平成15(う)18 殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年3月22日 広島高等裁判所 松江支部 松江地方裁判所 平成14(わ)72
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判決文本文9,943 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役4年に処する。 原審における未決勾留日数中240日をその刑に算入する。 原審で押収してある牛刀1丁(松江地方裁判所平成14年押第20号の1)及び箱1箱(同号の2)を没収する。 原審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 第1 本件控訴の趣意は,弁護人吾郷計宜作成の控訴理由書記載のとおりであるから,これを引用する。 所論は,要するに,原判示第1の殺人未遂について,被告人は被害者であるAに対し殺意を有していないから殺人未遂罪は成立せず,仮に暴行の故意があったとして傷害罪が成立するとしても正当防衛が成立するから無罪であるのに,Aに対する殺意を認め,正当防衛の成立を認めなかった原判決には判決に影響を及ぼす事実の誤認がある,というのである。 第2 控訴趣意に対する判断そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せ検討する(なお,この項では,原判示第1の犯行を,「本件犯行」ないし単に「犯行」という。)。 1 関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯,犯行前後の状況として,次の事実関係が認められる。 (1) 被告人は,10数年くらい前に被害者の経営する会社にダンプの運転手として半年くらい勤務したことがあったが,平成13年8月に前刑を終えた後,知人を通じて,被害者が田を担保に金員の借入先を探しているとの話を聞き及び,平成14年1月19日午後4時43分ころ,後輩の運転する自動車の中から被害者に電話し,融資の世話をしたら礼はいくらくれるかなどと尋ねたところ,被害者からお前呼ばわりをされたうえ,「できもせんのに大きなことを言うな。」などと言い返されて激しい口論となり,被害者方に行く旨申し向けると,同人から「来 たら礼はいくらくれるかなどと尋ねたところ,被害者からお前呼ばわりをされたうえ,「できもせんのに大きなことを言うな。」などと言い返されて激しい口論となり,被害者方に行く旨申し向けると,同人から「来るなら来い。」などと言われたため,「行っちゃるわい,一人でおれよ。」などと答えて電話を切った。被害者は,そのあと前記知人に電話して,被告人が来たら「性根を入れるぞ。」などと言った。 (2) そして,被告人は,車で一旦ホームセンターに立ち寄り,刃体の長さ約18.2センチメートルの紙箱入り牛刀を購入し,同店のトイレからトイレットペーパーを持ち出して再び車に乗り込み,後輩に行き先を指示して,同日午後5時18分ころ,被害者方があるマンションに到着した。 (3) 被告人は,車を降り,牛刀の入った紙箱の元の部分を切り破り,柄の部分が上になるように収まった牛刀を背広の左の内ポケット内に忍ばせて同マンションの階段を上り,4階の被害者方玄関前フロアに至った。 (4) 一方,被害者は,外の気配に気づき,玄関ドアの覗き窓から覗いたところ,被告人がただならぬ感じで階段を上がってくるのが見えたので,台所へ行きホーロー鍋を手に取ったあと,玄関ドア前まで戻り,再び覗き窓から様子をうかがっていた。 (5) 被告人は,呼び鈴を何度も鳴らし,「出てこい。」などと怒鳴りながら玄関ドアを叩いていたが,数分経っても応答がなかったので,あきらめて帰ろうと思い,玄関ドアに背を向け,階段降り口の方に歩きかけたとき,玄関ドアの内鍵を開け外に出てきた被害者から,いきなり後頭部をホーロー鍋で殴打されたため,内ポケットから右手で牛刀を取り出しながら,被害者の方に振り向きざま,この牛刀を1回突き出して被害者の下腹部を突き刺した。被害者は,玄関内に逃れてドアを閉め内鍵をかけ,その後警察に連 打されたため,内ポケットから右手で牛刀を取り出しながら,被害者の方に振り向きざま,この牛刀を1回突き出して被害者の下腹部を突き刺した。被害者は,玄関内に逃れてドアを閉め内鍵をかけ,その後警察に連絡した。 (6) 他方,被告人は,階段を下りて車まで戻り,前記トイレットペーパーで頭の血を拭うなどして,車を走らせ,途中車に乗り込んだ友人に人を刺したと話すなどした後,捜査機関の求めに応じて警察に出頭した。 (7) 被告人は,被害者から殴打されたことにより,後頭隆起部から頭頂部の方に向かって約10センチメートルのところからほぼ後正中線上に上方に向け,縦約3.5センチメートル,幅(最大幅)0.6センチメートルの割創と当該部の打撲の傷害を負った。 (8) 被告人及び被害者の身長はいずれも同程度(約173センチメートル)である。 2 所論は,本件犯行直前の状況について,原判決は,玄関の外に出た被害者が,被告人と正対して目線が合うや,右手に持ったホーロー鍋を振り下ろして被告人の後頭部を殴打し,これとほぼ同時に,被告人が右手に持った牛刀で被害者の下腹部を刺した旨認定したが,被告人は,被害者方玄関ドアに背を向けて階段の方へ向かおうとしたときに,玄関ドアを開けた被害者が被告人の背後に近づき,後頭部をホーロー鍋で殴打したため,振り向いて被害者を刺したのであるから,原判決はこの点事実を誤認したものである旨主張し,当裁判所は,前記のとおり,ほぼ所論に沿った認定をしたので,その理由について述べることとする。 ところで,原判決は,この点に関する被害者の供述に信用性を認め,同供述に沿った認定をしたものであるが,この供述の信用性にはいくつかの疑問がある。①まず,被害者立会の実況見分調書によれば,同調書には,捜査官から被告人を殴打した際の状況について再現す 用性を認め,同供述に沿った認定をしたものであるが,この供述の信用性にはいくつかの疑問がある。①まず,被害者立会の実況見分調書によれば,同調書には,捜査官から被告人を殴打した際の状況について再現するよう求められた被害者が,模擬被疑者に対し階段方向を向くよう指示したうえで「被告人の頭を叩いたのはこうです。」と説明した旨の記載があり,この説明に沿った写真も添付されていることが認められるが,これは,被告人と正対して目線が合うや,被告人をホーロー鍋で殴打し,ほぼ同時に被告人が被害者の下腹部を刺したとする被害者の供述とは相容れないものである。原判決は,この写真について,被害者が被告人の体勢について十分な記憶がなかったため,警察官から被告人の後頭部の傷の写真を見せられながら,この傷に適合するように指示説明するよう求められる中で撮影された可能性がある旨判示するが,前記のとおり,実況見分調書では,被害者がホーロー鍋で殴打した際の被告人の向きを被害者自らすすんで警察官に指示説明したような記載になっていること,被害者が被告人を殴打しようとしているときに,被告人が被害者と正対していたか,被害者に背を向け階段方向を向いていたかについて被害者に十分な記憶がないというのは通常考え難いことなどに照らすと,原判決の前記判示部分はにわかに首肯できないものである。当審におけるBのこの点に関する証言も十分に説得的とはいえず,証拠価値に乏しい。②次に,被害者は,玄関ドアを開ける寸前まで,被告人が怒鳴ってドアを叩いていた旨供述するところ,そうであれば,被害者が玄関ドアを押し開けた際に被告人とドアが接触する可能性が高いと考えられるが,被害者,被告人ともそういうことはなかった旨述べているもので,この事実は,被告人が玄関ドアに背を向け階段の方へ向かおうとしたときに,玄関ドアを開け 被告人とドアが接触する可能性が高いと考えられるが,被害者,被告人ともそういうことはなかった旨述べているもので,この事実は,被告人が玄関ドアに背を向け階段の方へ向かおうとしたときに,玄関ドアを開けた被害者が被告人の背後から殴打したとの被告人の供述に沿うものといえる。③また,被害者は,被告人と目線が合ったあと,左手で玄関ドアの内側ノブを持ったまま,右手に持ったホーロー鍋を右肩あたりに挙げて斜め下方に振り下ろして殴打した旨供述するが,そのような殴打の仕方で果たして被告人に前記のような頭部の傷が生じるのか相当疑問がある。原判決は,この点,被告人が自ら被害者の腹部を刺そうとするためにしろ,被害者の攻撃を避けようとしたにしろ,とっさにその上体を屈め,頭を下げる体勢をとるのもごく自然なことと考えられるし,被害者がそのような体勢の被告人の頭部を殴打すれば,被告人の頭部に前記のような傷が発生するといえると判示するが,被害者自身は,被告人を殴打したときの被告人の体勢は見ていない旨述べているし(この供述内容自体,通常考え難いことは前記のとおりである。),原判示のような被告人の姿勢を前提としても,被害者が述べるような殴打の仕方で被告人に前記のような頭部の傷が生じるかについてはなお疑問が残るものである。むしろ,被告人の頭部の傷の位置,状況からすると,この傷は,被告人がその背後からホーロー鍋で殴打されたことによりできたものとみる方がより自然のように思われ,証人C(医師)の証言も,被害者が殴打した際の被害者と被告人の体勢,位置関係,被害者の殴打の仕方次第では,被告人の傷が背後からホーロー鍋で殴打されたことによってできた可能性を否定していないものである。また,原判決は,柄から抜けたホーロー鍋の飛び方は,被告人が後方から殴打されたことと整合しないとも説示しているが が背後からホーロー鍋で殴打されたことによってできた可能性を否定していないものである。また,原判決は,柄から抜けたホーロー鍋の飛び方は,被告人が後方から殴打されたことと整合しないとも説示しているが,被告人の頭部の傷の部位から想定されるホーロー鍋底面の後頭部曲面への打撃状況からすると,その反動でホーロー鍋が跳ね返ることを示唆するかのような原判決の推論の方がむしろ不自然というべきである。 ④さらに,平成14年1月28日付け実況見分調書によれば,本件のマンション4階フロアの,被害者方玄関ドアから少し離れた,むしろ階段寄りの2か所(原判決添付現場見取図T及びU)に被害者のものらしき血痕が存在していることが認められるが,このような血痕の存在位置や同調書によって認められるホーロー鍋の把手の破片の飛散状況(ほとんどが3階と4階の間の踊り場に飛散している。)からも,被害者が玄関ドアノブを左手で持ちつつ,右手に持ったホーロー鍋を肩あたりに挙げ斜め下方に振り下ろして被告人を殴打したとみるよりも,むしろ被告人が階段の方へ向って歩きかけているときに,被害者がドアの外に出て被告人の背後に近づき,ホーロー鍋で殴打したものとみる方がより自然であるといえる。以上の諸点に照らすと,被告人と被害者が正対した状態で,被害者がホーロー鍋で被告人の後頭部を殴打し,これとほぼ同時に被告人が被害者を牛刀で刺した旨の被害者の供述の信用性には疑いがあり,被害者が被告人の背後からホーロー鍋で被告人の後頭部を殴打したため,被告人が振り向いて被害者を刺した旨の被告人の弁解を排斥することはできないから,この点に関する被害者の供述の信用性を認め,この供述に沿った事実を認定をした原判決には事実の誤認があるというべきである。 3 被告人の殺意について所論は,被告人は本件犯行当時殺意を有して ,この点に関する被害者の供述の信用性を認め,この供述に沿った事実を認定をした原判決には事実の誤認があるというべきである。 3 被告人の殺意について所論は,被告人は本件犯行当時殺意を有していなかった旨主張するので,検討するに,被告人が使用した牛刀は刃体が鋭利なうえ,その長さは約18.2センチメートルに及び,十分人を殺傷するに足る形状を有すること,被告人は,被害者から後頭部をホーロー鍋で殴打された直後,内ポケットから右手で牛刀を取り出しながら,被害者の方に振り向きざま,この牛刀を突き出して被害者の身体の枢要部である下腹部(臍窩部の直下約5センチメートル)を刺突したものであること,この刺突行為による刺創は深さ約10センチメートルにも及んでおり,被告人の加えた力が相当強かったことがうかがわれること等の事情を総合すると,被告人が,本件犯行当時殺意を有していたことは優に認定しうるといわなければならない。 所論は,これに対し,被告人があらかじめ牛刀を準備したのは,被害者と対面した際に被害者が凶器で攻撃してくることに備えた護身のためであったが,被害者方玄関先で被害者を呼んでも出てこないことがわかり,帰ろうとしたら,いきなり被害者から後頭部を殴打され,振り返ったら被害者がさらに両手を挙げて攻撃態勢をとっていたことから,とっさに殺されると思い,腹立ちや恨みとは無縁で,被害者の身体のどこかを狙うつもりもなく,牛刀を取り出して差し出したものであるとも主張する。しかし,被告人は,車中での被害者との電話での激しい言い合いの後,すぐさま車を走らせて牛刀を購入,準備し,わざわざ被害者方まで出向いていることから,被害者方玄関前に至った時点では,相当興奮,憤激状態にあったもので,単に護身のために牛刀を準備していたというよりも,被害者の出方次第では,自ら 入,準備し,わざわざ被害者方まで出向いていることから,被害者方玄関前に至った時点では,相当興奮,憤激状態にあったもので,単に護身のために牛刀を準備していたというよりも,被害者の出方次第では,自らその機会に牛刀でもって攻撃をしかけようと決意していたと認められるものである。もっとも,被告人は,その後,被害者を呼んでも玄関ドアから出てこなかったので,同人と会うのをあきらめて帰りかけているのであるが,被害者から後頭部をホーロー鍋で殴打されて,振り向きざまに取り出した牛刀で被害者の下腹部を相当強い力で突き出しているのであって,このような経過等に照らすと,所論のように,被告人の本件犯行が腹立ちや恨みと無縁であったとか,とっさに牛刀を突き出した際に被害者の身体のどこかを狙うつもりはなかったなどということはできないというべきである。また,被告人の刺突行為が1回にとどまっていて,さらなる攻撃に及んでいないことは所論の指摘するとおりであるが,以上の認定事実からすれば,これをもって被告人の殺意に疑いを生ぜしめる事情とはいえない。論旨は採用できない。 4 正当防衛の成否について所論は,原判決は,被告人は,事前に喧嘩闘争状態になることを予期しながら牛刀を携帯して被害者方を訪れ,被害者と正対し,目線が合うや牛刀で被害者の下腹部を相当な力で刺したもので,積極的に被害者に攻撃を加える意図で本件犯行に及んでいるのであるから,急迫性の要件を欠くとともに防衛の意思も認められないとしたが,被告人は,被害者から相当な力で凶器(ホーロー鍋)で殴打され,更に攻撃的姿勢を示されたから,「殺される。」と思い,自らの身を守るため,牛刀を取り出して差し出したものであり,急迫不正の侵害も防衛意思もあり,防衛行為の相当性もあったので,正当防衛が成立する旨主張する。 まず,急迫 から,「殺される。」と思い,自らの身を守るため,牛刀を取り出して差し出したものであり,急迫不正の侵害も防衛意思もあり,防衛行為の相当性もあったので,正当防衛が成立する旨主張する。 まず,急迫性及び防衛の意思について検討するに,前記のとおり,被告人は,車中での被害者との電話での激しい口論の末,被害者から「来るなら来い。」などと言われ,すぐさま牛刀を購入,準備したうえ,わざわざ被害者方まで出向いていることから,被害者方玄関前に到着した当時は,相当興奮,憤激状態にあり,被害者による身体への侵害を予期し,同人の出方次第によっては,自らその機会に牛刀でもって攻撃をしかけることも辞さないという意思でいたものと認められるのであるが,他方,被告人は,その後ドア越しにいくら被害者を呼んでも同人が出てこないから,あきらめて帰ろうと玄関ドアに背を向け,階段降り口に向けて歩きかけていたものであり,にもかかわらず,いきなり玄関ドアを開け外に出てきた被害者からホーロー鍋(重さ約1キログラム)の把手が破断するほどの力で後頭部を縦約3.5センチメートル,幅(最大幅)0.6センチメートルの割創ができるほど強く叩かれたため,振り向きざま手にした牛刀で被害者の下腹部を一突きしたというのであって,このような事実関係にかんがみると,被害者方玄関前に到着後それほど時間が経っていなかったとはいえ,玄関ドアに背を向け階段降り口に向けて歩きかけた時点では,被告人において,もはや被害者が玄関ドアを開けいきなり攻撃してくるであろうことを予期していたとか,あるいは予期することができたとまでは断ずることができないのであり,意外にも被害者が背後から突如ホーロー鍋で殴打してきたとみるのが相当であるから,なお急迫不正の侵害があったというに妨げない。また,被告人が牛刀で反撃した際,被告人は, 断ずることができないのであり,意外にも被害者が背後から突如ホーロー鍋で殴打してきたとみるのが相当であるから,なお急迫不正の侵害があったというに妨げない。また,被告人が牛刀で反撃した際,被告人は,攻撃の意思だけでなく,被害者からの攻撃に対応し,それを避けるという意思,すなわち防衛の意思をも併せ持っていたものというべきである。 次に,防衛行為の相当性について検討するに,被告人は,被害者からホーロー鍋で後頭部を前記のような傷ができるほど強く叩かれたが,これにより被告人の生命に対する侵害ないし侵害の危険性があったとまでは認められないところ,これに対し,被告人が刃体の長さ約18.2センチメートルに及ぶ鋭利な牛刀で被害者の下腹部を,刺創が深さ約10センチメートルにも達する相当強い力で1回突き刺し全治3か月を要するほどの重傷を負わせたことは,これにより被害者の生命に対する侵害ないし侵害の危険性があったと認められるもので,侵害の程度に比して防衛の程度が大きく,防衛の程度を超えたものといわざるを得ない。 以上のとおりであって,本件については過剰防衛の成立を認めるべきであるのに,被告人の本件犯行について急迫性の要件及び防衛の意思が欠けるとして過剰防衛の成立をも否定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。論旨はその限度で理由がある。 そして,原判決は,原判示第1のほか原判示第2の事実(銃刀法違反の事実)を認定し,両者を刑法45条前段の併合罪として1個の刑を言い渡しているので,その全部について破棄を免れない。 第3 自判よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,更に次のとおり判決する。 1 罪となるべき事実被告人は,(1) 平成14年1月19日午後5時 よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,更に次のとおり判決する。 1 罪となるべき事実被告人は,(1) 平成14年1月19日午後5時20分ころ,島根県浜田市a町b番地cハイツDd号室のA(当時41歳)方玄関前付近において,Aがいきなり被告人の背後から右手に持ったホーロー鍋で被告人の頭部を殴打したことから,これに反撃することを決意し,殺意をもって,背広の胸ポケットから牛刀(刃体の長さ約18.2センチメートル,松江地方裁判所平成14年押第20号の1)を取り出しながら,Aの方に振り向き,防衛の程度を超えて,この牛刀を同人の下腹部に1回突き刺したが,同人に全治3か月を要する腹部刺傷,小腸損傷,腸間膜損傷,腹直筋断裂,右尿管損傷の傷害を負わせるにとどまり,その目的を遂げず,(2) 前記日時場所において,業務その他正当な理由がないのに,前記牛刀1丁を携帯した。 2 事実認定の補足説明(判示(1)の殺人未遂の事実について)(1) 被告人の殺意について所論は,被告人には犯行当時殺意がなかった旨主張するが,被告人に殺意が認められることは,前記第2の3で判断したとおりである。 (2) 正当防衛の成否について所論は,被告人の行為は正当防衛にあたる旨主張するところ,被告人の行為が正当防衛には該当しないが,過剰防衛にあたることは,前記第2の4で判断したとおりである。 3 証拠の標目判示全事実について被告人の当審における公判供述を付加するほかは,原判決の【証拠】欄に記載のとおりである。 4 累犯前科被告人は,平成9年10月31日広島地方裁判所で監禁,強姦及び覚せい剤取締法違反の罪により懲役4年に処せられ,平成13年8月21日その刑の執行を受け終わった 載のとおりである。 4 累犯前科被告人は,平成9年10月31日広島地方裁判所で監禁,強姦及び覚せい剤取締法違反の罪により懲役4年に処せられ,平成13年8月21日その刑の執行を受け終わったもので,この事実は検察事務官作成の前科調書及び同裁判の判決書謄本によってこれを認める。 5 法令の適用被告人の判示(1)の所為は刑法203条,199条に,判示(2)の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条本文にそれぞれ該当するところ,各所定刑中,判示(1)の罪について有期懲役刑を,判示(2)の罪について懲役刑をそれぞれ選択し,前記の前科があるので刑法56条1項,57条により判示(1)及び(2)の各罪について,判示(1)の罪については同法14条の制限内でそれぞれ再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示(1)の罪の刑に同法47条ただし書,14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中240日をその刑に算入し,原審で押収してある牛刀1丁(松江地方裁判所平成14年押第20号の1)は,判示(1)の殺人未遂の用に供するとともに判示(2)の犯罪行為を組成した物で,箱1箱(同号の2)は上記牛刀の従物に該当し,被告人以外の者に属しないから,同法19条1項1号,2号,2項本文を適用してこれらを没収し,原審における訴訟費用については,刑訴法181条1項本文を適用して被告人に負担させることとする。 6 量刑の理由本件は,被害者に背後からホーロー鍋で頭部を殴打された被告人が,防衛行為としての相当な程度を逸脱し,殺意をもって,所持していた牛刀で反撃を加え,その結果同人に判示の傷害を負わせたという過剰防衛による殺人未遂及び銃刀 後からホーロー鍋で頭部を殴打された被告人が,防衛行為としての相当な程度を逸脱し,殺意をもって,所持していた牛刀で反撃を加え,その結果同人に判示の傷害を負わせたという過剰防衛による殺人未遂及び銃刀法違反の事案である。 本件犯行の直接のきっかけは被害者の被告人に対する攻撃にあったとはいえ,被害者とのささいな口論で,あらかじめ牛刀を購入するなどして,わざわざ被害者方に押し掛け,被害者に殴打されるや,振り向きざまにこの牛刀で同人の下腹部を手加減することなく一突きしているもので,本件犯罪の発生については,被害者に落ち度があったことは否定できないものの,被告人により大きな責任があることはいうまでもない。被害者に全治3か月を要する重傷を負わせたその結果も重大であり,一つ間違えば死亡する可能性も極めて高かったものである。加えて,本件は,被告人が前刑の執行終了後半年も経たないうちに敢行されたものであることをも併せ考慮すると,被告人の刑事責任は重い。 しかしながら,被害者との間で示談が成立し,すでに慰謝料等として100万円が支払済みであり,被害者は被告人に対し寛刑を望む旨の嘆願書を提出していること,被告人も被害者の攻撃により加療9日間を要する後頭部割創等の傷害を負っていること,捜査機関の求めに応じ自ら出頭していることなど,被告人のために有利に斟酌すべき事情もあるので,以上の諸事情を総合考慮したうえ,被告人を主文掲記の刑に処することとしたものである。 よって,主文のとおり判決する。 平成16年3月22日広島高等裁判所松江支部裁判長裁判官・田聰裁判官吉波佳希 裁判官植 裁判長 裁判官・田聰 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一

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