令和6(わ)306 社会福祉法違反

裁判年月日・裁判所
令和7年10月1日 津地方裁判所
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判決文本文3,810 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和2年9月24日から令和3年10月4日までの間、及び同年12月25日から令和4年2月23日までの間、三重県鈴鹿市(以下省略)所在の社会福祉法人Aの理事長として、同法人を代表してその職務を執行し、理事会を招集するとともに、同法人の理事及び監事を選任するに当たっては、理事会の決議を経た上、評議員会を招集し、同法人の評議員を選任するに当たっては、理事会の決議を経た上、評議員選任・解任委員会において、評議員選任候補者の推薦の提案を行うなどの職務に従事していたもの、分離前の相被告人Bは、前記各期間、実質的に同法人の運営に携わっていたものであるが、被告人は、同法人の理事長として、法令及び同法人の定款等を遵守し、同法人のための適正な理事、監事及び評議員が選任されるように職務を行わなければならないにもかかわらず、Bと共謀の上、令和4年2月10日頃、兵庫県内又はその周辺において、Cらが用意した役員の交代に関する契約書等に署名捺印等するなどして、被告人らの財産上の利益を図るため、適正な理事、監事及び評議員選任のための所定の手続を履践しないことを前提として、同法人の理事、監事及び評議員をいずれもCの指定した人物に変更できるよう権限を行使してもらいたい旨の不正の請託を受けてこれを承諾し、その対価として、同月15日、株式会社D銀行E支店に開設された被告人が管理する株式会社F名義の普通預金口座に2000万円の振込入金を、同日、G銀行株式会社H営業部に開設されたBが管理する株式会社I名義の普通預金口座に1500万円の振込入金をそれぞれ受け、もって被告人の職務に関 会社F名義の普通預金口座に2000万円の振込入金を、同日、G銀行株式会社H営業部に開設されたBが管理する株式会社I名義の普通預金口座に1500万円の振込入金をそれぞれ受け、もって被告人の職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受したものである。 - 2 -(事実認定の補足説明)第1 争点被告人は、本件起訴状記載の公訴事実について、Aに関する振込入金の事実は認めるが、同会の役員の交代に関する権限を行使するようC側から依頼を受けたとの認識はなく、その権限を行使する対価として金銭の支払を受けたという認識もなかったと供述し、弁護人は、①上記のような権限行使に関する不正の請託はなく、②理事長の職務行為の対価としての金銭の授受もなく、③被告人には不正の請託を受けた認識や対価性(賄賂性)の認識はなかったとして、犯罪の客観面及びこれに対応する主観面(故意)がなかったから無罪であると主張するので、以下、検討する。 第2 検討 1 争点①(権限行使に関する不正の請託の有無)について本件起訴状記載の公訴事実にいう「不正の請託」の内容のうち争点①に関わるのは、Aの理事、監事及び評議員(以下、これらを「役員」という。)をいずれもC側の指定した人物に変更できるよう権限を行使してもらいたいというものである。 この点、本件各証拠によると、令和4年2月10日頃、被告人とC側(J名義)との間で、「役員の交代に関する契約書」に基づく合意がなされたが(以下「本件契約」という。)、これは、被告人がAの役員全員を辞任させる義務を負い、C側が新たな役員を選任する義務を負うことなどを内容とするものであったと認められる。 そうすると、被告人が役員全員を辞任させることにより、役員が存在しなくなったところで、C側が役員を選任できることが合意内容 な役員を選任する義務を負うことなどを内容とするものであったと認められる。 そうすると、被告人が役員全員を辞任させることにより、役員が存在しなくなったところで、C側が役員を選任できることが合意内容となっているといえ、これは、不正の請託の内容である被告人が役員をC側の指定した人物に変更できるよう権限を行使することを意味する。したがって、客観的には、C側から被告人に対し、Aの役員の交代に関する権限を行使するよう不正の請託があっ - 3 -たと認められる。 この点、弁護人は、新たな役員の選任はC側の義務とされていることなどを指摘して、不正の請託がないと主張する。しかし、C側が指定する人物に新たな役員を変更できるようになるのは、被告人の権限行使による役員全員の辞任があるためであり、不正の請託の内容としてはそれで十分といえる。弁護人の主張は採用できない。 2 争点②(職務行為の対価としての金銭授受の有無)について本件契約は、被告人がAの役員全員を辞任させる義務を負い、C側が新たな役員を選任する義務を負うとともに被告人側の会社に金銭を支払う義務を負うことなどを内容とするものであるところ、その金額は3500万円であったと認められる。 そうすると、C側が3500万円を支払うことの対価として、被告人が理事長の職務行為としてAの役員全員を辞任させることを意味するのであるから、客観的には対価性、賄賂性が認められる。 3 争点③(故意)について(1) 不正の請託及び対価性に関して被告人は、前記のとおり、被告人がAの役員全員を辞任させる義務を負い、C側が被告人側の会社に3500万円を支払う義務を負うことを内容とする「役員の交代に関する契約書」に署名捺印している。また、被告人は、C側が3500万円を支払ったので、C側がAの新たな役員に 負い、C側が被告人側の会社に3500万円を支払う義務を負うことを内容とする「役員の交代に関する契約書」に署名捺印している。また、被告人は、C側が3500万円を支払ったので、C側がAの新たな役員に就任することができるようにするために、被告人側の役員全員を辞任させるとの認識を有していた。そのような事実認識があれば、不正の請託及び対価性を基礎づける事実の認識として十分である。そうすると、被告人にはこれらの故意があったと認められる。 (2) 弁護人の主張について弁護人は、被告人が本件契約の締結にあたってリーガルチェック等を受け - 4 -ていることを確認したため故意がなかった旨主張する。確かに、違法性の意識の欠如について相当な理由があるならば、犯罪が成立しないと考える余地がある。しかし、被告人は、社会福祉法人の理事長として法令及び定款等を遵守し、適正な職務を行わなければならないという法令等の遵守がとくに求められる立場にあった。そして、本件契約では、実態(役員を辞任することと引き換えに3500万円を支払うというもの)とは異なり、業務委託報酬として3500万円を支払うこととされていたのであるから、契約書を精査しさえすれば、このような枠組みが適法なのか疑問を抱くこともできた。それにもかかわらず、被告人は、本件契約締結の際にBから「弁護士先生と税理士先生のリーガルチェックも入ってます」と言われて信頼したというにとどまり、契約書の内容をまったく読まなかった上、上記枠組みの適法性等について契約書を作成した者に直接かつ詳細に尋ねたり、契約書を作成した者の見解とは別の見解が存在するのかについて詳細に調査することもしなかったのであるから、違法性の意識の欠如に相当な理由があるということはできない。弁護人の主張は採用できない。 第3 結論 た者の見解とは別の見解が存在するのかについて詳細に調査することもしなかったのであるから、違法性の意識の欠如に相当な理由があるということはできない。弁護人の主張は採用できない。 第3 結論以上の検討によると、①不正の請託、②理事長の職務行為の対価としての金銭の授受といった事実が認められ(客観面)、③被告人にはこれらについての故意が認められる(主観面)。また、違法性の意識の欠如に相当な理由があったともいえない。そこで、判示のとおりの事実を認定した。 (量刑の理由)本件犯行は、被告人らが社会福祉法人の役員選任のための適正な手続を履践しないまま、C側が指定した人物に役員を変更することの対価としてC側から合計3500万円の支払いを受けたというものであり、社会福祉法人の理事長の職務の公正に対する社会の信頼を侵害した程度は大きい。ここで、被告人に個別の事情をみると、被告人は、Bと相談して本件犯行における譲渡金額や譲渡条件を決めていた上、 - 5 -上記3500万円のうち2000万円を分け前として受け取ったのであり、本件犯行において重要な役割を果たした。以上により、被告人の刑事責任を軽くみることはできない。 しかしながら、被告人は本件犯行を行う際にリーガルチェックを受けたと聞いており、一定の形式を取れば違法でないと信じた面があるところ、これは犯罪の成立を妨げるものとはいえないが、量刑事情としては被告人に有利に考慮しうること、被告人には前科前歴がないことといった事情もある。そこで、今回は主文のとおりの刑に処するのが相当である。 (求刑懲役1年6月)令和7年10月1日津地方裁判所刑事部裁判官西前征志 懲役1年6月)令和7年10月1日津地方裁判所刑事部裁判官西前征志

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