会議の際にも困惑し,D関連業務を重荷に感じ,悩んでいる様子をみていた。(甲A39,103,117,原審証人M)ク 本件労働者は,同じ5グループのE主任に対し,主に第3ライン改造業務について,D側の要求が大掛かりな改造を要するものであり対応に困っている旨,度々相談していた。Dは,元々中国カムリ専用の汎用性のないものとして作られ,同じ長さのシャフトしか流せなかったDの第3ラインを,長さの違うシャフトのものも製造できるようにする改造について,費用のかかる自動段替えにすることを要求していた。本件労働者は,リーマンショック直後の本件会社- 33 -の経費削減の強い方針を受けて,手段替えを提案していたが,DのI室長は,手段替えにすることは,トヨタ生産方式のジャスト・イン・タイムの原則に反すると主張して決して譲らず,その理解を得ることはできなかった。海外業務が初めてで,Dの技術水準も分からなかった本件労働者は,E主任にアドバイスをもらいながら,現地の機械を直接確認することもできないまま計画を立て,SVレス化の方針を実現するために,メーカーにマニュアル作成を依頼するなど,前向きに取り組んでいたが,結局,本件自殺に至るまで,Dとの合意に至れそうな案を作ることができず,ずっと悩んでいた。 本件労働者がD関連業務を引き継いだ時期は,既存ラインの改造についての部内での検討が終 きに取り組んでいたが,結局,本件自殺に至るまで,Dとの合意に至れそうな案を作ることができず,ずっと悩んでいた。 本件労働者がD関連業務を引き継いだ時期は,既存ラインの改造についての部内での検討が終わって,これから現地工場との間で改造費用の見積もりの打合せに入るという,生産準備業務の中で一番大変な時期であった。(乙14,原審証人E)ケ 本件労働者は,担当がD関連業務に変わった平成21年秋頃から,妻である控訴人に対し,「朝早く目が覚めてしまい,いつも仕事のことが忘れられない。」,「仕事のことで焦っているから,深い眠りにつけなくて朝早く目が覚めてしまう。」と言い始め,毎晩,寝汗をかくようになった(甲A1,原審控訴人本人)。本件労働者は,同年10月中旬頃までにうつ病を発症していたが,うつ病を患いながらも,D第5ライン不具合対応業務,期限が1か月延長された560L現調化業務と023A関連業務をほぼ期限どおりに完了させた。055A関連業務は,期限に間に合わない状態で推移していたが,中国の法規制に対応する関係で,新型カムリの発売が予定から半年遅くなったことにより(乙18・16項,原審証人C),期限の点では余裕が生じた。しかし,本件労働者は,平成21年12月以降も,Dからの自動段替え要求への対応,SVレスの問題等,解決されない- 34 -課題を抱えたまま,苦悩した状態であった(甲A45,103)。D業務の経験のあるEは,1週間に一度は本件労働者から相談を受け,本件労働者がDの第3ラインの自動段替えの要求で悩んでいたと感じ(原審証人E2~3頁),この問題は,本件労働者の死亡するまで解決していなかった。 コ SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務が終了した後は,本件労働者とJは,同業務のことでCグループ長やB室長から叱責されることはなく の問題は,本件労働者の死亡するまで解決していなかった。 コ SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務が終了した後は,本件労働者とJは,同業務のことでCグループ長やB室長から叱責されることはなくなった。しかし,D関連業務に移った本件労働者は,Cグループ長やB室長から,D関連業務の進捗状況や,2020年ビジョンの準備や提出資料等について,相変わらず執務室のあるフロアで,大きな声で叱責されており,Jはその姿を見かけていた。 Cグループ長やB室長の怒鳴り声は,SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務が遅れていた頃のものと変わりがなかった。Jは,Cグループ長から同じような口調で怒鳴られていたのは,本件労働者とJの二人だけであり,B室長から大声で怒鳴られていたのは,本件労働者とJのほかにもう一人の3人だけであると感じていた。 (甲A40,乙71,原審証人J)サ 本件労働者は,平成21年6月から残業が原則禁止となって以降,全く残業をしておらず,妻である控訴人に対し,仕事量が多いことは変わらないのに,上司からはただ早く帰れと言われ,残業をすることが許されなくなって大変だと嘆いていた(甲A1,原審控訴人本人)。本件労働者は,平成21年10月頃から,D関連業務を遂行するのと併行して,2020年ビジョン関連業務である「技術の棚」,「ロードマップ」を作成したが,このときも,残業をしないでこれを行っていた。 平成22年1月11日,本件労働者は,平成21年6月1日から- 35 -残業が原則禁止となって以降初めて,1時間の残業をしており,平成22年1月19日にも,1時間の残業をした。同日,定時退社時にその様子を見たJが,本件労働者に声をかけたところ,本件労働者は,「資料を作らないといけない。」と言い,悩んでいる様子であった。Jは,報告資料等を作成し にも,1時間の残業をした。同日,定時退社時にその様子を見たJが,本件労働者に声をかけたところ,本件労働者は,「資料を作らないといけない。」と言い,悩んでいる様子であった。Jは,報告資料等を作成して提出しても,いろいろ無理難題をつけられ,眉間にしわを寄せて考えている本件労働者の姿をよく見ており,B室長やCグループ長からあれほど怒鳴られているのに,本件労働者はよく頑張っているなと思っており,残業規制がある中での限られた時間内で業務をこなさなければならないというプレッシャーが少なからずあったのではないかと思っていた。この日が,Jが本件労働者の姿を見た最後の日となった。なお,Jは,その翌日,有給休暇を取得して転職先の採用面接を受け,同年2月に家庭の事情という話で本件会社に退職を申し出て,同年6月1日に本件会社を退職した。Jが退職を決意した真の原因は,上司であるB室長やCグループ長から他の従業員の面前で大きな声で叱責されたり怒鳴られたりしていたことであったが,Jは,本件会社にはこのことを話していない。(乙71,73,原審証人J)シ 平成▲年▲月▲日の朝,本件労働者は,いつどおり自宅を出たが,本件会社には「今日は体調が悪いので休ませてほしい。」と電話して出社せず(乙13・34項),深夜になっても帰宅せず,連絡が取れなくなった。そこで,警察に捜索願が出され,本件会社でも手分けして探した結果,本件労働者は,山中で本件自殺をしていたところを同月▲日に発見された。(甲A1,乙13・34項)ス 本件自殺の時点で,D関連業務は,期限の面での遅れは生じていなかった。 その後,Cグループ長がしばらく窓口業務を担当した後,平成2- 36 -2年4月からは,当時入社5年目のHが担当することになり,Hは,本件労働者のときと同じく,輸出に係る手続業務 なかった。 その後,Cグループ長がしばらく窓口業務を担当した後,平成2- 36 -2年4月からは,当時入社5年目のHが担当することになり,Hは,本件労働者のときと同じく,輸出に係る手続業務についてはLが担当し,改造検討等の主たる業務はHが担当するという体制で,D関連業務に取り組んだ。本件労働者がD側と合意に至ることができずに悩んでいた段替えについては,Hが担当した時点では手段替えで対応することになり,最終的に平成23年2月になってから,一部自動段替え,一部手段替えという対応がされた。また,高周波焼き入れ機と摩擦圧接機については,結局,SVレス化することはできず,メーカーからSVが派遣された。(乙15,18,59の2,88,原審証人H,原審証人E,原審証人C) 2020年ビジョン関連業務についてア ドライブトレーン生技部のF部長は,平成21年,若い従業員に夢を持って仕事をしてもらいたいとの考えの下,部全体の取組として,2020年ビジョン関連業務を開始することとし,ドライブトレーン生技部が扱う各業務について,3年後,5年後,10年後の業務のイメージ作りを行うこととした。本件労働者は,CVJ生産ラインに関して検討する10名ほどのチームの取りまとめ役を担当した。(乙12,13,33)イ 2020年ビジョン関連業務については,平成21年5月29日,同年6月15日,同月29日,同年7月13日,同月27日,同年8月7日,同年9月9日にビジョンフォロー確認会が,同年11月13日,同年12月9日にビジョン進捗報告会が開催され,F部長は,それぞれに参加して,業務の進捗を確認するなどした(以下,ビジョンフォロー確認会及びビジョン進捗報告会を併せて,「部長報告会」という。)。(甲A8,9,乙80)ウ 本件労働者は,いずれの は,それぞれに参加して,業務の進捗を確認するなどした(以下,ビジョンフォロー確認会及びビジョン進捗報告会を併せて,「部長報告会」という。)。(甲A8,9,乙80)ウ 本件労働者は,いずれの部長報告会にも参加したほか,各回の部- 37 -長報告会に先立って,室内や部内で実施された打合せにも参加した。 また,本件労働者は,平成21年11月13日の部長報告会の際,事前に作成した「CVJ技術の棚」と題する書面(既に完了した技術とこれから開発すべき技術をまとめたもの)を用いて報告を行い,そこで受けた指示を踏まえて当該書面を修正するとともに,2020年(令和2年)までの「CVJロードマップ」と題する書面を作成し,平成21年12月9日の部長報告会で再度報告を行った。なお,上記各書面の作成時間については,約25時間程度の時間を要したと思われるとされているが(乙80・3枚目),部長報告会資料作成に向けた準備段階でも様々な指示を受けていた本件労働者が,改善案の構想を練るために,それよりも多くの時間を費やしていた可能性は十分にある。(甲A8ないし10,45,116,乙18,64の64,乙80)エ 2020年ビジョン関連業務は,リーマンショックで生産準備業務にゆとりができたということで,上記のとおり,若い従業員に夢を持って仕事をしてもらいたいとの考えの下,ドライブトレーン生技部のF部長が提唱して始められたものであったが,次第に,あくまで2020年に実現可能なものというように方向性が変化し,業務の終了時期も予定より延びていった。本件労働者は,2020年ビジョン関連業務の終了時期が同年8月から9月に延び,同業務が終了するはずの同年9月9日の第7回ビジョンフォロー確認会終了後のまとめにおいて,「今回が最終でない。常にこういうまとめをしておく。 年ビジョン関連業務の終了時期が同年8月から9月に延び,同業務が終了するはずの同年9月9日の第7回ビジョンフォロー確認会終了後のまとめにおいて,「今回が最終でない。常にこういうまとめをしておく。各室で,これをベースに話をしていく。3ケ月に1回は報告の場を持ちたい。」として,その後も行われることになり,次回は自己のノートに記している(甲A8・2,7,9,17,19~2- 38 -1,28,30頁)。これは,残業規制の中で,通常業務である新型プリウス関連業務やD関連業務を担当することと併行して特命業務としての2020年ビジョン関連業務に従事していた本件労働者が,2020年ビジョン関連業務に相応の負担感を持っていたことを示すものといえる。 労働時間等ア 本件労働者の1日の所定労働時間は8時間であったが,1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で,特定の日の労働時間を8時間又は特定の週の労働時間を40時間を超えて設定することがあるとされていた。また,所定休日は,土曜日,日曜日,本件会社が定める特定休日であった。(乙26の1及び2,乙29の1及び2,乙35,弁論の全趣旨)イ 本件会社は,平成20年9月に起こったいわゆるリーマンショックの影響で業績が悪化したことを踏まえ,従業員の残業の目標時間を設定することとし,同年12月から平成21年5月までの間,ドライブトレーン生技部を含む各部では,部全体の平均の残業時間を1か月当たり10時間以内とすることが目標とされていた。その後,本件会社は,従業員に対し,同年6月から平成22年夏頃までの間,原則として残業を行わないよう要請していた。(乙12,82の2,弁論の全趣旨)ウ 本件労働者の各月の超過勤務時間数(①当月中の所定労働時間外の勤務時間数の合計から,②当月中の遅出や早退をし 間,原則として残業を行わないよう要請していた。(乙12,82の2,弁論の全趣旨)ウ 本件労働者の各月の超過勤務時間数(①当月中の所定労働時間外の勤務時間数の合計から,②当月中の遅出や早退をした日の所定労働時間に不足する時間数の合計を控除して算出する。)は以下のとおりである。なお,本件労働者は,平成21年1月以降,1日の所定労働時間(8時間)を超えて勤務したこともあるものの,そのような場合には,当月中のその他の日に所定労働時間(8時間)に満た- 39 -ない時間数で退勤することで超過勤務時間数を抑えており,残業が原則禁止となる直前の同年5月以降は,超過勤務をするにしても,1か月に数回,数時間程度行うにとどめていた。また,本件労働者は,平成21年1月以降,休日出勤をしておらず,残業が原則禁止となった平成21年6月以降残業をしていなかったが,平成22年1月になって,1月11日に1時間の残業をし,また,本件会社への最後の出勤日である同月19日にも,1時間の残業をした。(甲A7,乙35,乙64の47・48,乙73)平成20年9月:59時間30分平成20年10月:35時間30分平成20年11月:50時間平成20年12月:8時間平成21年1月:4時間30分平成21年2月:2時間平成21年3月:19時間平成21年4月:31時間30分平成21年5月:7時間平成21年6月:なし平成21年7月:なし平成21年8月:なし平成21年9月:なし平成21年10月:なし平成21年11月:なし平成21年12月:なし平成22年1月:2時間エ 本件会社は,内部資料の社外への持出しを禁止していたため,本- 40 -件労働者は,自宅で仕事をすることはなかった。本件労働 月:なし平成21年12月:なし平成22年1月:2時間エ 本件会社は,内部資料の社外への持出しを禁止していたため,本- 40 -件労働者は,自宅で仕事をすることはなかった。本件労働者は,妻である控訴人に対し,「残業規制で仕事があるのに帰宅しなければならず,休日出勤も規制されて,仕事はますます大変だ。出勤したくても出勤できない状態」と嘆いていた。(甲A1・9頁,甲A7,乙13) 上司の言動等ア Cグループ長は,本件労働者に対し,SPGi-3の自動組付ラインの立上げの業務に問題が生じるようになった平成20年末頃から,本件労働者が作業の進捗状況の報告等を行う際に,同じフロアにいる従業員に聞こえるような大きな声で叱り付けるようになった。Cグループ長の叱責は,自己の隣の席に本件労働者を呼び出し,大声で,怒涛のようにしゃべり,一方的に怒鳴るというものであり,これに対し反論したり,説明したりということができない状態で,本件労働者に対するCグループ長の叱責を聞いていたJが,本件労働者があれだけ言われるのを聞いて,自分が言われたら,心がすぐに折れてしまうなとか,よく本件労働者は耐えているなというふうに感じるほどのものであった。Jは,Cグループ長から同じような口調で怒鳴られていたのは,本件労働者とJの二人だけであると感じており,Cグループ長からの叱責の頻度は,本件労働者とJが一緒に叱責されるのが1週間に1回程度あったほか,本件労働者だけ呼び出されて叱責されることも週に1回程度あった。本件労働者に対するCグループ長の叱責は,SPGi-3の自動組付ラインの立上げ業務が終了して本件労働者の担当業務が変わった後も,同じように続いていた。(原審証人J)工場に行くことが多いE主任も,月に1回程度は本件労働者がCグループ長か PGi-3の自動組付ラインの立上げ業務が終了して本件労働者の担当業務が変わった後も,同じように続いていた。(原審証人J)工場に行くことが多いE主任も,月に1回程度は本件労働者がCグループ長から大きな声で叱責されていたのを目撃しており,本件- 41 -労働者は,Cグループ長から怒られた後,しゅんと落ち込んだ様子であった。(原審証人E)イ また,本件労働者は,B室長からも,平成21年初め頃から本件自殺に至るまでの1年間,2週間に1回ほどの頻度で,同じフロアにいる多くの従業員に聞こえるほどの大きな声で𠮟り付けられていた。B室長は,本件労働者やJを,執務フロアの中央にある打合せ机まで呼び出して,非常に大声で怒鳴っていたため,本件労働者やJは,他部署の人間がデスクワークをしている中で,さらし者のような状態で叱責されていた。Jは,B室長からそのような叱責を受けているのは,本件労働者とJの他に1人の3人だけであると感じていた。(甲A40,原審証人J)ウ 本件労働者は,平成21年12月12日,Nメンタルクリニックを受診したところ,その際,N医師に対して,「一生懸命やっているつもりだが・・・けちょんけちょんになるくらい上から怒鳴られ叱られて今までにない経験」と述べた(甲B1・8頁,甲B2・8頁)。また,上記受診後,妻である控訴人に対しては,「仕事で,上司から罵声を浴びせられる。今までにない,経験したことがないひどい叱られ方をされ,けちょんけちょんに言われる。」,「自分が駄目な人間だと悲しく思うほど,ひどい言われ方をする。自信喪失になる。」,「仕事をもう辞めたい。」と訴えていた(甲A1・8頁)。 エ 本件労働者と同じようにCグループ長及びB室長から叱責を受けていたJは,平成21年4月又は同年5月頃には,怒られるために出社してい 」,「仕事をもう辞めたい。」と訴えていた(甲A1・8頁)。 エ 本件労働者と同じようにCグループ長及びB室長から叱責を受けていたJは,平成21年4月又は同年5月頃には,怒られるために出社しているような状態であると感じるようになり,同年10月には,そのような状況を苦にして退職を決意し,平成22年2月に転職先を見つけ,同年6月1日,本件会社を退職した。なお,Jは,- 42 -Cグループ長は一方的に叱責をするのみで指導や提案をすることはなかったが,B室長は叱責をするものの,筋の通らないことは言わず,叱責の後には方向性を示してくれると感じていた。(甲A40,乙71,原審証人J)精神科の受診等ア 本件労働者は,平成21年12月12日,本件労働者の様子を心配した控訴人の勧めにより,NメンタルクリニックにおいてN医師の診察を受けた。本件労働者は,その際,N医師に対し,大要,①2か月前から食欲もなくなり,不眠の症状が生じていること,②その頃,国内業務から中国業務に変更になって,仕事上の悩みが多くなり,仕事の進め方も全く分からないこと,③現地の日本人スタッフと相性が良くないこと,④上司が厳しい人であり,相談しにくいこと,⑤他に相談できる相手がおらず,一人で抱え込んでいること,⑥仕事が上手くいけば症状は改善すると思うがそう簡単にいくとは思えないこと,⑦飽くまで自分の問題であり,診察を受けても悩みがなくなるとは思っていないこと,⑧似た症状は以前にもあったが,今回が症状としては最も顕著であることを述べた。また,控訴人は,N医師に対し,本件労働者は以前にも落ち込んでいるときがあり,でも,まー大丈夫と,半年位か1年前。で,いつかは診察を受けることになるであろうと思っていた旨を述べた。(甲B1,2,乙9の2)イ N医師は,本件労働者につ は以前にも落ち込んでいるときがあり,でも,まー大丈夫と,半年位か1年前。で,いつかは診察を受けることになるであろうと思っていた旨を述べた。(甲B1,2,乙9の2)イ N医師は,本件労働者について,外見的には抑うつ的にみえないものの,心理テストの結果や問診内容によれば抑うつ状態及び不安状態にあるものと判断し,診療録上の傷病名として,「うつ病」と記載した。また,N医師は,本件労働者に対し,睡眠を十分に取ること,このままでは仕事に行けなくなるため状況を改善する必要があ- 43 -ること,妻(控訴人)や上司,あるいは中国の現地スタッフとコミュニケーションを取るようにすることが重要であることを説明し,薬を処方した。(甲B1ないし3,乙9の1及び2)ウ 本件労働者は,N医師の診察を受けた後,控訴人に対し,自身の悩みについて話すようになり,具体的には,薬を飲んでも効果がないこと,仕事で上司から罵声を浴びせられること,それは今までに経験したことのないひどい叱られ方で自分が駄目な人間であると悲しく思うほどであり,自信喪失にもなること,それでも本件労働者一人で仕事を進めないといけないことなどを述べていた。(甲A3,乙11,控訴人)エ 愛知労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会(以下「専門部会」という。)は,平成24年10月17日付けで,N医師の診察の結果を踏まえれば,本件労働者に発病した精神障害は,ICD-10の「F32 うつ病エピソード」であり,発病時期は平成21年10月上旬頃である旨の意見書を作成した。(甲B4,乙8)3 本件労働者の受けた業務上の心理的負荷の強度について 新型プリウス関連業務についてア 前記のとおり,本件労働者が担当した新型プリウス関連業務は,新型プリウスのCVJの生産ライン3本の同時立上げ の受けた業務上の心理的負荷の強度について 新型プリウス関連業務についてア 前記のとおり,本件労働者が担当した新型プリウス関連業務は,新型プリウスのCVJの生産ライン3本の同時立上げという本件会社でも規模の大きなプロジェクトの重要な部分を占める業務であり,なかでも,SPGi-3の自動組付ラインの立上げの主担当という業務は,CVJの組付ラインの大部分を自動化するという,本件会社にとって初めての先進的な試みであったが,それと同時に,予め,多くのトラブルの発生が予想される業務でもあった。 本件会社が採用するトヨタ生産方式及びジャスト・イン・タイムの思想からすると,本件会社において,自動車の部品の生産ライン- 44 -が量産に入る時点で,目標とされた可動率及びサイクルタイムを実現していることは重要な意味を持っていた(原審証人J,原審証人M,原審証人E)。 それにもかかわらず,SPGi-3の自動組付ラインは,平成20年末頃に量産試験運転を開始して以降,当初の目標である可動率95%,サイクルタイム30秒を達成することができず,平成21年2月から3月にかけて4回,F部長に対し直接の業務の進捗状況を報告するという,大きな問題が生じた場合に限られるまれな経過を辿り,量産開始直前にサイクルタイムを32秒に変更して平成21年4月に量産を開始したものの,すぐには当面の目標可動率90%を実現することができず,同月25日の工事実施による対応後も,種々の不具合が発生し,実際にラインで部品を生産する責任を負うことになるO工場側からは,究極,自動化をやめることも考慮すべきとのSPGi-3の自動組付ラインに対する厳しい指摘が相次いだ。本件労働者は,SPGi-3の自動組付ライン立上げ業務の主担当として,これに対応しており,特に,平成21年5月1 やめることも考慮すべきとのSPGi-3の自動組付ラインに対する厳しい指摘が相次いだ。本件労働者は,SPGi-3の自動組付ライン立上げ業務の主担当として,これに対応しており,特に,平成21年5月19日の会議において,O工場側から厳しい指摘を受けた本件労働者は,精神的に相当辛い思いをした。 しかし,本件会社にとって初めての先進的な試みであったSPGi-3の自動組付ラインにおいて発生した種々のトラブルについては,自動化に伴い発生することは当然予想できたことであった。そして,「平成21年4月のラインオフの期限までに「可動率95%,サイクルタイム30秒」を達成して量産を開始する。」という,客観的には達成困難なノルマであった当初の目標値を下げ,不具合対応の期限が半年延びたことによって,SPGi-3の自動組付ラインの不具合は収束しているのであるから,新型プリウス関連業務それ- 45 -だけをとってみれば,本件労働者は,「達成は容易でないものの,客観的にみて努力すれば達成も可能であるノルマが課され,この達成に向けた業務を行った。」と評価することができる(心理的負荷の程度としては「中」相当)。 イ 被控訴人は,本件うつ病の発病時期からすれば,精神医学的には,発病半年前の平成21年4月中旬以降の心理的負荷に注目することになるのであり,F部長への報告やO工場との打ち合わせは発病より6か月以上前のことであり,心理的負荷として取り上げる必要性に乏しい旨主張する。しかし,認定基準においても「おおむね6か月」とし,それ以前の出来事を何ら顧慮すべきでないとするものではないし,一連の業務の場合に6か月という基準で分断するのは不自然,不合理さを免れないから,本件においても精神障害と業務との相当因果関係を検討するに当たって,前記の限度で6か月以上前 とするものではないし,一連の業務の場合に6か月という基準で分断するのは不自然,不合理さを免れないから,本件においても精神障害と業務との相当因果関係を検討するに当たって,前記の限度で6か月以上前の出来事を考慮することは許されないものではない。上記被控訴人の主張は,その限度では採用できない。 2020年ビジョン関連業務について2020年ビジョン関連業務は,当初は,若い人に夢を持って仕事をしてもらいたいということで,平成21年5月から,部全体の取組として始まった,F部長の提唱による特命業務であり,ドライブトレーン生技部が扱う各業務について,3年後,5年後,10年後の業務のイメージづくりを行うこととされ,当初は,将来の夢を語るようなものといわれ,その後,現実化するものとして検討を求められ,期限も予定より延びて,同年12月まで延長された。 本件労働者は,CVJ生産ラインに関して検討する10名ほどの取りまとめ役を担当し,厳しい残業規制(平成21年6月からは原則残業禁止)の中,通常業務である新型プリウス関連業務やD関連業務を- 46 -行いながら,2020年ビジョン関連業務にも当たり,7か月間で9回の部長報告会とそれに先だって室内や部内で実施された打合せにも参加し,平成21年11月13日部長報告会で事前に作成した「CVJ技術の棚」と題する書面を用いて報告を行い,そこで受けた指示を踏まえて当該書面を修正するとともに,2020年までの「CVJロードマップ」と題する書面を作成し,平成21年12月9日の部長報告会で再度報告を行っていた。2020年ビジョン関連業務は,それ自体,10年後の未来を考えるという観点から,様々な創意工夫を考えるということを主眼とするものであり,目の前の現実的な課題に対処するという性格のものではないか た。2020年ビジョン関連業務は,それ自体,10年後の未来を考えるという観点から,様々な創意工夫を考えるということを主眼とするものであり,目の前の現実的な課題に対処するという性格のものではないから,「軽微な新規事業等の担当になった」あるいは「仕事内容の変化が容易に対応できるものであり,変化後の業務の負荷が大きくなかった」(心理的負荷としては「弱」相当)といえる。ただ,前記認定のとおり,部長提唱による特命業務であったこと,他の業務と並行して上記業務を進行させる責任を負っていたという点において相応の心理的負荷があったと考えられる。 D関連業務についてア 前記認定のとおり,本件労働者は,平成21年9月15日にCグループ長からD関連業務担当への異動の正式な告知を受け,同月20日には,Cグループ長との2WAYミーティングで,「中国の生産準備業務の立て直し」や「SVレス」等の話をされた。本件労働者は,平成21年9月末時点でCVJ生産準備業務歴18年目を迎えるベテランであったが,これまで海外業務の経験はなく,D関連業務は,本件労働者にとって初めての海外業務であったから,仕事の進め方に不安を抱き,相当なプレッシャーを受けた。また,担当者が2人とはいえ,スキルドパートナー(定年後再雇用)のLは,輸出に係る手続業務担当であり,主たる業務である改造検討等の技術- 47 -的な面は,本件労働者が一人で担当する体制であった。さらには,本件労働者がD関連業務を引き継いだ時期は,既存ラインの改造について部内での検討が終わり,これから現地工場との間で改造費用の見積もりの打ち合わせに入るという,生産準備業務の中で一番大変な時期であった。 本件労働者は,D関連業務に異動となって間もなくの平成21年10月中旬までにうつ病を発症したと認められるが, 造費用の見積もりの打ち合わせに入るという,生産準備業務の中で一番大変な時期であった。 本件労働者は,D関連業務に異動となって間もなくの平成21年10月中旬までにうつ病を発症したと認められるが,うつ病を患いながらも,休職することなく業務を続けた。 本件労働者は,D第5ライン不具合対応業務,期限が1か月延長された560L現調化業務と023A関連業務をほぼ期限どおりに完了させ,期限に間に合わない状態で推移していたが中国の法規制に対応する関係で発売予定が遅くなったことにより期限の点では余裕が生じた055A関連業務に取り組んだ。本件労働者は,平成21年12月以降も,Dからの自動段替え要求への対応,SVレスの問題等,解決されない課題を抱えたまま,苦悩した状態であった。 このような本件労働者の悩みに対し,上司であるB室長及びCグループ長が指導,支援を行ったと認めるに足りる証拠はない。 本件労働者は,海外業務が初めてであり,かつ,重要で困難な問題を抱えていたD関連業務を担当することになったところ,これは「仕事内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当する精神的負荷があった(心理的負荷としては「中」相当)といえる。 イ 被控訴人は,本件労働者は,遅くとも平成21年10月中旬にはうつ病を発症しているから,平成21年11月から12月にかけての出来事は,上記うつ病が業務上の心理的負荷により生じたか否かの検討において意味をもつともいい難い旨主張する。確かに,本件労働者は,D関連業務を担当してほどなくうつ病を発症している。 - 48 -しかし,発症後の同業務の内容を検討することは,同業務の発症直前の心理的負荷を検討するについての重要な事情たり得るのであって,その内容の検討が意味をもたないとはいえない。 本件パワハラについてア ,発症後の同業務の内容を検討することは,同業務の発症直前の心理的負荷を検討するについての重要な事情たり得るのであって,その内容の検討が意味をもたないとはいえない。 本件パワハラについてア 新型プリウス関連業務時本件労働者が,上記業務の進捗状況の報告などをするたびに,Cグループ長から,他の従業員の面前で,大きな声で叱責されたり,B室長からも,同じフロアの多くの従業員に聞こえるほどの大きな声で叱り付けられたりするようになっていたことは,軽視できない。 その程度は,同様の叱責を受けていたJをして,後日,本件会社の退職を決意させる有力な理由となるほどのものであり,本件労働者も,これを苦に感じており,また,Cグループ長及びB室長に対し,相談しにくさを感じていた。この点,Cグループ長は,大声で怒鳴り付けるようなことはしていない旨供述し(原審証人C),B室長は,本件労働者とは仕事のことで話すことはほとんどなく,叱った記憶もない旨供述する(乙12,原審証人B)ものの,自己の退職理由を具体的に説明するJの供述や本件労働者がN医師や控訴人に述べた内容に反するほか,Cグループ長及びB室長が厳しい口調であったとするE主任の供述(乙14,E主任)とも整合せず,採用できない。 Cグループ長による本件労働者への叱責及びB室長による本件労働者への上記叱責は,いずれもSPGi-3の自動組付ラインの不具合が収束しない中での業務に関するものではあるが,その態様は,Jが,本件労働者とJ以外に上記のような頻度,態様で叱責される者は,Cグループ長の場合は,他にはおらず,B室長の場合も,本件労働者とJの他には1人しかいなかったと感じるほどのものであ- 49 -ったから,「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり,その「態様や手段が社会通念に照ら ,B室長の場合も,本件労働者とJの他には1人しかいなかったと感じるほどのものであ- 49 -ったから,「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」であり,その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」と評価するのが相当である。 イ 2020年ビジョン関連業務時及びD関連業務時について本件労働者は,この間,Cグループ長から少なくとも週1回程度,B室長から2週間に1回程度の「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」で,その「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」を受けていたと評価するのが相当である。 ウ 上記認定のとおり,これらの上司の言動は,「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責」で「態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」といえ,個々的にみれは,その心理的負荷は少なくとも「中」には相当する。そして,それら精神的攻撃は,Cグループ長のみならず,B室長からも加えられている。そして,これらの行為は,平成20年末ころから本件労働者が本件発病に至るまで反復,継続されている。したがって,上記期間を通じて繰り返される出来事を一体のものとして評価し,継続する状況は心理的負荷が高まるものとして評価するならば,上司からの一連の言動についての心理的負荷は「強」に相当するというべきである。 被控訴人は,本件労働者の上記心理的負荷は,せいぜい「上司から,業務指導の範囲内である(強い)指導,叱責を受けた」にとどまるのであってパワハラには該当しない旨主張するが,被控訴人がその主張の前提とする事実関係の主張を必ずしも採用できないことは前記のとおりである。そして,前記認定の事実関係からすれば,Cグループ長やB室長の行為が,「職場におけ しない旨主張するが,被控訴人がその主張の前提とする事実関係の主張を必ずしも採用できないことは前記のとおりである。そして,前記認定の事実関係からすれば,Cグループ長やB室長の行為が,「職場におけるパワーハラスメント- 50 -に該当しないことが明らか」とはいえないし,「上司と部下の対立」でもなく,「業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責」とも認め難いから,被控訴人の主張は採用することができない。 また,被控訴人は,本件労働者のうつ病の発症時期が平成21年10月中旬であることを理由に,着目すべきは発病半年前の同年4月中旬から発病までの6か月間の出来事であって,それ以外の出来事は,本件労働者の心理的負荷として取り上げる必要性に乏しいなどと主張するが,パワハラの事象については,その開始時から繰り返される出来事を一体的,総合的に判断すべきものであり,被控訴人の上記主張は採用できない。 本件自殺に至る経緯本件労働者は,困難であった新型プリウス関連業務を,当初の目標を修正し,期限を延長してやり遂げた後,初めての海外業務であるD関連業務を実質一人で担当することになり,中国の事情も機械の内容も分からない状況の中,平成21年9月24日から直ちに取り組み始め,直後から期限の迫った業務をこなしていき,この新たな負荷を契機として平成21年10月中旬までにはうつ病を発症したが,その後も休職することなく業務に当たっていた。 また,2020年ビジョン関連業務が同年12月まで延長されることになったため,本件労働者は,厳しい残業規制(原則残業禁止)の中を,D関連業務と併行して2020年ビジョン関連業務を行うことになり,多くの会議に出席し,将来ビジョン及びそれに向けての道筋を示す「CVJ技術の棚」,「CVJロードマップ」を作成した 残業禁止)の中を,D関連業務と併行して2020年ビジョン関連業務を行うことになり,多くの会議に出席し,将来ビジョン及びそれに向けての道筋を示す「CVJ技術の棚」,「CVJロードマップ」を作成した。 本件労働者は,Dの現地担当者から,当時の会社の財務状況からして達成困難な要求をされ,また,本件会社からは,費用削減のためこれまで派遣していた専門家SVを派遣することなくD主体で改造す- 51 -るように指示されるなど,困難な課題が課せられ,板挟みの状態となっていた。しかし,本件労働者に対する直属の上司からの支援はなく,かえって,本件労働者は,Cグループ長及びB室長からは,平成21年1月からおよそ1年にわたり,継続したパワハラを受けていた。こういった悩みが,本件労働者の「仕事が進まない」,「どうしよう」といった焦燥感を強め,うつ病の症状を増悪させていった。そして,本件労働者は,平成22年1月11日に,平成21年6月1日以降原則残業禁止となって以降初めて,1時間の残業をし,同月▲▲日にも資料を作成するために1時間の残業をしてから帰宅し,翌朝いつものとおり家を出たが,有給休暇を取得して出社せず,山林で本件自殺をしたと認められる。 業務以外の心理的負荷及び個体側要因被控訴人は,本件労働者は,元々素因として脆弱性を有していた旨主張するところ,本件労働者は,N医師に対して,似た症状は以前にもあった旨述べたことが認められる。しかし,上記診察の際,控訴人は,同医師に対して,それについて半年位か1年前のことと伝えており,上記似た症状は,本件発病に関する心理的負荷を検討すべき期間内のことと考えられ,そのやりとりをもって本件労働者に精神的な脆弱性があったということは相当ではない。そして,他に,本件労働者に改正認定基準別表2「業務以外の心理的負 する心理的負荷を検討すべき期間内のことと考えられ,そのやりとりをもって本件労働者に精神的な脆弱性があったということは相当ではない。そして,他に,本件労働者に改正認定基準別表2「業務以外の心理的負荷評価表」記載の諸事情があったと認めるに足りる証拠はない。被控訴人の上記主張は採用できない。 まとめ前記のとおり,本件労働者は,新型プリウス関連業務により「達成は容易でないものの,客観的にみて努力すれば達成も可能であるノルマが課され,この達成に向けた業務を行った」といった心理的負荷を,- 52 -2020年ビジョン関連業務により「軽微な新規事業等の担当になった」あるいは「仕事内容の変化が容易に対応できるものであり,変化後の業務の負荷が大きくなかった」といった心理的負荷を受け,新型プリウス関連業務が一段落したところで,D関連業務により「仕事内容の大きな変化を生じさせる出来事があった」といった心理的負荷を受けた。そして,この間,長期間にわたり反復継続して,上司から「必要以上に厳しい叱責で他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」といった心理的負荷を受けていたところ,上記D関連業務はそれ自体も相当に困難な業務であり,上司の対応にも変化がなかったことから,同業務の担当となったことを契機として本件発病に至ったものと認めるのが相当である。上記各出来事の数及び各出来事の内容等を総合的に考慮すると,平均的労働者を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度のある精神的負荷を受けたと認められ,本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。 第4 結論よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当で る精神的負荷を受けたと認められ,本件労働者の業務と本件発病(本件自殺)との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。 第4 結論よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当ではなく,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消し,本件各処分を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官 古 久 保 正 人 - 53 -裁判官 水 谷 美 穂 子 裁判官 内 山 真 理 子
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