- 1 - 令和2年1月27日宣告平成30第1346号,平成31年第87号,第258号無免許過失運転致死(変更後の訴因道路交通法違反,危険運転致死),道路交通法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中310日をその刑に算入する。 理由 【犯罪事実】第1 被告人は,公安委員会の運転免許を受けないで,平成30年3月23日,大阪府八尾市内の道路において,普通乗用自動車を運転した。 第2 被告人は,公安委員会の運転免許を受けないで,平成30年11月8日午後零時25分頃,兵庫県西宮市内の県道高速a 線上りb 料金所付近道路において,普通乗用自動車を運転した。 第3 被告人は 1 公安委員会の運転免許を受けないで,平成30年11月25日午後零時28分頃,兵庫県尼崎市内の県道高速c線上り8.4キロポスト付近道路において普通乗用自動車を運転し 2 前記日時頃,同所付近の右方に湾曲する片側3車線道路(最高速度60㎞/h)の第2車両通行帯において,その進行を制御することが困難な約216㎞/h の高速度で前記車両を西から東へ走行させたことにより,自車を道路の湾曲に応じて走行させることができず,自車後部を左方へ滑走させて,自車を右前方へ暴走させ,左右に転把するなどするも進行を制御できず,前記県道高速c線上り8.3キロポスト先道路の第1車両通行帯から自車を右斜め前方へ横すべりさせ,折から,自車前方の前記県道高速c線上り8.0キロポスト先の道路の第2車両通行帯を進行中のV(当時70歳)運転の中型特種自動車(冷蔵冷凍 - 2 - 車)の後部に自車前部を衝突させてV運転車両を左前方に滑走させた上で横転させ,よって,同人に脳挫傷等の傷害を負わせ,即時同所において (当時70歳)運転の中型特種自動車(冷蔵冷凍 - 2 - 車)の後部に自車前部を衝突させてV運転車両を左前方に滑走させた上で横転させ,よって,同人に脳挫傷等の傷害を負わせ,即時同所において,同人を前記傷害により死亡させた。 【争点に対する判断】 1 本件事故の現場及びその周辺の状況,各地点間の距離等は別紙本件関係地点図【添付略】(甲63号証の別紙5本件関係地点図と同様のもの。以下「別紙図」といい,「監視カメラ①」,「ジョイント①」,「右カーブ起点」などの呼称は,同図のものをそれぞれ指す)のとおりであるところ,被告人が,判示第3の2の日時場所において運転していた普通乗用自動車(ポルシェ製パナメーラS E‐Hybrid。 以下「被告人車両」という)を被害者が運転していた中型特種自動車(以下「被害者車両」という)に衝突させるなどして被害者を死亡させた事故(以下「本件事故」という)を引き起こしたことに争いはなく,証拠によって優に認められる。 本件の争点は,被告人に危険運転致死罪が成立するか否か,すなわち,被告人が「その進行を制御することが困難な高速度」で走行して進行を制御できない状態になったために本件事故が発生したか否かである。 この点,検察官は,被告人車両が右カーブ起点に進入した際,同車の速度は,少なくとも同カーブの限界旋回速度(約197.8㎞/h から約211.4㎞/h)を超える216㎞/h には達していたから,被告人が「その進行を制御することが困難な高速度」で被告人車両を走行させて本件事故を起こしたことは明らかである旨主張し,弁護人は,右カーブ進入時に被告人車両の速度が限界旋回速度を超えていたとは認定できず,本件事故の原因は,被告人がカーナビゲーションの操作をしていたことによる脇見運転である旨主張するので以下検討する。 人は,右カーブ進入時に被告人車両の速度が限界旋回速度を超えていたとは認定できず,本件事故の原因は,被告人がカーナビゲーションの操作をしていたことによる脇見運転である旨主張するので以下検討する。 2 まず,監視カメラ①及び監視カメラ②の映像や本件事故現場のタイヤ痕の解析結果によると,別紙図に記載されているとおり,本件当時の被告人車両の速度につき,9.0KPの東方7.1mの地点から6m通過する際が約216㎞/h,8. - 3 - 1KP付近のジョイント②からジョイント③の間が約198㎞/h,8.0KP付近の本件事故現場に至る約60.4mが約175㎞/h から185㎞/h であったと認められ,これらの速度については当事者間に争いがない。 3 そして,科学捜査研究所の研究員らが行った鑑定によると,⑴運行記録計記録紙の記載(なお,弁護人は同記録紙に記載された時刻が不正確であると指摘するが,同記録紙の設置の仕方によって生じ得る誤差であり,衝突時点が明らかである以上は同記録紙に記載された速度の正確性に影響し得るものではない)に基づき事故直前の被害者車両の走行速度を約93㎞/h として計算したジョイント①から本件事故現場までの間の被告人車両の平均速度は,約240㎞/h ないし約250㎞/h であり(以下「A鑑定」という),⑵監視カメラ①と監視カメラ②に撮影された被告人車両の映像から推計したジョイント①からジョイント③までの間に要した時間から計算された被告人車両の平均速度は約258.5㎞/h である(以下「B鑑定」という)とされている。両鑑定が依拠した手法は,速度を算出する方法として明快で,客観的な資料を前提とするものである上,異なる2つの手法によって算出された結果が整合している。 そして,被告人車両が216㎞/h を下回る速度で右カーブ起点 手法は,速度を算出する方法として明快で,客観的な資料を前提とするものである上,異なる2つの手法によって算出された結果が整合している。 そして,被告人車両が216㎞/h を下回る速度で右カーブ起点に進入したと仮定した場合,その後の道路状況や8.1KP及び本件事故現場付近の被告人車両の速度からすると,右カーブ起点から8.1KP付近や本件事故現場までの被告人車両の平均速度がいずれも216㎞/h を超えることはないと考えられる。そうすると,A鑑定やB鑑定の平均速度を前提とすれば,ジョイント①から右カーブ起点までの500m余りの区間における被告人車両の平均速度は,被告人車両と同一車種の車両の最高速度に近いかこれを超える数値になる。そのような事態は考えられないのであるから,右カーブ起点での被告人車両の速度が216㎞/h より低いものとはなり得ない(実測されていない距離については,各KPの数値から算出しても全体の実測数値とほぼ変わりがない)。この点については,A鑑定が前提とする被害者車両の速度に誤差がある可能性やB鑑定が資料とした監視カメ - 4 - ラ①と監視カメラ②の各データの開始時刻に誤差がある可能性等を念頭に置いて検討しても,いずれもさほど大きな誤差があるとは考えられない上(被害者車両の速度は前記の運行記録計記録紙に基づく客観的なもので平均速度の計算も被告人に有利に行われており,各データは事件当日の午後0時28分00秒開始という0.1秒単位での特定を求められたものである),約216㎞/h であった9. 0KP付近から被告人車両を加速させた上で右カーブ起点において216㎞/hを下回るまで減速すること(しかも右カーブ直前で急激に減速するような危険な運転をしたとは考えられないし,監視カメラ①の映像にも急激に減速したような動きは見受けられ で右カーブ起点において216㎞/hを下回るまで減速すること(しかも右カーブ直前で急激に減速するような危険な運転をしたとは考えられないし,監視カメラ①の映像にも急激に減速したような動きは見受けられない)が可能となるような平均速度となるほどの誤差が,A鑑定とB鑑定の基礎とした資料の双方に生じたというのも考え難い。 これらによれば,右カーブ起点における被告人車両の速度が少なくとも216㎞/h を下回っておらず,これを上回る速度で右カーブを走行したことは明らかである。 4 さらに,本件当時,監視カメラ②に映されていた被告人車両の走行状況を見ると,第2車両通行帯を走行してS字カーブに進入した同車が,第3車両通行帯にややはみ出すような状態になるや,第1車両通行帯に向かって進行した上で同車両通行帯において進行方向とは車体の軸が斜めにずれた横すべりのような状態で走行している(公判廷でも行ったとおり,監視カメラ②の映像を拡大してコマ送りにするとその状況を確認することができ,被告人車両が横すべりの状態にあったことは路面に残されたタイヤ痕とも符合する)。かかる被告人車両の走行状況からは,S字カーブに進入して右カーブを走行している際に自車の進行を制御することが困難な状態に陥り,ハンドルを左右に転把させるなどして立て直そうとしつつ横すべりするに至ったと見ることができ,その旨を説明する科学捜査研究所の研究員の証言も被告人車両の走行状況を合理的に説明するものであって信用することができる(かかる被告人車両の走行状況からすると,右カーブで限界旋回速度を超えていたとしても,それに続く左カーブでは立て直していた可能性を - 5 - 否定することができないとの弁護人の主張を採用することができない)。このような被告人車両の走行状況は,被告人車両が右カーブ起点に進入 それに続く左カーブでは立て直していた可能性を - 5 - 否定することができないとの弁護人の主張を採用することができない)。このような被告人車両の走行状況は,被告人車両が右カーブ起点に進入する際に限界旋回速度を超えていたことと符合する。 5 なお,被告人は先行していた車両(BMW)を追走していたものであるが,同車はS字カーブを速度を落とすことなく直進的に進行しているために制御を失わなったものと認められるから,被告人車両に追いかけられていた先行車がS字カーブを通過した事実は,被告人車両が約216㎞/h で本件右カーブ起点に進入したことを疑わせるものではなく,むしろ,先行車を追いかけていた被告人が自分もS字カーブを通過できると判断してしまったことから無謀な速度でカーブに進入したとしても不自然ではないことを根拠付ける事情となる。 6 このように,被告人車両は,右カーブ起点に進入する際,同カーブの限界旋回速度を上回る少なくとも216㎞/h の速度で走行したことが合理的な疑いを超えて認められるから,被告人は,「その進行を制御することが困難な高速度」で自動車を運転したといえ,前記4で認定した被告人車両の走行状況からすると,そのような速度で走行したことから安定して車両通行帯を走行することができず,横すべり状態となるなど制御を失い,被害者車両に後方から衝突して被害者を死亡させたものと認定することができる。なお,被告人車両がS字カーブを走行する際には,そのような不安定な状態にあったにもかかわらず,被告人が公判廷で述べるようにカーナビゲーションを操作していたとは考え難いし,仮に操作しようとしていたのであれば,進行を制御できなくなっていた際に無謀な行為を行ったというにすぎず,危険運転致死罪の成否に影響する事情とはならない。 7 以上の次第である ていたとは考え難いし,仮に操作しようとしていたのであれば,進行を制御できなくなっていた際に無謀な行為を行ったというにすぎず,危険運転致死罪の成否に影響する事情とはならない。 7 以上の次第であるから,被告人に判示第3の2のとおりの危険運転致死罪が成立することは明らかであり,弁護人の主張は採用できない。 【量刑の理由】本件は,判示のとおりの無免許運転に係る道路交通法違反3件及び危険運転致死の事案である。 - 6 - 量刑の中心となる危険運転致死についてみるに,被告人は,制限速度の3.5倍を超える約216㎞/h という,この種事案でも類例を見ない高速度でカーブに進入し,本件事故を引き起こしたものである。本件現場付近は高速道路ではあるが最高速度が60㎞/h に制限されており,本件当時,それなりに通行量があったことが認められることからすると,被告人の運転行為は極めて非常識かつ危険なものというほかない。 証拠によれば,被告人は,目的地に向かう途中で被告人車両を追い抜いた車両に追従し,同車が被告人車両から離れようと速度を上げたのに対抗して速度を上げて追いかけていたことが認められる。その動機に関しては,追い抜かれたことに腹を立てての嫌がらせなどの目的があったと断定することまではできず,必ずしも明らかではないというしかない。また,先行車の運転手が極めて高度の運転テクニックを有し,通常では想定し難いコース取りによって限界旋回速度を超える高速度でS字カーブを通過してさえいなければ,被告人もそこまでの高速走行には至らなかったであろうとはいえる。しかしながら,被告人が高速度で走行する先行車に追従しなければならなかった合理的な理由は見受けられない上,被告人は,指定速度を50㎞ないし57㎞超過しての2回にわたるスピード違反で平成29年2月に 。しかしながら,被告人が高速度で走行する先行車に追従しなければならなかった合理的な理由は見受けられない上,被告人は,指定速度を50㎞ないし57㎞超過しての2回にわたるスピード違反で平成29年2月に罰金刑に処せられ,同年3月に免許取消決定を受けたのに,その約1年後に被告人車両を購入してその直後から常習的に無免許運転を繰り返す中で本件に及んだものであり,交通法規を守ろうとする意識が欠如しているというほかなく,そのような態度が本件を招いたことは明らかである。 そして,本件事故により,被告人及び先行車とは何らの関係もなく,落ち度がない被害者の尊い命が失われたのであって,被害者遺族の悲しみも大きく深い。任意保険にも加入していない被告人車両を無免許で乗り回してかかる結果を引き起こした無責任な被告人に対し,遺族が厳正に処罰することを求めるのは当然の感情というべきである。 以上を前提に,高速度類型の危険運転致死罪の量刑傾向を参考にして本件を評価 - 7 - すると,本件は,1名を死亡させた同類型の事案の中では相応に重い部類に属する事案と評価すべきである。 そうすると,自賠責による支払とは別の分として400万円を被害弁償の一部として支払っていること,被告人が法廷で述べる反省の言葉は,遺族らの心に響くような内容のものとは到底いえないが,それも表現の拙劣さのためとみる余地もあり,被告人なりの反省の言葉を述べてはいること,前記の経緯に照らすと交通法規違反に関する再犯のおそれを否定することができないが,今回初めて正式裁判を受けて相当期間の服役をすることでの更生を期待する余地があることなどの事情を考慮しても,主文の程度の懲役刑はやむを得ないものと判断した。 (求刑・懲役10年)令和2年1月27日神戸地方裁判所第2刑事部 での更生を期待する余地があることなどの事情を考慮しても,主文の程度の懲役刑はやむを得ないものと判断した。(求刑・懲役10年)令和2年1月27日神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長 裁判官小倉哲浩 裁判官安達拓 裁判官小林薫 別紙【略】
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