平成14年2月19日判決言渡平成11年(ワ)第18148号預金返還請求事件 主文 1 被告は,原告Aに対し,金900万円及び平成11年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告Bの請求を棄却する。 3 訴訟費用は,被告に生じた費用の2分の1と原告Bに生じた費用を同原告の負担とし,被告に生じたその余の費用と原告Aに生じた費用を被告の負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原告A主文1と同旨。 2 原告B被告は,原告Bに対し,金500万円及びこれに対する平成11年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,事務所荒しに預金通帳と届出印を盗まれ第三者に預金を払い戻されてしまった原告らが,被告に対してそれぞれ預金の払戻しを請求したところ,被告が,各預金契約の免責規定により免責される,あるいは,債権の準占有者に対する弁済として有効であると主張して争っている事案である。 1 争いのない事実等以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠によって容易に認定できる。 (1) 原告らは,いずれも,いわゆる薬害エイズ訴訟の原告弁護団の一員として活動してきた弁護士であり,原告A(以下「原告A」という。)は全国薬害オンブズパースン・タイアップグループの事務局長として,原告B(以下「原告B」という。)は薬害オンブズパースン・タイアップグループ東京の代表者として,上記各グループの活動資金を管理していた。なお,薬害オンブズパースン・タイアップグループは,薬害エイズ訴訟により被害者に支払われた賠償金等を基金として,薬害の再発防止のための監視活動を主たる目的として設立された市民団体である薬害オンブズパースンの活動を支援するために設立された市民団体である(甲 イズ訴訟により被害者に支払われた賠償金等を基金として,薬害の再発防止のための監視活動を主たる目的として設立された市民団体である薬害オンブズパースンの活動を支援するために設立された市民団体である(甲10号証,甲11号証)。 (2)ア原告Aは,平成9年5月7日,被告四谷支店(以下「四谷支店」という。)において,以下の普通預金口座(以下「A口座」という。)を開設して,被告と普通預金契約を締結した。 口座番号口座名義タイアップグループ事務局Aイ原告Bは,同日,四谷支店において,以下の貯蓄預金口座(以下「B口座」という。)を開設して,被告と貯蓄預金契約を締結した。 口座番号口座名義薬害オンブズパースン・タイアップグループ東京代表B(3) 上記各預金契約は,それぞれ普通預金規定及び貯蓄預金規定(以下「預金規定」という。)に基づいているところ,同各規定には,以下の条項がある(乙3号証ないし乙5号証,乙8号証)。 ア(取扱店の範囲)普通預金は,当店のほか当行国内本支店のどこの店舗でも預入または払戻しができます。ただし,当店以外での払戻しは,あらかじめ当店で,通帳所定欄に押印された印影と届出の印鑑との照合手続を受けたものに限ります(貯蓄預金でも同様の規定がある。)。 イ(届出事項の変更,通帳の再発行等)通帳や印章を失ったとき,または,印章,名称,住所その他の届出事項に変更があったときは,ただちに書面によって当店に届け出てください。この届出前に生じた損害については当行は責任を負いません。 ウ(印鑑照合等)払戻請求書,諸届その他の書類に使用された印影または書面を届出の印鑑または署名鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱いましたうえは,それらの書類につき偽造,変造その他の事故があってもそのため ,諸届その他の書類に使用された印影または書面を届出の印鑑または署名鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取り扱いましたうえは,それらの書類につき偽造,変造その他の事故があってもそのために生じた損害については,当行は責任を負いません(以下「本件免責規定」という。)。 (4) 原告らは,平成11年3月5日当時,預金通帳及び届出印を,東京都新宿区h丁目i番王蘭ビル4階所在の薬害オンブズパースン・タイアップグループの事務所内に保管していたが,これらの預金通帳及び届出印などは,同日(金曜日)午後6時ころから同月7日(日曜日)の深夜までの間に,何者かによって窃取された。窃取当時の預金残高は,A口座については967万円0367円(甲6号証の1),B口座については521万7435円であった(甲6号証の3)。 (5)ア窃盗犯人グループからA口座の預金通帳及び届出印を受け取った訴外C(以下「C」という。)は,平成11年3月8日午前9時20分ころ,四谷支店において,その預金通帳とともに下記の事項を記入し届出印を押印した払戻請求書(乙1号証の1)を提出して,900万円の払戻しを請求した。四谷支店では,Cに対して900万円を払い戻した。 店番号欄 065口座番号欄金額(元金)欄 ¥9000000おなまえ欄 A タイアップグループ事務局(届け出た名称は「タイアップグループ事務局 A」であるところ,欄中央に「A」と書かれ,欄の下部に「A」よりやや小さな文字で「タイアップグループ事務局」と書かれている。)お届け印欄 2箇所に押印イ窃盗犯人からB口座の預金通帳及び届出印を受け取った訴外D(以下「D」という。)は,平成11年3月8日午前9時40分ころ,麹町支店において,その預金通帳とともに下記の事項を記入し届出印を押印した払戻請求書(乙2号証の1) 金通帳及び届出印を受け取った訴外D(以下「D」という。)は,平成11年3月8日午前9時40分ころ,麹町支店において,その預金通帳とともに下記の事項を記入し届出印を押印した払戻請求書(乙2号証の1)を提出して,500万円の払戻しを請求した。麹町支店では,Dに対して500万円を払い戻した。 店番号欄 065口座番号欄金額(元金)欄 ¥5000000おなまえ欄薬害オンブズパースン・タイアップグループ東京代表 Bお届け印欄 3箇所に押印欄外新宿区h-i 王欄ビル4F(なお,正確な届出住所は,「王欄ビル」ではなく,「王蘭ビル」である。)(6) 原告らは,平成11年3月8日午前10時ころ,被告に対し,A口座及びB口座の預金引出停止を要請し,被告は,A口座につき同日午前10時17分に,B口座につき同日午前10時23分に,預金の払戻を停止した。 (7) 原告らは,被告に対し,それぞれ平成11年4月15日到達の書面で,A口座及びB口座の(5)記載の金額の払戻を請求したが,被告は,本件各払戻がなされていることを理由に,同年6月18日,A口座については67万0367円だけを,B口座については21万7435円だけを払い戻した。 2 争点本件各払戻において,被告担当者らが,原告ら名義の通帳及び印鑑を提出して払戻請求を行った者を,正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,過失がなかったといえるか。 (被告の主張)(1) 本件免責条項は,通帳に印刷され預金者に了知し得るようにされている。また,一般に,払戻請求書に押捺された印影が銀行に届け出た印影と一致した場合は,銀行が請求者の権限についてさらに調査することなく払戻請求に応じることは,商慣習として定着している。被告は,預金払い戻しの際,預金者に対して,払戻請求書 た印影が銀行に届け出た印影と一致した場合は,銀行が請求者の権限についてさらに調査することなく払戻請求に応じることは,商慣習として定着している。被告は,預金払い戻しの際,預金者に対して,払戻請求書に届出印を押印して通帳とともに提出することだけを要求しているのだから,かかる手続を踏んだ顧客に対しては,直ちに預金払戻義務の発生という効果が商慣習ないし預金規定から導かれる。 よって,銀行が払戻請求書と届出印の印影を照合してその同一性を確認して払い戻した場合には,たとえ請求者が払戻しを受ける権限を有しないものであっても,商慣習ないし預金規定の効力として,その払戻は原則として有効なのであって,例外的に無効となる場合は,①具体的事情により請求者の無権限を疑うべき相当な理由の存する場合に,②取引通念上銀行(係員)として当然に要請されるべき注意を欠いたため請求者の無権限に気付かず払戻しに応じたときのみに限られるというべきである。 そして,銀行による確認作業には大きな制約を伴うものであるから,その制約の中でなし得る範囲内の調査を尽くした場合には,無過失と評価されるべきである。 本件各払戻しは,真正な通帳と届出印を使用した払戻請求に対してなされたものであり,下記の事情も併せ考えると,被告は無過失である。 (2) A口座ア四谷支店においては,E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)がA口座の払戻しを担当したが,被告担当者らは,A口座につき,事故届が出ていないこと,印影の同一性及び払戻請求直前の少額入金がないことを確認したうえ,面談によって生年月日及び資金使途を確認し,その間不審な言動も認められなかったことから,払戻しをしたのであって,この場合に請求者の無権限を疑うべき相当な理由は存在しなかったのであるから,被告担当者らがCを正当な預 年月日及び資金使途を確認し,その間不審な言動も認められなかったことから,払戻しをしたのであって,この場合に請求者の無権限を疑うべき相当な理由は存在しなかったのであるから,被告担当者らがCを正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,過失はない。 イ払戻しを請求したCは,四谷支店の係員から個人的なことや資金の使途を尋ねられたことはないとしているが,Fは,Cに対して,生年月日及び資金使途を確認した。CによるA口座の払戻しは今から2年半前になされたことである上,Cは同種の違法な払戻しを50ないし60回繰り返しており,C自身すべてを思い出せないとしているのに対して,Fは,事件数日後から一貫して明確に生年月日と資金使途を確認したと主張しているのであるから,Fの主張は信用できる。 ウ Fは,その払戻しに際して,Cに対して使途を確認し,Cから,「厚生省に持っていく」との回答を得ているが,A口座にはそれまでに薬害関係の団体からの入金が存在しているから,Fがその使途と口座内容とに関連性があったと考えたのはもっともなことであり,払戻しの理由が一応納得しうるものであった以上,Fら担当者がそれ以上に預金者の資金の必要性の個人的な事情にまで立ち入っての説明を要求することは妥当性を欠く。 エ E及びFが上記アのとおりの確認をした以上,被告には,請求者の事務所に電話で確認したり,住所の記入を求めたり,過去の出金記録を確認したりする義務はない。 団体名義の預金は経理担当職員などが払戻しに来るのが通常で,電話確認をしても,電話口に出た者が払戻事務について知らないことが多く,必ずしも実効性が高いものではないし,窓口に来ている払戻請求者に少なからず不愉快な思いをさせることになる。それにもかかわらず,電話確認をしなかったことが直ちに過失を基礎づけるとするのは,銀行の く,必ずしも実効性が高いものではないし,窓口に来ている払戻請求者に少なからず不愉快な思いをさせることになる。それにもかかわらず,電話確認をしなかったことが直ちに過失を基礎づけるとするのは,銀行の預金業務のサービス業としての側面を全く等閑視するもので不当である。 本件当時,被告は,他の支店で開設された預金口座を払い戻す場合(以下「ネット払い」という。)で100万円以上の払戻し,あるいは,不審な場合は,住所の記入を求めていたが,これは,ネット払いの場合に過誤が多かったため,自主的に設けた内部基準であって,不合理ではない。 さらに,コンピューターで確認できるのは,直近の約1か月分の取引履歴までであるから,E及びFは,過去に一時に口座残高に近い金額が現金で払戻されたことが全くなかったことを認識できない。そもそも,個々の取引記録を確認しなければならないとすると,預金払戻事務の円滑かつ迅速な処理を阻害する結果となるのであって,そのような義務はない。 (3) B口座ア麹町支店においては,G(以下「G」という。)及びH(以下「H」という。)がB口座の払戻しを担当したが,被告担当者らは,B口座につき,事故届が出ていないこと,印影の同一性及び払戻請求直前の少額入金がないことをを確認したばかりでなく,Dに住所を書かせ,メモに頼らずに記入したことを確認し,その間不審な言動も認められなかったことから,払戻しをなしたのであり,具体的事情により請求者の無権限を疑うべき相当な理由がなかったのであるから,Dを正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,被告担当者らに過失はない。 イ G及びHが,Dによって書かれた払戻請求書の住所の誤記(届出住所は「王蘭ビル」であるところ,払戻請求書には「王欄ビル」と記入された。)に気付かなかったことは,過失を基礎づけるも らに過失はない。 イ G及びHが,Dによって書かれた払戻請求書の住所の誤記(届出住所は「王蘭ビル」であるところ,払戻請求書には「王欄ビル」と記入された。)に気付かなかったことは,過失を基礎づけるものではない。 口座名義人の住所は,もともと払戻請求書の必要不可欠な記載事項ではなく,本人確認の一資料とするため参考までに記載を求めたにすぎず,印鑑ほど厳格な照合を必要とするものではない。しかも,「蘭」と「欄」は,つくりも音も同じであるし,正規の払戻請求権者であっても,住所について漢字を誤記することは十分考えられるし,団体の住所であればその確率はより高いといえる。 ウまた,Dの携帯電話が鳴り,Dがいったん店外に出ていった行動は,不審なものではない。Dは,印鑑の再押印,住所の記載をし終えた後,Gに断って店外に出ていったのであり,記載の途中で慌てて店外に出ていったわけではないし,不特定多数人がいる公共の場において携帯電話で話をすることを避けるマナーが浸透しつつある現在,上記行動は不審とはいえない。 エ貯蓄預金は,公共料金などの自働引落しはできないが,いつでも預入,引出ができ,一定金額以上の場合に普通預金より利率が多少高くなるという預金であり,払戻手続きは普通預金と全く同じであるから,払戻しに関する注意義務が普通預金の場合より加重されることはない。 オ G及びHは,麹町支店近辺で,預金払戻しに関する犯罪が発生していることを認識していなかったが,いずれにしても,上記アの払戻手続に過失はない。 カ G及びHが上記アのとおりの確認をした以上,被告には,Dに対して,さらに電話確認や,暗証番号,生年月日,資金使途,出金取引等を確認する義務はない。 (原告の主張)(1)ア昨今の超低金利の下では,銀行預金は,手元で現金を保管,管理することに伴う盗難や紛失,毀損 さらに電話確認や,暗証番号,生年月日,資金使途,出金取引等を確認する義務はない。 (原告の主張)(1)ア昨今の超低金利の下では,銀行預金は,手元で現金を保管,管理することに伴う盗難や紛失,毀損を避けるために利用されるのであり,このような利用実態からすれば,銀行の役割は過誤払いの防止を中心とした預金者保護にある。 特に,預金取引が大量に処理され,ATM機の利用を積極的に勧誘して窓口担当者が預金者と面識を持った上で預金取引を行う営業方法を銀行自らが積極的に避けようとしている現状からすれば,預金者と面識がないことを前提に厳格で慎重な手続や手順をとることが必要であり,単に口座開設時の届出印の印影と払戻請求書に捺印されている印影とを照合して同一と判断するだけで,銀行が無権限者の払戻請求に応じても免責されるということは,著しく不公正である。 正当な預金払戻請求権限の有無の確認については,従前より増して厳格な対応が求められているのであり,預金取引に関する約款や約定に基づく銀行の免責あるいは民法478条の債権の準占有者に対する弁済における過失の内容や程度についても,厳格な解釈がなされる必要がある。 預金の払戻請求者に面識がない場合には,正当な権利者であることを確認するため,住所の記載を求めたり,キャッシュカードの暗証番号を質問する取り扱いを徹底する義務があり,被告は,本件当時,100万円以上のネット払いの場合,あるいは,不審な場合は,住所記入を求め,記入がなされなかった場合などは証印者が確認するという内規を設けていたが,上記アで述べたように大量の預金取引が処理されている現状において,自店払いとネット払いとに差異を設けること自体不合理であるし,いずれにしても,内規で規定されていた程度の確認手段では不十分極まりなく,本件各払戻が内規に従って 預金取引が処理されている現状において,自店払いとネット払いとに差異を設けること自体不合理であるし,いずれにしても,内規で規定されていた程度の確認手段では不十分極まりなく,本件各払戻が内規に従ってなされたとしても,被告には重大な過失がある。 イ以上のような高度の注意義務が課されていることからすれば,被告担当者らには,次の過失がある。 (2) A口座ア(ア) 口座名義自体から,公的な活動に従事する団体の活動資金を保管・管理するためのものであることを認識ないし推認できる口座について,口座残高の全額に近い金額の現金での払戻請求がなされるのは異例の資金移動であり,払戻請求者は正当な払戻請求権限を有しない蓋然性が高い。 また,本件各払戻がなされた当時,被告担当者らは,盗んだ通帳と印鑑による不正な払戻請求の手口として,窃盗に入った事務所等の鍵穴に接着剤を詰めて時間を稼ぎ,銀行の開店早々引き出すことが行われていることを認識していた。 (イ) A口座の払戻請求は,窃取された通帳及び印鑑での不正な預金引出が四谷支店周辺で多発している状況下で,公的な活動に従事する団体の口座から,100万円を超える出金が口座開設以来2回だけであるなどの取引経過であるにもかかわらず,休日明けの最初の営業日の開店早々に,口座残高の全額に近い900万円を現金で払戻すという請求である。それにもかかわらず,E及びFは,Cに対して,暗証番号,住所ないし電話番号の確認をせず,あるいは身分証明書の提示も求めていない。また,資金使途に関する質問の仕方や回答者の回答内容をかなり厳格な注意をもって詳しく検討すべきであったが,これをしていない。よって,被告担当者らが,Cを正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,過失がなかったとはいえない。 仮に,FがCに対し,資金使途を質問したと 詳しく検討すべきであったが,これをしていない。よって,被告担当者らが,Cを正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,過失がなかったとはいえない。 仮に,FがCに対し,資金使途を質問したとしても,900万円もの現金を「厚生省に持っていく」理由及びその詳細を確認せずに,正当な預金払戻権者であると軽信しており,不十分である。 また,Fは,Cが名義人本人の事務員であると認識したとしているが,そうであれば,原告Aの生年月日ではなく,暗証番号や,口座名義人である「タイアップグループ事務局」の電話番号や住所を確認すべきであった。 イ Fは,Cに原告Aの生年月日を尋ね,正しい回答を得たとしているが,このような事実はない。 A口座の通帳が保管してあったのは原告Aの法律事務所などではなく,薬害オンブズパースン・タイアップグループの事務所であり,同所には原告Aの生年月日を知りうる資料はなかったし,原告Aの生年月日が掲載された一般の公刊物等もなかった。仮に存在していたとしても,本件盗難事件の日時(平成11年3月5日金曜日午後6時ころから同月7日日曜日の深夜まで)からすれば,特定個人の生年月日を調査するのは無理である。また,Fは,Cが事務員であると認識したというのに,代表者の生年月日を確認するとは考えられない。C自身も,四谷支店の係員から個人的なことは聞かれていないとしている。 ウ Fは,Cに資金使途の確認をし,同人から「厚生省に持っていく。」との回答を得たとしているが,C自身が,四谷支店の係員から引き出した金の使途を聞かれたことはないとしており,このような事実はない。 (3) B口座ア(ア) 上記(2)ア(ア)に加え,B口座は,ある程度まとまった資金を預金しておくことに主眼があり,たびたび払戻をするものではない貯蓄預金口座であった。 (イ) B うな事実はない。 (3) B口座ア(ア) 上記(2)ア(ア)に加え,B口座は,ある程度まとまった資金を預金しておくことに主眼があり,たびたび払戻をするものではない貯蓄預金口座であった。 (イ) B口座の払戻請求は,窃取された通帳及び印鑑での不正な預金引出が隣接支店である四谷支店周辺で多発している状況下で,他の支店で開設された,公的な活動に従事する団体の,ある程度まとまった資金を預金しておくことに主眼がある貯蓄預金口座から,出金が1回のみという取引経過であるにもかかわらず,休日明けの最初の営業日の開店早々に,口座残高の全額に近い500万円を現金で払戻すという請求である。また,Dは,通帳及び払戻請求書を被告に提出してから払戻がなされるまでの間,携帯電話に電話がかかってきて店外に出るという不審な挙動をしている。 にもかかわらず,G及びHは,Dに対し,暗証番号,生年月日,住所ないし電話番号,資金使途の確認をせず,あるいは身分証明書の提示を求めていない。 さらに,被告においては,他の支店で開設された口座について100万円以上の払戻請求があった場合は,払戻請求書に住所の記載をさせ,窓口担当者だけでなく上席の証印者が面談して確認することとしていたところ,G及びHは,Dが「王蘭」と記載すべきところを「王欄」と記載した誤記を見落としているし,証印者であるHは面談さえしていない。 よって,被告担当者らが,Dを正当な預金払戻請求権者であると信じたことにつき,過失がなかったとはいえない。 イ G及びHは,上記住所の誤記に気付かなかったとしているが,その真偽は疑わしい。払戻請求書に記載された「欄」の上にチェックマークが入っていることからすれば,誤記には気付いたが,払戻請求者がうっかり間違えたのであろうと軽く考えて払戻に応じたものと考えるのが相当である。 わしい。払戻請求書に記載された「欄」の上にチェックマークが入っていることからすれば,誤記には気付いたが,払戻請求者がうっかり間違えたのであろうと軽く考えて払戻に応じたものと考えるのが相当である。 ウ G及びHは,窃取された通帳及び印鑑での不正な預金引出が隣接支店である四谷支店周辺で多発していることを認識していないとするが,被告他支店において警察の説明会が開かれたり,警察からのビラが配布されるなど,警察から情報提供されていたのだから,かかる情報は,被告の業務上の示達にて,G及びHにも伝達されていたというべきである。 第3 証拠本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。 第4 当裁判所の判断 1 当事者間に争いがない事実等被告四谷支店に,原告Aが普通預金口座を,原告Bが貯蓄預金口座をそれぞれ開設して被告との間で銀行取引をしていたこと,各預金規定には払戻請求書に使用された印影が届出の印影と相違ないものと認めて取り扱った場合には被告は責任を負わない旨の免責条項があること,原告らが平成11年3月5日午後6時ころから同月7日の深夜までの間に何者かに上記口座の通帳及び届出印などを窃取されたこと,原告らは同月8日午前10時ころ被告に対して預金引出停止を要請したが,それに先立つ同日午前9時20分ころ四谷支店でA口座の通帳及び届出印を使用して900万円が,同日午前9時40分ころ麹町支店でB口座の通帳及び届出印を使用して500万円が,いずれも無権限者に払い戻されていたことは,当事者間に争いがない。 したがって,問題は,被告のした本件各払戻しが上記の免責条項や民法478条によって弁済としての効力を認められるか否かであるが,いずれの場合にも被告がその責任を免れるためには,被告の担当者が本件各払戻しの手続をした際,善意かつ無過失であることが必 の免責条項や民法478条によって弁済としての効力を認められるか否かであるが,いずれの場合にも被告がその責任を免れるためには,被告の担当者が本件各払戻しの手続をした際,善意かつ無過失であることが必要であると解されるから,以下,この点について判断する。 2 被告の注意義務の内容まず,預金の払戻請求があった場合に被告のような銀行の窓口担当者が負担すべき注意義務の内容について検討する。 本件におけるA口座の普通預金も,B口座の貯蓄預金も,被告の国内の本支店のどこででも自由に預金の出し入れができる口座である(乙3号証,8号証)。このような預金口座について真正な通帳と届出印を使用して払戻請求がなされた場合には,被告は,原則としてその預金の払戻しを拒み得ない。預金者である原告らにとっては,被告の本支店であれば,どこででも自由に預金の出し入れができるという利益がある反面,被告の本支店の窓口業務では,被告の本支店のどこで開設された預金口座の通帳による払戻しであっても対応しなければならないから,払戻しを請求している者が真正な払戻権限を有する者か否かを常に慎重に判断しなければならないとすると,大変な労力と手間がかかることになってしまい,限られた営業時間内に大量の顧客から持ち込まれる各種請求を円滑かつ迅速に処理することができなくなってしまう。したがって,全国どこででも払戻しを受けられるという原告ら預金者の利益と,大量の事務を円滑かつ迅速に処理しなければならない被告銀行側の要請とを調和させることが必要であるところ,これを達成するため,原告らと被告との間の預金契約に適用される預金規定では,真正な通帳と届出印を使用して払戻請求がなされた場合,被告は,預金の払戻しを拒み得ないとする一方,相当の注意をもって払戻請求書の印影と届出の印影とを照合し相違ないと認 契約に適用される預金規定では,真正な通帳と届出印を使用して払戻請求がなされた場合,被告は,預金の払戻しを拒み得ないとする一方,相当の注意をもって払戻請求書の印影と届出の印影とを照合し相違ないと認めて払い戻したときには,免責条項によって責任を負わないものとされている。 このように預金規定に定められた免責条項は,原告ら預金者の利益と被告の銀行の利益とを調和させるためのものであるから,真正な通帳と届出印を使用して払戻請求がなされた場合には,いかなる事情があっても銀行が免責されるというものではなく,払戻しの請求をした者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在しない限り,被告の窓口担当者としては,さらに身分証明書の提示を求めたり,生年月日や電話番号などの個人的情報を尋ねたりしなくても,過失はないというべきであるが,何らかの契機により,銀行の窓口で預金の払戻請求をしている者が預金者と異なっていることを認識した場合には,その通帳や届出印を確認するだけではなく,さらに身分証明書の提示を求めたり,生年月日や電話番号などの個人的情報を尋ねるなどして,窓口に来店している請求者が正当な受領権限を有することを確認しなければならないというべきである。そして,このことは民法478条についても同様であるから,そのような確認を怠った場合には過失があり,前記の免責条項の適用や民法478条による弁済の効力を認めることはできないというべきである。 3 A口座からの払戻しの当否そこで,A口座からの払戻しの当否について検討する。 (1) 甲4号証の1及び2,甲11号証,甲16号証ないし甲18号証,甲23号証,甲27号証,乙6号証,乙9号証,E証人の証言,F証人の証言,C証人の書面尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。 ア四谷警察署管内にお 甲11号証,甲16号証ないし甲18号証,甲23号証,甲27号証,乙6号証,乙9号証,E証人の証言,F証人の証言,C証人の書面尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。 ア四谷警察署管内においては,平成10年12月1日から平成11年2月7日までの間に26件の事務所荒らしの窃盗事件が発生したため,本件各払戻当時,同署が管内の金融機関に対して注意を喚起するビラを配布したりしていた。また,平成11年1月6日,同月14日,2月1日には被告の新宿支店で,窃取された通帳と印鑑を用いて不正に預金が引き出されるなどの事件が発生したため,同月19日には四谷警察署が被告新宿支店の行員約50名に対して,その手口などについて説明していた。 イ被告においては,その支店で開設された預金口座からの払戻し(自店払い)の場合に比べて,その支店以外の本支店で開設された預金口座からの払戻し(他店払い)の場合の方が過誤が多かったことから,現金100万円以上の他店払いについては,窓口で担当者から払戻請求者に対してその住所の記入を求めることとし,住所が記入がなされなかったり,誤って記入された場合には,被告内部で予め「証印者」として指定されているベテランの役職者がその払戻請求者と面談して確認するという内規が定められていた。また,無権限者が盗んだ通帳や印鑑などによって払戻しを請求する場合には,その直前に少額の入金をして取引停止措置がとられていないことを確認してから払戻手続を行うことがあったため,被告においては,大口預金の払戻請求がなされた場合には,窓口担当者や証印者において,通帳の取引履歴を見て直前に少額の入金がなされているか否かを確認することになっていた。 ウこれに加えて,四谷支店では,より慎重を期すため,現金100万円以上の他店払いについては,すべて証印者が払戻請求者 取引履歴を見て直前に少額の入金がなされているか否かを確認することになっていた。 ウこれに加えて,四谷支店では,より慎重を期すため,現金100万円以上の他店払いについては,すべて証印者が払戻請求者と面談して一応の確認をすることとし,また,自店払いであっても払戻金額が500万円以上であれば,すべて証印者が払戻請求者と面談して払戻請求に問題がないことを確認することとしていた。なお,四谷支店における支払,入金,振込などの窓口業務の件数は,月曜日と金曜日が比較的多く,月曜日は,通常1日約500件くらいであり,午前9時から午前11時すぎの間には約50件程度の払戻しがある。 エ本件でA口座からの払戻しを請求したCは,平成11年3月8日月曜日午前9時前,氏名不詳の中国人が盗取してきたA口座の預金通帳と届出印を預かり,黒っぽいスーツを着用したうえ,同日午前9時5,6分ころ,四谷支店に入り,まずATM機で通帳に記帳をして盗難届が出ていないことと残高とを確認した。その後,Cは,窓口の整理券を取り,記帳台で通帳を見ながら銀行備え付けの払戻請求書に,店番号,口座番号,払戻金額,口座名義人を記入し,届出印を押捺したうえ,窓口を担当していたEにこれを提出して,預金残高967万円余のうち900万円の現金での払戻しを請求した。なお,Eは,平成5年4月に被告に入行して以来,主に窓口業務を担当していた。 オ払戻請求書を受け取ったEは,押捺された印影が不鮮明だったため,再度押印を求めたうえで通帳に押捺されている副印鑑の印影と照合し,両者が同一のものであることを確認した。また,A口座の通帳に記載されている口座名義は,正式には「タイアップグループ事務局/A」であるところ,払戻請求書には,「A/タイアップグループ事務局」と記載されていたが,団体名と個人名の順番が逆に記載され 口座の通帳に記載されている口座名義は,正式には「タイアップグループ事務局/A」であるところ,払戻請求書には,「A/タイアップグループ事務局」と記載されていたが,団体名と個人名の順番が逆に記載されることは日常的によくあることであったため,Eは,そのことは特段不審には思わず,払戻金額が500万円以上であれば証印者が面談するという四谷支店での取扱いに従って,証印者であるFに通帳と払戻請求書を引き渡した。 カ Fは,昭和46年4月に被告に入行し,平成10年4月から四谷支店の業務課長として「証印者」に指定されていたが,この当時,四谷近辺で盗取された通帳や印鑑を使用して不正に預金の払戻しを受ける事件が頻発していたことは知っていた。Fは,EからA口座の通帳と払戻請求書を引き継ぎ,それぞれの印影が同一であることだけではなく,四谷支店に保管されている印鑑票の印影とも照合して同一であることや,通帳の取引履歴を見て直前に少額入金がないことを確認したうえ,Cと短時間の面談を実施した。 Fは,それまでCと面識があったわけではなく初対面であった。そして,特に根拠があったわけではないが,Cが払戻請求書を事前に記載して四谷支店に持ってきたもので,預金名義人である原告A本人ではなく,預金名義人欄に記載のある「タイアップグループ事務局」の職員であると考えた。また,Fは,Cの態度が落ち着いるように見えたため,Cがタイアップグループ事務局の職員であると信じて疑わず,Cの名前を尋ねたり,職員であることを証明する身分証明書の提示を求めたりはしないまま,Cを原告Aの使者であると判断して,同日午前9時20分ころ,Cに対して現金900万円を交付した。 (2) 上記認定の事実により,Cに対するA口座からの本件払戻しにつき,被告の担当者に過失がないか否かを検討する。 アまず,Eは,C ,同日午前9時20分ころ,Cに対して現金900万円を交付した。 (2) 上記認定の事実により,Cに対するA口座からの本件払戻しにつき,被告の担当者に過失がないか否かを検討する。 アまず,Eは,Cが窓口に提出した払戻請求書の印影と届出の印影とが同一であることを確認した後,高額の他店払いであるところから証印者であるFに引き継いでおり,預金の払戻しを請求された窓口担当者としてなすべき第一次的な確認を行っているから,この範囲では過失がないというべきである。 イところが,これを引き継いだFについては,窓口で本件払戻しを請求している者とは初対面で,同人が預金名義人である原告A本人ではないと考えていたにもかかわらず,漠然とCが預金名義人欄に表示されている事務局の職員であると思い込んでいたため,Cの名前を尋ねたり,事務局の職員であることを証明する身分証明書の提示を求ることなく,預金残高967万円余の大部分に当たる900万円もの現金での払戻しを認めてしまったものである(盗取された通帳や印鑑による不正払戻しのケースでは,その預金残高の大部分を現金で引き出すのが一つの特徴である。)。しかも,Fは,四谷支店の業務課長の地位にある幹部職員で,また,「証印者」として高額の払戻しについては窓口の担当者から引き継いでより慎重な確認を行うべき地位にあっただけではなく,本件払戻当時,所轄の四谷警察署から窃盗団による不正引出事件が多発していたことを知らされて認識していたのであるから,本件のように,払戻金額が900万円と高額なだけではなく,預金残高の大部分について現金での払戻しを請求しているケースで,払戻しを請求している者が預金者本人ではないと考えた以上,その者が預金者から正式に払戻しを依頼された者であることを確認すべき義務があったというべきところ,Fがそのような確認を を請求しているケースで,払戻しを請求している者が預金者本人ではないと考えた以上,その者が預金者から正式に払戻しを依頼された者であることを確認すべき義務があったというべきところ,Fがそのような確認をしていないことは,上記認定のとおりである。そして,本件について,Fが払戻しの請求をしているCに対して,名前を尋ねたり身分証明書の提示を求めたりして,もう一歩踏み込んだ確認をしていれば,Cがタイアップグループ事務局の職員ではなく,原告Aから何ら適法な依頼を受けた者でないことは容易に判明したものと考えられ,本件被害も防止することができたというべきであるから,Fには,CによるA口座からの本件払戻しに際して,その確認につき過失がないということはできない。 ウこの点について,被告は,団体名義の預金口座からの払戻しの場合には,むしろ本人が来ることは稀で,誰かその職員が通帳と届出印とを持参して払戻しに来るのが通常であり,銀行実務では,そのような場合でも払戻請求書に押捺された印影と届出の印影とを照合して相違がないと認めれば,それ以上に受領権限を確認する必要はないというべきであるから,本件について,Fに過失はないと主張している。 なるほど一般的にいえば,預金者本人以外の者が預金通帳と届出印を所持している場合には,本人からその預金の払戻しについて依頼を受けていることが多いであろうと考えられるが,必ずしもそのような場合ばかりでないことは周知のことがらであるし,最近では特に事務所荒らしなどによって盗取された預金通帳や印鑑などを利用して不正な払戻しを受ける被害が多発していたことは前記認定のとおりであるから,本件のように,銀行の担当者が窓口で払戻しを請求している者と初対面で,しかも,預金者本人ではないと考えていた以上,単に請求者が預金通帳と届出印を所持していて, いたことは前記認定のとおりであるから,本件のように,銀行の担当者が窓口で払戻しを請求している者と初対面で,しかも,預金者本人ではないと考えていた以上,単に請求者が預金通帳と届出印を所持していて,払戻請求書の印影と届出の印影とが同一であることを確認しただけでは,金融機関としてなすべき注意義務を尽くしたと評価することはできないというべきである。 エなお,Fは,当裁判所における証言の際に,Cに対して原告Aの生年月日と引き出した資金の使途とを確認したところ,Cは何ら躊躇することなく原告Aの正確な生年月日を答えただけではなく,資金の使途についても「厚生省に持っていく」とそれなりの答えがあったため,Cがタイアップグループ事務局の職員に間違いはないと信じた,などと証言しているので,この点について付言する。 まず,Fにそのような質問されたはずのCは,当裁判所からの書面による尋問に対して,Fから電話番号などの個人的な情報を尋ねられたり,原告Aの生年月日や資金の使途などについて質問されたことはないと回答しているうえ,本件では,Cが手渡された預金通帳に原告Aの生年月日が記載されていたわけではないし,他にCが原告Aの生年月日を知りえたことをうかがわせる資料も提出されていないから,Cが原告Aの生年月日を知っていたということ自体が不自然であることや,いかにCが同種事件を多数繰り返していたとはいえ,社会一般的には珍しい特別な団体の名称が使われており,払い戻した資金の使途としても厚生省への支払いだというのは特異なものに属するはずであるから,仮に,CがFに対してそのような答えをしたのであれば,Cにも何らかの記憶に残ってしかるべきところであるのに,Cは,特に個人的な事柄を尋ねられたことはないと回答していることなどを総合考慮すると,Fによってなされた自分自身の無過 答えをしたのであれば,Cにも何らかの記憶に残ってしかるべきところであるのに,Cは,特に個人的な事柄を尋ねられたことはないと回答していることなどを総合考慮すると,Fによってなされた自分自身の無過失を基礎づける内容の前記の証言を採用することはできない。 オしたがって,Cに対するA口座からの本件払戻しについては,被告の担当者であるFによる正当な権限の有無についての確認行為が不十分であり,無過失とはいえないから,預金規定に定められた免責条項により免責されることはないし,民法478条により有効な弁済とすることもできないというべきである。 4 B口座からの払戻しの当否次に,B口座からの払戻しの当否について検討する。 (1) 前記3(A口座からの払戻しの当否)(1)イで認定した事実(被告の払戻手続に関する内規)のほか,甲21号証,甲23号証,甲27号証,乙7号証,乙10号証,G証人の証言,H証人の証言,D証人の書面尋問の結果によれば,以下の事実が認められる。 ア麹町支店における払戻手続の件数は,月曜日及び金曜日が比較的多く,月曜日は,通常,1日で約300件程度であり,午前9時から午前11時すぎまでの間の払戻件数は約50件程度であった。ちなみに,被告における払戻手続の内規は前記3(1)イのとおりであり,麹町支店においては,この内規に従った取り扱いがなされており,前述の四谷支店のように要件審査を加重する取扱いがなされなかった。 イ本件でB口座からの払戻しを請求したDは,平成11年3月8日月曜日午前9時前,氏名不詳の中国人が盗取してきたB口座の預金通帳と届出印を預かり,A口座からの払戻しのため四谷支店に向かったCと別れて,午前9時20分ころ,麹町支店に入った。同人は,ミニスカートとコートを着用して,まずATM機で通帳に記帳をして盗難届が出ていない 出印を預かり,A口座からの払戻しのため四谷支店に向かったCと別れて,午前9時20分ころ,麹町支店に入った。同人は,ミニスカートとコートを着用して,まずATM機で通帳に記帳をして盗難届が出ていないことと残高を確認したうえで,窓口の整理券を取り,記帳台で通帳を見ながら銀行備え付けの払戻請求書に,店番号,口座番号,払戻金額,口座名義人を記入し,届出印を押捺して,窓口を担当していたGに提出して,預金残高521万円余のうち500万円の払戻しを請求した。 ウ Gは,平成9年4月に被告に入行して以来,主に麹町支店で窓口業務を担当してきたが,Gが払戻手続について上司から指示されていた事項は,①払戻請求書の印影が少しでも不鮮明な場合には,再押印を求めたうえで入念に印鑑照合を行うこと,②他の支店の預金口座について100万円を超える払戻しを請求された場合には,原則として届出住所の記載を求めること,③払戻請求の直前に少額の入金がなされていたり,届出住所の記載が誤っているなど,払戻手続に不審がある場合には証印者に相談すること,の3点である。そして,このうち,②や③に該当する場合には,窓口を担当するGの判断で払戻しに応ずることはできず,証印者であるHの決裁を経ることが必要とされていた。 エ Gは,Dとは初対面であり,Dから提出された払戻請求書を確認したところ,その印影がにじんで不鮮明だったため,Dに対して,再度押印を求めた。その際,Dの所持していた携帯電話の呼出音が鳴ったが,Dはその場では電話に出ず,Gに対し外で電話をしてくることを伝えて店外に出て行った。Gは,Dは携帯電話を使用するときのエチケットとして店外に出ていったものと思い,特段不審な行動とは考えなかった。そして,Gは,払戻請求書に再度押捺された印影と通帳に押捺された副印鑑の印影とを照合して同一であること 話を使用するときのエチケットとして店外に出ていったものと思い,特段不審な行動とは考えなかった。そして,Gは,払戻請求書に再度押捺された印影と通帳に押捺された副印鑑の印影とを照合して同一であることを確認したうえ,請求が100万円を超える他店払いであったため,上記②の指示に従い,Dに対して,届出住所の記載を求めた。しかし,Dは,これまでにも盗取された通帳を預かって不正に払戻しを受けた経験があり,窓口で届出住所や電話番号の記入を求められる場合もあることを予想して通帳が保管されていた事務所の住所や電話番号を覚えていたため,何も見ずに,その場で「新宿区h-i王欄ビル4F」という住所を記入した(本件払戻請求書(乙2号証の1)の下の余白部分に記載された住所の字は,特に震えたりすることもなく,綺麗に書かれており,Dがあまり慌てたりせずに記載したことが推認される。)。もっとも,原告Bの正しい届出住所は「東京都新宿区h-i王蘭ビル4階」であり,Dが記入した住所は「蘭」の字が「欄」と誤って記載されていたが,Gは,その誤記には気付かなかった。 オ Gは,平成11年3月当時,東京近辺で盗取された通帳と印鑑を利用して預金を引き出す事件が発生していたことは知っていたが,上司からそのことについて特別の注意や指導を受けておらず,また,警察の作成した防犯を呼びかけるビラの回覧も見ていなかった。そして,Gは,DによるB口座からの払戻請求が上記②に該当したので,証印者であるHに通帳,払戻請求書と届出住所をプリントアウトした書面を引き渡し,検討を依頼した。 カ Hは,昭和63年4月に被告に入行し,平成11年3月4日,麹町支店に異動して証印者となった。Hは,平成11年1月ころ被告の荻窪支店で他人の通帳で払戻しをしようとして逮捕された事件があったことは知っていたが, 和63年4月に被告に入行し,平成11年3月4日,麹町支店に異動して証印者となった。Hは,平成11年1月ころ被告の荻窪支店で他人の通帳で払戻しをしようとして逮捕された事件があったことは知っていたが,勤務先の麹町支店の近辺で同様の事件が発生していることは知らなかった。Hは,Gから一件書類を引き継ぎ,払戻請求書の印影と副印鑑の印影とを照合して両者が同一であることや,通帳の取引履歴を見て直前に少額入金がないことを確認したうえ,GがDに記載してもらった住所と届出住所とを確認し,特に不審な点はないものと判断してB口座からの本件払戻しを承認し,Gに一件書類を戻した。そして,Gは,同日午前9時40分ころ,Dに対して現金500万円を交付した。 (2) 上記認定の事実により,Dに対するB口座からの本件払戻しにつき,被告の担当者に過失がないか否かを検討する。 アまず,B口座からの払戻請求に際してDから提示された預金通帳が真正のものであることや,その預金通帳に押捺されている副印鑑の印影と払戻請求書に押捺されている印影及びGの面前で再度押捺してもらった印影とが同一で,Dが所持している印鑑が真正の印鑑であることは,GもHも,これを確認している。そして,真正な通帳と届出印を使用して払戻請求がなされた場合には,払戻しの請求をした者について正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在しない限り,金融機関の窓口担当者としては,さらに身分証明書の提示を求めたり,生年月日や電話番号などの個人的情報を尋ねたりしなくても過失はないというべきであることは,既に説示のとおりである。したがって,DによるB口座からの払戻請求については,払戻しの請求をしたDについて,正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したか否かが問題である。 イそこで,検討を である。したがって,DによるB口座からの払戻請求については,払戻しの請求をしたDについて,正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在したか否かが問題である。 イそこで,検討を進めると,前記のCによるA口座からの払戻請求においては,証印者であるFが,払戻請求をしている者が預金者の原告Aではないと認識していたのに,漠然と事務局の職員であると考えて,住所や電話番号を記載させたり身分証明書を提出させるなど適切な確認をしなかった点に過失が認められるが,DによるB口座からの払戻請求については,100万円を超える他店払いの請求であったので,GがDに対して届出住所の記載を求めたところ,かねて予期していたDは,慌てることなく自然な態度で何も見ずにその場で届出住所を記載したというのであるから,GがDをB口座の正当な受領権限を有する者と考えたことはやむをえないことと考えられる。 ウもっとも,Dが記載した届出住所のビルの名称は,正確には1字誤っているが,誤記とされる「欄」と正しい「蘭」の字は,違いを指摘されればそのとおりであるが,ともに同じ音で,文字の形状も木へんと草かんむりの差こそあれ,ほとんど同じでるから,Gがこれに気づかなかったとしても,これをもって過失があったとするのは相当ではないというべきである。 エ次に,Hについてであるが,Hは,麹町支店の証印者としてGよりは慎重に確認すべき一般的な注意義務を負っていたことはいうまでもなく,しかも,窃盗団による不正払戻事件が発生していたことは銀行関係者の間では知られていた事実であるから,払戻請求に際して何か不審な点があれば,その不審を解消するために必要かつ適切な方法で確認しなければならないことはいうまでもないことである。しかし,本件においては,前記認定のとおり,麹町支店では本件前に盗取 求に際して何か不審な点があれば,その不審を解消するために必要かつ適切な方法で確認しなければならないことはいうまでもないことである。しかし,本件においては,前記認定のとおり,麹町支店では本件前に盗取された通帳や印鑑を利用した不正払戻しが発覚したことはないうえ,DによるB口座からの本件払戻請求は,真正な預金通帳と印鑑を利用してなされたもので,通帳の取引履歴にも不審な点はなかったばかりか,窓口担当のGがDに届出住所の記載を求めたのに対して,Dは落ち着いてその住所を記載したというのであるから,これらの手続を踏まえたうえでGから引き継いだHとしては,一般に尽くすべき確認手続はとられていると考え,窓口に来ているDがB口座からの払戻しにつき正当な権限を有するものと信じて,特に不審を抱かず,それ以上の確認手段をとらなかったとしても,責められるべき点はないというべきであって,過失はないというべきである。結局,DによるB口座からの払戻しについては,Dの事前の準備が被告の確認マニュアルを上回ったということであり,本人ではないと考えつつ適切な確認手段をとらなかったCによるA口座からの払戻しのケースとは異なるといわざるをえない。 オしたがって,Dに対するB口座からの本件払戻しについては,被告の担当者であるG及びHによる正当な権限の有無についての確認行為につき無過失といえるから,預金規定に定められた免責条項により免責されるか,民法478条により有効な弁済として有効というべきである。 5 まとめ以上に認定,説示したところによれば,被告がA口座からの払戻しに応じたことについては,被告の担当者に前記認定,説示のような過失があり,責任があるといわざるをえないが,被告がB口座からの払戻しに応じたことについては,被告の担当者には過失がなく,責任がないというべき たことについては,被告の担当者に前記認定,説示のような過失があり,責任があるといわざるをえないが,被告がB口座からの払戻しに応じたことについては,被告の担当者には過失がなく,責任がないというべきである。 第4 結論以上によれば,原告Aの請求は理由があるから認容し,原告Bの請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第48部裁判長裁判官須藤典明裁判官鳥居俊一裁判官高橋純子・
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