平成30(ワ)4764 株主代表訴訟事件

裁判年月日・裁判所
令和4年5月20日 大阪地方裁判所
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判決文本文66,608 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 第1事件被告Aは、補助参加人に対し、55億5900万円及びこれに対する平成29年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 第2事件被告Bは、補助参加人に対し、55億5900万円及びこれに対する平成2 9年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、大手ハウスメーカーである補助参加人が、真の所有者からC株式会社が後記の本件各不動産を買い受けたことを前提に、同社との間で本件各不動 産を代金70億円で買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、平成29年4月24日、同社に手付金として14億円を支払い、更に同年6月1日、同社に対して残代金として約49億円を支払ったが、実際には本件各不動産の真の所有者はC株式会社に本件各不動産を譲渡しておらず、本件売買契約に係る取引は詐欺グループが仕組んだ架空の取引であったことについ て(以下、補助参加人が本件売買契約の代金名下に金銭をだまし取られた上記の詐欺事件を「本件詐欺事件」という。)、補助参加人の株主である原告が、本件詐欺事件当時、補助参加人の代表取締役であった被告A及び取締役であった被告Bには、それぞれ取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があり、そのために本件詐欺事件により補助参加人に55億5900 万円の損害が生じたと主張して、被告らに対し、補助参加人の会社法423条 1項の損害賠償請求権に基づき、各自、補助参加人に対して55億5900万円及びこれに対する 人に55億5900 万円の損害が生じたと主張して、被告らに対し、補助参加人の会社法423条 1項の損害賠償請求権に基づき、各自、補助参加人に対して55億5900万円及びこれに対する代金支払日である平成29年6月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法)所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める株主代表訴訟に係る事案である。 なお、原告は、補助参加人の他の取締役2名に対しても、同様の訴えを提起 していたが、後にその訴えをいずれも取り下げた。 2 争いのない事実等(証拠等により認定した事実は認定に供した証拠等を各項の末尾に掲記する。)(1) 当事者等ア原告 原告は、少なくとも平成29年9月2日以降、継続して補助参加人の株式2000株を保有する補助参加人の株主である。 イ被告ら及び補助参加人(ア) 補助参加人補助参加人は、建築工事の請負及び施工、建築物の設計及び工事監理 等を目的とし、戸建住宅の建築やマンション分譲事業等で国内に広く知られている株式会社であり、東京証券取引所等にその株式を上場している上場会社である。 (イ) 被告ら被告Aは、平成18年4月、補助参加人の取締役に就任し、以後、取 締役として重任され、また、平成20年4月にはその代表取締役に就任した者である。被告Aは、補助参加人の取締役間の職務分掌において国内部門を統括し、本件詐欺事件当時、代表取締役社長として国内マンション事業の最高責任者であった。 被告Bは、平成16年4月、補助参加人の取締役に就任し、以後、取 締役として重任された者である。被告Bは、平成23年に取締役副社長 となり、平成24年には最高財務責任者に就任し、本件詐欺事件当時、経理財務部門の最高責 人の取締役に就任し、以後、取 締役として重任された者である。被告Bは、平成23年に取締役副社長 となり、平成24年には最高財務責任者に就任し、本件詐欺事件当時、経理財務部門の最高責任者であった。 (2) 補助参加人の組織及び関係者ア本社補助参加人は、本件詐欺事件発生当時、本社に、経営企画部、経理財務 部、不動産部、マンション事業本部及び法務部等を設置していた。 (乙42、弁論の全趣旨)(ア) 法務部法務部は、法務、株式及び知的財産管理に関する事項を掌理しており、本件詐欺事件発生当時の法務部長はDであった。(乙42、45) (イ) 不動産部不動産部は、販売用土地の購入、開発及び管理並びに不動産賃貸事業等の企画及び営業促進に関する事項を掌理しており、本件詐欺事件発生当時の不動産部長はEであった。(甲68、乙42)(ウ) マンション事業本部 マンション事業本部は、マンション事業の総合企画及び営業促進に関する事項を掌理する事業部門であり、本件詐欺事件発生当時のマンション事業本部長はFであった。マンション事業本部の下に、東京マンション事業部、名古屋マンション事業部、大阪マンション事業部及び福岡マンション事業部の4つの支店が置かれていた。(乙42、44) イ東京マンション事業部東京マンション事業部には、最も上位の役職として、東京マンション事業部長(支店長)が置かれ、その下に、総務部、営業次長、技術次長等の役職が置かれていた。営業次長は、東京マンション事業部長を補佐し、その指揮監督下にあって、その指令に基づき地域プロジェクト及び事業プロ ジェクト等の特命プロジェクト業務を管理する責任を負っていた。Gは、 本件詐欺事件発生当時の東京マンション事業部営業次長であっ 下にあって、その指令に基づき地域プロジェクト及び事業プロ ジェクト等の特命プロジェクト業務を管理する責任を負っていた。Gは、 本件詐欺事件発生当時の東京マンション事業部営業次長であった。(乙42、47)(3) 本件詐欺事件の概要ア本件各不動産本件詐欺事件の対象となった別紙物件目録記載1から4までの各土地並 びにその土地上の建物である同目録記載5から7までの各建物及び未登記建物等(以下、総称して「本件各不動産」という。)は、東京都品川区●丁目に所在し、JR●駅から徒歩約4分の距離に位置する不動産であり、旅館「H」として使用されていた。そのうち別紙物件目録記載1から4までの各土地(以下「本件各土地」という。)は、合わせると約600坪の面 積となるまとまった土地であった。 イ本件各不動産の所有者本件詐欺事件当時の本件各不動産の真の所有者は、Iであり、Iは、本件詐欺事件当時、本件各不動産の所有者として登記されていた。(甲4の1~7、弁論の全趣旨) ウ C株式会社等(ア) C株式会社は、平成22年10月12日に設立された不動産の売買、賃貸借、管理及び仲介等を目的とする株式会社であり、その代表者はJであった。C株式会社の本店は、従前、東京都千代田区●町●丁目●番●号●に置かれていたが、平成29年6月27日、東京都渋谷区●丁目 ●番●号●に移転し、さらに、同年8月14日、東京都港区●丁目●番●号●に移転した。(甲7の1~3)(イ) 株式会社Cは、平成20年10月8日に設立された株式会社であり、衣料用繊維製品の製造及び販売等を目的とし、不動産に関する事業は目的に挙げられていない会社であった。株式会社Cの代表者は、K(以下 「K」という。)であった。(甲7の1~4) 、衣料用繊維製品の製造及び販売等を目的とし、不動産に関する事業は目的に挙げられていない会社であった。株式会社Cの代表者は、K(以下 「K」という。)であった。(甲7の1~4) エ購入勧誘等(ア) Kは、平成29年3月末頃、Gに対し、本件各不動産についての情報を提供し、Iが本件各不動産を株式会社Cに売り、株式会社Cが補助参加人に70億円程度の代金で売却する意向があることを知らせた。しかしながら、真実は、Iは本件各不動産を株式会社CやKの関係者に売却 する意思を有していなかった(真のIではなく、補助参加人に対し「I」であると装って行動した人物を、以下「偽I」という。ただし、補助参加人が真の所有者であるIであると思っていた人物については、文脈に応じ、「I」という。)。 (イ) Kは、同年4月4日、Gに対し、Iの本人確認を行ったとする公正証 書(甲35。実際には、当該本人は偽Iであった。)及び偽Iと株式会社Cとの間の同月3日付け売買契約書(乙2)を送付した。 オ購入方針の決定東京マンション事業本部は、平成29年4月14日、本件各不動産の購入を進めることとした。 (以下、本件各不動産の真の所有者からKないしその関係会社が所有権を取得し、その転売を受けて補助参加人が本件各不動産の所有権を取得するという補助参加人が実現を目指した一連の取引を、「本件取引」という。)カ被告Aによる現地視察等被告Aは、平成29年4月18日、本件各不動産を視察した。また、同 日、本件各不動産の購入の承諾を求める稟議書(乙5。以下「本件稟議書」という。)について、マンション事業本部内の決裁が完了した。(乙5)キ各部長による本件稟議書の決裁本件稟議書について、平成29年4月19日、補助参加人の不動産部( 書(乙5。以下「本件稟議書」という。)について、マンション事業本部内の決裁が完了した。(乙5)キ各部長による本件稟議書の決裁本件稟議書について、平成29年4月19日、補助参加人の不動産部(E)、法務部(D)、経営企画部及び経理財務部の各部長が承認の決裁をした。 ク売主の変更 Kは、平成29年4月19日頃、Gに対し、Iから本件各不動産を買い受ける主体を株式会社CからC株式会社に変更する旨連絡し、補助参加人はこれを了承した。 そして、決裁中であった本件稟議書の「契約の相手」欄に「株式会社C」と記載されていたものが、「C(株)」と手書きで修正され、住所欄も「東 京都渋谷区●-●-●」と記載されていたものが、「東京都千代田区●-●-●」と手書きで修正された。(乙5、42)ケ被告Aによる本件稟議書の決裁被告Aは、平成29年4月20日、本件稟議書を承認する決裁をした。 コ Gと偽Iの接触 Gは、上記ケの決裁を受け、平成29年4月20日、K、J及び偽Iと面談した。この面談の際、C株式会社側の登記申請を代理する司法書士であるL司法書士及び補助参加人側の登記申請を代理する司法書士であるM司法書士が同席した。(乙42、弁論の全趣旨)サ本件売買契約の締結と手付金の支払 補助参加人は、平成29年4月24日、C株式会社との間で、本件各不動産をC株式会社から補助参加人が代金70億円で買い受ける旨の本件売買契約を締結し、同日、本件売買契約に基づき、本件売買契約に定められた手付金14億円を支払った。 本件売買契約では、補助参加人は、残代金56億円を同年7月31日ま でに支払うものとされており、他方、C株式会社は、残代金の支払と引換えに、別紙物件目録記載5から7までの各建物及び本件各土地上の未 売買契約では、補助参加人は、残代金56億円を同年7月31日ま でに支払うものとされており、他方、C株式会社は、残代金の支払と引換えに、別紙物件目録記載5から7までの各建物及び本件各土地上の未登記建物(以下、併せて「本件各建物」という。)を同日までに解体収去して更地にし、建物滅失登記を完了させるものとされていた。また、本件売買契約締結の前提として、IがC株式会社に対し本件各不動産を代金60億円 で売る旨の売買契約が締結されたとする売買契約書が作成されたが、当該 契約書の売主は実際は偽Iであった。 シ不動産仮登記本件各土地につき、平成29年4月24日、同日売買予約を原因とする、権利者をC株式会社とする所有権移転請求権仮登記(東京法務局品川出張所平成29年4月24日第▲号)がされ、さらに、同日、権利者を補助参 加人とする同所有権移転請求権の移転請求権仮登記(同出張所平成29年4月24日第▲号)がされた。 ス被告Bほかの回議者による決裁補助参加人の東京支社長は、平成29年4月24日に、N取締役及びO取締役は、同月25日に、被告Bは同月26日に、それぞれ本件稟議書を 決裁した。(甲1、乙5)セ補助参加人に対するI名義の通知書(内容証明郵便)の送付補助参加人は、平成29年5月10日、I名義の同月8日付け「御通知書」と題する内容証明郵便(乙10。以下「本件通知書1」という。)の送付を、同月11日、I名義の同月9日付け「御通知書」と題する内容証明 郵便(乙11。以下「本件通知書2」という。)の送付を、同月11日、I名義の同月10日付け「通知書」と題する内容証明郵便(乙12。以下「本件通知書3」という。)の送付を、同月23日、I名義の同月22日付け「原状回復催告書」と題する内容証明郵便(乙14 同月11日、I名義の同月10日付け「通知書」と題する内容証明郵便(乙12。以下「本件通知書3」という。)の送付を、同月23日、I名義の同月22日付け「原状回復催告書」と題する内容証明郵便(乙14。以下「本件通知書4」という。また、上記各通知書を併せて「本件各通知書」ともいう。)の送付を 受けた。 本件各通知書において、Iは、本件各不動産について、不動産登記簿上に記載された所有権移転請求権仮登記に係る売買予約の締結を否認していた。(乙10~12、14)ソ本件売買契約の残代金の決済日前倒しの判断 マンション事業本部は、平成29年5月30日、同年7月31日に予定 されていた本件売買契約の残代金の決済日を、本件各建物の収去費用7億円を留保した上で約2か月繰り上げて同年6月1日に行うこととし(以下、この決済日の繰上げを「残代金決済前倒し」という。)、被告Aは、この方針を了承した。 タ不動産登記申請のための書類の確認 Gは、平成29年5月31日、M司法書士とともに、K、L司法書士及び偽Iと面談し、翌日に予定された残代金決済に備えて必要な書類を確認したが、偽Iは、本件各不動産の権利証を持参せず、偽Iが選任したとする弁護士による本人確認情報(不動産登記法23条4項1号)によって、登記申請をすることとなった。(乙42、弁論の全趣旨) チ本件売買契約の変更契約締結と残代金決済(ア) 補助参加人は、平成29年6月1日、C株式会社との間で、本件売買契約の代金支払時期等を変更する旨の変更契約を締結し、同変更契約に基づき、C株式会社に対し、残代金56億円のうち49億円と固定資産税・都市計画税の精算金819万3309円の合計49億0819万3 309円を支払った。残代金7億円は、本件売買契約における合 基づき、C株式会社に対し、残代金56億円のうち49億円と固定資産税・都市計画税の精算金819万3309円の合計49億0819万3 309円を支払った。残代金7億円は、本件売買契約における合意のとおり、本件各建物の解体収去等と引換えに支払われることとされた。 なお、上記49億0819万3309円は小分けにされた預金小切手により支払われたものであるが、そのうち、約7億4900万円の預金小切手は、偽Iが補助参加人から新築マンションを購入する代金の支払 として補助参加人に戻されたため、同日、現実にC株式会社側に売買代金等の支払として交付された預金小切手の総額は41億5848万5309円であった。また、C株式会社と補助参加人は、東京法務局品川出張所において、本件各不動産(未登記建物は除く。)についての所有権移転登記手続の申請(以下「本件登記申請」という。)をした。(甲33、 49、51、乙23、42、弁論の全趣旨) (イ) 上記の残代金決済の際、偽Iが同席した。また、補助参加人は、従業員を本件各不動産に向かわせていたが、上記の残代金決済の直前、同従業員が警察官に任意同行を求められるという事態が生じ、この事態が発生したことは代金決済中であった補助参加人の担当従業員に伝えられたが、決済は続行された。 ツ登記申請の却下東京法務局品川出張所登記官は、平成29年6月9日、補助参加人及びC株式会社による本件登記申請を却下した。 (4) 補助参加人に生じた損害額本件詐欺事件において補助参加人は詐欺グループに合計55億5900万 円を支払っており、本件詐欺事件により補助参加人には同額(この金額は、本件詐欺事件の後である平成29年9月7日に発表された補助参加人の平成30年1月期第2四半期短信において本件詐 5900万 円を支払っており、本件詐欺事件により補助参加人には同額(この金額は、本件詐欺事件の後である平成29年9月7日に発表された補助参加人の平成30年1月期第2四半期短信において本件詐欺事件による損失として計上された特別損失の金額である。)の損害が生じた。 (5) 提訴請求 ア被告A関係(ア) 原告は、平成30年3月5日、補助参加人の監査役に対し、会社法847条1項に基づき、本件詐欺事件について補助参加人の最高位の業務執行責任者である被告Aが本件売買契約を決裁した経営判断が誤りであり、従業員による権利者の本人確認等を十分に行わせるべき監視監督義 務を怠ったことなどを理由として、被告Aに対する責任を追及する訴えの提起を請求した。 補助参加人の監査役は、平成30年4月19日頃、原告に対し、「提訴請求書に対する回答書」と題する文書をもって、被告Aに対する訴えの提起をしない旨回答した。(甲9の1・2、甲10) (イ) 原告は、補助参加人が上記提訴請求の日から60日を経過しても同請 求に係る訴えを提起しなかったため、平成30年5月31日、第1事件に係る訴えを提起した。(顕著な事実)イ被告B関係(ア) 原告は、平成30年4月20日、補助参加人の監査役に対し、会社法847条1項に基づき、本件詐欺事件について補助参加人の副社長で財 務部門の統括者である被告Bが本件売買契約について多額の資金決済のために小分けされた預金小切手を用意するなどした経営判断が誤りであり、従業員による権利者の本人確認等を十分に行わせるべき監視監督義務を怠ったことなどを理由として、被告Bに対する責任を追及する訴えの提起を請求した。 補助参加人の監査役は、平成30年6月11日頃、原告に対し、「不提訴理由 を十分に行わせるべき監視監督義務を怠ったことなどを理由として、被告Bに対する責任を追及する訴えの提起を請求した。 補助参加人の監査役は、平成30年6月11日頃、原告に対し、「不提訴理由通知書」と題する文書をもって、被告Bに対する訴えの提起をしない旨回答した。(甲12の1・2、甲13)(イ) 原告は、補助参加人が上記提訴請求の日から60日を経過しても同請求に係る訴えを提起しなかったため、平成30年8月31日、第2事件 に係る訴えを提起した。(顕著な事実)ウ被告らに関する2回目の提訴請求原告は、平成31年4月12日、補助参加人の監査役に対し、会社法847条1項に基づき、本件詐欺事件について、内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠、被害回復措置についての任務懈怠及び被害拡 大防止についての任務懈怠を内容とする善管注意義務違反を理由として、被告らに対する責任を追及する訴えの提起を請求した。 補助参加人の監査役は、令和元年6月10日頃、原告に対し、「提訴請求書に対する回答書」と題する文書をもって、被告らに対する訴えの提起をしない旨回答した。(甲41、44の1・2) 3 争点 (1) 被告Aに関する任務懈怠責任の成否(争点1)(2) 被告Bに関する任務懈怠責任の成否(争点2) 4 争点1(被告Aに関する任務懈怠責任の成否)に関する当事者双方の主張(1) 原告の主張被告Aには、次のとおり、①本件各不動産の購入に関し誤った経営判断を したことによる善管注意義務違反ないし忠実義務違反、②従業員に対する監視監督義務の懈怠による善管注意義務違反ないし忠実義務違反、③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠による善管注意義務違反ないし忠実義務違反、④被害回復措置について 反、②従業員に対する監視監督義務の懈怠による善管注意義務違反ないし忠実義務違反、③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠による善管注意義務違反ないし忠実義務違反、④被害回復措置についての善管注意義務違反ないし忠実義務違反、⑤被害拡大防止についての善管注意義務違反ないし忠実義務違反があ り、本件詐欺事件により補助参加人に生じた損害を賠償すべき責任を負う。 ア ①経営判断の誤りに係る任務懈怠(ア) 本件稟議書の決裁が経営判断の誤りであったことa(a) 被告Aが現地を視察してから本件稟議書が作成されたこと東京マンション事業部は、平成29年4月14日、本件各不動産 を取得する方針を決め、同月17日の朝までに稟議書を作成すること、同月18日に被告Aが行う予定であった視察対象に本件各不動産を組み込むことを決定した。同事業部は、急速なスピードで本件稟議書を作成し、同事業部の担当者及びマンション事業本部の担当者の押印を経て、マンション事業本部長であるFが、被告Aが現地 視察をした日である同月18日、本件稟議書に押印した。そして、本件稟議書は、大阪に所在する補助参加人の本社に送付された。 本社では、同月19日、不動産部長であるEが本件稟議書を受け付け、同日中に経営企画部長、経理財務部長及び法務部長(D)が押印し、至急対応の要請を受けていたEは、残る回議者4名(東京 支社長、他の取締役2名及び被告B)への回付を後回しとして、同 月20日、自ら被告Aに持参して決裁を得た。 (b) 「社長視察済み」であったことにより稟議決裁が形骸化したこと被告Aは、平成29年4月18日に現地視察をし、本件各不動産を取得するとの事実上の意思表明をした。このことが、東京マンション事業部を急がせ、本社のチェック機能を ことにより稟議決裁が形骸化したこと被告Aは、平成29年4月18日に現地視察をし、本件各不動産を取得するとの事実上の意思表明をした。このことが、東京マンション事業部を急がせ、本社のチェック機能を形骸化させた。本来は、 本社では、不動産部が受理し、関係先(経営企画部長、経理財務部長、法務部長)が承認し、回議者(副社長・専務・常務・東京支社長)の回議の後、最終決裁者(社長)の順番で決裁を完了すべきところ、事業部では僅か二日間で、本社でも同月19日に合計7人の押印がされた。このような回覧・審議では、各人が十分に検討する 時間はなく、それを許さない「社長現地視察済み」の「社長案件」ないし「A案件」であったといえる。 (c) 被告Aが本件稟議書決裁の際に不審情報を考慮して質問や調査を促すべきであったのにしていないこと被告Aが本件稟議書を決裁した際の重要な不審情報として、次の ものがあった。 公証人が偽IをIと確認したとする公正証書は、公証人が任意に提示された身分証明書を確認しただけのものであり、証明書の真偽までは判断しないものであるから、その信用性を十分吟味すべきでものであった。 本件取引の構造からも不審な点があった。すなわち、補助参加人への売主は真の所有者ではなく中間業者であるが、地主も中間業者も不動産の素人であり、中間業者が介入する必要がないものであった。当初の中間業者は株式会社Cであるが、この会社は「アパレル系の会社」と本件稟議書にメモが張られていた程度の情報しかなく、 被告Aが決裁する段階では、素性のわからないC株式会社に変更さ れていた。売らないと評判の地主から中間業者が格安で不動産を取得できる理由も不明であった。中間業者が地主の目の前で10億円もの利益を得ること、変更後の中間業 わからないC株式会社に変更さ れていた。売らないと評判の地主から中間業者が格安で不動産を取得できる理由も不明であった。中間業者が地主の目の前で10億円もの利益を得ること、変更後の中間業者であるC株式会社は政治家の妻が取締役で政治家の事務所が本店とされているペーパーカンパニーであるといった不審点があった。被告Aは現地視察をしてから 稟議決裁までの間、特段追加の説明を受けていないようであるが、当然に質問すべき不審点が数多く存在するにもかかわらず、誰も説明しないのであるから、被告Aとしては、自ら質問をすべきであった。 b 被告Aによる本件稟議書の決裁の過程・内容が著しく不合理なもので あったこと上記(a)及び(b)のとおり被告Aが本件稟議書を決裁するに当たって、「被告Aが現場を視察した」という事情により、稟議が形骸化していた上、上記(c)で挙げた不審情報に本来対応すべきであるのに何ら対応していなかったのであるから、本件稟議書を決裁した被告Aの判断の 過程・内容は著しく不合理なものであった。 したがって、平成29年4月20日に本件稟議書を決裁した被告Aの経営判断は、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠に当たるということができる。 (イ) 残代金決済前倒しを了承したことが経営判断の誤りであったこと a(a) 本件各通知書の送付本件各通知書は、内容証明郵便の方法で補助参加人に送付されていたが、内容証明郵便は、後の紛争や裁判に備えて利用されることが多く、受け取る側は相応に身構える必要があるものである。また、本件各通知書は、I本人の名義のものであり、本件通知書1には、 警告文とともに、「売主本人の同一性及び本人の意思確認を何らする ことなく、上記手続をとる 要があるものである。また、本件各通知書は、I本人の名義のものであり、本件通知書1には、 警告文とともに、「売主本人の同一性及び本人の意思確認を何らする ことなく、上記手続をとること自体、驚いております。」という本人確認への注意喚起がされていた。本件通知書2は、「登記原因証明情報の売主」及び「委任状の委任者」が偽造であると指摘しており、具体的である上、本件通知書2は、L司法書士にまで送付されていた。本件通知書3は、Iの印鑑登録証のカード番号を記載し、補助 参加人が別人と取引していることを指摘するものであった。本件通知書4は、本件各不動産の課税価格が高額であり「同一性及び売却・登記の意思につき一般の不動産取引とは本質的に異なり、極めて高度な注意義務があります。」と警告していた。 (b) ブローカーの接触 「株式会社P」の「Q」と称する人物(以下「Q」という。)が、平成29年5月11日、東京マンション事業部を訪れ、「Kに本件取引から外された」旨の申入れをした。また、「株式会社R代表取締役S」と称する人物(以下「S」という。)が、同月12日、補助参加人の東京支社を訪れ、Kと補助参加人との取引は不適切なもので、 自身が介在して解決すると申し入れた。 (c) 関連会社からの情報補助参加人の重要な関連会社で100パーセント子会社の代表者は、平成29年5月12日、Eに対し、「当社(補助参加人)が支払った手付金が地主には少ししか支払われていないという噂があるが、 仲介相手は大丈夫か」と連絡し、Eは、Fにこの連絡を伝えた。不動産を営む会社の代表者からの重要な情報提供であった。 (d) その他の情報補助参加人は、平成29年5月19日、本件各不動産の中を見ることができたが、その際、I本人は来ず、弁護 連絡を伝えた。不動産を営む会社の代表者からの重要な情報提供であった。 (d) その他の情報補助参加人は、平成29年5月19日、本件各不動産の中を見ることができたが、その際、I本人は来ず、弁護士だけが裏口を開け て内部に入った。なお、補助参加人は、同月23日付で偽Iから本 件各不動産の所有者は自身である旨の確約書(甲50、以下「本件確約書」という。)を取得したが、詐欺師から「自分は詐欺師ではない」という文書を取得しても無意味である。 (e) 被告Aに伝えられたことが明らかな情報仮に被告Aが上記(a)から(d)までの情報を知らなかったとしても、 被告Aは、残金決済前倒しを了承する旨の判断時において、「●土地の件」と題する説明資料(乙13。以下「本件説明資料」という。)及び説明図(乙15。以下「本件説明図」という。)に記載された情報には接していた。また、被告Aは、平成29年5月12日、Fから、電話で、本件説明資料を踏まえてQを知っているか等の質問を 受けたようであるし、同月30日、Fから、本件説明図を踏まえて説明を受けていた。 b 被告Aによる残代金決済前倒しの了承の判断の過程・内容が著しく不合理なものであったこと被告Aは、残代金決済前倒しを了承する前の段階で、これらの極め て重大なリスク情報に接していたのであるから、非常事態として、一旦購入手続を中断して、徹底的な調査を行うべきであった。この時点で問題となっているのは、法的な権利関係ではなく、実質的な契約相手である地主の本人性であり、あらゆる手段で本人性を確認する必要があった。被告Aは、平成29年5月12日及び同月30日の2回、 Fと接触したとき、部下の報告・説明を安易に鵜呑みにせず、自ら積極的に情報を収集して「契約続行中止」という 本人性を確認する必要があった。被告Aは、平成29年5月12日及び同月30日の2回、 Fと接触したとき、部下の報告・説明を安易に鵜呑みにせず、自ら積極的に情報を収集して「契約続行中止」という判断をすべきであったにもかかわらず、そのような判断をせず、残代金決済前倒しの了承をした被告Aの判断の過程・内容は著しく不合理なものであった。 したがって、平成29年5月30日に残代金決済前倒しを了承した 被告Aの経営判断は、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義 務に違反する任務懈怠に当たるということができる。 イ ②従業員に対する監視監督義務に係る任務懈怠上記アのとおり、本件取引においては、多数の不審情報があったのであるから、被告Aは、中間業者の素性等を徹底的に調査して、リスク情報を洗い出し、調査・分析するよう、F以下担当従業員に指示すべき義 務があった。また、被告Aには、売主の本人性についても、担当従業員に売主からどのような文書を徴求したのかの説明を求め、本件確約書を実際に見て、無意味な文書であることを指摘して調査を徹底させるべき義務があった。 しかるに、被告Aは、このような従業員に対する監視監督義務の履行 を怠り、何ら調査等も指示しなかったのであるから、被告Aには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 ウ ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務に係る任務懈怠(ア) 内部統制システム(リスク管理体制)の構築が不十分であったこと 補助参加人の組織規則上、本社管理部門の不動産部は、販売用土地の購入に関する審査を行い、契約書作成等の法務関連業務は法務部が、預金小切手の出納管理は経理財務部が所管しているようである。補助参加人の稟議規則 人の組織規則上、本社管理部門の不動産部は、販売用土地の購入に関する審査を行い、契約書作成等の法務関連業務は法務部が、預金小切手の出納管理は経理財務部が所管しているようである。補助参加人の稟議規則上、本件稟議書は不動産部が稟議事務主管部署となっており、不動産部は事務取扱責任者として形式的及び実質的審査を行い、意 見を付すことができるとされている。補助参加人では、不動産事業マニュアルを作成し、補助参加人での不動産取得の手順を定めているようである。そうであるならば、本件においても、不動産部に対し、不審情報が隠すことなく集積されて十分な審査を行うことができていれば、本件取引が詐欺であることは少なくとも残代金決済前に判明することが期待 できたが、稟議規則上、不動産部は、意見を付すことができるだけにと どまっており、不動産部による歯止めが利かない構造になっていたという欠陥があった。 本件取引については、詐欺グループすら補助参加人のような大企業が騙されるとは思わなかったというのであり、補助参加人のリスク管理体制は、構築されていたとしても、実効性がなかった。少なくとも、従業 員が、内容証明郵便が到達していることを決裁権者に秘匿したり、ペーパーカンパニーを中間業者にすることを許容したり、警察沙汰になっているにもかかわらず多額の代金決済を現場の判断だけで続行したり、高額の預金小切手での決済を現場の判断だけで許容したり、不審情報が多数ある中で残代金決済前倒しという自らリスクを高める行動に出ること を許容したという事態が発生しており、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していたとはいえない。 (イ) 内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能するよう構築する義務を怠ったことこのように、補助参加人の おり、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していたとはいえない。 (イ) 内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能するよう構築する義務を怠ったことこのように、補助参加人の内部統制システム(リスク管理体制)には 欠陥があり、機能していなかったのであるから、代表取締役かつ業務担当取締役であった被告Aには、上記(ア)のような内部統制システム(リスク管理体制)の機能欠如を改め、本件取引が中止されるような内部統制システム(リスク管理体制)を構築すべき義務であったということができる。しかるに、被告Aはかかる義務を怠ったのであるから、被告Aに は、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 エ ④被害回復措置についての任務懈怠(ア) C株式会社等に対して被害回復措置を取るのが遅れたこと補助参加人は、本件詐欺事件の発覚後しばらくしてからC株式会社の 預金等について仮差押えの申立てをした。C株式会社には計算上10億 円程度の現金が取り分として残ったはずであるが、上記仮差押えは大半が功を奏せず、その後は特段の手立てが取られなかった。 補助参加人は、原告等からの指摘を受け、令和元年末頃に至り、C株式会社、K及びJを被告とする訴えを提起したが、訴え提起の時点で既に本件詐欺事件の発生から2年6か月が経過しており、C株式会社の財 産は散逸していたであろうし、訴状等の送達にも困難があったようである。被害回復措置の実施としては、遅いといわざるを得ない。 このように、被告Aは、補助参加人の代表取締役であるとともにマンション事業の業務担当取締役として、C株式会社、K及びJに対して直ちに被害回復のための措置を取るべき義務があったのにこれを怠ってお り うに、被告Aは、補助参加人の代表取締役であるとともにマンション事業の業務担当取締役として、C株式会社、K及びJに対して直ちに被害回復のための措置を取るべき義務があったのにこれを怠ってお り、被告Aには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 (イ) 他の被害回復措置を取っていないこと本件取引には、偽IとC株式会社との間の登記申請を担当した司法書士や、C株式会社と補助参加人との間の登記申請を担当した司法書士が 存在したのであるから、これらの者に対する損害賠償請求をすべきである。また、偽Iが本件各不動産の権利証を持参せず、偽Iが選任したとする弁護士による本人確認情報の方法で決済したことについて、同弁護士に対する損害賠償請求をすべきである。このような専門家は専門家賠償責任保険に加入していることが多く、それによる被害の回復も考えら れたところである。 このように、被告Aは、上記の司法書士及び弁護士に対する損害賠償請求をすべき義務があったのにこれを怠っており、被告Aには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 オ ⑤被害拡大防止についての任務懈怠 (ア) 被害を最小限に食い止めることができた端緒補助参加人は、平成29年6月1日、残代金約49億円を預金小切手で決済するに当たり、補助参加人の従業員を本件各不動産に向かわせていたが、残代金決済の直前、同従業員が警察官に任意同行を求められるという事態が生じ、この事態が発生したことは代金決済中の補助参加人 の担当従業員に伝えられたが、決済は続行された。また、補助参加人の従業員は、上記で求められた任意同行に応じて赴いた警察署において、真実の所有者で この事態が発生したことは代金決済中の補助参加人 の担当従業員に伝えられたが、決済は続行された。また、補助参加人の従業員は、上記で求められた任意同行に応じて赴いた警察署において、真実の所有者であるIの代理人から、本件各不動産を売却していないという事情を聞いた。 (イ) 支払ってしまった金銭をいくらかでも回収できた可能性があること 上記(ア)の時点で、詐欺被害に遭ったことを預金小切手の振出銀行に伝えてしかるべき措置を取れば、K側での預金小切手の現金化を防止することができたにもかかわらず、これがされていない。 被告Aは、本件詐欺事件の事実の報告を受け、直ちに預金小切手の換金防止措置を取るよう指示すべき義務があったのにこれを怠っており、 被告Aには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 (2) 被告ら及び補助参加人の主張ア ①経営判断の誤りがないこと(ア) 経営判断の原則及び信頼の原則 a 経営判断の原則一般に、取締役の経営判断においては、一定範囲の裁量が認められており、当該裁量の範囲内の行為は善管注意義務・忠実義務に違反しないと解されている(いわゆる「経営判断の原則」)。そして、取締役の経営判断が裁量の範囲から逸脱し、善管注意義務違反・忠実義務違 反が認められるか否かの判断基準としては、当該取締役の判断の過程・ 内容が取締役として著しく不合理なものであったか否かという基準が採用されるべきであり、取締役の経営判断の前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析・検討)に不注意な誤りがあり合理性を欠いているか否か(事実認識の合理性)及びその事実認識に基づく当該取締役の判断の推論過程及び内容が明らかに不合理か否か(判断過 程 の過程(情報収集とその分析・検討)に不注意な誤りがあり合理性を欠いているか否か(事実認識の合理性)及びその事実認識に基づく当該取締役の判断の推論過程及び内容が明らかに不合理か否か(判断過 程の合理性)という観点からの検討が必要である。 b 信頼の原則今日の大規模化した企業組織においては、取締役の行った情報収集、分析、検討などに不足や不備がなかったかどうかについては、分業と権限の委任により広範かつ専門的な業務の効率的な遂行を可能とする 大規模組織における意思決定の特質が考慮に入れられるべきである。 下部組織が求める決裁において、意思決定権者は、下部組織の行った情報収集、分析、検討を基礎として自らの判断を行うことが許されるべきである(信頼の原則)。具体的には、取締役は、特段の事情のない限り、各部署において期待された水準の情報収集、分析、検討が誠実 になされたとの前提に立って自ら意思決定をすることが許されるというべきであり、この特段の事情の有無は、当該取締役の知識・経験・担当職務・案件とのかかわり等を前提に、当該状況に置かれた取締役がこれらに依拠して意思決定を行うことに、当然に躊躇を覚えるような不備・不足があったか否かにより判断すべきである。 (イ) 本件稟議書の決裁に経営判断上の誤りなどないことa(a) 被告Aが現地を視察したことは稟議決裁に特段の影響を与えておらず、決済が形骸化していたともいえないこと平成29年4月18日午後の物件視察においては、Fから被告Aに対し、Iと補助参加人との間に株式会社Cが介在するという情報 がもたらされた。しかしながら、所有者との間に第三者が介在する 取引自体は特段不合理ではない上、被告Aは、Fが決済を同時に行うのでIの本人確認及び売却意思確認ができていれ いう情報 がもたらされた。しかしながら、所有者との間に第三者が介在する 取引自体は特段不合理ではない上、被告Aは、Fが決済を同時に行うのでIの本人確認及び売却意思確認ができていれば株式会社Cの信用はそれほど問題にならないという説明をしたのに対し、不動産取引の経験が豊富なFがK及びIに直接会って本人の意思を確認するよう慎重な対応を取ることを指示した。このように、被告Aにと って、物件視察の段階でFが直接本人との対面による確認を行うなど慎重な対応を取るよう指示すれば、その指示に従って本件取引が適切に実行されるであろうと期待することは自然なことであるから、この段階で、Fの説明ないし行動に依拠することに、当然に躊躇を覚えるような不備・不足があったとはいえない。 また、補助参加人の稟議規則上、不動産の稟議においては、本社不動産部が事務主管部署となり、その長である不動産部長は、審査が緊急を要するとき、回議者の代行者を指定し若しくはその回議を省略して他の回議者へ回付し又は直ちに決裁権者に提出することができると定められており、実際に本件と同様に全ての回議者に対し 事後回付された不動産購入稟議も少なくない。このように、本件稟議書による稟議が形骸化していたという事情はない。 (b) 本件稟議書の決裁の際に不審情報を考慮して質問や調査を促すべきであったとはいえないこと被告Aが平成29年4月20日に本件稟議書を決裁した際、被告 Aは、代表取締役社長としての立場から、本件取引の採算性及び相場観を判断する上で必要な情報を中心に確認した。本件稟議書上、契約の相手方に関して手書きで変更が記載されていたこと、C株式会社が宅地建物取引業者でないこと、本件各不動産の所有者(I)が補助参加人の取引の直接の相手方ではないこ を中心に確認した。本件稟議書上、契約の相手方に関して手書きで変更が記載されていたこと、C株式会社が宅地建物取引業者でないこと、本件各不動産の所有者(I)が補助参加人の取引の直接の相手方ではないことは、本件取引の採 算性や相場観の判断に影響を与える情報ではなく、これらの記載に ついてEから何ら補足説明もなかったことから、被告Aがこれらの記載について認識していないとしても、この時点における被告Aの事実認識の過程に不注意や誤りはなく、事実認識に不合理な点があったとはいえない。 b 被告Aの意思決定の過程・内容に明らかな不合理がないこと 以上のとおり、Fによる物件視察の際の説明や本件稟議書の記載には、被告Aが本件売買契約の決裁権者として本件売買契約を承認する旨決裁することを躊躇したり、判断を留保したりすべきであると考えられるような不自然な点や情報の欠落があるとはいえない。このような事実認識を踏まえ、被告Aが、代表取締役として本件売買契約の採 算性や相場観から検討し、本件売買契約を締結することに問題がないとの判断をすることには、その推論過程に不合理な点があるとはいえない。 (ウ) 残代金決済前倒しを了承したことに経営判断上の誤りなどないことa 被告Aが残代金決済前倒しを了承するまでの間に認識していた事実 被告Aが残代金決済前倒しを了承するまでの間に認識していた事実についてみると、被告Aは、まず、平成29年5月12日のFからの電話及びその前に提供された本件説明資料により、本件取引についてブローカー的人物(株式会社PのQ)から連絡があったことや、様々な手紙が来ていること、司法書士も交えて複数の方法で本人確認を行 っていること、さらに本人確認を行う予定であることを知ったが、内容証明郵便が3通到達 式会社PのQ)から連絡があったことや、様々な手紙が来ていること、司法書士も交えて複数の方法で本人確認を行 っていること、さらに本人確認を行う予定であることを知ったが、内容証明郵便が3通到達していることは知らなかった。同日のDに対する電話により、DとFが相談していることを知った。次に、同月30日のFとの車中面談及びその前に提供された本件説明図により(ただし、本件説明図はFの説明にほとんど使用されていない。)、嫌がらせ が発生していることや、Fとしてはこの嫌がらせを排除するためには 残代金の決裁を前倒しすることがよいと判断したことを知り、残代金決済前倒しについて法務部や顧問弁護士も了解していることを知った。 内容証明郵便が再度到達したことは知らなかった。 b 被告Aの認識した事実に依拠して意思決定を行うことに当然に躊躇を覚えるような不備・不足はなかったこと 被告Aは、上記a の認識に基づき、平成29年5月12日の段階では、Fに対しDと相談するよう指示し、Dに対し連携の確認をした。 このような手立てをとった被告Aが、本人確認を含め本件取引が適切に実行されることを期待するのは自然であり、被告Aがかかる期待を前提に意思決定をすることに当然に躊躇を覚えるような不備・不足が あったとはいえない。また、同月30日の段階では、法務部や弁護士の見解を踏まえたことを確認したことにより、被告Aが本人確認を含む本件取引のプロセスが適切に実行されていると信頼するのは自然なことであって、かかる信頼に依拠して意思決定を行うことに当然に躊躇を覚えるような不備・不足があったとはいえない。 c 被告Aによる判断の推論過程及び内容に明らかに不合理な点はないことF自身、本件取引が真の所有者からの転売であると確信していた。 その 躇を覚えるような不備・不足があったとはいえない。 c 被告Aによる判断の推論過程及び内容に明らかに不合理な点はないことF自身、本件取引が真の所有者からの転売であると確信していた。 そのFの説明を聞いた被告Aが、独自に、本件各不動産の真の所有者との取引ではない可能性を認識することが可能であったとはいえない。 残代金決済前倒しについても、それを行うべきではないという推論を働かせるに足りる情報に接していない。したがって、残代金決済前倒しを制止しなかった被告Aの判断につき、その推論過程及び内容に不合理な点はない。 イ ②従業員に対する監視監督義務の懈怠がないこと 上記ア(ア)のとおり、被告Aには経営判断の原則及び信頼の原則が適用 される。そのため、被告Aは、特段の事情がない限り、各部署において期待された水準の情報収集、分析、検討が誠実になされたとの前提に立つことが許される。そして、上記ア(イ)及び(ウ)のとおり、本件取引において被告Aが認識していた事実は、いずれも、情報収集、分析、検討の内容に疑いを差し挟むべき契機とはなりえず、特段の事情も存在しない のであるから、当該状況下においては、従業員の行為の適否を取締役自身が積極的に調査する義務や調査結果を踏まえて是正する義務が発生したとはいえない。このような状況下において積極的調査義務や是正義務が生じると解することは、信頼の原則を認めた意義が失われ、補助参加人のような大規模な企業において取締役が適切に経営を行うこと自体が 困難となる。 ウ ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠がないこと(ア) 内部統制システム(リスク管理体制)構築義務大会社で取締役会設置会社でもある補助参加人においては、取締役会決議により、取締役の職務執行が法 テム(リスク管理体制)構築義務の懈怠がないこと(ア) 内部統制システム(リスク管理体制)構築義務大会社で取締役会設置会社でもある補助参加人においては、取締役会決議により、取締役の職務執行が法令及び定款に適合することを確保す るための体制等の整備が義務付けられている(会社法362条4項6号、同条5項、会社法施行規則100条)。そして、取締役が負うべき会社のリスク管理体制の適切性は、①通常想定されるリスクの管理体制が整備されていたか、②特殊なリスクを防止し得るようなリスクの管理体制を構築すべきといえる特段の事情が存在したか、及び③整備されたリスク 管理体制が適切に運用されていたか、により判断されるというべきである。 (イ) 補助参加人における本件取引当時の内部統制システム(リスク管理体制)a 事業部門における内部統制システム(リスク管理体制) 補助参加人の社内規則上、マンション用地の購入は、マンション事 業本部の掌理事項とされ、東京近郊のマンション用地については、マンション事業本部の支店として位置づけられていた東京マンション事業部が担当していた。 東京マンション事業部では、マンション用地の購入方針を決定するときは、必要な調査や社内関係者による稟議申請事前打合せを行い、 不動産を購入する稟議書の作成は、稟議規則及びマニュアルに従い、東京マンション事業部内の担当者及び役職者が内容を確認していた。 そして、稟議書は、東京マンション事業部からマンション事業本部に送られ、マンション事業本部の役職者の確認を受けていた。 マニュアルについては、不動産事業マニュアルや犯罪収益移転防止 法対応マニュアルがあり、本人確認書類によって本人確認をすることについて、詳細に定められていた。東京マンション事業部に ていた。 マニュアルについては、不動産事業マニュアルや犯罪収益移転防止 法対応マニュアルがあり、本人確認書類によって本人確認をすることについて、詳細に定められていた。東京マンション事業部においては、フローチャートが準備され、東京マンション事業部総務部を窓口として事業部独自に法律事務所と顧問契約を締結し、事業部内の従業員が総務部を通じて法律相談を依頼することができる体制を備えていた。 b 本社機能における内部統制システム(リスク管理体制)マンション事業本部が稟議書を提出すると、本社不動産部が受理し、形式面及び実質面を確認した。売買契約締結時や決済時において必要となる手付金や残代金の資金を本社に要請する場合や決済日を変更する場合には、不動産部に申請することとされていた。首都圏における 10億円以上の不動産購入取引については、本社の経営企画部、法務部及び経理財務部が関係先として、それぞれの観点から審議した。 販売用不動産の購入のうち、100億円以上の分譲用土地の購入は、取締役会付議事項とされ、10億円以上の分譲用土地の購入は、回議者として取締役の審査を要し、社長決裁事項とされていた。ただし、 稟議規則においては、審査が緊急を要するときは、回議者の代行者を 指定し若しくはその回議を省略して他の回議者へ回付し又は直ちに決裁権者に提出するという事後回付が許容されていた。事後回付が行われたときも、回議者は後にそれぞれ所管する観点から審査を行った。 本社法務部には弁護士資格を有する従業員を配置し、複数の法律事務所と顧問契約を締結して法律相談に応じることが可能な体制であっ た。補助参加人に送付された文書のうち、あて先部署の記載がなく内容が不明な文書は、法務部において処理していた。 (ウ) 内部統制シス と顧問契約を締結して法律相談に応じることが可能な体制であっ た。補助参加人に送付された文書のうち、あて先部署の記載がなく内容が不明な文書は、法務部において処理していた。 (ウ) 内部統制システム(リスク管理体制)は十分に機能していたこと本件詐欺事件は、巧妙に組織された詐欺グループにより、権利及び本人確認資料として重要な登記済み権利証並びに有印公文書である旅券 (パスポート)までもが精巧に偽造されており、補助参加人において通常想定されるリスクを超えた非常に特殊かつ悪質な事件であった。とりわけ、偽造旅券については、司法書士が紫外線照射の方法によってその真贋を確認したものの、偽造であることを見抜くことができないほど精巧に偽造されていた。補助参加人は、設立以来、地面師による詐欺被害 を受けたことがなく、本件取引当時、不動産業界においても本件詐欺事件に比類するような被害が取りざたされているという状況にはなかった。 したがって、本件のように特殊かつ悪質な不正行為による被害をも防止するようなリスク管理体制を整備すべきといえる特別な事情はなかった。 上記(ア)のとおり整備したリスク管理体制については、本件で関係した 従業員もこれを遵守し、当時の補助参加人におけるリスク管理体制に沿ったものであり、特段の違反事象は存在しなかった。 エ ④被害回復措置についての任務懈怠がないこと(ア) 緊急の被害回復措置を取ったこと補助参加人は、平成29年6月5日、東京法務局が本件登記申請を却 下しようとしていることを察知した。そこで、本社法務部を中心に、マ ンション事業本部、東京マンション事業部及び弁護士の協働の下に被害回復に当たる体制を整備し、警察に通報して口座凍結要請(同月6日)や刑事告訴(同月15日)といった対応を 務部を中心に、マ ンション事業本部、東京マンション事業部及び弁護士の協働の下に被害回復に当たる体制を整備し、警察に通報して口座凍結要請(同月6日)や刑事告訴(同月15日)といった対応を実施した。 (イ) Kらに対する訴訟提起取締役が第三者に対する訴訟を提起しないことが取締役の任務懈怠に 当たるのは、訴訟を提起しないことを判断した時点において現に収集された又は収集可能であった資料に基づき、勝訴の高度の蓋然性があること、勝訴した場合の債権回収の確実性があること及び訴訟追行により回収が期待できる利益がそのために見込まれる諸費用を上回ると認められることが必要である。 本件詐欺事件は、非常に特殊かつ悪質な事件であり、10名以上の逮捕者が出たばかりか、刑事手続にも時間を要した。本件詐欺事件の発覚時、詐欺グループは誰一人連絡が取れなくなっており、旅券も偽造されたものであったため、本名もわからなかった。不動産取引に習熟していた補助参加人の従業員や司法書士でも偽造されたものであると認識でき ないような登記済権利証及び旅券を作成できるような詐欺グループが補助参加人から詐取した金員を手元に所持し続けることなど考え難く、損害額が多額であるために、闇雲に訴訟を提起すれば、訴訟費用や弁護士費用といったコストも多額となることが想定されたため、被告ら及び補助参加人は、被害回復のための訴訟提起についてその時期及び相手方の 検討を慎重に進めた。もっとも、補助参加人は、C株式会社が有する登録免許税還付金700万円や、C株式会社の貯金債権及び預金債権については、本件詐欺事件発覚直後の平成29年6月14日には仮差押えをして保全を図った。 K及びJについては、捜査機関が不起訴の判断をし、本件詐欺事件の 被害金銭がK及びJに残 及び預金債権については、本件詐欺事件発覚直後の平成29年6月14日には仮差押えをして保全を図った。 K及びJについては、捜査機関が不起訴の判断をし、本件詐欺事件の 被害金銭がK及びJに残存しているか不明ではあったが、補助参加人は、 令和元年12月16日、C株式会社に対する民事訴訟の提起に踏み切った。また、詐欺グループの個人を特定して損害賠償請求訴訟も提起したが、これらは、刑事手続が進行して被害者として情報が得られた結果、行い得たものである。 このように、補助参加人は、被った損害の回収に必要な措置を取って いるから、被告Aに任務懈怠責任は生じない。 オ ⑤被害拡大防止についての任務懈怠がないこと(ア) 被告Aが報告を受けていないこと被告Aが本件詐欺事件について詐欺の被害にあった可能性があることを認識したのは、残代金決済前倒しによって残代金約49億円を支払っ た平成29年6月1日よりも後のことであって、同月1日において被害の拡大を防止する契機はなかった。 (イ) 被害を最小限に食い止めることができたとはいえないこと補助参加人の従業員の行動に着目してみても、残代金決済前倒しについて、本件売買契約の変更契約を締結したのは平成29年6月1日の午 前10時10分以降であり、預金小切手を交付して解散したのは同日午前10時50分頃であった。預金小切手は、その後速やかに換金されていた。別の従業員が警察署に任意同行されて面談したが、その面談が終了したのは午後11時30分頃であり、警察署に行っていた従業員が本件各不動産の現場に戻った時点では、上記預金小切手は既に換金されて いた。したがって、既にこの時点で換金を差し止めることは事実上不可能であったばかりか、従業員においても、これが詐欺被害であったこと 動産の現場に戻った時点では、上記預金小切手は既に換金されて いた。したがって、既にこの時点で換金を差し止めることは事実上不可能であったばかりか、従業員においても、これが詐欺被害であったことを確定的に認識したのは、同月6日の東京法務局からの本件登記申請の却下の連絡においてであり、預金小切手の換金を差し止めることはできなかった。このような事実関係からして、取締役である被告Aが被害を 最小限に食い止める善管注意義務ないし忠実義務を負っていたとはいえ ない。 5 争点2(被告Bに関する任務懈怠責任の成否)に関する当事者双方の主張(1) 原告の主張ア ①経営判断の誤りに係る任務懈怠被告Bは、本件売買契約の稟議手続における回議者であるのみならず、 経理財務部門の統括者である。稟議手続において本件売買契約の締結を知り、経理財務部門の統括者として本件売買契約に関与した。被告Bは、本件稟議書を事後的に承認したが、この承認は誤りである。 また、本件詐欺事件においては、T銀行●支店の振出に係る預金小切手によって代金が支払われたが、預金小切手の場合、同支店に預金口座を有 していればかなり短時間に現金化することができるようになっている。通常振込みで行っている高額の代金支払を、あえて何十億円もの預金小切手を用いて行うことの合理的理由はない。しかも、換金しやすいように小分けにしており、詐欺グループにとっては好都合な決裁手段であった。預金小切手による決済は、通常採用されない方法である。 被告Bは、正式な手続の有無はともかくとしても、本件売買契約の代金決済に当たり、危険性の高い預金小切手の使用を許諾したものであり、この許諾の経営判断には大きな誤りがある。 したがって、本件稟議書を事後的に承認し、また、預金小切手の くとしても、本件売買契約の代金決済に当たり、危険性の高い預金小切手の使用を許諾したものであり、この許諾の経営判断には大きな誤りがある。 したがって、本件稟議書を事後的に承認し、また、預金小切手の使用を許諾した被告Bの判断は、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義 務に違反する任務懈怠に当たるということができる。 イ ②従業員に対する監視監督義務に係る任務懈怠被告Bは、経理財務部門の統括者として、決済金の支払手段・方法を含む金銭支払についての注意喚起を行う義務があるが、本件稟議書の記載事項以外の情報収集や是正措置を取っていない。当時の取締役の中で随一の 知識・経験を有する管理部門の熟練者である被告Bが、従業員に対して決 済手段としての預金小切手の安易な利用を制限していれば、これほどの被害は生じなかったのであるから、被告Bには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 ウ ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務に係る任務懈怠被告Bも取締役であり、取締役会の一員であるから、被告Aと同様に、 被告Bも本件詐欺事件のような被害発生を防止するための万全の内部統制システム(リスク管理体制)を構築すべき義務を負うが、これを怠っていた。 特に被告Bは、補助参加人において、何十億円であっても預金小切手使い放題という考え難い管理体制を採用しているようであるが、このような 制度を許容していること自体が、経理財務部門の経営判断としては誤りである。この点を規制する社内規則等が存在しないのであれば、自ら制定して適正に支払業務を管理する義務があるが、被告Bはこれを怠ったのであるから、被告Bには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があっ 規則等が存在しないのであれば、自ら制定して適正に支払業務を管理する義務があるが、被告Bはこれを怠ったのであるから、被告Bには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 エ ④被害回復措置についての任務懈怠被告Bは、取締役であるから、本件取引によって補助参加人に生じた損害の回復について早期に取締役会において提案すべきであったが、漫然とこれを放置したのであるから、被告Bには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができる。 オ ⑤被害拡大防止についての任務懈怠被告Bは、経理財務部門を統括する取締役であるから、本件取引の途中においても預金小切手の保全措置を取るよう助言・指示すべきであったが、これを行わなかったのであるから、被告Bには、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠があったということができ る。 (2) 被告ら及び補助参加人の主張ア ①経営判断の誤りがないこと(ア) 経営判断の原則及び信頼の原則被告Bについても、取締役として経営判断の原則及び信頼の原則の適用があることは、被告Aと同じであって、その内容は、上記4(2)(争点 1に関する被告ら及び補助参加人の主張)ア(ア)のとおりである。 (イ) 本件稟議書の承認に経営判断上の誤りなどないことa 被告Bは、被告Aが本件稟議書を決裁した後の平成29年4月26日、本件稟議書を回議者として承認した。 被告Bは、本件稟議書の回付に際し、本件各不動産に関する補足説 明等は特段受けておらず、また、それ以前においても本件各不動産に関する情報は一切保有していなかったため、本件稟議書を承認する時点において、本件稟議書に記載 に際し、本件各不動産に関する補足説 明等は特段受けておらず、また、それ以前においても本件各不動産に関する情報は一切保有していなかったため、本件稟議書を承認する時点において、本件稟議書に記載されている内容以上の情報は得ていなかった。 被告Bは、本件稟議書を確認する中で、本件稟議書上の契約の相手 方が株式会社CからC株式会社に手書きで変更されていることを認識したが、本件稟議書作成過程の誤記であろうと判断した。また、被告Bは、本件稟議書添付1枚目の資料の下の段に貼られた付箋に「売主:Uホールディングス‐Vソーム長よりH20設立、主にアパレル系で多角経営資本金1億、宅建業者ではありません。」との記載があった こと及び登記簿の甲区に記載されているという所有権者はIとされていたことから、本件各不動産については、IからC株式会社へ譲渡され、同社から補助参加人に譲渡される取引形態であると認識したが、マンション用地の取得競争が激しい地域ではいわゆるブローカーが介在することがあり、本件取引もそのようなケースであろうと判断した。 b 上記aの被告Bの判断過程については、不動産取引の実務上みられ るものであり、補助参加人組織の各部署において期待された水準の情報収集、分析、検討を行ったことにつき疑いを抱かせるような異常又は特異な内容ではなく、本件稟議書の記載に依拠して被告Bが承認をすることにつき当然に躊躇を覚えるような不備又は不足があったとはいえない。 したがって、被告Bにおいて、本件稟議書に承認したことについて経営判断上の誤りはない。 (ウ) 被告Bは預金小切手の使用について個別の判断をしていないこと補助参加人においては、事業部門の判断によって預金小切手を使用することが許されており、被告Bは、本件売買 営判断上の誤りはない。 (ウ) 被告Bは預金小切手の使用について個別の判断をしていないこと補助参加人においては、事業部門の判断によって預金小切手を使用することが許されており、被告Bは、本件売買契約の決済のために預金小 切手が使用されることについて、個別の承認等の判断をしていない。 イ ②従業員に対する監視監督義務の懈怠がないこと上記アのとおり、本件稟議書の回付を受けた被告Bの判断について、経営判断上の誤りはなく、他の従業員に対する監視監督義務を負わせる事情もないから、監視監督義務の懈怠も生じない。 ウ ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠がないこと内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の内容及び本件取引当時補助参加人において構築されていた内部統制システム(リスク管理体制)については、上記4(2)(争点1に関する被告ら及び補助参加人の主張)ウ(ア)及び(イ)のとおりである。 補助参加人における不動産の購入先に対する代金の支払方法をどのように選択するか自体については、補助参加人において特段の準則はなく、事業部門において振込送金のほかに預金小切手による支払を選択することも可能であった。 ただし、預金小切手を発行する場合の社内手続については、出納業務事 務処理要領を置き、必ず線引小切手にて発行することとされていた。線引 小切手であれば、実務として、支払人たる銀行が当該銀行に開設された預金口座に入金するか、窓口において本人確認を行った後にしか支払が行われず、これにより、支払を受けた者については、預金口座情報又は窓口での本人確認情報により、追跡が可能な状態となる。 このように、補助参加人においては、契約自体において支払の承認を得 た取引に限って、その承認の範囲内で、各取引 については、預金口座情報又は窓口での本人確認情報により、追跡が可能な状態となる。 このように、補助参加人においては、契約自体において支払の承認を得 た取引に限って、その承認の範囲内で、各取引の実情に精通する事業部門の方法選択を尊重したにすぎず、小切手を無秩序に利用できたわけではない。加えて、小切手を支払方法に選択した場合についても、上記のとおり社内規則が存在しており、その内容も、小切手の性質に着目しリスクを抑制するという目的に照らして合理的なものであった。 このような内部統制システム(リスク管理体制)は、通常想定されるリスクに対する管理体制として十分なものであるし、本件詐欺事件のような特殊なリスクを防止し得るような小切手管理が必要であったとはいえないから、被告Bにおいて内部統制システム(リスク管理体制)を構築すべき義務はなく、内部統制システム(リスク管理体制)構築義務の懈怠もな い。 エ ④被害回復措置についての任務懈怠がないこと本件取引によって補助参加人に生じた被害を回復するために補助参加人が行った手立ては上記4(2)(争点1に関する被告ら及び補助参加人の主張)エのとおりである。このような適切な被害回復措置を取っている補助 参加人において、被告Bが何らかの問題点を独立して察知したことはなく、取締役会に被害回復措置に関する議題を提案すべき契機はなかったから、被告Bに被害回復措置についての任務懈怠責任は生じない。 オ ⑤被害拡大防止についての任務懈怠がないこと(ア) 被告Bが報告を受けていないこと 被告Bが本件詐欺事件について詐欺の被害にあった可能性があること を認識したのは、残代金決済前倒しによって残代金約49億円を支払った平成29年6月1日よりも後のことであって、同日において被 被告Bが本件詐欺事件について詐欺の被害にあった可能性があること を認識したのは、残代金決済前倒しによって残代金約49億円を支払った平成29年6月1日よりも後のことであって、同日において被害の拡大を防止する契機はなかった。 (イ) 被害を最小限に食い止めることができたとはいえないこと補助参加人の従業員の行動に着目してみても、被害を最小限に食い止 めることができたとはいえないことについては、上記4(2)(争点1に関する被告ら及び補助参加人の主張)オ(イ)のとおりである。このような事実関係からして、取締役である被告Bが被害を最小限に食い止める善管注意義務ないし忠実義務を負っていたとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記第2の2の争いのない事実等(以下「前提事実」ともいう。)に加え、証拠(甲1、23~30、33、35、39、40、42、46~54、64、67、68、乙1~23、27、34~42、43~47、証人F、証人D、証人G、被告A本人、被告B本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実 が認められる(なお、認定に用いた主たる証拠等を各項の末尾に掲記する。)。 (1) 補助参加人についてア補助参加人の経営規模等補助参加人は、昭和4年に設立された建築工事の請負及び施工、建築物の設計及び工事監理等を目的とする株式上場会社である。その資本金の額 は、平成27年6月30日時点において2025億9120万9772円であり、会社法上の大会社(同法2条6号)であって、取締役会、監査役、監査役会及び会計監査人が設置されていた。 また、補助参加人の第67期(平成29年2月1日から平成30年1月31日まで)における単体の売上高は1 兆1696億7100万円であり、 当期純利益は863 及び会計監査人が設置されていた。 また、補助参加人の第67期(平成29年2月1日から平成30年1月31日まで)における単体の売上高は1 兆1696億7100万円であり、 当期純利益は863億5900万円を計上していた。その従業員数は、平 成29年1月期で1万4041人、平成30年1月期で1万4482人であった。(前提事実(1)、甲1、乙27、弁論の全趣旨)イ補助参加人の組織体制等補助参加人には、取締役の役職として、代表取締役会長、代表取締役社長、取締役副社長、専務取締役、常務取締役が置かれており、従業員のう ち上位のものとして、執行役員が置かれていた。 このうち、会長は、会社の最高経営責任者(CEO)として、取締役会の議長を兼ね、取締役会において定められる経営方針を立案する等会社の意思決定に対して全般的責任を負い、その執行に必要な一切の権限を有するものとされていた。 また、社長は、会社の最高執行責任者(COO)として、会長及び取締役会において定められた経営方針に基づき、各部門の業務を総合運営し、業務執行全般を指導統制するとともに、その執行及び結果に対して全般的責任を負い、その執行に必要な一切の権限を有するものとされていた。 担当執行役員は、取締役会の決議に基づき定められた担当業務について、 経営効率の向上、経営革新の推進に努め、担当業務主管部場所を指揮監督するとともに、担当業務の執行及び結果に対し、取締役会に対して一切の責任を負うものとされていた。 本社には、経営企画部、総務部、法務部、不動産部、広報部、人事部、経理財務部、監査部、不動産部、資材部等の部署が置かれ、会社業務を分 担していた。(前提事実(2)、乙42、弁論の全趣旨)ウマンション事業に関する組織的事務分掌マン 、広報部、人事部、経理財務部、監査部、不動産部、資材部等の部署が置かれ、会社業務を分 担していた。(前提事実(2)、乙42、弁論の全趣旨)ウマンション事業に関する組織的事務分掌マンション事業本部は、マンション事業の総合企画及び営業促進に関する事項を掌理する事業部門であり、補助参加人は、この下に、東京マンション事業部、名古屋マンション事業部、大阪マンション事業部及び福岡マ ンション事業部の4支店を置いていた。東京マンション事業部には、最も 上位の役職として、東京マンション事業部長が置かれ、その下に、総務部、営業次長、技術次長等の役職が置かれていた。営業次長は、東京マンション事業部長を補佐し、その指揮監督下にあって、その指令に基づき地域プロジェクト及び事業プロジェクト等の特命プロジェクト業務を管理する責任を負っていた。(前提事実(2)ア(ウ)及びイ、乙42) (2) 補助参加人が採っていたマンション用地取得業務の手続等補助参加人は、本件取引当時、東京マンション事業部において、マンション事業部業務フローチャート、不動産事業マニュアル及び稟議規則等に従い、次のような手順によりマンション用地を取得していた。 ア物件の調査及び確認等 まず、東京マンション事業部において、購入候補となる土地についての基本的な調査を実施することとされており、具体的には、公図、謄本、路線価図等による調査、借地、借家、使用貸借等の状況の調査、道路状況の調査、建築に関わる法令及び指導等の調査が行われていた。現地調査による境界線、近隣及び周辺状況の確認も行われていた。 不動産の購入には、稟議書の作成・決裁が必要であり、その前提として、原価を把握するなどし、事業化の方針について社内で検討することとされていた。マンシ 近隣及び周辺状況の確認も行われていた。 不動産の購入には、稟議書の作成・決裁が必要であり、その前提として、原価を把握するなどし、事業化の方針について社内で検討することとされていた。マンション事業部が購入候補となる土地の現地調査を経て購入を検討する場合、稟議申請前の打合せを行っていたが、東京マンション事業部の場合、マンション事業本部が同じフロアにあることから、マンション 事業本部の本部長や部長が指導・助言することがあった。 (乙42、証人G、弁論の全趣旨)イ稟議稟議は、販売用不動産の購入につき、未造成分譲用土地については購入総額10億円以上のものについて社長決裁を要するとされていた。 稟議書は、東京マンション事業部(マンション事業本部の支店)の事項 については、東京マンション事業部長(支店長)が起案者となる。東京マンション事業部には、最も上位の役職として、東京マンション事業部長が置かれ、その下に、総務部、営業次長、技術次長等の役職が置かれていたから、東京マンション事業部で担当者が文書を作成し、これを事業部長、営業次長、技術次長、総務責任者(総務長)等の各担当者に回付し、各自 がその内容を確認の上で承認(押印)し、その後、東京マンション事業部の総務長から、マンション事業本部に回付された。 マンション事業本部では、東京マンション事業部から送付された稟議書について、マンション事業本部の不動産部長、技術部長、総務部長がその内容を確認の上で承認し、マンション事業本部長の決裁により、事業部門 としての結論を出すこととされた。 マンション事業本部の決裁が終了すると、不動産の購入に関する稟議書は、本社不動産部に提出された。不動産部は、不動産稟議事務を主管する部署であり(稟議事務取扱責任者は不動産 結論を出すこととされた。 マンション事業本部の決裁が終了すると、不動産の購入に関する稟議書は、本社不動産部に提出された。不動産部は、不動産稟議事務を主管する部署であり(稟議事務取扱責任者は不動産部長であった。)、稟議事項に当たるかどうか、記載は適切か、添付書類は付されているかなどの形式的審 査を行い、また、不動産に関する稟議に関して決裁権者又は回議者に回付する前に実質的審査を行い、意見を付すことができると定められていた。 不動産部は、その案件に関係の深い5名以内の回議者を定めて回議に付するとされていた。 なお、本社不動産部は、本件取引当時、不動産稟議について、購入総額 10億円以上の首都圏のマンション用地物件については、経営企画部、法務部、経理財務部の3部署を関係先と定めていた。 例外として、審査が遅延するとき又は緊急を要するときは、稟議事務取扱責任者は、回議者の代行者の指定や回議を省略して他の回議者に回付し又は直ちに決裁権者に提出することができるとされており、実際、不動産 稟議においても、稟議事務取扱責任者である不動産部長の判断により、回 議に先行して社長決裁を取得する例が存在した。(前提事実(2)イ、乙5、42、証人G)ウ契約締結時の確認事項等稟議書が承認決裁されると、事業部門である東京マンション事業部では、売主との間で売買契約を締結した。このとき、担当者は、本社不動産部が 作成した上記不動産事業マニュアルや、本社法務部が作成した犯罪収益移転防止法対応マニュアルに沿った手続を行うほか、東京マンション事業部内で定められた事務フローに沿って売買契約を締結した。 東京マンション事業部技術次長の下に置かれた事業開発室では、売買契約を締結する際、①契約書、②重要事項説明書(必要に応じて)、③本人 ョン事業部内で定められた事務フローに沿って売買契約を締結した。 東京マンション事業部技術次長の下に置かれた事業開発室では、売買契約を締結する際、①契約書、②重要事項説明書(必要に応じて)、③本人確 認書類、④登記必要書類、⑤評価証明、⑥境界確認書を事前に確認することとされていた。このうち、③本人確認書類としては、取引相手が自然人の場合、犯罪収益移転防止法対応マニュアルにおいて、顔写真付きの確認書類(運転免許証、旅券等)による場合と、顔写真のない確認書類(各種健康保険被保険者証等)による場合とに分けて確認方法が定められていた が、いずれの場合も売主に直接対面して本人確認書類の原本の提示を受けることとされていた。もっとも、運転免許証や旅券が偽造されている可能性があることを指摘するものではなかった。 ③本人確認書類及び④登記必要書類は、事業開発室の担当者が、東京マンション事業部総務部が指定する司法書士とともに、売買契約締結の前日 までに、売主や土地の権利者と直接対面して確認するよう取扱いを統一していた。例外的に、売買契約締結日の前日までに直接対面の上で原本の確認ができなかった場合には、売買契約締結日において、事業開発室の担当者と総務部が指定する司法書士が一緒に原本の確認を行うこととなっていた。(乙42、証人G、弁論の全趣旨) エ手付金の支払及び仮登記 マンション用地の購入の場合、購入価額に占める手付金の割合や手付金額等を考慮し、手付金の支払と同時に所有権移転請求権(売買予約)の仮登記の設定の要否を検討し、補助参加人が必要と判断したときは、売主と交渉の上で実施していた。この場合、東京マンション事業部事業開発室の担当者は、売買契約の締結時に、総務部が指定する司法書士を同行させ、 売買予約の仮 し、補助参加人が必要と判断したときは、売主と交渉の上で実施していた。この場合、東京マンション事業部事業開発室の担当者は、売買契約の締結時に、総務部が指定する司法書士を同行させ、 売買予約の仮登記の登記必要書類に不備がないことを司法書士に確認させた上で、手付金を支払うこととなっていた。手付金の支払方法としては、振込送金が通常であるが、売主の要望により預金小切手による支払を選択することも可能であった。(乙40の1、5、6、乙42、被告B本人)オ決済等 決済の当日は、事業開発室の担当者と司法書士が必要書類が揃っていることを確認するとともに、登記必要書類に不備がないことを確認し、これらが確認できた段階で、銀行振込みの処理(又は預金小切手の交付)を実行することとなっていた。 補助参加人においては、預金小切手を発行する場合、出納業務事務処理 要項に基づいて事務を行うこととされ、同処理要項では、必ず線引小切手にて発行することとされていた。このように、銀行又は支払人たる銀行の取引先以外の者への支払をすることができない線引小切手(小切手法38条1項)によることとされていた結果、持参人払いであったとしても、実際には、支払人たる銀行が当該銀行に開設された預金口座に入金するか、 窓口において本人確認を行った後にしか支払が行われず、支払を受けた者については、預金口座情報又は窓口での本人確認情報により、後で追跡することが可能となっていた。 売買代金を決済する方法として預金小切手を利用するかどうかは、実際の契約手続を行う事業所長の判断に委ねられていた。小切手の発行それ自 体に本社経理事務部の関与は必要とされていなかった。(乙39、40の1 ~6、乙41、42、被告B本人)(3) 本件取引の経緯等ア Gに対 委ねられていた。小切手の発行それ自 体に本社経理事務部の関与は必要とされていなかった。(乙39、40の1 ~6、乙41、42、被告B本人)(3) 本件取引の経緯等ア Gに対するKからの情報提供等Gは、平成27年頃からKと面識があり、Kが主宰した食事会に何度か出席したことがあった。 Kは、平成29年3月末頃、Gに対し、本件各不動産に関する情報を送ったが、Gは、以前から本件各不動産が開発に適した物件であるのに実際には開発が行われていない物件として知っており、Kに対し、簡単に買える物件ではないことや、売主本人の意思確認が必要であることを述べた。 なお、Gは、Kからの情報を東京マンション事業部内に報告した。(前提事 実(3)エ、甲33、46、乙42、47、証人G)イ Kによる偽Iとの土地売買契約の締結Kは、平成29年4月3日、偽Iとの間で、偽Iが本件各土地を代金60億円で株式会社Cに売る旨の売買契約を締結した。併せて、同日、偽Iがこの売買を原因とする所有権移転の登記をW弁護士に委任する旨の委 任状が作成され、東京法務局所属のX公証人は、同公証人の面前で上記委任状に署名押印がされたとする公正証書(甲35、乙1)を作成した。この公正証書には、「嘱託人Iは、本公証人の面前で、本証書に署名捺印をした。本職は、旅券、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により上記嘱託人の人違いでないことを証明させた。」との記載がされている。 株式会社Cと偽Iとの間の平成29年4月3日付け売買契約書(乙2)では、代金を60億円と定めた上、支払条件としては、証拠金名目で契約締結前に2000万円を、契約締結時に11億8000万円を、平成29年6月末日までに48億円を支払う旨定められていた。(前提事実(3)エ、甲35、 億円と定めた上、支払条件としては、証拠金名目で契約締結前に2000万円を、契約締結時に11億8000万円を、平成29年6月末日までに48億円を支払う旨定められていた。(前提事実(3)エ、甲35、乙1、2) ウ補助参加人内部における検討 Kは、平成29年4月4日、Gに対し、上記イの株式会社Cと偽Iとの間の売買契約書(乙2)や、偽Iの登記委任状に係る公正証書等の資料を送付し、「2000万円で押さえます」と知らせた。Gは、本件各不動産の購入が現実的なものになったと考えたが、株式会社CがIに実際に支払ったのは2000万円でしかないとすると、本件各不動産を仕入れたい他の 不動産業者が資金を出して2000万円の倍額である4000万円を支払って株式会社CとIとの間の上記売買契約を解除させてしまう可能性があり、そうなった場合には本件各不動産が取得できないと考えた。この時点で、Gは、公証人によるIの本人確認は信用性が高いと考え、偽Iが偽者であるとの疑いを抱くことはなかった。Gは、株式会社Cから補助参 加人が本件各不動産を買い入れることについて、東京マンション事業部内で本格的な検討を開始した。(前提事実(3)エ、甲33、46、乙42、証人G)エ本件各不動産購入方針の決定Gは、平成29年4月14日、F、マンション事業本部不動産部長及び 東京マンション事業部の従業員と打合せを行い、本件各不動産の所有者であるIの本人確認が公証人の認証によってされていること、Iがマンションを購入するために3億円程度の資金受領を急いでいて、Kがこれに応じられなければ商談が流れる可能性があり、迅速に対応する必要があること等を説明した。Fは、Iが株式会社Cに、同社が補助参加人にそれぞれ本 件各不動産を売る契約にすると述べると て、Kがこれに応じられなければ商談が流れる可能性があり、迅速に対応する必要があること等を説明した。Fは、Iが株式会社Cに、同社が補助参加人にそれぞれ本 件各不動産を売る契約にすると述べるとともに、既払金が2000万円と少額であるのは良くなく、代金総額の2割である12億円を手付金とし、契約時に仮登記を付けられるようにすべきであるとして、株式会社CとIとの間の売買契約をもう一度締結し直すよう指示した。また、Fは、短い期間で検討しなければ競合他社が競争に入ってくるおそれがあることを 懸念し、社内の体制が整って契約の締結ができるようになるのが最短で同 月24日であると考え、契約締結の目標日を同日と想定して準備するよう指示した。このとき、被告Aによる現地視察が、本件取引とは関係なく同月18日に予定されていたことから、Fは、本件各不動産の視察も予定に組み込んで被告Aに直接見てもらうよう段取りを組むこととし、不動産購入の稟議書を同月17日午前中までに作成するよう東京マンション事業 部に指示した。(前提事実(3)オ、甲33、46、乙44、証人F)オ本件稟議書の東京マンション事業部での作成東京マンション事業部事業開発室では、平成29年4月14日、上記エの会議の後、本件稟議書としての起案文書を完成させ、同日中に、事業所長、技術次長、G(営業次長)及び総務長(総務責任者)の確認(押印) を経て、東京マンション事業部としての決裁を終了させた。また、マンション事業本部の技術部長が同日中に確認(押印)した。さらに、同月17日には、マンション事業本部の総務部長及び不動産部長が本件稟議書に押印して確認した。(前提事実(3)カ、乙5、42)カ被告Aの視察及びその際のFの説明 被告Aは、平成29年4月18日夕刻、 は、マンション事業本部の総務部長及び不動産部長が本件稟議書に押印して確認した。(前提事実(3)カ、乙5、42)カ被告Aの視察及びその際のFの説明 被告Aは、平成29年4月18日夕刻、複数の物件の視察の一環として、F及び東京マンション事業部長の同行の下、本件各不動産の現地を視察した。その際、Fは、被告Aに対し、本件各不動産について、営業担当のGがKから紹介を受けた物件で、本件各不動産の所有者であるIと株式会社Cが既に契約を結んでいるが、Iと同社とが再度契約を締結し直し、同日 に同社と補助参加人とが契約を締結して、本件各不動産を補助参加人が取得する契約形態であることを説明し、是非進めたいと述べた。被告Aは、この視察まで本件各不動産のことは知らなかったが、Fから、長い間なかなか売りに出なかった物件であるが、特定の個人であれば売ってもよいということで補助参加人に話があったと聞かされ、また、間に入る第三者は どのような者かと質問したのに対し、Fから、第三者はアパレル関係の企 業であるが、売主からの契約と補助参加人との契約を同時に締結するので間に入る者はあまり問題ではないとの説明を受けた。被告Aは、そのようなケースを以前経験したことがあったことから、大きな違和感を覚えなかったものの、Fに対し、地主が本当に売る意思があるか、東京マンション事業部に任せるだけではなく、F自身が中間業者と地主に会って意思確認 をするよう指示した。(前提事実(3)カ、乙3、42、43、44、47、証人F、被告A本人)キ本件各不動産購入の稟議等Fは、平成29年4月18日に本件稟議書に押印して承認し、本件稟議書に関するマンション事業本部としての決裁が終了した。本件稟議書は、 東京マンション事業本部から、大阪にある本社に 入の稟議等Fは、平成29年4月18日に本件稟議書に押印して承認し、本件稟議書に関するマンション事業本部としての決裁が終了した。本件稟議書は、 東京マンション事業本部から、大阪にある本社に送付された。このとき、F又は東京マンション事業部長は、本社不動産部のEに対し、本件各不動産の稟議書を送るので早期の決裁を依頼したい旨連絡した。 本件稟議書には、本件各不動産の所在、契約の相手方としての株式会社C、斡旋業者の有無、登記簿上の権利関係としてIが所有者であること、 国土利用計画法上の届出の要否、購入金額として①土地代金が70億円であること、②登記料や測量調査費を含めた原価合計が70億9850万円であること及び有効面積当たりの原価が1㎡当たり353万2013円(1坪当たり1167万6000円)であること、支払条件は土地代金については契約時(平成29年4月24日)に20%、決済時(同年7月3 1日)に80%であること、法令上の制限については市街化区域であり用途地域は商業地域であって、建ぺい率が100%、容積率が700%であること、土地の現況は完成宅地で造成が不要であること、その他道路やライフラインの整備状況、生活環境といった本件各土地の状況が記載されていた。加えて、本件稟議書には、本件各土地で補助参加人が今後行う事業 の内容として、建築計画及び事業収支計画等が記載され、地上30階建て・ 256戸で構成されるマンションを建築し、坪単価422万9000円(税抜き)として販売すると、建築原価や販売経費を考慮しても27億5970万円の利益(利益率16.28%)が見込まれることが記載されていた。また、本件各不動産の所在を示す地図や、現地の写真、他社が近隣で販売したマンションの概要、建築するマンションの計画図面に加え 970万円の利益(利益率16.28%)が見込まれることが記載されていた。また、本件各不動産の所在を示す地図や、現地の写真、他社が近隣で販売したマンションの概要、建築するマンションの計画図面に加え、株 式会社Cと偽Iとの間の平成29年4月3日付け売買契約書が添付されていた。 さらに、本件稟議書には、「はじめに」と題して、次の記載がされていた。 「 本物件は、JR山手線「●」駅徒歩4分という利便性が非常に高い好立地にあります。また、容積率が700%あるにもかかわらず、閉 館した旅館が残存し、一部が駐車場に利用されるだけの低利用な状態にあるため、以前より注目され、様々な企業が取得を目指してきましたが、いずれも地主との交渉にまで辿り着かない状況でした。 このような状況の中、本物件の売主となる株式会社Cが地主との交渉に成功し、平成29年4月3日付けで、現在の所有者であるI様と 売買契約を締結致しました。 同社とは、土地代金70億円で本物件を当社に転売することで合意し、平成29年4月24日に売買契約を締結する予定です。 本契約時には土地代金の20%の手付金を支払い、仮登記にて権利保全を行う予定としております。何卒ご決裁賜りますようお願い申し 上げます。 尚、南西側隣接地につきましても事業規模の拡大を目的に追加買収を目論んでおります。」本件稟議書は、同月19日、本社において、稟議規則に従い、不動産部が受理した。不動産部では、本件稟議書を審査し、不動産部内の決裁を終 わらせた。不動産部では、不動産部長であるEのほか、関係先となる経営 企画部長、経理財務部長及び法務部長(D)による承認を同日中に得た。 また、不動産部は、本件稟議書の回付先として、被告B、N取締役、O取締役及び東京支社 長であるEのほか、関係先となる経営 企画部長、経理財務部長及び法務部長(D)による承認を同日中に得た。 また、不動産部は、本件稟議書の回付先として、被告B、N取締役、O取締役及び東京支社長を定めた。 なお、本件稟議書には、その「不動産部長」欄の右側の上から3行目に「4/18本部長ご案内にて社長現地をご視察済です」との鉛筆書きの記 載が抹消された形跡がある。(前提事実(3)キ、甲67、68、乙5、42、証人F、弁論の全趣旨)ク売主の変更Kは、平成29年4月19日頃、Gに対し、税理士から節税のアドバイスを受けたとして、本件各不動産の売主を、株式会社Cから、Jが代表取 締役を務めるC株式会社に変更したいと申し入れた。Gは、Kが実質的に決定権を持っている会社ならそれで構わないと考えた。この情報は、補助参加人本社に伝わり、本社において、決裁中の本件稟議書について、「契約の相手」欄に「株式会社C」と記載されていたものが「C(株)」と手書きで修正され、住所欄も「東京都渋谷区●-●-●」と記載されていたもの が「東京都千代田区●-●-●」と手書きで修正された。また、Gは、通常の手続として、株式会社C及びC株式会社がいわゆる反社会勢力に属していないことの確認を行った。 東京マンション事業部の総務長は、同月19日、株式会社Cの代表であるKについて、暴力団追放都民センターに照会をかけ、「登録なし」の回答 を得た。(前提事実(3)ク、甲46、乙5、42、証人G)ケ被告Aによる本件稟議書の決裁Eは、平成29年4月19日、Fに対し、被告Aが本件各不動産を視察したかどうかを尋ね、Fは被告Aの現地視察は終了していると回答した。 Eは、F又は東京マンション事業部長からの至急対応の要請を受け、上記 (2)イの稟議 日、Fに対し、被告Aが本件各不動産を視察したかどうかを尋ね、Fは被告Aの現地視察は終了していると回答した。 Eは、F又は東京マンション事業部長からの至急対応の要請を受け、上記 (2)イの稟議規則の定めに基づき、回議者4名への回付よりも先に被告A に決裁を上程することとした。 Eは、同月20日、被告Aの元に、本件稟議書と、本件稟議書以外の稟議を急ぎの案件として持参し、急いで処理するよう求めた。被告Aは、Eから特に個別の説明を受けることなく本件稟議書を審査した。被告Aは、本件稟議書につき、視察した物件であることを認識し、視察の際にFから 報告を受けた情報に基づき、採算面をチェックして、問題がないと判断し、承認する旨決裁した。被告Aは、本件稟議書の中で間に入る者の法人名が変更されていることについては、気に留めなかった。(乙5、43、44、被告A本人)コ本件売買契約締結前の打合せ 補助参加人の従業員が最初に偽Iと面談したのは、平成29年4月20日であった。この日、補助参加人の会議室に、偽I、偽Iの財務担当者と称する者(Yと名乗る者。以下「Y」という。)、K、J、L司法書士及びM司法書士が集まり、補助参加人からはGほか従業員が出席して、本件売買契約の条件である、Iと株式会社Cとの間の平成29年4月3日付売買 契約を解除し、IからC株式会社が本件各不動産を60億円で購入する売買契約を締結し直し、C株式会社が補助参加人に70億円で売却する方針を確認した。また、偽Iは、本人確認書類として旅券、印鑑証明書、住民票の各原本及び本件各不動産の登記済権利証のカラーコピーを示した。 (甲33、46、乙4の1~6、乙42) サ本件売買契約締結及び被告Bによる決裁等平成29年4月24日、本件売買契約が締結され 原本及び本件各不動産の登記済権利証のカラーコピーを示した。 (甲33、46、乙4の1~6、乙42) サ本件売買契約締結及び被告Bによる決裁等平成29年4月24日、本件売買契約が締結された。その際、偽Iと株式会社Cとの間の同月3日付け売買契約は解除され、改めて売買契約が締結された。 このとき、偽Iは、旅券原本、印鑑証明書原本、住民票原本、本件各土 地の権利証原本とされる文書(ただし、真実は偽造されたもの)を提示し た。ここで提示された権利証は、仮登記申請手続には不要であったため、L司法書士がコピーを取得した後に偽Iに返却された。その後、L司法書士とM司法書士は東京法務局品川出張所で仮登記申請を行い、これが受理されたことを確認した上、補助参加人は、手付金14億円のうち12億円を預金小切手でKに交付し、Kは偽Iにその小切手を交付した。補助参加 人は、手付金残額2億円を同日中にC株式会社名義の口座に振込送金した。 Gは、本件取引において、補助参加人がC株式会社に、C株式会社からIに代金が支払われるとき、その都度金融機関への振込みと着金確認を経ることよりも、預金小切手を交付することで、効率よく確実に代金を支払うことができることから、預金小切手を利用した。 被告Bは、同月26日、本件稟議書の回付を受け、本件稟議書の記載のみに基づき、本件稟議書を決裁した。このとき、被告Bは、既に被告Aが決裁したことを認識した上で、IからC株式会社へ、C株式会社から補助参加人へ売買が行われる取引形態であると認識し、収益性、会社の方針との整合性を検討し、内容を点検して、疑義を感じなかったため、了承した。 被告Bは、本件に限らず、個別の預金小切手の使用について部下から承認を求められたことはなく、関係する金融機関から問い 針との整合性を検討し、内容を点検して、疑義を感じなかったため、了承した。 被告Bは、本件に限らず、個別の預金小切手の使用について部下から承認を求められたことはなく、関係する金融機関から問い合わせを受けたこともなかった。 L司法書士は、同年5月1日、仮登記申請が本件各不動産の登記簿に反映されたことをGに連絡する際、L司法書士が本件各不動産の権利証のコ ピーを法務局の登記官に見せたこと、登記官は、原本ではなく、また実際に申請がなされたものではないから具体的な見解は出せないという前提であるものの、当時の様式と比べて明らかに不自然であるということはない旨回答したと報告した。ただし、この報告の際、L司法書士は、Gの質問に答える形で、仮登記は形式的審査しか行わないこと、売主の本人性を 疑うのであれば顔写真付きの本人確認資料等の収集が必要であると述べ た。 その後、同月9日に、東京法務局において、Iの親族から不正登記防止の申出がされた。(前提事実(3)サ及びシ、甲48、67、乙6~9、42、証人G、被告B本人)シ本件各通知書の送付と対応の検討等 補助参加人の本社に、平成29年5月10日、本件通知書1が送られ、同月11日には本件通知書2及び本件通知書3が送られてきた。 本件通知書1は、本社法務部において受理され、法務部は、本件取引を所管するマンション事業本部及び東京マンション事業部に対し、本件通知書1についての連絡をした。法務部は、不動産部には連絡せず、本件通知 書1自体を直接被告Aに示すこともなかった。法務部は、東京マンション事業部に対応を確認したところ、東京マンション事業部では、本件通知書1の差出人の住所が現在は誰も住んでいない本件各不動産になっていることや連絡先が記載されていないこと等の不 法務部は、東京マンション事業部に対応を確認したところ、東京マンション事業部では、本件通知書1の差出人の住所が現在は誰も住んでいない本件各不動産になっていることや連絡先が記載されていないこと等の不審な点があること、Iの本人確認については公証人により行われたこと、司法書士が複数の書類で確認 したこと、また、現に所有権移転請求権の仮登記も完了したことから、本件各不動産の取引の場にいたIが他人のなりすましであるとは考えられないと判断した。もっとも、Iの本人確認については改めて行うという方針となり、これらの検討結果を法務部に報告した。 東京マンション事業部では、上記の検討と並行して、東京マンション事 業部が依頼していた弁護士に相談したところ、弁護士から、本人確認として収集すべき資料として、本件各不動産宛て消印付郵便物(手紙や納税通知書、公共料金納付書)、健康保険証、年金手帳、預金通帳、マイナンバー通知カード等があり、これらを積み上げ、本人である可能性を高めるとよい旨の助言があり、また、昔からの知人や加盟組合(旅館)などへの写真 による本人確認、建物の内覧を行うべきであるとの助言を得た。 同月11日に送られてきた本件通知書2及び本件通知書3についても、本件通知書1と同様に、法務部から東京マンション事業部に連絡されたが、不動産部や被告Aには連絡されなかった。本件通知書2及び本件通知書3を見た法務部では、他の業者による干渉が激化したものと考え、法務部長であるDは、Iが売主本人であることを前提に、Iが売却を翻意すること あるいは他の業者に売却してしまうことを心配して、間違いなく補助参加人に売却するとの意思を確認させるべきであるとして、本件確約書の書式を弁護士に確認して整えた上、東京マンション事業部にIから取得する あるいは他の業者に売却してしまうことを心配して、間違いなく補助参加人に売却するとの意思を確認させるべきであるとして、本件確約書の書式を弁護士に確認して整えた上、東京マンション事業部にIから取得するよう連絡した。(前提事実(3)セ、甲50、68、乙10~12、乙42、44、45、証人F、証人D、証人G) ス他の事情の発生と対応平成29年5月11日、株式会社PのQと名乗る人物が東京マンション事業部を訪れ、本件各不動産をKに紹介したが、Kに本件取引から外されたとの苦情を述べた。さらに、同月12日、補助参加人の東京支社にSと名乗る人物が来社し、Kとの取引は不適切なものであると抗議し自身が介 在して解決するなどと述べた。 Fは、マンション事業本部及び東京マンション事業部に集まってきていたこれらの情報に対応すべく、同日、東京マンション事業部においてGや東京マンション事業部従業員を集めて会議を開催した。そこでは、マンション事業本部及び東京マンション事業部としては、上記の通知書ではI本 人が入院中であるとされているのに通知書を発信できた理由が不審であること、通知書に連絡先の記載がないこと、通知書の内容が真剣な申出であるとは読み取れないこと、仮登記がされた事実を知っていることが不審であるといった理由から、本件通知書1から同3までは本件各不動産の売買契約を妨害するための嫌がらせの書面であろうと判断した。ただし、I の本人確認を再度行うことが必要であることも確認され、その他の本人確 認書類や法務部から指示のあった本件確約書を受領することになった。しかし、弁護士から助言された本人確認方法のうち、昔からの知人や加盟組合(旅館)などへの写真による本人確認については、Iの不興を買うおそれがあることから実施しないことと 約書を受領することになった。しかし、弁護士から助言された本人確認方法のうち、昔からの知人や加盟組合(旅館)などへの写真による本人確認については、Iの不興を買うおそれがあることから実施しないこととした。また、何らかの対応を要求するブローカーには対応しないことを決めた。(甲33、67、乙42、44、 45、証人F、証人D、証人G)セ Fから被告Aへの電話連絡及び被告AからFへの指示Fは、Qが被告Aの名前を出したことから、被告AにQの話の真偽を確認する必要があると考え、被告Aに対する説明のために、本件説明資料(乙13)を準備した上、平成29年5月12日、被告Aに電話を掛けた。 この日、被告Aは大阪にいたが、伊丹空港から羽田空港に向かう飛行機に搭乗する必要があり、伊丹空港において、秘書を通じて電子メールにより送られてきた本件説明資料にざっと目を通し、Fからの電話を受けた。 なお、本件説明資料には、①「1.」として、所有者本人と称する者から、売買をしていないのでC株式会社の仮登記の抹消をC株式会社に、補助参 加人の仮登記の抹消を補助参加人に求める内容の通知書が送られてきていること、②上記通知書には、本件売買契約をしていない旨の主張、売主の実印が偽造されたものである旨の主張、旅券の写真が売主のものではない旨の主張及び面会謝絶で長期入院中である旨の主張が記載されていること(ただし、内容証明郵便によるものであることは本件説明資料には記 載されていない。)、③補助参加人の取った本人確認方法(司法書士も確認済みのもの)として、㋐旅券の原本確認と写しの取得、㋑住民票、印鑑証明書の原本確認と写しの取得、㋒公証人による本人認証証書の原本確認と写しの取得、㋓権利証の原本確認と写しの取得があることが記載されていた。また、④本件説明 券の原本確認と写しの取得、㋑住民票、印鑑証明書の原本確認と写しの取得、㋒公証人による本人認証証書の原本確認と写しの取得、㋓権利証の原本確認と写しの取得があることが記載されていた。また、④本件説明資料には、「2.」として、平成29年5月11日午 後2時すぎ、株式会社PのQが補助参加人を訪れ、C株式会社と連絡を取 れるようにしてほしい旨の要望(IとC株式会社との間の取引からはずされたとの主張)をしたことや、株式会社PのQによると、被告Aと東北で分譲地の取引を何回か行ったことがあるとの主張がされていることが記載されていた。 Fは、電話で、被告Aに対し、本件取引において手紙が届いたり、ブロ ーカー的な人物が訪問したりしてきており、被告Aを知るというQがやってきたが、Qに心当たりがあるか、といった問いをし、被告Aは、どのような人物であるかを確認した上、会った記憶はないと返事をした。被告Aは、本件取引について妨害工作があることを知り、リスクを排除するために法務部の関与をさせたほうがよいと考え、法務部長であるDに連絡を取 るようFに指示した。 被告Aは、飛行機に搭乗して羽田空港に到着した後、今度はDに連絡をとり、本件取引についてFから連絡があるので、東京マンション事業部の依頼した弁護士と相談して対応するよう指示した。Dは、既にFから連絡を受けており、連携して対応している旨回答した。 同日、補助参加人の関係会社の代表者から、不動産部のEに対し、本件取引に関し、補助参加人が支払った手付金が地主には少ししか支払われていないという噂がある、仲介している相手は疑わしいところではないかなどとする内容の連絡があった。この連絡は、EからFに内容が報告されたが、法務部には連絡されなかった。(甲67、68、乙13、42、証人F いという噂がある、仲介している相手は疑わしいところではないかなどとする内容の連絡があった。この連絡は、EからFに内容が報告されたが、法務部には連絡されなかった。(甲67、68、乙13、42、証人F、 証人D、被告A本人)ソ本件各不動産の内覧確認等東京マンション事業部では、引き続きIの本人確認情報を取得する作業を進めており、平成29年5月19日には、Gが本件各不動産の中に立ち入って現状を確認する現地内覧が行われた。ただし、偽Iは約束とは異な り現れず、代理人というZ弁護士が現れ、本件各建物の鍵を開けて中に立 ち入った。 補助参加人のもとには、同月18日、Sから、本件各不動産への仮登記に抗議するというファクシミリ文書が送付された。このファクシミリ文書については、本社不動産部のEも認識した。Eは、本件取引には普通ではないところがあると感じ、Fに対し、仮に取引が無事に完了しても、事業 実施に向け嫌がらせ等大きな妨害リスクが残る可能性があると述べた。 (甲33、46、67、乙42)タ FとDが参加した社内協議補助参加人において、平成29年5月22日、D、F、G及び東京マンション事業部従業員が参加して協議を行った。同協議において、本件通知 書1から同3までの送付を含めた一連の動きは、本件取引を快く思っていない人物がこれを妨害する目的で行っているのであろう、登記簿上仮登記のままになっているため、所有権が完全に補助参加人に移転していないことにより妨害工作がされているのだろうといった議論がされた。Gは、Fが翌日にIと会う予定になっていると聞き、Fが最終的に本人確認をする ことができると考えた。Fは、残代金の決済日を前倒ししたいと述べ、検討することになった。 Fは、本件各不動産が不法占拠されたりす にIと会う予定になっていると聞き、Fが最終的に本人確認をする ことができると考えた。Fは、残代金の決済日を前倒ししたいと述べ、検討することになった。 Fは、本件各不動産が不法占拠されたりするなどのリスクを避けるために、残代金の決裁を前倒しすることを考えた。(甲33、乙42、証人G、証人F、証人G) チ Fと偽Iとの対面平成29年5月23日、FとGらが出席して、偽I、K、J及びYらと面談する機会が設けられた。Fは、偽Iに、本件通知書1から同3までが届いていることを問いただしたが、偽Iは平然とこれを否定し、Fが、法務部から取得するよう依頼を受けた本件確認書にも署名押印した。もっと も、偽Iは多く発言せず、Yが会話を取り仕切った。Fが、妨害行為を鎮 静化させるために残代金決済前倒しを提案したところ、その場の誰からも反対意見は出なかった。(甲46、乙42、44、証人F)ツ残代金決済前倒しに関する社内手続Fは、平成29年5月24日、Dから、残代金決済前倒しについての了承を得た。 Fは、本件取引に関する資金の送金を準備する不動産部のEに対しても、同月25日頃、法務部とも協議した上で残代金決済前倒しを依頼する旨連絡した。Eは、決済後の妨害リスクを覚悟の上であれば、移転登記を早めるに越したことはないが、本件取引は金額も大きく、多数のネガティブ情報もあることから、本来一般的には要求しない手続であるものの、残代金 決済前倒しについて社長である被告Aの了解を取るようにと述べ、Fはこれを了承した。 Fは、海外出張中であった被告Aに対し、ブローカーの相関図(時期を別にする二つの説明が記されたもの。)を記した本件説明図(乙15)を、秘書を通じて送付した上で、被告Aが帰国した直後である同月30日、被 海外出張中であった被告Aに対し、ブローカーの相関図(時期を別にする二つの説明が記されたもの。)を記した本件説明図(乙15)を、秘書を通じて送付した上で、被告Aが帰国した直後である同月30日、被 告Aが移動のために乗車中の自動車に同乗して、本件説明図にざっと目を通していた被告Aに対し、不動産部、法務部、弁護士と協議した結果、様々な嫌がらせや妨害工作を排除するために、残代金の決済を同年6月1日に前倒しする方針であることを説明した。被告Aが、弁護士や法務部の見解について尋ねたところ、Fは、いずれも了解していると回答した。被告A は、大阪の本社に到着した後、Dに対し、残代金決済前倒しにつき問題はないかと尋ねたところ、Dは、問題ないと回答した。Eは、Fが被告Aの了承を得たことを確認して、残代金決済前倒しに係る資金の準備を行った。 (甲67、68、乙42、43、44、証人F、証人G、被告A本人、弁論の全趣旨) テ残代金決済前倒し前日の文書確認 Gは、残代金決済前倒しの前日、本登記が可能な文書を確認するために、他の従業員並びにL司法書士及びM司法書士とともに、偽I、Z弁護士、K、J及びYと打合せを行った。 Gは、偽Iの本人確認書類として、旅券、国民健康保険被保険者証、印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票、除籍謄本、納税証明書3通及び固定資 産評価証明書などの必要書類を確認した。その際、司法書士によって偽Iの旅券の紫外線調査(ライトを照射すること)が行われたが、その調査では問題は発見されなかった。もっとも、L司法書士から旅券の表記の一部について他の箇所とわずかに異なる箇所がある旨の指摘がなされた。また、偽Iは、本登記に必要な書類の一つである本件各不動産の登記済み権利証 を持参しなかった。 この打合せの結 旅券の表記の一部について他の箇所とわずかに異なる箇所がある旨の指摘がなされた。また、偽Iは、本登記に必要な書類の一つである本件各不動産の登記済み権利証 を持参しなかった。 この打合せの結果、権利証に代えて、Z弁護士作成の本人確認情報で登記申請を行うということになった。なお、本人確認情報で登記申請を行うことになったことは、Gから補助参加人内部には情報として報告されなかった。(前提事実(3)タ、甲33、46、乙16~22、42、証人G) ト残代金決済前倒しによる支払平成29年6月1日、補助参加人の会議室に、偽I、Z弁護士、Y、K、J、G及び補助参加人の従業員が集まった。このとき、本件各不動産の所在地において現場保全のため待機していた東京マンション事業部技術室課長から上記の補助参加人の従業員に電話がかかり、建物の中に電気がつ いていることや建物の勝手口に釘止めが打たれていることが伝えられた。 Gが建物に電気がついている旨をYに伝えたところ、Yは、数日前に自分が電気をつけたと述べて取り繕った。さらに、上記技術室課長から電話があり、通報があったため警察への任意同行を求められていることが伝えられた。Gはその場にいた者にこの情報を伝えたが、通報は、本件各通知書 の差出人と同様、本件取引を妨害しようとする者が行ったのであろうとの 結論になり、決済手続を続行することになった。東京法務局にいたL司法書士から所有権移転登記(本登記)の申請が法務局の窓口で受け付けられたとの報告を受けて、Gは、Kに、49億0819万3309円に相当する金額を8通の預金小切手で支払い、Kはそのうち6通を偽Iに渡した。 その上で、その6通のうち1通(7億4970万8000円分)は、偽I が補助参加人から購入する分譲マンションの代金と 円に相当する金額を8通の預金小切手で支払い、Kはそのうち6通を偽Iに渡した。 その上で、その6通のうち1通(7億4970万8000円分)は、偽I が補助参加人から購入する分譲マンションの代金としてGに交付された。 Gが交付を受けた預金小切手以外の5通の預金小切手は、速やかに現金化された。 Fは、決済が終了した後、偽Iが登記済み権利証を持参せず、現場の判断でZ弁護士が作成した本人確認情報を使って登記申請を行ったという 事実を知ったが、その事実を知っても、偽Iの本人性を疑ったことはなかった。(前提事実(3)チ、甲33、42、46、49、51、乙23、42、弁論の全趣旨、証人F)ナ Iの親族と名乗る者との●警察署での面談平成29年6月1日の残代金決済後、G、補助参加人の別の従業員及び 東京マンション事業部が依頼していた弁護士は、上記技術室課長が任意同行された警察署に赴き、そこで、本件各不動産の真の所有者の弟を名乗る者2名及びその代理人弁護士とされる者と面談した。同弁護士は、自身はまだIの代理人ではないと述べた上で、本件各通知書は本件各不動産の真の所有者であるIが出したものであり、Iは現在入院していて面会謝絶の 状態にあるが、本件各不動産を売却したことはないと説明するとともに、仮登記を抹消するよう求め、本件各通知書の発信方法についての補助参加人側の質問に対しても、理由を説明することなくIが出したものである旨繰り返し、また、Iとの面談についても面会謝絶を理由に拒否した。 Gは、上記面談において本件各不動産の真の所有者は別人であるとの主 張を聞き、本人確認書類である偽Iの旅券を旅券センターに持参してもら って真贋を確認しようと考え、同月2日、偽Iとの間で、同月6日に面会する約束を取り付けた。(甲4 人であるとの主 張を聞き、本人確認書類である偽Iの旅券を旅券センターに持参してもら って真贋を確認しようと考え、同月2日、偽Iとの間で、同月6日に面会する約束を取り付けた。(甲46、乙42)ニ登記の審査等東京法務局品川出張所の登記官は、本件各不動産につきIの親族から不正登記防止の申出がされていたため、補助参加人からの登記申請につき実 体調査をし、平成29年6月6日には、Z弁護士から事情を聞いた後、L司法書士及びM司法書士並びに補助参加人の従業員に対し、申請書類の一つであるZ弁護士作成の本人確認情報に資料として添付されていた国民健康保険被保険者証の写しについてはこれに対応する原本があるとしても偽造されたものであると考えているなどとする見解を表明し、本件登記 申請を却下する方針であることを告げた。このことは、直ちに補助参加人に知らされた。 その後、同登記官は、平成29年6月9日、本件登記申請を却下した。 (前提事実(3)ツ、甲46、52、53、乙42)ヌ被告らへの報告等 被告Aは、平成29年6月5日、Eに対し、本件取引について質問し、Fに報告を求めた。Dは、同月6日、被告Aに対し、本件各不動産の登記がうまく行っておらず、地主が行方不明であると報告した。 Fは、同月7日、被告Aに対し、本件売買契約に基づく不動産登記申請を法務局が却下しようとしている旨報告した。その際、Fが、妨害行為の 詳細について触れ、本件各通知書が内容証明郵便の方法で届いていたことなどを報告し、被告Aは、なぜ今頃このような書類を見せるのかと問いただした。 被告Bは、同日、本件詐欺事件についての報告を受けた。被告Bが本件取引について情報を得たのは、この報告の時までは、本件稟議書の決裁と、 この報告の2回だけ 書類を見せるのかと問いただした。 被告Bは、同日、本件詐欺事件についての報告を受けた。被告Bが本件取引について情報を得たのは、この報告の時までは、本件稟議書の決裁と、 この報告の2回だけであった。(甲67、乙46、証人F、被告A本人、被 告B本人)ネ口座凍結依頼等補助参加人は、平成29年6月6日、●警察署において、I名義の口座等を凍結するよう依頼した。Gは、偽Iと連絡をとろうとしたが、果たせなかった。 Gは、平成29年6月7日、Kに対し、本件各不動産の売買代金のうちC株式会社に渡った6億5000万円を補助参加人に一旦返金するよう依頼した。しかし、Kは、既に自己の債務の返済に充てたと回答してこれを拒んだ。(甲46、乙42)ノ刑事告訴等 補助参加人は、平成29年6月9日、●警察署への被害届の提出を試みたが受理されなかった。補助参加人は、同年9月15日、警視庁に対し、偽造公文書行使及び詐欺等について刑事告訴し、これが受理された。 また、補助参加人は、平成29年6月9日及び同月12日、C株式会社に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした上、その後、C株式 会社の預金債権等の仮差押の申立てを行い、同月20日に仮差押決定を得た。また、偽Iに対し、同月22日、偽Iが補助参加人から購入した分譲マンションの売買契約を解除する旨の意思表示に係る通知を発送した。 補助参加人は、令和元年12月16日、C株式会社、K及びJに対して原状回復等を求める訴えを提起し、令和2年9月30日、詐欺グループの 10名に対し、損害賠償を求める訴えを提起した。 (乙42、弁論の全趣旨)(4) 刑事事件の判決等本件詐欺事件に関して、本件各不動産の所有者になりすました者など詐欺グループに属する人物10名に 10名に対し、損害賠償を求める訴えを提起した。 (乙42、弁論の全趣旨)(4) 刑事事件の判決等本件詐欺事件に関して、本件各不動産の所有者になりすました者など詐欺グループに属する人物10名については、詐欺罪等で起訴され、令和元年10月から令和2年6月にかけて、起訴された全員が有罪判決(以下「本件各 有罪判決」という。)を受けた。本件各有罪判決においては、詐欺グループは、 共謀の上、なりすまし役(偽I)のほか、詐欺グループの上位者との連絡役、偽IがIではないことが露見しないように立ち回る役など、複数の人物が役割を分担して詐欺を実行したもので、組織的犯行であったこと、また、偽造した旅券や、これを利用して取得した公的証明書類を使用し、弁護士や公証人を関与させて本人確認を行わせたこと、偽造した旅券は不動産取引に関わ る専門家でも偽造と気づかないほど精巧であったこと等が説示された。 なお、補助参加人の従業員やKは、本件詐欺事件に関して起訴されなかった。(乙42、弁論の全趣旨) 2 争点1(被告Aに関する任務懈怠責任の成否)について(1) ①経営判断(本件稟議書の決裁及び残代金決済前倒しの了承)の誤りにつ いてア(ア) 本件では、上記1(3)のとおり、代表取締役であった被告Aによる本件稟議書の決裁を経て、補助参加人による本件各不動産の購入が決定され、その結果、補助参加人に多額の損害が生じたものである。 しかるところ、取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、 それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得ら かる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、取締役による当時の判断が 取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはないと解され、当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なもの でない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による 責任を負うことはないというべきである。 (イ) そして、会社によっては、その組織の規模等のために、各種の業務を種々の部署で分担し、その部署に知見や経験を集積して、権限も適宜委譲することによって、専門的知見を要する業務も含めて広汎な各種業務に効率的に対応することを可能とするものもあり、当該会社がこのよう な大規模で分業された組織形態となっている場合には、取締役がこれらの各部署で検討された結果を信頼してその経営上の判断をすることは、取締役に求められる役割という観点からみても、合理的なものということができる。 そうすると、当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場 合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、当該取締役が上記の事実 程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提と なった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。 イ本件稟議書の決裁について(ア) 補助参加人の規模及び被告Aの地位等補助参加人は、上記1(1)及び(2)のとおり、単体の売上高が1兆円を 超え従業員数も1万4000人を超える経営規模の極めて大きな会社であり、その組織形態についてみても、組織的な事務分掌の定めや役職を置いて業務を分担させ、その分担状況に応じて権限も委譲され、具体的な事務内容やよるべき手続についても定められていた。このように、補助参加人は、大規模で分業された組織形態となっていたということがで きる。 そして、被告Aは、上記1(1)イのとおり、このような補助参加人において、最高執行責任者(COO)として、その各部門の業務を総合運営し、業務執行全般を指導統制することなどが求められていた代表取締役社長であったのであり、補助参加人において販売用不動産の購入について被告Aの決裁が必要であるのは購入総額10億円以上のものであった ことからみても、補助参加人において被告Aの判断に求めていたのは、多額の資金を要する不動産購入について経営全体を総括する立場からの検討であり、個別の契約内容を具体的に点検することを求めていたものではないといえる。 (イ) 事実等の認識ないし評価に至る過程について a そこで、被告Aの認識していた事実等について更に検討すると、被告Aは、本件稟議書を決裁し、その際に本件稟議書の内容を確認すること 。 (イ) 事実等の認識ないし評価に至る過程について a そこで、被告Aの認識していた事実等について更に検討すると、被告Aは、本件稟議書を決裁し、その際に本件稟議書の内容を確認することができたが、本件稟議書に記載されていた事項は上記1(3)キのとおりであり、いずれの点においても、これに依拠して判断することに躊躇を覚えさせるようなものではなかった。 本件各不動産の所有者(補助参加人が転売を受けるC株式会社に対する譲渡人)であるIの本人性について、上記1(3)ウのとおり、GやFらも含めて東京マンション事業部等の担当者は、偽Iが本件各不動産の所有者であるI本人であることの信用性は高いと考えており(なお、Gらは、公証人が旅券等の提出により面前のIが人違いでないこ とを確認したなどとする公正証書を根拠にして、Iの本人確認の信用性は高いと判断していたのであり、その判断が当時のものとして不合理なものであったということもできない。)、したがって、本件稟議書にも、その信用性に疑義を生じさせるような事情は一切現れていない。 また、被告Aは、現地を視察し、その際、上記1(3)カのとおり、F から本件各不動産についての説明を受けているが、その説明内容に不 自然ないし不合理な点があったということもできない。 上記1(3)キのとおり、本件稟議書の冒頭の「はじめに」では、株式会社CがIと平成29年4月3日付けで本件各不動産の売買契約を既に締結している旨の記載があるが、本件稟議書の「契約の相手」欄では、契約の相手として株式会社Cが記載されていたのを、手書きでC 株式会社と訂正されており、補助参加人に対する本件各不動産の譲渡人の記載に矛盾があるかのような記載がされている。しかし、被告Aは、上記1(3)カのとおり、マン が記載されていたのを、手書きでC 株式会社と訂正されており、補助参加人に対する本件各不動産の譲渡人の記載に矛盾があるかのような記載がされている。しかし、被告Aは、上記1(3)カのとおり、マンション事業本部長であったFから、直接に、既に本件各不動産の所有者であるIと株式会社Cとが契約を結んでいるが、改めてIと同社が契約を締結し直し、同時に同社と補助 参加人とが契約を締結して本件各不動産を取得すると聞いていたのであるから、本件稟議書上は(その時点では、株式会社Cとの間の締結済みの契約書が存在する。)、株式会社C(訂正前)ないしC株式会社(訂正後)が契約の相手方として記載され、かつ、本件稟議書上の契約の相手方の記載に訂正(それも、いわゆる前株か後株かの違いとい う類似した商号の会社間での訂正)があったとしても、本件稟議書に依拠して判断することに躊躇を覚えさせる事情があった(したがって、被告Aとしては契約の内容を担当者に再度確認等すべきであった)などということはできない。 b(a) ところで、原告は、「社長現地視察済み」の「社長案件」ないし「A 案件」であったため、稟議を急がせ、稟議決裁が形骸化した旨の主張をする。 原告のいう「社長案件」ないし「A案件」の意味は必ずしも明らかではないが、上記1(3)で認定のとおり、被告Aが本件各不動産の購入に何らかの特殊な関係ないし利害を有していたのではなく、本 件各不動産の購入は営業担当であったGにKから持ち込まれたこと により始まった話であり、その後の経緯をみても、他の案件とは異なる「社長案件」ないし「A案件」であったなどということはできない。被告Aは、稟議書の決裁の前に本件各不動産の現地視察をしているが、そのこと自体は特殊なことではなく、上記判断を左右す の案件とは異なる「社長案件」ないし「A案件」であったなどということはできない。被告Aは、稟議書の決裁の前に本件各不動産の現地視察をしているが、そのこと自体は特殊なことではなく、上記判断を左右するものではない。 本件稟議書の決裁は、確かに、通常よりも急を要する手続により行われているものであるが、上記1(3)ウ及びエ等で認定のとおり、購入に当たっては東京マンション事業部等において必要な検討を加えた上で決裁に上程されているのであるから、要急の決裁であったことをもって稟議が形骸化していたということはできず、したがっ て、被告Aが、本件稟議書によって提供された事実等の信頼性を通常以上に慎重に検討すべきであったということはできないし、ましてや、それに依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような事情があったということはできない。 (b) また、原告は、中間業者が介在する必要がないのに「アパレル系の 会社」であるという株式会社CないしC株式会社が介在したことをもって不審な点があった旨の主張をするが、何らかの事情により中間業者が介在すること自体は、その者が不動産取引を直接の目的としていない場合も含めて、直ちに不審な取引であるということはできないし、原告は、中間業者が地主の目の前で10億円もの利益を 得ることになる取引であることの不自然性も指摘するが、本件稟議書には中間業者となる株式会社CないしC株式会社の利得額が10億円になることは明記されていないほか、中間業者が介入する以上、何らかの経済的利益が中間業者にもたらされることになることは取引上あり得ることであって、この点をもって被告Aに躊躇を覚えさ せるような事情があったということもできない。 さらに、原告は、中間業者であるC株式会社の取締役の属性や同 ることは取引上あり得ることであって、この点をもって被告Aに躊躇を覚えさ せるような事情があったということもできない。 さらに、原告は、中間業者であるC株式会社の取締役の属性や同社が実態のない会社であったことを前提として不審点があった旨の主張をするが、C株式会社の取締役が政治家の配偶者であったとしても、それが不審な契約であることを基礎付ける事情とは直ちにはいい難く、いずれにせよ、そのような事実関係を被告Aが知り得た とする根拠も見当たらない。 加えて、原告は、C株式会社に対する売買代金の決済が70億円もの預金小切手を交付する方法で行われたことも問題視するが、本件稟議書には決済の方法は記載されておらず、むしろ、上記1(2)オのとおり、売買代金を決済する方法として預金小切手を利用するか どうかは事業所長の判断に委ねられており、小切手の発行それ自体に本社経理事務部の関与も必要とされていなかったのであるから、決済方法の点をもって被告Aに躊躇を覚えさせるような事情があったということもできない。 c 以上のとおり、補助参加人は大規模で分業された組織形態となってい るところ、被告Aが本件稟議書の決裁により本件各不動産を購入する意思決定をした際、本件稟議書の内容、現地視察の際に直接得た印象、その際にFから受けた説明内容に躊躇を覚えさせるような特段の事情は認められなかったのであるから、後記のとおりこれらの事実等に基づいて判断した被告Aの判断は、その判断の前提となった事実等の認 識ないし評価に至る過程は合理的なものであったということができる。 (ウ) 判断の推論過程及び内容について上記1(3)ケのとおり、被告Aは、本件稟議書の内容、現地視察の際に直接得た印象、その際にFから受けた説明内容に基づき判断をし であったということができる。 (ウ) 判断の推論過程及び内容について上記1(3)ケのとおり、被告Aは、本件稟議書の内容、現地視察の際に直接得た印象、その際にFから受けた説明内容に基づき判断をしている。 そこで、かかる事実等による被告Aの判断の推認過程及び内容の合理 性について検討すると、上記の本件稟議書の内容やFの説明内容等から は、C株式会社を通じて本件各不動産を購入する偽Iが真実は本件各不動産の所有者ではなかったという事情は一切うかがわれないのであり、かかる事実等により本件各不動産を真の所有者から購入することができると考えた被告Aの判断の推論過程及び内容に不合理というべき点はない。 本件各不動産の購入に要する費用は、C株式会社に支払う売買代金だけで70億円を要するものであったが、当時の補助参加人の規模や売上高等に鑑みれば、購入につき特に問題となる金額ではなく、また、本件各不動産はJR●駅から徒歩約4分の距離に位置するマンションの建設が可能な約600坪のまとまった土地で、頻繁に市場に現れるような土 地ではなく、本件稟議書からは採算性についても特段の問題はなかったのであるから、本件各不動産を購入するとした判断についても、何ら不合理な点は見当たらない。 (エ) 以上のとおり、本件稟議書を決裁した被告Aの判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものであり、かつ、 かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものではなかったのであるから、経営判断として同被告に許された裁量の範囲に止まるものであったということができ、被告Aが、本件稟議書を決裁したことを理由に善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うということはできない。 ウ残代金決済前倒し 裁量の範囲に止まるものであったということができ、被告Aが、本件稟議書を決裁したことを理由に善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うということはできない。 ウ残代金決済前倒し了承について(ア) 事実等の認識ないし評価に至る過程について被告Aは、平成29年5月30日に残代金決済前倒しを了承する判断をした際、本件稟議書を決裁した同年4月20日の時点で既に聞いていた事実等に加えて、①同年5月12日にFから本件説明資料を用いて説 明を受けて新たな事実等を認識したほか、②残代金決済前倒しを了承し た際に、本件説明図を用いて説明を受けて新たな事実等を認識した。 すなわち、被告Aは、上記1(3)セのとおり、平成29年5月12日、伊丹空港において、本件各不動産の所有者本人と称する者から売買をしていない旨の通知書が届いたことや補助参加人が取った所有者の本人確認方法などを記載した本件説明資料にざっと目を通し、Fからブローカ ー的な人物が訪問してきていることなどを電話で説明を受けている。また、被告Aは、上記1(3)ツのとおり、同月30日、ブローカーの相関図を記載した本件説明図にざっと目を通し、自動車内において、Fから、不動産部、法務部、弁護士と協議した結果、様々な嫌がらせや妨害工作を排除するために、残代金の決済を同年6月1日に前倒しする方針であ ることなどの説明を受けている。 上記各文書の記載内容も含めたこれらの事実等については、その内容に鑑みても、Fが殊更に被告Aに対して虚偽の説明をしていると感じさせるものではなく、また、本件各不動産の所有者の本人確認に関しては、本件説明資料によって、旅券の原本確認や公証人による本人認証証書の 原本確認等によって司法書士による確認も含めて本人確認を実施した旨 のではなく、また、本件各不動産の所有者の本人確認に関しては、本件説明資料によって、旅券の原本確認や公証人による本人認証証書の 原本確認等によって司法書士による確認も含めて本人確認を実施した旨の情報が被告Aにもたらされていたほか、平成29年4月18日の現地視察の時点で既に被告AはFに対して地主に会って意思確認をするよう指示していて(実際、Fは、同年5月23日に所有者であると称していた偽Iに直接会っている。)、同月12日には弁護士と相談して対応する ようにも指示をしており、その結果、同月30日のFからの説明の際には妨害工作の存在についての説明はあったが本人性について疑義があるとの情報はもたらされなかったのであるから、被告Aとしては本人性に疑義があるとの検討結果はなかったものと考えても不自然ではなく(仮に、被告AがFに尋ねていたとしても同様の回答がされたものとうかが われる。)、これらの事実等によれば、本件各不動産の所有者の本人性に ついて追加の情報収集をしないと判断をすることが躊躇われるというような事情があったみることはできず、したがって、上記各文書の記載内容も含めた上記の事実等に基づいて行われた被告Aの判断について、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものであったということができる。 なお、上記第2の2(3)セのとおり、上記の通知書は内容証明郵便により送付されており、また、上記1(3)セのとおり、補助参加人の関係会社の代表者からは、平成29年5月12日に、不動産部のEに対し、本件取引に関し、補助参加人が支払った手付金が地主には少ししか支払われていないという噂がある、仲介している相手は疑わしいところではない かなどとする内容の連絡があり、原告はこれらの点を指摘するが、かか に関し、補助参加人が支払った手付金が地主には少ししか支払われていないという噂がある、仲介している相手は疑わしいところではない かなどとする内容の連絡があり、原告はこれらの点を指摘するが、かかる事実等が被告Aに伝えられたと認めるに足りる証拠はなく、被告Aの認識した事実等によれば追加の情報収集をしないと判断をすることが躊躇われるというような事情があったみることができないことは上記で説示したとおりである。 (イ) 判断の推論過程及び内容についてそこで、被告Aが認識ないし評価するに至った上記の事実等を前提に、かかる事実等による被告Aの判断の推認過程及び内容の合理性について検討すると、上記のとおり、被告Aは、本件説明資料やFによる説明により、本件各不動産の所有者本人と称する者から売買をしていない旨の 通知書が届いたことなどの事実等を認識するに至っている。 しかし、他方で、被告Aには、本件説明資料によって、旅券の原本確認や公証人による本人認証証書の原本確認等のほか司法書士による確認も含めて十分な本人確認が行われていたことを示す情報ももたらされていたこと、Fに対して地主に直接会うよう指示し、弁護士とも対応を相 談するように指示した結果としても、偽Iが本件各不動産の所有者本人 である本人性に疑義があるとの情報はもたらされなかったこと、むしろ、上記通知書による情報が、偽Iの本人性に疑義があることを示すものではなく、補助参加人による本件各不動産の取得を妨げようとする妨害工作である可能性が高いことを示す検討結果が示されていたこと、さらに、Fからは、残代金の決済の前倒しについて弁護士や法務部はいずれも了 解していると聞き、被告Aが法務部長であったDに直接尋ねてもDは残代金決済前倒しにつき問題はないとの回答をし いたこと、さらに、Fからは、残代金の決済の前倒しについて弁護士や法務部はいずれも了 解していると聞き、被告Aが法務部長であったDに直接尋ねてもDは残代金決済前倒しにつき問題はないとの回答をしていたことからすれば、平成29年5月12日や同月30日に契約の続行を中止するという経営判断をすべきであったということはできないし、また、本件取引を続行し、かえって、残代金の決済時期を前倒しにする残代金決済前倒しを了 承する被告Aの判断について、推論過程及び内容が著しく不合理なものであったということはできない。 (ウ) 以上のとおり、残代金決済前倒しを了承した被告Aの判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものであり、かつ、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なも のではなかったのであるから、経営判断として同被告に許された裁量の範囲に止まるものであったということができ、被告Aが、残代金決済前倒しを了承したことを理由に善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うということはできない。 (2) ②従業員に対する監視監督義務に係る任務懈怠について 原告は、被告AにはF以下担当従業員に調査等を指示すべき監視監督義務があった旨の主張をする。 しかし、被告Aは、上記1(1)イのとおり、補助参加人の最高執行責任者(COO)として、その各部門の業務を総合運営し、業務執行全般を指導統制することなどが求められていた代表取締役社長の立場にあったのであり、被告 Aには、それを前提とした役割が期待されていたのであるから、当然に個別 の従業員に対する関係において監視監督に係る具体的な注意義務を負っていたということはできない。 そして、上記(1)等で認定説示した被告Aの認識した事実 されていたのであるから、当然に個別 の従業員に対する関係において監視監督に係る具体的な注意義務を負っていたということはできない。 そして、上記(1)等で認定説示した被告Aの認識した事実等を前提に考えても、被告Aには十分な本人確認が行われていたことを示す情報ももたらされており、また、本件各不動産の所有者本人と称する者から売買をしていない 旨の通知書は届けられていたものの、これは偽Iの本人性に疑義があることを示すものではなく、妨害工作である可能性が高いことを示す検討結果も示されていたこと、そして、これらの事実等が大規模で分業された組織形態となっている補助参加人において組織的に検討した結果としてもたらされたものでもあって、代表取締役であった被告Aがこれらの事実等を信頼して判断 することも合理的なものであったこと(上記(1)参照)に照らせば、C株式会社に本件各不動産を譲渡する売主の本人確認も含め、被告Aに原告の主張する監視監督義務があったということはできない。 なお、原告が、被告Aについて、他の取締役に対する監視監督義務に係る任務懈怠責任についても主張するものであったとしても、監視監督義務の根 拠を具体的に主張するものではなく、原告の主張を採用することはできない。 (3) ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務に係る任務懈怠についてア会社法上、取締役会設置会社においては、内部統制システムに関する事項(取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企 業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備)の決定は、重要な業務執行の決定として取締役会の決議事項とされており(会社法362条4項6号) 子会社から成る企 業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備)の決定は、重要な業務執行の決定として取締役会の決議事項とされており(会社法362条4項6号)、そのうち、大会社(会社法2条6号)では、この内部統制システムに関する事項を整備することは義務的とされている(同条5項)。 イそこで、本件において補助参加人において構築されていたマンション用 地の不動産取引に係る内部統制システム(リスク管理体制)について検討すると、本件取引当時、東京マンション事業部においては、マンション事業部業務フローチャート、不動産事業マニュアル及び稟議規則等に従いマンション用地を取得することと定められており、具体的には、上記1(2)のとおり、物件の調査及び確認等、稟議、契約締結時の確認事項等、手付金 の支払及び仮登記、決済等について、詳細な定めが設けられていた。 補助参加人において定められていた上記の手続等においては、旅券等の本人確認書類が偽造されている可能性があることを指摘するものではなく、その可能性があることを前提とした定めは設けられていなかったと考えられるが、上記1(2)ウのとおり、売主に直接対面して本人確認書類の原 本の提示を受けることとされていて、実際、本件においても、上記の手続等に従って、複数回にわたって本人確認がされていたほか、上記1(3)テのとおり、残代金決済前倒しの前日には、旅券、国民健康保険被保険者証、印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票、除籍謄本、納税証明書3通及び固定資産評価証明書などの必要書類の確認も行われており、その際、司法書士 によって偽Iの旅券の紫外線調査まで行われていたのであるから、通常想定されるリスクに応じた管理体制が定められていたということができる 証明書などの必要書類の確認も行われており、その際、司法書士 によって偽Iの旅券の紫外線調査まで行われていたのであるから、通常想定されるリスクに応じた管理体制が定められていたということができる。 そして、本件では、結果として、偽Iから提示された旅券は偽造されたものであったと考えられるが、補助参加人がこれまでにこのような被害額の詐欺事件に遭った経験を有していなかったとみられること(乙42、弁論 の全趣旨)からしても、被告Aが、補助参加人の代表取締役として、当時、上記の紫外線調査でも判明しない偽造についてまで想定してリスク管理体制を整えておくべきであったということはできない。 なお、原告は、本件においても、不動産部に不審情報が隠すことなく集積されていれば本件取引が詐欺によるものであることが判明することが 期待できたが、稟議規則上、不動産部による歯止めが利かない構造となっ ていたという欠陥があった旨の主張をする。確かに、上記1(3)ソ及びツのとおり、不動産部のEは、本件取引に懸念を有していたことが認められるが、Eとしても、本人確認が行われたことを前提として決裁後の妨害リスクに触れるものであり、本件取引の売主の本人性に重大な問題があると懸念していたとまではいうことはできず、したがって、不動産部に情報を集 積していれば本件取引が詐欺によるものであることが判明したと認めることのできるものではないし、また、本件稟議書は不動産部にも提示されており、不動産部長であるEも承認していたが、稟議に際して不動産部長が否定的な意見を述べることが禁止されていたとは認められないのであるから、原告の上記主張は採用することができない。 ウさらに、原告は、従業員が、内容証明郵便が到達していることを決裁権者に秘匿したり、ペーパーカ ことが禁止されていたとは認められないのであるから、原告の上記主張は採用することができない。 ウさらに、原告は、従業員が、内容証明郵便が到達していることを決裁権者に秘匿したり、ペーパーカンパニーを中間業者にすることを許容したり、警察沙汰になっているにもかかわらず多額の代金決済を現場の判断だけで続行したり、高額の預金小切手での決済を現場の判断だけで許容したり、不審情報が多数ある中で残代金決済前倒しという自らリスクを高める行動 に出ることを許容したという事態が発生しており、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していたとはいえない旨の主張をする。 しかし、内容証明郵便の方法で通知書が送られてきていることは被告Aに伝えていなかったと考えられるが、殊更秘匿にされたとは認めるに足りる証拠はないし、本件各不動産の売買以外にも多くの決裁等の業務を抱え る代表取締役であった被告Aに全ての事項が伝えられていなかったとしても、内部統制システム(リスク管理体制)として実効的に機能していなかったということはできず、本件では、その内容の骨子は被告Aに伝えられていた上、上記1(3)シ、ス及びタのとおり、担当者の中では内容証明郵便であることも踏まえた検討がされていたのであるから、被告Aに通知の 方法まで伝えていなかったことをもって内部統制システム(リスク管理体 制)が実効的に機能していなかったということはできない。また、仮にC株式会社がいわゆるペーパーカンパニーであったとしても、本件各不動産についての情報を提供してきたKの求めるC株式会社をいわゆる反社会的勢力に属していないことの確認をした上で中間業者として介在させたこと自体をもって、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能 していないということはでき 求めるC株式会社をいわゆる反社会的勢力に属していないことの確認をした上で中間業者として介在させたこと自体をもって、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能 していないということはできないし、さらに、残代金決済の際、本件各不動産の所在地で待機していた補助参加人の従業員が通報があったとして警察への任意同行を求められる事態が発生しているが、旅券等で複数回にわたって所有者の本人確認をし、他方、様々な嫌がらせや妨害工作がされていると認識されていたことなどの本件に現れた事実関係等の下では、現 場の判断でそのまま決裁を続行したとしても、直ちに内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していなかったということはできない。 加えて、補助参加人では、上記1(2)オのとおり、預金小切手を発行する場合は必ず線引小切手で発行することとした上で、売買代金を決済する方法として預金小切手を利用するかどうかは事業所長の判断に委ねられて いるが、売買自体については別途決裁を得ることになっていることや、線引小切手の性質も考慮すると、本件においても、上記定めに従って現場の判断で預金小切手で決裁したことをもって、内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していなかったということはできないし、また、上記と同様に、旅券等で複数回にわたって所有者の本人確認をし、他方、 様々な嫌がらせや妨害工作がされていると認識されていたことなどの本件に現れた事実関係等の下では、担当者や担当部署において代金決済前倒しの判断をしたことをもって、直ちに内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していなかったということもできない。 エこのように、補助参加人の内部統制システム(リスク管理体制)が実効 的に機能していなかったということはできず、した ム(リスク管理体制)が実効的に機能していなかったということもできない。 エこのように、補助参加人の内部統制システム(リスク管理体制)が実効 的に機能していなかったということはできず、したがって、被告Aに、原 告の主張する、本件取引が中止されるような内部統制システム(リスク管理体制)を構築すべき義務があったということはできない。 (4) ④被害回復措置についてア原告は、被告Aには、補助参加人の代表取締役であるとともにマンション事業の業務担当取締役として、C株式会社、K及びJに対して直ちに被 害回復のための措置を取るべき義務があったのにこれを怠った旨の主張をする。 しかし、上記1(3)ネ及びノのとおり、補助参加人は、本件各不動産(未登記建物は除く。)についての所有権移転登記手続の申請(本件登記申請)が却下される見込みとなった平成29年6月6日のうちに警察署にI名 義の口座等の凍結依頼を行い、翌日にはGにおいてC株式会社に対する事実上の返金依頼を行っていたほか、C株式会社に対して本件売買契約を解除する旨の意思表示を行った上、同月20日にはC株式会社の預金債権等に対する仮差押決定も得ていた。このように、補助参加人は、所有権移転登記を得ることができない見込みとなった後、可及的速やかに当時採用し 得る手立てを取っていたということができるのであるから、被告Aに、本件取引の詐欺行為発覚後の被害回復措置についての注意義務違反があったということはできない。 原告は、C株式会社、K及びJに対する訴訟提起が遅れたことも指摘するが、C株式会社、K及びJが詐欺グループとどのような関係にあったか は不明であり、被害者である補助参加人において本件詐欺事件の真相を究明するのは容易ではなく、詐欺グループの主犯に関する 摘するが、C株式会社、K及びJが詐欺グループとどのような関係にあったか は不明であり、被害者である補助参加人において本件詐欺事件の真相を究明するのは容易ではなく、詐欺グループの主犯に関する刑事手続の進行により被害が回復される可能性もあったところ、刑事手続の進行を踏まえて可能な限度で法的措置を取った補助参加人の対策が遅かったとまでいうことはできず、この点についても被告Aに被害回復措置についての注意義 務違反があったということはできない。 イまた、原告は、被告Aには、登記申請を担当した司法書士及び偽Iが選任したとする弁護士に対する損害賠償請求をすべき義務があったのにこれを怠った旨の主張をする。しかし、本件証拠上、上記の専門家の判断に法的責任を負う誤りがあったといえるのかは必ずしも明らかではないのであるから、被告Aに上記の専門家に対する損害賠償請求をすべき義務があっ たということはできない。 (5) ⑤被害拡大防止措置について原告は、被告Aには、本件詐欺事件の事実の報告を受け、直ちに預金小切手の換金防止措置を取るよう指示すべき義務があったのにこれを怠った旨の主張をする。 しかし、上記1(3)ヌのとおり、被告Aが本件登記申請に問題があることを知ったのは、本件取引において詐欺グループ側に預金小切手が交付された平成29年6月1日よりも後の同月6日のことであり、本件登記申請が却下される見込みであることを知ったのは更にその翌日である同月7日のことであるが、その時点では、上記1(3)ト及びネのとおり、詐欺グループ側は既に預 金小切手を現金化しており、KからもC株式会社に渡った6億5000万円は既に債務の返済に充てたとして返還を拒まれていたという状態であったのであるから、被告Aが、本件取引に問題が生 側は既に預 金小切手を現金化しており、KからもC株式会社に渡った6億5000万円は既に債務の返済に充てたとして返還を拒まれていたという状態であったのであるから、被告Aが、本件取引に問題が生じていることを知った時点では預金小切手の換金防止措置を取ることでは本件取引による補助参加人の被害拡大防止をできない状態となっていた。したがって、被告Aに、本件詐欺事 件の事実を知った後直ちに預金小切手の換金防止措置を取るよう指示すべき義務があったということはできない。 3 争点2(被告Bに関する任務懈怠責任の成否)について(1) ①経営判断(本件稟議書の決裁及び預金小切手の使用許諾)の誤りについて ア原告は、本件稟議書を事後的に承認した被告Bの判断は、補助参加人に 対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠に当たる旨の主張をする。 しかし、被告Bによる経営判断についても、上記2(1)アで説示したことが当てはまるということができる。 そして、上記1(3)サのとおり、本件稟議書による決裁に当たって被告B が得た情報は、本件稟議書に記載された情報のみであり、被告Bは本件稟議書に記載された事実等に基づき判断したものであるところ、上記の事実等は、上記1(3)キ及び2(1)イ(イ)aのとおり、いずれの点においてもこれに依拠して判断することに躊躇を覚えさせるようなものではなく、したがって、被告Bの判断は、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価 に至る過程は合理的なものであったということができ、かつ、上記の本件稟議書の内容からは、C株式会社を通じて本件各不動産を購入する偽Iが真実は本件各不動産の所有者ではなかったという事情は一切うかがわれないのであり、かかる事実等により本件各不動産を真の所有者から購 件稟議書の内容からは、C株式会社を通じて本件各不動産を購入する偽Iが真実は本件各不動産の所有者ではなかったという事情は一切うかがわれないのであり、かかる事実等により本件各不動産を真の所有者から購入することができると考えた被告Bの判断の推論過程及び内容にも不合理と いうべき点はない。 したがって、被告Bが、本件稟議書を決裁したことを理由に善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うということはできない。 イまた、原告は、預金小切手の使用を許諾した被告Bの判断は、補助参加人に対する善管注意義務ないし忠実義務に違反する任務懈怠に当たる旨の 主張をする。 しかし、上記1(2)オのとおり、補助参加人においては、売買代金を決済する方法として預金小切手を利用するかどうかは事業所長の判断に委ねられていて、実際、本件においても、本件稟議書に決裁方法の記載はなく、上記1(3)サのとおり被告Bが預金小切手の使用について部下から承認を 求められたこともなかったことに照らせば、被告Bは、原告の主張する預 金小切手の使用を許諾する判断をしていなかったのであり、原告の主張はその前提において採用できない。 (2) ②従業員に対する監視監督義務に係る任務懈怠について本件において、補助参加人の経理財務部門の最高責任者として取締役副社長であった被告Bが、個別の従業員に対する関係において監視監督に係る具 体的な注意義務を負っていたということはできない。 原告は、被告Bが決裁手段について預金小切手の安易な利用を制限していればこれほどの被害は生じなかった旨の主張をするが、被告Bの地位のほか、被告Bが認識した事実等の本件に現れた事実関係等に照らせば、被告Bに原告の主張する監視監督義務があったということはできない。 なお の被害は生じなかった旨の主張をするが、被告Bの地位のほか、被告Bが認識した事実等の本件に現れた事実関係等に照らせば、被告Bに原告の主張する監視監督義務があったということはできない。 なお、原告が、被告Bについて、他の取締役に対する監視監督義務に係る任務懈怠責任についても主張するものであったとしても、監視監督義務の根拠を具体的に主張するものではなく、原告の主張を採用することはできない。 (3) ③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務に係る任務懈怠について上記2(3)のとおり、補助参加人において構築されていたマンション用地 の不動産取引に係る内部統制システム(リスク管理体制)が実効的に機能していなかったということはできず、被告Bが、原告の主張する、本件詐欺事件のような被害発生を防止するための万全の内部統制システム(リスク管理体制)を構築すべき義務を怠ったということはできない。 原告は、何十億円であっても預金小切手を使用できる制度を許容している こと自体が経理財務部門の判断としては誤りである旨の主張をするが、本件においても、線引小切手の使用を禁止して振込入金の方法によれば被害を防止できたことを裏付ける事情は見当たらないこと、補助参加人において本件取引以前に預金小切手の使用によって損害が発生した事実も見当たらないこと(弁論の全趣旨)も考慮すれば、被告Bに、内部統制システム(リスク管 理体制)として預金小切手の使用方法についての新たな制度を制定すべき注 意義務があったということはできない。 (4) ④被害回復措置について原告は、被告Bは本件取引によって補助参加人に生じた損害の回復について早期に取締役会において提案すべきであった旨の主張をするが、上記2(4)で採られた被害回復措置を超える措置を取 回復措置について原告は、被告Bは本件取引によって補助参加人に生じた損害の回復について早期に取締役会において提案すべきであった旨の主張をするが、上記2(4)で採られた被害回復措置を超える措置を取ることができたと認めるに足りる 証拠もなく、原告の上記主張は採用できない。 (5) ⑤被害拡大防止措置について原告は、被告Bは本件取引の途中においても預金小切手の保全措置を取るよう助言・指示すべきであった旨の主張をするが、上記1(3)ヌのとおり、被告Bが本件詐欺事件についての報告を受けたのは、早くても平成29年6月 7日であったのであるから、上記2(5)と同様に、預金小切手の保全措置を取ることでは本件取引による補助参加人の被害拡大防止をできない状態となっており、被告Bに、預金小切手の保全措置を取るよう助言・指示すべき義務があったということはできない。 第4 結論 以上によれば、原告の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条を、補助参加によって生じた費用の負担につき同法66条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官谷村武則 裁判官小川紀代子 裁判官三重野真人 (別紙物件目録省略)

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