平成13(ネ)867 認知無効確認請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成13年10月16日 東京高等裁判所
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判決文本文5,018 文字)

(原審・千葉地方裁判所松戸支部平成12年(タ)第29号(原審言渡日平成13年1月15日)) 主文 1 本件控訴を棄却する。 ただし,原判決主文第1項を次のとおり補正する。 「被控訴人が平成8年3月6日茨城県a市長に対してした認知届出の効力を有する出生届出にかかる控訴人に対する認知は,無効であることを確認する。」 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 被控訴人の請求の趣旨上記のとおり当審で補正した原判決主文第1項と同旨(被控訴人は,原審訴状における「被控訴人の平成8年3月6日届出による控訴人に対する認知は無効とする。」との請求の趣旨を,後の平成12年10月16日準備書面において「被控訴人の平成8年3月6日の届出による認知の効力を有する出生届は無効とする。」旨に訂正したが,その趣旨は,上記のとおりと認められる。)第3 事案の概要 1 本件は,被控訴人が,真実は父子関係のない控訴人を嫡出子として出生届出し,戸籍法62条によりこれが認知の届出の効力を有する出生届出とされたことについて,同認知の無効を求めて訴えを提起したのに対し,控訴人が,任意に認知した者自らが認知の無効を主張をすることはできないとして争った事案である。 2 原判決は,控訴人の上記主張を排斥し,被控訴人の請求を認容したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである。 第4 当事者の主張 1 当事者の主張は,次の2,3項に当審における双方の主張を付加するほかは,原判決「事実」欄第二「当事者の主張」の一及び二(原判決1丁裏末行から2丁裏1行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張(1) 任意に認知した者は,自ら認知の 原判決「事実」欄第二「当事者の主張」の一及び二(原判決1丁裏末行から2丁裏1行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張(1) 任意に認知した者は,自ら認知の無効を主張して訴えを提起することはできない。 同法理は,原判決引用の大審院判決のほか,東京高裁昭和63年8月31日判決も認める判例であり,原判決は,明らかな判例違反の判断をした違法な判決である。 また,同法理は,民法785条,786条の解釈からも(同法785条は,一旦任意でした認知については,詐欺や強迫のあった場合は格別,真実に反した場合もこれを取り消すことはできないことを定めたものであり,同法786条に定める「子その他の利害関係人」には認知者本人は含まれないと解すべきである。),また,身分関係の安定と子の利益の保護,安易な気まぐれ認知の防止等の実質的な観点からも,その合理性が裏付けられるものである。 本件では,控訴人は4歳の時に被控訴人から認知され,被控訴人も自分の子としてかわいがり,控訴人も被控訴人を父として慕っていたものである。にもかかわらず,被控訴人は,この期に及んで,8歳になった控訴人に対し本件訴訟を提起したものであり,控訴人に対する経済的,精神的ないし教育的な影響は計り知れないものがある。 (2) 被控訴人は,本件では被控訴人は嫡出子としての出生届をしたもので,認知届をしたものではない旨主張するが,被控訴人は,本訴で認知の無効を求めているのであるから,被控訴人の主張は自己矛盾である。 また,被控訴人は,戸籍法62条は,認知が認知届という方式を踏まなければ効力を生じないことに対する例外規定であるから,真実親子関係がない場合には適用がない旨主張するが,同条は,出生届出の意思には当然に認知の意思が含まれており,この場合に出生届と いう方式を踏まなければ効力を生じないことに対する例外規定であるから,真実親子関係がない場合には適用がない旨主張するが,同条は,出生届出の意思には当然に認知の意思が含まれており,この場合に出生届と認知届の双方を提出させるのは手続的に煩瑣であり,かつ無意味であることから設けられた規定であって,被控訴人主張のような認知に関する例外規定ではない。 被控訴人が引用する最高裁判例は,利害関係人である子が請求した事案についての判断であって,認知者自らが請求する本件とは全く事案を異にする。 3 当審における被控訴人の主張(1) 控訴人は,認知を前提とした議論をして原判決を批判するが,本件では,被控訴人は,控訴人を認知するとの認知届は提出しておらず,控訴人を自己の嫡出子として出生届をしたにすぎないから,控訴人の主張は前提を誤っており,民法785条や786条の適用を論ずる必要もない。 すなわち,被控訴人は,控訴人を養子にする意思はあったものの,控訴人の母Aから,養子縁組では自己が日本に滞在する資格を取得できないので,被控訴人の子として虚偽の出生届を提出してくれるよう強くせがまれたので,やむなくこれに従ったまでであり,認知の効力が発生することの認識はなかったものである。 出生届を受理したa市においては,これが虚偽の出生届であることは知る由もなく,調査権限もないのでこれを受理した結果,戸籍法62条により自動的に,戸籍上認知の効力を有する出生届と記載されたのである。 また,控訴人は,子の利益の保護を理由の一つとして挙げるが,控訴人が被控訴人の子として生活した期間は,被控訴人が出生届を提出した平成8年3月6日から,Aが他に男を作って被控訴人と別れた同年11月までのわずか8か月間にすぎない。しかもその後は,控訴人と被控訴人は,現在に至るまで全く会ったことも 間は,被控訴人が出生届を提出した平成8年3月6日から,Aが他に男を作って被控訴人と別れた同年11月までのわずか8か月間にすぎない。しかもその後は,控訴人と被控訴人は,現在に至るまで全く会ったこともない。 このようなAの行動からみると,同人は,本件出生届により被控訴人との真摯な婚姻関係を継続させるというより,単に自己の日本滞在のための方便として,本件出生届を利用しようとしたものと解さざるを得ない。 (2) 戸籍法62条は,認知が認知届という方式を踏まなければ効力を生じないことに対する例外とされており,血縁関係のない親子間である本件については,同条の適用はない。 したがって,認知の効力が発生するためには,血縁関係のある父又は母が認知することを要する。そして,血縁関係のない者を戸籍上嫡出子として届け出ても,これにより認知の効力を生じるものではないとするのが最高裁の判例である(最高裁昭和50年9月30日判決・裁判集民事116号115頁)。 したがって,本件の出生届には,認知としての効力を発生する余地はない。 第5 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の主張は採用できず,被控訴人の請求は理由があり,原判決は結論において相当であると判断するものであり,その理由は,原判決「理由」欄の一のうち,2丁裏3行目から4丁表8行目までの部分(事実認定の部分)を引用するほか,以下のとおりである。 2 上記引用にかかる原判決が認定した事実によれば,控訴人と被控訴人間には,自然血縁上の父子関係がないこと,被控訴人は,Aと婚姻するに当たり,Aの子である被控訴人を養子にする気持ちでいたが,Aの要望もあって,真実は被控訴人が自己の子でないことを認識しながら,被控訴人を自己の実子として嫡出子出生届をしたこと,同出生届は,茨城県a市長により受理された結果,戸籍法62条に る気持ちでいたが,Aの要望もあって,真実は被控訴人が自己の子でないことを認識しながら,被控訴人を自己の実子として嫡出子出生届をしたこと,同出生届は,茨城県a市長により受理された結果,戸籍法62条により,民法789条2項による準正嫡出子として,認知の届出の効力を有する出生届とされ,戸籍上もその旨の記載がされたことがそれぞれ認められる。 上記認定事実によると,被控訴人は,認知をする意思で認知届出をしたものではなく,あくまで婚姻を前提として,嫡出子出生届出をしたものであることが認められ,したがって,本件の出生届出は,必ずしも婚姻関係があることを前提としない男女関係における当該女性の子を認知する意思でなされる認知届出とは異なるものである。 ところで,真実父子関係のない者を戸籍上嫡出子として届け出ても,それにより認知の効力を生じるものでないことは,最高裁判所判例が説示するとおりであるところ(最高裁判所第三小法廷昭和50年9月30日判決・裁判集民事116号115頁),民法785条及び786条が認知についてのみ律した規定であることからすると,真実父子関係のない者を嫡出子として届け出た場合の効力と,真実父子関係のない者を認知した場合の効力とを同列に論じることはできず,したがって,認知者自らがその無効を主張しうるか否かに関する控訴人引用の大審院判例及び東京高等裁判所判決は,本件とは事案を異にし,直ちに本件に妥当するものではない。 そして,嫡出子を否定する訴えは,民法775条に定める夫からする嫡出否認の訴えによるべきであり,同訴え以外の方法は許されないとされているが,同訴えは,いわゆる嫡出推定を受ける子の親子関係を争う場合であることが前提とされ,他方,嫡出推定を受けない子の場合には親子関係不存在の訴えによるべきものとされているところ,嫡出否認の訴えは いるが,同訴えは,いわゆる嫡出推定を受ける子の親子関係を争う場合であることが前提とされ,他方,嫡出推定を受けない子の場合には親子関係不存在の訴えによるべきものとされているところ,嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年以内にこれを提起しなければならないとされている(民法777条)が,嫡出推定を受けない子について認められる上記の親子関係不存在の訴えには,このような出訴期間の制限がなく,また利害関係のある者であれば何人も同訴えを提起することができると解されている。 以上の点を考慮すると,本件のように婚姻と同時もしくはその直後に嫡出子としての出生届をしたことにより,戸籍法62条に基づき認知届出の効力を有するとされた出生届について,真実の親子関係がないことを理由にその効力を否定する場合には,父も含めた利害関係のある者は,出訴期間の制限を受けることなく,認知無効確認の訴えを提起することができるものと解するのが相当である。 なお,本件においては,原判決も認定するとおり,控訴人の母であるAと被控訴人の婚姻関係は,平成8年3月6日の婚姻時(同時に被控訴人が前記の出生届を提出した時)からわずか8か月後には破綻し,平成9年4月17日,控訴人の親権者をAと定めて協議離婚したものであって,その離婚の原因について被控訴人に一方的な責任があるとの事情は認められない(むしろ,原審挙示の証拠及び弁論の全趣旨によれば,Aが別の男性と性関係を持ち,平成9年11月25日,同男性との間の子を出産したことが認められる。)のであって,このような事実関係のもとにおいては,上記出生届出をした被控訴人自らがその無効を主張することが,禁反言の法理に反し,あるいは子の利益の保護ないし身分関係の安定の観点から許されないということもできない。 以上によれば,被控訴人は,嫡出子と 出生届出をした被控訴人自らがその無効を主張することが,禁反言の法理に反し,あるいは子の利益の保護ないし身分関係の安定の観点から許されないということもできない。 以上によれば,被控訴人は,嫡出子として出生届出をしたことにより,準正嫡出子としての認知の効力を有することとなった本件出生届について,その認知の無効確認を求めることができ,また,同認知が無効であることは前記のとおりであるから,結局,被控訴人の本訴請求は理由があるというべきである。 第6 結論以上により,被控訴人の請求は認容すべきものであり,これと結論を同じくする原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。 よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部裁判長裁判官石垣君雄 裁判官大和陽一郎裁判官橋本昌純

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