平成31(ネ)48

裁判年月日・裁判所
令和元年10月7日 福岡高等裁判所 那覇支部 那覇地方裁判所 平成28(ワ)350
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判決文本文6,196 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 原判決主文第1項及び第2項は,本判決が被控訴人に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,原審認容額に加えて,56万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は,控訴人に対し,原審認容額に加えて,56万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(以下,略称については特記なき限り原判決のとおり。) 1 本件は,控訴人が,⑴日米安保条約に基づき米軍に使用が許可され,一般人の立入りが制限される区域に侵入したとして,米軍に身柄を確保され,その後 海上保安官に引き渡されるまでの約8時間にわたり米軍に身柄を拘束されたことに関し,①海上保安官が,米軍から控訴人の身柄を引き渡す旨の通知を受けながら直ちにその引渡しを受けなかったこと,②米軍が,控訴人の身柄確保後直ちに海上保安官に引き渡さなかった上,控訴人に身柄拘束の理由を告知せず,弁護士と接見させなかったことが,憲法33条等の趣旨に反して違法であると 主張して,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項(上記②の米軍の行為については民特法1条を介した上で)に基づき,慰謝料等60万円及びこれに対する違法行為の日である平成28年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,⑵海上保安官が,米軍からの控訴人の身柄の引渡しに際して,刑特法12条2項の定める緊急逮捕類似の手続によって,事 前の逮捕状の発付なく 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,⑵海上保安官が,米軍からの控訴人の身柄の引渡しに際して,刑特法12条2項の定める緊急逮捕類似の手続によって,事 前の逮捕状の発付なく,控訴人の身柄拘束を続けるとしたことについて,①同 項の定める緊急逮捕類似の手続は憲法31条,33条に違反し,これを立法してその改廃を怠った国会の行為は違法であり,また,②海上保安官による上記身柄拘束手続は刑特法12条2項に従って行うものとしても,同項の趣旨等に違反して違法であると主張して,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等60万円及びこれに対する上記身柄拘束の日である平成28年4 月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,控訴人の上記⑴及び⑵の請求について,それぞれ,損害賠償4万円(合計8万円)及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容したところ,控訴人が 敗訴部分を不服として控訴した。 2 前提となる事実,争点及びこれについての当事者の主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決「事実及び理由」第2の1ないし5のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決9頁8行目の「拘束されたまま」から同10行目の「海上保安官 は,」までを「拘束されていたところ,中城海上保安部所属の海上保安官は,午後5時22分,キャンプシュワブ内において,」に改め,同14行目冒頭から同15行目末尾までを「刑特法12条2項に基づき,米軍から控訴人の身柄の引渡しを受け,逮捕状の発付を受けることなくその身柄の拘束を続けることとした(以下「本件緊急逮捕的身柄拘束」という。)。」に改める。 ⑵ 原判決9頁 条2項に基づき,米軍から控訴人の身柄の引渡しを受け,逮捕状の発付を受けることなくその身柄の拘束を続けることとした(以下「本件緊急逮捕的身柄拘束」という。)。」に改める。 ⑵ 原判決9頁22行目,10頁11行目,11頁6行目,12頁5行目,25頁12行目,同26行目,26頁9行目,同12行目,同24行目,同25行目及び27頁8行目の「本件緊急逮捕」を「本件緊急逮捕的身柄拘束」に改める。 ⑶ 原判決11頁3行目の「緊急逮捕」を「緊急逮捕類似の手続(以下「緊急 逮捕的身柄拘束」という。)」に改め,同9行目から同10行目にかけて,同 13行目,同18行目,同19行目,13頁14行目,14頁1行目,16頁24行目,19頁17行目,25頁15行目及び同22行目の「緊急逮捕」を「緊急逮捕的身柄拘束」に改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,原審同様,控訴人の請求は,国家賠償法1条1項に基づく損害 賠償合計8万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は,次のとおり訂正し,後記2のとおり当審における控訴人の補充的・追加的主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3のとおりであるから,これを引用する。 ⑴ 原判決28頁26行目の「刑特法12条2項の規定する緊急逮捕」を「刑特法12条2項の規定する緊急逮捕的身柄拘束」に改め,29頁7行目,同21行目,33頁6行目から同7行目にかけて,同12行目,42頁4行目,44頁13行目から同14行目にかけて,45頁2行目,46頁17行目,48頁8行目及び同10行目の「緊急逮捕」を「緊急逮捕的身柄拘束」に改 める。 ⑵ 原判決29頁8行目の「逮捕の必要性 ,44頁13行目から同14行目にかけて,45頁2行目,46頁17行目,48頁8行目及び同10行目の「緊急逮捕」を「緊急逮捕的身柄拘束」に改 める。 ⑵ 原判決29頁8行目の「逮捕の必要性が高い一定の犯罪」を「逮捕の必要性・緊急性が高いといえる一定の事情がある場合」に改め,同10行目の「もっとも,」から同11行目の「考えられる」までを「このような事情としては,逮捕の対象犯罪が一定の法定刑以上のものであるという場合に限ら れない」に改め,同17行目の「しかし」から同18行目の「照らすと,」までを削除し,同22行目の「その対象犯罪が」を「その対象犯罪という面のみからみれば,」に改める。 ⑶ 原判決30頁2行目の「と解される。」を「ことは当然である。」に改め,同7行目の「ほとんどである」を「多い」に改め,同9行目の「ないことか ら,」の後に「現行犯的身柄拘束がされた場合であっても,」と加える。 ⑷ 原判決30頁12行目の「現行犯逮捕については」から同17行目末尾までを次のとおり改める。 「憲法33条は,現行犯逮捕について,犯罪と被逮捕者の結びつきが明白で,司法審査を経なくても誤認逮捕のおそれがなく,その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえることから,令状主義の例外として許容するもの であり,これを受けて刑訴法も,一定の軽微事犯については要件を加重するものの,現行犯逮捕の対象となる罪種自体は制限することなく無令状での身柄拘束を認めている。米軍による現行犯的身柄拘束も,誤認逮捕のおそれがなく,その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点は刑訴法上の現行犯逮捕の場合と同様であるから,刑特法12条2項の定める緊急逮捕 的身柄拘束は,少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者の引渡し から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点は刑訴法上の現行犯逮捕の場合と同様であるから,刑特法12条2項の定める緊急逮捕 的身柄拘束は,少なくとも米軍により現行犯的身柄拘束を受けた者の引渡しに適用される限りにおいては,対象罪種が限定されていないことを考慮しても,憲法33条の趣旨に反するものではないというべきである。」⑸ 原判決31頁26行目の「米軍により」から32頁3行目の「受けないまま,」を「捜査機関による身柄拘束理由や弁護人依頼権の告知,留置の必要 性の判断等がされないまま,」に改め,同4行目の「憲法33条」の後に「及び34条」と加える。 ⑹ 原判決36頁9行目,44頁8行目,同20行目から同21行目にかけて,同23行目,同25行目,45頁3行目,同行目から同4行目にかけて,同7行目,46頁17行目,同25行目,47頁25行目,48頁19行目, 同23行目,同25行目,同26行目,49頁4行目,同8行目及び同11行目の「本件緊急逮捕」を「本件緊急逮捕的身柄拘束」に改める。 ⑺ 原判決40頁13行目の「憲法33条」の後に「及び34条」と加える。 ⑻ 原判決44頁10行目の「憲法33条」の後に「及び34条」と加え,同14行目の「司法審査」の後に「等」と加える。 2 当審における控訴人の補充的・追加的主張について ⑴ 控訴人は,①原判決は,米軍に現行犯的身柄拘束された者の刑特法12条2項による米軍からの引渡しを,私人に現行犯逮捕された者の刑訴法214条による引渡しと同様のものとしているが,刑特法12条2項の場合,米軍による身柄拘束から引渡しまでには一定の時間を要するものであり,刑訴法214条による引渡しとは性質が異なる,②米軍による現行犯的身柄拘束が されているとしても,それ 刑特法12条2項の場合,米軍による身柄拘束から引渡しまでには一定の時間を要するものであり,刑訴法214条による引渡しとは性質が異なる,②米軍による現行犯的身柄拘束が されているとしても,それは日本国ではなく,米国の主権に基づく行為であり,日本国が最初に主権を行使する時点では引渡対象者は現行犯人とはいえないから,その時点での司法審査が不可欠であるなどと指摘し,米軍に現行犯的身柄拘束された者を,刑訴法上の現行犯逮捕された者と同様に考えることはできない旨主張する。 しかしながら,①の点についてみると,前記判示のとおり,現行犯逮捕が対象罪種を限定することなく無令状逮捕として許容される趣旨は,米軍による現行犯的身柄拘束にも当てはまるというべきである。控訴人の指摘するように刑訴法214条の場合と比べて刑特法12条2項の場合の捜査官憲への引渡しには時間を要することがあり得るものの,米軍から引き渡す旨の通知 を受けた司法警察員等が,職務上直ちに身柄を引き受けるべき高度の注意義務を負い,刑訴法214条の場合と同様に可能な限り早期に引渡しを受けることが予定されていることも考慮すれば,控訴人の上記指摘を踏まえても,憲法33条に違反するかどうかの検討に際して,米軍に現行犯的身柄拘束をされた者と刑訴法上の現行犯逮捕をされた者とを別異に取り扱う理由はない というべきである。 また,②の点についても,米軍による現行犯的身柄拘束は,犯罪と被逮捕者の結びつきが明白で,司法審査を経なくても誤認逮捕のおそれがなく,その状況自体から逮捕の必要性・緊急性が高いといえる点で刑訴法上の現行犯逮捕と同様に考えられるのであり,このことは当該身柄拘束がどの国の主権 によってされたものであるかによって異なるものではない。 以上によれば,控訴 が高いといえる点で刑訴法上の現行犯逮捕と同様に考えられるのであり,このことは当該身柄拘束がどの国の主権 によってされたものであるかによって異なるものではない。 以上によれば,控訴人が指摘する点は,前記判断を左右するものではなく,この点に関する控訴人の主張は採用できない。 ⑵ 控訴人は,刑特法12条2項は,米軍に現行犯的身柄拘束された者のみに適用されるわけではなく,それ以外の者にも憲法33条に反して適用される余地を残すものであるから,刑事手続法規の明確性の原則を定めた憲法31 条に違反する旨主張する。 しかしながら,前記判示のとおり,刑特法12条2項は,少なくとも控訴人のように米軍により現行犯的身柄拘束された者に適用される場合には,憲法33条に違反するものではないところ,同項がこのように米軍により現行犯的身柄拘束された者の引渡しに,対象犯罪の限定なく適用されることは規 定の文言上からも明らかである。 そうすると,刑特法12条2項は,少なくとも本件における控訴人の米軍から海上保安官への引渡しに適用される限りにおいては,何ら明確性に欠けることはなく,憲法31条に違反するということはできない。 したがって,この点に関する控訴人の主張は採用できない。 ⑶ 控訴人は,米軍が,①控訴人の身柄を海上保安官に直ちに引き渡さなかった行為,②控訴人に身柄拘束の理由を告知せず,弁護人との接見をさせなかった行為は,慰謝料額に影響するものであり,これらの行為の違法性・行為態様も踏まえて慰謝料額を判断するべきであると主張する。 しかしながら,上記で引用した原判決のとおり,①については,本件引き 渡す旨の通知から2時間が経過するまでの間の米軍による身柄拘束には違法性は認められず,同通知から2 ると主張する。 しかしながら,上記で引用した原判決のとおり,①については,本件引き 渡す旨の通知から2時間が経過するまでの間の米軍による身柄拘束には違法性は認められず,同通知から2時間経過後の米軍による身柄拘束により生じる損害は,海上保安官が直ちに控訴人の身柄を引き受けなかったという違法行為により生じた損害と完全に重なり合うものといえる。また,②についても,身柄拘束理由の告知や弁護人との接見は,刑特法12条に基づき司法警 察員等による身柄の引受け後に実施することが予定されているから,これら が実施されなかったことも,海上保安官による上記違法行為と相当因果関係にあるものといえ,同違法行為による損害の中で評価されている。 このように,海上保安官による上記違法行為があるという事情の下では,控訴人の指摘する米軍の行為が違法であるか否かによって,控訴人の慰謝料等の損害額が左右されるものではないというべきであるから,米軍の行為の 適否についてはこれを判断する要をみない。 したがって,この点に関する控訴人の主張は採用できない。 3 結論以上のとおり,控訴人の請求は,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償合計8万円及びこれに対する平成28年4月1日から支払済みまで年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ,控訴人の請求をこの限度で認容した原判決は正当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することし,原判決主文第1項及び第2項については本判決送達日から14日間の猶予期間を定めた上で仮執行宣言を付すことが相当である一方,仮執行免脱宣言は相当でないのでこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所那覇支部民事部 裁判長裁判官 主文 定めた上で仮執行宣言を付すことが相当である一方,仮執行免脱宣言は相当でないのでこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。 理由 事実 争点 判断 福岡高等裁判所那覇支部民事部 裁判長裁判官大久保正道 裁判官本多智子 裁判官平山俊輔

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